説明

咀嚼性ソフトカプセル剤およびその製造方法

【課題】新規な食感を呈する咀嚼性ソフトカプセル剤の提供。
【解決手段】カプセル皮膜が水性のゲル化剤によってゲル化され、内容物が水性のゲル化剤によりゲル化され、前記内容物はゼリー乃至グミ状であることを特徴とする咀嚼性ソフトカプセル剤。好ましくは、カプセル皮膜の内容物側の境界には保水力の高い結晶性の水溶性物質が析出している。内容物が油のものに対して遜色ないものとなっている。湿潤カプセルを製造後、高湿度雰囲気下での通風乾燥処理に供し、内容物の水分含量が20〜25質量%になった時点で、通常または低湿雰囲気下での通風乾燥処理に供して最終的な乾燥カプセルにすることで、カプセル皮膜の劣化を防いでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトカプセル剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソフトカプセル剤は、カプセル皮膜がグリセリンやソルビトールなどの可塑剤を含んでいることから、弾力性に富んでおり、カプセル強度が高くひび割れがし難いため、液状の内容物の内包に適しているだけでなく、内容物の酸化防止効果や異味・異臭のマスキング効果も優れている。従って、ソフトカプセル剤は、医薬品のみならず、健康補助食品、化粧品、香料、一般加工食品などに幅広く使用され始めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−047548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近では、ソフトカプセル剤の用途をさらに拡大するために、嗜好性食品、例えば菓子にも適用したいとの要求がある。
そこで、ソフトカプセル剤に全体として弾力性の食感を与えることが考えられている。
しかしながら、内容物にも弾力性を与えようとすると、内容物をゲル化によりゼリー乃至グミ状にすることになるが、現在市販されているゲル化剤の大部分は水で膨潤させて使用する水性のものである。
【0005】
而して、ソフトカプセル剤は、通常、皮膜剤として、ゼラチンなどの造膜性とゲル化性を単独で併せ持つものや、それぞれの特性を有するものを併用しているが、いずれも水性のものを使用し、これを水で膨潤させてゲル状にした上で内容物を包封して湿潤カプセルに成形し、さらにこの湿潤カプセルを仕上げ乾燥して最終的に適度な水分含量の乾燥カプセルにしており、仕上げ乾燥することで、最終的に、カプセル皮膜に押しても塑性変性しない適度な弾力性と、付着やカビ発生を防止できる程度な保存安定性を付与している。
そのため、内容物が水溶液だと、従来の技術では乾燥中にカプセル皮膜に水分が急速に移行してしまいカプセル皮膜が不定形に膨潤したり溶解したりしてしまい、商品価値が著しく低下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記従来の問題点に着目して試されたものであり、内容物が水性のものでも、良好な弾力性と保存安定性を有する咀嚼性のソフトカプセル剤と、その製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、カプセル皮膜が水性のゲル化剤によってゲル化され、内容物が水性のゲル化剤によりゲル化され、前記内容物はゼリー乃至グミ状であることを特徴とする咀嚼性ソフトカプセル剤である。
好ましくは、カプセル皮膜の内容物側の境界には保水力の高い結晶性の水溶性物質が析出している。
また、好ましくは、カプセル皮膜の外表面にも結晶性の水溶性物質が析出して露出していることを特徴とするソフトカプセル剤。
【0008】
上記の咀嚼性ソフトカプセル剤は、カプセル皮膜により内容物を包封した湿潤カプセルを製造後、高湿度雰囲気下での通風乾燥処理に供し、内容物の水分含量が20〜25質量%になった時点で、通常または低湿雰囲気下での通風乾燥処理に供して最終的な乾燥カプセルにすることにより製造できる。
好ましくは、高湿度雰囲気は相対湿度が50〜70%になるように調整する。
【発明の効果】
【0009】
本発明で得られる内容物がゼリー乃至グミ状の咀嚼性ソフトカプセル剤は、良好な製剤性および保存性が確保されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態に係る咀嚼性ソフトカプセル剤について詳細に説明する。
(カプセル皮膜)
カプセル皮膜は、水溶性のゲル化剤として含む。このゲル化剤には、例えば、ゼラチン、寒天、カラギーナン、アルギン酸又はその塩、可溶性澱粉、デキストリン、グルコマンナン、ペクチン、カードラン、プルラン、ガム類(例えば、ローカストビーンガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、アラビアガム、ジェランガム、キサンタンガム、グアーガム等)、セルロース類(例えば、HPMC、HPC、MC、HEC、CMEC、HPMCP等)が挙げられる。これらは単体として用いても併用してもよい。
