説明

同芯巻きカセットコイルの製造方法及び製造装置

【課題】高負荷の加工荷重に対応でき、高精度の加工をローコストで実現できるとともに、回転電機の小型化、高出力化の要請にも対応できること。
【解決手段】平角導線が巻回されたコイルをL型に折り曲げた後に、内径側及び外径側のスロット挿入部を左右に開き成形して製造する同芯巻きカセットコイルの製造方法において、軸方向上下のコイルエンド部を上方クランプ治具1及び下方クランプ治具2によりそれぞれ把持するとともに、内径側及び外径側のスロット挿入部を内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4によりそれぞれ把持する把持工程と、上方クランプ治具1を軸方向下側と径方向外側に動作させ、下方クランプ治具2を径方向外側に動作させ、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4を軸中心にそれぞれ円弧動作させる拡張成形工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用回転電機に使用する平角導線を巻回した同芯巻きカセットコイルの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題への対応及び搭載スペース上の課題から、車両に搭載される回転電機では小型化、高出力化の要求が厳しい。そのため、占積率が高く、多くの電流を流せる平角導線をコイルに用いる傾向にある。
例えば、平角導線を回転電機のステータコイルとして用いる場合、平角導線の長辺面(フラットワイズ面)を重ね合わせて巻回した後に、スロットに挿入されるスロット挿入部を左右に開き成形して、同芯巻きカセットコイルを成形する方法がある。そのコイル成形装置が、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されているコイル成形装置は、長手方向が直線である小判形のリング状コイルを亀甲状に成形する装置において、コイルの上側直線部(例えば、外径側のスロット挿入部に相当)を握持する第1のクランパー、この第1のクランパーを支持して上下円弧状に回動させるべく案内する第1の支持ブロックと作動シリンダー、架台上に固定され上記第1の支持ブロックを上下に摺動させるべく案内支持するフレームと作動シリンダー、コイルの下側直線部(例えば、内径側のスロット挿入部に相当)を握持する第2のクランパー、この第2のクランパーを支持し前後円弧状に回動させるべく案内する第2の支持ブロックと作動シリンダー、上記第2の支持ブロックを前後進させるシリンダー、コイルの両端半円部(上下のコイルエンド部に相当)を支持しコイルの成形時の動きに追従する一対の支持金具を備えている。
この装置によれば、コイルの直線部(外径側と内径側のスロット挿入部に相当)を任意の幅で平行に開く動作、更にコイルの直線部を、それぞれのクランプ位置を中心として捩る動作、コイルの左右直線部の高さ修正動作を連続して行なうことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−244755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術には、以下の問題がある。
まず、特許文献1の技術は、コイルの両端半円部(上下のコイルエンド部に相当)をコイルの成形時の動きに追従する一対の支持金具によって支持しているのみであり、開いたコイルの直線部(外径側と内径側のスロット挿入部に相当)に対してコイルの両端半円部(上下のコイルエンド部に相当)を所定の方向に移動させることはできないので、回転電機の小型化、高出力化の要請に応じることができない。
つまり、本来、コイルエンド部は、ステータコアの軸方向上下端の外側に配置されるものであるので、ステータコアの上端面、下端面に極力沿わせることができれば、回転電機の小型化に貢献できる。また、コイルエンド部は、その長さを極力短くすることができれば、銅損が減少するので、回転電機の高出力化に寄与できる。
したがって、コイルエンド部をただ単に支持してコイル成形時の動きに追従する特許文献1の技術では、コイルエンド部をステータコアの上端面、下端面に沿わせることも、その長さを短くさせることもできず、回転電機の小型化、高出力化の要請に対応することができない。
【0006】
また、特許文献1の技術は、クランパーを支持して上下円弧状に回動させるべく案内する支持ブロックと、支持ブロックを直線的に摺動させる支持フレームとを有するので、装置が大型化しやすく、コスト高になりやすい。また、クランパーの当金は操作レバーによって締付・開放する構造であるので、段取り時間が必要となり生産性が低下する。
【0007】
さらに、近年のハイブリッド自動車等の駆動用回転電機では、平角導線の断面積を大きくしたり、角部の曲げRを小さくしたりして、コイル成形に必要な加工荷重が増大する傾向にある。また、ステータコアとロータとの隙間やステータコアとコイルとの隙間を狭く設定するので、コイル成形後の寸法精度の要求も厳しい。そのため、加工荷重の増大や厳しい寸法精度をローコストで実現できる成形方法、装置が求められている。
【0008】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、平角導線を巻回した同芯巻きカセットコイルを製造する場合において、高負荷の加工荷重に対応でき、高精度の加工をローコストで実現できるとともに、回転電機の小型化、高出力化の要請にも対応できる製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る同芯巻きカセットコイルの製造方法及び製造装置は、次のような構成を有している。
(1)平角導線が巻回されたコイルをL型に折り曲げた後に、内径側及び外径側のスロット挿入部を左右に開き成形して製造する同芯巻きカセットコイルの製造方法において、
軸方向上下のコイルエンド部を上方クランプ治具及び下方クランプ治具によりそれぞれ把持するとともに、前記内径側及び外径側のスロット挿入部を内方クランプ治具及び外方クランプ治具によりそれぞれ把持する把持工程と、前記上方クランプ治具を軸方向下側と径方向外側に動作させ、前記下方クランプ治具を径方向外側に動作させ、前記内方クランプ治具及び前記外方クランプ治具を軸中心にそれぞれ円弧動作させる拡張成形工程とを有することを特徴とする。
【0010】
(2)(1)に記載された同芯巻きカセットコイルの製造方法において、
前記把持工程では、前記上方クランプ治具が前記内方クランプ治具との間隔より前記外方クランプ治具との間隔を広くして把持することを特徴とする。
(3)(1)又は(2)に記載された同芯巻きカセットコイルの製造方法において、
前記把持工程では、内方クランプ治具及び外方クランプ治具が把持完了したときにそれぞれのクランプ治具をセルフロックすることを特徴とする。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された同芯巻きカセットコイルの製造方法において、
前記拡張成形工程では、各クランプ治具が同期して動作することを特徴とする。
