説明

周波数逓倍器、及びそれを用いた周波数シンセサイザ並びに通信システム

【課題】 小さな回路面積で3逓倍波を生成する周波数逓倍器を提供する。
【解決手段】 周波数逓倍器10は、方形波状の信号を出力する方形波出力回路12と、ポリフェーズフィルタ14を備えており、方形波出力回路12から出力された信号がポリフェーズフィルタ14に入力される。ポリフェーズフィルタ14の周波数領域の極は、方形波状の信号に含まれる第1次成分に対応するように設定される。これにより、ポリフェーズフィルタ14から、方形波状の信号の3倍の周波数を持つ正弦波を取り出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3逓倍波を生成する周波数逓倍器、及びそれを用いた周波数シンセサイザ並びに通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、3逓倍波を生成する周波数逓倍器として、入力信号を2逓倍する2逓倍器と、2逓倍器の出力を入力信号の1/8周期だけ時間シフトする遅延回路と、遅延回路の出力をベースバンド信号として、入力信号を2値位相変調する2値位相変調回路を備えたものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−218638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この周波数逓倍器は、2逓倍器で発生した2次成分が出力に漏れるのを防ぐため、出力段に2次成分を除去しつつ3次成分を通過させるBand Path Filter(BPF)を接続する必要がある。しかしながら、2次成分の周波数と3次成分の周波数は近いため、特許文献1に開示された周波数逓倍器の出力段に接続するBPFは、急峻なカットオフ特性を必要とするが、このような急峻なカットオフ特性を実現するためには、フィルタを多段に接続する必要があり、このBPFによって小面積化が阻害されてしまう、という問題があった。
【0004】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、小さな回路面積で3逓倍波を生成する周波数逓倍器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様は、周波数逓倍器に関するもので、方形波状の信号を出力する方形波出力回路と、前記方形波出力回路から出力された信号が入力され、前記方形波状の信号に含まれる第1次成分に自己の周波数領域の極を対応させた第1のポリフェーズフィルタを備えることを特徴とする。この態様によれば、第1のポリフェーズフィルタによって、方形波状の信号から第1次成分を除去することにより、方形波状の信号の3倍の周波数を持つ正弦波を取り出すことができる。ポリフェーズフィルタは、小さな回路面積で実現可能であり、また、この構成においては、急峻な周波数特性が必要なBand Path Filter(BPF)も必要としない。したがって、面積の小さな回路で3逓倍波を得ることが可能となる。
【0006】
この態様において、方形波出力回路は正弦波を入力信号とし、正弦波をクリップするリミッタ回路と、リミッタ回路の出力信号を方形波状の信号に変換する変換回路と、を備えてもよい。これにより、方形波出力回路も簡単な構成によって実現できるので、入力した正弦波から面積の小さな回路で3逓倍波を生成することができる。
【0007】
また、この態様において、前記第1のポリフェーズフィルタの前段若しくは後段に接続され、前記方形波状の信号に含まれる第5次高調波に自己の周波数領域の極を対応させた第2のポリフェーズフィルタを更に備えてもよい。これにより、方形波状の信号から、第1成分と合わせて第5次高調波も方形波状の信号から除去することができる。しかも、第2のポリフェーズフィルタは、第1のポリフェーズフィルタよりも回路面積が小さい。したがって、小さな回路面積でさらに精度のよい3逓倍波を得ることが可能となる。
【0008】
また、この態様において、前記第1のポリフェーズフィルタは可変素子を含み、前記第1のポリフェーズフィルタの極を制御可能にしてもよい。また、第2のポリフェーズフィルタを備えている場合において、この第2のポリフェーズフィルタが可変素子を含み、前記第1のポリフェーズフィルタの極を制御可能にしてもよい。これにより、方形波状の入力信号の周波数が変動するような場合でも、可変素子を制御することによって、常にポリフェーズフィルタの極を入力信号の第1次成分、若しくは第5次高調波に対応させることができる。
