説明

台車用ロック部材、台車用ロックシステム、及び、台車

【課題】コストの上昇を抑制できるとともに、簡単な構造で車輪の進行方向を容易確実にロックすることができる台車用ロック部材、台車用ロックシステム、及び、台車を提供する。
【解決手段】台車用ロック部材15は、支持台4に取り付けられる取付け部16と、ホルダ本体7又は車輪本体2aに係合して該ホルダ本体7の上下方向軸7′回りの回転を阻止するロック位置と、前記係合を解除するフリー位置との間で回動可能に取付け部16に支持された係合部18とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車に設けられる車輪の上下方向軸回りの回転を阻止し又は許容する台車用ロック部材、台車用ロックシステム、及び、台車用ロック部材及び/又は台車用ロックシステムを備えた台車に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の台車として、例えば、特許文献1には、狭い場所での方向転換を容易にするために相対回転自在な4つの自在車輪を設ける一方、荷物運搬時の直進性を高めるために、前記自在車輪とは別に直進用の固定車輪を格納位置と使用位置との間で上下動可能に設けた構造のものが提案されている。そして直進する場合には、固定車輪を接地させることにより、2つの自在車輪を接地面から浮かせるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−242175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の台車では、荷物の重量に対する強度を考慮した新たな固定車輪を取り付ける必要があり、部品点数が増えるとともに、取り付けが大掛かりとなり、コストが上昇するという問題がある。また直進時には2つの自在車輪を浮かすことから、荷台の前,後の高さが変化するという問題がある。
【0005】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、コストの上昇を抑制できるとともに、簡単な構造で車輪の進行方向を容易確実にロックすることができる台車用ロック部材、台車用ロックシステム、及び、台車を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、本発明は、台車の支持台に上下方向軸回りに回転自在に支持されたホルダと、該ホルダに支持された車輪本体を備える車輪に設けられ、該車輪の前記上下方向軸回りの回転を阻止し又は許容する台車用ロック部材であって、前記支持台に取り付けられる取付け部と、前記ホルダ又は車輪本体に係合して前記車輪の前記上下方向軸回りの回転を阻止するロック位置と前記ホルダ又は前記車輪本体に係合している状態を解除して前記車輪の上下方向軸回りの回転を許容するフリー位置との間で回動可能に前記取付け部に支持された係合部と、を有し、前記係合部は、前記ロック位置に回動させたときに前記ホルダ又は前記車輪本体に当接する当接部と、該当接部から前記ホルダ又は前記車輪本体を挟み込むように延びる一対の張り出し部と、を有する台車用ロック部材である。
【0007】
[作用・効果]この発明に係る台車用ロック部材によれば、支持台に取り付ける取付け部と、該取付け部に回動可能に支持され、ホルダ又は車輪本体に係合して該ホルダの上下方向軸回りの回転を阻止する係合部とを備えたので、係合部をフリー位置に回動することにより、各車輪の進行方向を自在にすることができ、狭い場所での方向転換が容易となる。また係合部をロック位置に回動することにより、何れかの車輪の進行方向を規制することができるので、直進性を高めることができ、長い距離を移動する場合や斜面を横切る場合の操作が容易となる。
【0008】
本発明では、取付け部と係合部とからなる簡単な構造の台車用ロック部材を台車の支持台に取り付けるだけで、車輪の進行方向をロック又はフリーにでき、自在車輪とは別に直進用の固定車輪を格納位置と使用位置との間で上下動可能に設けた従来構造に比べて、構造が極めて簡単であり、コストを低減できる。また、荷台を有する台車に適用した場合、荷台の高さが変化することもない。さらに市販の台車に簡単に後付けすることができる。
【0009】
また、係合部を、ホルダ又は車輪本体に当接する当接部と、該当接部からホルダ又は車輪本体を挟み込むように延びる張り出し部とを有するものとしたので、簡単な構造で車輪の進行方向を容易かつ確実に一方向にロックできる。
【0010】
