説明

合成イオンチャネル

脂質二重層または細胞膜においてイオンチャネルを形成しうる自己集合性化合物と、該自己集合性化合物を含んでなるイオンチャネル形成組成物が、ここでは提供される。複数の自己集合性化合物の分子から形成されるイオンチャネルを製造および使用する方法も提供される。更に、クロライドチャネルを含めたイオンチャネルの機能障害に関連した症状および疾患を治療または予防する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
脂質二重層または細胞膜においてイオンチャネルを形成しうる自己集合性化合物、該化合物を含んでなるイオンチャネル形成組成物、該化合物を含んでなる医薬組成物と、該化合物および組成物を製造および使用する方法がここでは提供される。脂質二重層または細胞膜において合成アニオンチャネルを形成する方法もここでは提供される。クロライドチャネルの機能障害に関連した疾患を治療、予防および/または管理する方法と、ここで開示されている自己集合性化合物を用いることによりリポソームおよび生細胞の膜でクロライドイオンの流動を媒介する方法もここでは更に提供される。
【背景技術】
【0002】
細胞膜または脂質二重層を経るイオン輸送は重要な生物学的プロセスである。イオン流動を選択的に調節するイオンチャネルは、限定されないが、ニューロンシグナリング、筋肉収縮、心臓血管機能および免疫応答を含めた多くの生理学的プロセスに関与している。自然イオンチャネルは内在性膜タンパク質、または更に典型的には脂質二重層を通る水充満孔周辺に密集した数種タンパク質の集合体である。自然イオンチャネルの2つの重要な性質は、イオン選択性とゲーティングである。イオン選択性とはあるイオン種のみをその細孔から流動させるチャネル選択性に関し、一方ゲーティングとはチャネル開閉のメカニズムに関する。アニオンチャネルは通常、電気化学的勾配に沿いアニオンの受動拡散を行う、生体膜におけるタンパク質細孔である。これらのチャネルはヨウ化物または硝酸イオンのような他のアニオンを通すこともあるが、クロライドが生物に最も豊富なアニオンであり、ひいてはほとんどの環境下で主要な透過種であることから、それらはクロライドチャネルと通称されている。
【0003】
クロライドチャネルの機能としてはイオンホメオスタシス、細胞容積調節、経上皮輸送および電気的興奮性の調節があるが、それらに限定されない。したがって、クロライドチャネルの機能障害は、上記機能の毀損に伴う一部の症状および疾患と関連していた。このようなヒト疾患の一部の非制限例としては、嚢胞性線維症、バーター症候群、デント病、遺伝性腎結石症、先天性筋緊張症、ベッカー症候群、癲癇、卵黄状黄斑ジストロフィー、過剰驚愕症、若年性ミオクローヌス癲癇および大理石骨病がある。結果的に、クロライドチャネルは創薬のために重要な標的となっていた。クロライドチャネルの機能を選択的に調節または模倣する小さな分子が、上記のようなヒト疾患の治療に有用となる可能性がある。クロライドチャネルに重要な生理学的価値があるとすれば、クロライドチャネルの機能をどのように調整しうるかを理解することが望まれる。
【0004】
自然イオンチャネルの機能を模倣しうる合成イオンチャネルは、自然イオンチャネルの性質を洞察するためのモデルとして用いうる。そのため、新規合成イオンチャネルの発見は、イオン輸送が役割を果たす症状および疾患を治療または予防する際に有用な新規化合物または組成物へとつながるのである。これらの合成チャネルは、可能性として、生体系でイオン流動を制御するために用いうる。多くの努力がカチオンチャネルのモデルに向けられてきたが、その一方でごくわずかな合成アニオンチャネル、特にクロライドチャネルが報告されているにすぎない。合成クロライドチャネルのほとんどは通常比較的複雑な構造と高分子量を有しており、双方とも創薬に際してそれらの適用を制限しかねない。したがって、クロライドチャネルを含めたイオンチャネルの機能障害に関連した症状および疾患を治療または予防するために用いうる新規合成イオンチャネル化合物についてなお必要性が存在するのである。
【発明の概要】
【0005】
外部源の補助なしで脂質二重層または細胞膜にイオンチャネルを形成するように自己集合しうる化合物、該化合物を含んでなるイオンチャネル組成物と、クロライドチャネルの機能障害に関連した疾患を治療、管理または予防するためにそれを製造および使用する方法がここでは提供される。ある態様において、該化合物は、内部または外部物理力、例えば電磁放射(例えば、X線、UV光、可視光、マイクロ波またはIR放射)、電場、磁場、超音波、聴覚音、熱または圧力の補助でイオンチャネルを形成するように集合しうる。ある態様において、該化合物は、酸、塩基などのような極性化合物、または炭化水素などのような非極性化合物の補助でイオンチャネルを形成するように集合しうる。自己集合性化合物を含んでなる合成アニオンチャネルを有した生体および合成膜もここでは提供される。ある態様において、該化合物は、脂質二重層または細胞膜においてイオンチャネルを形成するように自己集合する、自己集合性化合物である。ある態様において、イオンチャネルはアニオンチャネルである。合成イオンチャネルを形成するために水素結合を介して小さな分子を自己集合させるステップを含んでなる、合成イオンチャネルをデザインするための方法が更に提供される。
【0006】
一面において、式(I)で表わされる自己集合性化合物がここでは提供される:
【化1】

上記式中、Xは非置換または置換ヒドロカルビルまたはヘテロシクリルである;
nは1〜6の整数である;
Yは、非置換または置換炭化水素(例えば、アルカン、アルケンおよびアルキン)、カルボサイクル(例えば、シクロヘキサンのような脂肪族カルボサイクル、またはベンゼンのようなアレーン)またはヘテロサイクル(例えば、ピリジンのようなヘテロアレーン)から各々1、2、3、4、5および6つの水素原子を除去することにより形成される一価、二価、三価、四価、五価または六価連結基である;および
DAは、少なくともイオンチャネルを形成するために、水素結合を介した自己集合向けの少なくとも水素結合ドナーおよび少なくとも水素結合アクセプターを含んでなる二価基である。
【0007】
一部の態様において、式(I)のHDAは式(II)を有する二価基である:
【化2】

上記式中、ZおよびZの各々は独立してO、SまたはNRである;
A、B、B、BおよびDの各々は独立して結合、O、S、NRあるいは置換または非置換C1‐10アルキレンである;および
kは1〜20の整数であり、ここでRおよびRの各々は独立してH、アシル、ヒドロカルビル、カルボシクリルまたはヘテロシクリルであり、BおよびBの少なくとも1つはNHである。
【0008】
他の態様において、式(I)のHDAは式(III)で表わされる:
【化3】

上記式中、kは1〜20の整数である;
Aは結合、O、S、NRあるいは置換または非置換C1‐10アルキレンであり、ここでRはH、アシル、ヒドロカルビル、カルボシクリルまたはヘテロシクリルである;
はOまたはNHである;および
DはC1‐3アルキレンあるいは1以上のヒドロカルビルまたはヘテロシクリルで置換されたC1‐3アルキレンである。
【0009】
ある態様において、式(I)のHDAは式(IV)で表わされる:
【化4】

上記式中、DはC1‐3アルキレンあるいは1以上のヒドロカルビルまたはヘテロシクリルで置換されたC1‐3アルキレンである。
【0010】
ある態様において、式(I)のHDAは式(IVB)で表わされる:
【化5】

上記式中、Aは結合、O、S、NRあるいは置換または非置換C1‐10アルキレンであり、ここでRはH、アシル、ヒドロカルビル、カルボシクリルまたはヘテロシクリルである;および
DはC1‐3アルキレンあるいは1以上のヒドロカルビルまたはヘテロシクリルで置換されたC1‐3アルキレンである。
【0011】
一部の態様において、ここで開示されている自己集合性化合物の式(I)のnは1である。他の態様において、nは2または3であり、X‐HDA単位の少なくとも2つは同一である。別な態様において、nは2または3であり、X‐HDA単位の少なくとも2つは異なる。
【0012】
一部の態様において、ここで開示されている自己集合性化合物の式(I)のXはヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルである。他の態様において、Xは1〜14個の炭素原子を含んでなるヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルである。別な態様において、Xは1〜14個の炭素原子を有するアルキルまたは置換アルキルである。更に別な態様において、Xはイソブチルである。
【0013】
一部の態様において、ここで開示されている自己集合性化合物の式(I)のYは、非置換または置換アルカン、アルケンまたはアルキンから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である。他の態様において、Yは、非置換または置換C2‐12アルカン、アルケンまたはアルキンから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である。別な態様において、Yは非置換または置換プロピレンまたはプロペニレンである。
【0014】
ある態様において、ここで開示されている自己集合性化合物の式(I)のYは、非置換または置換単環式、二環式または三環式芳香族カルボサイクルから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である。他の態様において、Yは、非置換または置換アレーン、例えばベンゼンから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である。
【0015】
一部の態様において、ここで開示されている自己集合性化合物の式(I)のYは、非置換または置換単環式、二環式または三環式ヘテロサイクルから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である。他の態様において、Yは、非置換または置換ヘテロアレーン、例えばピリジンから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である。
【0016】
ある態様において、ここで開示されている自己集合性化合物の式(I)のHDAは、少なくとも1つの一級アミドまたは二級アミド基を含んでなる。
【0017】
一部の態様において、式(II)、(III)、(IV)または(IVB)のDは、少なくともアルキル、アリール、置換アルキルまたは置換アリール基で置換されたC1‐3アルキレンである。他の態様において、Dは少なくともイソブチル基で置換されたC1‐3アルキレンである。更に別な態様において、Dはイソブチルで置換されたメチレンである。
【0018】
ある態様において、式(II)または(III)のAは結合である;Dはメチレンまたは置換メチレンである;およびkは1である。別な態様において、式(II)または(III)のAはOである;Dはメチレンまたは置換メチレンである;およびkは1である。更に別な態様において、Yはアリーレン、ヘテロアリーレン、アルキレンまたはアルケニレンである;および各Xは1〜14個の炭素原子を有する非置換または置換ヒドロカルビルである。
【0019】
一部の態様において、ここで開示されている自己集合性化合物は:
【化6】



