説明

哺乳動物の発現系

本発明は、産生率が改善された哺乳動物発現系およびこれらの系を用いて所望のタンパク質を産生する方法を特徴とする。一実施形態では、本発明の発現系は、有効量のヘパリンまたはヘパリン様分子を含む培地において培養された遺伝子組換え哺乳動物宿主細胞を含む。ヘパリンまたはヘパリン様分子が存在することで、培養細胞によるタンパク質産生が大幅に増加する。本発明はまた、培養哺乳動物細胞によるタンパク質産生を改善するためのFGFR−1媒介性シグナル伝達経路の構成的に活性な成分の使用を特徴とする。このような成分の、対象のタンパク質との同時発現により、対象のタンパク質の産生率が著しく高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は哺乳動物発現系および所望のタンパク質を製造するためにそれを用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
ゲノムおよびプロテオミクスにおける最近の進歩とともに、多量の組換えタンパク質をクローニングし、発現する能力がますます重要になってきた。高レベルのタンパク質を精製する能力は、ヒト薬剤学およびバイオテクノロジーの設定において、インスリンなどのタンパク質製剤を製造するために、ならびに、基礎研究の設定において、例えば、タンパク質を結晶化してその三次元構造の決定を可能にするために重要である。そうでなければ多量に得ることが困難であるタンパク質を、宿主細胞において過剰発現させ、続いて、単離および精製することができる。
【0003】
細菌発現系は、組換えタンパク質を発現および精製するための1つのアプローチであった。しかし、細菌細胞における多数の真核細胞のポリペプチド、特に、哺乳動物のタンパク質の発現は、宿主細胞における状態および環境が、真核細胞のタンパク質の正しいフォールディングおよび修飾をもたらさなかったために、期待はずれの、不満足な結果が生じることが多かった。
【0004】
酵母発現系は、分泌経路を有し、いくつかの限定された翻訳後修飾を実施する能力を有するので、いくつかの真核細胞のタンパク質の製造にとって特定の利点を提供する。しかし、酵母系は、ジスルフィド結合しているタンパク質の不適切なフォールディングをもたらすことが多く、低グリコシル化をもたらす場合もある。
【0005】
タンパク質の製造のための哺乳動物細胞の使用は、正しいタンパク質フォールディングならびに適当な翻訳後修飾、例えば、グリコシル化を提供するという重要な利点を提供する。しかし、多数の哺乳動物発現系は、多量の所望のタンパク質を産生しない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を増加させるためのヘパリン、ヘパリン様分子または線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)アゴニストの使用を特徴とする。本発明はまた、哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を刺激するための構成的に活性なFGFRまたはその下流のエフェクターの使用を特徴とする。
【0007】
一態様では、本発明は、タンパク質産生率が改善された哺乳動物発現系を提供する。これらの発現系は、有効量のヘパリンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンを含む培地において培養された遺伝子組換え哺乳動物細胞を含む。各遺伝子組換え宿主細胞は、対象のタンパク質をコードする組換え発現カセットを含む。培養培地中にヘパリンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンが存在することで、対象のタンパク質の収率が大幅に高まる。
【0008】
本発明において用いられるヘパリンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンの量は、培養宿主細胞によるタンパク質産生を促進するのに有効ないずれの量であってもよい。一実施形態では、本発明に用いられる培養培地は、約1〜約1,000μg/mlのヘパリンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンを含む。別の実施形態では、本発明に用いられる培養培地は、約10〜約200μg/ml(例えば、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100μg/ml)のヘパリンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンを含む。
【0009】
さらに別の実施形態では、本発明に用いられる培養培地は、培養宿主細胞によるタンパク質産生を増加させるために、有効量の線維芽細胞増殖因子2(FGF−2)またはその他のFGFを、ヘパリンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンと組み合わせて含む血清不含培地である。多数の実施例において、培養培地は、それだけには限らないが、約10〜約500ng/ml(例えば、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400または500ng/ml)のFGF−2を含む。
【0010】
別の態様では、本発明の哺乳動物発現系は、有効量のFGFR−1活性化剤を含む培地において培養された遺伝子組換え哺乳動物細胞を含む。これらの遺伝子組換え細胞の各々は、対象のタンパク質をコードする組換え発現カセットを含む。培養培地中にFGFR−1活性化剤が存在することで、対象のタンパク質の収率が著しく高まる。本発明に適したFGFR−1活性化剤の例として、それだけには限らないが、FGF、ヘパリン、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカンまたはその他のヘパリン様分子が挙げられる。その他のFGFRを活性化できる物質も使用できる。一実施形態では、本発明に用いられるFGFR−1活性化剤として、ヘパリンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンおよびFGF−2の双方が挙げられる。
【0011】
さらに別の態様では、本発明の哺乳動物発現系として、各々が、対象のタンパク質と、FGFR−1媒介性シグナル伝達経路の構成的に活性な成分とをコードする1種または複数の組換え発現カセットを含む、遺伝子組換え哺乳動物細胞が挙げられる。一実施例では、FGFR−1媒介性シグナル伝達経路の構成的に活性な成分は、構成的に活性なFGFR−1タンパク質である。
【0012】
本発明はまた、哺乳動物細胞によるタンパク質産生を改善するための、β−キシロシドまたはその他のグリコサミノグリカン生合成インデューサーの使用を特徴とする。この目的に適したβ−キシロシドの限定されない例として、4−メチルウンベリフェリル−β−D−キシロシド、p−ニトロフェニル−β−D−キシロシドおよびベンジル−β−D−キシロシドが挙げられる。一実施例では、哺乳動物宿主細胞を、約50または約100μg/mlの4−メチルウンベリフェリル−β−D−キシロシドを含む培地で培養する。β−キシロシドの使用により、哺乳動物宿主細胞のタンパク質産生率が大幅に高まる。
【0013】
いずれの対象のタンパク質も、本発明の哺乳動物発現系を用いて製造できる。これらのタンパク質の限定されない例として、インスリン、成長ホルモン、増殖因子、エリスロポエチンタンパク質、卵胞刺激ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、サイトカイン、コロニー刺激因子、凝固因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター、副甲状腺ホルモン、骨形成タンパク質、ケラチノサイト増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、グルカゴン、トロンビン、トロンボポエチン、プロテインC、分泌型frizzled関連タンパク質、セレクチン、抗体またはウイルスタンパク質が挙げられる。これらのタンパク質は分泌型、細胞質性または膜結合型タンパク質であり得る。それらは治療、予防、診断またはその他の医療目的のために使用できる。多数の実施例では、本発明によって産生されたタンパク質は、細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグリカンと相互作用して、これらのタンパク質の細胞内部移行を誘導することができない。
【0014】
本発明はさらに、本発明の哺乳動物発現系によって産生されたタンパク質を含む薬剤組成物を特徴とする。
【0015】
さらに、本発明は、所望のタンパク質を産生する方法を特徴とする。一態様では、本発明の方法は、宿主細胞による対象のタンパク質の産生を増加させるための有効量のヘパリン、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン、またはFGFR−1活性化剤を含む培養培地において、各々が、対象のタンパク質をコードする組換え発現カセットを含む哺乳動物宿主細胞を培養することと、対象のタンパク質を宿主細胞または培養培地から単離することとを含む。
【0016】
一実施形態では、組換え発現カセットは、宿主細胞中に一過性に導入される発現ベクターによって保持される。発現ベクターを宿主細胞中に一過性に導入した少なくとも24時間後、培養培地にヘパリンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンを加える。別の実施形態では、発現ベクターを宿主細胞中に一過性に導入した少なくとも48時間後、培養培地にヘパリンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンを加える。
【0017】
別の態様では、本発明の方法は、培地において、各々が、対象のタンパク質と、FGFR−1媒介性シグナル伝達経路の構成的に活性な成分とをコードする1種または複数の組換え発現カセットを含む哺乳動物宿主細胞を培養することと、宿主細胞において対象のタンパク質および成分を発現させることと、宿主細胞または培養培地から対象のタンパク質を単離することとを含む。
【0018】
一実施形態では、構成的に活性な成分は、構成的に活性なFGFR−1タンパク質である。多数の例では、本発明の方法を用いて産生されたタンパク質は細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグリカンと相互作用してこれらのタンパク質の細胞内部移行を誘導できない。
【0019】
本発明のその他の特徴、目的および利点は、以下の詳細な説明において明らかである。しかし、詳細な説明は、本発明の好ましい実施形態を示すものの、単に例示のために示されるのであって制限するものではないということは理解されなければならない。詳細な説明から当業者には本発明の範囲内の種々の変法および改変が明らかとなる。
【0020】
図は限定ではなく例示のために提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(詳細な説明)
本発明は、分泌型、細胞質性または膜結合型タンパク質の産生率が改善された哺乳動物発現系を特徴とする。一態様では、本発明の発現系は、有効量のヘパリンまたはヘパリン様分子を含む培地において培養された遺伝子組換え哺乳動物宿主細胞を含む。各遺伝子組換え哺乳動物宿主細胞は、対象のタンパク質をコードする組換え発現カセットを含む。培養培地中にヘパリンまたはヘパリン様分子が存在することで、対象のタンパク質の収率が大幅に高まる。別の態様では、本発明の発現系は、対象のタンパク質をコードする1種または複数の組換え発現カセットと、構成的に活性なFGFR−1またはFGFR−1エフェクターとを含む遺伝子組換え哺乳動物宿主細胞を用いる。FGFR−1またはそのエフェクターとの同時発現により、対象のタンパク質の収率が大幅に改善される。
