説明

可搬型の放射線画像撮影システム、およびこれに用いる保持具、並びに可搬型の放射線画像撮影セット

【課題】可搬型の放射線画像撮影システムの撮影時間の短縮化および利便性の向上。
【解決手段】X線源10a、10bは、フック30a、30bで保持具14の横棒27に取り付けられる。横棒27には撮影部位(X線の照射範囲の大きさ)によって変化するX線源10a、10bの取り付け位置を示す表示部41が設けられる。表示部41は、第一、第二、第三表示ランプ43、44、45を各位置に並べたものである。撮影制御装置12の保持具制御部76は、第一〜第三表示ランプ43〜45のうち、コンソール13の入力デバイス15を通じて入力される撮影部位に対応する位置の表示ランプを点灯させる。放射線技師は表示ランプを頼りにフック30a、30bをレール31a、31bに沿って移動させ、フック30a、30bの位置合わせを行う。同時に支持脚26の可動ジョイント29を操作してX線源10a、10bとカセッテ11の受像面22との距離を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線源を移動させて撮影を行う可搬型の放射線画像撮影システム、およびこれに用いる保持具、並びに可搬型の放射線画像撮影セットに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線、例えばX線を用いた画像診断の分野では、X線源を異なる二つの位置に配してX線撮影を行って視差を有する二つの画像を取得し、これらを元にX線画像の立体観察を可能とするいわゆるステレオ撮影が行われている(特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1には、基本的なステレオ撮影の技術が開示されている。一つのX線源を各位置に移動させてX線を曝射する態様、および複数のX線源を各位置に配置してX線を曝射する態様が記載されている。
【0004】
特許文献2では、右目、左目用焦点を形成する二つのフィラメントを有するX線管をCアームに固定し、Cアームを所定の位置に移動させてステレオ撮影を行っている。X線管に印加する高電圧を発生するための昇圧トランスの一次側でX線の曝射のタイミング制御等を行うことでシステムを小型軽量化し、システムに可搬性を与えている。
【0005】
一方、事故や災害発生時の緊急医療対応に適した可搬型のX線画像撮影システムが提案されている(特許文献3参照)。特許文献3に記載のシステムは、X線源、X線源の保持具、X線検出器、電源装置、制御装置、運搬装置のセットからなる。運搬装置で他のセットを撮影現場に持ち運び、現場でシステムを組み立てて撮影を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−132192号公報
【特許文献2】特開平09−313470号公報
【特許文献3】特開2008−253762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3のような可搬型のX線画像撮影システムでは、緊急医療対応における迅速性、在宅診療における簡便性を考えると、撮影にあまり時間を掛けないことが重要である。また、システムの組み立てや撮影に労力をあまり必要としない機動性、可搬型ではない本格的なシステムと比べて安価であることも重要である。
【0008】
特許文献1〜3には、モータ等の駆動源でX線源を自動的に移動させる態様が記載されているが、駆動源を設ける分システムが大型化するため、可搬型のX線画像撮影システムに採用するのは上記の機動性、コストの点であまり好ましくない。また、可搬型のX線画像撮影システムは、あくまでも簡易な一次診療を目的とするため、駆動源を設けずに手動でX線源を移動させても特に差し支えはない。
【0009】
但し、X線の照射範囲の大きさに応じて最適なステレオ撮影を行うためのX線源の位置が変わるため、手動でX線源を移動させる場合は注意を要する。間違った位置で撮影を行ってしまうと立体観察がうまくいかないため撮影をやり直す必要があり、撮影時間が長引くとともに患者に無用な負担を強いる。また、駆動源を用いたシステムでも、駆動源が故障した場合はX線源を配する位置が分からなくなるため、撮影を中止せざるを得なくなる。
【0010】
特許文献1〜3には、照射範囲の大きさに応じてX線源の位置が変わることについて何ら記載されておらず、これに伴う上記諸問題の解決方法にも当然触れられていない。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、その目的は、可搬型の放射線画像撮影システムの撮影時間の短縮化および利便性の向上にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の可搬型の放射線画像撮影システムに用いる保持具は、被検体に放射線を照射する放射線源と被検体を透過した放射線を受けて画像を検出する放射線画像検出器の受像面との距離を、放射線の照射範囲の大きさに対応して調節可能な支持脚と、前記支持脚に繋げられた支持体と、放射線源を前記支持体の異なる複数の位置に配置し、被検体に各位置で放射線を照射し得るよう放射線源を保持する保持部と、前記支持体に設けられ、放射線源を配置する複数の位置を照射範囲の大きさ毎に区別して表示する第一表示部とを備えることを特徴とする。
【0013】
前記支持体には、前記保持部を移動可能に支持する支持部が設けられている。前記支持部は、例えば前記保持部が嵌合するレールである。
【0014】
前記支持脚に、距離の調節位置を放射線の照射範囲の大きさ毎に区別して表示する第二表示部を設けることが好ましい。
【0015】
前記第一表示部または前記第二表示部は、例えば白色LED等の表示ランプ、あるいはマークを各位置に複数並べたものである。表示ランプの場合、照射範囲に対応した位置の表示ランプが点灯される。マークの場合、照射範囲の名称または照射範囲を表す記号が印字される。
【0016】
