説明

品質評価装置、受信装置、品質評価方法および品質評価プログラム

【課題】受信アンテナの向きの調整時に受信信号の受信環境における通信品質を適切に評価することができなかった。
【解決手段】パイロット信号を含む受信信号を取得し、前記受信信号から異なる時間に送信された複数のパイロット信号を取得し、前記受信信号の受信環境におけるノイズ電力を取得し、信号の通信品質に対する誤り率の理論特性を取得し、前記複数のパイロット信号のそれぞれが特定の電力のノイズを含むと仮定したときの各パイロット信号の通信品質と前記理論特性とに基づいて算出される推定誤り率が所定の限界誤り率となる場合の前記ノイズの電力を限界ノイズ電力として取得し、前記環境ノイズ電力から前記限界ノイズ電力までの余裕度を示す品質余裕を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロット信号を含む信号を受信して通信系の品質評価を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通信品質を向上させるため、受信アンテナの指向性を制御する(例えば、特許文献1参照)など、各種の技術が知られている。また、家庭でデジタル放送を視聴する場合などには、人為的に受信アンテナの向きを調整し、通信が可能となる向きに受信アンテナを設定することが行われている。
【特許文献1】特開2003−60557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の技術では、受信アンテナの向きの調整時に受信信号の受信環境における通信品質を適切に評価することができなかった。
すなわち、デジタル放送など、デジタルデータを重畳して送信された搬送波を受信し、復調して通信を行うデジタル通信において、マルチパスなど通信品質が劣化してもある程度の劣化であれば完全に補償することができるが、ある下限の通信品質を超える劣化が生じると突然に通信が不能になる。従って、通信結果に基づいて受信環境における通信品質と下限の通信品質との関係を適切に評価することはできない。
【0004】
より具体的には、デジタル放送等においては通信品質が悪い場合であっても、その結果としての誤り率が所定の限界誤り率に達するまでは通信が適切に実施され、限界誤り率に達すると突然に通信が不可能になる(クリフエフェクト)。従って、デジタル放送においては、放送内容を画面で表示しながらアンテナの向きを変えたとしても、通信品質が向上しているのか否かを判断することができない。また、受信信号の受信環境における信号電力の平均とノイズ電力との比(C/N)に基づいて誤り率の理論特性を取得し、当該理論特性の誤り率をもって通信品質を評価する手法も採用し得るが、この手法においては異なる周波数毎の搬送波の通信品質を個別に加味することができず、マルチパスの影響を適切に評価することができない。
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、デジタル通信において適切に通信品質を評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明にかかる品質評価装置は、受信信号の受信環境におけるノイズ電力を示す環境ノイズ電力を取得する。また、その受信環境における複数のパイロット信号について特定の電力のノイズを仮定することによって推定誤り率を取得することとし、当該推定誤り率が所定の限界誤り率となる場合のノイズ電力を取得し、限界ノイズ電力とする。そして、当該環境ノイズ電力から前記限界ノイズ電力までの余裕度を示す品質余裕を取得する。
【0006】
すなわち、環境ノイズ電力は、受信信号を実際に受信した環境における実際のノイズ電力であり、限界ノイズ電力は、本発明にかかる品質評価装置における評価対象に許容される限界の誤り率を与える限界のノイズ電力である。従って、上述の余裕度を示す品質余裕(電力マージン)によれば、環境ノイズ電力に対してどの程度の電力のノイズが加わったときに限界ノイズ電力に至るのかを評価することができ、その受信環境における通信品質を適切に評価することができる。
【0007】
なお、それぞれのパイロット信号においては、送信タイミングや周波数が異なるためマルチパスの影響はそれぞれのパイロット信号によって異なる。従って、各パイロット信号の電力を平均化して誤り率の理論特性に基づいて通信品質を評価しても誤り率を適正に評価することができない。そこで、本発明においては、受信環境における平均的な通信品質に基づいて誤り率を評価するのではなく、実際に送信された信号の受信信号から取得した複数のパイロット信号のそれぞれに特定の電力のノイズが含まれると仮定してそのノイズ電力を含む通信路の通信品質をパイロット信号毎に定義する。そして、各通信品質と前記理論特性とに基づいて得られる複数の誤り率に基づいて推定誤り率を取得する。この結果、各パイロット信号におけるノイズの影響を加味した上で通信路の誤り率特性を評価することができ、デジタル通信において適切に通信品質を評価することが可能になる。
