説明

回転機械及び追設リング

【課題】本発明は、後付けとして別個に回転軸に段差構造を設けることで軸受箱からの油漏洩を抑制する技術を提供することを課題とする。
【解決手段】この発明の回転機械は、回転体を有する回転軸1と、回転軸1の径よりも大きい径の回転軸挿入穴を備える軸受装置400と、回転軸挿入穴の外周部と回転軸1との間に設けられた油切り部8と、油切り部8と回転軸1との間にあって回転軸1の径方向に突出するように回転軸1に装着された追設リング9とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置を備えた回転機械及び追設リングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、翼構造を内蔵するケーシング内で高温作動流体を膨張させることにより、回転軸を回転させて動力を発生する蒸気タービンやガスタービンといったタービンが様々な分野において幅広く利用されている。前記タービン以外でも種々の回転機械が利用されているが、これらの回転機械では前記回転軸を支持するために軸受装置を設けることが必要不可欠となるところ、前記軸受装置内には潤滑油が供給されることが一般的である。
【0003】
ここで、前記軸受装置には、前記潤滑油が前記軸受箱外部に漏洩しないよう油漏洩抑制機構が設けられる。なぜなら、油漏れが発生すると、前記軸受箱内の潤滑油が過剰に消費され、また、油漏れによって前記軸受装置付に汚れ等が発生するからである。油漏洩抑制機構としては、例えば特許文献1に示すように、前記軸受箱と前記回転軸との間に油切り部を設ける。
【0004】
【特許文献1】特開平11−62888号公報(段落番号0002、図3、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、前記油切り部と前記回転軸との間にはシール部材を設けるが、油漏洩抑制を徹底すべくシール部材に直接的に前記潤滑油が接触しないような構造とする。例えば、予め、前記シール部材を装着する箇所だけ前記回転軸の径を大きくして段差構造を設けるような構造である。これによって、前記回転軸の軸方向に流動する前記潤滑油が排出する排油は前記段差構造のある箇所で堰き止められ、前記潤滑油と前記シール部材との直接的な接触を避けることができる。
【0006】
しかしながら、例えば各種気体を作動流体とするガスタービンなどの回転機械では、予め前記回転軸自体に前記段差構造を設けることができない場合がある。前記ガスタービンでは、前記ケーシングからのガス漏れ抑制を徹底するために、予め規格が決まっているドライガスシールを採用するところ、その種類が限られている。そして、前記ドライガスシールの径と前記軸受装置の軸受径との差は僅少であり、組立工程上、予め前記回転軸自体に前記段差構造を設けることができないことがある。また、前記回転軸自体の加工上の制約や素材の歩留まり向上のため、前記段差構造を後付けとする方が好ましい場合がある。
【0007】
そこで本発明は、製造・組立工程等の都合上、予め回転軸に段差構造を設けることができないような場合であっても、回転軸に段差構造を設けて軸受箱からの油漏洩を抑制できる回転機械及び追設リングを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る回転機械は、回転体を有する回転軸と、前記回転軸の径よりも大きい径の回転軸挿入孔を備え、内部に潤滑油が供給されて前記回転軸挿入孔を貫通する前記回転軸を支持する軸受装置と、前記回転軸挿入孔の外周部と前記回転軸との間に設けられた油切り部と、前記油切り部と前記回転軸との間にあって前記回転軸の径方向に突出するように前記回転軸に装着された追設リングと、を有することを特徴とする。
【0009】
これによって、前記油切り部おいて、後付けで別個に前記回転軸に段差構造を設ける。そして、前記回転軸の軸方向に流動する前記排油は、段差構造たる前記追設リングに堰き止められてその流れ方向を変更する。その結果、前記追設リング及び前記油切り部の間に配されるシール部材と前記潤滑油とが直接的に接触することがなくなり、より確実な前記潤滑油の前記軸受箱外への漏洩抑制が実現される。このように、製造・組立工程等の都合上、予め回転軸に段差構造を設けることができないような場合であっても、回転軸に段差構造を設けて軸受箱からの油漏洩を抑制できる。
【0010】
本発明の好ましい態様としては、前記本発明において、前記回転機械は、前記回転軸と直交するように前記追設リングを貫通して、前記追設リングと前記回転軸とを固定する固定ボルトを有することが望ましい。
