説明

回折格子設計プログラム

【課題】本発明の目的は、最適な回折格子の設計を、自動かつ迅速に行うことのできる回折格子設計プログラムを提供することにある。
【解決手段】コンピュータ12をパラメータ設定手段22、シミュレーション手段24、評価手段25、パラメータ変更手段26として機能させるための回折格子設計プログラム20であって、該シミュレーション手段24は、バーチャルに回折格子を作ってその回折及び結像をシミュレーションし、該評価手段25は、該シミュレーション手段24で得られた回折像の結像状態を評価し、該パラメータ変更手段26は、最適化したいパラメータを順次変更し、該パラメータ変更手段26からのパラメータでのシミュレーション、該評価及び該パラメータの変更を自動に繰り返し、該評価手段25での評価点が最も高くなるパラメータ最適値を自動に探索することを特徴とする回折格子設計プログラム20。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回折格子設計プログラム、特にホログラフィック回折格子の設計手法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば分光器の波長分散素子として、回折光学素子が用いられている。回折光学素子としては、例えばホログラフィにより製作された回折格子が用いられている。
【0003】
ホログラフィック回折格子は、以下のようにして作られる。すなわち、回折格子を構成する基材の表面に感光性樹脂を塗布する。この素子に二つの点光源からコヒーレントな光を照射し、干渉縞を樹脂に焼き付け、現像によって感光していない部分を取り除いて格子を形成し、その上にアルミ等の反射膜を蒸着して形成する。
図7はその露光を表す模式図であり、点光源S,Sからの球面波が素子G表面で干渉して干渉縞が生じ、感光性樹脂に焼き付けられる。この配置以外に、図8のように点光源S,Sからの光を一旦、球面鏡M,Mで反射させて素子Gに照射する非球面露光と呼ばれる方法も知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭62−30201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回折格子を設計するということは、作ろうとする分光器の特性、すなわち光学配置(回折格子と入出射スリットの位置関係)、波長分散能などを決め、これに適切に機能する回折格子となるように、その曲率半径、露光用の点光源の位置などの露光パラメータを決めることである。逆に、ある基準に基づいて作成した回折格子を組み込んだ分光器の素子の配置(回折格子に対する入出射スリットの相対的な位置)の最適値を求める場合もあり得る。
【0005】
露光において、素子表面にどのような干渉縞が生じるかは、素子表面各点で、二つの光源から素子表面各点に到達する光の間の位相差が、波長の整数倍であれば明、半整数倍であれば暗と、極めて単純な物理現象による。また、回折格子を組み込んだ分光器において、入射光源(入射スリット)からの光が、回折格子でどのように分光され、出射スリット面上に集まり、出射スリットから取り出されるかも、周知の物理法則に基づくものである。
【0006】
しかしながら、回折格子の形状と曲率半径、露光パラメータ、分光器の配置と結像状態を結びつける関数関係は、極めて単純な系(回折格子が平面で、そこに刻まれる格子が直線平行で等間隔、そして入射スリットと出射スリットの位置が無限遠、すなわち入射光と回折光とが平行光)を除いて極めて複雑であり、そこから数学的な解として最適値を定めることは到底不可能である。
【0007】
従来は、試行錯誤で回折格子を設計していた。すなわち、露光により回折格子を試作し、その回折格子を分光器に組み込み、回折、結像の様子を評価していた。そして、露光パメータ等を経験則に基づいて試行錯誤で変えて、回折格子を設計していた。
【0008】
しかしながら、回折格子、それを用いる分光器の設計は、深い経験と莫大な時間がかかり、かつそれが最適である根拠もないのが現状である。この問題は、従来方式、つまり試行錯誤で回折格子を設計する手法では、より深刻となる。
このため、ホログラフィック回折格子の設計において、迅速化、最適化の点に関しては、より一層の改善が求められていたが、従来は、これを解決することのできる適切な技術が存在しなかった。
本発明は前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、最適な回折格子の設計を、自動かつ迅速に行うことのできる回折格子設計プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者がホログラフィック回折格子の設計について検討を進めた結果、シミュレーションによる設計に着目した。