【0009】
本発明の別の態様は、周波数シンセサイザに関する。この周波数シンセサイザは、複数の周波数変換回路を含み、これら複数の周波数変換回路が並列もしくは縦列に接続された周波数シンセサイザであって、前記複数の周波数変換回路のうち、少なくとも1つの周波数変換回路が本発明に係る周波数逓倍器であることを特徴とする。この態様によると、ポリフェーズフィルタを利用した周波数逓倍器を適用しているので、周波数シンセサイザ内で3逓倍波が必要な場合に、小規模な回路面積で周波数シンセサイザを構成可能である。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、通信システムに関する。このシステムは、ローカル信号を発振する発振部と、発振したローカル信号と外部から受信した信号をミキシングして、所定の周波数の信号を生成する周波数変換回路と、を備え、前記発振部は、本発明に係る周波数逓倍器を含むことを特徴とする。この態様によると、発振部で3逓倍波が必要な場合に、小規模な回路面積で通信システムを構成することができる。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、小さな回路面積で入力信号の3逓倍波を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態をもとに説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る周波数逓倍器10の構成を示す図である。この周波数逓倍器10は、方形波出力回路12と、ポリフェーズフィルタ(PPF)14によって構成され、3逓倍波を生成する。
【0015】
方形波出力回路12は、多重位相の方形波を出力する。すなわち、いずれも同じ周波数F1をもち、互いに90°位相がずれた4つの方形波I+、I−、Q+、Q−を出力する。I+を基準位相とした場合、基準位相から90°進んだ波形がQ+、基準位相から180°進んだ波形がI−、基準位相から270°進んだ波形がQ−である。このような方形波を出力する方形波出力回路12は、リングVoltage Controlled Oscillators(VCO)、リング発振器、その他デジタル回路などによって実現可能である。なお、4つの方形波I+、I−、Q+、Q−の位相の関係は、ジッタなどによって若干のずれが発生してもよい。
【0016】
方形波出力回路12として、図2に示すような正弦波上の入力信号を方形波状の信号にクリップするリミッタ回路15と、リミッタ回路15によって出力された方形波状の信号から前述の4つの方形波I+、I−、Q+、Q−に変換する変換回路16によって構成されてもよい。リミッタ回路15は、インバータ回路やデジタル回路によって実現可能である。また、変換回路16は、分周器などのデジタル回路によって実現できる。ただし、変換回路16を分周器のみで実現した場合、変換された4つの方形波の周波数は、入力信号の周波数の1/2となる。そこで、入力信号の周波数と、変換回路16によって変換された4つの方形波の周波数とを同じにしたい場合は、分周器の前段に2逓倍器を設け、2逓倍器と分周器とで変換回路16を構成してもよい。なお、2逓倍器で発生した2次成分は、分周器によって除去されるため、2次成分が出力に漏れることはなく、後段にBand Path Filter(BPF)は不要である。
【0017】
一方、方形波出力回路12として、図3に示すようないずれも同じ周波数F1をもち、互いに90°位相がずれた4つの正弦波を出力する正弦波生成回路17と、4つの正弦波それぞれを方形波状の信号にクリップして、4つの方形波I+、I−、Q+、Q−を生成するリミッタ回路18によって構成されてもよい。正弦波生成回路17は、VCOやRC位相器などによって実現可能である。また、リミッタ回路18はインバータやデジタル回路によって実現できる。
【0018】
方形波出力回路12によって出力された4つの方形波I+、I−、Q+、Q−は、ポリフェーズフィルタ14に入力される。詳細については後述するが、ポリフェーズフィルタ14は、負の周波数特性で動作させたとき、その周波数特性の極に相当する周波数成分を除去または減衰させる特性を持つもので、四本の入力端子と四本の出力端子とを備え、それらを接続する四本の経路が存在する。そして、方形波Q+が第1経路の入力端子に、方形波I+が第2経路の入力端子に、方形波Q−が第3経路の入力端子に、方形波I−が第4経路の入力端子に入力される。また、本実施の形態1におけるポリフェーズフィルタ14は、その周波数特性の極Fdが、方形波出力回路12から出力された方形波の周波数F1と同じになるように調整される。