【0022】
本発明の種々の態様を、以下の小区分においてさらに詳細に説明する。小区分の使用は本発明の制限を意味するものではない。各小区分は本発明の態様のいずれにも当てはまり得る。
【0023】
A.遺伝子組換え哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を増加させるためのヘパリンの使用
ヘパリンは、遺伝子組換え哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を増強するために使用できる。ヘパリンは硫酸化グリコサミノグリカンの不均一な混合物である。ヘパリン中の主な糖単位としては、α−L−イズロン酸2−スルフェート、2−デオキシ−2−スルファミノ−α−D−グルコース6−スルフェート、α−D−グルクロン酸、2−アセトアミド−2−デオキシ−α−D−グルコースおよびα−L−イズロン酸が挙げられる。これらの糖はグリコシド結合によって結合しており、種々の大きさのポリマーを形成している。多数のヘパリン分子が、多量の二糖類単位IdoA(2−OSO)−GlcNSO(6−OSO)を含み、これが高いイズロン酸(IdoA)対グルクロン酸(GlcA)比を有する、多量にO−硫酸化されたポリサッカライドをもたらす。ヘパリンは、その高度に酸性のスルフェート基のために、通常、生理学的pHでアニオンとして存在する。
【0024】
本発明は、それだけには限らないが、未分画ヘパリン、分画ヘパリンまたは低分子量ヘパリン(LMWH)をはじめ、あらゆる種類のヘパリン使用を考慮する。未分画ヘパリンの分子量は、制限するものではないが、約3,000〜約4,000Daの範囲であり、平均分子量は約15,000Da(約40〜50単糖類単位)であり得る。多数の市販のヘパリン製剤の平均分子量は、約12,000〜約15,000Daの範囲にある。未分画ヘパリンは、種々の脊椎動物の組織、例えば、ブタ腸管粘膜、ウシ腸組織またはウシ肺組織から調製できる。調製方法は、通常、組織のタンパク質分解処理と、それに続く抽出およびイオン対形成試薬との錯化とを含む。非分画粗ヘパリンをさらに、分別沈殿、精製または化学処理に付して細胞培養等級の、または製薬上許容されるヘパリンを製造することができる。
【0025】
LMWHは、通常、未分画ヘパリンから化学的または酵素的加水分解によって製造される。多数の市販のLMWH製剤の分子量は、例えば、約2,000〜9,000Daの範囲であり、平均分子量は約4,000〜5,000Daであり得る。
【0026】
本発明をいずれか1つの理論または作用様式に制限するものではないが、ヘパリンはFGF(例えば、FGF−2)とFGFR(例えば、FGFR−1)との間の相互作用を媒介し、それによってFGFRを活性化するか、FGFRの活性化を促進し、タンパク質合成および/または分泌の増加をもたらす下流シグナルのカスケードを開始する。ヘパリン単独でもFGFRを活性化できる。
【0027】
さらに、ヘパリンはその他の増殖因子、サイトカインまたはケモカインと結合できる。これらの増殖因子、サイトカインまたはケモカインの限定されない例として、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、プレイオトロフィン、胎盤増殖因子(PlGF)、血小板因子−4(PF−4)、ヘパリン結合性EGF様増殖因子インターロイキン−8(IL−8)、肝細胞増殖因子(HGF)、マクロファージ炎症性タンパク質−1(MIP−1)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、インターフェロン−g誘導性タンパク質−10(IP−10)、インターフェロン−γ(IFN−γ)およびHIV−Tatトランス活性化因子が挙げられる。ヘパリンの、これらの因子またはその受容体との相互作用もまた、培養宿主細胞によるタンパク質合成を促進し得る。
【0028】
FGFおよびFGFRとの相互作用に預かる、ヘパリンの構造上の必要条件は、種々の実験モデルを用いて調べられている。結果から、硫酸化の大きさおよび程度が、ヘパリンの、FGF−2−FGFR相互作用を誘導する能力にとって重要であるということが示されている。例えば、Ishiharaら、(1993年)J. Biol. Chem. 268、4675〜4683頁; Tyrrellら、(1993年) J. Biol. Chem. 268、4684〜4689頁; Guimondら(1993年) J. Biol. Chem. 268、23906〜23914頁; Avezierら(1994年) J. Biol. Chem. 269、114〜121頁およびWalkerら(1994年) J. Biol. Chem. 269、931〜935頁を参照のこと。ヘパリンまたはヘパラン硫酸中の最小FGF−2結合配列は、二糖類単位IdoA(2−OSO)−GlcNSOまたはIdoA(2−OSO)−GlcNSO(6−OSO)を含む五糖類と同定されている。例えば、Maccaranaら(1993年) J. Biol. Chem. 268、23898〜23905頁を参照のこと。ヘパリンに由来する高度に硫酸化された八糖類または十糖類断片が、FGFとその受容体との間の相互作用を媒介することもわかっている。例えば、Klagsbrunら(1991年) Cell 67、229〜231頁およびIshiharaら前掲を参照のこと。さらに、ヘパリン由来四糖類から八糖類は、FGF−2と結合するが、細胞増殖の刺激においては、ヘパリン由来十糖類およびそれより長いものよりは強力でないことがわかっている。Deleheddeら(2002年) Biochem. J. 365、235〜244頁を参照のこと。化学修飾されたヘパリンまたはヘパラン硫酸製剤に関する結合研究により、2−O−およびN−スルフェート基はFGF−2とのヘパリン/ヘパラン硫酸相互作用にとって重要であるということが示されている。さらに、ヘパリンには、FGFR−1とのFGF−2の結合を促進するには、2−O−およびN−スルフェート基、ならびに6−O−スルフェート基の両方が必要であると考えられる。例えば、Guimondら前掲を参照のこと。
【0029】
FGF上のヘパリン結合領域(単数または複数)は、タンパク質のNH末端およびCOOH末端の双方で暫定的に同定されており、ここでは、塩基性アミノ酸残基がヘパリンのスルフェート基と相互作用し得る。ヘパリンとの結合は、ヘパリン−FGR−FGFR複合体の形成の促進に加え、FGFを安定化し、FGFをタンパク質分解から保護できる。さらに、FGF(例えば、FGF−2)は、FGFRとの何らかの相互作用とは関係なく、細胞表面ヘパラン硫酸との直接結合に続いて、内部移行され得る。これにより、HS−FGF複合体中のHSは、FGFを核へ輸送するためのシャトルとして働く可能性があるという推測に至る。
【0030】
本発明に用いられる培養培地は、培養細胞によるタンパク質産生を促進するのに有効であるあらゆる量のヘパリンを含み得る。ヘパリン塩は、酸性スルフェート基のために、通常、細胞培養に用いられる。適したヘパリン塩の限定されない例として、ヘパリンナトリウム塩、ヘパリンカルシウム塩またはヘパリンリチウム塩が挙げられる。培養培地中のヘパリンの濃度は、例えば、1〜1,000μg/ml、5〜500μg/ml、10〜200μg/ml、15〜100μg/mlまたは20〜30μg/mlの範囲であり得る。一実施形態では、培養培地中のヘパリンの濃度は約10、15、20、25、30、35、40、45または50μg/mlである。本発明に用いられるヘパリンは、未分画ヘパリン、分画ヘパリンまたはLMWHなど、いずれの種類のものであってもよい。
【0031】
多数の種類の培養培地を本発明に使用できる。一実施形態では、本発明に用いられる培養培地は、ウシ胎児血清および有効量のヘパリンまたはヘパリン様分子(例えば、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン)を補給した基本培地を含む。多数の実施例では、培養培地は、少なくとも0.5%、1%、5%または10%のウシ胎児血清を含む。その他の動物血清または組織抽出物も使用できる。適した基本培地の例として、それだけには限らないが、MEM、MEM−α、DMEM、RPMI、ISCOVE、Ham F12、HAM F10、M199、L15、6M、IMEM、RPMI−1640、NCTC109、Fischer培地、Waymouth培地、Williams培地、Madin−Darbyウシ腎臓培地、Madin−Darbyイヌ腎臓培地またはそれらの混合物が挙げられる。これらの基本培地を、宿主細胞の要求に従って、さらなる栄養素、例えば、糖(例えば、グルコース)、アミノ酸(例えば、グルタミン)、非必須アミノ酸のカクテル、必須アミノ酸のカクテル、ペプチド、酸性塩(例えば、ピルビン酸ナトリウム)、EDTA塩、クエン酸誘導体、アルコール(例えば、エタノール)、アミノアルコール(例えば、エタノールアミン)、ビタミン(例えば、ビタミンCまたはビタミンE)、抗酸化剤(例えば、グルタチオンまたはセレン)、飽和または不飽和鎖を含む脂肪酸(例えば、リノール酸、アラキドン酸、オレイン酸、ステアリン酸またはパルミチン酸)、脂質、リポペプチドまたはリン脂質(例えば、レシチン)などを用いて栄養強化することができる。バッファー溶液、例えば、HEPESまたは重炭酸塩に基づくものを、特定の脆弱な細胞培養物に、または多量のCOを生じる培養物に使用できる。多くの場合、培養培地のpHが、確実に細胞増殖またはタンパク質産生にとって最適のまま(例えば、6〜8の間、7〜8の間または7.2〜7.5の間)であるよう、また、培養培地が確実に等張性のままであるよう注意される。
【0032】
本発明はまた、血清不含培地または既知組成培地の使用を特徴とする。一実施形態では、本発明に用いられる血清不含培地は、有効量のヘパリンまたはヘパリン様分子と、有効量のFGF(類)とを含む。用いられるFGF(類)の濃度は、例えば、1〜1,000ng、10〜100ngまたは25〜75ngの範囲であり得る。FGFファミリーは、少なくとも23種の別個のメンバーを含む。これらのタンパク質は広い分裂促進活性および細胞生存活性を有し、種々の生物学的プロセス、例えば、胚発生、細胞増殖、形態形成、組織修復、腫瘍増殖および浸潤に関与している。同種の種々のFGFメンバーの間での配列相同性は比較的低い。しかし、FGFについては相当な種交差反応性がある。
【0033】
一実施形態では、FGF−2をヘパリンまたはヘパリン様分子と併用して、哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を刺激する。一実施例では、用いられるヘパリンまたはヘパリン様分子の濃度は5〜200μg/mlの範囲(例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190または200μg/ml)であり、用いられるFGF−2の濃度は10〜500ng/mlの範囲(例えば、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400または500ng/ml)である。FGF−2は、種々のFGF受容体、例えば、それだけには限らないが、FGFR−1、FGFR−2、FGFR−3、FGFR−4およびFGFR−5と結合すると報告されている。また、ヘパリンまたはヘパリン様分子は、FGF−2シグナル伝達にとって絶対に必要であるわけではないが、これらの分子はシグナル伝達を、その不在において可能であるものよりもかなり低いFGF−2濃度で促進するということも報告されている。Paderaら、FASEB J.、13、1677〜1687頁(1999年)を参照のこと。
【0034】
