説明

含フッ素エラストマー組成物およびそれからなるシール材

【課題】耐オゾン性において改善され、かつ耐熱性に優れたシール材を与える含フッ素エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】(a)パーフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が20〜37モル%、(b)ニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を架橋部位として有するモノマー単位の含有量が0.1〜2.5モル%ならびに(c)テトラフルオロエチレン単位の含有量が61.5〜79.9モル%であるパーフルオロエラストマー(A)と、特定の架橋剤(B)を含む含フッ素エラストマー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマー組成物、および該組成物からなるシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素エラストマー、特にテトラフルオロエチレン(TFE)単位を中心とするパーフルオロエラストマーは、優れた耐薬品性、耐溶剤性、耐熱性を示すことから、過酷な環境下でのシール材などとして広く使用されている。
【0003】
しかし、技術の進歩に伴い要求される特性はさらに厳しくなり、航空宇宙分野や半導体製造装置分野、化学プラント分野、特に半導体製造装置分野においては、オゾン曝露環境下におけるシール性が要求されている。
【0004】
かかる要求に対して、架橋系を工夫して耐熱性を向上させる試みが提案されている。それらの一つの方向として、ニトリル基を架橋点として導入した含フッ素エラストマーを使用し、特定のビスアミノフェニル化合物により架橋させる硬化組成物が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1における硬化組成物は、硬化した際に熱安定性や耐薬品性に優れているという効果を有するが、オゾン曝露環境下においての耐性については、言及されていない。
【0005】
また、特許文献2には、機械的強度および高温での圧縮永久歪みが特に改善されるフッ素ゴム組成物として、架橋性基としてカルボキシル基および/またはアルコキシカルボニル基を主鎖の末端および分岐鎖に有する含フッ素エラストマーを含むフッ素ゴム組成物が記載されている。特許文献2におけるフッ素ゴムとして、TFE単位とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)単位を有する含フッ素エラストマー共重合体が記載されているが、PMVE単位の含有量が40モル%以上と多く含有しているため、オゾン曝露環境下においての耐性や、耐熱性の点で問題がある。
【0006】
特許文献3および4には、耐プラズマ性や耐金属溶出性に優れたエラストマー組成物として、不純物金属の含有量の小さい架橋性エラストマー組成物が記載されている。特許文献3および4における架橋性エラストマーとしては、TFE単位とPMVE単位を有する含フッ素エラストマー共重合体が記載されているが、PMVE単位の含有量が39.9モル%と多く含有しているため、オゾン曝露環境下においての耐性や、耐熱性の点で問題がある。
【0007】
特許文献5には、架橋性エラストマー組成物について記載されており、該エラストマー組成物における架橋性エラストマーとして、TFE単位とPMVE単位を有する含フッ素エラストマー共重合体が記載されている。該共重合体におけるPMVE単位の含有量は40モル%以上と多く含有するものであり、オゾン曝露環境下においての耐性や、耐熱性の点で問題がある。
【0008】
特許文献6には、耐薬品性、機械的強度、耐熱性において優れる架橋用エラストマー組成物が記載されている。該架橋用エラストマー組成物は、架橋剤としてビスアミノフェニル化合物が用いられており、パーフルオロエラストマーとして、TFE単位、PMVE単位およびニトリル基を架橋部位として有するモノマー単位からなる共重合体が開示されているが、PMVE単位の含有量が、38〜42モル%と多く含有されているため、オゾン曝露環境下においての耐性の点で問題がある。
【0009】
