説明

含酸素芳香族化合物の製造方法

【課題】芳香族アルコール、芳香族アルデヒド等の部分酸化物を、簡便且つ安価に製造する方法を提供すること。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物の存在下、α位に水素を有するアルキルベンゼン化合物と酸化剤とを接触させ、アルキルベンゼン化合物のα位の酸化により芳香族アルコール、芳香族アルデヒドおよび芳香族ケトンから選ばれる少なくとも1種の含酸素芳香族化合物を生成させる。
MX (1)
[式中、Mはアルカリ土類金属を示し、Xはハロゲンおよび/またはカルボン酸から1個の水素を除いた残基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は含酸素芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、酢酸ベンジル、p−メチルベンジルアセテート、p−キシリレンジアセテート等のベンジルエステル(エステル類)は、ポリエステル樹脂等の合成樹脂の原料や、香料や溶剤等の各種化学薬品、或いは、これら化学薬品の原料等として用いられている。これらのエステル類の製造方法として、例えば下記非特許文献1には、触媒として酢酸パラジウムを用い、酢酸中、キシレンを空気酸化してキシリレンジアセテートを合成する方法が報告されている。
【0003】
また、例えば、下記特許文献1には、パラジウムおよびビスマスを含む触媒を用いて、p−キシレンと酢酸とを酸素の存在下で液相反応させ、p−キシリレンジアセテートを製造する方法が開示されている。また例えば、下記特許文献2には、パラジウム−ビスマス化合物および/またはパラジウム−鉛化合物を触媒として用いて、p−キシレンと酢酸とを酸素の存在下で液相反応させることにより、p−メチルベンジルアセテートおよびp−キシリレンジアセテートを製造する方法が開示されている。
【0004】
さらに、例えば、下記特許文献3には、(a)パラジウムおよび(b)ビスマス及び/または鉛(c)アルカリ金属カルボン酸塩および/または脱水剤からなる触媒を用いて、p−キシレンと酢酸とを酸素の存在下で液相反応させることにより、p−メチルベンジルアセテートと、p−キシリレンジアセテートを製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭62−273927号公報
【特許文献2】特開昭63−174950号公報
【特許文献3】特開平3−271251号公報
【非特許文献1】「ザ・ジャーナル・オブ・オルガニック・ケミストリー」(J.Org.Chem),(34)4,1106〜1108(1969)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の非特許文献1および特許文献1〜3に記載されている従来の触媒は、いずれも高価な貴金属触媒を用いている。当然のことであるが、触媒活性が低い触媒を用いて生産効率を向上させるためには、反応基質であるp−キシレン等のアルキルベンゼン化合物に対して触媒を多量に用いなければならない。また、反応が液相反応であるので反応時にパラジウムが反応液中に溶出することも考えられ、この場合には、触媒活性がさらに低下すると共に、溶出したパラジウムを分離・回収する必要がある。このため、上記従来の触媒は、工業的な製造方法に供し得るものとしては未だ改善の余地がある。
【0006】
なお、アルキルベンゼンの完全酸化による芳香族カルボン酸の製造は容易である。例えば、フタル酸やテレフタル酸は、それぞれオルトキシレンとパラキシレンを原料に,マンガンやコバルトのような金属触媒を使って,工業的に製造されている。しかしながら、芳香族アルコール、芳香族アルデヒド等の部分酸化物を目的物とする場合、上記のような手法でアルコールやアルデヒドを選択的に得ることは非常に困難である。
【0007】
また、部分酸化物の製造方法としては、例えばトルエンと塩素を反応させてベンジルクロライドを合成し、該ベンジルクロライドを加水分解してアルコールを得、さらにそのアルコールを酸化してアルデヒドとする方法がある。あるいは、カルボン酸までの完全酸化を施した後、得られたカルボン酸とアルコールとのエステルを合成し、さらに該エステルを還元してアルコールとする方法がある。しかし、これらの製造方法の場合は工程数が多いため、煩雑な作業を必要とし、また、製造コストの増大を伴うという問題がある。そのため、芳香族アルコール、芳香族アルデヒド等の部分酸化物も、芳香族カルボン酸と同様に工業的な価値を有しており、当該部分酸化物を簡便且つ安価に製造する方法の開発が望まれている。
【0008】
