説明

周期運動体の状態監視方法、状態監視システム、状態監視プログラム

【課題】的確な基準を以って高感度の異常検知を可能とし周期運動体の劣化状況を的確に判定することができる状態監視方法を提供する。
【解決手段】時系列データをARMAモデルに当てはめ、パラメータの推定値と正常値との乖離度をシステムパラメータ間距離として簡易計算手法により求め、周期運動体の状態を監視する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期運動体の状態監視方法、状態監視システム及び状態監視プログラムに関する。本発明が対象とする周期運動体には、例えば、工場内の設備に用いられる転がり軸受けや歯車等があり、本発明はこのような周期運動体の状態が正常であるかどうか簡易に判断するための方怯、システム、プログラムを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
大型設備を有する鉄鋼業界等では,突発的に発生する設備故障でラインが停止すると,設備稼働率の低下,次工程への材料供給不足,納期が切迫している受注物件の納期遅れ等多大な損害が発生する。
【0003】
そこで,これらの事態を防止するための設備異常検知は,重要な役割を果たす。従来は時間基準保全(Time Based Maintenance : TBM )が主流をなしていたが、近年は設備監
視のハードウェア・ソフトウェアの性能アップも相まって、状態基準保全( Condition Base d Maintenance : CBM )が主流となってきた。こちらの方が、部品コスト低減、保全コスト低減、故障率低減につながるからである。保全を行なうと、保全後の初期故障を生じる確率が高くなるため、保全しなくても良いものも定期保全で保全したために初期故障を生じたりすることがある。部品の状態がよければできるだけ保全しない方がよいといえる。 CBM の方が求められる所以である。
【0004】
CBM に移行してくると,異常の兆候をできるだけ速やかに捉えることが求められる。そのための手法として,現在様々なものが検討されているが,業態や分野によってその指標も異なってくる。
【0005】
CBM においては常に設備を監視して,センサ類で収集したデーク群を処理することになる。そこではオンラインか擬似オンラインでの処理が必要である。異常検知手法としては従来感度の良い指標として Kurtosis 値、 Bicoherence 値(特許文献1、特許文献2)な
どのほか、時系列をAR( Auto Regressive ;自己回帰)モデルに当てはめ,システムパ
ラメータを推定し,そのシステムパラメータの正常値からの季離度などを計算する方法(特許文献3、非特許文献1)やARMA( Auto Regressive Moving Average Model ;自己回帰移動平均)モデル(特許文献4、特許文献5、特許文献6)が用いられてきた。
【特許文献1】竹安数博:周期運動体の監視方法,特公昭 62- 60011 , ( 1987 )
【特許文献2】竹安数博:周期運動体の監視方法,特公昭 64-4611 , ( 1989 )
【特許文献3】竹安数博:周期運動体の監視方法,特公平 1-24246、(1989)
【特許文献4】竹安数博:パラメータ推定方法、状態監視方法、パラメータ推定装置、状態監視装置、状態監視システム、コンピュータプログラム、及び記録媒体、特開2004-295639、(2004)
【特許文献5】竹安数博:パラメータ推定方法、データ予測方法、パラメータ推定装置、データ予測装置、コンピュータプログラム、及び記録媒体、特開2004-302690、(2004)
【特許文献6】竹安数博:パラメータ計算方法、状態監視方法、パラメータ計算装置、状態監視装置、状態監視システム及びコンピュータプログラム、特開2004-295639、(2004)
【非特許文献1】K.Takeyasu, Y.Ishii "System Parameter Distance for Machine Diagnosis", IFORS, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、時系列解析においては普遍的とも言えるARMAモデルによるシステムパラメータ推定時に簡易計算方法を導入し、現場でも簡便に設備診断ができる方法を導出・提示する。
ARMAモデルにおいては、そのシステム同定はARモデルと異なりYule-Walker方程式を解
いて解析的に求めることはできない。ブートストラップ法等を用いた繰り返し計算アルゴリズムによることになる。しかし、その方法の収束性は必ずしも良くなかった。
一方キュムラントを用いれば、3次白色の性質を利用して3次相関のYule-Walker方程式
で解析的に解くことができる。しかしながらMA部分は繰り返し計算となる。
本発明は、キュミュラントが4次白色であることに着目し、4変数の関係を用いれば、キュムラントも自己相関関数の組み合わせで解析的に計算できることを明らかにする。また数値計算で用いた2次のモデルではMA部分も解析的に導出されることを示す。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の解決手段は、離散時系列における(p、q)次のARMA(自己回帰移動平均)モデル
【数1】