上述した発明において、前記係合部は、その自重によって常に前記フリー位置から前記ロック位置に復帰可能であることが好ましい。これによれば、操作者が係合部の操作を止めると、係合部に与えられる外力が無くなり、係合部はその自重によって自然にロック位置に復帰可能となる。このため、係合部をフリー位置からロック位置に回動させるために、別途に特別な操作を要しない。よって、台車の操作が簡略化し、台車の操作性を向上させることができる。
【0011】
また、上述した発明において、前記取付け部は、前記ホルダと前記支持台とで挟持されていることが好ましい。取付け部を、ホルダと支持台とで挟持したので、台車用ロック部材を取り付けるための新たな部品を不要にでき、かつホルダを支持台に取り付ける際に台車用ロック部材を同時に取り付けることができる。
【0012】
また、この発明は、台車の左、右の前記車輪に対して個別に設けられる請求項1から請求項3のいずれかに記載の台車用ロック部材と、左、右の台車用ロック部材の前記係合部同士を連結する連結部材と、を備え、該連結部材を上下に操作することにより、左、右の係合部が前記ロック位置と前記フリー位置との間で一体的に回動する台車用ロックシステムである。
【0013】
[作用・効果]この発明に係る台車用ロックシステムによれば、台車用ロック部材の係合部同士を連結部材により連結し、該連結部材を上下に操作することにより、各台車用ロック部材の係合部を一体的に回動させたので、簡単な操作で左、右の車輪の進行方向を同時にロック又はフリーにすることができる。
【0014】
また、上述した発明において、前記連結部材は、左、右の係合部のいずれか一方のみが回動することを許容することが好ましい。このような連結部材によれば、左、右の係合部は常に一体に回動しなくてもよい。たとえば、左、右の係合部がロック位置に回動するときも、必ずしも同時でなくてよい。このため、左、右の係合部の一方が他方より先にロック位置に回動できる状態になれば、当該一方の係合部のみが他方の係合部より先にロック位置に回動することができる。また、その後、他方の係合部がロック位置に回動できる状態になれば、すでにロック位置に回動した一方の係合部を動かすことなく、当該他方の係合部のみがロック位置に回動することができる。このように、左、右の係合部は常に一体に回動する場合に比べて、一方の車輪だけではあるが、早期に車輪の進行方向をロックすることができる。したがって、台車を速やかに所定方向に直進させることができる。
【0015】
また、本発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の台車用ロック部材を備えた台車である。
【0016】
また、本発明は、請求項4または請求項5に記載の台車用ロックシステムを備えた台車である。
【0017】
[作用・効果]これらの発明に係る台車によれば、狭い場所での方向転換が容易であり、かつ直進性を高めることができ、長い距離の移動や斜面を横切る場合の作業性を向上できる。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係る台車用ロック部材によれば、支持台に取り付ける取付け部と、該取付け部に回動可能に支持され、ホルダ又は車輪本体に係合して車輪の上下方向軸回りの回転を阻止する係合部とを備えたので、係合部をフリー位置に回動することにより、各車輪の進行方向を自在にすることができ、狭い場所での方向転換が容易となる。また係合部をロック位置に回動することにより、何れかの車輪の進行方向を規制することができるので、直進性を高めることができ、長い距離を移動する場合や斜面を横切る場合の操作が容易となる。
【0019】
本発明では、取付け部と係合部とからなる簡単な構造の台車用ロック部材を台車の支持台に取り付けるだけで、車輪の進行方向をロック又はフリーにでき、自在車輪とは別に直進用の固定車輪を格納位置と使用位置との間で上下動可能に設けた従来構造に比べて、構造が極めて簡単であり、コストを低減できる。また、荷台を有する台車に適用した場合、荷台の高さが変化することもない。さらに市販の台車に簡単に後付けすることができる。
【0020】
また、係合部を、ホルダ又は車輪本体に当接する当接部と、該当接部からホルダ又は車輪本体を挟み込むように延びる張り出し部とを有するものとしたので、簡単な構造で車輪の進行方向を容易確実に一方向にロックできる。
【0021】
