説明

同軸型真空アーク蒸着源及び真空蒸着装置

【課題】蒸着材料と絶縁部材との間を密着させて安定した初期放電を得ることができる同軸型真空アーク蒸着源及びこれを備えた真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る同軸型真空アーク蒸着源5は、円筒状の絶縁碍子14と、絶縁碍子14の内周部に配置され外周部が絶縁碍子14の内周部に弾性的に接触する蒸着材料11と、絶縁碍子14の外周部に配置されたトリガ電極13と、トリガ電極13の周囲に同心的に配置された筒状のアノード電極23とを具備する。これにより、蒸着材料11と絶縁碍子14との間の密着を常に維持することができるので、蒸着源5の安定した放電動作を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期放電を安定に発生させることができる同軸型真空アーク蒸着源及びこれを備えた真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブの下地膜(触媒層)や燃料電池の触媒金属担持体としてコバルト粒子が、また固体高分子型燃料電池やメタノール燃料電池などのナノ粒子触媒として白金ナノ粒子が、それぞれ注目されている。近年、同軸型真空アーク蒸着源を用いてコバルトナノ粒子や白金ナノ粒子を捕集板上に形成する試みがなされている。
【0003】
特許文献1には、筒状のアノード電極と、上記アノード電極の内部に配置された柱状の蒸着材料と、上記蒸着材料の周囲に配置された筒状の絶縁部材と、上記絶縁部材の周囲に配置された筒状のトリガ電極とを有する同軸型真空アーク蒸着源が開示されている。この同軸型真空アーク蒸着源においては、上記トリガ電極と上記蒸着材料の間で発生させたトリガ放電によって、上記アノード電極内壁面と上記蒸着材料との間にアーク放電を誘起させ、上記蒸着材料から放出された微小粒子を上記アノード電極の開放口から放出させる。放出された蒸着材料の微小粒子は、基板上に堆積して薄膜を形成する。
【0004】
【特許文献1】特開2007−291426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の同軸型真空アーク蒸着源においては、柱状の蒸着材料は筒状の絶縁部材の内部に組み込まれて使用される。しかし、蒸着材料の外周部と絶縁部材の内周部との間には、これら各部品の寸法公差のため、隙間が生じる場合がある。蒸着材料と絶縁部材との間に隙間が存在すると、トリガ電極と蒸着材料との間に電圧を印加しても沿面放電(トリガ放電)が発生せず、アノード電極と蒸着材料との間にアーク放電が誘起されない。したがって、従来の同軸型真空アーク蒸着源においては、初期放電が安定に発生しない場合があるという問題がある。
【0006】
一方、蒸着材料と絶縁部材の間に生じた隙間を銀ペースト等の導電性ペーストやカーボンなどで充填し、トリガ電極と蒸着材料の間の沿面放電の発生を確保することが考えられる。しかしながら、初期放電時に蒸着材料の微粒子だけでなく、導電ペーストやカーボンなどの充填材から不要粒子が発生して、蒸着膜に不純物が混入したり、真空雰囲気を汚染したりするおそれがある。このため、蒸着材料と絶縁部材との間の密着に充填材を使用することは、高純度薄膜を形成する上では好ましくない。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、蒸着材料と絶縁部材との間を密着させて安定した初期放電を得ることができる同軸型真空アーク蒸着源及びこれを備えた真空蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る同軸型真空アーク蒸着源は、円筒状の絶縁部材と、前記絶縁部材の内周部に配置され、外周部が前記絶縁部材の内周部に弾性的に接触する蒸着材料と、前記絶縁部材の外周部に配置されたトリガ電極と、前記トリガ電極の周囲に配置された筒状電極とを具備する。
【0009】
また、本発明に係る真空蒸着装置は、真空槽と、円筒状の絶縁部材と、前記絶縁部材の内周部に配置され、外周部が前記絶縁部材の内周部に弾性的に接触する蒸着材料と、前記絶縁部材の外周部に配置されたトリガ電極と、前記トリガ電極の周囲に配置された筒状電極と、前記蒸着材料と前記筒状電極との間の放電を制御する電源ユニットとを具備する。