正常時は、
【数2】

とし、
系の異常が進展していった時のパラメータ推定値を
【数3】

とおき、
正常時のシステムパラメータと異常推定時のシステムパラメータ間距離Jをもって、監
視するシステムにおいて、周期運動体の振動の変位を示すN個の信号からなる信号列を取
得し、前記信号列中に正常信号列よりも絶対値がS倍大きい大信号がm個の信号ごとに含まれるときに、前記信号列のシステムパラメータ間距離Jを、4変数の関数用いて、
【数4】

で求めて、周期運動体の状態を監視することを特徴とする、周期運動体の状態監視方法とするものである。
【0008】
前項において、ARモデルの1次遅れ2次遅れ、3次遅れ、4次遅れの自己相関係数ρ1、ρ2、ρ3、ρ4は、
【数5】

【数6】

【数7】

【数8】

【数9】

一方、MAパラメータb1,b2については、
【数10】

【数11】

【数12】

から得られた、J値を用いて
周期運動体の状態を監視することを特徴とする、周期運動体の状態監視方法に関するものである。
【0009】
第2の解決手段は、これらの周期運動体の監視方法を転がり軸受け又は歯車に適応することとする。
【0010】
第3の解決手段は、第1、第2の解決手段を周期運動体の状態監視装置を備えたシステムにすることである。
【0011】
第4の解決手段は、第1、第2の解決手段を周期運動体の状態監視装置及び該状態の表示部を備え、監視する工程を備えたプログラムとすることにある。
更に、p=q=3の場合にでも、適用できるように、1次から6次の自己相関関数を用いたJ値でもって、周期運動体の状態監視方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、現場でも効果的に活用できる設備診断の簡易手法として、時系列データを
ARMA モデルに当てはめ、パラメータの推定値と正常値との乖離度をシステムパラメータ間距離として、簡易計算手法により導き出した。
ARMA モデルにおいては、そのシステム同定は AR モデルと異なりYule-Walker方程式を
解いて解析的に求めることはできない。ブートストラップ法等を用いた繰り返し計算アルゴリズムによることになる。しかし、その方法の収束性は必ずしも良くなかった。
一方キュムラントを用いれば、 3 次白色の性質を利用して 3 次相関のYule-Walker方程式で解析的に解くことができる。しかしながら MA 部分は繰り返し計算となる。
本発明では、キュミュラントが 4 次白色であることに着目し、 4 変数の関係を用いれば、キュムラントも自己相関関数の組み合わせで解析的に計算できることを見出した。また数値計算で用いた 2 次のモデルでは MA 部分も解析的に導出されることを示した。そし
て結果の分析により手法の有効性を確認した。このため、周期運動体の劣化状況を的確に判定することができ、高感度の異常検知が可能となり、今後の設備診断の信頼性向上に寄与することができるものと考えられる。本手法は電卓を用いてもできる簡便なものであり、現場において効果的に活用することができる。また、マイコンチップ等に組み込むことによりリアルタイムに簡易に設備異常検知を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
時系列データを離散時間線形モデルへあてはめて分析するときは、 AR モデルや ARMA モデルを活用することが多い。本論文では時系列解析においては普遍的とも言える ARMA モデルを用いて検討する。
(p、q)次の ARMA(Ahtoregressive Moving Average Model;自己回帰移動平均)モデ
ルは一般に下記ように表記される。
【数13】

また、(1) 式における MA 過程は可逆条件を満たすものとする。
次に、システムパラメータ間距離を計算する。
現代制御理論において、系の状態空間表現を行い、 ARMA 過程表現に落とし込むと p≦q となることは周知である。 以下、簡単のため p = q とする。
【数14】

