説明

回折格子から成る表示体

【課題】回折格子パターンにより構成される装飾画像内に、それとは異なる機械読み取り用の特定情報を混在させる際、前記情報の存在が明確に把握されることがなく、かつ情報量を多くし、偽造・模造を一層困難にする。
【解決手段】計算機ホログラムから成るセルによって機械読み取り用の特定情報を構成し、装飾画像を構成する回折格子から成るセルと共に、パターン内に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に微細な回折格子(グレーティング)をセル(ドット)毎に配置することにより形成される回折格子パターンを用いた表示体に関する。
特に、回折格子パターンにより構成される装飾画像内に、それとは異なる特定情報が混在され、その情報の再生を必要とする製品に適用するのに好適な表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ホログラムや回折格子を用いて画像などを表示する表示体は公知である。これらの表示体は、貼付した商品(例えば、クレジットカードや商品券)のセキュリティ性を向上する効果があり、偽造・模造の防止に役立ってきた。
しかし、ホログラムや回折格子に対しても、さらなるセキュリティ性の向上が望まれている。
【0003】
このため、表示体の作製方法を複雑にして、偽造や模造を一層困難にする方法が考えられている。
一例として、コヒーレント光の二光束干渉を利用して、基板の表面に回折格子からなる複数の微小なセル(ドット)を配置し、回折格子パターンからなるディスプレイを得る方法があり、本出願人による特開昭60−156004号公報・特開平2−72319号公報・特開平5−72406号公報に例示される提案が公知である。
【0004】
これらの方法は、2本のレーザービームを感光材料上で交叉させ、セル単位で露光することにより、双方のレーザービームを干渉させて、各セルに形成される微小な干渉縞からなる回折格子を、その空間周波数・方向・光強度を適宜変化させながら次々と露光記録し、回折格子セルの集まりからなるパターンを作製する方法である。(以後、2光束干渉法と称する)
【0005】
作製されたパターンの観察時には、前記空間周波数は見える色に、前記方向は見える方向に、それぞれ関係する。また、露光の際の光強度は、干渉縞の深さなどを変更することになり、観察時の明るさと関係することになる。
【0006】
従来の表示体におけるセルを構成単位とする回折格子パターンの一例を図1に示す。表示像(絵柄)は、正方形のセルの集まりによって構成されている。
画素であるセルは、それぞれ絵柄を表示するのに適当な回折格子で埋められている。
【0007】
尚、本願明細書では、作製される「表示体」「回折格子パターン」「ディスプレイ」は同義語として扱われる。
また、その構成要素である「セル」および「ドット」も同義語として扱われるが、円形のニュアンスのある「ドット」ではなく、任意な形状を持つニュアンスのある「セル」に用いて、以後の説明を行なうこととする。
【0008】
回折格子パターンの作製方法は、上述の2光束干渉法に限定されるものではなく、電子線(エレクトロン・ビーム=EB)を用いて、基板の表面に回折格子を直接描画し、回折格子セルを配置する方法を採用しても良い。(以後、EB描画法と称する)
【0009】
EB描画法は、本出願人による特開平2−72320号公報などにより公知であり、EB描画法によれば、回折格子を構成する格子線は直線に限らず、曲線とすることもできるが、何れにしろ単純な格子線を並べて構成されることに変わりはない。
単純な格子線により構成される回折格子から成るセルでは、ビーム状の照明光が入射した場合に、ビーム状や発散光状などの比較的単純な性質を持つ1次回折光が生成される。
【0010】
2光束干渉法やEB描画法により作製される回折格子パターン(表示体)は、単純な回折格子から構成されるため、複雑な格子線により構成されるレインボーホログラムなどと比べて、輝度や彩度の高い画像表現が可能であり、アイキャッチ効果が高く、目視による真偽判定もより容易であるという特徴を持つ。
【0011】
しかし、このような表示体は、肉眼での観察結果のみが真偽判定の基準であるため、見た目の印象が似ているものに対して、真偽判定を誤る危険性があった。