あるいはそれらの塩、溶媒和物、多形体または立体異性体である。
【0020】
別な態様において、自己集合性化合物は:
【化7】

あるいはその塩、溶媒和物、多形体または立体異性体である。
【0021】
他の面において、脂質二重層または細胞膜と、ここで開示されている複数の自己集合性化合物の分子を含んでなる、イオンチャネル組成物がここでは提供され、該分子は該膜の厚さ全体にわたってアニオンチャネルを形成する。一部の態様において、複数の分子は脂質二重層の厚さ全体にわたってアニオンチャネルを形成するように自己集合する。別な態様において、アニオンチャネルはフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸、亜硝酸、硫酸、重硫酸、炭酸、重炭酸、リン酸、リン酸水素、リン酸二水素または酢酸イオンチャネルである。更に別な態様において、アニオンチャネルはクロライドチャネルである。
【0022】
他の面において、脂質二重層または細胞膜に合成アニオンチャネルを形成する方法がここでは提供され、該方法では、アニオンチャネルを形成するように自己集合する、ここで開示されている複数の自己集合性化合物の分子と、膜を結合する。
【0023】
他の面において、脂質二重層または細胞膜においてアニオンの流動を調整する方法がここでは提供され、該方法は、ここで開示されている複数の自己集合性化合物の分子から膜においてアニオンチャネルを形成し;その後でアニオン勾配または膜ポテンシャルを印加するステップを含んでなる。
【0024】
他の面において、ここで開示されている複数の自己集合性化合物の分子を用意し;膜の縦断方向において、および膜の横方向において分子間水素結合を介した分子の自己集合によりいずれか2つの隣接分子カラム間で、分子カラムを形成するステップを含んでなる、細胞膜で合成イオンチャネルを製造する方法が、ここでは提供される。一部の態様において、ここで開示されている細胞膜は脂質二重層を含んでなる。
【0025】
他の面において、クロライドチャネルの機能障害に関連した疾患を治療、管理または予防する方法がここでは提供され、該方法では、このような治療、管理または予防の必要な哺乳動物へ、ここで開示されている自己集合性化合物あるいはその製薬上許容される塩、溶媒和物または立体異性体の治療または予防上有効な量を投与する。
【0026】
他の面において、クロライドチャネルの機能障害に関連した疾患の治療、管理または予防のための薬剤を製造するための、ここで開示されている複数の自己集合性化合物の分子あるいはその製薬上許容される塩、溶媒和物、多形体または立体異性体の使用が、ここでは提供される。
【0027】
一部の態様において、該疾患は嚢胞性線維症、バーター症候群、デント病、遺伝性腎結石症、先天性筋緊張症、ベッカー症候群、癲癇、卵黄状黄斑ジストロフィー、過剰驚愕症、若年性ミオクローヌス癲癇または大理石骨病である。他の態様において、自己集合性化合物あるいはその製薬上許容される塩、溶媒和物または立体異性体は哺乳動物の細胞の脂質二重層へ導入される。別な態様において、哺乳動物はヒトである。
【0028】
他の面において、クロライドチャネルの機能障害に関連した疾患を治療、管理または予防するために、治療または予防上有効な量でここで開示されている自己集合性化合物あるいはその製薬上許容される塩、溶媒和物、多形体または立体異性体を含んでなる医薬組成物が、ここでは提供される。一部の態様において、医薬組成物は更にキャリアを含んでなる。ある態様において、医薬組成物は更に、賦形剤、保湿剤、キャリア、希釈剤、金属ステアレートおよびそれらの組合せからなる群より選択される成分を少なくとも含んでなる。他の態様において、医薬組成物は単一ユニット剤形をとる。別な態様において、医薬組成物は哺乳動物細胞の脂質二重層へ導入するために適した単一ユニット剤形をとる。
【0029】
他の面において、ここで開示されている複数の自己集合性化合物の分子を含んでなるイオンチャネルがここでは提供され、該イオンチャネルは細胞膜におけるものである。
【0030】
他の態様は一部が明らかであり、一部が以下で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】構造または“デザイン”に基づく合成イオンチャネルの一部分類を描写している。
【図2】脂質二重層にまたがる合成イオンチャネルを描写し、そこでは破線が水素結合を表わし、太い実線が自己集合性分子を表わし、その各々が少なくとも水素結合ドナー(Dで表わされる)および少なくとも水素結合アクセプター(Aで表わされる)を含んでなる。
【図3】図2の合成イオンチャネルで可能なアニオン輸送プロセスを描写し、そこでは球体がアニオンを表わし、破線が水素結合を表わし、太い実線が自己集合性分子を表わし、その各々が少なくとも水素結合ドナー(Dで表わされる)および少なくとも水素結合アクセプター(Aで表わされる)を含んでなる。アニオンは、合成イオンチャネルを通るときに、該チャネルに沿い水素結合ドナーの各々と個別的かつ連続的に水素結合を形成する。
【図4】a〜dは様々な化学表現で実施例2を描写している。図4aは実施例2の化学構造を描写している。図4bは、炭素、水素、窒素および酸素原子が灰色、白色、青色および赤色の棒で各々表わされる棒表現で、実施例2の結晶構造を描写している。2.13Åの結合距離を有する2つの八員環分子内水素結合が緑色破線として示されている。図4cおよび4dは、実施例2の固相パッキングの上面図および側面図を各々描写している。図4cおよび4dにおけるCH水素原子は明瞭化のために省略されている。図4dで緑色実線として示された分子間水素結合は、細孔構造を形成するために、隣接分子を一緒に連結かつ整列させている。
【図5】大きな単ラメラ小胞(LUV)から異なる濃度で実施例2により媒介されるクロライド放出について示し、そこではNaCl小胞外および内緩衝液が用いられた。実験の詳細は実施例14で記載されている。
【図6】サルフェートの存在下ではなく、クロライドの存在下における実施例2媒介電解質交換について示している。実験の詳細は実施例14で記載されている。
【図7】LUVにおける実施例1〜9から得られた異なる合成イオンチャネルのクロライド輸送能について示し、そこではNaCl小胞外および内緩衝液が用いられた。
【図8】電圧依存性ゲーティング特性を特徴とするイオンチャネルメカニズムにより、実施例2が脂質二重層でクロライド輸送を媒介しうることを実証した、単一チャネル記録結果について示している。実験の詳細は実施例15で記載されている。
【図9】ヒト細胞膜へ分配されたときに、実施例2が細胞クロライド電流を増加しうることを実証した、全細胞記録結果について示している。実験の詳細は実施例16で記載されている。
【図10】クロライド感受性蛍光指示薬SPQで、リポソームにおける実施例2のクロライド輸送活性を示している。
【図11】実施例2のX線結晶構造を示している。
【図12】LUVにおける実施例2および10〜13から得られた異なる合成イオンチャネルのクロライド輸送能について示し、そこではNaCl小胞外および内緩衝液が用いられた。
【定義】
【0032】
ここで開示されている主題の理解を促すために、ここで用いられているような幾つかの用語、略語または他の略記が以下で定義されている。定義されていないいかなる用語、略語または略記も、この出願の提出と同時期の当業者により用いられる通常の意味を有していると理解される。
【0033】
“pS”はピコシーメンスを意味する。
【0034】
“mM”はミリモルを意味する。
【0035】
“μM”はM=マイクロモルを意味する。
【0036】
“nM”はナノモルを意味する。
【0037】
“アニオン”は負電荷イオンを意味する。
【0038】
“カチオン”は正電荷イオンを意味する。
【0039】
“二重層膜”または“脂質二重層”は真核細胞周辺で透過性バリアを形成する二分子厚集合体に関し、細胞内コンパートメント、リポソームおよび他のオルガネラで類似した役割を果たす。この膜は多数の両親媒性脂質分子から構成されているが、細胞ではそれが主にリン脂質から構成されている。
【0040】
“細胞”は原核細胞、酵母細胞、真核細胞、植物細胞、ヒト細胞、動物細胞、一態様において哺乳動物細胞に関する。
【0041】
“膜”は、同一または異なる組成を有した2つの液相を分離させる、薄い半透過性バリアに関する。
【0042】
“細胞膜”は、タンパク質で覆われた選択的透過性脂質二重層に関する。細胞膜は細胞の外層を含んでなる。
【0043】
“チャネル”または“イオンチャネル”は、膜の片側から他の側へ中性またはイオン種の移動を行わせる、細胞膜内で細孔により通常形成された膜不透過性化合物のための水性拡散経路に関する。
【0044】
“超分子集合体”は、ファンデルワールス力または水素結合のような非共有結合で一緒につながれた、明確に定義された分子の複合体に関する。超分子集合体は2以上の分子を含みうる。超分子集合体は、非中空または中空である、球、シリンダー、ディスクまたはシートのような形状または形態をとる。一部の態様において、超分子集合体は中空シリンダーの形をとる。他の態様において、超分子集合体は細孔のあるチャネルの形をとる。超分子集合体の寸法はナノメーター〜マイクロメーターにわたる。
【0045】
“自己集合”は、外部源からのガイドまたは管理なしの、分子の集合に関する。通常2タイプの自己集合、分子内自己集合および分子間自己集合がある。分子内自己集合性分子は通常、ランダムコイルコンホメーションから明確に定義された安定構造へ集合しうる能力を有した複合ポリマーである。分子間自己集合は、超分子集合体を形成しうる分子の能力である。
【0046】
“自己集合性化合物”または“自己集合性分子”は、分子間自己集合プロセスで超分子集合体を形成しうる化合物または分子に関する。
【0047】
“水素結合ドナー”は、酸素、窒素およびイオウを含めた強電気陰性ヘテロ原子へつながれた少なくとも1つの水素原子を有する基に関する。
【0048】
“水素結合アクセプター”は、酸素、窒素、イオウ、フッ素、塩素および臭素を含めた強電気陰性ヘテロ原子に関する。
【0049】
“リポソーム”は、水性コアを封入し、かなりの程度で生体膜と似た、リン脂質の1つ(単ラメラ)またはそれ以上(多重ラメラ)の二重層膜からなる、通常球状の、人工嚢に関する。用語リポソームは、“小胞”と互換的に時々用いられる。
【0050】
“単ラメラ”は、単一層からなる、リン脂質リポソームの二重層膜に関する。
【0051】
“多重ラメラ”は、オニオンと構造的に類似した2以上の同心円層からなる、リン脂質リポソームの二重層膜に関する。
【0052】
“選択性”は、アニオンよりカチオン、カチオンよりアニオン、異なるカチオンよりあるカチオン、または異なるアニオンよりあるアニオンを含めた、他よりある種への相応の優先性に関する。
【0053】
“輸送”は、膜境界にまたがるイオンまたは他の種の動きに関する。
【0054】
“アミノ”は、場合によりヒドロカルビル、置換ヒドロカルビルまたはヘテロ原子置換された、一級、二級または三級アミンに関する。ヘテロ環式環の員である二級または三級アミン窒素原子が特に含まれる。例えば、アシル部分で置換された二級または三級アミノ基も特に含まれる。
【0055】
“アルキル”は、炭素および水素を含有し、分岐または線状鎖である、完全飽和非環式一価基に関する。アルキル基の例は、メチル、エチル、n‐ブチル、t‐ブチル、n‐ヘプチルおよびイソプロピルである。別記されなければ、ここで記載されているアルキル基は、メチル、エチル、n‐ブチル、i‐ブチル、t‐ブチル、イソアミル、n‐ペンチルおよびイソペンチルで例示されるように、好ましくは主鎖に1〜10個の炭素原子かつ20個以内で炭素原子を含有する低級アルキルである。
【0056】
“アルケニル”は、炭素および水素を含有し、環状、分岐または線状鎖である、一価または二価不飽和、好ましくは一不飽和基に関する。別記されなければ、ここで記載されているアルケニル基は、エテニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、ヘキセニルなどで例示されるように、好ましくは主鎖に2〜8個の炭素原子かつ20個以内で炭素原子を含有する低級アルキルである。
【0057】
“アルキニル”は、主鎖に2〜8個の炭素原子かつ20個以内で炭素原子を含有する低級アルキルに関する。エチニル、プロピニル、イソプロピニル、ブチニル、イソブチニル、ヘキシニルなどで例示されるように、それらは線状または分岐鎖を含有している。
【0058】
“芳香族”はアリールまたはヘテロアリールに関する。
【0059】
“アリール”は、場合により置換された炭素環式芳香族基、好ましくは環部分に6〜12個の炭素原子を含有する単環式または二環式基、例えばフェニル、ビフェニル、ナフチル、置換フェニル、置換ビフェニルまたは置換ナフチルに関する。フェニルおよび置換フェニルが更に好ましいアリールである。
【0060】
“ハロゲン”または“ハロ”はフッ素、塩素、臭素およびヨウ素に関する。
【0061】
“ヘテロ原子”は、炭素および水素以外の原子を意味する。
【0062】
“ヘテロシクロ”または“ヘテロシクリル”は、少なくとも1つの環に少なくとも1つのヘテロ原子と、好ましくは各環に5または6の原子を有する、場合により置換された、完全飽和または不飽和、単環式または二環式、芳香族または非芳香族基に関する。芳香族ヘテロシクリル(即ち、ヘテロアリール)基は、好ましくは環に1または2の酸素原子、1または2のイオウ原子および/または1〜4の窒素原子を有し、炭素またはヘテロ原子を介して分子の残部へ結合されている。ヘテロアリールの非制限例としては、フリル、チエニル、チアゾリル、ピリジル、オキサゾリル、ピロリル、インドリル、キノリニルまたはイソキノリニルなどがある。置換基の非制限例としては、次の基:ヒドロカルビル、置換ヒドロカルビル、ケト、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、アシル、アシルオキシ、アルコキシ、アルケノキシ、アルキノキシ、アリールオキシ、ハロゲン、アミド、アミノ、ニトロ、シアノ、チオール、ケタール、アセタール、エステルおよびエーテルの1以上がある。
【0063】
“炭化水素”または“ヒドロカルビル”は、元素として炭素および水素から排他的になる、有機化合物または基に関する。ヒドロカルビルとしては、アルキル、アルケニル、アルキニルおよびアリール部分がある。ヒドロカルビルには、他の脂肪族、環状またはアリール炭化水素基で置換されたアルキル、アルケニル、アルキニルおよびアリール部分、例えばアルカリール、アルケナリールおよびアルキナリールも含む。一部の態様において、“炭化水素”または“ヒドロカルビル”は1〜20個の炭素原子を含んでなる。
【0064】
“ヒドロカルビレン”は、自由原子価が二重結合に係わらない、炭化水素から2つの水素原子を除去することにより形成される二価基、例えば1,3‐フェニレン、プロパン‐1,3‐ジイルおよびメチレンである。
【0065】
化合物または化学部分を記載するためにここで用いられている“置換”とは、該化合物または化学部分の少なくとも1つの水素原子が第二の化学部分で置き換えられることを意味する。第二の化学部分は、化合物の望ましい活性に悪影響を与えない、いずれか望ましい置換基である。置換基の例は、ここで開示されている例示化合物および態様でみられるもの、並びにハロゲン;アルキル;ヘテロアルキル;アルケニル;アルキニル;アリール;ヘテロアリール;ヒドロキシル;アルコキシル;アミノ;ニトロ;チオール;チオエーテル;イミン;シアノ;アミド;ホスホナト;ホスフィン;カルボキシル;チオカルボニル;スルホニル;スルホンアミド;ケトン;アルデヒド;エステル;オキソ;ハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル);単環式または縮合もしくは非縮合多環式である炭素環式シクロアルキル(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルまたはシクロヘキシル)、あるいは単環式または縮合もしくは非縮合多環式であるヘテロシクロアルキル(例えば、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニルまたはチアジニル);炭素環式またはヘテロ環式、単環式または縮合もしくは非縮合多環式アリール(例えば、フェニル、ナフチル、ピロリル、インドリル、フラニル、チオフェニル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、ピリジニル、キノリニル、イソキノリニル、アクリジニル、ピラジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチオフェニルまたはベンゾフラニル);アミノ(一級、二級または三級);o‐低級アルキル;o‐アリール、アリール;アリール‐低級アルキル;‐COCH;‐CONH;‐OCHCONH;‐NH;‐SONH;‐OCHF;‐CF;‐OCF;‐NH(アルキル);‐N(アルキル);‐NH(アリール);‐N(アルキル)(アリール);‐N(アリール);‐CHO;‐CO(アルキル);‐CO(アリール);‐CO(アルキル);および‐CO(アリール)である;このような部分も、縮合環構造またはブリッジ、例えば‐OCHO‐で場合により置換されうる。これらの置換基は、場合により、このような基から選択される置換基で更に置換してもよい。ここで開示されているすべての化学基は、別記されていなければ、置換されうる。例えば、ここで記載されている“置換”アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヒドロカルビルまたはヘテロシクロ部分は、ヒドロカルビル部分、置換ヒドロカルビル部分、ヘテロ原子またはヘテロシクロで置換された部分である。更に、置換基は、窒素、酸素、ケイ素、リン、ホウ素、イオウまたはハロゲン原子のようなヘテロ原子で炭素原子が置き換えられた部分を含むこともある。これらの置換基としては、ハロゲン、ヘテロシクロ、アルコキシ、アルケノキシ、アルキノキシ、アリールオキシ、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、ケト、アシル、アシルオキシ、ニトロ、アミノ、アミド、シアノ、チオール、ケタール、アセタール、エステルおよびエーテルがある。
【0066】
“製薬上許容される塩”としては、本発明の化合物に存在しうる酸性または塩基性基の塩があるが、それらに限定されない。性質上塩基性である本発明の化合物は、様々な無機および有機酸と様々な塩を形成しうる。このような塩基性化合物の製薬上許容される塩を製造するために用いられる酸は、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、重炭酸、重酒石酸、臭化物、エデト酸カルシウム、カンシル酸、炭酸、塩化物、臭化物、ヨウ化物、クエン酸、二塩酸、エデト酸、エジシル酸、エストル酸、エシル酸、フマル酸、グルセプト酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコリルアルサニル酸、ヘキシルレゾルシン酸、ヒドラバミン、ヒドロキシナフトエ酸、イセチオン酸、乳酸、ラクトビオン酸、リンゴ酸、マレイン酸、マンデル酸、メシル酸、メチル硫酸、ムスチン酸(muscate)、ナプシル酸、硝酸、パントテン酸、リン酸/二リン酸、ポリガラクツロン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸、テオクル酸、トリエチオダイドおよびパモ酸イオンに限定されないが、それらを含めた薬理上許容されるアニオンを含んでなる塩を形成するものである。アミノ基を含む本発明の化合物は、上記の酸に加えて、様々なアミノ酸とも製薬上許容される塩を形成しうる。性質上酸性である本発明の化合物は、様々な薬理上許容されるカチオンと塩基塩を形成しうる。このような塩の非制限例としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、特にカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、リチウム、亜鉛、カリウムおよび鉄塩がある。
【0067】
“立体異性体”は、ここで開示されているすべての鏡像異性体的/立体異性体的に純粋なおよび鏡像異性体的/立体異性体的に富化された化合物を包含する。
【0068】
“立体異性体的に純粋な”または“鏡像異性体的に純粋な”とは、化合物が1種の立体異性体を含んでなり、その対応立体異性体または鏡像異性体を実質的に含まないことを意味する。例えば、化合物が80%、90%、95%またはそれ以上の1種の立体異性体と20%、10%、5%またはそれ以下の対応立体異性体を含有するとき、該化合物は立体異性体的または鏡像異性体的に純粋である。一部の場合に、本発明の化合物は、該化合物が特定のキラル中心に関して約80%ee(鏡像異性体過剰率)以上、好ましくは90%ee以上、更に好ましくは特定のキラル中心に関して95%eeであるとき、キラル中心に関して光学的に活性または立体異性体的/鏡像異性体的に純粋(即ち、実質的にR体または実質的にS体)とみなされる。
【0069】
“立体異性体的に富化された”または“鏡像異性体的に富化された”は、本発明の化合物の立体異性体のラセミ混合物および他の混合物(例えば、R/S=30/70、35/65、40/60、45/55、55/45、60/40、65/35および70/30)を包含している。
【0070】
“水和物”は、非共有分子間力で結合された化学量論または非化学量論量の水を更に含有している、本発明の化合物またはその塩を意味する。
【0071】
“溶媒和物”は、本発明の化合物へ溶媒分子1以上の会合から形成された溶媒和物を意味する。用語“溶媒和物”には水和物(例えば、一水和物、二水和物、三水和物、四水和物など)を含む。
【0072】
“多形体”は、本発明の化合物の固体結晶形またはその複合体を意味する。同一化合物の異なる多形体は、異なる物理的、化学的および/または分光学的性質を示すことがある。
【詳細な説明】
【0073】
式(I)で表わされる、脂質二重層または細胞膜においてイオンチャネルを形成しうる自己集合性化合物がここでは提供される:
【化8】

