説明

回折素子、光ヘッド装置および投射型表示装置

【課題】複数の異なる波長の光で入射する光のうち回折効率が最も高い次数が異なる回折素子を提供する。
【解決手段】格子形状の凹凸を有する単位領域110がX方向へ周期的に配列される回折素子100を形成し、単位領域110を構成する小領域110a、小領域110bおよび小領域110cのX方向の幅が等しく、また、小領域110aを透過する光の位相を基準として小領域110bを透過する光の位相である位相差φ(1)および小領域110aを透過する光の位相を基準として小領域110cを透過する光の位相である位相差φ(2)の位相差はいずれもπの整数倍(φ(1)≠φ(2))とすることで、異なる波長の光のうち最も高い回折効率となる次数の符号が異なる組み合わせが発生するので、従来の回折格子に比べて格子ピッチを小さくしなくても大きい角度での偏向分離が可能な回折素子100を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の異なる波長で入射する光に対して、最も高い回折効率で回折する回折光の次数がそれぞれの波長で異なる回折素子、該回折素子を用いる光学系として、CD、DVD、光磁気ディスクなどの光記録媒体および「Blu−ray」(登録商標:以下BD)などの高密度光記録媒体に情報の記録および再生を行う光ヘッド装置、そして投射型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光記録媒体を記録または再生する光ヘッド装置、プロジェクタなどの投影装置において、複数の異なる波長の光が同一方向から入射して、それぞれの波長の光を異なる方向に偏向分離させる分波機能または、複数の異なる波長の光が異なる方向から入射してそれぞれの波長の光を同一方向に透過させる合波機能を有する光学部品が多く利用されている。このように、分波させたり合波させたりする光学部品には、高い光利用効率が得られることが求められ、例えば、光ヘッド装置において、波長405nmのBD用の光を反射させるとともに波長660nmのDVD用の光および波長785nmのCD用の光を透過させる機能を有するダイクロイックビームスプリッタおよび、BD用の光を透過させるとともにDVD用、CD用の光を反射させる機能を有するダイクロイックビームスプリッタが報告されている(特許文献1)。
【0003】
しかし、特許文献1に記載の光ヘッド装置は、BD用、DVD用およびCD用の3つの異なる波長の光をそれぞれ分波する場合、ダイクロイックビームスプリッタが2個必要になる。さらに、ダイクロイックビームスプリッタによる光の反射方向が90°であるために、その反射方向に別の光学部品を配置する必要があり、全体の構成として光ヘッド装置が大型化するという問題点があった。
【0004】
そこで、このような装置を小型化するために、複数の異なる波長の光を分波させたり合波させたりする光学部品として、回折格子が形成された回折素子によって、回折角の異なる回折光を利用して分波または合波している。このような回折素子として、とくに特定の次数の回折光の回折効率が高いブレーズド形状の回折格子が形成され、波長によって同一の次数の回折光の回折角が異なることを利用する回折素子または、一方の波長の光は0次回折光、他方の波長の光は1次回折光を利用する回折素子が報告されている(特許文献2)。
【0005】
また、複数の波長の光が入射する回折格子構造を有するものの応用例として、回折レンズがあり、とくに光ヘッド装置において、カバー厚さがそれぞれ異なる複数の光記録媒体の情報記録面に、それぞれの波長の光を良好に集光させるために用いられる回折レンズが報告されている(特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開2007−179640号公報
【特許文献2】特開2006−048822号公報
【特許文献3】特開2008−176932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の光ヘッド装置に使用される回折素子は、DVD用とCD用の波長の光に対して回折角の違いを利用して分波または合波させている。とくに、DVD用の波長の回折光とCD用の波長の回折光を0次回折光と1次回折光との組み合わせを用いている。しかし、このような回折素子を用いる場合、これら2つの異なる波長の回折光同士の回折角の差が小さいと、これらの光を利用する光学部品同士の位置が接近しすぎることがあり光学部品の配置の関係で、これらの光の回折角の差を大きくする必要がある。しかし、回折角を大きくするためには、回折格子の格子ピッチを短くしなければならず、回折格子の高い加工精度が要求されるという問題があった。
【0008】
また、特許文献3に記載の光ヘッド装置に使用される回折光学素子は、BD用、DVD用およびCD用の波長の光に対して最も回折効率が高い次数の光が0次回折光(直進透過光)と同じ符号となる次数の回折光の組合せとなる回折格子の構成を有する。そして、これらの回折光によって、それぞれ異なる規格の光記録媒体の情報記録面に良好に集光させるため、回折させた光をさらに屈折させる屈折面を形成して発散/収束を調整しており、このように屈折面がなく回折格子だけでは、回折光学素子を透過する光の進行方向(角度)の差を大きくできず、また、回折角の差を大きくしようとすると回折格子の格子ピッチを短くしなければならず、回折格子の高い加工精度が要求されるという問題があった。
【0009】
本発明は上述の実情に鑑み、複数の波長の光が入射して、それぞれの波長の光において回折効率が最も高い次数の光同士の回折角が異なるとともに、これらの回折角の差を大きくでき、かつ作製が容易な回折素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、波長が異なるm個の光が入射し(m≧2の整数)、前記光の位相を変調して透過する回折素子であって、前記回折素子は、透光性基板上に回折格子が形成されるかまたは前記透光性基板の一つの面が回折格子となる形状を有し、前記回折格子は、格子ピッチPxの幅を有し、前記格子ピッチPxの幅の方向と直交する方向に延伸してなる単位領域が前記格子ピッチPxの幅の方向に繰り返して配置され、前記単位領域は、回折格子が形成されない前記透光性基板の面と平行で距離が同一となる面からなる区画を1つの小領域とするとき、前記透光性基板面からの距離が互いに異なるN個の小領域を含み、前記小領域は、前記格子ピッチPxの幅の方向と直交する方向に延伸して構成され(N≧3の整数)、m個の前記光のうち、最も短い波長を波長λ、最も長い波長を波長λとし、λ≦λ≦λである波長λの光が同相で入射するとき、最も位相が進む前記小領域であるゼロの小領域を透過する光の位相と、前記ゼロの小領域と異なる前記小領域を透過する前記波長λの光の位相との差で定義される位相差がそれぞれπの整数倍であり、
入射するm個の前記光は、それぞれ最も高い回折効率が得られる次数の回折光を1つ有し、さらに、+p次の回折効率が最も高い光と、−q次の回折効率が最も高い光(p,q≧1の整数)を、それぞれ少なくとも1つずつ含む回折素子を提供する。
【0011】
また、波長が異なるm個の光が入射し(m≧2の整数)、前記光の位相を変調して透過する回折素子であって、前記回折素子は、透光性基板上に回折格子が形成されるかまたは前記透光性基板の一つの面が回折格子となる形状を有し、前記透光性基板上の点Aを基点として前記透光性基板面と平行する直線上に格子ピッチP、P、…、P(P>P>…>P)の順に円形の領域または外縁が円である輪帯状の領域を含むM個の単位領域を有し、前記単位領域は、断面が前記透光性基板面と平行し、かつ高さが異なる面を有するとともに、前記点Aを中心とした円の円周方向に沿って延伸してなるN個の小領域を有し(N≧3の整数)、m個の前記光のうち、最も短い波長を波長λ、最も長い波長を波長λとし、λ≦λ≦λである波長λの光が同相で入射するとき、最も位相が進む前記小領域であるゼロの小領域を透過する光の位相と、前記ゼロの小領域と異なる前記小領域を透過する前記波長λの光の位相との差で定義される位相差がそれぞれπの整数倍であり、入射するm個の前記光は、それぞれ最も高い回折効率が得られる次数の回折光を1つ有し、さらに、+p次の回折効率が最も高い光と、−q次の回折効率が最も高い光(p,q≧1の整数)を、それぞれ少なくとも1つずつ含む回折素子を提供する。
【0012】
また、前記+p次の回折効率、前記−q次の回折効率のp,qの値がいずれも1である上記の回折素子を提供する。また、前記単位領域は3個の前記小領域からなって、前記単位領域の端部よりそれぞれ第1の小領域、第2の小領域、第3の小領域とし、前記第1の小領域の幅をX、前記第2の小領域の幅をX、前記第3の小領域の幅をXとするとき、
=X=X=Px/3、
である上記の回折素子を提供する。
【0013】
また、前記第1の小領域が前記ゼロの小領域であって、前記第1の小領域の位相差をφ(0)、前記第2の小領域の位相差をφ(1)、前記第3の小領域の位相差をφ(2)とするとき、
φ(0)=0、
φ(1)=π、
φ(2)=2π、
となる前記単位領域の形状を有する上記の回折素子を提供する。
【0014】
また、前記単位領域は4個の前記小領域からなって、前記単位領域の端部よりそれぞれ第1の小領域、第2の小領域、第3の小領域、第4の小領域とし、前記第1の小領域の幅をX、前記第2の小領域の幅をX、前記第3の小領域の幅をX、前記第4の小領域の幅をXとするとき、
:X:X:X=3:7:7:3、
である上記の回折素子を提供する。
【0015】
また、前記第1の小領域が前記ゼロの小領域であって、前記第1の小領域の位相差をφ(0)、前記第2の小領域の位相差をφ(1)、前記第3の小領域の位相差をφ(2)、前記第3の小領域の位相差をφ(3)とするとき、
φ(0)=0、
φ(1)=π、
φ(2)=2π、
φ(3)=3π、
となる前記単位領域の形状を有する上記の回折素子を提供する。
【0016】
また、前記回折格子は、複屈折性を有する複屈折性材料と等方性透明材料とが、前記回折格子の凸部と凹部とを構成してなる偏光回折格子であって、前記複屈折性材料の常光屈折率nまたは異常光屈折率n(n≠n)のいずれか一方の屈折率が等方性透明材料の屈折率nと等しい上記の回折素子を提供する。
【0017】
また、光源と、前記光源からの光を偏向分離するビームスプリッタと、前記ビームスプリッタを出射した光を光ディスク上に集光させる対物レンズと、前記光記録媒体で反射した光を検出する光検出器と、を備える光ヘッド装置であって、前記光源と前記ビームスプリッタとの間の光路中および、前記ビームスプリッタと前記光検出器との間の光路中に、上記の回折素子が配置される光ヘッド装置を提供する。
【0018】