また、目視のみが判定の基準となるため、目視で子細に観察することにより、似たような見え方をする贋造物を作ることも不可能ではない問題もある。
【0012】
一方、回折格子パターンを装飾画像の表示用としてではなく、機械読み取り用情報の記録に利用する提案もされている。(例えば、本出願人による特開平3−211096号公報)
従来の機械読み取り用の情報が記録された回折格子パターンでは、読み取りを行なう情報記録部は、読み取り専用の(コードなどの)特定情報のみが記録トラックの形態で記録されており、前記トラックには装飾画像を表示するためのパターンは記録されない。
【0013】
そのため、情報記録箇所が目視で明確に把握されてしまい、更に、単純な回折格子で記録情報を構成すると、記録できる情報量が少なく、記録情報そのものの偽造・模造への対策が不十分であるという問題がある。
また、このような情報記録のされた領域を、回折格子パターン(装飾画像)と並べて配置した場合、情報記録領域からの回折光が、装飾画像となる表示情報を読み取りづらくする問題があり、総合的な表示品質を落とす原因になっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、回折格子から成るセルを画素として、基板上に複数配置することにより、装飾画像が構成される表示体において、
装飾画像と合わせて、それとは異なる機械読み取り用の特定情報を記録する際に、特定情報の記録箇所が目視で明確に把握されることがなく、特定情報による情報量を多くすることにより、
特定情報の存在が把握されたとしても、その偽造・模造への対策が十分でありながら、装飾画像の表示品質を低下させることがなく、特定情報のみを読み取ることが容易であり、偽造・模造の困難な表示体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の目的を達成するためになされたものであり、
回折格子から成るセルを画素として、基板上に複数配置することにより、装飾画像が構成される表示体において、
装飾画像の表示領域内に、装飾画像とは別な特定情報を記録した計算機ホログラムから成るセルを、少なくとも1つ有することを主な特徴とする。
【0016】
計算機ホログラムとしては、情報をフーリエ変換して物体光成分としたフーリエ変換ホログラムが好適であり、例えば、情報を2次元パターンとし、物体光の断面上の光強度分布をこの2次元パターンに対応した物体光を採用すれば良い。
【0017】
装飾画像を構成する回折格子セルは、計算機ホログラムに比べて単純な格子線から構成される回折格子により、セルを規定する領域内が覆われている。
【0018】
<作用>
回折格子から成るセルを画素として基板上に複数配置することにより構成される表示体は、回折格子の空間周波数,角度,回折効率により、観察時の色,観察可能な方向,明るさを画素毎に任意に変化させることができ、通常の観察条件下において、肉眼で観察可能な画像や文字などを表示することが可能である。
このとき、主として回折格子からの1次回折光が観察に利用される。
【0019】
このような表示体上に、装飾画像とは別な特定情報を記録した計算機ホログラムを配置することにより、予め決められた再生条件下において、記録された特定情報を、肉眼で認識もしくは専用機械で読み取ることが可能となる。(請求項1)
【0020】
この場合にも、主として計算機ホログラムからの1次回折光が情報再生光となる。本発明の計算機ホログラムとしては、キノフォームなども含めた広い意味での計算機ホログラムが適用できる。
計算機ホログラムからの再生光(主として1次回折光)は、予め設定した距離に配置したスクリーンなどに、像を投影もしくは結像することができ、肉眼での情報認識もしくは専用機械での情報読み取りを容易に確実に行うことができる。
【0021】
さらに、計算機ホログラムからの再生光を前記スクリーン位置における2次元的な光強度などの分布とすることも容易であり、画像や文字情報,バーコードなどを含む多くの情報を一度に再生することができる。
【0022】
特に、計算機ホログラムをフーリエ変換型ホログラムとすることにより、情報の記録が容易であり、かつ情報再生も容易かつ確実に行うことが可能となる(請求項2)。
ただし、情報再生においては、波長の帯域幅の狭い光を用いて計算機ホログラムを照明し、スクリーンに再生像を投影するなど、若干の装置類が必要になる。
【0023】
