説明

回転機械支持装置とこれを用いた振動特性計測方法

【課題】所望の方向に所望のバネ定数を容易に設定することが可能となり、上述の直動機構を無くすことも可能となるバネ定数設定自在なバネを用いた、回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置と振動特性計測方法を提供する。
【解決手段】バネ10の一端部を回転機械5に結合し、バネ10の他端部を支持体7に結合することで、回転機械5をバネ10を介して支持体7で支持するようにする。バネ10は、弾性特性を有する固体材料1で形成されており、固体材料1には溝3a,3b,3cが設けられ、溝3a,3b,3cは、溝の深さ方向と交差する方向であって溝が延びる方向に固体材料1を貫通している。溝3a,3b,3cはスリット状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バネ定数を自在に設定可能なバネを用いた、回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置と振動特性計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械装置などの振動する振動体を除振、制振させる場合に、または、振動体の固有振動数を抽出する場合に、適切なバネ定数に設定したバネを介して振動体を支持することが必要となる。このようにバネを介して振動体を支持する装置が、振動体支持装置である。例えば、振動体支持装置の支持剛性や振動特性を、水平XY方向、鉛直Z方向、および、ねじり方向に関して調節するために、複数のバネを組み合わせることが必要となる。例えば、水平XY方向には柔らかいバネを用い、鉛直Z方向には硬いバネを用いるという具合に、3軸にそれぞれバネを設けていた。
【0003】
なお、振動体の除振については、例えば下記特許文献1、2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−133432号公報
【特許文献2】特開平09−079319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、各軸方向に所望のバネ定数を自在に設定することは、簡単な手法では出来なかった。
また、3軸それぞれに対し、独立してバネ定数を設定する場合に、他の軸のバネの影響を無くすために、例えば、振動体をX軸方向のバネで支持する場合に、このバネがX方向以外には変位しないようにする直動機構をさらに設ける必要がある。そのため、部品点数が多くなり、構造が複雑になるという問題がある。また、ねじり方向の剛性・振動特性を調節するためには、バネをねじり方向(斜め方向)に配置するなど、構造がさらに複雑となる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、所望の方向に所望のバネ定数を容易に設定することが可能となり、上述の直動機構を無くすことも可能となるバネ定数設定自在なバネを用いた、回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置と振動特性計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
参考例によると、弾性特性を有する固体材料で形成されており、該固体材料には溝が設けられ、該溝は、該溝の深さ方向と交差する方向であって該溝が延びる方向に前記固体材料を貫通している、ことを特徴とするバネ定数設定自在なバネが提供される。
【0008】
上記参考例のバネ定数設定自在なバネは、弾性特性を有する固体材料で形成されており、該固体材料には溝が設けられ、該溝は、その深さ方向と交差する方向であって該溝が延びる方向に前記固体材料を貫通しているので、固体材料、溝の幅、溝の深さを変えることで、前記溝の深さ方向における前記バネの一端と他端との間の相対変位・相対振動に関して、任意のバネ定数を設定することができる。また、前記溝の深さ方向と直交する方向については、バネ定数が高く変位量を小さくまたはほとんど無いようにすることができる。
従って、固体材料、溝の幅、溝の深さ、溝を入れる方向を調節することで、所望の方向に所望のバネ定数を容易に設定することが可能になる。また、固体材料に溝を入れているだけであるので、振動体を上述のバネで支持する場合に、溝によりバネ定数を調節した方向以外については、バネの変位量が小さくまたはほとんど無いようにすることができるので、上述の直動機構を設けなくすることも可能となる。なお、溝の数を調節することでも、溝の深さ方向のバネ定数を調節してもよい。