本発明はさらに、哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を促進するための、FGF−2の生物学的に活性な断片または変異体の使用を考慮する。これらの生物学的に活性な断片または変異体は、元のFGF−2タンパク質のタンパク質産生増強活性の少なくとも相当部分を保持する。これらの断片または変異体は天然に存在する場合もあるし、計画的に設計される場合もある。所望のFGF−2断片または変異体は、アミノ酸置換、欠失、挿入またはその他の改変によって容易に調製できる。ヘパリンまたはヘパリン様分子と併用した場合の、このような断片または変異体のタンパク質産生増強活性は、以下に示される実施例に記載される方法を用いて容易に評価できる。
【0035】
本発明に適した哺乳動物宿主細胞としては、それだけには限らないが、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HSGAG)合成に欠陥のある細胞または細胞表面HSGAGのレベルが低下している細胞が挙げられる。適した哺乳動物宿主細胞の限定されない例として、HEK293−FT(Invitrogen R700−07)、HEK293−EBNA(Invitrogen R62007)、CHO pgsA−745(American Type Culture CollectionすなわちATCC)、CHO pgsB−650(ATCC)、CHO pgsD−677(ATCC)、CHO pgsB−618(ATCC)およびその他のヘパラン硫酸に欠陥のあるCHO突然変異細胞、例えば、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる、Lidholtら、PROC. NATL. ACAD. SCI. U.S.A.、89:2267−2271 (1992年)に記載されるものが挙げられる。その他の哺乳動物宿主細胞、例えば、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、HeLa細胞、COS−1細胞、骨髄腫NSO細胞、HKB細胞、CV−1細胞、C127細胞、Vero細胞、Sp−2細胞、Madin−Darby腎臓細胞、Madin−Darbyイヌ腎臓細胞およびATCCまたはその他の商業的供給源から入手できるその他の細胞株も使用できる。さらに、本発明は、対象のタンパク質の産生のための初代細胞培養物、組織培養物、器官培養物またはトランスジェニック哺乳動物の使用を考慮する。ヘパリンまたはヘパリン様分子は、静脈内注入、皮下注射またはその他の適した経路によってトランスジェニック哺乳動物に送達できる。一実施例では、移植片またはカテーテルを用いてヘパリンまたはヘパリン様分子を特定の組織部位に送達する。
【0036】
さらに、本発明は、対象のタンパク質の産生のための、ハイブリッドまたは融合細胞の使用を特徴とする。ハイブリッド細胞は哺乳動物細胞と癌細胞/不死化細胞(例えば、骨髄腫または芽細胞腫細胞)を融合することによって作製できる。この目的に適した方法として、それだけには限らないが、電気融合および化学的融合(例えば、ポリエチレングリコール融合)が挙げられる。哺乳動物細胞および癌細胞/不死化細胞は、同一種由来であっても異なる種由来であってもよい。多数の実施形態では、癌細胞/不死化細胞は、1種または複数の選択物質に対して感受性である。例えば、癌細胞/不死化細胞は、「HAT培地」として知られる、ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含有する培養培地に対して感受性であり得る。HAT感受性癌細胞/不死化細胞は、HAT培地に対して非感受性である哺乳動物細胞と融合できる。ハイブリッド細胞を、融合していない細胞を死滅させるHATに対して選択する。次いで、融合細胞を所望の特徴についてスクリーニングできる。
【0037】
一実施形態では、本発明に用いられるハイブリッド細胞は、対象のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞である。ハイブリドーマ細胞を、有効量のヘパリンまたはヘパリン様分子を含む培地において培養することにより、モノクローナル抗体の収率が大幅に高まる。別の実施形態では、本発明に用いられるハイブリッド細胞は、対象のタンパク質をコードする組換え発現カセットを含む。組換え発現カセットは、融合事象の前にハイブリッド細胞中に導入してもよいし、後に導入してもよい。多くの場合、ハイブリッド細胞の調製に用いられる哺乳動物細胞または癌細胞/不死化細胞は、HSGAG合成に欠陥があるか、または細胞表面HSGAGのレベルが低下している。
【0038】
本発明に用いられる各哺乳動物宿主細胞(例えば、ハイブリッド細胞)は、対象のタンパク質をコードする組換え発現カセットを含む。組換え発現カセットは、通常、発現制御配列と機能し得る形で連結されたタンパク質コード配列を含む。対象のタンパク質をコードするタンパク質コード配列は、ゲノム配列、cDNAまたはそれらの組合せなど、あらゆる種類のものであってよい。対象のタンパク質の発現を指示する適した発現制御配列の選択は、当業者のレベル内の日常的な設計の問題である。適した発現制御配列の限定されない例として、プロモーター、エンハンサー、Kozak配列、ポリアデニル化配列またはその他の転写/翻訳調節配列が挙げられる。これらの配列の多数は文献に記載されており、商業的供給業者を介して入手できる。組換え発現カセットに用いられるプロモーター(単数または複数)は構成的であっても誘導性であってもよい。
【0039】
組換え発現カセットは、種々の手段によって哺乳動物宿主細胞に導入できる。一実施形態では、組換え発現カセットを含む発現ベクターをトランスフェクションまたは形質導入によって哺乳動物宿主細胞に導入する。例示的トランスフェクション技術としては、それだけには限らないが、リン酸カルシウム媒介性トランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介性トランスフェクション、陽イオン性脂質媒介性およびエレクトロポレーションが挙げられる。形質導入は、通常、組換えウイルスベクターによって媒介される。この目的に適したウイルスベクターの限定されない例として、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、アルファウイルス、アストロウイルス、コロナウイルス、オルソミクソウイルス、パポーバウイルス、パラミクソウイルス、パルボウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルスまたはトガウイルスベクターが挙げられる。リポソームカプセル化発現ベクターも、組換え発現カセットを哺乳動物宿主細胞に導入するために使用できる。発現ベクターは、宿主細胞に一過性に導入することもできるし、または安定に導入することもできる。多くの場合、用いられる発現ベクターは、ベクターでトランスフェクトされているか、形質導入されている宿主細胞の選択を可能にする選択マーカーを含む。適した選択マーカーの限定されない例として、ネオマイシン(G418)、ハイグロマイシン、ピューロマイシン、ゼオシン、コルチン(colchine)、メトトレキサートおよびメチオニンスルホキシミンが挙げられる。
【0040】
組換え発現カセットはまた、細胞の内因性遺伝子を改変することによって宿主細胞中に組み込むことができる。これらの内因性遺伝子は、対象のタンパク質をコードする。所望の発現または調節作用を達成するために内因性遺伝子のいずれの部分を改変してもよい。例えば、内因性遺伝子のプロモーターをウイルスプロモーターと置換し宿主細胞における遺伝子の発現レベルを高めることができる。
【0041】
本発明に従って、対象のいずれのタンパク質も製造できる。これらのタンパク質の限定されない例として、治療用、予防用または診断用タンパク質、例えば、ホルモン、増殖因子、インターロイキン、サイトカイン、インターフェロン、コロニー刺激因子、血液因子、抗体、ワクチン、コラーゲン、フィブリノーゲン、ヒト血清アルブミン、組織プラスミノーゲンアクチベーター、抗凝血剤または先天性疾患のための置換酵素が挙げられる。これらのタンパク質の特別な例として、それだけには限らないが、インスリン、ヒト成長ホルモン、エリスロポエチン、ヒト卵胞刺激ホルモン、絨毛性性腺刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、骨形成タンパク質2、副甲状腺ホルモン、αインターフェロン、βインターフェロン、γインターフェロン、インターロイキン−1、インターロイキン−1アンタゴニスト、インターロイキン−2、インターロイキン−10、インターロイキン−11、インターロイキン−12、ケラチノサイト増殖因子、ケラチノサイト増殖因子−2、ヒト顆粒球コロニー刺激因子、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ネシリチド、抗トロンビンIII、凝固因子IX、凝固因子VIII、凝固因子VIIa、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、グルコセレブロシダーゼ、α−D−ガラクトシダーゼ、αL−イズロニダーゼ、α−1,4−グルコシダーゼ、アリールスルファターゼB、イズロネート−2−スルファターゼ、アデノシンデアミナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、アルテプラーゼ、ミエリン塩基性タンパク質、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、ドーパ脱炭酸酵素、グルカゴン、白血球受容体を標的とするモノクローナル抗体(例えば、α4インテグリンアンタゴニスト、抗胸腺細胞グロブリン、CD2アンタゴニスト、CD3アンタゴニスト、CD4アンタゴニスト、CD20アンタゴニスト、CD22アンタゴニスト、CD33アンタゴニストおよびCD52アンタゴニスト)、サイトカインを標的とするモノクローナル抗体(例えば、ケモカインアンタゴニスト、IL−2アンタゴニスト、IL−4アンタゴニスト、IL−5アンタゴニスト、IL−6アンタゴニスト、IL−12アンタゴニスト、セレクチンアンタゴニストおよびTNF−αアンタゴニスト)、癌細胞マーカーまたは受容体を標的とするモノクローナル抗体(例えば、上皮増殖因子アンタゴニスト、ヒト上皮成長因子受容体2アンタゴニスト、MUC−1アンタゴニストおよび血管内皮増殖因子アンタゴニスト)およびその他のモノクローナル抗体(例えば、補体アンタゴニスト、C5阻害剤、糖タンパク質IIb/IIIaアンタゴニスト、IgEアンタゴニストおよび呼吸器合胞体ウイルスF−タンパク質アンタゴニスト)が挙げられる。
【0042】
その他の種類の抗体または抗体フラグメントも、本発明に従って製造できる。これらの抗体または抗体フラグメントの例として、それだけには限らないが、ヒト化抗体、ヒト抗体、一本鎖抗体、キメラ抗体、合成抗体、組換え抗体、ハイブリッド抗体、単一特異性抗体、多特異性抗体、非特異的抗体、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fv、scFv、FdまたはdAbが挙げられる。in vitroディスプレイ技術または進化的戦略を用いることによって選択された高親和性結合剤も本発明に従って製造できる。これらの高親和性結合剤として、それだけには限らないが、ペプチド、抗体または抗体模倣体、例えば、Binzら(2004年) Nat. Biotechnol. 22、575〜582頁またはLipovsekら(2004年) J. Immunol. Methods 290、51〜67頁に記載されるものが挙げられる。
【0043】