これに、適当な可塑剤、例えば、グリセリン、ポリビニルアルコール、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコール類、ポリビニルピロリドンが添加されている。
また、カプセル皮膜中には、必要に応じて、着色剤、防腐剤、離型剤、芳香剤、スクラロース、アセスルファムK、アスパルテーム、ステビア、ソーマチン等の甘味剤、呈味剤などを添加してもよい。
【0011】
好ましくは、結晶性の水溶性物質由来の析出物が分散されている。水溶性物質としては、例えば、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリトリトール、マルチトール、ラクチトール等の糖アルコール、アラビノース、キシロース、グルコース、フラクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類、マルトース、トレハロース、ネオトレハロース、スクロース等の二糖類、ラフィノース、シアリルラクトース、フコシルラクトース等の三糖類、マルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、バラチノース等のスクロオリゴ糖、キシロオリゴ糖、フスマオリゴ糖、寒天オリゴ糖、タマリンドオリゴ糖、キトサンオリゴ糖等のオリゴ糖(寡糖類)、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、システイン、シスチン、メチオニン等のアミノ酸またはその塩、グルタチオン等のオリゴペプチドが挙げられる。これらはいずれも保水力が高い。更には、甘味性物質、塩味性物質、アミノ酸または核酸等の旨味性物質、カフェイン等の苦味性物質、タンニン等の渋味性物質、酸味性物質も挙げられる。これらは単体として用いても併用してもよい。
【0012】
最終的な乾燥カプセル基準で、カプセル皮膜の好ましい処方は、水分含量は、5〜20質量%程度であり、ゲル化剤は、30〜70質量%であり、可塑剤は、25〜50質量%であり、結晶性の水溶性物質は配合する場合には、皮膜に本来要求される機能を損なわない範囲とするために、カプセル皮膜中1質量%以上26質量%以下が好ましい。
【0013】
結晶性の水溶性物質が配合されている場合には、析出物として乾燥カプセルのカプセル皮膜中に含まれており、好ましくは、カプセル皮膜の外表面にも析出して露出している。このように外表面に析出させてカプセル皮膜を覆った状態とすることにより、遮蔽作用により、高温高湿状況下でも、皮膜の膨潤による粘着化を防止でき、保存性が飛躍的に向上する。特に、保水力の高いものを析出させることで、より高い遮蔽効果が期待できる。
また、内容物側の境界にも、保水力の高いものを析出させることにより、内容物に含まれている自由水を抱え込んで、カプセル皮膜への水分の移行速度を有意的に遅らせることができる。
なお、析出物は、内容物側と外表面側に偏析している必要はなく、カプセル皮膜中にも分散していてもよい。
【0014】
(内容物)
内容物も、水溶性のゲル化剤を含む。このゲル化剤として上記したカプセル皮膜に含まれるものと同じものを使用できる。ゲル化により、内容物はゼリー乃至グミ状を呈している。
これに、適当な成分、砂糖、水飴、果糖ぶどう糖液糖、ソルビトール、エリスルトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、パラチニット、カカオ分、乳化剤、香料、洋酒、果汁、甘味料、酸味料を加えて味等を付けることになる。これらの成分は、上記したゲル化剤と共に液状になって、慣用のソフトカプセルの製造装置にかけられるものであればよい。
内容物のゼリー強度は、ゲル化剤の種類等により適宜調整することができる。
【0015】
最終的な乾燥カプセル基準で、内容物の好ましい処方は、ゲル化剤は0.2〜 5.0質量%であり、水分含量は、5〜20質量%程度である。
【0016】
(製造方法)
前記ソフトカプセル剤の製造方法としては、特に制限はなく、公知の製造方法の中から適宜選択することができ、例えば、ロータリーダイ方式、シームレス方式などが挙げられる。
前記ロータリーダイ方式は、ロータリーダイ(金型)を用いて2枚のカプセル皮膜液シートからのカプセル成形、内容物の充填、ヒートシールを同時に行って湿潤カプセルを製造するものである。また、前記シームレス方式は、一重又は多層構造のノズルの内側の吐出口から内容物を、該ノズルの外側の吐出口からカプセル皮膜液を、ポンプ又は重力によりそれぞれ一定速度で油液又は気体中に吐出し、振動等の物理的力を加えて、その吐出液を一定間隔で切断し、切断部を油液又は気体と前記カプセル皮膜液との界面又は表面張力により球状として湿潤カプセルを製造するものである。
【0017】