【0010】
本発明において、蒸着材料は、外周部が上記絶縁部材の内周部に弾性的に接触する構成を有している。これにより、蒸着材料と絶縁部材との間の密着を常に維持することができるので、蒸着源の安定した初期放電を確保することができる。また、蒸着材料と絶縁部材との間の隙間を充填する充填材が不要となるので、不要微粒子の発生を防止して、蒸着膜中の不純物混入や雰囲気汚染を回避することが可能となる。
【0011】
蒸着材料の外周部を絶縁部材の内周部に弾性的に接触させる構成として、本発明の一実施形態では、前記蒸着材料は、軸方向に割り溝を有する筒状部品で構成される。この場合、蒸着材料は、その外径を縮径させた状態で絶縁部材の内部に挿入された後、復元力で初期状態へ向けて復帰する。その過程で、蒸着材料の外周部は絶縁部材の内周部と接触する。組み付け後、蒸着材料は絶縁部材の内周部に対して弾性的に接触した状態にあるため、蒸着材料と絶縁部材との間の安定した密着作用を維持することができる。
【0012】
蒸着材料の外周部を絶縁部材の内周部に弾性的に接触させる他の構成として、本発明の一実施形態では、前記蒸着材料は、軸心のまわりに巻回された金属箔の巻回体で構成される。この場合、巻回体の外径が絶縁部材の内径と一致する巻回量以上で金属箔を巻き回すことによって、絶縁部材の内周部に対する蒸着材料の外周部の弾性接触が可能となる。これにより、蒸着材料と絶縁部材との間の安定した密着作用を維持することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、蒸着材料と絶縁部材との間の密着を図ることができるので、安定した初期放電を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づき説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1の実施形態による同軸型真空アーク蒸着源(以下単に「蒸着源」という。)5を備えた真空蒸着装置1の概略構成を示す要部の断面図である。
【0016】
本実施形態の真空蒸着装置1は、真空槽2の内部天井側に配置されたホルダ3と、真空槽2の内部にホルダ3と対向するように配置された蒸着源5と、蒸着源5における放電を制御する制御ユニット6とを有している。ホルダ3は、成膜対象である基板4を保持するためのものである。なお、ホルダ3の内部には、基板4を所定温度に加熱するための加熱源を内蔵していてもよい。
【0017】
また、本実施形態の真空蒸着装置1は、ホルダ3と蒸着源5の間にシャッタ部材7を備えている。シャッタ部材7は、ホルダ3と蒸着源5の間を遮蔽する位置からこれらの間を開放する位置へ移動自在に構成されている。
【0018】
真空槽2の底部には貫通孔が設けられ、この貫通孔を気密に閉塞するように取付フランジ71が配置されている。取付フランジ71は、真空槽2の内部に延びる複数本の支柱72を備えており、これらの支柱72の先端には蒸着源5が固定されている。
【0019】
図2は蒸着源5の構成を示す縦断面図である。蒸着源5は、円筒状の絶縁部材としての絶縁碍子14と、絶縁碍子14の内周部に配置された導電性材料でなる蒸着材料11と、絶縁碍子14の外周部に配置されたトリガ電極13と、トリガ電極13の周囲に同心的に配置された筒状電極としてのアノード電極23とを有している。そして、後述するように、アノード電極23と蒸着材料11との間に電圧を印加した状態でトリガ電極13と蒸着源11との間にトリガ放電を発生させ、アノード電極23と蒸着材料11との間にアーク放電を誘起させると、蒸着材料11からその構成材料の原子状に近いイオン化した微粒子(以下、イオン化した微粒子という)が放出される。
【0020】
