説明

吸熱性を有する組成物及び成型体の製造方法

【課題】本発明は、耐久性、耐水性に優れた吸熱性を有する組成物及び成型体の製造方法を得ることを目的とする。
【解決手段】本発明組成物は、有機樹脂成分と、含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物を含み、該有機樹脂成分の溶融流動速度(Melt Flow Rate:MFR)が試験加重2.16kg、試験温度100℃の条件下において0.5〜30g/10minであり、該有機樹脂成分と該金属水和物の混合比が重量比で5:95〜90:10であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な吸熱性を有する組成物及び成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物、土木構築物等の構造物が火災によって高温に晒された場合には、これら構造物の基材(鉄骨等)の物理的強度が急激に低下するという問題がある。これに対し、無機結合材を基材とし金属硫酸塩を添加し硬化させた耐火被覆材、または金属硫酸塩を水に溶解させスラリー化した耐火被覆材を基材に塗付し金属塩の再結晶により硬化させた耐火被覆材等が知られている。このような耐火被覆材は、基材の不燃性を向上させ火災時に有効な断熱層を形成し、結晶水の蒸発潜熱を利用し、火災時における基材の温度上昇を遅延させ、物理的強度の低下を抑制するものである。
具体的に特許文献1には、無機繊維と無機結合材とを基材とし、硫酸アルミニウム水和物、水を混合した耐火被覆材組成物が記載されている。また、特許文献2には硫酸アルミニウム水和物、アクリル繊維、増粘材、粉末樹脂、水を混合した組成物等が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭58−09662号公報
【特許文献2】特開2006−143875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような耐火被覆材は、表面の破損、剥離、及び剥落下などを防止する耐久性、塗膜の養生時間短縮等の問題に応える必要がある。
しかしながら、前記のような従来の耐火被覆材では、乾燥工程で内部まで均一な強度を持つ成型体が得られず、また成型体表面に露出した金属硫酸塩が水に容易に溶解するため耐久性、耐水性に劣っていた。また、金属硫酸塩を水に溶解し結合材として使用する場合、強酸性を示すため塗装、養生中に鋼材が腐食されるおそれがあった。一方、結晶水を含む金属硫酸塩を耐火材として使用する場合、前記のように一度水に溶解し再結晶化させるため、結晶水の量が変化し耐火性能にバラツキを生じるおそれがある。
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、耐久性、耐水性に優れるとともに、火災時には十分な強度を有し、脱水に伴う吸熱作用を利用して鋼材自体の温度上昇を効果的に抑制できる吸熱性を有する組成物を得ることを目的とする。さらに、この組成物を用いる吸熱性を有する成型体の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の構成からなる吸熱性を有する組成物が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の吸熱性を有する組成物ならびに成型体の製造方法に係る。
【0006】
1.有機樹脂成分と、含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物を含み、該有機樹脂成分の溶融流動速度(Melt Flow Rate:MFR)が試験加重2.16kg、試験温度100℃の条件下において0.5〜30g/10minであり、該有機樹脂成分と該金属水和物の混合比が重量比で5:95〜90:10であることを特徴とする吸熱性を有する組成物。
2.溶融流動速度(Melt Flow Rate:MFR)が試験加重2.16kg、試験温度100℃の条件下において0.5〜30g/10minである有機樹脂成分と含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物を、重量比5:95〜90:10で混合し、200℃以下で混練、成型することを特徴とする吸熱性を有する成型体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吸熱性を有する組成物は、有機樹脂成分に含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物を均一に分散させたものであり、耐久性、耐水性、耐火性に優れたものである。