説明

回路形成方法及び転写体

【課題】十分な密着性、高透光性、低抵抗、高精細、高信頼性、絶縁性を有し、かつ低コスト、短納期、低環境負荷、アライメントフリーなどの要求を満足させる透明配線を形成するための、金属酸化薄膜素子の転写方法を提供する。
【解決手段】基材1に形成された回路転写層5および電極転写層3を有する転写体の回路転写層5および電極転写層3を選択的に被転写体8に転写する回路形成方法であって、前記基材1上の少なくとも一方の面に電極転写層3および回路転写層5が形成された転写体及び、前記電極転写層3および回路転写層5を転写させるための被転写体8を用意する工程、前記転写体の回路転写層5面と被転写体8とを対向させる工程、前記転写体及び/又は被転写体8側からレーザを選択的に照射することにより、前記転写体の回路転写層5および電極転写層3を選択的に転写する工程とを有することを特徴とする回路形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路形成方法及び転写体、より詳しくはフラットパネルディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、タッチパネルなどの透明電極として使用するITO、SnO、TiO、RuOなどの金属酸化薄膜の回路形成方法及び転写体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電回路を始め、金属酸化薄膜配線、薄膜抵抗体などを搭載した電子回路基板は、従来はフォトリソグラフ法による湿式プロセスによって製造されてきた。
フォトリソグラフ法では、写真製版で製造される高価なガラスマスクの製作が必須であり、回路基板の設計から製造までの時間短縮のために、ガラスマスクに代わって、レ−ザ照射により感光性ドライフィルムに回路を、直接描画する直描システムが導入されつつある。
【0003】
しかしながら、上記方法によっても、湿式プロセスによる現像、エッチング、レジスト剥離の工程は不可欠であり、近年の需要増大と回路基板の高機能化に対応出来る低コスト、短納期、低環境負荷の要求に対応出来ない。
【0004】
ところで、特許文献1には、金属酸化薄膜について、基材に酸化薄膜が形成された熱転写媒体を用い、レーザ熱転写により回路が形成できることが示唆されている。しかしながら特許文献1では、金属酸化層を形成するために有機バインダーが必要であるため、導電性が悪く、実用化されていないのが現状である。
【0005】
また特許文献2には、金属薄膜について、基材に保護層、金属層、接着層が形成された熱転写媒体を用い、サーマルヘッドやホットスタンプにより前記金属層を基板に熱転写することによりアンテナ回路を形成する製造方法が開示されている。本製造方法によれば湿式プロセスによる現像、エッチング、レジスト剥離が不要となり低環境負荷の要求に対応している。
しかしながら本製造方法によると、熱供給源であるサーマルヘッドの問題から3000Åを越える膜厚を有する金属層を転写することが尚実現することができていない。
【特許文献1】特開2006−351543号公報
【特許文献2】特開2005−182508号公報
【0006】
透明電極を始めとする金属酸化薄膜配線を低コスト、短納期、高信頼性、高精細、低環境負荷で供給する必要性は緊急課題であり、環境問題の深刻化にともない、ドライプロセスによる従来のフォトリソグラフ法に負けない画期的な製造技術の開発が期待されている。
【0007】
特に液晶関連分野では、透明電極に対して、さらなる高精細、低抵抗化の要求が増大している。このような透明導電膜の成膜を行う基板は、従来はガラス・エポキシ基板などの耐熱性に優れた材料が使用されており、高温成膜で低抵抗な膜形成が可能であった。
【0008】
しかしながら、近年、フレキシブルディスプレイなどに代表される高分子ポリマー系材料への成膜が期待されている。この場合は、基板の耐熱性が不十分であるので、低温での成膜を実施しなければならなくなり、必要な低抵抗性を確保することが困難である。
【0009】