また、光源と、前記光源を出射した光を光ディスク上に集光させる対物レンズと、前記ビームスプリッタと前記光ディスクとの間に配置された、前記光に対して1/4波長の位相差を生じる1/4波長板と、前記光ディスクで反射した光を検出する光検出器と、を備える光ヘッド装置であって、前記光源と前記対物レンズとの光路と、前記対物レンズと前記光検出器との光路と共通する光路中に上記の回折素子が配置された光ヘッド装置を提供する。
【0019】
光源と、前記光源からの光を偏向分離するビームスプリッタと、前記ビームスプリッタを出射した光を光ディスク上に集光させる対物レンズと、前記光ディスクで反射した光を検出する光検出器と、を備える光ヘッド装置であって、前記ビームスプリッタと前記対物レンズとの間の光路中に、上記の回折素子が配置される光ヘッド装置を提供する。
【0020】
また、前記光源は、3つの異なる波長λ、波長λ、波長λの光を発射し、前記波長λは395〜415nmの範囲の405nm波長帯、前記波長λは640〜680nmの範囲の660nm波長帯、前記波長λは765〜805nmの範囲の785nm波長帯、である上記の光ヘッド装置を提供する。
【0021】
さらに、光源と、表示する画像に応じて前記光源から出射された可視光を変調する液晶ライトバルブと、前記液晶ライトバルブにより生成された画像を拡大投影する投影レンズと、を備えた投射型表示装置において、前記液晶ライトバルブと前記投影レンズとの光路中に上記の回折素子が配置される投射型表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、回折現象により波長が異なる複数の光に対して、分波させたり、あるいは合波させたりする回折素子、とくに、一方の波長の光のうち最も回折効率が高くなる方向(次数)であるA方向に対し、他方の波長の光のうち最も回折効率が高くなる方向(次数)は光軸に対してA方向とは軸対称側となる効果を有する回折素子であって、該回折素子を用いる光ヘッド装置および投射型表示装置などの光学装置の小型化を実現できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る回折素子100の平面模式図である。回折素子100は、透光性基板120上に透過光の位相を空間的に変調する単位領域110が周期的に配列したものである。ここでいう周期的という意味は、単位領域が一方向に隙間なく繰り返し配置されていることを意味する。例えば、図1の回折素子100のように帯状の単位領域110が、単位領域110の延伸方向と直交するX方向にピッチPxの幅で配列している状態であるとする。なお、ピッチPxを以下、格子ピッチPxという。また、回折素子100に光が入射する領域を有効領域としたとき、有効領域は、少なくとも単位領域110の格子ピッチPxが3以上配列したものを含むように構成されているとよい。この場合、単位領域110はX方向に周期的に繰り返され、一つの単位領域110の延伸方向はY方向(ピッチPxの幅と直交する方向)に平行する。そして、1つの単位領域110の外縁はY方向に延伸する長方形であるが、外縁の形状は長方形に限らず、2辺がY方向に平行であれば、この2辺をつなぐ線はX方向の直線に限らず曲線等であってもよい。
【0024】
単位領域110は、複数の小領域からなり、本実施形態では、3つの幾何学的な区画である小領域110a、110bおよび110cから構成される。この小領域110a、110bおよび110cは、ある波長λの光が同相で入射したとき、透過する波長λの光の位相が互いに異なるものである。また、一つの小領域は、透過する光の位相が同じとなる区画を1つの単位として考える。小領域110a、110bおよび110cから構成される単位領域110は、透光性基板120と異なる材料で構成されていてもよく、また、透光性基板120と同じ材料であったり、透光性基板120の一つの面が凹凸状に加工されていたりしてもよい。
【0025】
また、小領域110a、110bおよび110cのうち、透過する光の位相が最も進む小領域をゼロの小領域とする。ここで、ゼロの小領域の透過光の複素振幅をU(0)と定義する。次に、ゼロの小領域を透過する光の位相に対して、透過する光の位相が異なる小領域の位相差をφ(m)、透過光の複素振幅をU(m)とする。ただし、mは、後述するステップ数(=小領域の数)をNとすると、mは0〜N−1の整数であって、例えば、小領域110aをゼロの小領域とするとき、小領域110aはm=0、小領域110bはm=1、そして小領域110cはm=2として与えられる。また、上記の定義より、ゼロの小領域は位相差がゼロ、つまりφ(0)=0となる。
【0026】
次に、単位領域110の構成について説明する。図2(a)は、本実施形態の単位領域110を示す平面模式図であって、図2(b)は、図2(a)に示す単位領域110のA−A´の断面(X方向)および入射する光に対して発生する位相差を説明する模式図であり、段差を有する回折格子が形成される。なお、光は平坦な透光性基板面111(X−Y面)の法線方向(Z方向)から入射するものとする。また、光の透過側は、小領域同士の境界で一定の値の段差を有し、小領域110a、110bおよび110cの光の透過側はいずれも透光性基板面111と平行で平坦な面(平坦部)である。また、単位領域における平坦部の数をステップ数Nとし、この場合、回折素子100はステップ数N=3であって、Nは単位領域110を構成する小領域の数に相当する。
【0027】
ここで、簡単のため、単位領域は屈折率nを有する等方性材料である透光性基板120の一方の面が加工されて形成されるものとし、この場合において、単位領域110b、110cを透過する光の位相差φ(m)を考える。このとき、回折素子100の光が透過する側の(等方性の)媒質の屈折率をn、小領域110aをゼロの小領域(位相差φ(0)=0)、小領域110aと小領域110bとの段差をdとすると、小領域110bを透過する光の位相差φ(1)は、図2(b)に示すように小領域110aを透過する光の光路長と小領域110b透過する光路長との差(=光路長差)d・|n−n|より、
φ(1)=2πd・|n−n|/λ[rad] ・・・ (1)
で表すことができる。また、とくに光が透過する側の媒質を空気(n=1)とすると、上記の式(1)より、
φ(1)=2πd・|n−1|/λ[rad] ・・・ (2)
となる。
【0028】
次に、本実施形態の回折素子100の回折作用について説明する。回折素子100は、前述のように材料や単位領域110の形状が決まることによって、各小領域の位相差φ(m)が決まり、この回折格子の光学特性によって、各次数の回折効率がそれぞれ決定される。回折効率は、回折格子に入射する光の光量に対して、特定の方向に透過、回折する光の光量の比で表される。また、回折効率は、回折格子が薄いものと見なせる場合、スカラー回折理論より、回折格子のX軸方向の格子ピッチPxを有する回折格子のq次回折効率ηは、次式で与えられる。
【0029】
【数1】

【0030】
また、式(3)のjは虚数単位、φ(x)は、回折格子の形状を特徴づける位相シフト関数である。単位領域が光損失のない透明材料からなる場合、位相シフト関数φ(x)をφ(m)とすると小領域の透過光の複素振幅U(m)は、
U(m)=exp{jφ(m)} ・・・ (4)
で置き換えることができる。
【0031】
このように、具体的に本実施形態の回折素子100を考えると、回折効率ηは、単位領域の格子ピッチPxに含まれる小領域110a、110bおよび110cのそれぞれの分割幅X、XおよびXと、それぞれの位相差φ(m)の各パラメータによって決定されることがわかる。波長が異なる複数の光が入射し、それぞれの波長の光のうち、最も回折効率が高い次数であるqの符号が、少なくとも2つの波長の光の間で異なるという効果を得るため、分割幅X、XおよびXとして、
=X=X=Px/3 ・・・ (5)
を与える(X:X:X=1:1:1)。
【0032】
次に、位相差φ(m)を考えたとき、
φ(0)=0 ・・・ (6a)
φ(1)=nπ[rad] ・・・ (6b)
φ(2)=nπ[rad] ・・・ (6c)
の関係を満たすようにする。なお、n,nは自然数である(n≠n)。
【0033】
そして、式(6b)、式(6c)を満足するための、単位領域が有する物理的な段差について考える。式(2)と式(6b)を用いてさらに、光の透過側の媒質が空気であるとき、
|n−1|・d=n・λ/2 ・・・ (7a)
を満足するように、小領域110bの段差dを決定するようにする。さらに、小領域110aに対する小領域110cの位相差φ(2)も、位相差φ(1)と同じ考え方を用いて、
|n−1|・d=n・λ/2 ・・・ (7b)
を満足するように段差dを決定するとよい。なお、凹凸部の段差と接触する媒体は空気に限らず別の透明材料(n>1,n≠n)であってもよい。また、位相差を発生するために段差を有する部分の材料は等方性材料に限らず、複屈折性を有する材料であってもよい。
【0034】
ここで、式(6b)および式(6c)において、n=1、n=2、つまり、φ(1)=π、φ(2)=2πとする場合を考える(d=2×d)。なお、周辺の媒質が空気(n=1)である場合、
=λ/{2・|n−1|} ・・・ (8a)
=2λ/{2・|n−1|} ・・・ (8b)
とするとよい。
【0035】
このような回折格子は、透光性基板の表面を直接微細加工して形成してもよいし、透光性基板120の表面に誘電体膜を成膜し、誘電体膜を回折格子の形状に加工してもよい。回折格子の微細加工法としては、フォトマスクを用いてフォトリソグラフィ工程およびドライエッチング工程を繰り返して作製する方法を用いるか、あるいは回折格子を転写する型を用いて透光性基板120の表面を直接成形加工する、または、透光性基板120の表面にコートされた透光性樹脂に回折格子を転写成形する方法を用いてもよい。
【0036】
次に、形成した回折格子によって、式(5)、式(6a)〜式(6c)の関係を満たす回折素子100を与え、回折効率の式(3)を用いて、実際に入射する光の波長λを変化させたときの回折効率ηを計算によって求める。このとき、例えば、帯域を有する波長λの光に含まれる、帯域を持たない特定の波長λにおける+1次回折効率η+1(q=+1)および−1次回折効率η−1(q=−1)の値は約30%と等しくなる。また、特定の波長λにおける直進透過率に相当する0次回折効率η(q=0)の値は約11%となる。
【0037】
また、実際に回折素子100を構成する材料は、入射する光の波長によって屈折率が異なる波長依存性(波長分散)を有しており、このため、屈折率の変化によって値が変化する回折効率ηもこの波長依存性を考慮して設計する必要がある。屈折率の波長依存性n(λ)は、
n(λ)=A+B/λ+C/λ ・・・ (9)
