説明

呼吸域用医療デバイス

【課題】生体組織と空気層の間の境界部における処置を容易とし、かつより細径の呼吸域用内へ挿入して措置が可能な呼吸域用医療デバイスを提供する。
【解決手段】少なくとも内視鏡20を含む医療用処置具を挿入−抜去可能なルーメン111を有する医療用長尺体11と、前記医療用長尺体11に配置され、生体の断層画像を取得するために光学的な検出波を送受信する検出部12と、を有する呼吸域用医療デバイス10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸域で処置を行うために呼吸域内へ挿入される呼吸域用医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、正常な呼吸を妨げる肺疾患の広範な群を意味し、肺気腫及び慢性気管支炎から選択される、少なくとも1つの疾患の存在により気道が閉塞する疾患である。COPDは、これらの症状が、しばしば同時に存在し、そして個々の症例において、どの疾患が肺の閉塞を引き起こす原因であるかを確認するのが難しい。臨床的には、COPDは肺からの呼気流量の低下によって診断される。
【0003】
このうち、肺気腫は、ガス交換の場となる呼吸細気管支、肺胞道、肺胞、及び肺胞嚢を含む肺胞実質と呼ばれる組織に破壊をともなった異常な拡大が生じた状態をいう。正常な肺胞実質は呼息時に収縮するが、気腫化した肺胞実質は呼吸により拡張した後はもとには戻らない。このため、呼気を十分に行えない。その上、肺胞の有効面積や血管床(肺胞の表面に縦横に走る毛細血管)が減るため、肺全体の換気能力が低下する。加えて、炎症によりエラスチンやコラーゲンなどが破壊されているため、肺の弾力性も低下し、気管支が広がったままの状態を維持しにくい状態になっている。このため、呼気のときに肺が縮むと、その気管支が空気に満たされた周りの肺胞に圧迫されて狭くなり、空気が出にくくなる。
【0004】
肺気腫に対する処置としては、現在のところ、一時的に症状を緩和させる酸素療法や薬物療法に加え、外科的方法として、肺の病変部を除去し、肺の正常部の膨張を促す肺縮小手術があるが、肺縮小手術では病変部だけでなく病変部近傍の多くの正常部も除去されるため、患者への負担が大きい。従って、医療用デバイスを経気管的に病変部まで案内し、病変部だけを治療又は手術する低侵襲な処置が望ましいが、気管から肺胞実質に至る管腔は複雑に分岐しているため、医療用デバイスを病変部まで的確に案内することが困難で、そのような処置の実現は難しいのが現状であった。例えば特許文献1に記載されているように、気管支内の目的部位に内視鏡を案内するものはあるものの、内視鏡は先端に撮像装置を備え、外径が数mm程度であり、気管支から先でさらに細径化し、特に径が1mmより小さい細気管支、終末細気管支、及び呼吸細気管支等に挿入することができない。さらに剛性が高く曲率半径が大きいため、気管支の複雑な走行に対応することができず、第5分岐より先の分枝に到達することは困難である。
【0005】
また、近年、超音波プローブを気管支腔内に挿入して気管支の超音波断層を観察する気管支腔内超音波断層法が知られているが、この方法では、生体組織と空気層の間で超音波が全反射するため、気腫部における組織と空気層の間の境界部の観察に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−135215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、従来の技術では医療用デバイスを肺胞実質の病変部へ案内できず、このことが肺気腫の低侵襲な処置実現の妨げとなっていた。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、肺気腫の低侵襲な処置実現のため、生体組織と空気層の間の境界部における処置を容易とし、かつより細部への挿入が可能な呼吸域用医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る呼吸域用医療デバイスは、少なくとも内視鏡を含む医療用処置具を挿入−抜去可能なルーメンを有する医療用長尺体と、前記医療用長尺体に配置され、生体の断層画像を取得するために光学的な検出波を送受信する検出部と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した本発明に係る呼吸域用医療デバイスは、光学的な検出波を送受信する検出部が設けられているため、生体組織と空気層の間の境界部および生体組織の断面を観察しつつ処置を行うことができる。また、医療用長尺体に、内視鏡を含む医療用処置具を挿入−抜去可能なルーメンが形成されているため、内視鏡によって観察しつつ医療用長尺体を目的部位まで導いた後、内視鏡を抜去して替わりに他の医療用処置具を挿入し、検出部によって断層画像を観察しつつ処置を行うことができる。このため、内視鏡と医療用処置具を同時に挿入する必要がなく、医療用長尺体を細径化することができ、より細部へ挿入して処置することが可能となる。このため、肺の正常な部位を残しつつ、肺気腫の低侵襲な処置が可能となる。