そこで本発明者らは先に、基材に形成された薄膜素子を有する転写体の薄膜素子を選択的に被転写体に転写する方法であって、前記基材上の少なくとも一方の面、及び/又は前記薄膜素子の少なくとも一方の面には光熱変換層が形成されており、前記転写体の前記被転写体との対向面、前記被転写体の前記転写体との対向面の少なくとも一面に接着層が形成されており、前記被転写体又は前記転写体のいずれかをXYステージに載置する工程、前記転写体と被転写体とを接着層を介して対向させる工程、前記転写体及び前記被転写体のうち、前記XYステージに載置されていない面の周縁部と、前記XYステージのうち前記被転写体8又は前記転写体が載置されていない部分とを一体のシートで覆い、前記XYステージに設けた吸引部を稼働する工程、レーザ光の光源に対して前記XYステージを相対的に移動することにより前記光熱変換層に前記レーザ光を選択的に照射し、光熱変換層によりレーザ光を熱に変換し、前記接着層を選択的に溶融・軟化させ、薄膜素子と被転写体とを選択的に接着させる工程、前記選択的に接着された薄膜素子を前記転写体から離脱させて被転写体に転写層を形成する工程とを有し、前記薄膜素子が金属酸化薄膜により構成されている転写方法を提案した(特願2007−77620号)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明によれば、PETフィルム、ガラス基板などに対してレーザ熱転写による高精細な、透明電極を含む金属酸化膜による回路形成を実現することができる。従来のフォトリソグラフ法に比較して、高価なガラスマスクが不要となり、紫外線照射による露光、薬品処理による現像、エッチング、レジスト剥離工程が不要となる。
【0011】
しかしながら本発明においても、以下のような問題がある。
例えば、タッチパネルなどに使用するため、透明導電膜により回路電極を上記のような方法で形成したとしても、依然として末端の電極形成では、例えばスクリーン印刷による銀ペースト塗布等の工程が必要であり、この場合、末端の電極形成のために高価なスクリーン版を形成する必要が生じる。また、特に液晶関連分野では、透明導電膜に対して、さらなる高精細化の要求が増大している。このような高精細な透明導電膜の端末に電極を形成する場合、透明導電膜と端末電極のアライメントが非常に困難となり、このアライメントの困難さが高精細化の阻害要因ともなっている。
【0012】
本発明は、透明導電膜回路用の基板として、ガラス基板だけでなく、高分子系材料で構成される基板上などへ、十分な密着性、低抵抗、高精細、高信頼性、絶縁性を有し、かつ低コスト、短納期、低環境負荷、アライメントフリーなどの要求を満足させる配線を形成するための回路形成方法および転写体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の回路形成方法は、基材1に形成された回路転写層5および電極転写層3を有する転写体7の回路転写層5および電極転写層3を選択的に被転写体8に転写する回路形成方法であって、前記基材1上の少なくとも一方の面に電極転写層3および回路転写層5が形成された転写体7及び、前記電極転写層3および回路転写層5を転写させるための被転写体8を用意する工程、前記転写体7の回路転写層5面と被転写体8とを対向させる工程、前記転写体7及び/又は被転写体8側からレーザを選択的に照射することにより、前記転写体7の回路転写層5および電極転写層3を選択的に転写する工程とを有することを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の転写体7は基材1の一方の面に第1の光熱変換層2、電極転写層3、第2の光熱変換層4、回路転写層5がこの順に形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の転写体7は、基材1の一方の面に紫外線硬化型の接着剤層、電極転写層3、回路転写層5がこの順に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、PETフィルム、ガラス基板などに対してレ−ザ転写による高精細な、透明電極を含む金属酸化薄膜による回路、及び末端の電極等をアライメントフリーで形成することを実現できる。従来のフォトリソグラフ法に比較して、高価なガラスマスクが不要となり、紫外線照射による露光、薬品処理による現像、エッチング、レジスト剥離工程が不要となる。製造プロセス上、処理薬品が不要となり、排液が出ない、環境に優しい完全なドライプロセスである。
