説明

含フッ素ポリマーの製造方法

【課題】生産性に優れ、安定な含フッ素ポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】水性媒体中において含フッ素モノマーをラジカル重合して含フッ素ポリマーを製造する方法であって、前記ラジカル重合は、下記一般式(I)CX=CFCF−O−(CF(CF)CFO)−CF(CF)−Y(I)(式中、各Xは、同一であり、F又はHを表す。nは、0又は1〜10の整数を表し、Yは、−SOM又は−COOMを表し、Mは、H、NH又はアルカリ金属を表す。)で表される含フッ素アリルエーテル化合物(1)、及び、炭素数が7以下の含フッ素アニオン性界面活性剤(2)(但し、上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)を除く)の存在下で行われることを特徴とする含フッ素ポリマー製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ポリマーを得るための水性媒体中における乳化重合において、F(CFCOONHやF(CFCOONH等の長鎖のフルオロアルキル基を含有する含フッ素界面活性剤が乳化剤として主に用いられている。これらの乳化剤は、界面活性能力が高いが、水への溶解度が小さいため洗浄が困難であり、得られる含フッ素ポリマー中に残存するものであった。含フッ素界面活性剤が含フッ素ポリマーに残存することは成形時の発泡・着色の問題につながる。
【0003】
このような問題を解決することを目的として、上述のような長鎖のフルオロアルキル基を含有する界面活性剤を用いず、分子中にラジカル重合性不飽和結合と親水基とを有する化合物を乳化剤として用い、水性媒体中で含フッ素ポリマーを重合する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2及び3参照。)。
分子中にラジカル重合性不飽和結合と親水基とを有する化合物として、特定の末端基を有する化合物も提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
これらの方法は、分子中にラジカル重合性不飽和結合と親水基とを有する化合物が含フッ素ポリマーに共重合されるため、この化合物が低分子量のまま含フッ素ポリマー中に残存する問題を防ぐことができる。
【0004】
しかしながら、分子中にラジカル重合性不飽和結合と親水基とを有する化合物を乳化剤として用いた重合で得られるエマルションは、該化合物の含有量が含フッ素ポリマーとの共重合に伴い低下しているので、一般に不安定である。この傾向は、パーハロポリマーを製造する場合において顕著であり、分子中にラジカル重合性不飽和結合と親水基とを有する化合物を用いた方法では、生産性良くパーハロポリマーを製造することは困難であった。
【0005】
特許文献5では、テトラフルオロエチレンの重合反応の進行に伴い、含フッ素ビニル基含有乳化剤を追加添加することで、ポリマー濃度の高いエマルションを得ているが、製造方法が複雑であり、生産性の上で満足しうるものではなかった。
【0006】
また、特許文献6では、水性媒体中において、CF=CF−O−CF−CF(CF)−O−CFCF−COONaと、F(CFCOONHとの存在下でラジカル重合を行い、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体を製造したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−029519号公報
【特許文献2】特開昭59−196308号公報
【特許文献3】特開平08−067795号公報
【特許文献4】国際公開第04/018527号パンフレット
【特許文献5】国際公開第05/037880号パンフレット
【特許文献6】国際公開第08/001894号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、生産性に優れ、安定な含フッ素ポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水性媒体中において含フッ素モノマーをラジカル重合して含フッ素ポリマーを製造する方法であって、
前記ラジカル重合は、下記一般式(I)
CX=CFCF−O−(CF(CF)CFO)−CF(CF)−Y (I)
(式中、各Xは、同一であり、F又はHを表す。nは、0又は1〜10の整数を表し、Yは、−SOM又は−COOMを表し、Mは、H、NH又はアルカリ金属を表す。)で表される含フッ素アリルエーテル化合物(1)、及び、炭素数が7以下の含フッ素アニオン性界面活性剤(2)(但し、上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)を除く)の存在下で行われることを特徴とする含フッ素ポリマー製造方法である。