特許文献7には、耐熱性に優れかつ耐スチーム性などの耐薬品性に優れた含フッ素エラストマー組成物が記載されている。含フッ素エラストマー組成物における含フッ素エラストマーは、TFE単位とパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位とエチレンのような炭化水素オレフィン単位を有するが、含フッ素エラストマーとして炭化水素オレフィン単位を有する場合、耐熱性の点で問題がある。
【0010】
特許文献8には、良好な加硫物性を有し、かつ良好な圧縮永久歪みを有するゴムの加硫物を与える含フッ素エラストマー組成物が記載されている。該含フッ素エラストマー組成物における含フッ素エラストマーは、TFE単位とPMVEのようなパーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)単位を有する共重合体を含有し、さらに、架橋剤として特定のビスアミノフェニル化合物を有する含フッ素エラストマー組成物により架橋させる硬化性組成物が開示されている。特許文献8における硬化性組成物は、オゾン曝露環境下においての耐性については言及されていない。
【0011】
特許文献9〜11には、良好な加硫物性、高温条件下での優れた熱安定性を有し、かつ良好な圧縮永久歪みを有する硬化性パーフルオロエラストマー組成物が記載されている。該エラストマー組成物における含フッ素エラストマーは、TFE単位とPMVEのようなパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位を有する共重合体を含有し、さらに、架橋剤として特定のビスアミノフェニル化合物を有する含フッ素エラストマー組成物により架橋させる硬化組成物が開示されている。特許文献9〜11における硬化組成物は、オゾン曝露環境下においての耐性については言及されていない。
【0012】
特許文献12には、熱的および加水分解安定性が必要とされる用途に適した硬化可能なパーフルオロエラストマー組成物が記載されている。該エラストマー組成物における含フッ素エラストマーは、TFE単位とPMVEのようなパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位およびニトリル基を架橋部位として有するモノマー単位を有する共重合体を含有し、さらに、架橋剤としてビスアミノフェノールやベンジジン(Benzidine)やテトラミンベンゾフェノン(tetraminebenzophenone)などの特定のビスアミノフェニル化合物を有する含フッ素エラストマー組成物を架橋させる硬化組成物が開示されている。特許文献12における硬化組成物は、オゾン曝露環境下においての耐性については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−263952号公報
【特許文献2】国際公開第00/29479号パンフレット
【特許文献3】国際公開第00/42100号パンフレット
【特許文献4】国際公開第00/42093号パンフレット
【特許文献5】国際公開第01/79337号パンフレット
【特許文献6】国際公開第01/32773号パンフレット
【特許文献7】国際公開第01/53411号パンフレット
【特許文献8】特開平8−120144号公報
【特許文献9】特表2007−502890号公報
【特許文献10】特表2002−514241号公報
【特許文献11】特表2002−515525号公報
【特許文献12】特開昭59−109546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、耐オゾン性において改善され、かつ耐熱性に優れた成形品を与える含フッ素エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、(a)パーフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が20〜37モル%、
(b)ニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を架橋部位として有するモノマー単位の含有量が0.1〜2.5モル%ならびに
(c)テトラフルオロエチレン単位の含有量が61.5〜79.9モル%
であるパーフルオロエラストマー(A)と、
式(1):
【化1】