(5)平角導線が巻回されたコイルをL型に折り曲げた後に、内径側と外径側のスロット挿入部を左右に開き成形して製造する同芯巻きカセットコイルの製造装置において、
軸方向上下のコイルエンド部をそれぞれ把持する上方クランプ治具及び下方クランプ治具と、前記内径側及び外径側のスロット挿入部をそれぞれ把持する内方クランプ治具及び外方クランプ治具とを備え、前記上方クランプ治具を軸方向下側と径方向外側に動作させ、前記下方クランプ治具を径方向外側に動作させ、前記内方クランプ治具及び前記外方クランプ治具を軸中心にそれぞれ円弧動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このような特徴を有する本発明の同芯巻きコイルの製造方法は、以下のような作用効果を奏する。
(1)の発明は、軸方向上下のコイルエンド部を上方クランプ治具及び下方クランプ治具によりそれぞれ把持するとともに、内径側及び外径側のスロット挿入部を内方クランプ治具及び外方クランプ治具によりそれぞれ把持する把持工程と、上方クランプ治具を軸方向下側と径方向外側に動作させ、下方クランプ治具を径方向外側に動作させ、内方クランプ治具及び外方クランプ治具を軸中心にそれぞれ円弧動作させる拡張成形工程とを有するので、高負荷の加工荷重に対応でき、高精度の加工をローコストで実現できるとともに、回転電機の小型化、高出力化の要請にも対応できる。
【0012】
具体的には、(1)の発明は、拡張成形工程において、上方クランプ治具、下方クランプ治具、内方クランプ治具、及び外方クランプ治具の各クランプ治具が、それぞれ自ら動作するので、高負荷の加工荷重に対応することができる。特に、上方クランプ治具及び下方クランプ治具が、所定の動作をすることによって、内方クランプ治具及び外方クランプ治具の円弧動作による拡張成形時の加工荷重を上方クランプ治具及び下方クランプ治具が分担することができる。そのため、内方クランプ治具及び外方クランプ治具の負担を軽減でき、加工荷重を軽減することによって、クランプ治具や装置フレームの撓みを低減できるので、高精度の加工も可能となる。また、加工荷重を各クランプ治具が分担することによって、駆動装置自体を小型化でき、装置全体をコンパクトにすることができるので、設備費の低減に繋がる。
【0013】
また、(1)の発明は、内径側と外径側のスロット挿入部を内方クランプ治具及び外方クランプ治具によりそれぞれ把持して、内方クランプ治具及び外方クランプ治具を軸中心にそれぞれ円弧動作させるので、内径側と外径側のスロット挿入部が円弧軌道に沿って左右に開き成形される。開き成形に伴い、軸方向上側のコイルエンド部では、同芯円状に巻回された半円部を頂点に山型に傾斜する傾斜部が左右に形成される。このとき、外径側のスロット挿入部は、内径側のスロット挿入部よりも軸中心からの距離(円弧軌道の半径)が長いので、上記左右の傾斜部の内、外径側のスロット挿入部に繋がる傾斜部が、内径側のスロット挿入部に繋がる傾斜部より多く伸ばされようとする。
しかし、(1)の発明は、軸方向上方のコイルエンド部を上方クランプ治具により把持し、上方クランプ治具を軸方向下側と径方向外側に動作させるので、外径側のスロット挿入部に繋がる傾斜部寄りに、同芯円状に巻回された半円部の頂点を移動させることができる。そのため、左右の傾斜部の内、外径側のスロット挿入部に繋がる傾斜部が、内径側のスロット挿入部に繋がる傾斜部より多く伸ばされる必要がなくなり、内径側と外径側のスロット挿入部を左右に開き成形する加工荷重を低減できる。また、左右の傾斜部の成形量にバランスがとれるので、高精度の加工が可能となる。また、同芯円状に巻回された半円部の頂点を径方向外側に移動させるので、内径側に挿入されるロータとの干渉を回避することができる。
【0014】
また、(1)の発明は、外径側のスロット挿入部に繋がる傾斜部寄りに、同芯円状に巻回された半円部の頂点を移動させて、左右の傾斜部を所定の傾斜角とすることができる。左右の傾斜部を所定の傾斜角とすることによって、コイルエンド部は、ステータコアの軸方向上端の外側に配置されたとき、ステータコアの上端面に沿わせることができる。そのため、コイルエンド部とステータコア上端面との空隙を減らし、回転電機の軸方向の高さを縮めることができる。その結果、回転電機の小型化に貢献できる。また、コイルエンド部をステータコアの上端面に沿わせることによって、コイルエンド部の長さを短くすることができる。そして、その短くした分、銅損を減少させることができるので、回転電機の高出力化にも寄与できる。
【0015】
また、(1)の発明は、軸方向下方のコイルエンド部を下方クランプ治具により把持し、下方クランプ治具を径方向外側に動作させるので、L字形の水平部が左右に開き成形される。そのとき、L字形の水平部を左右に開き成形する加工荷重を、下方クランプ治具が分担できる。その分、内径側と外径側のスロット挿入部を左右に開き成形する加工荷重を低減できる。
また、下方クランプ治具を径方向外側の所定位置に動作させることによって、内径側と外径側のスロット挿入部を左右に開き成形する動作に単に追従する方法(特許文献1のケース)に比較して、軸方向下方のコイルエンド部の長さを短くすることができ、その短くした分、銅損を減少させることができるので、回転電機の高出力化にも寄与できる。
よって、(1)の発明によれば、平角導線を巻回した同芯巻きカセットコイルを製造する場合において、高負荷の加工荷重に対応でき、高精度の加工をローコストで実現できるとともに、回転電機の小型化、高出力化の要請にも対応できる製造方法を提供することができる。
【0016】
(2)に記載された発明は、(1)に記載された同芯巻きカセットコイルの製造方法において、把持工程では、上方クランプ治具が内方クランプ治具との間隔より外方クランプ治具との間隔を広くして把持するので、外径側のスロット挿入部に繋がる傾斜部を内径側のスロット挿入部に繋がる傾斜部より、長くすることができる。そのため、同芯円状に巻回された半円部を頂点に山型に傾斜する傾斜部の傾斜角を左右均等にすることができる。傾斜部の傾斜角を左右均等にすることによって、複数のコイルをステータコアに挿入した時に、隣り合うコイルが傾斜部で重なって、コイル間を密着させることができる。そして、コイル間が密着するので、回転電機の軸方向の高さを縮めることができ、回転電機の小型化により一層貢献できる。また、ステータコアの軸方向上端におけるコイル間を密着させることによって、コイルエンド部の長さを短くすることができる。そして、その短くした分、銅損を減少させることができるので、回転電機の高出力化にもより一層寄与できる。
よって、(2)の発明によれば、複数のコイルをステータコアに挿入した時に、隣り合うコイルが傾斜部で重なって、コイル間を密着させ、回転電機の小型化、高出力化の要請により一層対応できる。
【0017】
(3)に記載された発明は、(1)又は(2)に記載された同芯巻きカセットコイルの製造方法において、把持工程では、内方クランプ治具及び外方クランプ治具が把持完了したときにそれぞれのクランプ治具をセルフロックするので、高負荷の加工荷重に対して、コイルを確実に把持した状態で内径側のスロット挿入部と外径側のスロット挿入部とを左右に開き成形することができる。コイルを確実に把持した状態で開き成形するので、把持位置がずれることがなく、高精度の加工が可能となる。すなわち、スロット挿入部に重ね合わされた1本1本の平角導線の位置ずれを防止し、スロット挿入部の軸中心に対する開き量、開き角度等を狙い値に加工でき、バラつきを低減できる。