【0010】
本発明は、上記本発明の含フッ素ポリマー製造方法により得られることを特徴とする含フッ素ポリマーでもある。
本発明は、含フッ素ポリマーを含む電線被覆材でもある。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の含フッ素ポリマー製造方法は、水性媒体中において含フッ素モノマーをラジカル重合して含フッ素ポリマーを製造する方法である。
【0012】
上記含フッ素モノマーとしては、炭素に直接結合している原子としてフッ素原子を含むものであれば、特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、フッ化ビニリデン、加水分解性の官能基を含む含フッ素モノマーが挙げられる。
本発明において、上記含フッ素モノマーは1種のみ使用するものであってもよいし、2種以上使用するものであってもよい。
【0013】
上記PAVEとしては、下記一般式(O)の構造を有するものが好ましい。
CF=CF−O−(CFCFXO)−(CF−CF (O)
(ここで、XはCF又はFを表す。aは0〜3、bは0〜7が好ましい。)
特に、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、CF=CF−O−(CFCFXO)−(CF−CF(ここで、Xは上記と同じ。)が好ましい。
【0014】
本発明における含フッ素ポリマーは、含フッ素モノマーに加え、フッ素非含有エチレン性単量体をもラジカル重合して得られるものであってもよい。
上記フッ素非含有エチレン性単量体は、耐熱性や耐薬品性等を維持する点で、炭素数5以下のエチレン性単量体から選ばれることが好ましい。該単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデンが挙げられる。
【0015】
本発明における含フッ素ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕等の非溶融加工性のポリマー;TFE/HFP共重合体〔FEP〕、TFE/PAVE共重合体、TFE/CTFE/PAVE共重合体、Et/TFE共重合体〔ETFE〕、Et/HFP/TFE共重合体〔EFEP〕、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、TFEと加水分解性の官能基を含有する単量体との共重合体等の溶融加工可能なポリマー等が挙げられる。
【0016】
本明細書において、上記PTFEは、TFE単独重合体のみならず、変性ポリテトラフルオロエチレン〔変性PTFE〕をも含む概念である。
本明細書において、上記「変性PTFE」とは、TFEと、TFE以外の微量単量体との共重合体であって、非溶融加工性であるものを意味する。
上記微量単量体としては、例えば、HFP、PAVE等のフルオロオレフィン;パーフルオロアルキルエチレン;ω−ヒドロパーフルオロオレフィン等が挙げられる。
変性PTFEにおいて、上記微量単量体に由来する微量単量体単位の全単量体単位に占める含有率は、通常0.001〜2モル%の範囲である。
【0017】
上記PTFEは、数平均分子量が100万〜1000万であることが好ましい。上記数平均分子量は、ASTM D 4895に準拠して、標準比重〔SSG〕から算出した値である。
本明細書において、「全単量体単位に占める微量単量体単位の含有率(モル%)」とは、上記「全単量体単位」が由来する単量体、即ち、含フッ素ポリマーを構成することとなった単量体全量に占める、上記微量単量体単位が由来する微量単量体のモル分率(モル%)を意味する。
【0018】
上記TFE/HFP共重合体は、HFPの含有率が8〜20モル%であることが好ましい。
上記TFE/PAVE共重合体は、PAVEの含有量が1〜10モル%であることが好ましい。
上記TFE/PAVE共重合体としては、TFE/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕共重合体〔MFA〕、TFE/パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕共重合体、TFE/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕共重合体等が挙げられる。
【0019】
これら溶融加工可能なポリマーは、メルトフローレート(MFR)が0.1〜100(g/10分)であることが好ましい。