そこで本発明は、芳香族アルコール、芳香族アルデヒド等の部分酸化物を、簡便且つ安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、下記(1)〜(6)に記載の含酸素芳香族化合物の製造方法及び下記(7)に記載の多官能性キシレン酸化物誘導体の製造方法を提供する。
(1)下記一般式(1)で表される化合物の存在下、α位に水素を有するアルキルベンゼン化合物と酸化剤とを接触させ、アルキルベンゼン化合物のα位の酸化により芳香族アルコール、芳香族アルデヒドおよび芳香族ケトンから選ばれる少なくとも1種の含酸素芳香族化合物を生成させることを特徴とする、含酸素芳香族化合物の製造方法。
MX (1)
[式中、Mはアルカリ土類金属を示し、Xはハロゲンおよび/またはカルボン酸から1個の水素を除いた残基を示す。]
(2)上記一般式(1)で表される化合物およびカルボン酸の存在下、α位に水素を有するアルキルベンゼン化合物と酸化剤とを接触させ、アルキルベンゼン化合物の少なくとも1つのベンジル位の酸化により生成した芳香族アルコールとカルボン酸とのエステルを生成させることを特徴とする、含酸素芳香族化合物の製造方法。
(3)上記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(2)で表されるポリオール化合物の存在下、α位に水素を有するアルキルベンゼン化合物と酸化剤とを接触させ、アルキルベンゼン化合物のα位の酸化により生成した芳香族アルデヒドおよび/または芳香族ケトンとポリオール化合物とのアセタールおよび/またはケタールを生成させることを特徴とする、含酸素芳香族化合物の製造方法。
【化1】


[式中、nは0以上の整数を示し、R〜Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素または炭素数1〜8の炭化水素基を示す。]
(4)アルキルベンゼンがトルエンであることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の含酸素芳香族化合物の製造方法。
(5)アルキルベンゼンがエチルベンゼンであることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の含酸素芳香族化合物の製造方法。
(6)アルキルベンゼンがキシレンであることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の含酸素芳香族化合物の製造方法。
(7)上記一般式(1)で表される化合物および上記一般式(2)で表されるポリオール化合物の存在下、キシレンと酸化剤とを接触させ、キシレンの有する一方のメチル基の酸化により生成したアルデヒドとポリオール化合物とのアセタール構造と、キシレンの有するメチル基の他方の酸化により生成したアルコール構造、キシレンの有する他方のメチル基の酸化により生成したアルデヒド構造およびキシレンの有するメチル基の他方の酸化により生成したポリオール化合物とのアセタール構造から選ばれる少なくとも1種と、を有する多官能性キシレン酸化物誘導体を得ることを特徴とする、多官能性キシレン酸化物誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明において用いられる上記一般式(1)で表される化合物は、パラジウムのような貴金属を用いた従来の触媒に比べて非常に安価であり、また、枯渇のおそれのない化合物である。また、本発明においては、上記の通り、芳香族アルコール、芳香族アルデヒド、芳香族ケトン等の部分酸化物、あるいは更に当該部分酸化物から誘導されるエステル、アセタール、ケタール等を簡便に製造することができる。したがって、本発明によれば、アルキルベンゼンのα位の酸化による部分酸化物を簡便且つ安価に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
[第1実施形態]
本発明に係る第1実施形態は、下記一般式(1)で表される化合物の存在下、α位に水素を有するアルキルベンゼン化合物と酸化剤とを接触させ、アルキルベンゼン化合物のα位の酸化により芳香族アルコール、芳香族アルデヒドおよび芳香族ケトンから選ばれる少なくとも1種の含酸素芳香族化合物を生成させる、含酸素芳香族化合物の製造方法である。
MX (1)
[式中、Mはアルカリ土類金属を示し、Xはハロゲンおよび/またはカルボン酸から1個の水素を除いた残基を示す。]
【0013】
アルキルベンゼンとしては、上記の通りα位に水素を有するものが用いられ、3級ブチルベンゼンのようにα位に水素の存在しないものは除かれる。アルキルベンゼンが有するアルキル基の炭素数は1〜30が好ましい。また、アルキルベンゼンが有するアルキル基は1個でも2個以上であってもよい。アルキル基は直鎖又は分岐のいずれでもあってもよく、また、一部に二重結合等の不飽和結合を含んでいてもよい。
