説明

呼吸器疾患治療における併用療法及び吸入薬剤としてのR型バンブテロールの使用

本発明は,喘息,COPD及び他の呼吸器疾患の治療用吸入薬としてのR型バンブテロール又はバンブテロールの新規な使用,並びに併用吸入療法としてのR型バンブテロール又はバンブテロール及びコルチコステロイド又は他の治療上活性な薬剤の新たな使用に関する。また,本発明は,呼吸器疾患の治療におけるバンブテロールに関連付けられる薬剤耐性及び喘息増悪の危険性を減少させるR型バンブテロールの新規な使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,喘息,COPDやその他の呼吸器疾患の治療における吸入薬剤としてのR型バンブテロール又はバンブテロールの新規な使用に関する。
【0002】
細気管支及び肺へのバンブテロールエアロゾルの吸入は,経口投与と比較して,毒性を低減するだけでなく,高効率,迅速な発現,及び長期間作用により,喘息及びCOPDのコントロールを顕著に改善することができる。また,本発明は,併用吸入療法としてのR型バンブテロール又はバンブテロール及びコルチコステロイド又は他の治療上活性な薬剤の新規な使用に関する。吸入薬剤としてのR型バンブテロールの使用は,バンブテロールよりもさらなる利点を有している。さらに,本発明は,バンブテロールに関連する薬剤耐性及び喘息増悪の危険性を軽減するR型バンブテロールの新規な使用に関する。
【背景技術】
【0003】
喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は,最も一般的な疾患である。バンブテロールは1日1回の経口薬として,これらの疾患の治療に20年間に渡って使用されている。バンブテロールは,β作動薬及び気管支鎮痙薬であり,また,等量のR型エナンチオマー及びS型エナンチオマーから成るキラル薬物でもある。R型バンブテロールは,ユートマーであり,気管支拡張に活性がある。一方,S型バンブテロールは,ディストマーであり,不活性である。また,S型バンブテロールはR型バンブテロールよりも心毒性がある(Tan & Cheng, U.S. Patent,2002)。バンブテロールはテルブタリンのプロドラッグであり,経口吸収後,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)及びブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)によって,気管支拡張剤として知られるテルブタリンに加水分解される。また,バンブテロール自体も同様の酵素に対して強力な阻害剤であることから,テルブタリンは徐放する。バンブテロールを経口投与すると,活性親薬物の血中濃度はゆっくり上昇し,最高で24時間の持続期間がある。したがって,バンブテロールは長期間,気管支痙攣に対して作用する。R型バンブテロール及びバンブテロールは共に,比較的高い経口バイオアベイラビリティ(60%〜70%程度)を有しており,最大血中濃度の時間(tmax)は,約1時間である。
【0004】
プロドラッグとしてのバンブテロールは,経口投与後,脂質のファリック特性(lipid phallic property)及び肝臓における初回通過保護を経て,肺で摂取できるような経口投薬として設計されており,肺での濃度が血漿中よりも約20倍高くなる。(Svensson, New drugs for Asthma Therapy, 1991)。したがって,バンブテロールは,経口投与する場合,特定的に効果を発揮するように肺を標的にすることができる。
【0005】
しかしながら,R型バンブテロール又はバンブテロールの経口投薬にはいくつかの欠点がある。第1に,作用発現がゆっくりである。経口投与後にバンブテロールからリリースされる,親薬物であるテルブタリンの最高血漿中濃度(tmax)の到達時間は,4時間であり,テルブタリンを経口摂取した時のtmaxよりも遅い(Olsson et.al,p.36,table 1,US patent,1984)。したがって,バンブテロールは,喘息症状を素早くコントロールすることには適していない。第2に,効果的な親薬物の血中濃度を達成させるためには,大量の服用量を必要とする。テルブタリンの血中濃度と同様にするためには,経口摂取したテルブタリンよりもモル基準で5倍以上のバンブテロールが必要となる。臨床におけるバンブテロールの副作用は,その服用量に関係している(Gunn et.al,Eur J.Clin Pharmacol 48, 1995)。また,定期的にβ作動薬を大量に服用することでβ2受容体の脱感作を招き,薬剤耐性がもたらされることにより,喘息のコントロールを悪化させ,喘息死につながる可能性もある。
【0006】
バンブテロールの経口投与におけるこれらの欠点は,肺送達により克服できるかもしれない。しかしオルソンらは,静脈へのヒスタミン投与により喘息を誘発させている間に,麻酔モルモットの肺に吸入投与した場合,バンブテロールは不活性で気管支拡張効果は乏しいことを実証した(Pharmaceutical Research,1984,see p.21, Col.2, line 9)。吸入投与における活性の欠如は,バンブテロールがゆっくりと吸収されることによるものであった(Svenssion et al, Pharmaceutical Research, 1988, see p.154,Col 2, line
41)。
【0007】
また,先行技術として,喘息の治療にバンブテロールを吸入薬剤として使用することは好ましくないとする他の研究がある。初めに,バンブテロールはプロドラッグであり,インビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)において徐放する。インビトロにおいて気管支及び肺標本にバンブテロールを直接使用しても緩和効果は示されなかった(Olsson et al., US patent, 1983)。次に,Svenssonらは(Ryrfeldt et al 1988),摘出灌流モルモット肺を使用して,肺の取り込み及びH3バンブテロールの形質転換を研究した。臨床的に意義のある量のバンブテロールを灌流した時,肺に取り込まれるバンブテロールの全体量は,わずか1.31%(30.5+4.8pmol/肺)であり,灌流したバンブテロールの全体量からは,親薬物であるテルブタリンがわずか0.4%(0.15pmol/肺)検出された(table II, Fig 4, p154, of the cited reference by Ryrfeldt et al,1988における平均値)。このわずかな親薬物であるテルブタリンでは,いずれの抗喘息効果にも明らかに不十分である。あるインビトロの代謝研究では,バンブテロールは,初めに不活性なモノカルバメートバンブテロールに変換され,さらに徐々に活性な親薬物であるテルブタリンに加水分解される。転換の第1ステップが影響し,初期段階ではテルブタリンはわずかに形成され,一方,主要なテルブタリンはもっと後の段階で形成されることになる(Svenssion et al, 1988, see p.3871, fig.5)。
【0008】
従来技術において,バンブテロールは徐放性を有し,吸入時には肺でほとんど吸収されず,不活性であるようである。また,従来技術では,肺送達に関するバンブテロールの吸入剤の開発は,当業者にとって困難であるように思われる。事実,20年前にバンブテロールが注目されて以来,常に経口剤形として使用されてきている。従来技術において,気管支疾患の治療用吸入薬剤としてのバンブテロールの使用に関する報告はない。
【0009】
本発明者は,以下の見解と事実に照らして,R型バンブテロール及びバンブテロールを効果的に摂取することができ,ある程度の活性親薬物が局所的にリリースされ得ると確信している。1,噴霧化又は微粉化したバンブテロールは,吸入後に細気管支及び肺の深部まで到達することができる。2,肺細胞,基底膜及び肺胞毛細血管から成る血液空気界面は,微粉化したバンブテロールに対して透過性を持ち,さらにバンブテロールは肺内でAchE及びBuchEによってすぐに加水分解される。3,肺の粘膜のリン脂質の界面活性物質は,吸入されたバンブテロールにとって効果的であり,肺胞の血液空気界面を通して分散及び浸透を促進する。
【0010】
さらに本発明者は,上述のSvenssionら(1984年及び1988年)の実験において,それらが麻酔動物及び非感作動物又はインビトロでの単離肺で行われていたことから,いくつかの欠点と限界があることに注目する。Svenssionらの実験における,単離肺でのバンブテロールの摂取不足及び活性親薬物であるテルブタリンのわずかな形質転換は,以下のいくつかの要因に起因する可能性がある。1,血液空気界面の変形及び浮腫により著しく損なわれた透過性。2,肺における脂質の界面活性物質の希釈及び灌流液の不足。3,肺組織におけるAchEの酵素活性の減少及び灌流液中の血中Bu−AchEの不足。これらの理由により本発明者は,Svenssionらの研究は吸入投与時にインビボでの無麻酔動物又は患者にとって治療上有効な量のバンブテロールをすぐに吸収することができ,活性親薬物に形質転換できる可能性を否定できないと考えている。4,オルソン(1984年)の実験が,無麻酔動物及び抗原感作動物の代わりに麻酔動物及び非感作動物で行われたこと。さらに,抗原を吸入投与する代わりにヒスタミンを静脈内投与したこと。これらの違いは,吸入されたバンブテロールの抗喘息効果を研究する上で異なる結果が生じ得る。Svenssionらの研究結果は,臨床的により関連性のある無麻酔動物又は抗原感作動物での事態を反映していない可能性がある。
