説明

合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液および合成樹脂製レンズ

【課題】無色透明で屈折率が高く、しかも耐熱水性、耐汗性、耐候性、耐光性、耐擦傷性、耐磨耗性、耐衝撃性、可撓性および染色性に優れ、さらにガラス、プラスチックなどの基材との密着性にも優れた高屈折率被膜をレンズ基材の表面に形成するための塗布液を提供する。
【解決手段】マトリックス形成成分とジルコニア微粒子とを含む合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液であって、 ジルコニア微粒子の平均粒子径が5〜100nmの範囲にあり、屈折率が1.70〜2.20の範囲にあることを特徴とする合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液。前記ジルコニア微粒子が有機ケイ素化合物またはアミン類で表面処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液および合成樹脂製レンズに関し、さらに詳しくは、無色透明で屈折率が高く、しかも耐熱水性、耐汗性、耐候性、耐光性、耐擦傷性、耐磨耗性、耐衝撃性、可撓性および染色性に優れ、さらにガラス、プラスチックなどの基材との密着性にも優れた高屈折率被膜をレンズ基材の表面に形成するための塗布液、および高屈折率の透明被膜(ハードコート膜)が形成された干渉縞のない合成樹脂製レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック、ガラスなどの基材の表面に、基材の屈折率と同等の屈折率を有するハードコート膜を形成することを目的として、様々な高屈折率ハードコート膜の形成方法が提案されている。
【0003】
これに関連して、特にジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)樹脂レンズは、ガラスレンズに比較して安全性、易加工性、ファッション性などにおいて優れており、近年、反射防止技術およびハードコート技術の開発により、急速に普及している。しかしながら、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)樹脂の屈折率は1.50とガラスレンズに比べ低いため、近視用レンズにジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)樹脂を使用すると外周部がガラスレンズに比べ厚くなるという欠点を有している。このため合成樹脂製眼鏡レンズの分野では、高屈折率樹脂材料によってレンズの薄型化を図る技術開発が積極的に行われている。たとえば、特開昭59−133211号公報(特許文献1)、特開昭63−46213号公報(特許文献2)、特開平2−270859号公報(特許文献3)などには、屈折率が1.60さらにはそれ以上の高屈折率樹脂材料が提案されている。
【0004】
ところで、プラスチック眼鏡レンズは傷が付き易いという欠点があるため、通常シリコン系のハードコート被膜がプラスチックレンズ表面に設けられている。
しかしながら、1.54以上の高屈折率樹脂を使用したレンズに同様のハードコート膜を形成すると、樹脂レンズとコーティング膜の屈折率差による干渉縞が発生し、外観不良の原因となることがあった。
【0005】
この問題点を解決するため、特公昭61−54331号公報(特許文献4)、特公昭63−37142号公報(特許文献5)では、シリコン系被膜形成用塗布液(以下、被膜形成用塗布液をコーティング組成物ということがある)に使用されていた二酸化ケイ素微粒子のコロイド分散液を、高屈折率を有するAl、Ti、Zr、Sn、Sbの無機酸化物微粒子のコロイド状分散体に置き換えたものが提案されている。また、このようなコロイド状分散体としては、特開平1−301517号公報(特許文献6)には、二酸化チタンと二酸化セリウムとの複合系ゾルの製造方法が開示されている。さらには、特開平2−264902号公報(特許文献7)にはTiとCe複合無機酸化物微粒子が開示されており、特開平3−68901号公報(特許文献8)にはTi、CeおよびSiの複合酸化物を有機ケイ素化合物で処理した微粒子をコーティング組成物に用いることが開示されている。
【0006】
さらにまた、特開平5−2102号公報(特許文献9)には、TiとFeとの複合酸化物微粒子またはTiとFeとSiとの複合酸化物微粒子を含むハードコート膜が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献4、特許文献5に記載されたコーティング組成物では必ずしも
満足するハードコート膜は得られていなかった。
たとえば、Al、Zr、Sn、Sbの酸化物微粒子のコロイド状分散体を1.54以上の高屈折率樹脂レンズのコーティング組成物として用いた場合、シリコン系のコーティング組成物に比べ、塗布・硬化後の干渉縞の程度を改善できる。しかしながら、AlまたはSbの酸化物微粒子を用いた場合は、コーティング被膜としての屈折率に限界があるため、1.60以上のレンズ基材に対しては干渉縞を完全に抑えることは不可能であった。これは、AlまたはSbの酸化物微粒子は、単体として1.60以上の高い屈折率を有しているものの、一般にコーティング材料として用いる際には、被膜形成成分として有機ケイ素化合物、エポキシ樹脂等を混合するため、充填率が下がり、被膜の屈折率が基材レンズよりも低くなってしまうためである。また、ZrまたはSnの酸化物微粒子は、その分散性が不安定であるため、多量に使うと透明な被膜を得ることができなかった。
【0008】
一方、Ti酸化物微粒子のコロイド状分散体をコーティング用組成物として用いると、TiO2自身が前記Al、Zr、Sn、Sbの酸化物に比べ高い屈折率を有しているため
、屈折率が1.60前後さらにはそれ以上の被膜を形成でき、しかも、同時に被膜の屈折率の選択の幅も広くなるという長所がある。しかしながら、TiO2 は光触媒活性が高く耐侯性が低いため、TiO2 を含むコーティング組成物から形成された被膜では、被膜形成成分の有機ケイ素化合物、エポキシ樹脂成分が分解したり、さらには樹脂基材表面での被膜の劣化が生じ、被膜の耐久性が不充分であるという問題点があった。また、形成された被膜は基材との密着性に劣るという問題点もあった。
また、特許文献7、特許文献8に記載された二酸化チタンと二酸化セリウムとの複合酸化物微粒子を含むコーティング組成物、あるいは特許文献9に記載された二酸化チタンと酸化鉄との複合酸化物微粒子を含むコーティング組成物では、二酸化チタンを単独で使用したものに比べ、耐候性は改良されるものの、必ずしも満足する耐候性を有するものではなかった。また、このような複合酸化物微粒子を含むコーティング組成物から得られる被膜には、着色するという問題点もあった。
【0009】
このような状況のもと、本願発明者等は、特開平8−48940号公報(特許文献10)にて、屈折率が1.54以上(具体的には1.59〜1.66)のレンズ基材に好適に使
用できるチタンと、ケイ素とジルコニウムおよび/またはアルミニウムの酸化物からなる複合酸化物微粒子とマトリックスとを含む被膜形成用塗布液を開示している。
【0010】
ところで、近年、特開平9−71580号公報、特開平9−110979号公報、特開平9−255781号公報には、屈折率が1.67から1.70と高く、かつアッベ数が30を超えるエビスルフィド化合物から得られるレンズ基材(光学材料)が提案されている。
【0011】
このため、このような高屈折率かつ高アッベ数のレンズ基材にも好適に使用できる被膜形成用塗布液の開発が望まれていた。
そこで、本願出願人は特開2000−204301号公報(特許文献11)にて、屈折率が1.54以上のレンズ基材に好適に使用できる、核粒子と被覆層とからなる複合酸化
物微粒子、具体的には核粒子が酸化チタンと酸化錫とからなり、被覆層が珪素酸化物とジルコニウムおよび/またはアルミニウムの酸化物とからなり、核粒子がルチル型構造である複合酸化物微粒子とマトリックスとを含む被膜形成用塗布液を開示している。
【特許文献1】特開昭59−133211号公報
【特許文献2】特開昭63−46213号公報
【特許文献3】特開平2−270859号公報
【特許文献4】特公昭61−54331号公報
【特許文献5】特公昭63−37142号公報
【特許文献6】特開平1−301517号公報
【特許文献7】特開平2−264902号公報
【特許文献8】特開平3−68901号公報
【特許文献9】特開平5−2102号公報
【特許文献10】特開平8−48940号公報
【特許文献11】特開2000−204301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献11のものでは、高屈折率粒子として酸化チタンを含む場合は耐候性の問題が残り、ZrまたはSnの酸化物微粒子は、その分散性が不安定であるため、多量に使うと透明な被膜を得ることができなかった。また、屈折率が低く、前記高屈折率のレンズ基材に用いた場合には干渉縞を生じることがあった。
【0013】
このため、上記のような従来技術における問題点を解決するとともに、さらに高屈折率かつ高アッベ数の基材にも好適に使用できる合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液を提供することが望まれていた。
【0014】
このため本発明は、無色透明で屈折率が高く、さらに耐熱水性、耐汗性、耐候性、耐光性、耐擦傷性、耐磨耗性、耐衝撃性、可撓性および染色性に優れ、しかも基材との密着性にも優れた高屈折率膜が形成できるような合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液を提供することを目的としている。また、本発明は、1.54以上の屈折率を有する樹脂レンズの表面に、無色透明で、かつ、耐久性に優れた透明被膜(ハードコート膜)が形成でき、しかも透明被膜(ハードコート膜)によって干渉縞が生じないような合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液およびこのような高屈折率透明被膜(ハードコート膜)が形成された厚さの薄い合成樹脂製レンズを提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような問題点を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、特定のジルコニア粒子を使用することで、上記課題をいずれも解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]マトリックス形成成分とジルコニア微粒子とを含む合成樹脂製レンズ用透明被膜形成
用塗布液であって、
ジルコニア微粒子の平均粒子径が5〜100nmの範囲にあり、屈折率が1.70〜2.20の範囲にあることを特徴とする合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液。
[2]前記ジルコニア微粒子が有機ケイ素化合物またはアミン類で表面処理されている[1]の合成樹脂製レンズ用透明被膜成形用塗布液。
[3]前記ジルコニア微粒子が、下記の工程(a)〜(d)から得られたものである[1]または[2]の合成樹脂製レンズ用透明被膜成形用塗布液;
