説明

含フッ素共重合体の製造方法

【課題】塩素を含まず、オゾン層破壊を引き起こさず、常温で液体であり、製造される含フッ素共重合体の性質及び安定性にほとんど影響を与えない、という特性を有する連鎖移動剤を用いて、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性に優れ、分子量の制御された含フッ素共重合体を効率よく製造する方法の提供。
【解決手段】重合連鎖移動剤の存在下にフッ素モノマーとエチレンとをラジカル重合する含フッ素共重合体の製造方法において、連鎖移動剤として、R−O−R(ここで、Rは炭素原子数3〜6のアルキル基であり、RはCで表わされるポリフルオロアルキル基であり、aは1〜4であり、bは0〜2であり、cは1〜2a+1であり、かつ、b+c=2a+1である。)で表されるヒドロフルオロアルキルエーテルを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素共重合体の中で、特に、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(以下、ETFEと記す。)及びエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(以下、ECTFEと記す。)は、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、機械特性等に優れる機能材料として種々の産業分野で用いられる。
【0003】
一般に、含フッ素共重合体の製造には、その分子量を制御する目的で連鎖移動剤が使用される。連鎖移動剤は、その分子中に炭素原子−水素原子結合等の結合エネルギーの小さな結合を有し、水素原子等が成長するポリマー鎖ラジカルに引き抜かれ易い。そのため、ポリマー鎖の成長反応を停止させる性質を有する。そして、水素原子等の引き抜きによって、ラジカルを生じた連鎖移動剤が、モノマーであるフルオロオレフィン等と反応することにより新しくモノマーの重合を開始し、新規のポリマー鎖の成長反応が進行する。このような反応の結果、連鎖移動剤は末端基としてポリマー鎖に結合し、ポリマーの性質及び安定性に影響を与えることから、その選択は重要な課題となっている。
【0004】
これまで含フッ素共重合体の製造に用いられる連鎖移動剤としては、ヒドロカーボン(以下、HCと記す。)、ヒドロクロロカーボン(以下、HCCと記す。)、ヒドロクロロフルオロカーボン(以下、HCFCと記す。)などが知られている。しかし、HCを用いると、生成した含フッ素共重合体の熱安定性が充分でない場合がある。また、HCCやHCFCは、塩素原子を含有することから、オゾン破壊係数が高く、また燃焼によりダイオキシン等を発生する可能性があり、環境及び健康面に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
連鎖移動剤の特性としては、塩素原子を含まないこと、オゾン層破壊を引き起こさないこと、含フッ素共重合体の性質及び安定性にほとんど影響を与えないことが好ましい。さらに、室温で液体であることが、取り扱い性に優れるので好ましい。室温で気体又は蒸気圧が高い連鎖移動剤は、モノマーのリサイクル時にモノマーに混入しやすく、リサイクルプロセスにおける操作が煩雑になる可能性がある。
【0006】
このような特性を満たす連鎖移動剤として、CHOCFCFH等の化合物が報告された(特許文献1を参照。)。特許文献1の実施例では、この連鎖移動剤が、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという。)とヘキサフルオロプロピレンとの共重合等に適用され、優れた分子量制御効果を有することが示された。しかし、驚くべきことに、該連鎖移動剤を、含フッ素共重合体であるETFEの製造に適用したところ、まったく連鎖移動せず、ETFEの分子量を制御できないことがわかった。したがって、塩素原子を含まず、オゾン層破壊を引き起こさず、製造される含フッ素共重合体の性質及び安定性にほとんど影響を与えない、という特性を有し、含フッ素共重合体の製造に適用できる連鎖移動剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−524675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記問題点を解決し、塩素を含まず、オゾン層破壊を引き起こさず、常温で液体であり、製造される含フッ素共重合体の性質及び安定性にほとんど影響を与えない、という特性を有する連鎖移動剤を用いて、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性に優れ、適切に制御された分子量を有するETFE及びECTFEを効率よく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を有する含フッ素共重合体の製造方法を提供する。
