説明

噴霧剤

【課題】γ−アミノ酪酸(GABA)を経鼻粘膜吸収や経肺吸収することにより、従来とは全く異なる方法でGABAを体内に摂取することができるようにし、GABAの血中濃度を、経口摂取する場合に比較して、著しく高くすることのできるようにすること。
【解決手段】空間に噴霧するために用いられる噴霧剤であって、溶媒に溶質としてGABAを溶解させた溶液。前記溶液に、さらに食品添加物の乳化剤である界面活性剤、また低級アルコールをさらに含有させた噴霧剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内空間や室内空間などの雰囲気改変に用いられる噴霧剤に関する。
【背景技術】
【0002】
γ−アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid:以下、「GABA」という。)には、種々の薬理作用が確認されている。その薬理作用は、例えば、血圧を正常にする血圧調整作用、血液中のコレステロールや中性脂肪の増加を抑制する作用、腎臓や肝臓や膵臓の働きを活発化させる作用、血糖値の上昇を抑える作用、脳への血流を良好なものにして脳細胞の代謝を活発化させる作用、肥満防止作用、アルコール代謝促進作用、体臭や口臭などの消臭作用、感情障害や不安障害の解消作用、脳卒中の後遺症の改善作用、大腸ガン抑制作用、成長ホルモン分泌促進作用である。このため、GABAは、近年、サプリメントとして非常に注目を集めている。
【0003】
特許文献1には、GABAは、近年発芽玄米などの流行により一般的に広く知られるようになったアミノ酸の一種であり、野菜、果物をはじめ発酵食品に至るまで自然界の動植物に幅広く含まれており、我々の食生活の中で通常摂取されている食品成分のひとつであること、また、医薬効果も非常に高く、1日3gの摂取で頭部外傷後遺症に伴う諸症状(頭痛、頭重、昜疲労性、のぼせ感、耳鳴り、記憶障害、睡眠障害、意欲低下)に対して改善効果が認められていることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、バレリアーナ属植物又はその抽出物、鎮静作用を有する植物又はその抽出物及びGABAを含む睡眠障害用組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3〜5には、睡眠に適した室内雰囲気を作ることを目的として、室内に薬剤を噴霧することが開示されている。
【0006】
特許文献6〜8には、睡眠に適した室内雰囲気を作ることを目的とした噴霧剤及び噴霧装置が開示されている。
【特許文献1】特開2004−269361号公報
【特許文献2】特開2003−183174号公報
【特許文献3】特開平5−280784号公報
【特許文献4】特開2000−281585号公報
【特許文献5】特開平7−96025号公報
【特許文献6】特表2003−513719号公報
【特許文献7】国際公開第03/047580号パンフレット
【特許文献8】特表2003−522147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願の目的は、従来とは全く異なる方法でGABAを体内に摂取することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、空間に噴霧するために用いられる噴霧剤であって、
溶媒に溶質としてGABAを溶解させた溶液であることを特徴とする。
【0009】
本発明の噴霧剤は、GABAの濃度が0.0097〜3.88mol/lであることが好ましく、0.0097〜1.94mol/lであることがより好ましい。
【0010】
本発明の噴霧剤は、ショ糖脂肪酸エステルなどの食品添加物の乳化剤等の界面活性剤を含有していてもよく、また、エタノール等のアルコールをさらに含有していてもよい。
【0011】
本発明の噴霧剤は、表面張力が20〜50mN/mであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明を用いれば、GABA溶液を空間に噴霧することにより、GABAを経鼻粘膜吸収や経肺吸収することができ、経口以外の方法でGABAを体内に摂取することができる。そして、GABAを継続的に経鼻粘膜吸収や経肺吸収すれば、GABAを経口摂取する場合に比較して、GABAの血中濃度を著しく高くすることができる。
