説明

吹付け組成物、吹付けペースト、及びそれを用いた防錆処理方法

【課題】鉄筋コンクリートの防錆に有効な吹付け組成物、吹付けペースト、防錆処理方法の提供。
【解決手段】亜硝酸塩、アミン、モリブデン酸又はその塩、及びタングステン酸又はその塩から選ばれる1種以上、CaO63〜21%及びAl37〜79%を含有するカルシウムアルミネート、並びにセッコウを含有する吹付け組成物。更に、凝結遅延剤、セメント及び/又は無機微粉末、ポリマー、水を含有してもよい。該吹付けペーストを鋼材に吹付ける防錆処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋、鉄骨、及びプレストレストコンクリート内部の鋼線等の鋼材腐食を抑制し、錆の発生を防止する吹付け組成物と、それを用いた防錆処理方法に関する。本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【背景技術】
【0002】
断面修復工事等では、塩害等により劣化したコンクリート構造物の鋼材に、防錆処理を施す作業が広く行われている。断面修復工事とは、通常、劣化したコンクリートをはつり取り、内部の鉄筋を露出させ、その鉄筋に防錆材を吹付け又はコテ塗り等により塗布し、耐久性に優れたセメント組成物で断面を被覆し、修復する工事である。セメント組成物に防錆材を添加する場合もある。
【0003】
防錆材には、キシレン、トルエン、及びシンナー等の有機溶剤を含有する有機溶剤系防錆材と親水性防錆材がある。有機溶剤系防錆材は速乾性を有する。コンクリート構造物の補修工事では引火性がなく、健康への影響が少ない親水性の防錆材として、亜硝酸塩を含むセメント組成物が使用される(非特許文献1、特許文献1、2等参照)。
【0004】
その他の防錆材として、粘性の高いアミンを含有する組成物(特許文献3、4等参照)、タングステン酸やモリブデン酸を含有する組成物(特許文献5等参照)が挙げられる。
【0005】
又、ケイ酸塩、リン酸塩、クロム酸塩、有機酸、エステル塩、スルホン酸、アルキルフェノール、メルカプタン、ニトロ化合物、及び有機リン酸塩等(非特許文献2等参照)も挙げられる。
【0006】
これら防錆作用を有する物質は、モルタルやコンクリートに予め混合して使用する場合が多いが、粘性の小さい亜硝酸塩水溶液を露出した鉄筋表面の全面に塗布した後に、ポリマーセメントモルタルをさらに塗布し、塩害により劣化したコンクリートを補修する方法も提案されている(特許文献6等参照)。
【0007】
合成ゴムラテックス、11CaO・7Al・CaX(Xはハロゲン原子)、3CaO・SiO、及びCaSOを必須成分とする速硬性セメント、必要に応じて骨材、界面活性剤、その他の添加剤を加えて得られる鋼材の防錆防食被覆組成物が知られている(特許文献7)。
【0008】
長期にわたり十分な防錆効果を発揮させるため、防錆作用を有する物質が拡散又は流失する前にセメント・コンクリート内部に確実に固定する方法が必要とされていた。
【0009】
本発明者は、防錆成分の拡散による鉄筋近傍の防錆成分濃度の低下を抑制するために種々検討した結果、特定の吹付け組成物を使用することにより前記課題を解決するに至った。
【0010】
【特許文献1】特公平02−28532号公報
【特許文献2】特開平07−61852号公報
【特許文献3】特開平07−173650号公報
【特許文献4】特開2000−7401号公報
【特許文献5】特開2002−12458号公報
【特許文献6】特開2003−120041号公報
【特許文献7】特開昭56−84768号公報
【非特許文献1】堀隆孝廣、山崎聡、桝田佳寛:防錆モルタルに関する研究、コンクリート工学論文集、vol.5、No.1、pp.89−97、1994
【非特許文献2】工藤矩弘、伊部博:海砂使用鉄筋コンクリートに用いる防錆剤、セメント・コンクリート、No.350、pp.28−37、1976
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、新規な吹付け組成物、吹付けペースト、及びそれを用いた防錆処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明は、亜硝酸塩、アミン、モリブデン酸又はその塩、及びタングステン酸又はその塩から選ばれる1種以上、CaO63〜21%及びAl37〜79%を含有するカルシウムアルミネート、並びにセッコウを含有する吹付け組成物であり、凝結遅延剤を含有する該吹付け組成物であり、セメント及び/又は無機微粉末を含有する該吹付け組成物であり、ポリマーを含有する該吹付け組成物であり、該吹付け組成物と水を含有する吹付けペーストであり、該吹付けペーストを鋼材に吹付けることを特徴とする防錆処理方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の吹付け組成物、吹付けペースト、及びそれを用いた防錆処理方法を使用することにより、凝結時間が短く適度な粘性もあり短時間で十分な強度発現を得ることが可能となるため、塗布したときの防錆成分の流出を抑制できる。