説明

同一航跡判定装置

【課題】仮説生成前に同一性を判定できる見込みを推定し、見込みのあるものに対してのみ計算を実行することにより、計算機資源を有効利用し、単位時間に多くの相関結果を出力することができる同一航跡判定装置を得る。
【解決手段】従来の同一航跡判定装置の尤度算出部9に仮説生成判定部10を取りつけ、仮説生成判定部10が、仮説生成を行う前に信頼度の大きな仮説を2つ事前に抽出し、仮説が絞り込めないときに抽出した仮説の比が一定値以上となることを利用して仮説生成の有無を判定し、仮説が絞り込める可能性のある場合には、仮説生成部11に仮説の生成を行わせ、仮説が絞り込める可能性がない場合には、仮説生成部11に仮説の生成を行わせない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、異なる複数の航跡作成装置で作成された各航跡が、同一目標か否かを判定する同一航跡判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に代表される従来の同一航跡判定装置においては、サンプリング毎に航跡作成装置で作成された複数の航跡に対して、各航跡の誤差共分散行列を用いたχ自乗検定を行うことにより航跡間の相関可能性を考慮し、相関可能性のある航跡を複数の同型の類と呼ばれる航跡群に分類し、各々の同型の類において航跡の組み合わせを矛盾なく抽出することにより、複数の仮説を生成する。
そして、従来の同一航跡判定装置では、得られた各々の仮説に対し、サンプリング毎に得られた尤度を用いてその信頼度を計算し、最も高い信頼度があるしきい値を越えている場合にその仮説が正しいとし、全ての航跡の組み合わせを一つに決定した相関結果を得る。
最も高い信頼度があるしきい値を越えていない場合、正しい仮説はないと判定し、決定を次回以降のサンプリングに持ち越す。
【特許文献1】特開平06−094830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の同一航跡判定装置では、航跡の同一性を判定するために、全ての航跡対の可能な組み合わせを、正しい組み合わせを判定するための仮説として生成する。
生成した仮説の信頼度を、その仮説が正しいという尤度と、全仮説の尤度の和の比から算出するため、航跡が密集する場合においては、莫大な時間を費やして計算を行っても全仮説の尤度の和が非常に大きくなり、各仮説の信頼度が閾値を越えない場合が多い。
結果として、ある仮説が正しい、という絞込みを行えず、結論が得られる見込みのない演算に対して多くの計算時間を費やし、単位時間当りに処理可能な数に制限があった。
【0004】
この発明は、上述のような課題を解決することを主な目的としており、仮説生成を行う前に結論が得られる見込みを推定し、結論が得られる可能性のあるものに対してのみ計算を実行することにより、計算機の資源を有効に利用し、単位時間当りに多くの相関結果を出力することができる同一航跡判定装置を得ることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施の形態に係る同一航跡判定装置は、
第1の航跡作成装置より転送された、各々が移動体を表象する複数の航跡データと第2の航跡作成装置より転送された複数の航跡データとが組合わされて生成された複数の航跡データ対のうち相関可能性がある2以上の航跡データ対を同型の類として分類する類生成部と、
前記類生成部で分類された同型の類に属する航跡データ対の各々が同一の移動体を表象している可能性を示す尤度を航跡データ対ごとに算出する尤度算出部と、
前記類生成部で分類された同型の類に属する航跡データを組合せて複数の仮説を生成する仮説生成部と、
前記尤度算出部により算出された尤度に基づいて算出される信頼度を用いて、前記仮説生成部により生成される複数の仮説の中から、同一の移動体を表象している航跡データの組合せとして、特定の仮説を抽出する同一航跡検定部と、
を備える同一航跡判定装置において、
