説明

吐出液、接合膜の形成方法、接合方法および接合体

【課題】2つの基材同士を、低コストで微細な形状にパターニングされた接合膜を形成することができる吐出液、かかる吐出液を用いた微細な形状にパターニングされた接合膜の形成方法、かかる接合膜の形成方法で形成された接合膜で接合する接合方法、および、かかる接合方法で接合された接合膜を備える接合体を提供すること。
【解決手段】本発明の吐出液は、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含み、エネルギーが付与されることにより表面付近に他の被着体との接着性を発現する、所定形状にパターニングされた接合膜3を得るのに用いられるものであり、液滴吐出法を用いて、当該吐出液を、前記所定形状に対応して基板(基材)2上に供給した後、乾燥・焼成することにより、前記所定形状にパターニングされた接合膜3を得るためのものであり、前記金属原子の金属錯体と、前記金属錯体を溶解または分散させるための溶媒または分散媒とを含有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出液、接合膜の形成方法、接合方法および接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上に所定形状にパターニングされた膜を形成する方法として、樹脂を主成分とするマスクを用いたエッチング法が、広く利用されている(例えば、特許文献1参照。)。
具体的には、I:基板上に膜形成用の材料で構成される層を形成する。II:前記層上にレジスト材料を塗布する。III:レジスト材料を露光・現像し、前記層の不要部分に対応して開口部を有するレジスト層を得る。IV:レジスト層をマスクに用いて、エッチング法により、開口部内に露出した層を除去する。V:マスクを除去する。これにより、基板上に所定パターンに形成された膜を得る。
このようなパターニングされた膜の形成方法は、2つの基板同士を接合する際に用いられる接合膜を、基板上に所定形状に形成する場合にも適用されるが、このような方法では、レジスト層の形成に時間と手間とを要する。その結果、膜形成までに長時間を要したり、コストが高くなる等の問題が生じる。
【0003】
【特許文献1】特開平5−338184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、2つの基材同士を、低コストで微細な形状にパターニングされた接合膜を形成することができる吐出液、かかる吐出液を用いた微細な形状にパターニングされた接合膜の形成方法、かかる接合膜の形成方法で形成された接合膜で接合する接合方法、および、かかる接合方法で形成された接合膜を備える接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の吐出液は、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含み、エネルギーが付与されることにより表面付近に他の被着体との接着性を発現する、所定形状にパターニングされた接合膜を得るのに用いられる吐出液であって、
ノズル孔から間欠的に液滴を吐出する液滴吐出法を用いて、当該吐出液を、前記所定形状に対応して基材上に供給した後、乾燥・焼成することにより、前記所定形状にパターニングされた接合膜を得るためのものであり、
前記金属原子の金属錯体と、前記金属錯体を溶解または分散させるための溶媒または分散媒(以下、「溶媒または分散媒」を、単に「溶媒」と言う。)とを含有することを特徴とする。
かかる吐出液を、液滴吐出法を用いて基材上に液滴として供給した後、乾燥・焼成することにより、低コストで微細な形状にパターニングされた接合膜を形成することができる。
【0006】
本発明の吐出液では、当該吐出液中における前記金属錯体の含有率は、10〜50wt%であることが好ましい。
これにより、吐出液の粘度を適度な範囲内に設定しつつ、吐出液を乾燥・焼成して接合膜を得る際に、目的とする膜厚を有する接合膜を確実に形成することができる。
本発明の吐出液では、当該吐出液の粘度は、前記液滴吐出法により前記液滴を吐出し得る粘度に設定されていることが好ましい。
かかる吐出液を、液滴吐出法を用いて基材上に液滴として供給することにより、低コストで微細な形状にパターニングされた接合膜を形成することができる。
【0007】
本発明の吐出液では、当該吐出液の粘度(25℃)は、3〜10mPa・sであることが好ましい。
吐出液の粘度をかかる範囲とすることにより、液滴の吐出をより安定的に行うことができるとともに、微細な形状の所定形状を描画し得る大きさの液滴を確実に吐出することができる。さらに、この吐出液を乾燥・焼成させた際に、接合膜を形成するのに十分な量の金属錯体を吐出液中に含有したものとすることができる。
【0008】
本発明の吐出液では、当該吐出液を前記液滴吐出法を用いて液滴としたとき、該液滴の平均量は、0.1〜40pLであることが好ましい。
これにより、液滴を基材上に供給した際の着弾径が小さなものとなることから、微細な形状の接合膜をも確実に形成することができるものとなる。
本発明の吐出液では、前記溶媒は、無機溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、アミン系溶媒、セロソルブ系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、芳香族複素環化合物系溶媒、アミド系溶媒、ハロゲン化合物系溶媒、エステル系溶媒、硫黄化合物系溶媒、ニトリル系溶媒、有機酸系溶媒のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。
これら溶媒の種類を金属錯体の種類に応じて適宜選択することにより、金属錯体を効率よく溶媒中に溶解させることができる。
【0009】
本発明の吐出液では、前記脱離基は、炭素原子を必須成分とし、水素原子、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子およびハロゲン原子のうちの少なくとも1種を含む原子団で構成されることが好ましい。
これらの脱離基は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、エネルギーを付与することによって比較的簡単に、かつ均一に脱離する脱離基が得られることとなり、吐出液を用いて得られる接合膜の接着性をより高度化することができる。
【0010】
本発明の吐出液では、前記脱離基は、アルキル基を含むことが好ましい。
アルキル基を含む脱離基は、化学的な安定性が高いため、吐出液を用いて得られる接合膜において脱離基としてアルキル基を備えるものは、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
本発明の吐出液では、前記金属原子は、銅、アルミニウム、亜鉛、鉄およびルテニウムのうちの少なくとも1種であることが好ましい。
吐出液を用いて得られる接合膜を、これらの金属原子を含むものとすることにより、接合膜は、優れた導電性を発揮するものとなる。
【0011】
本発明の吐出液では、前記液滴吐出法は、圧電素子による振動を利用して前記吐出液を、インクジェットヘッドが備えるノズル孔から液滴として吐出するインクジェット法であることが好ましい。
インクジェット法によれば、目的とする領域(位置)に、吐出液を液滴として、優れた位置精度で供給することができる。また、圧電素子の振動数および吐出液の粘度等を適宜設定することにより、液滴のサイズ(大きさ)を、比較的容易に調整できることから、液滴のサイズを小さくすれば、たとえ所定形状が微細なものであったとしても、この形状に対応した接合膜を確実に形成することができる。
【0012】
本発明の吐出液では、前記所定形状は、前記接合膜による接合を必要とする部位に対応した形状をなしていることが好ましい。
本発明の接合膜の形成方法は、本発明の吐出液を用いて前記基材上に接合膜を形成する接合膜の形成方法であって、
前記基材を用意し、前記吐出液を前記液滴吐出法を用いて前記液滴として供給することにより、前記基材に前記所定形状にパターニングされた液状被膜を形成する工程と、
前記液状被膜を乾燥・焼成して、前記基材に前記所定形状にパターニングされた前記接合膜を得る工程とを有することを特徴とする。
これにより、低コストで微細な形状にパターニングされた接合膜を基材上に形成することができる。
【0013】
本発明の接合膜の形成方法では、前記脱離基は、前記吐出液を乾燥させた後、焼成した際に、前記金属錯体に含まれる有機物の一部が残存することにより形成されることが好ましい。
このように成膜した際に膜中に残存する残存物を脱離基として用いる構成とすることにより、形成された金属膜中に脱離基を導入する必要がなく、比較的簡単な工程で接合膜を成膜することができる。
【0014】
本発明の接合膜の形成方法では、前記焼成の際の焼成温度は、70〜300℃であることが好ましい。
かかる範囲内に設定することにより、金属錯体に含まれる有機物が、その一部を残存させた状態で、金属錯体中から確実に除去されるため、その表面にエネルギーを付与することにより接着性が好適に発現する接合膜を確実に形成することができる。
【0015】
本発明の接合膜の形成方法では、前記焼成は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
これにより、基材上に純粋な金属膜が形成されることなく、金属錯体中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で接合膜を形成することができる。その結果、接合膜および金属膜としての双方の特性に優れた接合膜を形成することができる。
【0016】
本発明の接合膜の形成方法では、前記焼成は、減圧下で行われることが好ましい。
これにより、形成される接合膜の膜密度が緻密化して、接合膜をより優れた膜強度を有するものとすることができる。
本発明の接合膜の形成方法では、前記接合膜中の前記金属原子と前記炭素原子との存在比は、3:7〜7:3であることが好ましい。
金属原子と炭素原子の存在比を前記範囲内になるよう接合膜を形成することにより、接合膜の安定性が高くなり、基材と他の被着体とを接合膜を介してより強固に接合することができるようになる。また、接合膜を優れた導電性を発揮するものとすることができる。
【0017】
本発明の接合膜の形成方法では、前記接合膜は、導電性を有するものであることが好ましい。
これにより、基材と他の被着体とを接合膜を介して接合した際に、接合膜を配線基板が備える配線や、その端子等に適用することができる。
本発明の接合膜の形成方法では、前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmであることが好ましい。
これにより、基材と他の被着体とを接合膜を介して接合した接合体を得た際に、この接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合する接合膜とすることができる。
【0018】
本発明の接合膜の形成方法では、前記接合膜は、流動性を有さない固体状をなしていることが好ましい。
これにより、得られた接合膜を用いて基材と他の被着体とが接合された接合体の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。また、従来に比べ、短時間で強固な接合が可能になる。
【0019】
本発明の接合膜の形成方法では、前記基材は、板状をなしていることが好ましい。
これにより、基材が撓み易くなり、基材は、他の被着体の形状に沿って十分に変形可能なものとなるため、得られた接合膜を用いて形成される接合体において、これらの密着性がより高くなる。また、基材が撓むことによって、接合界面に生じる応力を、ある程度緩和することができる。
【0020】
本発明の接合膜の形成方法では、前記基材の少なくとも前記接合膜を形成する部分は、シリコン系材料、金属系材料またはガラス系材料を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、表面処理を施さなくても、十分な接合強度が得られる。
本発明の接合膜の形成方法では、前記基材の前記接合膜を備える面には、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されていることが好ましい。
これにより、基材の表面を清浄化および活性化し、接合膜と基材との接合強度を高めることができる。
【0021】
本発明の接合膜の形成方法では、前記表面処理は、プラズマ処理であることが好ましい。
これにより、接合膜を形成するために、基材の表面を特に最適化することができる。
本発明の接合膜の形成方法では、前記基材と前記接合膜との間に、中間層が介挿されていることが好ましい。
これにより、接合膜と基材との接合強度を高めることができる。
【0022】
本発明の接合膜の形成方法では、前記中間層は、酸化物系材料を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、接合膜と基材との間の接合強度を特に高めることができる。
本発明の接合方法は、前記基材と前記他の被着体とを用意し、本発明の接合膜の形成方法を用いて、前記基材および前記他の被着体のうち少なくとも前記基材に前記所定形状にパターニングされた前記接合膜を形成する工程と、
前記接合膜にエネルギーを付与することにより、前記接合膜の表面付近に接着性を発現させ、当該接合膜を介して前記基材と前記他の被着体とが接合された接合体を得る工程とを有することを特徴とする。
これにより、基材と他の被着体とを、低コストで微細な形状にパターニングされた接合膜を介して接合された接合体を形成することができる。
【0023】
本発明の接合方法では、前記接合膜は、該接合膜に前記エネルギーを付与することにより、その少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が、当該接合膜から脱離した後に、活性手が生じることが好ましい。
これにより、接合膜は、他の被着体に対して、化学的結合に基づいて強固に接合可能なものとなるため、得られる接合体は、接合強度に優れるものとなる。
【0024】
本発明の接合方法では、前記活性手は、未結合手または水酸基であることが好ましい。
これにより、接合膜は、他の被着体に対して、特に強固な接合が可能となる。
本発明の接合方法では、前記接合膜に前記エネルギーを付与して、前記接合膜の表面付近に接着性を発現させた後、前記接合膜を介して前記基材と前記他の被着体とを接触させることにより、前記接合体を得ることが好ましい。
これにより、基材と他の被着体とを、低コストで微細な形状にパターニングされた接合膜を介して接合された接合体を形成することができる。
【0025】
本発明の接合方法では、前記接合膜を介して前記基材と前記他の被着体とを接触させた後、前記接合膜に前記エネルギーを付与して、前記接合膜の表面付近に接着性を発現させることにより、前記接合体を得ることが好ましい。
これにより、基材と他の被着体とを、低コストで微細な形状にパターニングされた接合膜を介して接合された接合体を形成することができる。
【0026】
本発明の接合方法では、前記エネルギーの付与は、前記接合膜にエネルギー線を照射する方法、前記接合膜を加熱する方法、および前記接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行われることが好ましい。
これにより、接合膜の表面を効率よく活性化させることができる。また、接合膜中の分子構造を必要以上に切断しないので、接合膜の特性が低下してしまうのを避けることができる。
【0027】
本発明の接合方法では、前記エネルギー線は、波長126〜300nmの紫外線であることが好ましい。
かかる範囲内とすれば、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜中の骨格をなす分子結合が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、接合膜から表面付近の分子結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜の特性が低下するのを防止しつつ、接合膜に接着性を確実に発現させることができる。
【0028】
本発明の接合方法では、前記加熱の温度は、25〜100℃であることが好ましい。
これにより、接合体が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
本発明の接合方法では、前記圧縮力は、0.2〜10MPaであることが好ましい。
これにより、圧力が高すぎて基材および他の被着体に損傷等が生じるのを防止しつつ、接合体の接合強度を確実に高めることができる。
【0029】
本発明の接合方法では、前記エネルギーの付与は、大気雰囲気中で行われることが好ましい。
これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギーの付与をより簡単に行うことができる。
本発明の接合方法では、前記他の被着体は、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理を施した表面を有するものであり、