(a)ジルコニウム化合物水溶液にアルカリ水溶液を加えてジルコニウム水酸化物ゲルの分散液を調製する工程、
(b)前記ジルコニウム水酸化物ゲルを洗浄する工程、
(c)前記洗浄したジルコニウム水酸化物ゲル分散液にアルカリ金属水溶液および過酸化水素水溶液を添加してジルコニウム水酸化物ゲルを溶解する工程、
(d)ついで、40〜300℃で水熱処理する工程。
[4](d)水熱処理の後、
(e)前記工程(a)〜(d)によって得られたジルコニア微粒子分散ゾルに、前記ジ
ルコニウム水酸化物ゲルの溶解溶液を混合して、40〜300℃で水熱処理する工程を行う[3]の合成樹脂製レンズ用透明被膜成形用塗布液。
[5]前記塗布液中のジルコニア微粒子の濃度が固形分として0.25〜70重量%の範囲
にあり、マトリックス形成成分の濃度が固形分として0.5〜66.5重量%の範囲にあ
り、合計の固形分の濃度が0.5〜50重量%の範囲にある[1]〜[4]の合成樹脂製レンズ用透明被膜成形用塗布液。
[6]前記マトリックス形成成分が、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物の加水分解
物および/または部分重縮合物の1種以上からなる[1]〜[5]の被膜形成用塗布液。
12aSi(OR33-a (1)
(式中、R1は炭素数1〜6の炭化水素基、ビニル基、メタクリロキシ基、メルカプト基
、アミノ基またはエポキシ基を有する有機基、R2は炭素数1〜4の炭化水素基、R3は炭素数1〜8の炭化水素基、アルコキシアルキル基またはアシル基、aは0または1を表す。)
[7]前記マトリックス形成成分が塗料用樹脂である[1]〜[5]の合成樹脂製レンズ用透明被
膜形成用塗布液。
[8]屈折率が1.54以上のレンズ基材表面に、[1]〜[7]の合成樹脂製レンズ用透明被膜
形成用塗布液から形成された透明被膜を設けたことを特徴とする合成樹脂製レンズ。
[9]前記透明被膜上に、さらに反射防止膜を形成した[8]の合成樹脂製レンズ。
[10]前記レンズ基材と透明被膜との間に、さらにプライマー膜を形成した[8]または[9]の合成樹脂製レンズ。
[11]前記プライマー膜に酸化チタン系複合酸化物微粒子を含む[8]〜[10]の合成樹脂製レ
ンズ。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の酸化チタンを含む複合酸化物微粒子に代えて、高屈折率で均一な粒子径分布を有し、非凝集体で、分散性、安定性に優れたジルコニア微粒子を含むことから、合成樹脂製レンズ基材との密着性、耐候性、耐光性、可撓性および染色性に優れ、しかも表面硬度が高く、このため耐擦傷性および耐摩耗性に優れた透明被膜を形成することができる透明被膜形成用塗布液を提供することができる。
【0017】
また、このような透明被膜形成用塗布液を用いて屈折率が1.54以上の合成樹脂製レンズ基材上に透明被膜(ハードコート膜)を設けることで、干渉縞が生じることがなく、透明被膜が着色したりすることもなく、耐候性および各種耐久性に優れた軽量・薄型の合成樹脂製レンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について、具体的に説明する。
[合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液]
本発明に係る合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液は、マトリックス形成成分とジルコニア微粒子とからなる。
(i)ジルコニア微粒子
本発明に用いるジルコニア微粒子は平均粒子径が5〜100nm、さらには10〜60nmの範囲にあることが好ましい。
【0019】
ジルコニア微粒子の平均粒子径が小さいものは、得られる被膜は硬度が不充分で耐擦傷性および耐磨耗性に劣り、しかも屈折率を充分に高くできないといった傾向が生じる。ジルコニア微粒子の平均粒子径が100nmを超えると、光の散乱が増大し、得られる透明被膜の透明性が低下する場合がある。
【0020】
ジルコニア微粒子は有機ケイ素化合物またはアミン類で表面処理されていることが好ましい。ジルコニア微粒子の表面が有機ケイ素化合物またはアミン類で処理して改質されていると、このジルコニア微粒子とマトリックスとを含む塗布液中でジルコニア微粒子の分散状態が長期間にわたって安定化する。また、有機ケイ素化合物またはアミン類で表面が改質されたジルコニア微粒子はマトリックスとの反応性や親和性などが向上し、この結果
、これらで表面処理されたジルコニア微粒子を含む塗布液から得られる透明被膜は、表面処理されていないジルコニア微粒子を含む塗布液から得られる透明被膜よりも硬度が高く、透明性、耐擦傷性、基材との密着性、耐摩耗性、可撓性および染色性などにも優れている。
【0021】
ジルコニア微粒子の表面を有機ケイ素化合物で改質する際には、シランカップリング剤として知られている公知の有機ケイ素化合物を用いることができ、その種類は、本発明に係る塗布液で用いられるマトリックス、溶媒の種類などに応じて適宜選択される。
【0022】
このとき、用いられる有機ケイ素化合物としては、式:R3SiX、R2SiX2、RS
iX3、SiX4 などで表される有機ケイ素化合物が挙げられる(式中、Rはアルキル基
、フェニル基、ビニル基、メタクリロキシ基、メルカプト基、アミノ基、エポキシ基を有する有機基、Xは、加水分解性基である)。
【0023】
具体的には、トリメチルシラン、ジメチルフェニルシラン、ジメチルビニルシラン、ジメチルシラン、ジフェニルシラン、メチルシラン、フェニルシラン、テトラエトキシシランなどが挙げられる。有機ケイ素化合物で処理を行うに際して、加水分解性基を未分解で行ってもあるいは加水分解して行ってもよい。
【0024】
また、アミン系化合物としては、アンモニウムまたはエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、n−プロピルアミン等のアルキルアミン、ベンジルアミン等のアラルキルアミン、ピペリジン等の脂環式アミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンがある。
【0025】
ジルコニア微粒子の表面を有機ケイ素化合物またはアミン系化合物で改質するには、例えばこれら化合物のアルコール溶液中にジルコニア微粒子を混合し、所定量の水および必要に応じて触媒を加えた後、所定時間常温で放置するか、あるいは加熱処理を行うとよい。
【0026】
また、これら化合物の加水分解物とジルコニア微粒子とを水とアルコールの混合液に加えて加熱処理することによってもジルコニア微粒子の表面をこれら化合物で改質することができる。
【0027】
この際に用いられる有機ケイ素化合物またはアミン系化合物の量は、ジルコニア微粒子の表面に存在する水酸基の量などに応じて適宜選択される。
本発明に係る透明被膜形成用塗布液中に、前記(A)ジルコニア微粒子が、固形分として0.25〜63重量%、好ましくは1〜40重量%の量で含まれていることが望ましい。透明被膜形成用塗布液中のジルコニア微粒子濃度が少ないと、透明被膜の所望の屈折率が得られない場合があり、多すぎても、透明性が不十分となったり、マトリックス成分が少ないために膜の強度が不十分となることがある。
【0028】
本発明に用いるジルコニア微粒子としては、下記の工程(a)〜(d)からなり、平均粒子径が5〜100nmの範囲にあるジルコニア微粒子が分散したジルコニアゾルの製造方法によって得られるジルコニア微粒子を用いることが好ましい。
【0029】
(ジルコニア微粒子の製造方法)
(a)ジルコニウム化合物水溶液にアルカリ成分を加えてジルコニウム水酸化物ゲルの分散液を調製する工程
(b)前記ジルコニウム水酸化物ゲルを洗浄する工程
(c)前記洗浄したジルコニウム水酸化物ゲル分散液にアルカリ金属水酸化物水溶液およ
び過酸化水素水溶液を添加してジルコニウム水酸化物ゲルを溶解する工程
(d)ついで、40〜300℃で水熱処理する工程
【0030】
ジルコニウム水酸化物ゲル調製工程(a)
ジルコニウム化合物水溶液にアルカリ成分を加えてジルコニウム水酸化物ゲルの分散液を調製する。
【0031】
本発明に用いるジルコニウム化合物としては塩化ジルコニウム(ZrCl2)、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等の他、ジルコニウムアルコキシド等が挙げられる。
【0032】
上記ジルコニウム化合物を水に溶解して水溶液を調製するが、このときのジルコニウム化合物水溶液の濃度は、ZrO2に換算して0.1〜20重量%、さらには0.2〜10重量%の範囲にあることが好ましい。該濃度が0.1重量%未満の場合は、収率、生産効率が低く、一方、該濃度が5重量%を越えると、得られるジルコニアゾルの粒子径が不均一となる傾向がある。
【0033】
ついで、ジルコニウム化合物水溶液を充分に撹拌しながら、これにアルカリ成分を加える。
アルカリ成分としては、NaOH、KOH等のアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いる
ことができる。また、アンモニア、有機アミンなどの塩基性化合物を用いることも、これらと混合して用いることもできる。
【0034】
アルカリ成分水溶液はジルコニウム化合物水溶液のpHが7〜13、さらには8〜12の範囲となるように添加する。pHが低いと、ジルコニウム化合物の加水分解が不充分となったり、後述する工程(b)での洗浄が困難となることがあり、一方、pHが高すぎても、後述する工程(b)での洗浄が困難となることがある。
【0035】
なお、アルカリ水溶液を添加する際のジルコニウム化合物水溶液の温度は特に制限はないが、通常10〜50℃、さらには15〜40℃の範囲にあることが好ましい。
【0036】
洗浄工程(b)
次いで、生成したジルコニウム水酸化物ゲルを洗浄する。
【0037】
洗浄方法としては、陽イオン、陰イオン、あるいは塩を除去できれば特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、例えば、限外濾過膜法、濾過分離法、遠心分離濾過法、イオン交換樹脂法等が挙げられる。
【0038】
なかでもイオン交換樹脂法は洗浄後のイオン濃度を効果的に低下させることができるので好ましい。この場合、予め限外濾過膜法で洗浄した後、イオン交換樹脂法で洗浄すると効率的である。イオン交換樹脂としては、両イオン交換樹脂を用いるか、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とを順次用いることができる。
【0039】
また、このときの洗浄ジルコニウム水酸化物ヒドロゲル分散液のpHは概ね7〜12の範囲である。また、電導度は5ms/cm以下、好ましくは1ms/cm以下である。
【0040】
ジルコニウム水酸化物ゲル溶解工程(c)
前記洗浄したジルコニウム水酸化物ゲル分散液にアルカリ金属水酸化物水溶液および過酸化水素水溶液を添加してジルコニウム水酸化物ゲルを溶解する。アルカリ金属水酸化物としてはNaOH、KOH等のアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いることができる。本
発明では、種々の用途でナトリウム含有量の少ないジルコニアゾルが求められることからKOH水溶液を用いることが推奨される。
