説明

同軸マグネトロンプラズマストリッパー

【課題】環境負荷を低減し、かつ従来のプラズマストリッパーに比べて格段に高速、短時間で被皮処理ワイヤの表面処理を可能にした同軸マグネトロンプラズマストリッパーを提供する。
【解決手段】内部に動作ガスが導入される筒状の外側陽極電極12と、外側陽極電極12内に同軸的に配置された線状の中心陽極電極13を備える。さらに、外側陽極電極12内に中心陽極電極13を囲うように配置されて軸方向に移送される陰極となる複数の被処理ワイヤ14と、外側陽極電極12内に軸心方向の磁界Bを発生させる磁界発生手段15とを備える。被処理ワイヤ14の周りで発生するマグネトロンプラズマ10で被処理ワイヤ14の表面処理が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体分野で用いられるソーワイヤの表面処理に適用される同軸マグネトロンプラズマストリッパーに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンなどの半導体インゴットから半導体ウェハを切り出す際にソーワイヤが用いられる。カーボン(C)添加の鉄(Fe)からなるソーワイヤは、表面にブラスめっき(Cu:65%、Zn:35%)皮膜が施されている。このブラスめっきは、ソーワイヤの伸線加工で必要となるめっき処理である。
【0003】
半導体分野において、例えばシリコンインゴットからシリコンウェハを切り出す際に用いられるソーワイヤは、シリコンウェハの品質向上のために、Cuフリーのワイヤが求められている。その理由は、図15の模式図で示すように、ソーワイヤ101を用いてシリコンインゴット102からシリコンウェハ103を切り出す際に、ブラスめっきの主成分であるCu104がシリコンウェハ103内に拡散する恐れがあるためである。シリコンウェハ103にCuが拡散し、不純物として含有すると、半導体のバンドギャップが変化し、例えば太陽電池の発電効率が低下する。あるいは、シリコン中にCuが含まれると、シリコンの導電性が変化し、シリコン基板に回路素子を形成したときに、回路素子に対して流れるべきところ以外に電流が流入するなどして誤動作を生じさせる可能性がある。
【0004】
そのため、Cuフリーなソーワイヤが必要となる。このソーワイヤから表面のCu含有のブラスめっき皮膜を除去する処理として、ウェットプロセスが用いられている。このウェットプロセスでは、アンモニア水と過酸化水素水を用いてブラスめっき皮膜の除去を行っている。さらに、有機物汚染除去に硫酸・過酸化水素水洗浄、金属汚染除去に塩酸・過酸化水素水洗浄を行っている。
【0005】
一方、上記ウェットプロセスに代わり廃液処理が不要で、かつ使用後の排ガス処理が廃液処理に比べて容易な、プラズマを用いたドライプロセスがある。先に、本出願人は、高密度プラズマ源を用いてソーワイヤのブラスめっき皮膜を除去することを提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−177137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のウェットプロセスでは、ブラスめっき皮膜除去にアンモニア水と過酸化水素水を用い、有機物汚染除去に硫酸・過酸化水素水洗浄、金属汚染除去に塩酸・過酸化水素水洗浄を行っているため、環境負荷が大きいという問題があった。また、従来のプラズマストリッパーは、ブラスめっき皮膜の剥ぎ取り速度が遅いという欠点があった。
【0008】
本発明は、上述の点に鑑み、環境負荷を低減し、かつ従来のプラズマストリッパーに比べて格段に高速、短時間で被皮処理ワイヤの表面処理を可能にした同軸マグネトロンプラズマストリッパーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーは、内部に動作ガスが導入される円筒状の外側陽極電極と、外側陽極電極内に同軸的に配置された線状の中心陽極電極と、外側陽極電極内に中心陽極電極を囲むように配置されて軸方向に移送される陰極となる複数の被処理ワイヤと、外側陽極電極内に軸心方向の磁界を発生させる磁界発生手段とを備え、被処理ワイヤの周りで発生するマグネトロンプラズマで被処理ワイヤの表面処理が行われる構成とする。
【0010】