前記接合体は、前記表面処理を施した表面に対して、前記接合膜が密着するようにして貼り合わされることにより形成されることが好ましい。
これにより、接合膜と被着体との接合強度をより高めることができる。
【0030】
本発明の接合方法では、前記他の被着体は、あらかじめ、官能基、ラジカル、開環分子、不飽和結合、ハロゲンおよび過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基または物質を有する表面を有するものであり、
前記接合体は、前記基または物質を有する表面に対して、前記接合膜が密着するようにして貼り合わされることにより形成されることが好ましい。
これにより、接合膜と被着体との接合強度を十分に高くすることができる。
【0031】
本発明の接合方法では、さらに、前記基材と前記他の被着体とを接合させた後に、前記接合膜に対して、前記基材と前記他の被着体との接合強度を高める処理を行う工程を有することが好ましい。
これにより、接合体の接合強度のさらなる向上を図ることができる。
本発明の接合方法では、前記接合強度を高める処理を行う工程は、前記接合膜にエネルギー線を照射する方法、前記接合膜を加熱する方法、および前記接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行われることが好ましい。
これにより、接合体の接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
本発明の接合体は、本発明の接合方法を用いて得られたことを特徴とする。
これにより、信頼性の高い接合体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の吐出液、接合膜の形成方法、接合方法および接合体を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
まず、本発明の吐出液、接合膜の形成方法、接合方法および接合体を説明するのに先立って、本発明の接合膜の形成方法を用いて基材上に所定形状にパターニングされた接合膜について説明する。
【0033】
<接合膜>
図1は、本発明の接合膜の形成方法を用いて基材上に所定形状にパターニングされた接合膜の一例を示す縦断面図、図2は、図1に示す接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図、図3は、図1に示す接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。
【0034】
図1に示す接合膜3は、板状をなす基板(基材)2の膜を形成しない非膜形成領域42に形成されることなく、基板2の膜を形成する膜形成領域41において、選択的に所定形状にパターニングされて形成されている。
なお、本明細書中で、「所定形状」とは、接合膜3による接合を必要とする部位に対応した形状のことを言い、本実施形態では、基板2の接合面23の膜形成領域41に対応した形状のことを言う。
【0035】
基板2は、接合膜3を支持するとともに、後述する接合方法において、対向基板(他の被着体)4に対して、この接合膜3を介して接合されるものである。
このような基板2の構成材料は、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、ポリブテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アラミド系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の樹脂系材料、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、V、Mo、Nb、Zr、Pr、Nd、Smのような金属、またはこれらの金属を含む合金、炭素鋼、ステンレス鋼、インジウム錫酸化物(ITO)、ガリウムヒ素のような金属系材料、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンのようなシリコン系材料、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラスのようなガラス系材料、アルミナ、ジルコニア、MgAl、フェライト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのようなセラミックス系材料、グラファイトのような炭素系材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
【0036】
また、基板2は、その表面に、Niめっきのようなめっき処理、クロメート処理のような不働態化処理、または窒化処理等を施したものであってもよい。
また、基板(基材)2の形状は、接合膜3を支持する面を有するような形状であればよく、板状のものに限定されない。すなわち、基材の形状は、例えば、塊状(ブロック状)や、棒状等であってもよい。
【0037】
なお、本実施形態では、基板2が板状をなしていることから、基板2が撓み易くなり、基板2は、後述する対向基板4の形状に沿って十分に変形可能なものとなるため、これらの密着性がより高くなる。また、基板2と接合膜3との密着性が高くなるとともに、基板2が撓むことによって、接合界面に生じる応力を、ある程度緩和することができる。
この場合、基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜10mm程度であるのが好ましく、0.1〜3mm程度であるのがより好ましい。なお、対向基板4の平均厚さも、前述した基板2の平均厚さと同様の範囲内であるのが好ましい。
【0038】
接合膜3は、後述する接合方法において、基板2と対向基板4(以下、これらを総称して「基板2、4」とも言う。)とを、これらの間に介在して、これらの基板2、4の接合を担うものである。
かかる接合膜3は、金属錯体と、この金属錯体を溶解または分散させるための溶媒または分散媒とを含有する液状材料(本発明の吐出液)を基板2上に供給した後、乾燥・焼成することにより得られるものであり、金属原子と、有機成分で構成させる脱離基303とを含むものである(図2参照。)。
【0039】
このような接合膜3は、エネルギーが付与されると、脱離基303が接合膜3の少なくとも表面32付近から脱離し、図3に示すように、接合膜3の少なくとも表面32付近に、活性手304が生じるものである。そして、これにより、接合膜3の表面に接着性が発現する。かかる接着性が発現すると、接合膜3は、対向基板4に対して、高い寸法精度で強固に効率よく接着可能なものとなる。すなわち、接合膜3を介して、基板2、4同士を高い寸法精度で強固に効率よく接合することができる。
【0040】
また、接合膜3は、前記液状材料を乾燥・焼成することにより得られる、金属原子と、有機成分で構成される脱離基303とを含むもの、すなわち有機金属膜であることから、変形し難い強固な膜となる。このため、接合膜3自体が寸法精度の高いものとなり、最終的に得られる接合体5においても、寸法精度が高いものとなる。
このような接合膜3は、流動性を有さない固体状をなすものである。このため、従来から用いられている、流動性を有する液状または粘液状(半固形状)の接着剤に比べて、接着層(接合膜3)の厚さや形状がほとんど変化しない。したがって、基板2と対向基板4とが接合膜3を介して接合された接合体5の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
【0041】
また、本発明では、接合膜3は、導電性を有するものであるのが好ましい。これにより、後述する接合体を、接合膜3を配線基板が備える配線や、その端子等に適用することができる。
以上のような接合膜3としての機能が好適に発揮されるように、金属原子および脱離基303が選択される。
【0042】
具体的には、金属原子としては、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、各種ランタノイド元素、各種アクチノイド元素のような遷移金属元素、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Rb、Sr、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Tl、Pd、Bi、Poのような典型金属元素等が挙げられる。
【0043】
ここで、遷移金属元素は、各遷移金属元素間で、最外殻電子の数が異なることのみの差異であるため、物性が類似している。そして、遷移金属は、一般に、硬度や融点が高く、電気伝導性および熱伝導性が高い。このため、金属原子として遷移金属元素を用いた場合、接合膜3に発現する接着性をより高めることができる。また、それとともに、接合膜3の導電性をより高めることができる。
【0044】
また、金属原子として、Cu、Al、Zn、FeおよびRuのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いた場合、接合膜3は、優れた導電性を発揮するものとなる。また、金属錯体と、この金属錯体を溶解または分散させるための溶媒または分散媒とを含有する液状材料を乾燥・焼成して接合膜3を得る際に、これらの金属を含む金属錯体を原材料として用いて、比較的容易かつ均一な膜厚の接合膜3を成膜することができる。
【0045】
また、脱離基303は、前述したように、接合膜3から脱離することにより、接合膜3に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないよう接合膜3に確実に結合しているものが好適に選択される。
【0046】
具体的には、脱離基303としては、炭素原子を必須成分とし、水素原子、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子およびハロゲン原子のうちの少なくとも1種を含む原子団が好適に選択される。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜3の接着性をより高度なものとすることができる。
【0047】
より具体的には、原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、カルボキシル基の他、前記アルキル基の末端がイソシアネート基、アミノ基およびスルホン酸基等で終端しているもの等が挙げられる。
以上のような原子団の中でも、脱離基303は、特に、アルキル基を含むのが好ましい。アルキル基を含む脱離基303は、化学的な安定性が高いため、脱離基303としてアルキル基を備える接合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
【0048】
また、かかる構成の接合膜3において、金属原子と炭素原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。金属原子と炭素原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜3の安定性が高くなり、接合膜3を介して基板2と対向基板4とをより強固に接合することができるようになる。また、接合膜3を優れた導電性を発揮するものとすることができる。
【0049】
また、接合膜3の平均厚さは、1〜1000nm程度であるのが好ましく、50〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜3の平均厚さを前記範囲内とすることにより、基板2と対向基板4とを接合膜3を介して接合された接合体5の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜3の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜3の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、接合体5の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
【0050】
さらに、接合膜3の平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜3にある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、基板2の接合面(接合膜3に隣接する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜3を被着させることができる。その結果、接合膜3は、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、対向基板4に対して基板2を貼り合わせた際に、接合膜3の対向基板4に対する密着性を高めることができる。
【0051】
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜3の厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜3の厚さを上記範囲内で可能な限り厚くすればよい。
以上のような接合膜3は、本発明の接合膜の形成方法を用いて、基板2の膜形成領域41に選択的に形成することができる。以下、本発明の接合膜の形成方法を説明するが、各工程を説明するのに先立って、まず、本発明の接合膜の形成方法に用いられる液滴吐出装置の一例について説明する。
【0052】
<液滴吐出装置>
図4は、本発明の接合膜の形成方法で用いる液滴吐出装置を示す斜視図、図5は、図4に示す液滴吐出装置における液滴吐出ヘッドを示す図であり、(a)は断面斜視図、(b)は断面図である。
図4に示す液滴吐出装置500は、本発明の接合膜の形成方法で接合膜3を形成する際に、液滴を間欠的に吐出する液滴吐出法に用いられる。この液滴吐出装置500は、金属錯体と、この金属錯体を溶解または分散させるための溶媒または分散媒とを含有する液状材料(吐出液)を保持するタンク501と、チューブ510と、チューブ510を介してタンク501から液状材料が供給される吐出走査部502とを備える。吐出走査部502は、液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)514を備える液滴吐出手段503と、液滴吐出手段503の位置を制御する第1位置制御装置504(移動手段)と、接合膜3を形成する基板2または対向基板4を保持するステージ506と、ステージ506の位置を制御する第2位置制御装置508(移動手段)と、制御手段512とを備えている。タンク501と、液滴吐出手段503における液滴吐出ヘッド514とは、チューブ510で連結されており、タンク501から液滴吐出ヘッド514に液状材料が圧縮空気によって供給される。
【0053】
制御手段(制御装置)512は、例えば、演算部やメモリー等を内蔵するマイクロコンピュータやパーソナルコンピュータ等のコンピュータで構成されており、制御手段512には、図示しない操作部からの信号(入力)が、それぞれ、随時入力される。
また、制御手段512は、操作部からの信号等に基づき、予め設定されたプログラムに従って、液滴吐出装置500の各部の作動(駆動)をそれぞれ制御する。
【0054】
第1位置制御装置504は、制御手段512からの信号に応じて、液滴吐出手段503をX軸方向、およびX軸方向に直交するZ軸方向に沿って移動させる。さらに、第1位置制御装置504は、Z軸に平行な軸の回りで液滴吐出手段503を回転させる機能も有する。本実施形態では、Z軸方向は、鉛直方向(つまり重力加速度の方向)に平行な方向である。第2位置制御装置508は、制御手段512からの信号に応じて、X軸方向およびZ軸方向の双方に直交するY軸方向に沿ってステージ506を移動させる。さらに、第2位置制御装置508は、Z軸に平行な軸の回りでステージ506を回転させる機能も有する。
【0055】
ステージ506は、X軸方向とY軸方向との双方に平行な平面を有する。また、ステージ506は、液状材料を付与して接合膜3を形成する基板2、4をその平面上に固定、または保持できるように構成されている。
上述のように、液滴吐出手段503は、第1位置制御装置504によってX軸方向に移動させられる。一方、ステージ506は、第2位置制御装置508によってY軸方向に移動させられる。つまり、第1位置制御装置504および第2位置制御装置508によって、ステージ506に対する液滴吐出ヘッド514の相対位置が変わる(ステージ506に保持された基板2、4と、液液滴吐出手段503とが相対的に移動する)。
【0056】
制御手段512は、液状材料を吐出すべき相対位置を表す吐出データを外部情報処理装置から受け取るように構成されている。
液状材料を基板2、4上に供給する際には、液滴吐出ヘッド514と基板2、4とを相対的に走査しつつ、基板2、4上に液状材料を吐出する。すなわち、第2位置制御装置508の作動により、基板2、4が保持されているステージ506をY軸方向に移動させ、液滴吐出手段503の下を通過させつつ、液滴吐出手段503が備える液滴吐出ヘッド514のノズル孔518から液状材料の液滴(インク滴)31を間欠的に吐出して、基板2、4上の膜形成領域41に付与する(着弾させる)。以下、この動作を「塗布走査(液滴吐出ヘッド514と基板2、4との主走査)」と言うことがある。
