説明

回路遮断器

【課題】 従来の回路遮断器におけるア−ク消弧は、接点開極時にア−クと共に発生するガスを高圧に加圧し、これをア−クに吹付け消弧していた。そのため、接点を高耐圧の消弧容器内に設置する必要があるという課題があった。
【解決手段】 高融解点合金の第1接点111と低融解点合金の放電電極121を設けた第1接触子101、高融解点合金の第2接点211を設けた第2接触子221、これら第1接触子101と第2接触子201を収納し、前記第1接触子101と第2接触子201の接離時に発生するア−クAによって生成するガスを加圧保持する蓄圧空間Uと前記生成するガスを放出する排気口311を有し、前記蓄圧空間Uからのガスの流れにより前記第1接点111上に発生するア−クAを前記放電電極121上に移動し消弧させる消弧容器301を備えることで、消弧容器301内の圧力上昇を抑止した回路遮断器を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接点対を開極させて電流を遮断する回路遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の回路遮断器においては、1対の接触子上に設けられた接点対の開極時に発生するア−クを、そのア−クが生成させる加圧ガスを用いて消弧している。さらに説明すると、上記接点対を有する1対の接触子は、発生ガスを一時加圧保存するための蓄圧空間と排気口を有した略密閉構造の消弧室容器内に配置されている。また、上記蓄圧空間と排気口は上記接点対によって隔てられる関係に設けられている。電流遮断時(開極時)に接点対間で発生するア−クは、接点対周辺のガスを急速に加熱し、加圧ガスを生成させる。生成した加圧ガスの一部は上記蓄圧空間内に一時加圧保存され、その後接点対間を介して排気口から消弧室容器外に排気される。その際、接点対間に発生するア−クに加圧ガスが強く吹付けられるため、ア−クを吹き流すようにして消弧する(例えば特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】再公表特許(A1)WO01/041168号広報(17頁12〜22行、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような回路遮断器のア−ク消弧能力(電流遮断能力)は、遮断の際ア−クに吹付ける加圧ガスの流速ないし流量の多いものほど高く、また、同時に開極した接点対間の絶縁耐力の回復速度も速くなる。加圧ガスの流速ないし流量を多くすることで、電流遮断性能を向上させる方法として、例えば、ア−クの発生する位置近傍に有機絶縁物を配置することから、発生ガス量を増加させる方法がある。しかしながら、発生ガス量の増加に伴い、消弧室容器にはより高い圧力が加わり、消弧室容器およびそれを収納する筐体への負荷も増加させ、装置破損に至る可能性が高まる。つまり、より高電流の遮断性能をもった回路遮断器を得るには、より高圧力耐性を有した消弧室容器を必要とすることになる。が、その調達は必ずしも容易でないため、従来の回路遮断器の構成においては、消弧室容器の強度により回路遮断器の遮断性能が制約されるという課題があった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、遮断時の消弧室容器の内部圧力の上昇を抑えることにより、消弧室容器の強度に制約を受けない高電流に対応できる遮断性能を有した回路遮断器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る回路遮断器は、グラファイト、タングステン、タングステンカ−バイトのいずれかを含有する第1合金からなる第1接点と第1接点より低融解点の第2合金からなる放電電極を設けた第1接触子、前記第1合金からなる第2接点を設けた第2接触子、ならびに、これら第1接触子と第2接触子を収納し、前記第1接触子と第2接触子の接離時に発生するア−クによって生成するガスを加圧保持する蓄圧空間と前記生成するガスを放出する排気口を有し、前記蓄圧空間からの加圧ガスの流れにより前記第1接点上に発生するア−クを前記放電電極上に移動し消弧させる略密閉容器を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