【0009】
参考例の好ましい実施形態によると、前記溝はスリット状である。
【0010】
このように、前記溝はスリット状であるので、固体材料に対してスリットを入れる簡単な加工によりバネを製作できる。
【0011】
また、参考例の好ましい実施形態によると、前記溝として第1および第2の溝が形成されており、第1および第2の溝は互いに交差する方向から入れられ、かつ、第1および第2の溝は、これらが入れられる方向と垂直な方向に間隔をおいて設けられている。
【0012】
このように、前記溝として第1および第2の溝が形成されており、第1および第2の溝は互いに交差する(異なる)方向から入れられ、かつ、第1および第2の溝は、これらが入れられる方向と垂直な方向に間隔をおいて設けられているので、第1の溝を入れる方向(即ち、溝の深さ方向)の前記バネ定数の度合いを、固体材料、第1の溝の幅、第1の溝の深さによって調節することができ、第2の溝を入れる方向の前記バネ定数の度合いを、固体材料、第2の溝の幅、第2の溝の深さによって調節することができ、2方向に関するバネ定数を任意に設定することができる。これにより、バネ定数設定自在な2次元バネを実現できる。好ましくは、第1および第2の溝は互いに直交する方向から入れられる。これにより、各方向について互いに独立して、または、各方向について他の方向のバネ定数により受ける影響を大幅に小さくして、バネ定数を設定することができる。
【0013】
参考例の好ましい実施形態によると、前記溝として第1および第2の溝が形成されており、第1および第2の溝は、互いに反対の方向から入れられ、かつ、第1および第2の溝は、これらが入れられる方向と垂直な方向に間隔をおいて設けられている。
【0014】
このように、前記溝として第1および第2の溝が形成されており、第1および第2の溝は、互いに反対の方向から入れられ、かつ、第1および第2の溝は、これらが入れられる方向と垂直な方向に間隔をおいて設けられているので、第1および第2の溝により前記固体材料に、略S字状の部分を形成でき(後述の図3(A)、図5を参照)、これにより、第1および第2の溝が入れられる方向と垂直な方向にも変位量は比較的小さいが振動特性を有するようにできる。この場合、第1および第2の溝の数(即ち、略S字状の部分の数)を調節することで、第1および第2の溝が入れられる方向と垂直な方向に関する振動特性を調節できる。
【0015】
参考例の好ましい実施形態によると、前記溝の底部の断面形状を表す線は、その曲率が全体に渡って連続的に変化する。
【0016】
前記溝の底部の断面形状を表す線は、その曲率が全体に渡って連続的に変化するので、バネの変位により1箇所に応力が集中することを回避でき、これにより、バネの耐久性を高めることができる。
【0017】
好ましくは、前記断面形状は略円弧状である。
【0018】
前記断面形状は略円弧状であるので、バネの変位による応力を一層効果的に分散でき、
バネの耐久性をさらに高めることができる。
【0019】
また、本発明によると、上述のバネの一端部を回転機械に結合し、該バネの他端部を支持体に結合することで、前記回転機械を前記バネを介して前記支持体で支持するようにした、ことを特徴とする回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置が提供される。
【0020】
このように、上述のバネの一端部を回転機械に結合し、該バネの他端部を支持体に結合することで、前記回転機械を前記バネを介して前記支持体で支持するようにしたので、回転機械の支持体に対する相対変位・相対振動に関して、所望のバネ定数を所望の方向に設定することができる。即ち、溝の深さ方向にバネ定数を設定でき、その度合いを、固体材料、溝の幅、溝の深さによって容易に調節することができる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態によると、上記回転機械支持装置において、前記バネを間隔をおいた複数位置に設ける。
【0022】