のコーシーの公式によって与えられる。
【0038】
なお、式(9)において、A,BおよびCは、各材料がもつ固有定数であって、石英ガラスの場合、A=1.450、B=0.002466、そしてC=0.000141と固有の値となる。一方、周辺の媒質である空気は、波長によらず1であって、A=1、B=0、そしてC=0である。
【0039】
ここで、特定の波長λを510nmに設定し、式(5)、式(6a)〜式(6c)が成立するようにし、さらに回折素子100を石英ガラスで構成する場合において、波長λの値を380〜820[nm]の範囲で変化させる。図3は、この条件において波長λに対する回折効率ηの特性を計算したものであって、とくに回折次数q=−1,0,+1について示したものである。このように、使用する材料の波長分散特性を考慮すると例えば、波長λ=391[nm]の光に対して+1次回折効率η+1が68.4%と最も高くなり、波長λ=753[nm]の光に対して−1次回折効率η−1が68.4%と最も高くなる。なお、回折光の次数は、図2(b)において透光性基板面111に入射する光の進行方向を基準に右側(+X方向)に回折する光をプラス(+)に次数の回折光、左側(−X方向)に回折する光をマイナス(−)の次数の回折光とし、他の実施形態においてもとくに説明がない場合はそのように解釈するものとする。
【0040】
このように回折素子100は、式(6a)および式(6b)において、n=1、n=2としたが、nおよびnが自然数(n≠n)であればこの組み合わせに限らない。図4(a)は、回折素子の単位領域130を示す断面模式図であって、n=1、n=4である場合を示すものである。また、材料および小領域130a、130bおよび130cの分割幅X、XおよびXは、単位領域110と同じである。また、図4(a)では、段差に相当する部分を位相差φ(1)、φ(2)で示している。同様に、図4(b)は、回折素子の単位領域140を示す断面模式図であって、n=1、n=3である場合を示すものであって、それ以外の条件は単位領域130と同じである。
【0041】
ここで、単位領域110を有する回折素子100と同様に式(5)を満足し、さらに特定の波長λを510nmと設定し、単位領域130はφ(1)=π、φ(2)=4πを有し、単位領域140はφ(1)=π、φ(2)=3πを有する回折素子を考える。同様に、石英ガラスを用いた場合、波長λの値を380〜820[nm]の範囲で変化させ、透光性基板面131または透光性基板面141の法線方向から光を入射させたときの回折効率ηの特性を計算する。図5(a)は、図4(a)に示す単位領域130を有する回折素子を構成する場合の特性、図5(b)は、図4(b)に示す単位領域140を有する回折素子を構成する場合の特性の計算結果である。
【0042】
この結果より、図5(a)では、波長λ=446[nm]の光に対して+1次回折効率η+1が64.6%と最も高くなり、波長λ=598[nm]の光に対して−1次回折効率η−1が64.6%と最も高くなる。また、図5(b)では、波長λ=450[nm]の光に対して−1次回折効率η−1が44.0%と最も高くなり、波長λ=590[nm]の光に対して+1次回折効率η+1が44.0%と最も高くなる。また、これまでの説明では、単位領域の断面の凹凸が図2(b)のように右上がりの階段状の形状として説明したが、これに限らず、左上がりの階段状の形状を有するものであってもよい。また、異なる複数の波長の光においてそれぞれ最も高い回折効率は、光利用効率を高くするために40%以上であれば好ましく、50%以上であればより好ましく、60%以上であればさらに好ましい。
【0043】
また、入射光の進行方向と回折光の方向とがなす角度である回折角をθで与えると、波長λ、回折次数qおよび格子ピッチPxとの関係は、ブラッグの回折式より、
qλ=Px・sinθ ・・・ (10)
で与えられる。例えば、格子ピッチPx=5μmである場合、図3より、波長405nmの光のうち回折効率が最も高い+1次回折光の回折角θ+1(405)≒4.6°、波長660nmの光のうち回折効率が最も高い−1次回折光の回折角θ−1(660)≒−7.6°、となり、これらの角度の差が12.2°と比較的大きくできる。
【0044】
一方、角度の差が同様に12.2°とする回折格子として、本発明とは異なり、例えば、405nmの光で0次回折光、660nmの光で+1次回折光を利用する回折格子の場合、回折格子のピッチを約3.1μmにしなければならない。また、同じ角度の差の条件で、405nmの光および660nmの光いずれも+1次回折光を利用する回折格子の場合、回折格子のピッチを約1.3μmにしなければならず、本願発明の回折格子ピッチPxよりも小さくなる。これより、異なる波長の光に対して一定の角度で分光または合波させる光学装置に本願発明の回折素子を用いる場合でも従来の回折格子よりも格子ピッチPxを細かくする必要がなく、加工の容易性が得られる。このように、これまでは角度の差を大きくするためには格子ピッチPxを小さくしなければならず、格子ピッチPxを大きくすると異なる波長において利用する回折光の角度の差が小さくなるといったトレードオフの関係があったが、本願発明の回折素子ではこの角度の差を大きくすることができるので、これらの光を利用する光学部品の配置がしやすくなり、装置の小型化が実現できる。
【0045】
(第2の実施形態)
図6(a)は第2の実施形態に係る回折素子200を示す平面模式図であって、回折素子200は、透過光の位相を空間的に変調する単位領域210が周期的に配列したものである。回折素子200は、回折格子を形成する材料が複屈折性を有する材料で構成され、これによって入射する光の偏光依存性を発生させる点が回折素子100と異なる。図6(b)は、単位領域210の断面模式図であって、平行に配置される透光性基板220a、220bの間に、回折格子形状をなす複屈折性材料層230と、等方性材料層240とが挟持されて構成される。
【0046】
また、単位領域210の平面(X−Y面)の形状は、第1の実施形態に係る回折素子100の単位領域110と同じであって、単位領域210は小領域210a、小領域210bおよび小領域210cからなる。また、単位領域210の周期である格子ピッチPxおよび小領域210a、小領域210bおよび小領域210cの分割幅X、XおよびXはそれぞれ単位領域110と同様に上記の式(5)を満足する。
【0047】
複屈折性材料層230は、常光屈折率nおよび異常光屈折率n(n≠n)を有し、例えば、その進相軸(常光屈折率を示す方向)が図6(b)のX方向に揃うように形成する。また、等方性材料層240は、光学的に透明で屈折率nの等方性の材料であって、n=nを満足するような材料で構成されるものとして考える。この場合、上記の式(8a)および式(8b)において、nをn、1をnに置き換え、
=λ/{2・|n−n|} ・・・ (11a)
2=2λ/{2・|n−n|} ・・・ (11b)
を満足するように複屈折性材料層230の段差dおよびdを決定する。なお、等方性材料層240は、複屈折性材料層230の凹凸(段差)を埋めるように形成されていればよく、図6(b)のように複屈折性材料層230の凹凸(段差)の凸部を覆うように形成されていてもよい。
【0048】
複屈折性材料層230を構成する材料としては、水晶やLiNbOなどの複屈折性結晶や、例えばポリカーボネートなどの有機フィルムを延伸させた複屈折性フィルム、複屈折性を有する液晶モノマーを一方向に配向させた後に重合固化させた高分子液晶などが用いられる。高分子液晶を用いると、回折格子の長手方向とは無関係に光学軸(進相軸および遅相軸)を与えることができ、設計自由度が高く好ましい。
【0049】
このような単位領域210の構成とすることで、入射する光のうちY方向の直線偏光は、複屈折性材料層230と等方性材料層240とで屈折率の差が生じる(Δn=|n−n|)ので、回折作用が生じるが、X方向の直線偏光は、複屈折性材料層230と等方性材料層240との間で屈折率の差がない(Δn=|n−n|=0)ので、回折されずにそのまま直進透過する。このように複屈折性材料層230を形成することで、入射する光に対して回折させるかまたは直進透過させるといった偏光依存性を発現させることができる。とくに、複屈折材料層230に入射する常光屈折率方向の波長分散特性または異常光屈折率方向の波長分散特性いずれか一方と等方性材料層240との波長分散特性が一致するように考慮すると、光を直進透過させる場合の(直進)透過率が高くなるので好ましい。
【0050】
この結果、Y方向の直線偏光が入射すると、例えば、+1次回折効率η+1が最も大きい波長帯域と、−1次回折効率η−1が最も大きい波長帯域とが異なる波長依存性を有し、X方向の直線偏光が入射すると透過率はほぼ100%となり、回折光は発生しない。また、n=n、n≠nとして説明したが、等方性材料層240の屈折率nが複屈折性材料層230の異常光屈折率に等しい、つまり、n≠n、n=nであってもよい。また、等方性材料層240に複屈折性材料を用いることもでき、このとき、常光屈折率n´、異常光屈折率n´とすると、n´またはn´のいずれか一方が、複屈折性材料層230のnまたはnいずれか一方と等しくなるように設計してもよい。
【0051】
本実施形態では、単位領域110に相当する回折格子として単位領域210を有する回折素子200について説明したが、これに限らず、特定の偏光方向の光に対して、第1の実施形態の単位領域130のようにφ(1)=π、φ(2)=4π、または単位領域140のようにφ(1)=π、φ(2)=3πを有するものであってもよい。
【0052】
第2の実施形態の回折素子200も同様に、異なる波長の光に対して一定の角度で分波または合波させる光学装置に本願発明の回折素子を用いる場合でも従来の回折格子よりも格子ピッチPxを細かくする必要がなく、加工の容易性が得られる。さらに、入射する光の偏光方向によって、分波および合波の制御をすることができる。また、同様にこれらの回折光を利用する光学装置の小型化を実現することができる。
【0053】
(第3の実施形態)
図7は、第3の実施形態に係る回折素子300の平面模式図である。回折素子300は、透光性基板320上に透過光の位相を空間的に変調する単位領域310が周期的に配列したものである。例えば、図7の回折素子300のように帯状の単位領域310がX方向にピッチPxで配列している状態であるとする。また、回折素子300に光が入射する領域を有効領域としたとき、有効領域は、少なくとも単位領域310のPxが3以上配列したものを含むように構成されているとよい。
【0054】