【0011】
これによって、前記追設リングを前記回転軸に固定することができ、前記追設リングの前記回転軸に対する軸方向及び周方向のガタつきを抑制し、前記追設リングを確実に前記回転軸に装着させることができる。
【0012】
本発明の好ましい態様としては、前記本発明において、前記追設リングの内周部、かつ前記追設リングの端部と前記固定ボルトとの間にシールを備えることが望ましい。
【0013】
これによって、前記回転軸と前記追設リングとがより密着してシール性を向上させることができる。そして、前記回転軸と前記追設リングとの間の僅かな隙間を縫ってきた前記排油が前記シールの位置で堰き止められるので、前記軸受装置外への油漏洩を抑制することができる。
【0014】
本発明の好ましい態様としては、前記本発明において、前記シールは、前記回転軸の方向及び前記追設リングの内周部の方向に拡張して前記シール自身を前記回転軸及び前記追設リングに押し付けることでシールすることが望ましい。
【0015】
これによって、前記回転軸と前記追設リングとの間のシール性をより向上させたシール機能を実現することができる。そして、前記回転軸と前記追設リングとの間の僅かな隙間を縫ってきた前記潤滑油が前記シールの位置で堰き止められるので、前記軸受装置外への油漏洩を抑制することができる。
【0016】
本発明の好ましい態様としては、前記本発明において、 前記シールは、開口部を有し、前記シールは、前記シールに供されるシールガスを前記開口部から取り入れることで前記シールガスの圧力によって前記回転軸の方向及び前記追設リングの方向に拡張することが望ましい。
【0017】
これによって、前記シールに前記シールガスを積極的に供給する際に、前記開口部に充満した前記シールガスの圧力によって、前記シールが拡張して、前記シール自身を前記回転軸及び前記追設リングに押し付ける力が増すので、さらにシール性を高めることも可能となる。そして、前記回転軸と前記追設リングとの間の僅かな隙間を縫ってきた前記潤滑油が前記シールの位置で堰き止められるので、前記軸受装置外への油漏洩を抑制することができる。なお、シールガスは、シール用に供されるものであれば、空気に限られず窒素などのガスを包含する。
【0018】
本発明の好ましい態様としては、本発明において、前記シールに前記シールガスを供給するシールガス供給管を有することが望ましい。
【0019】
これによって、前記シールの前記開口部に前記シールガスを積極的に供給する際に、前記開口部に充満した前記シールガスの圧力によって、さらにシール性を高めることも可能となる。そして、前記回転軸と前記追設リングとの間の僅かな隙間を縫ってきた前記排油が前記シールの位置で堰き止められるので、前記軸受装置外への油漏洩を抑制することができる。
【0020】
本発明の好ましい態様としては、前記本発明において、前記固定ボルトは、前記シールに前記シールガスを供給するシールガス供給孔を有することが望ましい。
【0021】
これによって、前記追設リングの前記回転軸に対する軸方向及び周方向のガタつきを抑制することができ、より確実な前記潤滑油の前記軸受箱外への漏洩抑制が実現される。
【0022】
本発明の好ましい態様としては、前記本発明において、前記シールガスは空気であることが望ましい。
【0023】
これによって、前記シールガスに供されるガスの供給が簡便となり、前記シールガスによるシール性の向上がより簡易に実現される。
【0024】
本発明の好ましい態様としては、前記本発明において、前記追設リングの内周部に波形形状を有するリング状のトレランスリングを備えることが望ましい。
【0025】
これによって、前記追設リングの前記回転軸に対する軸方向及び周方向のガタつきを抑制することができる。また、前記固定ボルトと併用する場合は、前記トレランスリングと前記固定ボルトとの相乗効果によって、前記回転軸の高速回転においても前記追設リングの固定が可能となり、芯保持の精度も向上され、ガタつきを抑制することができる。
【0026】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る追設リングは、潤滑油が供給される軸受装置によって支持される回転体の回転軸に設けられ、前記回転軸の径方向に突出して前記排油の回転軸方向の流れを堰き止めることを特徴とする。
【0027】
これによって、後付けで別個に前記回転軸に段差構造を設ける。そして、前記回転軸の軸方向に流動する前記排油は、段差構造たる前記追設リングに堰き止められてその流れ方向を変更する。このように、製造・組立工程等の都合上、予め回転軸に段差構造を設けることができないような場合であっても、回転軸に段差構造を設けて軸受箱からの油漏洩を抑制できる。