そして、短時間で有効成分が鉄筋周囲に固定化されるので鉄筋近傍の有効成分濃度の低下を抑制できる。更に、露出した鉄筋に塗布するだけなので使用量が少なくコスト的に有利であり、長期にわたり十分な防錆効果を有する。その上、大きな施工面積に対して短期間で補修できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では結合材として、例えば、カルシウムアルミネートとセッコウの混合物、セメント、及び無機微粉末を用いる。無機微粉末は特に限定されないが、例えば、混練物の粘性を上げて材料分離抵抗性を向上したり、硬化組織を緻密化したりする効果が顕著な、シリカフューム、フライアッシュ、高炉スラグ、高炉徐冷スラグ、及び電気炉還元期スラグ等の微粉を1種以上使用することが好ましく、潜在水硬性又はポゾラン性を示す、高炉水砕スラグ、シリカフューム、及びフライアッシュの微粉を1種以上使用することがより好ましい。
【0015】
カルシウムアルミネートとは、例えば、CaO原料やAl2O3原料を混合したものをキルンで焼成したり、電気炉等で溶融したり等の熱処理をして得られるものであり、CaOとして63〜21%、Al2O3として37〜79%の範囲内にあるカルシウムアルミネートを用いる。カルシウムアルミネートの鉱物成分は特に限定されないが、CaOをC、Al2O3をAとすると、例えば、C3A、C12A7、CA、及びCA2等で示されるカルシウムアルミネートを粉砕したもの等が挙げられ、これらカルシウムアルミネートを1種以上使用可能である。
【0016】
カルシウムアルミネートとして、ナトリウム、カリウム、及びリチウム等のアルカリ金属の酸化物、SiO、SO等が固溶したカルシウムアルミネートも使用可能である。
【0017】
カルシウムアルミネートは結晶質、非結晶質のいずれも使用できるが、反応活性の点で、非晶質のカルシウムアルミネートが好ましい。
【0018】
カルシウムアルミネートの粒度は特に限定されないが、ブレーン値で3,000cm/g以上が好ましく、5,000cm/g以上がより好ましい。粗粉のカルシウムアルミネートを使用した場合、凝結特性が低下するおそれがある。
【0019】
セッコウは、強度発現性を向上させるために使用する。セッコウは特に限定されないが、例えば、無水セッコウ、半水セッコウ、及び二水セッコウ等が挙げられ、これらのセッコウを1種以上使用可能である。これらのセッコウの中では、強度発現性の点で、無水セッコウが好ましい。
【0020】
セッコウの使用量は、カルシウムアルミネート100部に対して20〜300部が好ましく、50〜200部がより好ましい。セッコウの使用量が少ないと強度発現性が不足するおそれがあり、過剰に使用すると初期強度発現性が不足するおそれがある。
【0021】
セメントとしては特に限定されないが、例えば、JIS R 5210に規定されている各種ポルトランドセメント、エコセメント、JIS R 5211、JIS R 5212、及びJIS R 5213に規定された各種混合セメント、JISに規定された以上の混和材混入率で製造した高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、石灰石粉末等を混合したフィラーセメント等が挙げられ、これらのセメントを1種以上使用可能である。セメントはより長期強度発現を向上させる必要があれば使用することが好ましい。
【0022】
セメントの使用量は、カルシウムアルミネートとセッコウの合計100部に対して10〜2,000部が好ましく、50〜1,500部がより好ましい。セメントの使用量が少ないと強度発現の向上効果が期待できないおそれがあり、過剰に使用すると初期強度発現が弱くなるおそれがある。
【0023】
無機微粉末の粒度は、通常ブレーン比表面積で4,000cm/g以上であることが好ましく、10,000cm/g以上であることがより好ましい。
【0024】
無機微粉末の使用量は、カルシウムアルミネートとセッコウの合計100部に対して0.5〜100部が好ましく、2〜50部がより好ましい。無機微粉末量が少ないと材料分離抵抗性の向上や硬化組織の緻密化が期待できないおそれががあり、過剰に使用すると強度発現性が低下するおそれがある。
【0025】
亜硝酸塩は、塩化物イオンが存在する環境下の鋼材に対して防錆効果を有する。亜硝酸塩は特に限定されないが、例えば、亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸マグネシウム、及び亜硝酸バリウム等が挙げられ、これらの亜硝酸塩を1種以上使用可能である。これらの亜硝酸塩の中では、安価で手に入りやすく、アルカリ骨材反応に対しても悪影響を与えない点で、亜硝酸リチウム及び/又は亜硝酸カルシウムが好ましい。
【0026】
亜硝酸塩の使用量は、結合材100部に対して2〜100部が好ましく、7〜70部がより好ましい。亜硝酸塩量が少ないと鉄筋の防錆効果が期待できないおそれがあり、過剰に使用すると強度発現性が低下するおそれがある。
【0027】
亜硝酸塩は粉体を使用してもよく、水溶液を使用してもよい。