前記第1接触子と第2接触子の接離の際に最初に第1接点上で発生するア−クは、蓄圧空間から排気口に向かう加圧ガスの流れにより、速やかに消弧性能の良い放電電極上へと移動する。消弧性能の良い放電電極上ではア−クの存在時間が短いので、消弧のために生成すべきガス量を少なくすることができ、略密閉容器の圧力上昇を抑制できる。したがって、前記第1接触子と第2接触子の接離の際に発生するア−クを低い圧力で消弧でき、消弧室容器の強度に制約を受けない高電流の遮断性能を有した回路遮断器を得ることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態1について詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態1の回路遮断器を示す断面図である。図2は本発明の実施の形態1の回路遮断器を模擬した評価装置を示す断面図である。図3は図2の評価装置を用いて、各種電極材料の融解点とア−ク発生時の評価装置内の圧力増加に伴う圧力ピ−クの関係について試験した結果の一覧図である。なお、図1および図2中の同一部分ないし相当部分には、同一符号を付与している。
【0009】
図1に示すように本発明の実施の形態1の回路遮断器では、1対の接触子である可動接触子101と固定接触子201ならびに複数の消弧板50から構成される消弧装置51が共に蓄圧空間Uを有した略密閉容器である消弧室容器301内に設置されている。また、消弧室容器301には、ア−ク発生に伴い生成するガスを排気する排気口311が、蓄圧空間Uに対して可動接触子101と電路を略U字にする固定接触子201および消弧装置51によって隔てられる関係に配置されている。なお、固定接触子201の電路を略U字にしたのは、短絡電流遮断時において可動接触子101と電磁反発力を発生させるためであり、遮断特性の高速化を促している。ただし、固定接触子201の電路は必ずしも略U字に構成する必要性は無い。この消弧室容器301ならびに電路の異常電流を検出するリレ−等からなる異常検出部10および前記接触子対を開閉する開閉機構部20は、共に排気口311の設けられた外筐体401内に収納されている。
【0010】
回路遮断器の遮断は、異常検出部10において異常電流の検出があり、これに伴い開閉機構部20が動作したとき、もしくは、開閉機構部20に設けられた手動操作ハンドル30が遮断操作されたときに実施される。いずれにしろ回路遮断は、後で詳細に説明するが、電路を構成する第1接触子である可動接触子101を回動し、これに伴い可動接触子101上に設けられた第1接点である可動接点111を移動することにより第2接触子である固定接触子201上に設けられた第2接点である固定接点211を機械的に接離する(開極する)ことにより開始され、その時発生するア−クAに対して、加圧ガスを吹付けることからア−クAを消弧することにより完了する。図1はちょうど可動接点111と固定接点211を機械的に離した後の図で、開極した接点間の周辺にア−クAが発生している様子を示している。なお、本発明の実施の形態1の可動接点111および固定接点211は共に第1合金に相当するタングステン、タングステンカ−バイト、グラファイト等が含有された銀合金で構成されている。以下、回路遮断前後における回路遮断器の電路状態について説明することから、その回路遮断動作について詳細に説明する。
【0011】
回路遮断前の通電状態における電路は以下の通りである。図示しない外部電源の出力端子と回路遮断器の第1端子41は電気的に接続されている。第1端子41は回転軸131を支点として回動可能な可動接触子101と電気的に接続している。可動接触子101には可動接点111が設けられている。この可動接点111は固定接触子201に設けられた固定接点211に機械的に接触している。固定接触子201は第2端子42に電気的に接続され、この第2端子42は図示しない外部負荷の入力端子と接続されている。
【0012】
一方、通電状態から回路遮断される時は、前記可動接触子101に設けられた可動接点111と固定接触子201に設けられた固定接点211が機械的に接離されることによって実施される。具体的には、第2端子41から回路遮断器に入力される電流が、異常検出部10により異常(電流値が予め設定される定格値を超えた場合など)と判断された場合に、異常検出部10から開閉機構部20にむけ遮断指令が出される。これを受け開閉機構部20は、回転軸131を中心軸に可動接触子101を回動することによって可動接点111と固定接点211を開極する。その際、固定接触子201の電路が略U字であるので、可動接触子101との間に電磁反発力が発生し、可動接点111と固定接点211を開極の高速化が実現される。また、同時に可動接触子101に設けられた可動接点111と固定接触子201に設けられた固定接点211の間(ギャップ)で最初にア−クAが発生し、その周辺の空気を熱し加圧ガスを生成させる。
【0013】