本発明の同軸マグネトロンプラズマストリッパーでは、円筒状の外側陽極電極と、外側陽極電極内の中心陽極電極と、外側陽極電極内に中心陽極電極を囲むように配置された陰極となる複数の被処理ワイヤと、軸心方向の磁界を発生させる磁界発生手段を備えるので、被処理ワイヤの周りに高密度のマグネトロンプラズマが発生する。高密度マグネトロンプラズマにより、被処理ワイヤの表面はスパッタされて表面処理がなされる。被処理ワイヤは高温に晒されるが、被処理ワイヤの移送速度を速めることで、短時間で被処理ワイヤの表面処理がなされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーによれば、マグネトロンプラズマを用いるので、従来のプラズマストリッパーに比べて格段に高速、短時間で被処理ワイヤの表面処理を行うことが可能になる。かつドライプロセスによるワイヤ表面処理であるため、環境負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーの第1実施の形態を示す模式的な概略構成図である。
【図2】本発明に使用されるブラスめっきソーワイヤの断面図である。
【図3】第1実施の形態の同軸マグネトロンプラズマストリッパーの動作説明に供する断面図である。
【図4】ブラスめっきソーワイヤの表面がプラズマスパッタされる状態を示す断面図である。
【図5】本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーの第2実施の形態を示す一部破断した概略構成図である。
【図6】A,B 図5のa−a線上、b−b線上の断面図である。
【図7】本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーの第3実施の形態を示す一部破断した概略構成図である。
【図8】図7のc−c線上の断面図である。
【図9】本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーの第4実施の形態を示す一部破断した概略構成図である。
【図10】本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーの第5実施の形態を示す一部破断した概略構成図である。
【図11】表1(放電電流密度0.5[mA/cm2]のときのEDS分析結果)に基づくグラフである。
【図12】表2(放電電流密度1.5[mA/cm2]のときのEDS分析結果)に基づくグラフである。
【図13】参考例2における同軸マグネトロンプラズマストリッパーの要部の概略断面図である。
【図14】参考例1における同軸マグネトロンプラズマストリッパーの要部の概略断面図である。
【図15】ブラスめっきソーワイヤによりシリコンウェハを切り出すときのCu拡散の状態を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーの実施の形態は、基本的には高密度のマグネトロンプラズマ源を利用して被処理ワイヤの表面処理を高速で、短時間で行えるように構成される。本実施の形態に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーの基本構成は、所要ガスが導入された筒状の外側陽極電極と、この外側陽極電極内に同軸的に配置された中心陽極電極との間に、中心陽極電極を囲むように陰極となる複数の被処理ワイヤが配置される。さらに、筒状の外側陽極電極内に軸方向の磁界を発生させる磁界発生手段が配置される。本実施の形態では、外側陽極電極及び中心陽極電極と、陰極となる被処理ワイヤとの間に所要の電圧が印加され、この電界と磁界の作用で、被処理ワイヤの周りにマグネトロンプラズマが発生し、被処理ワイヤの表面がスパッタされて、表面処理がなされる。
【0015】
[第1実施の形態]
図1に、本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーの第1実施の形態を示す。図1は、模式的な概略構成図である。第1実施の形態に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパー11は、所要の動作ガスを導入した筒状の外側陽極電極12が配置される。この外側陽極電極12内に同軸的に軸方向に延長する中心陽極電極13が配置され、中心陽極電極13と外側陽極電極12との間に、中心陽極電極13を囲むように陰極となる複数の被処理ワイヤ14が配置される。中心陽極電極13は線状体で形成される。被処理ワイヤ14は、好ましくは中心陽極電極13を中心に同心円上に等角間隔をもって複数、本例では6本配置される。外側陽極電極12の筒状としては、例えば、円筒状、あるいは複数の被処理ワイヤ14に対応した断面複数角形、被処理ワイヤ14を6本配置したときには断面6角形とすることができる。本例では円筒状の外側陽極電極12で形成している。中心陽極電極13は、外側陽極電極12の断面形状に合わせた断面形状とすることができる。例えば、断面円形、断面6角形などとすることができる。外側陽極電極12が断面6角形の場合、中心陽極電極13は、断面円形とすることも可能である。本例では、中心陽極電極13を断面円形の線状体で形成される。円筒状の外側陽極電極12は、図示しないが、両端部に中心陽極電極13及び被処理ワイヤ14を支持し、外側陽極電極12内を気密封止する支持板により内部が密閉され、チャンバーを兼ねた構成となっている。外側陽極電極12内は高真空とされ、動作ガスである例えばアルゴン(Ar)ガスが導入される。被処理ワイヤ14は、外側陽極電極12内を通り、支持板を気密的に貫通して軸方向、すなわち矢印A方向に移送されるように配置される。