(式中、Rf1およびRf2は、同じかまたは異なり、いずれも炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロオキシアルキル基である)
で示される架橋剤(B)を含む含フッ素エラストマー組成物に関する。
【0016】
パーフルオロアルキルビニルエーテル単位(a)がパーフルオロメチルビニルエーテル単位であることが好ましい。
【0017】
モノマー単位(b)が、パーフルオロ(8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテン)単位であることが好ましい。
【0018】
架橋剤(B)が式(1a):
【化2】

で示される化合物であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、前記の含フッ素エラストマー組成物を用いたシール材にも関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、特定の含フッ素エラストマーおよび特定の架橋剤を含む含フッ素エラストマー組成物を組み合わせることにより、オゾン曝露環境下においても耐オゾン性に優れ、かつ耐熱性に優れる含フッ素エラストマー成形品を与える含フッ素エラストマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の含フッ素エラストマー組成物は、(a)パーフルオロアルキルビニルエーテル(以下、PAVEともいう)単位、(b)硬化部位を有するモノマー単位および(c)テトラフルオロエチレン(以下、TFEともいう)単位を特定量含有するパーフルオロエラストマー(A)と架橋剤(B)を含む。
【0022】
パーフルオロエラストマー(A)におけるPAVE単位(a)の含有量は、樹脂に近い性質とならず、ゴム弾性体としての性質が失われないなどの点から、パーフルオロエラストマー(A)中に20モル%以上であり、24モル%以上が好ましく、27モル%以上がより好ましい。また、PAVE単位の含有量は、耐オゾン性に優れ、高温における圧縮永久歪みなどの耐熱性に優れる点から、パーフルオロエラストマー(A)中に37モル%以下であり、35モル%以下が好ましく、32モル%以下がさらに好ましい。
【0023】
この場合のPAVEとしては、たとえばパーフルオロメチルビニルエーテル(以下、PMVEともいう)、パーフルオロプロピルビニルエーテルなどがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いることができる。
【0024】
これらのなかで、硬化物が、よりゴム弾性を有し、機械強度が優れるという点から、PMVEが好ましい。
【0025】
ニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボキシル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を架橋部位として有するモノマー単位(b)の含有量は、架橋密度を上げ、シール材のシール性を上げる点から、パーフルオロエラストマー(A)中に0.1モル%以上であり、0.2モル%以上が好ましく、0.3モル%以上がより好ましい。また、モノマー単位(b)の含有量は、架橋密度の上昇による伸びの低下を抑える点から、パーフルオロエラストマー(A)中に、2.5モル%以下であり、1.5モル%以下が好ましく、1.0モル%以下がより好ましい。
【0026】
モノマー単位(b)としては、たとえば、式(2):
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−X1 (2)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数、X1はニトリル基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基)
で表されるような単量体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0027】
このニトリル基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基が、架橋点として機能することができる。また、架橋反応性に優れる点から、モノマー単位(b)における架橋点がニトリル基であるニトリル基含有モノマーであることが好ましい。
【0028】
モノマー単位(b)の具体例としては、式(3)〜(19):
CY2=CY(CF2n−X2 (3)
(式中、Yは水素原子またはフッ素原子、nは1〜8の整数である)
CF2=CFCF2f3−X2 (4)
(式中、Rf3は−(OCF2n−(nは 1〜5の整数)である)
CF2=CFCF2(OCF(CF3)CF2m
(OCH2CF2CF2nOCH2CF2−X2 (5)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数である)
CF2=CFCF2(OCH2CF2CF2m
(OCF(CF3)CF2nOCF(CF3)−X2 (6)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数である)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))mO(CF2n−X2 (7)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜8の整数である)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))m−X2 (8)
(式中、mは1〜5の整数)
CF2=CFOCF2(CF(CF3)OCF2nCF(−X2)CF3 (9)
(式中、nは1〜4の整数)
CF2=CFO(CF2nOCF(CF3)−X2 (10)
(式中、nは2〜5の整数)
CF2=CFO(CF2n−(C64)−X2 (11)