【0028】
アミンは特に限定されないが、例えば、ベンゾトリアゾール、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N−メチル−エタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−硬化牛脂アルキル−1.3−ジアミノプロパン、オクタデシルアミン、及びオクタデシルアミン酢酸塩が挙げられ、これらのアミンを1種以上使用可能である。これらのアミンの中では、安価で入手しやすい点で、トリエタノールアミンが好ましい。
【0029】
アミンの使用量は,結合材100部に対して0.05〜5部が好ましく、0.2〜3部がより好ましい。アミンが少ないと十分な効果を発揮できないおそれがあり、過剰に使用しても更なる効果は期待できず、不経済なおそれがある。
【0030】
タングステン酸又はその塩は、塩化物イオンが存在する環境下の鋼材に対して防錆効果を有する。タングステン酸塩としては特に限定されないが、例えば、タングステン酸、タングステン酸カルシウム、タングステン酸マグネシウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、及びタングステン酸リチウム等が挙げられ、これらのタングステン酸又はその塩を1種以上使用可能である。
【0031】
タングステン酸又はその塩の使用量は、結合材100部に対して0.1〜20部が好ましく、0.3〜10部がより好ましい。タングステン酸又はその塩の使用量が少ないと十分な防錆効果を発揮できないおそれがあり、過剰に使用しても更なる効果が期待できず、不経済なおそれがある。
【0032】
モリブデン酸又はその塩は特に限定されないが、例えば、モリブデン酸、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、及びモリブデン酸リチウム等が挙げられ、これらのモリブテン酸又はその塩を1種以上使用可能である。
【0033】
モリブデン酸又はその塩の使用量は、水硬性成分100部に対して0.1〜20部が好ましく、0.3〜10部がより好ましい。モリブンデン酸又はその塩の使用量が少ないと十分な防錆効果を発揮できないおそれがあり、過剰に使用しても更なる効果が期待できず、不経済なおそれがある。
【0034】
本発明では、塩化物イオンが存在する環境下の鋼材に対して防錆効果を有する、亜硝酸塩、アミン、タングステン酸又はその塩、及びモリブデン酸又はその塩を1種以上使用可能である。
【0035】
凝結遅延剤は特に限定されないが、例えば、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、及びリンゴ酸等のオキシカルボン酸、リン酸、ホウ酸、並びに、これらのオキシカルボン酸、リン酸、及びホウ酸のリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びバリウム塩、並びに、蔗糖及び果糖等の糖類が挙げられ、これらの凝結遅延剤を1種以上使用可能である。
【0036】
これらの凝結遅延剤に炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、アルミン酸塩、及びケイ酸塩等を組み合わせたものも使用可能である。
【0037】
更に、オキシカルボン酸とその塩は、防錆効果のあるタングステン酸塩及びモリブデン酸塩等と錯体を形成し鋼材表面を被覆する作用もあり、相乗的な防錆効果を有する。
【0038】
凝結遅延剤の使用量は、カルシウムアルミネートとセッコウの合計100部に対して0.1〜2部が好ましく、0.3〜1部がより好ましい。凝結遅延剤の使用量が少ないと充分な可使時間が確保できない場合があり、過剰に使用すると強度発現性を阻害するおそれがある。
【0039】
ポリマーは特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及び天然ゴム等のゴムラテックス、ポリアクリル酸エステル、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、及びアクリロニトリル−アクリル酸エステル等のアクリル酸エステル系共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−ベオバ共重合体、酢酸ビニル−ベオバ−アクリル共重合体等の樹脂エマルジョン等が挙げられ、これらのポリマーの1種以上が使用可能である。ポリマーの形態としては、再乳化型粉末タイプや液体タイプ等が挙げられる。ポリマーは、モルタルの跳ね返り防止や下地部分との付着性改善、更にモルタルの耐久性向上のために使用される。
【0040】
これらのポリマーの中では、アクリル酸エステル系共重合体、スチレン−ブタジエン系ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル共重合体、及び酢酸ビニル−ベオバ−アクリル共重合体の1種以上が好ましく、アクリル酸エステル系共重合体、酢酸ビニル−ベオバ、及び酢酸ビニル−ベオバ−アクリル共重合体の1種以上がより好ましい。
