説明

同軸ケーブルおよび多心同軸ケーブル

【課題】空隙部の絶縁体に対する割合を確保して低誘電率とするとともに、十分な強度を得ることが可能な同軸ケーブルおよび多心同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】中心導体12を、長手方向に連続する空隙部14を有する絶縁体13で覆い、該絶縁体13の外周に外部導体15を配した同軸ケーブル11で、中心導体12の径に対する絶縁体13の径の比が3.2〜4.3倍であり、空隙部14は断面円形または楕円形状に形成され、同軸ケーブル11の長さ方向に垂直な断面において、全ての空隙部14の面積と絶縁体13の面積の和に対する空隙部14の割合を空隙率とするときに、一つの空隙部14の空隙率を9.0〜10%とし、かつ全部の空隙部14を合わせた空隙率を54〜60%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気通信機器、情報機器の配線等に用いられる同軸ケーブルおよび多心同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器内または機器間の配線や、高速信号の伝送に同軸ケーブルが用いられる。この同軸ケーブルは、通常、中心導体を絶縁体で被覆し、絶縁体の外周を外部導体で覆い、その外側を保護被覆体で覆った構造のもので、用途に応じてケーブル外径が0.25mm〜数mmのものがある。この同軸ケーブルは、細径で良好の電気特性を得るには、中心導体の外周を被覆している絶縁体の誘電率をできるだけ小さくすることが重要とされている。
【0003】
同軸ケーブルの絶縁体としては、従来、フッ素樹脂やポリオレフィン樹脂などの低誘電率の樹脂が使用され、さらに、その誘電率を下げるために絶縁体をガス発泡または化学発泡等により発泡したものを用いることもある。しかし、絶縁体の発泡押出しによる被覆成形は、形状を安定させることが難しく絶縁体の外径変動が生じやすい。また、発泡度が高くなると発泡状態が悪化しやすく、長手方向の伝送特性などの安定性が低下する。さらに、発泡された絶縁体は、導体との密着力が弱い。
【0004】
これに対し、図2の(A)に示すような、絶縁体の長手方向に沿って複数の中空部を設けた構造の同軸ケーブルが知られている(例えば、特許文献1参照)。この同軸ケーブル1aは、中心導体2の絶縁体3として、中心導体2に密着する内環状体3aと外部導体5が巻かれる外環状体3bとを、複数のリブ部3cで連結して、複数の断面扇状の中空部4を設けた形状のものを用いている。そして、絶縁体3に占める中空部4の割合は40%以上とされている。なお、外部導体5の外周は、保護被覆体6で被覆され、ケーブル全体が保護されている。
【0005】
また、図2の(B)に示すように、中心導体2aを絶縁する絶縁体7に、長手方向に沿う複数の空隙部8を設けた構造の差動伝送ケーブル1bが知られている(例えば、特許文献2参照)。この差動伝送ケーブル1bは、中心導体2aを囲う絶縁体7として、中心導体2aの周りに6個の断面楕円状の空隙部8を均等に配した形状のものを用いている。なお、中心導体2aを絶縁体7で絶縁した一対の信号線は、ドレインワイヤ9を含めて外部導体5aでシールドされ、その外周を保護被覆体6aで被覆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−335393号公報
【特許文献2】特開2008−103179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図2の(A)に示した同軸ケーブルの中空部(空隙部)の断面が扇状であると、絶縁体に占める空隙部の割合を大きくとることができるが、外圧に対して十分な強度を確保することができない。このため、ケーブルが潰れやすく、曲げに対して空隙部が変形しやすいという問題があり、実際の使用に際しては伝送特性の安定確保が難しい。また、図2の(B)の同軸ケーブルのように空隙部の断面を楕円ないし円形とした場合であっても、1つの空隙部の断面積が大きすぎると空隙周囲の絶縁体の厚さが薄くなり、十分な強度を確保することが難しくなる。一方、1つの空隙部の断面積を小さくすると強度は確保されるが、全部の空隙部が絶縁体に占める割合が小さくなって絶縁体の誘電率が高くなるので、ケーブルの電気特性や寸法が所定の範囲に収まらなくなる。
【0008】
本発明は、空隙部の絶縁体に対する割合を確保して低誘電率とするとともに、十分な強度を得ることが可能な同軸ケーブルおよび多心同軸ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による同軸ケーブルは、中心導体を、長手方向に連続する空隙部を有する絶縁体で覆い、該絶縁体の外周に外部導体を配した同軸ケーブルであって、
前記中心導体の径に対する前記絶縁体の径の比が3.2〜4.3倍、好ましくは3.2〜4.0倍であり、
前記空隙部は断面円形または楕円形状に形成され、前記同軸ケーブルの長さ方向に垂直な断面において、全ての空隙部の面積と絶縁体の面積の和に対する空隙部の割合を空隙率とするときに、一つの空隙部の空隙率を9.0〜10%とし、かつ全部の空隙部を合わせた空隙率を54〜60%としたことを特徴とする。