上記MFRは、ASTM D 1238に準拠して、荷重5kgにて測定する値である。
【0020】
上記含フッ素ポリマーの平均粒子径は、通常50〜500nmであり、好ましくは、60〜350nmである。
上記平均粒子径は、含フッ素ポリマー濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均粒子径との検量線をもとにして、上記透過率から決定したものである。
【0021】
本発明における含フッ素ポリマーは、分散液、粉末等、何れの形態であってもよい。
【0022】
上記水性媒体は、水を含む液体であれば特に限定されず、水に加え、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、パラフィンワックス等のフッ素非含有有機溶媒及び/又はフッ素含有有機溶媒をも含むものであってもよい。
【0023】
本発明の含フッ素ポリマー製造方法において、ラジカル重合は、下記一般式(I)
CX=CFCF−O−(CF(CF)CFO)−CF(CF)−Y (I)
(式中、各Xは、同一であり、F又はHを表す。nは、0又は1〜10の整数を表し、Yは、−SOM又は−COOMを表し、Mは、H、NH又はアルカリ金属を表す。)で表される含フッ素アリルエーテル化合物(1)(以下、単に「含フッ素アリルエーテル化合物(1)」と記載することもある)、及び、炭素数が7以下の含フッ素アニオン性界面活性剤(2)(但し、上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)を除く)(以下、単に「含フッ素アニオン性界面活性剤(2)」と記載することもある。)の存在下で行うものである。
【0024】
本発明者らの検討によれば、水性媒体中での含フッ素モノマーの重合は、主として界面活性剤によって水性媒体中に分散した含フッ素オリゴマーからなる乳化粒子の周辺で起こると考えられる。上記含フッ素オリゴマーは、重合初期に含フッ素モノマーとラジカル種との反応により形成するものであり、この乳化粒子の数が水性媒体中に多いほど、重合反応は速やかに進行し、エマルションも安定になる傾向がある。一般に、乳化粒子の数は重合反応の初期に決定されると考えられ、界面活性剤はその多寡に対して多大な影響を有していると考えられる。
【0025】
上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)を使用した含フッ素モノマーの重合においては、該含フッ素アリルエーテル化合物(1)が、乳化粒子の形成や分散安定性等、重合初期の過程で重要な役割を果たす。しかしながら、含フッ素アリルエーテル化合物(1)は、重合初期の過程で、その殆どが消費されてしまうため、形成される含フッ素ポリマー粒子の安定性は重合が進行するにつれて低下する傾向がある。
一方、上記含フッ素アニオン性界面活性剤(2)は、炭素原子の数が上述の範囲内にある含フッ素アニオン性界面活性剤であるので、従来より使用されている長鎖のフルオロアルキル基を有する含フッ素界面活性剤に比べて親水性が強く、単独で用いた場合には、初期誘導を生じさせる機能が低い。そのため、乳化粒子の数が少なくなる傾向がある。その結果、重合速度は遅くなり、エマルション中のポリマー濃度を高くすることも困難であるため、生産性よく含フッ素ポリマーを製造することは困難であった。
しかしながら、本発明者らは、このような傾向を改善するための手段として、単独で使用した場合には充分な効果の得られない含フッ素アリルエーテル化合物(1)と含フッ素アニオン性界面活性剤(2)とを共存させることが、上記含フッ素ポリマーの重合において有効であることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、乳化粒子の形成を容易にし収率を向上させる含フッ素アリルエーテル化合物(1)と、乳化粒子を安定化する能力を有する含フッ素アニオン性界面活性剤(2)とを組み合わせて、上述の両者の欠点を補完しあうことで、生産性良く含フッ素ポリマーを製造できることを見出した。
【0026】
上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)は、下記一般式(I)
CX=CFCF−O−(CF(CF)CFO)−CF(CF)−Y (I)
(式中、各Xは、同一であり、F又はHを表す。nは、0又は1〜10の整数を表し、Yは、−SOM又は−COOMを表し、Mは、H、NH又はアルカリ金属を表す。)で表されるものである。