【0017】
転写物は回路形状のムラが無く均一であり、電気伝導性にすぐれ、密着強度も実用に供せられる範囲であり、信頼性テストにも耐えうる高信頼性の回路基板として、実用に供せられる範囲である。回路の寸法精度から見ても、線幅20μm以下での形成が可能であり、今後予想される、液晶ディスプレイの高精細化にも対応可能である。また、回路配線材料として主に使用されているITOだけではなく、その他の金属酸化薄膜などの転写にも利用可能であり、電子業界向けに応用可能な基本技術となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明による回路方法は、基材1に形成された回路転写層5および電極転写層3を有する転写体7の回路転写層5および電極転写層3を選択的に被転写体8に転写する回路形成方法であって、前記基材1上の少なくとも一方の面に電極転写層3および回路転写層5が形成された転写体7及び、前記電極転写層3および回路転写層5を転写させるための被転写体8を用意する工程、前記転写体7の回路転写層5面と被転写体8とを対向させる工程、前記転写体7及び/又は被転写体8側からレーザを選択的に照射することにより、前記転写体7の回路転写層5および電極転写層3を選択的に転写する工程とを有することを特徴とする。
【0020】
図1は、本発明の転写体7の一例を示す、厚さ方向の模式断面図である。
[基材]
【0021】
基材1はレーザ転写やサーマルヘッドによる熱転写等に用いられている基材であれば特に限定はされない。しかしながら、透明電極を含む金属酸化薄膜素子は所定の高温下での形成によりベストの透光性、低抵抗性、高信頼性が得られるので、そのような高温下でも変質しない基材であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミド(PID)フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルムなどが好適に用いられる。また、上記のようなレーザ転写やサーマルヘッドによる熱転写等で一般的に用いられている基材の他にも、ソーダガラス等のガラス材も好適に用いることができる。
基材1の厚さは特に限定はされないが、好ましくは4.5μm〜200μm、より好ましくは20μm〜188μm、更に好ましくは50μm〜100μmである。
[光熱変換層]
【0022】
第1及び第2の光熱変換層は特開平10−31304号公報、特開平10−86512号公報に開示されている公知の光熱変換層であってもよく、アモルファスカーボン等からなる光熱変換層であってもよい。光熱変換層の厚みは特に限定はされないが、使用するレーザ波長の吸収率が、25%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上となる厚みである。
【0023】
本発明に用いられる光熱変換層としては、前記レーザ光を選択的に照射されると前記レーザ光を熱に変換し、前記熱により選択的に、前記接着層6を溶融・軟化させる機能に加えて、(a)前記光熱変換層2そのものを前記熱により選択的に瞬間的に蒸発させる機能、(b)前記光熱変換層2中に存在する気体物質を前記熱により選択的にガス化する機能、(c)前記光熱変換層2と前記薄膜素子3の界面で前記熱により選択的に化学反応を生じさせる機能の内、少なくともいずれか一つの機能を有することが望ましい。
【0024】
機能(a)により、基材1と電極転写層3を接着している第1の光熱変換層2が(選択的に)失われ、電極転写層3の基材1からの(選択的)剥離を容易にする。また同様に第2の光熱変換層が(選択的に)失われ電極転写層3の回路転写層5からの(選択的)剥離を容易にする。
また、機能(a)による蒸発の際の気化圧、機能(b)によるガス圧、及び/又は、機能(c)により、回路転写層5を構成する金属酸化薄膜中の酸素が光熱変換層中の元素、例えば炭素と反応して酸化炭素を発生する際のガス圧が、電極転写層3を回路転写層5から(選択的に)離脱させ、例えば接着層6を介して被転写体8に押し付ける方向に働き、電極転写層3の回路転写層5からの剥離と、回路転写層5の被転写体8への接着を容易にする。
【0025】
