説明

含フッ素ブロック共重合体

【課題】フッ素系ポリマーセグメントとビニルアルコール成分を主成分とする親水性ポリマーセグメントとからなるブロック共重合体を提供し、フッ素系ポリマー用乳化剤およびエマルジョン組成物を提供する。
【解決手段】ヨウ素原子を末端に有するフッ素系ポリマーの存在下にビニルエステルモノマーをヨウ素移動重合し、得られたブロック共重合体のビニルエステル成分をケン化することにより、フッ素系ポリマーセグメントとビニルアルコール成分を主成分とする親水性ポリマーセグメントとからなるブロック共重合体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素系ポリマーセグメントとビニルアルコール単位を含むポリマーセグメントからなるブロック共重合体に関する。このブロック共重合体は、フッ素系ポリマーに対する乳化剤として好適に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
フッ素系ポリマーセグメントを有するブロック共重合体に関しては、従来多くの報告がなされている。しかしビニルアルコール単位を含むポリマーセグメントを含有するブロック共重合体については従来知られておらず、したがって水に対する溶解度が高く、フッ素系ポリマーに対する乳化剤として利用することのできるブロック共重合体の出現が望まれている。
【0003】
フッ素系ポリマーセグメントを有するブロック共重合体として、たとえば特許文献1にはカルボン酸末端のフッ素系ポリマーから過酸化物末端フッ素ポリマーを誘導し、該マクロ開始剤を用いて種々のモノマーを重合させる方法が記載されている。しかし該方法ではプロセスが煩雑で経済的でない。また過酸化物末端からの重合は効率が悪いため、多くのホモポリマーが副生してしまうという問題がある。さらにフッ素系ポリマーセグメントとポリビニルアルコールセグメントからなるブロック共重合体に関する記載はない。
【0004】
重合の効率を高めてブロック共重合体の収率を向上させるための方法として、ヨウ素移動重合の利用が考えられる。これはヨウ素化合物を連鎖移動剤とする制御ラジカル重合の一種であり、C−I結合の間にモノマーが挿入される形で反応が進行する。フッ素系ポリマーセグメントからヨウ素移動重合を行った例としては、特許文献2に記載されている重合方法が知られている。しかし該特許文献2において重合されているモノマーは(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、塩化ビニルなど疎水性のもののみであり、水に対する溶解度が低いものしか得られていない。
【0005】
【特許文献1】特開昭47−6193号公報
【特許文献2】特開昭53−86787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フッ素系ポリマーセグメントとビニルアルコール単位を含む親水性ポリマーセグメントとからなるブロック共重合体を提供し、さらにはフッ素系ポリマー用乳化剤およびエマルジョン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、(A)−CF2O−、−CF2CF2O−、−CF2CF2CF2O−、−CF(CF3)CF2O−、−CF2CF2−、−CH2CF2−および−CF(CF3)CF2−よりなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位を含むフッ素系ポリマーセグメント、および
(B)ビニルアルコール単位/ビニルエステル単位をモル比で80/20〜100/0で含むポリマーセグメント
からなるブロック共重合体が、上記課題を解決するための手段となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の好適なブロック共重合体は、(A)−(B)ジブロック構造、または(B)−(A)−(B)トリブロック構造を有するブロック共重合体である。
【0009】
本発明の好適なブロック共重合体としては、フッ素系ポリマーセグメント(A)が、パーフルオロアルキレンオキシド、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体があげられる。
【0010】
また、本発明の好適なブロック共重合体は、フッ素系ポリマーセグメント(A)の数平均分子量が1000〜30000の範囲であるブロック共重合体である。
【0011】
本発明の好適なブロック共重合体は、ポリマーセグメント(B)の構成単位であるビニルアルコール単位とビニルエステル単位のモル比が95:5〜100:0であるブロック共重合体である。
【0012】
本発明の好適なブロック共重合体は、ポリマーセグメント(B)において、ビニルアルコール単位とビニルエステル単位以外のモノマー単位として、ラジカル重合可能なビニル系モノマー単位をビニルアルコール単位に対して0.01〜10モル%含有するものである。