前記保持部の位置を検出する位置検出センサと、前記位置検出センサの検出結果が照射範囲の大きさに対応する位置と異なる場合、警告を発する警告報知部とを備えることが好ましい。前記警告報知部は、放射線の照射開始前に警告を発してもよいし、n回目の放射線の照射終了後、n+1回目に放射線を照射する位置に前記保持部がなかった場合に警告を発してもよい。
【0017】
放射線源と放射線画像検出器との間に配され、被検体への放射線の照射範囲を限定する照射範囲限定シートをさらに備えることが好ましい。前記照射範囲限定シートは、放射線遮蔽シートと、前記放射線遮蔽シートに穿たれ、照射範囲に対応した大きさの放射線が通過する開口と、前記開口を露呈または塞ぐ取り外し可能なシートとからなる。
【0018】
前記保持部を各位置に自動で移動させるための駆動源を備える場合、前記第一表示部は、前記駆動源が故障した場合の保障として機能する。
【0019】
本発明の可搬型の放射線画像撮影システムは、被検体に放射線を照射する放射線源と、被検体を透過した放射線を受けて画像を検出する放射線画像検出器と、前記放射線源と前記放射線画像検出器の受像面との距離を、放射線の照射範囲の大きさに対応して調節可能な支持脚、支持脚に繋げられた支持体、前記放射線源を支持体の異なる複数の位置に配置し、被検体に各位置で放射線を照射し得るよう前記放射線源を保持する保持部、および支持体に設けられ、前記放射線源を配置する複数の位置を照射範囲の大きさ毎に区別して表示する表示部を有する保持具と、前記放射線画像検出器から出力される画像データを処理する画像処理装置とを備えることを特徴とする。
【0020】
システムは、少なくとも二つの画像データから視差画像を生成して立体観察を可能とするステレオ撮影を行う。または、複数の画像データを加算して被検体の関心領域を強調した断層画像を得るトモシンセシス撮影を行ってもよい。
【0021】
前記画像処理装置は、前記放射線源を配置する複数の位置のうち、照射範囲に対応する位置をディスプレイに表示させる。
【0022】
本発明の可搬型の放射線画像撮影セットは、被検体を透過した放射線を受けて画像を検出する放射線画像検出器と、被検体に放射線を照射する放射線源と前記放射線画像検出器の受像面との距離を、放射線の照射範囲の大きさに対応して調節可能な支持脚、支持脚に繋げられた支持体、前記放射線源を支持体の異なる複数の位置に配置し、被検体に各位置で放射線を照射し得るよう前記放射線源を保持する保持部、および支持体に設けられ、放射線源を配置する複数の位置を照射範囲の大きさ毎に区別して表示する表示部を有する保持具と、前記放射線画像検出器から出力される画像データを処理する画像処理装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、放射線源を配置する複数の位置を照射範囲の大きさ毎に区別して表示するので、表示に従って間違いなく放射線源を所定の位置に配することができ、撮影に失敗してやり直すといったことを無くすことができる。従って、可搬型の放射線画像撮影システムの撮影時間の短縮化および利便性の向上を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】X線画像撮影システムの概略構成を示す斜視図である。
【図2】保持具の横棒および支持脚の構成を示す図である。
【図3】撮影制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】制御テーブルを示す図である。
【図5】撮影部位とSIDおよびX線源間の距離の関係を示す図であり、(A)は撮影部位「大」、(B)は撮影部位「中」、(C)は撮影部位「小」の場合をそれぞれ示す。
【図6】X線遮蔽シートで全体を覆った様子を示す図であり、(A)は被検体の体側面方向から見た状態、(B)は被検体の頭部方向から見た状態をそれぞれ示す。
【図7】簡易照射範囲限定シートを示す斜視図である。
【図8】横棒のレールにフォトセンサを設けた例を示す図である。
【図9】別のステレオ撮影の仕方を示す図であり、(A)は一方のX線源を横棒の中心位置に配し、他方をずらす例、(B)は首ふり機構でカセッテにX線源を向ける例をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1において、X線画像撮影システム2は、X線を照射する二個のX線源10a、10bと、X線源10a、10bから照射され被検体Pを透過したX線を検出して画像データを出力するカセッテ11と、X線源10a、10bとカセッテ11の撮影動作を制御する撮影制御装置12と、撮影制御装置12に対して撮影条件(X線源10a、10bのX線管20a、20bの管電圧、管電流、曝射時間等)の設定を行うコンソール13と、X線源10a、10bを保持する保持具14とからなる。X線画像撮影システム2は、視点を変えた二箇所にX線源10a、10bを位置させて撮影を行い、これにより得られた視差画像で立体(3D)観察を可能とするステレオ撮影を行う。
【0026】
X線源10a、10b、カセッテ11、撮影制御装置12、コンソール13、および保持具14は、いずれも可搬型である。これらを事故、災害等の緊急医療対応が必要な現場や在宅診療を受ける患者の自宅に持ち運んでX線撮影を行うことが可能である。
【0027】
なお、X線源10a、10b、これらを構成するX線管20a、20b等の各部、並びにこれらに関わるフック30a、30b等の各部は同じ構成であるので、以下では区別する必要がない限りX線源10aに関わる各部について説明し、X線源10bに関わる各部は符号を付して説明を省略する。
【0028】
撮影制御装置12は、コンソール13の入力デバイス15から入力された撮影条件等に基づいて、X線源10aおよびカセッテ11にそれぞれの動作タイミングが同期するように動作司令を与える。撮影制御装置12は、照射スイッチ16から曝射指示の信号を受信すると、カセッテ11に対してその旨を通知することでX線源10aとカセッテ11の動作の同期制御を行う。
【0029】
カセッテ11から出力された画像データは、撮影制御装置12を経由してコンソール13に入力される。コンソール13は、パーソナルコンピュータやワークステーションからなり、受信した画像データに対して様々な画像処理を施す他、画像をディスプレイ17に表示させたり、画像蓄積サーバ等の外部データストレージデバイスにアップロードする。