また、この発明に係る台車によれば、狭い場所での方向転換が容易であり、かつ直進性を高めることができ、長い距離の移動や斜面を横切る場合の作業性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例に係る台車用ロック部材が配設された台車の斜視図である。
【図2】台車用ロック部材をフリー位置とした状態の斜視図である。
【図3】台車用ロック部材をロック位置とした状態の斜視図である。
【図4】台車用ロック部材と車輪の分解斜視図である。
【図5】台車の斜視図である。
【図6】係合部がロックするときの動作説明図である。
【図7】係合部がロックするときの動作説明図である。
【図8】係合部がロックするときの動作説明図である。
【図9】係合部がロックするときの動作説明図である。
【図10】係合部がロックするときの動作説明図である。
【図11】係合部がロックするときの動作説明図である。
【図12】変形実施例に係る台車のホルダを示す分解斜視図である。
【図13】変形実施例に係る台車用ロック部材を示す側面図である。
【図14】変形実施例に係る台車用ロックシステムの斜視図である。
【図15】変形実施例に係る台車の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1ないし図5は、本発明の実施例による台車用ロック部材、台車用ロックシステム、及び、これら台車用ロック部材/台車用ロックシステムを備えた台車を説明するための図である。
【0024】
図において、1は例えば掲示板,表示板等(不図示)を搬送するための台車を示している。この台車1は、矩形枠状の支持台4と、該支持台4の前部,後部の左、右コーナ部に配設された4個の車輪2とを備えている。該各車輪2は、硬質ゴム,樹脂,あるいは金属からなる車輪本体2aと、該車輪本体2aを回転自在に支持するホルダ3とを備えている。該ホルダ3は前記支持台4に上下方向軸7′回りに回転自在に支持されている。車輪本体2aはホルダ3と一体に上下方向軸7′回りに回転する。すなわち、車輪2全体は上下方向軸7′を中心として回転可能である。本明細書では、上下方向軸7′を適宜に「軸線7′」と記載する。
【0025】
さらに、台車1は、該支持台4に結合された一対の支柱5,5とを備えている。この各支柱5に前記掲示板等が取り付けられている。
【0026】
前記支持台4は、角パイプ製の4本の外枠4aを矩形状をなすよう結合するとともに、前,後の外枠4a,4aを角パイプ製のセンタ枠4bで結合した構造を有する。また前記前,後の外枠4a,4aの、センタ枠4bとの結合部に前,後の支柱5,5が固着されている。
【0027】
前記各ホルダ3は、板金製のホルダ本体7と、該ホルダ本体7を前記上下方向軸7′回りに回転自在に前記支持台4に支持する支持軸9とを有する。ホルダ本体7は略門形状を有する。換言すれば、ホルダ本体7は略「U」の字を逆さにしたような形状である。この支持軸9は、上部には螺子加工が施されており、ナット10により前記外枠4aに締め付け固定されている。
【0028】
前記ホルダ本体7は、天壁部7aと、該天壁部7aの後部から下方に延びる左、右脚部7b,7bとを有する。前記車輪本体2aは、該左、右脚部7bの下端部に車軸7cを介して取り付けられている。これにより、車輪本体2aは車軸7cを中心として回転自在である。なお、車軸7cは軸線7′と略直交する。前記天壁部7aの前部7dは前記支持軸9により回転自在に支持されている。また、図4に示すように、前記車輪本体2aの中心は、軸線7′に対して寸法aだけ後方にオフセットしている。より詳細に言えば、車輪本体2aの中心を通る垂直線2′が軸線7′に対して寸法aだけ後方の位置となるように、車輪本体2aおよびホルダ3が配置されている。これにより、台車1を移動させると、各ホルダ本体7は、台車1の進行方向Aに対して車輪本体2aの中心が前記支持軸9の後方に位置するよう上記軸線7′回りに回転する。
【0029】
前記台車1を進行方向Aに向けたとき、支持台4の後部の左、右コーナ部に配置された左、右の車輪2,2に、それぞれ台車用ロック部材(以下、適宜「ロック部材」と略記する)15,15が個別に配設されている。
【0030】
前記ロック部材15は、前記支持台4に取り付けられた板金製の取付け部16と、該取付け部16にヒンジピン17を介して回動可能に支持された板金製の係合部18とを有する。該係合部18は、前記ホルダ本体7の左、右脚部7b,7bに係合して該ホルダ本体7の前記軸線7′回りの回転を阻止するロック位置と、前記左右脚部7b,7bに係合している状態を解除して、前記ホルダ本体7の軸線7′回りの回動を許容するフリー位置との間で回動可能となっている。