このとき、同一の計算機ホログラムを表示体上に複数配置することにより、表示体上の複数位置から情報を再生することが可能となり、情報の認識・読み取りが容易になる(請求項3)。
特に、複数の計算機ホログラムを表示体上のある程度以上の面積の領域において均一に分布させるようにすると、その領域内のどの位置に情報再生用の照明光を入射しても安定した情報の再生が可能となる。
【0024】
情報再生用の照明光としてビーム状の光を用いた場合には、ビーム径内に少なくとも1つの計算機ホログラムが入るように計算機ホログラム配置の密度を設定するのが望ましい。
さらに、照明光のビーム径内に複数の計算機ホログラムが入るようにすると、再生像の明るさを上げることが可能となる。
【0025】
また、計算機ホログラムを複数種類用意し、それぞれ異なる情報を記録すれば記録情報量を増やすことができる(請求項4)。
この場合、異なる種類の計算機ホログラムは、表示体上の異なる領域に分けて配置すると、再生時の複数情報の重なりによる混乱を避けることができる。
【0026】
一方、異なる種類の計算機ホログラムからのの再生方向を異なるように設定しておけば、異なる種類の計算機ホログラムが同時に再生されても再生時の複数情報の重なりは起こらないため、同時に多くの情報の認識・読み取りを実現することが可能となる。
【0027】
また、同一の計算機ホログラムを配置する間隔を一定とすることにより、上記の均一な分布が容易に実現でき、再生情報の認識や読み取りが容易になる(請求項5)。
【0028】
更に、照明光のビーム径内に複数の計算機ホログラムが入る場合、同一の計算機ホログラムからの再生光が等間隔に射出されるので、再生情報の認識や読み取りの誤差が少なくなる。特にフーリエ変換型の計算機ホログラムの場合は、再生情報の光強度を最大にすることができる。
【0029】
一方、セルからの主要な1次回折光と、計算機ホログラムからの主要な1次回折光とが重ならないようにすると、それぞれから再生される像や情報がそれぞれ異なる再生条件下で観察・読み取りが可能となるため、お互いを邪魔せず、表示像、情報共に低ノイズな再生が実現でき、さらに記録情報の隠蔽にも効果的である(請求項6)。
これは、セルを構成する回折格子と、計算機ホログラムの搬送波に関して、両者が十分に異なる空間周波数または/及び十分に異なる角度を持つようにすれば容易に実現できる。「十分」な条件を満たすためには、計算機ホログラムの搬送波成分に対し、記録情報による回折光の広がり等を考慮する必要がある。
【0030】
また、計算機ホログラムに記録された情報を2次元的なパターンとすることにより、肉眼での観察等による真偽判定が容易となる(請求項7)。
パターンとしては、画像や文字、ロゴマークなど様々なものが記録できる。
一方、機械読み取りにおいては、2次元的な情報を読み取ることにより、一度に多くの情報を読み取ることが可能になる。更に、計算機ホログラムの記録においても、2次元的なパターンを物体光の断面上の光強度分布等として設定することにより、容易に計算機ホログラムのパターンを計算できる。
【0031】
特に、計算機ホログラムに記録された情報を機械読み取りデータとした場合、肉眼で観察しても記録情報を読み取られることがなく、また、機械により多くの情報読み取りが可能となり、情報の隠蔽及び真偽判定を容易にするなどの効果がある(請求項8)。
【0032】
セル内の回折格子の空間周波数及び方向により、上述のような効果を有したまま、表示体による像の画素の観察色、観察可能な方向を設定することにより、様々な色で表現された、視点位置により観察される像が変化する表示体が実現できる。観察可能な方向を多く複雑に設定することにより、計算機ホログラムを隠蔽する(計算機ホログラムからの回折光を気づかせないようにする)ことも可能である。
【0033】
表示体上で複数の回折格子セル及び計算機ホログラムを水平・垂直方向に並んだマトリクス状の格子点に配置することにより、コンピュータ上の画像データ等を利用することができ、上記のような効果を持った表示体を容易に設計することが可能となる(請求項9)。特に、格子点のn個おき、もしくは市松状の配置など、計算機ホログラムを等間隔に配置するのも容易になる。ただし、セル及び計算機ホログラムの大きさは一定とする必要はない。
【0034】