また、クランプ治具はセルフロック(自働的にロック)するので、特許文献1に記載されているように操作レバーによって操作する必要がない。そのため、操作レバーを操作するという段取り時間を省略することができるので、生産性を向上させることができ、コスト低減できる。
よって、(3)の発明によれば、より高精度の加工を、よりローコストで実現できる。
【0018】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された同芯巻きカセットコイルの製造方法において、拡張成形工程では、各クランプ治具が同期して動作するので、上方クランプ治具、下方クランプ治具、内方クランプ治具、外方クランプ治具のそれぞれが互いに関連した動作を行い、高負荷の加工荷重に効率的に対応できる。また、各クランプ治具は同期して動作するので、クランプ治具が把持したコイルの位置で、滑りをほとんど生じることなく把持し続けることができる。クランプ治具の把持位置で滑りが生じにくいので、平角導線を被覆する絶縁皮膜を傷付ける恐れも少ない。したがって、コイル成形での品質不良が低減する。
よって、(4)の発明によれば、高負荷の加工荷重に効率的に対応でき、品質不良を低減してよりローコストで実現できる。
【0019】
このような特徴を有する本発明の同芯巻きカセットコイルの製造装置は、以下のような作用効果を奏する。
(5)平角導線が巻回されたコイルをL型に折り曲げた後に、内径側と外径側のスロット挿入部を左右に開き成形して製造する同芯巻きカセットコイルの製造装置において、軸方向上下のコイルエンド部をそれぞれ把持する上方クランプ治具及び下方クランプ治具と、内径側及び外径側のスロット挿入部をそれぞれ把持する内方クランプ治具及び外方クランプ治具とを備え、上方クランプ治具を軸方向下側と径方向外側に動作させ、下方クランプ治具を径方向外側に動作させ、内方クランプ治具及び外方クランプ治具を軸中心にそれぞれ円弧動作させるので、平角導線を巻回した同芯巻きカセットコイルを製造する場合において、高負荷の加工荷重に対応でき、高精度の加工をローコストで実現できるとともに、回転電機の小型化、高出力化の要請にも対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】三角形に巻回したコイルをL型に加工する加工説明図である。
【図2】(a)はL型コイルを把持するクランプ治具の配置図を示し、(b)は上方クランプ治具の動作方向を示す。
【図3】各クランプ治具の動作説明図である。
【図4】各クランプ治具の同期状態を示す動作線図である。
【図5】同芯巻きカセットコイルの拡張成形装置の正面方向から見た断面図である。
【図6】同芯巻きカセットコイルの拡張成形装置の側面方向から見た断面図である。
【図7】内方クランプ治具におけるコイルセット時の断面図である。
【図8】外方クランプ治具におけるコイルセット時の断面図である。
【図9】内方クランプ治具における駆動側爪部を閉じた時の断面図である。
【図10】内方クランプ治具における背圧側爪部を閉じた時の断面図である。
【図11】内方クランプ治具をロックした時の断面図である。
【図12】外方クランプ治具における駆動側爪部を閉じた時の断面図である。
【図13】外方クランプ治具における背圧側爪部を閉じた時の断面図である。
【図14】外方クランプ治具をロックした時の断面図である。
【図15】内方クランプ治具における加工完了時の断面図である。
【図16】外方クランプ治具における加工完了時の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明に係る同芯巻きカセットコイルの製造方法及び製造装置の実施形態について図面を参照して説明する。
ここでは、始めに、L型コイルの成形方法と構成を簡単に説明した上で、L型コイルを把持するクランプ治具の配置構成とL型コイルから同芯巻きカセットコイルに拡張成形する各クランプ治具の動作方法を説明する。その後、この動作方法を実現する拡張成形装置について詳細に説明する。
【0022】
<L型コイルの成形方法と構成>
まず、本発明に用いるL型コイルの成形方法と構成から説明する。図1に、三角形に巻回したコイルをL型に加工する加工説明図を示す。
図1に示すように、L型コイルC1は、扁平な三角形コイルC0を折り曲げて成形する。扁平な三角形コイルC0は、1本の平角導線から作られており、三角形の芯金に巻回して製作する。平角導線は、長辺が5〜10mm程度で短辺が1〜5mm程度の矩形断面をした導線である。表面には、エナメル等の絶縁材料が被覆されている。平角導線は、長辺面(フラットワイズ面)を重ね合わせて複数回巻回する。本実施形態では、5回巻回している。平角導線の端部は、端子部を構成するため、一方のコイルエンド部から突出している。端子部は、ステータコアの軸方向上端に配置されるので、端子部のあるコイルエンド部が軸方向の上方となる。
【0023】
扁平な三角形コイルC0は、左右と上下で内側に巻回したコイルが当接又は近接するようにL字形に折り曲げられ、L型コイルC1に加工される。
扁平な三角形コイルC0をL型コイルC1に折り曲げる方法は、コイルの大きさ等に適合した専用治具を用いて行う。専用治具に扁平な三角形コイルをセットして、例えば、図1に示す点Pと点Qを図示しないシリンダー等で矢印の方向に押し出すことによって、L型コイルC1に折り曲げる。
【0024】
L型コイルC1は、上下方向の直線部と水平方向の水平部とで構成される。直線部は左右に分離され、上端には同芯円状に巻回された半円部が形成されている。また、直線部の下端には水平方向へ直角に曲げられた角R部が形成されている。また、水平部は上下に分離され、直線部下端の角R部から水平方向に延伸して端末に同芯円状に巻回された半円部が形成されている。半円部及び角R部は、成形上可能な最少半径で曲げRを形成している。最少半径は、平角導線の短辺長程度である。
【0025】
<クランプ治具の配置と動作方法>
次に、L型コイルを把持するクランプ治具の配置構成と、L型コイルから同芯巻きカセットコイルに拡張成形するために各クランプ治具が動作する動作方法を説明する。図2(a)に、L型コイルを把持するクランプ治具の配置図を示し、(b)に、上方クランプ治具の動作方向を示す。図3に、各クランプ治具の動作説明図を示す。図4に、各クランプ治具の同期状態を示す動作線図を示す。
図2(a)に示すように、4個のクランプ治具が、4箇所でL型コイルC1を把持する。図2(a)には、各クランプ治具の外形形状を図示している。L型コイルC1の内、直線部上端の半円部W1を上方クランプ治具1が把持し、水平部端末の半円部W2を下方クランプ治具2が把持する。また、L型コイルの内径側スロット挿入部S1を内方クランプ治具3が把持し、外径側スロット挿入部S2を外方クランプ治具4が把持する。
【0026】