【0011】
前記検出部が、前記医療用長尺体の周方向に複数設けられれば、複数の検出部から得られる画像を合成することで、生体の広い範囲の断層画像を得ることができる。
【0012】
前記検出部が、回転走査および往復走査の少なくとも一方の走査を行うようにすれば、1つの(または少数の)検出部で、生体の広い範囲の断層画像を得ることができる。
【0013】
前記医療用処置具が、先端が鋭利な長尺の針部を含めば、針部を用いて、拡大した肺胞に隣接した気管支等の管腔から肺胞に対して孔部を形成することができ、拡大した肺胞から空気をバイパスさせて脱気することができる。
【0014】
前記針部が、先端に曲がって形成される曲げ部を有すれば、針部を医療用長尺体から突出させた際に、針部を管腔の壁面に突刺しやすい。
【0015】
前記針部が、後方散乱を生じさせる散乱部を有すれば、検出部による針部の観測がより容易となる。
【0016】
前記ルーメンの内径が0.3mm〜2.6mmであれば、医療用長尺体を細径化でき、より細径の気管支内へ挿入して処置することが可能となる。
【0017】
前記医療用長尺体の外径が0.5mm〜2.8mmであれば、医療用長尺体をより細径の気管支内へ挿入して処置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る呼吸域用医療デバイスの概略構成図である。
【図2】医療用長尺体の先端部を示す断面図である。
【図3】図2の3−3線に沿う断面図である。
【図4】医療用処置具である脱気針の先端部を示す側面図である。
【図5】医療用長尺体を体腔内へ挿入した際を示す断面図である。
【図6】医療用長尺体の第1ルーメンに脱気針を挿入した際を示す断面図である。
【図7】医療用長尺体の第1ルーメンから脱気針を突出させて生体組織を突刺した際を示す断面図である。
【図8】医療用長尺体の変形例を示す断面図である。
【図9】脱気針の変形例を示す断面図である。
【図10】脱気針の他の変形例を示す断面図である。
【図11】図11のA矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
図1〜3に示すように、本実施形態に係る呼吸域用医療デバイス10は、気管から先の“呼吸域”において分岐する管腔60に挿入される長尺な医療用長尺体11と、医療用長尺体11内に配置され、生体の断層画像を取得するために生体内で光学的な検出波を送受信する検出部12と、検出部12が接続されるスキャナ15と、検出部12が受信する光に基づいて管腔60の3次元断層画像を生成する画像生成部13と、を有している。また、呼吸域用医療デバイス10は、画像生成部13が生成した管腔60の3次元画像を表示する表示部14を有する。
【0021】
なお、本明細書中、“呼吸域”とは、気管、主気管支、葉気管支、気管支、細気管支、終末細気管支、呼吸細気管支、肺胞管(肺胞道)、肺胞、及び肺胞嚢からなる。なお、図中では、呼吸域全体の一部の管腔60だけを示している。
【0022】
3次元断層画像を生成する方法としては、光干渉断層診断法(OCT :Optical Coherence Tomography)を使用する。光干渉断層診断法では、先端に光学レンズ及び光学ミラーを内蔵するプローブを取り付けた光ファイバを観察対象である体腔内に挿入し、光ファイバの先端側に配置した光学ミラーをラジアル走査させながら体腔内に光を照射し、生体組織からの反射光をもとに生体組織の断面画像を描出するものである。また、光干渉断層診断法(OCT)の一種であり、より高速で画像を得ることが可能な光学振動数領域画像化法(optical frequency domain imaging:OFDI)を用いると、なおよい。なお、光干渉断層診断法および光学振動数領域画像化法は周知の技術であるため、詳細な説明を省略する。
【0023】
医療用長尺体11は、医療用長尺体11を貫通する第1ルーメン111と、検出部12を内部に収容し、先端側が開口しない第2ルーメン112と、を有する可撓性を備えた管体である。第1ルーメン111には、医療用長尺体11の基端側の開口が形成せれるポート113から、内視鏡20(医療用処置具)および脱気針30(針部、医療用処置具)を挿入−抜去可能となっている。