本発明に従って製造できるその他の対象のタンパク質として、それだけには限らないが、キナーゼ、ホスファターゼ、Gタンパク質共役受容体、増殖因子受容体、サイトカイン受容体、ケモカイン受容体、細胞表面抗体(膜結合型免疫グロブリン)、BMP/GDF受容体、ニューロン受容体、イオンチャンネル、プロテアーゼ、転写因子、ポリメラーゼ、プロトロンビン、トロンビン、α−1抗トリプシン、アルグルセラーゼ、イミグルセラーゼ、トロンボポエチン、α−1プロテイナーゼ阻害剤、カルシトニン、エルカトニン、ゴセレリン、ナファレリン、ブセレリン、プロインスリン、インスリン類似体、アミリン、C−ペプチド、ソマトスタチン、オクトレオトリド(octreotride)、バソプレシン、インスリントロピン(insulinotrophin)、ヒトプロテインC、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子、インスリン様成長因子、神経成長因子、分泌型frizzled関連タンパク質(例えば、sFRP−1〜5)またはセレクチン(例えば、セレクチンP、セレクチンEまたはセレクチンL)が挙げられる。
【0044】
本発明はまた、ウイルスタンパク質またはその免疫原性断片の製造を特徴とする。これらのウイルスタンパク質または断片を用いて、対応するウイルスに対する免疫防御反応を誘発するためのワクチンを調製できる。これらのウイルスタンパク質の限定されない例として、ヒト免疫不全ウイルス(例えば、HIV−1およびHIV−2)、インフルエンザウイルス(例えば、インフルエンザA、BおよびCウイルス)、コロナウイルス(例えば、ヒト呼吸器コロナウイルス)、肝炎ウイルス(例えば、肝炎ウイルスA〜G)またはヘルペスウイルス(例えば、HSV1〜9)のタンパク質が挙げられる。その他のウイルスのタンパク質も製造できる。これらのウイルスとしては、それだけには限らないが、ニューモウイルス、モルビリウイルス、ルブラウイルス、アデノウイルス、アレナウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、フレボウイルス、ハンタウイルス、トロウイルス、エボラ様ウイルス、ヘパシウイルス、フラビウイルス、シンプレックスウイルス、バリセロウイルス、サイトメガロウイルス、ロゼオロウイルス、リンホクリプトウイルス、トゴトウイルス、オルソポックスウイルス、アビポックスウイルス、レポリポックスウイルス、レンチウイルス、スプーマウイルス、リッサウイルス、ノビラブドウイルス、ベシクロウイルス、アルファウイルス、ブビウイルス(bubivirus)、ライノウイルス、アフトウイルス(aphtovirus)、灰白髄炎ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ウシヘルペスウイルス、パラミクソウイルス、ニューカッスル病ウイルス、レスピラトリーシンシチオウイルス(respiratory syncitio virus)、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、パルボウイルス、パポーバウイルス、ロタウイルス、胃腸炎ウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス、風疹ウイルス、ブタコレラウイルスまたは狂犬病ウイルスが挙げられる。
【0045】
本発明によって製造される対象のタンパク質は、それだけには限らないが、分泌型タンパク質、細胞質性タンパク質または膜結合型タンパク質であり得る。対象のタンパク質の配列は、天然に存在するものであるか、または遺伝子操作されたものであり得る。一実施形態では、対象のタンパク質は、対象のタンパク質の単離、精製、検出、固定化、安定化、フォールディングまたは標的化を容易にするポリペプチドタグを含む融合タンパク質である。適したポリペプチドタグの限定されない例として、ストレプトアビジンタグ、FLAGタグ、c−mycタグ、ポリヒスチジンタグ、インフルエンザHAタグ、VSV糖タンパク質タグ、V5タグ、単純ヘルペスウイルスタグ、グルタチオンS−トランスフェラーゼまたはFc断片が挙げられる。いくつかの場合では、ポリペプチドタグは、選択されたプロテアーゼによって対象のタンパク質から切断除去できる。
【0046】
別の実施形態では、対象のタンパク質は、哺乳動物宿主細胞によるタンパク質の分泌を促進するシグナルペプチドを含む。シグナルペプチドは、対象のタンパク質にとって内因性である場合も、異種性である場合もある。シグナルペプチドは、シグナル認識粒子と相互作用してリボソームをERに向けることができ、ここで翻訳と同時の挿入が起こる。多数のシグナルペプチドは高度に疎水性であり、正に帯電した残基を有する。シグナル配列は、ERの槽面上に位置するシグナルペプチダーゼ、プロテアーゼによって成長中のペプチド鎖から除去され得る。したがって、多くの場合、培養培地から単離される分泌型タンパク質は、元のシグナルペプチドを有していない。
【0047】
多数の実施形態では、本発明によって製造される分泌型または膜結合型タンパク質は、細胞表面HSGAGと結合しないか、相互作用しない。これによって、哺乳動物宿主細胞によるタンパク質の取り込みまたは内部移行が妨げされるか、減少する。一実施例では、本発明によって製造される対象のタンパク質はヘパラナーゼすなわち、その基質がヘパラン硫酸(HS)である酵素ではない。
【0048】
本発明によって製造される対象のタンパク質は、種々の手段によって単離または精製できる。タンパク質単離/精製に適している初期物質の限定されない例として、培養培地または細胞溶解物が挙げられる。例示的単離法として、それだけには限らないが、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、イムノアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、HPLC、タンパク質沈殿(例えば、免疫沈降)、差示的可溶化、電気泳動、遠心分離、結晶化またはそれらの組合せが挙げられる。
【0049】
多数の実施形態において、単離された対象のタンパク質は、その他のタンパク質または夾雑物を実質的に含まない。例えば、単離された対象のタンパク質は、その他のタンパク質から少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%または100%純粋であり得る。一実施例では、単離されたタンパク質は、意図される用途を干渉する夾雑物をわずかな量しか含まない。本発明に従って単離された対象のタンパク質は、SDS−PAGEまたはイムノアッセイなどの標準技術を用いて確認または評価できる。この目的に適したイムノアッセイとして、それだけには限らないが、ウエスタンブロット、ELISA、RIA、サンドイッチもしくはイムノメトリックアッセイ、ラテックスもしくはその他の粒子凝集、またはプロテオミクスチップが挙げられる。単離された対象のタンパク質を確認または分析するために、タンパク質配列決定および質量分析も使用できる。
【0050】
さらに、本発明は、哺乳動物宿主細胞による弱毒化ウイルスの産生を増加させるためのヘパリンまたはヘパリン様分子の使用を考慮する。これらの弱毒化ウイルスは、ワクチン製剤の調製のために使用できる。この目的に適した哺乳動物宿主細胞として、それだけには限らないが、CHO細胞、BHK細胞、Vero細胞、Madin−Darby腎臓細胞またはMadin−Darbyイヌ腎臓細胞が挙げられる。この目的のために用いられるヘパリンまたはヘパリン様分子の量は、弱毒化ウイルスの収率を向上させるのに有効であればいずれの量でもあり得る(例えば、約10〜1,000μg/ml、例えば、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100μg/ml)。培養培地が血清不含培地である場合は、FGF−2またはその他のFGFRアゴニストを、ヘパリンまたはヘパリン様分子と併用することもできる。有効量のFGF−2またはその他のFGFは、それだけには限らないが、10〜500ng/mlの範囲(例えば、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400または500ng/ml)であり得る。さらに、FGFを、動物血清を含む培養培地に添加して、弱毒化ウイルスまたはその他の対象のタンパク質の収率をさらに改善することができる。
【0051】
B.遺伝子組換え哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を増加させるための、ヘパリン様分子またはその他のFGFRアゴニストの使用
本発明はまた、哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を刺激するための、ヘパリン様分子またはその他のFGFRアゴニストの使用を特徴とする。ヘパリン様分子の限定されない例として、硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)、例えば、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HSGAG);硫酸化プロテオグリカン、例えば、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG);またはその断片が挙げられる。本発明に適したその他のヘパリン様分子として、それだけには限らないが、ヘパリンオリゴ糖、合成硫酸化ポリマー、種々の硫酸化分子、種々のスルホン化分子、合成多環芳香族化合物、芳香環の重合によって合成された多環芳香族化合物またはそれらの組合せもしくは断片が挙げられる。参照により本明細書に組み込まれるCasu (1985年) Advances in Carbohydrate Chemistry and Biochemistry 43、51〜134頁に記載されるヘパリン様分子も使用できる。これらのヘパリン様分子のすべてが、哺乳動物宿主細胞(例えば、ヘパラン硫酸欠損哺乳動物宿主細胞)によるタンパク質産生を刺激できる。多くの場合、本発明に用いられるヘパリン様分子は、高度に硫酸化されており、培養細胞におけるFGFRシグナル伝達の活性化を促進できる。
【0052】
少なくとも4種の別個のFGFRファミリーメンバー、すなわち、FGFR−1、FGFR−2、FGFR−3およびFGFR−4が同定されている。FGFRは、そのリガンド親和性および組織分布において互いに異なる。全長の代表的なFGFRは、複数の免疫グロブリン様ドメインと、単一の疎水性膜貫通セグメントと細胞質チロシンキナーゼドメインとからなる細胞外領域を含む。一実施形態では、本発明に用いられるヘパリン様分子は、培養細胞においてFGFR−1を活性化またはFGFR−1の活性化を促進できる。
【0053】
細胞表面FGFRの活性化は、FGF、FGFRおよび細胞表面HSGAG間の相互作用を含むと考えられている。FGFおよび細胞表面HSGAGがどのように協力してFGFRの活性化を誘導するかを説明するために、少なくとも3種の別個のモデルが提案されている。「成長ホルモン」モデルでは、単一のFGFが2つのFGFRを二量体化し、HSGAGはFGFおよびFGFRの細胞外ドメインの双方と結合する。「HS依存性二量体化」モデルでは、HS鎖が2つのFGFと結合し、ここで二量体リガンドがFGFRを二量体化する。「二量体の二量体」モデルでは、FGFとHSGAGの2つの独立した複合体が、FGFRの二量体化を引き起こし、それによってその細胞内キナーゼドメインを活性化する。
【0054】
細胞表面GAG鎖は、小さいタンパク質コアと結合して、HSPGを形成することが多い。HSPGは、コアタンパク質の疎水性膜貫通ドメインによって、またはコアタンパク質と共有結合しているグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーによって細胞表面に固定され得る(膜貫通HSPG)。膜貫通HSPGの限定されない例として、それだけには限らないが、グリピカン、セレブログリカン、βグリカン、パールカン、CD44およびシンデカンファミリーの種々のメンバー、例えば、シンデカン1、シンデカン2(フィブログリカン)、シンデカン3(N−シンデカン)およびシンデカン4(リュードカン)が挙げられる。グリピカンおよびセレブログリカンはまた、共有結合GPIアンカーを介して細胞膜と結合している場合もある。さらに、HSPGは細胞表面高分子との相互作用を介して細胞表面と、非共有結合によって結合する場合もある(末梢膜HSPG)。