本実施形態の蒸着源5は、図2に示すように導電性のベースプレート19を有し、このベースプレート19に円筒状のアノード電極23とカソード部40が取り付けられている。カソード部40は、電極部50と基台部60からなる。電極部50は、蒸着材料11と、蒸着材料11の周囲に位置する環状のトリガ電極13と、トリガ電極13と蒸着材料11との間、及びトリガ電極13とカソード電極12との間に位置する絶縁碍子14とを有している。また、基台部60は、カソード電極12と、スリーブ16と、スリーブ押え17とを有している。
【0021】
アノード電極23の底部内周面には、円板状のベースプレート19の周縁部が固定されている。アノード電極23の上端には開口25が形成されている。アノード電極23は、例えば、直径30mm、高さ(長さ)60mmのステンレス製の円筒部材で形成されている。アノード電極23は、その軸心が、ホルダ3上に保持される蒸着対象物としての基板4の中心部と一致するように配置されている。
【0022】
カソード電極12は、ベースプレート19と絶縁された状態で、ベースプレート19の上面側に配置されている。カソード電極12は、例えば銅で形成されている。カソード電極12は、蒸着材料11と電気的に接続される電極保持部12aと、後述する電源ユニット6と電気的に接続される接続部12bとを有している。
【0023】
絶縁碍子14は、円筒状部14aとフランジ部14bとから構成されており、その形状からハット型碍子と呼称される。円筒状部14aとフランジ部14bは一体的に構成されているが、これらを別部材で形成した後、一体接合することも可能である。本実施形態では、円筒状部14aは、純度99%のアルミナ部材で形成され、フランジ部14bは、純度96%のアルミナ部材で形成されている。また、円筒状部14aの肉厚は、本実施形態では約1mmである。
【0024】
トリガ電極13はこのハット型の絶縁碍子14により、カソード電極12と蒸着材料11との両方と絶縁されている。トリガ電極13の上面は、絶縁碍子14の円筒状部14aの上端面とほぼ同等の高さで形成されている。
【0025】
蒸着材料11は、下端部がカソード電極12と接触している。蒸着材料11の上端部は絶縁碍子14の円筒状部14aの上端面から突出しているが、これに限られない。図3は、蒸着源5の平面図である。本実施形態において、蒸着材料11は、その軸方向に割り溝11aを有する筒状部品であり、割り溝11aを挟んで対向する各端部が互いに近接又は離間する方向へ弾性変形自在に構成されている。
【0026】
図4(A)〜(C)は、絶縁碍子14に対する蒸着材料11の組み付け手順を示す要部の斜視図である。蒸着材料11は、その自然状態(自由状態)において、絶縁碍子14の円筒状部14aの内径よりも大きな外径を有している。そこで、蒸着材料11を割り溝11aの幅を狭めるように押圧して、円筒状部14aの内径以下に縮径させる。この状態で、蒸着材料11を円筒状部14aの内部へ挿入し、押圧力を解放すると、蒸着材料11は復元力によって拡径して、その外周部が円筒状部14aの内周部に弾性的に接触する。組み付け後、蒸着材料は絶縁部材の内周部に対して弾性的に接触した状態にあるため、蒸着材料と絶縁部材との間の安定した密着作用が維持される。
【0027】
絶縁碍子14の円筒状部14aへ装着された状態の蒸着材料11の直径は、例えば10mmである。また、蒸着材料11の高さ、すなわち軸方向の長さは、例えば20mmである。勿論、蒸着材料11の直径、高さは上記の例に限られない。
【0028】
蒸着材料11を構成する金属材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、セレン(Se)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、白金(Pt)などを用いることができる。また、これらの蒸着材料の厚さは、適度な剛性を有し且つ弾性変形が可能な範囲で適宜設定可能であり、例えば、0.1mm〜1.0mm程度とされる。
【0029】
上述したベースプレート19には貫通孔が設けられており、この貫通孔には、スリーブ16が挿通されている。上記貫通孔とスリーブ16の周囲の隙間には、アルミナなどの絶縁材料からなるリング状の上側スリーブ押え17a及び下側スリーブ押え17bからなるスリーブ押え17が配置されている。スリーブ16及び上側スリーブ押え17aの上には、上述したカソード電極12が配置されている。カソード電極12の接続部12bはスリーブ16の内部を介してベースプレート19の裏面側に引き出されている。