【0013】
本発明の好適なブロック共重合体は、ポリマーセグメント(B)における上記ラジカル重合可能なビニル系モノマー単位が(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、スチレンおよびp−ビニルベンゼンスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー単位であるブロック共重合体である。
【0014】
本発明の好適なブロック共重合体は、ポリマーセグメント(B)の構成単位であるビニルエステル単位が酢酸ビニルであるブロック共重合体である。
【0015】
本発明のブロック共重合体は、好適には
工程1:ヨウ素原子を末端に有するフッ素系ポリマーの存在下に、ビニルエステルモノマー、および必要に応じてラジカル重合可能なビニル系モノマーをヨウ素移動重合させる工程;および
工程2:工程1で得られたブロック共重合体のビニルエステル単位をケン化する工程
を含む製法によって製造される。
【0016】
また本発明は、本発明のブロック共重合体を含有するフッ素系ポリマー用乳化剤に関する。
【0017】
さらに本発明は、フッ素系ポリマー、本発明のフッ素系ポリマー用乳化剤および水を含むエマルジョン組成物にも関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のブロック共重合体を乳化剤あるいは界面活性剤として使用することにより、従来困難であったフッ素系ポリマーのエマルジョン組成物を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明のブロック共重合体は、特定の含フッ素繰返し単位を含むフッ素系ポリマーセグメント(A)と、ビニルアルコールとビニルエステルとを主成分とするポリマーセグメント(B)からなる。ブロック共重合体の構造については特に限定されず、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、マルチブロック共重合体、星型ブロック共重合体、櫛形ブロック共重合体などの形態が可能であるが、乳化剤としての特性に優れる点で(A)−(B)ジブロック構造および(B)−(A)−(B)トリブロック構造が好ましく、(A)−(B)ジブロック構造がより好ましい。
【0021】
本発明のブロック共重合体のフッ素系ポリマーセグメント(A)は、−CF2O−、−CF2CF2O−、−CF2CF2CF2O−、−CF(CF3)CF2O−、−CF2CF2−、−CH2CF2−および−CF(CF3)CF2−よりなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位を含有する。
【0022】
ポリマーセグメント(A)の構造としては、合成が容易である点でパーフルオロポリエーテル、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体が好ましく、たとえば以下のものがより好ましい。
【化1】

(式中、nは10以上の整数、aは1以上の整数、bは1以上の整数を表す)
【0023】
フッ素系ポリマーセグメント(A)の数平均分子量は特に限定されないが、乳化剤として用いる場合の特性に優れる点で1000〜300000の範囲であることが好ましく、1000〜30000の範囲であることがより好ましい。
【0024】
本発明のブロック共重合体のポリマーセグメント(B)は、ビニルアルコール単位を含む構造を有し、さらにビニルエステル単位を含んでいてもよい。ポリマーセグメント(B)は、本発明のブロック共重合体を乳化剤や界面活性剤として使用する場合は親水性部分となるため、ビニルアルコール単位とビニルエステル単位とのモル比は80:20〜100:0である。ビニルアルコール単位とビニルエステル単位のモル比が80:20より小さくなる(ビニルアルコール単位が少なくなる)と、親水性の程度が小さくなり、たとえば乳化能が低下して安定なエマルジョンを形成しにくくなる。乳化剤として用いる場合の特性に優れる点で、ビニルアルコール単位:ビニルエステル単位(モル比)が90:10〜100:0が好ましく、95:5〜100:0がより好ましい。
【0025】
ポリマーセグメント(B)は、ビニルアルコール単位とビニルエステル単位以外のモノマー単位として、ラジカル重合可能なビニル系モノマー単位をビニルアルコール単位に対して0.01〜10モル%含有してもよい。このようなビニル系モノマー単位としては特に限定されないが、入手容易性および安価な点から、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、スチレン、p−ビニルベンゼンスルホン酸が好ましく、ポリマーセグメント(B)の親水性を損なわない点から、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、p−ビニルベンゼンスルホン酸がより好ましい。これらは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