【0041】
ポリマーの使用量は、水硬性成分100部に対して2〜15部が好ましく、4〜10部がより好ましい。ポリマーの使用量が少ないと付着強度が不足し、リバウンドが増加するおそれがあり、過剰に使用しても更なる効果の向上が期待できないおそれがある。
【0042】
本発明では、例えば、吹付け組成物に水を加えた吹付けペーストとして鉄筋に吹付けて塗布する。水の使用量は特に限定されないが、鋼材に塗布しても著しく流れ落ちなければよい。具体的には、水硬性成分100部に対して水20〜200部が好ましく、35〜100部がより好ましい。水の量が少ないと硬すぎて塗布できないおそれがあり、過剰に使用しても粘性が小さすぎて鋼材からだれ落ちるおそれがある。
【0043】
本発明の防錆処理方法は、吹付けペーストを鋼材に吹付けることが可能であれば特に限定されるものではない。例えば、コンクリートの劣化部をはつり取り、鋼材を露出させ、リシンガン等を用いて吹付けペーストを鋼材に吹き付ける方法や、リシンガン等で吹き付けた後にコテ、ヘラ、刷毛、又はローラー等で塗布する方法が挙げられる。又、吹付けノズルの手前にY字管を接続し、一方から吹付けペーストからカルシウムアルミネートとセッコウを除いた組成物を輸送し、もう一方から空気輸送されたカルシウムアルミネートとセッコウの混合物を合流混合し、吹付ける方法も挙げられる。塗布厚については特に限定するものではないが、異形鉄筋等に塗布する場合は異形部の凹凸がなくならない程度に塗布すればよい。概ね0.1〜0.5mmが適切である。
【0044】
本発明の吹付け組成物や吹付けペーストの混合方法は特に限定されないが、全ての原料を一度に混合しても良く、材料の一部を予め混合し、更に他の成分を混合してもよい。材料の一部を予め混合し、更に他の成分を混合する方法としては、例えば、亜硝酸リチウム水溶液を使用した場合には、カルシウムアルミネート、セッコウ、及びセメント等の粉状成分をドライミックスし、空練りし、圧送し、水や亜硝酸リチウム水溶液と合流混合させる乾式混合法、セメント、水、及び亜硝酸リチウム水溶液を混練したペーストに、カルシウムアルミネート及びセッコウの混合物を合流混合させる湿式混合法等が挙げられる。
【0045】
本発明は、公知のセメント添加剤、例えば、減水剤、AE剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、収縮低減剤、防凍剤、増粘剤、繊維類、抗菌剤、及び撥水剤等を本発明の効果を阻害しない範囲で併用してもよい。
【実施例1】
【0046】
カルシウムアルミネート100部に対して表1に示す量のセッコウ、カルシウムアルミネートとセッコウの合計100部に対して凝結遅延剤0.8部、固形分で亜硝酸塩10部、水70部を加え、ヘラを使って手練りで20秒間攪拌して吹付けペーストとし、得られた吹付けペーストの硬化時間の測定を行った。更に、リシンガンで吹付けた硬化体からサンプリングした試料を用いて圧縮強度と防錆性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0047】
(使用材料)
カルシウムアルミネートA:C12A7組成の非晶質カルシウムアルミネートを主体、CaO48%、Al52%、ブレーン比表面積6,000cm/g
カルシウムアルミネートB:CA組成の非晶質カルシウムアルミネートを主体、CaO35%、Al63%、SiO等2%、ブレーン比表面積6,000cm/g
カルシウムアルミネートC:C3A組成の非晶質カルシウムアルミネートを主体、CaO61%、Al37%、SiO等2%、ブレーン比表面積6,000cm/g
カルシウムアルミネートD:C12A7組成の結晶質カルシウムアルミネートを主体、CaO47%、Al51%、SiO等2%、ブレーン比表面積6,000cm/g
カルシウムアルミネートE:C2。5A組成の非晶質カルシウムアルミネートを主体、CaO56%、Al42%、SiO等2%、ブレーン比表面積値6,000cm/g
カルシウムアルミネートF:C1。2A組成の非晶質カルシウムアルミネートを主体、CaO39%、Al59%、SiO等2%、ブレーン比表面積6,000cm/g
カルシウムアルミネートG:CA組成の非晶質カルシウムアルミネートを主体、CaO22%、Al78%、ブレーン比表面積6,000cm/g
セッコウ:無水セッコウ、市販品、ブレーン比表面積値4,000cm/g
凝結遅延剤:クエン酸ナトリウム、市販品
亜硝酸塩:亜硝酸リチウム水溶液、固形分40%、市販品
【0048】
(試験方法)
硬化時間:吹付け組成物をカップ内で手練りしてから刷毛で塗れなくなるまでの時間を測定した。
圧縮強度:JIS R 5201に準拠し、4cm×4cm×16cmの直方体の供試体を用いて測定した。
防錆性:JHS 415(日本道路公団規格、鉄筋防錆材の品質規格試験方法)の防錆性試験の方法に準拠した。鋼材の錆び、ふくれ、はがれ、われが無いかを確認した。錆び、ふくれ、はがれ、われが相当ある場合を×、少しある場合を△、ない場合を×とした。
【0049】
【表1】