【0013】
また、GABAがリンパにも入って脳血管関門を通過しないので、類縁体でないGABAそのものを脳内に摂取することができる。
【0014】
さらに、GABAが門脈を経由しないので、肝臓の初回通過による代謝を回避することができる。
【0015】
また、睡眠中にGABA溶液の噴霧を行えば、速やかな睡眠導入がなされると共に、成長ホルモンの分泌促進を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施形態を詳細に説明する。
【0017】
(噴霧剤)
本実施形態に係る噴霧剤は、溶媒に溶質としてGABAを溶解させた溶液であり、噴霧装置等で空間に噴霧して雰囲気を改変し、そして、それによってGABAを経鼻粘膜吸収や経肺吸収によって人間の体内に摂取させるために用いられるものである。
【0018】
この噴霧剤は、基本構成が溶媒に溶質としてGABAを溶解させた溶液である。
【0019】
GABAは、下記化学式で表される化合物である。GABAは、哺乳動物の中枢神経系に高濃度に存在する抑制性神経伝達物質であるが、人工的に合成することも可能である。また、GABAは、例えば、血圧を正常にする血圧調整作用、血液中のコレステロールや中性脂肪の増加を抑制する作用、腎臓や肝臓や膵臓の働きを活発化させる作用、血糖値の上昇を抑える作用、脳への血流を良好なものにして脳細胞の代謝を活発化させる作用、肥満防止作用、アルコール代謝促進作用、体臭や口臭などの消臭作用、感情障害や不安障害の解消作用、脳卒中の後遺症の改善作用、大腸ガン抑制作用、成長ホルモン分泌促進作用などの薬理作用が期待される。
【0020】
2NCH2CH2CH2COOH
溶媒としては、例えば、水(注射用水や生理食塩水やリンゲル液も含む)、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油等が挙げられる。そして、溶媒として、これらのうち1種又は2種以上を混合したものが用いられる。
【0021】
この噴霧剤は、GABAの濃度が0.0097〜3.88mol/lであることが好ましく、0.0097〜1.94mol/lであることがより好ましい。GABAの濃度がこのような範囲であれば、適量のGABAを体内に摂取することができると共に、粘度や溶解性噴霧剤の液性状が適正となる。また、単位時間当たりの噴霧量を多くして短いサイクル(例えば1日)で噴霧剤を補充するような使用形態、及び、単位時間当たりの噴霧量を少なくして長いサイクル(例えば2〜3ヶ月)で噴霧剤を補充するような使用形態のいずれにも対応することができる。特に、GABAの濃度が0.0097〜1.94mol/lであれば、上記の単位時間当たりの噴霧量を多くして短いサイクルで噴霧剤を補充するような使用形態の場合に好適である。なお、GABAを溶媒としての水に溶解させた噴霧剤では、GABAの濃度0.0097〜3.88mol/lが0.1〜40質量%に相当し、GABAの濃度0.0097〜1.94mol/lが0.1〜20質量%に相当する。
【0022】
噴霧剤の表面張力が高いと噴霧に大きなエネルギーが必要となるが、通常の家電製品の噴霧装置(印加電圧5kV前後のもの)を用いる場合には、噴霧剤の表面張力が約30mN程度であることが必要である。一方、例えば、GABAの20%水溶液の表面張力は約75mN/mである(なお、水の表面張力は約70mN/m)。
【0023】
従って、この噴霧剤は、表面張力が20〜50mN/mであることが好ましく、25〜35mN/mであることがより好ましい。
【0024】
そして、これを実現すべく、この噴霧剤は、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、食品添加物の乳化剤が好ましく、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、植物レシチン、卵黄レシチン、植物性ステロール、スフィンゴ脂質、ソルビタン脂肪酸エステル及びメタリン酸ナトリウム等が挙げられる。そして、界面活性剤として、これらのうち1種又は2種以上を混合したものが用いられる。界面活性剤の含有量は、0.01〜1質量%であることが好ましく、0.05〜0.2質量%であることがより好ましい。
【0025】