【数15】

【数16】

上記の J 値の推移をみることによって正常時から所定の乖離度となったとき系を異常と
判断する(図 1 )。このようにして異常検知を行なうことができる。
【0014】
基礎的な準備として、関係式を示す。
軸受、歯車等の回転体においては劣化が進行するに従って振動が大きくなる。また、据付等が不適切な場合にも振動が大きくなることは一般的によく知られている。計測対象から

【数17】

分散σ2は
【数18】

で表される。
3 次モーメント MT ( 3)、 4 次モーメントMT(4)はそれぞれ次のように表される。
【数19】

【数20】

3 次モーメント、 4 次モーメントを正規化したものは、それぞれ歪度 Skewness (SK)、
尖度 Kurtosis(KT)として知られている。
【数21】

【数22】

これらを離散時間系で記述すると次のようになる。
サンプリング時間間隔をΔtとすると、離散時間データは
【数23】

【数24】

【数25】

【数26】

【数27】

【数28】

【数29】

となる。
【0015】
一方、キュムラントについて、特性関数Ψ( u )は次のように定義される。
【数30】

特性関数を Taylor展開し、各項、係数を c ( n ) とすると
【数31】

【数32】

となる。この c (n)をキュムラントと呼ぶ。キュムラントとモーメントとの間には次の
ような関係が存在する。
【数33】

【数34】

【数35】

【数36】

確率密度関数が正規分布のとき、 3 次以上の高次キュムラントは 0 になることが周知である。
【0016】
2次の自己相関関数について、4つの変数に関する関数式
【数37】

の関係を用いて、x ( t ) , x ( t +τ1) , x ( t +τ2) , x ( t +τ3) について考
えると、
【数38】

【数39】

である。
ここで、τ2=τ1、τ3=0とおくと、
【数40】

とおくと、
【数41】

となる。これは相関関数の相関関数、つまり 2 次の相関関数ともみることができる。
【0017】
4次キュムラントと自己相関関数を活用したARMAモデルのパラメータ推定について、説明すると、
まず、4次キュムラントに対するYule-Walker方程式を用いたARパラメータが推定について述べ、ついで自己相関関数を用いたARMAパラメータ推定アルゴリズムを示す。
ARパラメータ推定について
確率変数が正規分布に従うとき4次キュムラントは0となる。

【数42】

(42)式を書き直すと
【数43】

を得る。
ここで
【数44】

の4次キュムラントである。

【数45】

を得る。
これを
【数46】

【数47】

【数48】

【数49】

(1)2次の場合
【数50】

【0018】
自己相関関数の簡易計算方法について、
振動信号を離散時間系で記述すると、信号データをサンプリングしたものとして、

【数51】

【数52】

である。
自己相関関数は次のように定義される。
【数53】

そのため式(53)は
【数54】

と書き変えることができる。Nが十分大きいとき0次の自己相関関数は分散にnearly equalである。自己相関係数は
【数55】

と表される。
回転体に傷がついた場合等には、回転周期ごとにピーク波形が生じる。サンプリングしたデータの回ごとに通常のS倍のピークをもつ信号が現れるものと仮定する。なお、サンプリング間隔の定め方についてはサンプリング定理にもとづく決定方法が周知であるが、ここでは、明確化するために単純化している。
m回ごとに通常のS倍の信号が生ずると仮定する。また、特別なピーク(S倍の信号)時以外の平均、分散は通常時の平均、分散と同じであると仮定する。

【数56】

【数57】

を得る。
【0019】

【数58】

【数59】

【数60】

【数61】

【数62】

【数63】

となる。<Case 1>と同様にして
【数64】

【表1】

【0020】

【数65】

【数66】

【表2】

【数67】

【数68】

【表3】

【0021】

【数69】

【数70】

【表4】

【0022】
一般的にARMAモデルのMA部分は下記のように非線形方程式となる。
(1)式において
【数71】

とおくと
【数72】

【数73】

【数74】

【数75】

【数76】

【数77】

【数78】

【数79】

【数80】

【数81】

したがって
【数82】

【数83】

式(71)より
【数84】

【数85】

【数86】

【数87】

が得られる。
以上のように (2,2)次のARMAモデルを解析的に解くことができる。ARMAモデルにおいて1次から4次の自己相関関数を計算するだけで求めることができる。
【0023】
ARパラメータの推定について、