ここで、コンピュータ上において、露光による回折格子の試作をシミュレーションし、その回折格子を適当な光線追跡プログラムに持ち込み、そこで回折・結像の様子をシミュレーションし、その結果を評価し(結像が良いとか悪いとか)、それを経験則に基づいて露光パメータにフィードバックし、試行錯誤を繰り返して回折格子を設計していたのでは、回折格子、それを用いる分光器の設計には、深い経験と莫大な時間が必要となり、かつそれが最適である根拠もない。
これに対し、本発明者は、最適な回折格子の設計を迅速に行うためには、パラメータの最適化を以下のようにして自動に行うことが極めて有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、前記目的を達成するために本発明にかかる回折格子設計プログラムは、コンピュータを、パラメータ設定手段、シミュレーション手段、評価手段、パラメータ変更手段として機能させるための回折格子設計プログラムであって、
前記パラメータ設定手段は、分光器の中での回折格子の光学配置を規定するアライメントパラメータ、該回折格子をホログラフィク露光法により作る際の露光条件を規定する露光パラメータ、該回折格子素子の形状を規定する形状パラメータの初期値を設定し、
前記シミュレーション手段は、前記形状パラメータにより規定される形状の回折格子素子及び露光パラメータにより規定される露光条件でバーチャルに回折格子を作り、該回折格子を、前記アライメントパラメータにより規定される光学配置で分光器の中にバーチャルに組み込み、該回折格子の回折及び結像をシミュレーションし、
前記評価手段は、前記シミュレーション手段で得られた回折像の結像状態を、該回折像が小となるに従って高い評価点で評価をし、
前記パラメータ変更手段は、前記アライメントパラメータ、前記露光パラメータ及び前記形状パラメータのうち、最適化したいパラメータを初期値から順次変更し、
前記パラメータ変更手段からのパラメータでの前記シミュレーション、該シミュレーション結果の前記評価手段による評価、該パラメータ変更手段によるパラメータ変更を自動に繰り返し、該評価手段による評価点が最も高くなるパラメータ最適値を自動に探索することを特徴とする。
【0011】
なお、本発明においては、前記パラメータ変更手段が、前記評価点が高くなる方向に、前記最適化したいパラメータを自動に変更することが好適である。
【0012】
本発明においては、前記パラメータ変更手段が、最適化したいN個のパラメータをそれぞれ1つの座標軸とするN次元空間内に、(N+1)個の頂点をもつシンプレックスを設定し、前記シンプレックスの各頂点に対応するパラメータ値で前記シミュレーションし、(N+1)個の頂点のうち、評価点が最悪となった頂点をその鏡像点で置き換え、前記シンプレックスを移行させることで、前記評価点が高くなる方向にパラメータ値を自動に変更することが特に好適である。
【0013】
本発明の分光器としては、入射スリットと、回折格子と、出射スリットと、を含むものが一例として挙げられる。本発明のアライメントパラメータとしては、例えば回折格子中心から入射スリットまでの距離、回折格子中心から出射スリットまでの距離、入射スリット−回折格子の中心−出射スリット間の角度等が一例として挙げられる。
本発明の露光パラメータとしては、例えば露光用光源Sの位置(回折格子素子中心からの距離と傾き角)、露光用光源Sの位置(回折格子素子中心からの距離と傾き角)、露光用光源Sのための露光用反射鏡Mの曲率半径、位置(回折格子素子中心までの距離と傾き角)、露光用光源Sのための露光用反射鏡Mの曲率半径、位置(回折格子素子中心までの距離と傾き角)等が一例として挙げられる。
本発明の形状パラメータとしては、例えば回折格子素子の曲率半径等が一例として挙げられる。
【0014】
ここにいう回折格子素子とは、基材に感光性樹脂を設けたものをいう。
ここにいうバーチャルに回折格子を作るとは、例えば回折格子素子の表面に感光性樹脂を設け、そこに二点からコヒーレントな光を照射して干渉縞を発生させて露光し、それを現像し、さらにその上に反射材を設けて回折格子を形成することを、コンピュータ上で行うことをいう。
【0015】
ここにいう回折格子の回折及び結像をシミュレーションとは、分光器の入射スリットからの光を回折格子に入射して出射スリット面上で得られる回折像の結像状態を、コンピュータ上でシミュレーションすることをいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる回折格子設計プログラムによれば、コンピュータを前記パラメータ設定手段、前記シミュレーション手段、前記評価手段、前記パラメータ変更手段として機能させることとしたので、最適な回折格子の設計を、自動かつ迅速に行うことができる。