【0055】
一実施形態では、本発明は、培養哺乳動物細胞によるタンパク質産生を増強するための可溶性HSGAGまたはHSPGまたはその断片の使用を特徴とする。可溶性HSGAGまたはHSPGまたはその断片は、固定されたまたは大きなHSGAGまたはHSPG分子の化学的または酵素的消化によって調製できる。例えば、膜貫通またはGPIによって固定されたHSPGは、そのコアタンパク質のタンパク質分解による消化によって、または内因性ホスホリパーゼの作用によって細胞膜から放出され得る。同様に、HSGAG鎖または断片は、多糖骨格の化学的または酵素的消化によって調製できる。有効量の可溶性HSGAGまたはHSPG(またはその断片)を培養培地に添加し、培養細胞によるタンパク質産生を刺激できる。多くの場合、用いられる可溶性HSGAGまたはHSPG(またはその断片)の量は、タンパク質産生増強作用が生じるためには、約10〜200μg/mlのヘパリン(例えば、約10、20、30、40、50、60、70、80、90または100μg/mlのヘパリン)に相当する。
【0056】
一実施例では、本発明に用いられる可溶性HSGAGまたはHSPG(またはその断片)は、少なくとも1つの二糖類単位IdoA(2−OSO)−GlcNSOまたはIdoA(2−OSO)−GlcNSO(6−OSO)を含む。別の実施例では、本発明に用いられる可溶性HSGAGまたはHSPG(その断片)は、二糖類単位IdoA(2−OSO)−GlcNSOまたはIdoA(2−OSO)−GlcNSO(6−OSO)を含む五糖類、八糖類または十糖類を含む。さらに別の実施例では、本発明に用いられる可溶性HSGAGまたはHSPG(またはその断片)は、複数の二糖類単位IdoA(2−OSO)−GlcNSOまたはIdoA(2−OSO)−GlcNSO(6−OSO)を含む。
【0057】
ヘパリンまたはヘパリン様分子は、可溶性型の他に、基質上に固定され、哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を刺激することができる。一実施例では、基質は培養宿主細胞のための物理的支持体を提供する(例えば、ヘパリンまたはヘパリン様分子によってコートされた培養プレート)。
【0058】
さらに、哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生は、細胞におけるHSGAGまたはHSPGの内因性合成を増強することによって増加させることができる。ヘパラン硫酸鎖の骨格は、グルクロノシルトランスフェラーゼおよびN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性の双方を有するヘパラン硫酸シンターゼによって合成されるようである。この骨格はさらに、一連のスルホトランスフェラーゼおよび炭水化物修飾酵素、例えば、N−脱アセチル化酵素/N−スルホトランスフェラーゼ、C−5エピメラーゼ、2−Oスルホトランスフェラーゼ、6−Oスルホトランスフェラーゼおよび3−Oスルホトランスフェラーゼによって修飾することができる。したがって、これらの酵素の発現または活性を増大させることによって、細胞表面HSGAGまたはHSPGを増加させ、その結果、細胞によるタンパク質産生を改善することができる。これを達成するために、上記の酵素をコードする発現ベクターを哺乳動物宿主細胞に導入し、対象のタンパク質と同時発現させることができる。
【0059】
C.遺伝子組換え哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を増加させるための構成的に活性なFGFRまたはFGFRエフェクターの同時発現
構成的に活性なFGFRまたはFGFR下流エフェクターを用いて培養哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を促進できる。突然変異、遺伝子融合またはその他の遺伝子変更によって生じた構成的に活性なFGFRが、多数のヒト癌において観察されている。構成的に活性なFGFR突然変異体の例として、それだけには限らないが、致死性骨異形成症I型突然変異を含むFGFR(例えば、FGFR1または配列番号1中のArg250→Cys突然変異およびFGFR3または配列番号2中のArg248→Cys突然変異)およびキナーゼドメインの活性化ループ中のミスセンス突然変異を含むFGFR(例えば、FGFR1または配列番号1中のLys656→Glu突然変異およびFGFR3または配列番号2中のLys650→Glu突然変異)が挙げられる。その他の構成的に活性なFGFR突然変異体、例えば、すべて参照により本明細書に組み込まれる、De Moerloozeら(1997年) Curr. Opin. Genet. Dev. 7、378〜385頁、Wangら(2002年) Cancer Res. 62、1898〜1903頁またはWangら(2004年) Prostate 58、1〜12頁に記載されるものも使用できる。さらに、本発明は、構成的に活性なキメラFGFR、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Kudlaら (1998年) J. Cell Biol. 142、241〜250頁に記載されるものの使用を考慮する。これらの構成的に活性なFGFRをコードする組換え発現カセットは容易に構築し、哺乳動物宿主細胞に導入することができる。このような構成的に活性なFGFRとの同時発現により、対象のタンパク質の収率を大幅に高めることができる。
【0060】
本発明はまた、哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を改善するためのFGFR下流エフェクターの使用を特徴とする。FGFRエフェクターの限定されない例として、Crk(v−crk肉腫ウイルスCT10癌遺伝子相同体)、ホスホリパーゼCγ、線維芽細胞増殖因子受容体基質2およびSHC(Src相同性2ドメイン含有)トランスフォーミングタンパク質が挙げられる。これらのタンパク質のすべてが、その活性化の際にFGFRのホスホチロシン残基と結合できるので、SH−ドメインタンパク質である。本発明に使用できるその他のFGFRエフェクターとして、MAPKシグナル伝達経路中の種々の成分、例えば、GRB2(増殖因子受容体結合型タンパク質2)、SOS1(セブンレス相同体1の息子)、RRAS2(関連RASウイルス(r−ras)癌遺伝子相同体2)、RAF1(v−raf−1ネズミ白血病ウイルス癌遺伝子相同体1)、MAP2K1(マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ1)、MAP2K2(マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ2)、MAPK1(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ1)、SRF(血清応答因子またはc−fos血清応答エレメント結合性転写因子)、FOS(v−fos FBJネズミ骨肉腫ウイルス癌遺伝子相同体)、ELK1(ELK1、ETS癌遺伝子ファミリーのメンバー)、ELK4(ELK4、ETS−ドメインタンパク質またはSRFアクセサリータンパク質1)およびc−MYC(v−myc骨髄球腫症ウイルス癌遺伝子相同体)が挙げられる。構成的に活性なFGFR同様、FGFR下流エフェクターをコードする組換え発現カセットは、容易に構築し、哺乳動物宿主細胞に導入し、対象のタンパク質とともに同時発現させることができる。
【0061】
D.グリコサミノグリカン生合成インデューサー
本発明はさらに、哺乳動物細胞によるタンパク質産生を改善するための、β−キシロシドまたはその他のグリコサミノグリカン(GAG)生合成インデューサーの使用を特徴とする。ヘパラン硫酸はヘパラン硫酸プロテオグリカンのグリコサミノグリカン成分としてin vivoで合成される。GAG生合成は、UDP−Xylからコアタンパク質のセリン残基のヒドロキシル基へのキシロース残基の移動によって開始され、それに続いて2つのGal残基および1つのGlcA残基を付加して結合四糖類GlcAβ1−3Glaβ1−3Galβ1−4Xylβ1を形成することがわかっている。次いで、この結合四糖類上でヘパラン硫酸が合成される。β−キシロシドの細胞培養培地への添加がGAG鎖の伸長を誘導するということも報告されている。
【0062】
本発明は、β−キシロシドの、培養培地への添加は、培養哺乳動物宿主細胞によるタンパク質産生を大幅に増加させるということを実証する。適したβ−キシロシドの限定されない例として、それだけには限らないが、4−メチルウンベリフェリル−β−D−キシロシド、p−ニトロフェニル−β−D−キシロシドおよびベンジル−β−D−キシロシドが挙げられる。培養培地中のβ−キシロシドの濃度は、例えば、10〜500μg/ml、20〜200μg/mlまたは50〜100μg/mlの範囲であり得る。培養培地は、動物血清(例えば、1%、5%または10%のウシ胎児血清)をさらに含んでもよく、または血清不含であってもよい。血清不含培地を用いる場合には、培養哺乳動物宿主細胞の産生率をさらに向上させるために、FGF−2またはその他のFGF因子を補給してもよい。一実施例では、本発明に用いられる培養培地は、約20〜約200μg/mlの4−メチルウンベリフェリル−β−D−キシロシドを含む。別の実施例では、培養培地は約50〜約100μg/mlの4−メチルウンベリフェリル−β−D−キシロシドを含む。本明細書に記載される対象のタンパク質はいずれも、β−キシロシドまたはその他のGAG生合成インデューサーによって増強された哺乳動物発現系によって製造できる。
【0063】
E.薬剤組成物
本発明によって製造される治療用または予防用タンパク質を用いて、ヒト疾患を治療または予防するための薬剤組成物を調製できる。本発明の薬剤組成物は、通常、治療有効量または予防有効量の対象のタンパク質と、薬理学上許容される担体とを含む。本明細書において「製薬上許容される担体」とは、いずれかの溶媒、分散媒、被膜、抗菌剤または抗真菌剤、等張剤または吸収遅延剤などであり得る。製薬上活性な物質のためのこのような媒体および物質の使用は当技術分野ではよく知られている。補助的有効成分も、本発明の薬剤組成物に組み込むことができる。
【0064】
本発明の薬剤組成物の投与は、標的組織がその経路によって利用可能である限り、一般的な経路のいずれよってであってもよい。これとしては、経口、鼻腔、口内、直腸、経膣または局所が挙げられる。あるいは、投与は同所、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、腫瘍内、周囲、カテーテル法または静脈内注射によってであり得る。
【0065】
本発明の薬剤組成物はまた、非経口的に、または腹膜内に投与できる。対象のタンパク質の溶液は、界面活性剤、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースと適当に混合した水中で調製できる。また、分散物は、グリセロール、液体ポリエチレングリコールまたはその混合物中で、あるいはオイル中で調製できる。通常の保存および使用条件下では、これらの製剤は、微生物の増殖を防ぐための防腐剤を含み得る。
【0066】
注射用用途に適した薬剤の形として、滅菌水溶液もしくは分散物または滅菌注射用溶液または分散物の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。多くの場合、薬剤の形は無菌であり、容易な注射針通過性が存在する程度に流動体である。薬剤の形はまた、製造および貯蔵条件下で安定であり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に抗して保存できる。適した薬剤担体としては、それだけには限らないが、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)または植物油を含有する溶媒または分散媒が挙げられる。適切な流動性は、例えば、被膜、例えば、レシチンの使用によって、分散物の場合には必要とされる粒径の維持によって、または界面活性剤の使用によって維持できる。微生物の作用の阻止は、種々の抗菌剤または抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらされ得る。