【0041】
ジルコニウム水酸化物ゲルのZrO2としてのモル数を(MZr)とし、アルカリ金属水
酸化物のモル数を(MOH)とし、過酸化水素のH22としてのモル数を(MPO)としたときに、(MOH)/(MZr)が1〜20、さらには2〜15の範囲にあり、(MPO)/(MZr)が5〜30、さらには8〜25の範囲にあることが好ましい。
(MOH)/(MZr)が低い場合、ジルコニウム水酸化物ゲルの溶解が不充分となり、平均粒子径が小さく、均一な粒子径分布を有するジルコニアゾルが得られないことがある。
(MOH)/(MZr)が20を越えてもさらにジルコニウム水酸化物ゲルの溶解が増すこともなく、後の工程でアルカリを除去・洗浄する負担が大きくなり経済的でない。
【0042】
また、(MPO)/(MZr)が小さいと、ジルコニウム水酸化物ゲルの溶解が不充分となり、平均粒子径が小さく、均一な粒子径分布を有するジルコニアゾルが得られないことがある。(MPO)/(MZr)が高すぎても、ジルコニウム水酸化物ゲルの溶解が速やかに起こるものの、その後、短時間で白濁したり、得られるジルコニアゾルの安定性が不充分となることがある。
【0043】
このため、後述する工程(f)の過酸化水素の除去を行うことが望ましい。
アルカリ金属水酸化物水溶液および過酸化水素水溶液を添加した洗浄ジルコニウム水酸化物ゲル分散液の濃度はZrO2に換算して0.1〜20重量%、さらには0.2〜15重量%、特に0.5〜10重量%の範囲に調整することが好ましい。この濃度が低いと、収率、生産効率が低下する問題がある。一方、濃度が高すぎると、最終的に得られるジルコニアゾルの粒子径分布が不均一になる傾向がある。
【0044】
溶解する際の温度は、前記(MOH)/(MZr)、(MPO)/(MZr)によっても異なるが、0〜90℃、さらには5〜80℃の範囲にあることが好ましい。温度が低いと、溶解が不充分になったり、溶解溶液の安定性が増すこともなく、過度の冷却をすることは経済性が低下することがある。温度が高すぎると、理由は明らかではないが溶解が不充分となることがある。
【0045】
また、溶解時間は、ジルコニウム水酸化物ゲルが溶解すれば特に制限はないが、通常、5時間で充分である。
なお、本発明では、溶解工程を経ることなく次工程(d)を行うことができるが、予め溶解して水熱処理する方が粒子径の分布が狭く、均一で、分散性が高く、屈折率の高いジルコニア微粒子が得られる点で好ましい。
【0046】
また、溶解した後、常温で長時間静置熟成した後、次工程(d)を行うこともできる。
本発明では、溶解した後、アンモニアを添加して溶解溶液のpHを9〜14、さらには11〜14の範囲と可能な範囲で高くすることが好ましい。溶解溶液のpHを前記範囲に調整すると、結晶性が高く、屈折率の高いジルコニア微粒子、このようなジルコニア微粒子が安定に分散したジルコニアゾルを得ることができる。
【0047】
水熱処理工程(d)
ついで、ジルコニウム水酸化物ゲルの溶解液を40〜300℃、好ましくは100〜250℃で水熱処理する。水熱処理温度が低すぎると、粒子成長に長時間を要したり、所望の高屈折率あるいは所望の粒子径のジルコニアゾルを得ることが困難となることがある。水熱処理温度を前記範囲よりも長くしても、粒子成長時間がさらに短くなる効果は小さく、また屈折率がさらに高くなる効果も小さくなり、場合によっては粒子径分布が不均一になったり、粗大な粒子が生成することがある。
【0048】
なお、水熱処理時間は特に制限はなく、水熱処理温度によって異なるが、通常0.5〜
12時間である。このように水熱処理することによって平均粒子径が小さく、均一な粒子
径分布を有し、非凝集体で、分散性、安定性に優れた屈折率の高いジルコニア微粒子が分散したジルコニアゾルを製造することができる。
【0049】
前記水熱処理工程(d)では、予め本発明の方法で調製したジルコニア微粒子を存在させて、水熱処理をおこなってもよい。この処理によって、ジルコニア微粒子が粒成長する。
【0050】
粒子成長処理工程(e)
工程(e)では、工程(d)で得られたジルコニア微粒子に工程(c)で得られたジルコニウム水酸化物ゲルが緻密に積層して粒子成長して粒子径の大きいジルコニア微粒子を得ることができる。具体的には、工程(d)で得られるジルコニア微粒子の平均粒子径が5〜30nmであるのに対して、工程(e)で得られるジルコニア微粒子の平均粒子径は100nm程度まで可能である。
【0051】
あらかじめ得られたジルコニア微粒子と工程(c)で得られたジルコニウム水酸化物ゲルとの混合比は、粒成長の程度に応じて適宜選択されるが、ZrO2(工程(c))/ZrO2(工程(d))重量比で0.01〜10、好ましくは0.1〜5の範囲である。
【0052】
水熱処理条件は工程(d)と同様である。
このように水熱処理することによって工程(d)で得られるジルコニア微粒子を粒子成長させることができ、均一な粒子径分布を有し、非凝集体で、分散性、安定性に優れた屈折率の高いジルコニア微粒子が分散したジルコニアゾルを製造することができる。
【0053】
なお、工程(d)または工程(e)についで、必要に応じて分散処理することができる。また、分散処理する際に、安定化剤および/または分散促進剤を添加することができる。分散処理する方法としてはボールミル、ジェットミル、ロール転動ミル、等従来公知の装置を用いることができる。
【0054】
また、安定化剤としては通常、カルボン酸またはカルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸(1分子内にカルボキシル基およびアルコール性水酸基を有する)、ヒドロキシカルボン酸塩が用いられる。
【0055】
具体的には、酒石酸、蟻酸、酢酸、蓚酸、アクリル酸(不飽和カルボン酸)、グルコン酸等のモノカルボン酸およびモノカルボン酸塩、リンゴ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、などの多価カルボン酸および多価カルボン酸塩等が挙げられる。
【0056】
また、α−乳酸、β−乳酸、γ−ヒドロキシ吉草酸、グリセリン酸、酒石酸、クエン酸、トロパ酸、ベンジル酸のヒドロキシカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸塩が挙げられる。
【0057】
また、分散促進剤としては通常、NaOH、KOH等のアルカリ金属水酸化物の水溶液
を用いることができる。また、アンモニア、有機アミンなどの塩基性化合物を用いることができる。
【0058】
さらに、このような安定化剤、分散促進剤をもちいた場合は、限外濾過膜法、イオン交換樹脂法等により、イオン性成分を除去することが好ましい。
工程(d)または工程(e)で得られたジルコニアゾルは、そのまま用いることもできるが、必要に応じて、濃縮または希釈して用いることができる。
【0059】
濃縮する方法として、従来公知の方法を採用することができ、例えば、ロータリーエバ
ポレーター等で加熱濃縮してもよく、さらには減圧下で加熱濃縮してもよく、限外濾過膜法で濃縮することもできる。
また、分散媒を所望の有機溶媒に置換して用いることもできる。
【0060】
工程(f)
本発明では、前記工程(c)または工程(e)の後に過酸化水素を除去することが好ましい。
【0061】
過酸化水素が残存していると装置の材質によっては腐蝕の問題が生じたり、得られるジルコニア微粒子の粒子径分布が不均一となる場合がある。
過酸化水素を除去する方法としては前記溶解後に加温下で開放系にすればよい。
【0062】
さらに、得られたジルコニアゾルを乾燥し、300〜800℃、より好ましくは500〜700℃の範囲で焼成したのち、微粉末を再び分散媒に分散させてジルコニアゾルとすることができる。乾燥方法としては従来公知の方法を採用することができ、例えば、ロータリーエバポレーターを用いて、あるいは加熱して濃縮し、通常100℃〜200℃で乾燥して分散媒を除去する。
【0063】
乾燥したジルコニア微粉末の焼成温度が300℃未満の場合は、焼成により更に結晶化を促進させ、屈折率を高める効果が充分得られない場合がある。
焼成温度が800℃を超えると、結晶度は高くなるが粒子径も大きくなり過ぎることがあり用途が限定される。例えば、分散安定性、透明性等が低下し、被膜の強度あるいは透明性を必要とする被膜の形成には不向きである。
【0064】
焼成したジルコニア微粉末は分散媒に分散させ、必要に応じて分散機にて分散させて、分散性の高いジルコニアゾルを得ることができる。なお、従来公知の方法では、高温で焼成した場合、粒子径が大きくなりすぎたり、焼成したジルコニア微粉末を分散媒に分散させ場合に、高分散させることが困難であった。
【0065】
本発明では以上のようにして得られたジルコニアゾルのジルコニア微粒子の平均粒子径は通常、5〜100nm、望ましくは10〜60nmの範囲のものである。平均粒子径が小さいものは、ジルコニアの結晶化が不充分なためか屈折率が低下する傾向にある。平均粒子径が大きく100nmを越えるものは、本方法によらずとも得ることが可能であり、また、前記したように用途に制限がある。
【0066】
なお、ジルコニア微粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真(TEM)を撮影し、50個の粒子について粒子径を測定し、これを平均して求めることができる。(これを一次粒子径(D1)とする。)
また、本発明のジルコニア微粒子は、光散乱法による平均粒子径(D2)(これを2次
粒子径という)を求め、(D2)/(D1)は粒子の凝集程度を表す指標となる。例えば、この比が大きくなるほど一次粒子が凝集していることを示す。
【0067】
ジルコニア微粒子は、(D2)/(D1)が6以下であり、このとき、平均粒子径(D2
)は5〜300nm、さらには10〜200nmの範囲にあることが好ましい。
上記したジルコニアゾルの製造方法で得られたジルコニア微粒子は、標準屈折率液法で測定した屈折率が1.7〜2.2の範囲にある。
【0068】
マトリックス形成成分
本発明に係る塗布液に含まれるマトリックス形成成分としては、式:R12aSi(OR3)3-a(ここで、R1は炭素数1から6の炭化水素基、ビニル基、メタクリロキシ基、メルカプト基、アミノ基またはエポキシ基を有する有機基、R2は、炭素数1から4の炭化水
素基、R3炭素数1から4の炭化水素基、アルコキシアルキル基またはアシル基、aは0
または1を表す。)で表される有機ケイ素化合物、この加水分解物、該加水分解物の部分縮合物およびこれらの混合物から選ばれる1種以上(以下、(B)成分という。)が用いられる。
【0069】
前記式で表される有機ケイ素化合物としては、具体的には、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
また、これらは無溶媒下またはアルコール等の極性有機溶媒中で、酸の存在下で加水分解して使用することが好ましい。さらに加水分解後に前記ジルコニア微粒子と混合してもよく、また、ジルコニア微粒子と混合後に加水分解をしてもよい。なお、硬化被膜中に占める前記(B)成分の有機ケイ素化合物から誘導される被膜成分の割合は、10〜90重量%の範囲が適当である。これは、10%以下では、基材と被膜との密着性が低下するため好ましくなく、また、90重量%以上では高屈折率の被膜が得られないことがある。
【0071】