(式中、nは1〜6の整数)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))nOCF2CF(CF3)−X2 (12)
(式中、nは1〜2の整数)
CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)−X2 (13)
(式中、nは0〜5の整数)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−X2 (14)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数である)
CH2=CFCF2OCF(CF3)OCF(CF3)−X2 (15)
CH2=CFCF2OCH2CF2−X2 (16)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)mCF2CF(CF3)−X2 (17)
(式中、mは0以上の整数である)
CF2=CFOCF(CF3)CF2O(CF2n−X2 (18)
(式中、nは1以上の整数)
CF2=CFOCF2OCF2CF(CF3)OCF2−X2 (19)
(一般式(3)〜(19)中、X2は、ニトリル基(−CN基)、カルボキシル基(−COOH基)またはアルコキシカルボニル基(−COOR5基、R5は炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基)である)で表されるモノマーにより得られるモノマー単位などがあげられる。これらの中で、パーフルオロエラストマー(A)の耐熱性が優れ、また、パーフルオロエラストマーを重合反応により合成する際に、連鎖移動による分子量低下を抑えるために、水素原子を含まないパーフルオロ化合物が好ましい。また、テトラフルオロエチレンとの重合反応性に優れる点からCF2=CFO−構造を持つ化合物が好ましく、パーフルオロ(8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテン)単位であることが好ましい。
【0029】
パーフルオロエラストマー(A)におけるTFE単位(c)の含有量は、耐オゾン性に優れ、高温における圧縮永久歪みなどの耐熱性において優れるという点から、パーフルオロエラストマー(A)中に61.5モル%以上であり、65モル%以上が好ましく、68モル%以上がより好ましい。また、TFE単位の含有量は、樹脂に近い性質とならず、ゴム弾性体としての性質が失われないという点から、パーフルオロエラストマー(A)中に79.9モル%以下であり、76モル%以下が好ましく、73モル%以下がより好ましい。
【0030】
かかるパーフルオロエラストマー(A)の具体例としては、特表平9−512569号公報、国際公開00/29479号パンフレット、特開平11−92529号公報などに記載されているものがあげられる。
【0031】
これらのパーフルオロエラストマー(A)は、常法により製造することができる。これらのパーフルオロエラストマー(A)は、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法などの重合法により製造することができるが、取扱いが容易である点から乳化重合法が好適である。
【0032】
本発明で使用するラジカル重合開始剤は、従来からフッ素ゴムの重合に使用されているものであればよく、たとえば、有機および無機の過酸化物ならびにアゾ化合物がある。典型的な開始剤として過硫酸塩類、過酸化カーボネート類、過酸化エステル類などがあり、好ましい開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)があげられる。APSは単独で使用してもよく、また亜硫酸塩類のような還元剤と組み合わせて使用することもできる。
【0033】
乳化重合に使用される乳化剤としては、広範囲なものが使用可能であるが、重合中におこる乳化剤分子への連鎖移動反応を抑制する観点から、フルオロカーボン鎖、またはフルオロポリエーテル鎖を有するカルボン酸の塩類が望ましい。乳化剤の使用量は、添加された水の約0.05〜2質量%が好ましく、とくに0.2〜1.5質量%が好ましい。
【0034】
本発明で使用するモノマー混合ガスは、カルブ(G.H.Kalb)ら、アドヴァンシーズ・イン・ケミストリー・シリーズ(Advances in Chemistry Series.),129,13(1973)に記載されるように、爆発性を有するので、重合装置には着火源となるスパークなどが発生しないように工夫する必要がある。
【0035】
重合圧力は、広い範囲で変化させることができる。一般には、0.5〜7MPaの範囲である。重合圧力は、高い程重合速度が大きくなるため、生産性の向上の観点から、0.7MPa以上であることが好ましい。
【0036】
本発明で用いる含フッ素エラストマーにニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基よりなる群から選択される少なくとも1つの基を導入する方法としては、前述のように、含フッ素エラストマー製造時に、架橋部位を有する単量体を添加して共重合することにより導入することができるが、その他の方法として、たとえば、重合生成物を酸処理することにより、重合生成物に存在しているカルボン酸の金属塩やアンモニウム塩などの基をカルボキシル基に変換する方法もあげることができる。酸処理法としては、たとえば塩酸、硫酸、硝酸などにより洗浄するか、これらの酸で重合反応後の混合物の系をpH3以下にする方法が適当である。
【0037】
また、ヨウ素や臭素を含有する架橋性エラストマーを発煙硝酸や発煙硫酸により酸化してカルボキシル基を導入することもできる。
【0038】
本発明の含フッ素エラストマー組成物は、前述した含フッ素エラストマーが有する架橋部位として作用可能な基と架橋反応可能な架橋剤(B)を有することが好ましい。
【0039】
本発明で用いる架橋剤(B)は、架橋後の構造が、芳香族環構造となり安定化されるために耐熱性が向上する点、および架橋後の成形品における耐オゾン性が向上するという点から、式(1):
【化3】