【0011】
現在の喘息ガイドラインでは,吸入ステロイド薬で症状を十分にコントロールできない患者については長時間作用型β作動薬を増加させることを推奨している。しかし,最近の臨床報告及び臨床試験では,LABAサルメテロール又はフォルモテロールを使用すると喘息関連死のリスクが増大することが示されており,米国の食品医薬品局(FDA)は,サルメテロール及び同様の医薬品について警告を発している。したがって,吸入薬剤としてのより安全性の高いβ作動薬,特に呼吸器疾患治療用の長時間作用型β作動薬の必要性が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第7495028号(Tan W and J. Cheng, R-Bambuterol, its preparation and pharmaceuticaluses, US Patent:7495028, 2009.)
【特許文献2】米国特許第4419364号(Olsson et al., Bronchospasmolytic carbamate derivatives, US Patent4,419,364,1983.)
【特許文献3】米国特許第4451663号(Olsson et al., Carbamate interdedimates for bronchospasmolytics, USPatent 4451663, 1984.)
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Svensson, Mechanism of action of bambuterol: a βagonist prodrug withsustained lung affinity, AAS 34, New Drug for Asthma Therapy, p71-76, ©Birkhauser Verlag Basel,1991.
【非特許文献2】Gunn et al., Comparision of the efficacy, tolerability and patientacceptability of once-daily bambuterol tablets against twice-daily controlledrelease salbutamol in nocturnal asthma. Eur J. Clin Pharmacol 48, p23, 1995.
【非特許文献3】Olsson, OA and LA. Svensson, New lipophilic terbutaline esterprodrugs with long effect duration, Pharmaceutical Research, Vol 1, page 19,1984.
【非特許文献4】Ryrfeldt, A., E. Nilsson, A. Tunek and LA Svenssion, Bambuterol:uptake and metabolism in guinea pig isolated lungs, Pharmaceutical Research,Vol 5, page 154, 1988.
【非特許文献5】Tunex, A. E. Levin and LA. Svenssion, Hydrolysis of 3H-bambuterol, acarbamate prodrug of terbutaline, in blood from human and laboratory animals invitro. Biochemical Pharmacology. Vol. 37, page. 3871, 1988.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は,呼吸器疾患の治療用吸入式エアロゾルとしてのR型バンブテロール又はバンブテロールの新規な使用を提供する。細気管支又は肺に吸入されることによって,R型バンブテロール又はバンブテロールは,気管支拡張作用の持続期間が長く,より効果的であり,また作用発現も迅速である。本発明において,R型バンブテロール又はバンブテロールの肺送達の研究には,無麻酔動物及び抗原感作モルモットを使用している。本発明で使用する実験プロトコル及び動物モデルはいずれの先行技術とも異なる。
【0015】
1つの態様において,本発明は,ほんのマイクログラム単位のR型バンブテロール又はバンブテロールの吸入で顕著な抗喘息効果をもたらす。経口投与の場合,同様の効果を達成するのにミリグラム単位のR型バンブテロール又はバンブテロールが必要となる。最大の抗喘息効果(すなわちヒスタミンによる喘息発作に対する完全な保護)を挙げるのに必要なR型バンブテロール又はバンブテロールの経口投与量は,それぞれ4mg/kg,8mg/kgであるのに対して,吸入投与の場合には,わずか256μg/kgのR型バンブテロール及び512μg/kgのバンブテロールのみを必要とする。最大の抗喘息効果に必要なR型バンブテロールの経口投与量と吸入投与量の比率は16:1であり,バンブテロールに関しても同様である。これらの強力な抗喘息効果は,吸入バンブテロールが抗喘息に対して不活性であるとしたオルソンの研究(1984年)と相反している。
【0016】
また本発明は,R型バンブテロール又はバンブテロールの吸入後,驚くべき早さで作用発現することも明らかにする。本発明の1つの態様において,初めにオボアルブミン(OVA)感作モルモットに対して喘息を誘発させる抗原を噴霧投与し,その後この動物に噴霧したR型バンブテロール又はバンブテロールを吸入投与した。吸入後,喘息症状はおよそ10数秒から数分以内ですぐに緩和した。本発明のさらなる態様において,初めに,感作モルモットに対して噴霧したR型バンブテロール又はバンブテロールを吸入により前処理し,3分後,同様の動物に抗原を噴霧投与した。気道抵抗及び動肺コンプライアンスが変化しなかったことから示されるように,R型バンブテロール又はバンブテロールの吸入は,顕著な抗喘息効果及び喘息発作時の肺機能の保護をもたらした。本発明のこれらの結果は,吸入後にR型バンブテロール又はバンブテロールが迅速に摂取され,活性親薬物に形質転換されたことを示しており,これにより喘息症状は素早く緩和した。この結果は,バンブテロールが肺に局所的に灌流する時に追跡可能なテルブタリンの量のみが形質転換する従来技術(Svenssion,1988)と異なり,また,親薬物の徐放性に起因してバンブテロールが喘息に対する保護に不活性であるというオルソンの研究結果(Olsson et al.,1984)とも異なっている。本発明の迅速な作用発現は,初期段階で主要生成物がモノカルバメート系バンブテロール及びわずかなテルブタリンであるのに対して,ずっと後の段階で,主要量のテルブタリンが形成される上記インビトロでの代謝研究(Svenssion et al.,1988)によっても説明できない。
【0017】
従来技術の研究結果を全体として考えれば,本発明で明らかにされるバンブテロールの吸入による迅速な作用発現は,当業者によっては予測できないものである。
【0018】
他の態様において,吸入又は経口の両方について,R型バンブテロール又はバンブテロールの作用の経時変化を研究した。本発明は,R型バンブテロール又はバンブテロールが,吸入後60分以内に最大の抗喘息効果(Tmax.ef)をもたらしたことを明らかにする。これは同様の薬を経口投与した時よりも4時間遅い(経口群のTmax.efは240分である)。しかし,吸入群の最大の抗喘息効果は,720分以上の内に,経口群よりも早く低下することはなかった。これは,吸入による最大の抗喘息効果の期間がより長いことを示し,吸入されたR型バンブテロール又はバンブテロールのより高い効能を示している。これにより,喘息発作に対して,経口投与よりもより優れた保護がもたらされる。経口投与よりも吸入投与した場合のR型バンブテロール又はバンブテロールがより高い効能を持つ利点は,従来技術から予測されるものではなかった。
【0019】
本発明はさらに,R型バンブテロール又はバンブテロールは,吸入投与と経口投与では異なる代謝メカニズムであることを提供する。上述のように,迅速な作用発現は,肺に吸入されたバンブテロールが迅速に吸収され,代謝産物と親薬物に変換されることを示している。これらは順に,肺に吸入された薬剤のクリアランスを高速化させ,作用期間を短くする可能性がある。しかし,本発明は,吸入投与によるR型バンブテロール及びバンブテロールの最大の抗喘息効果が,経口投与の場合よりも4時間速く現れ,さらに効果の持続期間は経口投与の場合と違い,最高24時間まで続くことを明らかにする。したがって,最大作用又は最大効果の総持続期間は,いずれの経口投与よりも吸入投与の方が長い。これらの差異は,薬物動態プロファイルの違いにはっきりと示されている。これは従来技術では明らかにされていない。