セルの大きさ及び計算機ホログラムの大きさをそれぞれ300μm以下とすることにより、通常の観察条件下において、セル構造を目立たなくさせて高品質な像の表示を可能とすると共に、計算機ホログラムを肉眼で気づかせにくくすることができる(請求項10)。
また、表示体が比較的小さく、観察距離も小さくなる場合、100μm以下の大きさのセルおよび計算機ホログラムを用いるのが望ましい。セル及び計算機ホログラムを市松状に配置する場合などには、それぞれが50μm以下となるようにすると、肉眼での観察において計算機ホログラムを隠蔽する効果、セルによる表示像の解像度共に十分である。
【0035】
また、以上において、計算機ホログラムの大きさがセルの大きさ以下となるようにすると、計算機ホログラムは肉眼では一層目立たなくなり、情報隠蔽効果が高くすることができる。計算機ホログラムとセルが同じ大きさの場合、表示体の記録時に適当な位置にあるセルを計算機ホログラムで置き換えればよく、簡便な作製が可能である。
【発明の効果】
【0036】
本発明の如く、回折格子から成るセルを画素として基板上に複数配置することにより成る表示体において、表示体の表示領域内に情報を記録した計算機ホログラムを少なくとも1つ有することによって、回折格子セルによって表現された像は高品質に保ちつつ、容易に再生可能な情報を記録できるようにしている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
図2は、本発明の表示体の一例を示す説明図である。
本発明の表示体では、図の左(上)に示しているような回折格子から成るセルを画素として画像を表示している。このような表示体に適当な白色光を入射し、観察者が適当な位置から観察するとき、本発明の表示体上の回折格子からの1次回折光が観察者の眼に入射し、1次回折光により任意の像を観察できる。
【0038】
このとき、セル毎に、主として回折格子の空間周波数によって観察される色が決められる。また、セル毎の回折格子の方向は、そのセルが光って見える方向(観察者の視点)を決定する。さらにセル毎の回折格子の回折効率やセルの大きさは、そのセルが光って見える際の明るさに関係する。
従って、表示体上にある全てのセルの回折格子の空間周波数と方向と回折効率などを適切に設定することにより、表示される像がデザインできる。
【0039】
このような表示像を観察するように設計された空間的範囲(1次回折光が分布する範囲)が、本発明の表示体に対する視域である。
一方、本発明の表示体においては、計算機ホログラムも単純な回折格子セルと一緒に配置されている。この計算機ホログラムは情報を記録したものであるが、表示体上の表示像を観察している際には、計算機ホログラムからの1次回折光が観察者の邪魔にならないようにすることで、表示像の品質が保てる。
【0040】
このためには、上述の表示像の視域と、計算機ホログラムからの1次回折光が重ならないようにすれば良い。例えば、回折格子セルを構成する回折格子の空間周波数や方向と、計算機ホログラムの搬送波成分のそれらとが十分に差があれば、この条件は満たされる。なお、本発明の計算機ホログラムとしては、キノフォームなども含めた広い意味での計算機ホログラムが適用できる。
【0041】
また、回折格子セルや計算機ホログラムが十分に小さければ(望ましくは観察者の眼の解像度以下の大きさ)、周囲の回折格子セルのみが観察され、計算機ホログラムを気付かせないようにすることもでき、見た目の表示像の解像度も十分にできる。これを実現するためには、多くの場合、セルの大きさ及び計算機ホログラムの大きさを300μm以下とすれば良い。
【0042】
また、表示体が比較的小さく、観察距離も小さくなる場合(例えば、300mm前後)、100μm以下の大きさのセルおよび計算機ホログラムを用いるのが望ましい。
セルおよび計算機ホログラムを市松状に配置する場合などには、それぞれのサイズが50μm以下となるようにすると、肉眼での観察において計算機ホログラムを隠蔽する効果、セルによる表示像の解像度共に十分である。
【0043】
図3は、通常の観察条件下における本発明の表示体の観察の一例を示す説明図である。
図3では、本発明の表示体がxy平面に平行に配置され、yz面内にある光源からの照明光で照明されている様子を示している。
【0044】
表示体上の個々の回折格子セルはそれぞれ1次回折光を射出し、観察者はz軸近辺に分布する1次回折光を瞳に入射させて、表示像を観察している。