また、この噴霧剤は、界面活性剤に加えて低級アルコールを含有していてもよい。これにより、噴霧剤の表面張力をより有効に下げることができる。低級アルコールとは、炭素数が1〜5の鎖式アルコールである。低級アルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロパノール及びエチレングリコール等が挙げられる。そして、アルコールとして、これらのうち1種又は2種以上を混合したものが用いられる。アルコールの含有量は、1〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。
【0026】
この噴霧剤は、その他に、導電率調整剤、溶解補助剤、けん濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などを含有していてもよく、また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、香料等の製剤添加物を含有していてもよい。
【0027】
導電率調整剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。そして、導電率調整剤として、これらのうち1種又は2種以上を混合したものが用いられる。
【0028】
溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、イソプロパノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。そして、溶解補助剤として、これらのうち1種又は2種以上を混合したものが用いられる。
【0029】
懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、界面活性剤(例えばモノステアリン酸グリセリン等)、親水性高分子(例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などである。 等張化剤は、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール、D−ソルビトール、ブドウ糖等が挙げられる。そして、懸濁化剤として、これらのうち1種又は2種以上を混合したものが用いられる。
【0030】
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液等が挙げられる。そして、緩衝剤として、これらのうち1種又は2種以上を混合したものが用いられる。
【0031】
無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール等が挙げられる。そして、無痛化剤として、1種又は2種以上を混合したものが用いられる。
【0032】
防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。そして、防腐剤として、これらのうち1種又は2種以上を混合したものが用いられる。
【0033】
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩等が挙げられる。そして、抗酸化剤として、これらのうち1種又は2種以上を混合したものが用いられる。
【0034】
着色剤としては、例えば、食用赤色2号或いは3号、食用黄色4号或いは5号、食用青色1号或いは2号等の食用色素である水溶性着色タール色素、これらの水溶性食用タール色素のアルミウム塩などの不溶性レーキ色素、β−カロチン、クロロフィル、ベンガラなどの天然色素等が挙げられる。そして、着色剤として、これらのうち1種又は2種以上を混合したものが用いられる。
【0035】
甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア等が挙げられる。そして、甘味剤として、これらのうち1種又は2種以上を混合したものが用いられる。
【0036】
香料としては、例えば、レモン、ラベンダー、或いは、ヒノキの香り用の水溶性エッセンス等が挙げられる。そして、香料として、これらのうち1種又は2種以上を混合したものが用いられる。
【0037】