単位領域310は、複数の小領域からなり、本実施形態では、4つの幾何学的な区画である小領域310a、310b、310cおよび310dから構成される。この小領域310a、310b、310cおよび110cは、ある波長λの光が同相で入射したとき、透過する波長λの光の位相が互いに異なるものである。このように第1の実施形態に係る回折素子100の単位領域110が3つの小領域で構成されるのに対し、本実施形態に係る回折素子300の単位領域310は4つの小領域で構成される点が異なる。ここで、単位領域310は、透光性基板320と異なる材料で構成されていてもよく、また、透光性基板320と同じ材料であったり、透光性基板320の一つの面が凹凸状に加工されていたりしてもよい。
【0055】
次に、各小領域に位相差を与える単位領域310の構成について説明する。図8(a)は、本実施形態の単位領域310を示す平面模式図であって、図8(b)は、図8(a)に示す小領域310のB−B´の断面(X方向)を示す模式図であり、段差を有する回折格子が形成される。なお、光は平坦な透光性基板面311(X−Y面)の法線方向(Z方向)から入射するものとする。また、光の透過側は、小領域同士の境界で一定の値の段差を有し、小領域310a、310b、310cおよび310dの光の透過側はいずれも透光性基板面311と平行で平坦な面(平坦部)である。この場合、ステップ数N=4であって、Nは単位領域310を構成する小領域の数に相当する。
【0056】
本実施形態では、波長が異なる複数の光が入射し、それぞれの波長の光のうち、最も回折効率が高い次数である回折次数qの符号が、少なくとも2つの波長の光の間で異なるという効果は第1および第2の実施形態と同じで、構成が異なる形態であって、小領域310a、310b、310cおよび310dの分割幅をそれぞれ、X、X、XおよびXとしたとき、
:X:X:X=3:7:7:3 ・・・ (12)
を与える。
【0057】
次に、回折素子300の光の透過側の媒質が空気(屈折率=1)であるとき、小領域310aを透過する光を基準として、小領域310b、小領域310c、小領域310dを透過する光の位相差φ(0)、φ(1)、φ(2)、φ(3)をそれぞれ、
φ(0)=0 ・・・ (13a)
φ(1)=nπ[rad] ・・・ (13b)
φ(2)=nπ[rad] ・・・ (13c)
φ(3)=nπ[rad] ・・・ (13d)
の関係を満たすようにする。なお、n,nおよびnは自然数である(n≠n≠n)。このとき、n=1、n=2そして、n=3として、φ(1)=π、φ(2)=2π、φ(3)=3πとなるように、段差を調整する。なお、位相差は小領域310aを透過する光を基準としているのでφ(0)=0である。
【0058】
上記のように形成した回折格子によって、式(12)および、φ(1)=π、φ(2)=2π、φ(3)=3πとなる回折素子300を与え、回折効率の式(3)を用いて、実際に入射する光の波長λを変化させたときの回折効率ηを計算によって求める。このとき、例えば、帯域を有する波長λの光に含まれる、帯域を持たない特定の波長λにおける+1次回折効率η+1(q=+1)および−1次回折効率η−1(q=−1)の値は約14%と等しくなる。また、直進透過率に相当する0次回折効率η(q=0)の値は約0%となる。
【0059】
また、第1の実施形態と同様に、上記の式(9)のように波長分散を考慮し、回折素子300が石英ガラスを加工して構成される場合について考える。ここで、特定の波長λを515nmに設定し、φ(1)=π、φ(2)=2π、φ(3)=3πとなるように、小領域間の段差を与え、波長λの値を370〜860[nm]の範囲で変化させる。図9は、この条件において波長λに対する回折効率ηの特性を計算したものであって、とくにq=−1,0,+1について示したものである。このように、使用する材料の波長分散特性を考慮すると例えば、波長λ=376[nm]の光に対して+1次回折効率η+1が71.6%と最も高くなり、波長λ=856[nm]の光に対して−1次回折効率η−1が71.6%と最も高くなる。
【0060】
このように回折素子300は、式(13b)〜式(13d)において、n=1、n=2そしてn=3としたが、n、nおよびnが自然数(n≠n≠n)であればこの組み合わせに限らない。図10(a)は、回折素子の単位領域330を示す断面模式図であって、n=1、n=5そしてn=3である場合の構成を示すものである。また、材料および小領域330a、330b、330cおよび330dの分割幅X、X、XおよびXは単位領域310と同じである。また、図10(a)では、段差に相当する部分を位相差φ(1)、φ(2)およびφ(3)で示している。同様に、図10(b)は、回折素子の単位領域340を示す断面模式図であって、n=1、n=4そしてn=3である場合を示すものであって、それ以外の条件は単位領域330と同じである。
【0061】
ここで、単位領域310を有する回折素子300と同様に式(12)を満足し、さらに特定の波長λを515nmと設定し、単位領域330はφ(1)=π、φ(2)=5π、φ(3)=3πを有し、単位領域340はφ(1)=π、φ(2)=4π、φ(3)=3πを有する回折素子を考える。同様に、石英ガラスを用いた場合、波長λの値を380〜820[nm]の範囲で変化させ、透光性基板面331または透光性基板面341の法線方向から光を入射させたときの回折効率ηの特性を計算する。図11(a)は、図10(a)に示す単位領域330を有する回折素子を構成する場合の特性、図11(b)は、図10(b)に示す単位領域340を有する回折素子を構成する場合の特性の計算結果である。
【0062】
この結果より、図11(a)では、波長λ=391[nm]の光に対して+1次回折効率η+1が68.4%と最も高くなり、波長λ=775[nm]の光に対して−1次回折効率η−1が68.4%と最も高くなる。また、図11(b)では、波長λ=441[nm]の光に対して+1次回折効率η+1が38.4%と最も高くなり、波長λ=621[nm]の光に対して−1次回折効率η−1が38.4%と最も高くなる。
【0063】
このように、波長の異なる複数の光が入射する場合、各波長の回折効率が最も高くなる回折光の符号が少なくとも2つの波長の光の間で異なる。これより、異なる波長の光に対して一定の角度で分波または合波させる光学装置に本願発明の回折素子を用いる場合でも従来の回折格子よりも格子ピッチPxを細かくする必要がなく、加工の容易性が得られる。また、第2の実施形態の図8(b)に示す単位領域310のような位相差を有する回折素子300を用いると、70%以上の回折効率を得ることができ、さらに、従来の回折格子よりも格子ピッチPxを細かくする必要がなく、加工の容易性が得られる。また、同様にこれらの回折光を利用する光学装置の小型化を実現することができる。
【0064】
(第4の実施形態)
図12(a)は第4の実施形態に係る回折素子400を示す平面模式図であって、回折素子400は、透過光の位相を空間的に変調する単位領域410が周期的に配列したものである。回折素子400は、回折格子を形成する材料が複屈折性を有する材料で構成され、これによって入射する光の偏光依存性を発生させる点が回折素子300と異なる。図12(b)は、単位領域410の断面模式図であって、平行に配置される透光性基板420a、420bの間に、回折格子形状をなす複屈折性材料層430と、等方性材料層440とが挟持されて構成される。
【0065】
また、単位領域410の平面(X−Y面)の形状は、第3の実施形態に係る回折素子300の単位領域310と同じであって、単位領域410は小領域410a、小領域410b、小領域410cおよび小領域410dからなる。また、単位領域410の周期である格子ピッチPxおよび各小領域の分割幅X、X、XおよびXはそれぞれ単位領域310と同様に上記の式(12)を満足する。
【0066】
複屈折性材料層430は、常光屈折率nおよび異常光屈折率n(n≠n)を有し、例えば、その進相軸(常光屈折率を示す方向)が図12(b)のX方向に揃うように形成する。また、等方性材料層440には、光学的に透明で屈折率nの等方性の材料から構成され、n=nを満足するような材料で構成されるものとして考える。この場合、
=λ/{2・|n−n|} ・・・ (14a)
=2λ/{2・|n−n|} ・・・ (14b)
=3λ/{2・|n−n|} ・・・ (14c)
を満足するように複屈折性材料層430の段差d、dおよびdを決定する。なお、等方性材料層440は、複屈折性材料層430の凹凸(段差)を埋めるように形成されていればよく、図12(b)のように複屈折性材料層430の凹凸(段差)の凸部を覆うように形成されていてもよい。なお、複屈折性材料層430は、第2の実施形態の複屈折性材料層430と同様の材料を用いることができる。
【0067】
このような単位領域410の構成とすることで、第2の実施形態と同様に、入射する光のうちY方向の直線偏光は、複屈折性材料層430と等方性材料層440とで屈折率の差が生じる(Δn=|n−n|)ので、回折作用が生じるが、X方向の直線偏光は、複屈折性材料層430と等方性材料層440との間で屈折率の差がない(Δn=|n−n|=0)ので、回折されずにそのまま直進透過する。このように複屈折性材料層430を形成することで、入射する光に対して回折させるかまたは直進透過させるといった偏光依存性を発現させることができる。とくに、複屈折材料層430に入射する常光屈折率方向の波長分散特性または異常光屈折率方向の波長分散特性いずれか一方と等方性材料層440との波長分散特性が一致するように考慮すると、光を直進透過させる場合の(直進)透過率が高くなるので好ましい。
【0068】
この結果、Y方向の直線偏光が入射すると、例えば、+1次回折効率η+1が最も大きい波長帯域と、−1次回折効率η−1が最も大きい波長帯域とが異なる波長依存性を有し、X方向の直線偏光が入射すると透過率はほぼ100%となり、回折光は発生しない。また、n=n、n≠nとして説明したが、等方性材料層440の屈折率nが複屈折性材料層430の異常光屈折率に等しい、つまり、n≠n、n=nであってもよい。また、等方性材料層440に複屈折性材料を用いることもでき、このとき、常光屈折率n´、異常光屈折率n´とすると、n´またはn´のいずれか一方が、複屈折性材料層430のnまたはnいずれか一方と等しくなるように設計してもよい。
【0069】
本実施形態では、単位領域310に相当する回折格子として単位領域410を有する回折素子400について説明したが、これに限らず、特定の偏光方向の光に対して、第3の実施形態の単位領域330のようにφ(1)=π、φ(2)=5π、φ(3)=3π、または単位領域340のようにφ(1)=π、φ(2)=4π、φ(2)=3πを有するものであってもよい。また、第4の実施形態の回折素子400は、第3の実施形態の回折素子と同様に、異なる波長の光に対して一定の角度で分波または合波させる光学装置に本願発明の回折素子を用いる場合でも従来の回折格子よりも格子ピッチPxを細かくする必要がなく、加工の容易性が得られる。さらに、入射する光の偏光方向によって、分波および合波の制御をすることができる。また、同様にこれらの回折光を利用する光学装置の小型化を実現することができる。