【0010】
[1]重合連鎖移動剤の存在下にフッ素モノマーとエチレンとをラジカル重合する含フッ素共重合体の製造方法において、連鎖移動剤が、R−O−R(ここで、Rは炭素原子数3〜6のアルキル基であり、RはCで表わされるポリフルオロアルキル基であり、aは1〜4であり、bは0〜2であり、cは1〜2a+1であり、かつ、b+c=2a+1である。)で表されるヒドロフルオロアルキルエーテルであることを特徴とする、含フッ素共重合体の製造方法。
【0011】
[2]前記連鎖移動剤の使用量が、重合系に導入したモノマーの総質量に対して、連鎖移動剤/重合系に導入したモノマーの質量比で、0.10〜10である[1]に記載の含フッ素共重合体の製造方法。
【0012】
[3]含フッ素共重合体が、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体及びエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体である[1]又は[2]に記載の含フッ素共重合体の製造方法。
【0013】
[4]重合媒体として、ペルフルオロカーボン類、前記R−O−Rで表されるヒドロフルオロアルキルエーテルを除くヒドロフルオカーボン類及びヒドロフルオロエーテル類からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いる[1]〜[3]のいずれかに記載の含フッ素共重合体の製造方法。
【0014】
[5]前記連鎖移動剤が、CHCHCHOCFCFHである[1]〜[4]のいずれかに記載の含フッ素共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の含フッ素共重合体の製造方法によれば、塩素を含まず、オゾン層破壊を引き起こさず、常温で液体であり、フッ素モノマーとエチレンとをラジカル重合して製造される含フッ素共重合体の性質及び安定性にほとんど影響を与えない、連鎖移動剤を用いて、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性に優れ、分子量が任意に制御された、含フッ素共重合体を効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における重合連鎖移動剤は、R−O−R(ここで、Rは炭素原子数が3〜6であるアルキル基であり、RはCで表わされるポリフルオロアルキル基であり、aは1〜4であり、bは0〜2であり、cは1〜2a+1であり、かつ、b+c=2a+1である。)で表されるヒドロフルオロアルキルエーテルである。
【0017】
該ヒドロヒドロフルオロアルキルエーテルにおけるR1としては、炭素原子数3〜6のアルキル基である。R1は、直鎖状でも分岐状のいずれでもよい。Rの炭素原子数が6超であると、前記ヒドロフルオロアルキルエーテルの沸点が高くなり、ヒドロフルオロアルキルエーテルと、含フッ素共重合体との分離が困難になる。また、含フッ素共重合体の末端に長鎖アルキル基が結合するので、含フッ素共重合体の安定性が低下する。さらに、連鎖移動性が高くなりすぎ分子量の制御が困難になる。Rの炭素原子数が3未満であると連鎖移動をせず、含フッ素共重合体の分子量が制御できない。
【0018】
としては、炭素原子数3〜6が好ましく、炭素原子数3〜4がより好ましく、3が最も好ましい。また、直鎖状がより好ましい。
【0019】
の具体例としては、CHCHCH、CH(CHCH、CH(CHCH、CHCH(CH、CH(CH)CHCH、CHCH(CH)CHCH、CH(CH)CHCHCH、CH(CH)CH(CH、C(CHCHCH、CH(CHCH、CH(CHCH(CH、CHCHCH(CH)CHCH、CHCH(CH)CHCHCH、CH(CH)(CHCH、CHCHC(CH、CHCH(CH)CH(CH、CH(CH)CHCH(CH、CHC(CHCHCH、CH(CH)CH(CH)CHCH、C(CHCHCHCH、CHCH(CHCH、CH(CHCH)CHCHCH、CH(CHCH)CH(CH、C(CH)(CHCH等が挙げられる。好ましくは、CHCHCH、CH(CHCH、CHCH(CH、CH(CH)CHCH、CH(CHCH、CHCHCH(CH、C(CHCHCH、CH(CHCHであり、より好ましくは、CHCHCH、CH(CHCHである。
