説明

吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜

【課題】緻密な複合酸化物層を形成し、しかも表面に金属触媒を担持した吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜を提供する。
【解決手段】Al、Zrの複合酸化物からなり、かつ表面にナノサイズの鱗片状の凹凸を有する複合酸化被膜11の表面に金属触媒としてPt12等を担持したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排ガスを流すための吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排ガス中には、炭化水素(HC)が含まれ、このHCが排気系部品に付着することで、種々の問題が発生する。
【0003】
例えば、排気ガスを一部取り出して燃焼室に戻した場合、EGRガスに含まれるHCによるEGRクーラーの端面や冷却フィンのカーボン付着固化や、或いはシリンダとピストン間からリークしたブローバイガスを、過給機の吸気系に戻した場合、ブローバイガスに含まれるオイル分によるコンプレッサーのハウジング内面のカーボン付着固化で、EGRクーラーの冷却性能やコンプレッサーの過給圧低下が生じる問題があった。
【0004】
これらの問題を解決するために、(1)EGRクーラー前方の管路内にハニカム構造体を設け、そのハニカム構造体のハニカムに専用の触媒をコートし、EGRガスをハニカム構造体を通して触媒でEGRガス中のHCを分解してEGRガス浄化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−000926号公報
【特許文献2】特開平10−202102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、管路内にハニカム構造体を設けると、その容積が嵩張ることから、これらの設置スペースを確保する必要があるが、その設置スペースを設けることは困難である。
【0007】
また(2)EGRクーラー端面や冷却フィン、ターボチャージャハウジング内面に直接Ti−Zr−Al等の触媒をコートすることも試みられたが、密着強度や性能面から満足する材料が得られていない。
【0008】
すなわち、EGRクーラー端面等の吸・排気系部品の表面にTi−Zr−Al等の触媒粒子をコートしても、そのコート層は、数〜数十μmの凝集粒の集合体となってしまい、このためPt等を担持させても数十〜数百μmとなり、密着強度が悪く、またその触媒コート層は多孔質であり、未燃の燃料やSOF(未燃成分)が多孔質層内に浸透して未反応物として残存してしまい、触媒性能も低下してしまう問題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、緻密な複合酸化物層を形成し、しかも表面に金属触媒を担持した吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、Al、Zrの複合酸化物からなり、かつ表面にナノサイズの鱗片状の凹凸を有する複合酸化被膜の表面に、金属触媒を担持したことを特徴とする吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜である。
【0011】
請求項2の発明は、上記複合酸化物が、さらにCeを含有する請求項1記載の吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜である。
【0012】
請求項3の発明は、上記複合酸化被膜に担持する金属触媒が、貴金属からなる請求項1又は2記載の吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜である。
【0013】
請求項4の発明は、上記複合酸化被膜に、金属触媒担持させたTiO2粉末を分散させて、金属触媒を上記複合酸化被膜に担持させた請求項1〜3いずれかに記載の吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜である。
【0014】
請求項5の発明は、金属アルコキシドを原料とし、これを吸・排気系部品の基材にゾルゲル法にてAl−Zr系複合酸化被膜を形成し、そのAl−Zr系複合酸化被膜の表面に金属触媒を担持させた請求項1〜4いずれかに記載の吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ナノサイズの鱗片状の凹凸を有する複合酸化被膜の表面にPtなどの金属触媒とを担持させることで、吸・排気系部品に対して十分な密着性を有し、しかも排ガス中のHCを浄化できるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜の概略説明図である。
【図2】本発明の吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜の原子間力顕微鏡(AFM)による観察図であり、図2(a)は平面観察図、図2(b)は斜視立体観察図である。
【図3】本発明の実施例と比較例の触媒被膜の熱伝導率を示す図である。
【図4】本発明の実施例と比較例の触媒被膜をEGRクーラーに適用したときのクーラー出口温度の経時変化を示す図である。