このように、前記バネを間隔をおいた複数位置に設けたので、振動特性を自在に設定可能な5次元の振動モードを持つ回転機械支持装置を実現できる。例えば、回転機械支持装置の5次元の振動モードを次のように得ることができる。前記間隔の方向を左右方向(後述の図6の左右方向に対応)として、左右方向と直交しかつ前記回転機械と支持体との間隔の方向に直交する方向を前後方向(後述の図6の紙面と垂直な方向に対応)として、前記左右方向に関する回転機械支持装置の振動特性(1次モード)は、前記左右方向に入れられている溝(図6の例では、溝3b、3c)により与えられ、前記前後方向に関する回転機械支持装置の振動特性(2次モード)は、前記前後方向に入れられる溝(図6の例では、溝3a、3d)により与えられ、左右方向および前後方向と垂直な方向に関する回転機械支持装置の振動特性(3次モード)は、左右方向または前後方向に入れられる溝(図6の例では、溝3b、3c)で上述の略S字状の部分を形成することで与えられ、前記前後方向を向く中心軸(ロール軸)の周りの回転方向に関する回転機械支持装置の振動特性(4次モード)は、左右方向に間隔を置いて位置する前記バネ(より詳しくは、図6の例では、これらバネの溝3b、3cで上述の略S字状の部分を形成すること)により与えられ、左右方向および前後方向と垂直な方向を向く中心軸(ヨー軸)の周りの回転方向に関する回転機械支持装置の振動特性(5次モード)は、左右方向に間隔を置いて位置する前記バネ(より詳しくは、図6の例では、これらバネ10の溝3a〜3d)により与えられる。なお、上述の略S字状の部分を形成しない場合には、前記3次モード、4次モードは、高いバネ定数の振動モードとなる。
【0023】
また、本発明の好ましい実施形態によると、上記回転機械支持装置において、所定の左右方向に間隔を置いた1対の前記バネが、該左右方向と直交する前後方向の2箇所に設けられている。
【0024】
このように、所定の左右方向に間隔を置いた1対の前記バネが、該左右方向と直交する前後方向の2箇所に設けられているので、振動特性を自在に設定可能な6次元の振動モードを持つ回転機械支持装置を実現できる。即ち、上述の5次元の振動モードにさらに1次元の振動モードを加えた6次元の振動モードが得られる。新たに得られる振動モードは、前記左右方向を向く中心軸(ピッチ軸)の周りの回転方向に関する回転機械支持装置の振動特性(6次モード)であり(図7(A)を参照)、この振動モードは、前後方向に間隔を置いて位置する前記バネ(より詳しくは、図7(A)の例では、これらバネの溝3b、3cで上述の略S字状の部分を形成すること)により与えられる。なお、上述の略S字状の部分を形成しない場合には、6次モードは、高いバネ定数の振動モードとなる。
【0025】
なお、説明の便宜上、上述では、左右方向または前後方向の溝を例に説明したが、本発明によると、上述の左右方向に入れられる溝を、左右方向に対し斜めの方向に入れられる溝に代え、上述の前後方向に入れられる溝を、前後方向に対し斜めの方向に入れられる溝に代えても上述の5次元モードまたは6次元モードの振動特性が得られる。
また、本発明によると、回転機械支持装置により回転機械を支持して、当該回転機械の回転に起因する振動特性を計測する、ことを特徴とする回転機械の振動特性計測方法が提供される。
【発明の効果】
【0026】
上述した本発明によると、回転機械の支持体に対する相対変位・相対振動に関して、所望のバネ定数を所望の方向に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】参考例の第1実施形態によるバネ定数設定自在なバネを示す図であり、(A)は(B)の1A−1A線矢視図であり、(B)は(A)の1B−1B線矢視図であり、(C)は(A)の1C−1C線矢視図である。
【図2】図1のバネの弾性変形を示す図である。
【図3】参考例の第2実施形態によるバネ定数設定自在なバネを示す図であり、(A)は(B)の3A−3A線矢視図であり、(B)は(A)の3B−3B線矢視図であり、(C)は(A)の3C−3C線矢視図である。
【図4】S字状部分によるバネの変形を示す図である。
【図5】本発明のバネを使用した回転機械支持装置の構成例を示す図である。
【図6】本発明のバネを使用した回転機械支持装置の別の構成例を示す図である。
【図7】本発明のバネを使用した回転機械支持装置の別の構成例を示す図であり、(A)は(B)の7A−7A線矢視図であり、(B)は(A)の7B−7B線矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0029】