【0031】
前記取付け部16の中央部には、前記支持軸9が挿通可能な取付け孔16aが形成されている。前記取付け部16は、取付け孔16aに挿通された支持軸9を前記支持台4にナット10で締め付け固定することにより、該支持台4と前記ホルダ本体7のボス部7fとの間に挟み込まれて固定されている。なお、16bは前記支持台4等に直接取り付ける場合に使用するボルト孔である。
【0032】
前記係合部18は略門形状を有する。換言すれば、係合部18は略「U」の字を逆さにしたような形状である。具体的には、係合部18は、ホルダ本体7の天壁部7aに当接する当接部18aと、該当接部18aからホルダ本体7の左、右脚部7bを挟み込むように下方に延びる左、右の張り出し部18b,18bとを有する。この左、右張り出し部18b,18bは、互いに平行に形成され、かつ前記ヒンジピン17から離れるほど上下寸法が大きくなるように形成されている。
【0033】
前記左、右のロック部材15,15同士は、連結部材20により連結されている。該連結部材20は、連結棒20aと、連結棒20aの左、右端部に接続されたボールジョイント20b,20bとを有する。ボールジョイント20b,20bは前記左、右の係合部18,18のピン孔18c,18cにそれぞれ取り付けられている。このように、連結部材20は前記左、右の係合部18,18を連結した構造となっている。そして、左、右のロック部材15,15と、連結部材20とによって、台車用ロックシステム21が構成されている(図1、図5等参照)。
【0034】
前記連結棒20aを上下に回動させることにより左、右の係合部18がフリー位置とロック位置との間で一体的に回動する。なお、前記ボールジョイント20bを介在させたので、左、右係合部18、18は常に一体に回動しなくてもよい。このため、必ずしも左、右の係合部18,18は左、右のホルダ本体7,7に同時に係合しなくてもよく、また、係合した状態を解除するときも同時である必要はない。たとえば、左、右の係合部18、18のうち、一方が他方より先にホルダ3に係合したり、一方が他方より先に係合した状態を解除することが可能となっている。
【0035】
なお、係合部18を回動させる方向に付勢する部材(たとえば、ばねなど)等は一切、設けられていない。係合部18の自重が常に下向きに(換言すれば、常にフリー位置からロック位置に復帰する方向に)働くのみである。よって、係合部18はヒンジピン17を中心軸として回動自在である。係合部18のフリー位置への回動は、操作者が係合部18に外力を与えるときのみである。
【0036】
ここで前記係合部18及び取付け部16とヒンジピン17との連結部には嵌合隙間が設けられており、これにより、前記係合部18は前記取付け部16に対して矢印C方向に少し相対移動可能に連結されている。さらにまた、前記左、右張り出し部18b,18bは、その内面の幅寸法b1が前記ホルダ本体7の左、右脚部7b,7bの外面の幅寸法b2より少し大きくなるように形成されている。
【0037】
このように構成したことにより、台車1を進行方向Aに移動させつつ、該係合部18が各ホルダ本体7の後端部7eに自動的に係合し、該ホルダ本体7の軸線7′回りの回転をロックする。これにより、車輪2が軸線7′回りに回転することが阻止される(すなわち、車輪2がロックされる)。特に、台車1を進行方向Aに移動させている場合では、車輪2は進行方向Aに対して車輪本体2aの中心が軸線7′の後方に位置するように固定され、それ以上車輪2が軸線7′回りに回転することは阻止される。
【0038】
ここで、係合部18が車輪2を進行方向Aにロックする動作例を、図6乃至図11を参照して詳しく説明する。図6乃至図11は、それぞれ係合部がロックするときの動作説明図であり、図6から図11の順番で動作が進行する。なお、図6から図11において、連結部材20等については図示を省略している。
【0039】
図6を参照する。図6ではフリー位置にある係合部18を示している。係合部18をフリー位置に回動させるときは、操作者が係合部18を直接的に動かすか、あるいは、連結部材20等を介して係合部18を間接的に動かす。このとき、係合部18に加えられる外力は、ヒンジピン17を中心軸として係合部18を上方に回動させるように働く力である。外力を加えている間は、係合部18はフリー位置に維持される。
【0040】
係合部18がロック位置からフリー位置に回動すると、係合部18とホルダ本体7とが係合している状態が解除される。これにより、ホルダ3のロックは解除され、車輪2の軸線7′回りに回転が許容される。この結果、車輪2は進行方向Aに限られず、任意の方向に向くことができる。図6では、進行方向Aと略直交する方向に車輪2が向いている様子を示している。