【0030】
X線源10aは、撮影制御装置12にケーブル18、19で有線接続され、撮影制御装置12から電力が供給される。X線源10aは、ドライバ71a(高電圧発生器、図3参照)からの高電圧によりX線を発生するX線管20a、およびX線管20aが発生したX線の照射野を規制するコリメータ(照射野限定器、図示せず)等を有する。
【0031】
X線管20aは、例えばターゲットの回転機構をもたない固定陽極X線管であり、冷陰極電子源を用いている。ターゲットの回転機構をもたず、冷陰極電子源では熱陰極の場合のようにフィラメントおよびこれを加熱する加熱器は不要となるため、X線管20aは小型軽量である。また、フィラメントの余熱が不要なので、撮影指示に即応したX線の照射が可能である。このため緊急医療対応時にすぐに撮影を行えるという利点がある。X線管20aには、例えば特許第3090910号に記載の2mm以下の同軸ケーブルに収まる超小型X線発生装置や、「“乾電池駆動超小型電子加速器・高エネルギーX線源の開発とその応用”2009年3月29日 鈴木良一 産業技術総合研究所 〈http://beam-physics.kek.jp/bpc/suzuki.pdf〉」に記載のカーボンナノ構造体を用いたX線管を用いることができる。後者のX線管の場合は乾電池で駆動するため、X線源10aと撮影制御装置12間をケーブルレスとし、曝射指示の信号のみを無線通信してもよい。
【0032】
X線源10a、10bはケーブル19で互いに接続されており、X線源10bは撮影制御装置12にケーブル18で有線接続され、撮影制御装置12から電力が供給される。ケーブル19は、X線源10a、10bが保持具14の横棒27の両端に移動したときにピンと張らない程度に撓まされている。あるいはケーブル19は伸縮可能な素材で形成されている。
【0033】
なお、図示はしていないが、X線源10a、10bには、例えばレーザー光源等、カセッテ11(被検体P)との位置決め用の照準器が設けられている。X線源10a、10bのいずれかを保持具14の横棒27の中心位置に配し、レーザー光源からレーザー光を発して、このレーザー光にカセッテ11の中心を合わせることで位置決めを行う。
【0034】
カセッテ11は略矩形の形状を有し、撮影制御装置12にケーブル21で有線接続され、撮影制御装置12から電力が供給される。カセッテ11は、図示するように受像面22をX線源10a、10b側に向けて被検体Pの下に設置されたり、肩や膝等の撮影部位に応じた位置に適宜位置決めされる。カセッテ11の一辺には、持ち運びに便利なように把手23が設けられている。把手はX線源10a、10bにも設けられており、符号24a、24bで示す。なお、図示はしていないが、撮影制御装置12にも持ち運び用の把手がある。
【0035】
カセッテ11はX線検出部74(図3参照)を内蔵している。X線検出部74は、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)とX線検出素子からなる複数の画素が二次元に配列されたマトリクス基板を有するフラットパネルディテクタ(FPD)である。X線検出部74は、TFTがオフのときに入射したX線の量に応じた電荷をX線検出素子で蓄積する。そして、TFTをオンしてX線検出素子に蓄積した電荷を外部に読み出す。読み出した電荷を信号処理部75(図3参照)の積分アンプで電圧信号に変換し、変換した電圧信号を信号処理部75のA/D変換器でA/D変換することで、デジタルな画像データが生成される。
【0036】
保持具14は、撮影制御装置12にケーブル25で有線接続され、撮影制御装置12から電力が供給される。保持具14は、床または大地に設置されるコの字状の二組の支持脚26、および支持体に相当する直線状の横棒27を有する。支持脚26の上部中央および横棒27の両端はジョイント28で繋げられ、これにより保持具14が組み立てられる。組み立て後の保持具14は、横棒27の中心を軸として左右対称である。支持脚26は、その中央部に伸縮可能な可動ジョイント29を備えており、高さを調節することが可能である。
【0037】
横棒27には、X線源10a、10bの把手24a、24bが吊り下げられるフック(保持部に相当)30a、30bが取り付けられる。X線源10a、10bは、フック30a、30bに取り付けることで横棒27に懸掛される。X線源10a、10bは、横棒27に懸掛された状態で、略鉛直方向にX線を曝射する。
【0038】
フック30aは、横棒27の下部に横棒27の長手方向に平行して穿たれた溝状のレール(支持部に相当)31aに嵌合し、手動によりレール31aに沿って移動可能である。フック30bが嵌合されるレール31bは、レール31aに対向する横棒27の上部に穿たれており、各レール31a、31bは横棒27の中心位置で多少オーバーラップしている。各レール31a、31bをオーバーラップさせているので、X線源10a、10bの一方を横棒27の端側に退避させて他方を横棒27の中心位置に配し、中心位置において撮影を行うことが可能である。
【0039】
図2において、フック30aは、図1の裏側中央が切り欠かれたC字状をしており、切り欠きの両端中央に三角形の印40aが設けられている。このフック30aの切り欠きにあたる横棒27の部分には、長手方向に沿って表示部41が設けられている。表示部41は、中心位置表示ランプ42、第一、第二、第三表示ランプ43、44、45を有する。各表示ランプ42〜45は、例えば白色LED、または種類に応じた異なる色のLEDからなる。
【0040】
中心位置表示ランプ42は、文字通り横棒27の中心位置を示し、X線源10a、10bとカセッテ11の位置決めを行う際に点灯される。第一〜第三表示ランプ43〜45は、第三表示ランプ45から第二、第一表示ランプ44、43の順に横棒27の中心位置から遠ざかり、且つ横棒27の中心位置と対称な位置に二つずつペアで配されている。第一〜第三表示ランプ43〜45は、コンソール13の入力デバイス15から入力された撮影部位に応じて選択的に点灯される。
【0041】