また、本発明では、マトリックス形成成分として、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、紫外線硬化樹脂、ウレタン系樹脂、フォスファーゲン系樹脂等一般の塗料用樹脂を用いることもできる。このような塗料用樹脂を含む塗布液を用いて基材上に形成された高屈折率被膜は、無色、透明であって、耐候性、染色性、可撓性に優れ、しかも透明被膜の屈折率を基材の屈折率と等しくできる。さらに上記の塗料用樹脂をマトリックスとして用いた透明被膜形成用塗布液は、プラスチックレンズとハードコート膜との間の衝撃を吸収するプライマー膜形成用塗布液として好適に用いることができる。なお、このようなプライマー膜として用いる場合には、塗料用樹脂として、特にウレタン系樹脂が好ましく用いられる。
【0072】
プライマー膜においても、本発明に係るジルコニア微粒子、あるいは前記したチタンを含む複合酸化物微粒子、あるいは核粒子がルチル型構造である複合酸化物微粒子を混合して用いることができる。
【0073】
このようなチタン系の複合酸化物微粒子を混合して用いると耐候性を損なうことなく紫外線遮蔽効果が得られる。このため、紫外線によるレンズ基材の劣化を抑制することができる。複合酸化物微粒子の使用量は概ねジルコニア微粒子の50重量%以下である。
【0074】
本発明に係る透明被膜形成用塗布液中に、前記(B)マトリックス形成成分は、固形分として0.5〜66.5重量%、好ましくは2〜40重量%の量で含まれていることが望ましい。
【0075】
透明被膜形成用塗布液中のマトリックス形成成分の濃度が固形分として0.5重量%未満の場合は、得られる透明被膜の強度、基材との密着性が不十分となることがある。
透明被膜形成用塗布液中のマトリックス形成成分の濃度が固形分として66.5重量%を
超えると、ジルコニア微粒子が不足して所望の屈折率が得られない場合がある。
【0076】
その他の塗布液成分
本発明に係る塗布液には、前記(A)ジルコニア微粒子および(B)マトリックス形成成分とともに次のような(C)〜(G)成分の少なくとも1種以上を含んでいてもよい。
【0077】
(C)成分
(C)成分は、式:Si(OR4)4 で表される四官能有機ケイ素化合物の加水分解物お
よび/または部分縮合物の1種以上である(ここで、R4は炭素数1から8の炭化水素基
、アルコキシアルキル基またはアシル基を表す)。
【0078】
前記式で表される有機ケイ素化合物は、形成される透明被膜の屈折率を、透明被膜の透明性を維持したまま容易に調整し、さらに塗布液塗布後の透明被膜の硬化速度を速める目的で用いられる。(C)成分を用いることで硬化後の透明被膜の屈折率を基材レンズの屈折率に応じて適宜調整することができ、かつジルコニア微粒子の含有量がある程度低下しても透明被膜の密着性を得ることができる。さらにこの(C)成分として四官能有機ケイ素化合物を透明被膜形成用塗布液中に配合すると、透明被膜形成時の硬化速度が速くなり、特に生地レンズから染色剤が抜け易い含硫ウレタン系樹脂のような基材に被膜を形成する際に、染色剤抜け量を抑え、被膜形成前後の染色レンズの色調変化を小さくすることができる。
【0079】
このような四官能有機ケイ素化合物としては、具体的にはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラアリロキシシラン、テトラキス(2−メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(2−エチルブトキシシラン)、テトラキス(2−エチルヘキシロキシ)シラン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらは無溶媒下またはアルコール等の有機溶媒中で、酸の存在下で加水分解して使用するのが好ましい。なお、透明被膜中に占める前記(C)成分の割合は、50重量%未満であることが望ましい。なお、(C)成分の割合が、50重量%以上になると硬化後の透明被膜にクラックが入りやすくなることがある。
【0080】
(D)成分:
(D)成分は、ジルコニア微粒子以外の、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、ZrおよびInから選ばれる1以上の元素の酸化物微粒子、またはSi、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、InおよびTiから選ばれる2以上の元素の酸化物から構成される複合酸化物微粒子である。
【0081】
このような(D)成分は、得られる透明被膜の屈折率、基材との密着性、染色性、耐熱性等を向上させるために用いられる。
具体的に(D)成分としては、TiO2、SiO2、Al23、SnO2、Sb25、T
23、CeO2 、La23 、Fe23 、ZnO、WO3、ZrO2 、In23等の無
機酸化物微粒子が水または有機溶媒にコロイド状に分散したものが使用される。また、これらの酸化物の成分元素を2種以上含む酸化物によって構成される複合酸化物微粒子が水または有機溶媒にコロイド状に分散したものを使用することもできる。いずれの場合においても粒子径は約1〜100nmが好適である。なおこのような(D)成分の使用量は、目的とする透明被膜性能により適宜選択される。
【0082】
本発明では、本願出願人の出願による特開平8−48940号公報に開示したチタンと、ケイ素とジルコニウムおよび/またはアルミニウムの酸化物からなる複合酸化物微粒子を前期ジルコニア微粒子に混合して用いることもできる。また、本願出願人の出願による特開2000−204301号公報に開示した核粒子が酸化チタンと酸化錫とからなり、被覆層が珪素酸化物とジルコニウムおよび/またはアルミニウムの酸化物とからなり、核
粒子がルチル型構造である複合酸化物微粒子を前期ジルコニア微粒子に混合して用いることもできる。
【0083】
このようなチタン系の複合酸化物微粒子を混合して用いると耐候性を損なうことなく紫外線遮蔽効果が得られる。このため、紫外線によるレンズ基材の劣化を抑制することができる。複合酸化物微粒子の使用量は概ねジルコニア微粒子の50重量%以下、さらには2〜30重量%の範囲にあることが好ましい。
【0084】
さらに、これらの微粒子の塗布液中での分散安定性を高めるため、前記と同様な方法で微粒子表面を有機ケイ素化合物またはアミン系化合物で処理したものを使用することもできる。
【0085】
(E)成分:
(E)成分は、多官能性エポキシ化合物、多価アルコール、多価カルボン酸および多価カルボン酸無水物から選ばれる1種以上の化合物である。この(E)成分は、形成される透明被膜の染色性を向上させたり、あるいは耐久性を改良させたりするために使用される。
【0086】
多官能性エポキシ化合物としては、(ポリ)エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、カテコール、レゾルシノール、アルキレングリコール等の二官能性アルコールのジグリシジルエーテル、グルセリン、トリメチロールプロパン等の三官能性アルコールのジまたはトリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0087】
多価アルコールとしては、(ポリ)エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、カテコール、レゾルシノール、アルキレングリコール等の二官能性アルコール、グルセリン、トリメチロールプロパン等の三官能性アルコール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0088】
多価カルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、マレイン酸、オルソフタル酸、テレフタル酸、フマル酸、イタコン酸、オキザロ酢酸などが挙げられる。
【0089】
多価カルボン酸無水物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、1.2−ジメチルマレイン酸無水物、無水フタル酸などが挙げられる。
透明被膜中に占める前記(E)成分から誘導される透明被膜成分の割合は、40重量%未満以下であることが望ましい。(E)成分の量が多すぎると透明被膜と透明被膜上に形成される反射防止膜との密着性が低下することがある。
【0090】
(F)成分:
F成分のヒンダードアミン系化合物は、形成される被膜の染色性の向上を目的として用いられる。(F)成分としては、具体的には、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、1-[2-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、8-ベンジル-7,7,9,9-テトラメチル-3-オクチル-1,3,8-トリアザスピロ[4,5]ウンデカン-2,4-ジオン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4,5]ウンデカン-2,4-ジオン、コハク酸ジメチル・1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)[2,2,6,6-テトラメチル−4−ピペリジル]イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]]、N,N'-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4-ビス[N-ブチル-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ]-6-クロロ-1,3,5-トリアジン縮合物、2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)などが挙げられる。
【0091】
(F)成分の使用量は、塗布液中の全固形分に対して3重量%以下の量で用いられることが望ましく、これ以上の使用量になると、透明被膜の硬度、耐温水性等が低下することがある。
【0092】
(G)成分:
(G)成分は、アミン類、アミノ酸類、金属アセチルアセトナート、有機酸の金属塩、過塩素酸類、過塩素酸類の塩、酸類および金属塩化物から選ばれる1種以上の化合物である。この(G)成分は、シラノールまたはエポキシ基の硬化を促進するために用いられる硬化触媒である。このような(G)成分を用いることによって透明被膜の硬化速度を速めることができる。
【0093】
このような(G)成分の具体例としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、グアニジン、ビグアニジドなどのアミン類、グリシンなどのアミノ酸類、アルミニウムアセチルアセトナート、クロムアセチルアセトナート、チタニルアセチルアセトネート、コバルトアセチルアセトネートなどの金属アセチルアセトナート、酢酸ナトリウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸スズなどの有機酸の金属塩類、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウムなどの過塩素酸類あるいはその塩、塩酸、リン酸、硝酸、パラトルエンスルホン酸などの酸、またはSnCl2、AlC