この要請を満たすためには、本発明に用いられる光熱変換層としては、以下に示すダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜からなる光熱変換層がより好ましい。
[ダイヤモンドライクカーボン]
【0026】
ダイヤモンドライクカーボンは、ダイヤモンドに類似した炭素(カーボン)薄膜材料のことである。炭素材料は原子間の結合形態によって様々な結晶構造をとるが,このうちダイヤモンドライクカーボン(DLC)は、炭素を主成分とし、ダイヤモンド結合(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の両方の結合が混在しているアモルファス構造と定義される。
【0027】
ダイヤモンドライクカーボンの成膜方法としては,プラズマCVD(化学気相成長法)やPVD(物理気相成長法)等があり、特に限定されない。一般的な製法の一つは,PVDの一種であるイオンプレーティング法である。真空チャンバー中にベンゼンなどの炭化水素ガスを導入し,直流アーク放電プラズマ中で炭化水素イオンを生成させる。この炭化水素イオンは負電圧をもった被コーティング材にその電圧に応じたエネルギーで衝突し固体化、成膜するという仕組みで形成することができる。
【0028】
このようなダイヤモンドライクカーボンからなる光熱変換層では、レーザ光照射により、光吸収し、急激な発熱反応により、大気中の酸素あるいは金属酸化物と界面をなす場合は界面において金属酸化物中の酸素と光熱変換層の炭素とが反応しCOとしてガス化することにより、その後の金属酸化薄膜の剥離が効率よく進行する。また、ガス化の際に発生する圧力により、剥離した金属酸化物が接着層6に強い力で押し付けられることにより、より優れた密着力が得られる効果も期待される。
前記光熱変換層を構成するダイヤモンドライクカーボンとしては、水素、窒素や、フッ素を含むグループから選択された少なくとも1種の気体物質(即ち、前記光熱変換層中に吸着されて存在する、常温で気体の物質)を1〜60原子%の含有率で含むことが好ましい。
【0029】
このような構成をとることで光熱変換層は、上記(a)(b)(c)の機能を合わせ持つ。即ち、レーザ光照射により、上記の効果に加え、フッ素や窒素等が前記熱により選択的にガス化され、放出されることにより電極転写層3の剥離がより促進される。前記気体物質が1原子%以下の時には水素やフッ素等の気体放出による剥離促進の効果はない。前記気体物質が60原子%以上においては、ダイヤモンドライクカーボンからなる光熱変換層が膜として存在することが困難である。水素ガス等の気体物質を含有させるためのDLC膜形成技術としてはCVD法や例えば水素含有ガス雰囲気でのスパッタ法などのPVD法による成膜が可能である。
【0030】
このようなダイヤモンドライクカーボンからな光熱変換層の厚みは、好ましくは10nm〜1000nm、より好ましくは20nm〜300nmである。上記範囲未満であるとレーザ光照射などによる光吸収が少なく、発熱体としての機能が不十分となる。特に第2の光熱変換層4は回路転写層5と電極転写層3間の導電性維持のため好ましくは20nm〜100nmである。また、上記範囲を超えるとDLC膜内での剥離が発生する確率が高くなる。DLC膜内で剥離が発生した場合、被転写体8表面にDLC膜の一部が異常転写されることになるので、DLC膜を除去する工程が必要となる恐れがある。
[接着層]
【0031】
本発明における接着層6の接着剤としては、共重合ポリアミド樹脂とエポキシ樹脂からなる組成物であることが好ましい。
前記共重合ポリアミド樹脂としては、二塩基酸やジアミンを共重合して得られる共重合ポリアミド樹脂等が挙げられ、例えば以下に示す構成のものをあげることができる。
[共重合ポリアミド樹脂]
【0032】
モノマーとして二塩基酸および2種類以上のジアミンを用いて得られる。前記二塩基酸としては、具体的には、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ウンデカン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。また、前記ジアミンとしては、具体的には、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、p−ジアミノメチルシクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、m−キシレンジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミン等が挙げられる。そして前記共重合ポリアミド樹脂が、特に、脂肪族二塩基酸と脂環式ジアミンとを共重合して得られたものである場合、溶媒への溶解性に優れ、長期間保存しても粘度の上昇がほとんどなく、また、広範囲な被転写体8に対して良好な接着性を示すため好ましい。