上記式中、Xは非置換または置換ヒドロカルビルまたはヘテロシクリルである;
nは1〜6の整数である;
Yは、非置換または置換炭化水素、カルボサイクルまたはヘテロサイクルから各々1、2、3、4、5および6つの水素原子を除去することにより形成される一価、二価、三価、四価、五価または六価連結基である;および
DAは、式(II)を有する二価基である:
【化9】

上記式中、ZおよびZの各々は独立してO、SまたはNRである;
A、B、B、BおよびDの各々は独立して結合、O、S、NRあるいは置換または非置換C1‐10アルキレンである;および
kは1〜20の整数であり、ここでRおよびRの各々は独立してH、アシル、ヒドロカルビル、カルボシクリルまたはヘテロシクリルであり、BおよびBの少なくとも1つはNHである。
【0074】
一部の態様において、HDAは少なくとも1つの水素結合ドナーおよび少なくとも1つの水素結合アクセプターを含んでなる置換ヒドロカルビレンである。別な態様において、水素結合ドナーは酸素、窒素またはイオウへ直接結合された水素原子を含んでなる。別な態様において、水素結合アクセプターは酸素、窒素、イオウ、フッ素、塩素および臭素原子である。ある態様において、式(I)のHDAは少なくとも1つの一級アミドまたは二級アミド基を含んでなる。
【0075】
ある態様において、式(I)のnは1である。他の態様において、式(I)のnは2であり、2つのX‐HDA単位は同一であるかまたは異なる。
【0076】
一部の態様において、Xは、場合により酸素、窒素またはイオウ含有部分で置換された、18個以内の炭素原子を含有するヒドロカルビル基、例えばアルキル、アリールまたはアラルキルである。他の態様において、Xは酸素、窒素またはイオウ含有部分で場合により置換されたヘテロシクロ部分である。一態様において、HDAはジアミドを含有し、Xは窒素原子を介してHDA単位へ連結されたイソブチル基(‐CHCH(CH)であり、末端イソブチルアミドを形成している。他の態様において、式(I)のXはヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルである。ある態様において、式(I)のXは1〜14個の炭素原子を含んでなるヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルである。別な態様において、式(I)のXは1〜14個の炭素原子を有するアルキルまたは置換アルキルである。別な態様において、式(I)のXはイソブチルである。
【0077】
ある態様において、式(I)のYは、非置換または置換アルカン、アルケンまたはアルキンから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である。別な態様において、Yは、非置換または置換C2‐12アルカン、アルケンまたはアルキンから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である。更に別な態様において、Yは非置換または置換プロピレンまたはプロペニレンである。
【0078】
一部の態様において、式(I)のYは、非置換または置換単環式、二環式または三環式芳香族カルボサイクルから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である。別な態様において、芳香族カルボサイクルは非置換または置換ベンゼンである。別な態様において、Yは、非置換ベンゼンから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である。
【0079】
一部の態様において、式(I)のYは、非置換または置換単環式、二環式または三環式ヘテロサイクルから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である。別な態様において、ヘテロサイクルは非置換または置換ピリジンである。別な態様において、Yはピリジレンである。
【0080】
ある態様において、式(I)のYはアリーレンまたはヘテロアリーレンであり、各HDAはYの環原子へ結合されている。一部の態様において、式(I)のYは単環式、二環式または三環式アリーレンである。他の態様において、式(I)のYは1つの5、6または7員環のみを有するアリーレンまたはヘテロアリーレンである;各HDAはYの環原子へ結合されている。ある態様において、式(I)のYはフェニレン、ピリジレン、置換フェニレンまたは置換ピリジレンである。
【0081】
別な態様において、Yはアリーレンまたはヘテロアリーレンである;各HDAはYの環原子へ結合されている;各Xは1〜14個の炭素原子を有する非置換または置換ヒドロカルビルである。
【0082】
ある態様において、HDAは水素結合ドナーおよび水素結合アクセプターを双方とも含有した様々な有機単位から選択される。例えば、HDAは置換ヒドロカルビルまたはヘテロシクリルである。いかなる理論にも拘束されることなく、イオンチャネルを形成する化合物の自己集合のための駆動力が、脂質二重層の低誘電率媒体中で有利に働く、多数の明確に定義された分子間水素結合相互作用に主に寄与していることは明らかである。ある態様において、HDAは、低級アルキルエーテル、エステル、チオエステル、アミド、ヒドロキシル、チオール、アミノ、アゾまたはハロ置換基あるいは他の水素結合ドナーおよび水素結合アクセプターを有する置換ヒドロカルビルである。一態様において、例えば、HDAは2つのアミド結合、例えばカルボキサミド結合を含有している。他の態様において、HDAはペプチドである。
【0083】
他の態様において、イオンチャネルを形成するための化合物の自己集合効率は、Yが同一または異なるX‐HDA単位を一緒に連結して、三次元分子間水素結合ネットワークの形成に高い可能性を呈するときに高められる。これらの態様において、単位Yはある態様のときに、化合物がより効果的に自己集合するある方向でX‐HDA単位を保持しうるほど十分に堅牢である。これらのデザイン事由を満たすY単位は様々な有機単位から選択される。一般的に、これらの単位は炭素環式またはヘテロ環式である。非環式Y単位も考えられる。例えば、Yは炭素と場合により窒素、酸素またはイオウ環原子を含んでなる5または6員環であり、X‐HDA単位が環原子に共有結合されている。一態様において、Yはフェニレン環である。
【0084】
ここで提供される化合物は、公知の技術により並びにここで開示された一般合成操作により、有機合成業者により製造される。化合物のデザイン、合成および特徴が実施例で詳細に記載されている。一態様において、例えば、HDAはペプチドであり、したがって標準ペプチドカップリング法を用いることにより、それはアミド結合を介してXおよびY単位と各々連結されうる。
【0085】
他の態様において、式(I)のHDAは式(III)で表わされる:
【化10】

上記式中、kは1または2である;
Aは結合、O、S、NRあるいは置換または非置換C1‐10アルキレンであり、ここでRはH、アシル、ヒドロカルビル、カルボシクリルまたはヘテロシクリルである;
はOまたはNHである;および
DはC1‐3アルキレンあるいは1以上のヒドロカルビルまたはヘテロシクリルで置換されたC1‐3アルキレンである。
【0086】
ある態様において、式(I)のHDAは式(IV)で表わされる:
【化11】

上記式中、DはC1‐3アルキレンあるいは1以上のヒドロカルビルまたはヘテロシクリルで置換されたC1‐3アルキレンである。
【0087】
他の態様において、式(I)のHDAは式(IVB)で表わされる:
【化12】

Aは結合、O、S、NRあるいは置換または非置換C1‐10アルキレンであり、ここでRはH、アシル、ヒドロカルビル、カルボシクリルまたはヘテロシクリルである;および
DはC1‐3アルキレンあるいは1以上のヒドロカルビルまたはヘテロシクリルで置換されたC1‐3アルキレンである。
【0088】
ある態様において、式(III)または(IV)のDは、少なくともアルキル、アリール、置換アルキルまたは置換アリール基で置換されたC1‐3アルキレンである。別な態様において、式(III)または(IV)のDは少なくともイソブチル基で置換されたC1‐3アルキレンである。別な態様において、式(III)のAは結合である;Dはメチレンまたは置換メチレンである;およびkは1である。別な態様において、式(III)のAはOである;Dはメチレンまたは置換メチレンである;およびkは1である。
【0089】
一部の態様において、自己集合性化合物は下記式の1つを有している:
【化13】