支持脚26の可動ジョイント29は、上筒50、下筒51、およびこれらを覆う透明なカバー52等で構成されている。下筒51は上筒50よりも径が小さく、上筒50の中空部分に嵌められている。下筒51は上筒50にクリックストップ等の周知の係合手段で係合する。下筒51は、クリックストップにより上筒50に沿って上下に三段階でスライド可能である。下筒51を上側に縮めると支持脚26の高さが低くなり、下側に伸ばすと高くなる。
【0042】
上筒50には、フック30a、30bと同様の三角形の印53が設けられている。また、下筒51には、横棒27の表示部41と同様の表示部54が設けられている。印53および表示部54は透明なカバー52、および上筒50に形成された窓55で視認することができる。表示部54には、表示部41の第一〜第三表示ランプ43〜45に対応する第一、第二、第三表示ランプ56、57、58が縦並びに設けられている。第一〜第三表示ランプ56〜58は、第三表示ランプ58から第二、第一表示ランプ57、56の順に下から並んでいる。これらは第一〜第三表示ランプ43〜45と同様、コンソール13の入力デバイス15から入力された撮影部位に応じて選択的に点灯される。なお、印53や表示部54は、一組の支持脚26の二箇所の可動ジョイント29のうち一箇所に設けられている。
【0043】
撮影制御装置12はX線源10a、10b等の各部の駆動を制御し、撮影条件に応じて予め設定された横棒27の二箇所でX線源10a、10bから被検体Pに向けて交互にX線を照射させ、その都度カセッテ11でX線を検出させる。こうすることで、視差を有する二つの画像データがカセッテ11から出力される。
【0044】
図3において、撮影制御装置12のX線源制御部70aは、X線源10aの各部の動作を統括的に制御する。X線源制御部70aは、ドライバ71aを介してX線管20aの動作を制御し、指定された撮影条件および動作タイミングにてX線管20aを動作させる。なお、X線源10bに関わるX線源制御部70bも同様の構成および作用を奏する。
【0045】
カセッテ制御部72は、カセッテ11の各部の動作を統括的に制御する。カセッテ制御部72は、ドライバ73を介してカセッテ11のX線検出部74の動作を制御し、指定された動作タイミングにてX線検出部74を動作させる。また、カセッテ制御部72は、積分アンプやA/D変換器を有する信号処理部75から画像データを受け取り、これをコンソール13に渡す。
【0046】
コンソール13は、視差を有する二箇所でX線源10a、10bからX線を照射することでカセッテ11から出力される二つの画像データを関連付けてメモリやストレージデバイスに記憶する。コンソール13は、二つの画像データに基づく視差画像をディスプレイ17に一定間隔で交互に表示させる。これを液晶シャッタ、偏光メガネを介して観察することで、X線画像の立体視が可能となる。
【0047】
保持具制御部76は、ドライバ77を介して支持脚26および横棒27の各表示部41、54の動作を制御する。保持具制御部76にはEEPROM等のメモリ78が接続されている。メモリ78には、図4に示す制御テーブル80が格納されている。制御テーブル80は、コンソール13の入力デバイス15から撮影部位が入力されたときに、支持脚26および横棒27の各表示部41、54の第一〜第三表示ランプ43〜45、56〜58のうちのいずれの表示ランプを点灯させるかを示すものである。撮影部位には、胸部全体等の「大」、頭部等の「中」、胸部一部等の「小」の、X線の照射範囲の大きさが異なる三種があり、「大」の行には第一表示ランプ43、58、「中」には第二表示ランプ44、59、「小」には第三表示ランプ45、60がそれぞれ登録されている。
【0048】
保持具制御部76は、メモリ78の制御テーブル80に基づき、ドライバ77を介して支持脚26および横棒27の各表示部41、54の動作を制御する。具体的には、コンソール13の入力デバイス15から「大」の項目に該当する撮影部位が入力された場合には第一表示ランプ43、58、「中」の場合は第二表示ランプ44、59、「小」の場合は第三表示ランプ45、60をそれぞれ点灯させる。保持具制御部76は、照射スイッチ16を介して曝射指示の信号が入力されたときに、それまで点灯させていた表示ランプを消灯させる。また、保持具制御部76は、第一〜第三表示ランプ43〜45、56〜58のいずれかを点灯させると同時に中心位置表示ランプ42を点灯させ、曝射指示の信号入力とともに同様に消灯させる。
【0049】
これら各制御部70a、70b、72、76は協働して、二箇所でX線源10a、10bからX線を照射して二つの画像データを得、二つの画像データを元に立体画像を生成するステレオ撮影を各部に行わせる。
【0050】
図5において、(A)、(B)、(C)は、それぞれ撮影部位「大」、「中」、「小」でステレオ撮影を行う場合のX線源10a、10b間の距離と、X線源10a、10bと受像面22との距離(SID;Source Image Distance)を示している。撮影部位「大」、「中」、「小」となるにつれ、X線源10a、10bから照射されるX線の重なる範囲が小さくなる。X線源10a、10b間の距離(D1、D2、D3)、およびSID(H1、H2、H3)も、撮影部位「大」、「中」、「小」となるにつれ小さくなる。
【0051】
コリメータの照射開口によるX線源10a、10bの最大投射角αは約12°程度である。コリメータの照射開口のサイズを変えずにX線の照射野を変更したい場合には、支持脚26の可動ジョイント29を伸縮させてSIDを調節する。またこれに応じて、レール31a、31bに沿ってフック30a、30bを移動させ、X線源10a、10b間の距離も調節する。すなわち、X線源10a、10b間の距離は、撮影部位に応じたX線の照射範囲の大きさ、最大投射角α、およびSIDによって決まる。なお、最大投射角とは、X線管20a、20bの焦点を頂点として照射開口の両端を結ぶ直線を底辺とした場合に形成される二等辺三角形の頂角である。
【0052】
横棒27の表示部41の第一〜第三表示ランプ43〜45はそれぞれ、横棒27の中心位置から(D1)/2、(D2)/2、(D3)/2離れた場所に配置されている。また、支持脚26の表示部54の第一〜第三表示ランプ56〜58はそれぞれ、SIDがH1、H2、H3となる位置に配置されている。なお、各種撮影部位の照射範囲の大きさは、標準体型よりも太った人の体幅を基準として予め定められている。