【0014】
アルキルベンゼンとしては、具体的には,トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、iso−プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、トリメチルベンゼン、エチルトルエン、n−プロピルトルエン、iso−プロピルトルエン、n−ブチルトルエン、sec−ブチルトルエン、4,4’−ジメチルビフェニル、メチルビフェニル等が挙げられる。また、これらのアルキルベンゼンの芳香環にアルキル基以外の置換基、例えばハロゲン、エーテル、ニトロ基、アミド基や、エステル化メチル基、クロロメチル基といった置換基が結合したアルキル基などが結合した化合物であってもよい。アルキルベンゼンは1種を単独で用いてもよく、また、2種以上の混合物を用いてもよい。
【0015】
上記のアルキルベンゼンの中でも、トルエン、エチルベンゼンおよびキシレンから選ばれる少なくとも1種を用いること好ましい。これらの好ましいアルキルベンゼンは、工業的に入手できる原料であり、また、これらのアルキルベンゼンを用いて得られる部分酸化物は工業的に極めて有用である。
【0016】
例えば、トルエンからはベンジルアルコール、ベンズアルデヒドを合成することができる。また、エチルベンゼンからは2−フェニルエタノール、アセトフェノンを合成することができる。また、キシレンからは、メチルベンジルアルコール、トルイルアルデヒド、キシリレングリコール、フタルアルデヒドに代表される下記一般式(3)で表される化合物が得られる。
【化2】


[式中、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、それぞれCH、CHOHまたはCHOを示し、R1又はR2の少なくとも一方はCHOHまたはCHOである。]
【0017】
また、本発明では下記一般式(1)で表される化合物を用いる。
MX (1)
[式中、Mはアルカリ土類金属を示し、Xはハロゲンおよび/またはカルボン酸から1個の水素を除いた残基を示す。]
【0018】
Mで表されるアルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられる。また、Xで表されるハロゲンおよび/またはカルボン酸から1個の水素を除いた残基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、酢酸残基(CHCOO)などが挙げられる。
【0019】
上記一般式(1)で表される化合物としては、具体的には、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、酢酸マグネシウム、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、酢酸カルシウム、フッ化ストロンチウム、塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、フッ化バリウム、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム,酢酸バリウムなどが挙げられる。上記一般式(1)で表される化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記一般式(1)で表される化合物は、酸化反応を助長するのみならず、生成した過酸化物を分解し、対応するアルデヒドの生成を促進する機能を有する。そのため、過酸化物とアルデヒドが反応することにより生じるカルボン酸の生成を抑制することができる。
【0021】
なお、上記一般式(1)で表される化合物の使用量は、反応方法に応じて適宜選択することができる。例えば、バッチ式の場合、アルキルベンゼン化合物1モルに対して,上記一般式(1)で表される化合物を百万分の1モル〜1000モルの範囲で使用できる。
【0022】
また、上記一般式(1)で表される化合物の形態には何ら制限はなく,粉体状でも粒状でも塊状でもよい。また、水などに一度溶解させ、活性炭や無機担体などの担体に担持することもできる。これの担体は多孔性の物質であればよく、特に限定するものではない。例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、シリカアルミナ、ゼオライト、珪藻土、シリカマグネシア等結晶性又は非結晶性の金属酸化物、あるいは複合酸化物、テニオライト、ヘクトライト等の層状粘土化合物、活性炭等が挙げられる。塩化カルシウムの担持量は、担体の重量に対して、好ましくは0.01〜10wt%、更に好ましくは0.1〜5wt%である。この範囲であると経済的、かつ十分な活性が得られるので好ましい。担体の比表面積(BET法)は50m2/g以上であることが好ましい。比表面積を50m2/g以上に設定することにより、触媒成分をより多く、高い分散性で担体上に固定化でき、高い触媒活性を得ることができる。