上記式中、R、R、RおよびRの各々はH、アシル、ヒドロカルビル、カルボシクリルまたはヘテロシクリルである。
【0090】
ある態様において、自己集合性化合物は下記化合物の1つ:
【化14】



あるいはそれらの塩、溶媒和物、多形体または立体異性体である。
【0091】
合成イオンチャネルは、細胞膜にまたがり細孔様構造を構築することにより製造される。合成イオンチャネルはそれらの構造または“デザイン”に基づき分類される。図1に関して、合成イオンチャネルの最も簡単なデザインは、“単分子”細孔様構造を有する、長さ約25〜40Åの高分子を含んでなる。超分子集合イオンチャネルを製造するための他のデザイン戦略としては、“バレル‐ステーブ”(barrel-stave)細孔様構造への線状ステーブ様モノマーの自己集合;および“バレル‐フープ”(barrel-hoop)細孔様構造への大環状フープ様モノマーのスタッキングがある。一部のより小さな高分子は、断片化ステーブ入り“バレル‐ステーブ”細孔様構造または断片化フープ入り“バレル‐フープ”細孔様構造と考えられる、複合体‘バレル‐ロゼット’(barrel-rosette)細孔様構造へ自己集合することもある。
【0092】
今まで、合成イオンチャネルのすべては、イオンが膜を通り抜ける細孔様構造としてデザインされている。分子がイオンチャネルへ自己集合しうる自己集合性化合物のデザインのための新戦略が、ここでは提供される。一部の態様において、デザインされた分子は脂質膜の縦断方向で分子カラムを形成するように非共有相互作用で自己集合しうる。一態様では、2つの平行分子カラム間に、図2で示されるような分子間水素結合が脂質膜の横方向にある。アニオンまたはカチオンが膜に達すると、これらの分子間水素結合が再組織されうる。原分子間水素結合のドナーまたはアクセプターは、アニオンまたはカチオンが図3で示されるように脂質膜の疎水性領域を通り抜けるときに、各々、アニオンまたはカチオンの安定化のための連続結合部位をもたらす。一態様において、デザインされた自己集合性化合物は、クロライドイオンチャネルとして用いられるチャネルを有した、図4b〜dで示されるような固体状態にある自己集合構造を示す。
【0093】
いかなる理論にも拘束されることなく、詳細なメカニズムはまだ明確に知られていないが、ここで開示されている自己集合性化合物は、脂質二重層へ分配されて、そこでイオンチャネルへ自己集合しうる能力を有している。これらの化合物は、脂質二重層の低誘電率媒体中で有利に働く、明確に定義された分子間水素結合相互作用を介して集合すると考えられる。比較的親油性な表面との化合物のこのような水素結合誘導性集合は、脂質二重層の非極性環境で安定な一体化と自己集合を可能にするものであり、イオンチャネルを形成するように脂質二重層膜の疎水性領域へ広がる。
【0094】
クロライドイオンのような生理活性アニオンは幾つかの生物学的プロセスに関与している。性質上、細胞膜を経るクロライドイオンの輸送は中性アニオン結合タンパク質(クロライドイオンチャネル)により調節される。ここで開示されている自己集合性化合物は生体および合成細胞膜の脂質二重層へ分配されて、合成イオンチャネルとして機能する。例えば、実施例2で開示された化合物が、このような合成クロライドチャネルを製造するために用いうる。実施例2はリポソームの脂質二重層へ入り込んで、クロライド選択性と電圧依存性ゲーティングを示す54pS(ピコシーメンス)クロライドチャネルを形成するように自己集合しうる。実施例2の化合物は、ヒト胚腎臓(HEK293)細胞の膜でもクロライドチャネルを効率的に形成し、それにより50nM(ナノモル)の著しく低い濃度で細胞クロライド電流を劇的に増加させうる。実施例2の化合物のイオンチャネル挙動は、ここで開示された合成イオンチャネル構造が、自然タンパク質チャネルで観察されるものと多くの点で選択的膜透過相同性を呈しうることを実証している。
【0095】
ここで開示されている自己集合性化合物は、生理系またはそのモデルの挙動に関する研究を行えるように、標的アニオンの濃度を調整しうる。一方、アニオン濃度は、病状または望まれない症状に対抗またはそれを緩和するために、アニオン濃度を増減させるよう、治療系で自己集合性化合物の適用により変更または調節してもよい。したがって、ここで開示されている自己集合性化合物は、哺乳動物細胞または他の膜系、例えばミトコンドリア、エンドソーム、リソソーム、分泌小胞、小胞体、核、ゴルジ装置、細胞内輸送小胞、MHCプロセッシング小胞、破骨細胞から再構成された波うち膜小胞、および脂質二重層膜を有するその他への、塩化物および臭化物イオンのようなハライドまたは硝酸および重炭酸イオンのような他のアニオンに限定されないが、それらを含めたアニオンの流入または流出を調整するために用いられる。
【0096】
生体および合成系において、細胞膜の組成は、生体系におけるその位置と、合成系におけるその所望機能に応じて変わる。こうして、膜が天然または合成源であるかどうかにかかわらず、膜で合成イオンチャネルの形成がもたらされる。ある態様において、ここで開示されている自己集合性化合物は生理および非生理系において水素結合で自己集合しうる能力を有し、脂質二重層または細胞膜においてアニオンチャネルを形成する。
【0097】
ここで提供される化合物および組成物を用いて、細胞クロライドアンバランスに伴う疾患または症状の徴候を治療、予防または改善する方法も提供される。このような疾患または症状の非制限例としては、嚢胞性線維症、バーター症候群、デント病、遺伝性腎結石症、先天性筋緊張症、ベッカー症候群、癲癇、卵黄状黄斑ジストロフィー、過剰驚愕症、若年性ミオクローヌス癲癇または大理石骨病がある。一部の態様において、ここで開示されている自己集合性化合物は、具体的化合物の特徴、患者プロファイルおよび問題の疾患により定められるように、適切な量および様式で哺乳動物細胞の脂質二重層へ導入される。
【0098】
ある態様において、本化合物および組成物は、肺臓、気管、皮膚、筋肉、脳、肝臓、心臓、脾臓、骨髄、胸腺、膀胱、リンパ、血液、膵臓、胃、腎臓、卵巣、睾丸、直腸、末梢または中枢神経系、目、リンパ器官、軟骨および内皮のような組織へ、インビボで適用される。ある態様において、標的細胞は筋肉細胞(例えば、骨格筋細胞、心筋細胞および平滑筋細胞)、神経細胞、造血幹細胞、ニューロン細胞、上皮細胞あるいはまた気道の細胞である。他の態様において、標的細胞は気管または肺細胞である。別な態様において、標的細胞は呼吸上皮の細胞である。
【0099】
肺の頂側膜のクロライド透過性を増すと、嚢胞性線維症変異に伴う病態生理を減弱しうることが示されていた。したがって、本クロライドチャネル形成化合物の適用は頂側肺上皮のクロライド透過性を増やし、それにより嚢胞性線維症変異を補正しうるのである。
【0100】
嚢胞性線維症(CF)は、コーカサス人に最も多い致死性遺伝病の1つである。嚢胞性線維症膜貫通調節因子(CFTR)は上皮細胞の頂側膜に位置するクロライドチャネルであり、その活性はリン酸化および細胞内ヌクレオチドにより調節される。気道上皮細胞において、CFTRは主要なクロライド輸送路であり、能動イオン輸送媒介流体輸送を調節する。CFにおいて、CFTRをコードする遺伝子の変異は欠陥のある経上皮クロライドおよび流体輸送を引き起こし、気道粘液繊毛クリアランスの悪化および塩感受性ディフェンシンの殺菌活性の減少につながる。これらの欠陥はCF患者で回帰感染とそれに続く肺臓の破壊に関与している、と言われていた。
【0101】
幾つかの治療アプローチが、CFの治療に関して同時に開発されている。これらは、(1)気道の内側を覆う粘液の殺菌活性と粘度を改善する剤を用いる;(2)CFTRクロライドチャネル欠陥を補正するために別なクロライドチャネルを活性化する剤を用いる;(3)タンパク質および遺伝子増強療法;および(4)CFTRの最多変異形に伴う細胞内移送欠陥を救うまたは中途終止変異を抑制する薬剤を用いる。そのため、合成アニオンチャネルの開発は細胞アニオンアンバランスの研究とこのような症状の調整に関して大きな有用性を有している。
【0102】
ここで開示されている自己集合性化合物は、治癒または予防目的の薬剤として用いられる。特に、自己集合性化合物は、イオン輸送に係わる標的細胞の脂質二重層へ該化合物を導入することからなる、治療処置の方法で用いられる。このように、本化合物はヒトまたは動物本体の治療に向けられた治癒または予防目的の薬剤の製造に用いてもよい。
【0103】
薬剤は、直接的にインビボで、例えば注入により筋肉へ、エアロゾルにより肺臓へ、等々で投与される。患者から細胞(骨髄幹細胞、末梢血リンパ球、筋肉細胞、神経細胞、ニューロン細胞、上皮細胞など)を集め、本化合物を投与し、患者へ該細胞を再投与することからなる、半ビボアプローチを採用することも可能である。
【0104】
ここで提供される自己集合性化合物は、シリンジまたはいずれか他の相当手段、吸入、点滴またはエアロゾル化のような気道または粘膜の治療に適したシステムにより、筋肉内、気管内、鼻内、脳内、胸膜内、腫瘍内、心臓内、胃内、腹腔内、上皮、静脈内または動脈内経路で投与される。他の投与経路としては、クリームの適用、経口投与またはここで提供される化合物および組成物に適用可能な当業者に知られたいずれか他の手段がある。
【0105】
投与は様々な異なる経路で行われる。1つの経路は、丸剤、カプセルまたは懸濁液のような組成物の経口投与である。このような組成物は当業界で知られたいずれかの方法に従い製造され、様々な不活性成分のいずれかを含有しうる。このような組成物内で使用に適した賦形剤としては、(固体物質、水溶液および/または油である)インサート希釈剤、例えば炭酸カルシウム、カリウムまたはナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、カリウムまたはナトリウム、水、落花生油、ピーナツ油、流動パラフィンまたはオリーブ油;造粒および崩壊剤、例えばメイズスターチ、ゼラチンまたはアラビアゴム、および/または滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクがある。必要ではないが、存在してもよい他の不活性成分としては、1種以上の懸濁剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアラビアゴム)、増粘剤(例えば、蜜ロウ、パラフィンまたはセチルアルコール)、分散または湿潤剤、保存剤(例えば、アスコルビン酸のような抗酸化剤)、着色剤、甘味剤および/または香味剤がある。
【0106】
医薬組成物は、体からの急速消失に対して活性成分を保護するキャリア、例えばタイムリリース処方またはコーティングで製造してもよい。このようなキャリアとしては、徐放処方剤、例えば、限定されないが、マイクロカプセル化送達系、並びに生分解性、生体適合性ポリマー、例えばエチレンビニルアセテート、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールエーテル、および当業者に知られたその他がある。
【0107】
他の態様において、吸入で患者の肺臓へ加圧エアロゾルまたは噴霧処方剤として化合物が直接投与される方法が提供される。このような処方剤は、肺内および/または鼻内吸入投与に有用な様々な公知エアロゾル噴霧剤のいずれかを含有してよい。加えて、共溶媒、界面活性剤、安定剤(例えば、抗酸化剤、キレート剤、インサートガスおよび緩衝剤)のいずれかと共にまたはそれなしで、水が存在してもよい。マルチドース容器から投与される組成物では、抗菌剤が典型的に加えられる。このような組成物は濾過および滅菌してもよく、高い安定性をもたらせかつ溶解性を改善するために凍結乾燥してもよい。
【0108】
医薬組成物は、嚢胞性線維症のような疾患または症状の徴候を抑制または軽減する、および/または疾患の進行を遅らせるために有効な量および頻度で投与される。正確な投与量および治療の期間は、公知の試験プロトコールを用いて経験的に、または当業界で知られたモデル系で該組成物を試験してそこから外挿することにより定められる。投与量は疾患の重篤度に応じても変わる。医薬組成物は、望ましくない副作用を最少化しながら、治療上有用な効果を発揮するように処方および投与される。いかなる具体的対象者においても、具体的な投薬法が個別的ニーズに応じて経時的に修正されることは、明らかであろう。
【0109】
上記のように、医薬組成物は、クロライド輸送を刺激するか、あるいは嚢胞性線維症、バーター症候群、デント病、遺伝性腎結石症、先天性筋緊張症、ベッカー症候群、癲癇、卵黄状黄斑ジストロフィー、過剰驚愕症、若年性ミオクローヌス癲癇または大理石骨病を治療、管理または予防するために、哺乳動物へ投与される。ここで提供される自己集合性化合物の投与から効果を得る患者は、嚢胞性線維症、バーター症候群、デント病、遺伝性腎結石症、先天性筋緊張症、ベッカー症候群、癲癇、卵黄状黄斑ジストロフィー、過剰驚愕症、若年性ミオクローヌス癲癇または大理石骨病に罹患した者である。このような患者は、甘味検査で異常に高い塩濃度の存在、高い鼻ポテンシャルの存在または嚢胞性線維症関連変異の存在を含めた、当業界で周知の標準的基準に基づき特定される。クロライド輸送の活性化は、気道で異常に高い粘液蓄積を示す他の疾患、例えば喘息および慢性気管支炎で有益かもしれない。同様に、腸便秘もここで提供されるようなクロライド輸送の活性化から効果を得られるかもしれない。
【0110】
静脈内、経口、点滴、吸入、局所、腹腔内、皮下または筋肉内経路により医薬組成物を投与する方法も提供される。医薬組成物は、例えばカプセル、粉末、錠剤、液体、溶液およびエアロゾル化溶液の形で投与される。細胞膜で欠陥アニオン輸送を生じる疾患または他の症状を哺乳動物で治療する方法も提供される。
【0111】
本発明の追加特徴および利点が説明され、一部は記載から明らかとなり、あるいは本発明の実施によりわかるであろう。
【0112】
提供される組成物の投与量は、化合物の半減期、化合物またはその分解産物の潜在的有害作用、投与の経路、患者の状態などのようなファクターに応じて変わる。このようなファクターは当業者により決定しうる。1日ベースの正確な用量レベルはもちろん、最良の治療応答をもたらすよう医者により調整されることを意味する。
【実施例】
【0113】
下記実施例1〜12は、一般式(I)で表わされる化合物を製造および使用する方法の詳細な説明である。この開示の範囲内に属する他の化合物も、当業者に明らかな適切な出発物質で操作を用いて製造される。これらの実施例は説明目的のみで提示されており、本発明の範囲を限定するためではない。
【化15】