【0057】
そして、この液状材料を基板2、4上に供給する工程においては、通常は、前記塗布走査(走査)を複数回行うようになっている。なお、前記塗布走査の回数は、1回でもよいことは言うまでもない。
本実施形態では、液滴吐出ヘッド514は、図5(a)および(b)に示すように、インクジェットヘッドで構成されている。すなわち、本実施形態で説明する液滴吐出装置は、インクジェット装置である。
【0058】
液滴吐出ヘッド514は、振動板526と、ノズルプレート528とを備えている。振動板526と、ノズルプレート528との間には、タンク501から、チューブ510および孔531を介して供給される液状材料が常に充填される液だまり529が位置している。
また、振動板526と、ノズルプレート528との間には、複数の隔壁522が位置している。そして、振動板526と、ノズルプレート528と、1対の隔壁522とによって囲まれた部分がキャビティ(インク室)520である。キャビティ520はノズル孔518に対応して設けられているため、キャビティ520の数とノズル孔518の数とは同じである。キャビティ520には、1対の隔壁522間に位置する供給口530を介して、液だまり529から液状材料が供給される。
【0059】
振動板526上には、それぞれのキャビティ520に対応して、振動子524が位置する。振動子524は、駆動素子としてのピエゾ素子(圧電素子)524Cと、ピエゾ素子524Cを挟む1対の電極524A、524Bとを含む。この1対の電極524A、524Bとの間に駆動電圧(信号)を印加する(与える)ことで、ピエゾ素子524Cの振動に追従して振動板526が振動することにより、対応するノズル孔518から液状材料が液滴31として吐出される。
【0060】
この場合、前記駆動電圧(例えば、駆動電圧の大きさ等)を調整することにより、ノズル孔518から吐出される液状材料の吐出動作1回当りの吐出量(液滴量)を調整することができるようになっている。
なお、ノズル孔518からZ軸方向に液状材料が吐出されるように、ノズル孔518の形状が調整されている。
【0061】
制御手段512は、複数の振動子524のそれぞれに互いに独立に駆動電圧を印加するように構成されていてもよい。つまり、ノズル孔518から吐出される液状材料の吐出動作1回当りの吐出量が、制御手段512からの信号、すなわち、駆動電圧に応じてノズル孔518毎に制御されてもよい。また、制御手段512は、塗布走査の間に吐出動作を行うノズル孔518と、吐出動作を行わないノズル孔518とを設定することでもできる。
【0062】
なお、1つのノズル孔518と、ノズル孔518に対応するキャビティ520と、キャビティ520に対応する振動子524とを含んだ部分により吐出部が構成される。この吐出部は、1つの液滴吐出ヘッド514において、ノズル孔518の数と同じ数だけ存在することとなる。
上記のような液滴吐出装置500を用いて、基板2、4上に液状材料を液滴31として供給することにより、基板2、4の接合面(上面)23、24の所望の位置に液状材料を供給することができる。これにより、膜形成領域41の形状に対応して基板2、4上に液状被膜30を、ひいては接合膜3を確実に形成することができる。すなわち、基板2、4に、所定形状にパターニングされた液状被膜30(接合膜3)を確実に形成することができる。
【0063】
なお、本発明では、液滴吐出ヘッド514は、駆動素子として、ピエゾ素子の代わりに静電アクチュエータを用いるものでもよい。また、液滴吐出ヘッド514は、駆動素子として電気熱変換素子を用い、この電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用して液状材料を吐出するバブルジェット方式(「バブルジェット」は登録商標)の構成であってもよい。
【0064】
さらに、本実施形態の液滴吐出装置500は、吐出走査部502に隣接して設けられたUVランプ(紫外線照射ランプ)550を備えている。UVランプ550には、制御手段512が接続されており、制御手段512は、操作部からの信号等に基づき、予め設定されたプログラムに従って、UVランプ550の作動(駆動)を制御する。
かかるUVランプ550を備えていることから、基板2、4上に形成された接合膜3に紫外線を照射して、その表面付近に接着性を発現させることができる。より具体的には、基板2、4上に接合膜3を形成した後に、第2位置制御装置508の作動によりY軸方向に沿ってステージ506を移動させて、ステージ506上の基板2、4をUVランプ550の下方に位置させる。そして、この位置で、UVランプ550を用いて、基板2、4上に設けられた接合膜3に、紫外線を照射してエネルギーを付与することにより、その表面付近に接着性を発現させることができる。
本発明の接合膜の形成方法では、以上のような液滴吐出装置を用いて、吐出液を液滴として吐出して、基板2と対向基板4との接合に用いられる接合膜3を所定形状にパターニングして形成する。
【0065】
以下、本発明の接合膜の形成方法について説明する。
<接合膜の形成方法>
本発明の接合膜の形成方法は、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含み、エネルギーが付与されることにより表面付近に対向基板(他の被着体)4との接着性を発現する、所定形状にパターニングされた接合膜3を、上述したノズル孔518から間欠的に液滴31吐出する液滴吐出装置500を用いて形成するものであり、基板2を用意し、金属錯体と、この金属錯体を溶解または分散させるための溶媒または分散媒とを含有する液状材料(吐出液)を液滴吐出装置500を用いた液滴吐出法を用いて液滴31として供給することにより、基板2に所定形状にパターニングされた液状被膜30を形成する工程と、液状被膜30を乾燥・焼成して、基板2に所定形状にパターニングされた接合膜3を得る工程とを有する。かかる方法によれば、基板2上に液状材料(吐出液)を供給する際に、液滴吐出法を用いて接合面23に液状材料を所定形状となるように位置選択的に供給することから、すなわち膜形成領域41に位置選択的に供給できることからに、液状材料に無駄が生じるのを確実に防止することができる。また、本発明では、液状材料を液滴吐出法を用いて基板2上に供給するが、液滴吐出法によれば、基板2上に微細な形状に液状被膜30を形成し得ることから、優れた寸法精度で接合膜3を形成することができる。
【0066】
以下、この本発明の接合膜の形成方法の好適実施形態を、工程ごとに詳述する。
図6は、本発明の接合膜の形成方法の実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
[1]まず、基板2を用意し、液状材料(吐出液)を液滴吐出装置500を用いた液滴吐出法により液滴31として供給して、基板2に所定形状にパターニングされた液状被膜30を形成する。
【0067】
[1−1]まず、図6(a)に示すように、前述した基板2を用意する。
また、この基板2の少なくとも接合膜3を形成すべき膜形成領域41には、基板2の構成材料に応じて、接合膜3を形成する前に、あらかじめ、基板2と接合膜3との密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。
かかる表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、基板2の接合膜3を形成すべき膜形成領域41を清浄化するとともに、該領域41を活性化させることができる。これにより、接合膜3と基板2との接合強度を高めることができる。
【0068】
また、これらの各表面処理の中でもプラズマ処理を用いることにより、接合膜3を形成するために、基板2の表面を特に最適化することができる。
なお、表面処理を施す基板2が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
また、基板2の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜3の接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる基板2の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
【0069】
このような材料で構成された基板2は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、比較的活性の高い水酸基が結合している。したがって、このような材料で構成された基板2を用いると、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜3と基板2とを強固に接合することができる。
なお、この場合、基板2の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合膜3を形成すべき膜形成領域41の表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
【0070】
また、表面処理に代えて、基板2の少なくとも接合膜3を形成すべき膜形成領域41には、あらかじめ、中間層を形成するようにしてもよい。
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、特に限定されるものではないが、例えば、接合膜3との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能、接合膜3を成膜する際に接合膜3の膜成長を促進する機能(シード層)、接合膜3を保護する機能(バリア層)等を有するものが好ましい。このような中間層を介して基板2と接合膜3とを接合することになり、後述する接合体5は信頼性に優れたものとなる。
【0071】
かかる中間層の構成材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、タングステン、銅およびその合金等の金属系材料、金属酸化物、金属窒化物、シリコン酸化物のような酸化物系材料、金属窒化物、シリコン窒化物のような窒化物系材料、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンのような炭素系材料、シランカップリング剤、チオール系化合物、金属アルコキシド、金属−ハロゲン化合物のような自己組織化膜材料、樹脂系接着剤、樹脂フィルム、樹脂コーティング材、各種ゴム材料、各種エラストマーのような樹脂系材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらの各種材料で構成された中間層の中でも、酸化物系材料で構成された中間層によれば、基板2と接合膜3との間の接合強度を特に高めることができる。
【0072】
[1−2]次に、前記金属原子の金属錯体と、この金属錯体を溶解または分散させるための溶媒または分散媒(以下、「溶媒または分散媒」を、単に「溶媒」と言う。)とを含有する液状材料(本発明の吐出液)を、前述した液滴吐出装置500を用いた液滴吐出法により、液滴31として基板2の接合面23上に供給する。これにより、図6(a)に示すような接合面23の膜形成領域41に、接合面23の非膜形成領域42に供給することなく、液滴31を選択的に供給することができる。その結果、図6(b)に示すように、基板2上に、膜形成領域41の形状、すなわち所定形状にパターニングされた液状被膜30が形成される。
【0073】
ここで、本発明では、先にも説明したように、接合面23の膜形成領域41に液状材料を選択的に供給する方法として、液滴吐出装置500を用いて液状材料を液滴31として供給する液滴吐出法が用いられる。
液滴吐出法を用いて、液状材料を位置選択的に供給することにより、前述したように基板上にレジスト層を形成して、これをマスクとして用いて膜をパターニングする場合と比較して、接合膜3を形成するまでの時間の短縮および製造コストの削減を図ることができる。
【0074】
さらに、本実施形態では、液滴吐出法は、液滴吐出ヘッド514としてインクジェットヘッドを備えるインクジェット法が用いられる。インクジェット法によれば、目的とする領域(位置)に、液状材料を液滴31として、優れた位置精度で供給することができる。また、ピエゾ素子524Cの振動数および液状材料の粘度等を適宜設定することにより、液滴31のサイズ(大きさ)を、比較的容易に調整できることから、液滴31のサイズを小さくすれば、たとえ膜形成領域41の形状が微細なものであったとしても、膜形成領域41の形状に対応した液状被膜30を確実に形成することができる。
【0075】
液状材料の粘度は、液滴吐出装置500を用いた液滴吐出法により、液滴31として吐出し得る粘度に設定され、具体的には、25℃における粘度が、好ましくは3〜10mPa・s程度、より好ましくは4〜8mPa・s程度に設定される。液状材料の粘度をかかる範囲とすることにより、液滴31の吐出をより安定的に行うことができるとともに、微細な形状の膜形成領域41を描画し得る大きさの液滴31を確実に吐出することができる。さらに、この液状材料で構成される液状被膜30を次工程[2]で乾燥・焼成させた際に、接合膜3を形成するのに十分な量の金属錯体を液状材料中に含有したものとすることができる。
【0076】
また、液状材料の粘度をかかる範囲内とすれば、具体的には、液滴31の量(液状材料の1滴の量)を、平均で、0.1〜40pL程度に、より現実的には1〜30pL程度に設定し得る。これにより、接合面23に供給された際の液滴31の着弾径が小さなものとなることから、微細な形状の接合膜3をも確実に形成することができる。
さらに、接合面23の膜形成領域41に供給する液滴31の供給量を適宜設定することにより、形成される接合膜3の厚さの制御を比較的容易に行うことができる。
【0077】
液状材料は、接合膜3に含まれる金属原子の金属錯体と、溶媒とを含有するものである。
この液状材料(本発明の吐出液)は、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含み、エネルギーが付与されることにより表面付近に対向基板4との接着性を発現する接合膜3を得るのに用いられるものであり、ノズル孔518から間欠的に液滴31を吐出する液滴吐出法を用いて、この液状材料を、膜形成領域41の形状に対応して基板2上に供給した後、乾燥・焼成することにより、所定形状にパターニングされた接合膜3を得るためのものである。
【0078】
なお、金属錯体が溶媒中に溶解せずに分散している場合には、上記溶媒を分散媒と読み替えることとする。
金属錯体を溶解するための溶媒としては、溶解させる金属錯体の種類に応じて適宜選択され、特に限定されるものではないが、例えば、アンモニア、水、過酸化水素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、ブチルアミン、ドデシルアミンのようなアミン系溶媒、メチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等を用いることができる。これら溶媒の種類を金属錯体の種類に応じて適宜選択することにより、金属錯体を効率よく溶媒中に溶解させる(または、分散媒中に分散させる)ことができる。
【0079】
金属錯体は、液状材料中に含まれ、次工程[2]において、この液状材料を乾燥させることにより形成される乾燥被膜の主材料として構成する。
この金属錯体としては、形成すべき接合膜3の種類(すなわち、金属原子および脱離基の種類)に応じて適宜選択され、特に限定されるものではないが、例えば、ビス(2,6−ジメチル−2−(トリメチルシリロキシ)−3,5−ヘプタジオナト)銅(II)(Cu(SOPD);C2446CuOSi)、2,4−ペンタジオネート−銅(II)、Cu(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)(ビニルトリメチルシラン)[Cu(hfac)(VTMS)]、Cu(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)(2−メチル−1−ヘキセン−3−エン)[Cu(hfac)(MHY)]、Cu(パーフルオロアセチルアセトネート)(ビニルトリメチルシラン)[Cu(pfac)(VTMS)]、Cu(パーフルオロアセチルアセトネート)(2−メチル−1−ヘキセン−3−エン)[Cu(pfac)(MHY)]、ビス(ジピバロイルメタナイト)銅[Cu(DPM)、DMP:C1119]、トリス(ジピバロイルメタナイト)イリジウム[Ir(DPM)]、トリス(ジピバロイルメタナイト)イットリウム[Y(DPM)]、トリス(ジピバロイルメタナイト)ガドリニウム[Gd(DPM)]、ビス(イソブチルピバロイルメタナイト)銅[Cu(IBPM)、IBMP:C1017]トリス(イソブチルピバロイルメタナイト)ルテニウム[Ru(IBPM)]、ビス(ジイソブチリルメタナイト)銅[Cu(DIBM)、DIBM:C15]のようなβジケトン系錯体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)、トリス(4−メチル−8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq)、(8−ヒドロキシキノリン)亜鉛(Znq)のようなキノリノール系錯体、銅フタロシアニンのようなフタロシアニン系錯体、トリフルオロ酢酸銅、トリフルオロ酢酸イットリウム、テレフタル酸銅錯体のようなカルボン酸塩系錯体および下記一般式(1)で表わされるギ酸銅錯体等が挙げられる。これらの中でも、βジケトン系錯体を用いるのが好ましい。βジケトン系錯体は、比較的各種溶媒に対して高い溶解性を示すものが多いので、βジケトン系錯体および溶媒の組み合わせを適宜選択することにより、目的とする膜厚を有する接合膜3を形成するのに十分な量のβジケトン系錯体を溶媒中に溶解させることができる。