【0016】
被処理ワイヤ14は、例えば図2に示すように、シリコンインゴットからシリコンウェハを切り出すための、カーボン(C)添加のFeによる芯線17の表面にブラスめっき(Cu:65%、Zn:35%)皮膜18を有するソーワイヤとすることができる。
【0017】
さらに、被処理ワイヤ14が配置される円筒状の外側陽極電極12内に上記軸方向の磁界Bを発生させるための、磁界発生手段15が配置される。この磁界発生手段15は、例えば円筒ソレノイド電磁石で構成することができる。磁界発生手段15の構成は種々考えられ、図1の原理図では外側陽極電極12の外側に同軸的に配置される。
【0018】
陰極となる被処理ワイヤ14には、外側陽極電極12及び中心陽極電極13の電位に対して、負の電位が印加される。本例では、被処理ワイヤ14に負電圧が印加され、外側陽極電極12及び中心陽極電極13に接地電圧が印加されるように、各被処理ワイヤ14と、外側陽極電極12及び中心陽極電極13との間に、負の直流バイアス電源16が接続される。
【0019】
次に、第1実施の形態の同軸マグネトロンプラズマストリッパー11の動作を説明する。図3に示すように、被処理ワイヤ14に負電圧を印加し、外側陽極電極12及び中心陽極電極13に接地電圧を印加する。この状態で、磁界発生手段15を介して、被処理ワイヤ14が配置される外側陽極電極12内に軸方向の磁界Bを発生させると、各被処理ワイヤ14を取り囲むように全周均一なマグネトロンプラズマ19が発生する。このマグネトロンプラズマ19中のArイオン21により、被処理ワイヤ14の表面がスパッタ処理される。被処理ワイヤ14が、表面をブラスめっき皮膜18で覆われたソーワイヤとしたときには、図4に示すように、ソーワイヤの表面のブラスめっき皮膜18が、Arイオン21によりスパッタ処理されて除去される。動作中は、チャンバー室となる外側陽極電極12内に動作ガスが導入され、排気しながら外側陽極電極12内の気圧を一定の低気圧に維持しつつスパッタエッチングが行われる。
【0020】
被処理ワイヤ14は、外側陽極電流12と中心陽極電極13との間を軸方向に移送されるので、被処理ワイヤ14の表面は連続して表面処理される。しかも、マグネトロンプラズマは高密度プラズマとなり、被処理ワイヤ14を高温とするので、被処理ワイヤ14は、高速で移送して短時間で表面処理することができる。つまり、高速でのブラスめっき皮膜の除去が可能になる。
【0021】
本実施の形態では、負電位の複数の陰極と、陰極に対して正電位の外側陽極電極12及び中心陽極電極13と、外側陽極電極12内に軸方向の磁界を発生する磁界発生手段15とにより、同軸マグネトロンプラズマ源が構成される。この同軸マグネトロンプラズマ源を用い、その陰極を被処理ワイヤ14に置き換えることにより、マグネトロンプラズマを用いたプラズマスパッタ作用で、被処理ワイヤ14の表面処理がなされる。
【0022】
第1実施の形態に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパー11によれば、円筒状の外側陽極電極12内に中心陽極電極13を囲むように、複数の被処理ワイヤ14が配置された構成である。このため、各被処理ワイヤ14の周りに均等に高密度のマグネトロンプラズマ19を発生させることができ、複数の被処理ワイヤ14に対して、同時にかつ高速で、しかもむらなく表面処理を行うことができる。すなわち、本実施の形態では、被処理ワイヤの表面を、従来のプラズマストリッパーに比べて格段に高速、短時間処理することが可能になる。被処理ワイヤ14として、ソーワイヤの表面のブラスめっき皮膜の除去に適用したときには、前述の特許文献1に記載の三相交流ハイブリッドプラズマよりも20倍の高速でブラスめっき膜を除去することが可能になる。また、シリコンウェハや結晶型太陽電池の切り出しに使われる直径100μm〜300μm程度の極細ソーワイヤ表面のブラスめっき皮膜を除去することができる。また、本実施の形態の同軸マグネトロンプラズマストリッパー11は、構造的にも簡素化でき、複数の被処理ワイヤの配置も容易に行うことができる。
【0023】
本実施の形態では、マグネトロンプラズマを用いたドライプロセスで被処理ワイヤ14の表面処理を行うので、従来の薬品を用いるウェットプロセスに比べて大幅に環境負荷を低減することができる。
【0024】