この噴霧剤は、導電率が50〜1000μs/cmであることが好ましく、100〜300μs/cmであることがより好ましい。導電率がこのような範囲にあると、噴霧状態が安定して大粒の粒子が発生しないため、詰まり発生原因のひとつである噴霧装置の円管状の噴霧ノズル先端への粒子付着を抑制することができる。導電率を小さくするには石油類の添加比率が増加させる必要があり、その上限は消防法にて定められており、これを遵守するには上記範囲が好ましい。
【0038】
この噴霧剤は、粘度が0.1〜5.1cPであることが好ましく、0.1〜3.0cPであることがより好ましい。粘度がこのような範囲であると、噴霧装置に詰まり等の支障が起こりにくい。本数値は、0.4〜0.6mmの円管状の噴霧ノズルにて噴霧する場合、粘度が高くても印加電圧を上げたり、導電率を高めることで噴霧は可能である。
【0039】
このような噴霧剤を用いれば、これを空間に噴霧することにより、GABAを経鼻粘膜吸収や経肺吸収することができ、錠剤を飲むなどすることなく、経口以外の方法でGABAを体内に摂取することができる。そして、後に実施例でも示すように、GABAを継続的に経鼻粘膜吸収や経肺吸収すれば、GABAを経口摂取する場合に比較して、GABAの血中濃度を著しく高くすることができる。
【0040】
また、GABAがリンパにも入って脳血管関門を通過しないので、類縁体でないGABAそのものを脳内に摂取することができる。
【0041】
さらに、GABAが門脈を経由しないので、肝臓の初回通過による代謝を回避することができる。
【0042】
また、睡眠中に噴霧を行えば、速やかな睡眠導入がなされると共に、成長ホルモンの分泌促進を図ることができる。
【0043】
なお、噴霧剤の噴霧では、溶液の粒径が十分に小さい方が鼻や肺への進入が容易であり、その吸収が円滑に営まれるので、溶液を粒径10μm以下として噴霧することが好ましく、5μm以下として噴霧することがより好ましい。また、適量のGABAを体内に摂取するには、噴霧により空間のGABAの濃度を10μg/m3〜100mg/m3にするのがよい。GABAの体内への最大摂取量は1日当たり1000mg程度であり、噴霧剤を室内空間に噴霧する場合には、GABA換算で1日当たり10g程度の量の噴霧剤を噴霧すればよい。
【0044】
この噴霧剤を噴霧するのに用いられる噴霧装置としては、例えば、噴霧剤を人間の体内空間に噴霧する薬液吸入用のネブライザ、噴霧剤を室内空間に噴霧するエアーコンディショナーに設けられた噴霧器等が挙げられる。噴霧装置の噴霧方式としては、例えば、超音波方式、バブルジェット方式(登録商標)、ピエゾ方式、静電霧化方式等が挙げられる。
【0045】
(噴霧装置)
次に、噴霧剤を噴霧する静電噴霧装置について説明する。
【0046】
<装置構成>
図1〜3は、静電噴霧装置(10)の構成を示す。
【0047】
この静電噴霧装置(10)は、噴霧カートリッジ(15)、電源(16)及び制御部(17)で構成されている。
【0048】
噴霧カートリッジ(15)は、溶液タンク(20)とノズルユニット(30)と電極ホルダー(40)とリング電極(35)とを備えている。
【0049】
溶液タンク(20)は、天板に空気抜き孔(25)が形成された中空のタンク本体(21)を備えている。タンク本体(21)の前面下端寄りには、水平方向に突出した管部(23)が設けられている。管部(23)は、タンク本体(21)の前面の壁に形成された貫通孔(24)を介してタンク本体(21)に通じている。
【0050】
ノズルユニット(30)は、内径が例えば0.4〜0.6mmの円管状の噴霧ノズル(31)と円筒型有底キャップ状のノズルホルダー(32)とを備えている。ノズルホルダー(32)は、管部(23)に被せられるように設けられている。噴霧ノズル(31)は、その基端部がノズルホルダー(32)の底部中央に挿入され、それによって管部(23)及び貫通孔(24)を介してタンク本体(21)に通じている。ノズルホルダー(32)には、外周から側方に延びるように形成された端子部(33)が設けられている。ノズルホルダー(32)及び端子部(33)は導電性樹脂で形成された電極に構成されており、噴霧ノズル(31)がこれに電気的に接続された構成となっている。
【0051】
電極ホルダー(40)は、間隔をおいて同心状に設けられて基端側で結合した内筒部(41)及び外筒部(42)を備えている。電極ホルダー(40)は、内筒部(41)がノズルホルダー(32)に嵌合するように設けられている。電極ホルダー(40)には、外筒部(42)の先端側の外周縁には、舌片で構成された端子部(36)が側方に張り出した円環状に形成されたリング電極が外嵌めされている。