【0020】
である、Cで表わされるポリフルオロアルキル基において、aは1〜4が好ましく、2〜3がより好ましく、2が最も好ましい。aが4より大きくなると沸点が高くなり、ヒドロフルオロアルキルエーテルと、含フッ素共重合体及び重合媒体との分離が困難になる。bは0又は1が好ましく、1がより好ましい。bが1より大きくなると、連鎖移動性が高くなりすぎ、分子量制御が困難になる可能性がある。cは1〜9が好ましく、2〜7がより好ましく、4又は5が最も好ましい。
なお、一般に、ポリフルオロアルキル基とは、アルキル基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された基をいう。
【0021】
の具体例としては、CF、CHF、CHF、CFCF、CFCFH、CFCHF、CHFCF、CHFCHF、CHCF、CFCFCF、CFCHFCF、CFCFCHF、CFCFCHF、CFCHFCHF、CFCHCF、CHFCFCF、CHFCFCHF、CHFCHFCF、CHCFCF、CFCFCFCF、CFCFCFCHF、CFCFCFCHF、CFCFCHFCF、CFCFCHFCHF、CFCFCHCF、CFCHFCFCF、CFCHFCFCHF、CFCHFCHFCF、CFCHCFCF、CHFCFCFCF、CHFCFCFCHF、CHFCFCHFCF、CHFCHFCFCF、CHCFCFCFが挙げられる。好ましくは、CF、CHF、CHF、CFCFH、CFCF、CFCHF、CHCF、CFCFHCF、CHFCFCHFCHFであり、より好ましくは、CFCFH、CFCF、CFCHF、CHCF、CFCFHCF、CHFCFCHFCHFであり、最も好ましくは、CFCFHである。
【0022】
ヒドロフルオロアルキルエーテルの具体例としては、CHCHCHOCFCFH、CHCHCHCHOCFCFH、CHCHCHOCFCFHCF、CHCHCHCHOCFCFHCF、(CHCHCHOCFCFH、(CHCHCHOCFCFHCF、CH(CHCHOCFCFH、CH(CHCHOCFCFHCF、CH(CHCHOCFCFH、CH(CHCHOCFCFHCFが好ましく、CHCHCHOCFCFH、CHCHCHCHOCFCFH、CHCHCHOCFCFHCF、CHCHCHCHOCFCFHCFがより好ましく、CHCHCHOCFCFH、CHCHCHCHOCFCFHが最も好ましい。
【0023】
ヒドロフルオロアルキルエーテルの沸点は、30〜150℃が好ましく、30〜120℃がより好ましく、40〜90℃が最も好ましい。また、室温で液体であることが好ましい。沸点が150℃より高いと、含フッ素共重合体と重合媒体との分離が困難になる。また、30℃より低いと、モノマーガスと重合媒体との分離が困難になる。
【0024】
連鎖移動剤の使用量は、重合系に導入したモノマーの総質量に対して、連鎖移動剤/重合系に導入したモノマーの質量比で、0.10〜10が好ましく、0.15〜4.0がより好ましく、0.20〜2.0が最も好ましい。連鎖移動剤の使用量がこれらの範囲よりも少ないと、分子量が大きくなりすぎる。また、連鎖移動剤の使用量がこの範囲より多いと、分子量が小さくなりすぎる。
【0025】
連鎖移動剤であるヒドロフルオロエーテルの製造には、種々の方法を用いることができる。例えば、特許文献1に記載されているように、アルコールのフルオロオレフィンへの付加反応を用いる合成方法が簡便で好ましい。
【0026】
本発明における含フッ素共重合体は、含フッ素モノマーとエチレンとの共重合体であり、ETFE及びECTFEが好ましく、ETFEがより好ましい。
本発明の含フッ素共重合体がETFEの場合、TFEに基づく繰返し単位とエチレンに基づく繰返し単位との含有比率は、モル比で、80/20〜40/60が好ましく、70/30〜45/55がより好ましく、65/35〜50/50が最も好ましい。この組成の範囲であると、製造されたETFEは耐熱性や機械物性のバランスに優れる。
【0027】