で示される化合物である。
【0040】
式(1)におけるRf1およびRf2は、同じかまたは異なり、いずれもパーフルオロアルキル基またはパーフルオロオキシアルキル基である。パーフルオロアルキル基またはパーフルオロオキシアルキル基の炭素数は、含フッ素基の導入により架橋後の架橋点の耐熱性を向上させる点において優れているという点から1以上である。また、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロオキシアルキル基の炭素数は、架橋剤の合成において高価な含フッ素化合物の使用量を減らせる点から20以下であり、10以下が好ましい。
【0041】
Rf1およびRf2におけるパーフルオロアルキル基の具体例としては、パーフルオロメチル基、パーフルオロプロピル基、CF3CF2CF2OCFCF3CF2O−などがあげられるが、これらの中で、原料の入手が容易である点において優れているという点からパーフルオロメチル基が好ましい。
【0042】
式(1)の具体例としては、式(1a):
【化4】

で示される化合物であることが、合成が容易であるという点で好ましい。
【0043】
架橋剤(B)の含有量は、組成物の架橋性を向上させるという点から、エラストマー100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、0.4質量部以上がより好ましく、0.6質量部以上がさらに好ましい。また、架橋剤(B)の含有量は、組成物の架橋性を向上させるという点からエラストマー100質量部に対して、10.0質量部以下が好ましく、2.0質量部以下がより好ましく、1.0質量部以下がさらに好ましい。
【0044】
本発明の含フッ素エラストマー組成物において、必要に応じて架橋性エラストマー組成物に含有される通常の添加物、たとえば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤などを含有することができる。また、前記のものとは異なる常用の架橋剤や架橋促進剤を1種またはそれ以上含有してもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲において、別種のエラストマーを混合して使用してもよい。
【0045】
充填剤としては、有機フィラーがあげられ、耐熱性、耐プラズマ性(プラズマ照射時の低パーティクル性、低重量減少率)の点から有機顔料;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどのイミド構造を有するイミド系フィラー;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)などのケトン系エンジニアプラスチックが好ましく、特に有機顔料が好ましい。
【0046】
有機顔料としては、縮合アゾ系顔料、イソインドリノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アンスラキノン系顔料などがあげられるが、それらの中でも、耐熱性、耐薬品性に優れ、成形体特性に与える影響が少ない点から、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アンスラキノン系顔料が好ましく、キナクリドン系顔料がより好ましい。
【0047】
さらに、本発明の含フッ素架橋性組成物は、一般的な充填剤を含有してもよい。
【0048】
一般的な充填剤としては、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシベンゾエート、ポリテトラフルオロエチレン粉末などのエンジニアリングプラスチック製の有機物フィラーのほか、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化イットリウム、酸化チタンなどの金属酸化物フィラー;炭化ケイ素、炭化アルミニウムなどの金属炭化物フィラー;窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物フィラー;フッ化アルミニウム、フッ化カーボン、硫酸バリウム、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルクなどの無機物フィラーがあげられる。
【0049】
これらの中でも、各種プラズマの遮蔽効果の点から、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ケイ素、ポリイミド、フッ化カーボンが好ましい。
【0050】
また、前記無機フィラー、有機フィラーを単独で、または2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0051】
本発明の組成物は、上記の各成分を、通常のゴム用加工機械、たとえば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどを用いて混合することにより調製することができる。この他、密閉式混合機を用いる方法やエマルジョン混合から共凝析する方法によっても調製することができる。
【0052】
本発明の含フッ素エラストマーを架橋して得られる架橋物の硬度は、JIS K6253に準じて、硬度(Shore A)を測定することができる。架橋物の硬度は、本発明のエラストマー組成物を用いたシール材におけるシール性が良好であるという点から、shoreAで50以上が好ましく、55以上がより好ましく、60以上がさらに好ましい。また、架橋物の硬度は、本発明のエラストマー組成物を用いたシール材におけるシール性が良好であるという点から、95以下が好ましく、90以下がより好ましく、85以下がさらに好ましい。
【0053】
本発明の含フッ素エラストマー組成物を架橋成形して得られる架橋物は、耐薬品性、機械的強度、耐熱性に優れるため、例えば半導体装置の封止用のシール材などとして好適である。シール材としてはO−リング、角−リング、ガスケット、パッキン、オイルシール、ベアリングシール、リップシールなどがあげられる。
【0054】
なお、本発明でいう半導体製造装置は、特に半導体を製造するための装置に限られるものではなく、広く、液晶パネルやプラズマパネルを製造するための装置など、高度なクリーン度が要求される半導体分野において用いられる製造装置全般を含むものであり、たとえば次のようなものをあげることができる。
【0055】
(1)エッチング装置
ドライエッチング装置
プラズマエッチング装置
反応性イオンエッチング装置
反応性イオンビームエッチング装置
スパッタエッチング装置
イオンビームエッチング装置
ウェットエッチング装置
アッシング装置
【0056】
(2)洗浄装置
乾式エッチング洗浄装置
UV/O3洗浄装置
イオンビーム洗浄装置
レーザービーム洗浄装置
プラズマ洗浄装置
ガスエッチング洗浄装置
抽出洗浄装置
ソックスレー抽出洗浄装置
高温高圧抽出洗浄装置
マイクロウェーブ抽出洗浄装置
超臨界抽出洗浄装置
【0057】
(3)露光装置
ステッパー
コータ・デベロッパー
【0058】
(4)研磨装置
CMP装置
【0059】
(5)成膜装置
CVD装置
スパッタリング装置
【0060】
(6)拡散・イオン注入装置
酸化拡散装置
イオン注入装置
【実施例】
【0061】
つぎに本発明を製造例および実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
製造例1(パーフルオロエラストマーAの合成)
撹拌翼として、マックスブレンド翼を取り付けた着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水を2.338リットルおよび乳化剤として
【化5】