ここでの本発明の表示体は、個々のセルを構成する回折格子の格子ベクトルがx方向に近くないように設計したものである。
【0045】
一方、計算機ホログラムの搬送波成分の格子ベクトルはx方向となるようにしている。このため、図3のような表示体の観察において、計算機ホログラムからの1次回折光は、0次回折光に対してx方向に存在しているので、通常の観察では認識されない。
従って、計算機ホログラムの存在に依存しない望ましい像の表示が可能となる。
【0046】
図4は、図3と同じ本発明の表示体上の計算機ホログラムからの情報再生の一例を示す説明図である。図では、xz面内に置いたレーザーダイオードなどのような波長帯域の狭い光源からの光を平行光状にして本発明の表示体に入射し、表示体上の計算機ホログラムからの1次回折光をスクリーンで受けることにより情報を再生している。
【0047】
このスクリーン上のパターンを肉眼で観察、もしくはスクリーンを置かずにCCDなどで直接受光することにより記録情報を容易に読み取ることが可能である。例えば、予め再生時のスクリーン位置に2次元パターン(記録情報)の物体を配置して物体光として計算機ホログラムを生成しておけば、再生時のスクリーン上には2次元パターンが結像し、コントラストの高い、正確な情報再生が可能となる。
【0048】
また、このときには、スクリーンの位置などを知らないと、情報の再生が行えないため、情報隠蔽や偽造防止に一層の効果がある。なお、図4のような再生方法に対応する計算機ホログラムは、再生情報の品質(明るさやコントラスト、解像度など)の面で、複数個の計算機ホログラムが全体として1つの再生情報を形成するようにし、これらを平行光状の光で一度に再生するのが望ましい。
【0049】
このとき、図4において、像表示のための回折格子セルからの1次回折光は、0次回折光に対してy方向に存在しているので、再生情報の読み取り方向(スクリーン方向)には伝播しない。
以上により、計算機ホログラムは表示像の観察時のノイズなどの原因にはならず、高品質な像表示が可能であり、さらに計算機ホログラムからの情報読み取り時には、他の回折格子セルは情報読み取り時のノイズなどの原因にはならず、高精度な情報読み取りなどが実現できる。
【0050】
また、記録情報を2次元の光強度パターンとし、これをフーリエ変換したものを物体光として得られたフーリエ変換型の計算機ホログラムを本発明の表示体における計算機ホログラムとして用いることにより、容易な情報記録・再生が可能となる。
【0051】
図5は、本発明の表示体上の計算機ホログラム(フーリエ変換ホログラム)からの情報再生の一例を示す説明図である。図では、xz面内にあるレーザーダイオードなどのような波長帯域の狭い光源からのビーム状の光を本発明の表示体に入射し、表示体上の計算機ホログラムからの1次回折光をレンズにより光学的にフーリエ変換してスクリーンに投影して情報を再生している。
【0052】
図4と同様に、このスクリーン上のパターンを肉眼で観察、もしくはスクリーンを置かずにCCDなどで直接受光することにより、情報の読み取りが可能である。このとき、本発明の表示体とレンズ間の距離、及びレンズとスクリーン間の距離を、レンズの焦点距離と等しく配置することにより、再生時に光学的な「フーリエ変換」が実現できる。
【0053】
一方、レンズがない場合でも、ある程度以上離れた位置に置いたスクリーンにはフーリエ変換像と等価であるフラウンホーファ回折像が投影されるので、同様の情報読み取りが簡便に実現できる。
図6は、図5と同様の場合にレンズ無しで、本発明の表示体上の計算機ホログラム(フーリエ変換ホログラム)からの情報再生の一例を示す説明図である。
【0054】
図6のようなフラウンホーファ回折像としての像の観察・読み取りは、本発明の表示体とスクリーンとの距離によって投影サイズが変わるという特徴があり、投影サイズを読み取りなどに適したサイズに変更することが容易である。
【0055】
図7には、以上で述べてきた回折格子に光源からの照明光を入射した場合の0次回折光と1次回折光の射出方向を示す断面図(回折格子面に垂直な断面)を示す。
【0056】
なお、計算機ホログラムの搬送波に関しても、搬送波と回折格子を同様に扱えば、同様の取り扱いが可能である。ここで、任意の波長λに関して、回折格子による基本的な回折現象は、以下の式で表される。