次に、本発明の同軸マグネトロンプラズマストリッパーの特徴の理解を容易にするための、参考例について説明する。
【0025】
[参考例1]
図14に、参考例1に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーを示す。参考例1に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパー81は、チャンバー(図示せず)内に、1本の陰極となる被処理ワイヤ84と、被処理ワイヤ84を等角間隔で囲む3つの線状体による陽極電極85[85A、85B、85C]との組み合わせを1ユニット86として、複数のユニット86が配置される。チャンバー内には、前述と同様に、動作ガス、例えばArガスが導入される。この場合、複数のユニット96は、陽極電極86を隣接するユニット96間で共有するように配置される。さらに、チャンバー内に軸方向の磁界Bを発生するための磁界発生手段(図示せず)が配置される。
【0026】
各被処理ワイヤ84には、陽極電極85の電位に対して、前述と同様に、負の電位が印加される。すなわち、被処理ワイヤ84と陽極電極85との間に負バイアス電源が接続される。
【0027】
参考例1の同軸マグネトロンプラズマストリッパー81は、各被処理ワイヤ84の周りにマグネトロンプラズマ87が発生するため、多数の被処理ワイヤ84の表面処理が同時に行えるので、効率的である。しかしながら、各ユニット86は、隣接するユニット86の陽極電極85を共有しているため、全体として見たとき、電界の不均一が生じ、各被処理ワイヤ84に対して表面処理が不均一になる懼れがある。また、チャンバーは接地することになるので、チャンバーと陽極電極85間でプラズマを発生させないために、絶縁対策が必要になり、構成が複雑になる。
【0028】
[参考例2]
図13に、参考例2に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーを示す。参考例2の同軸マグネトロンプラズマストリッパー71は、参考例1の構成の一部を取り出し、1つの中心の陽極電極85aと、中心の陽極電極95aを囲む6つの外側の陽極電極85b〜85gと、各3つの陽極電極85で構成される三角形の重心に位置する6つの陰極となる被処理ワイヤ84とを有して構成される。発生する磁界Bは参考例1と同じである。
【0029】
参考例2の同軸マグネトロンプラズマストリッパー71は、6つの被処理ワイヤ84と陽極電極85との間に均一の電界が生じ、各被処理ワイヤ84の周りに均等な密度のマグネトロンプラズマが発生する。これにより、各被処理ワイヤ84に対して均一に表面処理を行うことができる。しかし、この場合も、チャンバーと陽極電極85間の絶縁対策が必要である。
【0030】
参考例2の構成をさらに発展させたのが、第1実施の形態の同軸マグネトロンプラズマストリッパー11である。第1実施の形態の同軸マグネトロンプラズマストリッパー11は、参考例1,参考例2と比較して構成の簡素化が図られ、参考例2と同様に均一な高密度マグネトロンプラズマの発生を可能し、各被処理ワイヤに対する表面処理を均一に行えることが理解できる。
【0031】
[第2実施の形態]
図5に、本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーの第2実施の形態を示す。第2実施の形態に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパー25は、筒状、本例では円筒状の外側陽極電極12の外周に絶縁被覆導線によるコイル26を巻回して磁界発生手段27が構成される。この磁界発生手段27により、円筒状の外側陽極電極12内に軸方向の磁界Bが発生する。円筒状の外側陽極電極12内には、中心陽極電極13と、中心陽極電極13を囲む複数、本例では6つの被処理ワイヤ14が軸方向に延長するように配置される。円筒状の外側陽極電極12の両側には、外側陽極電極12内を気密的に封止し、かつ中心陽極電極13及び各被処理ワイヤ14の支持に供する封止用の支持部材28が配置される。本実施の形態の円筒陽極電極12は、コイルボビンとチャンバーを兼ねている。
【0032】
封止された外側陽極電極12の一方端側には、外側陽極電極12内を所要の真空度にする真空排気装置29が設けられ、他端側には、動作ガス、本例ではアルゴン(Ar)ガスを導入する動作ガス導入装置31が設けられる。
【0033】
図6Aは、図5のa−a線上の断面図である。図6Bは、支持部材28の部分を示す図5のb−b線上の断面図である。支持部材28は、中央に中心陽極13を支持する支持孔32が設けられ、支持孔32の周りに等角間隔で被処理ワイヤ14を貫通する6つの支持孔33が設けられる。中心陽極ワイヤ13及び各被処理ワイヤ14は、対応する支持孔32,33にゴムリング34を介して気密的に支持される。