【0053】
図6(A)、(B)に示すように、X線画像撮影システム2で撮影を行う際には、被曝の危険性を減じるため、X線遮蔽シート85を装着する。(A)は被検体Pの体側面方向から見た状態、(B)は被検体Pの頭部方向から見た状態をそれぞれ示す。
【0054】
X線遮蔽シート85は、鉛等のX線遮蔽性の高いX線遮蔽材を含有し、かつ可撓性を有するシート状の素材で作製されている。X線遮蔽シート85は、X線画像撮影システム2を略全体にわたって覆うことが可能な大きさを有する。X線遮蔽シート85をジョイント28や横棒27等に取り付け、X線遮蔽シート85を支持脚26の裾まで垂らして、被検体Pの被撮影部位を含むX線画像撮影システム2の全体を覆う。
【0055】
X線遮蔽シート85の頂点には、撮影制御装置12とX線源10bを繋ぐケーブル18を中途で固定するケーブル固定具86が設けられている。ケーブル18は、ケーブル固定具86の先で保持具14の横棒27にあたる部分に撓ませた状態でX線遮蔽シート85内に収容される。ケーブル18は、フック30bがレール31bに沿って横棒27の中心から左端まで移動してもピンと張らない程度に撓まされている。ケーブル18は、フック30bの移動に伴ってケーブル固定具86を支点として伸縮する。
【0056】
X線遮蔽シート85の被検体P側には、X線遮蔽シート85内の被検体P全体を覆うように簡易照射範囲限定シート87が取り付けられる。簡易照射範囲限定シート87は、X線遮蔽シート85と同じく可撓性を有し、鉛等のX線遮蔽性の高いX線遮蔽材を含有する。簡易照射範囲限定シート87は、受像面22と略平行となるようX線遮蔽シート85内に張られている。
【0057】
図7に示すように、簡易照射範囲限定シート87の中央には、撮影部位「大」の照射範囲に対応した大きさの開口90が設けられている。開口90は、三枚の取り外し可能なシート91、92、93で塞がれる。シート91は簡易照射範囲限定シート87、シート92はシート91、シート93はシート92に対してそれぞれ取り外し可能である。シート91〜93はそれぞれ、撮影部位「大」、「中」、「小」の場合に図5で点線の楕円で示した照射範囲外のX線を除去し、各撮影部位に適合した照射範囲とするための大きさを有する。撮影部位「大」の場合はシート91、「中」の場合はシート92、「小」の場合はシート93が取り除かれる。保持具14へのX線遮蔽シート85の取り付け、X線遮蔽シート85への簡易照射範囲限定シート87の取り付け、および各シート91〜93の取り付けには、フック、スナップ、面ファスナ、マジックテープ(登録商標)、ネジ留め等を利用することができる。
【0058】
次に、上記構成による作用を説明する。まず、X線画像撮影システム2を使用する放射線技師は、X線画像撮影システム2一式を撮影現場まで持ち運び、保持具14を図1の如く組み立ててフック30a、30bにX線源10a、10bを吊るす。また、ケーブル18をX線源10b、ケーブル19をX線源10a、10b、ケーブル21をカセッテ11、ケーブル25を保持具14に接続し、以てX線源10a、10b、カセッテ11、および保持具14と撮影制御装置12とを接続する。
【0059】
X線画像撮影システム2のセットが完了した後、放射線技師は、コンソール13の入力デバイス15を介して撮影部位、撮影条件等を入力する。これに伴い、中心位置表示ランプ42が保持具制御部76により点灯される。また、メモリ78の制御テーブル80が参照され、入力された撮影部位に対応する制御テーブル80の行が読み出されて、各表示部41、54の第一〜第三表示ランプ43〜45、56〜58のうち、撮影部位に対応した表示ランプが点灯され、横棒27の中心位置、および調節すべきSID、およびX線源10a、10bの位置を放射線技師に報せる。
【0060】
放射線技師は、中心位置表示ランプ42の表示を頼りに、X線源10a、10bのいずれかを横棒27の中心位置に移動させる。そして、レーザー光源等の照準器からカセッテ11に投光し、照準器からの光とカセッテ11の受像面22の中心が一致するようカセッテ11の位置を調節する。これによりカセッテ11と保持具14との相対位置が合わせられる。
【0061】
カセッテ11の位置合わせとともに、放射線技師は、SIDを調節し、X線源10a、10bを撮影部位に応じた位置に配置させるべく、表示ランプの表示をみて、可動ジョイント29で支持脚26を伸縮させ、且つフック30a、30bをレール31a、31bに沿って移動させる。そして、可動ジョイント29の上筒50の印53、およびフック30a、30bの印40a、40bを点灯中の表示ランプの位置に合わせる。
【0062】
SIDおよびX線源10a、10bの位置調整後、被検体Pを仰臥させ、簡易照射範囲限定シート87付きのX線遮蔽シート85を取り付けてX線遮蔽シート85で被検体Pの被撮影部位およびX線画像撮影システム2の全体を覆う。また、ケーブル18の中途をケーブル固定具86で固定し、その先を撓ませてX線遮蔽シート85内に収容する。さらに、簡易照射範囲限定シート87のシート91〜93のうち、先に入力した撮影部位に対応したシートを取り除いて開口90を露わにさせる。
【0063】
放射線技師は、撮影制御装置12に付いた照射スイッチ16を押して曝射開始を指示する。曝射開始の指示に応じて、保持具制御部76により各表示ランプが消灯される。また、X線源10a、10bのX線管20a、20bから被検体Pに向けて順にX線が照射され、且つカセッテ11のX線検出部74でX線が検出される。
【0064】
コンソール13では、こうして得られた二つの画像データが関連付けて記憶される。そして、二つの画像データに基づいた立体X線画像がディスプレイ17に表示される。放射線技師は、ディスプレイ17に表示された画像を観察して診断を下したり、ネットワークを通じて遠隔医療施設に画像のデータを送信して、遠隔医療施設に常駐する専門の医師に指示を仰ぐといった適切な処置を施す。