図2(a)、(b)に示すように、上方クランプ治具1は、矩形状をなして、下把持端1Lが内方クランプ治具3と外方クランプ治具4の上把持端3U、4Uに対して内方クランプ治具3寄りに傾斜して配置されている。したがって、上方クランプ治具1は、内方クランプ治具3との間隔Bより、外方クランプ治具4との間隔Aを広くして把持している。ここで、上方クランプ治具1は、傾斜した位置から軸方向下側と径方向外側に動作する。その結果、上方クランプ治具1の姿勢は、傾斜状態から、軸方向下側と径方向外側に動作しながら反時計方向に回動して、起立状態になる(図2(b)参照)。
また、下方クランプ治具2は、矩形状をなして、左把持端2Hが水平部N1、N2に直交して配置されている。
【0027】
図2(a)に示すように、内方クランプ治具3と外方クランプ治具4とは、全体で略矩形状をなしている。内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の上把持端3U、4Uは、直線部上端の半円部W1から所定距離だけ離れて、直線部に直交する同一直線上に配置されている。内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の下端は、角R部のR形状に沿って形成され、角R部が水平部N1、N2と交差するR止まりの位置まで把持している。したがって、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の下把持端3L、4Lは、水平部端末の半円部W2から所定距離だけ離れて、水平部N1、N2に直交する同一直線上に配置されている。内方クランプ治具3と外方クランプ治具4とが隣接する境界線3K、4Kは、直線部及び角R部の境界線に沿って画成されている。
【0028】
各クランプ治具は、図2(a)に示す位置でL型コイルC1を把持した後、図3に示す矢印の方向に、動作する。
図3に示すように、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4をステータコアの軸中心Oを中心にそれぞれ円弧動作させると、内径側と外径側のスロット挿入部S1、S2に対応する左右の直線部が円弧軌道に沿って左右に開き成形される。開き成形された左右の直線部では、平角導線が径方向に整列されている。また、左右の開き角は、直線部上端の半円部W1と軸中心Oを結ぶ線に対して均等となる。
図3に示すように、左右の直線部の開き成形に伴って、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の上把持端3U、4Uより上側の直線部では、同芯円状に巻回された半円部W1を頂点に山型に傾斜する傾斜部M1、M2が左右に形成される。このとき、左側直線部は、右側直線部よりも軸中心からの距離(円弧軌道の半径)が長いので、左右の傾斜部の内、左側の外径側傾斜部M2が右側の内径側傾斜部M1より多く伸ばされようとする。しかし、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の円弧動作に同期して、上方クランプ治具1は軸方向下側と径方向外側に動作するので、円弧軌道の半径が近似することになって、左右の傾斜部M1、M2の成形量にバランスがとれる。
【0029】
また、図2(a)に示すように、上方クランプ治具1は、内方クランプ治具3との間隔Bより、外方クランプ治具4との間隔Aを広くして把持しているので、図3において、左側の外径側傾斜部M2が右側の内径側傾斜部M1より長くなる。また、図2(b)に示すように、上方クランプ治具1の姿勢は、軸方向下側と径方向外側に動作しながら反時計方向に回動して起立状態になるので、図3において、上方クランプ治具1の下把持端1Lと内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の上把持端3U、4Uとが略平行になる。よって、左右の傾斜部M1、M2は、上下方向の傾斜角と径方向の傾斜角とが略均等になる。
【0030】
また、図3に示すように、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の円弧動作に同期して、下方クランプ治具2は径方向外側に動作するので、L字形の水平部N1、N2が左右に開き成形される。内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の下把持端3L、4Lは、水平部端末の半円部W2から所定距離だけ離れて、水平部に直交する同一直線上に配置されているので、左右に開き成形された水平部N1、N2の長さは、左右で略均等である。
【0031】
図4に示すように、拡張成形工程では、各クランプ治具1、2、3、4が同期して動作する。図4における横軸は、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の移動量(開き角度)を示す。また、縦軸は、上方クランプ治具1と下方クランプ治具2の移動量(距離)を示す。各クランプ治具の移動量は、成形量の増大に伴って変化する。内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の移動量(開き角度)に対して、上方クランプ治具1の軸方向下側への移動量が最も多く、次に上方クランプ治具2の径方向外側への移動量が多く、下方クランプ治具2の移動量が最も少ないが、移動量はそれぞれクランプ治具の位置における成形量に基づいて設定されているので、クランプ治具の把持位置においてコイルと治具が滑ることはない。
以上のように、各クランプ治具1、2、3、4が動作することによって、L型コイルC1から同芯巻きカセットコイルC2に拡張成形することができる。
【0032】
<拡張成形装置>
次に、上述した各クランプ治具1、2、3、4を動作させる拡張成形装置100について説明する。はじめに、装置の全体構造を説明する。図5に、同芯巻きカセットコイルの拡張成形装置の正面方向から見た断面図を示し、図6に、同芯巻きカセットコイルの拡張成形装置の側面方向から見た断面図を示す。図7に、内方クランプ治具におけるコイルセット時の断面図を示し、図8に、外方クランプ治具におけるコイルセット時の断面図を示す。
図5、図6に示すように、同芯巻きカセットコイルC2の拡張成形装置100は、上方クランプ治具1、下方クランプ治具2、内方クランプ治具3、外方クランプ治具4、第1の駆動装置5、第2の駆動装置6、第3の駆動装置7、及び本体フレーム8を備えている。
【0033】
図5に示すように、上方クランプ治具1は、平行に対峙する板状体の爪部を有し、該爪部の一端が第2の駆動装置6に連結されている。第2の駆動装置6は、3個の駆動ユニット(第1〜3)から構成されている。第1の駆動ユニット61は、上方クランプ治具1に直接連結されてコイルの把持動作を行わせる。第2の駆動ユニット62は、第1の駆動ユニット61をスライドテーブルに載置して軸方向下側に移動させる。第3の駆動ユニット63は、第2の駆動ユニット62を載置して径方向外側に移動させる。第3の駆動ユニット63は、図示しないが本体フレーム8に補助フレームを介して固定されている。
【0034】