上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)は、上述の含フッ素モノマーと共重合してポリマー鎖中に取り込まれる特徴がある。更に、上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)に由来する単量体単位を有するポリマーは、一種の乳化作用を示すので、従来の重合方法から得られるポリマーよりも熱的に安定であり、成形時に加えられる熱による揮発・分解に起因する発泡・着色が生じにくい。
【0027】
上記式(I)において、上記nは乳化能の点で0又は1〜5の整数であることが好ましく、0、1又は2の整数であることがより好ましく、0又は1であることが更に好ましい。上記Yは、適度な水溶性と界面活性が得られる点で−COOMであることが好ましく、上記Mは、不純物として残留しにくく、得られた成形体の耐熱性が向上する点で、H又はNHであることが好ましい。
【0028】
上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)としては、例えば、下記式
【0029】
【化1】

【0030】
で表される化合物が好ましく、下記式(II)
CH=CFCF−O−(CF(CF)CFO)−CF(CF)−COONH (II)
で表される含フッ素アリルエーテル化合物が特に好ましい。
【0031】
本発明におけるラジカル重合は、上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)に加え、炭素数が7以下である含フッ素アニオン性界面活性剤(2)(但し、含フッ素アリルエーテル化合物(1)を除く)の存在下で行うものである。
上記含フッ素アニオン性界面活性剤(2)としては、以下の化合物が挙げられる。
【0032】
含フッ素アニオン性界面活性剤(2)としては、一般式(III)
Rf−Y (III)
(式中、Rfは2価の酸素原子が挿入されていてもよい炭素数2〜6の直鎖又は分岐のフルオロアルキル基を表し、Yは、−COOM、−SO、−SONM又は−POを表す。上記M、M、M、M、M及びMは、同一又は異なって、H又は一価カチオンを表す。)
で表される含フッ素アニオン性界面活性剤が好ましい。
上記一価カチオンとしては、例えば、−Na、−K、−NH等が挙げられる。
【0033】
一般式(III)におけるYとしては、−COOH、−COONa又は−COONHが好ましく、−COONHがより好ましい。
【0034】
含フッ素アニオン性界面活性剤(2)としては、一般式(IV)
CF−(CFn1−Y (IV)
(式中、n1は1〜5の整数を表し、Yは上記と同じ。)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤、一般式(V)
RfO−RfO−Rf−Y (V)
(式中、Rfは炭素数1〜3のフルオロアルキル基を表し、Rf及びRfはそれぞれ独立に直鎖又は分岐の炭素数1〜3のフルオロアルキレン基を表し、Rf、Rf及びRfは炭素数が合計で6以下である。Yは上記と同じ。)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0035】
一般式(IV)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤としては、例えば、CF(CFCOONH、CF(CFCOONH、CF(CFCOONH、CF(CFSONa、CF(CFSONH等が挙げられる。
【0036】
一般式(V)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤としては、例えば、一般式
CFO−CF(CF)CFO−CX(CF)−Y
(式中、XはH又はFを表し、Yは上記と同じ。)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤、一般式
CFO−CFCFCFO−CFXCF−Y
(式中、XはH又はFを表し、Yは上記と同じ。)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤、一般式
CFCFO−CFCFO−CFX−Y
(式中、XはH又はFを表し、Yは上記と同じ。)で表される含フッ素アニオン性界面活性剤等が挙げられる。
上記ラジカル重合は、上記含フッ素アニオン性界面活性剤(2)を1種存在させるものであってもよいし、2種以上存在させるものであってもよい。
【0037】
上記ラジカル重合は、上記含フッ素モノマー、上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)、及び、上記含フッ素アニオン性界面活性剤(2)に加え、所望により、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を水性媒体に添加して行ってもよい。