【0070】
(第5の実施形態)
図13は第5の実施形態に係る回折素子として、回折レンズ500の平面模式図および、X軸の断面を示す断面模式図である。ここで、光はX−Y平面に対して法線方向から入射し、光軸は直交座標(x,y)=(0,0)に一致するものとして説明する。そして、光軸を中心にX−Y平面において同心円状に輪帯状の領域が形成されている。なお、回折レンズ500は、光軸と交わる点である点Aを含み円形の領域となる単位領域510、単位領域510の外縁と接して囲む輪帯状の単位領域520、単位領域520の外縁と接して囲む輪帯状の単位領域530が点Aを中心に回転対称性を有して形成されている。また、回折レンズ500は、単位領域510、520、530の構成を示したが、これは回折レンズ500の特徴を示すための模式図であって、実際には単位領域530よりさらに外側に同心円状の輪帯状の単位領域が広がるように構成されている。また、「輪帯」とは、各単位領域の外縁として定義し、図13の平面模式図において、太線部分、つまり輪帯511、521、531に相当する。また、この「輪帯」によってできる領域が単位領域と言い換えることもできる。
【0071】
また、回折レンズ500は、入射する光に対して発生する+1次回折光または−1次回折光を用いた位相型のフレネルゾーンプレートとして考えることができる。ここで、+1次回折光は光軸に近づくように回折する1次回折光、そして、−1次回折光は光軸から遠ざかるように回折する1次回折光として定義する。次に、点Aを中心としたときの輪帯の半径の設定について説明する。前述のようにフレネルゾーンプレートとして考えたとき、各単位領域を透過する光の最大光路差は1波長、例えば405nmの光が入射した場合の最大光路差が405nm、となるような形状を有する。そして、点Aからm番目の輪帯の半径rは、
=(2mλf)1/2 ・・・ (15)
で表される。
【0072】
ここで、λは最大回折効率を得るための基準となる波長であり、fはレンズ作用によって得られる焦点距離である。例えば、式(15)に基づいて、波長λの光がX−Y平面の法線方向から入射する場合、回折する光の焦点距離fが決まると、各輪帯の設定すべき半径を得ることができる。このようにm個の輪帯の各半径が決まるとm個の単位領域が与えられる。
【0073】
次に、図13の単位領域510、単位領域520および単位領域530の構成について説明する。ここで単位領域510は、式(15)より平面が半径rの円形の領域であって、半径rに等しいピッチPが点Aを中心に回転してできた領域として考えることもできる。ここでピッチPを有する単位領域510は、点Aを中心とした半径P11の円形となる小領域510a、同心円状で幅がP12の輪帯状となる小領域510bおよび同心円状で幅がP13の輪帯状となる小領域510cからなり、それぞれの小領域の分割幅P11、P12およびP13は、
11=P12=P13=P/3 ・・・ (16a)
の関係を有する。
【0074】
また、単位領域520のピッチPはr−rに相当し、単位領域530のピッチPはr−rに相当する。また、単位領域520は、3つの同心円状の小領域520a、小領域520b、小領域520cからなり、それぞれの小領域の分割幅P21、P22およびP23は、
21=P22=P23=P/3 ・・・ (16b)
の関係を有し、単位領域530は、3つの同心円状の小領域530a、小領域530b、小領域530cからなり、それぞれの小領域の分割幅P31、P32およびP33は、
31=P32=P33=P/3 ・・・ (16c)
の関係を有する。なお、小領域は、第1〜第4の実施形態と同様に、透過する光の位相が同じとなる区画を1つの単位として考える。
【0075】
次に、位相差φ(m)について考える。位相差φ(m)は、第1〜第4の実施形態と同じ考え方に基づき、例えば、単位領域510のうち小領域510cを透過する光の位相を基準とし、小領域510bを透過する光の位相差をφ(1)、小領域510aを透過する光の位相差をφ(2)として与えると、
φ(0)=0 ・・・ (17a)
φ(1)=π[rad] ・・・ (17b)
φ(2)=2π[rad] ・・・ (17c)
の関係を満たすようにする。
【0076】
単位領域520は、小領域520cを基準とし、小領域520b、小領域520aの位相差がそれぞれ式(17b)、式(17c)となるようにする。単位領域530も同様に、小領域530cを基準とし、小領域530b、小領域530aの位相差がそれぞれ式(17b)、式(17c)となるようにする。また、式(17a)〜(17c)を満足するように、それぞれ段差dおよびdを与えるが、回折レンズ500が屈折率nの材料で形成され、また周辺の媒質が空気である場合、式(8a)および式(8b)を用いて段差を設定するとよい。
【0077】
このような条件において、例えば、BD用の波長405nmの光については、+1次回折光が凸レンズとして機能するように焦点距離fを決め、それに対応する輪帯の半径を式(15)より決定する。また、回折効率ηの波長依存性は、第1の実施形態に係る回折素子100の特性である図3のグラフに相当する特性を有し、例えば、BD用の波長405nmの光に対して大きな+1次回折効率となる、DVD用の波長660nmおよびCD用の波長780nmに対して大きな−1次回折効率となるので、DVD、CDに対して凹レンズとなるように、波長選択性の回折レンズを作製することが可能である。
【0078】
図14は、具体的に回折レンズ500にBD用、DVD用、CD用の3つの波長の光が入射したとき、それぞれの光の集光特性について示す模式図であって、具体的に、回折レンズから波長の異なる光が入射し、回折レンズ500の光透過側に対物レンズ560、そして対物レンズの光透過側に光ディスク570を配置する光学系を示すものある。光ディスク570は、それぞれの規格によって情報記録面の位置が異なるため、回折レンズ500を用いることによって、BD、DVDおよびCDの各情報記録面に対して良好に集光することができるものである。図14(a)および図14(b)は、具体的にBD用の405nm波長帯の光540B、550Bの集光特性、DVD用の660nm波長帯の光540D、550Dの集光特性、CD用の785nm波長帯の光540C、550Cの集光特性を示すものである。
【0079】
また図14(a)は、BD用、DVD用およびCD用の光は、いずれも回折レンズ500に平行光として入射する光学系であって、図15(b)は、CD用の光について有限系配置とし回折レンズ500に発散しながら進行する光として入射させると、焦点距離が長くなりレンズ設計上有利に働くため好ましい場合がある。
【0080】
ここで、回折レンズ500にBD用の光が入射すると、回折レンズ500は凸レンズとして機能するので、対物レンズ560を透過して光ディスク570の情報記録面570B(光ディスクの入射面より0.1mm)に集光する。また、回折レンズ500にDVD用の光が入射すると、回折レンズ500は凹レンズとして機能するので、対物レンズ560を透過して光ディスク570の情報記録面570D(光ディスクの入射面より0.6mm)に集光する。そして、回折レンズ500にCD用の光が入射すると、回折レンズは凹レンズとして機能し、光ディスク570の情報記録面570C(光ディスクの入射面より1.2mm)に集光する。このように回折レンズ500と1つの対物レンズ560を用いることによって3つの異なる波長で規格の異なる光ディスクの各情報記録面に対して収差を抑えて良好に集光することができる。
【0081】
また、回折レンズ500は、図13の模式図の形状として説明したがこれに限らない。図15は、回折レンズの別の構成を示す例であって、図15(a)は、図13と同じ回折レンズ500の断面模式図、図15(b)は、単位領域を構成する小領域の断面の階段形状の傾きが回折レンズ500に対して逆方向となる回折レンズ501の断面模式図である。図15(b)に示す回折レンズ501は、BD用の光に対して凹レンズとして機能させ、DVD用の光およびCD用の光に対して凸レンズとして機能させることができる。また、図15(c)に示す回折レンズ502のように平行に配向される透光性基板503a、503bの間に回折レンズ500と同じ格子形状を有する複屈折性材料層504と、複屈折材料層504と等方性材料層505によって構成されていてもよい。この場合、第2の実施形態と同様に、入射光に対して回折作用の偏光依存性を持たせることができる。
【0082】
また、回折レンズ500の単位領域を構成する3つの小領域の位相差は、式(17a)〜式(17c)を満たすものに限らず、例えば図4(a)、図4(b)に示すような位相差を有するものであってもよい。さらに、回折レンズの単位領域を構成する小領域の数は3に限らず、4であってもよく、4である場合、第3の実施形態に基づく分割幅が式(12)を満たし、4つの小領域の位相差は、例えば図8(b)、図10(a)、図10(b)に示すような位相差を有するものであってもよい。
【0083】
第5の実施形態の回折レンズ500も同様に、異なる波長の光に対してそれぞれ異なる角度で回折させることができるが、例えば第1の実施形態の光学特性と同様に、BD用の波長の光で最も回折効率が高い+1次回折光の回折角θ+1(405)と、DVD用の波長の光で最も回折効率が高い−1次回折光の回折角θ−1(660)との差が従来の回折レンズに比べると大きいので、従来の回折レンズに対してピッチP、P、P、…を大きく設定することができる。したがって、本発明の回折レンズを用いる場合ピッチを細かくする必要がなく、加工の容易性が得られる。
【0084】
(第6の実施形態)
図16は本発明の第6の実施形態に係る光ヘッド装置600の構成を示す模式図である。光源としては、BD用の波長である405nm波長帯の光を出射する半導体レーザ610B、DVD用の波長である660nm波長帯の光とCD用の波長として785nm波長帯の光を出射するハイブリッド型の半導体レーザ610Dとを用いる。なお、各半導体レーザを出射した光は進行方向に直交し紙面に平行な直線偏光を有するものとして説明する。各半導体レーザを出射した光は、回折素子620を透過してZ方向の直線偏光となってX方向に進行し、偏光ビームスプリッタ630に入射して光ディスク670の方向(Z方向)に進行する。そしてコリメータレンズ640を透過した光は1/4波長板650によって左回りの円偏光となって対物レンズ660を透過して光ディスク670に到達する。光ディスク670で反射された光は右回りの円偏光となって対物レンズ660を透過し、1/4波長板でY方向の直線偏光となる。そしてコリメータレンズ640および偏光ビームスプリッタ630を直進透過し、回折素子680に入射する。