本発明においては、前記パラメータ変更手段が、前記シミュレーションによる回折像が小となる方向に、最適化したいパラメータを自動に変更することにより、最適値を迅速に探索することができるので、前記最適な回折格子の設計を、より迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づき本発明の好適な一実施形態について説明する。
図1には本発明の一実施形態にかかる回折格子設計装置の概略構成が示されている。
同図に示す回折格子設計装置10は、コンピュータよりなり、コンピュータ本体(コンピュータ)12と、入力デバイス14と、ディスプレイ16と、を含む。
【0018】
コンピュータ本体12は、プログラム記憶手段18を備える。プログラム記憶手段18
に回折格子設計プログラム20を記憶している。回折格子設計プログラム20は、コンピュータ本体12をパラメータ設定手段22、シミュレーション手段24、評価手段25、パラメータ変更手段26、比較手段27として機能させるためのとする。
【0019】
パラメータ設定手段22は、アライメントパラメータ設定部28と、露光パラメータ設定部30と、形状パラメータ設定部32と、を含む。
アライメントパラメータ設定部28は、アライメントパラメータの初期値を設定する。アライメントパラメータは、分光器の中での、入射スリット及び出射スリットに対する回折格子の光学配置を規定する。
露光パラメータ設定部30は、露光パラメータの初期値を設定する。露光パラメータは、回折格子素子から、回折格子をホログラフィク露光法により作る際の露光条件を規定する。
形状パラメータ設定部32は、形状パラメータの初期値を設定する。形状パラメータは、回折格子素子の形状、曲率半径等を規定する。
【0020】
シミュレーション手段24は、形状パラメータにより規定される回折格子素子、露光パラメータにより規定される露光条件で、回折格子をバーチャルに作る。バーチャルに作られた回折格子を、アライメントパラメータにより規定される光学配置で、分光器の中にバーチャルに組み込む。バーチャルに組み込まれた回折格子の回折像の出射スリットでの結像状態をシミュレーションする。
評価手段25は、シミュレーション手段24で得られた回折像の結像状態を、出射スリットでの回折像が小となるに従って高い評価点で評価する。
【0021】
パラメータ変更手段26は、アライメントパラメータ、露光パラメータ及び形状パラメータのうち、最適化したいパラメータを順次変更する。
本実施形態においては、パラメータ変更手段26が、評価点が高くなる方向、つまりシミュレーションによる出射スリット上での回折像のスポット形状が小となる方向に、最適化したいパラメータを自動に変更する。これを、シミュレーション手段24に出力する。
【0022】
シミュレーション手段24は、パラメータ変更手段26から送られてくるパラメータ値で、前記シミュレーションを行う。
シミュレーションされたパラメータは、評価手段25によって評価点が比較される。評価手段25は、評価点が高くなる方向にパラメータの変更を行うように、パラメータ変更方向をパラメータ変更手段26に指示する。
【0023】
本実施形態においては、パラメータ変更手段26からのパラメータでのシミュレーション手段24によるシミュレーション、評価手段25による回折像の結像状態の評価、及びパラメータ変更手段26によるパラメータの変更を自動に繰り返し、シミュレーションによる出射スリットでの回折像のスポット形状が最小となるパラメータ最適値を探索する。
比較手段27は、評価点を比較し、評価点が最高となるパラメータ最適値、つまり出射スリットでの回折像のスポットサイズが最小となるパラメータ最適値を出力する。
【0024】
入力デバイス14は、例えばキーボード、マウス等よりなり、パラメータの初期値等を入力する。
ディスプレイ16は、例えばパラメータの設定値、シミュレーションの結果、パラメータの最適値等を表示する。
【0025】
本実施形態にかかる回折格子設計装置10は概略以上のように構成され、以下にその作用について説明する。
本実施形態にかかる回折格子設計装置10によれば、回折格子設計プログラム20により、コンピュータ本体12を、パラメータ設定手段22、シミュレーション手段24、評価手段25、パラメータ変更手段26、比較手段27として機能させることができる。
【0026】
すなわち、本実施形態では、回折格子をバーチャルに作って、該回折格子での光の回折、結像をシミュレーションし、出射スリット面上にどのような回折像が得られるかを、ディスプレイ16の画面上に表示することができる。