【0034】
図示しないが、外側陽極電極12及び中心陽極電極13と、各陰極となる被処理ワイヤ14は、陽極電極側が接地電位となり陰極の被処理ワイヤ14側が負電位となるように、負バイアス電源に接続される。
【0035】
各被処理ワイヤ14は、供給リール35から滑車36、ガイドローラ37を介して外側陽極電極12内に移送され、さらに外側陽極電極12を出て、ガイドローラ38、滑車39を介して巻き取りリール41に巻き取られる。
【0036】
第2実施の形態の同軸マグネトロンプラズマストリッパー25の動作は、第1実施の形態で説明したと同様に、各被処理ワイヤ14の周りに磁界と電界とによる均一なマグネトロンプラズマ19が発生し、各被処理ワイヤ14の表面処理が同時にかつ高速で行われる。
【0037】
第2実施の形態に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパー25によれば、円筒状の外側陽極電極12の外周にコイル26を巻回して磁界発生手段27を構成しているので、より全体の構成を簡略化することができる。また、第1実施の形態で説明したと同様に、高密度のマグネトロンプラズマにより、被処理ワイヤ14を高速移送させて短時間の処理を可能にし、また環境負荷を低減した表面処理を行うことができる。
【0038】
[第3実施の形態]
図7及び図8(図7のc−c線上の断面図)に、本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーの第3実施の形態を示す。第3実施の形態の同軸マグネトロンプラズマストリッパー43は、筒状、本例では円筒状の外側陽極電極12の外周にコイル26を巻回して磁界発生手段27を構成したとき、マグネトロンプラズマによる発熱でコイル26の絶縁被覆が損傷しないように構成したものである。
【0039】
第3実施の形態に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパー43は、図7に示すように、円筒状の外側陽極電極12の外側に液密的な空間44を介して同軸筒状のカバー体45を配置し、この空間45内に冷却液、本例では冷却水46を供給するように構成される。筒状のカバー体45は、外側陽極電極12の断面形状に合わせた断面形状に形成され、本例では円筒状に形成される。冷却水46は、一方の供給口47から他方の排出口48へ流れるように供給される。なお、冷却水46は、放熱機構を介して常に冷却された状態で循環して空間45内を流れるようになすこともできる。
【0040】
円筒状の外側陽極電極12内には、中心陽極電極13と、中心陽極電極13を囲む複数、本例では6つの被処理ワイヤ14が軸方向に延長するように配置される。その他の構成は、第2実施の形態で説明したと同様であるので、図5に対応する部分に同一符号を付して重複説明を省略する。
【0041】
第3実施の形態に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパー43によれば、前述と同様に、外側陽極電極12及び中心陽極電極13と陰極の被処理ワイヤ14間の電界と、磁界発生手段27による磁界Bとにより高密度のマグネトロンプラズマが発生する。この高密度のマグネトロンププラズマにより、被処理ワイヤ14を高速移送させて短時間処理を可能にする。また環境負荷を低減した表面処理を行うことができる。
【0042】
一方、高密度のマグネトロンプラズマにより、外側陽極電極12が高温となっても、この熱は外側陽極電極12とカバー体45間を流れる冷却水46で冷やされ、コイル26に影響を与えない。従って、コイル26の絶縁被覆膜を損傷させることがない。従って、本実施の形態の同軸マグネトロンプラズマストリッパー43は、安定して長時間の使用が可能になる。
【0043】
[第4実施の形態]
図9に、本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーの第4実施の形態を示す。第3実施の形態に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパー51は、円筒状の外側陽極電極12の外側に空間44を介して液密的に同軸円筒状のカバー体45を配置し、このカバー体45の外周に軸方向に沿って分割巻きした複数のコイル16[26A,26B,26C,26D]を配置して構成される。複数のコイル26A〜26Dにより外側陽極電極12内に軸方向の磁界Bが発生する磁界発生手段27が構成される。
【0044】
空間44は、分割巻きされた複数のコイル26A〜26Dの領域に対応して軸方向に複数に分割してそれぞれが液密的に封止された空間44A〜44Dから成る。各空間44A〜44Dには、冷却水46の導入口47及び排出口48が設けられる。