【0085】
回折素子680に入射した光は、入射する光の波長によって回折方向(角度)が異なり、BD用と、DVDとCD併用の光検出器690B、690Dに到達する。例えば、BD用の光は+1次回折光、DVD用およびCD用の光は−1次回折光を用いると、BD用の光に対して、DVD用およびCD用の光の回折方向(回折角)が大きく異なる。このように、回折されたBD用の光、DVD用およびCD用の光は光検出器690B、690Dの各受光面に集光され、光ディスク670に記録された情報の再生信号、フォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号などの光情報が検出される。なお、光ヘッド装置600は、上記のフォーカスエラー信号に基づいて対物レンズ660を光軸方向に移動制御する図示しないフォーカスサーボと、上記のトラッキングエラー信号に基づいて対物レンズ660を光軸方向に垂直となる方向に制御する図示しないトラッキングサーボと、を備える。
【0086】
また、光ヘッド装置600に配置される回折素子620および回折素子680は、第1〜第4の実施形態に係る回折素子を用いることができる。ここでは、例として第1の実施形態に係る回折素子100を配置するものとして説明する。第1の実施形態に係る回折素子の回折効率の波長依存性は、図3に示したように、BD用の波長(405nm)では、+1次回折光が最も高く、DVD用の波長(660nm)およびCD用の波長(785nm)では−1次回折光が最も高い。
【0087】
ここで、上記の式(10)を用いて、回折素子620を透過するBD用、DVD用、CD用のそれぞれの光が回折して進行する方向がX方向となるように、各半導体レーザの出射方向(角度)を決めることができる。例えば、BD用の波長の光は+1次回折効率が高いので、q=+1、λ=405とし、回折素子620の固定のPxの値を決め、これによって回折角θを求めることができる。同様にして、DVD、CDについては−1次回折効率が最も高いので、それぞれq=−1を与えて回折角θを求めることができる。ここで、DVD用の光とCD用の光の−1次回折光の回折角は式(10)の計算により厳密には異なるが、格子ピッチPxの幅を調整することによって、この2つの波長の光の回折角の差を小さくでき、これによって回折角をほぼ同じ角度θとすることができる。図16において、回折角の符号は光軸を基準として時計回りの方向をプラス(+)、反時計周りの方向をマイナス(−)として表す。図16では、X方向を基準にθおよびθを与えているが符号の考え方は同じである。このように各半導体レーザの位置を調整すると、回折素子620を透過した光は同軸(X方向)上に進行することになるため、複数の異なる波長の光を用いる場合でも、回折素子620以降の光学部品を共通化できるという点で好ましい。
【0088】
次に、回折素子680について説明する。回折素子680も回折素子620と同じ特性を有するものを配置することができ、光ディスク670で反射した複数の異なる波長の光が入射する。前述の説明と同様に、例えば、回折素子680に入射するBD用の波長の光は+1次回折効率が最も高く、DVD用の波長の光およびCD用の波長の光は−1次回折効率が最も高く、また、それぞれの回折光の回折角が異なるので、同じ進行方向で入射した3つの光のうちBD用の光の回折角はθ、DVD用の光およびCD用の光の回折角はθと大きく異なる。したがって、回折素子680に入射する、波長の異なる複数の光を大きく分離できるので、光検出器の配置等が容易となるので光ヘッド装置の小型化が実現でき、また、他の光がノイズとして光検出器に到達しにくくなるために品質のよい光ヘッド装置を実現できる。また、回折素子620と回折素子680とは同じものを用いてもよいが、それぞれ回折角の特性が異なる回折光を発生するものを用いてもよく、BD用の光として−1次回折光、DVD用の光およびCD用の光として+1次回折光を用いるものであってもよい。
【0089】
(第7の実施形態)
図17は本発明の第7の実施形態に係る光ヘッド装置700の構成を示す模式図であるって、第6の実施形態に係る光ヘッド装置600と同じ光学部品には同じ番号を付して説明の重複を避ける。光ヘッド装置700はBD用、DVD用およびCD用の3つの異なる波長を発射するハイブリッド型の半導体レーザ710が備わっている。また、回折素子720は、第2の実施形態または第4の実施形態に係る偏光依存性を有する回折素子を用いることができる。
【0090】
ここでは、回折素子720として、第2の実施形態に係る回折素子200を用いる場合について説明する。半導体レーザ710より発射したX方向の直線偏光の光は、回折素子720に入射すると偏光状態を変えずに出射し、左回りの円偏光となって光ディスク670に到達する。光ディスク670で反射した光は1/4波長板650でY方向の直線偏光となって、再び回折素子720に入射する。このとき、回折素子では、複屈折材料層と等方性材料層との屈折率差より回折作用が生じ、BD用の波長の光は回折角θ、DVD用の波長の光およびCD用の波長の光はそれぞれ回折角θとなって、それぞれ光検出器690Bおよび690Dに到達する。このように、偏光依存性を有する回折素子720を用いることで、さらに光学部品を少なくなるために小型化が実現できるとともに、波長の異なる複数の光を大きく分離できるので光検出器の配置等が容易となり、さらに、他の光がノイズとして光検出器に到達しにくくなるために品質のよい光ヘッド装置を実現することができる。
【0091】
(第8の実施形態)
図18は、第8の実施形態に係る投射型液晶表示装置800の構成を示す模式図である。投射用の光源として、青色の光を出射する半導体レーザ810B、緑色の光を出射する半導体レーザ810G、そして赤色の光を出射する半導体レーザ810Rが備わっている。そして、各半導体レーザを出射した青色の光は液晶ライトバルブ820B、緑色の光は液晶ライトバルブ820G、そして、赤色の光は液晶ライトバルブ820Rを透過して回折素子830に入射する。回折素子830により、透過または回折作用によって1つの方向に揃って透過した光は投射レンズ840に集光され各液晶ライトバルブの合成画像がスクリーン850に結像される。
【0092】
回折素子830には第2の実施形態または第4の実施形態に係る偏光依存性を有する回折素子を用いることができる。ここでは、第2の実施形態に係る回折素子200を用いる場合について説明する。このとき、青色の半導体レーザ810BからはY方向の直線偏光が出射し、液晶ライトバルブ820BにおいてY方向の直線偏光成分の画像信号が角度θで入射する。同様に赤色の半導体レーザ810RからY方向の直線偏光が出射し、液晶ライトバルブ820RにおいてY方向の直線偏光成分の画像信号が角度θで入射する。なお、この角度θと角度θは、回折素子830の回折角に相当し、各色の光の光軸を基準として時計回りの方向をプラス(+)、反時計周りの方向をマイナス(−)として表す。図18では、Z方向を基準にθおよびθを与えているが符号の考え方は同じである。
【0093】
また、緑色の半導体レーザ810Gからは、X方向の直線偏光が出射し、液晶ライトバルブ820GにおいてX方向の直線偏光成分の画像信号が回折素子830の光軸に沿って入射する。また、回折素子830は、Y方向の偏光方向で入射する光に対して回折させ、X方向の偏光方向で入射する光に対して透過させるようにすると、青色の光は、+1次回折効率が最も高くなるように回折し、赤色の光は、−1次回折効率が最も高くなるように回折する。さらに緑色の光はX方向の偏光方向で入射するので回折せずにそのまま透過する。このとき、青色の光に対する+1次回折光の回折角θだけ光軸から傾けて入射させるように半導体レーザ810Bおよび液晶ライトバルブ820Bを配置することで回折素子830を透過した青色の光は光軸に沿って進行する。同様に、赤色の光に対する−1次回折光の回折角θだけ光軸から傾けて入射させるように半導体レーザ810Rおよび液晶ライトバルブ820Rを配置することで回折素子830を透過した赤色の光は光軸に沿うので、青色、緑色そして赤色の3色の光は合成されて光軸に沿って投射レンズ840に進行し、スクリーン850上に結像されて表示される。
【0094】
このように、偏光依存性のある回折素子を透過型液晶表示装置に用いることで、各色の光の合成を高い光利用効率を保った状態で1つの素子で実現できるので、光学部品点数を少なくすることができるとともに小型化を実現することができる。また、光源は半導体レーザに限らず、各色の発光ダイオード(LED)でもよい。なお、ここでは、青色の光および赤色の光に対して最も高い回折効率の次数をそれぞれ+1、−1次としたが、これに限らず、−1次と+1次との組み合わせや他の回折の次数を用いるものであってもよい。
【0095】
(実施例1)
実施例1として、図1に基づいて第1の実施形態に係る回折素子100を作製する。透光性基板120として石英ガラス基板を用い、その片面をフォトリソグラフィ工程およびドライエッチング工程によって1つの方向に延伸する回折格子形状に加工する。そして石英ガラス基板の両面に反射防止膜を形成する。このとき、図2に基づく単位領域110のピッチPx=5μmとし、単位領域110を構成する小領域110a、小領域110bおよび小領域110cの分割幅X、XおよびXをそれぞれ1.67μmと均等に3分割する。そして、波長510nmの光が入射するとき、小領域110aを出射する光の位相を基準とし、小領域110bの位相差φ(1)=π、小領域110cの位相差φ(2)=2πを満たすため、段差d=0.552μm、段差d=1.104μmとなるように加工する。
【0096】
回折素子100に380〜820nmの光を入射すると、波長391nmにおいて+1次回折効率η+1が68.4%と最大となる。一方で波長753nmにおいては、−1次回折効率η−1が68.4%と最大となる。このように、回折素子100に入射する光の波長が異なると回折効率が最も高い次数が異なり、入射する光の波長によって偏向分離できる効果を得ることができる。
【0097】
(実施例2)