【実施例2】
【0050】
カルシウムアルミネートA100部に対してセッコウ100部、結合材(カルシウムアルミネート、セッコウ、セメント、及び無機微粉末の合計)100部に対して表2に示す量の凝結遅延剤を加えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【実施例3】
【0052】
カルシウムアルミネートA100部に対してセッコウ100部、結合材100部に対して凝結遅延剤0.8部、固形分で表3に示す量の亜硝酸塩を加えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【実施例4】
【0054】
カルシウムアルミネートA100部に対してセッコウ100部、結合材100部に対して凝結遅延剤0.8部、表4に示す量のアミンを加えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0055】
(使用材料)
アミン:トリエタノールアミン、市販品
【0056】
【表4】

【実施例5】
【0057】
カルシウムアルミネートA100部に対してセッコウ100部、結合材100部に対して凝結遅延剤0.8部、表5に示す量のタングステン酸塩を加えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表5に示す。
【0058】
(使用材料)
タングステン酸塩:タングステン酸カリウム、市販品
【0059】
【表5】

【実施例6】
【0060】
カルシウムアルミネートA100部に対してセッコウ100部、結合材100部に対して凝結遅延剤0.8部、表6に示す量のモリブデン酸塩を加えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。
【0061】
(使用材料)
モリブデン酸塩:モリブデン酸カリウム、市販品
【0062】
【表6】

【実施例7】
【0063】
カルシウムアルミネートA100部に対してセッコウ100部、カルシウムアルミネートとセッコウの合計100部に対して表7に示す量のセメントと無機微粉末、凝結遅延剤0.8部、結合材100部に対して固形分で亜硝酸塩10部、水70部を加えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表7に示す。
【0064】
(使用材料)
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
無機微粉末:シリカフューム、市販品、BET比表面積10m/g
【0065】
【表7】

【実施例8】
【0066】
カルシウムアルミネートA100部に対してセッコウ100部、結合材100部に対して凝結遅延剤0.8部、固形分で亜硝酸塩10部、表8に示す量のポリマーを加えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表8に示す。
【0067】
(使用材料)
ポリマー:酢酸ビニル−ベオバ−アクリル共重合体、市販品
【0068】
(測定項目)
付着強度:厚さ0.8mm×縦150mm×横70mmの鋼板(JIS G 3141 SPCC−SB)を紙やすりで磨き、内径50mm×厚さ10mmの塩ビ管を中心に固定し、吹付け組成物をその内部に厚さ5mm程度となるように充填した。それを温度20℃、湿度60%で28日間養生し付着強度を測定した。付着強度は建研式で測定した。
【0069】
【表8】

【実施例9】
【0070】
カルシウムアルミネートA100部に対してセッコウ100部、結合材100部に対して凝結遅延剤0.8部、亜硝酸塩(固形分)、アミン、タングステン酸塩、及びモリブデン酸塩を表9に示す量加えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表9に示す。
【0071】
【表9】