【0019】
以下、ポリフェーズフィルタの詳細について説明する。図4は、ポリフェーズフィルタの構成を示す図である。ポリフェーズフィルタ14は、前述の通り、四本の入力端子と四本の出力端子とを備え、それらを接続する四本の経路には、それぞれ抵抗R2,R4,R6,R8が設けられる。第1経路の第1抵抗R2の入力側と、第2経路の第2抵抗R4の出力側とが接続され、その経路中に第1容量C2が直列に挿入される。また、第1経路の第1抵抗R2の出力側と、第4経路の第4抵抗R8の入力側とが接続され、その経路中に第4容量C8が直列に設けられる。同様に、第2経路の第2抵抗R4の入力側と、第3経路の第3抵抗R6の出力側とが接続され、その経路中に第2容量C4が直列に設けられる。さらに、第3経路の第3抵抗R6の入力側と、第4経路の第4抵抗R8の出力側とが接続され、その経路中に第3容量C6が直列に設けられる。4つの抵抗R2、R4、R6、R8は同じ抵抗値Rを持ち、4つの容量C2、C4、C6、C8は同じ容量値Cを持つ。
【0020】
この構成において、基準位相の正弦波が第1経路の入力端子に入力され、基準位相から90°進んだ正弦波が第2経路の入力端子に入力され、基準位相から180°進んだ正弦波が第3経路の入力端子に入力され、基準位相から270°進んだ正弦波が第4経路の入力端子に入力された場合、ポリフェーズフィルタ14は正の周波数領域で動作する。
【0021】
これに対し、基準位相の正弦波が第2経路の入力端子に入力され、基準位相から90°進んだ正弦波が第1経路の入力端子に入力され、基準位相から180°進んだ正弦波が第4経路の入力端子に入力され、基準位相から270°進んだ正弦波が第3経路の入力端子に入力された場合は、ポリフェーズフィルタ14は負の周波数領域で動作する。
【0022】
図5は、ポリフェーズフィルタの正と負の周波数特性を示す図である。ポリフェーズフィルタには、図5に示すように、正および負の両方の周波数領域に極a、bが存在する。とくに、負の周波数領域には大きな減衰を伴う極a、すなわちディップ周波数が存在する。図4のポリフェーズフィルタにおいて、このディップ周波数は、1/(2πRC)となる。
【0023】
本実施形態では、前述のように、ポリフェーズフィルタ14のディップ周波数が入力方形波の第1次成分と同じ周波数となるよう調整される。つまり、ポリフェーズフィルタ14は、入力される方形波に含まれる第1次成分を除去することができる。
【0024】
ここで、3逓倍波を取り出すために、方形波に含まれる第1次成分を除去すべき事情について説明する。一例としてデューティ比50%の方形波を考える。これは奇関数であるので、含まれる高調波は奇数次数成分のみとなる。フーリエ級数展開すると下記式となる。
【0025】
E=sinω−1/3sin3ω+1/5sin5ω−1/7sin7ω+・・・
この中で振幅が最も大きいのは第1次成分である。また、高調波の中では、第3次高調波が最も振幅が大きく、第5次、第7次と次数が上がるにしたがって、振幅は小さくなっていく。特に第7次以降の高調波の振幅は無視できるほどの大きさである。よって、方形波の第1次成分を除去し、第5次高調波も無視できる程度に減衰できれば、近似的に入力方形波の3倍の周波数を持った正弦波と見なすことのできる波形を得ることができる。
【0026】
図6(a)は方形波出力回路12から出力された方形波I+、図6(b)は方形波Q+、図6(c)は方形波I−、図6(d)は方形波Q−それぞれのフェーザ図を示している。4つの方形波の位相がそれぞれ互いに90°ずれると、それぞれの1次成分(1st)も互いに90°ずれる。一方、第3次高調波(3rd)は、1次成分の3倍の位相回転量を持つため、互いに270°(−90°)ずれることになる。つまり、4つの方形波I+、I−、Q+、Q−における第3次高調波の位相関係は、1次成分のものとは逆になる。一方、第5次高調波(5th)は、1次成分の5倍の位相回転量を持つため、互いに450°(+90°)ずれることになる。すなわち、4つの方形波I+、I−、Q+、Q−における第5次高調波の位相関係は、第1次成分と同じである。
【0027】