【0020】
1つの側面において,本発明は,R型バンブテロール又はバンブテロールの肺送達による喘息のコントロールを,はるかに少ない用量の吸入で,大幅に改善させることを明らかにする。用量を減らすことで,喘息のコントロールや致死的又は非致死的喘息発作の悪化を引き起こす可能性のある,薬剤自体に関連する副作用を軽減するだけでなく,脱感作に起因する薬剤耐性のリスクも軽減することができる。
【0021】
1つの態様において,本発明はさらに,吸入によるR型バンブテロールの前処理が,抗原投与による喘息発作に対して完全な保護をもたらすことを初めて明らかにする。一方,S型バンブテロールの吸入ではそのような保護はまったく生じなかった。本発明はさらに,吸入されたラセミのバンブテロールの抗喘息効果がR型エナンチオマー内に存在することも明らかにする。この点に関して,バンブテロールのS型エナンチオマーは非活性である。
【0022】
他の態様において,本発明は,喘息を誘発させなかった場合,安静状態のOVA非感作モルモットにおいて,R型バンブテロールの吸入が気道抵抗を軽減させ,動肺コンプライアンスを強化させることにより,肺機能を改善させることができることを初めて明らかにする。しかし,安静状態におけるS型バンブテロールの吸入は,気道抵抗の増加や動肺コンプライアンスの低下により肺機能が悪化するという反対の効果が現れている。さらに,S型バンブテロールを経口投与すると,喘息のコントロールよりもOVA投与に対する喘息反応を著しく高める。これらの安静状態と喘息状態の両方におけるS型バンブテロールの効果は,実際の臨床で見られるバンブテロールを含むβ作動薬の使用に伴う喘息及び気道の反応性亢進の悪化に関係している可能性がある。したがって,R型バンブテロールは,バンブテロールの代わりに吸入薬又は経口薬として使用することができる優れた代替薬であり,バンブテロールの使用に関連する喘息悪化のリスクを回避する。本発明は,S型バンブテロールに起因する喘息の悪化を初めて実証した。これは従来技術では予測できないものである。
【0023】
さらなる態様において,薬剤耐性を誘発するために,動物をそれぞれ2週間,R型バンブテロール又はS型バンブテロールによって前処理した。その後,R型バンブテロールの抗喘息効果を気道抵抗(Raw)及び動肺コンプライアンス(Cdyn)の変化を測定することにより評価した。本発明は,S型バンブテロール前処理群における喘息発作に対するR型バンブテロールの保護効果がコントロール群と比較して著しく低下したこと,つまり薬剤耐性を示したことを,初めて明らかにする。さらに,この低下はR型バンブテロール前処理群のものよりも著しかった。これは,ラセミバンブテロール(S型バンブテロールを50%含む)の多用が,R型バンブテロールの多用よりもR型バンブテロール又はラセミバンブテロール(有効成分がR型バンブテロールである)の薬剤耐性を発展させていることを示している。したがって,薬剤耐性の低下に関して,R型バンブテロールがラセミバンブテロールよりも喘息保護の使用に優れた代替薬である。この結果は従来技術から予測できないものである。
【0024】
前述のR型エナンチオマーのバンブテロールは実質的に光学的に純粋である必要があり,鏡像体過剰値が90〜99%となる必要がある。S型バンブテロールの量は5重量%以下とし,好ましくは,R型バンブテロールはS型エナンチオマーを含まず,鏡像体過剰値が99%以上とする必要がある。
【0025】
喘息及びCOPDの治療のために薬剤を細気管支及び肺に吸入する場合のR型バンブテロールの適当な1日の用量は,例えば0.02〜2.0mg,好ましくは60〜250μgでもよく,1回の投与量又は1回の治療量では,例えばR型バンブテロールは20〜250μgでもよい。吸入薬としてのバンブテロールの適当な1日の用量は,例えば0.04〜4.0mg,好ましくは125〜500μgでもよく,1回の用量又は1回の治療量では,例えばバンブテロールは40〜500μgでもよい。R型バンブテロール又はバンブテロールのそれぞれの投与は,例えば1日1〜8回でもよく,例えば毎回1〜4作動又は噴霧を行ってもよい。子供用では,用量をさらに減らしてもよい。様々な吸入製剤及び吸入器は,R型バンブテロール又はバンブテロールを細気管支及び肺に送る治療上有効な量の有効成分を様々な量で必要とする可能性があることから,様々な吸入製剤の調剤に使用される薬剤の実際の用量は調節されてもよい。さらに,患者に吸入されるR型バンブテロール又はバンブテロールの適切な用量は,モルモットに対する用量を,体重や表面積に応じて人間の用量に変換することにより,又は経口服用量の割合によって決定することができる。用量は,活性剤使用の治療目的及び患者の年齢や状態に応じて調節してもよい。
【0026】
本発明の態様において,R型バンブテロール若しくはバンブテロール又はそれらの薬学的に許容される塩の吸入製剤は,例えば噴射剤の散布液又は溶液中にR型バンブテロール又はバンブテロールを含むエアロゾルなどの微粒化組成物,又は水性媒体,有機媒体若しくは水性有機媒体中に上記有効成分を有する散布液を含む噴霧化組成物であってもよい。適切な噴射剤は炭化水素,特に1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134a)及び1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227)又はこれら2つの混合物を含む。有効成分であるR型バンブテロール若しくはバンブテロール又はそれらの薬学的に許容される塩が存在する噴射剤の懸濁液,すなわちいずれかが存在する散布した噴射剤の微粒子中における,エアロゾル組成物は,当該分野で周知の潤滑剤及び界面活性剤をさらに含んでいてもよい。他の適切なエアロゾル組成物は,界面活性剤を含まないか又は実質的に界面活性剤を含まないエアロゾル組成物を含む。エアロゾル組成物は,有効成分であるR型バンブテロール又はバンブテロールを,噴射剤の重量ベースで,約5重量%まで含んでもよく,例えば0.002重量%〜5重量%,0.01重量%〜3重量%,0.015重量%〜2重量%,0.1重量%〜2重量%,0.5重量%〜2重量%,又は0.5重量%〜1重量%でもよい。これらを有する場合,潤滑剤及び界面活性剤の量は,エアロゾル組成物のそれぞれ5重量%及び0.5重量%まで含んでもよい。また,エアロゾル組成物は,特に加圧式定量吸入器によって投与する場合,エタノールなどの共溶剤を組成物の30重量%まで含んでもよい。本発明の他の態様において,吸入剤はドライパウダーである。すなわちR型バンブテロール若しくはバンブテロール又はそれらの薬学的に許容される塩は,ドライパウダー中に存在する。ドライパウダーは必要に応じて,ドライパウダー吸入組成物中のキャリアとして知られる物質,例えばアラビノース,グルコース,フルクトース,リボース,マンノース,ショ糖,トレハロース,ラクトース,マルトース,澱粉,デキストラン又はマンニトールなどの単糖類,二糖類,多糖類及び糖アルコールを含む糖質を,有する。特に好ましいキャリアはラクトースである。ドライパウダーは,ドライパウダー吸入器で使用するために,ゼラチン若しくはプラスチックのカプセル又はブリスターに入れられてもよい。あるいは,ドライパウダーは,多数回使用ドライパウダー吸入器のリザーバに収容されていてもよい。有効成分は,R型バンブテロール(又はバンブテロール)とコルチコステロイドや抗コリン作用薬などの他の薬剤との併用であってもよい。併用薬剤としての吸入製剤は,原則として上記と同様に調製してもよい。
【0027】
本発明の他の態様では,喘息又は呼吸器疾患の治療において,細気管支又は肺へ同時,連続,又は個別に吸入投与する併用療法に使用される併用吸入剤としての,有効量のR型バンブテロール若しくはバンブテロール又はそれらの塩及びコルチコステロイドを含む,新規な医薬組成物を提供する。本発明の吸入併用療法を使用することにより,治療指数を改善し,相加効果又は相乗効果がもたらされる。コルチコステロイドは,例えばブデソニド,シクレソニド,ベクロメタゾン,モメタゾン,フルニソリド,プロピオン酸フルチカゾン,トリアムシノロンアセトニド,及び/若しくは生理学的に許容される塩並びに/又はそれらの溶媒和化合物を含む。R型バンブテロールとコルチコステロイドの割合は,例えばモルベースで1:1〜1:60でもよく,好ましくは1:2〜1:10,さらに好ましくは1:2〜1:4であってもよい。R型バンブテロールとコルチコステロイドの比率は,バンブテロールの重量がR型バンブテロールの2倍になるのに応じて調整してもよい。
【0028】