【0114】
実施例1を上記スキームAに従い製造した。出発物質、2‐フタルイミドオキシ‐4‐メチルペンタン酸D‐tert‐ブチル(化合物1)をYang et al.,J.Org.Chem.,2001,66,7303-7312で記載された操作に従い合成した。化合物1、白色結晶固体物は下記データで特徴づけられた:m.p.92‐93℃;〔α〕20+77.0°(c1.01,CHCl);H NMR(300MHz,CDCl)δ7.85‐7.81(m,2H),7.78‐7.74(m,2H),4.74(dd,J=8.5,5.4Hz,1H),2.05‐1.91(m,2H),1.72‐1.63(m,1H),1.46(s,9H),1.07(d,J=6.3Hz,3H),1.00(d,J=6.3Hz,3H);13C NMR(75MHz,CDCl)δ169.13,163.21,134.50,128.87,123.53,84.74,83.39,39.89,27.82,24.47,22.90,21.96;IR(CHCl)3032,1793,1738cm−1;LRMS(EI,70ev)m/z333(M,1),278(6),232(17),164(15),148(100);C1823NO(M)のHRMS(EI):計算値333.1576,実測値333.1573.
【0115】
CHOH(20mL)中化合物1(2.00g,6.0mmol)の溶液にNHNH・HO(900mg,18.0mmol)を加えた。白色沈殿物が1時間後に出現した。室温で2.5時間攪拌した後、反応混合液を真空下で濃縮した。残渣をCHClに溶解し、5%NaHCOで2回、次いで塩水で洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮して、無色油状物として遊離アミン(化合物2)およびフタヒドロアジドの混合物を得た。この混合物を更なる精製なしに以下のペプチドカップリング反応で直ちに用いた。
【0116】
ペプチドカップリング反応.新鮮蒸留CHCl(80mL)を窒素雰囲気下で乾燥化合物2含有フラスコへ加え、次いで1‐ヒドロキシ‐7‐アザベンゾトリアゾール(HOAt,2.11g,15.6mmol)、イソフタル酸(498mg,3.0mmol)、トリエチルアミン(0.83mL,6.0mmol)および最後に1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノ‐プロピル)カルボジイミド(EDCI,5.35g,18.0mmol)を加えた。一夜攪拌後、反応混合液をCHClで希釈した。有機層を5%NaHCOおよび塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、濃縮した。粗油状物をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体物として1.32g(82%収率)の実施例1を得た。実施例1は下記データで特徴づけられた:m.p.57‐59℃;〔α〕20+78.1°(c0.50,CHCl);H NMR(300MHz,CDCl)δ9.86(br,2H),8.14(t,J=1.5Hz,1H),7.90(dd,J=7.8,1.5Hz,2H),7.48(t,J=7.8Hz,1H),4.53(dd,J=9.0,4.2Hz,2H),2.01‐1.92(m,2H),1.77‐1.68(m,2H),1.60‐1.51(m,2H),1.46(s,18H),1.02(d,J=6.5Hz,12H),0.96(d,J=6.5Hz,6H);13C NMR(75MHz,CDCl)δ171.80,164.58,132.18,130.41,128.91,125.58,82.37,82.17,39.86,27.97,24.60,23.18,23.01,21.79;IR(CHCl)3403,3019,1730,1688cm−1;LRMS(EI,20eV)m/z536(M);C2844(M)のHRMS(EI,20eV):計算値536.3098,実測値536.3078.
【化16】

【0117】
実施例2を上記スキームBに従い製造した。CHCl(5mL)中実施例1(537mg,1.0mmol)の溶液に室温でシリンジから等容量のCFCOOH(5mL)を慎重に加えた。室温で3時間攪拌した後、反応混合液を真空下で濃縮した。残渣をトルエンと2回共沸して、白色固体物として遊離酸化合物3を得、白色固体物をペプチドカップリングで直接用いた。
【0118】
新鮮蒸留CHCl(50mL)を窒素雰囲気下で乾燥遊離酸化合物3含有フラスコへ加え、次いでHOAt(354mg,2.6mmol)、イソブチルアミン(0.21mL,2.1mmol)および最後にEDCI(891mg,3.0mmol)を加えた。一夜攪拌後、反応混合液をCHClで希釈した。有機層を5%NaHCOおよび塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、濃縮した。粗油状物をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体物として492mgの実施例2(92%収率)を得た。実施例2は下記データで特徴づけられた:m.p.176‐178℃;〔α〕20+67.3°(c0.50,CHCl);H NMR(600MHz,CDCl)δ10.43(s,2H),8.12(s,1H),8.07(t,J=5.7Hz,2H),8.04(d,J=7.8Hz,2H),7.57(t,J=7.8Hz,1H),4.40(dd,J=9.5,3.4Hz,2H),3.05‐3.01(m,2H),2.91‐2.88(m,2H),1.86‐1.62(m,8H),0.92(d,J=6.6Hz,12H),0.84(d,J=6.7Hz,6H),0.78(d,J=6.7Hz,6H);13C NMR(75MHz,CDCl)δ171.89,166.14,131.97,131.30,129.69,124.93,85.60,46.69,41.15,28.29,24.85,23.18,21.81,20.04,19.99;IR(CHCl)3332,3185,1663cm−1;LRMS(EI,20eV)m/z534(M);C2846(M)のHRMS(EI,20eV):計算値534.3417,実測値534.3435.
【化17】

【0119】
実施例2に関するスキームBと類似しているが、但しイソブチルアミンをデシルアミンで置き換えた上記スキームCに従い、実施例3を製造した。実施例3を無色油状物として単離した。実施例3は下記データで特徴づけられた:〔α〕20+34.5°(c1.00,CHCl);H NMR(400MHz,CDCl)δ11.32(s,2H),8.28(br,2H),8.19(s,1H),8.05(d,J=7.5Hz,2H),7.52(t,J=7.5Hz,1H),4.38(br,2H),3.13‐3.02(m,4H),1.82(m,2H),1.65‐1.55(m,4H),1.42(br,4H),1.35‐1.25(m,28H),0.89‐0.85(m,18H);13C NMR(100MHz,CDCl)δ172.30,165.91,132.05,131.29,129.37,124.98,85.31,41.17,39.47,31.89,29.55,29.53,29.30,29.12,26.91,24.73,23.18,22.67,21.79,14.10;IR(CHCl)3446,1662cm−1;LRMS(FAB)m/z704(M,1);C4071(M,1)のHRMS(FAB):計算値703.5374,実測値703.5354.
【化18】

【0120】
実施例2に関するスキームBと類似しているが、但しイソブチルアミンをテトラデシルアミンで置き換えた上記スキームDに従い、実施例4を製造した。実施例4を黄色油状物として単離した。実施例4は下記データで特徴づけられた:〔α〕20+52.2°(c1.00,CHCl);H NMR(400MHz,CDCl)δ10.97(s,2H),8.15(br,3H),8.05(d,J=7.8Hz,2H),7.53(t,J=7.8Hz,1H),4.36(dd,J=9.1,3.7Hz,2H),3.16‐3.06(m,4H),1.80(m,2H),1.65‐1.55(m,4H),1.43(br,4H),1.25‐1.17(m,44H),0.89‐0.85(m,18H);13C NMR(100MHz,CDCl)δ171.96,165.92,132.00,131.26,129.43,124.93,85.38,41.07,39.39,31.89,29.67,29.64,29.59,29.53,29.33,29.27,29.14,26.89,24.72,23.12,22.66,21.77,14.08;IR(CHCl)3441,3342,1662cm−1;LRMS(FAB)m/z816(M,1);C4887(M,1)のHRMS(FAB):計算値815.6626,実測値815.6610.
【化19】

【0121】
実施例2に関するスキームBと類似しているが、但しイソブチルアミンをオクタデシルアミンで置き換えた上記スキームEに従い、実施例5を製造した。実施例5を白色固体物として単離した。実施例5は下記データで特徴づけられた:m.p.88‐90℃;〔α〕20+43.9°(c1.00,CHCl);H NMR(300MHz,CDCl)δ11.11(s,2H),8.18(br,3H),8.05(d,J=7.7Hz,2H),7.55(t,J=7.7Hz,1H),4.36(dd,J=8.8,3.4Hz,2H),3.15‐3.05(m,4H),1.80(m,2H),1.65‐1.54(m,4H),1.41(br,4H),1.30‐1.16(m,60H),0.89‐0.84(m,18H);13C NMR(75MHz,CDCl)δ172.03,165.89,131.98,129.37,124.98,85.31,41.06,39.39,31.89,29.69,29.60,29.53,29.33,29.28,29.12,26.88,24.68,23.12,22.56,21.74,14.08;IR(CHCl)3444,3345,1662cm−1;LRMS(FAB)m/z928(M,1);C56102(M+Na)のHRMS(MALDI):計算値927.4323,実測値949.7678.
【化20】

【0122】
実施例6を上記スキームFに従い製造した。CHCl(10mL)中化合物1(1.00g,3.0mmol)の溶液に室温でシリンジから等容量のCFCOOH(10mL)を慎重に加えた。室温で3時間攪拌した後、反応混合液を真空下で濃縮した。残渣をトルエンと2回共沸して、白色固体物として化合物4を得、白色固体物を次のステップに直接用いた。
【0123】
新鮮蒸留CHCl(80mL)を窒素雰囲気下で乾燥化合物4含有フラスコへ加え、次いでHOAt(530mg,3.9mmol)、イソブチルアミン(0.32mL,3.15mmol)および最後にEDCI(1.34g,4.5mmol)を加えた。一夜攪拌後、反応混合液をCHClで希釈した。有機層を5%NaHCOおよび塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、濃縮して、白色固体物(化合物5)として化合物5(0.99g,99%)を得、これを更なる精製なしに次のステップで直接用いた。
【0124】
CHOH(10mL)中化合物5の溶液にNHNH・HO(450mg,9.0mmol)を加えた。白色沈殿物が1時間後に出現した。室温で2.5時間攪拌した後、反応混合液を真空下で濃縮した。残渣をCHClに溶解し、5%NaHCOで2回、次いで塩水で洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮して、無色油状物として化合物6およびフタヒドロアジドの混合物を得た。この混合物を更なる精製なしに次のステップで直ちに用いた。
【0125】
新鮮蒸留CHCl(50mL)を窒素雰囲気下で乾燥化合物6含有フラスコへ加え、次いでHOAt(530mg,3.9mmol)、安息香酸(366mg,3.0mmol)、トリエチルアミン(0.41mL,3.0mmol)および最後にEDCI(1.34g,4.5mmol)を加えた。一夜攪拌後、反応混合液をCHClで希釈した。有機層を5%NaHCOおよび塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、濃縮した。粗油状物をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体物として実施例6(832mg,86%)を得た。実施例6は下記データで特徴づけられた:m.p.130‐132℃;〔α〕20+31.7°(c1.00,CHCl);H NMR(400MHz,CDCl)δ9.98(br,1H),8.21(br,1H),7.75(d,J=7.5Hz,2H),7.52(t,J=7.3Hz,1H),7.52(t,J=7.6Hz,2H),4.40(dd,J=9.4,3.8Hz,1H),3.13‐2.97(m,2H),1.85‐1.61(m,4H),0.92‐0.85(m,12H);13C NMR(75MHz,CDCl)δ171.94,167.74,132.41,131.01,128.65,127.27,85.40,46.61,40.97,28.32,24.71,23.19,21.62,20.06,19.88;IR(CHCl)3345,1659cm−1;LRMS(EI,20eV)m/z307(M,1);C1726(M)のHRMS(EI,20eV):計算値306.1943,実測値306.1923.
【化21】