を23.4g、(NH42CO3を0.21g仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、52℃に昇温し、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)の混合ガス(TFE/PMVE=35/65モル比)を、内圧が0.78MPa・Gになるように仕込んだ。ついで、CF2=CFOCF2CFCF3OCF2CF2CN(CNVE)を0.85g窒素で圧入した後、過硫酸アンモニウム(APS)12.3gを、水30gに溶解し、窒素で圧入して反応を開始した。
【0063】
重合の進行に伴い、槽内圧力が低下するので、圧力が0.73MPa・Gになった時点で、TFEおよびPMVEを70/30モル%の比率で圧入し、0.83MPa・Gまで昇圧した。以後、反応の進行にともない同様にTFE、PMVEを圧入し、0.73〜0.83MPa・Gのあいだで、昇圧、降圧を繰り返し、重合終了まで合計TFEを400g、PMVEを284g圧入した。重合中にCNVEを14.45g、17分割して追加添加した。重合終了後、オートクレーブを冷却し、未反応モノマーを放出して固形分濃度22.3質量%の水性分散体を2991.2g得た。重合時間は6.2時間であった。
【0064】
この水性分散体1000gを純水1000gで希釈し、3.5重量%塩酸水溶液5000g中に、撹拌しながらゆっくりと添加した。添加後、5分間撹拌した後、凝析物をろ別し、得られたポリマーをさらに純水5000gの水中にあけ、5分間撹拌し、再びろ別した。この後、水洗とろ別の操作を繰り返し、水洗後の洗浄水のpHが6以上になった時点で、ポリマーを取り出した。同様の操作で、重合で得られた2991gの水性分散体を処理した後、得られた全てのポリマーを70℃で48時間、真空乾燥させて、615gの乾燥したポリマー(パーフルオロエラストマーA)を得た。
【0065】
得られたポリマーを19F−NMR(固体NMR)にて測定を行った結果、この重合体のモノマー単位組成は、TFE/PMVE/CNVE(69.2/30.4/0.4モル%)であった。
【0066】
製造例2(パーフルオロエラストマーBの合成)
撹拌翼として、マックスブレンド翼を取り付けた着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水を2.338リットルおよび乳化剤として
【化6】