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、入力された撮影部位に対応する表示ランプを点灯させて、調節すべき支持脚26の高さ、およびX線源10a、10bの位置を報せるので、放射線技師は表示に従って調節すればよく、システムを簡単にセットすることができる。誤って異なる高さや位置に調節してしまい、撮影が失敗に終わることを避けることもでき、撮影時間を短縮化することができる。
【0066】
緊急医療対応では痛みであまり制動が利かない急病人を対象とすることがあり、在宅診療を受ける患者には寝たきりの高齢者等同じ姿勢を保つことが困難なものもいる。撮影時間を短縮化して迅速に撮影を完了することができれば、急病人や寝たきりの高齢者等の撮影を支障なく遂行できる可能性が高まるので特に有益である。
【0067】
X線管20a、20bが小型軽量であるため、持ち運びや組み立て時に嵩ばらず、放射線技師に掛かる負担を軽減することができる。X線管20a、20bが小型軽量であるがゆえに、保持具14の構成部品をさほど堅牢なものとする必要がなく、保持具14も同時に小型軽量化することができる。
【0068】
X線遮蔽シート85で被検体Pの被撮影部位およびX線画像撮影システム2を覆うため、曝射されたX線が外部空間に漏れ出し、撮影と関係のない周囲の人間が被曝する危険性を減らすことができる。また、被撮影部位以外の頭部、脚部等をX線遮蔽シート85で覆われた空間の外部に出すことにより、被検体Pの被撮影部位以外への被曝の危険性も減らすことができる。被検体以外の人間が多くいる場所でも躊躇せずに撮影を行うことが可能となる。
【0069】
X線遮蔽シート85、簡易照射範囲限定シート87は可撓性を有するため、非使用時は折り畳んだりロール状にまとめたりすることができる。例えば横棒27を中空にして横棒27内にX線遮蔽シート85、簡易照射範囲限定シート87を収納することも可能である。
【0070】
ケーブル18の中途をケーブル固定具86で固定し、その先を撓ませてX線遮蔽シート85内に収容するので、ケーブル18をコンパクトにまとめることができる。ケーブル18に足を引っ掛けて転倒したり、ケーブル18が引っこ抜かれて撮影が中断されたりといった事故を防止することができる。なお、カセッテ11、保持具14と撮影制御装置12を繋ぐケーブル21、25も同様に、X線遮蔽シート85内に撓み部分を収容してもよい。
【0071】
ケーブルによる事故防止とケーブルの収納性、可搬性向上を達成するため、巻取り部をケーブルに設けてもよい。非使用時は巻取り部内にケーブルを収納し、使用時は巻取り部から必要な長さだけケーブルを引き出す。巻取り部を支持脚26に取り付けてもよい。あるいは撮影制御装置12に巻取り部を設け、撮影制御装置12にケーブルを巻き取って収納してもよい。
【0072】
簡易照射範囲限定シート87で各撮影部位の照射範囲を限定するので、コリメータの照射開口のサイズを変えずに済む。また、コリメータを備えていないX線源も使用することが可能である。
【0073】
横棒27におけるフック30a、30bの位置を検出し、撮影部位に対応する位置以外にフック30a、30bが配されたときにエラー表示をしてもよい。具体的には、保持具14にエラー表示のための警告灯95(図1参照)といった警告報知部を設ける。そして、図8に示すように、レール31a、31bの各表示ランプ43〜45にあたる位置に投光器と受光器からなるフォトセンサ96を設けておく。その位置にフック30a、30bがある場合、フォトセンサ96の投光器からの光はフック30a、30bで反射されて受光器で検出される。逆にフック30a、30bがない場合は、投光器からの光は拡散して受光器には検出されない。
【0074】
撮影制御装置12は、照射スイッチ16が操作されて曝射開始が指示されたときに、撮影部位に対応する位置のフォトセンサ96を駆動させる。投光器からの光が受光器で検出されず、フォトセンサ96からの応答がない場合、曝射を開始せずに警告灯95を点灯させて放射線技師にX線源の位置が間違っていることを報せる。あるいは、撮影部位が入力されたときにフォトセンサ96を駆動させ、フォトセンサ96からの応答があるまで継続して警告灯95を点灯させてもよい。撮影の失敗を未然に防ぐことができ、結果として撮影時間を短縮化することができる。
【0075】
X線源10a、10bのうちの一方の位置が間違っていた場合は、位置が合っている方で撮影を行った後に警告表示をしてもよい。また、レール31a、31bにフォトセンサ96を複数等間隔で配置しておき、表示ランプの位置に関わらずフック30a、30bの位置を検出可能としてもよい。位置検出センサとして、フォトセンサの代わりにマイクロスイッチを用いてもよい。
【0076】
なお、X線源の個数は上記実施形態の二個に限らない。X線源を一個とし、横棒27の二箇所のうちの一箇所で一回目の撮影をした後、一個のX線源をもう一方の箇所に移動させて二回目の撮影を行えばよい。上記実施形態では曝射開始が指示されたときに表示ランプを消灯しているが、この場合は二回目の撮影前に表示ランプを再び点灯させて位置を報せる。X線源を一個とした場合は、一回撮影した後にX線源を移動してもう一度撮影を行う手間が掛かる。この手間は二個のX線源を用いれば掛からないが、一個の場合と比べてシステム自体の機動性、コスト面でやや難があるため、X線源の個数は仕様に応じて適宜選択することが好ましい。
【0077】
上記実施形態では、撮影部位のパターンとして「大」、「中」、「小」の三種を挙げたが、撮影部位のパターンは二種以上であればよい。三種以上のパターンがある場合は、表示ランプをパターン分用意して各位置に並べればよい。簡易照射範囲限定シート87の取り外し可能なシート91〜93も同様である。
【0078】
上記実施形態の被検体Pの姿勢から体軸を中心に90°回転した場合、つまり被検体Pが横臥した場合も、同様に予め撮影部位によってSIDやX線源10a、10b間の距離を決めればよい。また、被検体Pが臥位ではなく立位である場合も、水平面に対して垂直に受像面22が配されたカセッテ11に対して、支持脚のSID調節機構を水平方向に調節可能に構成することで、本発明を適用することが可能である。
【0079】