【0008】
ここで、受信信号取得手段においては、パイロット信号を含む受信信号を取得することができればよく、通信に際して特定の規則(例えば、特定のタイミング、周波数)でパイロット信号を送信する伝送方式で伝送された信号をアンテナで受信する構成等を採用可能である。なお、パイロット信号は、一定の信号が送信されていることが保証されていればよく、例えば、送信タイミング、周波数、振幅、位相等が既知の信号を本発明におけるパイロット信号とすることができる。
【0009】
パイロット信号取得手段においては、受信した信号に含まれるパイロット信号であって、異なる時間に送信された複数のパイロット信号を取得することができればよい。例えば、特定の時間における信号をフーリエ変換し、既知の周波数におけるスペクトルを複数回抽出する構成等を採用可能である。
【0010】
環境ノイズ電力取得手段においては、品質評価対象となっている受信環境における環境ノイズ電力を取得することができればよく、例えば、前記複数のパイロット信号の分散を各パイロット信号に対応したノイズ電力とし、各ノイズ電力の平均を環境ノイズ電力とする構成等を採用可能である。
【0011】
理論誤り率取得手段においては、信号の通信品質に対する誤り率の理論特性を取得することができればよく、既知の式に基づいて算出しても良いし、予め通信品質と誤り率との対応関係を規定しておき、その対応関係を取得しても良い。また、理論特性は本発明において受信する信号に対応して特定することができればよく、例えば、受信信号がデジタル放送の規格に準拠した信号である場合には、当該デジタル放送の規格に準拠した信号における誤り率の理論特性を取得する。また、通信品質はパイロット信号毎にノイズと信号との関係を評価することができればよく、C/NやS/N等を採用可能である。
【0012】
さらに、限界ノイズ電力取得手段においては、実際に送信された信号の受信信号から取得したパイロット信号のそれぞれについて特定の電力のノイズを仮定してパイロット信号毎の通信路の通信品質を定義し、前記理論特性に基づいて各通信品質に対応した誤り率を取得し、これらの誤り率に基づいて得られる推定誤り率が所定の限界誤り率となるノイズ電力を限界ノイズ電力として取得とすることができればよい。このようにして限界ノイズ電力を取得することができれば、容易に上述の余裕度を示す品質余裕を取得することができる。
【0013】
なお、上述の推定誤り率は、実際に受信した各パイロット信号についての誤り率の理論特性に基づいて取得することができればよく、例えば、前記理論特性に基づいて前記各パイロット信号の通信品質に対応した複数の誤り率を取得すれば、当該複数の誤り率は各パイロット信号に対応した誤り率となるので、各誤り率の平均を取得すれば、各パイロット信号を含む受信信号が送信された通信路の誤り率を推定することができる。そこで、当該誤り率の平均を推定誤り率とすれば、マルチパスの影響を考慮した推定誤り率を取得することが可能であり、このようにして得られた推定誤り率が限界誤り率となっているか否かを評価すれば、マルチパスの影響を考慮して限界誤り率を与える限界ノイズ電力を取得することができる。
【0014】
このため、パイロット信号のすべてについて受信信号電力を平均化し、この平均値と理論特性に基づいて誤り率を推定する場合と比較して高精度に通信品質の余裕度を評価することが可能になる。なお、限界ノイズ電力は、前記限界誤り率を与えるノイズ電力であればよく、例えば、ある特定のノイズ電力について推定誤り率を取得して限界誤り率と比較し、両者の差が所定値以下(実質的に等しいと見なせる差分値以下)になるまで特定のノイズ電力を変更する処理を繰り返す構成等を採用可能である。また、前記限界誤り率は、上述のクリフエフェクトが生じる際の誤り率、すなわち、通信が適切に行われなくなる限界の誤り率であればよい。
【0015】
さらに、前記品質余裕は前記環境ノイズ電力から前記限界ノイズ電力までの余裕度を示していればよく、ノイズ電力の比等を採用可能である。むろん、当該比はデシベルであっても良い。さらに、この品質余裕においては、定常ノイズを除いた評価を行っても良い。例えば、予め決められた装置固有の固有ノイズ電力を取得し、前記限界ノイズ電力と前記固有ノイズ電力との差分と、前記環境ノイズ電力と前記固有ノイズ電力との差分とを取得し、両差分の比に基づく値を前記品質余裕とする構成等を採用可能である。