【0038】
上記ラジカル重合開始剤としては、水溶性無機化合物又は水溶性有機化合物のパーオキシド、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩やビスコハク酸パーオキシド、ビスグルタル酸パーオキシドが一般的であり、これらは1種のみ用いるものであってもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。低温域の重合ではレドックス系の開始剤を用いることが好ましい。更に、ディスパージョンの安定性を損なわない範囲で、水不溶性の有機過酸化物やアゾ化合物の何れか又は両方を、単独又は水溶性無機化合物又は水溶性有機化合物のパーオキシドとともに使用することもできる。
【0039】
上記連鎖移動剤は、炭素数1〜6の飽和炭化水素又は炭素数1〜4のアルコール、炭素数4〜8のカルボン酸エステル化合物、炭素数1〜2の塩素置換炭化水素、炭素数3〜5のケトン、及び/又は、炭素数10〜12のメルカプタンであることが好ましい。
上記連鎖移動剤は、重合媒体中への分散性、連鎖移動性、目的の製品からの除去性の点で、エタン、イソペンタン、メタノール、イソプロパノール、アセトン、及び、酢酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0040】
上記ラジカル重合は、更に、pH調整剤、ラジカル捕捉剤等の添加剤等を適宜添加して行うものであってもよい。
上記pH調整剤及びラジカル捕捉剤は、それぞれ、従来公知のものを使用することができる。
【0041】
本発明において、上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)は水性媒体の1〜300ppmに相当する量添加することが好ましい。
上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)は、水性媒体の1ppmに相当する量よりも少ないと、重合初期での乳化粒子の生成数が少なくなり重合速度が遅くなるため、生産効率が悪くなることがあり、水性媒体の300ppmに相当する量よりも多いと、重合開始までの誘導期間が極端に長くなり生産効率が悪くなることがあるので、好ましくない。
上記含フッ素アリルエーテル化合物(1)の添加量は、より好ましくは水性媒体の5ppmに相当する量以上、200ppmに相当する量以下であり、更に好ましくは水性媒体の10ppmに相当する量以上、水性媒体の100ppmに相当する量以下である。
【0042】
上記ラジカル重合において、上記含フッ素アニオン性界面活性剤(2)は、水性媒体の200〜2000ppmに相当する量添加することが好ましい。
水性媒体の200ppmに相当する量よりも少ないと、エマルションの安定化効果が得られない場合があり、2000ppmに相当する量よりも多いと、後処理工程が困難になる場合がある。
上記ラジカル重合開始前における含フッ素アニオン性界面活性剤(2)の濃度は、より好ましくは水性媒体の300ppmに相当する量以上、1500ppmに相当する量以下であり、更に好ましくは水性媒体の400ppmに相当する量以上、水性媒体の1200ppmに相当する量以下である。
【0043】
上記含フッ素アニオン性界面活性剤(2)は、ラジカル重合を行う前に予め全て添加されていてもよいし、重合中に適宜追加する方法でもよい。操作が簡便になる点で、ラジカル重合開始前に予め添加されていることが好ましい。
本発明において、重合終了時点でポリマー濃度が高いエマルションが得られる点で、水性媒体の5〜300ppmに相当する量の含フッ素アリルエーテル化合物(1)と、水性媒体の200〜2000ppmに相当する量の含フッ素アニオン性界面活性剤(2)とを水性媒体に添加することが好ましい。
【0044】
上記ラジカル重合開始剤の添加量は、製造する含フッ素ポリマーの組成及び収量、上記含フッ素モノマー、含フッ素アリルエーテル化合物(1)及び含フッ素アニオン性界面活性剤(2)の使用量等に応じて、適宜設定することができる。上記ラジカル重合開始剤は、得られる含フッ素ポリマーの合計量100質量部に対し0.0001〜3.0質量部の量を添加することが好ましく、0.005〜0.3質量部の量を添加することがより好ましい。
【0045】
上記連鎖移動剤の添加量は、含フッ素モノマーと含フッ素アリルエーテル化合物(1)との合計添加量100質量部に対し0〜5質量部の量を添加することが好ましい。上記連鎖移動剤は、上記合計添加量100質量部に対し、より好ましくは0.0005質量部以上、更に好ましくは0.001質量部以上の量添加し、また、上記合計添加量100質量部に対し、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下の量添加することができる。