【0052】
電源(16)は、直流高電圧電源である。この電源(16)は、その正極端子がノズルホルダー(32)の端子部(33)を介して噴霧ノズル(31)に、また、その接地された負極端子がリング電極(35)の端子部(36)にそれぞれ電気的に接続されている。
【0053】
制御部(17)は、電源(16)のオン/オフのスイッチング制御を行うように構成されている。
【0054】
なお、環境温度が低くなるとタンク本体(21)に貯留される噴霧剤の粘度が上昇して噴霧ノズル(31)が詰まる虞があるので、タンク本体(21)に対して、断熱材を設けるなどの断熱機構を構成しても、また、面上ヒータなどの加温機構を取り付けてもよい。
【0055】
<噴霧動作>
この静電噴霧装置(10)を用いた噴霧剤の噴霧動作について説明する。
【0056】
この静電噴霧装置(10)では、溶液タンク(20)のタンク本体(21)内に上記の噴霧剤が貯留される。
【0057】
タンク本体(21)内の液面(51)の位置は、噴霧ノズル(31)の先端よりも高く、タンク本体(21)内の液面(51)と噴霧ノズル(31)の先端との間にはそのヘッド差があるので、これによってタンク本体(21)内の噴霧剤が噴霧ノズル(31)の先端に供給される。
【0058】
そして、電源(16)がオンされると、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)との間に例えば3〜7kV程度の電位差が付与され、噴霧ノズル(31)の先端近傍に電界が形成される。また、噴霧ノズル(31)内の噴霧剤が分極し、噴霧ノズル(31)の先端の気液界面(52)近傍に+(プラス)の電荷が集まる。そして、噴霧ノズル(31)の先端では、図4(a)に示すように、気液界面(52)が引き延ばされて円錐状となり、この円錐状となった気液界面(52)の頂部から一部の噴霧剤が引きちぎられるようにして液滴化し、室内空間に供給される。在室者は、呼吸する際に噴霧剤の液滴を空気と共に吸い込む。吸気中に含まれる液滴を在室者の肺胞へ到達させるには、液滴の粒径が10μm以下と小さいことが好ましく、5μm以下とするのがより好ましい。
【0059】
電源(16)がオフされると、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)とが同電位となり、噴霧ノズル(31)の先端に形成された気液界面(52)では、図4(b)に示すように、表面張力とヘッド差に起因する液圧とが均衡した状態となるため、噴霧ノズル(31)の先端から水溶液が流出することはない。具体的には、噴霧ノズル(31)の先端の気液界面(52)に例えば20mmH2Oの液圧が作用しても、噴霧ノズル(31)の先端からの水溶液(50)の漏洩が阻止される。
【0060】
<運転動作制御>
この静電噴霧装置(10)の制御部(17)による運転動作制御について説明する。
【0061】
この静電噴霧装置(10)では、制御部(17)は、電源(16)をオンしている時間(オン時間)と電源(16)をオフしている時間(オフ時間)との比率であるデューティー比を制御することにより噴霧剤の噴霧の運転制御を行うようになっている。
【0062】
具体的には、この静電噴霧装置(10)では、定常噴霧時よりも噴霧開始時の方がデューティー比が高く設定されて、それによって定常噴霧時よりも噴霧開始時の方が単位時間当たりの噴霧量が高くなるように制御される。これによって、噴霧開始から短時間で空間内のGABAの濃度を高めることができる。
【0063】
また、この静電噴霧装置(10)では、定常噴霧時には、溶液タンク(20)内の液面(51)の高さによって噴霧ノズル(31)で負荷される噴霧剤への圧力が変化するので、その液面(51)の高さに応じてデューティー比が設定されて(液面(51)が高い程デューティー比が低い)、空間のGABAの濃度が一定になるように制御される。これによって、GABAの体内への摂取を安定に継続して行うことができる。
【0064】
<攪拌動作制御>
制御部(17)による噴霧剤の攪拌動作制御について説明する。
【0065】