前述のように、ポリフェーズフィルタ14には、方形波Q+が第1経路の入力端子に、方形波I+が第2経路の入力端子に、方形波Q−が第3経路の入力端子に、方形波I−が第4経路の入力端子に入力される。これにより、方形波の第1次成分と第5次高調波は負の周波数特性でフィルタリングされ、第3次高調波は正の周波数特性でフィルタリングされる。したがって、図5に示すように、方形波の第3次高調波はほぼそのままポリフェーズフィルタ14を通過して出力される。一方、ポリフェーズフィルタ14はその周波数特性の極Fdが方形波出力回路12から出力された方形波の周波数F1と同じになるように調整されているため、方形波の第1次成分は、ポリフェーズフィルタ14によって除去もしくは減衰される。また、方形波の第5次高調波もポリフェーズフィルタ14の負の周波数特性によって、若干減衰される。これによって、もともと第3次高調波よりも振幅の小さい第5次高調波の影響を、無視できる程度に小さくすることができる。このように、ポリフェーズフィルタ14の周波数特性の極を入力方形波の周波数と同じになるように調整し、第1次成分及び第5次高調波が負の周波数特性でフィルタリングされるように4つの方形波I+、I−、Q+、Q−をポリフェーズフィルタ14に接続することによって、方形波から3倍の周波数を持った正弦波を得ることができる。
【0028】
ポリフェーズフィルタを使って方形波の第1次成分を除去する場合、その第1次成分と第3次高調波成分との間で鋭い周波数選択性を持つ必要はない。すなわち、図5に示す負の周波数領域において、急峻な周波数特性を必要としない。これは、上述のように、ポリフェーズフィルタが、方形波の第1次成分と第3次高調波の動作領域がそれぞれ「正」と「負」に別れるため、急峻な周波数特性を有していなくても、第3高調波はポリフェーズフィルタをほぼそのまま通過し、第1次成分だけが除去もしくは減衰されるためである。したがって、ポリフェーズフィルタは多段化の必要がなく、小さな回路で実現可能である。
【0029】
また、図1の周波数逓倍器10において、2逓倍器を方形波生成回路12で用いた場合、第2次成分が発生するが、2逓倍器の後段にある分周器によって第2次成分は除去されるため、BPFは不要である。
【0030】
このように、本実施の形態1によれば、VCO、分周器などの回路で多重位相の方形波を生成し、周波数特性の極が生成された方形波と同じ周波数に調整されたポリフェーズフィルタで方形波をフィルタリングすることにより、小さな回路面積で、生成した方形波の3倍の周波数を持つ正弦波を得ることができる。
【0031】
(実施の形態2)
図7は、本発明の実施の形態2に係る周波数逓倍器20の構成を示した図である。実施の形態2における周波数逓倍器20の構成は、基本的に実施の形態1における構成と同様である。相違点は、実施の形態1におけるポリフェーズフィルタ14を可変素子で構成した点である。
【0032】
すなわち、実施の形態2におけるポリフェーズフィルタ22は、可変抵抗や可変容量などの可変素子を構成素子とする。具体的には、図2のポリフェーズフィルタの抵抗R2、R4、R6、R8と容量C2、C4、C6、C8を、それぞれ可変抵抗、可変容量とし、外部の信号によってそれらの抵抗値および容量値を制御できるようになっている。
【0033】
上述のように、ポリフェーズフィルタの周波数特性の極は、1/(2πRC)となる。したがって、抵抗R2、R4、R6、R8の抵抗値Rと、容量C2、C4、C6、C8の容量値Cを、外部信号によって制御することにより、ポリフェーズフィルタの周波数特性の極を制御することが可能となる。
【0034】
これにより、周波数逓倍器20では、方形波出力回路12から出力された方形波の周波数が変化する場合でも、この方形波の周波数にあわせて、ポリフェーズフィルタ22の可変素子の値を外部から制御することができる。すなわち、ポリフェーズフィルタ22の周波数特性の極を、上記方形波の周波数と同じ周波数に容易に設定することができる。
【0035】
このように実施の形態2における周波数逓倍器20では、方形波出力回路12から出力された方形波の周波数と、ポリフェーズフィルタ22の周波数特性の極を動的に制御することにより、得られる3逓倍波の周波数を可変にすることができる。しかも、ポリフェーズフィルタを使用するため、小規模な回路面積で構成可能である。
【0036】
(実施の形態3)
図8は、本発明の周波数逓倍器を適用した、実施の形態3に係る周波数シンセサイザ30の構成を示した図である。図8の周波数シンセサイザは、複数の周波数変換回路32、34、36、…、38と周波数逓倍器10、及びミキサ40で構成される。周波数逓倍器10は、周波数変換回路の1つで、入力信号を3逓倍する機能を有するものであり、実施の形態1で説明した周波数逓倍器10若しくは実施の形態2で説明した周波数逓倍器20を適応したものである。