各表示部41、54の表示と同等のメッセージ(「支持脚の高さと各X線源を第一表示ランプに合わせて下さい」等)をコンソール13のディスプレイ17に表示させてもよい。撮影部位を入力した後に撮影制御装置12から制御テーブル80の情報を受信し、ポップアップウィンドウ等でメッセージを表示すれば、事前にどう調節したらよいかが分かるため、システムのセットをより円滑に進めることができる。また、表示ランプが故障した場合の保障にもなる。
【0080】
X線源10a、10bの取り付け位置を報せる表示部は、上記実施形態の表示ランプに限らず、単なるマークでもよい。この場合、位置を示す三角形の印とともに、撮影部位(照射範囲の大きさ)のパターンの名称またはパターンを表す記号(上記実施形態でいえば「大」、「中」、「小」)を印字しておく。表示ランプを用いるよりも保持具14を小型軽量にすることができる。
【0081】
X線源を自動的に移動させる駆動源を有するシステムに本発明を適用してもよい。駆動源は、例えば撮影制御装置12からの指令に基づき駆動するステッピングモータ等からなる。駆動源の駆動により、フック30a、30b、ひいてはフック30a、30bに取り付けられたX線源10a、10bがレール31a、31bに沿って移動する。駆動源が駆動停止するとX線源10a、10bが横棒27の所望の位置に停止する。
【0082】
撮影制御装置12は、駆動源に発する駆動電圧パルス(ステッピングモータに印加するパルス)をカウントし、このカウント数を元にX線源10a、10bの横棒27における位置を検出する。そして、撮影部位に対応する位置にX線源10a、10bを移動・停止させる。図5で説明したように、X線源10a、10b間の距離は、撮影部位に応じたX線の照射範囲の大きさ、最大投射角α、およびSIDによって決まるため、予め求めておくことが可能である。撮影部位に関連付けてX線源10a、10b間の距離をデータとして撮影制御装置12に記憶させておき、これを元に駆動源の駆動を制御すれば、放射線技師の手を煩わせることなくX線源10a、10bを所望の位置に移動・停止させることができる。なお、この場合、表示部41は普段は駆動せず、駆動源が故障した場合の保障として用いる。
【0083】
同様に支持脚の伸縮動作を自動化してもよい。可動ジョイント29を油圧ダンパー等のアクチュエータで構成し、さらに伸縮量を検出するセンサを設ける。センサの検出結果に応じてアクチュエータを駆動させ、支持脚の伸縮量、つまりSIDを自動調節する。この場合も上記同様に表示部54はアクチュエータやセンサ故障時の保障として設けておく。
【0084】
上記実施形態では、横棒27の中心位置に関して対称な二箇所にX線源10a、10bを位置させる例を挙げたが、本発明はこれに限定されない。要するにX線源10a、10bを所望の視差が発生する異なる二箇所に位置させればよい。例えば図9(A)に示すように、X線源10aを横棒27の中心位置に配し、X線源10bを中心位置からずらして配し、この状態でステレオ撮影を行ってもよい。また、(B)に示すように、フック30a、30bにX線源10a、10bの向きを変更するための首ふり機構を設け、カセッテ11に対して角度βをつけてX線源10a、10bを配してもよい。この場合、X線源10a、10b間の距離は、撮影部位に応じたX線の照射範囲の大きさ、最大投射角α、およびSIDに加えて、X線源10a、10bの角度βによって決まる。角度をつける分、上記実施形態と比べてSIDを短くすることができ、保持具14を小型化することができる。なお、撮影部位に対応した角度を表示する表示部を設けてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、X線源10a、10bを直線状の横棒27のレール31a、31bに沿って移動させているが、円弧状の横棒を用い、直線軌道ではなく曲線軌道に沿ってX線源10a、10bを移動させてもよい。曲線軌道ではX線源10a、10bが自然とカセッテ11に向くため、首ふり機構を設けなくても済む。
【0086】
表示部41、54で表示する位置に、立体観察が困難にならない許容範囲の幅をもたせてもよい。許容範囲であれば多少正規の位置からずれていても構わない。許容範囲内でX線源10a、10bの位置の微調節を可能とする。
【0087】
なお、本発明に係るX線画像撮影システムは、上記実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0088】
例えば上記実施形態では、撮影制御装置12からの指令を受けてX線検出部74を動作させる態様を説明したが、X線検出部74でX線の照射を自己検出し、撮影制御装置12からの指令を受けることなくX線検出部74を動作させてもよい。
【0089】
X線検出部74は上記実施形態の直接変換方式に限らず、入射したX線をシンチレータによって一旦可視光に変換した後、この可視光をアモルファスシリコン(a−Si)等の固体検出素子を用いて電気信号に変換する間接変換方式を用いてもよい。
【0090】
カセッテ11、保持具14と撮影制御装置12とをケーブル21、25で有線接続しているが、これらを無線接続してもよい。無線接続する場合は、カセッテ11、保持具14に電力供給用のバッテリを搭載する。
【0091】
各制御部72、76や各ドライバ73、77の機能を、撮影制御装置12ではなくカセッテ11、保持具14に設けてもよい。高電圧発生器であるドライバ71a、71bを撮影制御装置12と別体で設けるのも可である。
【0092】
折り畳み式のジョイントを用いて、支持脚26と横棒27を一本にまとめてもよい。X線遮蔽シート85は、上記実施形態のシステム全体を覆う大きさではなく、撓んだケーブル18を少なくとも収容可能な大きさであってもよい。X線遮蔽シート85に簡易照射野限定シート87を取り付けずに別々に用いてもよい。
【0093】
上記実施形態ではステレオ撮影に適用した例を挙げたが、X線源を移動させながら異なる角度から被検体にX線を照射し、得られた画像を加算して所望の断層面を強調した断層画像を得るトモシンセシス(Tomosynthesis)撮影に適用してもよい。
【0094】
本発明は、X線に限らず、γ線等の他の放射線を使用する撮影システムにも適用することができる。