ステロイドの用量範囲は,活性剤の治療上の使用目的及び患者の年齢や状態に応じて調整してもよい。例えば,その範囲はプロピオン酸フルチカゾンが50〜2000μg,ベクロメタゾンが100〜2000μg,そしてブデソニドなどが50〜4000μgである。吸入製剤は,噴射剤の溶液中又は散布液中にR型バンブテロール又はバンブテロール,及びグルコステロイド又はコルチコステロイドの1つを含む吸入エアロゾルか,水性媒体,有機媒体,又は水性有機媒体中に上記薬剤を有する散布液を含む吸入噴霧化組成物,又は吸入用カプセルに充填された,上記薬剤とラクトースを混合した微粒化ドライパウダーである。吸入製剤は,上記方法によって調整することができる。
【0029】
本発明の他の態様では,喘息又は呼吸器疾患の治療において,細気管支又は肺への同時に,連続して,又は別個に吸入投与する併用療法で使用される併用吸入剤としての,有効量のR型バンブテロール若しくはバンブテロール又はそれらの塩,及び短期作用性β作動薬を含む新規な医薬組成物を提供する。本発明の吸入併用療法を使用することにより,さらに作用発現を改善するか又は,喘息,COPD,及び他の呼吸器疾患における相加効果や相乗効果がもたらされる。
【0030】
短期作用性β作動薬は,例えばテルブタリン,フェノテロール,サルブタモール,オルシプレナリン,クレンブテロール,クロルプレナリン,レプロテロール,バイトルテロール,リミテロール等及びそれらのキラルなユートマーを含む。吸入製剤は,例えば加圧型定量吸入器,注入器又はドライパウダー吸入器,噴霧器などを含む。
【0031】
R型バンブテロールと短期作用性β作動薬の割合は,例えばモルベースで1:0.1〜1:1でもよい。バンブテロールと短期作用性β作動薬の割合は,バンブテロールの使用がR型バンブテロールの2倍となるのに応じて調整してもよい。吸入製剤は,噴射剤の溶液又は散布液中にR型バンブテロール又はバンブテロール及びグルコステロイドの1つを含む吸入エアロゾルか,水性媒体,有機媒体,又は水性有機媒体中に上記薬剤を有する散布液を含む吸入噴霧化組成物,又は吸入用にカプセルに充填された,上記薬剤とラクトースを混合した微粉化ドライパウダーある。吸入製剤は本発明の上記方法によって調整することができる。
【0032】
本発明のさらなる態様では,喘息又は呼吸器疾患の治療において,細気管支又は肺へ同時に,連続して,又は個別に吸入投与する併用療法に使用される併用吸入剤としての,有効量のR型バンブテロール若しくはバンブテロール又はそれらの塩及び抗コリン作用薬又はムスカリン性受容体拮抗薬を含む,新規な医薬組成物を提供する。本発明の吸入併用療法を使用することにより,β受容体を活性化させ,同時に細気管支でムスカリン受容体を抑制し,これにより気管支拡張の相加効果又は相乗効果がもたらされる。抗コリン薬は,例えば臭化イプラトロピウム,チオトロピウム,トロスピウム,オキシトロピウム,ダロトロピウム,アトロピン,ホマトロピン,トロピカミド,スコポラミン,グリコピロレート,オキシブチニン,トルテロジン,及び/又はその塩を含む。R型バンブテロールと抗コリン薬の用量の割合は,例えばモルベースで1:0.1〜1:2,好ましくは,例えば1:0.5であってもよい。バンブテロールと抗コリン薬の割合は,バンブテロールの量がR型バンブテロールの2倍になるのに応じて,調整してもよい。抗コリン薬の用量範囲は,有効成分の治療上の使用目的及び患者の年齢や状態によって調整してもよい。吸入製剤は,噴射剤の溶液又は散布液中にR型バンブテロール又はバンブテロール及び抗コリン薬の1つを含む吸入エアロゾルか,水性媒体,有機媒体,又は水性有機媒体中に上記薬剤を有する散布液を含む吸入噴霧化組成物,又は吸入用カプセルに充填された,上記薬剤とラクトースを混合した微粉化ドライパウダーである。吸入製剤は本発明の上記方法によって調製することができる。
【0033】
本発明のさらなる態様では,治療指数又は相乗効果を改善させる呼吸器疾患の治療において,細気管支又は肺に吸入投与する併用療法に使用される併用吸入剤としての,有効量のR型バンブテロール若しくはバンブテロール又はそれらの塩,及びβ作動薬又は抗コリン薬以外の気管支拡張薬,例えば,ニトロオキシドを含む,新規な医薬組成物を提供する。上記気管支拡張薬の用量範囲は,有効成分の治療上の使用目的及び患者の年齢又は状態に応じて調整してもよい。
【0034】
吸入製剤は,噴射剤の溶液又は散布液中にR型バンブテロール又はバンブテロール及び例えばニトロオキシドを含む吸入エアロゾルか,水性媒体,有機媒体,若しくは水性有機媒体中に上記薬剤を有する散布液を含む吸入噴霧化組成物,又は吸入用カプセルに充填された,上記薬剤とラクトースを混合した微粉化ドライパウダーである。吸入製剤は本発明の上記方法によって調製することができる。
【0035】
本発明のさらなる態様では,治療指数又は相乗効果の改善と呼吸器疾患の治療における,細気管支又は肺に吸入投与する併用療法に使用される併用吸入剤としての,有効量のR型バンブテロール若しくはバンブテロール又はそれらの塩,及び抗炎症薬又は免疫調整薬,例えば,ロイコトリエン受容体拮抗薬,インターフェレンス(interference)及びインテグリン(integrins)を含む,新規な医薬組成物を提供する。抗炎症薬の用量範囲は,有効成分の治療上の使用目的,及び患者の年齢や状態によって調整してもよい。吸入製剤は,噴射剤の溶液又は散布液中のR型バンブテロール又はバンブテロール及び上記薬剤の1つを含む吸入エアロゾルか,水性媒体,有機媒体,又は水性有機媒体中に上記薬剤を有する散布液を含む吸入噴霧化組成物,又は吸入用カプセルに充填された,上記薬剤とラクトースを混合した微粉化ドライパウダーである。吸入製剤は本発明の上記方法によって調製することができる。
【0036】
本発明はさらに,脂質低下吸入エアロゾル,早産に関する子宮収縮抑制剤,胆嚢痙攣の治療,及びβ2受容体の活性化により制御できるその他の症状又は疾患の治療における,R型バンブテロール又はバンブテロールの新規な使用を提供する。上記疾患の治療における,エアロゾル吸入によるR型バンブテロール又はバンブテロールの肺送達は,R型バンブテロール又はバンブテロールに関連する副作用を軽減することになる。副作用が軽減されるR型バンブテロールは,上記吸入製剤の有効成分として好ましい。R型バンブテロール又はバンブテロールの用量範囲は,有効成分の治療上の使用目的及び患者の年齢や状態に応じて調整してもよい。吸入製剤は,噴射剤の溶液中又は散布液中にR型バンブテロール又はバンブテロールを含む吸入エアロゾルか,水性媒体,有機媒体,又は水性有機媒体中に上記薬剤の散布液を含む吸入噴霧化組成物,又は吸入用カプセルに充填された,上記薬剤とラクトースを混合した微粉化ドライパウダーである。吸入製剤は,本発明の上記方法によって調製することができる。
【0037】
本発明のR型バンブテロール又はバンブテロールの薬学的に許容される塩は,従来の薬学的に許容される無機酸又は有機酸より形成される塩,例えば塩酸塩,臭化水素酸塩,硫酸塩,水素硫酸塩,2水素リン酸塩,メタンスルホン酸塩,ブロミド,メチル硫酸塩,酢酸塩,シュウ酸塩,マレイン酸塩,フマル酸塩,コハク酸塩,2ナフタレンスルホン酸塩,グルコン酸塩,クエン酸塩,酒石酸塩(tartaric),乳酸塩(lactic),ピルビン酸塩,イセチオン酸塩(pyruvic isethionate),ベンゼンスルホン塩,又はパラトルエンスルホネートを含む。
【実施例1】
【0038】
無麻酔モルモットにおける,ヒスタミンによって誘発された喘息に対するR型バンブテロール又はバンブテロールの吸入による保護作用
試験方法
モルモット(Dunkin−Hartley strain,200±30g)は水は自由に与えられるが,絶食させた。その動物を1匹ずつガラスのチャンバに拘束し,噴霧器によって15秒にわたり,0.2%のヒスタミン水溶液を0.5mL/minの一定速度で暴露した。その後,チャンバから出し,行動をモニターした。衰弱の兆候と,ヒスタミンに暴露されてから倒れるまでの時間を記録した。その時間が120秒以内の動物をヒスタミンに敏感なグループとし,次の実験用として選んだ。選ばれた動物は次の実験までに24時間体憩をとらせ,衰弱から完全に回復させた。R型バンブテロール及びラセミのバンブテロールハイドロクトライドを生理食塩水で溶解し,噴霧器で噴霧した。
【0039】
用量反応の研究
ヒスタミンエアロゾルを暴露させる1時間前,動物を無作為に群(個体数=8,同数のオス,メス)にわけ,噴霧したR型バンブテロールハイドロクロライド,又はバンブテロールハイドロクロライドを63,126,252,及び504μg/kg並びに溶媒コントロール(vehicle control)を口及び鼻マスクから吸入投与した。ヒスタミン水溶液の噴霧器で暴露し,引き起こされた喘息発作によって倒れたモルモットの数を数え,それまでの時間を記録した。これらのパラメータはヒスタミン噴霧器によって誘発された気管支痙攣治療の保護機能の定量的な計測として使用した。重症の喘息症状を表さず,360秒を経ても倒れなかったモルモットについては,衰弱しなかったとみなし,その時間は360秒と記録した。
【0040】
試験結果
無麻酔モルモットにおける,ヒスタミンによって誘発させた喘息に対するR型バンブテロール又はバンブテロールの吸入効果の概要が表1−1,表1−2である。
【0041】
【表1】

