説明

含フッ素共重合体の製造法

【課題】機械的安定性にすぐれた水性分散液を形成し得る含フッ素共重合体の製造法を提供する。
【解決手段】フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンを、一般式 CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOM (ここで、Mは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子またはアンモニウム基である)で表わされる2,3,3,3-テトラフルオロ-2-〔1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-(1,1,2,2,3,3,3-へプタフルオロプロポキシ)プロポキシ〕-1-プロパン酸またはその塩を界面活性剤として、水性媒体中で共重合反応させて含フッ素共重合体を製造する。本発明方法によれば、従来一般的に用いられているパーフルオロオクタン酸アンモニウム乳化剤を使用した場合と比較して、その使用割合が半分以下であっても、すぐれた機械的安定性を示す水性分散液が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素共重合体の製造法に関する。さらに詳しくは、機械的安定性にすぐれた水性分散液を形成し得る含フッ素共重合体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン約70〜90モル%、ヘキサフルオロプロピレン約2〜30モル%およびクロロトリフルオロエチレン約1〜10モル%の共重合組成を有し、さらに約20モル%以下のテトラフルオロエチレンを共重合させ得る共重合体を水性媒体中に分散せしめた含フッ素共重合体水性分散液が本出願人によって提案されており、この水性分散液はコーティング材として用いる場合に必要な機械的安定性を満足させている。
【特許文献1】特開平10−120858号公報
【0003】
また、フッ化ビニリデン50〜80重量%、ヘキサフルオロプロピレン20〜50重量%およびテトラフルオロエチレン等のその他共重合可能な単量体0〜30重量%からなる共重合組成を有し、平均粒子径が30〜200nmの含フッ素共重合体粒子が水性媒体中に分散されている含フッ素共重合体水性分散液も提案されており、この水性分散液は耐候性、耐汚染性にすぐれた塗膜を容易に形成し、沈降安定性にすぐれていると述べられている。
【特許文献2】特開平7−258499号公報
【0004】
しかしながら、得られた含フッ素共重合体水性分散液の機械的安定性は決して満足し得るものではなく、また固形分濃度が約30重量%程度(各実施例)と低いため、やや塗工性にも劣るという問題点がみられる。
【0005】
さらに、一般式
Rf1O(CFXCF2O)pCFXCOOM
Rf1:C1〜C5のパーフルオロアルキル基
X:F、Cl、C1〜C4のパーフルオロアルキル基
p:0〜5
M:H、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基
で表わされる含フッ素界面活性剤の存在下に、水性媒体中で、含フッ素オレフィンを単独で、または含フッ素オレフィンと他のモノマーとを乳化重合して含フッ素重合体ラテックスを製造する方法が提案されている。
【特許文献3】特開2003−119204号公報
【0006】
上記一般式で表わされる含フッ素界面活性剤として、
CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4
などが用いられること、好ましい樹脂状のVdF系重合体の具体例として、VdF/TFE/HFP(45〜99/0〜45/1〜10モル%比)共重合体等が挙げられていること、得られる含フッ素重合体ラテックスは、数平均粒子径が0.01〜1μm、好ましくは0.05〜0.7μmの含フッ素重合体粒子を約10〜40重量%、好ましくは20〜40重量%の濃度で含むラテックス(水性乳濁液)であり、粒子の分散乳化状態は安定したものであることなどが、上記特許文献3には記載されている。
【0007】
しかしながら含フッ素重合体である熱可塑性エラストマーを得るための単量体組成としては、VdFとHFPを主体とする場合があり、その場合の好ましい共重合体の例としてVdF/TFE/HFPなどが挙げられてはいるが、それの実施例は記載されていない。また、上記の如くラテックス粒子の分散乳化状態は安定したものであるとは述べられてはいるものの、それの機械的安定性については何ら触れられていない。
【0008】