【0030】
一方、トリガ電極13には、トリガ配線21の一端が接続されている。トリガ配線21の一部は絶縁材からなるトリガ配線碍子22によって被覆されている。上述したベースプレート19には、その表裏を貫通する小孔が設けられ、トリガ配線碍子22は、この小孔に挿通されてベースプレート19の裏面側に引き出されている。
【0031】
以上のようにして、カソード電極12、トリガ電極13及びアノード電極23は、それぞれ、接続部12b、トリガ配線21及びベースプレート19から、取付フランジ71に気密に取り付けられた電流導入端子を介して、真空槽2の外部に設置された電源ユニット6に接続されている。
【0032】
電源ユニット6は、蒸着材料11とアノード電極23との間の放電を制御するためのもので、トリガ電源31と、アーク電源32と、コンデンサユニット33とを有している。トリガ電源31には、トリガ電極13に、蒸着材料11に対して例えば3.4kVの正のパルス状の電圧を印加することができるように構成されている。他方、アーク電源32は、アノード電極23に、蒸着材料11に対して例えば100Vの正の直流電圧を印加することができるように構成されている。また、コンデンサユニット33は例えば1800μFの容量を持ち、アーク電源32によって充電される。放電周波数は、例えば1Hzである。
【0033】
本実施形態の真空蒸着装置1は以上のように構成される。次に、この真空蒸着装置1の動作について説明する。
【0034】
まず、真空槽2の内部に基板4を搬入し、成膜面を蒸着源5に対向させてホルダ3上に設置する。その後、真空槽2の内部を所定の高真空雰囲気(例えば、1.3×10−4Pa以下)に排気する。
【0035】
この後、必要に応じて、蒸着材料11をクリーニングする。具体的には、シャッタ部材7を図1に示すようにホルダ3と蒸着源5との間を遮蔽する位置に移動させる。この状態で、蒸着源5の蒸着材料11とアノード電極23の間で、例えば50〜100回放電させる。これにより、蒸着材料11の表面に付着している水分や汚れ、油脂が除去される。
【0036】
次に、基板4を成膜する。具体的には、アーク電源32により、アノード電極23に対して、蒸着材料11に100Vの負の直流電圧を印加しておく。そうすると、1800μFのコンデンサに100Vの電圧が印加されているので、1800μF×100V=0.18C(クーロン)の電荷がコンデンサに充電されている。その状態でトリガ電源31を起動し、トリガ電極13に3.4kVの正のパルス電圧を印加する。すると、絶縁碍子14の表面でトリガ放電となる沿面放電(沿面距離約1mm)が発生する。このトリガ放電によって、蒸着材料11の表面が蒸発する。
【0037】
蒸着材料11の蒸発粒子によってアノード電極23内の圧力が上昇し、アノード電極23と蒸着材料11との間の絶縁耐圧が低下すると、コンデンサユニット33に充電された電荷によって、蒸着材料11とアノード電極23との間でアーク放電が発生する。このとき、蒸着材料11に多量の電流が流入し、ジュール熱により蒸着材料11の表面が溶融及び蒸発し、さらには蒸発粒子のプラズマが形成される。
【0038】
この際、蒸着材料11には、約200μsの間に約3000〜4000A(アンペア)の多量の電流が流れる。その結果、蒸着材料11を中心とする同心円上にアンペールの法則に従って磁場が形成されることで、プラズマ中の電子がローレンツ力を受け、基板4に向かって飛行する。そして、プラズマ中の蒸着材料11の金属イオンも電子のクーロン力を受けてアノード電極23の開口25から真空槽2内に放出され、蒸着源5に対向して配置された基板4の表面に到達する。以上のようにして、基板4の表面に蒸着材料11のイオン化した微粒子が堆積して薄膜が形成される。
【0039】
本実施形態において、蒸着材料11は、上述したように、外周部が絶縁碍子14の内周部に弾性的に接触する構成を有している。これにより、蒸着材料11と絶縁碍子14との間の密着を常に維持することができるので、蒸着源5の安定した初期放電を確保することができる。