図1は、参考例の第1実施形態によるバネ定数設定自在なバネを示す図である。図1(A)は図1(B)の1A−1A線矢視図であり、図1(B)は図1(A)の1B−1B線矢視図であり、図1(C)は図1(A)の1C−1C線矢視図である。第1実施形態によるバネ10は、弾性特性を有する固体材料1で形成されており、該固体材料1には溝3が設けられ、該溝3は、該溝3の深さ方向と交差(図1の例では直交)する方向であって該溝3が延びる方向に前記固体材料1を貫通している。図1の例では、溝3はスリット状である。
【0030】
前記固体材料1は、所定の形状の金属や樹脂などであってよく、予め材料特性(ヤング率、比重など)が知られている素材であるのがよい。また、図1では、固体材料1は、断面が正方向または長方形である四角柱の形状をしているが、固体材料1の形状は、他の角柱形状、円柱形状または棒状など、他の適切な形状であってもよい。
【0031】
図2は、図1のバネ10による変位を示す図である。図2の矢印は、溝3を入れた方向(即ち、溝3の深さ方向)のバネ変位量を示す。この矢印が示すように、溝3を入れた方向のバネ定数は、溝3の幅、溝3の深さによって容易に調節することができる。なお、本願において、溝3を入れる方向とは、溝3の深さ方向を言う。
【0032】
図1の例では、溝3の底部の断面形状は略円弧状となっている。なお、この断面形状は、図1(A)の紙面と平行な断面の形状である。溝3の底部の前記断面形状は、これに限定されず、その曲率が全体に渡って連続的に変化していればよい。これにより、バネ10の変形時に溝3の底部に作用する応力を分散することができる。
【0033】
上述の参考例の実施形態によるバネ10は、弾性特性を有する固体材料1で形成されており、該固体材料1には溝3が設けられ、該溝3は、その深さ方向と交差する方向であって該溝3が延びる方向に前記固体材料1を貫通しているので、固体材料1、溝3の幅、溝3の深さを変えることで、前記溝3の深さ方向における前記バネ10の一端と他端との間の相対変位・相対振動に関して、任意のバネ定数を設定することができる。また、前記溝3の深さ方向と直交する方向については、バネ定数が高く変位量を小さくまたはほとんど無いようにすることができる。
従って、固体材料1、溝3の幅、溝3の深さ、溝3を入れる方向を調節することで、所望の方向に所望のバネ定数を容易に設定することが可能になる。また、固体材料1に溝3を入れているだけであるので、振動体5を上述のバネ10で支持する場合に、溝3によるバネ定数を調節した方向以外については、バネ10の変位量が小さくまたはほとんど無いようにできるので、上述の直動機構を設けなくすることも可能となる。
また、前記溝3はスリット状であるので、固体材料1に対してスリットを入れる簡単な加工によりバネ10を製作できる。
【0034】
図3は、参考例の第2本実施形態によるバネ10の構成を示す図である。図3(A)は図3(B)の3A−3A線矢視図であり、図3(B)は図3(A)の3B−3B線矢視図であり、図3(C)は図3(A)の3A−3A線矢視図である。図3に示すバネ10は、図1に示すバネ10と溝の本数が異なるが他の構成については、上述した図1に示すバネ10と同じであってよい。
【0035】
図3の例では、溝3a〜3dが形成されており、溝3a〜3dは互いに異なる方向から入れられ、かつ、溝3a〜3dは、これらが入れられる方向と垂直な方向に間隔をおいて設けられている。このように、溝3a〜3dは互いに異なる方向から入れられているので、溝3aを入れる方向の前記バネ定数の度合いを、固体材料1、溝3aの幅、溝3aの深さによって調節することができ、溝3bを入れる方向の前記バネ定数の度合いを、固体材料1、溝3bの幅、溝3bの深さによって調節することができ、溝3cを入れる方向の前記バネ定数の度合いを、固体材料1、溝3cの幅、溝3cの深さによって調節することができ、溝3dを入れる方向の前記バネ定数の度合いを、固体材料1、溝3dの幅、溝3dの深さによって調節することができ、複数方向(図3では水平2方向)に関するバネ定数を任意に設定することができる。これにより、バネ定数設定自在な2次元バネまたは3次元バネを実現できる。好ましくは、図3のように、溝3a、3dと溝3b、3cとは、互いに直交する方向から入れられる。これにより、互いに独立して各方向についてバネ定数を設定することができる。
【0036】