なお、後で図2の評価装置とそれを用いた試験結果に基づいて詳細に説明するが、ア−クAの消弧特性は放電部位のもつ構造以外にそれらを構成する接点材料の材料特性によって変化することが判明している。そのため、本発明の実施の形態1では、図1に示すように回転軸131を中心に回転する可動接触子101の自由端部に可動接点111より低融解点の合金でできたア−クホ−ン121が設けられ、また、この可動接触子101と接触子対をなす固定接触子201に同じ低融解点の合金でできたア−クランナ221が設けられ、本発明の特徴の1つとなっている。
【0014】
可動接点111と固定接点211の接離に伴い最初に発生したア−クAの出す大量の熱により、ア−ク周辺の空気は瞬時に加熱・膨張され、また消弧室容器301の壁面や消弧板50および消弧側板51から多量のガスが一瞬に放出され、消弧室容器301内の圧力が爆発的に上昇する。これら加圧されたガスの一部は、消弧室容器301が略密閉構造であるため蓄圧空間U内に瞬時に蓄えられ、一部は消弧室容器301の排気口311から排気される。その際、その蓄えられた加圧ガスは蓄圧空間Uと排気口311の間に位置する可動接触子101と固定接触子201を横切る(通過する)ため、可動接触子101と固定接触子201間のギャップに発生したア−クAを消弧板50の方に向けて押し流すようになる。また、ア−クAを形成するプラズマの電離度は、加圧されたガスによって低下させられ、電離した荷電ガス粒子の一部はギャップの外に押し流されていくため、一気にア−クAは消弧し、ギャップの絶縁性も回復する。
【0015】
一般的に、気中回路遮断器の可動接点および固定接点には銀合金が用いられ、特に耐溶着性能の改善、ア−クによる損耗の低減、および、電流遮断後の接触の安定性のため高融解点材料、例えば、タングステン、タングステンカ−バイト、グラファイト等が含有された銀合金が用いられる。そのため、本発明の実施の形態1の可動接点111および固定接点211は共に既存のタングステン、タングステンカ−バイト、グラファイト等が含有された銀合金を用いている。ところで、これらタングステン、タングステンカ−バイト、グラファイト等が含有された銀合金のもつ材料特性とその接点材料としてのア−クの遮断性能に対する関連性については明らかになっていないが、下記の知見が得られたので、以下詳細に説明する。
【0016】
図2に示す回路遮断器を模擬した蓄圧空間Uを備える評価装置を用いて、接点材料の材料特性と遮断成功時の蓄圧空間U内の圧力ピ−クの関係について調べた。図2の評価装置は以下の構成である。消弧室容器301内には、第1電極141と第2電極241が設けられギャップが形成されている。そのギャップの近傍には、消弧装置51が配置されている。消弧装置51が配置される消弧室容器301の一面端部には、排気口311が設けられ、前記ギャップと消弧装置51を隔てた対向面の手前に蓄圧空間Uが形成されている。この蓄圧空間Uには圧力センサ61が設置され、蓄圧空間U内の圧力変化が測定される。前記第1電極141は第1端子41を経由してスイッチ62に接続されている。スイッチ62は電源63に接続され、さらに負荷64に接続されている。第2電極241は第2端子42を経由して負荷64に接続されている。
【0017】
試験は第1電極141と第2電極241に用いる接点材料の種類を替えて、スイッチ62を投入することから試験装置に交流電流を流し、第1電極141と第2電極241間のギャップにア−クAを発生させた後、そのア−クAが消弧されるまでの蓄圧空間Uの圧力変化を計測することにより実施した。なお、このギャップ間に発生したア−クが最初の電流零点で消弧されて遮断が完了した場合を遮断成功とし、それ以外を遮断失敗とした。試験条件は、電源電圧・交流600V、推定短絡電流・約10kA、力率0.24、投入位相90度である。この試験結果の一覧を図3に示す。
【0018】
図3から遮断成功時の圧力ピ−クは、接点材料を銀(99%以上)としたときに最も低く、銅(99%以上)、鉄(99%以上)、銀60%・タングステンカ−バイト40%合金、銀20%・タングステン80%合金の順に高くなっている。これら物質の融解点は、銀が1234K、銅が1356K、鉄が1809K、タングステンカ−バイトが2785K、タングステンが3653K、グラファイトが3800K以上である。このことから、圧力ピ−クは融解点が高い合金になるにつれて高くなると推定される。一方、グラファイトを3.3%含有した接点やタングステンカ−バイト(99%以上)、タングステン(99%以上)、グラファイト(99%以上)では、銀20%・タングステン80%合金を用いた場合より高い圧力ピ−クを発生しているにもかかわらず、遮断成功が得られていない。これは、接点材料である合金の主たる成分にタングステンカ−バイトより高融解点物質であるグラファイト等が含有される場合、その合金間で発生するア−クを消弧し電流を遮断するには、より高い圧力ピ−クを発生させる必要があることを示しており、このような回路遮断器では消弧室容器等の筐体の破損が発生しやすいことを示している。