を23.4g、(NH42CO3を0.21g仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、52℃に昇温し、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)の混合ガス(TFE/PMVE=24/76モル比)を、内圧が0.78MPa・Gになるように仕込んだ。ついで、CNVEを0.85g、窒素で圧入した後、過硫酸アンモニウム(APS)12.3gを、水30gに溶解し、窒素で圧入して反応を開始した。
【0067】
重合の進行に伴い、槽内圧力が低下するので、圧力が0.73MPa・Gになった時点で、TFEおよびPMVEを60/40モル%の比率で圧入し、0.83MPa・Gまで昇圧した。以後、反応の進行にともない同様にTFE、PMVEを圧入し、0.73〜0.83MPa・Gのあいだで、昇圧、降圧を繰り返し、重合終了まで合計TFEを327g、PMVEを355g圧入した。重合中にCNVEを14.45g、17分割して追加添加した。重合終了後、オートクレーブを冷却し、未反応モノマーを放出して固形分濃度21.3質量%の水性分散体2983gを得た。重合時間は8.0時間であった。
【0068】
この水性分散体1000gを純水1000gで希釈し、3.5重量%塩酸水溶液5000g中に、撹拌しながらゆっくりと添加した。添加後、5分間撹拌した後、凝析物をろ別し、得られたポリマーをさらに純水5000gの水中にあけ、5分間撹拌し、再びろ別した。この後、水洗とろ別の操作を繰り返し、水洗後の洗浄水のpHが6以上になった時点で、ポリマーを取り出した。同様の操作で、重合で得られた2983gの水性分散体を処理した後、得られた全てのポリマーを70℃で48時間、真空乾燥させて、610gの乾燥したポリマー(パーフルオロエラストマーB)を得た。
【0069】
得られたポリマーを製造例1と同様の方法により19F−NMR(固体NMR)にて測定を行った。19F−NMR分析の結果、この重合体のモノマー単位組成は、TFE/PMVE/CNVE(57.4/42.2/0.4モル%)であった。
【0070】
実施例1
製造例1で得られたパーフルオロエラストマーAと式(1a):
【化7】

で示される架橋剤(B)(Tetramine AF(WO01/38290をもとに合成した))をパーフルオロエラストマーA:架橋剤(B)=100:0.64(質量比)で混合し、オープンロールにて混練して架橋可能な含フッ素エラストマー組成物を調製した。この組成物について、架橋性を調べた。結果を表1に示す。
【0071】
(架橋性)
各架橋用組成物についてJSR型キュラストメーターII型により、180℃にて加硫曲線を求め、最低トルク(ML)、最大トルク(MH)、誘導時間(T10)および最適加硫時間(T90)を求める。
【0072】
また、この含フッ素エラストマー組成物を180℃で20分間プレスして架橋を行ったのち、さらに290℃で18時間のオーブン架橋を施し、P−24規格(JIS B 2401)の架橋したOリング被験サンプルおよび厚さ2mmの架橋シートを作製した。これらのOリング被験サンプルおよび架橋シートを用いて、以下の測定方法により、常態物性を測定し、さらに、耐オゾン性試験、耐熱性試験を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(常態物性)
JIS K6251に準じて、6号ダンベルを用いて、厚さ2mmの架橋シートの常態での100%伸び引張応力(M100)、切断時引張強度(TB)、切断時伸び(EB)を測定する。また、JIS K6253に準じて、硬度(Shore A)を測定する。
【0074】
(耐熱性試験)
JIS B2401に準じてOリング被験サンプルの310℃、70時間の圧縮永久ひずみ(25%圧縮)を測定する。
【0075】
(耐オゾン性試験)
3500ml/minの酸素ガスおよび5.6ml/minの窒素ガスをオゾン発生・供給装置(商品名:GR−RB20、SGX−A11MN(改)、共に住友精機工業社製)に供給し、185g/m3Nの濃度のオゾンを含むガスを発生させる。このオゾンガスをマスフローコントローラーにて3000ml/minの流量に調整し、Oリング被験サンプルを入れて密閉したSUS製の容器に流し、Oリング被験サンプルをオゾンガスに32時間曝露させた。その間、SUS製の容器は内温が138℃になるように温調した。
【0076】
オゾンガスに曝露したOリング被験サンプルおよび曝露させなかったOリング被験サンプルを、フロリナートFC−84(住友スリーエム製)に23℃、46時間浸漬させた後、取り出し、速やかに浸漬後の質量を測定する。浸漬により、サンプルは膨潤するので、浸漬前との質量変化を下式のように膨潤率として計算する。
【0077】
膨潤率=((浸漬後の質量)―(浸漬前の質量))/(浸漬前の質量)×100(%)
膨潤率の変化率=(オゾン曝露後の膨潤率)/(オゾン曝露前の膨潤率)×100−100(%)
膨潤率は、架橋密度と相関し、架橋密度が高いほど、膨潤率が小さくなる。オゾン曝露により、分子鎖や、架橋点を切断された場合、オゾン曝露後、サンプルの架橋密度が低下し、オゾン曝露前に比べて、膨潤率が大きくなる。よって、オゾン曝露前後の膨潤率の変化率が小さいものほど、オゾン曝露による分子鎖や、架橋点の切断が生じず、耐オゾン性に優れるということになる。
【0078】
また、浸漬により、溶解するのは、膨潤する場合に比べ、分子鎖や、架橋点の切断の頻度が多いことを示す。
【0079】
(オゾン曝露後の圧縮永久ひずみ試験)
前記の条件で、オゾンを含むガスに曝露したOリング被験サンプルをJIS B2401に準じて架橋Oリングの200℃で5時間の圧縮永久ひずみ(25%圧縮)を測定する。
【0080】
比較例1
実施例1において、架橋剤(B)として(Tetramine AF)の代わりに式:
【化8】