【0067】
滅菌注射用溶液は、必要な量の治療用または予防用タンパク質を、上記で列挙した種々のその他の成分を含む適当な溶媒に組み込むこと、必要に応じて、続いて濾過滅菌することによって調製できる。通常、分散物は、種々の滅菌有効成分を、基礎分散媒と必要なその他の成分とを含む滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製する。滅菌注射用溶液を調製するための滅菌粉末の場合には、好ましい調製方法は、予め滅菌濾過した、有効成分およびいずれかのさらなる所望の成分の溶液から、有効成分およびいずれかのさらなる所望の成分の粉末が得られる真空乾燥または凍結乾燥技術である。
【0068】
経口投与用に、本発明によって製造される治療用または予防用タンパク質を賦形剤と組合せ、摂取可能でないマウスウォッシュおよび歯磨剤の形で使用できる。マウスウォッシュは、必要な量の治療用または予防用タンパク質を、適当な溶媒、例えば、ホウ酸ナトリウム溶液(ドーベル液)に組み込んで調製できる。あるいは、治療用または予防用タンパク質を、ホウ酸ナトリウム、グリセリンおよび重炭酸カリウムを含有する殺菌洗浄液に組み込むことができる。治療用または予防用タンパク質はまた、歯磨剤、ゲル、ペースト、粉末またはスラリーに分散することができる。
【0069】
製剤すると、組成物または溶液を、投与製剤と適合する方法で、治療上または予防上有効であるような量で投与できる。投与計画は、タンパク質の作用、病変部位、疾患の重篤度、患者の年齢、性別および食事、いずれかの炎症の重篤度、投与時間およびその他の臨床因子などの種々の因子に基づいて主治医によって決定され得る。一実施例では、全身投与または注射投与を、最小で有効な用量で開始し、事前選択した時間経過にわたって陽性作用が観察されるまで用量を増加させる。続いて、現れ得る何らかの悪影響を考慮しながら、対応する作用の増大が得られるレベルを制限しながら、投与量の漸増を行う。
【0070】
治療用または予防用タンパク質の毒性および治療効力は、細胞培養物または実験動物モデルにおいて標準製薬手順によって調べることができる。例えば、対象のタンパク質のLD50(集団の50%にとって致命的である用量)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)は、従来の手段を用いて求めることができる。毒性作用と治療作用との間の用量比が治療指数であり、比LD50/ED50として表すことができる。多くの場合、大きな治療指数を示す治療用タンパク質が選択される。
【0071】
上記実施形態および以下の実施例は、制限するものではなく例示のために示されるということは理解されなくてはならない。本発明の範囲内の種々の変法および改変は、本説明から当業者に明らかとなるであろう。
【実施例】
【0072】
(実施例1)
細胞培養およびDNA構築物
哺乳動物細胞株(HEK293−FT、HEK293−EBNA、CHO−DUKXおよびLec.3.2.8.1)を加湿したインキュベーター中で、5%COを用い、37℃で増殖させ、維持した。HEK293細胞は、5%ウシ胎児血清(FBS)を補給したフリースタイル293培地(Invitrogen)で培養した。CHO−DUKX安定株は、10%FBSおよび200nMメトトレキサート(MTX)を含有するα培地で増殖させた。HEK293安定株は、10%FBSおよび100nM MTXを含有するα培地で培養した。
【0073】
一過性発現は、50mlスピナまたは1Lスピナのいずれかで実施した。50ml培養容積については、2.5mlの血清不含293培地中で、25μgのプラスミドDNAを400μgのポリエチレンイミン(PEI、25kDa、直鎖、HClによってpH7.0に中和、1mg/ml(Polysciences、ペンシルベニア州Warrington、PA)と混合した。1リットルの培養容積については、50mlの血清不含293培地中で、500μgのDNAを4mgのPEIと混合した。次いで、スピナにおいて、混合物を、0.5×10個細胞/mlの密度の、5%FBSを含む293培地中の50mlまたは1リットルのいずれかのHEK293細胞と混合した。スピナを37℃で、P2005スターラー(Bellco)上、回転速度170rpmで72〜144時間インキュベートし、その後回収した。
【0074】
DNA構築物には2種のベクター(pSMED2およびpSMEDA)を用いた。pSMEDA、pSMED2由来の誘導体は図1に記載されている。ベクターが、EBNA−1ウイルス抗原を含む細胞において増幅され得るようにOriPエレメントをpSMEDAに挿入した。このベクターは、HEK293−EBNA細胞におけるタンパク質産生の数倍の増加を可能にする。sFRP−1(分泌型frizzled関連タンパク質1)構築物には、C末端His6タグおよび突然変異VFK312−314LEをPCRプライマー中、停止コドンの前に組み込んだ。PCR産物をSalIおよびEcoRIで消化した。ゲル精製したDNA断片をpSMED2(pWZ1028を作製)またはpSMEDA(pWZ1049を作製)にサブクローニングした。
【0075】
CHO−DUKX sFRP−1安定株の確立のために、構築物pWZ1028をCHO−DUKX細胞にトランスフェクトし、トランスフェクトーマを50nM、100nMまたは200nMのメトトレキサート(MTX)に対して3週間選択した。72コロニーをスクリーニングした後、200nM MTXに対して耐性であり、sFRP−1の最高発現レベルを有する3コロニー(200−10、200−11および200−12と名づけた)を単離した。また、HEK293細胞は、2コピーのジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子を有しているにもかかわらず、100nM以上の濃度のMTXに対して感受性であることがわかった。sFRP−1についてHEK293安定株を構築するために、pWZ1028をHEK293−EBNAにトランスフェクトし、トランスフェクトーマを100nMまたは250nMのMTXに対して3週間選択した。次いで、最良のクローンのうちの2つ、100−5および100−20を単離した。
【0076】
(実施例2)
ヘパリンはトランスフェクトされた細胞によるsFRP−1産生を増強する
C末端his6タグをつけたsFRP−1を、実施例1に記載の通り、HEK293−FT細胞において一過性に発現させた。50μg/mlのヘパリン(Sigma Chemical Co.)をDNAトランスフェクションの間またはその後(図2における「トランスフェクション後誘導時間」)に細胞培養物に添加した。コンディショニング培地を種々の時点(図2中「増殖時間」)で回収した。タンパク質サンプルをSDS−PAGEによって分離し、0.2μg/mlのマウスモノクローナル抗his4抗体(Qiagen)を用いてイムノブロッティングした(図2)。イムノブロッティングは、Zhongら(2004年) FEBS Lett. 562、111〜117頁に記載されるとおり実施した。図2に示されるように、ヘパリンはトランスフェクトされたHEK293細胞によるsFRP−1産生を大幅に増加させた。最大の増加は、DNAトランスフェクションの48時間後に培養培地にヘパリンを添加した場合に観察された。その他の実験では、組換えによって発現されたアグレカナーゼ−1またはアグレカナーゼ−2タンパク質について、このような増加は観察されなかった(データは示していない)。
【0077】
C末端His6タグをつけたsFRP−1も、HEK293−EBNA細胞において一過性に発現させた。DNAトランスフェクションの48時間後、種々の濃度のヘパリンを細胞培養物に添加した(図3中「μg/mlヘパリン」)。DNAトランスフェクションの120時間または144時間後にコンディショニングされた培地を回収した。SDS−PAGEによってタンパク質サンプルを分離し、マウスモノクローナル抗his4抗体を用いてイムノブロッティングした(図3)。図3はタンパク質産生増強にとっての最適ヘパリン濃度は約25μg/mlであるということを示す。
【0078】
一過性にトランスフェクトされた細胞に加え、sFRP−1について安定HEK293細胞株(クローン100−5および100−20)も用いて、タンパク質産生に対するヘパリンの刺激作用を評価した。クローン100−5および100−20細胞を、種々の濃度のウシ胎児血清(図4中「FBS」)の存在下で増殖させた。50μg/mlのヘパリンを新鮮培地とともに添加した。ヘパリン処理の72時間後にコンディショニング培地を回収した。SDS−PAGEによってタンパク質サンプルを分離し、マウスモノクローナル抗his4抗体を用いて免疫染色した(図4)。ヘパリンは、クローン100−5および100−20細胞によるsFRP−1産生を大幅に増強した。また、sFRP−1産生は、ウシ胎児血清(FBS)の濃度が高まるにつれて増加し、このことは、FBSが哺乳動物細胞においてタンパク質産生を刺激できる因子(単数または複数)を誘導するということを示す。
【0079】
mRNAレベルに対するヘパリンの作用を、ノーザンブロット分析によって調べた。RNAqueous(Ambion)を用いて293細胞から全RNAを調製した。1.1%アガロース/2%ホルムアルデヒドMOPSゲル電気泳動によって10μgのRNAを分離し、8×SSCを用いてNytran Superchargeメンブラン(Schleicher and Schuell)上にブロッティングし、DIGイージーHyb溶液(Roche)中でジゴキシゲニン標識DNAプローブを用いて50℃で一晩ハイブリダイズした。0.5×SSC/0.1%SDSおよび0.2×SSC/0.1%SDSを用いて60℃で洗浄した後(GAPDH)、メンブランをブロッキング試薬(Roche)中で30分間ブロッキングし、アルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体(Roche)を用い、Tris生理食塩水バッファー/0.3% Tween20を用いて30分間プローブした。Supersignal(Pierce)を用いてシグナルを可視化した。プローブは、ジゴキシゲニン標識ヌクレオチド(Roche)を用いてPCRによって作製した。図5に示されるように、ヘパリン処理細胞および偽処理細胞との間にmRNA量に有意差がないので、ヘパリンはsFRP−1のmRNAレベルを増加させない(レーン1対2、3対4、5対6)。したがって、ヘパリンはsFRP−1のDNA転写またはmRNA安定性に影響を及ぼさない。sFRP−1のタンパク質合成の際に、そのmRNA後プロセスに影響を及ぼすと思われる。
【0080】
細胞内タンパク質合成に対するヘパリンの作用を評価するために、上記のように、sFRP−1をHEK293−FT細胞において一過性に発現させた。50μg/mlのヘパリンをDNAトランスフェクションの48時間後に添加した。コンディショニング培地および細胞ペレットを、120または144時間で回収した。SDS−PAGEによって各タンパク質サンプルを分離し、マウスモノクローナル抗His4抗体を用いてイムノブロッティングした(図6)。ヘパリンは、細胞内および細胞外sFRP−1の双方を増加させ、このことは、ヘパリンは細胞内タンパク質合成を刺激することによって哺乳動物細胞タンパク質産生を増強できるということを示唆する。さらに、分泌型sFRP−1の細胞取り込みは観察されなかった。このことは、培養培地中のsFRP−1の蓄積は、培地に添加されたヘパリンによるHSPG媒介性エンドサイトーシスの阻害の結果ではないということを示す。
【0081】