前記仮説生成部による仮説の生成に先立ち、前記尤度算出部により算出された尤度に基づき、前記同一航跡検定部が複数の仮説の中から特定の仮説を抽出できるか否かを予測し、前記同一航跡検定部が特定の仮説を抽出できないと予測した場合に、前記仮説生成部に仮説の生成を行わせない仮説生成判定部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、仮説生成判定部が仮説生成を行う前に結論が得られる見込みを推定し、結論が得られる可能性のあるものに対してのみ計算を実行することにより、計算機の資源を有効に利用し、単位時間当りに多くの相関結果を出力することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る同一航跡判定装置3の構成例を示すものである。
図1において、レーダ等に付随した第1の航跡作成装置1及び第2の航跡作成装置2の出力(航跡ベクトル、及び航跡ベクトルの誤差共分散行列)は同一航跡判定装置3に入力され、同一航跡判定装置3はその入力から、同一の目標から得られた航跡データの対(以下、航跡データ対又は航跡対という)を抽出する。
また、同一航跡判定装置3の出力(同一の目標から得られた航跡対)は同一航跡表示装置4に入力され、装置の使用者に対して表示を行う。
【0008】
次に同一航跡判定装置3の内部について説明する。
【0009】
第1の航跡作成装置1及び第2の航跡作成装置2の出力は航跡データ記憶部5に入力され、あるサンプリング時刻tでの航跡データが全て記憶される。
第1の航跡作成装置1及び第2の航跡作成装置2からは、サンプリング時刻tごとに複数の航跡データが出力される。航跡データの各々は、移動体を表象するデータである。
【0010】
航跡データ対選択部6では、航跡データ記憶部5に記憶された第1の航跡作成装置1の航跡T(i’)と第2の航跡作成装置2の航跡T(j’)の組み合わせを航跡データ対として、1つ1つ選択し、相関判定部7に出力する。
ただし、i’=1、2、…Mall、Mall:航跡データ記憶部に記憶されている第1の航跡作成装置の全航跡数、j’=1、2、…Nall、Nall:航跡データ記憶部に記憶されている第1の航跡作成装置の全航跡数である。
【0011】
相関判定部7では、入力された航跡対{T(i’)、T(j’)}の航跡ベクトルから相関可能性を判定し、類生成部8に出力する。
【0012】
類生成部8では、入力された航跡対毎の相関可能性から、航跡データ記憶部5に記憶されている航跡の集合{T(i’)}と{T(j’)}を同一航跡候補群の集合{X}に分類し、類Xに含まれる第1の航跡作成装置1の航跡{T1,l(i)}と第2の航跡作成装置2の航跡{T2,l(j)}とともに、尤度算出部9に出力する。
ただし、l=1、2、…NΩ、NΩ:同一航跡候補群の総数、i=1、2、…M、M:Xに含まれる第1の航跡作成装置の航跡数、j=1、2、…N、N:Xに含まれる第2の航跡作成装置の航跡数である。
つまり、類生成部8は、第1の航跡作成装置1より転送された複数の航跡データと第2の航跡作成装置より転送された複数の航跡データとが組合わされて生成された複数の航跡データ対のうち相関可能性がある2以上の航跡データ対を同型の類として分類する。
【0013】
尤度算出部9では、入力された同型な類Xに含まれる各々の航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}の尤度{g(i,j)}を航跡ベクトルの差分、及び航跡ベクトルの誤差共分散を用いて算出し、各々の航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}とともに仮説生成判定部10に出力する。
つまり、尤度算出部9は、類生成部8で分類された同型の類に属する航跡データ対の各々が同一の移動体を表象している可能性を示す尤度を航跡データ対ごとに算出する。
【0014】
仮説生成判定部10では、入力された尤度{g(i,j)}から、同型な類Xにおいて仮説を一つに絞り込むことが可能か判定し、可能である場合、同型な類Xに含まれる各々の航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}を仮説生成部11に出力する。