【0037】
図8において、外部から入力された信号(周波数FIN)は、周波数変換回路32と34へ入力され、それぞれ所望の周波数に周波数変換される。周波数変換回路32で周波数変換された信号は、周波数逓倍器10に入力され、周波数変換回路32から出力された信号を3逓倍し、この3逓倍波はミキサ40の一方の入力ポートに入力される。また、周波数変換回路34で周波数変換された信号は、さらに周波数変換回路36、38で周波数変換され、ミキサ40のもう一方の入力ポートに入力される。ミキサ40は、周波数逓倍器10から入力された信号と周波数変換回路38から入力された信号をミキシングして、周波数FOUTの正弦波信号を出力する。
【0038】
なお、周波数シンセサイザ30では、入力信号がミキサ40の2つの入力ポートに入力されるまでの間に、一方は周波数変換回路1段と周波数逓倍器1段、もう一方は周波数変換回路3段を通過するが、これに限るものではなく、周波数変換回路及び周波数逓倍器の段数は何段であってもよい。また、周波数変換回路を経ずに、入力信号が直接周波数逓倍器10やミキサ30に入力されてもよい。また、図8の周波数シンセサイザ30では、周波数逓倍器をミキサ40の一方の入力の前段に配置した例を示したが、これに限るものではなく、信号の入力端子からミキサ40に至るまでの間に3逓倍波を生成する周波数逓倍器が必要な箇所があれば、実施の形態1又は2で示した周波数逓倍器10又は20を適応することができる。
【0039】
以上のように、実施の形態3における周波数シンセサイザ30は、実施の形態1又は2で説明したポリフェーズフィルタを利用した周波数逓倍器10又は20を適用しているので、小規模な回路面積で構成可能である。
【0040】
(実施の形態4)
図9は、本発明の周波数シンセサイザを適用した、実施の形態4に係る通信システムを示す図である。図9の通信システム50は、ダイレクトコンバージョン受信(DCR)方式を示すが、それに限るものではなくヘテロダイン受信方式など、他の受信方式にも適用可能である。
【0041】
図9にて、アンテナ52から受信されたRF信号は、バンドパスフィルタ54を介して、LNA(Low Noise Amplifier)56に入力される。LNA56は、低雑音でRF信号を増幅し、直交ベースバンド信号であるI信号用とQ信号用の二つの周波数変換回路57に出力する。
【0042】
局部発振器58は、ローカル(Lo)周波数のローカル信号を出力する。この局部発振器58に、実施の形態3で説明した周波数シンセサイザ30を適用することができる。位相器60は、I系統の周波数変換回路57には、当該Lo信号の位相を変化させずに出力し、Q系統の周波数変換回路57へ出力した当該Lo信号に対して、位相が90°進んだ当該Lo信号をQ系統の周波数変換回路10へも出力する。
【0043】
I系統用およびQ系統用の周波数変換回路57は、RF信号とLo信号とをミキシングし、それらの和と差の周波数を持つ信号を、それぞれローパスフィルタ62、68に出力する。各ローパスフィルタ62、68の出力信号は、それぞれの系統の増幅器64、70により増幅され、それぞれの系統のアナログデジタル変換器66、72によりデジタル信号に変換される。
【0044】
このように、通信システム50に本実施形態における局部発振器58を用いることにより、通信システムの小型化を図ることができる。とくに、通信システム50として説明した回路要素の全部または一部を周波数シンセサイザとして半導体チップ化する場合、チップ面積を縮小することができる。
【0045】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0046】
例えば、図10は実施の形態1の変形例における周波数逓倍器60の構成を示した図である。この周波数逓倍器60は、図1の周波数逓倍器1のポリフェーズフィルタ14の後段に、自己の曲を第5次高調波に対応させたポリフェーズフィルタ62を接続したものである。このポリフェーズフィルタ62によって、第5次高調波を低減することができる。これにより、第5次高調波も負の周波数特性によって除去若しくは大幅に減衰させることができる。また、前述の通り、自己の周波数領域の極は1/(2πRC)で決まる。すなわち、極を第5次高調波に対応させたポリフェーズフィルタは、極を第1次成分に対応させたポリフェーズフィルタと比較して、RCを1/5に設定すればよいため、さらに小面積で実現することができる。したがって、自己の周波数領域の極を第1次成分に対応させたポリフェーズフィルタ1段と、第5次高調波に対応させたポリフェーズフィルタ1段の、計2段構成としても、小さな回路面積で、さらに精度のよい3逓倍波を得ることができる。なお、ポリフェーズフィルタ62は、ポリフェーズフィルタ14の前段に接続してもよい。また、ポリフェーズフィルタ62は、実施の形態2のように可変素子を用いて構成してもよい。