【0080】
【化1】

[上記一般式(1)中、Cuは2価の銅、RおよびRはそれぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を示す。]
【0081】
なお、一般式(1)中のRおよびRのそれぞれの脂肪族炭化水素基は、飽和の脂肪族炭化水素基または不飽和の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
飽和の脂肪族炭化水素基としては、アルキル基が挙げられる。例えば、アルキル基として、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、ノナデシル基などの直鎖アルキル基、イソブチル基、1−メチルヘキシル基、1−メチルオクチル基、1−メチルデシル基、1−メチルドデシル基、1−エチルドデシル基、1−メチルヘキサデシル基、1−メチルノナデシル基、tert−ブチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,1−ジメチルオクチル基、1,1−ジメチルデシル基、1,1−ジメチルドデシル基、1,1−ジメチルヘキサデシル基、1,1−ジメチルノナデシル基などの分岐アルキル基が挙げられる。
【0082】
不飽和の脂肪族炭化水素基としては、アルケニル基またはアルキニル基が挙げられる。 例えば、アルケニル基として、1−ブテニル基、1−ヘキセニル基、1−オクテニル基、1−デセニル基、1−ドデセニル基、1−ヘキサデセニル基、1−ノナデセニル基などの直鎖アルケニル基、イソブテニル基、1−メチル−1−ヘキセニル基、1−メチル−1−オクテニル基、1−メチル−1−デセニル基、1−メチル−1−ドデセニル基、1−メチル−1−ヘキサデセニル基、sec−ブテニル基、1,1−ジメチル−2−ヘキセニル基、1,1−ジメチル−3−オクテニル基、1,1−ジメチル−4−デセニル基、1,1−ジメチル−5−ドデセニル基、1,1−ジメチル−6−ヘキサデセニル基などの分岐アルケニル基が挙げられる。
【0083】
例えば、アルキニル基として、2−ブチニル基、2−ヘキシニル基、2−オクチニル基、2−デシニル基、2−ドデシニル基、2−ヘキサデシニル基、2−ノナデシニル基などの直鎖アルキニル基、イソブチニル基、1−メチル−2−ヘキシニル基、1−メチル−2−オクチニル基、1−メチル−2−デシニル基、1−メチル−2−ドデシニル基、1−メチル−2−ヘキサデシニル基、1,1−ジメチル−2−ヘキシニル基、1,1−ジメチル−3−オクチニル基、1,1−ジメチル−4−デシニル基、1,1−ジメチル−5−ドデシニル基、1,1−ジメチル−6−ヘキサデシニル基などの分岐アルキニル基などが挙げられる。
【0084】
上記のような金属錯体を用いることにより、次工程[2]において、液状被膜30を乾燥・焼成して接合膜3を形成する際に、金属錯体中に含まれる有機物を、その一部を接合膜3中に残存させつつ、金属錯体中から除去する(脱離させる)ことができため、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む接合膜3を得ることができる。
また、この液状材料中において、金属錯体の含有量は、10〜50wt%程度であるのが好ましく、10〜30wt%程度であるのがより好ましい。これにより、液状材料の粘度を適度な範囲内に設定しつつ、次工程[2]において、液状被膜を乾燥・焼成することにより、目的とする膜厚を有する接合膜3を確実に形成することができる。
【0085】
[2]次に、図6(c)に示すように、形成された液状被膜30を乾燥・焼成して、基板2の膜形成領域41に所定形状にパターニングされた接合膜3を形成する。
[2−1]まず、基板2上に供給された液状材料、すなわち、接合面23の膜形成領域41に選択的に形成された液状被膜30に含まれる溶媒を除去し乾燥させる。これにより、膜形成領域41の形状(所定形状)に対応してパターニングされた乾燥被膜が形成される。
【0086】
また、液状被膜30を乾燥させる際の温度は、金属錯体の種類、および、液状被膜30に含まれる溶媒の種類によっても若干異なるが、25〜100℃程度であるのが好ましく、25〜75℃程度であるのがより好ましい。
液状被膜30を乾燥させる時間は、0.5〜48時間程度であるのが好ましく、15〜30時間程度であるのがより好ましい。
【0087】
さらに、液状被膜30を乾燥させる際の雰囲気の圧力は、大気圧下であってもよいが、減圧下であるのがより好ましい。減圧雰囲気下とする場合、減圧の程度は、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
液状被膜30を乾燥させる際の条件を上記のように設定することにより、液状被膜30中から溶媒を除去して、主として金属錯体で構成される乾燥被膜を基板2上に確実に形成することができる。
【0088】
[2−2]次に、基板2の膜形成領域41に設けられた乾燥被膜を焼成する。
これにより、乾燥被膜中の金属錯体に含まれる有機物が、その一部を残存させた状態で、金属錯体中から除去される。その結果、基板2の膜形成領域41において選択的に、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む接合膜3が形成される。
このように金属錯体を含む乾燥被膜を焼成して接合膜3を得る方法では、乾燥被膜を焼成した際に、接合膜3中で残存している前記有機物の一部が脱離基303として機能する。このように、本発明では、接合膜3を成膜する際に膜中に残存する有機物の一部(残存物)を脱離基303として用いる構成となっているので、形成した金属膜等に脱離基を導入する必要がなく、金属錯体を含有する液状材料を乾燥・焼成するという比較的簡単な工程で接合膜3を成膜することができる。
【0089】
なお、金属錯体を用いて形成された接合膜3に残存する前記有機物の一部は、その全てが脱離基303として機能するものであってもよいし、その一部が脱離基303として機能するものであってもよい。
また、乾燥被膜を焼成する際の温度は、金属錯体の種類によっても若干異なるが、70〜300℃程度であるのが好ましく、100〜150℃程度であるのがより好ましい。
【0090】
乾燥被膜を焼成する時間は、0.5〜48時間程度であるのが好ましく、15〜30時間程度であるのがより好ましい。
かかる条件で乾燥被膜を焼成することにより、金属錯体に含まれる有機物が、その一部を残存させた状態で、金属錯体中から確実に除去されるため、その表面にエネルギーを付与することにより接着性が好適に発現する接合膜3を確実に形成することができる。
【0091】
さらに、乾燥被膜を焼成する際の雰囲気の圧力は、大気圧下であってもよいが、減圧下であるのがより好ましい。減圧雰囲気下とする場合、減圧の程度は、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。これにより、接合膜3の膜密度が緻密化して、接合膜3をより優れた膜強度を有するものとすることができる。
【0092】
また、乾燥被膜を焼成する際の雰囲気は、特に限定されないが、窒素、アルゴン、ヘリウムのような不活性ガス雰囲気であるのが好ましい。これにより、金属錯体中に含まれる有機物のほぼ全てが除去されることなく、すなわち、基板2上に純粋な金属膜が形成されることなく、金属錯体中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で接合膜3を形成することができる。その結果、接合膜および金属膜としての双方の特性に優れた接合膜3を形成することができる。
【0093】
なお、金属錯体として、2,4−ペンタジオネート−銅(II)や[Cu(hfac)(VTMS)]等のように分子構造中に酸素原子を含有するものを用いる場合には、雰囲気中に、水素ガスを添加するのが好ましい。これにより、酸素原子に対する還元性を向上させることができ、接合膜3に過度の酸素原子が残存することなく、接合膜3を成膜することができる。その結果、この接合膜3は、膜中における金属酸化物の存在率が低いものとなり、優れた導電性を発揮することとなる。
【0094】
また、乾燥被膜中の金属錯体に含まれる有機物がその一部を残存させた状態で形成される接合膜3は、有機物を残存することに起因して、比較的柔軟性に富むものとなる。そのため、後述する本発明の接合方法において、接合膜3を介して基板2と対向基板4とが接合された接合体5を得る際に、例えば、基板2と対向基板4との各構成材料が互いに異なるものを用いる場合であったとしても、各基板間2、4に生じる熱膨張に伴う応力を確実に緩和することができる。これにより、最終的に得られる接合体5において、剥離が生じるのを確実に防止することができる。
【0095】
さらに、金属錯体は、比較的耐薬品性に優れる材料であるため、かかる構成の接合膜3を、薬品類等に長期にわたって曝されるような部材の接合に際して効果的に用いることができる。具体的には、例えば、樹脂材料を浸食し易い有機系インクが用いられる工業用インクジェットプリンタの液滴吐出ヘッドを製造する際に、本発明の接合膜3を適用すれば、その耐久性を確実に向上させることができる。また、金属錯体は、耐熱性にも優れていることから、高温下に曝されるような部材の接合に際しても効果的に用いることができる。
【0096】
以上のようにして、液滴吐出法を用いて、基板2の膜形成領域41に選択的に接合膜3を形成することができる。すなわち、基板2上に所定形状にパターニングされた接合膜3を形成することができる。
なお、本実施形態の接合膜の形成方法では、液滴吐出法としてインクジェット法を用いる場合について説明したが、これに限定されず、電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用してインクを吐出するバブルジェット法(「バブルジェット」は登録商標)を液滴吐出法として用いるようにしてもよい。バブルジェット法によっても前述したのと同様の効果が得られる。
以上のような本発明の接合膜の形成方法用いて形成された接合膜3を用いて、基板2と対向基板4とが接合膜3を介して接合された接合体5が得られる。
【0097】
以下、この接合体5を得るための本発明の接合方法について説明する。
<接合方法>
本発明の接合方法は、基板2と対向基板4とを所定形状にパターニングされた接合膜3を介して接合する方法であり、基板2と対向基板4とを用意し、前述した本発明の接合膜の形成方法を用いて、基板2および対向基板4のうち少なくとも基板2に所定形状にパターニングされた接合膜3を形成する工程と、接合膜3にエネルギーを付与することにより、接合膜3の表面付近に接着性を発現させ、この接合膜3を介して基板2と対向基板4とが接合された接合体5を得る工程とを有するものである。かかる方法によれば、2つの基板2、4同士を、前記所定形状にパターニングされた領域において、接合膜3の表面付近に発現した接着性により、位置選択的に高い寸法精度で強固に接合することができる。
【0098】
以下、この本発明の接合方法の第1実施形態を、工程ごとに詳述する。
<<第1実施形態>>
図7、8は、本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図7、8中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
本実施形態の接合方法は、所定形状にパターニングされた接合膜3を、対向基板4上に形成することなく、基板2上に選択的に形成して、接合膜3を介して基板2と対向基板4とを接合する接合方法である。
この本実施形態の接合方法では、基板2と対向基板4とを用意し、基板2に接合膜3を形成する工程と、基板2に設けられた接合膜3にエネルギーを付与して、接合膜3の表面付近に接着性を発現させた後、接合膜3を介して基板2と対向基板4とを接触させることにより接合体5を得る工程とを有する。
【0099】
[1]まず、基板2と対向基板4とを用意し、前述した本発明の接合膜の形成方法を用いて、基板2に所定形状にパターニングされた接合膜3を形成する(図7(a)参照。)。
基板2としては、前述したものが挙げられる。
また、対向基板4は、基板2に対して、基板2上に形成された接合膜3を介して接合されるものである。この対向基板4は、基板2と同様、いかなる材料で構成されたものであってもよい。
具体的には、対向基板4は、基板2の構成材料と同様の材料で構成し得る。
また、図7(a)に示すような板状体をなす対向基板4の形状も、基板2と同様、接合膜3が密着する面を有する形状であれば、特に限定されず、例えば、板状(層状)、塊状(ブロック状)、棒状等とされる。
【0100】
[2]次に、接合膜3にエネルギーを付与することにより、接合膜3の表面付近に接着性を発現させ、この接合膜3を介して基板2と対向基板4とが接合された接合体5を得る。
[2−1]まず、接合面23の膜形成領域41に形成された接合膜3の表面32に対してエネルギーを付与する。
【0101】
接合膜3にエネルギーを付与すると、この接合膜3では、表面32付近の分子結合の一部が切断し、表面32が活性化されることに起因して、表面32付近に対向基板4に対する接着性が発現する。
このような状態の接合膜3を備える基板2は、対向基板4と、化学的結合に基づいて強固に接合可能なものとなる。
【0102】
接合膜3に付与するエネルギーは、いかなる方法を用いて付与するものであってもよいが、例えば、接合膜3にエネルギー線を照射する方法、接合膜3を加熱する方法、接合膜3に圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、接合膜3をプラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、接合膜3をオゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。これにより、接合膜3の表面を効率よく活性化させることができる。また、接合膜3中の分子構造を必要以上に切断しないので、接合膜3の特性が低下してしまうのを避けることができる。
【0103】
上記の方法の中でも、本実施形態では、接合膜3にエネルギーを付与する方法として、特に、接合膜3にエネルギー線を照射する方法を用いるのが好ましい。かかる方法は、接合膜3に対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができるので、エネルギーを付与する方法として好適に用いられる。
このうち、エネルギー線としては、例えば、紫外線、レーザ光のような光、X線、γ線のような電磁波、電子線、イオンビームのような粒子線等や、またはこれらのエネルギー線を2種以上組み合わせたものが挙げられる。
【0104】
これらのエネルギー線の中でも、特に、波長126〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましい(図7(b)参照)。かかる範囲内の紫外線によれば、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜3中の骨格をなす分子結合が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、接合膜3から表面32付近の分子結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜3の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜3に接着性を確実に発現させることができる。
【0105】
また、紫外線によれば、広い範囲をムラなく短時間に処理することができるので、分子結合の切断を効率よく行うことができる。さらに、紫外線には、例えば、UVランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
なお、エネルギー線として紫外線を用いる場合には、前述した液滴吐出装置500がUVランプ550を備えていることから、前記工程[1]および本工程[2]を液滴吐出装置500を用いて行うことができる。
【0106】
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、126〜200nm程度とされる。
また、UVランプ550を用いる場合、その出力は、接合膜3の面積に応じて異なるが、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。なお、この場合、UVランプ550と接合膜3との離間距離は、3〜3000mm程度とするのが好ましく、10〜1000mm程度とするのがより好ましい。
【0107】