【0015】
仮説生成部11では、入力された同型な類Xに含まれる相関の可能性のある各々の航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}から、同型な類Xにおいて矛盾のない航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}の組み合わせを仮説{H(l’)}として生成し、その仮説が含む各々の航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}の尤度{g(i,j)}とともに、信頼度算出部12に出力する。ただし、l’=1、2、…、Nl,k、Nl,k:同型な類Xから生成される仮説の総数である。
つまり、仮説生成部11は、類生成部8で分類された同型の類に属する航跡データを組合せて複数の仮説を生成する。
【0016】
信頼度算出部12では、入力された仮説{H(l’)}の信頼度{β(l’)}を、同じく入力された尤度{g(i,j)}を用いて算出し、同一航跡検定部13に出力する。
【0017】
同一航跡検定部13では、信頼度算出部12から入力される仮説{H(l’)}の信頼度{β(i,j)}の値により、当該の仮説が同一目標の組み合わせ{T1,l(i)、T2,l(j)}から得られたものか否かを判定し、同一目標から得られたものである場合、同一航跡表示装置4へ出力する。
つまり、同一航跡検定部13は、尤度算出部9により算出された尤度に基づいて算出される信頼度を用いて、仮説生成部11により生成される複数の仮説の中から、同一の移動体を表象している航跡データの組合せとして、特定の仮説を抽出する。
【0018】
以上が実施の形態1の構成である。装置の構成要素の内5〜9、及び11〜13は従来の技術であり、仮説生成判定部10が実施の形態1による部分である。
【0019】
詳細は後述するが、本実施の形態に係る仮説生成判定部10の動作を概説すると以下の通りである。
仮説生成判定部10は、仮説生成部11による仮説の生成に先立ち、尤度算出部9により算出された尤度に基づき、同一航跡検定部13が複数の仮説の中から特定の仮説を抽出できるか否かを予測し、同一航跡検定部13が特定の仮説を抽出できないと予測した場合に、仮説生成部11に仮説の生成を行わせない。
より具体的には、仮説生成判定部10は、尤度算出部9により算出された尤度を積算して、仮説生成部11が生成する複数の仮説に対応させて複数個の信頼度の重み値を算出するとともに、算出した複数個の重み値のうち値が大きい順にM個の重み値を抽出し、抽出したM個の重み値を解析して同一航跡検定部13が複数の仮説の中から特定の仮説を抽出できるか否かを予測する。本実施の形態では、値が大きい順に2個の重み値を抽出することとし、最大値に対する他の重み値の比率を解析して同一航跡検定部13が複数の仮説の中から1つの仮説を抽出できるか否かを予測する。
また、仮説生成判定部10は、尤度算出部9により算出された尤度の負の対数をとった対数尤度行列を用いて、値が大きい順に2個の重み値を抽出する。
【0020】
図2は、図1の実施の形態1の同一航跡判定装置の動作を説明するフローチャートである。
【0021】
図2のST1において、航跡データ記憶部5では、あるサンプリング時刻tでの第1の航跡作成装置1及び第2の航跡作成装置2からの航跡データ(位置、速度からなる航跡ベクトルT(i)、T(j)及び各航跡の誤差共分散行列P(i)、P(j))が全て記憶される。
【0022】
次いで、ST2において、航跡データ対選択部6により航跡データ記憶部5に記憶されている第1の航跡作成装置1及び第2の航跡作成装置2からの航跡データが組合わされ航跡対{T(i)、T(j)}となる。
航跡対{T(i)、T(j)}は、第1の航跡作成装置1からの航跡データの各々と第2の航跡作成装置2からの航跡データの各々を全ての組み合せて生成される。
そして、航跡対{T(i)、T(j)}が相関判定部7に入力され、数1、数2及び数3を同時に満たす場合、相関可能性ありと判定する。
【0023】
【数1】