実施例2として、第2の実施形態である回折素子200を作製する。図6において透光性基板220aとして石英ガラス基板を用い、Y方向に配向処理をした図示しない配向膜を形成する。そして、配向膜を形成したもう1枚の図示しない透光性基板を配向膜が対向しさらに配向方向が揃うように平行に配置してできる空隙の厚さが4.18μmとなるようにして周辺をシールする。その後、図示しない注入口から液晶モノマーを注入し、紫外線を照射して液晶を重合硬化させる。これによって、厚さ4.18μmで、波長483nmの光に対するX方向の屈折率である常光屈折率n=1.555、Y方向の屈折率である異常光屈折率n=1.669の高分子液晶層が形成される。なお、式(9)において、高分子液晶のA,BおよびCは、常光屈折率方向においてA=1.523、B=0.0067、そしてC=0.000168となり、異常光屈折率方向においてA=1.6211、B=0.0090、そしてC=0.000488となる。
【0098】
その後、図示しない透光性基板を離散し、フォトリソグラフィ工程およびドライエッチング工程によって高分子液晶層を1つの方向に延伸する回折格子形状に加工して、複屈折性材料層230を形成する。このとき、図6(b)に基づく単位領域210のピッチPx=5μmとし、単位領域210を構成する小領域210a、小領域210bおよび小領域210cの分割幅X、XおよびXをそれぞれ1.67μmと均等に3分割する。また、等方性材料層240は、式(9)において、A=1.523、B=0.0079、そしてC=−0.000178となり、高分子液晶層の常光屈折率方向の特性とほぼ同じ特性を示す透明接着剤を用いる。このようにすることで、常光屈折率方向で入射する光の透過率を高めることができる。一方、異常光屈折率方向の光が入射するとき、回折効率を大きくするために、483nmの光が入射するとき、小領域210aを出射する光の位相を基準とし、小領域210bの位相差φ(1)=π、小領域210cの位相差φ(2)=2πを満たすために、段差d=2.09μm、段差d=4.18μm、となるように加工する。
【0099】
次いで、483nmの光が入射するときの高分子液晶の常光屈折率nにほぼ等しい上記の等方性材料層240に相当する屈折率n=1.553の接着剤により、複屈折性材料層230の凹凸(段差)を充填し、透光性基板220bとなる石英ガラス基板と接着し平坦化する。なお、石英ガラス基板の界面(空気接触側)には図示しない反射防止膜を形成する。なお、このような複屈折性材料層230、等方性材料層240とすることで、波長483nmの光のY方向の直線偏光、つまり異常光に対して、位相差φ(1)=π、位相差φ(2)=2π、位相差φ(3)=3πとなるので回折し、一方、X方向の直線偏光、つまり常光に対しては位相差が生じないので直進透過する、偏光依存性を有する。
【0100】
作製した回折素子200に入射する光のうち、Y方向の直線偏光の波長λの値を380〜820[nm]の範囲で変化させる。図19(a)は、この条件において波長λに対する回折効率ηの特性を計算したものであって、とくに回折次数q=−1,0,+1について示したものである。このとき、BD用の波長帯域である405±10nmの範囲における+1次回折効率η+1は60%以上を示し、また、DVD用の波長帯域である660±20nmの範囲における−1次回折効率η−1および、CD用の波長帯域である785±20nmの範囲における−1次回折効率η−1はいずれも60%以上を示す。
【0101】
一方、図19(b)は、X方向の直線偏光の波長λの値を380〜820[nm]の範囲で変化させるとき、波長λに対する回折効率ηの特性を計算したものである。これより、BD用、DVD用、CD用のいずれの波長帯域においても直進透過率に相当する0次回折光ηは94%以上となり、入射する光の偏光方向によって透過または回折の特性を有する回折素子を得ることができる。
【0102】
(実施例3)
実施例3として、第4の実施形態である回折素子400を作製する。図12において透光性基板420aとして石英ガラス基板を用い、Y方向に配向処理をした図示しない配向膜を形成する。そして、配向膜を形成したもう1枚の図示しない透光性基板を配向膜が対向しさらに配向方向が揃うように平行に配置してできる空隙の厚さが6.4μmとなるようにして周辺をシールする。その後、図示しない注入口から液晶モノマーを注入し、紫外線を照射して液晶を重合硬化させる。これによって、厚さ6.4μmで、波長489nmの光に対するX方向の屈折率である常光屈折率n=1.554、Y方向の屈折率である異常光屈折率n=1.667の高分子液晶層が形成される。なお、高分子液晶層の波長分散特性は、実施例2と同じ特性を有するものを用いる。
【0103】
その後、図示しない透光性基板を離散し、フォトリソグラフィ工程およびドライエッチング工程によって高分子液晶層を1つの方向に延伸する回折格子形状に加工して、複屈折性材料層430を形成する。このとき、図12(b)に基づく単位領域410のピッチPx=10μmとし、単位領域410を構成する小領域410a、小領域410b、小領域410cおよび小領域410dの分割幅X、X、XおよびXのうち、X=X=1.5μm、X=X=3.5μmとする。また、各小領域の段差は、等方性材料層440の屈折率nが常光屈折率nに等しい場合を考え、489nmの光が入射するとき、小領域410aを出射する光の位相を基準とし、小領域410bの位相差φ(1)=π、小領域410cの位相差φ(2)=2π、そして小領域410cの位相差φ(2)=3πを満たすために、段差d=2.14μm、段差d=4.27μm、そして段差d=6.40μmとなるように加工する。
【0104】
次いで、489nmの光が入射するときの高分子液晶の常光屈折率nにほぼ等しい屈折率n=1.553の接着剤により、複屈折性材料層430の凹凸(段差)を充填し、透光性基板420bとして石英ガラス基板と接着し平坦化する。また、接着剤の波長分散特性は、実施例2と同じ特性を有するものを用いる。なお、石英ガラス基板の界面(空気接触側)には図示しない反射防止膜を形成する。このような複屈折性材料層430、等方性材料層440とすることで、波長489nmの光のY方向の直線偏光、つまり異常光に対して、位相差φ(1)=π、位相差φ(2)=2π、位相差φ(3)=3πとなるので回折し、一方、X方向の直線偏光、つまり常光に対しては位相差が生じないので直進透過する、偏光依存性を有する。
【0105】
作製した回折素子400に入射する光のうち、Y方向の直線偏光の波長λの値を380〜820[nm]の範囲で変化させる。図20(a)は、この条件において波長λに対する回折効率ηの特性を計算したものであって、とくに回折次数q=−1,0,+1について示したものである。このとき、BD用の波長帯域である405±10nmの範囲における+1次回折効率η+1は60%以上を示し、また、DVD用の波長帯域である660±20nmの範囲における−1次回折効率η−1および、CD用の波長帯域である785±20nmの範囲における−1次回折効率η−1はいずれも60%以上を示す。
【0106】
一方、図20(b)は、X方向の直線偏光の波長λの値を380〜820[nm]の範囲で変化させるとき、波長λに対する回折効率ηの特性を計算したものである。これより、BD用、DVD用、CD用のいずれの波長帯域においても直進透過率に相当する0次回折光ηは94%以上となり、入射する光の偏光方向によって透過または回折の特性を有する回折素子を得ることができる。
【0107】
(実施例4)
実施例4は、第8の実施形態に係る投射型液晶表示装置800の回折素子830の位置に第2の実施形態に係る図6に示す回折素子200を配置する。回折素子200の作製方法は、実施例2と同じ方法であって、また、使用する材料および形状も同じものである。
【0108】
このようにして作製した回折素子200を図18の投射型液晶表示装置800の回折素子830の位置に、複屈折性材料層230の常光屈折率nとなる方向が、X方向となるように配置する。ここで、青色光を出射する半導体レーザ810BからのY方向の直線偏光の光が液晶ライトバルブ820Bを透過して回折素子830に入射すると実施例2における光学特性と同様に、+1次回折光の回折効率η+1が60%以上発生し、投射レンズ840の光軸に沿った方向へ進行する。同様に、赤色光を出射する半導体レーザ810RからのY方向の直線偏光の光が液晶ライトバルブ820Rを透過して回折素子830に入射すると−1次回折光の回折効率η−1が60%以上発生し、投射レンズ840の光軸に沿った方向へ進行する。
【0109】
一方、緑色光を出射する半導体レーザ810GからのX方向の直線偏光の光が液晶ライトバルブ820Gを透過して回折素子830に入射すると95%以上の直進透過率(0次回折効率)で投射レンズ840の光軸に沿った方向へ直進透過する。この結果、液晶ライトバルブ820B、820Gおよび820Rで生成された青色、緑色および赤色の透過光は本発明の回折素子200により光軸が揃うように合成され、投射レンズ840により液晶ライトバルブの合成画像がスクリーン850に結像される。
【0110】
このように本願発明の回折素子を用いることで、従来の投射型液晶表示装置に用いられていた高価で、かつ立体形状のダイクロイックプリズムを用いることなく実現できるため、安価でかつ小型化が実現できる。とくにダイクロイックプリズムの場合、各波長の半導体レーザをダイクロイックプリズムの各入射面に垂直に配置しなければならない制限があるため、さらに小型化の面で困難を生じる。その点において、本実施例の回折素子は平板状で、かつ入射面に対し垂直もしくは斜めに入射するため小型化の面で大きな利点を有する。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上説明したように、本発明の回折格子形状の回折素子を用いることにより、複数の異なる波長の光が入射するとき、回折する光の次数の符号が波長によって異なるようにして大きく偏向させることができる。とくに、3つの小領域に分割あるいは4つの小領域に分割された単位領域が周期的に配列した回折格子であって、格子ピッチが従来の回折格子より細かくならない比較的簡単な構成により上記機能を実現できる。さらに、本発明の回折素子を用いることにより、複数の波長帯域の光に対して、第1の偏光方向の入射光は、いずれの波長の光も高い直進透過率が得られ、第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向の入射光は、波長を選択して透過する方向を偏向させることができる。このような回折素子を光ヘッド装置または投射型液晶表示装置に適用することで装置の小型化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】第1の実施形態に係る回折素子の構成例を示す平面模式図
【図2】第1の実施形態に係る回折素子の単位領域を示す平面模式図および断面模式図
【図3】第1の実施形態に係る回折素子へ入射する光の波長λに対する回折効率ηの特性を示す一例のグラフ
【図4】第1の実施形態に係る回折素子の他の構成を示す断面模式図