また、紫外線を照射する時間は、接合膜3の表面32付近の分子結合を切断し得る程度の時間、すなわち、接合膜3の表面付近に存在する分子結合を選択的に切断し得る程度の時間とするのが好ましい。具体的には、紫外線の光量、接合膜3の構成材料等に応じて若干異なるものの、1秒〜30分程度であるのが好ましく、1秒〜10分程度であるのがより好ましい。
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
【0108】
一方、レーザ光としては、例えば、エキシマレーザのようなパルス発振レーザ(パルスレーザ)、炭酸ガスレーザ、半導体レーザのような連続発振レーザ等が挙げられる。中でも、パルスレーザが好ましく用いられる。パルスレーザでは、接合膜3のレーザ光が照射された部分に経時的に熱が蓄積され難いので、蓄積された熱による接合膜3の変質・劣化を確実に防止することができる。すなわち、パルスレーザによれば、接合膜3の内部にまで蓄積された熱の影響がおよぶのを、防止することができる。
【0109】
また、パルスレーザのパルス幅は、熱の影響を考慮した場合、できるだけ短い方が好ましい。具体的には、パルス幅が1ps(ピコ秒)以下であるのが好ましく、500fs(フェムト秒)以下であるのがより好ましい。パルス幅を前記範囲内にすれば、レーザ光照射に伴って接合膜3に生じる熱の影響を、的確に抑制することができる。なお、パルス幅が前記範囲内程度に小さいパルスレーザは、「フェムト秒レーザ」と呼ばれる。
【0110】
また、レーザ光の波長は、特に限定されないが、例えば、200〜1200nm程度であるのが好ましく、400〜1000nm程度であるのがより好ましい。
また、レーザ光のピーク出力は、パルスレーザの場合、パルス幅によって異なるが、0.1〜10W程度であるのが好ましく、1〜5W程度であるのがより好ましい。
さらに、パルスレーザの繰り返し周波数は、0.1〜100kHz程度であるのが好ましく、1〜10kHz程度であるのがより好ましい。パルスレーザの周波数を前記範囲内に設定することにより、表面32付近の分子結合を選択的に切断することができる。
【0111】
なお、このようなレーザ光の各種条件は、レーザ光を照射された部分の温度が、好ましくは常温(室温)〜600℃程度、より好ましくは200〜600℃程度、さらに好ましくは300〜400℃程度になるように適宜調整されるのが好ましい。これにより、レーザ光を照射した部分の温度が著しく上昇するのを防止して、表面32付近の分子結合を選択的に切断することができる。
【0112】
また、接合膜3に照射するレーザ光は、その焦点を、接合膜3の表面32に合わせた状態で、この表面32に沿って走査されるようにするのが好ましい。これにより、レーザ光の照射によって発生した熱が、表面32付近に局所的に蓄積されることとなる。その結果、接合膜3の表面32に存在する分子結合を選択的に脱離させることができる。
また、接合膜3に対するエネルギー線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよく、具体的には、大気、酸素のような酸化性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられるが、中でも、大気雰囲気(特に、露点が低い雰囲気下)中で行うのが好ましい。これにより、表面32付近にオゾンガスが生じて、表面32の活性化がより円滑に行われることとなる。さらに、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギー線の照射をより簡単に行うことができる。
【0113】
このように、エネルギー線を照射する方法によれば、接合膜3に対して選択的にエネルギーを付与することが容易に行えるため、例えば、エネルギーの付与による基板2の変質・劣化を防止することができる。
また、エネルギー線を照射する方法によれば、付与するエネルギーの大きさを、精度よく簡単に調整することができる。このため、接合膜3で切断される分子結合の量を調整することが可能となる。このように切断される分子結合の量を調整することにより、基板2と対向基板4との間の接合強度を容易に制御することができる。
【0114】
すなわち、表面32付近で切断される分子結合の量を多くすることにより、接合膜3の表面32付近に、より多くの活性手が生じるため、接合膜3に発現する接着性をより高めることができる。一方、表面32付近で切断される分子結合の量を少なくすることにより、接合膜3の表面32付近に生じる活性手を少なくし、接合膜3に発現する接着性を抑えることができる。
【0115】
なお、付与するエネルギーの大きさを調整するためには、例えば、エネルギー線の種類、エネルギー線の出力、エネルギー線の照射時間等の条件を調整すればよい。
さらに、エネルギー線を照射する方法によれば、短時間で大きなエネルギーを付与することができるので、エネルギーの付与をより効率よく行うことができる。
ここで、エネルギーが付与される前の接合膜3は、図2に示すように、その表面32付近に脱離基303を有している。かかる接合膜3にエネルギーを付与する、脱離基303(図2では、メチル基)が接合膜3から脱離する。これにより、図3に示すように、接合膜3の表面32に活性手304が生じ、活性化される。その結果、接合膜3の表面に接着性が発現する。
【0116】
なお、本明細書中において、表面32が「活性化された」状態とは、上述のように接合膜3の表面32の分子結合の一部、具体的には、例えば、金属原子に結合するメチル基が切断されて、接合膜3中に終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態の他、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、さらに、これらの状態が混在した状態を含めて、接合膜3が「活性化された」状態と言うこととする。
【0117】
したがって、活性手304とは、図3に示すように、未結合手(ダングリングボンド)、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。このような活性手304が存在するようにすれば、対向基板4に対して、特に強固な接合が可能となる。
なお、後者の状態(未結合手が水酸基によって終端化された状態)は、例えば、接合膜3に対して大気雰囲気中でエネルギー線を照射することにより、大気中の水分が未結合手を終端化することによって、容易に生成されることとなる。
【0118】
[2−2]次に、接合膜3と対向基板4とが密着するように、基板2と対向基板4とを貼り合わせる(図7(c)参照)。これにより、前記工程[2−1]において、接合膜3の表面32に対向基板4に対する接着性が発現していることから、接合膜3と対向基板4の接合面24とが化学的に結合する。その結果、基板2と対向基板4とが、膜形成領域41において選択的に形成された接合膜3により部分的に接合され、図7(d)に示すような接合体5が得られる。
【0119】
このようにして得られた接合体5では、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、主にアンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のような短時間で生じる強固な化学的結合に基づいて、2つの基板2、4が接合されている。このため、接合体5は短時間で形成することができ、かつ、極めて剥離し難く、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
【0120】
また、このような接合方法によれば、高温(例えば、700℃以上)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された基板2および対向基板4をも、接合に供することができる。
また、接合膜3を介して基板2と対向基板4とを接合しているため、各基板2、4の構成材料に制約がないという利点もある。
【0121】
以上のことから、本発明によれば、基板2および対向基板4の各構成材料の選択の幅をそれぞれ広げることができる。
また、従来の固体接合では、接合膜を介していないため、基板2と対向基板4との間の熱膨張率に大きな差がある場合、その差に基づく応力が接合界面に集中し易く、剥離等が生じるおそれがあったが、接合体(本発明の接合体)5では、接合膜3によって応力の集中が緩和され、剥離の発生を的確に抑制または防止することができる。
【0122】
また、本実施形態では、接合に供される基板2および対向基板4のうち、一方のみ(本実施形態では、基板2)に接合膜3が設けられている。そのため、基板2上に接合膜3を形成する際に、接合膜3の形成方法によっては、基板2が比較的長時間にわたって高温下に曝されることになるが、本実施形態では、対向基板4は、高温下に曝されることはない。
【0123】
したがって、例えば、対向基板4として、耐熱性が比較的低いものを選択した場合であっても、本実施形態にかかる方法によれば、基板2と対向基板4とを接合膜3を介して強固に接合することができる。したがって、対向基板4を構成する材料は、耐熱性をあまり考慮することなく、幅広い材料から選択することが可能になるという利点もある。
ここで、基板2との接合に供する対向基板4の構成材料は、基板2と異なっていても同じであっても良いが、基板2と対向基板4の各熱膨張率は、ほぼ等しいものを選択するのが好ましい。基板2と対向基板4の熱膨張率がほぼ等しければ、基板2と対向基板4とを接合膜3を介して接合した際に、その接合界面に熱膨張に伴う応力が発生し難くなる。その結果、最終的に得られる接合体5において、剥離等の不具合が発生するのを確実に防止することができる。
【0124】
また、基板2および対向基板4の各熱膨張率が互いに異なる場合であっても、基板2と対向基板4とを接合膜3を介して接合する際の条件を以下のように最適化するのが好ましい。これにより、基板2と対向基板4とを接合膜3を介して高い寸法精度で強固に接合することができる。
すなわち、基板2と対向基板4の熱膨張率が互いに異なっている場合には、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
【0125】
具体的には、基板2と対向基板4との熱膨張率の差にもよるが、基板2および対向基板4の温度が25〜50℃程度である状態下で、基板2と対向基板4とを接合膜3を介して接合するのが好ましく、25〜40℃程度である状態下で接合するのがより好ましい。このような温度範囲であれば、基板2と対向基板4との熱膨張率の差がある程度大きくても、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、接合体5における反りや剥離等の発生を確実に抑制または防止することができる。
【0126】
また、この場合、具体的な基板2と対向基板4との間の熱膨張係数の差が、5×10−5/K以上あるような場合には、上記のようにして、できるだけ低温下で接合を行うことが特に推奨される。
さらに、基板2と対向基板4は、互いに剛性が異なっているのが好ましい。これにより、基板2と対向基板4とを接合膜3を介してより強固に接合することができる。
【0127】
また、基板2と対向基板4のうち、少なくとも一方の基板は、その構成材料が樹脂材料で構成されているのが好ましい。樹脂材料は、その柔軟性により、基板2と対向基板4とを接合膜3を介して接合した際に、その接合界面に発生する応力(例えば、熱膨張に伴う応力等)を緩和することができる。このため、接合界面が破壊し難くなり、結果的に、接合強度の高い接合体5を得ることができる。
【0128】
以上説明したような対向基板4の基板2上に形成された接合膜3との接合に供される領域には、基板2と同様に、対向基板4の構成材料に応じて、接合を行う前に、あらかじめ、対向基板4と接合膜3との密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。これにより、基板2と対向基板4との接合膜3による接合強度をより高めることができる。
なお、表面処理としては、基板2に対して施す前述したような表面処理と同様の処理を適用することができる。
【0129】
また、対向基板4の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜3を介した基板2と対向基板4との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる対向基板4の構成材料には、前述した基板2の構成材料と同様のもの、すなわち、各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を用いることができる。
【0130】
さらに、対向基板4の接合膜3との接合に供される領域に、以下の基や物質を有する場合には、上記のような表面処理を施さなくても、基板2と対向基板4との接合膜3を介した接合強度を十分に高くすることができる。
このような基や物質としては、例えば、水素原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、イミダゾール基のような官能基、ラジカル、開環分子、2重結合、3重結合のような不飽和結合、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン、過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基または物質が挙げられる。このような基または物質を有する表面は、対向基板4の接合膜3に対する接合強度のさらなる向上を実現し得るものとなる。
【0131】
また、このようなものを有する表面が得られるように、上述したような各種表面処理を適宜選択して行うことにより、接合膜3と特に強固に接合可能な対向基板4が得られる。
また、表面処理に代えて、対向基板4の接合膜3との接合に供される領域には、あらかじめ、接合膜3との密着性を高める機能を有する中間層を形成しておくのが好ましい。これにより、かかる中間層を介して接合膜3と対向基板4とを接合することになり、より接合強度の高い接合体5が得られるようになる。
【0132】
かかる中間層の構成材料には、前述の基板2に形成する中間層の構成材料と同様のものを用いることができる。
また、本実施形態によれば、基板2と対向基板4とを接合する際に、これらが対向する面全体を接合するのではなく、接合膜3が選択的に形成された膜形成領域41において接合する。この接合の際、接合膜3を形成する膜形成領域41の大きさを適宜設定することのみで、接合される領域を簡単に選択することができる。これにより、例えば、基板2と対向基板4とが接合する接合膜3の面積や形状を制御して、接合体5の接合強度を容易に調整することができる。その結果、例えば、接合膜3を容易に剥離可能な接合体5が得られる。
【0133】
すなわち、接合体5の接合強度を調整可能であると同時に、接合体5を分離する際の強度(割裂強度)を調整可能である。
かかる観点から、容易に分離可能な接合体5を作製する場合には、接合体5の接合強度は、人の手で容易に分離可能な程度の大きさであるのが好ましい。これにより、接合体5を分離する際、装置等を用いることなく、簡単に行うことができる。
【0134】
また、基板2と対向基板4とが接合する接合膜3の面積や形状を適宜設定することにより、接合膜3に生じる応力の局所集中を緩和することができる。これにより、例えば、基板2と対向基板4との間で熱膨張率差が大きい場合でも、各基板2、4を確実に接合することができる。
さらに、本実施形態にかかる接合方法によれば、非膜形成領域42では、図7(d)に示すように、基板2と対向基板4との間に、接合膜3の厚さに相当する距離(高さ)の空間3Cが形成される。この空間3Cを活かすため、膜形成領域41の形状を適宜調整することにより、基板2と対向基板4との間に、閉空間や流路を形成したりすることができる。
【0135】
なお、本実施形態では、前記工程[4]および本工程[5]で示したように、接合膜3にエネルギーを付与して、接合膜3の接合面(表面)23付近に接着性を発現させた後、接合膜3を介して基板2と対向基板4とを接触させることにより接合体5を得るようにしたが、これに限らず、接合膜3を介して基板2と対向基板4とを接触させた後、接合膜3にエネルギーを付与することにより接合体5を得るようにしてもよい。このような場合については、後述する第2実施形態において説明する。
【0136】
ここで、本工程において、基板2と対向基板4とを接合するメカニズムについて説明する。
例えば、対向基板4の接合面24に水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、基板2に形成された接合膜3と、対向基板4の接合面24とが接触するように、これらを貼り合わせたとき、接合膜3の表面32に存在する水酸基と、対向基板4の接合面24に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、基板2と対向基板4とが接合されると推察される。
【0137】
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から切断される。その結果、基板2と対向基板4との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、基板2と対向基板4とがより強固に接合されると推察される。