噴霧ノズル(31)の先端では、噴霧剤からの溶媒の飛散、溶媒の選択的な電界吸引、GABAと溶媒との運動量の相異による濃度勾配の形成が起こると、噴霧剤の粘度上昇が起こり、それが噴霧ノズル(31)の詰まりなどの原因となる虞がある。この静電噴霧装置(10)では、噴霧剤の噴霧中及び停止中のいずれにおいても、一定インターバル毎(例えば、1〜10分毎)に所定時間(例えば、5〜20秒間)だけ電源(16)のオン及びオフを繰り返して(例えば、繰り返し周波数0.1〜10.0Hz)、電界の形成及び消滅を繰り返すように制御される。電源(16)がオンされて電界が形成されると、噴霧剤は噴霧ノズル(31)の先端からで徐々に膨出する一方、電源(16)がオフされて電界が消滅すると、噴霧ノズル(31)の先端から膨出した噴霧剤が噴霧ノズル(31)の内部に引っ込む。この電界の形成及び消滅を繰り返すことにより、噴霧剤は、噴霧ノズル(31)に対して出たり、引っ込んだりする挙動を繰り返し、この移動によって攪拌される。その結果、噴霧ノズル(31)の先端部における噴霧剤の濃度上昇を抑制することができる。
【0066】
<睡眠時運転モード動作制御>
制御部(17)による睡眠時運転モード動作制御について説明する。
【0067】
この静電噴霧装置(10)では、睡眠時運転モードが選択されると、制御部(17)に接続された入眠検知センサ(図示せず)により人の入眠を検知し、入眠検知から一定時間経過後(例えば1時間経過後)に噴霧剤の噴霧を開始するように制御される。GABAの摂取効率は入眠から一定時間経過後に最も高くなるので、これによって効果的に成長ホルモンの分泌促進を図ることができる。
【0068】
なお、これに加えて、睡眠者の性別及び/又は体重及び/又は年齢の入力により最適な噴霧量が設定されるようにしてもよい。
【実施例】
【0069】
(試験評価1)
被験者A,B,Cの3人のそれぞれに対して、GABAを噴霧投与して経鼻粘膜吸収や経肺吸収した場合と、GABAを経口投与した場合とで、被験者の血中のGABA濃度の経時変化を調べた。
【0070】
GABAの噴霧投与の試験は、20%GABA水溶液の噴霧剤500μL(GABA100mg)をネブライザー(噴霧装置)で被験者の顔の近傍に噴霧して行った。噴霧開始時をスタート時として30分間噴霧を継続した。このとき、噴霧剤を粒径10nm前後となるように噴霧した。そして、スタート時、10分経過時、及び、30分経過時のそれぞれで被験者から採決し、血中のGABA濃度を分析した。
【0071】
GABAの経口投与の試験は、20%GABA水溶液の噴霧剤500μL(GABA100mg)を被験者に飲ませて行った。そして、飲んだ時をスタート時とし、スタート時、10分経過時、30分経過時、及び、60分経過時のそれぞれで被験者から採決し、血中のGABA濃度を分析した。
【0072】
表1は、試験結果を示す。
【0073】
【表1】

【0074】
図5は、GABAを噴霧投与した場合及びGABAを経口投与した場合のそれぞれについて、時間と3人の血中のGABA濃度の平均との関係を示す。
【0075】
これらによれば、GABAを噴霧投与した場合には、GABAの血中濃度が経時的に飛躍的に高まるのに対し、経口投与した場合には、GABAの血中濃度にほとんど変化が見られないのが分かる。これは、GABAを経口で摂取した場合には、大部分が吸収されて血液に含まれる前に代謝されてしまうのに対し、GABAを噴霧投与して経鼻粘膜吸収や経肺吸収した場合には、GABAが代謝されることなく吸収されて血液に含まれるためであると考えられる。
【0076】
(試験評価2)
GABAの20質量%水溶液(噴霧剤1)、界面活性剤としてショ糖脂肪酸エステルを0.1質量%含有したGABAの20質量%水溶液(噴霧剤2)、界面活性剤としてショ糖脂肪酸エステルを1質量%含有したGABAの20質量%水溶液(噴霧剤3)、及び、界面活性剤としてショ糖脂肪酸エステルを0.1質量%含有すると共にエタノールを20質量%含有したGABAの20質量%水溶液(噴霧剤4)を調整し、それぞれの表面張力を測定したところ、噴霧剤1が約75mN/m、噴霧剤2が約38mN/m、噴霧剤3が約38mN/m、そして、噴霧剤4が約30mN/mであった。
【0077】
これらの結果より、界面活性剤を含有させることにより噴霧剤の表面張力を下げることができるものの、その濃度を高めてもその効果に限界があることが分かる。一方、界面活性剤に加えてエタノールを含有させることにより、噴霧剤の表面張力をさらに下げることができることが分かる。