また、前記共重合ポリアミド樹脂には、その調製時にアミノカルボン酸等を適宜配合してもよい。具体的には、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデンカン酸、4−アミノメチル安息香酸、4−アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、α−ピロリドン、α−ピペリドン等のラクタム等が挙げられる。このようにして得られる共重合ポリアミド樹脂は、例えば6/66、6/6−10、6/66/6−10、6/66/11、6/66/12、6/6−10/6−11、6/11/イソホロンジアミン、6/66/6、6/6−10/12等の構成を有する。さらに分子中のポリアミド結合にN−アルコキシメチル基を導入した共重合ポリアミド樹脂としてもよい。
【0033】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、クレゾールノボラック型、フェノールノボラック型のエポキシ樹脂などが挙げられる。これらエポキシ樹脂は単独で使用してもよく、2種似上を併用してもよい。
【0034】
前記共重合ポリアミド樹脂とエポキシ樹脂の配合割合は9:1〜6:4であることが好ましい。この範囲であれば被転写体8に薄膜素子を転写した際の転写性及び耐作家性が良好なものとなるので好ましい。
このような組成からなるホットメルト系接着剤を塗布乾燥してBステージ状態にしてなる接着層6であることが好ましい。これらの接着剤は被転写体8と接着した際に発現する接着力が第1の光熱変換層2と電極転写層3との接着力を上回っていることが好ましく、それにより接着材層と被転写体8とが接着した後、ピーリングする際により正確に第1の光熱変換層2と電極転写層3との間で剥離することが可能となる。
【0035】
図1においては、接着層6を転写体7側に形成しているが、被転写体8側に形成してもよく、また、転写体7側、被転写体8側の両方に形成してもよい。
[被転写体]
【0036】
本発明においては、被転写体8としては回路が形成される基板や電磁遮蔽フィルム等で一般的に用いられている公知の被転写体8を用いることができる。例えばソーダガラス、石英ガラス等のガラス材からなる被転写体8、ガラス・エポキシ基板のような被転写体8、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の高分子フィルム等を挙げることができるがこれらに限定されない。これら被転写体8の表面に前記したように接着剤を予め塗布しておいてもよい。
【0037】
図2は、本発明による回路形成方法を説明するための図である。
例えばポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ダイヤモンドライクカーボン等からなる第1の光熱変換層2を設け、その第1の光熱変換層2上に例えばAgからなる金属薄膜の電極転写層3が形成され、さらに電極転写層3上にダイヤモンドライクカーボン等からなる第2の光熱変換層4を設け、その第2の光熱変換層4上にITOからなる金属酸化薄膜の回路転写層5が形成されている転写体7を用意する。一方被転写体8として例えばガラス材等を用意する。本図の例では接着層6は転写体7側に形成されている。
【0038】
図2(A)に示すように、図示しないXYステージ上に被転写体8を静置し、その上から接着層6が下面となるように転写体7を静置する。XYステージには空気を吸引するための吸引部が設けられており、この吸引部から空気を吸引することにより、転写体7にシワ等が発生することを防止し、又、転写体7と被転写体8を当接した場合の密着性を向上させる。
【0039】