本発明のポリマーセグメント(B)において、ビニルエステル単位は、
【化2】

(式中、Rは水素、炭素数1〜30の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和アルキル基、または炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基を表す。)
で示される化合物から誘導される単位で、たとえば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロパン酸ビニル、オレイン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが使用可能であり、なかでも入手容易性および安価な点から酢酸ビニルが最も好ましい。
【0027】
なお、後述する本発明の製法によれば、ポリマーセグメント(B)におけるビニルアルコール単位は、このビニルエステル単位をケン化することによって形成される。
【0028】
本発明のブロック共重合体は乳化剤として使用することが可能である。乳化特性に優れる点で、水に対する溶解度が25℃、1気圧の条件で1mg/1mL以上であることが好ましく、10mg/1mLであることがより好ましい。
【0029】
本発明のブロック共重合体は、乳化剤(界面活性剤)のほか、親水性ポリマーセグメント(B)の存在を利用して種々の用途に使用可能である。たとえば、フッ素系の材料(たとえばフッ素系ワックスやグリースなど)の除去剤、他材料(ポリマーなど)に添加して他材料の性質を改質するといった改質剤、基材の表面に被覆して表面に新たな特性を付与する表面改質剤などとしての利用が期待できる。具体的には、たとえば親水性の重合体あるいは共重合体(たとえばエチレン−ビニルアルコール共重合体など)に添加することで、対象重合体を変性させ、耐薬品性や耐油性、防汚性などの向上、あるいは選択的ガス透過性を付与することができる。
【0030】
本発明のブロック共重合体の製造方法としては特に限定されないが、簡便さ、コスト、およびホモポリマーの副生が少ない点で、以下の工程を含む製法が好ましい。
工程1:ヨウ素原子を末端に有するフッ素系ポリマーの存在下に、ビニルエステルモノマー、および必要に応じてラジカル重合可能なビニル系モノマーをヨウ素移動重合させる工程;および
工程2:工程1で得られたブロック共重合体のビニルエステル単位をケン化する工程。
【0031】
工程1のヨウ素移動重合については特に制限はなく、周知のヨウ素移動重合においてよく知られる反応条件を適用可能である。すなわち、適当な溶媒中にヨウ素原子を末端に有するフッ素系ポリマーを溶解させ、ラジカル開始剤の存在下に加熱したり光照射したりする方法を採用することができる。ラジカル開始剤としては特に限定されないが、過酸化物、アゾ化合物、ジチオエステル化合物、ビニル化合物、レドックス開始剤など熱や光で分解してラジカルを発生させる化合物を用いる方法が簡便さの点で好ましい。また、ヨウ素原子に代えて臭素などを末端に有するフッ素系ポリマーを用いる重合法も利用できる。工程1で使用するフッ素系ポリマーが、得られるブロック共重合体におけるフッ素系ポリマーセグメント(A)となる。
【0032】
ラジカル開始剤の使用量は、重合を開始させることができれば、特に限定されないが、重合形式を塊状重合とした場合、系中の粘度が高い場合にはラジカル開始剤が拡散しにくく均一に反応しない場合がある。そのため、ラジカル開始剤の使用量は通常のヨウ素移動重合で使用する量より多い場合があり、使用するヨウ素化合物1モルに対して、0.02〜200モルが好ましく、より好ましくは0.05〜200モル、特に好ましくは0.1〜200モルである。また、使用するビニルエステルモノマー1モルに対しては0.00005〜0.5モルが好ましく、より好ましくは0.0001〜0.1モルである。
【0033】
工程2のケン化方法についても特に制限はなく、アルカリケン化法、酸ケン化法のいずれも適用することが可能である。反応操作やケン化度の調整が行いやすいという点から、工程1にて得られたブロック共重合体をメタノールなどのアルコールに溶解または分散させ、硫酸などを添加する加アルコール分解による酸ケン化法が好ましい。
【0034】
ケン化度は、ポリマーセグメント(B)において上述したようなビニルアルコール単位とビニルエステル単位のモル比になるような程度が好ましく、具体的には実施例中に記載のビニルアルコール単位の含有量になるような80〜100%、さらには90〜100%、特に95〜100%であるのが好ましい。
【0035】
本発明のブロック共重合体はフッ素系ポリマーとの親和性が高いフッ素系ポリマーセグメント(A)と親水性の高いビニルアルコール単位含有ポリマーセグメント(B)を併せもつことから、フッ素系ポリマー用の乳化剤として使用することができる。