【実施例10】
【0072】
カルシウムアルミネートA100部に対してセッコウ100部、カルシウムアルミネートとセッコウの合計100部に対して凝結遅延剤0.8部、表10に示す量のセメントと無機微粉末とポリマー、結合材100部に対して固形分で亜硝酸塩10部、水70部を加えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表10に示す。
【0073】
【表10】

【実施例11】
【0074】
直径10cm×高さ20cmの円柱状型枠において、中心部に長さ30cmのD13鉄筋を固定した断面修復材充填用型枠を作製した。その鉄筋表面に表11に示す実験No.の吹付け組成物を塗布し、15分後に断面修復材(水/断面修復材比=10%)を充填した。材齢28日、3ヶ月、6ケ月、1年後に、鉄筋表面から5mmまでの防錆効果を発揮できる有効成分濃度を測定した。結果を表11に示す。
【0075】
尚、比較のために、防錆効果を発揮する材料(以下、防錆材料という)を単独又は水溶液として鉄筋に塗布した場合、セメントペースト(水/セメント比=70%)に防錆材料を含有した組成物を鉄筋に塗布した場合についても評価した。
【0076】
(使用材料)
断面修復材:ポリマーセメントモルタル、市販品
【0077】
(測定方法)
防錆成分濃度:断面修復材を充填して硬化した円柱状試験体を鉄筋軸方向に割裂し、中心部に埋め込んだ鉄筋表面部を暴露し、その鉄筋表面から5〜10mmの間の断面修復部のモルタルをタガネではつり取り、採取した。採取したモルタルを微粉砕し、熱水処理し、有効成分を抽出し、下記方法で有効成分濃度を測定した。
亜硝酸塩の場合はイオンクロマトグラフィー法により亜硝酸イオン濃度を測定した。
アミン塩の場合は液体クロマトグラフィー法によりアミン濃度を測定した。
タングステン酸塩とモリブデン酸塩はイオンクロマトグラフィー法によりカリウムイオン濃度を測定した。
【0078】
(使用材料)
防錆材料A:亜硝酸リチウム40%水溶液、市販品
防錆材料B:トリエタノールアミン、試薬1級
防錆材料C:セメントペースト、タングステン酸カリウムをセメント100部に対して1.0部含有
防錆材料D:セメントペースト、モリブデン酸カリウムをセメント100部に対して1.0部含有
防錆材料E:セメントペースト、亜硝酸リチウムをセメント100部に対して固形分で1.0部含有
【0079】
【表11】

【実施例12】
【0080】
表12に示す実験No.の配合組成からカルシウムアルミネート、セッコウ、及び凝結遅延剤を除いた組成物を練り混ぜ、スクイズポンプで圧送する一方で、カルシウムアルミネート100部とセッコウ100部を混合した粉体を空気輸送し、ノズル手前に設けたY字管により両者を合流混合し、吹付け、圧縮強度と防錆性能試験を測定した。結果を表12に示す。
【0081】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の吹付け組成物及びそれを用いた防錆処理方法を使用することにより、凝結時間を短くし、適度な粘性も有し、短時間で十分な強度発現を得ることが可能となるため、塗布した時の防錆成分の流出を抑えられる。又、短時間で有効成分が鉄筋周囲で固定化されるので鉄筋近傍の有効成分濃度の低下が抑制できる。更に、本発明の組成物は露出した鉄筋に塗布するだけなので使用量が少なくコスト的に有利で、長期にわたり十分な防錆効果を発揮するため、土木及び建築用途の鉄筋コンクリートの防錆に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硝酸塩、アミン、モリブデン酸又はその塩、及びタングステン酸又はその塩から選ばれる1種以上、CaO63〜21%及びAl37〜79%を含有するカルシウムアルミネート、並びにセッコウを含有する吹付け組成物。
【請求項2】
凝結遅延剤を含有する請求項1記載の吹付け組成物。
【請求項3】
セメント及び/又は無機微粉末を含有する請求項1又は請求項2記載の吹付け組成物。
【請求項4】
ポリマーを含有する請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の吹付け組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の吹付け組成物と水を含有する吹付けペースト。
【請求項6】
請求項5記載の吹付けペーストを鋼材に吹付けることを特徴とする防錆処理方法。

【公開番号】特開2006−16261(P2006−16261A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196252(P2004−196252)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】