3、FeCl3、TiCl4、ZnCl2、SbCl3などのルイス酸である金属塩化物な
どが挙げられる。
【0094】
このような(G)成分は、塗布液の組成等により種類・使用量が適宜選択されて使用される。なお使用量、塗布液中の全固形分に対して5重量%以下で用いるのが望ましく、これ以上では透明被膜の硬度、耐温水性等が低下することがある。
【0095】
さらに、本発明に係る塗布液には、塗布性、得られる透明被膜の性能を改良するため、必要に応じて、少量の界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油溶染料、蛍光染料、顔料、フォトクロミック化合物、チクソトロピー剤などを添加してもよい。
【0096】
溶媒
本発明に係る透明被膜形成用塗布液では、前記のような各成分が、水に分散または溶解している。溶媒として、塗布液に含まれている固形分濃度を調整したり、塗布液の表面張力、粘度、蒸発速度等を調整する目的で、有機溶媒を用いてもよい。
【0097】
有機溶媒としては、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、エチレングリコールなどのグリコール類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジクロルエタンなどのハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、カルボン酸類およびN,N-ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒は2種以上を混合して使用してもよい。
[合成樹脂製レンズ]
次いで、本発明に係る合成樹脂製レンズについて説明する。
【0098】
本発明に係る合成樹脂製レンズは、屈折率が1.54以上の樹脂レンズ基材の表面に、前記したジルコニア微粒子とマトリックス形成成分として上述した(B)成分を含み、さらに上述した(C)〜(G)成分の少なくとも1種以上を含有する塗布液から形成された
基材の屈折率と同等の高屈折率の透明被膜(以下、ハードコート膜ということがある)を有することを特徴としている。
【0099】
合成樹脂製レンズ基材
合成樹脂製レンズ基材としては、従来公知の合成樹脂製レンズ基材を用いることができ、例えば、含硫ウレタン系や(メタ)アクリル系、エピスルフィド系レンズ基材が好適であり、特に特開平9−71580号公報、特開平9−110979号公報、特開平9−255781号公報に開示された屈折率が1.67以上、かつアッベ数が30を超えるエビスルフィド化合物から得られるレンズ基材が好適である。
【0100】
外観および耐久性に優れた薄型合成樹脂製レンズを得るため、レンズ基材の屈折率が1.54以上のものが好ましい。
これらの合成樹脂製レンズ基材は、透明性、染色性、耐熱性、吸水性、曲げ強度、耐衝撃性、耐候性、加工性などの点から所望の特性を満足できるレンズ基材として好適である。
【0101】
これらのレンズ基材表面に形成される透明被膜の膜厚は、0.05〜30μmさらには0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
本発明に係る合成樹脂製レンズは、上述したようなレンズ基材表面に本発明に係る塗布液をディッピンク法、スピナー法、スプレー法あるいはフロー法などの方法で塗布・乾燥して被膜を形成し、次いでこのようにして基材表面に形成された透明被膜を基材の耐熱温度以下で加熱することによって製造することができる。
【0102】
また、レンズ基材上に塗布液を塗布した後、40〜200℃の温度で、数時間加熱乾燥することにより、透明被膜を形成することが望ましい。
なお、塗布液のマトリックス形成成分として紫外線硬化樹脂を用いた場合には、塗布液をレンズ基材表面に塗布した後、この塗布液が塗布されている基材表面に所定の波長を有する紫外線を照射し、硬化するなどの方法で透明被膜を形成することができる。
【0103】
さらに、本発明に係る合成樹脂製レンズを製造するに際し、レンズ基材と透明被膜との密着性を向上させる目的で、レンズ基材表面を予めアルカリ、酸または界面活性剤で処理したり、無機または有機微粒子で研磨処理したり、プライマー処理またはプラズマ処理を行ってもよい。
【0104】
また、本発明に係る合成樹脂製レンズは、プライマー膜を、レンズ基材とハードコート膜との間に有するものであってもよい。
屈折率が高い光学材料を使用した合成樹脂製レンズではレンズの厚さも薄くなり、表面に前記したようなハードコート膜を形成し、さらにこのハードコート膜上に反射防止を目的に無機物質からなる単層・多層の反射防止膜が形成される。
【0105】
無機物質としては、SiO、SiO2、Si34、TiO2、ZrO2、Al23、Mg
2、Ta23等を用い、例えば、真空蒸着法等の薄膜形成方法により反射防止膜を形成
することができる。反射防止膜を形成することにより、反射の低減、透過率の向上を図ることができ、眼鏡レンズとしての機能をより向上させることができる。
【0106】
この反射防止膜形成工程で合成樹脂製レンズ基材に歪みが生じ、落下などの衝撃によりレンズが割れやすくなることがあり、このため合成樹脂製レンズ基材とハードコート膜との間に衝撃を吸収する柔軟なプライマー膜が設けられる。
【0107】
プライマー膜の屈折率は、基材の屈折率と等しくないと干渉縞が生じることがあるが、本発明に係る透明被膜形成用塗布液では、(B)マトリックス成分として、前記したよう
に塗料用樹脂を含む透明被膜形成用塗布液を使用すれば、基材の屈折率と同程度のプライマー膜を形成することができる。特に、マトリックス形成成分としてウレタン系塗料用樹脂は好適である。
【0108】
このようなプライマー膜には、本願出願人の出願による特開平8−48940号公報に開示したチタンと、ケイ素とジルコニウムおよび/またはアルミニウムの酸化物からなるチタンを含む複合酸化物微粒子を用いることができる。
【0109】
また、本願出願人の出願による特開2000−204301号公報に開示した核粒子が酸化チタンと酸化錫とからなり、被覆層が珪素酸化物とジルコニウムおよび/またはアルミニウムの酸化物とからなり、核粒子がルチル型構造である複合酸化物微粒子を用いることもできる。
このような酸化チタン系複合酸化物微粒子を含んでいると、プライマー膜の屈折率をレンズ基材の屈折率と同程度に調整することができるとともに、耐候性を損なうことなく紫外線遮蔽効果が得られ、このため、紫外線によるレンズ基材の劣化を抑制することができる。酸化チタン系複合酸化物微粒子の含有量はプライマー膜中に1〜30重量%、さらには2〜20重量%の範囲にあることが好ましい。
【0110】
なお、このようなプライマー膜を形成する場合、前記したような方法によって塗布液を塗布したのち、硬化する。
【0111】
[実施例]
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0112】
[実施例1]
ジルコニア微粒子(1)の調製
純水1,300gにオキシ塩化ジルコニウム8水和物(ZrOCl2・8H2O)35gを溶解し、これに濃度10重量%のKOH水溶液123gを添加してジルコニウム水酸化物ヒドロゲル(ZrO2濃度1重量%)を調製した。ついで、限外濾過膜法で電導度が0.5mS/cm以下になるまで洗浄した。
【0113】
得られたZrO2として濃度1重量%のジルコニウム水酸化物ヒドロゲル2,000gに濃度10重量%のKOH水溶液400gを加えて十分攪拌した後、濃度35重量%の過酸化水素水溶液200gを加えた。このとき、激しく発泡して溶液は透明になり、pHは11.5であった。
【0114】
ついで、濃度28.8重量%のアンモニア水溶液140gを加えて充分攪拌した。このとき、溶液は薄黄色になった。また、pHは13.6であった。
この溶液をオートクレーブに充填し、150℃で11時間水熱処理を行った後、遠心沈降法によりジルコニア微粒子を分離し、充分に洗浄した。
【0115】
ジルコニア微粒子のスラリー56gを純水282gに分散させ、これに、酒石酸7g、濃度10重量%のKOH水溶液22gを加えて充分攪拌した。ついで、粒径0.1mmの石英メジアを1000gを加え、これを分散機(カンペ(株)製:BATCH SAND)にて分散処理してジルコニアゾルとした。ついで、限外濾過膜を用いて洗浄した後、陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製:SANUPC)40gを加えて脱イオン処理をして、ZrO2
しての濃度1.5重量%のジルコニアゾル(1)を調製した。
ついで、この分散媒の水をメタノールに置換し、固形分濃度が20重量%になるまで濃縮してジルコニアオルガノゾル(1)を調製した。
ジルコニア微粒子(1)の平均一次粒子径(D1)は15nm、平均二次粒子径(D2)は3
8nmであった。また、屈折率は2.10であった。
屈折率の測定は下記の方法によった。
【0116】
屈折率の測定
(1)ジルコニアゾル(1)をエバポレーターに採り、分散媒を蒸発させる。
【0117】
(2)120℃で乾燥し、粉末とする。
(3)屈折率が既知の標準屈折率液を2,3滴ガラス基板状に滴下し、これにジルコニア粉末を混合する。
【0118】
(4)上記(3)の操作を種々の標準屈折率液で行い、混合液が透明になったときの標準屈折率液の屈折率をジルコニア粒子の屈折率とする。
ついで、ジルコニアオルガノゾル(1)1000gを反応容器にとり、メチルトリメトキ
シシラン56gと純水20gを加えた後、50℃に加温し、18時間撹拌した。その後未反応のメチルトリメトキシシランを取り除いた後、濃縮し、固形分濃度が20重量%のメチルトリメトキシシランで表面処理したジルコニアオルガノゾル(1)を得た。
【0119】
透明被膜形成用塗布液(1)の調製
撹拌装置を備えたフラスコ中にエチルセルソルブ41.15g、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン47.26g、テトラメトキシシラン4.56gを撹拌しながら順次加え、ついで0.05Nの塩酸12.9gを添加して、30分間撹拌した。ついで、シリコン系界面活性剤(日本ユニカ(株)製:L−7604)を0.04g加え、5℃で24時
間熟成してマトリックス形成成分を調製した。
【0120】
このマトリックス形成成分を含む液に、上記表面処理したジルコニアオルガノゾル(1)
を231g添加し、さらにアルミニウムアセチルアセトナートを1g添加し、充分撹拌した後、0℃で48時間熟成して、透明被膜形成用塗布液(1)を調製した。
【0121】
プラスチックレンズ基材(1)の作製
1,2-ジメチルカプトエタン94.2gとエピクロルヒドリン185.0gを液温を10℃迄冷却し、水酸化ナトリウム0.4gを水4mlに溶かした水溶液を加え、この温度で1
時間撹拌した。その後、液温を40〜45℃前後に保ちながら2時間撹拌した。室温に戻し、水酸化ナトリウム80.0gを水80mlに溶かした水溶液を、液温を40〜45℃