【図5】本発明の実施例と比較例の触媒被膜をコンプレッサーハウジングに適用したときの温度に対するカーボン堆積量の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例と比較例の触媒被膜をコンプレッサーハウジングに適用したときの温度に対するコンプレッサー圧力低下率の関係を示す図である。
【図7】比較例2の触媒皮膜の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
図1は、本発明の吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜の概略説明図を示したものである。
【0019】
図1において、EGRクーラー端面や冷却フィン、ターボチャージャハウジング内面等の基材10に、膜厚0.05μm〜10μmのAl−Zr系複合酸化被膜11を形成し、その複合酸化被膜11の極表面(表面から数μmの深さまで)にPt粒子12を担持したTiO2粒子13からなるTiO2粉末を分散させたものである。
【0020】
このAl−Zr系複合酸化被膜11は、金属アルコキシド溶液を原料とし、その原料をゾルゲル法にて基材10にコーティングし、200〜400℃で加熱して形成される。この複合酸化被膜11の表面にはナノサイズの鱗片状の凹凸が形成され、その表面にPt粒子12を担持したTiO2粒子13をウォッシュコート法によりコートして形成される。
【0021】
このように、本発明は、金属アルコキシドを原料とした化学溶液法(ゾル−ゲル法)でAl−Zr−Ce−O系の被膜の表面にのみ貴金属を担持させることで、金属表面への密着性も高く、皮膜自身に触媒機能を有し、かつ高比表面積(微細な鱗片状の表面形状を有する)の触媒担体皮膜を提供できる。
【0022】
以上、本発明のAl−Zr系皮膜は、SiO2、Al23等の被膜に比べても、
(1)SiO2、Al23と比べて熱膨張率が大きいので、金属表面に被覆しても十分な密着性を有する。(ステンレス以外にもアルミニウム、鋳鉄等の金属材料に被覆可能である。被膜形成温度は200℃〜400℃でよい。
【0023】
(2)熱伝導率はステンレスと同等である。
【0024】
(3)ステンレスと同等の硬さを有している。
【0025】
(4)表面に微細な鱗片状の凹凸を有しており、高い比表面積を有する。
【0026】
(5)ZrO2、CeO2が有する酸素吸放出特性を活かした助触媒の働きが期待できる。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例1と比較例1、2を説明する。
【0028】
実施例1:
Alアルコキシドとして、アルミニウムイソプロポキシド(AIP)、Zrアルコキシドとしてジルコニウムトリブトキシドブタノール溶液(ZTB:含有量80%)及びCeアルコキシドとしてセリウムエトキシド(CEt)、金属アルコキシドの化学改質を目的として、アセチルアセトン(AcAc)及びエチレングリコールを用いた。また、触媒および安定化試薬として硝酸(18N HNO3)を用いた。安定溶液ならびにコーティング溶液の溶媒として関東化学(株)製のイソプロパノール(Iso・PrOH)を用いた。
【0029】
アルミニウムアルコキシド溶液は、蒸留水30gを90℃程度に加熱した後、2gのアルミニウムイソプロポキシド(AIP)を添加し、大気中1時間撹拌を行った。溶液中のAIPが均一に分散した白濁溶液であるのを確認した後、16N硝酸を0.05g滴下した。撹拌時にpHが約3になるよう16N硝酸を随時滴下しながら撹拌を続け、1時間の撹拌によってほぼ透明な溶液が得られた。
【0030】
ジルコニウムアルコシド溶液は、イソプロパノール(Iso−PrOH)6gに対して2gのジルコニウムトリブトキシドブタノール溶液(ZTB液)、アセチルアセトン(AcAc)溶液0.5gを加えて大気中30minの撹拌行った。得られた溶液は黄色の透明液であり、大気中でも沈殿を生じることなく安定であることが確認された。
【0031】
セリウムアルコキシド溶液の作製は、セリウムエトキシド(CEt)が大気中で、非常に不安定であり大気中でアンプルより取り出した時点で、加水分解が始まるため、10gのIso−PrOHに対して、アンプルより取り出しすぐに溶解させた。溶解後のCEt溶液1gに対して、Iso−PrOH溶液6g及びAcAcを1g添加し、安定化溶液を作製した。
【0032】
作製したアルミニウムアルコキシド溶液に対して、ジルコニウムアルコシド溶液及び適宜セリウムアルコキシド溶液を加え、Al−Zr−O溶液又はAl−Zr−Ce−O溶液とした。1時間以上の撹拌後、引上げ速度約1.5mm/sでステンレス製ハニカムの基材に、ディップコーティングを施した。その後、大気中で60℃、30分乾燥させてAl−Zr−O又はAl−Zr−Ce−O複合酸化被膜を形成した。
【0033】
その後、上述と同様にして形成したAl−Zr−O又はAl−Zr−Ce−Oコーティング液に、Pt担持TiO2粉末を分散(撹拌)した溶液を用いて、Al−Zr−O又はAl−Zr−Ce−O複合酸化被膜に、ディップコーティングを施し、同様に大気中で60℃、30分の乾燥処理を施して、熱処理前の被膜試料の作製を行った。
【0034】
次に、乾燥が終了した被膜試料を大気中200℃で2hの熱処理(昇温速度200℃/h)後、炉冷してPt担持Al−Zr系(Al−Zr−O又はAl−Zr−Ce−O)被膜を作製した。
【0035】
比較例1:
ステンレス製ハニカムの基材に触媒をコートせずにそのままの状態で、比較例1とした。
【0036】
比較例2:
図7に示すようにステンレス製ハニカムの基材20に、通常のウォッシュコート法でPt22を担持したTiO2粉末23と、Pt22を担持したAl−Zr−O粉末21のコート(Pt:0.15g/L)を施し、大気中200℃で2hの熱処理(昇温速度200℃/h)後、炉冷して基材20上に被膜を作製した。