【0019】
さらに説明するならば、ア−ク(ア−クスポット)の発生している電極上のスポット温度は、電極に用いた接点材料の融解点に依存し、融解点が高い材料を用いるとア−クスポット温度が上昇し、電流零点近傍での電極表面温度は高くなる。因って、融解点が高い材料では金属蒸気やカ−ボン蒸気ならびに熱電子の放出量が多く、電極間の絶縁回復が悪くなる。従って、融解点がタングステンカ−バイト以上に高いタングステンやグラファイト等を含有した銀合金において、遮断に必要な圧力ピ−クが大きくなるのは、電流零点近傍における金属蒸気やカ−ボン蒸気ならびに熱電子の放出量が、銀、銅、鉄、銀タングステンカ−バイト合金より著しく多くなるためであると判断される。そこで、これら合金のもつ材料特性を考慮することから、遮断動作の早い時期に接点に用いたタングステン、タングステンカ−バイト、グラファイト等を含有した銀合金上で最初に発生するア−クスポットを、融解点の低い銀、銅、鉄、銀タングステンカ−バイト合金等に移行させ、そこで遮断すれば必要な圧力ピ−クは小さくできることになる。これら材料の内、銀や銀タングステンカ−バイト合金は高価であるものの銅、鉄を用いれば材料コストを低減できる効果がある。
【0020】
要するに、グラファイト、タングステン等を含有する第1合金に相当する合金からなる接点材料より、第2合金である第1合金より低融解点の合金からなる接点材料を用いるほうが、より消弧室容器等の筐体の破損が起こりにくくなるのである。ただし、その際ア−クによる損耗はトレ−ドオフ的に多くなる課題を有する。
【0021】
本発明の実施の形態1では、可動接点111と固定接点211間のギャップで最初に発生したア−クAが、直ちに蓄圧空間Uに蓄えられた加圧ガスの流れによって、可動接点111や固定接点211を構成する第1接点材料より低融解点の合金(例えば、主要元素が銀、銅または鉄ならびにそれらの合金等)からなるア−クホ−ン121とア−クランナ221に移るので、蓄圧空間Uに蓄えられた加圧ガスの圧力ピ−クの上昇を抑えた状態で容易にア−クを吹消し、電流遮断することができる。言い換えれば、ア−クの発生位置を遮断失敗が発生しやすい(ア−クに対して消弧性能が悪い)接点材料上から遮断失敗しにくい(ア−クに対して消弧性能が良い)材料からなるア−クホ−ン121とア−クランナ221上に移動させた後にア−クを消弧するため、遮断動作時に消弧容器内で発生する圧力ピ−クを低くできるという効果が得られる。
【0022】
なお、本実施の形態1では、可動接点111、固定接点211間のギャップに最初に発生するア−クを可動接点111や固定接点211より低融点の合金からなるア−クホ−ン121とア−クランナ221上に移動させるようにしたが、可動接点111もしくは固定接点211のどちらか一方のみを可動接点111や固定接点211より低融解点の合金からなる接点にしても、同様に金属蒸気やカ−ボン蒸気ならびに熱電子の放出量を抑制できるため、消弧容器内で発生する圧力ピ−クを低くする効果が得られる。また、ア−クホ−ン121とア−クランナ221のどちらか一方もしくは両方を設けなかったり、あるいは可動接点111や固定接点211のどちらか一方をグラファイト、タングステン等を含有する合金からなる接点材料とし、残りの一方をより低融解点の合金(例えば、主要元素が銀、銅または鉄ならびにそれらの合金等)とした異なる合金からなる放電電極の対としてもよく、いずれの場合も金属蒸気やカ−ボン蒸気ならびに熱電子の放出量を抑制できるため、同様に消弧容器内で発生する圧力ピ−クを低くできる効果が得られる。
【0023】
また、上記ア−クホ−ン121とア−クランナ221の配置は、可動接触子101や固定接触子201の自由端に必ずしも設ける必要性はなく、特にこだわることなく可動接触子101または固定接触子201上の導電路上に直接設けても良い。この場合、上記導電路は、一般的に銅、鉄もしくは、その合金にて構成されてもよいので、上記可動接触子101もしくは固定接触子201を銅、鉄もしくは、その合金にて一体構成すること等から材料費および組立費を低減したより安価なア−クホ−ン121とア−クランナ221を設けることも可能である。また、上記導電路と異なる金属材を用いて上記電極を構成する場合においても、銀、銅、鉄もしくは、それらを主要元素とする合金を選択すれば、材料費を大幅に低減できる。なお、本発明の回路遮断器は特に交流電流を対象としたものではなく、直流電流やパルス電流であっても同様の効果を導けるものであり、電流の波形形状に影響されるものではない。
【0024】
実施の形態2.