【0047】
また、実施の形態2にて、可変素子を含むポリフェーズフィルタを説明した。この実施の形態2では、抵抗及び容量ともに可変素子として制御できる、としたが、どちらか一方のみを可変素子として制御できるようにしてもよい。これによっても、得られる3逓倍波の周波数を可変にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態1に係る周波数逓倍器の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1の方形波出力回路12の一例である。
【図3】本発明の実施の形態1の方形波出力回路12の別の例である。
【図4】ポリフェーズフィルタの構成を示す図である。
【図5】ポリフェーズフィルタの正と負の周波数特性を示す図である。
【図6】(a)方形波I+のフェーザ図である。(b)方形波Q+のフェーザ図である。(c)方形波I−のフェーザ図である。(d)方形波Q−のフェーザ図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る周波数逓倍器の構成図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係る周波数シンセサイザの構成図である。
【図9】本発明の実施の形態4に係る通信システムの構成図である。
【図10】本発明の実施の形態1の変形例に係る周波数逓倍器の構成図である。
【符号の説明】
【0049】
10 周波数逓倍器
12 方形波出力回路
14 ポリフェーズフィルタ
20 周波数逓倍器
22 ポリフェーズフィルタ
30 周波数シンセサイザ
40 ミキサ
50 通信システム
52 アンテナ
54 バンドパスフィルタ
56 LNA
57 周波数変換回路
58 局部発振器
60 位相器
62 ローパスフィルタ
64 増幅器
66 アナログデジタル変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方形波状の信号を出力する方形波出力回路と、
前記方形波出力回路から出力された信号が入力され、前記方形波状の信号に含まれる第1次成分に自己の周波数領域の極を対応させた第1のポリフェーズフィルタを備えることを特徴とする周波数逓倍器。
【請求項2】
前記第1のポリフェーズフィルタの前段若しくは後段に接続され、前記方形波状の信号に含まれる第5次高調波に自己の周波数領域の極を対応させた第2のポリフェーズフィルタを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の周波数逓倍器。
【請求項3】
前記第1のポリフェーズフィルタは可変素子を含み、前記第1のポリフェーズフィルタの極を制御可能にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の周波数逓倍器。
【請求項4】
前記第2のポリフェーズフィルタは可変素子を含み、前記第2のポリフェーズフィルタの極を制御可能にすることを特徴とする請求項2に記載の周波数逓倍器。
【請求項5】
複数の周波数変換回路を含み、これら複数の周波数変換回路が並列もしくは縦列に接続された周波数シンセサイザであって、
前記複数の周波数変換回路のうち、少なくとも1つの周波数変換回路が請求項1から4のいずれかに記載の周波数逓倍器であることを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項6】
ローカル信号を発振する発振部と、
発振したローカル信号と外部から受信した信号をミキシングして、所定の周波数の信号を生成する周波数変換回路と、を備え、
前記発振部は、請求項1から4のいずれかに記載の周波数逓倍器を含むことを特徴とする通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−339700(P2006−339700A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158480(P2005−158480)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】