【0016】
さらに、通信の品質を評価する際に有用な構成として、前記品質余裕を表示手段にて表示する受信装置を構成しても良い。この構成によれば、受信装置においてアンテナの向きを調整する際に、通信が適切に行われている場合であってもその通信を行えなくなるまでの余裕度を評価することができ、余裕度が小さいにもかかわらずアンテナの向きの調整を終了してしまうことを防止することが可能である。むろん、受信装置としては、アンテナ等によって受信信号を取得してデジタル通信を行う受信装置であればよく、テレビジョンやデジタルレコーダー等がこれに相当する。
【0017】
むろん、以上の装置における品質評価は、本願特有の手順で処理を進めていくことから、その手順を特徴とした方法の発明としても実現可能である。また、その手順をコンピュータに実現させるためのプログラムの発明としても実現可能である。さらに、品質評価装置、方法、プログラムは他の装置、方法、プログラムの一部として実現されていてもよいし、複数の装置、方法、プログラムの一部を組み合わせることによって実現されていてもよく、種々の態様を採用可能である。むろん、前記プログラムを記録した記録媒体として本発明を実現することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)受信装置の構成:
(2)復調処理部の構成:
(3)マージン計算処理の動作:
(4)他の実施形態:
【0019】
(1)受信装置の構成:
図1は、本発明の一実施形態にかかる品質評価装置を含む受信装置10を示すブロック図である。受信装置10は、アンテナ11と前処理回路12と復調処理部13と復号部14とデータ処理部15と表示部16とを備えており、アンテナ11を介して無線電波を受信する。以下に示す実施形態において、受信装置10はデジタル放送の受信装置であり、符号化されたデータをOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)伝送方式によって多重した放送電波を受信する。
【0020】
すなわち、前処理回路12は、アンテナ11を介してOFDM変調された放送電波を受信し、アナログデジタル変換やガードインターバルの除去等を実施して所定の変調方式によって変調された複数のサブキャリア信号を含む信号を生成する。なお、本実施形態において前処理回路12は、適正な処理を実施可能なレベル(例えば、受信信号に対してアナログデジタル変換を実施するAD回路のダイナミックレンジに含まれる信号レベル)になるように受信信号を増幅するAGC部12aを備えている。また、本実施形態においてAGC部12aは、特定の利得範囲にて信号を増幅可能な可変利得増幅器である。
【0021】
復調処理部13は、前処理回路12が出力する信号からパイロット信号を抽出し、ノイズを除去する補正を行って信号を復調する。さらに、本実施形態において受信装置10は、図示しないボタン等の指示部を備えており、この指示部による指示に応じてアンテナ11の向き等を調整する受信状態調整モードを実行可能であり、当該受信状態調整モードにおいて環境ノイズ電力から限界ノイズ電力までの余裕度を示す品質余裕を取得し、当該品質余裕を表示するための情報を出力する。
【0022】
復号部14は復調処理部13によって復調されたサブキャリア毎の信号を復号し、データ処理部15は復号されたデータに基づいて表示部16に映像を表示する。また、前記受信状態調整モードにおいて表示部16は、前記復調処理部13が出力する品質余裕を表示するための情報に基づいて当該品質余裕を表示する。この品質余裕は、後述するように各パイロット信号に基づいて推定した誤り率に基づいて取得されるため、各パイロット信号の電力を平均化して誤り率の理論特性に基づいて通信品質を評価する構成と比較して、正確な品質余裕となる。従って、アンテナ11の向きを調整する際に、受信信号の受信環境において良好な通信結果を得るために充分に余裕のある状態に調整することが可能である。
【0023】
(2)復調処理部の構成:
次に、復調処理部13の構成を説明する。復調処理部13はFFT処理部13aとパイロット信号取得部13bとマージン計算部13cと補正量推定部13dと復調部13eとを備えている。FFT処理部13aは、前処理回路12が出力した信号を取得し、FFT(Fast Fourier Transform)処理を行う。
【0024】