また、上記の同軸ケーブルを、複数本収納してなる多心同軸ケーブルとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、空隙部の絶縁体に対する割合を確保して低誘電率とするとともに外圧や曲げに対して潰れにくく、安定した伝送特性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態例を説明する同軸ケーブルの断面図である。
【図2】従来技術を説明する断面図である。
【図3】本発明の同軸ケーブルの製造に用いる押出機の一部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明に係る同軸ケーブルの実施の形態例である。図中、11は同軸ケーブル、12は中心導体、13は絶縁体、14は空隙部、15は外部導体、16は外被を示す。
本実施形態の同軸ケーブル11は、中心導体12を絶縁体13で覆い、絶縁体13の外周に外部導体15を配し、その外側を外被16で保護した形状で、絶縁体13は長手方向に連続する複数個の空隙部14を有している。また、中心導体12および外部導体15と絶縁体13との間には空隙がなく密着している。
【0013】
中心導体12は、銀メッキもしくは錫メッキ軟銅線ないしは銅合金線からなる単線または撚り線で形成される。撚り線の場合は、例えば、AWG(American Wire Gauge)#40〜46相当のものが用いられる。例えば、素線導体径が0.025mmのものを7本撚った外径0.075mm(AWG#42)が用いられる。
【0014】
また、外部導体15は、中心導体12に用いた素線導体と同程度の太さの裸銅線(軟銅線または銅合金線)または銀メッキもしくは錫メッキ軟銅線ないしは銅合金線を、絶縁体13の外周に横巻きまたは編組構造で配して形成される。さらに、シールド機能を向上させるために、図1に外部導体15のすぐ外の層で示すように金属箔テープを併設する構造としてもよい。外被16は、フッ素樹脂等の樹脂材を押出成形するか、または、ポリエステルテープなどの樹脂テープを巻き付けて形成される。
【0015】
絶縁体13は、ヤング率が400〜1300MPaのポリエチレン(PE)、ヤング率が1500〜2000MPaのポリプロピレン(PP)、あるいはヤング率が500MPa程度のフッ素樹脂等の熱可塑性樹脂を用いて、押出し成形で形成される。なお、フッ素樹脂材としては、例えば、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)等が用いられる。
【0016】
絶縁体13の外径D1は、中心導体12の導体径をD2としたとき、D2×(3.2〜4.3)程度とする。例えば、上記の中心導体12の導体径が0.075mmの場合は、絶縁体13の外径を0.24mm〜0.323mmとする。D1をD2×(3.2〜4.0)とするのが好ましい。D2が0.075mmの場合は、D1を0.24〜0.30mmとするのが好ましい。なお、本発明においては、絶縁体13の外径が、0.36mm以下で形成される同軸ケーブルを対象としている。
【0017】
本実施形態の同軸ケーブル11は、絶縁体13の静電容量を低容量(例えば60pF/m以下)とすることを実現するものである。同軸ケーブルは、所定のインピーダンス(50Ω、75Ωまたは80〜90Ω)とする必要があり、それを実現する限りにおいてできるだけ細径とする。そのためには、中心導体12と外部導体15の間の絶縁層の誘電率を小さくすることが必要である。本実施形態では、絶縁体13に空隙部14を設け、全部の空隙部14を合わせた全体の空隙率を54%以上とすることにより、上記の範囲の寸法において細径化を実現する。もし、全体の空隙率を54%未満としてかつ細径化を満足させようとすると、同軸ケーブルのインピーダンスを所定の値とすることは困難である。
【0018】
絶縁体13の空隙部14は、断面円形状(真円、楕円)で形成され、中心導体12の周りに6個の空隙部が均等に配されるように設けられていることが望ましい。この空隙部14を、例えばほぼ真円で形成し、その内径をD3とすると、1つの空隙部14の絶縁体13に対する割合は、
0.090≦({D3/2}×π)/({D1/2}×π−{D2/2}×π)≦0.100
の範囲で形成されていることが好ましい。
【0019】
なお、上記の式の考え方は、楕円の空隙部に対しても同様に当てはめることができる。すなわち、1つの空隙部14の空隙率を9.0%以上10.0%以下とし、空隙部自体の強度を満足させることが望ましい。また、1つの空隙部14の空隙率が小さ過ぎると、所定の空隙率が得られず低誘電率を確保することができなくなる。空隙部全体として54%以上60%以下の空隙率となるようにする。そして、1つの空隙率を10%以下とするので、絶縁体全体として機械的な強度を高め、外圧や曲げに対して潰れ難くすることができ、伝送特性の安定性確保が可能となる。
ところで、本明細書でいう楕円とは数学的な意味での楕円に限らず、円が歪んだ形状のものが含まれる。
【0020】