また、図3において、溝3bと溝3cとは互いに反対方向から固体材料1に入れられており、溝3bと溝3cとは、これらが入れられる方向と垂直な方向(図3の上下方向)に間隔をおいて設けられている。このようにして、図3(A)に示すように、溝3b,3cにより前記固体材料1に略S字状の部分を形成でき、これにより、溝3b,3cが入れられる方向と垂直な方向(図3の上下方向)にも、変位量は小さいが振動特性を有するようにできる。これを図4に模式的に示す。この場合、溝3b,3cの数(即ち、略S字状の部分の数)を調節することで、溝3b,3cが入れられる方向と垂直な方向に関する振動特性を調節できる。なお、溝3a,3dも同様である。
【0037】
なお、図3の例では、溝3cは2つ設けられている。このように、同じ方向に入れられる溝の数を調節することでも、当該方向のバネ定数を調節してもよい。
【0038】
次に、上述したバネ10を用いた回転機械支持装置20について図5〜7に基づいて説明する。本発明の実施形態では、振動体5は、過給機やターボ圧縮機やガスタービンなどの回転機械である。
【0039】
図5は、本発明の実施形態による回転機械支持装置20の構成例である。
図5に示すように、バネ10の一端部を回転機械5に結合し、該バネ10の他端部を支持体7に結合することで、前記回転機械5を前記バネ10を介して前記支持体7で支持するようにしている。これにより、回転機械5の支持体7に対する相対変位・相対振動に関して、所望のバネ定数を所望の方向に設定することができる。即ち、溝3a〜3dの深さ方向にバネ定数を設定でき、各方向についてバネ定数の度合いを、固体材料1、溝の幅、溝の深さによって調節することができる。なお、図5の例では、図3に示すバネ10を配置している。図5において上下方向が鉛直方向である。なお、バネ10と回転機械5および支持体7との結合は、ボルトやネジなどの適切な結合手段で結合してよい。
【0040】
図6は、本発明の実施形態による回転機械支持装置20の別の構成例である。
図6では、バネ10を図6の左右方向に間隔をおいた複数位置(この例では、2箇所)
に設けている。これにより、回転機械支持装置20の振動特性を自在に設定可能な5次元の振動モードを持つ回転機械支持装置20を実現できる。例えば、回転機械支持装置20の5次元の振動モードを次のように得ることができる。図6の紙面と垂直な方向を前後方向として、溝3a〜3dがそれぞれ前記左右方向と前後方向に入れられる場合に、前記左右方向に関する回転機械支持装置20の振動特性(1次モード)は、前記左右方向に入れられている溝3b、3cにより与えられ、前記前後方向に関する回転機械支持装置20の振動特性(2次モード)は、前記前後方向に入れられる溝3a、3dにより与えられ、左右方向および前後方向と垂直な方向に関する回転機械支持装置20の振動特性(3次モード)は、左右方向または前後方向に入れられる溝(図6の例では、溝3b、3c)で上述の略S字状の部分を形成することで与えられ、前記前後方向を向く中心軸(ロール軸)の周りの回転方向に関する回転機械支持装置20の振動特性(4次モード)は、左右方向に間隔を置いて位置する前記バネ10(より詳しくは、これらバネ10の溝3b、3cで上述の略S字状の部分を形成すること)により与えられ、左右方向および前後方向と垂直な方向を向く中心軸(ヨー軸)の周りの回転方向に関する回転機械支持装置20の振動特性(5次モード)は、左右方向に間隔を置いて位置する前記バネ10(より詳しくは、これらバネ10の溝3a〜3d)により与えられる。なお、図6の例では、図3に示すバネ10を左右対称となるように左右に配置している。図6において上下方向が鉛直方向である。
【0041】
図7は、本発明の実施形態による回転機械支持装置20の別の構成例である。図7(A)は図7(B)の7A−7A線矢視図であり、図7(B)は図7(A)の7B−7B線矢視図である。
図7では、左右方向に間隔を置いた1対の前記バネ10が、該左右方向と直交する前後方向(図7(A)の紙面と直交する方向)の2箇所に設けられている。これにより、振動特性を自在に設定可能な6次元の振動モードを持つ回転機械支持装置20を実現できる。即ち、図6で得られる5次元の振動モードにさらに1次元の振動モードを加えた6次元の振動モードが得られる。新たに得られる振動モードは、図7(A)に示すように、前記左右方向を向く中心軸(ピッチ軸)の周りの回転方向に関する回転機械支持装置20の振動特性(6次モード)であり、この振動モードは、前後方向に間隔を置いて位置する前記バネ10(より詳しくは、これらバネ10の溝3b、3cで上述の略S字状の部分を形成すること)により与えられる。なお、図7の例では、図6に示す左右一対のバネ10を、前後対称に前後方向の2箇所に配置している。また、図7において上下方向が鉛直方向である。