次に図2(B)に示すように図示しないレーザ光源から対物レンズにて焦点を合わせて第2の光熱変換層4にレーザ光L(実線矢印)を照射する。第1の光熱変換層2、電極転写層3、第2の光熱変換層4、回路転写層5、接着層6のうち、レーザ光が照射された部分は、回路転写層5を通過したレーザ光によって第2の光熱変換層44aが発熱し、その熱により、その直下の接着層6が溶融・軟化し接着性を発現することで、被転写体8と接着層6〜回路転写層5〜電極転写層3とが接着されることとなる。
【0040】
その際XYステージを所望形状の転写が得られるように操作しながら、即ちレーザ光を選択的に照射することで、所望のパターンとなるように接着層6〜回路転写層5〜電極転写層3を被転写体8に接着させることができる。尚、前記した対物レンズによる焦点合わせは基材1、薄膜素子の、光熱変換層の物性や厚さ等によりどこに焦点を合わせるか相違するため、それらの物性等にあわせて、予め焦点合わせの位置決めをしておくことが好ましい。
【0041】
ついで、回路転写層5上の電極転写層3の所望箇所のみを被転写体8側に残すために、被転写体8側から、図示しないレーザ光源から対物レンズにて焦点を合わせて第1の光熱変換層2にレーザ光L(点線矢印)を照射する。電極転写層3、第1の光熱変換層2、回路転写層5、接着層6のうち、レーザ光が照射された部分は、これにより第2の光熱変換層4が内のガス放出圧力により電極転写層3界面から第2の光転写層4(及び電極転写層3)が剥離される。
【0042】
ついで、必要により所望条件にて乾燥、放置等を行った後、図2(C)に示すように、転写体7と被転写体8とを離間することにより、被転写体8に所望形状の回路転写層5及び電極転写層3が転写され、例えばITOによる配線及びその両端末にAgによる電極が形成された回路基板等を得ることができる。このようにして、どのような被転写体8にでも、透光性がよく、低抵抗、かつ高信頼性の金属酸化薄膜を転写することができ、且つ同時一括形成で電極を形成するためアライメントを考慮することなく電極転写層3も一括で形成することができる。
【0043】
本発明による薄膜素子の転写方法では、前記光熱変換層での発熱現象を生ぜしめるために、可視光領域を含む300nm〜1200nmの波長を持ち、転写体7又は被転写体8を透過し、光熱変換層に30%以上透過光が到達するレーザ光を用いることが好ましい。
【0044】
ここで、レーザ光はコヒーレント光であり、光熱変換層内で発熱現象を生じさせるのに適している。
レーザ光の波長としては紫外光から赤外光まで幅広い波長が原理的には使用することが可能であるが、紫外光のレーザ光源は高価であり、また、多くの材料が紫外光に対しては光吸収が大きく、使用することが難しい。赤外光では、光熱変換層以外で発熱する可能性が大きい。
このため、工業的にも安価にレーザが入手できることを含め、本転写技術においては可視光領域、或いは可視光に近い波長領域のレーザ光を使用することが適当である。
【0045】
従ってレーザ光の波長としては、300nm〜1200nmが使用可能であり、好ましくは350nm〜830nmの可視光領域を使用することが好ましい。可視光領域の中でどの波長領域を使用するかは、基材1、光熱変換層、薄膜素子、被転写体8の組み合わせにより最適な波長を選択する事が必要となる。
【0046】
レーザ熱転写を効率良く進行するため、転写体7と被転写体8とを重ね、外側をガラスで挟み、真空にし、レーザ照射を行う、こうすることによって、転写体7の回路転写層5と被転写体8とが接着層6を介してよりよく密着し、光熱変換素子としてDLCを用いている場合は特に、レーザ照射によって発生したCOなどのガスの噴出方向を、レーザ光の照射方向と平行な方向に指向させることができ、効率よく回路形成ができる。
【0047】
レーザ光Lの照射方向は、転写体側7からであっても(図2(B)、実線矢印)、被転写体8側からでもあっても(図2(B)、破線矢印)、場合によっては両側からであってもよいが、各部材の透明度を考慮して、レーザ光が効率よく転写体7の光熱変換層に照射される方向を選択するのが好ましい。金属酸化薄膜素子3が透明な場合は、被転写体8側からの照射(破線矢印)が用いられる場合が多い。
【0048】
前記基材1及び/又は被転写体8は使用するレーザ光の波長において、30%以上透過する材料から構成されることにより、より転写効率を上げることができる。