本発明の製造法で製造されるETFEは、エチレンに基づく繰返し単位及びTFEに基づく繰返し単位以外に、その他のモノマーに基づく繰返し単位を含んでも良い。その他のモノマーの具体例としては、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ素ビニル等のフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、(2−ヒドロペンタフルオロプロピレン)等のフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、X(CFCY=CH(ここで、X、Yは、水素原子又はフッ素原子であり、nは2〜8の整数を示す)で表されるポリフルオロアルキルエチレン、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、CF=CFOCFCF(CF)O(CFCF、CF=CFO(CFO(CFCF、CF=CFO(CFCF(CF)O)(CFCF、CF=CFOCFCF(CF)O(CFCF、CF=CFOCFCF=CF、CF=CFO(CFCF=CF等のフルオロビニルエーテル類、CF=CFO(CFCOCH、CF=CFOCFCF(CF)O(CFCOCH、CF=CFOCFCF(CF)O(CFSOF等の官能基含有フルオロビニルエーテル類などが挙げられる。
【0028】
さらに、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)等の脂肪族環構造を有する含フッ素モノマーが挙げられる。また、フッ素を含まない成分としては、プロピレン、イソブテン等のオレフィン、酢酸ビニル等のビニルエステル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ハイミック酸(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物)などの酸無水物が挙げられる。その他のモノマーは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0029】
X(CFCY=CHで表されるポリフルオロアルキルエチレンにおいて、nは2〜6が好ましく、2〜4がより好ましい。その具体例としては、CFCFCH=CH、CFCFCFCFCH=CH、CFCFCFCFCF=CH、CFHCFCFCF=CH、CFHCFCFCF=CHなどが挙げられる。
【0030】
ETFEにおけるその他のモノマーとしては、前記ポリフルオロアルキルエチレン、HFP、PPVE、酢酸ビニル、無水イタコン酸、無水ハイミック酸が好ましく、HFP、PPVE、CFCFCH=CH、CF(CFCH=CH、無水イタコン酸、無水ハイミック酸がより好ましく、HFP、PPVE、CFCFCH=CH、CF(CFCH=CHが最も好ましい。
【0031】
ETFEが、その他のモノマーに基づく繰返し単位を含有する場合には、その含有量は、0.01〜20mol%が好ましく、0.10〜15mol%がより好ましく、0.20〜10mol%が最も好ましい。その他のモノマーを含むETFEの組成がこの範囲であると、耐熱性や機械物性のバランスに優れる。
本発明の製造法で製造されるECTFEは、CTFEに基づく繰返し単位とエチレンに基づく繰返し単位との含有比率は、モル比で、80/20〜30/70が好ましく、70/30〜45/55がより好ましく、65/35〜50/50が最も好ましい。
【0032】
また、エチレンに基づく繰返し単位及びクロロトリフルオロエチレンに基づく繰返し単位以外に、その他のモノマーに基づく繰返し単位を含んでも良い。その他のモノマーの具体例としては、ETFEにおける上記その他のモノマーと同じものが挙げられ、前記ポリフルオロアルキルエチレン、HFP、PPVE、酢酸ビニル、無水イタコン酸、無水ハイミック酸が好ましく、HFP、PPVE、CFCFCH=CH、CF(CFCH=CH、無水イタコン酸、無水ハイミック酸がより好ましく、HFP、PPVE、CFCFCH=CH、CF(CFCH=CHが最も好ましい。
【0033】
ECTFEが、その他のモノマーに基づく繰返し単位を含有する場合には、その含有量は、0.01〜20mol%が好ましく、0.10〜15mol%がより好ましく、0.20〜10mol%が最も好ましい。その他のモノマーを含むECTFEの組成がこの範囲であると、耐熱性や機械物性のバランスに優れる。
【0034】
本発明の含フッ素共重合体製造方法における重合方法としては、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合が挙げられる。中でも溶液重合及び懸濁重合が好ましい。
【0035】
溶液重合の場合、用いられる重合媒体としては、連鎖移動係数の小さな化合物が好ましい。また、環境保全の側面から塩素を含有しない化合物が好ましい。重合媒体の具体例としては、ペルフルオロカーボン類、ヒドロフルオカーボン類及び前記R−O−Rで表されるヒドロフルオロアルキルエーテルを除くヒドロフルオロエーテル類からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