【0042】
図5〜図7の場合には、構造解析などを用いて、バネ10に接続する機械装置(即ち、
回転機械5)が必要とする回転機械支持装置20の振動特性に合わせて、各バネ10のバネ定数およびバネ10の数を定めることができる。回転機械5の回転軸が所定の使用回転数域(例えば、3万〜12万rpm=500Hz〜2000Hz)で回転している状態の回転機械5の振動特性を抽出する場合には、(回転機械5が回転していない状態における)回転機械支持装置20の振動数(固有振動数)が、前記使用回転数域の範囲外となるように、各バネ10のバネ定数を設定する。特に、図6、図7の場合には、回転機械支持装置20が持つ上述の各モードのいずれの振動数(固有振動数)も、前記使用回転数域の範囲外(好ましくは、前記使用回転数域よりも低い振動数)となるように、かつ7次モード以降の振動数(固有振動数)も、前記使用回転数域の範囲外(好ましくは、前記使用回転数域よりも高い振動数)となるように、各バネ10のバネ定数を設定する。これにより、図5〜図7の構成のように、回転機械5を設置することで、回転機械5の回転に起因する振動特性を精度よく抽出・計測することができる。
【0043】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【0044】
バネ10は、予め用意した固体材料1に対して機械加工により溝3、3a〜3dを入れてもよいし、固体材料1をモールド成型する場合には、溝3、3a〜3dに対応する形状を有するモールドを用いた成型により、溝3、3a〜3dを有する固体材料1、即ち、バネ10をモールド成型することもできる。従って、バネ10は、このようにモールド成型された鋳物であってもよい。
【0045】
上述では、溝3、3a〜3dは、長手方向(各図の上下方向)に延びる固体材料1に対して、該長手方向と直交する方向から溝3、3a〜3dを入れているが、本発明によると、該長手方向に対し斜めの方向から固体材料1に溝を入れるようにしてもよい。これにより、上述の各図における固体材料1の一端と他端との間の相対変位・相対振動に関して、前記長手方向と斜め方向における固体材料1のバネ定数を、固体材料1、当該溝の幅、当該溝の深さによって調節することができる。
従って、図1〜図7の各々において、前記左右方向に入れられる溝を、左右方向に対し斜めの方向に入れられる溝に代え、前記前後方向に入れられる溝を、前後方向に対し斜めの方向に入れられる溝に代えてもよい。この場合でも、図6と図7において、上述の5次元モードまたは6次元モードの振動特性が得られる。
【0046】
上記の内容は、以下の付記のようにも記載することができる。
(付記1)
バネの一端部を回転機械に結合し、該バネの他端部を支持体に結合することで、前記回転機械を前記バネを介して前記支持体で支持するようにした回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置であって、
前記バネは、弾性特性を有する固体材料で形成されており、該固体材料には溝が設けられ、該溝は、該溝の深さ方向と交差する方向であって該溝が延びる方向に前記固体材料を貫通しており、
前記溝はスリット状である、ことを特徴とする回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
(付記2)
前記溝として第1および第2の溝が形成されており、第1および第2の溝は互いに交差する方向から入れられ、かつ、第1および第2の溝は、これらが入れられる方向と垂直な方向に間隔をおいて設けられている、ことを特徴とする付記1に記載の回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
(付記3)
前記溝として第1および第2の溝が形成されており、第1および第2の溝は、互いに反対の方向から入れられ、かつ、第1および第2の溝は、これらが入れられる方向と垂直な方向に間隔をおいて設けられている、ことを特徴とする付記1に記載の回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
(付記4)
前記溝の底部の断面形状を表す線は、その曲率が全体に渡って連続的に変化する、ことを特徴とする付記1、2または3に記載の回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