【0024】
【数2】

【0025】
【数3】

【0026】
ただし、{x(i)、y(i)、z(i)}:航跡ベクトルT(i)の位置成分、{vx(i)、vy(i)、vz(i)}:航跡ベクトルT(i)の速度成分、{x(j)、y(j)、z(j)}:航跡ベクトルT(j)の位置成分、{vx(j)、vy(j)、vz(j)}:航跡ベクトルT(j)の速度成分、θ(i,j):航跡ベクトルT(i)と航跡ベクトルT(j)の進行方向の角度差、d:実験的に決定する位置の差のしきい値、d:実験的に決定する速度の差のしきい値、θ:実験的に決定する進行方向の角度差のしきい値である。
【0027】
次いで、ST3において、類生成部8では、相関判定部7で算出された相関可能性及び数4〜数7より同型な類を算出し、尤度算出部9に出力する。
【0028】
同型な類の算出方法は以下の通りである。
【0029】
第1の航跡作成装置1で作成された航跡T(i)とT(j)が第2の航跡作成装置2で作成されたT(m)と相関可能性がある場合、航跡T(i)とT(j)を類似航跡と呼び、数4と書く。
【0030】
【数4】

【0031】
第1の航跡作成装置1の航跡が数5の関係にある時、T(i)とT(j)は同値関係にあるといい、数6と書く。
同値関係にある航跡群を類と呼び、第1の航跡作成装置1の類Xのある航跡と第2の航跡作成装置2の類Xのある航跡に相関可能性がある場合、類Xと類Xは同型な類Xと呼び、数7と書く。
【0032】
【数5】