【0046】
上記ラジカル重合は、回分操作、半回分操作及び連続操作の何れの操作でも実施でき、公知の重合方法が適用できる。
上記ラジカル重合において、含フッ素モノマー、含フッ素アリルエーテル化合物(1)及び上記含フッ素アニオン性界面活性剤(2)、並びに、所望により添加する連鎖移動剤、重合開始剤等の添加剤は、重合反応の間、所望の含フッ素ポリマーの組成や収量に応じ、適宜追加することができる。
【0047】
上記ラジカル重合は、10〜120℃の範囲の温度に維持して行うことが好ましい。
上記温度が10℃未満である場合、工業スケールにおいて有効な大きさの反応速度にすることができないことがあり、120℃を超える場合、重合反応を維持する為に必要な反応圧力が高くなり、反応を維持することができなくなることがある。
【0048】
上記ラジカル重合は、0.2〜5.0MPaの範囲の圧力に維持して行うことが好ましい。上記圧力は、0.2MPa未満である場合、重合反応系における含フッ素モノマー及び含フッ素アリルエーテル化合物(1)の各濃度が低くなり過ぎて、満足する反応速度にすることができず、生産性が悪くなることがあり、5.0MPaを超える場合、耐圧の高い反応装置が必要になり、設備費用が高くなる場合がある。
上記圧力は、好ましい下限が0.4MPaであり、好ましい上限が4.5MPaである。
上記ラジカル重合を半回分操作で行う場合、所望の重合圧力は、初期供給時の含フッ素モノマーガスの量を調整することにより重合初期に達成することができ、反応開始後は、含フッ素モノマーガスの追加供給量を調整することにより圧力を調整することができる。
上記ラジカル重合を連続操作で行う場合、所望の重合圧力は、得られるエマルションの流出管の背圧を調整することにより圧力を調整する。
上記ラジカル重合は、一般に0.5〜100時間行う。
【0049】
上記ラジカル重合により、含フッ素ポリマー粒子が水性媒体に分散してなるエマルションを得ることができる。
上記エマルションは、長鎖の含フッ素アルキル基を有する従来の界面活性剤を含有しないので、ポリマー成形における発泡、着色等、上記界面活性剤に起因する問題がなく、容易に精製することができる。
上記含フッ素ポリマー粒子は、含フッ素アリルエーテル化合物(1)に由来する単量体単位を含むので、分散性に優れており、従来の界面活性剤を含有しない水性媒体でも安定に分散させることができる。
【0050】
本発明の含フッ素ポリマー製造方法は、上述のラジカル重合終了時点で含フッ素ポリマー濃度が20質量%以上であるエマルションを得ることができる。
上記エマルションにおける含フッ素ポリマー濃度は、好ましくは22質量%以上、より好ましくは25質量%以上であり、上記範囲内であれば60質量%以下であってもよい。
本明細書において、含フッ素ポリマー濃度(P)は、試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃、1時間で乾燥した後、更に300℃、1時間乾燥して得られる加熱残分(Z)に基づき、式:P=Z/X×100(%)にて決定したものである。
【0051】
本発明の含フッ素ポリマー製造方法は、上記ラジカル重合を含むものであれば、上記ラジカル重合後に濃縮、希釈、精製等の後処理工程を含むのもであってもよいし、凝析等を行い粉末に加工する工程を含むものであってもよい。
上記後処理工程及び粉末に加工する工程における操作並びにその条件は、特に限定されず、従来公知の方法を行うことができる。
【0052】
本発明の含フッ素ポリマー製造方法は、含フッ素ポリマーが有する不安定基をフッ素化により安定化する工程を含むものであってもよい。
得られる含フッ素ポリマーを半導体製造装置の部材等、高度な安定性が要求される用途に使用する場合には、含フッ素ポリマー主鎖末端及び含フッ素アリルエーテル化合物(1)に由来する親水基(Y)が、−COOH、−COF、−CF=CF等の不安定基になり、性能を悪化させることがあるので、本工程を行うことが好ましい。本安定化を行うことにより、得られる含フッ素ポリマーの成形における発泡、着色等の問題を防止することができる。また、特に電線被覆材用途として用いられる場合には、本安定化を用いることにより、電線被覆成形時の成形不良を大幅に低減でき、成形後の電線は耐クラック性に優れる特徴を有する。
上記安定化の方法としては、フッ素ガス等のフッ素化剤と接触させて不安定基を−CF基に変換する方法、不安定末端基をカルボン酸塩に変換した後、脱炭酸反応により−CFH基に変換する方法などがあるが、国際公開第05/028522号パンフレット等に記載のフッ素ガスに接触させる方法が最も簡便であり、好ましい。