前後に保ちながら滴下し、この温度で3時間撹拌した。反応混合物に水200mlを加え、トルエン300mlで抽出し、トルエン層を水200mlで3回洗浄した。トルエン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を留去し、無色透明液体の1,2-ビス(グリシジルチオ)エタンを202.0gを得た。次いで、撹拌機、温度計、窒素導入管を装着したフラスコに1,2-ビス(グリシジルチオ)エタン79.9gとエタノール40mlをチオシアン酸カリウム87.5gを水60mlに溶解させた水溶液に加え、1時間かけて液温を45℃まで上昇させ、この温度で5時間反応させた。反応混合物に水500mlを加え、トルエン500mlで抽出し、トルエン層を水500mlで3回洗浄した。トルエン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を留去し、1,2-ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタンを78.1g得た。
【0122】
これにトリブチルアミン0.78gを配合し、充分に撹拌した後、ガラス型とガスケットよりなるモールド型中に注入した。次いで、80℃で5時間重合硬化した後、冷却し、ガラス型とガスケットを除去し、エピスルフィド系樹脂レンズ(R1)を得た。得られたレンズは屈折率1.71、アッベ数38であった。
【0123】
合成樹脂製レンズ(1)の作成
作製したエピスルフィド系樹脂レンズ(R1)を、濃度13重量%のNaOH水溶液中に5分間浸漬した後で充分に水洗し、乾燥した後、透明被膜形成用塗布液(1)を用い、スピン
コート法による塗布を行った。スピンコートの条件は、低回転中にハードコート液を塗布した後、回転数:2500rpm、回転時間:1秒で振り切りを行った。塗布後、90℃
で18分間仮乾燥した後、106℃で30分間加熱硬化し、冷却後、残りの面に同様の条件で塗布と仮乾燥を行った後、106℃で120分間加熱・硬化を行い、合成樹脂製レンズ(1)を作成した。透明被膜の膜厚は2.3μmであった。
【0124】
得られた合成樹脂製レンズ(1)に市販の染色剤(セイコープラックス用アンバーD)を
用いて90℃の染色浴で3分間(生地)染色を行ったものについて、分光光度計(大塚電子(株)製、MCPD−1000)を用いて測定したところ、全光線透過率は54%であり、良好な染色性を示した。
【0125】
また、得られた合成樹脂製レンズ(1)について、外観、透過率、干渉縞、耐擦傷性、密
着性、耐候性を以下の方法で評価し、結果を表1に示した。
【0126】
外観
生地染色を施さない合成樹脂製レンズ(1)(白レンズ)の着色の有無を肉眼で観察し、
以下の基準で評価し、結果を表1に示した。
着色が認められない :○
着色が認められる :×
【0127】
透過率
分光光度計で染色を施さない合成樹脂製レンズ(1)(白レンズ)の可視光の平均透過率
を測定した。
【0128】
干渉縞
干渉縞の発生の有無について、背景を黒くした状態で蛍光灯の光をレンズ表面で反射させ、光の干渉による虹模様の発生を肉視で観察した。判定は次のようにして行った。
○:虹模様が認められない。
△:かすかに虹模様が認められる。
×:はっきりと虹模様が認められる。
【0129】
耐擦傷性
♯0000スチールウールにより荷重1kg/cm2で10往復させた後の被膜の状態をみ
た。
A:全く傷がつかない。
B:ほとんど傷がつかない。
C:少し傷がつく。
D:多く傷がつく。
【0130】
密着性
70℃の温水中に2時間浸漬した後、レンズ表面にナイフで縦横にそれぞれ1mm間隔で11本の平行線状の傷を付け100個のマス目を作りセロファンテープを接着・剥離後に被膜が剥がれずに残ったマス目の数をみた。(クロスカット・テープ試験という)
【0131】
耐候性
カーボンアーク電極を持つサンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)製)を用い、200時間暴露した後、以下の評価を行った。
i)外観
染色を施さないレンズ(白レンズ)の着色の有無を肉眼で評価した。
ii)透過率:試験後、分光光度計で染色を施さないレンズ(白レンズ)の可視光の平均透過率を測定した。
iii)密着性:試験後のレンズについて、前記と同様のクロスカット・テープ試験を暴露
面について行った。
【0132】
[実施例2]
ジルコニア微粒子(2)の調製
実施例1において、オートクレーブで、120℃で24時間水熱処理を行った以外は同様にして固形分濃度が20重量%の表面処理したジルコニアオルガノゾル(2)を調製した
。ジルコニア微粒子(7)の平均一次粒子径(D1)は10nm、平均二次粒子径(D2)は
32nmであった。また、結晶形は単斜晶で、屈折率は2.10であった。
【0133】
透明被膜形成用塗布液(2)の調製
実施例1において、表面処理したジルコニアオルガノゾル(2)を用いた以外は同様にし
て透明被膜形成用塗布液(2)を調製した。
【0134】
合成樹脂製レンズ(2)の作成
実施例1において、透明被膜形成用塗布液(2)を用いた以外は同様にして合成樹脂製レ
ンズ(2)を作成した。得られた合成樹脂製レンズ(2)を実施例1と同様にして染色を行ったものの全光線透過率は54%であり、良好な染色性を示した。
また、合成樹脂製レンズ(2)について、外観、透過率、干渉縞、耐擦傷性、密着性、耐
候性を評価し、結果を表1に示した。
【0135】
[実施例3]
ジルコニア微粒子(3)の調製
実施例1おいて、濃度28.8重量%のアンモニア水溶液140gを加えることなく充分撹拌した。この時pHは13.1であった。以降、実施例1と同様にして固形分濃度が20重量%の表面処理したジルコニアオルガノゾル(3)を調製した。ジルコニア微粒子(3)の平均一次粒子径は(D1)25nm、平均二次粒子径(D2)は60nmであった。また、結晶形は単斜晶で、屈折率は1.90であった。
【0136】
透明被膜形成用塗布液(3)の調製
実施例1において、表面処理したジルコニアオルガノゾル(3)を用いた以外は同様にし
て透明被膜形成用塗布液(3)を調製した。
【0137】
合成樹脂製レンズ(3)の作成
実施例1において、透明被膜形成用塗布液(3)を用いた以外は同様にして合成樹脂製レ
ンズ(3)を作成した。
得られた合成樹脂製レンズ(3) を実施例1と同様にして染色を行ったものの全光線透過率は53%であり、良好な染色性を示した。
また、合成樹脂製レンズ(3)について、外観、透過率、干渉縞、耐擦傷性、密着性、耐
候性を評価し、結果を表1に示した。
【0138】
[実施例4]
ジルコニア微粒子(4)の調製
実施例3と同様にしてZrO2としての濃度1.5重量%のジルコニアゾル(3)を調製した。
別途、実施例1と同様にして、純水1,300gにオキシ塩化ジルコニウム8水和物(ZrOCl2・8H2O)35gを溶解し、これに濃度10重量%のKOH水溶液123gを添加してジルコニウム水酸化物ヒドロゲル(ZrO2濃度1重量%)を調製した。ついで、限外濾過膜法で電導度が0.5mS/cm以下になるまで洗浄した。
【0139】
得られたZrO2として濃度1重量%のジルコニウム水酸化物ヒドロゲル2,000gに濃度10重量%のKOH水溶液400gを加えて十分攪拌した後、濃度35重量%の過酸化水素水溶液200gを加えた。このとき、激しく発泡して溶液は透明になり、pHは11.5であった。
【0140】
ついで、濃度28.8重量%のアンモニア水溶液140gを加えて充分攪拌した。このとき、溶液は薄黄色になった。また、pHは13.6であった。
これに、ジルコニアゾル(3)42gを混合し、オートクレーブに充填し、150℃で1
1時間水熱処理を行った後、遠心沈降法によりジルコニア微粒子を分離し、充分に洗浄した。
【0141】
ついで、ジルコニア微粒子のスラリー56gを純水282gに分散させ、これに、酒石酸7g、濃度10重量%のKOH水溶液22gを加えて充分攪拌した。ついで、粒径0.1mmの石英メジアを1000gを加え、これを分散機(カンペ(株)製:BATCH SAND)にて分散処理してジルコニアゾルとした。ついで、限外濾過膜を用いて洗浄した後、陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製:SANUPC)40gを加えて脱イオン処理をして、ZrO2としての濃度1.5重量%のジルコニアゾル(4)を調製した。
【0142】
ついで、この分散媒の水をメタノールに置換し、固形分濃度が20重量%になるまで濃縮してジルコニアオルガノゾル(4)を調製した。ジルコニア微粒子(4)の平均一次粒子径は(D1)80nm、平均二次粒子径(D2)は126nmであった。また、結晶形は単斜晶で、屈折率は2.10であった。
ついで、実施例1と同様にして表面処理したジルコニアオルガノゾル(4)を調製した。
【0143】
透明被膜形成用塗布液(4)の調製
実施例1において、表面処理したジルコニアオルガノゾル(4)を用いた以外は同様にし
て透明被膜形成用塗布液(4)を調製した。
【0144】
合成樹脂製レンズ(4)の作成
実施例1において、透明被膜形成用塗布液(4)を用いた以外は同様にして合成樹脂製レ
ンズ(4)を作成した。得られた合成樹脂製レンズ(4)を実施例1と同様にして染色を行ったものの全光線透過率は52%であり、良好な染色性を示した。
また、合成樹脂製レンズ(4)について、外観、透過率、干渉縞、耐擦傷性、密着性、耐
候性を評価し、結果を表1に示した。
【0145】
[実施例5]
ジルコニア微粒子(5)の調製
実施例1と同様にして調製したジルコニアゾル(1)を100℃で15時間乾燥し、つい
で、600℃で2時間焼成し、ついで、ジルコニア微粒子(1)粉末56gを純水282g
に分散させ、これに、酒石酸7g、濃度10重量%のKOH水溶液22gを加えて充分攪拌した。
【0146】
ついで、粒径0.1mmの石英メジアを1000gを加え、これを分散機(カンペ(株)製:BATCH SAND)にて分散処理してジルコニアゾルとした。ついで、限外濾過膜を用いて洗浄した後、陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製:SANUPC)40gを加えて脱イオン処理をして、ZrO2としての濃度1.5重量%のジルコニアゾル(5)を調製した。ついで、この分散媒の水をメタノールに置換し、固形分濃度が20重量%になるまで濃縮してジルコニアオルガノゾル(5)を調製した。
【0147】
ジルコニア微粒子(5)の平均一次粒子径(D1)は30nm、平均二次粒子径(D2)は
72nmであった。また、屈折率は2.20であった。
ついで、実施例1と同様にして表面処理したジルコニアオルガノゾル(5)を調製した。
【0148】
透明被膜形成用塗布液(5)の調製
実施例1において、表面処理したジルコニアオルガノゾル(5)を用いた以外は同様にし
て透明被膜形成用塗布液(5)を調製した。
【0149】
合成樹脂製レンズ(5)の作成
実施例1において、透明被膜形成用塗布液(5)を用いた以外は同様にして合成樹脂製レ
ンズ(5)を作成した。
得られた合成樹脂製レンズ(5) を実施例1と同様にして染色を行ったものの全光線透過率は54%であり、良好な染色性を示した。
また、合成樹脂製レンズ(5)について、外観、透過率、干渉縞、耐擦傷性、密着性、耐
候性を評価し、結果を表1に示した。
【0150】
[実施例6]
透明被膜形成用塗布液(6)の調製
実施例1と同様にして(撹拌装置を備えたフラスコ中にエチルセルソルブ41.15g
、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン47.26g、テトラメトキシシラン4.