sFRP−1に対するヘパリンの増強作用が、タンパク質安定化によるものであるかどうかを調べるために、HEK293細胞によって産生されたsFRP−1を精製した。実施例1に記載されるように、一過性発現から1リットルのコンディショニング培地を調製した。4℃で約1時間、sFRP−1−his6含有培地をニッケル−NTA(Qiagen)を用いて平衡化した。樹脂を3000rpmで遠心分離し(SORVALL H−6000A/HBB−6)、カラム(Pharmacia Biotech)に詰め、その後、HPLCに取り付けた。1M NaCl、25mM Tris−HCl pH7.5および15mM イミダゾールを用いて十分に洗浄した後、1M NaCl、25mM Tris−HCl pH7.5および200mMイミダゾール用いてsFRP−1−his6タンパク質を溶出した。溶出液を10K MWCO濃縮器(Vivascience)を用いて濃縮して2mlに減らした。サンプルをさらに、1M NaCl、25mM Tris−HCl pH7.5中でSuperdex(商標)200サイズ排除カラム(SEC)カラム(Pharmacia Biotech)に通した。タンパク質は、ニッケル−NTA後に実質的に精製され(図7A、左パネル、および図7B、レーン1&2)、Superdex200後にはほぼ均質であった(図7A、右パネル、および図7B、レーン3&4)。
【0082】
タンパク質濃度は280nmでの吸光度によって調べた。ニッケル−NTA後に得られたタンパク質は約2.5mg/Lであり、SEC後は約1mg/Lである。SEC分析では、sFRP−1−his6はモノマーとして流れ(図7A、右パネル)、これは、非還元条件下での38kDaポリペプチドとしてのsFRP−1の移動と一致する(図7B、レーン4)。N末端配列決定およびマススペクトロメトリー分析によって、sFRP−1の同一性が確認され、タンパク質が多量にグリコシル化されていることが示された(データは示していない)。室温でインキュベートした場合は、精製sFRP−1タンパク質は、ヘパリンの不在下で極めて安定である(データは示していない)。精製sFRP−1タンパク質が活性であるかどうかを調べるために、sFRP−1のWnt3アンタゴニスト活性を測定した。図7Cに示されるように、トランスフェクトされたU2OS細胞では、Wnt3はTCFルシフェラーゼリポーター遺伝子発現を増加させた(Bhatら(2004年) Protein Expr. Purif. 37、327〜335頁)。ニッケル−NTA精製されたsFRP−1またはSEC精製されたsFRP−1のいずれかの添加により、Wnt媒介性応答が用量依存的に減少したのに対し、バッファーは、Wnt媒介性TCFルシフェラーゼリポーター活性化に対して影響を及ぼさなかった。これらのデータは、ヘパリンの不在下では、精製sFRP−1は安定であり、機能的であるということを明確に実証する。
【0083】
タンパク質産生に対するヘパリンの刺激作用はまた、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞においても観察された。野生型CHO細胞は、内因性ヘパリン様分子、ヘパリン硫酸グリコサミノグリカン(HSGAG)を合成できる。しかし、野生型CHO細胞を30mM塩素酸塩(ヘパラン硫酸合成の阻害剤)を用いて48時間前処理した場合には、細胞はヘパリン感受性となった。実験により、ヘパリンは、一過性発現条件および安定発現条件の双方の下で、塩素酸塩処理CHO細胞においてタンパク質産生を増強することが示された。sFRP−1分泌のためヘパリンの必要条件をさらに特性決定するために、4つのグリコシル化突然変異を保持するグリコシル化欠損CHO細胞株Lec3.2.8.1(Stanley (1989年) Mol. Cell. Biol. 9、377〜383頁)を用いた。この細胞株は、大きく末端切断されたN結合型およびO結合型炭水化物を含む最も大幅に改変された炭水化物構造を発現する。図8にで示されるように、ヘパリンは突然変異CHO株においてsFRP−1分泌を刺激した(レーン1〜6)。
【0084】
ヘパリン結合性タンパク質のHSとの相互作用は、配列およびHSの糖部分の硫酸化レベルによって定まる(Eskoら(2002年) Annu. Rev. Biochem. 71、435〜471頁)。sFRP−1分泌におけるヘパリン活性にとってO硫酸化およびN硫酸化が必要であるかどうかを調べるために、sFRP−1によってトランスフェクトされた293細胞を、全体的にN−脱硫酸化、続いて、N−アセチル化された化学修飾されたヘパリン(Sigma Chemical Co.)とともにインキュベートした。2−O−硫酸化を欠く修飾ヘパリン(Sigma)も、そのsFRP−1分泌を刺激する能力について調べた。図9に示されるように、2−O−脱硫酸化ヘパリンは、そのsFRP−1分泌を刺激する能力を完全に失った(レーン4)。対照的に、N−脱硫酸化ヘパリンは修飾されていないヘパリンと同程度に有効であり(レーン3)、このことは、N−硫酸化ではなくO−硫酸化がsFRP−1の刺激に必要であることを示す。さらに、4−メチルウンベリフェリル7−β−D−キシロシド(Sigma Chemical Co.)、プロテオグリカンコアタンパク質の直鎖部分の代わりになり、したがって、グリコサミノグリカン生合成のための可溶性プライマーとして機能するキシロシドの添加により、50および100μg/mlという濃度でsFRP−1分泌が刺激され(レーン5&6)、ヘパリンの作用が模倣された。
【0085】
(実施例3)
FGF−2はトランスフェクトされた細胞によるタンパク質産生を増強する
sFRP−1を安定に過剰発現するHEK293株由来の細胞(クローン100−5)を、6ウェルプレートにおいてコンフルエンスに増殖させた。次いで、培地を、50μg/mlのヘパリンを含有する新鮮な血清不含培地で置換した。対応するウェルの培地に、50ng/mlの線維芽細胞増殖因子−1(FGF−1、Sigma Chemical Co.)または線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2、Sigma Chemical Co.)を添加した。培地置換の48時間後コンディショニング培地を回収した。SDS−PAGEによってタンパク質サンプルを分離し、マウスモノクローナル抗His4抗体を用いてイムノブロッティングした(図10)。図10において実証されるように、FGF−2とヘパリンの組合せが、安定にトランスフェクトされたHEK293細胞によるsFRP−1産生を著しく増加させた。
【0086】
したがって、FGF−2およびヘパリンは、ノーザン分析がsFRP−1のmRNAレベルはヘパリンの存在によって影響を受けないということを示すように(図5)、転写後タンパク質合成を調節すると思われる。理論に拘束されようとは思わないが、ヘパリンは、FGFがその標的タンパク質の翻訳に影響を及ぼすことがわかっているように(Szebenyiら(1999年) Int. Rev. Cytol.)、タンパク質翻訳プロセスに影響を及ぼし得る。FGFはまた、その産物が翻訳プロセスをアップレギュレートできるいくつかの標的遺伝子を活性化できる。別の可能性は、FGF経路は分泌経路に沿ったタンパク質輸送を促進できるということである。ますます多くの証拠が、タンパク質分泌および表面局在化は一連のシグナル伝達経路、例えば、フォールディングされていないタンパク質反応によって厳重に調節されるということを示している(Schroderら(2005年) Annu. Rev. Biochem. 74、739〜789頁)。いくつかのERシャペロンが、種々のクライアントタンパク質の細胞表面局在化および分泌を促進することがわかっている。ヘパリンおよびFGF−2は、これらの機構を活性化し、組換えタンパク質の分泌を促進できる。
【0087】
(実施例4)
FGFR−1の刺激はトランスフェクトされた細胞におけるタンパク質産生を増強する
sFRP−1を安定に過剰発現するHEK293細胞株由来の細胞(100−5)を、6ウェルプレートにおいてコンフルエンスに増殖させ、次いで、ウサギポリクローナル抗FGFR−1または抗FGFR−2抗体(Sigma Chemical Co.)を用いて6時間前処理または偽処理した。続いて、細胞を50μg/mlのヘパリンを用いて処理した。ヘパリン処理の48時間後コンディショニング培地を回収した。SDS−PAGEによってタンパク質サンプルを分離し、マウスモノクローナル抗His4抗体を用いてイムノブロッティングした(図11)。データは、抗FGFR−2を用いてではなく、抗FGFR−1を用いた前処理により、ヘパリン誘導性タンパク質増強が大幅に減少したということを示す。
【0088】
(実施例5)
ヘパリンはトランスフェクトされた細胞におけるMMP−23およびDKK−1タンパク質産生を増強する
pSMEDA中にC末端His6タグを含むメタロプロテイナーゼMMP−23を、5%FBSを補給した培地において、HEK293−EBNA細胞中で一過性に発現させた。トランスフェクションの24時間後、トランスフェクトされた細胞を、種々の濃度のFBSを含む新鮮培地に切り替えた。いくつかの反応物に50μg/mlのヘパリンを添加した。96時間後コンディショニング培地を回収した。SDS−PAGEによってタンパク質サンプルを分離し、マウスモノクローナル抗His4抗体を用いてイムノブロッティングした。図12に示されるように、ヘパリンは、MMP23−his6タンパク質の観察レベルを大幅に高めた。
【0089】
pcDNA3.1(Invitrogen)中にC末端mycタグを含むヒトDickkopf−1(DKK−1)を、5%FBSを補給した培地においてHEK293−FT細胞中で一過性に発現させた。DNAトランスフェクションの24時間後、細胞培養物に50μg/mlのヘパリンを添加した。96時間後コンディショニング培地(S)および細胞ペレット(P)を回収した。SDS−PAGEによってタンパク質サンプルを分離し、マウスモノクローナル抗myc抗体を用いてイムノブロッティングした。図13に示されるように、ヘパリンは、DKK1−mysタンパク質のレベルを大幅に高めた。
【0090】
本発明の前述の記載は、例示および説明を提供するものであって、包括的であることまたは本発明を開示される明確なものに制限することを意図するものではない。上記の教示と一致する改変および変法が考えられ、または本発明の実施から獲得され得る。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲およびその等価物によって定義されるということは留意される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、本発明に用いられる発現ベクターの制限マップを表す。
【図2】図2は、培養HEK293細胞における、タンパク質産生に対するヘパリンの増強作用を示す。
【図3】図3は、培養HEK293−EBNA細胞においてタンパク質産生を増加させるためのヘパリンの最適濃度が約25μg/mlであることを実証する。
【図4】図4は、安定HEK293細胞株において、ヘパリンが分泌型frizzled関連タンパク質1(sFRP−1)の産生を増加させることを示す。
【図5】図5は、ヘパリンがsFRP−1 mRNAレベルを高めないことを示すノーザンブロットである。
【図6】図6は、細胞内タンパク質合成に対するヘパリンの刺激効果を実証するウエスタンブロットである。
【図7】図7は、ヘパリンを用いない精製sFRP−1が活性であり、安定であることを実証する。パネルAは、ニッケルNTAカラム後にトランスフェクトされた293細胞から得たコンディショニング培地から得た1対のタンパク質溶出プロフィールである。ニッケル精製物質をサイズ排除カラムSuperdex200を用いてさらに精製した。パネルBは、精製sFRP−1−his6のクーマシーブルー染色ゲルである。ニッケルNTAまたはSuperdex200後のタンパク質サンプルを、還元条件下(レーン1&3)または非還元条件下(レーン2&4)で、SDS−PAGEによって分析した。パネルCは、TCF−ルシフェラーゼでトランスフェクトされたU2OS細胞を用いる、精製sFRP−1のWnt−3アンタゴニスト活性についてのルシフェラーゼアッセイを表す。