【0028】
本発明の好ましい態様としては、前記本発明において、前記追設リングは、前記回転軸と前記追設リングとを固定する固定ボルトを挿入するための貫通孔と、前記貫通孔と前記追設リング端部との間にあって前記追設リング内周部に備えられたシールとを有することが望ましい。
【0029】
これによって、前記回転軸と前記追設リングとがより密着してシール性を向上させることができる。そして、前記回転軸と前記追設リングとの間の僅かな隙間を縫ってきた前記排油が前記シールの位置で堰き止められるので、前記軸受装置外への油漏洩を抑制することができる。
【0030】
本発明の好ましい態様としては、前記本発明において、前記シールは、前記回転軸の方向及び前記追設リングの内周部の方向に拡張して前記シール自身を前記回転軸及び前記追設リングに押し付けることでシールすることが望ましい。
【0031】
これによって、前記回転軸と前記追設リングとの間のシール性をより向上させたシール機能を実現することができる。そして、前記回転軸と前記追設リングとの間の僅かな隙間を縫ってきた前記潤滑油が前記シールの位置で堰き止められるので、前記軸受装置外への油漏洩を抑制することができる。
【0032】
本発明の好ましい態様としては、前記本発明において、前記シールは、開口部を有し、前記シールは、前記シールに供されるシールガスを前記開口部から取り入れることで、前記シールガスの圧力によって前記回転軸の方向及び前記追設リングの方向に拡張することが望ましい。
【0033】
これによって、前記シールに前記シールガスを積極的に供給する際に、前記開口部に充満した前記シールガスの圧力によって、前記シールが拡張して、前記シール自身を前記回転軸及び前記追設リングに押し付ける力が増すので、さらにシール性を高めることも可能となる。そして、前記回転軸と前記追設リングとの間の僅かな隙間を縫ってきた前記潤滑油が前記シールの位置で堰き止められるので、前記軸受装置外への油漏洩を抑制することができる。
【0034】
本発明の好ましい態様としては、前記本発明において、前記シールガスは空気であることが望ましい。
【0035】
これによって、これによって、前記シールガスに供されるガスの供給が簡便となり、前記シールガスによるシール性の向上がより簡易に実現される。
【0036】
本発明の好ましい態様としては、前記本発明において、前記追設リングの内周部に波形形状を有するリング状のトレランスリングを備えることが望ましい。
【0037】
これによって、前記追設リングの前記回転軸に対する軸方向及び周方向のガタつきを抑制することができる。また、前記固定ボルトと併用する場合は、前記トレランスリングと前記固定ボルトとの相乗効果によって、前記回転軸の高速回転においても前記追設リングの固定が可能となり、芯保持の精度も向上され、ガタつきを抑制することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、製造・組立工程等の都合上、予め回転軸に段差構造を設けることができないような場合であっても、回転軸に段差構造を設けて軸受箱からの油漏洩を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。なお、以下においては、回転機械としてガスタービンを挙げ、本発明をガスタービンに適用した例を説明するが、本発明の適用対象はこれに限られるものではない。
【実施例1】
【0040】
図1は、本発明の実施例1に係るガスタービンの概略図である。まず、回転機械であるガスタービン1000の構成について、図1及び図2を用いて説明する。
【0041】
ガスタービン1000は、図1に示すように、圧縮機100と、燃焼器200と、ガスタービン300と、軸受装置400とを主要部として構成される。圧縮機100は、空気をその内部に取り入れて圧縮するものである。後述するタービン300で得られる動力の一部が、圧縮機100の動力として利用される。燃焼器200は、圧縮機100で圧縮された空気に燃料を混合して燃焼ガスGを発生させる。
【0042】
タービン300は、燃焼器200で発生した燃焼ガスGをその内部に導入して膨張させて回転軸1に設けられた動翼2に吹き付けることで、燃焼ガスGの熱エネルギーを機械的な回転エネルギーに変換して動力を発生させる。軸受装置400は、回転軸1の両端部に設けられている。軸受装置400は、内部に配置される軸受パッド6によって回転軸1の両端を支持する。これによって、回転軸1は、軸受パッド6に支持されて回転する。軸受装置400の内部には、軸受パッド6と回転軸1との間を潤滑する潤滑油Lが供給される。