【0033】
【数6】

【0034】
【数7】

【0035】
ただし、ω(i,j):同型な類Xに含まれる航跡T(i)と航跡T(j)の相関可能性を示す行列要素であり、1のとき相関の可能性があり、0のとき相関の可能性がないことを示す。
【0036】
例えば、図5に示すように、第1の航跡作成装置1からの航跡データはT(1)、T(2)、T(3)の3つであり、第2の航跡作成装置2からの航跡データはT(1)、T(2)、T(3)の3つである場合に、T(1)とT(2)とT(3)及びT(1)とT(2)が同値関係となる。
図5において、相関可能性のある航跡データ同士は線で対応付けている。
【0037】
また、図6に示す例では、破線で囲んでいる航跡群が同型な類となる。
つまり、図6では、T(1)とT(2)は同値関係にあり、また、T(1)とT(2)は同値関係にあり、また、T(1)とT(2)及びT(1)とT(2)は相関関係がたどれるため、同型の類となる。
(3)とT(4)及びT(3)とT(4)についても同様である。
【0038】
次いで、ST4において、尤度算出部9では、類生成部8で算出された同型な類Xに含まれる航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}の尤度g(i,j)を数8により算出し、数7に示す同型な類に対応した数9に示す尤度行列XGとして仮説生成判定部10に出力する。
【0039】
尤度算出式は以下の通りである。
【0040】
【数8】

【0041】
ただし、P1,l(i):T1,l(i)の誤差共分散行列、P1,l(j):T2,l(j)の誤差共分散行列である。
尤度行列XGは、以下の通りである。
【0042】
【数9】

【0043】
ただし、M:類Xに含まれる第1の航跡作成装置1の航跡数、N:類Xに含まれる第2の航跡作成装置2の航跡数である。
【0044】
次いで、ST5において、仮説生成判定部10では、同型な類Xから生成される仮説H(l’)の信頼度のうち、その信頼度の重みが最も高い物γ(1)と次に大きい物γ(2)を高速な計算方法を用いて求める。
【0045】
一般に、仮説H(m)の信頼度の重みγ(m)は、仮説H(m)の要素に対応した数10に示すような尤度g(i,j)の積で算出される。
仮説H(m)は、後段の仮説生成部11において、同型な類Xの各要素ω(i,j)が1となっているものから、各行各列の要素が高々1つとなるように(航跡と航跡の組が高々1つとなるように)選択し、生成される。
仮説H(m)の信頼度の重みγ(m)の算出式は、以下の通りである。
【0046】
【数10】

ただし、ここでいうi、jは、仮説H(m)に含まれる要素である。
【0047】
同型な類Xから生成される仮説のうち、その信頼度が高いもの上位M個を高速に抽出する問題は、仮説H(m)の要素に対応した尤度g(i,j)の負の対数をとった対数尤度行列LOGXGを算出することにより、その行列要素を各行各列から高々1つだけ選択し、その和が最小となる組み合わせを求める問題に帰着する。
対数尤度行列LOGXGは、以下の通りである。
【0048】
【数11】

数11に示す対数尤度行列において、各行及び各列から高々一つ選択した要素の総和が小さい順に最大2個の組み合わせを高速に抽出し、総和が最も小さいものをγ(1)、ついで小さいものをγ(2)とする。
一般に、行列の各行及び各列から要素を高々一つ選択し、その総和が小さい順に最大M個の組み合わせを高速に抽出し発見する方式は、次のものが知られており、本実施の形態では当該方式を適用する。
この方式の一例は、“An Algorithm for anking all the Assignments in Order of IncreasingCost”(K.T.Murty, Operations Research, 16:682−6871968)に詳述されている。
次に、算出した信頼度の重みγ(1)及びγ(2)から、数12により、同型な類Xにおいて仮説を一つに絞り込む可能性があるか(換言すれば、同一航跡検定部13が複数の仮説の中から特定の仮説を抽出できるか否か)を判定し、可能性がある場合、同型な類Xに含まれる各々の航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}を仮説生成部11に出力する。
一方、同型な類Xにおいて仮説を一つに絞り込む可能性がない場合は、仮説生成判定部10は航跡対を仮説生成部11に出力せず、仮説生成部11に仮説の生成を行わせない。
仮説生成の判定式、つまり仮説を一つに絞り込む可能性があるか否かの判定基準は以下の通りである。
【0049】
【数12】

ただし、Th:その仮説が正しいと判定する閾値である。
なお、数12は、仮説信頼度の算出式が数13で表され、その仮説が正しいという判定が数14を用いて行われる場合、数14の条件を満たさないとき(仮説が絞り込めないとき)に、算出したγ(1)及びγ(2)の比が一定値以上となることを利用している。
仮説信頼度の算出式は以下の通りである。
【0050】
【数13】

ただし、β(l’):仮説H(l’)の信頼度、g(i,j):仮説H(l’)に含まれる航跡対の尤度である。
仮説の判定式は以下の通りである。
【0051】
【数14】