該ぺルフルオロカーボン類としては、n−ペルフルオロヘキサン、n−ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロシクロブタン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペルフルオロベンゼン等が挙げられる。
【0036】
該ヒドロフルオロカーボン類としては、CFCFHCFCFCF、CF(CFH、CFCFCFHCFCF、CFCFHCFHCFCF、CFHCFHCFCFCF、CF(CFH、CFCH(CF)CFCFCF、CFCF(CF)CFHCFCF、CFCF(CF)CFHCFHCF、CFCH(CF)CFHCFCF、CFCFCHCH、CF(CFCHCH等が挙げられる。
該ヒドロフルオロエーテル類としては、CFCHOCFCFH、CF(CFCFCFOCH、CF(CFOCH等のヒドロフルオロエーテル類が挙げられる。
【0037】
重合媒体としては、CF(CFH、CFCHOCFCFH、CF(CFCHCHがより好ましく、CF(CFH、CFCHOCFCFHが最も好ましい。重合媒体は、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。重合媒体の沸点は、30〜150℃が好ましく、30〜120℃がより好ましい。また、室温で液体であることが好ましい。沸点が150℃より高いと、含フッ素共重合体との分離が困難になる。また、30℃より低いと、モノマーガスとの分離が困難になるので好ましくない。
【0038】
また、溶液重合の場合には、重合媒体の使用量は、連鎖移動剤と重合媒体との合計質量に対して、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上が最も好ましい。重合媒体は連鎖移動剤に比べモノマーを良く溶かすため、重合媒体の使用量がこれよりも少ないと反応系中でのモノマー濃度が減り、反応速度が遅くなる。また、ポリマーが連鎖移動剤よりも重合媒体に良く膨潤するため、重合媒体の使用量がこれよりも少ないと、バッチあたりのポリマー収量を高くした際、良好な攪拌状態を維持するのが困難になるので好ましくない。
【0039】
本発明の含フッ素共重合体製造方法におけるラジカル重合開始剤としては、重合させるモノマーの種類、反応媒体、反応条件等により適宜選択される。ラジカル開始剤の具体例としては、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド、ビス(ペルフルオロアシル)ペルオキシド、ビス(ω−ヒドロペルフルオロアシル)ペルオキシド、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシピバレート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0040】
重合温度としては、0〜100℃が好ましく、20℃〜90℃がより好ましく、30℃〜80℃が最も好ましい。重合圧力としては、常圧〜10MPaが好ましく、0.5MPa〜3MPaがより好ましく、1.0MPa〜2.0MPaが最も好ましい。
【0041】
本発明の含フッ素共重合体の製造方法で製造された含フッ素共重合体の容量流速(以下、Q値ともいう。)は、0.50〜1000が好ましく、1.0〜500がより好ましく、2.0〜50が最も好ましい。容量流速は分子量の指標であり、低い値ほど高分子量である。容量流速は、本発明における連鎖移動剤の使用量を調節することにより、容易に制御できる。Q値がこの範囲より高いと機械物性が低下する。Q値がこの範囲より低いと成形性が低下するので好ましくない。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。含フッ素共重合体の特性は以下の方法で測定した。
〔Q値(単位:mm/秒〕フローテスター(島津製作所製CFT100D)を用い、297℃で溶融した含フッ素重合体を、内径2.1mm、長さ8mmのダイスから圧力0.7MPaで押出された含フッ素共重合体の容量流速である。
【0043】
〔ポリマー組成(モル%)〕FT−IRによって決定した。
〔融点(℃)〕走査型示差熱分析計(SII社製DSC7020)を用いて、空気雰囲気下に300℃まで10℃/分で加熱した際の吸熱ピークから求めた。
【0044】
〔合成例1〕