【0043】
タービン300は、図1に示すように、回転軸1と、回転軸1側に設けられた複数の動翼2と、回転軸1及び動翼2を収容するケーシング3と、ケーシング3側に固定された複数の静翼4とを備える。動翼2と静翼4とは、回転軸1の軸方向に交互に配列されている。動翼2は、燃焼器200から噴射されて回転軸1の軸方向に流れる燃焼ガスGによって回転軸1を回転させる。回転軸1の回転エネルギーは、圧縮機100側における回転軸1の軸端1Tから取り出される。
【0044】
図2は、本発明の実施例1に係る軸受装置の断面正面図である。また、図3及び図4は、実施例1に係る軸受装置の一構成部分である油漏洩抑制機構付近の断面側面図及び断面正面図である。実施例1に係る軸受装置400について図2及び図3を用いて説明する。
【0045】
軸受装置400は、図2及び図3に示すように、軸受箱5と、軸受箱5内部に配された複数の軸受パッド6と、潤滑油Lの軸受箱5外部への漏洩を抑制する油漏洩抑制機構7とを備える。なお、軸受箱5は、回転軸1を挿入するために軸受箱5に設けられた回転軸1の径よりも大きい径の回転軸挿入穴5aを有する。そして、回転軸挿入穴5aの外周部と回転軸1との間に油漏洩抑制機構7が配設される。軸受箱5内部に供給された潤滑油Lは、回転軸1の回転に伴って回転軸1の軸方向に流動し、回転軸1と軸受パッド6との間に油膜Mを形成することで回転軸1を支持する。そして、油漏洩抑制機構7によって潤滑油Lが軸受箱5外へ漏洩しないようになっている。
【0046】
図4に示すように、油漏洩抑制機構7は、油切り部8と、追設リング9と、シール部材10と、シール11と、固定ボルト14と、トレランスリング15とを備える。油切り部8は、回転軸挿入穴5aの外周部に配設されており、回転軸1と共に回転軸挿入穴5aの大部分を覆っている。追設リング9は、回転軸1の外周部に装着され、回転軸1の径方向に突出するような段差構造を実現する。シール部材10は、油切り部8と追設リング9との間に配される。回転軸1、油切り部8、追設リング9、及びシール部材10によって回転軸挿入穴5aが封じられることとなる。また、後述するように、固定ボルト14は、回転軸1と直交するように追設リング9を貫通して設けられ、また、シール11及びトレランスリング15は、追設リング9の内周部に備えられている。
【0047】
このように、油漏洩抑制機構7によって、回転軸挿入穴5aを封じて軸受箱5の内部INと外部OUTとを仕切ることができる。これによって潤滑油Lの軸受箱5外への漏洩を抑制できる。
【0048】
図5は、本発明の実施例1に係る追設リング付近の断面側面図である。図6−1乃至実施例6−5は、実施例1に係るシールの斜視図である。図7は、実施例1に係るトレランスリングの斜視図である。実施例1に係る追設リング9、シール11、固定ボルト14、及びトレランスリング15について図5乃至図7を用いて説明する。
【0049】
追設リング9は、図5に示すように、その内周部にシール用溝9aと、トレランスリング用溝9bと、貫通孔9cとを備える。貫通孔9cは、追設リング9の長手方向の中央部分に、回転軸1と直交する形で設けられた貫通穴である。また、シール用溝9aは、貫通孔9cから追設リング9の両端部あるいは片端部方向に少し離れた内周部に設けられている。さらに、トレランスリング用溝9bは、シール用溝9aからさらに追設リング9の両端部方向に少し離れた内周部、あるいはシール用溝9aより内側の内周部に設けられている。
【0050】
このように、追設リング9を回転軸1とシール部材10との間に装着させることで、回転軸1の径方向に突出した段部を形成し、これによって回転軸1に段差構造を形成できる。これによって、軸受装置400内に供給されて回転軸1の軸方向に流動する潤滑油Lの排油である排油Eは、段差構造を形成する追設リング9に堰き止められてその流れ方向を変更する。そして、追設リング9及び油切り部8の間に配されるシール部材10と排油Eとが直接的に接触することが抑制されて、より確実な潤滑油Lの軸受箱5外への漏洩抑制が実現される。
【0051】