特に本実施形態では、出射スリットでの回折像が小となる方向にパラメータを自動に変えることができるので、パラメータの最適化を自動に行うことができる。これにより、本実施形態は、従来方式、つまり試行錯誤でパラメータを求めていたものに比較し、最適な回折格子の設計を、自動かつ迅速に行うことができる。
【0027】
以下、前記作用について、図2を参照しつつ、具体的に説明する。
すなわち、同図(A)に示されるような露光シミュレーションでは、曲面形状(例えば球面、楕円体面、トロイダル面等)を有する回折格子素子(母材)G´の表面に、二つの点光源S,Sからコヒーレントな光38を球面球M,Mを経由して照射し、面上で干渉させてホログラフィック回折格子G´´を形成することができる。
同図(B)に示されるような光線追跡シミュレーションでは、露光シミュレーションで作られた回折格子G´´に入射光源(又はスリット)40から単色光42を入射させたときの回折、結像の様子をシミュレートすることができる。
【0028】
そして、同図(C)に示されるような出射スリット面44上での回折像46のスポット形状[10x(水平方向の幅)+垂直方向の幅]]を最小にするように、アライメントパラメータ(回折格子G´´の中心から入射スリット40までの距離と出射スリット44までの距離)、露光パラメータ(露光用光源Sと露光用光源Sの位置)、形状パラメータ(回折格子素子G´の曲率半径)を自動で最適化することができる。
ここで、本実施形態は、パラメータ変更手段が、シンプレックス法を用いて、最適化したいパラメータを、出射スリット面44上での回折像46のスポット形状を小にする方向にパラメータを自動に変更することにより、最適値の探索を自動に行うことができる。このため、本実施形態は、試行錯誤でパラメータを変更するものに比較し、最適値の探索を迅速に行うことができる。
【0029】
以下、前記パラメータ変更手段の作用について、具体的に説明する。
本実施形態の設計においては、最適化しようとするN個のパラメータに対して、各パラメータをそれぞれ1つの座標軸とするN次元空間を考え、そこに適当な辺長をもつN+1個の頂点を有するシンプレックスを設定している。
次に各頂点の座標値をパラメータ値としてN+1通りの試験を行い、各点での評価点を求めている。
こうして求めた各評価点を順に並べ、最悪評価点を与える頂点を他のN個の頂点で張る面に対して反対側に移し、そこで試験をし、評価点を求める。先の最悪の点を捨て、それを反対側に移して得た点を加えたN+1個の点について、あらためて最悪値を求めてその点を反対側に移す、という操作を繰り返す。
この操作で、最終的にこのシンプレックスは最良の点を含む位置に移動する。
この結果、本実施形態は、パラメータ最適値の探索を、試行錯誤で行うものに比較し、迅速に行うことができる。
【0030】
前記作用について、図3を参照しつつ、より具体的に説明する。
同図では、アライメントパラメータとして、回折格子中心からの、入射スリットの距離xと出射スリットの距離xを最適化する場合について説明する。
同図(A)に示される初期値の設定では、最適化しようとする2個のパラメータ(x,x)をそれぞれ1つの座標軸とする2次元空間を考え、そこに適当な辺長をもつ3個の頂点P,P,Pを有するシンプレックスを設定する。
次に各頂点P,P,Pの座標値をパラメータ値として3通りのシミュレーションを行い、各頂点P,P,Pでの評価点を求める。
こうして求めた各評価点のうち、同図(B)に示されるように最悪の評価点を与える頂点Pを他の2個の頂点P,Pで張る線に対して反対側の頂点P(鏡像点)に移し(パラメータ変更)、頂点Pに対応するパラメータ値でシミュレーションをし、評価点を求める。
先の最悪の頂点Pを捨て、それを反対側(鏡像点)に移して得た頂点Pを加えた3個の頂点P,P,Pについて、あらためて最悪値を求めて、その頂点Pを反対側(鏡像点)の頂点Pに移す(パラメータ変更)、という操作を繰り返す。この操作で、最終的にこのシンプレックスは最良の頂点を含む位置に移動する。
このため、最終的なシンプレックスの頂点の中から、評価点が最良な頂点を求めれば、頂点から、対応するパラメータ最適値を求めることができる。
【0031】
本実施形態においては、パラメータの最適化を階層的に行っている。以下にその方法について、説明する。
第一の階層として、分光器の光学配置(アライメントパラメータ)の最適化を考える。 形状パラメータの初期値で規定される形状の回折格子素子に、露光パラメータの初期値で規定される露光条件で露光して形成された回折格子を想定する。この回折格子を用いたときの最適の光学配置(アライメントパラメータ)を次の手順で最適化する。