【0078】
(試験評価3)
GABAの10質量%水溶液の噴霧剤を超音波方式のネブライザ、インクジェット方式の噴霧装置及び静電霧化方式の噴霧装置のそれぞれで噴霧し、そのときの溶液の粒径分布をQCMカスケードインパクタ及びDMA(微分型モビリティー分析器)を用いて計測した。計測は噴霧口から2〜3cmの箇所で実施した。
【0079】
図6は超音波方式のネブライザの、図7はインクジェット方式の噴霧装置の、そして、図8は静電霧化方式の噴霧装置による噴霧での溶液の粒径とその割合との関係を示す。なお、図6及び7はQCMカスケードインパクタによる計測結果、図8はDMAの計測結果である。
【0080】
これらの図によれば、超音波方式のネブライザ及びインクジェット方式の噴霧装置による噴霧では、溶液の粒径がほとんど25μmであって比較的大きいのに対し、静電霧化方式の噴霧装置による噴霧では、溶液の粒径のほとんどが1μm以下であって、他の方式のものに比べて小さいのが分かる。経肺吸収にとって、肺胞に到達する粒径は1〜2μmであり、最適粒径が0.1μmと言われている。従って、本実施例のうちでは静電霧化方式の噴霧装置を用いるのがよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、体内空間や室内空間などの雰囲気改変に用いられる噴霧剤について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】静電噴霧装置(10)の概略構成図である。
【図2】噴霧カートリッジ(15)の斜視図である。
【図3】噴霧カートリッジ(15)の要部を示す断面図である。
【図4】(A)は噴霧中における噴霧ノズル(31)の先端を図示する断面図であり、(B)は噴霧の停止中における噴霧ノズル(31)の先端を図示する断面図である。
【図5】時間と血中のGABA濃度との関係を示すグラフである。
【図6】超音波方式のネブライザによる噴霧での溶液の粒径とその割合との関係を示すグラフである。
【図7】インクジェット方式の噴霧装置による噴霧での溶液の粒径とその割合との関係を示すグラフである。
【図8】静電霧化方式の噴霧装置による噴霧での溶液の粒径とその割合との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間に噴霧するために用いられる噴霧剤であって、
溶媒に溶質としてγ−アミノ酪酸を溶解させた溶液であることを特徴とする噴霧剤。
【請求項2】
請求項1に記載された噴霧剤において、
上記γ−アミノ酪酸の濃度が0.0097〜3.88mol/lであることを特徴とする噴霧剤。
【請求項3】
請求項2に記載された噴霧剤において、
上記γ−アミノ酪酸の濃度が0.0097〜1.94mol/lであることを特徴とする噴霧剤。
【請求項4】
請求項1に記載された噴霧剤において、
界面活性剤を含有することを特徴とする噴霧剤。
【請求項5】
請求項4に記載された噴霧剤において、
上記界面活性剤は、食品添加物の乳化剤であることを特徴とする噴霧剤。
【請求項6】
請求項5に記載された噴霧剤において、
上記界面活性剤は、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、植物レシチン、卵黄レシチン、植物性ステロール、スフィンゴ脂質、ソルビタン脂肪酸エステル及びメタリン酸ナトリウムから選択される1又は複数であることを特徴とする噴霧剤。
【請求項7】
請求項4に記載された噴霧剤において、
低級アルコールをさらに含有することを特徴とする噴霧剤。
【請求項8】
請求項7に記載された噴霧剤において、
上記低級アルコールは、エタノール、イソプロパノール及びエチレングリコールから選択される1又は複数であることを特徴とする噴霧剤。
【請求項9】
請求項4に記載された噴霧剤において、
表面張力が20〜50mN/mであることを特徴とする噴霧剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−284363(P2007−284363A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111368(P2006−111368)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】