【0041】
図7を参照する。たとえば、操作者が係合部18または連結部材20等から手や足を離すことによって、係合部18の操作を止めると、係合部18に付与される外力が無くなる。そうすると、係合部18は、その自重によって自然にヒンジピン17を中心として下向きに回動する。そして、図7に示すように、係合部18は、ヒンジピン17から下方に垂れ下がった状態となる。
【0042】
図8を参照する。操作者が台車1を進行方向Aに動かし始めると、車輪本体2aが軸線7′の後方に位置するように、車輪2は軸線7′を中心として回転する。車輪本体2aが軸線7′の後方に位置するとき、車輪2は進行方向Aに向き、車軸7cは進行方向Aと直交する。図8では車輪2の回転する方向を符号「R」を付して明示する(なお、図9、10も同様に車輪2の回転方向Rを明示する)。
【0043】
ホルダ3は、車輪本体2aと一体に軸線7′回りに回転する。これにより、ホルダ本体7が係合部18と当接し始める。より詳しくは、左、右脚部7b、7bの一方と天壁部7aとが接続している角部(以下、単に「ホルダ本体7の角部」という)が、左、右張り出し部18b、18bのいずれか(以下、単に「張り出し部18b」という)の端部と接触し始める。図8では、張り出し部18bとホルダ本体7が接触する部位を符号「P1」を付して明示する。このように、ホルダ本体7が係合部18に接触し始めることにより、係合部18は上方に持ち上げられるように、ヒンジピン17を中心軸として回動し始める。
【0044】
なお、図9、10では、それぞれ符号「P2」、「P3」を付して接触部位を明示する。以下では、接触部位P1、P2、P3を特に区別しない場合は、単に接触部位Pという。
【0045】
図9を参照する。車輪2が更に回転方向Rに回転する。係合部18とホルダ本体7との接触部位P2は、ホルダ本体7の角部に沿って接触部位P1から後端部7eに向かって移動する。このように、係合部18はホルダ本体7の角部と接触し続ける。これにより、係合部18は、さらに上方に持ち上げられる。
【0046】
図10を参照する。接触部位Pが、ホルダ本体7の後端部7eまで到達すると、図示するように、張り出し部18bとホルダ本体7との接触部位P3は、ホルダ本体7の後端部7eの一端から他端に向かって移動する。このように、張り出し部18bはホルダ本体7と更に接触し続ける。
【0047】
図11を参照する。接触部位Pがホルダ本体7の後端部7eの他端に到達した後、ホルダ本体7は張り出し部18bから離れて、係合部18の張り出し部18b、18bに挟まれる空間にもぐり込む。係合部18は僅かに下方に回動する。これにより、係合部18は図11に示すようにロック位置に至る。係合部18がロック位置に至ると、係合部18はホルダ3と係合する。すなわち、係合部18の当接部18aはホルダ本体7の天壁部7aと接触し、張り出し部18b、18bはホルダ本体7が上下方向軸7′回りに回転することを規制する(すなわち、ホルダ3をロックする)。このようにして、係合部18は車輪2の軸線7′回りの回転を阻止する。これにより、車輪2の軸線7′回りの向きは、前記進行方向Aに固定される。
【0048】
以上に説明したとおり、左、右のロック部材15,15がフリー位置にあるときには、4つの車輪2は何れも上下方向軸7′回りに回転自在、つまり進行方向自在となっており、狭い場所での方向転換等の小回りが簡単に行える。
【0049】
一方、連結部材20を下降させて台車1を移動させると、左、右のロック部材15,15がホルダ本体7に自動的に係合して後部の左、右の車輪2,2の上下方向軸7′回りの回動を阻止する。これにより、進行方向前側の2つの車輪2は進行方向自在のまま、後側の2つの車輪2は上下方向軸7′回りに回転不能、つまり進行方向固定となり、安定した直進移動が行える。
【0050】
また、係合部18がフリー位置からロック位置に回動してホルダ本体7をロックするとき、張り出し部18bはホルダ本体7と接触し続けている。このため、係合部18は円滑にホルダ本体7に沿ってロック位置まで回動することができる。さらに、ホルダ本体7が進行方向Aと直交する方向に向いている場合であっても、張り出し部18bはホルダ本体7と接触可能である。このため、ホルダ本体7が如何なる方向に向いている場合であっても、係合部18はホルダ本体7を好適にロックすることができる。
【0051】