【表5】

【0024】
MAパラメータの推定について、

【数88】

したがって、式(55)より
【数89】

したがって
【数90】

【表6】

【0025】
いま、パラメータの正常値ai、biを、推定値ai、biをとし、評価関数として前記Jを用いる。
【数91】

【数92】

したがって
【数93】

【数94】

の関係を利用して
【数95】

【数96】

【数97】

【数98】

となる。
【0026】

【表7】

【0027】
(2)3次の場合
式(44)より、i=0とすると
【数99】

(99)
したがって
【数100】

(100)
以上の関係を用いるとパラメータaの値は、下記のように表すことができる。
【数101】

(101)
【0028】
次に、5次遅れの自己相関係数について、記載する。

【数102】

(102)

【数103】

(103)
S=2,4,6の場合の簡易数値計算を同様に行い、その値の変遷結果を表8に示す。
いま、前節の仮定の下で、m=12,N=100とすると結果は次表のようになる。
【表8】

【0029】
次に、6次遅れの自己相関係数について、記載する。

【数104】

(104)

【数105】

(105)

S=2,4,6の場合の簡易数値計算を同様に行い、その値の変遷結果を表9に示す。
いま、前節の仮定の下で、m=12,N=100とすると結果は次表のようになる。
【表9】

【0030】
次に、ARMAモデルのMA部のパラメータ推定について、記載する。
一般的にARMAモデルのMA部分は下記のように非線形方程式となる。
(1) 式において
【数106】

(106)
とおくと
【数107】

(107)

【数108】

(108)
【数109】

(109)
となることは周知である。
【0031】
これは一般的には繰り返し演算法で解くなどのアルゴリズムが開発されている。
今回必要となるのはパラメータがb1b2のみであるので、下記のように解くことができる。
q=3の場合
【数110】

(110)
【数111】

(111)
【数112】

(112)
【数113】

(113)
【数114】

(114)

【数115】

(115)
【数116】

(116)
【数117】

(117)
【数118】

(118)
【0032】
したがって
【数119】

(119)
【数120】

(120)
【数121】

(121)
ここで、式(106)より
【数122】

(122)
【数123】

(123)
【数124】

(124)
【0033】
これらの値を式(119)(120)(121)に代入して、b1,b2,b3の値を求めることができる。
以上のように (3,3)次のARMAモデルを解析的に解くことができる。ARMAモデルにおいて1次から6次の自己相関関数を計算するだけで求めることができる。
【0034】

【表10】

【0035】

定常エルゴード的正規過程より、平均0、分散1と仮定しても一般性を失わないため、
【数125】

(125)
したがって、式(55)より
【数126】

(126)
したがって
【数127】

(127)

なお、正常時に解を持つ後述の式(139)(140)の場合のみ記載。
【表11】

【0036】
次に、正常値との乖離度の計算について、記載する。

p=3であるから
【数128】

(128)
上記のJ値の推移をみることによって正常時から所定の乖離度となったとき系を異常と判断する(図1)。このようにして異常検知を行なう。
【0037】
(1)ARパラメータ

【数129】

(129)
【数130】

(130)
【数131】

(131)
S=1のとき、式(64)、(66)、(68)より
【数132】

(132)
のため
【数133】

(133)
のとき
【数134】

(134)
の関係を利用して
【数135】

(135)
【数136】

(136)
【数137】

(137)
となる。
【0038】
(2)MAパラメータ
S=1のとき正常値であると考えられる。
ここで、式(126)、(127)ならびに式(64)、(66)、(68)、(70)、(103)、(105)より
【数138】