パイロット信号取得部13bは、FFT処理部13aの出力信号を取得し、その中からパイロット信号を取得して出力する。すなわち、パイロット信号の送信タイミングと周波数とは既知であるので、パイロット信号取得部13bはFFT処理部13aの出力信号から既定のタイミングにおける既定の周波数の信号を取得する。むろん、ここでパイロット信号として抽出すべき信号の周波数域は適宜調整可能である。
【0025】
マージン計算部13cは、当該パイロット信号に基づいて受信信号の受信環境における通信品質を評価するため、図2に示すメモリ13c0と理論誤り率取得部13c2と限界ノイズ電力取得部13c3と品質余裕取得部13c4と環境ノイズ電力取得部13c1とを備えている。環境ノイズ電力取得部13c1は、受信装置10の受信環境におけるノイズ電力を示す環境ノイズ電力を取得する。本実施形態においては前記複数のパイロット信号の分散を各パイロット信号に対応したノイズ電力としており、各ノイズ電力の平均を環境ノイズ電力とするため、以下の式(1)によって環境ノイズ電力NEを取得する。
【数1】

ここで、kはパイロット信号のキャリア番号、M1は当該キャリア番号の最大値、iはパイロット信号のタイミングを示す番号、tiはそのタイミング、M2は番号iの最大値、Vpk(ti)はk番目かつ時刻tiにおけるパイロット信号の電圧、Vpkaveはk番目のパイロット信号の平均電圧である。
【0026】
また、メモリ13c0には、信号の理論誤り率特性を示す理論誤り率データと受信装置10において上述のAGCのレベルによらず固定的に発生する固定ノイズの電力を示す固定ノイズデータとが予め記録されている。理論誤り率特性は、受信装置10にて受信する信号の方式毎に予め決められる理論特性であり、本実施形態において受信装置10は上述のようにデジタル放送の受信装置であるため、前記理論誤り率データはデジタル放送の送信信号についての理論誤り率特性P64QAM(C/N)を示すデータである。
【0027】
図3は、当該理論誤り率特性P64QAM(C/N)を示す図であり、本実施形態においては、下記式(2)によって定義される。
【数2】

ここで、erfc(x)は、誤差関数であり、以下の式(3)で表現される。
【数3】

また、Cは信号電力、Nはノイズ電力であり、C/Nはその信号における通信路の通信品質を示す。
【0028】
図3に示すように、理論誤り率特性P64QAM(C/N)は、デジタル放送の送信信号における任意の通信品質C/Nについて定義された値であり、通信品質C/Nと当該通信品質C/Nの通信路にて伝達された信号による誤り率との対応関係を示している。理論誤り率取得部13c2は、メモリ13c0を参照して理論誤り率データを取得し、任意のC/Nに対応した誤り率の理論値を出力することができる。
【0029】
限界ノイズ電力取得部13c3は、前記パイロット信号取得部13bが出力するパイロット信号と、理論誤り率取得部13c2が出力する誤り率の理論値とに基づいて、受信信号の受信環境における誤り率を推定し、限界誤り率に対応した限界ノイズ電力を取得する演算を行う。すなわち、理論誤り率特性は、任意の通信品質C/Nと誤り率との対応関係を示しているが、受信装置10にて受信信号を受信する実際の受信環境においては、受信信号がマルチパスの影響を受け、また、マルチパスの影響は受信信号の周波数等によって異なる。従って、全受信信号あるいは全パイロット信号について平均化した信号電力に基づいて受信環境における誤り率を評価しても正確に誤り率を評価することができない。
【0030】
そこで、本実施形態においては、特定の電力のノイズを仮定し、複数のパイロット信号のそれぞれに対応する通信品質を定義し、これらの通信品質に対応する誤り率を平均化することによって、前期特定の電力のノイズに対応した推定誤り率を取得する。そして、あらかじめ決められた限界誤り率と推定誤り率とが一致したときに、そのノイズ電力を限界ノイズ電力とする。なお、本実施形態における受信装置10はデジタル放送の放送信号を受信する受信装置であるため、受信した信号を復調したときに表示部16にて適正な画面が表示される誤り率であって最も誤りの多い値が限界誤り率である。本実施形態において、当該限界誤り率は2×10-2であり、予め特定されている。
なお、パイロット信号は、上述のように既定のタイミング、既定の周波数において出力される信号であり、当該規定のタイミング、規定の周波数において繰り返し出力されている。すなわち、OFDM伝送方式において、各サブキャリアをキャリア番号によって特定したときに、同一のキャリア番号の信号は一定の周期でパイロット信号となっている。そこで、本実施形態においては、同一キャリア番号のパイロット信号を複数回取得し、その電力を平均化することによって各パイロット信号の平均電力とする。たとえば、上述のk番目のパイロット信号について、M2個のパイロット信号電力の平均を算出すればよい。