【0126】
実施例7を上記スキームGに従い製造した。CHOH(10mL)中化合物5(332mg,1mmol)の溶液にNHNH・HO(150mg,3.0mmol)を加えた。白色沈殿物が1時間後に出現した。室温で2.5時間攪拌した後、反応混合液を真空下で濃縮した。残渣をCHClに溶解し、5%NaHCOで2回、次いで塩水で洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮して、無色油状物として化合物6およびフタヒドロアジドの混合物を得た。この混合物を更なる精製なしに次のステップで直ちに用いた。
【0127】
新鮮蒸留CHCl(50mL)を窒素雰囲気下で乾燥化合物6含有フラスコへ加え、次いでHOAt(177mg,1.3mmol)、ピリジン‐2,6‐ジカルボン酸(366mg,0.5mmol)、トリエチルアミン(0.14mL,1.0mmol)および最後にEDCI(447mg,1.5mmol)を加えた。一夜攪拌後、反応混合液をCHClで希釈した。有機層を5%NaHCOおよび塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、濃縮した。粗油状物をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体物として実施例7(214mg,80%)を得た。実施例7は下記データで特徴づけられた:m.p.175‐177℃;〔α〕20+117.2°(c0.50,CHCl);H NMR(300MHz,CDCl)δ11.97(s,2H),8.31(d,J=7.8Hz,2H),8.20(t,J=5.7Hz,2H),8.10(t,J=7.8Hz,1H),4.41(dd,J=8.6,4.2Hz,2H),3.05‐2.98(m,4H),1.81‐1.60(m,8H),0.90‐0.78(m,24H);13C NMR(75MHz,CDCl)δ171.73,162.30,147.51,139.20,125.59,85.30,46.68,41.12,28.16,24.65,23.03,21.97,19.99,19.95;IR(CHCl)3321,1673cm−1;LRMS(EI,20eV)m/z535(M);C2745(M)のHRMS(EI,20eV):計算値535.3370,実測値535.3371.
【化22】

【0128】
実施例8を上記スキームHに従い製造した。N‐Boc‐L‐ロイシン(化合物7)(693mg,3.0mmol)を窒素雰囲気下で新鮮蒸留CHCl(50mL)に溶解し、次いでHOAt(530mg,3.9mmol)、イソブチルアミン(0.32mL,3.15mmol)および最後にEDCI(1.34g,4.5mmol)を加えた。一夜攪拌後、反応混合液をCHClで希釈した。有機層を5%NaHCOおよび塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、濃縮して、白色固体物として化合物8(851mg,99%)を得、これを更なる精製なしに次のステップで直接用いた。
【0129】
CHCl(5mL)中化合物8の溶液に室温でシリンジから等容量のCFCOOH(5mL)を慎重に加えた。室温で3時間攪拌した後、反応混合液を真空下で濃縮した。残渣をCHClに溶解し、KCO溶液(pH=12)および塩水で洗浄し、無水NaSOで乾燥し、濃縮して、無色油状物として遊離アミン化合物9を得、これを次のステップで直接用いた。
【0130】
新鮮蒸留CHCl(50mL)を窒素雰囲気下で乾燥化合物9含有フラスコへ加え、次いでHOAt(530mg,3.9mmol)、イソフタル酸(249mg,1.5mmol)、トリエチルアミン(0.41mL,3.0mmol)および最後にEDCI(1.34g,4.5mmol)を加えた。一夜攪拌後、反応混合液をCHClで希釈した。有機層を5%NaHCOおよび塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、濃縮した。粗油状物をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し、白色固体物として実施例8(617mg,82%)を得た。実施例8は下記データで特徴づけられた:m.p.240‐242℃;〔α〕20+32.1°(c1.00,CHCl);H NMR(500MHz,CDCl)δ8.20(s,1H),7.92(d,J=7.8Hz,2H),7.48(t,J=7.8Hz,1H),7.09(d,J=8.2Hz,2H),6.35(t,J=5.8Hz,2H),4.65(m,2H),3.15‐3.10(m,2H),3.05‐3.00(m,2H),1.81‐1.69(m,8H),0.97(d,J=6.7Hz,12H),0.90(d,J=6.7Hz,12H);13C NMR(125MHz,CDCl)δ172.01,166.53,134.19,130.47,128.98,125.53,52.48,46.94,41.27,28.45,24.93,22.86,22.31,20.08,20.06;IR(CHCl)3400,1653cm−1;LRMS(EI,20eV)m/z503(M);C2846(M)のHRMS(EI,20eV):計算値502.3519,実測値502.3486.
【化23】

【0131】
実施例9を上記スキームIに従い製造した。濃硫酸(0.48mL)をL‐ロイシン(化合物10)(787mg,6.0mmol)含有100mL丸底フラスコ中の水(22mL)へ慎重に加えた。水(40mL)中NaNO(1.24g,18mmol)の溶液を、反応混合液の温度が5℃を超えないような速度で、滴下漏斗から加えた。0℃で1時間攪拌後、反応混合液を室温までゆっくり加温し、更に1時間攪拌した。生成物を酢酸エチルで抽出し、有機層を塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥した。有機溶媒を蒸発させて、粘稠性淡黄色油状物の化合物11を得、これを次のステップで直接用いた。
【0132】
新鮮蒸留CHCl(50mL)を窒素雰囲気下で化合物11含有フラスコへ加え、次いでHOAt(1.06g,7.8mmol)、イソブチルアミン(0.63mL,6.3mmol)および最後にEDCI(2.68g,9.0mmol)を加えた。一夜攪拌後、反応混合液をCHClで希釈した。有機層を5%NaHCOおよび塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、濃縮して、白色固体物として化合物12を得、これを更なる精製なしに次のステップで直接用いた。
【0133】
新鮮蒸留CHCl(50mL)を窒素雰囲気下で化合物12含有フラスコへ加え、次いでHOAt(1.06g,7.8mmol)、イソフタル酸(500mg,3mmol)、トリエチルアミン(0.82mL,6.0mmol)および最後にEDCI(2.68g,9.0mmol)を加えた。一夜攪拌後、反応混合液をCHClで希釈した。有機層を5%NaHCOおよび塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、濃縮した。粗油状物をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体物として実施例9(1.02g,68%)を得た。実施例9は下記データで特徴づけられた:m.p.137‐139℃;〔α〕20+22.6°(c1.00,CHCl);H NMR(400MHz,CDCl)δ8.74(t,J=1.6Hz,1H),8.32(dd,J=7.8,1.7Hz,2H),7.63(t,J=7.8Hz,1H),6.06(t,J=5.7Hz,2H),5.43(dd,J=9.4,3.9Hz,2H),3.11(t,J=6.6Hz,4H),1.96‐1.75(m,8H),1.00‐0.97(m,12H),0.90‐0.87(m,12H);13C NMR(100MHz,CDCl)δ169.78,164.66,134.48,130.85,130.08,129.20,74.03,46.50,40.78,28.45,24.73,23.13,21.81,19.94;IR(CHCl)3450,1729,1679cm−1;LRMS(EI,20eV)m/z504(M);C2844(M)のHRMS(EI,20eV):計算値504.3199,実測値504.3199.
【化24】

【0134】
実施例7に関するスキームGと類似しているが、但しピリジン‐2,6‐ジカルボン酸をイソフタル酸で置き換えた上記スキームJに従い、実施例2を製造した。実施例2を白色固体物として単離し、下記データで特徴づけた:m.p.176‐178℃;〔α〕20(deg cm−1 dm−1)+67.3°(CHCl中c=0.01g cm);H NMR(600MHz,CDCl)δ10.43ppm(s,2H),8.12(s,1H),8.07(t,J=5.7Hz,2H),8.04(d,J=7.8Hz,2H),7.57(t,J=7.8Hz,1H),4.40(dd,J=9.5,3.4Hz,2H),3.05‐3.01(m,2H),2.91‐2.88(m,2H),1.86‐1.62(m,8H),0.92(d,J=6.6Hz,12H),0.84(d,J=6.7Hz,6H),0.78(d,J=6.7Hz,6H);13C NMR(75MHz,CDCl)δ171.89,166.14,131.97,131.30,129.69,124.93,85.60,46.69,41.15,28.29,24.85,23.18,21.81,20.04,19.99;IR(CHCl)3332cm−1,3185,1663(C=O)cm−1;LRMS(EI,20eV)m/z534(M);HRMS(EI,20eV)(m/z):〔M〕C2846の計算値534.3417,実測値534.3435.
【化25】

【0135】
実施例10を上記スキームKに従い製造した。CHOH(10mL)中化合物5(332mg,1mmol)の溶液にNHNH・HO(150mg,3.0mmol)を加えた。白色沈殿物が1時間後に出現した。室温で2.5時間攪拌した後、反応混合液を真空下で濃縮した。残渣をCHClに溶解し、5%NaHCOで2回、次いで塩水で洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮して、無色油状物として化合物6およびフタヒドロアジドの混合物を得た。この混合物を更なる精製なしに次のステップで直ちに用いた。
【0136】
新鮮蒸留CHCl(50mL)を窒素雰囲気下で乾燥化合物6含有フラスコへ加え、次いでHOAt(1‐ヒドロキシ‐7‐アザベンゾトリアゾール,CAS No.39968‐33‐7,177mg,1.3mmol)、テレフタル酸(83mg,0.5mmol)、トリエチルアミン(0.14mL,1.0mmol)および最後にEDCI(447mg,1.5mmol)を加えた。一夜攪拌後、反応混合液をCHClで希釈した。有機層を5%NaHCOおよび塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、濃縮した。粗油状物をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体物として実施例10(107mg,40%)を得た。実施例10は下記データで特徴づけられた:H NMR(300MHz,DMSO‐d)δ12.03(s,2H),8.24(s,2H),7.82(s,4H),4.38(dd,J=8.5,4.5Hz,2H),2.96‐2.90(m,4H),1.83‐1.50(m,8H),0.98(d,J=6.5Hz,6H),0.93(d,J=6.5Hz,6H),0.81(d,J=6.6Hz,6H),0.79(d,J=6.6Hz,6H);13C NMR(75MHz,DMSO‐d)δ170.93,164.99,135.00,127.79,84.01,46.25,28.42,24.66,23.47,22.47,20.40,20.16;LRMS(ESI)m/z557(M+Na).
【化26】

【0137】
実施例11を上記スキームLに従い製造した。CHOH(10mL)中化合物5(332mg,1mmol)の溶液にNHNH・HO(150mg,3.0mmol)を加えた。白色沈殿物が1時間後に出現した。室温で2.5時間攪拌した後、反応混合液を真空下で濃縮した。残渣をCHClに溶解し、5%NaHCOで2回、次いで塩水で洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮して、無色油状物として化合物6およびフタヒドロアジドの混合物を得た。この混合物を更なる精製なしに次のステップで直ちに用いた。
【0138】
新鮮蒸留CHCl(50mL)を窒素雰囲気下で乾燥化合物6含有フラスコへ加え、次いでHOAt(1‐ヒドロキシ‐7‐アザベンゾトリアゾール,177mg,1.3mmol)、ベンゼン‐1,3,5‐トリカルボン酸(105mg,0.5mmol)、トリエチルアミン(0.14mL,1.0mmol)および最後にEDCI(ジクロロエタン,447mg,1.5mmol)を加えた。一夜攪拌後、反応混合液をCHClで希釈した。有機層を5%NaHCOおよび塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、濃縮した。粗油状物をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体物として実施例11(171mg,45%)を得た。実施例11は下記データで特徴づけられた:H NMR(400MHz,DMSO‐d)δ12.14(s,3H),8.26(s,3H),8.22(s,3H),4.38(dd,J=8.4,4.0Hz,3H),3.00‐2.89(m,6H),1.85‐1.51(m,12H),0.98(d,J=6.5Hz,9H),0.93(d,J=6.6Hz,9H),0.81(d,J=7.0Hz,9H),0.79(d,J=8.0Hz,9H);13C NMR(100MHz,DMSO‐d)δ170.97,164.43,132.80,129.45,84.19,46.25,28.43,24.69,23.48,22.42,20.40;LRMS(ESI)m/z762(M).
【化27】