【0024】
検出部12は、スキャナ15と連結される光ファイバ121と、光ファイバ121の先端側に光ファイバ121と一体的に形成された球体である光学レンズ122と、光学レンズ122の一部を切り落とすことで形成される光学ミラー123とを有している。検出部12は、図3に示すように、第2ルーメン112内で光ファイバ121の中心軸を中心に走査角度θの範囲内で回転走査(ラジアル走査)が可能となっている。また、検出部12は、第2ルーメン112内で往復走査が可能であってもよい。また、検出部12は、第2ルーメン112内で往復走査が可能であってもよい。すなわち、第2ルーメン112内で検出部12を前進または後退させつつ回転走査することで、生体のより広い範囲の断層画像を得ることが可能となる。
【0025】
図示した医療用長尺体11の先端は真直ぐであるが、医療用長尺体11の先端は曲がっていてもよく、このような構成によって、分岐する管腔60への医療用長尺体11の挿入が容易になる。
【0026】
医療用長尺体11は、例えば、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネイト、ポリサルフォンやシリコーンのような柔軟性に優れた高分子材料等で形成される。
【0027】
光ファイバ121としては、公知のものを使用できる。例えば、光ファイバ121として、SiO系のものやプラスチック系のものを使用でき、光ファイバ121は、中心に位置して光が通過するコアと、それを取り囲むクラッドと、を含む層構造を有する。
【0028】
光学レンズ122および光学ミラー123は、光ファイバ121を進行してきた光を光ファイバ121の軸方向に対して出射角αを有して出射する。そして、検出部12は、出射角αを中心に視野角βを有している。
【0029】
また、光学レンズ122および光学ミラー123は、管腔60からの入射光を光ファイバ121に沿って先端側と反対の基端側に向かって進行させる。管腔60からの入射光とは、光ファイバ121から出射された照射光のうち、管腔60内で散乱、反射、屈折して光ファイバ121に戻ってくるものである。
【0030】
医療用長尺体11の基端部は、光ファイバ121をラジアル走査するためのスキャナ15に接続される。スキャナ15は、光ファイバ121へ光源を導くと共に、管腔60から戻る入射光を、画像生成部13に通信させることができる。
【0031】
画像生成部13は、主な構成として、CPU、及びメモリやハードディスク等の記憶装置を有する。また、画像生成部13は、スキャナ15を介して光ファイバ121と光学的に接続し光を光ファイバ121に供給する光源と、戻ってくる入射光と参照するための参照光を生成するための参照ミラーと、光ファイバ121を通って進行してきた入射光を検出する例えばフォトダイオード等の光検出器とを有する。
【0032】
画像生成部13は、上述した公知の光干渉断層診断法を利用し、光ファイバ121が受信する管腔60からの入射光に基づいて、管腔60の3次元断層画像を生成する。
【0033】
画像生成部13は、生成した管腔60の一部の3次元画像を様々な方向から表示させたり所望の領域を拡大して表示させたりすることができ、また、生成した管腔60の一部の3次元画像につき、部分的に切除したものを表示部14に表示できる。表示部14は、画像生成部13と電気的に接続している。表示部14は、例えば、ブラウン管、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイである。
【0034】
内視鏡20は、医療用長尺体11の第1ルーメン111に挿入可能な挿入部21と、操作を行うための操作部22と、内視鏡20を制御する制御装置40に接続されるコネクター部23とを有している。
【0035】
挿入部21は、先端部に撮像するための撮像センサ25と、光を照射する照射部26とを有している。なお、撮像センサ25はCCDセンサであるが、光ファイバを用いてもよい。また、照射部26は光ファイバであるが、LEDを用いてもよい。操作部22では、撮像センサ25および照射部26の操作が可能となっている。
【0036】
制御装置40は、照射部26である光ファイバに接続される光源を有している。また、制御装置40は、撮像センサ25からの信号を受信し、内視鏡用表示部41に画像を表示させる。内視鏡用表示部41は、例えば、ブラウン管、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイである。
【0037】