【0053】
本発明の含フッ素ポリマー製造方法により得られる含フッ素ポリマーもまた、本発明の一つである。
本発明の含フッ素ポリマーは、上述したように、従来のものより安定な含フッ素ポリマー水性分散液の材料として有用である。
【0054】
上記含フッ素ポリマーは、種々の用途に好適に用いることができる。
例えば、上記フッ素ポリマーは種々の成形品を形成する成形材料としても用いることができる。本発明の含フッ素ポリマーから形成される成形品は、以下の用途等に用いることができる。
フィルム、シート類;食品用フィルム、食品用シート、薬品用フィルム、薬品用シート、ダイヤフラムポンプのダイヤフラムや各種パッキン等。
チューブ、ホース類;自動車燃料用チューブ若しくは自動車燃料用ホース等の燃料用チューブ又は燃料用ホース、溶剤用チューブ又は溶剤用ホース、塗料用チューブ又は塗料用ホース、自動車のラジエーターホース、エアコンホース、ブレーキホース、電線被覆材、飲食物用チューブ又は飲食物用ホース、ガソリンスタンド用地下埋設チューブ若しくはホース、海底油田用チューブ若しくはホース等。
ボトル、容器、タンク類;自動車のラジエータータンク、ガソリンタンク等の燃料用タンク、溶剤用タンク、塗料用タンク、半導体用薬液容器等の薬液容器、飲食物用タンク等。
その他;キャブレターのフランジガスケット、燃料ポンプのOリング等の各種自動車用シール、油圧機器のシール等の各種機械関係シール、ギア等。
【0055】
上記チューブ又はホースは、その途中に波形領域を有するものであってもよい。このような波形領域とは、ホース本体途中の適宜の領域を、波形形状、蛇腹(corrugated)形状、渦巻き(convoluted)形状等に形成したものである。
【0056】
上記含フッ素ポリマーは、中でも、電線被覆材として好適に用いることができる。
すなわち、本発明は、上記含フッ素ポリマーを含む電線被覆材でもある。上記電線被覆材は、従来公知の方法により本発明の含フッ素ポリマーを用いて製造することができる。
【0057】
上記含フッ素ポリマーは、成形材料、インク、化粧品、塗料、グリース、オフィスオートメーション機器用部材、トナーを改質する添加剤、めっき液への添加剤等としても好適に使用することができる。上記成形材料としては、例えば、ポリオキシベンゾイルポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
【0058】
本発明の含フッ素ポリマーは、成形材料の添加剤として、例えば、コピーロールの非粘着性・摺動特性の向上、家具の表層シート、自動車のダッシュボード、家電製品のカバー等のエンジニアリングプラスチック成形品の質感を向上させる用途、軽荷重軸受、歯車、カム、プッシュホンのボタン、映写機、カメラ部品、摺動材等の機械的摩擦を生じる機械部品の滑り性や耐摩耗性を向上させる用途、エンジニアリングプラスチックの加工助剤等として好適に用いることができる。
【0059】
上記含フッ素ポリマーは、塗料の添加剤として、ニスやペンキの滑り性向上の目的に用いることができる。上記含フッ素ポリマーは、化粧品の添加剤として、ファンデーション等の化粧品の滑り性向上等の目的にも用いることができる。
【0060】
上記含フッ素ポリマーは、更に、ワックス等の撥油性又は撥水性を向上させる用途や、グリースやトナーの滑り性を向上させる用途にも使用できる。
【発明の効果】
【0061】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法は、上記構成よりなるものであるので、短時間で効率よく、安定な含フッ素ポリマーを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例及び比較例により限定されるものではない。
各実施例及び比較例における組成物の量は、特に断りがない場合は、質量基準である。
【0063】
1.含フッ素ポリマー濃度(P)
試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃、1時間で乾燥した後、更に300℃、1時間乾燥して得られる加熱残分(Z)に基づき、式:P=Z/X×100(%)にて決定した。
【0064】
2.ポリマー組成
BRUKER社製NMR測定装置を用いて、19F−NMRを測定して求めた。
【0065】
実施例1