【0139】
実施例12および13を上記スキームMに従い製造した。CHOH(10mL)中化合物5(332mg,1mmol)の溶液にNHNH・HO(150mg,3.0mmol)を加えた。白色沈殿物が1時間後に出現した。室温で2.5時間攪拌した後、反応混合液を真空下で濃縮した。残渣をCHClに溶解し、5%NaHCOで2回、次いで塩水で洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮して、無色油状物として化合物6およびフタヒドロアジドの混合物を得た。この混合物を更なる精製なしに次のステップで直ちに用いた。
【0140】
新鮮蒸留CHCl(50mL)を窒素雰囲気下で乾燥化合物6含有フラスコへ加え、次いでHOAt(1‐ヒドロキシ‐7‐アザベンゾトリアゾール,177mg,1.3mmol)、グルタコン酸(65mg,0.5mmol)、トリエチルアミン(0.14mL,1.0mmol)および最後にEDCI(ジクロロエタン,447mg,1.5mmol)を加えた。一夜攪拌後、反応混合液をCHClで希釈した。有機層を5%NaHCOおよび塩水で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、濃縮した。粗油状物をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体物として実施例12(40mg,16%)を得た。実施例12は下記データで特徴づけられた:H NMR(300MHz,CDCl)δ10.60(br,1H),10.49(br,1H),8.07(br,1H),7.88(br,1H),6.88(dt,J=15.4,6.9Hz,1H),5.89(d,J=15Hz,1H),4.28(d,J=5.2Hz,2H),3.11‐2.97(m,6H),1.84‐1.60(m,8H),0.95‐0.87(m,24H);13C NMR(100MHz,CDCl)δ171.97,167.92,137.25,123.45,85.31,85.22,46.70,46.66,40.98,28.34,24.71,23.16,21.71,20.07;LRMS(ESI)m/z521(M+Na).
【0141】
実施例12(40mg,0.08mmol)を1mL MeOHに溶解し、4mg 10% Pd/Cを混合液へ加え、次いで混合液をバルーン圧下室温でHと共に一夜攪拌した。反応混合液をセライトで濾過し、濃縮して、実施例13(40mg,定量)を得た。実施例13は下記データで特徴づけられた:H NMR(300MHz,CDCl)δ7.69(br,2H),4.35(dd,J=8.6,3.8Hz,2H),3.29‐3.24(m,2H),2.87‐2.85(m,2H),2.18‐2.16(m,2H),1.88‐1.63(m,12H),1.00‐0.92(m,24H);13C NMR(75MHz,CDCl)δ172.72,170.30,86.21,46.59,40.77,30.58,28.44,24.75,23.04,21.80,20.71,20.05;LRMS(ESI)m/z523(M+Na).
【0142】
実施例14‐pHスタットフルオロメトリー輸送アッセイ
この実施例は、実施例2の化合物がリポソームへ取り込まれたときにクロライド放出を媒介することを実証している。リポソームベースのpHスタットフルオロメトリーアッセイは生理学的関連イオノフォアの同定のためにルーチンで用いられるアッセイであり、これは(a)Deng,G.,Dewa,T.and Regen,S.L.,J.Am.Chem.Soc.,1996,118,8975;(b)Schlesinger,P.H.,Ferdani,R.,Liu,J.,Pajewska,J.,Pajewski,R.,Saito,M.,Shabany,H.and Gokel,G.W.,J.Am.Chem.Soc.,2002,124,1848;(c)Sidorov,V.,Kotch,F.W.,Abdrakhmanova,G.,Mizani,R.,Fettinger,J.C.and Davis,J.T.,J.Am.Chem.Soc.,2002,124,2267;(d)Sidorov,V.,Kotch,F.W.,Kuebler,J.L.,Lam,Y.F.and Davis,J.T.,J.Am.Chem.Soc.,2003,125,2840;および(e)Baumeister,B.,Sakai,N.and Matile,S.Angew.Chem.Int.Ed.,2000,39,1955で開示されていて、それらすべてが参考のためここに組み込まれる。例えば、このアッセイでは、制御量の塩基および潜在的イオノフォアを、pH感受性色素8‐ヒドロキシピレン‐1,3,6‐トリスルホネート(HPTS,ピラニン)を含有したリポソームの懸濁液へ加える。二重層膜で得られるpH勾配はヒドロニウムイオンの流出またはヒドロキシドイオンの流入を引き起こして、静電ポテンシャルを構築する。このポテンシャルはアニオンの流出またはカチオンの流入で補正される(H/MまたはOH/A対向輸送とH/AまたはM/OH共輸送メカニズムが可能である)。対象の化合物がこのようなイオン輸送を媒介するならば、ヒドロニウムイオンの流出またはヒドロキシドイオンの流入が続いて、血管内pHとリポーター色素の蛍光を変えることになる。
【0143】
Sidorov,V.,Kotch,F.W.,Abdrakhmanova,G.,Mizani,R.,Fettinger,J.C.and Davis,J.T.,J.Am.Chem.Soc.,2002,124,2267で報告されているように、実施例2媒介クロライド放出を100nm平均寸法の大きな単ラメラ小胞(LUV)で調べた。図5は、実施例2の適用が小胞外および内電解質間で急速な濃度依存性交換をもたらしたことを示している。重要なことに、実施例2は高いアニオン選択性で電解質交換を媒介した。それはサルフェートの存在下ではなく、クロライドの存在下で電解質交換を媒介した(図6参照)。NaCl小胞外および内緩衝液が用いられた図6で示される結果とは対照的に、NaSOで対称的に負荷されたLUVでは輸送活性が検出されなかった。このアニオン依存性活性は、実施例2が二重層でクロライド輸送を媒介している強い証拠である。図7は、実施例2に加えて、実施例1および3〜9も異なる効率でクロライド含有リポソームの脂質二重層でクロライド輸送を媒介しうることを示している。図12は、実施例2に加えて、実施例10〜13も異なる効率でクロライド含有リポソームの脂質二重層でクロライド輸送を媒介しうることを示している。
【0144】
実施例15
実施例15は、実施例2の化合物が脂質二重層へ分配されたときに電圧依存性クロライド選択チャネルとして機能しうることを示している。パッチクランプ技術を用いる単一チャネル記録は、イオンキャリアのような他のイオン輸送メカニズムから区別されるイオンチャネル形成を同定して、膜チャネルのイオン輸送効率を定量するために最も重要な試験である。脂質二重層へ分配された実施例2のチャネル形成活性は、巨大リポソームでパッチクランプ技術を用いて試験される。特徴的な単一チャネル電流が、浴液中実施例2の適用時に、対称2M N‐メチルグルカミン塩酸塩(NMDG‐Cl)溶液中54pSのプライマリーコンダクタンスで記録されたが(図8)、このことは実施例2がリポソームの脂質二重層へ効率的に分配されて、それによりイオンチャネルを形成しうることを示している。
【0145】
性質上イオンチャネルの2つの重要な性質は、イオン選択性、即ちチャネルがあるイオン種のみをその細孔から流動させること、およびチャネル開閉のメカニズムに関するゲーティングである。実施例2で形成されるイオンチャネルは、アニオン選択性でかつ電圧ゲート化されることがわかった。NMDG‐Clが浴液中で塩化カリウム(KCl)と置き換えられたとき、コンダクタンスまたは逆転電位にさほどの変化はなく、これらのチャネルがKイオンに透過性でないことを示唆していた。チャネル開口確率(Po)および頻度は電圧の生理学的関連範囲内で脂質二重層の電圧を上げると急増加したが、これは電圧依存性ゲーティングを示唆している(図8)。
【0146】
実施例16
実施例16は、実施例2の化合物がヒト脂肪膜へ分配されて、細胞クロライド電流を劇的に増加させることを示している。パッチクランプ技術の全細胞法が、ヒト胚腎臓(HEK293)細胞で実施例2により誘導されるイオン電流の電気生理学的性質を試験するために用いられた。American Type Culture Collectionからオリジナルで得たHEK293細胞系を10%FBSおよび100IU/mLペニシリンGおよび0.1mg/mLストレプトマイシンで補充されたDMEMで培養した。細胞を5%CO加湿インキュベーター中37℃で成長させた。Pulse/PulseFit 8.7ソフトウェア(HEKA)で制御される電圧クランプモードでEPC9パッチクランプ増幅器(HEKA Elektronik,Lambrecht/Pfalz,Germany)を用いることにより、全細胞クロライド電流を記録した。パッチピペット(抵抗、3〜5MΩ)をCsCl 140、MgCl 1、HRPES 10、EGTA 5、NaATP 5(mmol/L,CsOHでpH7.2)含有の溶液内部ピペット溶液で満たした。浴液はNaCl 140、CsCl 5、CaCl 1、MgCl 1、HRPES 10(mmol/L,CsOHでpH7.4)を含有していた。ギガオームシールを得た後、膜をパルス化陰圧で破った。ピペットおよび膜キャパシタンスを自動補正した。典型的には直列抵抗を70%補正した。細胞を0mVで保ち、−80から+80mVに及ぶ電圧ステップを20mVステップ増で800ms適用した。全マクロ電流を50kHzでサンプリングし、5kHzで濾過し、データをPulseFit(HEKA)で解析した。50nMの濃度で実施例2を含有した浴液への暴露前後に、Cl電流の変化を同細胞から検出した。全実験を室温(22〜25℃)で行った。
【0147】
50nMの低濃度で、実施例2は全細胞電流で大増加を引き起こし(図9)、このことは実施例2がHEK293細胞の細胞膜でClイオン輸送を効率的に媒介することを示唆している。加えて、誘導された電流は4,4′‐ジイソチオシアナトスチルベン‐2,2′‐ジスルホネート(DIDS)のような細胞アニオン輸送インヒビターの存在下で低下しなかった。この特性は、実施例2がHEK293細胞で自然クロライドチャネルを活性化することにより全細胞電流を増加させることを除外し、実施例2で形成される合成クロライドチャネルが観察された電流の正に説明となることを示唆している。
【0148】
実施例17
実施例17は、クロライド感受性蛍光指示薬SPQで、リポソームにおける実施例2の化合物のクロライド輸送活性を示している。
【0149】
リポソーム調製.卵黄L‐α‐ホスファチジルコリン(EYPC,91mg,120μmol)をCHCl/MeOH混合液に溶解し、溶液を減圧下で蒸発させ、得られた薄膜を高真空下で3時間乾燥させた。脂質膜を1.2mLの溶液A(200mM NaNO,0.5mM SPQ)中で2時間水和させた。水和に際して、懸濁液を5回の冷凍‐解凍サイクル(液体窒素,室温の水)に付した。大きな多重ラメラリポソーム懸濁液(1mL)を室温で高圧押出しに付した(0.1μmポリカーボネート膜で>21回の押出しにより、100nmの平均径を有する大きな単ラメラ小胞(LUV)の懸濁液を得た)。LUV懸濁液をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(固定相:Sephadex G‐50,移動相:溶液B:20mM NaNO)で小胞外色素から分離させ、(100%の脂質がリポソームへ取り込まれたと仮定して)10mMの脂質濃度でストック溶液を得るために溶液Bで希釈した。
【0150】
蛍光アッセイ.典型的には、100μLのSPQ負荷小胞(ストック溶液)を1.9mLの溶液C(200mM NaCl)に懸濁し、蛍光測定セルへ入れた。430nmのSPQ発光を360nmの励起波長でモニターした。100秒後に、実施例2の0.5mM THF溶液20μLを注入口から加えた。結果が図10で示されている。
【0151】
実施例18
実施例18は、実施例2のX線結晶解析について示している。実施例2のX線結晶構造が図11で示されている。他のX線結晶データおよびデータ収集法が以下で示されている。
【0152】
データ収集.ガラス繊維上に置かれた寸法0.4×0.35×0.1mmの結晶を、グラファイト単色化Mo‐Kα線(λ=0.71073Å)を用いて、300mmイメージプレート検出器装備のMAR回折計にて−20℃でデータ収集のために用いた。データ収集はψの2°振動ステップ、15分暴露時間および120mmのスキャナー距離で行った。100の画像を集めた。
【0153】
結晶データ:〔C2846〕;式量=534.69,斜方晶,C 2 2 2,a=7.725(2)Å,b=18.967(4)Å,c=21.145(4)Å,V=3098.2(11)Å,Z=4,D=1.146g cm−3、μ(Mo‐Kα)=0.081mm−1、F(000)=1160,T=253K.
表1.実施例2に関する結晶データおよび構造精密化
実験式 C2846
式量 534.69
温度 253(2)K
波長 0.71073Å
結晶系 斜方晶
空間群 C 2 2 2
単位胞寸法 a=7.725(2)Å α=90°
b=18.967(4)Å β=90°
c=21.145(4)Å γ=90°
体積 3098.2(11)Å
Z 4
密度(計算) 1.146Mg/m
吸収係数 0.081mm−1
F(000) 1160
結晶サイズ 0.4×0.35×0.1mm
データ収集のθ範囲 1.93〜25.35°
インデックスレンジ -7<=h<=7,-21<=k<=21, -24<=l<=24
収集反射数 7174
独立反射数 2039〔R(int)=0.0498〕
Completeness to theta=25.35° 75.2%
吸収補正 なし
精密化法 Fの完全マトリックス最小二乗法
データ/restraints/パラメーター 2039/2/185
Goodness-of-fit on F 0.969
Final R indices〔I>2σ(I)〕 R1=0.0497,wR2=0.1217
R indices(全データ) R1=0.0707,wR2=0.1310
絶対構造パラメーター 1(2)
Largest diff.peak and hole 0.365および−0.284e.Å−3
【0154】
上記で実証されているように、本態様は、イオンチャネル組成物およびそれを含んでなる膜を製造するために有用な、様々な自己集合性化合物を提供する。この開示は限定数の態様に関して記載されてきたが、一態様の具体的特徴が本発明の他の態様に属することはないはずである。単一の態様が本発明のすべての面を代表するわけではない。一部の態様において、本組成物または方法はここで記載されていない多くの化合物またはステップを含むこともある。他の態様において、本組成物または方法はここで列挙されていない化合物またはステップを含まず、または実質的に含まない。記載された態様からのバリエーションおよび修正も存在する。例えば、ここで開示されているイオンチャネル組成物は自己集合性化合物のみを含んでいる必要性はない。それはイオンチャネル組成物に通常適したいかなるタイプの化合物も含有しうる。注記すると、ここで開示されているイオンチャネル組成物を製造および使用するための方法は幾つかのステップに関して記載されている。これらのステップはいかなる順序で実施してもよい。1以上のステップが省略または組合せできるが、それでもなお実質的に同様の結果を出せる。添付された請求項は、本発明の範囲内に属するとして、すべてのこのようなバリエーションおよび修正を包含しているつもりである。
【0155】
この明細書で記載されたすべての刊行物および特許出願は、まるで各個別の刊行物または特許出願が参考のため具体的かつ個別的に組み込まれたかのように、ここで参考のため同程度に組み込まれる。本発明、その原理およびその実施適用を他の当業者に教えるために、この開示が例示および実施例で詳細に記載されてきた、と理解されるであろう。更に、説明することでここに提供される具体的な態様は包括的でもまたは本開示を制限するものでもなく、多くの代替、修正およびバリエーションが前記実施例および詳細な説明からみて当業者に明らかであろう。したがって、この開示は次の請求項の精神および範囲内に属するすべてのこのような代替、修正およびバリエーションを包含しているつもりである。上記の実施例および記載の一部は化合物、組成物および方法が機能する仕方についてある結論を含んでいるが、本発明者らはこれらの結論および機能に拘束されるつもりはなく、現在の理解からみて可能な説明としてのみそれらを提示しているのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)を有する脂質二重層または細胞膜におけるイオンチャネルの形成のための自己集合性化合物:
【化1】