また、操作者が係合部18をフリー位置に回動させる操作を止めると、係合部18はその自重によって自然に下向きに垂れ下がり、台車1を進行方向Aに移動させることによって自動的にロック位置に復帰可能となる。このように、係合部18は、その自重によって常にフリー位置からロック位置に復帰可能となるように設けられている。よって、係合部18をフリー位置からロック位置に回動させるために、操作者は別途の操作を行うことを要しない。このため、台車1の操作が簡略になり、台車1の操作性を向上させることができる。
【0052】
たとえば、係合部18がホルダ本体7をロックしている状態から台車1を方向変換して任意の方向に移動させる場合、まず、操作者自身が手や足を使って係合部18を上方に持ち上げながら台車1の方向を転換する。その後は、操作者はその手や足を離して台車1を進行方向Aに移動させるのみでよい。これにより、ホルダ3の向きは係合部18によって自動的に進行方向Aにロックされ、台車1は所望の方向に安定して直進する。このように、台車1を方向変換する作業が簡略となり、操作者は台車1を効率よく移動させることができる。
【0053】
このように本実施例によれば、ロック部材15を、支持台4に取り付けられた取付け部16と、該取付け部16に回動可能に支持され、ホルダ本体7に係合して該ホルダ本体7の上下方向軸7′回りの回転を阻止する係合部18とを備えたものとしたので、係合部18をフリー位置に回動することにより、4輪とも進行方向自在となり、狭い場所での方向転換が容易となる。
【0054】
一方、前記係合部18をロック位置に回動することにより、前部の左、右の車輪2については進行方向自在とするとともに、後部の左、右の車輪2については進行方向が固定されるので、直進性を高めることができ、長い距離の移動や斜面を横切る場合の作業性を向上できる。
【0055】
本実施例では、前記ロック部材15の取付け部16を支持台4に取り付け、係合部18をホルダ本体7に係合させるだけで車輪2の進行方向(向き)をロックできるので、従来のように新たな固定用車輪を追加する場合に比べてコストを低減でき、かつ支持台4の高さが変化することもない。
【0056】
また本実施例のロック部材15は、市販の台車に低コストで、かつ簡単に後付けすることができる。
【0057】
本実施例では、前記係合部18を、ホルダ本体7に当接する当接部18aと、該当接部18aからホルダ本体7を挟み込むように左、右脚部7b,7bに沿って延びる左、右張り出し部18bとを有するものとしたので、簡単な構造で車輪2の進行方向をより確実にロックすることができる。
【0058】
本実施例では、前記係合部18及び取付け部16とヒンジピン17との連結部に嵌合隙間を設けたので、前記係合部18は前記取付け部16に対して矢印C方向に少し相対移動可能になっている。さらに前記左、右張り出し部18b,18bの内面の幅寸法b1を前記ホルダ本体7の左、右脚部7b,7bの外面の幅寸法b2より少し大きく形成したので、台車1を進行方向Aに移動させるだけで、該係合部18を各ホルダ本体7の後端部7eに自動的に係合させることができ、ホルダ本体7を前記進行方向の向きに簡単な操作でロックすることができる(すなわち、車輪2の向きを前記進行方向でロックすることができる)。
【0059】
本実施例では、ロック部材15の前記取付け部16を、車輪2とともに支持台4に一体的に共締め固定したので、ロック部材15を取り付けるための新たな部品を不要にでき、かつ車輪2を支持台4に取り付ける際にロック部材15を同時に取り付けることができる。
【0060】
本実施例では、支持台4の各コーナ部に車輪2を配設し、進行方向後側の左、右の車輪2にそれぞれロック部材15を設けたが、進行方向前側の左、右の車輪2にそれぞれロック部材15を設けることもできる。よって、どちらの場合も、市販の4輪自在台車をそのまま利用して2輪固定台車とすることができる。
【0061】
本実施例では、前記ロック部材15の左、右の係合部18,18同士を連結部材20により連結している。このため、操作者が該連結部材20を上下に回動操作することにより、左、右の係合部18,18の双方を一挙に回動させることができる。このように簡単な操作で左、右の車輪2,2を同時に進行方向の向きにロックしたり、同時に進行方向自在にすることができる。また、操作者が左、右の係合部18,18のうち、一方の係合部18を回動すると、他方の係合部18は連結部材20によって牽引される。これにより、他方の係合部18は一方の係合部18と略同様に回動する。このように、操作者は一方の係合部18のみを回動操作することにより、他方の係合部18も一挙に回動させることができる。