【0052】
次いで、仮説生成判定部10により仮説を一つに絞り込む可能性があると判断された場合は、ST6において、仮説生成部11が、仮説生成判定部10から入力された同型な類Xに含まれる相関の可能性がある各々の航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}から、航跡と航跡の組が高々1つとなるように(1つの航跡が2つ以上の航跡と相関がある、という状態が起きない様に)、算出可能な組み合わせすべてについて、仮説{H(l’)}として生成し、その仮説{H(l’)}に含まれる航跡対の尤度g(i,j)とともに信頼度算出部12に出力する。
【0053】
次いで、ST7において、信頼度算出部12では、仮説生成部11から入力された同型な類Xに含まれる仮説{H(l’)}に含まれる航跡対の尤度g(i,j)から、数11を用いてその信頼度β(l’)を算出し、同一航跡検定部13に出力する。
【0054】
次いで、ST8において、同一航跡検定部13では、信頼度算出部12で算出された信頼度β(l’)に対して、数13の信頼度判定を行う。
β(l’)が信頼度判定の条件を満たした場合、その仮説に含まれる航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}は同一航跡であるとして、同一航跡表示装置4に出力され、装置の使用者が確認できる。
【0055】
以上が実施の形態1の動作である。
ST1〜ST4、ST6〜ST8は従来の技術であり、ST5の仮説生成判定部10の動作が本実施の形態にかかる部分である。
【0056】
実施の形態1によれば、仮説生成判定部10を設けることにより、仮説生成を行う前に結論が得られる見込みを推定し、結論が得られる可能性のあるものに対してのみ計算を実行することにより、計算機の資源を有効に利用し、単位時間当りに多くの相関結果を出力することができる同一航跡判定装置を得ることができる。
【0057】
以上、本実施の形態では、
2つの航跡作成装置より転送される航跡ベクトルおよびそれらの誤差を評価した誤差共分散行列からなる航跡データを記憶する航跡データ記憶部と、
上記航跡データ記憶部から航跡データ対を選択する航跡データ対選択部と、
上記航跡データ対選択部で選択された航跡対の相関可能性を判定する相関判定部と、
上記相関判定部で相関可能性があると判定された航跡データ対を同型な類に分類する類生成部と、
上記類生成部で算出された各々の類に属する航跡データ対が同一目標である可能性を示す尤度を算出する尤度算出部と、
上記類生成部で生成された各々の同型な類から矛盾のない航跡の組み合わせを抽出する仮説生成部と、
上記仮説生成部で生成された仮説及び尤度生成部で算出された尤度を用いて各仮説の信頼度を算出する信頼度算出部と、
上記信頼度算出部で算出された信頼度から各々の航跡データ対は相関があるか否かを判定する同一航跡検定部とを備える同一航跡判定装置に対して、
上記尤度算出部で生成された尤度から、仮説生成を行う前に信頼度の大きな仮説を2つ事前に抽出し、仮説が絞り込めないときに抽出した仮説の比が一定値以上となることを利用して仮説生成の有無を判定する仮説生成判定部を加えたことにより、計算機の資源を有効に利用し、単位時間当りに多くの相関結果を出力する処理性能の向上を図った同一航跡判定装置について説明した。
【0058】
実施の形態2.
実施の形態1では、信頼度が高い仮説を予め抽出し、仮説生成を行う前に結論が得られる見込みを推定し、結論が得られる可能性のあるものに対してのみ計算を実行することにより、計算機の資源を有効に利用し、単位時間当りに多くの相関結果を出力することができる。
しかしながら、さらに多くの仮説が生成される場合、実施の形態1に示すような上位2仮説の抽出のみでは、仮説を一つに絞り込む可能性がないと判定できる機会が少なくなり、十分な所望の効果を発揮できない。
実施の形態2では、このような状況を避けるため、生成される仮説の規模に応じた上位仮説の抽出を行い、航跡が密集する状況下においても、多くの相関結果を出力することができるようにしたものである。
【0059】
図3は、実施の形態2における同一航跡判定装置3を示したものである。
図3における1〜7までの各要素は実施の形態1における図1と同様のため、説明を省く。
【0060】
類生成部8aでは、実施の形態1の類生成部8と同様に、同型な類{X}を算出し、類Xに含まれる第1の航跡作成装置1の航跡{T1,l(i)}と第2の航跡作成装置2の航跡{T2,l(j)}を、尤度算出部9及び計算規模判定部14に出力する。
【0061】
計算規模判定部14では、類生成部8aから入力された同型な類{X}の行列規模(M×N)(データ規模)に応じ、仮説生成判定部10による上位重み値の抽出数Mを決定し、決定した抽出数Mを仮説生成判定部10aへ出力する。
【0062】
尤度算出部9では、実施の形態1の尤度算出部9と同様に、同型な類Xに含まれる各々の航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}の尤度{g(i,j)}を、各々の航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}とともに仮説生成判定部10aに出力する。
【0063】
仮説生成判定部10aでは、尤度算出部9から入力された尤度{g(i,j)}及び計算規模判定部14から入力された上位仮説の抽出数Mから、同型な類Xにおいて仮説を一つに絞り込むことが可能か判定し、可能である場合、同型な類Xに含まれる各々の航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}を仮説生成部11に出力する。
【0064】
また、図3における11〜13までの各要素は実施の形態1における図1と同様のため、説明を省く。
【0065】
図4は、図3の実施の形態2の動作を説明するフローチャートである。
図4においてST1〜ST4は実施の形態1と同様であるため、説明を省く。
【0066】
図4のST9において、図3の計算規模判定部14では、類生成部8aから入力された同型な類{X}の行列規模(M×N)に応じ、上位仮説の抽出数Mを、仮説生成判定部10aへ出力する。行列規模に応じた上位仮説の抽出数Mを選択することで、後段の仮説生成判定部10aにおける計算負荷を仮説生成規模に応じた適当な時間内に抑えることができる。
なお、Mは行列規模に応じて保持する実験的に決められた値である。
【0067】
次いで、ST5aにおいて、仮説生成判定部10aでは、計算規模判定部14から入力される上位仮説の抽出数Mを用いて、同型な類Xから生成される仮説H(l’)の信頼度のうち、その信頼度の重みが高い上位M個の{γ(l)}を抽出し、実施の形態1と同様の方法で求める。ただし、l=1、2、・・・Mである。
【0068】
次に、算出した{γ(l)}を用いて、数15により、同型な類Xにおいて仮説を一つに絞り込む可能性があるか判定し、可能性がある場合、同型な類Xに含まれる各々の航跡対{T1,l(i)、T2,l(j)}を仮説生成部11に出力する。
【0069】
仮説生成の判定式は以下の通りである。
【数15】