【図8】図8は、ヘパリンが、グリコシル化欠損CHO細胞株Lec.3.2.8.1において、sFRP−1産生を刺激することを実証するウエスタンブロットである。sFRP−1でトランスフェクトされたLec.3.2.8.1細胞を、DNAトランスフェクションの48時間後、50μg/mlのヘパリンで偽処理または処理した。種々の時点でコンディショニング培地を回収し、抗his4抗体を用いてイムノブロッティングによって分析した。
【図9】図9は、修飾ヘパリンの作用を示すウエスタンブロットである。sFRP−1でトランスフェクトされた293細胞を未処理のまま(−)またはすべて50μg/mlで、ヘパリン、N−脱硫酸化、N−アセチル化ヘパリン(dN−ヘパリン)、または2−O−脱硫酸化ヘパリン(dO−ヘパリン)とともに72時間インキュベートした。また、細胞を、示した濃度の4−メチルウンベリフェリル7−β−D−キシロシド(キシロシド)で処理した。培地サンプルを回収し、抗his4抗体を用いるイムノブロッティングについて分析した。
【図10】図10は、線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)が、血清不含培地におけるヘパリンの作用を大幅に改善することを実証する。
【図11】図11は、線維芽細胞増殖因子受容体−1(FGFR−1)をブロックすることによって、ヘパリンのタンパク質産生増強効果が著しく低下することを示す。
【図12】図12は、ヘパリンが、HEK293一過性発現においてヒトマトリックスメタロプロテイナーゼ23(MMP−23)の産生を増強することを実証するウエスタンブロットである。
【図13】図13は、ヘパリンが、HEK293一過性発現においてヒトDickkopf−1(DKK−1)の産生を増強することを実証するウエスタンブロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地において培養された哺乳動物宿主細胞を含む発現系であって、該各細胞が対象のタンパク質をコードする組換え発現カセットを含み、該対象のタンパク質が細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグリカンと相互作用して該タンパク質の細胞内部移行を誘導できず、該培地が該細胞による該タンパク質の産生を増加させるために有効量のヘパリンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンを含む、発現系。
【請求項2】
前記対象のタンパク質が、インスリン、成長ホルモン、増殖因子、エリスロポエチンタンパク質、卵胞刺激ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、サイトカイン、コロニー刺激因子、凝固因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター、副甲状腺ホルモン、骨形成タンパク質、ケラチノサイト増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、グルカゴン、トロンビン、トロンボポエチン、プロテインC、分泌型frizzled関連タンパク質、セレクチン、メタロプロテイナーゼ、dickkopfタンパク質および抗体からなる群から選択される、請求項1に記載の発現系。
【請求項3】
前記培地が約1〜約1,000μg/mlのヘパリンを含む、請求項1に記載の発現系。
【請求項4】
前記培地が約10〜約200μg/mlのヘパリンを含む、請求項1に記載の発現系。
【請求項5】
前記培地が、前記細胞による前記タンパク質の産生を増加させるために有効量のFGF−2を含む血清不含培地である、請求項1に記載の発現系。
【請求項6】
前記対象のタンパク質が骨の発達に関与するタンパク質である、請求項1に記載の発現系。
【請求項7】
前記対象のタンパク質が、骨形成タンパク質、分泌型frizzled関連タンパク質、メタロプロテイナーゼおよびdickkopfタンパク質からなる群から選択される、請求項6に記載の発現系。
【請求項8】
請求項1に記載の発現系によって産生された対象のタンパク質を含む薬剤組成物。
【請求項9】
遺伝子組換え哺乳動物細胞を含み、その各々が対象のタンパク質とFGFR−1媒介性シグナル伝達経路の構成的に活性な成分とをコードする1種または複数の組換え発現カセットを含む発現系。
【請求項10】
前記成分が構成的に活性なFGFR−1タンパク質である、請求項9に記載の発現系。
【請求項11】
前記対象のタンパク質が、インスリン、成長ホルモン、増殖因子、エリスロポエチンタンパク質、卵胞刺激ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、サイトカイン、コロニー刺激因子、凝固因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター、副甲状腺ホルモン、骨形成タンパク質、ケラチノサイト増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、グルカゴン、トロンビン、トロンボポエチン、プロテインC、分泌型frizzled関連タンパク質、セレクチン、メタロプロテイナーゼ、dickkopfタンパク質および抗体からなる群から選択される、請求項10に記載の発現系。
【請求項12】
前記対象のタンパク質が骨の発達に関与するタンパク質である、請求項10に記載の発現系。
【請求項13】
前記対象のタンパク質が、骨形成タンパク質、分泌型frizzled関連タンパク質、メタロプロテイナーゼおよびdickkopfタンパク質からなる群から選択される、請求項10に記載の発現系。
【請求項14】
培地において培養された哺乳動物宿主細胞を含む発現系であって、該各細胞が対象のタンパク質をコードする組換え発現カセットを含み、該対象のタンパク質が細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグリカンと相互作用して該タンパク質の細胞内部移行を誘導できず、該培地が該細胞による該タンパク質の産生を増加させるために有効量のFGFR−1活性化剤を含む、発現系。
【請求項15】
前記培地が血清不含培地であり、前記FGFR−1活性化剤が、
ヘパリンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンと
線維芽細胞増殖因子−2と
を含む、請求項14に記載の発現系。
【請求項16】
培地において培養された哺乳動物宿主細胞を含む発現系であって、該各細胞が対象のタンパク質をコードする組換え発現カセットを含み、該培地が該細胞による該タンパク質の産生を増加させるために有効量のβ−キシロシドを含む、発現系。
【請求項17】
前記培地が約50μg/ml〜約100μg/mlの4−メチルウンベリフェリル−β−D−キシロシドを含む、請求項16に記載の発現系。
【請求項18】
組換えによって発現されるタンパク質の発現を増強するための方法であって、
該タンパク質をコードするメッセンジャーRNAを含む哺乳動物細胞を培養するステップと、
FGFR−1を活性化するステップと、
を含み、FGFR−1の活性化が該タンパク質の翻訳を増強し、該タンパク質自体はFGFR−1のアクチベーターではない、方法。
【請求項19】
前記タンパク質がウイルスタンパク質ではない、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
FGFR−1を活性化するステップが、前記タンパク質の翻訳を増強するために有効量のヘパリンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンを含む培地において前記細胞を培養するステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記培地が10〜200μg/mlのヘパリンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
各細胞が、メッセンジャーRNAのための組換え発現カセットを含む一過性に導入される発現ベクターを含み、前記ヘパリンが、該発現ベクターが該細胞に一過性に導入された少なくとも24時間後に前記培地に加えられる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記培地が前記タンパク質の翻訳を増強するために有効量のFGF−2をさらに含む血清不含培地である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記培地が血清をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
FGFR−1を活性化するステップが、有効量のβ−キシロシドを含む培地において前記細胞を培養するステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記培地が、FGF−2をさらに含む血清不含培地である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記培地が血清をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
前記タンパク質が細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグリカンと相互作用して該タンパク質の細胞内部移行を誘導できない、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞または前記培地から前記タンパク質を単離するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項31】
前記タンパク質が、インスリン、成長ホルモン、増殖因子、エリスロポエチンタンパク質、卵胞刺激ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、サイトカイン、コロニー刺激因子、凝固因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター、副甲状腺ホルモン、骨形成タンパク質、ケラチノサイト増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、グルカゴン、トロンビン、トロンボポエチン、プロテインC、分泌型frizzled関連タンパク質、セレクチン、メタロプロテイナーゼ、dickkopfタンパク質および抗体からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項32】
請求項18に記載の方法に従って産生された対象のタンパク質を含む薬剤組成物。
【請求項33】
タンパク質を産生するための方法であって、
培地において哺乳動物細胞を培養するステップであって、該各細胞が、該タンパク質と、FGFR−1媒介性シグナル伝達経路の構成的に活性な成分とをコードする1種または複数の組換え発現カセットを含む、ステップと、
該細胞において該タンパク質および該成分を発現させるステップと、
該細胞または培地から該タンパク質を単離するステップと
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2008−538503(P2008−538503A)
【公表日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507863(P2008−507863)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/014859
【国際公開番号】WO2006/113861
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】