d=mλ/( sinβ0 − sinβm ) (5)
ただし、dは着目した方向における格子間隔(空間周波数の逆数)、mは回折次数、β0は当該方向における0次回折光(透過光や正反射光)の射出角度、βmは当該方向におけるm次回折光の射出角度である。通常は、1次回折光(すなわち、m=1)が表示像や情報を再生するために使われる。0次回折光の射出角度は、照明光の入射角度と同じ、もしくは符号が反転するだけである。
【0057】
なお、図3において、照明光の入射角度をαとして示しているが、1次回折光の射出角度は表示体の法線方向であるため(β1=0)、図示していない。
また、以上の図では、主に反射型の回折格子および計算機ホログラムの場合について説明してきたが、透過型の場合も全く同様の取り扱いが可能である。
【0058】
図8は、本発明の表示体において、計算機ホログラムを等間隔に配置した場合の一例を示している。
表示体上の一部を図の左側に拡大して表示しているが、このように横方向に1セル置きに配置しても良く、また図とは異なるが縦横共に等間隔に並べても良い。さらには、市松状に配置しても良く、一方、ランダムに配置しても良い。
【0059】
これらの場合に、計算機ホログラムは全て同一のものでも、個々に異なるものでもよい。また、複数種類の計算機ホログラムをそれぞれ複数配置しても良い。
例えば、図9は、本発明の表示体において、計算機ホログラムを等間隔に配置した場合の別の例を示している。
表示体上の一部を図の左側に拡大して表示しているが、このように回折格子セルと計算機ホログラムをペアにして並べると、回折格子セルを画素として表現された表示像の最大輝度を均一にすることができ、また計算機ホログラムも均一かつ等間隔に多くの数を配置することができる。
【0060】
同一の計算機ホログラムを等間隔で配置し、情報再生時の照明光のビーム径が配置間隔よりも十分大きければ、複数の計算機ホログラムからの1次回折光が、同時に再生される。
同時に照明された計算機ホログラムが同一のものならば、それぞれの1次回折光が強め合い、情報再生光の光強度を非常に大きくすることができ、高精度な情報読み取りが容易になる。特に計算機ホログラムをフーリエ変換ホログラムとした場合には、N個の計算機ホログラムがビーム径内にあるとき、典型的には1個の計算機ホログラムからの1次回折光のN倍の光強度が得られる。
【0061】
また、計算機ホログラムの配置がランダムであり、情報再生時の照明光のビーム径が計算機ホログラムの平均的な配置間隔よりも十分大きい場合にも、情報再生光である1次回折光の増加の効果がある。計算機ホログラムをフーリエ変換ホログラムとした場合には、N個の計算機ホログラムがビーム径内にあるとき、典型的には1個の計算機ホログラムからの1次回折光のN倍の光強度が得られる。
【0062】
さらに、同一のフーリエ変換型の計算機ホログラムを複数同時に再生した場合、再生像には細かい輝度変調パターンが乗ることになる。
例えば、計算機ホログラムの配置間隔を等間隔にした場合には輝度変調パターンの周期も等間隔であり、配置間隔をランダムにした場合には輝度変調パターンはスペックルと同等のものになる。従って、これらの輝度変調パターンを検出することにより、更に精度の高い真偽判定を行うことができる。
【0063】
同時に照明された計算機ホログラムが複数種類であり、それぞれに記録された情報が異なる場合には、複数の情報が同時に再生されることになる。このとき、それぞれの再生情報が空間的に重なってしまうとそれぞれの情報が正しく判別できないので、それぞれの情報の記録時に計算機ホログラムの搬送波を少しずつ変えておくなどして再生情報が空間的に分離するようにしておく必要がある。このようにすることで、1つの計算機ホログラムに記録可能な情報量以上の多くの情報を同時に読み取ることが可能となる。
【0064】
なお、本発明の表示体を構成する回折格子セルおよび計算機ホログラムは、表面レリーフに代表される位相型、濃度表現による振幅型など、どのような種類の回折素子形態でも適用される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】従来の回折格子セルから成る表示体の一例を示す説明図。
【図2】本発明の回折格子セルから成る表示体の一例を示す説明図。
【図3】通常の観察条件下における本発明の表示体の観察の一例を示す説明図。