【図5】第1の実施形態に係る回折素子へ入射する光の波長λに対する回折効率ηの特性を示す一例のグラフ
【図6】第2の実施形態に係る回折素子の単位領域を示す平面模式図および断面模式図
【図7】第3の実施形態に係る回折素子の構成例を示す平面模式図
【図8】第3の実施形態に係る回折素子の単位領域を示す平面模式図および断面模式図
【図9】第3の実施形態に係る回折素子へ入射する光の波長λに対する回折効率ηの特性を示す一例のグラフ
【図10】第3の実施形態に係る回折素子の他の構成を示す断面模式図
【図11】第3の実施形態に係る回折素子へ入射する光の波長λに対する回折効率ηの特性を示す一例のグラフ
【図12】第4の実施形態に係る回折素子の単位領域を示す平面模式図および断面模式図
【図13】第5の実施形態に係る回折レンズの単位領域を示す平面模式図および断面模式図
【図14】第5の実施形態に係る回折レンズを用いて規格の異なる光ディスクに集光させるための光学系の模式図
【図15】第5の実施形態に係る回折レンズの他の構成を示す断面模式図
【図16】第1〜第4の実施形態に係る回折素子を用いる光ヘッド装置の構成例
【図17】第2、第4の実施形態に係る回折素子を用いる光ヘッド装置の構成例
【図18】第2、第4の実施形態に係る回折素子を用いる投射型液晶表示装置の構成例
【図19】実施例2において、回折素子へ入射する光の波長λに対する回折効率ηの特性を示す一例のグラフ
【図20】実施例3において、回折素子へ入射する光の波長λに対する回折効率ηの特性を示す一例のグラフ
【符号の説明】
【0113】
100、200、300、400、620、680、720、830 回折素子
110、130、140、210、310、330、340、410、510、520、530 単位領域
110a、110b、110c、130a、130b、130c、140a、140b、140c、210a、210b、210c、310a、310b、310c、310d、330a、330b、330c、330d、340a、340b、340c、340d、410a、410b、410c、410d、510a、510b、510c、520a、520b、520c、530a、530b、530c 小領域
111、131、141、311、331、341 透光性基板面
120、220、220a、220b、320、420、420a、420b 透光性基板
230、430 複屈折性材料層
240、440 等方性材料層
500、501、502 回折レンズ
511、521、531 輪帯
540B、550B BD用の405nm波長帯の光
540D、550D DVD用の660nm波長帯の光
540C、550C CD用の785nm波長帯の光
560、660 対物レンズ
570、670 光ディスク
570B BDの情報記録面
570D DVDの情報記録面
570C CDの情報記録面
600、700 光ヘッド装置
610B BD用の半導体レーザ
610D DVD/CD用の2波長を出射する半導体レーザ
630 偏光ビームスプリッタ
640 コリメータレンズ
650 1/4波長板
690B BD用の光検出器
690D DVD/CD用の光検出器
710 BD/DVD/CD用の3波長を出射する半導体レーザ
800 投射型液晶表示装置
810B 青色光用半導体レーザ
810G 緑色光用半導体レーザ
810R 赤色光用半導体レーザ
820B、820G、820C 液晶ライトバルブ
840 投射レンズ
850 スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が異なるm個の光が入射し(m≧2の整数)、前記光の位相を変調して透過する回折素子であって、
前記回折素子は、透光性基板上に回折格子が形成されるかまたは前記透光性基板の一つの面が回折格子となる形状を有し、
前記回折格子は、格子ピッチPxの幅を有し、前記格子ピッチPxの幅の方向と直交する方向に延伸してなる単位領域が前記格子ピッチPxの幅の方向に繰り返して配置され、
前記単位領域は、回折格子が形成されない前記透光性基板の面と平行で距離が同一となる面からなる区画を1つの小領域とするとき、前記透光性基板面からの距離が互いに異なるN個の小領域を含み、前記小領域は、前記格子ピッチPxの幅の方向と直交する方向に延伸して構成され(N≧3の整数)、
m個の前記光のうち、最も短い波長を波長λ、最も長い波長を波長λとし、λ≦λ≦λである波長λの光が同相で入射するとき、最も位相が進む前記小領域であるゼロの小領域を透過する光の位相と、前記ゼロの小領域と異なる前記小領域を透過する前記波長λの光の位相との差で定義される位相差がそれぞれπの整数倍であり、
入射するm個の前記光は、それぞれ最も高い回折効率が得られる次数の回折光を1つ有し、さらに、+p次の回折効率が最も高い光と、−q次の回折効率が最も高い光(p,q≧1の整数)を、それぞれ少なくとも1つずつ含む回折素子。
【請求項2】
波長が異なるm個の光が入射し(m≧2の整数)、前記光の位相を変調して透過する回折素子であって、
前記回折素子は、透光性基板上に回折格子が形成されるかまたは前記透光性基板の一つの面が回折格子となる形状を有し、
前記透光性基板上の点Aを基点として前記透光性基板面と平行する直線上に格子ピッチP、P、…、P(P>P>…>P)の順に円形の領域または外縁が円である輪帯状の領域を含むM個の単位領域を有し、
前記単位領域は、断面が前記透光性基板面と平行し、かつ高さが異なる面を有するとともに、前記点Aを中心とした円の円周方向に沿って延伸してなるN個の小領域を有し(N≧3の整数)、
m個の前記光のうち、最も短い波長を波長λ、最も長い波長を波長λとし、λ≦λ≦λである波長λの光が同相で入射するとき、最も位相が進む前記小領域であるゼロの小領域を透過する光の位相と、前記ゼロの小領域と異なる前記小領域を透過する前記波長λの光の位相との差で定義される位相差がそれぞれπの整数倍であり、
入射するm個の前記光は、それぞれ最も高い回折効率が得られる次数の回折光を1つ有し、さらに、+p次の回折効率が最も高い光と、−q次の回折効率が最も高い光(p,q≧1の整数)を、それぞれ少なくとも1つずつ含む回折素子。
【請求項3】
前記+p次の回折効率、前記−q次の回折効率のp,qの値がいずれも1である請求項1または2に記載の回折素子。
【請求項4】
前記単位領域は3個の前記小領域からなって、前記単位領域の端部よりそれぞれ第1の小領域、第2の小領域、第3の小領域とし、
前記第1の小領域の幅をX、前記第2の小領域の幅をX、前記第3の小領域の幅をXとするとき、
=X=X=Px/3、
である請求項1〜3いずれか1項に記載の回折素子。
【請求項5】
前記第1の小領域が前記ゼロの小領域であって、
前記第1の小領域の位相差をφ(0)、前記第2の小領域の位相差をφ(1)、前記第3の小領域の位相差をφ(2)とするとき、
φ(0)=0、
φ(1)=π、
φ(2)=2π、
となる前記単位領域の形状を有する請求項4に記載の回折素子。
【請求項6】
前記単位領域は4個の前記小領域からなって、前記単位領域の端部よりそれぞれ第1の小領域、第2の小領域、第3の小領域、第4の小領域とし、
前記第1の小領域の幅をX、前記第2の小領域の幅をX、前記第3の小領域の幅をX、前記第4の小領域の幅をXとするとき、
:X:X:X=3:7:7:3、
である請求項1〜3いずれか1項に記載の回折素子。
【請求項7】
前記第1の小領域が前記ゼロの小領域であって、
前記第1の小領域の位相差をφ(0)、前記第2の小領域の位相差をφ(1)、前記第3の小領域の位相差をφ(2)、前記第3の小領域の位相差をφ(3)とするとき、
φ(0)=0、
φ(1)=π、
φ(2)=2π、
φ(3)=3π、
となる前記単位領域の形状を有する請求項6に記載の回折素子。
【請求項8】
前記回折格子は、複屈折性を有する複屈折性材料と等方性透明材料とが、前記回折格子の凸部と凹部とを構成してなる偏光回折格子であって、
前記複屈折性材料の常光屈折率nまたは異常光屈折率n(n≠n)のいずれか一方の屈折率が等方性透明材料の屈折率nと等しい請求項1〜7いずれか1項に記載の回折素子。
【請求項9】
光源と、
前記光源からの光を偏向分離するビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタを出射した光を光ディスク上に集光させる対物レンズと、
前記光記録媒体で反射した光を検出する光検出器と、を備える光ヘッド装置であって、
前記光源と前記ビームスプリッタとの間の光路中および、前記ビームスプリッタと前記光検出器との間の光路中に、請求項1または請求項3〜8いずれか1項に記載の回折素子が配置される光ヘッド装置。
【請求項10】
光源と、
前記光源を出射した光を光ディスク上に集光させる対物レンズと、
前記ビームスプリッタと前記光ディスクとの間に配置された、前記光に対して1/4波長の位相差を生じる1/4波長板と、
前記光ディスクで反射した光を検出する光検出器と、を備える光ヘッド装置であって、
前記光源と前記対物レンズとの光路と、前記対物レンズと前記光検出器との光路と共通する光路中に請求項8に記載の回折素子が配置された光ヘッド装置。
【請求項11】
光源と、
前記光源からの光を偏向分離するビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタを出射した光を光ディスク上に集光させる対物レンズと、
前記光ディスクで反射した光を検出する光検出器と、を備える光ヘッド装置であって、
前記ビームスプリッタと前記対物レンズとの間の光路中に、請求項2に記載の回折素子が配置される光ヘッド装置。
【請求項12】
前記光源は、3つの異なる波長λ、波長λ、波長λの光を発射し、
前記波長λは395〜415nmの範囲の405nm波長帯、
前記波長λは640〜680nmの範囲の660nm波長帯、
前記波長λは765〜805nmの範囲の785nm波長帯、
である請求項9〜11いずれか1項に記載の光ヘッド装置。
【請求項13】
光源と、
表示する画像に応じて前記光源から出射された可視光を変調する液晶ライトバルブと、
前記液晶ライトバルブにより生成された画像を拡大投影する投影レンズと、を備えた投射型表示装置において、
前記液晶ライトバルブと前記投影レンズとの光路中に請求項8に記載の回折素子が配置される投射型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−127977(P2010−127977A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299504(P2008−299504)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】