【0045】
円筒状の外側陽極電極12内には、中心陽極電極13と、中心陽極電極13を囲む複数、本例では6つの被処理ワイヤ14が軸方向に延長するように配置される。その他の構成は、第2実施の形態で説明したと同様であるので、図5に対応する部分に同一符号を付して重複説明を省略する。
【0046】
第4実施の形態に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパー51によれば、前述と同様に、外側陽極電極12及び中心陽極電極13と陰極の被処理ワイヤ14間の電界と、磁界発生手段27による磁界Bとにより高密度のマグネトロンプラズマが発生する。この高密度のマグネトロンププラズマにより、被処理ワイヤ14を高速移送させて短時間処理を可能にする。また環境負荷を低減した表面処理を行うことができる。
【0047】
一方、磁界発生手段27は、分割巻きした複数のコイル26A〜26Dにより構成されるので、円筒状の外側陽極電極12内の全長にわたって均一な強さの磁界Bが形成され、全長にわたって均一な密度のマグネトロンプラズマが発生する。従って、被処理ワイヤ14に対してより均一な表面処理が行える。さらに、冷却水46は、各コイル26A〜26Dに対応する空間44A〜44Dに供給されるので、外側陽極電極12の全長にわたって均一に冷却され、外周に巻回されたコイル26A〜26Dに対して、むらなく熱的影響を防ぐことができる。
【0048】
[第5実施の形態]
図10に、本発明に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーの第5実施の形態を示す。第5実施の形態に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパー53は、前述と同様に、筒状、本例では円筒状の外側陽極電極12と、外側陽極電極12内に配置した中心陽極電極13と、中心陽極電極13を囲むように配置した複数の被処理ワイヤ14とを有して構成される。複数の被処理ワイヤ14は、等角間隔をもって配置される。外側陽極電極12の外側にコイル26が巻回されて外側陽極電極12内に軸方向の磁界Bを発生する磁界発生手段27が配置される。外側陽極電極12の両端部は気密的に中心陽極電極13及び被処理ワイヤ14を支持する支持部材28により気密封止される。
【0049】
本実施の形態では、さらに、外側陽極電極12の両側に夫々外側陽極電極12に向かって漸次内部気圧が低くなる複数の気圧室54[54A,54B,54C]を配置し、複数の気圧室54と最も気圧が低い外側陽極電極12とによる差動排気システムが構成される。被処理ワイヤ14は、複数の気圧室54A〜54Cを気密的に貫通して移送可能に配置される。
【0050】
外側陽極電極12の一方端には、外側陽極電極13内を所要の真空度にする主たる真空排気装置29が設けられる。外側陽極電極12の他方端には、動作ガス、本例ではアルゴン(Ar)ガスを導入する動作ガス導入装置31が設けられる。さらに、主たる真空排気装置29と気圧室54Aとの間、動作ガス導入装置31と気圧室54Aとの間には、差動排気の油回転ポンプ55が設けられる。この油回転ポンプ55により、被処理ワイヤ14の貫通孔を通じて、順次気圧が異なるように各気圧室54A〜54Cの差動排気がなされる。
【0051】
その他の構成は、第2実施の形態で説明したと同様であるので、図5と対応する部分に同一符号を付して重複説明を省略する。
【0052】
なお、第5実施の形態において、コイル26を有して磁界発生手段27が配置される外側陽極電極12の外側構成は、冷却液を導入する第3実施の形態、分割巻きの複数のコイルが配置された第4実施の形態の構成とすることもできる。
【0053】
第5実施の形態に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパー53によれば、外側陽極電極12の両端部にそれぞれ複数の気圧室54[54A〜54C]を配置して差動排気システムが構成されるので、より気密的に被処理ワイヤ14を移送させることができる。すなわち、外側陽極電極12内の低気圧を維持して被処理ワイヤ14の移送を可能にする。
【0054】
その他、第2実施の形態で説明したと同様の、被処理ワイヤ14の高速処理、短時間処理、環境負荷を低減した表面処理等の効果を奏する。
【0055】