本発明では、例えば、鉄骨構造体が火災時に燃焼熱にさらされると、組成物中の金属水和物の結晶水が脱水、その蒸発潜熱により、鋼材温度上昇が抑制される。本発明の吸熱性を有する組成物はシート状またはボード状の成型体として用いることができる。また、成型体製造時においては、有機樹脂成分のMFRが0.5〜30g/10minであるため、該金属水和物の水和水及び/または結晶水の蒸発温度以下で混合可能である。よって、該金属水和物は水和物及び/または結晶水を一定に保持することが可能となり、火災時に優れた耐火性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明をその実施の形態に基づき詳細に説明する。
本発明の吸熱性を有する組成物は、有機樹脂成分、含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物を含むものである。このうち、有機樹脂成分とは、有機樹脂、または有機樹脂に必要に応じ可塑剤を添加した成分であり、本発明では溶融流動速度(Melt Flow Rate:MFR)が試験加重2.16kg、試験温度100℃の条件下に0.5〜30g/10minである有機樹脂成分を用いる。本発明では、このような有機樹脂成分を使用することにより、耐火性能等に優れる吸熱性を有する組成物、及び吸熱性を有する成型体を製造することが可能となる。
【0009】
本発明における樹脂成分としては、公知のプラスチック製品、シート、塗料などでバインダーとして採用されている有機樹脂を用いることができる。
【0010】
有機樹脂の種類は、特に限定されるものではないが、有機樹脂成分として上記条件を満足するものが使用できる。具体的には、熱硬化性樹脂及び/または熱可塑性樹脂であり、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂等、熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等が挙げられる。このうち、熱可塑性樹脂であることがより好ましい。
【0011】
熱可塑性樹脂としては、さらに具体的には、ビニルトルエン−ブタジエン共重合体、ビニルトルエン−アクリル酸エステル共重合体、ビニルトルエン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、あるいはこれらの共重合体を構成する2種のモノマーとアクリル酸モノマー、メタクリル酸モノマー等との三元共重合体等の樹脂が挙げられる。この場合において、アクリル酸エステル成分又はメタクリル酸エステル成分を含む共重合体中のアクリル酸モノマー又はメタクリル酸モノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、アクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。これらの有機樹脂は、単独で又は2種以上で使用することができる。
【0012】
本発明における可塑剤としては、具体的には、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸エステル類、アジピン酸ジオクチル、コハク酸ジイソデシル、セバシン酸ジブチル、オレイン酸ブチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、ペンタエリスリトールエステル等のアルコールエステル類、リン酸トリオクチル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類、パラフィン、塩素化パラフィン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上で使用することができる。
【0013】
該可塑剤の添加量は、有機樹脂100重量部に対し、通常300重量部以下、好ましくは5〜300重量部、さらに好ましくは10〜150重量部である、300重量部を超える場合、作製した成形物は表面のタック性が高く、強度が低下しやすい。
【0014】
本発明の有機樹脂成分は、上記のような有機樹脂、または有機樹脂と可塑剤の各成分を組み合わせてなる混合成分であり、該有機樹脂成分が溶融流動速度(Melt Flow Rate:MFR)が試験加重2.16kg、試験温度100℃の条件下において0.5〜30g/10minであれば良い。
【0015】