また、図5に示すように、下方クランプ治具2は、平行に対峙する板状体の爪部を有し、該爪部の一端が第3の駆動装置7に連結されている。第3の駆動装置7は、2個の駆動ユニット(第4〜5)から構成されている。第4の駆動ユニット71は、下方クランプ治具2に直接連結されてコイルの把持動作を行わせる。第5の駆動ユニット72は、第4の駆動ユニット71を径方向外側に移動させる。第5の駆動ユニット72は、図示しないが本体フレーム8に補助フレームを介して固定されている。
なお、第1〜第5の駆動ユニット61、62、63、71、72は、駆動モータとボールねじとボールナット等を備える一般的な駆動ユニットである。
【0035】
図6、図7に示すように、内方クランプ治具3は、X字状の爪部を有し、該爪部の一方でコイルを把持し、他方で第1の駆動装置5に連結されている。X字状の爪部は、交差部を軸部材81によって軸支されている。軸部材81は、両端の軸受け部材82を介して本体フレーム8の上テーブル83に固定されている。軸部材81は、同芯巻きカセットコイルC2をステータコアに挿入したときに、ステータコアの軸中心に当たる位置に配置されている。
X字状の爪部は、駆動側爪部31と背圧側爪部32とを備えている。駆動側爪部31の他方は、第1の駆動リンク34、35を介して第1の駆動装置5の主駆動テーブル54に連結されている。また、背圧側爪部32の他方は、円弧状アーム36の一端に固定され、円弧状アーム36の他端が、第1の背圧シリンダー37にヒンジピン361にて連結されている。第1の背圧シリンダー37の下端371は、本体フレーム8の上テーブル83から垂下するブラケット86に軸支されている。
【0036】
図7に示すように、コイルセット時には駆動側爪部31と背圧側爪部32とをX字状に開いている。駆動側爪部31及び背圧側爪部32の一方にあるコイル把持部には、それぞれ当接部材311、321が設けられていて、コイルを把持したとき傷つけないようにしている。駆動側爪部31の当接部材311には、コイルの内径側傾斜部M1を案内する案内爪が形成されている。当接部材311、321の材質は、金属でも非金属でもよい。
駆動側爪部31の他方は、鉤状リンク連結部33を介して、第1の駆動リンク34、35と連結している。第1の駆動リンク34、35は、弓形状リンク34と第1の直状リンク35とに分かれている。弓形状リンク34には、駆動側爪部31と背圧側爪部32とが閉じたとき、下端が嵌り込む段差溝341が形成されている。第1の直状リンク35は、下端にて第1の駆動装置5の主駆動テーブル54に連結されている。鉤状リンク連結部33と弓形状リンク34と第1の直状リンク35と主駆動テーブル54との各連結部には、それぞれヒンジピン343、351、352が嵌装されている。
【0037】
図6、図8に示すように、外方クランプ治具4は、V字状の爪部を有し、該爪部の中間部でコイルを把持し、先端部で第1の駆動装置5に連結されている。V字状の爪部は、交差部を軸部材81によって軸支されている。軸部材81は、内方クランプ治具3と共通である。
V字状の爪部は、駆動側爪部41と背圧側爪部42とを備えている。駆動側爪部41は、第2の駆動リンク44、45を介して第1の駆動装置5の主駆動テーブル54に連結されている。また、背圧側爪部42は、へ字状アーム46の一端に固定され、へ字状アーム46の他端が、第2の背圧シリンダー47にヒンジピン461にて連結されている。第2の背圧シリンダー47の下端471は、本体フレーム8の上テーブル83から垂下するブラケット87に軸支されている。
【0038】
図8に示すように、コイルセット時には駆動側爪部41と背圧側爪部42とをV字状に開いている。駆動側爪部41及び背圧側爪部42の中間にあるコイル把持部には、それぞれ当接部材411、421が設けられていて、コイルを把持したとき傷つけないようにしている。駆動側爪部41の当接部材411には、コイルの外径側傾斜部M2を案内する案内爪が形成されている。当接部材411、421の材質は、金属でも非金属でもよい。
駆動側爪部41の先端部は、コ字状リンク連結部43を介して、第2の駆動リンク44、45と連結している。第2の駆動リンク44、45は、鉤形状リンク44と第2の直状リンク45とに分かれている。鉤形状リンク44には、駆動側爪部41と背圧側爪部42とが閉じたとき、先端が嵌り込む段差溝441が形成されている。第2の直状リンク45は、下端にて第1の駆動装置5の主駆動テーブル54に連結されている。コ字状リンク連結部43と鉤形状リンク44と第2の直状リンク45と主駆動テーブル54との各連結部には、それぞれヒンジピン443、451、452が嵌装されている。
【0039】
図6に示すように、第1の駆動装置5は、主駆動モータ51、主ボールねじ52、主ボールナット53、主駆動テーブル54、ガイド棒55、及び軸受け部56を備えている。
主駆動モータ51は、拡張成形における主モータであって、駆動軸を上にして本体フレーム8の下テーブル85に固定されている。駆動軸は、カップリングを介して上下に延びる主ボールねじ52に連結されている。主ボールねじ52の中間には、主ボールナット53が嵌合され主駆動モータ51の回転に応じて上下動する。主ボールナット53は、水平に配置される主駆動テーブル54の中央に穿設された貫通孔に挿入固定されている。主駆動テーブル54の両端には、ガイド棒55が廻り止めとして固定されている。ガイド棒55は、下テーブル85に固定されたブッシュに案内されている。軸受け部56は、上テーブル83と下テーブル85の2箇所で主ボールねじ52を軸支している。
主駆動モータ51及び前述した第1〜5の駆動ユニットに用いる各駆動モータには、同期して動作させることができるよう、それぞれサーボモータを使用している。
本体フレーム8は、上述した上テーブル83と下テーブル85の他に外フレーム88と内フレーム84とを備えている。外フレーム88は、上テーブル83の4隅から垂下されて装置全体を支持するフレームである。下テーブル85の4隅には、内フレーム84が立設されて上テーブル83と連結している。
【0040】
<拡張成形装置の動作方法>
次に、上述した拡張成形装置の動作方法について説明する。図9に、内方クランプ治具における駆動側爪部を閉じた時の断面図を示し、図10に、内方クランプ治具における背圧側爪部を閉じた時の断面を図示し、図11に、内方クランプ治具をロックした時の断面図を示す。また、図12に、外方クランプ治具における駆動側爪部を閉じた時の断面図を示し、図13に、外方クランプ治具における背圧側爪部を閉じた時の断面図を示し、図14に、外方クランプ治具をロックした時の断面図を示す。また、図15に、内方クランプ治具における加工完了時の断面図を示し、図16に、外方クランプ治具における加工完了時の断面図を示す。
内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の把持工程と拡張成形工程において、1つの主駆動モータ51が2段階に分けて回転し、把持動作と円弧動作とを連続的に行う。この場合、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の把持工程と拡張成形工程の動作は、それぞれ同時に行われる。
【0041】
1.内方クランプ治具及び外方クランプ治具の動作
まず、内方クランプ治具3の把持動作を説明する。