【0023】
また、酸化剤としては、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、三級ブチルヒドロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、過酢酸m塩素化過安息香酸などの過酸化物、ならびに酸素が挙げられ、中でも酸素が特に好ましい。酸素を用いる場合は、純酸素等の酸素ガスのほか、空気中に含まれる酸素を酸化剤として利用することもできる。また、酸素を不活性ガスで希釈した混合ガスを使用することもできる。酸素ガス、空気および酸素と不活性ガスとの混合ガスを用いる場合の圧力は、絶対圧力で1KPa〜100MPa、好ましくは10KPa〜50MPa、より好ましくは100KPa〜20MPaの範囲で選択することが望ましい。なお、酸素または空気以外の酸化剤を使用する場合、その使用量はアルキルベンゼン1モルに対して0.001モル〜1000モルの範囲であることが好ましい。
【0024】
また、上記一般式(1)で表される化合物の存在下、α位に水素を有するアルキルベンゼン化合物と酸化剤とを接触させる際の反応温度は、好ましくは0℃〜500℃、より好ましくは10℃〜300℃,さらに好ましくは30℃〜200℃の範囲である。
【0025】
また、上記反応を行う際の反応形式は、バッチ式、流通式のいずれの反応形式も採用可能である。いずれの反応形式においても、接触時間は好ましくは1分〜1週間、より好ましくは10分〜5日、さらに好ましくは30分〜3日の範囲である。
【0026】
[第2実施形態]
本発明に係る第2実施形態は、上記一般式(1)で表される化合物およびカルボン酸の存在下、α位に水素を有するアルキルベンゼン化合物と酸化剤とを接触させ、アルキルベンゼン化合物の少なくとも1つのベンジル位の酸化により生成した芳香族アルコールとカルボン酸とのエステルを生成させる、含酸素芳香族化合物の製造方法である。なお、本実施形態において、カルボン酸以外の要素は上記第1実施形態と同様であるため、これらの要素については重複する説明を省略する。また、本実施形態における反応生成物には、上記エステルのほか、アルキルベンゼン化合物のα位の酸化により生成する芳香族アルコール、芳香族アルデヒド、芳香族ケトンなどが含まれていてもよい。
【0027】
本実施形態において用いられるカルボン酸としては、特に限定されるものではないが、モノカルボン酸(一価のカルボン酸)が好ましい。モノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等の脂肪族カルボン酸;安息香酸等の芳香族カルボン酸などが挙げられる。これらのカルボン酸の中でも、酢酸及びプロピオン酸が好ましく、酢酸が特に好ましい。カルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
アルキルベンゼン化合物とカルボン酸との使用割合は、アルキルベンゼン化合物が有するベンジル基に対するカルボン酸のモル比が化学量論比以上あれば良く、特に限定されない。カルボン酸とベンジルアルコール体とのエステルを効率的に製造するために好ましくは、モル比が等倍モル〜20倍モルである。
【0029】
本実施形態において得られる、芳香族アルコールとカルボン酸とのエステルは、ベンジル化合物のアルキル基の構成炭素のうち芳香環に直接結合した炭素とカルボン酸のカルボキシル基とが結合したエステル化合物である。具体的には、例えば原料のベンジル化合物としてトルエンを、カルボン酸として酢酸を用いた場合、得られるカルボン酸ベンジルエステルは酢酸ベンジルである。また、例えば原料のベンジル化合物としてp−キシレンを、カルボン酸として酢酸を用いた場合、得られるカルボン酸ベンジルエステルは4−メチルベンジルアセテートとp−キシリレンジアセテートである。このように、本実施形態によれば、部分酸化で生じたアルコールを保護することができ,アルコール選択性を向上させることができる。
【0030】
[第3実施形態]
本発明に係る第3実施形態は、上記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(2)で表されるポリオール化合物の存在下、α位に水素を有するアルキルベンゼン化合物と酸化剤とを接触させ、アルキルベンゼン化合物のα位の酸化により生成した芳香族アルデヒドおよび/または芳香族ケトンとポリオール化合物とのアセタールおよび/またはケタールを生成させる、含酸素芳香族化合物の製造方法である。なお、本実施形態において、下記一般式(2)で表されるポリオール化合物以外の要素は上記第1実施形態と同様であるため、これらの要素については重複する説明を省略する。また、本実施形態における反応生成物には、上記アセタールおよび/またはケタールのほか、アルキルベンゼン化合物のα位の酸化により生成する芳香族アルコール、芳香族アルデヒド、芳香族ケトンなどが含まれていてもよい。