また、基板2の接合膜3の表面や内部、および、対向基板4の接合面24や内部に、それぞれ終端化されていない結合手すなわち未結合手(ダングリングボンド)が存在している場合、基板2と対向基板4とを貼り合わせた時、これらの未結合手同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成されることとなる。これにより、接合膜3と対向基板4とが特に強固に接合される。
【0138】
なお、前記工程[2−1]で活性化された接合膜3の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[2−1]の終了後、できるだけ早く本工程[2−2]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[2−1]の終了後、60分以内に本工程[2−2]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜3の表面が十分な活性状態を維持しているので、基板2と対向基板4とを貼り合わせたとき、これらの間に十分な接合強度を得ることができる。
【0139】
換言すれば、活性化させる前の接合膜3は、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む接合膜であるため、化学的に比較的安定であり、耐候性に優れている。このため、活性化させる前の接合膜3は、長期にわたる保存に適したものとなる。したがって、そのような接合膜3を備えた基板2を多量に製造または購入して保存しておき、本工程の貼り合わせを行う直前に、必要な個数のみに前記工程[2−2]に記載したエネルギーの付与を行うようにすれば、接合体5の製造効率の観点から有効である。
以上のようにして、図7(d)に示す接合体(本発明の接合体)1を得ることができる。
【0140】
このようにして得られた接合体5は、基板2と対向基板4との間の接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度を有する接合体5は、その剥離を十分に防止し得るものとなる。また、本発明の接合方法によれば、基板2と対向基板4とが上記のような大きな接合強度で接合された接合体5を効率よく作製することができる。
なお、接合体5を得る際、または、接合体5を得た後に、この接合体5に対して、必要に応じ、以下の3つの工程([3A]、[3B]および[3C])のうちの少なくとも1つの工程(接合体5の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、接合体5の接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
【0141】
[3A] 図8(a)に示すように、得られた接合体5を、基板2と対向基板4とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、基板2の表面および対向基板4の表面に、それぞれ接合膜3の表面がより近接し、接合体5における接合強度をより高めることができる。
また、接合体5を加圧することにより、接合体5中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、接合体5における接合強度をさらに高めることができる。
【0142】
なお、この圧力は、基板2および対向基板4の各構成材料や各厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、基板2および対向基板4の各構成材料や各厚さ等に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、接合体5の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、基板2および対向基板4の各構成材料によっては、各基板2、4に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、接合体5を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
【0143】
[3B] 図8(a)に示すように、得られた接合体5を加熱する。
これにより、接合体5における接合強度をより高めることができる。
このとき、接合体5を加熱する際の温度は、室温より高く、接合体5の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、接合体5が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
【0144】
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
また、前記工程[3A]、[3B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、図8(a)に示すように、接合体5を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、接合体5の接合強度を特に高めることができる。
【0145】
[3C] 図8(b)に示すように、得られた接合体5に紫外線を照射する。
これにより、接合膜3と対向基板4との間に形成される化学結合を増加させ、接合体5の接合強度を特に高めることができる。
このとき照射される紫外線の条件は、前記工程[4]に示した紫外線の条件と同等にすればよい。
【0146】
また、本工程[3C]を行う場合、基板2および対向基板4のうち、いずれか一方が透光性を有していることが必要である。そして、透光性を有する基材側から、紫外線を照射することにより、接合膜3に対して確実に紫外線を照射することができる。
以上のような工程を行うことにより、接合体5における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
【0147】
<<第2実施形態>>
次に、本発明の接合方法の第2実施形態について説明する。
図9は、本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図9中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第2実施形態にかかる接合方法について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0148】
本実施形態にかかる接合方法は、接合膜3が形成された基板2と対向基板4とを、接合膜3と対向基板4とが接触するように重ね合わせた後に、接合膜3にエネルギーを付与するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかる接合方法は、基板2と対向基板4とを用意し、基板2に接合膜3を形成する工程と、接合膜3を介して基板2と対向基板4とを接触させた後、重ね合わせてなる積層体中の接合膜3に対してエネルギーを付与して、接合膜3の表面付近に接着性を発現させることにより接合体5を得る工程を有する。
【0149】
以下、本実施形態にかかる接合方法の各工程について順次説明する。
[1’]まず、前記工程[1]と同様にして、基板2と対向基板4とを用意し、基板2に接合膜3を形成する(図9(a)参照。)。
[2−1’]次に、図9(b)に示すように、接合膜3の表面32と対向基板4とが密着するように、基板2に設けられた接合膜3と対向基板4とを重ね合わせ、積層体を得る。なお、この積層体の状態では、接合膜3と対向基板4との間は接合されていないので、基板2の対向基板4に対する相対位置を調整することができる。これにより、接合膜3と対向基板4とを重ね合わせた後、これらの位置を容易に微調整することができる。その結果、接合膜3の表面32方向における位置精度を高めることができる。
【0150】
[2−2’]次に、図9(c)に示すように、積層体中の接合膜3に対してエネルギーを付与する。接合膜3にエネルギーが付与されると、接合膜3の表面32付近に、対向基板4との接着性が発現する。これにより、基板2と対向基板4とが接合膜3を介して接合され、図9(d)に示すように、接合体5が得られる。
ここで、接合膜3に付与するエネルギーは、いかなる方法で付与されてもよいが、例えば、前記第1実施形態で挙げたような方法で付与される。
【0151】
また、本実施形態では、接合膜3にエネルギーを付与する方法としては、特に、接合膜3にエネルギー線を照射する方法、接合膜3を加熱する方法、および接合膜3に圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法を用いるのが好ましい。これらの方法は、接合膜3に対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができるので、エネルギー付与方法として好適である。
【0152】
このうち、接合膜3にエネルギー線を照射する方法としては、前記第1実施形態と同様の方法を用いることができる。
なお、この場合、エネルギー線は、基板2または対向基板4を透過して接合膜3に照射されることとなる。したがって、基板2または対向基板4のうちエネルギー線を照射する側の基板は、透光性を有するもので構成される。
【0153】
一方、接合膜3を加熱することにより、接合膜3に対してエネルギーを付与する場合には、加熱温度を25〜200℃程度に設定するのが好ましく、50〜100℃程度に設定するのがより好ましい。かかる範囲の温度で加熱すれば、基板2および対向基板4が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合膜3を確実に活性化させることができる。
【0154】
また、加熱時間は、接合膜3の脱離基303を脱離し得る程度の時間とすればよく、具体的には、加熱温度が前記範囲内であれば、1〜30分程度であるのが好ましい。
また、接合膜3は、いかなる方法で加熱されてもよいが、例えば、ヒータを用いる方法、赤外線を照射する方法、火炎に接触させる方法等の各種方法で加熱することができる。
なお、赤外線を照射する方法を用いる場合には、基板2または対向基板4は、光吸収性を有する材料で構成されているのが好ましい。これにより、赤外線を照射された基板2または対向基板4は、効率よく発熱する。その結果、接合膜3を効率よく加熱することができる。
【0155】
また、ヒータを用いる方法または火炎に接触させる方法を用いる場合には、基板2または対向基板4のうちヒータまたは火炎を接触させる側の基板は、熱伝導性に優れた材料で構成されているのが好ましい。これにより、基板2または対向基板4を介して、接合膜3に対して効率よく熱を伝えることができ、接合膜3を効率よく加熱することができる。
また、接合膜3に圧縮力を付与することにより、接合膜3に対してエネルギーを付与する場合には、基板2と対向基板4とが互いに近づく方向に、0.2〜10MPa程度の圧力で圧縮するのが好ましく、1〜5MPa程度の圧力で圧縮するのがより好ましい。これにより、単に圧縮するのみで、接合膜3に対して適度なエネルギーを簡単に付与することができ、接合膜3に、対向基板4との十分な接着性が発現する。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、基板2と対向基板4の各構成材料によっては、基板2および対向基板4に損傷等が生じるおそれがある。
【0156】
また、圧縮力を付与する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、圧縮力を付与する時間は、圧縮力の大きさに応じて適宜変更すればよい。具体的には、圧縮力の大きさが大きいほど、圧縮力を付与する時間を短くすることができる。
以上のようにして接合体5を得ることができる。
【0157】
<<第3実施形態>>
次に、本発明の接合方法の第3実施形態について説明する。
図10は、本発明の接合方法の第3実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、接合方法の第3実施形態について説明するが、前記第1実施形態にかかる接合方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0158】
本実施形態にかかる接合方法は、接合面(表面)23の膜形成領域41に接合膜3が形成されている他に、さらに対向基板4の接合面(表面)24の膜形成領域41にも接合膜3が形成されている。そして、それぞれの基板2、4が備える接合膜3の表面32付近に接着性を発現させ、これら接合膜3同士を接触させることにより、基板2と対向基板4とを接合させて、接合体5を得た以外は前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態の接合方法は、基板2上および対向基板4上の双方に、所定形状にパターニングされた接合膜3を形成して、これら接合膜3同士を一体化させることにより、基板2と対向基板4とを接合する接合方法である。
【0159】
[1”]まず、前記工程[1]と同様の基板2と対向基板4とを用意し、前述した本発明の接合膜の形成方法を用いて、基板2および対向基板4の双方に、所定形状にパターニングされた接合膜3を形成する。
[2−1”]次に、前記工程[2−1]で説明したのと同様にして、基板2に形成された接合膜3と、対向基板4に形成された接合膜3の双方に対してエネルギーを付与することにより、各接合膜3の表面32付近に接着性を発現させる。
【0160】
[2−2”]次に、図10(a)に示すように、各基板2、4が備える接着性が発現した接合膜3同士を、それぞれが密着するように、各基板2、4同士を貼り合わせる。これにより、双方の基板2、4の膜形成領域41に選択的に形成された接合膜3により、基板2、4同士が部分的に接合され、図10(b)に示すような接合体5が得られる。
以上のようにして接合体5を得ることができる。
ここで、本工程において、基板2、4の双方に形成された接合膜3同士が接合することにより接合体5が得られるが、この接合は、以下のような2つのメカニズム(i)、(ii)の双方または一方に基づくものであると推察される。
【0161】
(i) 例えば、各接合膜3の表面32に水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、各接合膜3同士が密着するように、基板2と対向基板4とを貼り合わせたとき、各接合膜3の表面32に存在する水酸基同士が、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、2つの接合膜3同士が接合されると推察される。
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から切断される。その結果、2つの接合膜3同士の間では、水酸基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、2つの接合膜3同士がより強固に接合されると推察される。
【0162】
(ii) 2つの接合膜3同士を接触させると、各接合膜3の表面32付近に生じた終端化されていない結合手(未結合手)同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成される。これにより、各接合膜3を構成する金属原子および酸素原子いずれか一方同士が互いに直接接合することにより、各接合膜3同士が一体化する。
【0163】
以上のような(i)または(ii)のメカニズムにより、図10(c)に示すような接合体5が得られる。
なお、接合体5を得た後、この接合体5に対して、必要に応じ、前記第1実施形態の工程[3A]、[3B]および[3C]のうちの少なくとも1つの工程を行うようにしてもよい。
例えば、図10(c)に示すように、接合体5を加圧しつつ、加熱することにより、接合体5の各基板2、4同士がより近接する。これにより、各接合膜3の界面における水酸基の脱水縮合や未結合手同士の再結合が促進される。その結果、接合膜3の一体化がより進行し、最終的には、ほぼ完全に一体化される。
【0164】
<液滴吐出ヘッド>
次に、本発明の接合体をインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の実施形態について説明する。
図11は、本発明の接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図、図12は、図11に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図、図13は、図11に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。なお、図11は、通常使用される状態とは、上下逆に示されている。
【0165】
図11に示すインクジェット式記録ヘッド10は、図13に示すようなインクジェットプリンタ9に搭載されている。
図13に示すインクジェットプリンタ9は、装置本体92を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ921と、下部前方に記録用紙Pを排出する排紙口922と、上部面に操作パネル97とが設けられている。
【0166】
操作パネル97は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