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態2について詳細に説明する。図4は本発明の実施の形態2の回路遮断器を示す断面図である。本発明の実施の形態2における回路遮断器は、複数の接触子対(接点と放電電極が共に設けられている)と複数の排気口を有するように構成された回路遮断器であり、その他の主要構成部ないし相当部分は図1に示す本発明の実施の形態1の回路遮断器とほぼ同じ構成である。なお、図4中、図1ないし図2と同一部分ないし相当部分には同一符号を付与している。
【0025】
図4を用いて本発明の実施の形態2の回路遮断器の構成とその動作について説明する。回路遮断器の回路遮断は、電路に設けられた異常電流を検出する異常検出部10が、通電時の異常電流の検出に伴い開閉機構部20を動作させたとき、もしくは、開閉機構部20に設けられた手動操作ハンドル30が遮断操作されたときに実施される。いずれにしろ回路遮断は、後で詳細に説明するが、電路の一部を構成する接触子である可動接触子101の一軸方向移動に伴い、この可動接触子101上に設けられた第1可動接点111および第2可動接点112を共に移動することにより開始される。すなわち、第1固定接触子201上に設けられた第1固定接点211ならびに第2固定接触子202上に設けられた固定接点212が、それぞれ同時に機械的に接離することで開始され、その開極した2つの接点間の周辺に発生する第1ア−クA1と第2ア−クA2に対して加圧ガスをそれぞれ吹付けながら消弧することで完了する。なお、図4は可動接点111と固定接点211を機械的に離した後の図であり、本発明の実施の形態2の回路遮断機の特徴である第1、第2ア−クホ−ン121、122と第1、第2ア−クランナ221、222の間に発生していた第1、第2ア−クA1、A2が消弧した状態である。以下、回路遮断前後における回路遮断器の電路について説明する。
【0026】
電流遮断前の電路は以下の通りである。図示しない外部電源の出力端子と回路遮断器の第1端子41は電気的に接続されている。第1端子41は第1固定接点211を設けた第1固定接触子201と電気的に接続している。第1固定接点211は可動接触子101に設けた第1可動接点111と機械的に接触している。可動接触子101には第2可動接点112が設けられ、この第2可動接点112は第2固定接触子202に設けた第2固定接点212と機械的に接触している。第2固定接触子202は第2端子42に電気的に接続され、この第2端子42は図示しない外部負荷の入力端子と接続されている。
【0027】
一方、回路遮断器の遮断時の電路は、前記可動接触子101に設けられた第1可動接点111および第2可動接点112と第1固定接触子201に設けられた第1固定接点211および第2固定接触子202に設けられた第2固定接点212とが共に機械的に接離されることによって実施される。具体的には、第1端子41から回路遮断器に通電される電流が、異常検出部10において異常状態と判断された場合に、異常検出部10から開閉機構部20にむけ遮断指令が出される。これを受けて開閉機構部20は可動接触子101を一軸移動させる動作軸151を駆動することから第1可動接点111と第1固定接点211ならびに第2可動接点112と第2固定接点212とをそれぞれ接離する。このとき第1可動接点111と第1固定接点211ならびに第2可動接点112と第2固定接点212の間(ギャップ)に図示しない第1ア−クA1ならび第2ア−クA2が同時に発生する。発生したア−クA1、A2は周辺の空気を激しく熱し、消弧室容器301内に加圧ガスを発生させる。第1可動接点111と第1固定接点211ならびに第2可動接点112と第2固定接点212の間に発生したア−クA1、A2は、蓄圧空間Uに蓄えられた加圧ガスの流れにより、第1ア−クホ−ン121と第1ア−クランナ221ならびに第2ア−クホ−ン122と第2ア−クランナ222間へと移動する。なお、この第1、第2ア−クホ−ン121、122と第1、第2ア−クランナ221、222は、第1、第2消弧装置51、52(図示しない)とともにア−クA1ならびにA2の消弧を容易化するために設けられたものである。
【0028】