【0049】
例えば、石英ガラス等のガラス材、ポリエチレンテレフタレート等の透明フィルムなどの透明材料を用いれば、転写体7又は被転写体8の裏面からレーザ光を光熱変換層に効率よく照射することが可能となり、転写効率が向上する。
【0050】
特にプラスチックフィルムなどのフレキシブルな材料からなる被転写体8に薄膜素子を転写することにより転写層からなる回路を形成することで、ガラス製の被転写材とは異なり、しなやかで、軽い、モバイル用ディスプレイや電子ペーパーなどの表示装置を実現することができる。
【0051】
また、この方法によれば、金属酸化薄膜素子の高い形成温度に耐えられない、例えば、ソーダガラス基板等の安価な材料を被転写体8として利用することが可能となり、低価格な回路基板の提供も可能となる。
【0052】
本発明においては薄膜素子の構成材料としては、ITO、SnO、TiO、RuOを含むグループから選択された1又は複数の金属酸化薄膜を好適に用いることができる。
【0053】
レーザ光照射による熱転写を効率良く進行するためには、転写体7と被転写体8とを重ね合わせ、両側からガラス板で挟み込み、レーザ照射を行う。
また、転写体7と被転写体8との密着力を高めるために略真空状態にすると一層、効果的である。
【0054】
上記図2(B)において、レーザ光を照射しながら走査した後、20℃〜80℃で0〜2時間乾燥し、しかるのち常温にて放置時間0〜24時間経過後、転写体7を被転写体8から離脱させる。
【0055】
[実施例1〜6、比較例1〜2]
[光熱変換層としてDLC膜を用いる場合]
本実施例では、基材1としては、PETフィルム(膜厚100μm)を用い、第1の光熱変換層2としてDLC膜をPBII(Plasma Based Ion Implantation)法にて、アセチレン(C)ガス添加雰囲気で室温成膜した。
ガス流量・ガス圧・成膜時間は、60ccm、1.0Pa、30分であった
DLC膜の膜厚としては、100nmのサンプルを作成し、その上に、電極転写層3としてAg膜をミラ−トロン(対向タ−ゲットスパッタ法の1種)法で300nm成膜した。
ついで第2の光熱変換層4としてDLC膜をPBII(Plasma Based Ion Implantation)法にて、アセチレン(C)ガス添加雰囲気で室温成膜した。
ガス流量・ガス圧・成膜時間は、60ccm、1.0Pa、15分であった
DLC膜の膜厚としては、50nmのサンプルを作成し、さらにその上に、回路転写層5としてITO膜をミラ−トロン(対向タ−ゲットスパッタ法の1種)法で300nm成膜した。成膜時の膜の抵抗率が2×10−4Ω・cmであった。
このITO膜の表面に表1に示す組成の接着剤を塗布、乾燥し、接着層6を形成した。尚、乾燥後塗布量は1g/m2である。乾燥後130℃×60分キュアリングを実施した。
別途被転写体8としてソーダライムガラス(板厚1.1mm)及びPETフィルム(100μm)を用意し、この被転写体8に接着層6として前記接着層6と同様の接着剤を塗布、乾燥、硬化したものを作成し、実験に供した
【0056】
レーザ光源は、Spectra Physics社のEvolution Xを使用し、波長532nm、パルス幅200ns、繰返し周波数1kHz、実験範囲はワット数0.05W、スキャニングスピ−ド100mm/sである。この光源により、被転写体8側から所望の転写パターンになるように第2の光熱変換層4にレーザ光を照射した。その後、同様のレーザ光源により基材側から、前記転写パターンのうち回路転写層5を除去したい箇所にレーザ光を照射した。
【0057】
尚、上記レーザ光源を、対物レンズ(ニコン社製CFプラン、20*、NA0.46)を使用して、対物レンズで、焦点を合わせて使用した。
【0058】
前記条件にて被転写体8としてのソーダライムガラスに目標線幅20μmのITOパターンを形成し、形成された端部のみに各100μmの回路転写層5が残存するように回路転写層5のパターンを形成し転写性の評価を行った。結果を表1に示す。
<転写性評価>
得られたパターンを光学顕微鏡(100倍)で観察し転写率を算出した。
転写率(%)=得られた転写物の転写面積/目標線幅で理想的に転写された場合の面積×100
転写性評価1:ITOのみ残存させた部分