(138)
したがって、式(122)、(123)、(124)に式(135)、(136)、(137)のa1,a2,a3の値を代入し、上記と同様にして、式(119)(120)(121)からパラメータb1,b2,b3の正常値を求めることができる。
【0039】
式(119)において、次式の場合分子、分母とも0となり、式(133)及び(134)の関係式を用いて、
【数139】

(139)
の場合に解を持ち、そのときは、次式となる。
【数140】

(140)
以上の式(139)(140)に式(133)(134)の関係式を用いて、

【数141】

(141)
【数142】

(142)
【数143】

(143)
となる。
【0040】
評価関数の計算としては、表10、表11の値を用いて評価関数J値の計算を、式(128)を用いて行うと、次表12のようになる。
【表12】

表12および図3の評価関数Jの推移をみると、Sの値が大きくなるにしたがい、評価関数であるシステムパラメータ間距離Jは順次大きくなっていき、したがって異常検知の指標として用いることができる。
【0041】
以下に、本件プログラムの実施の一例を示す。
図4は、本発明の状態監視システムの構成を示すブロック図である。本発明の状態監視システムは、転がり軸受け又は歯車等の周期運動体である工場内の設備の状態を監視し、設備に異常が生じた場合は警報を発するべく運用される。設備には、振動などの設備の状態を計測するセンサ 31 が設けられている。センサ 31 は、データ取得装置 32 に接続されており、計測データをデータ取得装置 32 へ入力すべく構成されている。データ取得装置 32 は、センサ 31 から入力された計測データを所定の周期でサンプリングし、複数の信号からなる信号列を作成し、作成した信号列から各種のデータを取得する機能を有している。データ取得装置 32 は、工場内に備えられた通信ネットワークNWに接続され、通信ネットワークNWは本発明の状態監視装置 1 に接続されており、データ取得装置 32 は、取得したデータを通信ネットワークNWを介して状態監視装置 1 へ送信する。
【0042】
状態監視装置1は、コンピュータを用いて構成され、演算を行う CPU (演算部) 11 と、演算に伴って発生する一時的な情報を記憶する RAM (記憶部) 12 と、 CD−ROM ドライブ等の外部記憶装置 13 と、ハードディスク等の内部記憶装置 14 とを備えており、 CPU11 は、 CD−ROM 等の本発明の記録媒体 2 から本発明のコンピュータプログラム 20 を外部記憶装置 13 にて読み取り、読み取ったコンピュータプログラム 20 を内部記憶装置 14 に記憶し、 RAM12 にコンピュータプログラム 20 をロードし、ロードしたコンピュータプログラム 20 に基づいて状態監視装置 1 に必要な処理を実行する。また、状態監視装置 1 は、工場内の通信ネットワーク NW に接続された入力部 15(受付部)を備えており、 CPU11は、通信ネットワーク NW を介してデータ取得装置 32 から送信されたデータを入力部 15 にて受信する。更に、状態監視装置 1 は、情報を外部へ出力する出力部 16 を備えており、出力部 16 は、警報装置 4 に接続され、 CPU 11 は、設備の異常を示す情報を出力部 16 から警報装置 4 へ送信する。警報装置 4 は、ブザー、ランプ、又は警報の内容を表示する表示部などを備え、状態監視装置 1 から受信した情報に従って設備の異常を報知する。
【0043】
なお、状態監視装置 1 は、通信ネットワーク NW に接続されている図示しない外部のサーバー装置から本発明に係るコンピュータプログラム 20 をダウンロードし、 CPU 11 にて処理を実行する形態であってもよい。
【0044】