また、装置本体92の内部には、主に、往復動するヘッドユニット93を備える印刷装置(印刷手段)94と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置94に送り込む給紙装置(給紙手段)95と、印刷装置94および給紙装置95を制御する制御部(制御手段)96とを有している。
【0167】
制御部96の制御により、給紙装置95は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット93の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット93が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット93の往復動と記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
【0168】
印刷装置94は、ヘッドユニット93と、ヘッドユニット93の駆動源となるキャリッジモータ941と、キャリッジモータ941の回転を受けて、ヘッドユニット93を往復動させる往復動機構942とを備えている。
ヘッドユニット93は、その下部に、多数のノズル孔111を備えるインクジェット式記録ヘッド10(以下、単に「ヘッド10」と言う。)と、ヘッド10にインクを供給するインクカートリッジ931と、ヘッド10およびインクカートリッジ931を搭載したキャリッジ932とを有している。
【0169】
なお、インクカートリッジ931として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。
往復動機構942は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸943と、キャリッジガイド軸943と平行に延在するタイミングベルト944とを有している。
【0170】
キャリッジ932は、キャリッジガイド軸943に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト944の一部に固定されている。
キャリッジモータ941の作動により、プーリを介してタイミングベルト944を正逆走行させると、キャリッジガイド軸943に案内されて、ヘッドユニット93が往復動する。そして、この往復動の際に、ヘッド10から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0171】
給紙装置95は、その駆動源となる給紙モータ951と、給紙モータ951の作動により回転する給紙ローラ952とを有している。
給紙ローラ952は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ952aと駆動ローラ952bとで構成され、駆動ローラ952bは給紙モータ951に連結されている。これにより、給紙ローラ952は、トレイ921に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置94に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ921に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
【0172】
制御部96は、例えばパーソナルコンピュータやディジタルカメラ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷装置94や給紙装置95等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部96は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリ、圧電素子(振動源)14を駆動して、インクの吐出タイミングを制御する圧電素子駆動回路、印刷装置94(キャリッジモータ941)を駆動する駆動回路、給紙装置95(給紙モータ951)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピュータからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
【0173】
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ931のインク残量、ヘッドユニット93の位置等を検出可能な各種センサ等が、それぞれ電気的に接続されている。
制御部96は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により圧電素子14、印刷装置94および給紙装置95は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
【0174】
以下、ヘッド10について、図11および図12を参照しつつ詳述する。
ヘッド10は、ノズル板11と、インク室基板12と、振動板13と、振動板13に接合された圧電素子(振動源)14とを備えるヘッド本体17と、このヘッド本体17を収納する基体16とを有している。なお、このヘッド10は、オンデマンド形のピエゾジェット式ヘッドを構成する。
【0175】
ノズル板11は、例えば、SiO、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物系材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料等で構成されている。
このノズル板11には、インク滴を吐出するための多数のノズル孔111が形成されている。これらのノズル孔111間のピッチは、印刷精度に応じて適宜設定される。
【0176】
ノズル板11には、インク室基板12が固着(固定)されている。
このインク室基板12は、ノズル板11、側壁(隔壁)122および後述する振動板13により、複数のインク室(キャビティ、圧力室)121と、インクカートリッジ931から供給されるインクを貯留するリザーバ室123と、リザーバ室123から各インク室121に、それぞれインクを供給する供給口124とが区画形成されている。
【0177】
各インク室121は、それぞれ短冊状(直方体状)に形成され、各ノズル孔111に対応して配設されている。各インク室121は、後述する振動板13の振動により容積可変であり、この容積変化により、インクを吐出するよう構成されている。
インク室基板12を得るための母材としては、例えば、シリコン単結晶基板、各種ガラス基板、各種樹脂基板等を用いることができる。これらの基板は、いずれも汎用的な基板であるので、これらの基板を用いることにより、ヘッド10の製造コストを低減することができる。
【0178】
一方、インク室基板12のノズル板11と反対側には、振動板13が接合され、さらに振動板13のインク室基板12と反対側には、複数の圧電素子14が設けられている。
また、振動板13の所定位置には、振動板13の厚さ方向に貫通して連通孔131が形成されている。この連通孔131を介して、前述したインクカートリッジ931からリザーバ室123に、インクが供給可能となっている。
【0179】
各圧電素子14は、それぞれ、下部電極142と上部電極141との間に圧電体層143を介挿してなり、各インク室121のほぼ中央部に対応して配設されている。各圧電素子14は、圧電素子駆動回路に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。
各圧電素子14は、それぞれ、振動源として機能し、振動板13は、圧電素子14の振動により振動し、インク室121の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
【0180】
基体16は、例えば各種樹脂材料、各種金属材料等で構成されており、この基体16にノズル板11が固定、支持されている。すなわち、基体16が備える凹部161に、ヘッド本体17を収納した状態で、凹部161の外周部に形成された段差162によりノズル板11の縁部を支持する。
以上のような、ノズル板11とインク室基板12との接合、インク室基板12と振動板13との接合、およびノズル板11と基体16との接合のうち、少なくとも1箇所を接合する際に本発明の接合方法が用いられる。
【0181】
換言すれば、ノズル板11とインク室基板12との接合体、インク室基板12と振動板13との接合体、およびノズル板11と基体16との接合体のうち、少なくとも1箇所に本発明の接合体が適用されている。
このようなヘッド10は、上記の接合界面に前述したような接合膜3が介挿されて接合されている。このため、接合界面の接合強度および耐薬品性が高くなっており、これにより、各インク室121に貯留されたインクに対する耐久性および液密性が高くなっている。その結果、ヘッド10は、信頼性の高いものとなる。
【0182】
また、非常に低温で信頼性の高い接合ができるため、線膨張係数の異なる材料でも大面積のヘッドができる点でも有利である。
また、ヘッド10の一部に本発明の接合体が適用されていると、寸法精度の高いヘッド10を構築することができる。このため、ヘッド10から吐出されたインク滴の吐出方向や、ヘッド10と記録用紙Pとの離間距離を高度に制御することができ、インクジェットプリンタ9による印字結果の品位を高めることができる。
【0183】
また、液滴吐出法を用いて液状材料を供給する位置を任意に設定し得ることから、各接合体における接合部の面積や、その配置を適宜制御して、各接合体の接合界面に生じる応力の局所集中を緩和できる。これにより、例えば、ノズル板11とインク室基板12との間、インク室基板12と振動板13との間、および、ノズル板11と基体16との間で、それぞれ両者の熱膨張率差が大きい場合でも、両者の部材を確実に接合することができる。
【0184】
さらに、接合界面に生じる応力の局所集中を緩和することにより、接合体の剥離や変形(反り)等を確実に防止することができる。これにより、信頼性の高いヘッド10およびインクジェットプリンタ9が得られる。
このようなヘッド10は、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力されていない状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に電圧が印加されていない状態では、圧電体層143に変形が生じない。このため、振動板13にも変形が生じず、インク室121には容積変化が生じない。したがって、ノズル孔111からインク滴は吐出されない。
【0185】
一方、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力された状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に一定電圧が印加された状態では、圧電体層143に変形が生じる。これにより、振動板13が大きくたわみ、インク室121の容積変化が生じる。このとき、インク室121内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル孔111からインク滴が吐出される。
【0186】
1回のインクの吐出が終了すると、圧電素子駆動回路は、下部電極142と上部電極141との間への電圧の印加を停止する。これにより、圧電素子14は、ほぼ元の形状に戻り、インク室121の容積が増大する。なお、このとき、インクには、インクカートリッジ931からノズル孔111へ向かう圧力(正方向への圧力)が作用している。このため、空気がノズル孔111からインク室121へ入り込むことが防止され、インクの吐出量に見合った量のインクがインクカートリッジ931(リザーバ室123)からインク室121へ供給される。
【0187】
このようにして、ヘッド10において、印刷させたい位置の圧電素子14に、圧電素子駆動回路を介して吐出信号を順次入力することにより、任意の(所望の)文字や図形等を印刷することができる。
なお、ヘッド10は、圧電素子14の代わりに電気熱変換素子を有していてもよい。つまり、ヘッド10は、電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用してインクを吐出するバブルジェット方式(「バブルジェット」は登録商標))のものであってもよい。
【0188】
なお、かかる構成のヘッド10において、ノズル板11には、撥液性を付与することを目的に形成された被膜114が設けられている。これにより、ノズル孔111からインク滴が吐出される際に、このノズル孔111の周辺にインク滴が残存するのを確実に防止することができる。その結果、ノズル孔111から吐出されたインク滴を目的とする領域に確実に着弾させることができる。
【0189】
<配線基板>
さらに、本発明の接合体を配線基板に適用した場合の実施形態について説明する。
図14は、本発明の接合体を適用して得られた配線基板を示す斜視図である。
図14に示す配線基板410は、絶縁基板413と、絶縁基板413上に配設された電極412と、リード414と、リード414の一端に、電極412と対向するように設けられた電極415とを有する。
【0190】
そして、電極412の上面と、電極415の下面とには、それぞれ接合膜3が形成されている。これらの接合膜3同士は、前述の本発明の接合方法によって貼り合わせることにより接合されている。これにより、電極412、415間は、1層の接合膜3によって強固に接合されることになり、各電極412、415間の層間剥離等が確実に防止されるとともに、信頼性の高い配線基板410が得られる。
【0191】
また、接合膜3は、接合膜3に含まれる金属酸化物として導電性を有するものを選択することにより、各電極412、415間を導通する機能をも担う。接合膜3は、非常に薄いものでも十分な接合力を発揮する。このため、各電極412、415間の間隙をより小さくすることができ、各電極412、415間の電気抵抗成分(接触抵抗)の低減を図ることができる。その結果、各電極412、415間の導電性をより高めることができる。
【0192】
また、接合膜3は、前述したように、液滴吐出法を用いて供給する液状材料の量を適宜設定することにより、その厚さを高い精度で容易に制御することができる。これにより、配線基板410は、より寸法精度の高いものとなり、各電極412、415間の導電性も容易に制御することができる。
以上、本発明の吐出液、接合膜の形成方法、接合方法および接合体を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0193】
例えば、本発明の接合膜の形成方法および接合方法では、必要に応じて、1以上の任意の目的の工程を追加してもよい。
また、本発明の接合体は、液滴吐出ヘッド以外のものに適用可能であることは言うまでもない。具体的には、本発明の接合体は、例えば、半導体装置、MEMS、マイクロリアクタ等に適用することができる。
【実施例】
【0194】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
(実施例1)
まず、基板として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmの単結晶シリコン基板を用意し、対向基板として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmのガラス基板を用意し、シリコン基板とガラス基板との双方を、酸素プラズマによる下地処理を行った。
【0195】
次に、Cu(SOPD)(宇部興産社製)のジ−n−ブチルエーテル溶液を液状材料(吐出液)として用意し、インクジェット法により単結晶シリコン基板の表面処理を行った面に、この液状材料を5pLの液滴として供給して、液状被膜を、アルファベットの大文字「E」の形状に各部の幅が約60μmとなるように形成した。なお、液状材料の粘度(25℃)は、8mPa・sであった。
【0196】
次に、この液状被膜を、150℃×30分の条件で乾燥して、Cu(SOPD)で構成される乾燥被膜を形成した。
次に、得られた乾燥被膜を焼成することにより、単結晶シリコン基板の表面処理を行った面に、接合膜(平均厚さ:約100nm、各部の幅60μm)を形成した。なお、乾燥被膜の焼成条件は、以下に示す通りである。
【0197】
<焼成条件>
・焼成時の温度 :270℃
・焼成時の雰囲気 :窒素ガス
・焼成時の圧力 :1×10−3Torr
・焼成時間 :10分
以上のようにして成膜された接合膜は、金属原子として銅原子を含み、脱離基として、Cu(SOPD)に含まれる有機物の一部が残存しているものである。
【0198】
次に、単結晶シリコン基板上に形成された接合膜に、以下に示す条件で紫外線を照射した。
<紫外線照射条件>
・雰囲気ガスの組成 :大気(空気)
・雰囲気ガスの温度 :20℃
・雰囲気ガスの圧力 :大気圧(100kPa)
・紫外線の波長 :172nm
・紫外線の照射時間 :5分
【0199】
次に、紫外線を照射してから1分後に、接合膜の紫外線を照射した面と、ガラス基板の表面処理を行った面とが接触するように、単結晶シリコン基板とガラス基板とを重ね合わせた。これにより、シリコン基板とガラス基板とがアルファベットの大文字「E」の形状にパターニングされた接合膜を介して接合された積層体(接合体)を得た。