含フッ素重合体は、そのすぐれた防汚性や耐候性から、コーティング材用途に広く用いられている。この種の用途に用いられる含フッ素共重合体水性分散液は、実用面において沈降安定性にすぐれているばかりではなく、攪拌、移送、計量、顔料混合、噴霧などといった機械的な処理に対しても十分な安定性を有することが求められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、機械的安定性にすぐれた水性分散液を形成し得る含フッ素共重合体の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる本発明の目的は、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンを、一般式
CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOM
(ここで、Mは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子またはアンモニウム基である)で表わされる2,3,3,3-テトラフルオロ-2-〔1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-(1,1,2,2,3,3,3-へプタフルオロプロポキシ)プロポキシ〕-1-プロパン酸またはその塩を界面活性剤として、水性媒体中で共重合反応させ、含フッ素共重合体の製造する方法によって達成される。製造された含フッ素共重合体は、水性分散液として得られる。
【0011】
また、得られた含フッ素共重合体は、フッ化ビニリデンが70〜96モル%、特に好ましくは87〜89モル%、テトラフルオロエチレンが2〜20モル%、特に好ましくは5〜7モル%、またヘキサフルオロプロピレンが2〜10モル%、特に好ましくは5〜7モル%の共重合組成を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明方法により製造される含フッ素共重合体の水性分散液は、水性分散液中の平均エマルジョン粒子径が30〜200nm、好ましくは50〜120nmで、かつ固形分濃度が40〜50重量%と高濃度であり、この水性分散液を325メッシュのふるいを10回通過させた後の平均エマルジョン粒子径の増大率が10%以下で、かつ固形分濃度の減少率が5%以下であるというすぐれた機械的安定性を示している。
【0013】
前記特許文献1記載の含フッ素共重合体水性分散液の機械的安定性もすぐれており、その実施例によれば、固形分濃度の減少率は、1.7%または1.1%であるが、平均エマルジョン粒子径の増大率は4.0%、18.3%となっており、こうした先行技術にみられる含フッ素共重合体水性分散液の機械的安定性よりも、本発明に係る含フッ素共重合体の水性分散液の機械的安定性は、特に平均エマルジョン粒子径の増大率の点で一段とすぐれている。
【0014】
また、従来一般的に用いられているパーフルオロオクタン酸アンモニウム乳化剤を使用した場合と比較して、その使用割合が半分以下であっても、すぐれた機械的安定性を示す水性分散液が形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロエチレンは、前記一般式で表わされる界面活性剤の存在下に、水性媒体中で共重合反応せしめる。水性媒体中での共重合反応は、けん濁重合法としても行われるが、所望の平均エマルジョン粒子径を得るためには、乳化重合法であることが好ましい。
【0016】
乳化重合反応は、過硫酸アンモニウム等の水溶性無機過酸化物またはそれと還元剤とのレドックス系を触媒として、仕込み水総重量に対して約0.001〜0.2重量%の割合で一般に用いられる乳化剤として界面活性剤の存在下に、一般に圧力約0〜10MPa、好ましくは約0.5〜4MPa、温度約0〜100℃、好ましくは約20〜80℃の条件下で行われる。その際、反応圧力が一定範囲に保たれるように、供給するフッ素化オレフィン混合物を分添方式で供給することが好ましい。また、重合系内のpHを調節するために、Na2HPO4、NaH2PO4、KH2PO4等の緩衝能を有する電解質物質あるいは水酸化ナトリウムを添加して用いてもよい。さらに、必要に応じて、マロン酸エチル、アセトン、イソプロパノール等の連鎖移動剤が適宜用いられる。
【0017】
重合反応は、各種重合条件によっても左右されるが、一般には約1〜15時間程度で反応が完結し、パーフルオロオクタン酸アンモニウム乳化剤を用いた場合と大差はない。反応終了後は、得られた水性乳濁液にカリミョウバン水溶液、塩化ナトリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液等を添加して生成重合体を凝析し、水洗、乾燥することにより、含フッ素共重合体を得ることができる。
【0018】