図5は、1実施形態に係る本発明の状態監視システムが行う動作を示すフローチャートである。センサ 31 は、設備の稼働に伴った図6に示す如き振動などのデータを計測し、データ取得装置 32 は、センサ 31 から入力された計測データをサンプリングし( S1 01 )、複数の信号からなる信号列を取得する。データ取得装置 32 は、サンプリングの結果取得した信号列に前記信号が所定の数 N 個蓄積されたか否かを判定し( S102 )、信号が N 個蓄積されていない場合は( S102 : NO )、ステップ S101 へ処理を戻してサンプリングを継続し、信号が N 個蓄積されている場合は( S102 : YES )、取得した信号列における信号の絶対値の平均の所定倍などの所定値よりも大きい絶対値を有する大信号が前記信号列に含まれているか否かを判定する( S103 )。大信号が信号列に含まれていない場合には( S103 : NO )、データ取得装置 32 は、設備は正常であるとして処理を終了し、大信号が信号列に含まれていた場合には( S103 : YES )、データ取得装置 32 は、取得した信号列にて、他の信号の絶対値に対する大信号の絶対値の倍率S 、及び一の大信号当たりに信号列に含まれる信号数 m を計測し( S104 )、取得した信号列に含まれる信号数 N 、倍率S 及び一の大信号当たりの信号数 m を、通信ネットワーク NW を介して状態監視装置 1 へ送信する( S105 )。
【0045】
状態監視装置1の CPU 11 は、 N 、S 及び m を入力部 15 にて受信し( S106 )、コンピュータプログラム 20 を RAM12 へロードし、ロードしたコンピュータプログラム 20 に従って、受信した N 、S及び m を RAM12 に読み込み、監視対象の設備から得られた N 個の信号からなる信号列の 1次及び 2 次遅れの自己相関係数ρ1及びρ2を、数式 ( 61 )及び( 66 )を用いて計算する( S107 )。
【0046】
CPU11は、次に、 RAM12 にロードしたコンピュータプログラム 20 に従って、数式(50)を用いてパラメータ a 1 , a2 を計算し( S108 )、更に、数式(86),(87)を用いてb1、b2を計算し、数式(91)を用いて、システムパラメータ間距離 J を計算する( S109 ) 。 CPU 11 は、 RAM12 にロードしたコンピュータプログラム 20 に従って、計算したシステムパラメータ間距離 J を予め定めてある所定値と比較し、 J が所定値よりも大きいか否かを判定する(S110)。
【0047】
ステップ S110 にて J が所定値よりも大きくない場合には( S110 : NO )、 CPU 11 は、 RAM12 にロードしたコンピュータプログラム 20 に従って、監視対象の設備は正常であると判定して、処理を終了する。 J が所定値より大きい場合には( S110 : YES )、 CPU11は、 RAM12 にロードしたコンピュータプログラム 20 に従って、監視対象の設備が異常であると判定して、 J の値に応じた異常の度合いを示す異常情報を、出力部 16 から警報装置 4 へ送信し( S111 )、処理を終了する。警報装置 4 は、状態監視装置 1 から受信した異常情報に従って、ブザーを鳴らす、ランプを点灯させる、又は表示部に異常情報の内容を表示する等、設備の異常を報知し、異常であると判定された設備が手動で停止されるなどの処置が行われる。
【0048】
なお、前述の処理では、一の大信号当たりに信号列に含まれる信号数 m をデータ取得装置 32 にて計測する処理を含んでいるが、初期異常時に発生する一の大信号当たりの信号数 m は、転がり軸受けの転動体の数または歯車の数などの既知の値に対応しているため、 m の値を予め状態監視装置 1 の内部記憶装置 14 に記憶しておき、記憶している m の値を用いてシステムパラメータ間距離 J を計算する処理を用いてもよい。また、 CPU 11は、 S110 を行わずに、 S109 で計算したシステムパラメータ間距離 J を表示部に出力し、表示部がこの値を表示するようにしてもよい。この場合、オペレータがこの値を確認して設備の状態を判断することができる。
【0049】
以上詳述した如く、本発明においては、取得した信号列に大信号が含まれている場合に、信号列が含む信号数 N 、大信号の絶対値の倍率S及び一の大信号当たりに信号列に含まれる信号数 m を用いて、簡易的に 1 次及び 2 次遅れの自己相関係数ρ1及びρ2を計算し、計算したρ1及びρ2を用いてシステムパラメータ間距離 J を計算し、計算した J の値に設備の状態を判定する。この J の値は、周期運動体が正常な状態から離れるに従って大きくなるものであり、 J の値を参照することによって周期運動体の状態を適切に把握することができ、初期の段階で異常を発見することが可能になる。
【0050】