最適化するアライメントパラメータとして、回折格子中心から入射スリットまでの距離、回折格子から出射スリットまでの距離、そして入射スリット−回折格子の中心−出射スリットの間の角度を取り上げる。
これらの3つのアライメントパラメータを座標軸とし、適当な値を当てはめた4つの点からなるシンプレックスを構成する。そのシンプレックスの各頂点座標の値をもつ光学配置に対して、光線追跡を行い、出射スリット面上にできる入射スリットの像を計算する。その像を適当な評価関数に当てはめ、評価点を算出する。この評価点が最善となるように、シンプレックス法の手順に従って最適化を進め、最善の点とその評価点を求める。この最善の点は、想定した回折格子に対する最善の光学配置となる。
なお、光学配置を決める3つのアライメントパラメータについて、例えば角度を一定に固定するとか、入射スリットと出射スリットの間の距離を一定に固定するなど、適当な制約を課すことも可能である。
【0032】
第二の階層として、露光パラメータを取り上げる。
露光パラメータは、球面露光の場合は露光用光源Sの位置座標(回折格子の中心からの距離と傾き角)と露光用光源Sの位置座標(回折格子の中心からの距離と傾き角)の4個となる。
非球面露光を検討するときには、露光用光源Sのための露光用反射鏡(球面鏡を用いる)Mの曲率半径、それを置く位置(回折格子素子から鏡までの距離)と鏡を傾ける角度の3個、あるいは露光用光源Sのための露光用反射鏡Mの3個、あるいは両方の6個が加わり、それぞれ7個、7個、10個となる(したがって、4個、7個、7個、10個の4通りがある)。
これら4通りの各場合について、それぞれ4次元、7次元、7次元、10次元の座標系を考え、ここに5個、8個、8個、11個の頂点と適当な辺の長さをもつシンプレックスを考える。
シンプレックスのそれぞれの頂点座標に対応するパラメータ(露光パラメータ)に従って露光シミュレーションを行い、回折格子を作成する。作成した回折格子の評価点は、第1の階層の最適化を行い、その最適な分光器の光学配置(アライメントパラメータ)の評価点とする。この評価点が最善になるようシンプレックス法による露光パラメータの最適化を進め、最善の点とその評価点を求める。この最善の点は、想定した形状の素子に対する最善の露光パラメータとなる。同時に最善の光学配置(アライメントパラメータ)も求まることになる。
なお、第二の階層の最適化において、分光器の光学配置(アライメントパラメータ)は固定のものとしてその最適化は行わず、1回の光線追跡の結果をもって評価点とすることもありえる。
【0033】
第三の階層として、回折格子素子の形状(形状パラメータ)を取り上げる。
球面回折格子を考えるときには、その曲率半径(1個)、トロイダル素子を考える時にはそれを規定する2つの曲率半径、楕円体素子の場合、一般的には3個であるが、実際上、回転楕円体なるので、2個が最適化するパラメータとなる。
この階層の場合も同様に、それぞれ1次元、2次元、2次元の座標系を考え、それぞれ2個、3個、3個の頂点と適当な辺の長さをもつシンプレックスを構成する。各頂点の座標に相当する形状の素子に対して、第二階層での露光パラメータの最適化を行い、その評価点を形状パラメータの評価点とし、それが最善となるようシンプレックス法による形状パラメータの最適化を進め、最善の点とその評価点を求める。
この最善の点が、最善の回折格子素子の形状となり、同時に最善の露光パラメータと光学配置(アライメントパラメータ)とも求まることになる。
【0034】
このように本実施形態によれば、パラメータ変更手段がシンプレックス法を用いて最適化したいパラメータの変更方向を決め、この方向にパラメータを変更しながら、最適値を探索することにより、前記最適な回折格子の設計を、より迅速に行うことができる。
【0035】
なお、評価点を求めるための評価関数としては、スリット像(出射スリット上での回折像)の波長方向の幅、波長方向の標準偏差値、波長に垂直方向の像の広がり、波長に垂直方向の像の広がりに相当する標準偏差、これらに適当な重みをつけた平均など、場合によって使い分けるのが適当である。
【0036】
また、第一階層の光学配置の最適化を、選択したある1つの波長について行うほか、適当に選択した複数の波長について行い、各波長の場合の像から評価関数に従って算出する評価点の和や重みを考慮した平均値を全体の評価点とすることもできる。ある波長の光に対して最善の回折格子と配置が、別の波長の光に対して必ずしも最善ではないので、むしろ複数の波長の光で最適化を行う方が実際的である。
【0037】
本実施形態の最適化手法によって達成した最適化の例を、以下に示す。図4は、最適化を実行する前の850nmの光の回折の様子と像を示す。図5は、最適化を実行した後の850nmの光の回折の様子と像を示す。各パラメータの最適化の前後を、表1に示す。
【0038】