内容積1.2リットルのステンレス鋼製反応器を脱気し、メタノールの476g、水酸化カリウムの113.3gを入れて攪拌し、反応器内温が50℃になるように加熱した。続いてTFEを0.2MPaGになるまで反応器に導入し、反応を開始した。反応中は圧力が0.2MPaGを維持するようにTFEをフィードし、TFEが543g消費されたところで反応を終了させた。反応液を濾過し、ろ液をイオン交換水にて数回水洗し、CHOCFCFHの520gを得た。分析はNMR及びガスクロマトグラフ分析(以下GCという)で行い、純度は99.8%であった。合成した含フッ素エーテルの沸点は37.2℃で、室温で液体であった。
【0045】
〔合成例2〕
メタノールをエタノールの473gに変更する以外は、合成例1と同様に反応を行った。TFEが603g消費されたところで反応を終了させ、合成例1と同様の精製を行い、CHCHOCFCFHの688gを得た。分析はNMR及びGCで行い、純度は99.8%以上であった。合成した含フッ素エーテルの沸点は56.7℃で、室温で液体であった。
【0046】
〔合成例3〕
メタノールをn−プロパノールの483gに変更する以外は、合成例1と同様に反応を行った。TFEが701g消費されたところで反応を終了させ、合成例1と同様の精製を行い、CHCHCHOCFCFHの840gを得た。分析はNMR及びGCで行い、純度は99.8%以上であった。合成した含フッ素エーテルの沸点は77.2℃で、室温で液体であった。
【0047】
〔実施例1〕
内容積1.2リットルのステンレス鋼製反応容器を脱気し、重合媒体としてCF(CFHの939.3g、連鎖移動剤としてCHCHCHOCFCFHの206.2g、(ペルフルオロブチル)エチレン(以下、PFBEという。)の3.5g、TFEの154.3g、エチレン(以下、Eという。)の9.2gを仕込んだ。温度を66℃に保持して、重合開始剤としてターシャリーブチルペルオキシペルピバレートの1質量%CF(CFH溶液の2.0mLを仕込み、重合反応を開始させた。
【0048】
重合反応中、重合内にTFEとEの混合ガス(組成TFE/E=54/46(モル比))を導入、反応圧力を1.5MPaGに保持し、同時にPFBEをTFE/Eの混合ガスに対して0.7モル%の割合で連続添加した。3.1時間後にTFE/E混合ガスの90gが反応器内に導入された時点で重合を終了し、反応器を室温まで冷却し、残モノマーガスをパージして含フッ素共重合体1のスラリーの約1400gを得た。該スラリー全量をフラスコに移し、水1000mlを注いだ後、ロータリーエバポレーターにて重合媒体と連鎖移動剤を留去し、濾過して水と分離した含フッ素共重合体1を乾燥して、約90gの含フッ素共重合体1の粉末を得た。該含フッ素共重合体1の共重合組成は、TFEに基づく重合単位/Eに基づく重合単位/PFBEに基づく重合単位=52.5/46.8/0.7(モル%)、Q値は15mm/秒、融点は269℃であった。
【0049】
本実施例において、連鎖移動剤の使用量は、重合系に導入したモノマーの総質量に対する質量比で0.77であり、連鎖移動剤と重合媒体との合計質量を基準として18.0質量%であった。
【0050】
〔実施例2〕
重合媒体としてCF(CFHの1010.7g、連鎖移動剤としてCHCHCHOCFCFHを157.7g使用した以外は実施例1と同様に重合し、3.1時間後にTFE/E混合ガスの90gが反応器内に導入された時点で重合を終了し、含フッ素共重合体2のスラリー約1400gを得た。続いて実施例1と同様に精製を行い、約90gの含フッ素共重合体2の粉末を得た。該含フッ素共重合体2の共重合組成は、TFEに基づく重合単位/Eに基づく重合単位/PFBEに基づく重合単位=52.5/46.7/0.8(モル%)、Q値は2.7mm/秒、融点は269℃であった。
【0051】
本実施例において、連鎖移動剤の使用量は、重合に導入したモノマーの総質量に対する質量比で、0.59であり、連鎖移動剤と重合媒体との合計質量に対して13.5質量%であった。
【0052】
〔実施例3〕
重合媒体としてCF(CFHの848.3g、連鎖移動剤としてCHCHCHOCFCFHの267.9gを使用した以外は実施例1と同様に重合し、3.3時間後に混合ガス90gが反応器系内に導入された時点で重合を終了し、含フッ素共重合体3のスラリー約1400gを得た。続いて実施例1と同様に精製を行い、約90gの含フッ素共重合体3の粉末を得た。該含フッ素共重合体3の共重合組成は、TFEに基づく重合単位/Eに基づく重合単位/PFBEに基づく重合単位=52.5/46.8/0.7(モル%)、Q値は49mm/秒、融点は268℃であった。