【化3】


[式中、nは0以上の整数を示し、R〜Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素または炭素数1〜8の炭化水素基を示す。]
なお芳香族化合物としてキシレンを用い,上記第3実施形態を行うと,カルボン酸の生成を抑制しつつ,キシレンの二つのメチル基を含酸素誘導体に導くことができる。
【0031】
上記一般式(2)中のR〜Rで示される、炭素数1〜8の炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でも環状であってもよい。当該炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
【0032】
上記一般式(2)で表されるポリオール化合物を具体的に例示すると、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,2−デカンジオールなどが挙げられる。上記一般式(2)で表されるポリオール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本実施形態によれば、アルキルベンゼン化合物のα位を酸化すると共に、酸化により生成した芳香族アルデヒドおよび芳香族ケトンをそれぞれアセタールおよびケタールへと変換することができる。これにより、芳香族アルデヒド、芳香族ケトンの選択性を向上させることができる。なお、上記一般式(2)で表されるポリオール化合物は、それ自体が対応するアルデヒド(さらに酸化が進行したカルボン酸)やケトンに変換され得るものであるが、本実施形態においては、上記の通り選択性の高い酸化反応を行うことで,アセタールやケタールの合成を酸化反応と同時に行うことができるため、工業的に非常に有用である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、収率および選択率の単位「%」は「モル%」を意味する。
【0035】
(実施例1)
塩化カルシウム(関東化学製、乾燥用)0.267gを50mlのナシ型フラスコに入れ,パラキシレン10mlを加えた。その後、1気圧の空気雰囲気下で、オイルバスにて48時間、110℃に加熱した。反応生成物についてガスクロマトグラムによる定量分析を行い、また、質量分析により構造を決定した。パラキシレンの転化率は4.9%、トルイルアルコール収率は20%、トルイルアルデヒド選択率は35%、ベンジルクロライド体選択率4%、トルイルパーオキサイド選択率は27%であった。
【0036】
(比較例1)
塩化カルシウムを用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、パラキシレンの酸化反応を行った。パラキシレンの転化率は0.6%、トルイルアルコール選択率は7%、トルイルアルデヒド選択率は23%、ベンジルクロライド体とトルイル酸は検出されず、トルイルパーオキサイド収率は67%であった。
【0037】
(実施例2)
パラキシレンの代わりにエチルベンゼンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、エチルベンゼンの酸化反応を行い、ガスクロマトグラフィーで生成物を定量した。エチルベンゼンの転化率は5.0%、α−メチルベンゼンメタノール収率は1.0%、アセトフェノン収率は4.0%であった。
【0038】
(実施例3)
塩化カルシウム(キシダ化学製)0.267gを100mlのナシ型フラスコに入れ,トルエン10ml、酢酸50mlを加えた。その後、1気圧の空気雰囲気下で、オイルバスにて12時間、110℃に加熱した。反応生成物はガスクロマトグラムにて定量分析を行い,あわせて質量分析にて構造を決定した。パラキシレンの転化率は3.0%,トルイルアセテート収率は3.0%であった。
【0039】
(実施例4)
10mlスクリュー管中で、1,2−ノナンジオール(25.8mg)をトルエン(1.6ml)に溶解した。これに塩化カルシウム(関東化学、乾燥用、35.7mg)を加え、スクリュー管を閉じた。このスクリュー管を110℃のオイルバスに浸漬し、1気圧の空気雰囲気下で、48時間反応を行った。反応終了後はカラムクロマトグラフィーで生成物を分離した。10.8mgの2−フェニル−4−ヘプチル−1,3−ジオキサシクロペンタンを得た。