(表1)

パラメータ 最適化前 最適化後

球面回折格子の曲率半径(nm) 139 142.356


露光波長(nm) 441.67 441.67

光源1の距離(mm) 148 139.973
角度(°) −8 −45.262

光源2の距離(mm) 154 145.017
角度(°) 40 4.857


入射スリット−回折格子の距離(mm) 150 150

出射スリット−回折格子の距離(mm) 130 130

開き角(°) 30 30


スリット像の波長方向の幅(nm) 1.12

偏差標準(nm) 0.18

【0039】
表1の最適化前に示すような条件で回折格子を作成し、それを固定の配置において回折の様子を光線追跡すると、図4のように出射スリット44での回折像46は全く集光しない状態で、分光器をなしていない。
これに対し、曲率半径と露光パラメータとの最適化を本実施形態の最適化方法で行うと、表1の最適化後となり、そのときの回折の様子の光線追跡は図5のようになる。その結果、スリットの像(出射スリット44での回折像46)は極めてよく集光し、そのピーク幅は波長方向で1.12nm、標準偏差で0.18nmとなる。
なお、両方の図中の左上の図形は、出射スリット面上に各光線が集光するスポットを図示したものである。
【0040】
このように本実施形態にかかる回折格子設計装置によれば、本実施形態の最適化を行うことにより、本実施形態の最適化の考慮がないものに比較し、回折格子の設計を、より最適かつ迅速に行うことができる。
【0041】
設計の更なる迅速化
ところで、本実施形態においては、回折格子設計の更なる迅速化のために、下記のディスプレイ表示を行うことも非常に好ましい。
<ディスプレイ表示画面>
図6には本実施形態にかかる回折格子設計装置10のディスプレイの表示画面の一例が示されている。
同図において、画面50には、選択エリア52、設定エリア54、実行指示エリア56、表示エリア58を含む。そして、使用者は、設定したいエリアにマウスのカーソル(図示省略)を合わせ、選択、設定、指示する。
以下、前記選択エリア52、設定エリア54、実行指示エリア56、表示エリア58について、具体的に説明する。
【0042】
<選択エリア>
選択エリア52は、形状選択エリア60と、方向選択エリア62と、露光光源1選択エリア64と、露光光源2選択エリア66と、シミュレーション選択エリア68を備える。
【0043】
形状選択エリア60では、回折格子素子の形状を球面、楕円、トロイダルの中から選択する。
ここで、球面は曲率半径Rzの球面とした。
また、楕円は、下記の数式f(x,y,z)=x/Rx+y/Ry+(z−Rz)/Rz−1=0で表せる曲面とした。
トロイダルX−>Yは、Y=0のXZ平面上、半径Rxの(原点に接する)円が、X軸に平行な回転軸の周りに半径Ryで回転してできる曲面である。
トロイダルY−>Xは、X=0のYZ平面上、半径Ryの(原点に接する)円が、Y軸に平行な回転軸の周りに半径Ryで回転してできる曲面である。
【0044】
方向選択エリア62では、できた回折格子をそのまま使うか(図中、逆)、上下反転して使うか(図中、正)を選択する。
露光光源1選択エリア64では、露光用光源Sから光を回折格子素子に、球面鏡Mを経由して照射するか、球面鏡Mを介さずに直接照射するかを選択する。
露光光源2選択エリア66では、露光用光源Sから光を回折格子素子に、球面鏡Mを経由して照射するか、球面鏡Mを介さずに直接照射するかを選択する。
シミュレーション選択エリア68では、回折をシミュレーションするとき、光源の1点から回折格子上の1点に入射する光の状況(1点/1点)を見るか、該光源の1点から回折格子上の全部の点に入射する光の状況(1点/Full)を見るか、入射スリットの全部の点から回折格子上の全部の点に入射する光の状況(Full/Full)を見るかを選択する。
【0045】
<設定エリア>
設定エリア54は、サイズ設定エリア70と、Rxyz設定エリア72と、露光波長設定エリア74と、中心刻線数エリア76と、光源1のL,θ,Yの設定エリア78と、参照球面の半径と中心のXYZ設定エリア80と、光源2のL,θ,Yの設定エリア82と、参照球面の半径と中心のXYZの設定エリア84と、波長設定エリア86と、角度設定エリア88と、回折次数設定エリア90と、入射スリットのL,α,Y設定エリア92と、スリットのW,H,ピッチ設定エリア94と、出射スリットのL,β設定エリア96と、回折点のXY設定エリア98と、直径とピッチ設定エリア100とを含む。
そして、設定エリア54は、設定するパラメータの内容を示す。
【0046】
サイズ設定エリア70では、回折格子素子のサイズ(X×Y)を設定する。Divは露光状態を計算するピッチの大きさを設定する。(X又はY)/Divが200以下であるように設定する。