【0062】
また、本実施例では、連結棒20aはボールジョイント20b、20bを介して左、右の係合部18,18と連結している。よって、左、右の係合部18,18のいずれか一方のみが回動することが許容されている。すなわち、左、右の係合部18,18の一方が他方に対して相対的にわずかに回動可能であり、左、右の係合部18,18は常に一体に回動しなくてもよい。
【0063】
このため、たとえば、ロック位置に回動するときも、左、右の係合部18,18は必ずしも同時にロック位置に回動しなくてもよい。具体的には、左、右の係合部18,18の一方が他方より先に、図11に示すようにロック位置に回動できる状態になれば、当該一方の係合部18のみが他方の係合部18より先にロック位置に回動できる。また、その後、他方の係合部18がロック位置に回動できる状態になれば、一方の係合部18をロック位置から動かすことなく、他方の係合部18のみがロック位置に回動できる。この結果、車輪2の進行方向を速やかに、効率良くロックすることができる。
【0064】
なお、左、右の係合部18,18の一方が他方に対して相対的に回動可能な量は、ロック位置(図11参照)からフリー位置(図6参照)にわたる係合部18の回動量より小さいことが好ましい。これによれば、連結棒20aを動かすことによって、左、右の係合部18,18の双方を的確にフリー位置に回動させることができる。また、左、右の係合部18,18の一方が他方に対して相対的に回動可能な量は、図10に示すように係合部18の張り出し部18bがホルダ本体7の後端部7eと接触しているときの係合部18の位置から、図11に示すように係合部18のロック位置までの回動量以上であることが好ましい。これによれば、左、右の係合部18,18が互いに独立してロック位置に回動することができる。
【0065】
なお、前記実施例では、ホルダ本体7の左、右脚部7b,7bを後方に突出させることにより、該左、右脚部7b,7bに係合部18を係合させるようにした場合を説明したが、本発明のホルダ本体はこれに限られるものではない。
【0066】
例えば、図12に示すように、ホルダ本体23を、天壁部23aから左、右脚部23b,23bを後斜め下方に屈曲させることにより、車輪本体2aの中心を軸線7に対して寸法aだけ後方にオフセットさせてもよい(すなわち、車輪本体2aの中心を通る垂直線2′を軸線7′に対して寸法aだけ後方に位置させもよい)。これによれば、ホルダ本体23が前記係合部18を係合させる部分を有しない場合にも適用できる。この場合には、天壁部23aに後方に突出するストッパ部23cを設け、該ストッパ部23cに係合部18を係合させることによりホルダ本体23の上下方向軸7′回りの回転を阻止することができる。
【0067】
また、前記実施例では、ロック部材15をホルダ本体7,23に係合させることにより進行方向のロックをするようにした場合を説明したが、本発明は、図13に示すように、ロック部材15の係合部18を車輪本体2aに係合させることにより、該車輪本体2aをロックすることも可能である。このようにした場合には、車輪本体2aを直接ロックするので、ホルダ本体に係合部を設ける必要はない。
【0068】
前記係合部18を車輪本体2aに係合させる場合には、図14に示すように、車輪本体2aの磨耗を防止するために、左、右張り出し部18bを硬質ゴム,あるいは樹脂で形成してもよく、あるいは板金製の係合部にゴムプレート等を貼り付けてもよい。
【0069】
また、前記実施例では、係合部18を回動させる方向に付勢する部材は一切設けられていないと説明したが、これに限られない。たとえば、前記ロック部材15と支持台4との間には、ばね等の付勢手段を介設してもよい。そして、この付勢手段によって、ロック部材15がフリー位置にあるときには該ロック部材15をフリー位置に付勢し、ロック部材15をロック位置に回動させると、付勢方向が反転してロック部材15をロック方向に付勢するように構成してもよい。
【0070】
さらに前記実施例では、ロック部材15の取付け部16を支持軸9により支持台4に一体的に取り付けた場合を説明したが、本発明では、図13,図14に示すように、取付け部16を支持台4の外側面に直接取り付けるようにしてもよい。このようにした場合には、ロック部材15を容易に後付けすることができる。
【0071】