【0031】
品質余裕取得部13c4は、環境ノイズ電力から限界ノイズ電力までの余裕度を示す品質余裕を取得する。すなわち、現在の受信環境における環境ノイズ電力から、限界誤り率を与える限界ノイズ電力までの電力の余裕度を取得することにより、品質余裕を評価することとする。本実施形態においては、受信装置10において定常的に生じる固有ノイズ電力NMをあらかじめ特定しておき、上述の環境ノイズ電力と限界ノイズ電力との双方から当該固有ノイズ電力を控除し、両者の比に基づいて品質余裕を取得する。なお、本実施形態において、固有ノイズ電力は固有ノイズデータとしてメモリ13c0に記録されている。
【0032】
さらに、品質余裕取得部13c4は、前記品質余裕(マージンとも呼ぶ)を表示するための情報を表示部16に対して出力する。この結果、表示部16においては、前記マージンを表示部16にて表示する。このため、利用者は、アンテナ11の向きを調整する際に、画面表示のみならず品質余裕も評価しながら調整を行うことが可能になる。
【0033】
なお、復調処理部13において、補正量推定部13dは、上述のパイロット信号を取得し、受信したパイロット信号における振幅および周波数と既知の振幅および周波数とのずれに基づいて補正量を推定する。また、復調部13eはFFT処理部13aによってFFT処理された後の各サブキャリアを復調する回路であり、当該復調部13eにおいて復調を行う際には、補正量推定部13dにて推定された補正量の補正を行って復調を行うように構成されている。
【0034】
(3)マージン計算処理の動作:
次に、上述の復調処理部13における動作を詳細に説明する。図4は、復調処理部13におけるマージン計算処理を示すフローチャートである。前処理回路12によって信号が出力されると、FFT処理部13aは、その信号を取得してフーリエ変換を行う(ステップS100)。次に、パイロット信号取得部13bはフーリエ変換後の信号からパイロット信号をキャリア番号毎に抽出して取得する(ステップS105)。なお、パイロット信号Pのタイミングおよび周波数は既知であるため、パイロット信号取得部13bは既定のタイミングにおける既定の周波数を特定することによって複数のパイロット信号を特定することができる。
【0035】
次に、理論誤り率取得部13c2は、メモリ13c0を参照して理論誤り率データを取得する(ステップS110)。次に、環境ノイズ電力取得部13c1は、パイロット信号取得部13bが取得した各パイロット信号の電圧および平均電圧を取得する(ステップS115)。すなわち、上述のVpk(ti)をすべてのk、iについて取得し、また、Vpkaveを取得する。さらに、環境ノイズ電力取得部13c1は、上述の式(1)に基づいて環境ノイズ電力NEを取得する(ステップS120)。
【0036】
次に、限界ノイズ電力取得部13c3は、限界ノイズ電力NLを取得する。このために、まず変数Nを初期値に設定する(ステップS125)。なお、図4に示す例において、変数Nの初期値は上述のNEである。さらに、限界ノイズ電力取得部13c3は、複数のパイロット信号のそれぞれが特定の電力のノイズを含むと仮定したときの通信品質と誤り率の理論特性とに基づいて当該特定の電力のノイズにおける誤り率を推定する(ステップS130)。
【0037】
具体的には、k番目のパイロット信号の電力Ckを、k番目のパイロット信号の平均電力として定義し、変数Nで除した値、すなわち、Ck/Nをk番目のパイロット信号の通信品質とする。そして、これらの通信品質を上述の式(2)に代入すれば、k番目のパイロット信号においてノイズ電力がNであるときの誤り率が得られる。そこで、下記式(4)に基づいて得られる平均誤り率Paveをノイズ電力Nの場合の推定誤り率とする
【数4】

【0038】
また、ステップS130にて当該平均誤り率Paveを算出すると、限界ノイズ電力取得部13c3は、あらかじめ決められた限界誤り率2×10-2と平均誤り率Paveとが一致しているか否かを判別し(ステップS135)、一致していると判別されないときには、平均誤り率Paveが限界誤り率2×10-2より大きいか否かを判別する(ステップS140)。そして、平均誤り率Paveが限界誤り率2×10-2より大きいと判別されたときには変数Nを所定量小さくし(ステップS145)、平均誤り率Paveが限界誤り率2×10-2より大きいと判別されないときには変数Nを所定量大きくする(ステップS150)。
【0039】