【0036】
フッ素系ポリマーは特に限定されないが、たとえばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、直鎖または分岐のパーフルオロアルキレンオキシドなどのパーフルオロポリエーテルなどをあげることができる。
【0037】
本発明のブロック共重合体をフッ素系ポリマーおよび水と混合することにより、フッ素系ポリマーのエマルジョン組成物を得ることができる。本発明のブロック共重合体は高分子量タイプの乳化剤として作用するため、本発明のエマルジョン組成物は、従来知られている低分子量タイプの乳化剤と比較してエマルジョンの安定性に優れる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明を製造例、実施例に基づいて説明するが、本発明はそれらのみに限定されるものではない。
【0039】
なお、以下の実施例にて採用した測定法はつぎのとおりである。
【0040】
(ポリマーの分子量および分子量分布)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で測定する。
GPC:東ソー製 HLC8120
カラム:東ソー製 TSKgel Super H5000、H4000、H3000
溶媒:THF
流速:0.6mL/min
検出器:RI
【0041】
(ケン化度)
1H−NMRにより、ケン化前後での2.1ppm付近のアセチル基(CH3C(=O)O−)由来のプロトンの積分値と、0.8〜1.8ppmの主鎖メチレン基(−CH2−CH−)由来のプロトンの積分値を定量することによりケン化度を測定する。
1H−NMR:Varian社製のGEMINI−300
【0042】
製造例1(片末端にヨウ素原子を有するパーフルオロポリアルキレンオキシドの製造)
F(CF2CF2CF2O)nCF2CF2COOH(nの平均=23)180g(0.0446モル)に水酸化カリウム水溶液80mL(水酸化カリウムを4.87g含む)をヘキサフルオロテトラクロロブタン100mLの存在下、攪拌しながら加えて、カリウム塩とした。合成したカリウム塩を100℃真空下で乾燥し粒状にしたあと、このカリウム塩180g(0.044モル)をヘキサフルオロテトラクロロブタン600mLで窒素気流下分散させ、ヨウ素を100g(0.394モル)加えた。そして、この混合物を200℃に加熱し、1.5時間保持して末端のヨウ素化を行った。反応前カリウム塩は粒状固体であったのに対して、反応生成物は白濁したオイルであった。白濁したオイルをヘキサフルオロテトラクロロブタンに溶解させ−20℃で静置しておくと、白濁物は下に沈み透明な上澄み液から沈澱物をろ別し、ヘキサフルオロテトラクロロブタンを留去して透明なF(CF2CF2CF2O)nCF2CF2I(nの平均=23)160gを得た。
【0043】
製造例2(片末端にヨウ素原子を有するフッ素ゴムの水性分散体の製造)
35kgの水を収容できる耐圧反応槽に脱ミネラル純水15kg、パーフルオロオクタン酸アンモニウム0.075kgを入れ、撹拌下に内部空間をヘキサフルオロプロピレンで充分置換後、45/55のモル比のフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン混合モノマーを80℃において12kg/cm2Gに加圧し、同時にパーフルオロイソプロピルアイオダイド0.024kgを圧入した。しかるのち、過硫酸アンモニウム 0.01kgを0.05kgの純水に溶解して圧入した。重合反応は直ちに始まり、圧力の低下が起るため、79/21のモル比のフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン混合モノマーガスにて補充する方法で圧力を保持しながら反応を継続した。5時間後、放圧し、反応を終えた。内容物は白色水性分散体でポリマーの濃度は13質量%、これを氷結して凝析後水洗して得られるものはヘキサフルオロプロピレン含有量20モル%でヨウ素含有量は0.38質量%であった。
【0044】
実施例1
窒素雰囲気下、脱酸素処理した酢酸ビニル9.3mL、製造例1にて合成したF(CF2CF2CF2O)nCF2CF2I(nの平均=23)のヨウ素末端パーフルオロポリエーテル3.87gおよびアゾビスイソブチロニトリル0.05gを内容量50mLのステンレス製オートクレーブ反応器に加え、スターラーチップにて攪拌した。その後、反応器を90℃に設定したオイルバスに浸漬し、2時間加熱攪拌した。反応終了後、未反応の酢酸ビニルを減圧乾燥機にて留去し、10.9gのブロック共重合体を得た。モノマーの転化率は82%であり、得られたブロック共重合体の数平均分子量はMn=19100(Mw/Mn=2.13)であった。
【0045】