転写性評価2:回路転写層(Ag)も残存させた部分
(評価基準)
○ 転写率90%以上100%以下
△ 転写率70%以上90%未満
× 転写率70%未満
<耐擦過性>
被転写体8として前記PETフィルムを用い前記した転写条件で幅0.25mm、長さ50mmのITOパターンを形成した。
次にそのパターン表面をJIS L−0823に準拠した擦過試験機(電動式クロックメータNo.416−TMI、安田精機製作所製)の摩擦子の先端に取り付けたφ10.9mmのスチールボールと接触させ、荷重900gf/cm2で30回往復ラビングさせ、試験後のパターンの状態を目視で観察し評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
擦過性評価1:ITOのみ残存させた部分
擦過性評価2:回路転写層(Ag)も残存させた部分
◎ パターンはPET表面に強固に接着しており形状に変化がない。
○ 擦過された跡が若干残るがパターンはPETに接着している。
△ 擦過されたことにより部分的な欠落が発生している。
× 擦過されたことにより完全に欠落している。
【0059】
【表1】

エポキシ樹脂1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン製エピコート1003
エポキシ樹脂2:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂;チバスペシャリティケミカルズ社製アラルダイトECN−1273
共重合ポリアミド樹脂:ナイロン12を主体とした共重合ポリアミド樹脂をメトキシメチル化(置換率20〜40%)した樹脂;ダイセル・ヒュルス社製ダイアミドX1874M
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明による薄膜素子の転写方法に用いられる転写体を説明するための図である。
【図2】本発明による薄膜素子の転写方法を説明するための図であり、 (A)は、転写体と被転写体を重ねて静置した状態、 (B)は、(A)にレーザ光を選択的に照射した状態、 (C)は、(B)の転写体を被転写体から離脱した状態、を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 基材
2 第1の光熱変換層
3 電極転写層
4 第2の光熱変換層
5 回路転写層
6 接着層
7 転写体
8 被転写体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材1に形成された回路転写層5および電極転写層3を有する転写体7の回路転写層5および電極転写層3を選択的に被転写体8に転写する回路形成方法であって、前記基材1上の少なくとも一方の面に電極転写層3および回路転写層5が形成された転写体7及び、前記電極転写層3および回路転写層5を転写させるための被転写体8を用意する工程、前記転写体7の回路転写層5面と被転写体8とを直接又は他の層を介して対向させる工程、前記転写体7及び/又は被転写体8側からレーザを選択的に照射することにより、前記転写体7の回路転写層5および電極転写層3を選択的に転写する工程とを有することを特徴とする回路形成方法。
【請求項2】
基材1の一方の面に少なくとも第1の光熱変換層2、電極転写層3、第2の光熱変換層4、回路転写層5がこの順に形成されていることを特徴とする転写体7。
【請求項3】
基材1の一方の面に紫外線硬化型の接着剤層、電極転写層3、回路転写層5がこの順に形成されていることを特徴とする転写体7。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−170680(P2009−170680A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7543(P2008−7543)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度 科学技術振興機構 独創的シーズ展開事業(独創モデル化)、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(391061037)日本電気化学株式会社 (7)
【Fターム(参考)】