(付記5)
前記断面形状は略円弧状である、ことを特徴とする付記4に記載の回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
(付記6)
前記バネを間隔をおいた複数位置に設けた、ことを特徴とする付記1〜5のいずれかに記載の回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
(付記7)
所定の左右方向に間隔を置いた1対の前記バネが、該左右方向と直交する前後方向の2箇所に設けられている、ことを特徴とする付記6に記載の回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
(付記8)
付記1〜7のいずれかに記載の回転機械支持装置により回転機械を支持して、当該回転機械の回転に起因する振動特性を計測する、ことを特徴とする回転機械の振動特性計測方法。
【符号の説明】
【0047】
1・・・固体材料、3、3a〜3d・・・溝、5・・・振動体(回転機械)、7・・・支持体、10・・・バネ、20・・・回転機械支持装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
バネの一端部を回転機械に結合し、該バネの他端部を支持体に結合することで、前記回転機械を前記バネを介して前記支持体で支持するようにした回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置であって、
前記バネは、弾性特性を有する固体材料で形成されており、該固体材料には溝が設けられ、該溝は、該溝の深さ方向と交差する方向であって該溝が延びる方向に前記固体材料を貫通しており、
前記溝はスリット状である、ことを特徴とする回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
【請求項2】
前記溝として第1および第2の溝が形成されており、第1および第2の溝は互いに交差する方向から入れられ、かつ、第1および第2の溝は、これらが入れられる方向と垂直な方向に間隔をおいて設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
【請求項3】
前記溝として第1および第2の溝が形成されており、第1および第2の溝は、互いに反対の方向から入れられ、かつ、第1および第2の溝は、これらが入れられる方向と垂直な方向に間隔をおいて設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
【請求項4】
前記溝の底部の断面形状を表す線は、その曲率が全体に渡って連続的に変化する、ことを特徴とする請求項1または3に記載の回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
【請求項5】
前記断面形状は略円弧状である、ことを特徴とする請求項4に記載の回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
【請求項6】
前記バネを間隔をおいた複数位置に設けた、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
【請求項7】
所定の左右方向に間隔を置いた1対の前記バネが、該左右方向と直交する前後方向の2箇所に設けられている、ことを特徴とする請求項6に記載の回転機械の振動特性計測用の回転機械支持装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の回転機械支持装置により回転機械を支持して、当該回転機械の回転に起因する振動特性を計測する、ことを特徴とする回転機械の振動特性計測方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−233594(P2012−233594A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−184705(P2012−184705)
【出願日】平成24年8月24日(2012.8.24)
【分割の表示】特願2008−92923(P2008−92923)の分割
【原出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】