Rxyz設定エリア72では、回折格子素子の曲率半径(mm単位)を設定する。球面の場合はRz、トロイダルの場合はRxとRyとが使われる。
露光波長設定エリア74では、露光に用いるコヒーレントな光の波長を設定する。
中心刻線数エリア76では、回折格子素子の中心(平均)での刻線数を設定する。
光源1のL,θ,Yの設定エリア78では、露光用光源Sの、回折格子素子中心からの距離(mm)と法線からの傾きとで設定する。Yの値(面からの浮き分)も設定可能である。
参照球面の半径と中心のXYZ設定エリア80では、反射鏡Mの曲率半径と設置位置とを設定する。
光源2のL,θ,Yの設定エリア82では、露光用光源Sの、回折格子素子の中心からの距離(mm)と法線からの傾きとで設定する。Yの値(面からの浮き分)も設定可能である。
参照球面の半径と中心のXYZ設定エリア84では、反射鏡Mの曲率半径と設置位置とを設定する。
波長設定エリア86、角度設定エリア88では、回折をシミュレートする単色光の波長と、そのときの回折格子の回転角を設定する。
回折次数設定エリア90では、回折をシミュレートする回折次数を設定する。
入射スリットのL,α,Y設定エリア92では、入射スリットの中心位置を、回折格子の中心からの距離と法線からの傾きで設定する。
スリットのW,H,ピッチ設定エリア94では、入射スリットのサイズの、そこをスキャンするときのピッチを設定する。
出射スリットのL,β設定エリア96では、出射スリットの中心位置を、回折格子の中心からの距離と法線からの傾きとで設定する。
回折点のXY設定エリア98では、入射スリット(1点)から回折格子上の1点に入射する光線の回折方向をシミュレートするときの、回折格子上の点の座標を設定する。
直径とピッチ設定エリア100では、回折状態を、回折格子全面に亘ってシミュレートするときの、回折格子面の刻みを設定する。
【0047】
<実行指示エリア>
実行指示エリア56は、露光シミュレーションボタン102と、回折シミュレーションボタン104と、アライメント最適化ボタン106と、露光+アライメント最適化ボタン108と、形状+露光+アライメント最適化ボタン110と、露光条件最適化ボタン112と、形状+露光最適化ボタン114と、を含む。
【0048】
露光シミュレーションボタン102をクリックすると、シミュレーション手段による露光をシミュレートする。
回折シミュレーションボタン104をクリックすると、シミュレーション手段による露光で作成した回折格子での回折をシミュレートする。
アライメント最適化ボタン106をクリックすると、前記回折格子で回折をシミュレートし、回折像が最小になるよう、にアライメントパラメータ、例えば入射スリットの位置(距離だけ)と出射スリット(距離だけ)を最適化する。
露光+アライメント最適化ボタン108をクリックすると、露光条件(露光パラメータ)を変えながら、回折をシミュレートし、回折像が最小になるように、露光条件(露光パラメータ)と、入射スリット(距離だけ)と出射スリット(距離だけ)を最適化する。
形状+露光+アライメント最適化ボタン110をクリックすると、回折格子の曲率半径(形状パラメータ)と露光条件(露光パラメータ)を変えながら、回折をシミュレートし、回折像が最小になるように、曲率半径(形状パラメータ)と露光条件(露光パラメータ)と、アライメントパラメータである入射スリット(距離だけ)及び出射スリット(距離だけ)を最適化する。
露光条件最適化ボタン112をクリックすると、露光条件(露光パラメータ)を変えながら、回折をシミュレートし、回折像が最小になるように、露光条件(露光パラメータ)だけを最適化する。
形状+露光最適化ボタン114をクリックすると、露光条件(露光パラメータ)を変えながら、回折をシミュレートし、回折像が最小になるように、曲率半径(形状パラメータ)と露光条件(露光パラメータ)を最適化する。
【0049】
<表示エリア>
表示エリア58では、入射光源(又は入射スリット)40の中心、回折格子G´´、出射スリット44、回折格子G´´の法線、出射スリット44面上での回折像46、シミュレーションの結果等を表示可能である。
【0050】
このように本実施形態にかかる回折格子設計装置によれば、設計に際しての極めて多くのパラメータ、結果を画面上に表示しつつ、そのシミュレーション、探索を行うことが可能となるので、所望の設計作業の設定、確認を容易に行うことができる。このため、最適な回折格子の設計を、より迅速に行うことができる。
【0051】
なお、前記構成では、本発明のパラメータ最適化を、階層的に行った例について説明したが、次のように行うことも好ましい。