(AFTA−Ph ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンスのポリマー・ケミストリー編、Vol.20、2381〜2393頁(1982)に記載の方法で合成した)0.9質量部を用い、プレス加硫時間を90分間にした以外は、実施例1と同様の方法にて、架橋物を製造し、実施例1と同様にして物性を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
比較例2
製造例2で得られたパーフルオロエラストマーBを用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、架橋物を製造し、実施例1と同様にして物性を測定した。結果を表1に示す。なお、比較例2において圧縮永久歪み(25%圧縮)を測定したところ、サンプルが全て破壊されたため、測定不能であった。
【0082】
比較例3
架橋剤(B)として、AFTA−Phを0.9質量部用いた以外は、比較例2と同様の方法にて、架橋物を製造し、実施例1と同様にして物性を測定した。結果を表1に示す。
【0083】
比較例4
架橋剤(B)として、式:
【化9】

(BAP(東京化成工業(株)製))を0.63質量部用いた以外は、比較例2と同様の方法にて、架橋物を製造し、実施例1と同様にして物性を測定した。結果を表1に示す。
【0084】
比較例5
架橋剤(B)として、式:
【化10】

(3,3’−Diaminobenzidine(Aldrich製))を0.37質量部用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、架橋物を製造し、実施例1と同様にして物性を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)パーフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が20〜37モル%、
(b)ニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を架橋部位として有するモノマー単位の含有量が0.1〜2.5モル%ならびに
(c)テトラフルオロエチレン単位の含有量が61.5〜79.9モル%
であるパーフルオロエラストマー(A)と、
式(1):
【化1】

(式中、Rf1およびRf2は、同じかまたは異なり、いずれも炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、またはパーフルオロオキシアルキル基である)
で示される架橋剤(B)を含む含フッ素エラストマー組成物。
【請求項2】
パーフルオロアルキルビニルエーテル単位(a)がパーフルオロメチルビニルエーテル単位である請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項3】
モノマー単位(b)が、パーフルオロ(8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテン)単位である請求項1または2記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項4】
架橋剤(B)が式(1a):
【化2】

で示される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の含フッ素エラストマー組成物を用いたシール材。

【公開番号】特開2010−37558(P2010−37558A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171026(P2009−171026)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】