【0040】
(実施例5)
10mlスクリュー管中で、1,2−オクタンジオール(20.0mg)をトルエン(1.6ml)に溶解した。これに塩化カルシウム(関東化学、乾燥用、35.7mg)を加え、スクリュー管を閉じた。このスクリュー管を110℃のオイルバスに浸漬し,1気圧の空気雰囲気下で24時間反応を行った。反応終了後はカラムクロマトグラフィーで生成物を分離し、2−フェニル−4−ヘキシル−1,3−ジオキサシクロペンタンを得た。得られたアセタール化合物は、シリカゲル薄層クロマトグラフィー分析において(展開溶媒,ヘキセン:酢酸エチル=4:1)、Rf=0.75に紫外線吸収のあるスポットとして現れた。
【0041】
(実施例6)
関東化学製の鹿一級塩化カルシウム(純度90%)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、反応を行い、カラムクロマトグラフィーで生成物を分離した。生成物について薄層クロマトグラフィー分析を行い、2−フェニル−4−ヘキシル−1,3−ジオキサシクロペンタンの存在を確認した。
【0042】
(実施例7)
和光製のデシケーター用塩化カルシウムを用いたこと以外は実施例5と同様にして、反応を行い、カラムクロマトグラフィーで生成物を分離した。生成物について薄層クロマトグラフィー分析を行い、2−フェニル−4−ヘキシル−1,3−ジオキサシクロペンタンの存在を確認した。
【0043】
(比較例2)
反応を窒素雰囲気下で行ったこと以外は実施例5と同様にして、反応を行った。生成物は何ら確認できなかった。
【0044】
(実施例8)
10mlスクリュー管に塩化カルシウム(関東化学、乾燥用、35.7mg)を加え、パラキシレン5mlを加えた。このスクリュー管を110℃のオイルバスに浸漬し、1気圧の空気雰囲気下で24時間反応を行った。反応終了後はガスクロマトグラフィーで生成物を定量した。パラキシレン転化率は1%、トルイルアルデヒド選択率は60%,トルイルアルコール選択率は30%、トルイルパーオキサイド選択率は10%であった。
【0045】
(実施例9)
塩化カルシウムに代えて塩化マグネシウム・2水和物(35.7mg)を使用したこと以外は実施例8と同様にして、反応を行い、ガスクロマトグラフィーで生成物を定量した。パラキシレン転化率は1%、トルイルアルデヒド選択率は55%、トルイルアルコール選択率は30%、トルイルパーオキサイド選択率は15%であった。
【0046】
(実施例10)
塩化カルシウムに代えて酢酸マグネシウム・4水和物(35.7mg)を使用したこと以外は実施例8と同様にして、反応を行い、ガスクロマトグラフィーで生成物を定量した。パラキシレン転化率は1%、トルイルアルデヒド選択率は45%、トルイルアルコール選択率は10%、トルイルパーオキサイド選択率は35%であった。
【0047】
(実施例11)
塩化カルシウムに代えて酢酸カルシウム・1水和物(35.7mg)を使用したこと以外は実施例8と同様にして、反応を行い、ガスクロマトグラフィーで生成物を定量した。パラキシレン転化率は1%、トルイルアルデヒド選択率は75%、トルイルアルコール選択率は25%、トルイルパーオキサイド選択率は0%であった。
【0048】
(比較例3)
塩化カルシウムを使用しなかったこと以外は実施例8と同様にして、反応を行い、ガスクロマトグラフィーで生成物を定量した。パラキシレン転化率は0.3%、トルイルアルデヒド選択率は50%、トルイルアルコール選択率は10%、トルイルパーオキサイド選択率は40%であった。
【0049】
(実施例12)
10mlスクリュー管に塩化カルシウム(関東化学、乾燥用、0.3mmol)を加え、パラキシレン1ml,1,3−プロパンジオール(0.3mmol)を加えた。このスクリュー管を110℃のオイルバスに浸漬し、1気圧の酸素雰囲気下で24時間反応を行った。反応終了後はガスクロマトグラフィーで生成物を定量した。パラキシレン転化率は7%、トルイルアルデヒド選択率は44%、トルイルアルコール選択率は20%、トルアルデヒドとプロパンジオールとのアセタール化合物選択性6%,テレフタルアルデヒドのプロパンジオールとのモノアセタール選択性4%であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、トルエン、p−キシレン等のアルキルベンゼン化合物からそのアルコールやアルデヒドといった部分酸化物を目的物として合成する場合、パラジウムのような貴金属を使用することなく、塩化カルシウムのような安価で枯渇の恐れのない化合物を用いて、芳香族側鎖の酸化反応を提供することが可能となる。また、同酸化反応によりアルデヒド、アルコールといった部分酸化物を一段階反応で、良好な選択率で製造することができるため、経済的なベンジルアルコール、ベンズアルデヒド等の製造法として広く利用することが可能である。さらにキシレンをジオール化合物の存在下で,本発明の酸化反応を行うと,アセタールの形成を伴い,キシレンを多官能化することができる。そのような多官能化キシレンは,水素化をすることで,シクロヘキサンジメタノールに誘導することができ,工業的にきわめて重要な合成方法となる。