ただし、γ(1):最も値が大きい仮説信頼度の重み、γ(m):m番目に値が大きい仮説信頼度の重み、Th:その仮説が正しいと判定する閾値である。
つまり、本実施の形態では、M個の重み値のうちの最大値に対する他の重み値の比率の総和を解析して同一航跡検定部13が複数の仮説の中から特定の仮説を抽出できるか否かを予測する。
なお、数15は、実施の形態1と同様に、仮説信頼度の算出式が数13で表され、その仮説が正しいという判定が数14を用いて行われる場合、数14の条件を満たさないとき(仮説が絞り込めないとき)に、算出したγ(1)とγ(m)の比の和が一定値以上となることを利用している。
実施の形態1と比べて複数の仮説信頼度の重みの比を取ることにより、仮説生成判定の精度を向上させている。
【0070】
次いで、ST6〜ST8の動作は、実施の形態1と同様であるため、説明を省く。
【0071】
以上が実施の形態2の動作である。
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の動作を行う類生成部8a、仮説生成判定部10aに計算規模判定部14を接続し、生成される仮説の規模に応じた上位M個の仮説の抽出を行うことにより、仮説生成規模に応じた適当な計算負荷で、仮説生成判定の精度を向上させ、航跡が密集する状況下においても、多くの相関結果を出力することができるようにしたものである。
【0072】
以上、本実施の形態では、実施の形態1に示した同一航跡判定装置に対して、類生成部から入力される同型な類の規模に応じ、仮説生成判定部で行う上位仮説の抽出数を制御し、生成される仮説の規模に応じた適当な計算負荷で、仮説生成判定の精度を向上させる計算規模判定部を加えたことにより、より負荷の高い状況においても相関結果を出力する処理性能の向上を図った同一航跡判定装置について説明した。
【0073】
最後に、実施の形態1及び2に示した同一航跡判定装置3のハードウェア構成例について説明する。
図7は、実施の形態1及び2に示す同一航跡判定装置3のハードウェア資源の一例を示す図である。
なお、図7の構成は、あくまでも同一航跡判定装置3のハードウェア構成の一例を示すものであり、同一航跡判定装置3のハードウェア構成は図7に記載の構成に限らず、他の構成であってもよい。
【0074】
図7において、同一航跡判定装置3は、プログラムを実行するCPU911(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサともいう)を備えている。
CPU911は、バス912を介して、例えば、ROM(Read Only Memory)913、RAM(Random Access Memory)914、通信ボード915、表示装置901、キーボード902、マウス903、磁気ディスク装置920と接続され、これらのハードウェアデバイスを制御する。表示装置901は、同一航跡表示装置4に相当する。
更に、CPU911は、FDD904(Flexible Disk Drive)、コンパクトディスク装置905(CDD)、プリンタ装置906、スキャナ装置907と接続していてもよい。また、磁気ディスク装置920の代わりに、光ディスク装置、メモリカード(登録商標)読み書き装置などの記憶装置でもよい。
RAM914は、揮発性メモリの一例である。ROM913、FDD904、CDD905、磁気ディスク装置920の記憶媒体は、不揮発性メモリの一例である。これらは、記憶装置の一例である。
通信ボード915、キーボード902、マウス903、スキャナ装置907、FDD904などは、入力装置の一例である。
また、通信ボード915、表示装置901、プリンタ装置906などは、出力装置の一例である。
【0075】
通信ボード915は、ネットワークに接続されている。例えば、通信ボード915は、LAN(ローカルエリアネットワーク)、インターネット、WAN(ワイドエリアネットワーク)などに接続されている。
【0076】
磁気ディスク装置920には、オペレーティングシステム921(OS)、ウィンドウシステム922、プログラム群923、ファイル群924が記憶されている。
プログラム群923のプログラムは、CPU911がオペレーティングシステム921、ウィンドウシステム922を利用しながら実行する。
【0077】
また、RAM914には、CPU911に実行させるオペレーティングシステム921のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。
また、RAM914には、CPU911による処理に必要な各種データが格納される。
【0078】
また、ROM913には、BIOS(Basic Input Output System)プログラムが格納され、磁気ディスク装置920にはブートプログラムが格納されている。
同一航跡判定装置3の起動時には、ROM913のBIOSプログラム及び磁気ディスク装置920のブートプログラムが実行され、BIOSプログラム及びブートプログラムによりオペレーティングシステム921が起動される。
【0079】
上記プログラム群923には、実施の形態1及び2の説明において「〜部」として説明している機能を実行するプログラムが記憶されている。プログラムは、CPU911により読み出され実行される。
【0080】
ファイル群924には、実施の形態1及び2の説明において、「〜の判断」、「〜の判定」、「〜の計算」、「〜の算出」、「〜の抽出」、「〜の比較」、「〜の評価」、「〜の更新」、「〜の設定」、「〜の登録」、「〜の選択」等として説明している処理の結果を示す情報やデータや信号値や変数値やパラメータが、「〜ファイル」や「〜データベース」の各項目として記憶されている。
「〜ファイル」や「〜データベース」は、ディスクやメモリなどの記録媒体に記憶される。ディスクやメモリなどの記憶媒体に記憶された情報やデータや信号値や変数値やパラメータは、読み書き回路を介してCPU911によりメインメモリやキャッシュメモリに読み出され、抽出・検索・参照・比較・演算・計算・処理・編集・出力・印刷・表示などのCPUの動作に用いられる。
抽出・検索・参照・比較・演算・計算・処理・編集・出力・印刷・表示のCPUの動作の間、情報やデータや信号値や変数値やパラメータは、メインメモリ、レジスタ、キャッシュメモリ、バッファメモリ等に一時的に記憶される。