また、例えば、ケーシングからのガス漏れ抑制を徹底するために、回転機械のシールにドライガスシールを採用する場合がある。例えば、図1に示すガスタービン1000では、圧縮機100側又はタービン300側又はその両方の軸受装置400における回転軸1と圧縮機100又はタービン300又はその両方との間にドライガスシールを設ける。ドライガスシールは規格が予め決まっているため、種類の選択の余地が少なく、選択したドライガスシールの内径と回転軸1の軸受装置400の外径との差が僅少である場合がある。一方、一般的にドライガスシールは水平分割構造ではなく、軸方向に組み立てる必要があるが、軸受装置400の外径よりも径の大きい前記段差構造を回転軸1と一体に設けてしまうと、組立工程上、回転軸1の軸受装置400を通過させてドライガスシールを組み込むことができなくなってしまう場合がある。本実施例によれば、このような場合であっても、簡易に回転軸1に段差構造を形成して、軸受箱5外へ潤滑油Lが漏洩することを抑制できる。
【0052】
追設リング9を回転軸1に直接取り付けてもよいが、追設リング9の内周部にシール用溝9a、トレランスリング用溝9b、及び貫通孔9cを設けて、後述するシール11、トレランスリング15、及び固定ボルト14を備えてもよい。シール11は、図6−1に示すように、開口部12aを有するリング12と、開口部12aに設けられたリング状のバネ13とを有する。バネ13は、耐屈曲疲労性に優れた板状のステンレス鋼を、開口部12aにおいて断面がV字状になるように屈曲させたものである。ここで、前記断面は、バネ13の周方向に直交する断面である。
【0053】
シール11は、図5に示すように、貫通孔9cと追設リング9の端部との間にあって追設リング9の内周部に備えられた2箇所のシール用溝9aに夫々1つずつ設置されている。ここで、開口部12aが貫通孔9cの方向を向くように設置されている。そして、開口部12aと同じ方向に開口するようにV字形状のバネ13が設けられている。なお、シール11は、安定性の観点から、貫通孔9cを挟んで追設リング9の長手方向に2箇所設けることが望ましい。
【0054】
バネ13は、屈曲されたステンレス鋼の復元力を利用する。すなわち、シール11を、図5に示すようにシール用溝9aに設置した場合、回転軸1とシール用溝9aとの間にバネ13を構成するステンレス鋼の復元力が働く。すなわち、シール11は、バネ13によってバネ作用力が備わる。これによって、バネ13は、回転軸1の方向及び追設リング9のシール用溝9aの方向に拡張して、リング12を介して回転軸1及び追設リング9に押し付けることで、よりシール性を向上させたシール機能を実現させることができる。さらに、開口部12aが貫通孔9cの方向を向くように設置されることで、貫通孔9cからシール11へと積極的にシールに供するシールガスであるシール空気SAを供給し、開口部12aにシール空気SAを導入できる。その結果として、開口部12aが回転軸1の径方向、すなわち回転軸1の方向及び追設リング9のシール用溝9aの方向に拡張し、回転軸1及び追設リング9を押し付ける力が増すことによって、さらにシール性を高めることも可能となる。例えば、追設リング9の固定ボルト14が貫通している貫通孔9cの僅かな隙間から、シール空気SAがシール11に供給される。なお、バネ13はV字形状断面でなくとも、例えば図6−2に示すように、U字形状断面などでもよく、バネ作用力を備え、回転軸1及び追設リング9に対する押し付け力を発生させるものであればこれらに限られるものではない。
【0055】
また、シール11の別の構成として、図6−3に示すようなOリング11cであっても良いし、図6−4に示すような開口部12dを有するパッキン11dでも良いし、あるいは図6−5に示すような開口部12eを有する弾性体11eといったものでも良い。Oリング11c、パッキン11d、弾性体11eの有する弾性力が回転軸1及び追設リング9に対する押し付け力となって、回転軸1と追設リング9との間のシール性を向上させることができる。さらに、パッキン11dや弾性体11eの場合は、それぞれが有する開口部12dや開口部12eにシール空気SAを積極的に供給することができる。その結果として、パッキン11dや弾性体11eは、シール空気SAの圧力によって回転軸1の方向及び追設リング9のシール用溝9aの方向に拡張して、パッキン11dや弾性体11e自身を回転軸1及び追設リング9に押し付ける力が増して、さらにシール性を向上させることができる。
【0056】