56gを撹拌しながら順次加え、ついで0.05Nの塩酸12.9gを添加して、30分間撹拌した。ついで、シリコン系界面活性剤(日本ユニカ(株)製:L−7604)を0.
04g加え、5℃で24時間熟成して)マトリックス形成成分を調製した。
【0151】
このマトリックス形成成分を含む液に、実施例1と同様にして調製した表面処理ジルコニアオルガノゾル(1)116g添加し、さらにアルミニウムアセチルアセトナートを1g
添加し、充分撹拌した後、0℃で48時間熟成して、透明被膜形成用塗布液(6)を調製し
た。
【0152】
合成樹脂製レンズ(6)の作成
実施例1において、透明被膜形成用塗布液(6)を用いた以外は同様にして合成樹脂製レ
ンズ(6)を作成した。
得られた合成樹脂製レンズ(6) を実施例1と同様にして染色を行ったものの全光線透過率は54%であり、良好な染色性を示した。
また、合成樹脂製レンズ(6)について、外観、透過率、干渉縞、耐擦傷性、密着性、耐
候性を評価し、結果を表1に示した。
【0153】
[実施例7]
透明被膜形成用塗布液(7)の調製
実施例1と同様にして(撹拌装置を備えたフラスコ中にエチルセルソルブ41.15g
、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン47.26g、テトラメトキシシラン4.
56gを撹拌しながら順次加え、ついで0.05Nの塩酸12.9gを添加して、30分間撹拌した。ついで、シリコン系界面活性剤(日本ユニカ(株)製:L−7604)を0.
04g加え、5℃で24時間熟成して)マトリックス形成成分を調製した。
【0154】
このマトリックス形成成分を含む液に、実施例1と同様にして調製した表面処理ジルコニアオルガノゾル(1)277g添加し、さらにアルミニウムアセチルアセトナートを1g
添加し、充分撹拌した後、0℃で48時間熟成して、透明被膜形成用塗布液(7)を調製し
た。
【0155】
合成樹脂製レンズ(7)の作成
実施例1において、透明被膜形成用塗布液(7)を用いた以外は同様にして合成樹脂製レ
ンズ(7)を作成した。
得られた合成樹脂製レンズ(7) を実施例1と同様にして染色を行ったものの全光線透過率は54%であり、良好な染色性を示した。
また、合成樹脂製レンズ(7)について、外観、透過率、干渉縞、耐擦傷性、密着性、耐
候性を評価し、結果を表1に示した。
【0156】
[実施例8]
透明被膜形成用塗布液(8)の調製
実施例1と同様にして(撹拌装置を備えたフラスコ中にエチルセルソルブ41.15g
、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン47.26g、テトラメトキシシラン4.
56gを撹拌しながら順次加え、ついで0.05Nの塩酸12.9gを添加して、30分間
撹拌した。ついで、シリコン系界面活性剤(日本ユニカ(株)製:L−7604)を0.
04g加え、5℃で24時間熟成して)マトリックス形成成分を調製した。
【0157】
このマトリックス形成成分を含む液に、実施例1と同様にして調製した表面処理ジルコニアオルガノゾル(1)116gと、比較例1と同様にして調製した固形分濃度が20重量
%のメチルトリメトキシシランで表面処理した酸化チタン系複合酸化物微粒子(R1)オルガノゾル115gとを添加し、さらにアルミニウムアセチルアセトナートを1g添加し、充分撹拌した後、0℃で48時間熟成して、透明被膜形成用塗布液(8)を調製した。
【0158】
[比較例1]
酸化チタン系複合酸化物微粒子(R1)の調製
(1)核粒子分散ゾル(調製液A)の調製
TiO2に換算したときに濃度が7.75重量%の四塩化チタン溶液93.665kgと、
濃度15重量%のアンモニア水36.295kgとを混合して中和したのち、純水によって
洗浄し、54.579kgの含水チタン酸を得た。得られたこの含水チタン酸を110℃で
乾燥した後、280℃で18時間焼成したときの比表面積は280m2/gであった。
【0159】
この含水チタン酸7.519kgに、濃度が35重量%の過酸化水素水11.429k
gと水59.148kgとを添加し、80℃で2時間加熱して溶解したのち、水21.9kgを添加して、ポリ過酸化チタン酸水溶液を調製した。
【0160】
得られたポリ過酸化チタン酸水溶液に、さらに、SnO2に換算して90.9gになるように、濃度1.02重量%のスズ酸カリウム水溶液8.906kgを添加し、充分撹拌した後、陽イオン交換樹脂で脱イオン処理を行った。
【0161】
脱イオン処理後、SiO2に換算して272.7gになるようにシリカゾル1671gを加え、ついで固形分濃度が1重量%となるように水25.6kgを加えた後、内容積200
Lのオートクレーブに入れ、撹拌しながら、175℃で18時間加熱して加水分解し、得られたコロイド溶液を濃縮して、固形分濃度が10重量%のチタン、スズ、ケイ素からなりルチル型構造を有する複合固溶体酸化物の核粒子分散ゾル(調製液A)13.15kgを
得た。核粒子の平均粒子径は7nmであった。
【0162】
(2)ジルコニウム化合物溶解液の調製
オキシ塩化ジルコニウム26.3kgを純水474kgに加え、ZrO2に換算したときに濃
度が2重量%となるオキシ塩化ジルコニウム水溶液に、濃度15重量%のアンモニア水を添加し、pH8.5のジルコニアゲルのスラリーを得た。このスラリーを濾過洗浄し、ZrO2に換算したときに濃度が10重量%のケーキを得た。
【0163】
このケーキ170gに純水1.55kgを加え、さらにKOH水溶液を添加してアルカリ性にした後、これに濃度35重量%の過酸化水素水340gを加えて加熱して溶解し、ZrO2に換算したときに濃度が0.5重量%のジルコニウムの過酸化水素溶液(調製液B)
3.4kgを調製した。
【0164】
(3)ケイ酸液の調製
市販の水ガラスを純水にて希釈した後、陽イオン交換樹脂で脱アルカリし、SiO2濃度が2重量%のケイ酸液を調製した。
(4)複合酸化物微粒子分散ゾルの調製
前記調製液A1kgに純水4kgを加えて固形分濃度を2重量%とした後、90℃に加熱し、これに調製液B3.4kgとケイ酸液2.65kgを徐々に添加し、ついでオートクレーブ中、175℃で18時間加熱処理を行い、さらに濃縮して固形分濃度が20重量%の淡乳白色の透明な酸化チタン系複合酸化物微粒子(1)の水分散ゾルを調製した。
【0165】
ついで、この分散媒の水をメタノールに置換し、固形分濃度が20重量%になるまで濃
縮して、平均粒子径が7nmで、核粒子のTiO2/SnO2(重量比)が11、(TiO2+SnO2)/SiO2(重量比)が8/2で、被覆層のSiO2/ZrO2が3.118、核
粒子/被覆層(重量比)が100/7.012の核粒子がルチル型構造を有する酸化チタ
ン系複合酸化物微粒子(R1)オルガノゾルを得た。
【0166】
酸化チタン系複合酸化物微粒子(R1)の平均一次粒子径(D1)は7nm、平均二次粒子
径(D2)は38nmであった。また、屈折率は2.10であった。
ついで、酸化チタン系複合酸化物微粒子(R1)オルガノゾル100gを反応容器にとり、メチルトリメトキシシラン5.6gと純水2gを加えた後、50℃に加温し、18時間撹拌した。その後未反応のメチルトリメトキシシランを取り除いた後、濃縮し、固形分濃度が20重量%のメチルトリメトキシシランで表面処理した酸化チタン系複合酸化物微粒子(R1)オルガノゾルを得た。
【0167】
透明被膜形成用塗布液(R1)の調製
実施例1において、表面処理した酸化チタン系複合酸化物微粒子(R1)オルガノゾルを用いた以外は同様にして透明被膜形成用塗布液(R1)を調製した。
【0168】
合成樹脂製レンズ(R1)の作成
実施例1において、透明被膜形成用塗布液(R1)を用いた以外は同様にして合成樹脂製レンズ(R1)を作成した。透明被膜の膜厚は2.3μmであった。また、を実施例1と同様にして染色を行ったもの全光線透過率は54%であり、良好な染色性を示した。
また、得られた合成樹脂製レンズ(R1)について、外観、透過率、干渉縞、耐擦傷性、密着性、耐候性を以下の方法で評価し、結果を表1に示した。
【0169】
[実施例9]
プライマー膜形成用塗布液(1)の調製
比較例1と同様にして調製した固形分濃度が20重量%のメチルトリメトキシシランで表面処理した酸化チタン系複合酸化物微粒子(R1)オルガノゾル67.5gに、濃度30重量%のウレタンエラストマーの水分散体(第1工業製薬株式会社製:スーパーフレックス150)50gを混合して、プライマー膜形成用塗布液(1)を調製した。
【0170】
[合成樹脂製レンズ(8)の作成]
プライマー膜の形成
実施例1で得たプラスチックレンズ(R1)を濃度が5重量%のNaOH水溶液中に5分間浸漬した後充分に水洗し、乾燥した。
次いで、このプラスチックレンズ(R1)を前記プライマー膜形成用塗布液(1)中に浸漬し
た後、引上げ速度95mm/分で引上げ、85℃で120分、104℃で60分間加熱硬化してレンズ表面にプライマー膜を形成した。
【0171】
ついで、実施例1と同様にして調製した透明被膜形成用塗布液(1)を用い、スピンコー
ト法による塗布を行った。スピンコートの条件は、低回転中にハードコート液を塗布した後、回転数:2500rpm、回転時間:1秒で振り切りを行った。塗布後、90℃で18分間仮乾燥した後、106℃で30分間加熱硬化し、冷却後、残りの面に同様の条件で塗布と仮乾燥を行った後、106℃で120分間加熱・硬化を行った。透明被膜の膜厚は2.3μmであった。
【0172】
反射防止膜の形成
次いで、プライマー膜および高屈折率ハードコート用透明被膜形成したプラスチックレンズを真空中200Wの出力のアルゴンガスプラズマ中に30秒間暴露させた後、真空蒸着法により、レンズ側から大気側へ向かってSiO2、ZrO2、SiO2、ZrO2、SiO2の5層の薄膜を形成した。
【0173】
形成された反射防止膜の光学的膜厚は、順にSiO2が、約λ/4、次のZrO2とSi
2の合計膜厚が、約λ/4、次のZrO2が、約λ/4、そして最上層のSiO2が約λ
/4であった。(設計波長λは510nm)
反射防止膜を形成して得られた合成樹脂製レンズ(8)について、外観、透過率、干渉縞
、耐擦傷性、密着性、耐候性を以下の方法で評価し、結果を表1に示した。また、合成樹