【符号の説明】
【0095】
2 X線画像撮影システム
10a、10b X線源
11 カセッテ
12 撮影制御装置
13 コンソール
14 保持具
20a、20b X線管
26 支持脚
27 横棒
29 可動ジョイント
41、54 表示部
43〜45、56〜58 第一〜第三表示ランプ
70a、70b X線源制御部
71a、71b ドライバ
72 カセッテ制御部
74 X線検出部
76 保持具制御部
80 制御テーブル
85 X線遮蔽シート
87 簡易照射範囲限定シート
95 警告灯
96 フォトセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に放射線を照射する放射線源と被検体を透過した放射線を受けて画像を検出する放射線画像検出器の受像面との距離を、放射線の照射範囲の大きさに対応して調節可能な支持脚と、
前記支持脚に繋げられた支持体と、
放射線源を前記支持体の異なる複数の位置に配置し、被検体に各位置で放射線を照射し得るよう放射線源を保持する保持部と、
前記支持体に設けられ、放射線源を配置する複数の位置を照射範囲の大きさ毎に区別して表示する第一表示部とを備えることを特徴とする可搬型の放射線画像撮影システムに用いる保持具。
【請求項2】
前記支持体には、前記保持部を移動可能に支持する支持部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の可搬型の放射線画像撮影システムに用いる保持具。
【請求項3】
前記支持脚には、距離の調節位置を放射線の照射範囲の大きさ毎に区別して表示する第二表示部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の可搬型の放射線画像撮影システムに用いる保持具。
【請求項4】
前記第一表示部または前記第二表示部は、表示ランプ、あるいはマークを各位置に複数並べたものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の可搬型の放射線画像撮影システムに用いる保持具。
【請求項5】
前記保持部の位置を検出する位置検出センサと、
前記位置検出センサの検出結果が照射範囲の大きさに対応する位置と異なる場合、警告を発する警告報知部とを備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の可搬型の放射線画像撮影システムに用いる保持具。
【請求項6】
前記警告報知部は、放射線の照射開始前、またはn回目の放射線の照射終了後、n+1回目に放射線を照射する位置に前記保持部がなかった場合に警告を発することを特徴とする請求項5に記載の可搬型の放射線画像撮影システムに用いる保持具。
【請求項7】
放射線源と放射線画像検出器との間に配され、被検体への放射線の照射範囲を限定する照射範囲限定シートを備えることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の可搬型の放射線画像撮影システムに用いる保持具。
【請求項8】
前記照射範囲限定シートは、放射線遮蔽シートと、
前記放射線遮蔽シートに穿たれ、照射範囲に対応した大きさの放射線が通過する開口と、
前記開口を露呈または塞ぐ取り外し可能なシートとからなることを特徴とする請求項7に記載の可搬型の放射線画像撮影システムに用いる保持具。
【請求項9】
前記保持部を各位置に自動で移動させるための駆動源を備え、
前記第一表示部は、前記駆動源が故障した場合の保障として機能することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の可搬型の放射線画像撮影システムに用いる保持具。
【請求項10】
被検体に放射線を照射する放射線源と、
被検体を透過した放射線を受けて画像を検出する放射線画像検出器と、
前記放射線源と前記放射線画像検出器の受像面との距離を、放射線の照射範囲の大きさに対応して調節可能な支持脚、支持脚に繋げられた支持体、前記放射線源を支持体の異なる複数の位置に配置し、被検体に各位置で放射線を照射し得るよう前記放射線源を保持する保持部、および支持体に設けられ、前記放射線源を配置する複数の位置を照射範囲の大きさ毎に区別して表示する表示部を有する保持具と、
前記放射線画像検出器から出力される画像データを処理する画像処理装置とを備えることを特徴とする可搬型の放射線画像撮影システム。
【請求項11】
少なくとも二つの画像データから視差画像を生成して立体観察を可能とするステレオ撮影を行うことを特徴とする請求項10に記載の可搬型の放射線画像撮影システム。
【請求項12】
複数の画像データを加算して被検体の関心領域を強調した断層画像を得るトモシンセシス撮影を行うことを特徴とする請求項10または11に記載の可搬型の放射線画像撮影システム。
【請求項13】
前記画像処理装置は、前記放射線源を配置する複数の位置のうち、照射範囲に対応する位置をディスプレイに表示させることを特徴とする請求項10ないし12のいずれか一項に記載の可搬型の放射線画像撮影システム。
【請求項14】
被検体を透過した放射線を受けて画像を検出する放射線画像検出器と、
被検体に放射線を照射する放射線源と前記放射線画像検出器の受像面との距離を、放射線の照射範囲の大きさに対応して調節可能な支持脚、支持脚に繋げられた支持体、前記放射線源を支持体の異なる複数の位置に配置し、被検体に各位置で放射線を照射し得るよう前記放射線源を保持する保持部、および支持体に設けられ、放射線源を配置する複数の位置を照射範囲の大きさ毎に区別して表示する表示部を有する保持具と、
前記放射線画像検出器から出力される画像データを処理する画像処理装置とを備えることを特徴とする可搬型の放射線画像撮影セット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−65947(P2012−65947A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214940(P2010−214940)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】