このように、シール11を構成するバネ13が発するバネ作用力や、Oリング11c、又はパッキン11d、又は弾性体11eの有する弾性力によって、シール11は回転軸1の方向及び追設リング9のシール用溝9aの方向に拡張する。その結果として、シール11自身を回転軸1及び追設リング9を押し付けてシール機能を実現することができる。これによって、回転軸1と追設リング9との間の僅かな隙間を通る排油Eがシール11の位置で堰き止められるので、軸受箱5外への油漏洩をより効果的に抑制することができる。さらに、シール11の開口部12aや、パッキン11dの開口部12d、又は弾性体11eの開口部12eにシール空気SAを積極的に供給することで、シール空気SAの圧力によってシール11や、パッキン11d又は弾性体11eが回転軸1の方向及び追設リング9のシール用溝9aの方向に拡張する。その結果として、シール11や、パッキン11d又は弾性体11e自身を回転軸1及び追設リング9に押し付ける力が増して、さらにシール性を向上させることができる。なお、シールガスは、シール空気SAのような空気に限られず、シール用に供されるものであれば、窒素などのガスであっても良い。
【0057】
固定ボルト14は、図5に示すように、回転軸1と直交するように追設リング9を貫通して設けられる。固定ボルト14は、貫通孔9cにねじ込むことで追設リング9を貫通するように設けられている。なお、貫通孔9cは、回転軸1と直交する方向に追設リング9を貫通しており、固定ボルト14と対応する雌ねじが形成されている。ここで、安全性の観点から、貫通孔9cを追設リング9の軸方向(回転軸1の軸方向)の中央部に周方向に3箇所程度設け、そこに固定ボルト14を配設させることが望ましい。
【0058】
このように、固定ボルト14によって、追設リング9を回転軸1に固定する。これによって、追設リング9の回転軸1に対する軸方向及び周方向のガタつきを抑制し、追設リング9を確実に回転軸1に装着させることができる。
【0059】
トレランスリング15は、図6に示すように、リングの軸方向に複数の突起部wを設け、全体として波形形状を有するリング形状のものである。なお、安定性の観点から、追設リング9の軸方向(回転軸1の軸方向)の両端部付近に1つずつ配置されることが望ましい。
【0060】
トレランスリング15の有する各突起部wは、バネ作用を備え、そのバネ作用力は、波形形状の変形量に比例する。また、バネ定数は、材料厚さ、波形形状のピッチ、幅、高さ、形状等により変化する。トレランスリング15の有するバネ作用力によって、追設リング9と回転軸1とを固定することができる。すなわち、トレランスリング15を図5に示すようにトレランスリング用溝9bに設置した場合、回転軸1とトレランスリング用溝9bとの間にバネ作用力が働き、結果として追設リング9が回転軸1に固定される。
【0061】
このように、トレランスリング15によって、追設リング9の回転軸1に対する軸方向及び周方向のガタつきを抑制することができる。また、固定ボルト14との相乗効果によって、回転軸1の高速回転においても追設リング9の固定が可能となり、芯保持の精度も向上され、ガタつきを抑制することができる。
【0062】
次に、本発明の実施例1に係る追設リング9を回転軸1に装着する方法について説明する。まず、追設リング9に設けられたシール用溝9aに、シール11を装着する。このとき、前述のように、シール11の開口部12aが、貫通孔9cの方向に向くように留意する。また、トレランスリング用溝9bに、トレランスリング15を装着する。
【0063】
次に、追設リング9を、回転軸1の外周部に装着する。このとき、油切り部8の位置を確認し、油切り部8と回転軸1との間に追設リング9が配設されるよう留意する。
【0064】
最後に、貫通孔9cに固定ボルト14を挿入する。このとき、追設リング9の回転軸1に対する軸方向及び周方向のガタつきがないよう確実に回転軸1に装着すべく締結する。このような手順により、追設リング9が回転軸1に装着される。
【実施例2】
【0065】
図8は、本発明の実施例2に係る油漏洩抑制機構付近の断面側面図である。図9は、実施例2に係る油漏洩抑制機構付近の断面正面図である。図10は、実施例2に係る追設リング付近の断面側面図である。実施例2に係る軸受装置401及び油漏洩抑制機構16について、図8乃至図10を参照して説明する。なお、実施例1に係る油漏洩抑制機構7の構成と同一であり、重複する部材については、同一の符号を付してその説明は省略する。
【0066】
図8及び図9に示すように、油漏洩抑制機構16は、油切り部8と、第2油切り部18と、シール部材10と、第2シール部材19と、追設リング9と、シール11と、トレランスリング15と、シールガス供給ポンプPと、シールガス供給管17と、固定ボルト20と、シールポケット22とを備える。シールポケット22は、油切り部8と第2油切り部18と回転軸1とに囲まれた環状の空間であり、後述するシールガス供給管17が接続される。第2油切り部18は、図8に示すように、油切り部8からシールポケット22を挟んで回転軸1の長手方向に少しは離れた箇所に設けられている。また、第2シール部材19は、第2油切り部18と追設リング9との間に設けられている。