【0042】
R型バンブテロール又はバンブテロールのエアロゾルのどちらか一方を吸入投与することで,有意な抗喘息効果が示された。しかし,R型バンブテロールは,バンブテロールよりも約2倍強力で,ラセミバンブテロールの活性エナンチオマーであることが示された。
【実施例2】
【0043】
無麻酔動物に経口投与及び吸入投与したR型バンブテロール(R−BM)とバンブテロール(RS−BM)の抗喘息効果の比較
試験方法
実施例1と同様である。
【0044】
用量反応の研究
以下を除いて実施例1と同様に行った。ヒスタミンエアロゾルに暴露させる4時間前,動物を無作為に群(個体数8、同数のオス、メス)にわけ,R型バンブテロールハイドロクロライド又はラセミバンブテロールの1.0,2.0,4.0及び8.0mg/kgを,胃管を介して経口投与した。
【0045】
【表2】

【0046】
これらの結果から,最大の抗喘息効果(すなわち,ヒスタミンを投与したグループ内の動物は1匹も倒れない)に必要とされる用量は,R型バンブテロールでは4mg/Kg,及びバンブテロールでは8mg/Kgであることが示されている。これらの用量は,吸入投与の場合に必要とする用量(表1−1,1−2,2−3参照)よりもはるかに多い。
【0047】
この結果は,経口投与に必要とされる最大効果用量は吸入に必要とされるその用量の16倍であることを示している。吸入投与ではR型バンブテロール又はバンブテロールの吸入量ははるかに少ないため,薬剤に関連する全身的副作用を大幅に低減することになる。
【実施例3】
【0048】
経口投与及び吸入投与後のR型バンブテロール(R−BM)又はバンブテロール(RS―BM)の抗喘息効果の経時変化
試験方法
以下を除いて実施例1と同様に行った。
経口投与に関して,R型バンブテロールハイドロクロライドを4mg/kg,又はラセミのバンブテロールハイドロクロライドを8mg/kg,と溶媒のみを胃管からモルモットに経口投与した。R型バンブテロール又はバンブテロールを投与した後,1時間,4時間,及び12時間,ヒスタミンエアロゾルに(上記のように)暴露した。それぞれの実験群にはオス,メス両方とも同じ数だけ含む8匹から成り,それぞれの動物は繰り返し噴霧器で暴露させることはないようにした。
吸入投与に関して,R型バンブテロールハイドロクロライドを0.252mg/kg,又はラセミのバンブテロールハイドロクロライドを0.504mg/kg,及び溶媒のみを,噴霧してモルモットに吸入投与させた。薬剤を投与させた後,1時間,4時間,及び12時間,ヒスタミンエアロゾルに(上記のように)暴露させた。それぞれの実験群にはオス,メス両方とも同じ数だけ含む8匹から成り,それぞれの動物は繰り返し噴霧器で暴露させることはないようにした。
【0049】
試験結果
表3−1及び表3−2に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
この結果は,R型バンブテロール又はバンブテロールの最大効果時間(Tmax)が,経口投与後240分以内であったのに対して,吸入投与では吸入後わずか60分以内であったことを示している。これには約4時間の差がある。経口投与と比較して,吸入群の発現は早いが,最大抗喘息効果の低下は早くない。抗喘息効果は,吸入群と経口群ともに720分以内である。この効果の類似性は,両群ともに24時間まで見ることもできる。したがって,吸入投与の場合,経口投与と比較して,12時間以上の期間内でR型バンブテロール及びバンブテロールの有効性はより高く,喘息発作に対して優れた保護を提供している。この利点は従来技術からは予測できなかったものである。
【実施例4】
【0052】
気道抵抗及び動肺コンプライアンスに対するR型バンブテロール又はバンブテロールの吸入効果
動物の感作
百日咳ワクチンを腹腔内注入するとともに,オボアルブミン(10μg/ml)をモルモットに皮下注入した。オボアルブミン及び補助剤(adjuvant)を15日後及び21日後に,同様に注入した。28日目にその動物を研究用に調査,使用した。
【0053】
試験方法
感作モルモットを麻酔し,カニューレを気管に挿入した。胸膜カニューレを,胸壁を通して胸膜腔に挿入した。気道抵抗(Raw)及び動肺コンプライアンス(Cdyn)を胸腔内圧,気流及び気量の信号を用いて測定した。
【0054】
密閉チャンバに動物を拘束し,用量126μg/kgの噴霧したR型バンブテロール又はバンブテロールを吸入させた。3分後,喘息を誘発させるために動物に噴霧したOVAを投与した。喘息を誘発させる前後で気道抵抗(Raw)及び動肺コンプライアンス(Cdyn)を測定した。
【0055】
試験結果
結果の概要は表4−1である。
【0056】
【表4】