一般的な内視鏡は、医療用の処置具を挿入可能なチャネル、送気用チャネルおよび吸引用チャネル等が形成され、更に、挿入部21の向き(角度)を変える機能を有しているが、本実施形態において使用される内視鏡20は、これらのチャネルおよび機能を有さず、光を照射して撮像する機能のみを有することが好ましい。これにより、一般的な内視鏡では外径が数mmとなるのに対し、本実施形態における内視鏡20は、外径を1〜2mm程度若しくはそれ以下に抑えることができる。
【0038】
医療用長尺体11の外径D1および第1ルーメン111の内径D2は、大き過ぎると細い気管支への挿入が困難となり、小さ過ぎると第1ルーメン111内への内視鏡20や医療用処置具(脱気針30)の挿入が困難となる。細径化された本実施形態における内視鏡20は、挿入部21が1mm程度若しくはそれ以下であるため、第1ルーメン111の内径D2は、好ましくは0.3mm〜2.6mmであり、より好ましくは、0.7mm〜1.5mmである。また、医療用長尺体11の外径D1は、好ましくは0.5mm〜2.8mmであり、より好ましくは、0.8mm〜2.0mmである。なお、医療用長尺体11の外径D1および第1ルーメン111の内径D2は、必ずしも上記の範囲の寸法に限定されない。
【0039】
第1ルーメン111に挿入−抜去可能な脱気針30は、図4に示すように、先端に鋭利な鋭端部31が形成されている。脱気針30の外径は、第1ルーメン111に挿入可能であればよく、したがって、上記した第1ルーメン111の内径D2に応じて適宜選択されることが好ましい。
【0040】
脱気針30の先端部は、先端から1mm〜10mmの部位にて曲げ角度γを有して曲がって曲げ部33が形成されることが好ましい。脱気針30の先端部が曲がっていることで、脱気針30を医療用長尺体11から突出させた際に、脱気針30が管腔60の壁面に突刺さりやすい。曲げ角度γは、小さすぎると検出部12による断層画像の検出が困難となり、大きすぎると穿孔が困難となる。このため、曲げ角度γは、好ましくは20度〜90度であり、より好ましくは30度〜80度である。
【0041】
また、脱気針30は、OCTでの観測がより容易となるように加工されていることが望ましい。例えば、脱気針30の表面に、検出部12から照射された光を後方散乱させて検出部12へ入射させる散乱部32が形成される(図4参照)。散乱部32が形成される範囲は、生体に突刺さる部位の少なくとも一部が含まれれば、特に限定されない。散乱部32は、例えば脱気針30を金属性とし、表面にブラスト加工等を施して非鏡面とすることで容易に形成できる。
【0042】
または、脱気針30を、検出部12からの光に対して透過性を有する樹脂製とし、この樹脂内に、当該樹脂よりも光の透過性の低い粒子を混ぜて散乱部としてもよい。
【0043】
または、脱気針30を、検出部12からの光に対して透過性を有する樹脂製とし、脱気針30の外面を荒らしたり、若しくは脱気針30の内部に中空部を設けて中空部の内表面を荒らして散乱部としてもよい。
【0044】
または、脱気針30に、使用環境である空気や生体組織に対して屈折率が大きく異なる材料を用いることで後方散乱を増加させて、散乱部としてもよい。この際、脱気針30の材料を樹脂とすれば、屈折率が空気と大きく異なる。また、屈折率が水に近い生体組織に対しては、レンズ等に使用される高屈折率の樹脂を用いることで、生体組織と屈折率を大きく異ならせることができる。高屈折率の樹脂には、例えばエビスルフィド樹脂、チオウレタン樹脂、ポリカーボネイト樹脂、塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。または、屈折率の異なる2種類以上の樹脂を重ねることで、層の重なる界面において後方散乱を増加させることで、散乱部としてもよい。
【0045】
または、脱気針30を、光の吸収係数の高い樹脂で被覆して着色してもよい。脱気針30の吸収係数が高いと、脱気針30によって光が吸収されるために、脱気針30より遠方が黒落ちして観測できなくなり、黒落ちした位置によって脱気針30の位置を判別することが可能となる。
【0046】
なお、第1ルーメン111に挿入−抜去可能な医療用処置具は、本実施形態では脱気針30であるが、これに限定されず、例えば鉗子、ブラシ、超音波プローブ、バルーンカテーテル等を適用可能である。
【0047】
そして、検出部12の出射角αおよび脱気針30の曲げ角度γは、以下の式(1)の関係を満たすことが好ましい。式(1)を満たせば、脱気針30を生体組織に突刺す際に、検出部12により脱気針30の先端を良好に観察することができる。
【0048】
γ−30°≦α≦γ+20° 式(1)