【0067】
シールガス供給ポンプPは、後述するシールガス供給管17を通してシール11にシール空気SAを供給するためのポンプ機能として配設されている。また、シールガス供給管17は、図9に示すように、シールガス供給ポンプPからシールポケット22へと通ずる管である。ここで、シールポケット22は環状の空間であるため、シールポケット22に接続されるシールガス供給管17が1本であっても、シールガス供給管17から供給されるシール空気SAは、追設リング9の全周に供給される。ただし、シールガス供給管17を複数本設けることを妨げるものではない。なお、シールガスは、シール空気SAのような空気に限られず、シール用に供されるものであれば、窒素などのガスであっても良い。
【0068】
図8及び図10に示すように、固定ボルト20は、シールガス供給管17から供給されるシール空気SAを通すためのシールガス供給孔21を有する。シールガス供給孔21は、固定ボルト20の長手方向に貫通する貫通孔である。本実施例では、シールガス供給孔21は1本であるが、固定ボルト20の長手方向に複数本あっても良い。
【0069】
シールガス供給ポンプPから、シールガス供給管17を通って固定ボルト20まで供給されたシール空気SAは、シールガス供給孔21を通過する。シールガス供給孔21の出口を出たシール空気SAは、回転軸1と追設リング9との僅かな隙間を通って、回転軸1の長手方向に進む。そして、シール11が設けられているシール用溝9aに到達すると、開口部12aに供給され、供給されたシール空気SAの空気圧により、シール11に備えられたバネ13のV字状開口部が回転軸1の径方向に向かってさらに開こうとする。これによって、シール11が追設リング9と回転軸1とにより強く押し付けられるので、追設リング9と回転軸1との間のシール性をより向上させることができる。
【0070】
このように、固定ボルト20にシールガス供給孔21を設けてシール空気SAをシール11に供給することで、追設リング9を締結する際に、シールガス供給孔21からシール空気SAが追設リング9の内面側に供給される。これによって、さらに、シール11の開口部12aにシール空気SAを積極的に供給することで、シール空気SAの圧力によってシール11が回転軸1の方向及び追設リング9のシール用溝9aの方向に拡張する。その結果として、シール11自身を回転軸1及び追設リング9に押し付ける力が増して、さらにシール性を向上させることができる。そしてその結果として、回転軸1と追設リング9との間の僅かな隙間を縫ってきた排油Eがシール11の位置で堰き止められるので、軸受箱5外への油漏洩を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明に係る回転機械及び追設リングは、製造・組立工程等の都合上、予め回転軸に段差構造を設けることができないような場合であっても、別体の段差構造を後付けとして回転軸に設けることで軸受箱からの油漏洩を抑制する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1に係るガスタービンの概略図である。
【図2】実施例1に係る軸受装置の断面正面図である。
【図3】実施例1に係る油漏洩抑制機構付近の断面側面図である。
【図4】実施例1に係る油漏洩抑制機構付近の断面正面図である。
【図5】実施例1に係る追設リング付近の断面側面図である。
【図6−1】実施例1に係るシールの斜視図である。
【図6−2】実施例1に係る他のバネの構成図である。
【図6−3】実施例1に係る他のシールの構成図である。
【図6−4】実施例1に係る他のシールの構成図である。
【図6−5】実施例1に係る他のシールの構成図である。
【図7】実施例1に係るトレランスリングの斜視図である。
【図8】実施例2に係る油漏洩抑制機構付近の断面側面図である。
【図9】実施例2に係る油漏洩抑制機構付近の断面正面図である。
【図10】実施例2に係る追設リング付近の断面側面図である。
【符号の説明】
【0073】
1000 ガスタービン
100 圧縮機
200 燃焼器
300 タービン
400、401 軸受装置
1 回転軸
2 動翼
3 ケーシング
4 静翼
5 軸受箱
5a 回転軸挿入穴
6 軸受パッド
7、16 油漏洩抑制機構
8 油切り部
9 追設リング
9a シール用溝
9b トレランスリング用溝
9c 貫通孔
10 シール部材