あるいはその塩、溶媒和物、多形体または立体異性体
〔上記式中、Xは非置換または置換ヒドロカルビルまたはヘテロシクリルである;
ここで
nは1〜6の整数である;
Yは、非置換または置換炭化水素、カルボサイクルまたはヘテロサイクルから各々1、2、3、4、5および6つの水素原子を除去することにより形成される一価、二価、三価、四価、五価または六価連結基である;および
DAは式(II)を有する二価基である:
【化2】

上記式中、ZおよびZの各々は独立してO、SまたはNRである;
A、B、B、BおよびDの各々は独立して結合、O、S、NRあるいは置換または非置換C1‐10アルキレンである;および
kは1〜20の整数であり、ここでRおよびRの各々は独立してH、アシル、ヒドロカルビル、カルボシクリルまたはヘテロシクリルであり、BおよびBの少なくとも1つはNHである〕。
【請求項2】
式(I)のHDAが式(III)で表わされる:
【化3】

〔上記式中、kは1〜20の整数である;
Aは結合、O、S、NRあるいは置換または非置換C1‐10アルキレンであり、ここでRはH、アシル、ヒドロカルビル、カルボシクリルまたはヘテロシクリルである;
はOまたはNHである;および
DはC1‐3アルキレンあるいは1以上のヒドロカルビルまたはヘテロシクリルで置換されたC1‐3アルキレンである〕、請求項1に記載の自己集合性化合物。
【請求項3】
式(I)のHDAが式(IV)で表わされる:
【化4】

〔上記式中、DはC1‐3アルキレンあるいは1以上のヒドロカルビルまたはヘテロシクリルで置換されたC1‐3アルキレンである〕、請求項1に記載の自己集合性化合物。
【請求項4】
式(I)のHDAが式(IVB)で表わされる:
【化5】

〔上記式中、Aは結合、O、S、NRあるいは置換または非置換C1‐10アルキレンであり、ここでRはH、アシル、ヒドロカルビル、カルボシクリルまたはヘテロシクリルである;および
DはC1‐3アルキレンあるいは1以上のヒドロカルビルまたはヘテロシクリルで置換されたC1‐3アルキレンである〕、請求項1に記載の自己集合性化合物。
【請求項5】
式(I)のnが1である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の自己集合性化合物。
【請求項6】
式(I)のnが2または3であり、X‐HDA単位の少なくとも2つが同一である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の自己集合性化合物。
【請求項7】
式(I)のnが2または3であり、X‐HDA単位の少なくとも2つが異なる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の自己集合性化合物。
【請求項8】
Xがヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の自己集合性化合物。
【請求項9】
Xが、1〜14個の炭素原子を含んでなるヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルである、請求項8に記載の自己集合性化合物。
【請求項10】
Xが、1〜14個の炭素原子を有するアルキルまたは置換アルキルである、請求項9に記載の自己集合性化合物。
【請求項11】
Xがイソブチルである、請求項10に記載の自己集合性化合物。
【請求項12】
Yが、非置換または置換アルカン、アルケンまたはアルキンから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の自己集合性化合物。
【請求項13】
Yが、非置換または置換C2‐12アルカン、アルケンまたはアルキンから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である、請求項12に記載の自己集合性化合物。
【請求項14】
Yが非置換または置換プロピレンまたはプロペニレンである、請求項13に記載の自己集合性化合物。
【請求項15】
Yが、非置換または置換単環式、二環式または三環式芳香族カルボサイクルから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の自己集合性化合物。
【請求項16】
Yが、非置換または置換ベンゼンから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である、請求項15に記載の自己集合性化合物。
【請求項17】
Yが、非置換または置換単環式、二環式または三環式ヘテロサイクルから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の自己集合性化合物。
【請求項18】
Yが、非置換または置換ピリジンから各々2または3つの水素原子を除去することにより形成される二価または三価連結基である、請求項17に記載の自己集合性化合物。
【請求項19】
式(I)のHDAが、少なくとも1つの一級アミドまたは二級アミド基を含んでなる、請求項1〜18のいずれか一項に記載の自己集合性化合物。
【請求項20】
Dが、少なくともアルキル、アリール、置換アルキルまたは置換アリール基で置換されたC1‐3アルキレンである、請求項1〜19のいずれか一項に記載の自己集合性化合物。
【請求項21】
Dが、少なくともイソブチル基で置換されたC1‐3アルキレンである、請求項20に記載の自己集合性化合物。
【請求項22】
Aが結合であり;Dがメチレンまたは置換メチレンであり;およびkが1である、請求項1または2に記載の自己集合性化合物。
【請求項23】
AがOであり;Dがメチレンまたは置換メチレンであり;およびkが1である、請求項1または2に記載の自己集合性化合物。
【請求項24】
Yがアリーレン、ヘテロアリーレン、アルキレンまたはアルケニレンであり;および各Xが1〜14個の炭素原子を有する非置換または置換ヒドロカルビルである、請求項1または2に記載の自己集合性化合物。
【請求項25】
Dがイソブチルで置換されたメチレンである、請求項1〜24のいずれか一項に記載の自己集合性化合物。
【請求項26】
【化6】



あるいはそれらの塩、溶媒和物、多形体または立体異性体である、請求項1に記載の自己集合性化合物。
【請求項27】
【化7】

あるいはその塩、溶媒和物、多形体または立体異性体である、請求項1または26に記載の自己集合性化合物。
【請求項28】
細胞膜と、請求項1〜27のいずれか一項に記載の複数の自己集合性化合物の分子を含んでなる、組成物。
【請求項29】
細胞膜が脂質二重層を含んでなる、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
複数の分子が、脂質二重層の厚さ全体にわたってアニオンチャネルを形成するように自己集合する、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
アニオンチャネルが、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸、亜硝酸、硫酸、重硫酸、炭酸、重炭酸、リン酸、リン酸水素、リン酸二水素または酢酸イオンチャネルである、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
アニオンチャネルがクロライドチャネルである、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
細胞膜において合成アニオンチャネルを形成する方法であって、細胞膜を請求項1〜27のいずれか一項に記載の複数の自己集合性化合物の分子と結合するステップを含んでなる、方法。
【請求項34】
細胞膜が脂質二重層を含んでなる、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
細胞膜を介したイオンの流動を調整する方法であって、請求項1〜27のいずれか一項に記載の複数の自己集合性化合物の分子から膜においてアニオンチャネルを形成し;細胞膜にイオン勾配または膜ポテンシャルを印加するステップを含んでなる、方法。
【請求項36】
細胞膜が脂質二重層を含んでなる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
細胞膜で合成イオンチャネルを製造する方法であって、
(a)請求項1〜27のいずれか一項に記載の複数の自己集合性化合物の分子を用意し;
(b)膜の縦断方向において、および膜の横方向において分子間水素結合を介した分子の自己集合によりいずれか2つの隣接分子カラム間で、分子カラムを形成する;
ステップを含んでなる、方法。
【請求項38】
細胞膜が脂質二重層を含んでなる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
クロライドチャネルの機能障害に関連した疾患の治療、管理または予防のための薬剤を製造するための、請求項1〜27のいずれか一項に記載の複数の自己集合性化合物の分子あるいはその製薬上許容される塩、溶媒和物、多形体または立体異性体の使用。
【請求項40】
疾患が嚢胞性線維症、バーター症候群、デント病、遺伝性腎結石症、先天性筋緊張症、ベッカー症候群、癲癇、卵黄状黄斑ジストロフィー、過剰驚愕症、若年性ミオクローヌス癲癇または大理石骨病である、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
自己集合性化合物あるいはその製薬上許容される塩、溶媒和物または立体異性体が、哺乳動物の細胞の脂質二重層へ導入される、請求項39に記載の使用。
【請求項42】
哺乳動物がヒトである、請求項41に記載の使用。
【請求項43】
請求項1〜27のいずれか一項に記載の自己集合性化合物あるいはその製薬上許容される塩、溶媒和物、多形体または立体異性体と、製薬上許容されるキャリアを含んでなる、医薬組成物。
【請求項44】
少なくとも、賦形剤、保湿剤、希釈剤、金属ステアレートおよびそれらの組合せからなる群より選択される成分を更に含んでなる、請求項43に記載の医薬組成物。
【請求項45】
単一ユニット剤形をとる、請求項43に記載の医薬組成物。
【請求項46】
哺乳動物細胞の脂質二重層へ導入するために適した単一ユニット剤形をとる、請求項43に記載の医薬組成物。
【請求項47】
イオンチャネルが細胞膜におけるものである、請求項1〜27のいずれか一項に記載の複数の自己集合性化合物の分子を含んでなる、イオンチャネル。
【請求項48】
イオンチャネルがアニオンチャネルである、請求項47に記載のイオンチャネル。
【請求項49】
細胞膜が脂質二重層を含んでなる、請求項47または48に記載のイオンチャネル。
【請求項50】
クロライドチャネルの機能障害に関連した疾患を治療、管理または予防する方法であって、請求項1〜27のいずれか一項に記載の複数の自己集合性化合物の分子あるいはその製薬上許容される塩、溶媒和物、多形体または立体異性体を投与することを含んでなる、方法。
【請求項51】
疾患が嚢胞性線維症、バーター症候群、デント病、遺伝性腎結石症、先天性筋緊張症、ベッカー症候群、癲癇、卵黄状黄斑ジストロフィー、過剰驚愕症、若年性ミオクローヌス癲癇または大理石骨病である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
自己集合性化合物あるいはその製薬上許容される塩、溶媒和物または立体異性体が、哺乳動物の細胞の脂質二重層へ導入される、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
哺乳動物がヒトである、請求項52に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−513332(P2010−513332A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541738(P2009−541738)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【国際出願番号】PCT/CN2007/003691
【国際公開番号】WO2008/074227
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(509174750)バーシテック、リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】VERSITECH LIMITED
【Fターム(参考)】