【図4】本発明の表示体上の計算機ホログラム(フレネルホログラム)からの情報再生の一例を示す説明図。
【図5】本発明の表示体上の計算機ホログラム(フーリエ変換ホログラム)からの情報再生の一例を示す説明図。
【図6】本発明の表示体上の計算機ホログラム(フーリエ変換ホログラム)からの別の情報再生の一例を示す説明図。
【図7】回折格子に光源からの照明光を入射した場合の0次回折光と1次回折光の射出方向を示す断面図(格子ベクトルに平行な方向における断面)。
【図8】本発明の表示体における計算機ホログラムを等間隔に配置した場合の一例を示す説明図。
【図9】本発明の表示体における計算機ホログラムを等間隔に配置した場合の別の例を示す説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子から成るセルを画素として、基板上に複数配置することにより、装飾画像が構成される表示体において、
装飾画像の表示領域内に、装飾画像とは別な特定情報を記録した計算機ホログラムから成るセルを、少なくとも1つ有することを特徴とする回折格子から成る表示体。
【請求項2】
計算機ホログラムが、特定情報をフーリエ変換して物体光成分としたフーリエ変換ホログラムであることを特徴とする請求項1記載の回折格子から成る表示体。
【請求項3】
装飾画像の表示領域内に、同一の計算機ホログラムから成るセルが、複数配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の回折格子から成る表示体。
【請求項4】
装飾画像の表示領域内に、複数種類の計算機ホログラムから成るセルが、それぞれ複数配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の回折格子から成る表示体。
【請求項5】
同一の計算機ホログラムから成るセルを配置する間隔が、等間隔であることを特徴とする請求項3記載の回折格子から成る表示体。
【請求項6】
回折格子から成るセルからの主要な1次回折光と、計算機ホログラムから成るセルからの主要な1次回折光とが重ならないことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の回折格子から成る表示体。
【請求項7】
計算機ホログラムから成るセルに記録される情報が、2次元的なパターンであることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の回折格子から成る表示体。
【請求項8】
計算機ホログラムから成るセルに記録される情報が、機械的に読み取ることが可能なデータであることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の回折格子から成る表示体。
【請求項9】
表示体上で、回折格子から成るセルおよび計算機ホログラムから成るセルが、水平・垂直方向に並んだマトリクス状の格子点に配置されて成ることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の回折格子から成る表示体。
【請求項10】
回折格子から成るセルの大きさおよび計算機ホログラムから成るセルの大きさが、300μm以下であることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の回折格子から成る表示体。
【請求項11】
計算機ホログラムから成るセルが、回折格子から成るセル以下の大きさであることを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の回折格子から成る表示体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−206718(P2007−206718A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96346(P2007−96346)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【分割の表示】特願2000−279441(P2000−279441)の分割
【原出願日】平成12年9月14日(2000.9.14)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】