【0057】
感作モルモットにおいて,OVA投与前にR型バンブテロールを吸入させた場合のRaw及びCdynはともに有意な変化を生じなかった。喘息発作に対するR−BMの完全な保護を示すように,OVA投与時は,コントロールの値に対してRawの有意な増加もCdynの有意な減少もなかった。噴霧したR型バンブテロールの吸入とOVA投与の前処理の差はわずかに約3分であり,吸入薬剤の作用発現が迅速であることを示している。
【0058】
しかし,S型バンブテロールを吸入投与した時,気道狭窄又は気道痙縮を示したように,Rawは著しく上昇し,Cdynは減少した。1つの発生率として,S型バンブテロール自体の吸入は,モルモットの衰弱を引き起こした。
【0059】
S型バンブテロールの吸入投与は,OVA投与前の安静状態で,気道抵抗(Raw)の著しい増加及び動肺コンプライアンス(Cdyn)の減少をもたらし,肺機能が悪化することを示している。1つの発生率において,S型バンブテロール自体の吸入は,モルモットの衰弱を引き起こした。S型バンブテロールを吸入投与した動物の喘息発作時は,コントロールと比較して気道抵抗(Raw)は著しく増加し,動肺コンプライアンス(Cdyn)は減少した。
【0060】
この結果は,S型バンブテロールは喘息発作に対する保護に不活性であり,S型バンブテロール自体の使用は肺機能を悪化させることを示している。これは,ラセミのバンブテロールはS型バンブテロールの半分の量から成るため,臨床で見られるβ作動薬の使用に関連する喘息及び気道の反応性亢進の悪化に関係する可能性がある。したがって,呼吸器疾患を治療する吸入エアロゾルとしての光学的に純粋なR型バンブテロールは,ラセミのバンブテロールよりもはるかに安全である。
【実施例5】
【0061】
S型バンブテロールの経口投与により誘発される喘息発作における,気道抵抗の強化
感作動物を生理食塩水(コントロール)群,S型バンブテロール群及びR型バンブテロール群に分け,R型バンブテロール又はS型バンブテロールを経口吸入により投与した(4mg/kg)。安静時又はOVAで誘発した喘息時に,気道抵抗(Raw)及び動肺コンプライアンス(Cdyn)を測定した。動物の準備及び試験方法は前述と同様である。
【0062】
安静状態で,S型バンブテロールを経口投与した場合,上述した吸入投与とは異なり,Raw及びCdynのいずれもほとんど変化しなかった。OVAによる喘息発作時では,コントロール及びS型バンブテロール投与群のRawは著しく増大した一方,R型バンブテロール投与群のRawの変化はわずかであった。Rawが最も増加したのはOVA投与後,約4,5分であった。Rawの変化はコントロール(生理食塩水)群よりもS型バンブテロール投与群のほうがより大きかった(表5)。
【0063】
【表5】