【0040】
例えば、図5(A)は、本発明の比較例として示す蒸着源105の概略構成を示す要部の縦断面図、図5(B)は(A)のP部の拡大図である。なお、図5(A)、(B)において、本実施形態の蒸着源5と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0041】
図5に示した比較例に係る蒸着源105は、蒸着材料111が円柱状の部品で構成されている。そして、蒸着材料111と絶縁碍子14の寸法公差によって、図5(B)に示したように、蒸着材料111の外周部と絶縁碍子14の内周部との間に隙間Gが発生する場合がある。この場合、トリガ電極13と蒸着材料111との間に電圧を印加しても沿面放電(トリガ放電)が発生せず、アノード電極23と蒸着材料111との間にアーク放電が誘起されない。したがって、この比較例に係る蒸着源105においては、初期放電が安定に発生しない場合があるという問題がある。
【0042】
これに対して本実施形態では、蒸着材料11は、軸方向に割り溝11aを有する筒状部品で構成されている。したがって、蒸着材料11は、その外径を縮径させた状態で絶縁碍子14の内部に挿入された後、復元力で初期状態へ向かって復帰する。その過程で、蒸着材料11の外周部は絶縁碍子14の内周部と接触する。組み付け後、蒸着材料11は絶縁碍子14の内周部に対して弾性的に接触した状態にあるため、蒸着材料11と絶縁碍子14との間の安定した密着作用を維持することができる。これにより、蒸着材料11とトリガ電極13との間の沿面放電を安定して発生させることができるので、蒸着源5の安定した放電動作を維持することができる。
【0043】
また、本実施形態によれば、蒸着材料11と絶縁碍子14との間の安定した密着作用を得ることができるので、蒸着材料11と絶縁碍子14との間の隙間を導電ペーストやカーボンなどの充填材で充填する作業が不要となる。これにより、充填材に起因する不要微粒子の発生を防止して、蒸着膜中の不純物混入や雰囲気汚染を回避することが可能となる。
【0044】
[第2の実施形態]
図6(A)は本発明の第2の実施形態による同軸型真空アーク蒸着源(以下単に「蒸着源」という。)8の概略構成を示す要部の縦断面図であり、図6(B)はその要部の平面図である。なお、図において上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0045】
本実施形態では、蒸着材料80の構成が上述の第1の実施形態と異なっている。すなわち、本実施形態の蒸着源8は、軸心の周りに巻回された金属箔の巻回体で構成された蒸着材料80を備えている。蒸着材料80は、図6(A)、(B)に示すように、巻き芯81と、巻き芯81の周囲に幾重にも巻回された金属箔82とを有している。
【0046】
金属箔82は、蒸着膜を構成する金属材料の箔又はシートでなり、例えば0.1mm程度の厚さを有している。金属箔82は、絶縁碍子14の円筒状部14aの内径と同等以上の外径となるまで、巻き芯81に巻回されている。金属箔82の構成材料は、目的とする成膜材料に応じて適宜選択可能であり、例えば、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、セレン(Se)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、白金(Pt)などを用いることができる。また、2種以上の材料の箔を重ねて巻回することで、これら金属材料の合金薄膜の形成が可能となる。
【0047】
巻き芯81の構成材料は特に限定されないが、金属箔82と同種の金属材料で構成することにより、アーク放電時の不純物の発生を回避することができる。また、巻き芯81の構成材料は、タングステンやモリブデンなど、金属箔82よりも高融点の金属材料で構成することでも、不純物の発生を回避することができる。巻き芯81を金属材料で構成することにより、カソード電極12との安定した導通を確保することができる。なお、巻き芯81の構成材料は金属材料だけに限定されない。例えば、アルミナなど、金属箔82よりも高融点のセラミック材料で巻き芯81を構成することによっても不純物の発生を抑えることが可能である。