有機樹脂成分のMFRは、上記の有機樹脂の種類、可塑剤の種類、混合比を選定することで調整できる。このMFRは、最終的な要求性能等を考慮して適宜設定すればよいが、通常は試験加重2.16kg、試験温度100℃の条件下において0.5〜30g/10min、好ましくは1〜15g/10minである。有機樹脂成分の100℃におけるMFRが0.5g/10min未満である場合、例えば、火災時において鋼材温度が100℃付近に達しても、有機樹脂成分の流動性がないため、金属水和物の脱水が不充分となり、吸熱量が低いため耐火性能が劣る。また、30g/10minを超える場合、吸熱性を有する組成物が流れ落ちる可能性がある。
【0016】
また、本発明の吸熱性を有する組成物のMFRは、混合する金属水和物の種類等によるが、通常は試験加重2.16kg、試験温度100℃の条件下において0.1〜30g/10minである。
【0017】
なお、本発明におけるMFRは、JIS K7210:1999「熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」により、試験温度100℃において、荷重2.16kgとして測定されるものである。この測定には、予め有機樹脂成分を、試験装置のシリンダ内に充填可能な大きさに細断したものを試料として供する。
【0018】
本発明における金属水和物は含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物であり一般式MX・nHO 等で表される無機化合物の水和物である。このような化合物MX・nHOは、Mが少なくとも1種以上の金属陽イオンを含む陽イオン、Xが1種または2種以上の陰イオンからなる化合物である。これらの金属水和物の含水量は、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは30〜50重量%である。その含水量は、示差熱分析(TG-DTA)によって求めることができる。含水量が6重量%未満の場合、火災等に必要な吸熱性を発揮することができない。また、含水量が70重量%を超える場合、耐久性、耐水性が低下する。また、本発明における金属水和物としては、該金属水和物の脱水または分解温度が、50〜200℃、さらには80〜150℃である水和物が好ましい。脱水または分解温度が50℃未満の場合、常温において脱水するおそれがあり、200℃を超える場合、火災初期の吸熱性が発揮できない。なお、脱水または分解温度は、「化学便覧 基礎編 改訂5版」(日本化学会編)等の記載によるものである。
本発明では、金属水和物の含水量が30〜50重量%範囲であり、脱水または分解温度が80〜150℃である場合、火災時、水の吸熱作用により100℃付近における鋼材温度の上昇を効果的に抑制することができる。
【0019】
このような金属水和物としては、例えば、硫酸アンモニウムアルミニウム12水和物、硫酸ナトリウムアルミニウム12水和物、硫酸アルミニウム27水和物、硫酸アルミニウム18水和物、硫酸アルミニウム16水和物、硫酸アルミニウム10水和物、硫酸アルミニウム6水和物、硫酸カリウムアルミニウム12水和物、硫酸鉄7水和物、硫酸鉄9水和物、硫酸カリウム鉄12水和物、硫酸マグネシウム7水和物、硫酸ナトリウム10水和物、硫酸ニッケル6水和物、硫酸亜鉛7水和物、硫酸ベリリウム4水和物、硫酸ジルコニウム4水和物等の硫酸塩、亜硫酸亜鉛2水和物、亜硫酸ナトリウム7水和物等の亜硫酸塩、リン酸アルミニウム2水和物、リン酸コバルト8水和物、リン酸マグネシウム8水和物、リン酸マグネシウムアンモニウム6水和物、リン酸水素マグネシウム3水和物、リン酸水素マグネシウム7水和物、リン酸亜鉛4水和物、リン酸二水素亜鉛2水和物等のリン酸塩、硝酸アルミニウム9水和物、硝酸亜鉛6水和物、硝酸カルシウム4水和物、硝酸コバルト6水和物、硝酸ビスマス5水和物、硝酸ジルコニウム5水和物、硝酸セリウム6水和物、硝酸鉄6水和物、硝酸鉄9水和物、硝酸ニッケル6水和物、硝酸マグネシウム6水和物等の硝酸塩、酢酸亜鉛2水和物、酢酸コバルト4水和物等の酢酸塩、塩化コバルト6水和物、塩化鉄4水和物等の塩化物塩等の、金属水和塩等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上で使用することができる。
【0020】
上記の金属水和物において、さらには硫酸塩であることが好ましい。中でも、硫酸アルミニウムの水和物がもっとも好ましい。詳細な作用機構は明らかでないが硫酸アルミニウムである場合、脱水または分解反応と同時に硫酸アルミニウムは中空粒子を形成、さらに高温になると、粒子同士が融着し断熱層を形成するため、高温での温度上昇を抑制することができる。
【0021】