D1/D2が3.2〜4.3、好ましくは3.2〜4.0でかつ絶縁体の静電容量を60pF/m以下とする場合は、全部の空隙部を合わせた空隙率を54%以上とするのが好ましい。後述する実施例1,2に示すように、中心導体に外径0.025mmの銀メッキ銀銅合金線を7本撚り合わせた撚り線を使用(AWG#42に相当)する場合、全部の空隙部を合わせた空隙率を54%とした場合は、その同軸ケーブルの静電容量を60pF/mとすることができた。この空隙率を実現するには空隙部を6個とするのが好ましい。D1/D2が3.2〜4.3、好ましくは3.2〜4.0と中心導体径に対して絶縁体がやや厚肉であるので、静電容量を60pF/m以下(例えば50pF/m)とするには全部の空隙部を合わせた空隙率を高めにする必要がある。この場合、空隙部の数が7個より多いと空隙部間の絶縁体が薄くなり、外部からの力が加わった場合に空隙部間が切れてしまって絶縁体が潰れてしまうことがある。空隙部の数が6個であれば、静電容量60pF/m以下を実現できるだけの空隙率としながら、空隙部間の絶縁体の厚さを確保することができる。これにより、同軸ケーブルを巻き取るときなどに同軸ケーブルに力が加わっても絶縁体が潰れることがない。
【0021】
本実施形態の同軸ケーブルは、図3に示すダイス31とポイント41とを組み合わせた押出機30を使用して製造することができる。
ポイント41に外形が円柱状の部材45を空隙部の数だけ設け、円形の出口33を有するダイス31に組み合わせてポイント41とダイス31の間(流路51,52)から樹脂を押し出す。ポイント41の円筒部43の中心孔44から中心導体を引き出す。押し出された樹脂が中心導体に被覆される。ダイス31の出口を出た樹脂を引き伸ばして径を小さくして被覆する引き落とし方法により樹脂を被覆してもよい。円柱状の部材45には樹脂が流れず、この部分が空隙部となる。この部材45に通気孔46を設けておくとダイス31から押し出された樹脂中に樹脂が流れない空隙部が確保され、その断面が円または楕円となる。
【0022】
上述した同軸ケーブルは、単心線の例で説明したが、この同軸ケーブルを複数本束ねて、あるいは、さらに共通のシールド導体によりシールドした多心の同軸ケーブルとしてもよい。
【0023】
中心導体に、外径0.025mmの銀メッキ銀銅合金線を7本撚り合わせた撚り線を使用し、それにフッ素樹脂(PFA)を押出被覆して外径0.29mmの絶縁体とした。中心導体の径に対する絶縁体の径は3.9倍である。絶縁体を押し出すときに、空隙部を形成する治具を使用して、絶縁体中に長手方向に連続する空隙部を形成した。空隙部の大きさ、数を下記の通りとした。外部導体は錫メッキ軟銅線を一重編組し、その上にフッ素樹脂(PFA)を押出被覆して外径0.42mmの同軸ケーブルとした。
【0024】
(実施例1)
空隙部の直径 0.084mm
空隙部の数 6個
空隙部1つ当たりの空隙率 9.0%
全体での空隙率 54%
(実施例2)
空隙部の直径 0.088mm
空隙部の数 6個
空隙部1つ当たりの空隙率 10%
全体での空隙率 60%
(比較例1)
空隙部の直径 0.074mm
空隙部の数 8個
空隙部1つ当たりの空隙率 7.0%
全体での空隙率 56%
(比較例2)
空隙部の直径 0.070mm
空隙部の数 8個
空隙部1つ当たりの空隙率 6.3%
全体での空隙率 50%
【0025】
実施例1および実施例2では静電容量が60pF/m以下(52pF/m)の同軸ケーブルが製造できた。
比較例1では、空隙部間の絶縁が切れて製造時(ケーブルを巻き取る時)に同軸ケーブルが潰れてしまい、良品とならなかった。
比較例2では、同軸ケーブルを製造することができたが、このサイズ(絶縁体径/中心導体径)で静電容量を60pF/mまで小さくすることができなかった。
【0026】
上記の中心導体径に対して絶縁体径は上記実施例よりもやや薄くまたはやや厚くすることができる。中心導体径に対する絶縁体径は3.2〜4.3倍、好ましくは3.2〜4.0倍とすることができる。この場合、空隙部を6個設け、空隙部1個当たりの空隙率を9.0%〜10%とし、全体での空隙率を54%〜60%とすると、静電容量が60pF/m以下である同軸ケーブルが得られる。
【符号の説明】
【0027】
11…同軸ケーブル、12…中心導体、13…絶縁体、14…空隙部、15…外部導体、16…外被

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体を、長手方向に連続する空隙部を有する絶縁体で覆い、該絶縁体の外周に外部導体を配した同軸ケーブルであって、
前記中心導体の径に対する前記絶縁体の径の比が3.2〜4.3倍であり、
前記空隙部は断面円形または楕円形状に形成され、前記同軸ケーブルの長さ方向に垂直な断面において、全ての空隙部の面積と絶縁体の面積の和に対する空隙部の割合を空隙率とするときに、一つの空隙部の空隙率を9.0〜10%とし、かつ全部の空隙部を合わせた空隙率を54〜60%としたことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記中心導体の径に対する前記絶縁体の径の比が3.2〜4.0倍であることを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の同軸ケーブルを、複数本収納してなる多心同軸ケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−71095(P2011−71095A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151716(P2010−151716)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】