得られる含フッ素共重合体は、その水性分散液をコーティング材用途に用いる場合、塗工性および塗膜の耐薬品性の観点から、70〜96モル%のフッ化ビニリデンと他のフッ素化オレフィンであるテトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であることが好ましく、テトラフルオロエチレンは2〜20モル%、ヘキサフルオロプロピレンは2〜10モル%の共重合組成となるように共重合される。
【0019】
特に、水性分散液の平均エマルジョン粒子径および機械的処理を施した後の粒子径の増大率の低下、ならびに固形分濃度および機械的処理を施した後の固形分濃度の減少率の低下を達成せしめるためには、フッ化ビニリデンが87〜89モル%、テトラフルオロエチレンが5〜7モル%、またヘキサフルオロプロピレンが5〜7モル%であることが好ましい。
【0020】
そして、このような共重合組成を有する含フッ素共重合体の水性分散液は、325メッシュのふるいを10回通過させた後の平均エマルジョン粒子径の増大率が10%以下であって、かつ固形分濃度の減少率が5%以下であるというすぐれた機械的安定性を示しており、攪拌、移送、計量、顔料混合、噴霧などといった機械的処理が行われるコーティング材用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0021】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0022】
実施例1
攪拌機を有する内容積10Lのステンレス鋼製圧力反応器に、
水 3350g
CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 33g
NaOH 1.28g
マロン酸エチル 12.0g
を仕込み、内部空間を窒素ガスで置換した後、
フッ化ビニリデン〔VdF〕 83.4モル%
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 5.5モル%
ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕 11.1モル%
の混合組成を有する混合ガスを、初期仕込みガスとして、内圧が約1.7MPa・Gになる迄圧入した。その後、内温を80℃に昇温したところ、内圧は約2.4MPa・Gとなった。
【0023】
その後、過硫酸アンモニウム2.5gを水150gに溶解させた重合開始剤水溶液を反応器内に圧入し、重合反応を開始させた。重合反応開始後は、内圧が2.35〜2.45MPa・Gとなるように、VdF/TFE/HFP(88.1/5.8/6.1モル%)混合ガスを追加分添し、反応器内圧力を維持した。反応器内の固形分濃度をサンプリングし、その値が約45重量%となった時点で(反応時間約7時間)、反応器を冷却して反応を終了させた。得られた水性分散液中の固形分濃度は、45.7重量%であった。
【0024】
得られた水性分散液中の含フッ素共重合体を、1重量%CaCl2水溶液で凝集、洗浄、乾燥し、その共重合組成を19F-NMRにより測定すると、VdF/TFE/HFP=88.1/6.0/5.9(モル%)であった。また、含フッ素共重合体の1wt./vol.%メチルエチルケトン溶液を調製し、35℃の溶液粘度ηsp/cを測定すると、その値は1.2g/dlであった。
【0025】
さらに、水性分散液中の平均エマルジョン粒子径を、レーザー回折・散乱法により、日機装製マイクロトラック粒度分析計9340-UPA150により測定すると、その平均粒子径は55nmであった。
【0026】
また、水性分散液の機械的安定性として、水性分散液を325メッシュの金属製ふるいを10回通過させた後の水性分散液の平均粒子径と固形分濃度とを測定し、固形分濃度の減少率と平均粒子径の増加率とを算出し、その指標とした。試験後の固形分濃度は45.2重量%、平均粒子径は59nmであった。
【0027】
実施例2
実施例1において、界面活性剤量を15gに変更して、共重合反応を行った。
【0028】
実施例3
実施例1において、VdF/TFE/HFP=63/7/30(モル%)の混合組成を有する混合ガスを初期仕込みガスとして、内圧が1.64MPa・Gになる迄圧入し、その後内温を80℃に昇温したところ、内圧は2.44MPa・Gとなり、重合開始後は内圧が2.35〜2.45MPa・Gとなるように、VdF/TFE/HFP=(80/10/10モル%)混合ガスを追加分添し、固形分濃度が約45重量%となった時点(反応時間約11.5時間)で反応を終了させた。
【0029】
比較例1
実施例1において、界面活性剤としてパーフルオロオクタン酸アンモニウムを同量(33g)用い、共重合反応を行った。
【0030】
比較例2