さらに本発明の実施の形態2では、可動接点111、112および固定接点211、212を構成する接点材料は、タングステン、タングステンカ−バイト、グラファイト等が含有された銀合金等である。また、ア−クホ−ン121、122もしくはア−クランナ221、222を構成する接点材料は、可動接点111、112や固定接点211、212より低融解点の合金によって成型されている。これら第1固定接触子201、第2固定接触子202および可動接触子101ならびに複数の消弧板50で構成される第1消弧装置51、第2消弧装置(図示しない)は、隔壁321により接離された異常検出部10、および、開閉機構部20とともに蓄圧空間Uを有した略密閉型の消弧室容器301に収納されている。なお、消弧室容器301の両端面には、第1排気口311および第2排気口312がそれぞれ蓄圧空間Uに対して第1固定接触子201、第2固定接触子202と可動接触子101ならびに第1消弧装置51、第2消弧装置によって、それぞれ隔てられる位置関係に設けられている。
【0029】
そのため、本発明の実施の形態2の回路遮断機では、接点を接離する際に第1可動接点111と第1固定接点211上ならびに第2可動接点112と第2固定接点212上に最初に発生する第1ア−クA1ならびに第2ア−クA2を直ちに第1ア−クホ−ン121と第1ア−クランナ221上ならびに第2ア−クホ−ン122と第2ア−クランナ222上にそれぞれ移動する構造になっている。その結果、蓄圧空間Uに蓄えられた加圧ガスの圧力ピ−クの上昇を抑えた状態で、容易に第1ア−クA1ならびに第2ア−クA2を共に消弧し電流遮断することができるという格別の効果を有している。言い換えれば、ア−クの発生位置を遮断失敗が発生しやすい接点材料上から遮断失敗しにくい材料特性からできたア−クホ−ンとア−クランナ上に移動させた後に第1、第2ア−クA1、A2を遮断させるため、遮断動作時の消弧容器301内の圧力ピ−クを低くできるという効果が得られる。
【0030】
また、本発明の実施の形態2の構成では、消弧室容器301の両端面に排気口を配置し、容器中心(動作軸151近傍)に蓄圧空間Uを配置したので、蓄圧空間Uに蓄えられた加圧ガスを同時に第1ア−クA1、第2ア−クA2に吹き付けることが可能となっている。それにより第1ア−クA1、第2ア−クA2を同時に消弧できるため、遮断時の消弧室容器301内の圧力のピ−クを、本発明の実施の形態1より低くできるという効果が得られる。
【0031】
さらに、本発明の実施の形態2の回路遮断器における第1固定接触子201および第2固定接触子202は、電路を略U字状ル−プにすることで、間隔を介して対向するように配置している。そのため、短絡電流遮断時に可動接触子101との間で電磁反発力が発生するように成っている。また、そのU字状ル−プ内には、電磁反発力を強めるために磁性体板を積層した第1コア251および第2コア252が設けられている。このような回路遮断器では、短絡電流等の大電流が発生し、これを一刻も早く遮断する必要のある場合において以下のような格別の効果が得られる。
【0032】
短絡電流等の大電流が発生した場合、異常検出部10からの指令により開閉機構部20が動作するより早く、第1可動接点111と第1固定接点211および第2可動接点112と第2固定接点212間での電流集中による電磁反発力が発生し、これと略平行で反対方向の電流が流れる。そのため、その瞬間において第1固定接触子201と第2固定接触子202の間には、強い電磁反発力が瞬時に発生し、可動接触子101が一軸移動する形で第1可動接点111と第1固定接点211および第2可動接点112と第2固定接点212が共に開離(接離)する。これに伴い、第1可動接点111と第1固定接点211および第2可動接点112と第2固定接点212のそれぞれの間のギャップにア−クA1およびア−クA2が発生する。ア−クA1およびア−クA2は、自己電流による電磁力と消弧空間内で発生する加圧ガスの流れにより、第1ア−クホ−ン121と第1ア−クランナ221ならびに第2ア−クホ−ン122と第2ア−クランナ222間のギャップへとそれぞれ移動し、さらに、その外側に設けられた第1消弧板50および第2消弧板(図示しない)へと各々と移動し、消弧される。従って、短絡電流等の大電流に対して、より速い回路遮断性能が可能となる格別の効果が得られる。なお、異常検出部10および開閉機構部20も少し遅れて動作するため、先に開離した第1可動接点111と第1固定接点211および第2可動接点112と第2固定接点212の再接地を防止する効果を有している。
【0033】