図9に示すように、L型コイルC1を拡張成形装置100にセットした後、第1の駆動装置5の主駆動モータ51を起動すると、主駆動テーブル54が第1の高さまで上昇して、第1の直状リンク35を上昇させる。そのとき、弓形状リンク34は反時計方向に揺動し、駆動側爪部31は軸部材81を中心に反時計方向に回動して、右側からコイルに当接する。
次に、図10に示すように、第1の背圧シリンダー37に作動流体を入力し、シリンダーロッド372を伸長させる。そのとき、円弧状アーム36は時計方向に揺動し、背圧側爪部32は軸部材81を中心に時計方向に回動して、左側からコイルに当接する。駆動側爪部31と背圧側爪部32とによって、L型コイルC1の内径側に相当する直線部を左右両側から把持する。
その後、図11に示すように、第1の背圧シリンダー37にさらに作動流体を入力し、シリンダーロッド372を伸長させる。このとき、主駆動モータ51は停止させているので、弓形状リンク34が僅かに時計方向に戻されると同時に、第1の直状リンク35は垂直方向に起立する。これによって、内方クランプ治具3の駆動側爪部31と背圧側爪部32とが把持した状態で、下端312、322が段差溝341に嵌り込み、セルフロックされる。
【0042】
次に、外方クランプ治具4の把持動作を説明する。外方クランプ治具4の把持動作は、前述した内方クランプ治具3の把持動作と同時に行う。
図12に示すように、主駆動テーブル54が第1の高さまで上昇して、第2の直状リンク45を上昇させる。そのとき、鉤形状リンク44は時計方向に揺動し、駆動側爪部41は軸部材81を中心に時計方向に回動して、左側からコイルに当接する。
次に、図13に示すように、第2の背圧シリンダー47に作動流体を入力し、シリンダーロッド472を伸長させる。そのとき、へ字状アーム46は時計方向に揺動し、背圧側爪部42は軸部材81を中心に時計方向に回動して、右側からコイルに当接する。外方クランプ治具4の駆動側爪部41と背圧側爪部42とによって、L型コイルC1の外径側に相当する直線部を左右両側から把持する。
その後、図14に示すように、第2の背圧シリンダー47にさらに作動流体を入力し、シリンダーロッド472を伸長させる。このとき、主駆動モータ51は停止させているので、鉤形状リンク44と第2の直状リンク45が僅かに反時計方向に戻されると同時に、鉤形状リンク44の先端側が僅かに下がる。これによって、外方クランプ治具4の駆動側爪部41と背圧側爪部42とが把持した状態で、先端412、422が段差溝441に嵌り込み、セルフロックされる。
【0043】
上述したように、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4が把持完了したときにセルフロックされる。セルフロック後に、主駆動モータ51が再動作して主駆動テーブル54が再上昇する。
図15に示すように、主駆動テーブル54が第2の高さまで再上昇することによって、第1の直状リンク35を上昇させる。このとき、第1の直状リンク35及び弓形状リンク34は反時計方向に揺動し、駆動側爪部31及び背圧側爪部32をセルフロックしたまま軸部材81を中心に反時計方向に回動(円弧動作)させて、L型コイルC1の内径側の直線部を開き成形する。背圧側爪部32には、背圧シリンダー37から背圧がかかった状態で開き成形する。背圧シリンダー37から背圧をかけることによって、開き成形に伴い加工荷重が増加しても、把持部の緩みを防止する効果がある。
【0044】
また、図16に示すように、主駆動テーブル54が第2の高さまで再上昇することによって、第2の直状リンク45を上昇させる。このとき、第2の直状リンク45及び鉤形状リンク44は時計方向に揺動し、駆動側爪部41及び背圧側爪部42をセルフロックしたまま軸部材81を中心に時計方向に回動(円弧動作)させて、L型コイルC1の外径側の直線部を開き成形する。背圧側爪部42には、第2の背圧シリンダー47から背圧がかかった状態で開き成形する。第2の背圧シリンダー47から背圧をかけることによって、開き成形に伴い加工荷重が増加しても、把持部の緩みを防止する効果がある。
以上のように、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4は、同時に円弧動作してL型コイルC1の内径側及び外径側の直線部を開き成形する。内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の円弧動作における軸中心に対する開き角度は、それぞれ均等である。
【0045】
2.上方クランプ治具及び下方クランプ治具の動作
内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の把持動作及び円弧動作と同期して、上方クランプ治具1及び下方クランプ治具2が動作する。
図5に示すように、上方クランプ治具1は、平行に対峙する板状体の爪部を有し、該爪部の一端が第2の駆動装置6に連結されている。第2の駆動装置6は、3個の駆動ユニット(第1〜3)から構成されている。第1〜第3の駆動ユニット61、62、63、は、駆動モータとボールねじとボールナット等を備えている。
第1の駆動ユニット61は、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の把持動作に同期して、駆動モータを起動し、上方クランプ治具1の爪部を移動させてコイルの把持動作を行わせる。把持動作が完了した後、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の円弧動作に同期して、第2の駆動ユニット62は、駆動モータを起動し、第1の駆動ユニット61をスライドテーブルに載置して軸方向下側に移動させる。第2の駆動ユニット62の動作と同期して、第3の駆動ユニット63は、第2の駆動ユニット62を載置して径方向外側に移動させる。
【0046】
また、図5に示すように、下方クランプ治具2は、平行に対峙する板状体の爪部を有し、該爪部の一端が第3の駆動装置7に連結されている。第3の駆動装置7は、2個の駆動ユニット(第4〜5)から構成されている。第4、第5の駆動ユニット71、72は、駆動モータとボールねじとボールナット等を備えている。
第4の駆動ユニット71は、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の把持動作に同期して、駆動モータを起動し、下方クランプ治具2の爪部を移動させてコイルの把持動作を行わせる。把持動作が完了した後、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の円弧動作に同期して、第5の駆動ユニット72は、駆動モータを起動し、第4の駆動ユニット71を径方向外側に移動させる。
以上のように、拡張成形装置100を動作させることによって、L型コイルC1から同芯巻きカセットコイルC2を製作することができる。