11 シール
11c Oリング
11d パッキン
11e 弾性体
12 リング
12a、12d、12e 開口部
13 バネ
14、20 固定ボルト
15 トレランスリング
17 シールガス供給管
18 第2油切り部
19 第2シール部材
21 シールガス供給孔
22 シールポケット
G 燃焼ガス
L 潤滑油
E 排油
M 油膜
w 突起部
SA シール空気
P シールガス供給ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体を有する回転軸と、
前記回転軸の径よりも大きい径の回転軸挿入孔を備え、内部に潤滑油が供給されて前記回転軸挿入孔を貫通する前記回転軸を支持する軸受装置と、
前記回転軸挿入孔の外周部と前記回転軸との間に設けられた油切り部と、
前記油切り部と前記回転軸との間にあって前記回転軸の径方向に突出するように前記回転軸に装着された追設リングと、
を有することを特徴とする回転機械。
【請求項2】
前記回転軸と直交するように前記追設リングを貫通して、前記追設リングと前記回転軸とを固定する固定ボルトを有することを特徴とする請求項1に記載の回転機械。
【請求項3】
前記追設リングの内周部、かつ前記追設リングの端部と前記固定ボルトとの間にシールを備えることを特徴とする請求項2に記載の回転機械。
【請求項4】
前記シールは、前記回転軸の方向及び前記追設リングの内周部の方向に拡張して前記シール自身を前記回転軸及び前記追設リングに押し付けることでシールすることを特徴とする請求項3に記載の回転機械。
【請求項5】
前記シールは、開口部を有し、
前記シールは、前記シールに供されるシールガスを前記開口部から取り入れることで前記シールガスの圧力によって前記回転軸の方向及び前記追設リングの方向に拡張することを特徴とする請求項4に記載の回転機械。
【請求項6】
前記シールに前記シールガスを供給するシールガス供給管を有することを特徴とする請求項5に記載の回転機械。
【請求項7】
前記固定ボルトは、前記シールに前記シールガスを供給するシールガス供給孔を有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の回転機械。
【請求項8】
前記シールガスは空気であることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか一つに記載の回転機械。
【請求項9】
前記追設リングの内周部に波形形状を有するリング状のトレランスリングを備えることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一つに記載の回転機械。
【請求項10】
潤滑油が供給される軸受装置によって支持される回転体の回転軸に設けられ、前記回転軸の径方向に突出して前記潤滑油の回転軸方向の流れを堰き止めることを特徴とする追設リング。
【請求項11】
前記追設リングは、
前記回転軸と前記追設リングとを固定する固定ボルトを挿入するための貫通孔と、
前記貫通孔と前記追設リング端部との間にあって前記追設リング内周部に備えられたシールと、
を有することを特徴とする請求項10に記載の追設リング。
【請求項12】
前記シールは、前記回転軸の方向及び前記追設リングの内周部の方向に拡張して前記シール自身を前記回転軸及び前記追設リングに押し付けることでシールすることを特徴とする請求項11に記載の追設リング。
【請求項13】
前記シールは、開口部を有し、
前記シールは、前記シールに供されるシールガスを前記開口部から取り入れることで、前記シールガスの圧力によって前記回転軸の方向及び前記追設リングの方向に拡張することを特徴とする請求項12に記載の追設リング。
【請求項14】
前記シールガスは空気であることを特徴とする請求項13に記載の追設リング。
【請求項15】
前記追設リングの内周部に波形形状を有するリング状のトレランスリングを備えることを特徴とする請求項10乃至請求項14のいずれか一つに記載の追設リング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【図6−5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−222186(P2009−222186A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69501(P2008−69501)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】