次に、得られた接合体を3MPaで加圧しつつ、80℃で加熱し、15分間維持した。これにより、接合体の接合強度の向上を図った。
そして、この接合体のシリコン基板とガラス基板との間の接合強度を、QUAD GROUP社製「ロミュラス」)を用いて測定したところ、10MPa以上であった。
【0200】
(実施例2)
基板として、単結晶シリコン基板に代えて、ステンレス鋼基板を用意し、対向基板として、ガラス基板に代えて、ポリイミド基板を用意した以外は、前記実施例1と同様にして、積層体(接合体)を得た。
本実施例2においても、前記実施例1と同様に、アルファベットの大文字「E」の形状に接合膜(平均厚さ:約100nm、各部の幅60μm)が形成され、さらに、積層体のステンレス鋼基板とポリイミド基板との間の接合強度が10MPa以上であった。
【0201】
(実施例3)
接合膜と、ガラス基板の表面処理を行った面とが接触するように、単結晶シリコン基板とガラス基板とを重ね合わせた後、接合膜の表面に、ガラス基板側から紫外線を照射するようにしたこと以外は、前記実施例1と同様にして、積層体(接合体)を得た。
本実施例3においても、前記実施例1と同様に、アルファベットの大文字「E」の形状に接合膜(平均厚さ:約100nm、各部の幅60μm)が形成され、さらに、積層体のステンレス鋼基板とポリイミド基板との間の接合強度が10MPa以上であった。
【0202】
(実施例4)
単結晶シリコン基板上に接合膜を形成したのと同様の方法を用いて、ガラス基板上にもアルファベットの大文字「E」の形状にパターニングされた接合膜を形成し、各基板上に形成された接合膜同士が接触するようにして、シリコン基板とガラス基板とを接合膜を介して接合させた以外は、前記実施例1と同様にして、積層体(接合体)を得た。
本実施例4においても、前記実施例1と同様に、アルファベットの大文字「E」の形状に接合膜(平均厚さ:約100nm、各部の幅60μm)が形成され、さらに、積層体のシリコン基板とガラス基板との間の接合強度が10MPa以上であった。
【0203】
(実施例5)
液状材料として、下記化学式(2)で表わされるギ酸銅・ドデシルアミン錯体のドデシルアミン溶液を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、積層体(接合体)を得た。
なお、液状材料の粘度(25℃)は、5mPa・sであった。
また、下記化学式(2)で表わされるギ酸銅・ドデシルアミン錯体は、以下のようにして合成した。
【0204】
<ギ酸銅・ドデシルアミン錯体の合成>
ギ酸銅・四水和物とギ酸銅・二水和物との混合物(50g)を、55℃の真空恒温槽に入れ、重量変化がなくなるまで乾燥した。これにより、無水ギ酸銅を得た。一方、ドデシルアミン(20g)をサンプル瓶に入れ、50℃の恒温槽で溶かした。
次いで、得られた無水ギ酸銅(50mg)を、溶解したドデシルアミンに添加し、サンプル瓶に蓋をして、50℃の恒温槽に入れ、約2時間後、透明な青色の溶液が得られた。
【0205】
次いで、アセトニトリル(30g)を添加して、結晶性の固体物を析出させた。再び蓋をして、再度50℃の恒温槽にサンプル瓶を入れ、約1時間後、再び青色の透明溶液が得られた。
次いで、サンプル瓶を恒温槽から取り出して、常温(20℃)までの自然冷却を行った結果、針状結晶が得られた。この針状結晶を濾過で採取し、アセトニトリルで洗浄した後、真空乾燥を行った。これにより、ギ酸銅・ドデシルアミンの錯体を得た(収率94%)。
【0206】
【化2】

【0207】
本実施例5においても、前記実施例1と同様に、アルファベットの大文字「E」の形状に接合膜(平均厚さ:約100nm、各部の幅60μm)が形成され、さらに、積層体のシリコン基板とガラス基板との間の接合強度が10MPa以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0208】
【図1】本発明の接合膜の形成方法を用いて基材上に所定形状にパターニングされた接合膜の一例を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。
【図3】図1に示す接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。
【図4】本発明の接合膜の形成方法で用いる液滴吐出装置を示す斜視図である。
【図5】図4に示す液滴吐出装置における液滴吐出ヘッドを示す図であり、(a)は断面斜視図、(b)は断面図である。
【図6】本発明の接合膜の形成方法の実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図7】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図8】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図9】本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図10】本発明の接合方法の第3実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図11】本発明の接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図である。
【図12】図11に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図である。
【図13】図11に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。
【図14】本発明の接合体を適用して得られた配線基板を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0209】
2……基板 23、24……接合面 3……接合膜 4……対向基板 30……液状被膜 31……液滴 32……表面 303……脱離基 304……活性手 3C……空間 41……膜形成領域 42……非膜形成領域 5……接合体 500…液滴吐出装置 501…タンク 502…吐出走査部 503…液滴吐出手段 504…第1位置制御装置 506…ステージ 508…第2位置制御装置 510…チューブ 512…制御手段 514…液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド) 518…ノズル孔 520…キャビティ 522…隔壁 524…振動子 524A、524B…電極 524C…ピエゾ素子 526…振動板 528…ノズルプレート 529…液だまり 530……供給口 531……孔 550…UVランプ 10……インクジェット式記録ヘッド 11……ノズル板 111……ノズル孔 114……被膜 12……インク室基板 121……インク室 122……側壁 123……リザーバ室 124……供給口 13……振動板 131……連通孔 14……圧電素子 141……上部電極 142……下部電極 143……圧電体層 16……基体 161……凹部 162……段差 17……ヘッド本体 9……インクジェットプリンタ 92……装置本体 921……トレイ 922……排紙口 93……ヘッドユニット 931……インクカートリッジ 932……キャリッジ 94……印刷装置 941……キャリッジモータ 942……往復動機構 943……キャリッジガイド軸 944……タイミングベルト 95……給紙装置 951……給紙モータ 952……給紙ローラ 952a……従動ローラ 952b……駆動ローラ 96……制御部 97……操作パネル P……記録用紙 410……配線基板 412……電極 413……絶縁基板 414……リード 415……電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含み、エネルギーが付与されることにより表面付近に他の被着体との接着性を発現する、所定形状にパターニングされた接合膜を得るのに用いられる吐出液であって、
ノズル孔から間欠的に液滴を吐出する液滴吐出法を用いて、当該吐出液を、前記所定形状に対応して基材上に供給した後、乾燥・焼成することにより、前記所定形状にパターニングされた接合膜を得るためのものであり、
前記金属原子の金属錯体と、前記金属錯体を溶解または分散させるための溶媒または分散媒(以下、「溶媒または分散媒」を、単に「溶媒」と言う。)とを含有することを特徴とする吐出液。
【請求項2】
当該吐出液中における前記金属錯体の含有率は、10〜50wt%である請求項1に記載の吐出液。
【請求項3】
当該吐出液の粘度は、前記液滴吐出法により前記液滴を吐出し得る粘度に設定されている請求項1または2に記載の吐出液。
【請求項4】
当該吐出液の粘度(25℃)は、3〜10mPa・sである請求項1ないし3のいずれかに記載の吐出液。
【請求項5】
当該吐出液を前記液滴吐出法を用いて液滴としたとき、該液滴の平均量は、0.1〜40pLである請求項1ないし4のいずれかに記載の吐出液。
【請求項6】
前記溶媒は、無機溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、アミン系溶媒、セロソルブ系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、芳香族複素環化合物系溶媒、アミド系溶媒、ハロゲン化合物系溶媒、エステル系溶媒、硫黄化合物系溶媒、ニトリル系溶媒、有機酸系溶媒のうちの少なくとも1種を含有する請求項1ないし5のいずれかに記載の吐出液。
【請求項7】
前記脱離基は、炭素原子を必須成分とし、水素原子、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子およびハロゲン原子のうちの少なくとも1種を含む原子団で構成される請求項1ないし6のいずれかに記載の吐出液。
【請求項8】
前記脱離基は、アルキル基を含む請求項7に記載の吐出液。
【請求項9】
前記金属原子は、銅、アルミニウム、亜鉛、鉄およびルテニウムのうちの少なくとも1種である請求項1ないし8のいずれかに記載の吐出液。
【請求項10】
前記液滴吐出法は、圧電素子による振動を利用して前記吐出液を、インクジェットヘッドが備えるノズル孔から液滴として吐出するインクジェット法である請求項1ないし9のいずれかに記載の吐出液。
【請求項11】
前記所定形状は、前記接合膜による接合を必要とする部位に対応した形状をなしている請求項1ないし10のいずれかに記載の吐出液。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の吐出液を用いて前記基材上に接合膜を形成する接合膜の形成方法であって、
前記基材を用意し、前記吐出液を前記液滴吐出法を用いて前記液滴として供給することにより、前記基材に前記所定形状にパターニングされた液状被膜を形成する工程と、
前記液状被膜を乾燥・焼成して、前記基材に前記所定形状にパターニングされた前記接合膜を得る工程とを有することを特徴とする接合膜の形成方法。
【請求項13】
前記脱離基は、前記吐出液を乾燥させた後、焼成した際に、前記金属錯体に含まれる有機物の一部が残存することにより形成される請求項12に記載の接合膜の形成方法。
【請求項14】
前記焼成の際の焼成温度は、70〜300℃である請求項12または13に記載の接合膜の形成方法。
【請求項15】
前記焼成は、不活性ガス雰囲気下で行われる請求項12ないし14のいずれかに記載の接合膜の形成方法。
【請求項16】
前記焼成は、減圧下で行われる請求項12ないし15のいずれかに記載の接合膜の形成方法。
【請求項17】
前記接合膜中の前記金属原子と前記炭素原子との存在比は、3:7〜7:3である請求項12ないし16のいずれかに記載の接合膜の形成方法。
【請求項18】
前記接合膜は、導電性を有するものである請求項12ないし17のいずれかに記載の接合膜の形成方法。
【請求項19】
前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmである請求項12ないし18のいずれかに記載の接合膜の形成方法。
【請求項20】
前記接合膜は、流動性を有さない固体状をなしている請求項12ないし19のいずれかに記載の接合膜の形成方法。
【請求項21】
前記基材は、板状をなしている請求項12ないし20のいずれかに記載の接合膜の形成方法。
【請求項22】
前記基材の少なくとも前記接合膜を形成する部分は、シリコン系材料、金属系材料またはガラス系材料を主材料として構成されている請求項12ないし21のいずれかに記載の接合膜の形成方法。
【請求項23】
前記基材の前記接合膜を備える面には、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されている請求項12ないし22のいずれかに記載の接合膜の形成方法。
【請求項24】
前記表面処理は、プラズマ処理である請求項23に記載の接合膜の形成方法。
【請求項25】
前記基材と前記接合膜との間に、中間層が介挿されている請求項12ないし24のいずれかに記載の接合膜の形成方法。
【請求項26】
前記中間層は、酸化物系材料を主材料として構成されている請求項25に記載の接合膜の形成方法。
【請求項27】
前記基材と前記他の被着体とを用意し、請求項11ないし26のいずれかに記載の接合膜の形成方法を用いて、前記基材および前記他の被着体のうち少なくとも前記基材に前記所定形状にパターニングされた前記接合膜を形成する工程と、
前記接合膜にエネルギーを付与することにより、前記接合膜の表面付近に接着性を発現させ、当該接合膜を介して前記基材と前記他の被着体とが接合された接合体を得る工程とを有することを特徴とする接合方法。
【請求項28】
前記接合膜は、該接合膜に前記エネルギーを付与することにより、その少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が、当該接合膜から脱離した後に、活性手が生じる請求項27に記載の接合方法。
【請求項29】
前記活性手は、未結合手または水酸基である請求項28に記載の接合方法。
【請求項30】
前記接合膜に前記エネルギーを付与して、前記接合膜の表面付近に接着性を発現させた後、前記接合膜を介して前記基材と前記他の被着体とを接触させることにより、前記接合体を得る請求項27ないし29のいずれかに記載の接合方法。
【請求項31】
前記接合膜を介して前記基材と前記他の被着体とを接触させた後、前記接合膜に前記エネルギーを付与して、前記接合膜の表面付近に接着性を発現させることにより、前記接合体を得る請求項27ないし29のいずれかに記載の接合方法。
【請求項32】
前記エネルギーの付与は、前記接合膜にエネルギー線を照射する方法、前記接合膜を加熱する方法、および前記接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行われる請求項27ないし31のいずれかに記載の接合方法。
【請求項33】
前記エネルギー線は、波長126〜300nmの紫外線である請求項32に記載の接合方法。
【請求項34】
前記加熱の温度は、25〜100℃である請求項32または33に記載の接合方法。
【請求項35】
前記圧縮力は、0.2〜10MPaである請求項32ないし34のいずれかに記載の接合方法。
【請求項36】
前記エネルギーの付与は、大気雰囲気中で行われる請求項32ないし35のいずれかに記載の接合方法。
【請求項37】
前記他の被着体は、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理を施した表面を有するものであり、
前記接合体は、前記表面処理を施した表面に対して、前記接合膜が密着するようにして貼り合わされることにより形成される請求項27ないし36のいずれかに記載の接合方法。
【請求項38】
前記他の被着体は、あらかじめ、官能基、ラジカル、開環分子、不飽和結合、ハロゲンおよび過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基または物質を有する表面を有するものであり、
前記接合体は、前記基または物質を有する表面に対して、前記接合膜が密着するようにして貼り合わされることにより形成される請求項27ないし37のいずれかに記載の接合方法。
【請求項39】
さらに、前記基材と前記他の被着体とを接合させた後に、前記接合膜に対して、前記基材と前記他の被着体との接合強度を高める処理を行う工程を有する請求項27ないし38のいずれかに記載の接合方法。
【請求項40】
前記接合強度を高める処理を行う工程は、前記接合膜にエネルギー線を照射する方法、前記接合膜を加熱する方法、および前記接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行われる請求項39に記載の接合方法。
【請求項41】
請求項27ないし40のいずれかに記載の接合方法を用いて得られたことを特徴とする接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−1373(P2010−1373A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161043(P2008−161043)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】