【0064】
これは,ディストマーであるS型バンブテロールが喘息反応を著しく悪化し得ることを示している。また,半分量がS型エナンチオマーから成るラセミのβ作動薬の使用に関連する喘息又は反応性亢進を悪化させるリスクとして説明することもできる。したがって,喘息治療において,経口投与又は吸入投与したR型バンブテロールは,ラセミのバンブテロールよりも優れた代替薬である。このR型バンブテロールの利点は従来技術からは予測できないものである。
【実施例6】
【0065】
S型バンブテロールの投与によって誘発される,R型バンブテロールに対する薬剤耐性
動物の感作及び実験方法は上述と同様であった。簡単に述べると,動物を3つの群に分け,薬剤耐性を誘発するために,各群に7日連続で毎日,R型バンブテロール(8mg/kg)若しくはS型バンブテロール(8mg/kg)又は0.9%のNaCL(コントロール)を同量,それぞれに経口投与した。そして,OVAにより誘発させた喘息発作に対する同量のR型バンブテロールの保護効果を,気道抵抗(Raw)及び動肺コンプライアンス(Cdyn)の変化により測定した。この結果は以下の表6に記載されている。
【0066】
【表6】

【0067】
コントロール(生理食塩水)群において,R型バンブテロールは喘息発作に対して完全に保護することができる。Raw及びCdynはわずかな変化である。R型バンブテロール投与群において,R型バンブテロールの保護効果はコントロール群よりも低かったが,Raw及びCdynの変化に関しては有意な相違ではない。しかし,S型バンブテロール投与群において,R型バンブテロールの保護効果は著しく減少している。OVA投与時にRawは大きく増加し,Cdynは低下した。これは,R型バンブテロールに対する薬剤耐性がS型バンブテロールによって誘発されたことを示している。したがって,S型バンブテロールはR型バンブテロールに対する薬剤耐性を誘発するのに重要な役割を果たしている。
【0068】
実施例6
ネブライザーにおけるR型バンブテロール(R−BM)溶液とバンブテロール(RS−BM)溶液の製剤
噴霧吸入する溶液は,酸又はアルカリのような添加剤,緩衝塩,等張性調節剤,又は抗菌剤とともに水性媒体で製剤する。調剤の一般的な方法は以下を含む。調剤する全体量に必要な個々の成分の量を計算する。各成分の分量を正確に量る又は測定する。調剤用の溶媒の約3分の2の体積にそれらの固体を溶かす。液体成分を加え,よく混合し,無菌容器内で0.2μのろ過システムによりろ過する。1回使い切り用に(1人用に)小単位に包装する。必要に応じて塩化ベンザルコニウム(溶液比1:750)を加えてもよい。ネブライザーで噴霧する。
【0069】
R−BM(又はRS−BM)0.5%の吸入溶液の処方
R型バンブテロール 500mg
クエン酸,無水 100mg
塩化ナトリウム 800mg
吸入用滅菌水の適量(qs) 100ml
【実施例7】
【0070】
定量吸入器(MDI)におけるR型バンブテロール及びバンブテロールの製剤
微粉化したR型バンブテロール(R−BM)又はバンブテロール(RS−BM)の重量をアルミニウム缶内で量り,その後真空フラスコからHFA134a(1,1,1,2−テトラフルオロエタン)を加え,絞り弁を所定の位置に圧着する。エアロゾル懸濁液の場合,肺に相当量を吸入投与できるように,R型バンブテロール又はバンブテロールを微粉化する必要がある。微粉化したR型バンブテロール又はバンブテロールの粒径は20μm以下とすべきであり,好ましくは1〜10ミクロンであり,例えば1〜5ミクロンである。R型バンブテロール又はバンブテロールは,噴霧剤の溶液として,エタノールなどの共溶剤及び他の成分とともに調剤してもよい。R型バンブテロールの1回あたりの用量は20〜250μgであり,好ましくは60μg又は120μgである。バンブテロールの1回あたりの用量は60〜500μgであり,好ましくは120μg又は240μgである。噴射剤の重量は60〜99.99%程度であり,他の付加成分に応じて調節してもよい。
【0071】
加圧式定量吸入器におけるR−BM又はRS−BMの処方
R−BM 60μg×200作動
エタノール 4%
ソルビタントリオレエート 0.012g
HFA134a 8.0g