または、検出部12の出射角α、視野角βおよび脱気針30の曲げ角度γを、以下の式(2)の関係を満たすようにしてもよく、更には、式(3)を満たすことがより好ましい。式(2)または式(3)を満たすようにしても、脱気針30を生体組織に穿孔する際に、検出部12によって脱気針30の先端を良好に観察することができる。
【0049】
α−β/2<γ かつ α+β/2>γ−20° 式(2)
α−β/2<γ かつ α+β/2>γ 式(3)
次に、呼吸域用医療デバイス10の使用方法について述べる。
【0050】
まず、術者は、制御装置40に接続された内視鏡20の挿入部21を医療用長尺体11の第1ルーメン111に挿入し、内視鏡20の撮像センサ25を、医療用長尺体11の先端の開口部に位置させる(図2参照)。この後、医療用長尺体11を患者の口または鼻から気管に挿入する。術者は、内視鏡用表示部41により管腔60を視認しつつ、分岐を選択しながら医療用長尺体11を目的位置まで挿入する。このとき、内視鏡20が光を照射し撮像する機能のみに限定されて外径が小さくなっており、医療用長尺体11も細く形成されているため、細い管腔60まで挿入が可能である。特に、検出部12が、医療用長尺体11の周方向の一部に偏って配置されているため(図3参照)、医療用長尺体11の広い範囲を第1ルーメン111として使用でき、医療用長尺体11の更なる細径化が可能となっている。
【0051】
医療用長尺体11を内視鏡20により目的位置の近傍まで導いた後には、スキャナ15により検出部12をラジアル走査しつつ検出部12から光を管腔60内へ照射し、同時に検出部12によって管腔60からの入射光を受信する。
【0052】
入射光は、光ファイバ121を通り、スキャナ15を介して画像生成部13に入力され、画像生成部13によって管腔60の3次元断層画像に処理された後、表示部14に表示される。管腔60の3次元画像はリアルタイムで表示部14に表示され、術者は、空気が閉じ込められて拡大した肺胞に隣接している管腔60を3次元画像から正確に特定し、脱気する部位の近傍に医療用長尺体11をより正確に位置決めできる。この後、内視鏡20を医療用長尺体11の第1ルーメン111から抜去する。
【0053】
次に、内視鏡20が抜去された医療用長尺体11の第1ルーメン111に、基端側のポート113から脱気針30を挿入する。脱気針30は、先端が曲がっているため、第1ルーメン111内で弾性的に直線状に延び、第1ルーメン111の先端側から突出することで、弾性的に元の曲がった形状に戻る。次に、病変部の3次元画像を表示部14で確認しつつ、脱気針30を医療用長尺体11から突出させて管腔60に穿孔する。この際、光干渉断層診断法(OCT)によって断層画像を取得しているため、空気層が存在しても画像を得ることができ、生体組織と空気層の境界をも表示できる。したがって、どこまでが空気層かを観察できるため、肺気腫の突刺す部位および必要な突刺し深さを正確に把握でき、穿孔を正確に行うことができる。特に、小さな肺気腫では、突刺し位置および突刺し深さをより高精度に調節する必要があるが、光干渉断層診断法を用いることで、小さな肺気腫であっても正確に突刺すことが可能である。
【0054】
穿孔した後、脱気針30を後退させて第1ルーメン111内に収める。これにより、穿孔によって管腔60と肺胞の間に形成された孔部61を介して、肺胞から空気を管腔60にバイパスさせて脱気することができる。
【0055】
本実施形態に係る呼吸域用医療デバイス10によれば、断層画像を得るために光学的な検出波を送受信する検出部12が設けられているため、生体組織と空気層の間の境界部を観察しつつ処置を行うことができ、作業性を向上させることが可能となる。また、医療用長尺体11に、内視鏡20を含む医療用処置具を挿入−抜去可能な第1ルーメン111が形成されているため、内視鏡20によって観察しつつ医療用長尺体11を目的部位まで導いた後、内視鏡20を抜去して替わりに他の医療用処置具(例えば、脱気針30)を挿入し、検出部12によって断層画像を観察しつつ処置(例えば、脱気)を行うことができる。このため、内視鏡を抜去した後でも位置ずれを検出できる。このため、内視鏡20と医療用処置具を同時に挿入する必要がなく、医療用長尺体11を細径化することができ、より細径の管腔60へ挿入して処置することが可能となる。これにより、肺の正常な部位を残しつつ、肺気腫の低侵襲な処置が可能となる。
【0056】
また、内視鏡20により観察しながら処置をする必要がないため、必要以上にチャネルが必要ではなく、内視鏡20に必要以上のチャネルを形成する必要がない。したがって、機能を制限して内視鏡20を極力細径化することができる。そのため、内視鏡20が挿入される医療用長尺体11を細径化でき、呼吸域のおけるより細径の管腔60へ挿入して処置を行うことが可能となる。