攪拌機を備えた内容積3Lのステンレス製オートクレーブに、脱イオン水1767g、含フッ素アリルエーテル化合物(1)としてCH=CFCF−O−(CF(CF)CFO)−CF(CF)−COONHの50%水溶液を0.1767g(脱イオン水量の50ppmに相当する量)を、含フッ素アニオン性界面活性剤(2)としてF(CFCOONHの50%水溶液を3.534g(脱イオン水量の1000ppmに相当する量)を仕込んだ。オートクレーブ内を真空・窒素置換した後、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕を3.5MPaになるように導入し、95℃まで昇温した。引き続き、HFP、TFEを圧力が4.2MPaになるまで導入し、気相部の組成が82/18モル%であることをガスクロマトグラフィーにて確認した。引き続き、重合開始剤として1.0質量%の過硫酸アンモニウム水溶液16gを圧入して重合を開始した。
重合開始剤を圧入した後、15分経った時点で圧力低下が始まるので、重合槽圧力を4.2MPaに保つようにTFE/HFP=88/12モル比の混合ガスを供給して重合を継続した。また、重合速度を維持するため、重合開始時から定常的に1.0質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を圧入し、重合終了時までトータル100gを追加した。重合開始3時間後に攪拌を停止してモノマーガスを放出し、反応を停止させた。その後、室温まで冷却して白色のTFE/HFP共重合体〔FEP〕ディスパージョン(エマルション)2200gを得た。
得られたエマルションの一部を乾燥して固形分濃度を測定したところ、20%であった。
オートクレーブ内には、付着ポリマーは殆ど認められなかった。
【0066】
得られたディスパージョン500gを3倍に希釈し、硝酸を加えて凝析し、スラリーをろ別した。回収したスラリーをガラス製容器に投入し、1Lのイオン交換水を加えて再分散し、ろ別して洗浄した。この洗浄工程をさらに3回繰り返した後のろ液のpHは5であり、酸が充分に除去できたことを確認した。
引き続き100℃で乾燥して100gのポリマーを得た。
このポリマーを固体NMRで分析して組成を調べたところ、TFE88モル%、HFP12モル%のFEPであった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法は、上記構成よりなるものであるので、短時間で効率よく、安定な含フッ素ポリマーを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中において含フッ素モノマーをラジカル重合して含フッ素ポリマーを製造する方法であって、
前記ラジカル重合は、下記一般式(I)
CX=CFCF−O−(CF(CF)CFO)−CF(CF)−Y (I)
(式中、各Xは、同一であり、F又はHを表す。nは、0又は1〜10の整数を表し、Yは、−SOM又は−COOMを表し、Mは、H、NH又はアルカリ金属を表す。)で表される含フッ素アリルエーテル化合物(1)、及び、
炭素数が7以下の含フッ素アニオン性界面活性剤(2)(但し、前記含フッ素アリルエーテル化合物(1)を除く)
の存在下で行われる
ことを特徴とする含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項2】
含フッ素アリルエーテル化合物(1)は、下記式(II)
CH=CFCF−O−(CF(CF)CFO)−CF(CF)−COONH (II)
で表される含フッ素ビニル基含有化合物である請求項1記載の含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項3】
水性媒体の1〜100ppmに相当する量の含フッ素アリルエーテル化合物(1)を添加する請求項1又は2に記載の含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項4】
水性媒体の200〜2000ppmに相当する量の含フッ素アニオン性界面活性剤(2)を添加する請求項1、2又は3に記載の含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項5】
含フッ素ポリマーが有する不安定基をフッ素化により安定化する工程を含む請求項1、2、3又は4に記載の含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5に記載の含フッ素ポリマー製造方法により得られる
ことを特徴とする含フッ素ポリマー。
【請求項7】
請求項6記載の含フッ素ポリマーを含む電線被覆材。

【公開番号】特開2010−235667(P2010−235667A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82330(P2009−82330)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】