RS−BM 120μg×200作動
エタノール 8%
ソルビタントリオレエート 0.024g
HFA134a 8.0g

【実施例8】
【0072】
ドライパウダー吸入器におけるR型バンブテロール(R−BM)及びバンブテロール(RS−BM)
R型バンブテロール又はバンブテロールを微粉化し,バルクをラクトースと混合した。ロタヘラー(Rotahaler),ディスクヘラー(Diskhaler)又は他の利用可能な器具によって投与できるように,この混合物を硬ゼラチンカプセル若しくはカートリッジ又は箔ブリスターパックに充填する。カプセルごとにR型バンブテロールを150μg,又はバンブテロールを300μg含んでいる。
【0073】
ドライパウダー吸入器におけるR型バンブテロール又はバンブテロールの処方
R−BM 15mg
ラクトース 125mg
100個のカプセルに充填

RS−BM 30mg
ラクトース 250mg
100個のカプセルに充填

【実施例9】
【0074】
定量吸入器(MDI)におけるR型バンブテロール及びブデソニド
定量吸入器(MDI)におけるR型バンブテロール及びブデソニドの処方
R−BM 30μg×200
ブデソニド 100μg×200
FHA134a 8g

RS−BM 60μg×20
ブデソニド 100μg×200
FHA134a 8g

【0075】
微粉化したR型バンブテロール(又はバンブテロール)とブデソニドの分量をアルミニウム缶内で量り,その後真空フラスコから1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134a)を加え,絞り弁を所定の位置に圧着する。吸入剤はエアロゾル懸濁液又はエタノール及び他の成分などの共溶剤を加えた溶液中に存在してもよい。ブデソニドの1日の投与量は50〜200μg(子供の場合)又は100〜500μg(大人の場合)であり,R型バンブテロールの1日の投与量は0.2〜2mgであり,バンブテロールでは0.04〜4mgである。R型バンブテロールの1回の投与量は20〜250μg,好ましくは60μg又は120μgであり,バンブテロールの1回の投与量は60〜500μg,好ましくは120μg又は240μgである。噴射剤の重量は60〜99.99%であり,他の付加成分に応じて調節してもよい。
【実施例10】
【0076】
ドライパウダー吸入器におけるR型バンブテロール又はバンブテロールの及びブデソニド
ドライパウダー吸入器におけるR型バンブテロール又はバンブテロールの及びブデソニドの処方
R−BM 15μg
ブデソニド 200μg
ラクトース 20mg

RS−BM 30μg
ブデソニド 200μg
ラクトース 20mg

【0077】
微粉化したR型バンブテロール(又はバンブテロール)及び微粉化したブデソニドのバルクを,適切な割合でラクトースと混合する。ロタヘラー(Rotahaler),ディスクヘラー(Diskhaler)又は他の利用可能な器具によって投与できるように,この混合物を硬ゼラチンカプセル若しくはカートリッジ又は箔ブリスターパックに充填する。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療効果を改善し毒性を低下させて,人間又は動物の疾患を治療するための細気管支及び肺に吸入投与する吸入剤である薬剤としてのR型バンブテロール及びその塩の使用。
【請求項2】
前記R型バンブテロールは,活性成分がR型バンブテロールであるバンブテロールを含む,請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記R型バンブテロールは,光学的にほぼ純粋な形であり,98%以上の鏡像体過剰値を有する,請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記R型バンブテロールは,光学的に純粋な形であり,90%以上の鏡像体過剰値を有し,S型バンブテロールは5重量%以下である,請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記疾患は,喘息及びCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を含む呼吸器疾患である,請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記疾患は,脂質異常症,高血糖症及び肥満症を含む脂質疾患である,請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記疾患は,切迫早産である,請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記薬剤は,喘息,COPD又は他の呼吸器疾患の治療において,同時に,連続して,又は個別に投与する(A)R型バンブテロール又はその薬学的に許容される塩,及び(B)コルチコステロイドを,別々に又は合わせて含み,前記(A)若しくは(B)又は(A)及び(B)は吸入剤である,請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記コルチコステロイドは,ブデソニド,シクレソニド,ベクロメタゾン,モメタゾン,フルニソリド,プロピオン酸フルチカゾン,トリアムシノロン・アセトニド,及び/又はそれらの薬学的に許容される塩,及び/又はそれらの溶媒和物である,請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記薬剤は,喘息,COPD又は他の呼吸器疾患の治療において,同時に,連続して,又は個別に投与する(A)R型バンブテロール又はその薬学的に許容される塩,及び(B)抗コリン薬を,別々に又は合わせて含み,前記(A)若しくは(B)又は(A)及び(B)は吸入剤である,請求項1に記載の使用。
【請求項11】
前記抗コリン薬は,臭化イプラトロピウム,チオトロピウム,トロスピウム,オキシトロピウム,ダロトロピウム(daratropium),アトロピン,ホマトロピン,トロピカミド,スコポラミン,グリコピロレート(lycopyrolate),オキシブチニン,トルテロジン,及び/又はそれらの塩である,請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記薬剤は,喘息,COPD又は他の呼吸器疾患の治療において,同時に,連続して,又は個別に投与する(A)R型バンブテロール又はその薬学的に許容される塩,並びに(B)短期作用性β作動薬及びそれらの塩を,別々に又は合わせて含み,前記(A)若しくは(B)又は(A)及び(B)は吸入剤である,請求項1に記載の使用。
【請求項13】
前記短期作用性β作動薬は,テルブタリン,フェノテロール,サルブタモール,オルシプレナリン,クレンブテロール,クロルプレナリン,レプロテロール,ビトルテロール,リミテロール,それらのキラルなユートマー及びそれらの塩である,請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記吸入剤は,薬剤又は噴射剤の溶液若しくは散布液中の薬剤を含む吸入エアロゾル,又は,薬剤を有する散布液若しくは水性媒体,有機媒体,又は水性有機媒体中に薬剤を有する散布液を含む吸入噴霧化組成物,又は吸入用カプセルに充填されたラクトースと混合した微粉化ドライパウダーである,請求項1に記載の使用。
【請求項15】
前記噴射剤は1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134a)及び/又は1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227)である,請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記減少させる毒性は,R型バンブテロールの使用に関連する副作用である,請求項1に記載の使用。
【請求項17】
前記減少させる毒性は,バンブテロールの使用に関連する薬剤耐性及び喘息増悪である,請求項1に記載の使用。
【請求項18】
バンブテロールに関連する薬剤耐性を低下させ,喘息増悪の減少させることにより,喘息,COPD又は他の呼吸器疾患を治療するための経口投与又は吸入投与する薬剤としてのR型バンブテロールの使用。

【公表番号】特表2012−530134(P2012−530134A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516053(P2012−516053)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/001691
【国際公開番号】WO2010/147631
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511302437)
【Fターム(参考)】