実施例1において、内圧を-0.1MPa・Gとした後、VdF/TFE/HFP=49.0/35.7/15.3(モル%)の混合組成物を有する混合ガスを初期仕込みガスとして、内圧が1.65MPa・Gになる迄圧入し、その後内温を80℃に昇温したところ、内圧は2.42MPa・Gとなり、重合開始後は内圧が2.35〜2.45MPa・Gとなるように、VdF/TFE/HFP=(54.3/39.7/6.0モル%)混合ガスを追加分添し、固形分濃度が約45重量%となった時点(反応時間約9時間)で反応を終了させた。
【0031】
以上の実施例2〜3および比較例1〜2で得られた水性分散液および含フッ素共重合体について、含フッ素共重合体の共重合組成、溶液粘度および水性分散液の固形分濃度、平均粒子径、機械的安定性を実施例1と同様に測定した。
【0032】
得られた結果は、次の表に実施例1の結果と共に示される。

測定項目 実施例1 実施例2 実施例3 比較例1 比較例2
〔含フッ素共重合体〕
共重合組成
VdF (モル%) 88.1 88.0 80.3 88.0 56.0
TFE (モル%) 6.0 6.0 9.9 6.2 40.6
HFP (モル%) 5.9 6.0 9.8 5.8 3.4
溶液粘度 ηsp/c (g/dl) 1.2 1.2 1.2 0.9 1.3
〔水性分散液〕
固形分濃度 (重量%) 45.7 44.8 45.3 45.5 45.1
平均粒子径 (nm) 55 115 62 115 89
機械的安定性
固形分濃度 (重量%) 45.2 44.2 44.6 42.3 42.6
同減少率 (%) 1.1 1.3 1.5 7.0 5.5
平均粒子径 (nm) 59 121 67 132 112
同増大率 (%) 7.3 5.2 8.1 14.8 25.8
【0033】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 本発明の共重合組成範囲には入るものの、特に好ましい範囲には入らない共重合組成を有する実施例3と比較して、実施例1〜2は機械的安定性が一段と向上している。
(2) CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4を界面活性剤として使用した場合には、極く一般的に用いられている界面活性剤であるパーフルオロオクタン酸アンモニウムを使用した場合と比較して、その使用量を半減させても、より機械的安定性にすぐれた含フッ素共重合体水性分散液を得ることができるといえる(実施例2−比較例1)。
(3) 前記特許文献3記載の共重合組成範囲には入るものの、本発明の共重合組成範囲には入らない場合(比較例2)には、機械的安定性の低下が免れない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンを、一般式
CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOM
(ここで、Mは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子またはアンモニウム基である)で表わされる2,3,3,3-テトラフルオロ-2-〔1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-(1,1,2,2,3,3,3-へプタフルオロプロポキシ)プロポキシ〕-1-プロパン酸またはその塩を界面活性剤として、水性媒体中で共重合反応させることを特徴とする含フッ素共重合体の製造法。
【請求項2】
請求項1記載の製造法により製造された含フッ素共重合体。
【請求項3】
フッ化ビニリデン70〜96モル%、テトラフルオロエチレン2〜20モル%およびヘキサフルオロプロピレン2〜10モル%の共重合組成を有する請求項2記載の含フッ素共重合体。
【請求項4】
フッ化ビニリデン87〜89モル%、テトラフルオロエチレン5〜7モル%およびヘキサフルオロプロピレン5〜7モル%の共重合組成を有する請求項3記載の含フッ素共重合体。
【請求項5】
請求項1記載の製造法により製造された含フッ素共重合体水性分散液。
【請求項6】
水性分散液中の平均エマルジョン粒子径が30〜200nmで、かつ固形分濃度が40〜50重量%である請求項5記載の含フッ素共重合体水性分散液。
【請求項7】
325メッシュのふるいを10回通過させた後の平均エマルジョン粒子径の増大率が10%以下で、かつ固形分濃度の減少率が5%以下である請求項5または6記載の含フッ素共重合体水性分散液。
【請求項8】
請求項5、6または7記載の含フッ素共重合体水性分散液からなるコーティング材。

【公開番号】特開2009−227754(P2009−227754A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72800(P2008−72800)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】