ついで、得られたブロック共重合体をメタノールに溶解して10質量%溶液とし、ブロック共重合体溶液と同量の2質量%硫酸−メタノール溶液を加え、還流下にて攪拌しケン化反応を行ったところ、1時間で、反応溶液はほぼ透明になり、このときのケン化度は1H−NMRにより90%であった。引き続き2時間、攪拌・反応を続け、目的生成物を白色沈澱として得た。沈殿物を濾別し、メタノールにてソックスレー抽出を行い、減圧乾燥機にてメタノールを留去することにより、7.3gのポリビニルアルコール/パーフルオロポリアルキレンオキシドのブロック共重合体を得た。1H−NMRによりケン化度は100%であった。
【0046】
実施例2
窒素雰囲気下、脱酸素処理した酢酸ビニル9.3mL、ICF2CH2−[(フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体]−CH2CF2I(数平均分子量Mn=1480)のヨウ素両末端フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体0.74gおよびアゾビスイソブチロニトリル0.05gを内容量50mLのステンレス製オートクレーブ反応器に加え、スターラーチップにて攪拌した。その後、反応器を90℃に設定したオイルバスに浸漬し、2時間加熱攪拌した。反応終了後、未反応の酢酸ビニルを減圧乾燥機にて留去し、5.93gのブロック共重合体を得た。モノマーの転化率は60%であり、得られたブロック共重合体の数平均分子量はMn=8100(Mw/Mn=2.45)であった。
【0047】
ついで、得られたブロック共重合体をメタノールに分散して10質量%溶液とし、ブロック共重合体溶液と同量の2質量%硫酸−メタノール溶液を加え、還流下にて3時間攪拌しケン化反応を行った。反応後、エバポレーターによりメタノールを留去し、固形物をメタノールにてソックスレー抽出を行い、減圧乾燥機にてメタノールを留去することにより、3.38gのポリビニルアルコール/[(フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)]のブロック共重合体を得た。1H−NMRによりケン化度は100%であった。
【0048】
実施例3
窒素雰囲気下、脱酸素処理した酢酸ビニル18.5mL、ICH2CF2−[VDF/HFP]−CF2CH2I(ダイキン工業(株)製G−801:数平均分子量Mn=120000)のヨウ素両末端フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体1.4gおよびアゾビスイソブチロニトリル0.066gを内容量50mLのステンレス製オートクレーブ反応器に加え、スターラーチップにて攪拌した。その後、反応器を90℃に設定したオイルバスに浸漬し、2時間加熱攪拌した。反応終了後、未反応の酢酸ビニルを減圧乾燥機にて留去し、15.1gのブロック共重合体を得た。モノマーの総転化率は80%であり、得られたブロック共重合体の数平均分子量はMn=50000(Mw/Mn=7.41)であった。しかし、得られたポリマーには酢酸ビニルのホモポリマーを含有しているため、精製の操作を行った。精製操作は、アセトンに溶解後、メタノールに再沈澱することを3回繰返し、減圧乾燥機にて乾燥することによりゴム状固体の数平均分子量Mn=544000(Mw/Mn=1.92)のポリ酢酸ビニル/[(フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)]のブロック共重合体を得た。
【0049】
ついで、得られたポリマーをメタノールに分散して10質量%溶液とし、ポリマー溶液と同量の2質量%硫酸−メタノール溶液を加え、還流下にて3時間攪拌しケン化反応を行った。反応後、エバポレーターによりメタノールを留去し、固形物をメタノールにてソックスレー抽出を行い、減圧乾燥機にてメタノールを留去することにより、ポリビニルアルコール/[(フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)]のブロック共重合体を得た。1H−NMRによりケン化度は100%であった。
【0050】
実施例4
有効容積1Lの密閉ガラス反応槽に上記製造例2で得られたヨウ素末端のフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体のディスパージョン100mLと純水200mLを入れ、純窒素ガスで充分置換後、0.5Kg/cm2Gの同ガス加圧下に95℃で40分間熱処理し、70℃に設定してから撹拌下に酢酸ビニル10mLを注入し、続いて過硫酸アンモニウム20mgを純水20mLに溶解して圧入した。重合の進行は浮遊分散している酢酸ビニルが徐々に消滅して行くことで検知され、同時に水性分散体の白色度が増加して行くのが見られた。3時間後に酢酸ビニルはほぼ消費されたが、さらに5時間放置したのち急冷して重合を終了した。氷結により凝析、さらに水洗、40℃で真空乾燥してブロック共重合体を粉末状で得た。70℃で乾燥すると固い塊状物となった。このブロック共重合体は酢酸ビニルのポリマーセグメントを37質量%含有しており、両ポリマーセグメントを共に溶解する溶剤にはもちろん溶解するが、ポリ酢酸ビニルを溶解するがフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は溶解しない溶剤、たとえばクロロホルム、トルエンなどにも溶解し、均一な溶液を形成することができた。