ステップS145,S150の後には、限界誤り率2×10-2と平均誤り率Paveとが一致しているとステップS135にて判別されるまで以上の処理を繰り返す。なお、本実施形態において、あらかじめ0〜1の大きさを持つ値αを定義しておき、変数Nを小さくするときには元の値を(1+α)で除し、変数Nを大きくするときには元の値に(1+α)を乗じることとしているが、むろん、この構成は一例であり、他の構成であってもよいし、αの値を徐々に変動させるなどの構成を採用してもよい。
【0040】
ステップS135にて限界誤り率2×10-2と平均誤り率Paveとが一致していると判別されたときには、その時点でのノイズ電力Nが限界ノイズ電力に相当するため、限界ノイズ電力を示す変数NLにその時点での変数Nの値を代入する(ステップS155)。図5A,5Bは、限界ノイズ電力の算出を示す図である。これらの図においては、簡単のため、キャリア番号kが1〜3の場合を想定し、各キャリア番号におけるパイロット信号の電力をC1,C2,C3としている。また、図5Aにおいては特定のノイズ電力NがN1、図5Bにおいては特定のノイズ電力NがN2である。従って、各パイロット信号に対応した通信品質は、図5AにおいてC1/N1,C2/N1,C3/N1、図5BにおいてC1/N2,C2/N2,C3/N2となる。
【0041】
各パイロット信号に対応した通信品質が得られれば、その通信品質を上述の式(2)に代入することによって各パイロット信号に対応した誤り率P1,P2,P3が得られ、これらを平均化することによって平均誤り率Paveが得られる。図5Aにおいて平均誤り率Paveが実線上の白丸であり、この例において当該平均誤り率Paveは限界誤り率(2×10-2)よりも小さい。そこで、この場合は、ステップS140を経てステップS150を実施する。
【0042】
すなわち、ノイズ電力N1に(1+α)を乗じて(ノイズ電力を大きくして)ノイズ電力ノイズ電力N2を設定し、再度平均誤り率Paveを取得する。この結果、図5Bに示すように、ノイズ電力N2に対応した平均誤り率Paveが限界誤り率に近づく。従って、以上の処理を繰り返すことによって、平均誤り率Paveと限界誤り率とが略一致する状態におけるノイズ電力Nを取得することができ、この結果、限界ノイズ電力NLを取得することができる。
【0043】
以上のようにして、限界ノイズ電力NLを取得したら、品質余裕取得部13c4は、マージンを算出する(ステップS160)。本実施形態においては、当該マージンをdB表示することとしており、また、受信装置10に固有のノイズ電力NMを控除して通信品質を評価することとしている。そこで、品質余裕取得部13c4は、メモリ13c0を参照して上述の固有ノイズデータを取得し、10log((NL−NM)/(NE−NM))としてマージンを取得する。以上のようにしてマージンを取得すると、品質余裕取得部13c4は当該マージンを表示するための信号を表示部16に出力してマージンを表示する(ステップS165)。
【0044】
なお、許容誤り率2×10-2に対応する通信品質を理論誤り率特性P64QAM(C/N)に基づいて取得し、また、パイロット信号の平均電力とノイズの平均電力との比に基づいて通信品質を取得して両通信品質を比較してマージンを評価すると、個別のパイロット信号に対するノイズの影響を個別に評価することはできないので、マージンを過大あるいは過小に評価してしまう。
【0045】
しかし、本実施形態においては各パイロット信号における推定誤り率を加味して限界誤り率となる限界ノイズ電力を取得してマージンを算出するので、表示部16においてアンテナ11の調整時に過大あるいは過小の品質余裕を提示することはなく、充分に品質余裕のある状態になるまでアンテナ11を調整することが可能である。また、アンテナ11の向きを調整することによって十分な品質余裕を確保できない場合にブースターの導入を検討することが可能になり、アンテナ11の調整において必要充分な調整を行うための情報を提供することが可能である。
【0046】
(4)他の実施形態:
上述の実施形態は本発明の一実施形態であり、本発明の実施形態は前記の実施形態に限定されない。すなわち、複数のパイロット信号のそれぞれについて個別に誤り率を評価して受信信号の受信環境における品質余裕を評価することができる限りにおいて、種々の構成を採用可能である。例えば、本発明は、上述の実施形態のようなデジタル放送の受信装置以外にも適用可能であり、デジタル放送以外の無線通信装置や、有線の信号など、無線放送以外の送信信号を受信する受信装置に本発明を適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態にかかる品質評価装置を示すブロック図である。