本実施形態においては、一のセンサ 31 が計測したデータに基づいて設備の状態を監視する形態を示しているが、これに限るものではなく、一の設備、又は複数の設備の夫々に複数のセンサ 31 を備え、複数のセンサ 31 の夫々をデータ取得装置 32 及び通信ネットワーク NW を介して状態監視装置 1 に接続させ、夫々のセンサ 31 が計測した夫々 のデータに基づいて一又は複数の設備の状態を監視する形態としてもよい。また、本実施形態においては、データ取得装置 32 が取得した信号を蓄積する形態を示しているが、データ取得装置 32 は取得した信号を蓄積せずに状態監視装置 1 へ送信し、状態監視装置 1 は、受信した複数の信号を蓄積し、所定数の信号が蓄積されたときに、 N , S , m の値を RAM 12 に読み込んでシステムパラメータ間距離 J を計算する処理を行う形態としてもよい。 また、本実施形態においては、状態監視装置 1 の出力部 16 に警報装置 4 が接続されている形態を示しているが、状態監視装置 1 により設備が異常であると判定された場合に設備を停止させる等の設備の制御を行う制御装置を接続させる形態としてもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、監視対象の設備が転がり軸受けであるとして主に説明を行っているが、歯車またはチェーン等、周期的な運動を行う他の設備に対しても本発明は適用できる。
【0052】
図5は、本発明の実施形態における状態監視方法を示す概念図である。本実施形態においては、電卓などの簡易的な計算装置を用いて設備の状態を把握する。設備に設けられたセンサ 31 には、オシロスコープ等のデータ表示装置 51 が接続されており、データ表示装置 51 は、センサ 31 が計測した計測データを表示する。データ表示装置 51には、図 7 ( a )、( b )に示す如きデータが表示され、設備に異常が発生した場合には、図7 ( b )に示す如き大信号が含まれるデータが表示される。図6に示すように、設備の作業員などのオペレータは、データ表示装置 51 に表示されたデータから大信号の絶対値の倍率Sを目測し、信号数 N 、倍率S及び一の大信号当たりにデータに含まれる信号数mを電卓などの計算装置 52 へ入力し、数式(61),(66),(68)及び(70)を用いて簡易的に 1次、2次、3次及び4次遅れの自己相関係数を計算し、数式(50)を用いて 2 次の AR モデルのパラメータであるa1、a2を計算し、また、数式(86),(87)を用いてb1、b2を計算し、数式(91)を用いて、システムパラメータ間距離 J を計算する。計算した J の値を以って設備の状態を判定する。
【0053】
数式(61),(66),(68),(70)の簡易的な式を用いることにより、簡単に自己相関係数ρ1、ρ2 , ρ3及びρ4を計算することが可能となり、このため、簡単にシステムパラメータ間距離 J を計算することが可能なる。従って、センサ 31 が計測した計測データを直接に観測したオペレータが電卓などの簡易的な計算装置を用いてシステムパラメータ間距離 J を計算して、設備が稼働している現場において簡単に設備の状態を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明における評価関数による異常検知の方法の概念図である。
【図2】本発明による一実施例での評価指標値Jの推移である。
【図3】本発明他実施例での評価指標値Jの推移である。
【図4】本発明の状態監視システムの構成を示すプロック図である。
【図5】本発明一実施例に係る状態監視システムが行う動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態における状態監視方法を示す概念図である。
【図7】周期振動体から得られるデータの例を示す模式的特性図である。
【符号の説明】
【0055】
1 状態監視装置
11 CPU (演算部)
12 RAM (記憶部)
15 入力部(受付部)
2 記録媒体
20 コンピュータプログラム
31 センサ
32 データ取得装置
4 警報装置
51 データ表示装置
52 計算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期運動体の振動の変位を示すN個の信号からなる信号列を取得し、前記信号列中に正
常信号列よりも絶対値がS倍大きい大信号がm個の信号ごとに含まれるときに、ARMA(自己回帰移動平均)モデルを用いて、前記信号列のシステムパラメータ間距離J(但し,
【数1】