該金属水和物が上記の条件を満たす場合、鉄骨構造体が火災時に燃焼熱にさらされると、吸熱性を有する組成物中の金属水和物が脱水し、その吸熱作用により、鋼材温度上昇が抑制される。さらに、脱水反応と同時に泡を出しながら溶融状態となり、それらが融着し断熱層を形成する。このとき、有機樹脂成分のMFRが0.5〜30g/10minであるため、有機樹脂成分が金属水和物の溶融状態を妨げず、効果的な断熱層を形成することができる。
【0022】
有機樹脂成分と金属水和物の混合比は、通常、重量比で5:95〜90:10、好ましくは10:90〜60:40である。特に、耐火被覆材として使用する場合、重量比で10:90〜60:40、好ましくは15:85〜50:50である。重量比で10:90より有機樹脂成分が少ない場合には、充分な耐久性、耐水性が得られないことがある。重量比で60:40より有機樹脂成分が多い場合は、耐火性能が十分得られない場合がある。
【0023】
これらの成分以外にも、必要に応じて、例えば、補強用繊維、着色用顔料、難燃剤、充填材等を適宜配合できる。補強用繊維としては、ロックウール、ガラス繊維、シリカ−アルミナ繊維、カーボン繊維等の無機繊維、あるいはパルプ繊維、ポリプロピレン繊維、ビニル繊維、アラミド繊維等の有機繊維が挙げられる。着色顔料としては、一般の塗料顔料(有機顔料・無機顔料)が使用できる。本発明では、特に、二酸化チタン、ベンガラ、黄色酸化鉄、チタンイエロー、クロムグリーン、群青、コバルトブルー等の無機顔料が好ましい。さらに、耐火性能をより高めるために膨張性黒鉛、未膨張バーミキュライト等を配合しても良い。
【0024】
難燃剤は、一般に、火災時に脱水冷却効果、不燃性ガス発生効果、バインダー炭化促進効果等の少なくとも1つの効果を発揮し、バインダーの燃焼を防止ないし抑制するものである。本発明においては、一般に知られているものが使用でき、無機系難燃剤の具体例としては三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等のアンチモン含有物類、含水アルミナ、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸バリウム等が挙げられる。また、ハロゲン系難燃剤、リン酸系難燃剤等の有機系難燃剤が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上で使用することができる。
【0025】
ハロゲン系難燃剤の具体例としては例えば塩素化パラフィン、塩素化ポリオレフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリフェニル、塩素化油、パークロロシクロペンタデカン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルオキシド、オクタブロモジフェニルオキサイド、ペンタブロモジフェニルオキサイド、ポリジブロモフェニレンオキシド、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、エチレンビス・ジブロモノルボルナンジカルボキシイミド、ジブロモネオペンチルグリコールテトラカルボナート、臭素化ビスフェノール系カーボネートオリゴマー、臭素化ビスフェノール系エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、臭素化ポリスチレン、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、エチレンビス・テトラブロモフタルイミド、ビス(トリブロモフェニル)フマルアミド、N−メチルヘキサブロモジフェニルアミン、ジブロモエチル、ジブロモシクロヘキサン、ジブロモネオペンチルグリコール、トリブロモフェノール、ペンタブロモフェノール、ヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、トリブロモフェノールアリルエーテル、テトラデカブロモジフェノキシベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールS、トリス−(2,3−ジブロモプロピル−1)−イソシアヌレート、2,2−ビス(4−(2,3−ジブロモプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、臭素化エポキシ、臭素化長鎖グリセライドが挙げられる。
【0026】