【0047】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本発明に係る同芯巻きカセットコイルC2の製造方法における本実施形態によれば、拡張成形工程において、上方クランプ治具1、下方クランプ治具2、内方クランプ治具3、及び外方クランプ治具4の各クランプ治具が、それぞれ自ら動作するので、高負荷の加工荷重に対応することができる。特に、上方クランプ治具1及び下方クランプ治具2が、所定の動作をすることによって、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の円弧動作による拡張成形時の加工荷重を上方クランプ治具1及び下方クランプ治具2が分担することができる。そのため、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の負担を軽減でき、加工荷重を軽減することによって、クランプ治具や装置フレームの撓みを低減できるので、高精度の加工も可能となる。また、加工荷重を各クランプ治具が分担することによって、駆動装置自体を小型化でき、装置全体をコンパクトにすることができるので、設備費の低減に繋がる。
【0048】
また、本実施形態によれば、内径側と外径側のスロット挿入部S1、S2を内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4によりそれぞれ把持して、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4を軸中心にそれぞれ円弧動作させるので、内径側と外径側のスロット挿入部S1、S2が円弧軌道に沿って左右に開き成形される。開き成形に伴い、軸方向上側のコイルエンド部では、同芯円状に巻回された半円部W1を頂点に山型に傾斜する傾斜部M1、M2が左右に形成される。このとき、外径側のスロット挿入部S2は、内径側のスロット挿入部S1よりも軸中心からの距離(円弧軌道の半径)が長いので、上記左右の傾斜部の内、外径側のスロット挿入部に繋がる左側の外径側傾斜部M2が、内径側のスロット挿入部に繋がる右側の内径側傾斜部M1より多く伸ばされようとする。
しかし、本実施形態によれば、軸方向上方のコイルエンド部を上方クランプ治具1により把持し、上方クランプ治具1を軸方向下側と径方向外側に動作させるので、外径側のスロット挿入部に繋がる左側の外径側傾斜部M2寄りに、同芯円状に巻回された半円部W1の頂点を移動させることができる。そのため、左右の傾斜部の内、外径側のスロット挿入部に繋がる左側の外径側傾斜部M2が、内径側のスロット挿入部に繋がる右側の内径側傾斜部M1より多く伸ばされる必要がなくなり、内径側と外径側のスロット挿入部S1、S2を左右に開き成形する加工荷重を低減できる。また、左右の傾斜部M1、M2の成形量にバランスがとれるので、高精度の加工が可能となる。また、同芯円状に巻回された半円部W1の頂点を径方向外側に移動させるので、内径側に挿入されるロータとの干渉を回避することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、外径側のスロット挿入部に繋がる左側の外径側傾斜部M2寄りに、同芯円状に巻回された半円部W1の頂点を移動させて、左右の傾斜部M1、M2を所定の傾斜角とすることができる。左右の傾斜部M1、M2を所定の傾斜角とすることによって、コイルエンド部は、ステータコアの軸方向上端の外側に配置されたとき、ステータコアの上端面に沿わせることができる。そのため、コイルエンド部とステータコア上端面との空隙を減らし、回転電機の軸方向の高さを縮めることができる。その結果、回転電機の小型化に貢献できる。また、コイルエンド部をステータコアの上端面に沿わせることによって、コイルエンド部の長さを短くすることができる。そして、その短くした分、銅損を減少させることができるので、回転電機の高出力化にも寄与できる。
【0050】
また、本実施形態によれば、軸方向下方のコイルエンド部を下方クランプ治具2により把持し、下方クランプ治具2を径方向外側に動作させるので、L字形の水平部N1、N2が左右に開き成形される。そのとき、L字形の水平部N1、N2を左右に開き成形する加工荷重を、下方クランプ治具2が分担できる。その分、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4が内径側と外径側のスロット挿入部S1、S2を左右に開き成形する加工荷重を低減できる。
また、下方クランプ治具2を径方向外側の所定位置に動作させることによって、内径側と外径側のスロット挿入部S1、S2を左右に開き成形する動作に単に追従させる方法(特許文献1のケース)に比較して、軸方向下方のコイルエンド部の長さを短くすることができ、その短くした分、銅損を減少させることができるので、回転電機の高出力化にも寄与できる。
【0051】
また、本実施形態によれば、把持工程では、上方クランプ治具1が内方クランプ治具3との間隔Bより外方クランプ治具4との間隔Aを広くして把持するので、外径側のスロット挿入部に繋がる左側の外径側傾斜部M2を内径側のスロット挿入部に繋がる右側の内径側傾斜部M1より、長くすることができる。そのため、同芯円状に巻回された半円部W1を頂点に山型に傾斜する傾斜部M1、M2の傾斜角を左右均等にすることができる。傾斜部の傾斜角を左右均等にすることによって、複数のコイルをステータコアに挿入した時に、隣り合うコイルが左右の傾斜部M1、M2で重なって、コイル間を密着させることができる。そして、コイル間が密着するので、回転電機の軸方向の高さを縮めることができ、回転電機の小型化により一層貢献できる。また、ステータコアの軸方向上端におけるコイル間を密着させることによって、コイルエンド部の長さを短くすることができる。そして、その短くした分、銅損を減少させることができるので、回転電機の高出力化にもより一層寄与できる。
【0052】
また、本実施形態によれば、把持工程では、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4が把持完了したときにそれぞれのクランプ治具3、4をセルフロックするので、高負荷の加工荷重に対して、コイルを確実に把持した状態で内径側のスロット挿入部S1と外径側のスロット挿入部S2とを左右に開き成形することができる。コイルを確実に把持した状態で開き成形するので、把持位置がずれることがなく、高精度の加工が可能となる。すなわち、スロット挿入部S1、S2に重ね合わされた1本1本の平角導線の位置ずれを防止し、スロット挿入部S1、S2の軸中心に対する開き量、開き角度等を狙い値に加工でき、バラつきを低減できる。
また、クランプ治具3、4はセルフロック(自働的にロック)するので、特許文献1に記載されているように操作レバーによって操作する必要がない。そのため、操作レバーを操作するという段取り時間を省略することができるので、生産性を向上させることができ、コスト低減できる。
【0053】
また、本実施形態によれば、拡張成形工程では、各クランプ治具1、2、3、4が同期して動作するので、上方クランプ治具1、下方クランプ治具2、内方クランプ治具3、外方クランプ治具4のそれぞれが互いに関連した動作を行い、高負荷の加工荷重に効率的に対応できる。また、各クランプ治具1、2、3、4は同期して動作するので、クランプ治具が把持したコイルの位置で、滑りをほとんど生じることなく把持し続けることができる。クランプ治具の把持位置で滑りが生じにくいので、平角導線を被覆する絶縁皮膜を傷付ける恐れも少ない。したがって、コイル成形での品質不良が低減する。