上記したように、いずれの方式によって製造しても、湿潤カプセルを製造した後に、乾燥して乾燥カプセルとするが、この乾燥は、例えば、通風装置付きの「回転ドラム式乾燥機」を用いて行うことが一般的であり、その他、シームレスカプセルなどの小さいカプセルについてはこれを吹き上げて流動させながら乾燥する流動式もある。いずれの乾燥方式でも、本発明では、最初に強制的に加湿された高湿雰囲気下で行う。この雰囲気の相対湿度は、好ましくは、50〜70%である。
このように高湿雰囲気下でゆっくりと乾燥を行うことにより、内容物からカプセル皮膜液への水分の移行がゆっくりとなり、カプセル皮膜が乾燥中に不定形に膨潤したり溶解したりすることを阻止できる。
【0018】
その際、カプセル皮膜に上記した保水力の高い水溶性物質が配合されていた場合には、湿潤カプセルの段階で、その水溶性の物質の一部は先ず水分含量が多く、水分活性の高い内容物側に移送される。その後、上記したように、乾燥を開始すると、その水溶性の物質による保水作用により、内容物からカプセル皮膜液への水分の移送がよりゆっくりとする。
なお、上記と並行して、外表面にも水溶性物質が移行する。
【0019】
内容物の水分含量が20〜25質量%になった時点で通常または低湿雰囲気下での通風乾燥処理に供する。
この時点では、内容物は既に十分に乾燥が進んでおり、皮膜への水分の移行を気にする必要が無くなっているので、定法の乾燥雰囲気下に戻して乾燥を促進する。
なお、乾燥中には水分含量等を測定することはできないので、事前試験などで確認しておき、それに基づいて乾燥装置の運転スケジュールを決定することになる。
最終的に得られた乾燥カプセルは、内容物が油性のものに対して遜色ないものとなっている。
【実施例】
【0020】
(製造)
以下の処方の液からソフトカプセル剤を、ロータリーダイ方式で製造した。
【表1】

【0021】
カプセル皮膜液は加熱して粘度を20000〜30000cpsに調整すると共に真空脱泡し、内容物は粘度を500〜2000cpsに調整した上で、装置にかけて湿潤カプセルを製造した。
その後、運転スケジュールに従って相対湿度が55%の高湿雰囲気下で上記した回転ドラム式乾燥機を用いて乾燥した後、相対湿度が29%の低湿雰囲気下で最終乾燥を行い、最終的な乾燥カプセルとした。
ソフトカプセル剤はフットボール形状で、サイズは約9×14mmで、カプセル皮膜重量は約180〜220mgであり、内容物重量は約500〜520mgであった。
その後、高温多湿雰囲気(30℃、相対湿度60〜70%)で1日間保管しておいた。
【0022】
(評価)
製造した後のソフトカプセル剤を目視検査したところ、処方1〜3でカプセルの形状に優劣はなかった。特に、処方1と処方2は触感でも優劣はなかった。
その後、高温多湿雰囲気での経時変化を調べたところ、処方1と処方3のものは特に変化が無かったが、処方2のものはカプセル皮膜が粘着化してカプセル同士が付着していた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、飲食品、化粧品などの製造業に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプセル皮膜が水性のゲル化剤によってゲル化され、内容物が水性のゲル化剤によりゲル化され、前記内容物はゼリー乃至グミ状であることを特徴とする咀嚼性ソフトカプセル剤。
【請求項2】
請求項1に記載した咀嚼性ソフトカプセル剤において、
カプセル皮膜の内容物側の境界には保水力の高い結晶性の水溶性物質が析出していることを特徴とするソフトカプセル剤。
【請求項3】
請求項2に記載した咀嚼性ソフトカプセル剤において、
カプセル皮膜の外表面にも結晶性の水溶性物質が析出して露出していることを特徴とするソフトカプセル剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した咀嚼性ソフトカプセル剤の製造方法において、
カプセル皮膜により内容物を包封した湿潤カプセルを製造後、高湿度雰囲気下での通風乾燥処理に供し、内容物の水分含量が20〜25質量%になった時点で、通常または低湿雰囲気下での通風乾燥処理に供して最終的な乾燥カプセルにすることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載した咀嚼性ソフトカプセル剤の製造方法において、
高湿度雰囲気は相対湿度が50〜70%であることを特徴とする製造方法。

【公開番号】特開2012−6861(P2012−6861A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143568(P2010−143568)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(396020279)三生医薬株式会社 (11)
【Fターム(参考)】