本実施例において、連鎖移動剤の使用量は、重合系に導入したモノマーの総質量に対する質量比で、1.00であり、連鎖移動剤と重合媒体との合計質量に対して24.0質量%であった。
【0053】
〔比較例1〕
重合媒体としてCF(CFHの865.1g、連鎖移動剤としてCHCHCHOCFCFHに代えてCHOCFCFHの273.2gを用いる以外は、実施例1と同様に反応を行い、2.9時間後に含フッ素共重合体4のスラリー約1400gを得た。続いて実施例1と同様に精製を行い、約90gの含フッ素共重合体4の粉末を得た。該含フッ素共重合体4の共重合組成は、TFEに基づく重合単位/Eに基づく重合単位/PFBEに基づく重合単位=52.0/46.8/1.2(モル%)であった。該含フッ素共重合体4のQ値の測定を試みたがまったく流動しなかった。融点は269℃であった。
本比較例において、連鎖移動剤の使用量は、重合系に導入したモノマーの総質量に対する質量比で、1.02であり、連鎖移動剤と重合媒体との合計質量に対して24.0質量%であった。
【0054】
〔比較例2〕
重合媒体としてCF(CFHの882.3g、連鎖移動剤としてCHCHCHOCFCFHに代えてCHCHOCFCFHの278.6gを用いる以外は、実施例1と同様に反応を行い、3.3時間後に含フッ素共重合体5のスラリー約1400gを得た。続いて実施例1と同様に精製を行い、約90gの含フッ素共重合体5の粉末を得た。該含フッ素共重合体5の共重合組成は、TFEに基づく重合単位/Eに基づく重合単位/PFBEに基づく重合単位=52.5/46.7/0.8(モル%)、Q値は0.46であり、非常に小さく、流動性に乏しかった。融点は270℃であった。
本比較例において、連鎖移動剤の使用量は、重合系に導入したモノマーの総質量に対する質量比で、1.04であり、連鎖移動剤と重合媒体との合計質量に対して24.0質量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の含フッ素共重合体の製造方法によれば、特定の連鎖移動剤を用いて、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性に優れ、分子量が任意に制御された、含フッ素共重合体を効率よく製造できる。本発明の製造方法は、フッ素モノマーとエチレンとの共重合体のみでなく、フッ素モノマーと、エチレン以外の炭化水素モノマーとからの含フッ素共重合体、及び、その他の含フッ素共重合体等の製造にも適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合連鎖移動剤の存在下にフッ素モノマーとエチレンとをラジカル重合する含フッ素共重合体の製造方法において、重合連鎖移動剤が、R−O−R(ここで、Rは炭素原子数が3〜6のアルキル基であり、RはCで表わされるポリフルオロアルキル基であり、aは1〜4であり、bは0〜2であり、cは1〜2a+1であり、かつ、b+c=2a+1である。)で表されるヒドロフルオロアルキルエーテルであることを特徴とする含フッ素共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記連鎖移動剤の使用量が、重合系に導入したモノマーの総質量に対して、連鎖移動剤/重合系に導入したモノマーの質量比で、0.10〜10である請求項1に記載の含フッ素共重合体の製造方法。
【請求項3】
含フッ素共重合体が、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体及びエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体である請求項1又は2に記載の含フッ素共重合体の製造方法。
【請求項4】
重合媒体としてペルフルオロカーボン類、ヒドロフルオカーボン類、前記R−O−Rで表されるヒドロフルオロアルキルエーテルを除くヒドロフルオロエーテル類からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記連鎖移動剤が、CHCHCHOCFCFHである請求項1〜4のいずれかに記載の含フッ素共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2011−32363(P2011−32363A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179466(P2009−179466)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】