リン系難燃剤としてはトリアリールリン酸エステル、ジアリールリン酸エステル、モノアリールリン酸エステル、アリールホスホン酸化合物、アリールホスフィンオキシド化合物、縮合アリールリン酸エステル等があり、更に詳しく述べると、リン原子含有の難燃剤の具体例としてはブチルピロホスフェート、ブチルアッシドホスフェート、ブトキシエチルアッシドホスフェート、2−エチルヘキシルアッシドホスフェート、リン酸グァニール尿素、リン酸グアニジン、トリメチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルオクチルホスフェート、トリアリルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジ−2,6−キシレニルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジエチルビス(ヒドロキシエチル)アミノメチルホスホネート、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキシド、ジブチルヒドロオキシメチルホスフォネート、ジ(ブトキシ)ホスフィニル・プロピルアミド、ジメチルメチルホスフォネート、等がある。ジ−(ポリオキシエチレン)−ヒドロキシメチル・ホスフォネート、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド、フェニルホスホン酸、含リンポリオール、芳香族ポリホスフェート、メラミンリン酸塩、ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0027】
また、ハロゲン化アルキルリン酸エステル、含ハロゲン縮合リン酸エステル、含ハロゲン縮合ホスホン酸エステル、含ハロゲン亜リン酸エステル等の含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤があり、具体例としてはクロロホスホネート、ブロモホスホネート、トリスクロロエチルホスフェート、ジブロモプロピルホスフェート、トリスクロロプロピルホスフェート、トリ(2,3ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)2,3−ジクロロプロピルホスフェート、ビス(クロロプロピル)オクチルホスフェート、トリス(β−クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、トリス(2,4,6−トリブロモフェニル)ホスフェート、ビスクロロエチル・ジクロロプロピルホスフェート、ハロゲン化アルキルポリホスフェート、ハロゲン化アルキルポリホスフォネート等が挙げられる。本発明では、リン酸エステル系難燃剤を含むことが好ましく、さらには含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤を含むことが好ましい。リン酸エステル系難燃剤を含む場合、成型体が高温に晒された際、成型体の強度を向上させる傾向があり、基材からの脱落・ズレを防止し、耐火性能を高めることができる。
【0028】
充填剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、粘土、クレー、シラス、マイカガラス粉末等が挙げられる。
以上のような各成分は、それぞれ1種または2種以上で使用することができる。
【0029】
本発明の吸熱性を有する組成物は、上記の有機樹脂成分と金属水和物を必須成分とし、これらを混練したものである。例えば、有機樹脂成分と金属水和物を予め混合し、有機樹脂成分の軟化温度まで加熱装置によって加熱し、ニーダー等によって混練しながら、その他の成分を混合すれば吸熱性を有する組成物を調整できる。混練時の温度は、通常200℃以下、好ましくは50〜150℃、より好ましくは80〜120℃とする。
【0030】
吸熱性を有する組成物を用いて成型体を製造するには、例えば前記組成物を型枠内に流し込み、乾燥後に脱型する方法、前記組成物を加温塗工機によって離型紙に塗付した後に巻き取る方法、ニーダーによって混練した前記組成物を押し出し成型機によってシート状に加工する方法、ニーダーによって混練した前記組成物を対ロールの間に供給してシート状に圧延加工する方法、前記組成物をペレット状にした後に押し出し成型機によってシート状に加工する方法、バンバリーミキサー、ミキシングロール等で混練した前記組成物を複数の熱ロールからなるカレンダによって圧延してシート状に加工する方法等が適宜採用できる。中でも、吸熱性を有する成型体として使用する場合、シート状に圧延加工することが好ましい。
【0031】
吸熱性を有する成型体を耐火被覆材として使用する場合の厚みは、耐火性能、適用部位等により適宜設定すれば良いが、通常は1〜10mm程度、好ましくは3〜6mmとする。1mm未満の場合には、充分な耐火性能が得られないことがある。10mmを超える場合は、厚みに相当するだけの耐火性能が十分得られない場合がある。但し、耐火性能、適用部位等によっては必ずしもこのような厚みに限定されるものではない。