次に、本実施の形態に係る同軸マグネトロンプラズマストリッパーを用いてブラスめっきソーワイヤの表面処理の実験結果を示す。本実験は、第1実施の形態の同軸マグネトロンプラズマストリッパーを用いて、Fe芯線に膜厚200nm程度のブラスめっき(CuZn)皮膜が施された直径250μm程度のソーワイヤに対して、ブラスめっき皮膜の除去を行った。ブラスめっき皮膜の除去に際して、Cuが限りなくゼロであることが望ましいが、Cuの除去残りが10[質量%]以下であれば、切断したウェハ内へのCu拡散による特性上の影響はなく、ソーワイヤとして実用に供し得る。表1及び図11、表2及び図12は、それぞれ放電電流密度を1[mA/cm]、3[mA/cm2]のときの、ワイヤ表面のEDS(エネルギー分散型X線分光法)分析結果を示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表1及びそのグラフ化した図11は、放電電流密度を0.5[mA/cm]、放電電圧を−550[V]のときの、処理時間0秒、60秒、180秒、300秒で処理したワイヤ表面のEDS分析結果を示す。4分から5分の間で表面のブラスめっき膜の除去処理を完了することができる。マグネトロンプラズマの照射時間が4分で処理完了と仮定すると、スパッタレートと処理速度は、次のようになる。
スパッタレート=200[nm]/4[min]=50[nm/min]
2mの処理装置の場合の処理速度Vは、
V=0.5[m/min]
となる。
【0059】
表2及びそのグラフ化した図12は、放電電流密度を1.5[mA/cm]、放電電圧を−730[V]のときの、処理時間0秒、10秒、20秒、30秒で処理したワイヤ表面のEDS分析結果を示す。ワイヤ表面のEDS分析結果を示す。20秒から30秒の間で表面のブラスめっき膜の除去処理を完了することができる。マグネトロンプラズマの照射時間が25秒で処理完了と仮定すると、スパッタレートと処理速度は、次のようになる。
スパッタレート=200[nm]/25[sec]=8[nm/sec]
=480[nm/min]
2mの処理装置の場合の処理速度Vは、
V=4.8[m/min]
となる。
【符号の説明】
【0060】
11・・同軸マグネトロンプラズマストリッパー、12・・筒状の外側陽極電極、13・・中心陽極電極、14・・被処理ワイヤ、15・・磁界発生手段、19・・マグネトロンプラズマ、26[26A〜26D]・・コイル、44・・空間、45・・カバー体、46・・冷却液、54A〜54C・・気圧室


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に動作ガスが導入される筒状の外側陽極電極と、
前記外側陽極電極内に同軸的に配置された線状の中心陽極電極と、
前記外側陽極電極内に前記中心陽極電極を囲むように配置されて軸方向に移送される陰極となる複数の被処理ワイヤと、
前記外側陽極電極内に軸心方向の磁界を発生させる磁界発生手段と
を備え、
前記被処理ワイヤの周りで発生するマグネトロンプラズマで前記被処理ワイヤの表面処理が行われる
同軸マグネトロンプラズマストリッパー。
【請求項2】
前記磁界発生手段は、前記外側陽極電極の外周にコイルを巻回して構成され、
前記外側陽極電極がチャンバーとコイルボビンを兼ねている
請求項1記載の同軸マグネトロンプラズマストリッパー。
【請求項3】
前記外側陽極電極の外側に配置された筒状のカバー体と、
前記外側陽極電極と前記カバー体との間に、前記コイルを冷却する冷却液が導入される密閉空間を有し、
前記コイルが前記カバー体の外周に巻回されている
請求項2記載の同軸マグネトロンプラズマストリッパー。
【請求項4】
前記コイルが外側陽極電極の軸方向に分割して配置され、
前記密閉空間が前記分割されたコイルに対応して複数に分割して形成され、
それぞれの密閉空間に冷却液が導入される
請求項3記載の同軸マグネトロンプラズマストリッパー。
【請求項5】
前記外側陽極電極の軸方向の両側に、外側陽極電極に向かって内部気圧が低くなる複数の気圧室を配置した差動排気システムを備えている
請求項1乃至4のいずれかに記載の同軸マグネトロンプラズマストリッパー。
【請求項6】
前記被処理ワイヤが表面にブラスめっき皮膜が施されたソーワイヤであり、
前記マグネトロンプラズマで前記被処理ワイヤのブラスめっき皮膜の除去が行われる
請求項1乃至5のいずれかに記載の同軸マグネトロンプラズマストリッパー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−126957(P2012−126957A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279012(P2010−279012)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度経済産業省 地域イノベーション創出研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(597150599)ジャパンファインスチール株式会社 (11)
【Fターム(参考)】