【0048】
以上のように構成される本実施形態の蒸着材料80は、絶縁碍子14の円筒状部14aの内部に装着されることによって、蒸着材料80の外周部を円筒状部14aの内周部に弾性的に接触させることが可能となる。これにより、上述の第1の実施形態と同様、蒸着材料80と絶縁碍子14との間の安定した密着を維持できるため、蒸着源8の放電特性の安定化を図ることが可能となる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0050】
例えば以上の第1の実施形態では、絶縁碍子14の内周部に弾性的に接触可能な蒸着材料11として、軸方向に割り溝11aを有する円筒状部品で構成したが、これだけに限られない。例えば図7にその平面形状を示す蒸着材料90は、スパイラル状に幾重にも巻回した金属シートのロール体で構成されている。この構成の蒸着材料90によっても、巻回方向に押圧力を作用させることで、ロール径を弾性的に変化させることが可能となる。これにより、絶縁碍子14への組み付け後において蒸着材料90の外周部を絶縁部材14の内周部に安定に密着させることできる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施形態による真空蒸着装置の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による同軸型真空アーク蒸着源の概略構成を示す縦断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による同軸型真空アーク蒸着源の平面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による同軸型真空アーク蒸着源における絶縁部材に対する蒸着材料の装着手順を説明する要部の斜視図である。
【図5】(A)は本発明の比較例に係る同軸型真空アーク蒸着源の概略構成を示す縦断面図であり、(B)は(A)におけるP部の拡大図である。
【図6】(A)は本発明の第2の実施形態による同軸型真空アーク蒸着源の概略構成を示す縦断面図であり、(B)はその要部の平面図である。
【図7】本発明に係る蒸着材料の構成の一変形例を概略的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
1・・・真空蒸着装置
2・・・真空槽
4・・・基板
5、8・・・同軸型真空アーク蒸着源(蒸着源)
6・・・電源ユニット
11、80、90・・・蒸着材料
12・・・カソード電極
13・・・トリガ電極
14・・・絶縁碍子
14a・・・円筒状部
23・・・アノード電極
25・・・開口
31・・・トリガ電源
32・・・アーク電源
33・・・コンデンサユニット
81・・・巻き芯
82・・・金属箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の絶縁部材と、
前記絶縁部材の内周部に配置され、外周部が前記絶縁部材の内周部に弾性的に接触する蒸着材料と、
前記絶縁部材の外周部に配置されたトリガ電極と、
前記トリガ電極の周囲に同心的に配置された筒状電極と
を具備する同軸型真空アーク蒸着源。
【請求項2】
請求項1に記載の同軸型真空アーク蒸着源であって、
前記蒸着材料は、軸方向に割り溝を有する筒状部品である
同軸型真空アーク蒸着源。
【請求項3】
請求項1に記載の同軸型真空アーク蒸着源であって、
前記蒸着材料は、軸心のまわりに巻回された金属箔の巻回体である
同軸型真空アーク蒸着源。
【請求項4】
真空槽と、
円筒状の絶縁部材と、
前記絶縁部材の内周部に配置され、外周部が前記絶縁部材の内周部に弾性的に接触する蒸着材料と、
前記絶縁部材の外周部に配置されたトリガ電極と、
前記トリガ電極の周囲に同心的に配置された筒状電極と、
前記蒸着材料と前記筒状電極との間の放電を制御する電源ユニットと
を具備する真空蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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