また、前記実施例では、連結棒20aと係合部18とは、ボールジョイント20bをよって連結されていたが、これに限られない。たとえば、連結棒20aが挿入される筒状物を係合部18に取り付けるように構成してもよい。
【0072】
図14を参照する。図14は、変形実施例に係る台車用ロックシステム21の斜視図である。図示するように、左、右係合部18、18にはそれぞれ、略円筒形状を有するカラー41、41が固定的に設けられている。カラー41、41には連結棒20aの両端が挿入されている。このような構成によっても、左、右の係合部18の回動を連動させることができる。
【0073】
また、この変形例において、各カラー41、41の内周面と連結棒20aの外周面との間には僅かな隙間が形成されていることが好ましい。このように構成される台車用ロックシステム21では、連結棒20aの一端が挿入されているカラー41に対して連結棒20aの他端側がばたつくように動くことが許容される。換言すれば、連結部材20は左、右の係合部18,18の一方が他方に対して相対的に回動可能な遊びを有している。したがって、左、右の係合部18,18は常に一体に回動しなくてもよい。
【0074】
このように、変形例の連結部材20によっても、ボールジョイント20bを備える前記実施例の場合と同様に、左、右の係合部18,18が同時に左、右のホルダ本体7,7に係合したり、係合した状態が同時に解除される場合に限られない。すなわち、左、右の係合部18の一方が他方より先にホルダ3に係合したり、係合部18の一方が他方より先にホルダ3から離脱することが可能である。
【0075】
さらにまた、前記実施例では、枠部材で構成された台車1を例に説明したが、本発明は、図15に示すように、荷台を有する台車30にも勿論適用できる。この台車30は、荷物台となる支持台31に手押しハンドル32を取り付けた構造のものであり、この台車30の、例えば後部左、右の車輪2,2に前述のロック部材15を取り付けることとなる。
【符号の説明】
【0076】
1,30 台車
2 車輪
3 ホルダ
4,31 支持台
15 台車用ロック部材
16 取付け部
18 係合部
18a 当接部
18b 左、右張り出し部
20 連結部材
21 台車用ロックシステム
c 遊び

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車の支持台に上下方向軸回りに回転自在に支持されたホルダと、該ホルダに支持された車輪本体とを備える車輪に設けられ、該車輪の前記上下方向軸回りの回転を阻止し又は許容する台車用ロック部材であって、
前記支持台に取り付けられる取付け部と、
前記ホルダ又は車輪本体に係合して前記車輪の前記上下方向軸回りの回転を阻止するロック位置と前記ホルダ又は前記車輪本体に係合している状態を解除して前記車輪の上下方向軸回りの回転を許容するフリー位置との間で回動可能に前記取付け部に支持された係合部と、
を有し、
前記係合部は、
前記ロック位置に回動させたときに前記ホルダ又は前記車輪本体に当接する当接部と、
該当接部から前記ホルダ又は前記車輪本体を挟み込むように延びる一対の張り出し部と、
を有する台車用ロック部材。
【請求項2】
請求項1に記載の台車用ロック部材において、
前記係合部は、その自重によって常に前記フリー位置から前記ロック位置に復帰可能である台車用ロック部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の台車用ロック部材において、
前記取付け部は、前記ホルダと前記支持台とで挟持されている台車用ロック部材。
【請求項4】
台車の左、右の前記車輪に対して個別に設けられる請求項1から請求項3のいずれかに記載の台車用ロック部材と、
左、右の台車用ロック部材の前記係合部同士を連結する連結部材と、
を備え、該連結部材を上下に操作することにより、左、右の前記係合部が前記ロック位置と前記フリー位置との間で一体的に回動する台車用ロックシステム。
【請求項5】
請求項4に記載の台車用ロックシステムにおいて、
前記連結部材は、前記左、右の係合部のいずれか一方のみが回動することを許容する台車用ロックシステム。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の台車用ロック部材を備えた台車。
【請求項7】
請求項4または請求項5に記載の台車用ロックシステムを備えた台車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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