正常時は、
【数2】

とし、
系の異常が進展していった時のパラメータ推定値を
【数3】

とし、ARパラメータa1,a2は,
【数4】

一方、MAパラメータb1,b2については、
【数5】

【数6】

ARモデルの1次遅れ、2次遅れ、3次遅れ、4次遅れの自己相関係数ρ1、ρ2、ρ3、ρ4は、
【数7】

【数8】

【数9】

【数10】

によって求められる。)を求め,
求めた距離Jの値に基づいて周期運動体の状態を監視することを特徴とする、周期運動体の状態監視方法。
【請求項2】
周期運動体は、転がり軸受け又は歯車からなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
周期運動体の振動の変位を示すN個の信号からなる信号列を取得し、前記信号列中に正
常信号列よりも絶対値がS倍大きい大信号がm個の信号ごとに含まれるときに、ARMA(自己回帰移動平均)モデルを用いて、前記信号列のシステムパラメータ間距離J(但し,
【数11】

正常時は、
【数12】

とし、
系の異常が進展していった時のパラメータ推定値を
【数13】

とし、ARパラメータa1,a2は,
【数14】

一方、MAパラメータb1,b2については、
【数15】

【数16】

ARモデルの1次遅れ、2次遅れ、3次遅れ、4次遅れの自己相関係数ρ1、ρ2、ρ3、ρ4は、
【数17】

【数18】

【数19】

【数20】

によって求められる。)を求め,
求めた距離Jの値に基づいて周期運動体の状態を監視する状態監視装置を備えた周期運動体の状態監視システム。
【請求項4】
状態監視装置は、システムパラメータ間距離Jが所定の基準値を超えているかどうかの判定を行う請求項3記載のシステム。
【請求項5】
表示部をさらに備え、前記状態監視装置は、パラメータ間距離J又は前記判定の結果を表示部に出力する請求項4記載のシステム。
【請求項6】
周期運動体の振動の変位を示すN個の信号からなる信号列を取得し、前記信号列中に正
常信号列よりも絶対値がS倍大きい大信号がm個の信号ごとに含まれるときに、ARMA(自己回帰移動平均)モデルを用いて、前記信号列のシステムパラメータ間距離J(但し,
【数21】

正常時は、
【数22】

とし、
系の異常が進展していった時のパラメータ推定値を
【数23】

とし、ARパラメータa1,a2は,
【数24】

一方、MAパラメータb1,b2については、
【数25】

【数26】

ARモデルの1次遅れ、2次遅れ、3次遅れ、4次遅れの自己相関係数ρ1、ρ2、ρ3、ρ4は、
【数27】

【数28】

【数29】

【数30】

によって求められる。)を求め,
求めた距離Jの値に基づいて周期運動体の状態を監視する工程をコンピュータに実行させることを特徴とする、周期運動体の状態監視プログラム。
【請求項7】
周期運動体の振動の変位を示すN個の信号からなる信号列を取得し、前記信号列中に正
常信号列よりも絶対値がS倍大きい大信号がm個の信号ごとに含まれるときに、ARMA(自己回帰移動平均)モデルを用いて、前記信号列のシステムパラメータ間距離J(但し,
【数31】

正常時は、
【数32】

とし、
系の異常が進展していった時のパラメータ推定値を
【数33】

とし、ARパラメータa1,a2,a3は,
【数34】

一方、MAパラメータb1,b2,b3については、
【数35】

(ただし、
【数36】

ARモデルの1次遅れ、2次遅れ、3次遅れ、4次遅れ5次遅れ、6次遅れの自己相関係数ρ1、ρ2、ρ3、ρ4、ρ5、ρ6は、
【数37】

によって求められ、
S=1が正常値として、
【数38】

また、
【数39】

となる。)を求め,
求めた距離Jの値に基づいて周期運動体の状態を監視することを特徴とする、周期運動体の状態監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−20430(P2008−20430A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316246(P2006−316246)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】