【図2】マージン計算部のブロック図である。
【図3】理論誤り率特性を示す図である。
【図4】マージン計算処理を示すフローチャートである。
【図5】(5A),(5B)は平均誤り率の算出を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
10…受信装置
11…アンテナ
12…前処理回路
12a…AGC部
13…復調処理部
13a…FFT処理部
13b…パイロット信号取得部
13c…マージン計算部
13c0…メモリ
13c2…理論誤り率取得部
13c3…限界ノイズ電力取得部
13c4…品質余裕取得部
13d…補正量推定部
13e…復調部
14…復号部
15…データ処理部
16…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイロット信号を含む受信信号を取得する受信信号取得手段と、
前記受信信号から異なる時間に送信された複数のパイロット信号を取得するパイロット信号取得手段と、
前記受信信号の受信環境におけるノイズ電力を取得する環境ノイズ電力取得手段と、
信号の通信品質に対する誤り率の理論特性を取得する理論誤り率取得手段と、
前記複数のパイロット信号のそれぞれが特定の電力のノイズを含むと仮定したときの各パイロット信号の通信品質と前記理論特性とに基づいて算出される推定誤り率が所定の限界誤り率となる場合の前記ノイズの電力を限界ノイズ電力として取得する限界ノイズ電力取得手段と、
前記環境ノイズ電力から前記限界ノイズ電力までの余裕度を示す品質余裕を取得する品質余裕取得手段と、
を備える品質評価装置。
【請求項2】
前記限界ノイズ電力取得手段は、前記理論特性に基づいて前記各パイロット信号の通信品質に対応した複数の誤り率を取得するとともに当該複数の誤り率を平均化することによって前記推定誤り率を取得して当該推定誤り率と前記限界誤り率とを比較し、両者の差が所定値以下になるまで前記特定の電力を変更する処理を繰り返して前記限界ノイズ電力を取得する、
請求項1に記載の品質評価装置。
【請求項3】
前記品質余裕取得手段は、予め決められた装置固有の固有ノイズ電力を取得し、
前記限界ノイズ電力と前記固有ノイズ電力との差分と、前記環境ノイズ電力と前記固有ノイズ電力との差分と、の比に基づく値を前記品質余裕として取得する、
請求項1または請求項2のいずれかに記載の品質評価装置。
【請求項4】
前記請求項1〜請求項3のいずれかに記載の品質評価装置と、
前記品質余裕を表示する表示手段とを備える、
無線信号の受信装置。
【請求項5】
パイロット信号を含む受信信号を取得する受信信号取得工程と、
前記受信信号から異なる時間に送信された複数のパイロット信号を取得するパイロット信号取得工程と、
前記受信信号の受信環境におけるノイズ電力を取得する環境ノイズ電力取得工程と、
信号の通信品質に対する誤り率の理論特性を取得する理論誤り率取得工程と、
前記複数のパイロット信号のそれぞれが特定の電力のノイズを含むと仮定したときの各パイロット信号の通信品質と前記理論特性とに基づいて算出される推定誤り率が所定の限界誤り率となる場合の前記ノイズの電力を限界ノイズ電力として取得する限界ノイズ電力取得工程と、
前記環境ノイズ電力から前記限界ノイズ電力までの余裕度を示す品質余裕を取得する品質余裕取得工程と、
を含む品質評価方法。
【請求項6】
パイロット信号を含む受信信号を取得する受信信号取得機能と、
前記受信信号から異なる時間に送信された複数のパイロット信号を取得するパイロット信号取得機能と、
前記受信信号の受信環境におけるノイズ電力を取得する環境ノイズ電力取得機能と、
信号の通信品質に対する誤り率の理論特性を取得する理論誤り率取得機能と、
前記複数のパイロット信号のそれぞれが特定の電力のノイズを含むと仮定したときの各パイロット信号の通信品質と前記理論特性とに基づいて算出される推定誤り率が所定の限界誤り率となる場合の前記ノイズの電力を限界ノイズ電力として取得する限界ノイズ電力取得機能と、
前記環境ノイズ電力から前記限界ノイズ電力までの余裕度を示す品質余裕を取得する品質余裕取得機能と、
をコンピュータに実現させる品質評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−211423(P2008−211423A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45020(P2007−45020)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】