【0032】
また、本発明の吸熱性を有する組成物は、成型時、圧延加工することにより有機樹脂成分中に均一、かつ、緻密に金属水和物が分散した状態となる。このため、火災時の脱水反応が緩やかに進行し、100℃付近の鋼材温度上昇を抑制する効果が高い。このときの成型体の密度が0.8〜4.0g/cm、好ましくは1.2〜2.4g/cmである場合、高い耐火性能が得られる。
【0033】
本発明では、吸熱性を有する成型体表面に必要に応じ上塗層を積層することもできる。このような上塗層は、公知の水性型あるいは溶剤型塗料の塗付、または、化粧部材等によるラミネートによって形成することができる。上塗層は、例えば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、フッ素樹脂系等の塗料を塗付することによって形成することができる。これらの塗装は、公知の塗装方法によれば良く、スプレー、ローラー、刷毛等の塗装器具を使用することができる。
【0034】
本発明では、吸熱性を有する成型体に、必要に応じ、例えば、織布、不織布、ガラス不織布、セラミックペーパー、合成紙、ガラスクロス、メッシュ等の補強層、アルミニウム箔、アルミニウム箔・合成樹脂積層シート、アルミニウム箔・クラフト紙積層シート、アルミニウム箔・ガラス織布積層シート、アルミニウム箔・メッシュ積層シート等の熱反射層を積層することができる。積層形態としては、吸熱作用による温度上昇抑制効果を目的とする、建物の梁、柱、壁、天井、床、電線やケーブル及びそれらを収納したパイプやケース等の基材(以下、単に「基材」ともいう。)と接する面を、「成型体裏面」、その反対側を「成型体表面」とすると、
1.成型体裏面に補強層を積層する
2.成型体裏面及び、成型体の内部に補強層を複数積層する
3.上記1.または2.の成型体表面に熱反射層を積層する
等が挙げられる。本発明では特に、上記3.の積層形態が好ましく、成型体裏面に、ガラス不織布、ガラスメッシュ等の補強層を積層することにより、有機樹脂等の接着剤を介して建築物鋼材等の基材に該成型体を貼り付けた際、基材との密着性が向上し、成型体がズレ落ちるのを防止することができ、火災時の耐火性が向上する。さらに、成型体表面にアルミニウム箔、アルミニウム箔・ガラス織布積層シート、アルミニウム箔・メッシュ積層シート等の熱反射層を積層することにより、火災時、金属水和物の脱水速度を制御することができ、基材温度の上昇を抑制することができる。
上記の積層体を形成する場合、例えば、吸熱性を有する成型体を加工する際に同時に積層させたり、成型体加工後に有機樹脂等の接着剤を使用して積層させたりすることができる。
【0035】
本発明の吸熱性を有する組成物及び成型体は、建築物の柱や壁、天井等の耐火、断熱、防炎用材料、電線やケーブル等の各種基材への被覆材として使用することができ、100℃付近での温度上昇を効果的に抑制することができる。基材へ被覆する際は、本発明の効果を阻害しない限り、有機樹脂等の接着剤を使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。ただし、本発明の範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
【0037】
(試験例1)
スチレンアクリル樹脂2.4重量部、エチレンアクリル樹脂9.6重量部、パラフィン8.0重量部と、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃)80重量部を予め混合し、95℃に設定した加圧ニーダーで混練してシート用混練物を調整後、圧延ローラーでシート厚みが4mmとなるように上記混練物を圧延しシート化を行った。
(MFR測定)
JIS K7210:1999に準じて、試験温度100℃において、荷重2.16kgとして測定した。この測定には、予めスチレンアクリル樹脂2.4重量部、エチレンアクリル樹脂9.6重量部、パラフィン8.0重量部を95℃で混合し、成型体としたものを常温まで放冷し、試験装置のシリンダ内に充填可能な大きさに細断したものを試料とした。
(混練性評価)
作業性および外観を目視で評価した。
◎:均一に混練可能
○:混練可能
△:混練困難
×:混練不可
(耐水性試験)
作製したシートを75×75mmに切断し、これらを室温下において、水に24時間浸漬させ、浸漬前後の外観を目視で評価した。
◎:異常なし
○:形状維持
×:形状崩壊
−:試験不可