また、上記2対の接触子対に設けられた各接点間のア−クの発生位置を移動させるために設けた放電電極(ア−クホ−ンもしくはア−クランナ)を可動もしくは各固定接触子の導電路上の一部に構成しても良い。この場合、上記導電路は、一般的に銅、鉄もしくは、その合金にて構成されるので、上記電極も銅、鉄もしくは、その合金にて構成され、材料費および組立費を低減でき、安価に上記電極を設けることができる。また、上記導電路と異なる金属材を用いて上記電極を構成する場合においても、銅、鉄もしくは、その合金を選択すれば、材料費を低減できるという格別の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態1の回路遮断器を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1の評価装置を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1の評価装置を用いて、各種電極材料と評価装置内の圧力ピ−クの関係について試験した結果の一覧図である。
【図4】本発明の実施の形態2の回路遮断器を示す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
101 可動接触子(第1接触子)
111 可動接点(第1接点)
112 第2可動接点
121 第1ア−クホ−ン(第1放電電極)
122 第2ア−クホ−ン
201 固定接触子(第2接触子)
202 第2固定接触子
211 固定接点(第2接点)
212 第2固定接点
221 第1ア−クランナ(第2放電電極)
222 第2ア−クランナ
301 消弧室容器(略密閉容器)
311 排気口
312 第2排気口
A ア−ク
U 空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト、タングステン、タングステンカ−バイトのいずれかを含有する第1合金からなる第1接点と第1接点より低融解点の第2合金からなる放電電極を設けた第1接触子、前記第1合金からなる第2接点を設けた第2接触子、ならびに、これら第1接触子と第2接触子を収納し、前記第1接触子と第2接触子の接離時に発生するア−クによって生成するガスを加圧保持する蓄圧空間と前記生成するガスを放出する排気口を有し、前記蓄圧空間からの加圧ガスの流れにより前記第1接点上に発生するア−クを前記放電電極上に移動し消弧させる略密閉容器を備えたことを特徴とする回路遮断器。
【請求項2】
放電電極に用いられる合金の主要元素が銅、銀、鉄のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の回路遮断器。
【請求項3】
第1接触子と第2接触子からなる接触子対、前記接触子対を複数収納し、各接触子対の第1接触子と第2接触子の接離時にそれぞれの第1接点上に発生するア−クを放電電極上に移動し消弧させる略密閉容器を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項2のいずれかに記載の回路遮断器。
【請求項4】
グラファイト、タングステン、タングステンカ−バイトのいずれかを含有する合金からなる第1接点を設けた第1接触子、前記第1接点より低融解点の合金からなる第2接点を設けた第2接触子、ならびに、これら第1接触子と第2接触子を収納し、前記第1接触子と第2接触子の接離時に発生するア−クによって生成するガスを加圧保持する蓄圧空間と前記生成するガスを放出する排気口を有し、前記蓄圧空間からの加圧ガスの流れにより前記ア−クを消弧させる略密閉容器を備えたことを特徴とする回路遮断器。
【請求項5】
第2接点に用いられる合金の主たる元素が銅、銀、鉄のいずれかであることを特徴とする請求項4記載の回路遮断器。
【請求項6】
第1接触子と第2接触子からなる接触子対、前記接触子対を複数収納し、各接触子対の第1接触子と第2接触子の接離時にそれぞれの第1接点上に発生するア−クによって生成するガスを加圧保持する蓄圧空間と前記生成するガスを放出する排気口を有し、前記ア−クを消弧させる略密閉容器を備えたことを特徴とする請求項4ないし請求項5のいずれかに記載の回路遮断器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−286569(P2006−286569A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108685(P2005−108685)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】