【0051】
ついで、得られたブロック共重合体をメタノールに分散して10質量%溶液とし、ブロック共重合体溶液と同量の2質量%硫酸−メタノール溶液を加え、還流下にて3時間攪拌しケン化反応を行った。反応後、エバポレーターによりメタノールを留去し、固形物をメタノールにてソックスレー抽出を行い、減圧乾燥機にてメタノールを留去することにより、ポリビニルアルコール/[(フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)]のブロック共重合体を得た。1H−NMRによりケン化度は100%であった。
【0052】
実施例5
実施例1で得られたブロック共重合体1質量部、および水89質量部をサンプル管に入れ、軽く振り混ぜ、溶解させた。そのサンプル管に、デムナム(登録商標)グリースL200(パーフルオロポリエーテル油、ダイキン工業(株)製)10質量部を塗布した銅板を入れてから、ボールミル架台に載せ、50rpmで30分間回転させた。銅板を取り出したところ、デムナム(登録商標)グリースは除去され、溶液は乳化していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)−CF2O−、−CF2CF2O−、−CF2CF2CF2O−、−CF(CF3)CF2O−、−CF2CF2−、−CH2CF2−および−CF(CF3)CF2−よりなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位を含むフッ素系ポリマーセグメント、および
(B)ビニルアルコール単位/ビニルエステル単位をモル比で80/20〜100/0で含むポリマーセグメント
からなるブロック共重合体。
【請求項2】
セグメント(A)−セグメント(B)のジブロック構造、またはセグメント(B)−セグメント(A)−セグメント(B)のトリブロック構造である請求項1記載のブロック共重合体。
【請求項3】
フッ素系ポリマーセグメント(A)が、パーフルオロポリエーテルまたはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体である請求項1または2記載のブロック共重合体。
【請求項4】
フッ素系ポリマーセグメント(A)の数平均分子量が1000〜300000の範囲である請求項1〜3のいずれかに記載のブロック共重合体。
【請求項5】
ポリマーセグメント(B)の構成単位であるビニルアルコール単位とビニルエステル単位のモル比が95:5〜100:0である請求項1〜4のいずれかに記載のブロック共重合体。
【請求項6】
ポリマーセグメント(B)において、ビニルアルコール単位とビニルエステル単位以外のモノマー単位として、ラジカル重合可能なビニル系モノマー単位をビニルアルコール単位に対して0.01〜10モル%含有する請求項1〜5のいずれかに記載のブロック共重合体。
【請求項7】
ポリマーセグメント(B)において、ラジカル重合可能なビニル系モノマー単位が(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、スチレンおよびp−ビニルベンゼンスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー単位である請求項6記載のブロック共重合体。
【請求項8】
ポリマーセグメント(B)の構成単位であるビニルエステル単位が酢酸ビニルである請求項1〜7のいずれかに記載のブロック共重合体。
【請求項9】
工程1:ヨウ素原子を末端に有するフッ素系ポリマーの存在下に、ビニルエステルモノマー、および必要に応じてラジカル重合可能なビニル系モノマーをヨウ素移動重合させる工程;および
工程2:工程1で得られたブロック共重合体のビニルエステル単位をケン化する工程
を含む製法によって製造される請求項1〜8のいずれかに記載のブロック共重合体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のブロック共重合体を含有するフッ素系ポリマー用乳化剤。
【請求項11】
フッ素系ポリマー、請求項10記載のフッ素系ポリマー用乳化剤および水を含むエマルジョン組成物。

【公開番号】特開2009−256455(P2009−256455A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106637(P2008−106637)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】