【0051】
また、本発明に係る一般式(1)で表される化合物は、ベンジルアルコールの製造に限られず、芳香族炭化水素化合物の側鎖アルキル基の部分酸化に使用できるため、種々の化合物を得るために利用できるものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物の存在下、α位に水素を有するアルキルベンゼン化合物と酸化剤とを接触させ、前記アルキルベンゼン化合物のα位の酸化により芳香族アルコール、芳香族アルデヒドおよび芳香族ケトンから選ばれる少なくとも1種の含酸素芳香族化合物を生成させることを特徴とする、含酸素芳香族化合物の製造方法。
MX (1)
[式中、Mはアルカリ土類金属を示し、Xはハロゲンおよび/またはカルボン酸から1個の水素を除いた残基を示す。]
【請求項2】
下記一般式(1)で表される化合物およびカルボン酸の存在下、α位に水素を有するアルキルベンゼン化合物と酸化剤とを接触させ、前記アルキルベンゼン化合物のα位の酸化により生成した芳香族アルコールと前記カルボン酸とのエステルを生成させることを特徴とする、含酸素芳香族化合物の製造方法。
MX (1)
[式中、Mはアルカリ土類金属を示し、Xはハロゲンおよび/またはカルボン酸から1個の水素を除いた残基を示す。]
【請求項3】
下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(2)で表されるポリオール化合物の存在下、α位に水素を有するアルキルベンゼン化合物と酸化剤とを接触させ、前記アルキルベンゼン化合物のα位の酸化により生成した芳香族アルデヒドおよび/または芳香族ケトンと前記ポリオール化合物とのアセタールおよび/またはケタールを生成させることを特徴とする、含酸素芳香族化合物の製造方法。
MX (1)
[式中、Mはアルカリ土類金属を示し、Xはハロゲンおよび/またはカルボン酸から1個の水素を除いた残基を示す。]
【化1】


[式中、nは0以上の整数を示し、R〜Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素または炭素数1〜8の炭化水素基を示す。]
【請求項4】
前記アルキルベンゼンがトルエンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の含酸素芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
前記アルキルベンゼンがエチルベンゼンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の含酸素芳香族化合物の製造方法。
【請求項6】
前記アルキルベンゼンがキシレンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の含酸素芳香族化合物の製造方法。
【請求項7】
下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(2)で表されるポリオール化合物の存在下、キシレンと酸化剤とを接触させ、前記キシレンの有する一方のメチル基の酸化により生成したアルデヒドと前記ポリオール化合物とのアセタール構造と、前記キシレンの有する他方のメチル基の酸化により生成したアルコール構造、前記キシレンの有する他方のメチル基の酸化により生成したアルデヒド構造および前記キシレンの有する他方のメチル基の酸化により生成したポリオール化合物とのアセタール構造から選ばれる少なくとも1種と、を有する多官能性キシレン酸化物誘導体を得ることを特徴とする、多官能性キシレン酸化物誘導体の製造方法。
MX (1)
[式中、Mはアルカリ土類金属を示し、Xはハロゲンおよび/またはカルボン酸から1個の水素を除いた残基を示す。]
【化2】


[式中、nは0以上の整数を示し、R〜Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素または炭素数1〜8の炭化水素基を示す。]





【公開番号】特開2010−83765(P2010−83765A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251331(P2008−251331)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】