【0037】
以上において、実施例1のAl−Zr系被膜の表面形状を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。図2はその結果を示したもので、図2(a)は表面の平面観察図、図2(b)は斜視立体観察図である。
【0038】
図2より、Al−Zr系被膜の表面には、φ100nm相当で高さ20〜30nmの鱗片状の凹凸を有することが観察された。
【0039】
これに対して、比較例2は、図7に示すように、Pt21を担持したTiO2 粉末23と、Pt22を担持したAl−Zr−O粉末21がそのまま凝集した被膜であった。
【0040】
次に、実施例1と比較例2の被膜の硬度を測定するためにナノインデンターにより極表面の硬度測定を行った。その結果、実施例1の皮膜の硬度HJTは4GPaと、比較例1のハニカム素材のフェライト系ステンレスと同等であった。
【0041】
また実施例1と比較例2の密着強度を比較するためスクラッチ試験を行った。球状(φ6.35mm、SUS440C)の圧子を使い荷重を増やしていった結果、比較例2は荷重測定限界以下でコート層の剥離が生じたが、実施例1は、40Nまで剥離が生じなかった。実施例1は比較例2と比べ物にならない程の密着強度を有していることがわかった。
【0042】
次に比較例1、2および実施例1のフェライト系ステンレス薄板の熱伝導率を測定した。
【0043】
図3に示すように実施例1は、比較例1の基材のままの薄板と同等の熱伝導率であったのに対して、比較例2は、実施例1、比較例1の1/2の熱伝導率となった。
【0044】
次に実施例1と比較例2の被膜をEGRクーラー表面に、また比較例2はEGRクーラーそのままで、排ガスを処理したときの試験時間とクーラー出口温度変化の結果を図4に示した。
【0045】
この結果、実施例1は、出口温度が78℃と一定であるのに対して、比較例2は、78℃から400時間後に90℃と上昇し、比較例1の82℃より大幅に上昇した。
【0046】
実施例1は、比較例2に比べて良好な結果を示したのは、被膜形成後の被膜の熱伝導率の違いによるものと考える。
【0047】
次に実施例1と比較例2の被膜を、コンプレッサーハウジング内部に形成してコンプレッサー内温度とカーボン堆積量とコンプレッサー圧力低下率の関係を測定した結果を図5、図6に示す。
【0048】
ここで、実施例1、比較例2は、共に、被膜をウォッシュコートで形成して、0.15g/LのPtを担持したものである。但し、実施例1は、アルミニウムアルコキシド溶液にジルコニウムアルコシド溶液及びセリウムアルコキシド溶液を加え、Al−Zr−Ce−O溶液とした後にTiO2粉末を3mass%添加した溶液を用いて、TiO2分散Al−Zr系被膜とした。また比較例1は、被膜のないハウジングである。
【0049】
この結果、実施例1は温度が変化してもカーボン堆積量の増加もコンプレッサー圧力低下率の変化はみられなかった。これに対し、比較例2は、被膜なしの比較例1と同等の結果を示した。この理由は、試験後に比較例2の被膜にひび割れや剥離が生じていたためと考える。
【0050】
尚、Al−Zr系被膜は、Al−Zr−O被膜とAl−Zr−Ce−O被膜の2種類において行ったが、試験では性能差が認められなかったため、実施例1は、Al−Zr−Ce−O被膜の結果を示した。但し担持する貴金属や助触媒の種類、使用する条件で2種類の被膜を使い分ける必要が生じることも考えられる。
【符号の説明】
【0051】
10 基材
11 Al−Zr系複合酸化被膜
12 Pt
13 TiO2粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al、Zrの複合酸化物からなり、かつ表面にナノサイズの鱗片状の凹凸を有する複合酸化被膜の表面に金属触媒を担持したことを特徴とする吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜。
【請求項2】
上記複合酸化物が、さらにCeを含有する請求項1記載の吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜。
【請求項3】
上記複合酸化被膜に、担持する金属触媒が貴金属からなる請求項1又は2記載の吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜。
【請求項4】
上記複合酸化被膜に、金属触媒担持させたTiO2粉末を分散させて、金属触媒を上記複合酸化被膜に担持させた請求項1〜3いずれかに記載の吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜。
【請求項5】
金属アルコキシドを原料とし、これを吸・排気系部品の基材にゾルゲル法にてAl−Zr系複合酸化被膜を形成し、そのAl−Zr系複合酸化被膜の表面に金属触媒を担持させた請求項1〜4いずれかに記載の吸・排気系部品の汚染防止触媒皮膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−264376(P2010−264376A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117423(P2009−117423)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】