パラメータ設定手段が、初期値として適当な回折格子素子の曲率半径(形状パラメータ)、露光パラメータ、分光器におけるスリットの位置座標(アライメントパラメータ)を設定する。その総数をNとし、これら全部まとめて1組のパラメータと呼ぶことにする。このN個1組のパラメータに適当な変化分を適宜加えてN個(N+1)組のパラメータ群を作る。
シミュレーション手段が、続いて各パラメータ群について、該パラメータを用いて露光して回折格子を作り、それを組み込んで分光器の光線追跡を行い、評価手段が、出射スリット面上にできる回折像を計算し、例えばそのヨコ幅(波長分散幅)を求め、これを小さくなる方を良とする評価点とする。
そして、この一連の操作をシンプレックス法の試験として、シンプレックス法の手順に従って繰り返し実行する。
このようにして本発明のパラメータ最適化を行っても、最適化したいパラメータを自動に変更し、その最適値を自動に探索することができるので、最適な回折格子の設計を、より迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態にかかる回折格子設計装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる回折格子設計装置の作用の説明図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる回折格子設計装置のパラメータ変更手段の作用を示す説明図である。
【図4】本実施形態の最適化を実行する前の光の回折の様子と像の一例である。
【図5】本実施形態の最適化を実行した後の光の回折の様子と像の一例である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる回折格子設計装置のディスプレイ表示画面の説明図である。
【図7】一般的な露光方法の模式図である。
【図8】非球面露光方法の模式図である。
【符号の説明】
【0053】
10 回折格子設計装置
12 コンピュータ本体
14 入力デバイス
16 ディスプレイ
20 回折格子設計プログラム
22 パラメータ設定手段
24 シミュレーション手段
25 評価手段
26 パラメータ変更手段
27 比較手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、パラメータ設定手段、シミュレーション手段、評価手段、パラメータ変更手段として機能させるための回折格子設計プログラムであって、
前記パラメータ設定手段は、分光器の中での回折格子の光学配置を規定するアライメントパラメータ、回折格子をホログラフィク露光法で作る際の露光条件を規定する露光パラメータ、回折格子素子の形状を規定する形状パラメータの初期値を設定し、
前記シミュレーション手段は、前記形状パラメータにより規定される形状の回折格子素子及び前記露光パラメータにより規定される露光条件でバーチャルに回折格子を作り、該回折格子を前記アライメントパラメータにより規定される光学配置で分光器の中にバーチャルに組み込み、該回折格子の回折及び結像をシミュレーションし、
前記評価手段は、前記シミュレーション手段で得られた回折像の結像状態を、該回折像が小となるに従って高い評価点で評価をし、
前記パラメータ変更手段は、前記アライメントパラメータ、前記露光パラメータ及び前記形状パラメータのうち、最適化したいパラメータを初期値から順次変更し、
前記パラメータ変更手段からのパラメータでの前記シミュレーション、該シミュレーション結果の前記評価手段による評価、該パラメータ変更手段によるパラメータ変更を自動に繰り返し、該評価手段による評価点が最も高くなるパラメータ最適値を自動に探索することを特徴とする回折格子設計プログラム。
【請求項2】
請求項1記載の回折格子設計プログラムにおいて、
前記パラメータ変更手段は、前記評価点が高くなる方向に、前記最適化したいパラメータ値を自動に変更することを特徴とする回折格子設計プログラム。
【請求項3】
請求項2記載の回折格子設計プログラムにおいて、
前記パラメータ変更手段は、最適化したいN個のパラメータをそれぞれ1つの座標軸とするN次元空間内に、(N+1)個の頂点をもつシンプレックスを自動に設定し、前記シンプレックスの各頂点に対応するパラメータ値で前記シミュレーションを自動に行い、(N+1)個の頂点のうち前記評価点が最悪となった頂点をその鏡像点で置き換え、前記シンプレックスを自動に移行させることで、前記評価点が高くなる方向にパラメータ値を自動に変更することを特徴とする回折格子設計プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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