脂製レンズ(8)について、以下のように耐衝撃性テストを行ったが、割れは認められなか
った。
【0174】
耐衝撃性テスト
また、上記のようにして得られたプライマー膜、ハードコート用透明被膜および反射防止膜付きプラスチックレンズを用いて耐衝撃性テストを行った。耐衝撃性のテスト方法は、高さ126cmの所より、重さ16.2g、100g、200g、400gの4種類の鋼球をプラスチックレンズの上に垂直に落下させ、割れの有無で判定した。
【0175】
[比較例2]
ジルコニア微粒子(R2)の調製
純水2432gにオキシ塩化ジルコニウム8水塩(ZrOCl2・8H2O)65.5gを溶解し、これにリンゴ酸2.7gを添加し、ついで、濃度10重量%のKOH水溶液313gを添加してジルコニウム水酸化物ヒドロゲル分散液(ZrO2濃度1重量%)を調製した。このときの分散液のpHは10.5、温度は19℃であった。
【0176】
ついで、限外濾過膜法で電導度が280μS/cmになるまで洗浄した。つぎに、このジルコニウム水酸化物ヒドロゲル分散液(ZrO2濃度1重量%)に陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製:SK1−BH)95gを加え脱イオンした。ついで陽イオン交換樹脂を分離した後、陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製:SANUPC)50gを加え脱イオンした。このようにして得られた洗浄ジルコニウム水酸化物ヒドロゲル分散液(ZrO2濃度1重量%)の電導度は10μS/cm、pHは6であった。
【0177】
ついで、洗浄ジルコニウム水酸化物ヒドロゲル分散液(ZrO2濃度1重量%)に、超音波を1時間照射してヒドロゲルの分散処理をした後、オートクレーブに充填し、200℃で2時間熟成した。このとき、電導度は640μS/cm、pHは2.53であった。
【0178】
ついで、陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製:SANUPC)110gを加えて脱イオンを行い、ついで純水3750gを供給しながら限外濾過膜法で洗浄した。このときの電導度は16μS/cm、pHは3.9であった。
【0179】
上記熟成し、洗浄した分散液をZrO2濃度1重量%に調整し、これに濃度2重量%のリンゴ酸水溶液134g(Cmc/Zmc=0.10)を加え、超音波を1時間照射してヒドロゲルの分散処理をした後、オートクレーブに充填し、200℃で2時間水熱処理をした。このとき、電導度は640μS/cm、pHは2.53であった。
【0180】
水熱処理した分散液に陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製:SANUPC)110gを加えて脱イオンを行い、ついで純水3750gを供給しながら限外濾過膜法で洗浄した。このときの電導度は47μS/cm、pHは3.4であった。
【0181】
その後、濃縮してZrO2濃度2.9重量%のジルコニアゾル(R2)を調製した。
ジルコニアゾルのpHは3.6であった。
ついで、この分散媒の水をメタノールに置換し、固形分濃度が20重量%になるまで濃縮してジルコニアオルガノゾル(R2)を調製した。
ジルコニア微粒子(R2)の平均一次粒子径(D1)は15nm、平均二次粒子径(D2)は110nmであった。また、屈折率は2.00であった。
【0182】
ついで、ジルコニアオルガノゾル(R2)100gを反応容器にとり、メチルトリメトキシ
シラン5.6gと純水2gを加えた後、50℃に加温し、18時間撹拌した。その後未反応のメチルトリメトキシシランを取り除いた後、濃縮し、固形分濃度が20重量%のメチルトリメトキシシランで表面処理したジルコニアオルガノゾル(R2)を得た。
【0183】
透明被膜形成用塗布液(R2)の調製
実施例1において、表面処理したジルコニアオルガノゾル(R2)を用いた以外は同様にして透明被膜形成用塗布液(R2)を調製した。
【0184】
合成樹脂製レンズ(R2)の作成
実施例1において、透明被膜形成用塗布液(R2)を用いた以外は同様にして合成樹脂製レンズ(R2)を作成した。透明被膜の膜厚は2.3μmであった。また、を実施例1と同様にして染色を行ったもの全光線透過率は54%であり、良好な染色性を示した。
また、得られた合成樹脂製レンズ(R2)について、外観、透過率、干渉縞、耐擦傷性、密着性、耐候性を以下の方法で評価し、結果を表1に示した。
【0185】
[比較例3]
ジルコニア微粒子(R3)の調製
実施例1において、ZrO2として濃度1重量%のジルコニウム水酸化物ヒドロゲル2,000gに濃度10重量%のKOH水溶液400gを加えて十分攪拌した後、過酸化水素水溶液を加えなかった以外は同様にして濃度1.5重量%のジルコニアゾル(R3)を調製した。ついで、この分散媒の水をメタノールに置換し、固形分濃度が20重量%になるまで濃縮してジルコニアオルガノゾル(R3)を調製した。
ジルコニア微粒子(R3)の平均一次粒子径(D1)は50nm、平均二次粒子径(D2)は120nmであった。また、屈折率は1.65であった。
【0186】
得られたジルコニアオルガノゾル(R3)100gを反応容器にとり、メチルトリメトキシシラン5.6gと純水2gを加えた後、50℃に加温し、18時間撹拌した。その後未反応のメチルトリメトキシシランを取り除いた後、濃縮し、固形分濃度が20重量%のメチルトリメトキシシランで表面処理したジルコニアオルガノゾル(R3)を得た。
【0187】
透明被膜形成用塗布液(R3)の調製
実施例1において、表面処理したジルコニアオルガノゾル(R3)を用いた以外は同様にして透明被膜形成用塗布液(R3)を調製した。
【0188】
合成樹脂製レンズ(R3)の作成
実施例1において、透明被膜形成用塗布液(R3)を用いた以外は同様にして合成樹脂製レンズ(R3)を作成した。透明被膜の膜厚は2.3μmであった。また、を実施例1と同様にして染色を行ったもの全光線透過率は54%であり、良好な染色性を示した。
また、得られた合成樹脂製レンズ(R3)について、外観、透過率、干渉縞、耐擦傷性、密着性、耐候性を以下の方法で評価し、結果を表1に示した。
【0189】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス形成成分とジルコニア微粒子とを含む合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液であって、
ジルコニア微粒子の平均粒子径が5〜100nmの範囲にあり、屈折率が1.70〜2.20の範囲にあることを特徴とする合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液。
【請求項2】
前記ジルコニア微粒子が有機ケイ素化合物またはアミン類で表面処理されていることを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂製レンズ用透明被膜成形用塗布液。
【請求項3】
前記ジルコニア微粒子が、下記の工程(a)〜(d)から得られたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の合成樹脂製レンズ用透明被膜成形用塗布液;
(a)ジルコニウム化合物水溶液にアルカリ水溶液を加えてジルコニウム水酸化物ゲルの分散液を調製する工程、
(b)前記ジルコニウム水酸化物ゲルを洗浄する工程、
(c)前記洗浄したジルコニウム水酸化物ゲル分散液にアルカリ金属水溶液および過酸化水素水溶液を添加してジルコニウム水酸化物ゲルを溶解する工程、
(d)ついで、40〜300℃で水熱処理する工程。
【請求項4】
(d)水熱処理の後、
(e)前記工程(a)〜(d)によって得られたジルコニア微粒子分散ゾルに、前記ジ
ルコニウム水酸化物ゲルの溶解溶液を混合して、40〜300℃で水熱処理する工程を行うことを特徴とする、請求項3に記載の合成樹脂製レンズ用透明被膜成形用塗布液。
【請求項5】
前記塗布液中のジルコニア微粒子の濃度が固形分として0.25〜70重量%の範囲にあり、マトリックス形成成分の濃度が固形分として0.5〜66.5重量%の範囲にあり、合計の固形分の濃度が0.5〜50重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の合成樹脂製レンズ用透明被膜成形用塗布液。
【請求項6】
前記マトリックス形成成分が、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物および/または部分重縮合物の1種以上からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の被膜形成用塗布液。
12aSi(OR33-a (1)
(式中、R1は炭素数1〜6の炭化水素基、ビニル基、メタクリロキシ基、メルカプト基
、アミノ基またはエポキシ基を有する有機基、R2は炭素数1〜4の炭化水素基、R3は炭素数1〜8の炭化水素基、アルコキシアルキル基またはアシル基、aは0または1を表す。)
【請求項7】
前記マトリックス形成成分が塗料用樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液。
【請求項8】
屈折率が1.54以上のレンズ基材表面に、請求項1〜7のいずれかに記載の合成樹脂製レンズ用透明被膜形成用塗布液から形成された透明被膜を設けたことを特徴とする合成樹脂製レンズ。
【請求項9】
前記透明被膜上に、さらに反射防止膜を形成したことを特徴とする請求項8に記載の合成樹脂製レンズ。
【請求項10】
前記レンズ基材と透明被膜との間に、さらにプライマー膜を形成したことを特徴とする請求項8または9に記載の合成樹脂製レンズ。
【請求項11】
前記プライマー膜に酸化チタン系複合酸化物微粒子を含むことを特徴とする請求項8〜10に記載の合成樹脂製レンズ。

【公開番号】特開2009−162848(P2009−162848A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339797(P2007−339797)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】