また、実施の形態1及び2で説明しているフローチャートの矢印の部分は主としてデータや信号の入出力を示し、データや信号値は、RAM914のメモリ、FDD904のフレキシブルディスク、CDD905のコンパクトディスク、磁気ディスク装置920の磁気ディスク、その他光ディスク、ミニディスク、DVD等の記録媒体に記録される。また、データや信号は、バス912や信号線やケーブルその他の伝送媒体によりオンライン伝送される。
【0081】
また、実施の形態1及び2の説明において「〜部」として説明しているものは、「〜回路」、「〜装置」、「〜機器」であってもよく、また、「〜ステップ」、「〜手順」、「〜処理」であってもよい。すなわち、「〜部」として説明しているものは、ROM913に記憶されたファームウェアで実現されていても構わない。或いは、ソフトウェアのみ、或いは、素子・デバイス・基板・配線などのハードウェアのみ、或いは、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせ、さらには、ファームウェアとの組み合わせで実施されても構わない。ファームウェアとソフトウェアは、プログラムとして、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等の記録媒体に記憶される。プログラムはCPU911により読み出され、CPU911により実行される。すなわち、プログラムは、実施の形態1及び2の「〜部」としてコンピュータを機能させるものである。あるいは、実施の形態1及び2の「〜部」の手順や方法をコンピュータに実行させるものである。
【0082】
このように、実施の形態1及び2に示す同一航跡判定装置3は、処理装置たるCPU、記憶装置たるメモリ、磁気ディスク等、入力装置たるキーボード、マウス、通信ボード等、出力装置たる表示装置、通信ボード等を備えるコンピュータであり、上記したように「〜部」として示された機能をこれら処理装置、記憶装置、入力装置、出力装置を用いて実現するものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施の形態1に係る同一航跡判定装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1に係る同一航跡判定装置の動作例を説明するフローチャートである。
【図3】実施の形態2に係る同一航跡判定装置の構成例を示すブロック図である。
【図4】実施の形態2に係る同一航跡判定装置の動作例を説明するフローチャートである。
【図5】同値関係を説明する図である。
【図6】同型の類を説明する図である。
【図7】実施の形態1及び2に係る同一航跡判定装置のハードウェア構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1 第1の航跡作成装置、2 第2の航跡作成装置、3 同一航跡判定装置、4 同一航跡表示装置、5 航跡データ記憶部、6 航跡データ対選択部、7 相関判定部、8 類生成部、8a 類生成部、9 尤度算出部、10 仮説生成判定部、10a 仮説生成判定部、11 仮説生成部、12 信頼度算出部、13 同一航跡検定部、14 計算規模判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の航跡作成装置より転送された、各々が移動体を表象する複数の航跡データと第2の航跡作成装置より転送された複数の航跡データとが組合わされて生成された複数の航跡データ対のうち相関可能性がある2以上の航跡データ対を同型の類として分類する類生成部と、
前記類生成部で分類された同型の類に属する航跡データ対の各々が同一の移動体を表象している可能性を示す尤度を航跡データ対ごとに算出する尤度算出部と、
前記類生成部で分類された同型の類に属する航跡データを組合せて複数の仮説を生成する仮説生成部と、
前記尤度算出部により算出された尤度に基づいて算出される信頼度を用いて、前記仮説生成部により生成される複数の仮説の中から、同一の移動体を表象している航跡データの組合せとして、特定の仮説を抽出する同一航跡検定部と、
を備える同一航跡判定装置において、
前記仮説生成部による仮説の生成に先立ち、前記尤度算出部により算出された尤度に基づき、前記同一航跡検定部が複数の仮説の中から特定の仮説を抽出できるか否かを予測し、前記同一航跡検定部が特定の仮説を抽出できないと予測した場合に、前記仮説生成部に仮説の生成を行わせない仮説生成判定部を備えることを特徴とする同一航跡判定装置。
【請求項2】
前記仮説生成判定部は、
前記尤度算出部により算出された尤度を積算して、前記仮説生成部が生成する複数の仮説に対応させて複数個の信頼度の重み値を算出するとともに、値が大きい順にM個の重み値を抽出し、抽出したM個の重み値を解析して前記同一航跡検定部が複数の仮説の中から特定の仮説を抽出できるか否かを予測することを特徴とする請求項1に記載の同一航跡判定装置。
【請求項3】
前記仮説生成判定部は、
M個の重み値のうちの最大値に対する他の重み値の比率の総和を解析して前記同一航跡検定部が複数の仮説の中から特定の仮説を抽出できるか否かを予測することを特徴とする請求項2に記載の同一航跡判定装置。
【請求項4】
前記仮説生成判定部は、
値が大きい順に2個の重み値を抽出し、最大値に対する他の重み値の比率を解析して前記同一航跡検定部が複数の仮説の中から1つの仮説を抽出できるか否かを予測することを特徴とする請求項2又は3に記載の同一航跡判定装置。
【請求項5】
前記仮説生成判定部は、
前記尤度算出部により算出された尤度の負の対数をとった対数尤度行列を用いて、M個の重み値を抽出することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の同一航跡判定装置
【請求項6】
前記同一航跡判定装置は、更に、
前記類生成部で分類された同型の類に属する航跡データ対のデータ規模に基づき、前記仮説生成判定部による上位重み値の抽出数Mを決定する計算規模算出部を備え、
前記仮説生成判定部は、
前記計算規模算出部により決定された抽出数Mに従って、値が大きい順にM個の重み値を抽出することを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の同一航跡判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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