【0054】
また、本発明に係る同芯巻きカセットコイルC2の製造装置における本実施形態によれば、平角導線が巻回されたコイルをL型に折り曲げた後に、内径側と外径側のスロット挿入部S1、S2を左右に開き成形して製造する同芯巻きカセットコイルC2の製造装置において、軸方向上下のコイルエンド部をそれぞれ把持する上方クランプ治具1及び下方クランプ治具2と、内径側及び外径側のスロット挿入部S1、S2をそれぞれ把持する内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4とを備え、上方クランプ治具1を軸方向下側と径方向外側に動作させ、下方クランプ治具2を径方向外側に動作させ、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4を軸中心にそれぞれ円弧動作させるので、平角導線を巻回した同芯巻きカセットコイルC2を製造する場合において、高負荷の加工荷重に対応でき、高精度の加工をローコストで実現できるとともに、回転電機の小型化、高出力化の要請にも対応できる。
【0055】
<変形例>
尚、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。
本実施形態では、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の背圧側爪部32、42には、背圧シリンダー37、47から背圧がかかった状態で開き成形するが、必ずしも背圧をかける必要はない。例えば、内方クランプ治具3及び外方クランプ治具4の把持部に設けた当接部材311、321、411、421を弾性部材とするか、当接部材と爪本体との間に弾性部材を挿入しておけば、クランプ治具3、4をロックしたときに背圧がかかった状態にすることができる。弾性部材を撓ませてロックすることによって、開き成形に伴う加工荷重が増加しても、把持部の緩みを防止する効果があるからである。
また、本実施形態では、駆動リンクの弓形状リンク34と鉤形状リンク44に、駆動側爪部31、41と背圧側爪部32、42とが閉じたとき、端部が嵌り込む段差溝341、441を形成して、把持完了したときにセルフロックするようにしたが、必ずしも段差溝等を成形して機械的にロックする必要はない。例えば、背圧シリンダー37、47をトルクリミッタ付きギアドモータとすることによって、一定の把持力を確保しながら電気的にロックすることも可能だからである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、例えば電気自動車やハイブリッド自動車等の駆動に用いる回転電機に好適な同芯巻きカセットコイルの製造方法及び製造装置として利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 上方クランプ治具
2 下方クランプ治具
3 内方クランプ治具
4 外方クランプ治具
5 第1の駆動装置
6 第2の駆動装置
7 第3の駆動装置
8 本体フレーム
31 内方クランプ治具の駆動側爪部
32 内方クランプ治具の背圧側爪部
33 鉤状リンク連結部
34 弓形状リンク
35 第1の直状リンク
36 円弧状アーム
37 第1の背圧シリンダー
41 外方クランプ治具の駆動側爪部
42 外方クランプ治具の背圧側爪部
43 コ字状リンク連結部
44 鉤形状リンク
45 第2の直状リンク
46 へ字状アーム
47 第2の背圧シリンダー
51 主駆動モータ
52 主ボールねじ
53 主ボールナット
54 主駆動テーブル
61 第1の駆動ユニット
62 第2の駆動ユニット
63 第3の駆動ユニット
71 第4の駆動ユニット
72 第5の駆動ユニット
81 軸部材
82 軸受け部材
83 上テーブル
84 内フレーム
85 下テーブル
88 外フレーム
100 拡張成形装置
C0 扁平な三角形コイル
C1 L型コイル
C2 同芯巻きカセットコイル
M1 内径側傾斜部
M2 外径側傾斜部
N1 内径側水平部
N2 外径側水平部
S1 内径側スロット挿入部
S2 外径側スロット挿入部
W1 上半円部
W2 下半円部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角導線が巻回されたコイルをL型に折り曲げた後に、内径側及び外径側のスロット挿入部を左右に開き成形して製造する同芯巻きカセットコイルの製造方法において、
軸方向上下のコイルエンド部を上方クランプ治具及び下方クランプ治具によりそれぞれ把持するとともに、前記内径側及び外径側のスロット挿入部を内方クランプ治具及び外方クランプ治具によりそれぞれ把持する把持工程と、
前記上方クランプ治具を軸方向下側と径方向外側に動作させ、前記下方クランプ治具を径方向外側に動作させ、前記内方クランプ治具及び前記外方クランプ治具を軸中心にそれぞれ円弧動作させる拡張成形工程とを有することを特徴とする同芯巻きカセットコイルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された同芯巻きカセットコイルの製造方法において、
前記把持工程では、前記上方クランプ治具が前記内方クランプ治具との間隔より前記外方クランプ治具との間隔を広くして把持することを特徴とする同芯巻きカセットコイルの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された同芯巻きカセットコイルの製造方法において、
前記把持工程では、前記内方クランプ治具及び前記外方クランプ治具が把持完了したときにそれぞれのクランプ治具をセルフロックすることを特徴とする同芯巻きカセットコイルの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された同芯巻きカセットコイルの製造方法において、
前記拡張成形工程では、各クランプ治具が同期して動作することを特徴とする同芯巻きカセットコイルの製造方法。
【請求項5】
平角導線が巻回されたコイルをL型に折り曲げた後に、内径側と外径側のスロット挿入部を左右に開き成形して製造する同芯巻きカセットコイルの製造装置において、
軸方向上下のコイルエンド部をそれぞれ把持する上方クランプ治具及び下方クランプ治具と、前記内径側及び外径側のスロット挿入部をそれぞれ把持する内方クランプ治具及び外方クランプ治具とを備え、
前記上方クランプ治具を軸方向下側と径方向外側に動作させ、前記下方クランプ治具を径方向外側に動作させ、前記内方クランプ治具及び前記外方クランプ治具を軸中心にそれぞれ円弧動作させることを特徴とする同芯巻きカセットコイルの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−17266(P2013−17266A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146941(P2011−146941)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】