(耐火性能試験)
作製したシートを角鋼材(300×300×9mm、長さ500mm)に有機系接着剤で貼り付けたものを試験体とした。試験体を、ISO834の標準加熱曲線に準じて60分の加熱試験を行い、60分後の試験体裏面の温度を熱電対にて測定した。
◎:500℃未満
○:500℃以上、550℃未満
△:550℃以上、600℃未満
×:600℃以上
−:試験不可
(脱落・ズレ試験)
作製したシートを角鋼材(300×300×9mm、長さ500mm)に有機系接着剤で貼り付けたものを試験体とした。シート表面をプロパンガスバーナーの炎(約1000℃)で約5分間加熱した。加熱後の脱落及びズレを目視にて観察した。評価は、10:脱落及びズレはなし、1:著しい脱落又は100mm以上のズレが見られた、として10段階で行った。結果を表1に示す。
【0038】
(試験例2)
スチレンアクリル樹脂1.2重量部、エチレンアクリル樹脂10.8重量部、パラフィン8.0重量部と、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃)80重量部を予め混合し、95℃に設定した加圧ニーダーで混練してシート用混練物を調整後、圧延ローラーでシート厚みが4mmとなるように上記混練物を圧延しシート化を行った。試験例1と同様の評価を実施した。
【0039】
(試験例3)
スチレンアクリル樹脂3.6重量部、エチレンアクリル樹脂14.4重量部、パラフィン2.0重量部と、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃)80重量部を予め混合し、95℃に設定した加圧ニーダーで混練してシート用混練物を調整後、圧延ローラーでシート厚みが4mmとなるように上記混練物を圧延しシート化を行った。試験例1と同様の評価を実施した。
【0040】
(試験例4)
スチレンアクリル樹脂1.8重量部、エチレンアクリル樹脂7.2重量部、パラフィン6.0重量部と、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃)85重量部を予め混合し、95℃に設定した加圧ニーダーで混練してシート用混練物を調整後、圧延ローラーでシート厚みが4mmとなるように上記混練物を圧延しシート化を行った。試験例1と同様の評価を実施した。
【0041】
(試験例5)
スチレンアクリル樹脂5.4重量部、エチレンアクリル樹脂21.6重量部、パラフィン18重量部と、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃)55重量部を予め混合し、95℃に設定した加圧ニーダーで混練してシート用混練物を調整後、圧延ローラーでシート厚みが4mmとなるように上記混練物を圧延しシート化を行った。試験例1と同様の評価を実施した。
【0042】
(試験例6)
スチレンアクリル樹脂2.4重量部、エチレンアクリル樹脂9.6重量部、パラフィン8.0重量部、トリスクロロプロピルホスフェート5重量部と、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃)75重量部を予め混合し、95℃に設定した加圧ニーダーで混練してシート用混練物を調整後、圧延ローラーでシート厚みが4mmとなるように上記混練物を圧延しシート化を行った。
【0043】
(試験例7)
スチレンアクリル樹脂0.8重量部、エチレンアクリル樹脂3.2重量部、パラフィン16重量部と、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃)を予め混合し、95℃に設定した加圧ニーダーで混練してシート用混練物を調整後、圧延ローラーでシート厚みが4mmとなるように上記混練物を圧延しシート化を行った。試験例1と同様の評価を実施した。
【0044】
(試験例8)
スチレンアクリル樹脂3.6重量部、エチレンアクリル樹脂14.4重量部、パラフィン2.0重量部と、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃)80重量部を予め混合し、150℃に設定した加圧ニーダーで混練してシート用混練物を調整後、圧延ローラーでシート厚みが4mmとなるように上記混練物を圧延しシート化を試みた。この場合、混練が困難であり、シート化が不可能であった。
【0045】
(試験例9)
スチレンアクリル樹脂0.36重量部、エチレンアクリル樹脂1.44重量部、パラフィン1.2重量部と、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃)97重量部を予め混合し、95℃に設定した加圧ニーダーで混練してシート用混練物を調整後、圧延ローラーでシート厚みが4mmとなるように上記混練物を圧延しシート化を試みた。この場合、混練が困難であり、シート化が不可能であった。