【0057】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変できる。例えば、図8に示すように、医療用長尺体50に複数の検出部51を設けることができる。この場合、各々の検出部51をラジアル走査することなしに、各々の検出部51から得られる2次元断層画像を合成することで、管腔60の3次元断層画像を得ることができる。また、第1ルーメン111から内視鏡20を抜去した後、他の医療用処置具を挿入するのではなく、第1ルーメン111自体を利用して例えば薬を投入する等の処置を行うことも可能である。また、脱気針30の曲げ部33は、一箇所で屈曲するのではなしに複数個所で屈曲してもよく、または湾曲して形成されてもよい。
【0058】
また、図9に示すように、脱気針30を第1ルーメン111に収容した医療用長尺体11の内壁面の脱気針30による削れを抑制するために、当該内壁面と接する曲げ部33の部位に曲率を持たせた曲率部34を設けてもよい。また、曲げ部33が接する医療用長尺体11の少なくとも一部に、低摩擦素材(例えば、フッ素樹脂等)を用いることで、医療用長尺体11の内壁面の削れを抑制することもできる。また、鋭端部31の刃先(先端)が医療用長尺体11の内壁面に接触しないように、刃先の近傍に曲率を持たせてテーパ状に形成したテーパ部35を形成してもよい。
【0059】
また、図10,11に示すように、医療用長尺体11の内壁面の脱気針30による削れを抑制するために、脱気針30を収容する筒状のカバー36を設けてもよい。カバーの先端部には、開閉自在となるように切込部37が形成される。穿刺の際には、カバー36を基端側へ引き込みつつ脱気針30を突出させることで、鋭端部31により切込部37を開口させて鋭端部31を突出させることができる。なお、カバー36の鋭端部31によって傷付きやすい部位は、金属板等により補強してもよい。
【0060】
また、脱気針30にシリコーンオイルを塗布したり、医療用長尺体11の内壁面に潤滑コーティングを施すことで潤滑性を向上させて、医療用長尺体11の削れを抑制してもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 呼吸域用医療デバイス、
11,50 医療用長尺体、
12,51 検出部、
20 内視鏡(医療用処置具)、
30 脱気針(針部、医療用処置具)、
32 散乱部、
33 曲げ部、
60 管腔、
111 第1ルーメン(ルーメン)、
D2 第1ルーメンの内径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内視鏡を含む医療用処置具を挿入−抜去可能なルーメンを有する医療用長尺体と、
前記医療用長尺体に配置され、生体の断層画像を取得するために光学的な検出波を送受信する検出部と、を有する呼吸域用医療デバイス。
【請求項2】
前記検出部は、前記医療用長尺体の周方向に複数設けられる、請求項1に記載の呼吸域用医療デバイス。
【請求項3】
前記検出部は、回転走査および往復走査の少なくとも一方の走査を行う、請求項1または2に記載の呼吸域用医療デバイス。
【請求項4】
前記医療用処置具は、先端が鋭利な長尺の針部を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の呼吸域用医療デバイス。
【請求項5】
前記針部は、先端に曲がって形成される曲げ部を有する、請求項4に記載の呼吸域用医療デバイス。
【請求項6】
前記針部は、後方散乱を生じさせる散乱部を有する、請求項4または5に記載の呼吸域用医療デバイス。
【請求項7】
前記ルーメンは、内径が0.3mm〜2.6mmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の呼吸域用医療デバイス。
【請求項8】
前記医療用長尺体は、外径が0.5mm〜2.8mmである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の呼吸域用医療デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−152400(P2012−152400A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14472(P2011−14472)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】