【0046】
(試験例10)
スチレンアクリル樹脂2.4重量部、エチレンアクリル樹脂9.6重量部、パラフィン8.0重量部と、含水量約33重量%の水酸化アルミニウム(脱水温度:300℃)80重量部を予め混合し、95℃に設定した加圧ニーダーで混練してシート用混練物を調整後、圧延ローラーでシート厚みが4mmとなるように上記混練物を圧延しシート化を行った。試験例1と同様の評価を実施した。
【0047】
次いで、吸熱性を有する成型体の積層体を評価した。
(試験例11)
試験例1と同様のシート用混練物を調整後、該混合物とガラスメッシュ(太さ0.18mm、網目の間隔10mm×10mm)を用い、これらを圧延ローラーでシート厚みが4mmとなるように上記混練物を圧延しシート化を行った。作製したシートのガラスメッシュ面を角鋼材(300×300×9mm、長さ500mm)に有機系接着剤で貼り付けたものを試験体とし、試験例1と同様の評価を実施した。
【0048】
(試験例12)
試験例10のシートのガラスメッシュと反対側シート表面にアルミニウム箔・メッシュ積層シートを有機系接着剤で積層させたシートを作製し、作製したシートのガラスメッシュ面を角鋼材(300×300×9mm、長さ500mm)に有機系接着剤で貼り付けたものを試験体とし、試験例1と同様の評価を実施した。
【0049】
(試験例13)
試験例6と同様のシート用混練物を調整後、該混合物とガラスメッシュ(太さ0.18mm、網目の間隔10mm×10mm)を用い、これらを圧延ローラーでシート厚みが4mmとなるように上記混練物を圧延しシート化を行った。さらに作製したシートのガラスメッシュと反対側シート表面にアルミニウム箔・メッシュ積層シートを有機系接着剤で積層させたシートを作製し、作製したシートのガラスメッシュ面を角鋼材(300×300×9mm、長さ500mm)に有機系接着剤で貼り付けたものを試験体とし、試験例1と同様の評価を実施した。
【0050】
試験例1〜13の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
試験例1〜6において、混練性評価、耐水性試験、耐火性能試験はすべて良好な結果であった。脱落・ズレ試験では、試験例1〜5では、成型体表面が僅かに剥離し、また、僅かにズレが確認されたが、耐火性にも問題なかった。また試験例6では、成型体表面の剥離はほとんど確認されなかった。一方、試験例7は、耐水性に劣り、また有機樹脂成分のMFRが高く、耐火試験時にシートが流れ落ちた。試験例8は、有機樹脂成分のMFRが低く、150℃の混練温度が必要であった。この場合、硫酸アルミニウム18水和物中の水分が一気に脱水するため混練が不可能であった。試験例9は、有機樹脂成分が少なく、混練が困難となり、均一なシートの作製が不可能であった。試験例10のように、脱水温度の高い水酸化アルミニウムを使用した場合、耐火性能試験において、試験例1〜5より劣る結果であった。また、試験例11〜13の積層体では、脱落・ズレ試験において、脱落及びズレは確認されず、試験例1〜9よりも良好な結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂成分と、含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物を含み、該有機樹脂成分の溶融流動速度(Melt Flow Rate:MFR)が試験加重2.16kg、試験温度100℃の条件下において0.5〜30g/10minであり、該有機樹脂成分と該金属水和物の混合比が重量比で5:95〜90:10であることを特徴とする吸熱性を有する組成物。
【請求項2】
溶融流動速度(Melt Flow Rate:MFR)が試験加重2.16kg、試験温度100℃の条件下において0.5〜30g/10minである有機樹脂成分と含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物を、重量比5:95〜90:10で混合し、200℃以下で混練、成型することを特徴とする吸熱性を有する成型体の製造方法。


【公開番号】特開2008−189908(P2008−189908A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338567(P2007−338567)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】