説明

回転角度検出装置

【課題】設計の自由度が高い回転角度検出装置を提供すること。
【解決手段】被検出回転体の回転角度を検出する回転角度検出装置であって、前記被検出回転体に取り付け該被検出回転体と共に回転する主回転体と、前記主回転体に対して所定の回転比で回転する副回転体と、前記主回転体の回転に対応して周期的に変化する信号を出力する主回転検出機構と、前記副回転体の回転に対応して周期的に変化する信号を出力する副回転検出機構と、前記主回転検出機構および前記副回転検出機構が出力する信号の周期を変換し該信号を用いて該変換した周期における前記主回転体および前記副回転体の回転角度を算出する信号処理手段と、前記算出した主回転体または副回転体の回転角度と、前記主回転体と前記副回転体との相対回転角度と、前記変換した周期とに基づいて前記被検出回転体の回転角度を算出する演算処理手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転角度を検出する回転角度検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のステアリングシャフトなどの回転体に取り付けて回転体の回転角度を検出する回転角度検出装置が開示されている。
【0003】
特許文献1が開示する従来の回転角度検出装置は、回転体と共に回転する主回転体と、この主回転体と連動して回転する2つの副回転体とを備える。主回転体および2つの副回転体はそれぞれ互いに歯数の異なる歯車を備え、各副回転体の歯車はそれぞれ主回転体の歯車と噛み合っている。また、各副回転体はそれぞれ磁石を備えるとともに、各磁石の磁場を検出するAMRセンサ(異方性磁気抵抗素子)を備える。そして、各AMRセンサが出力する各副回転体の回転角度の検出信号の間の位相差などを利用して回転体の回転角度を算出する。
【0004】
一方、特許文献2が開示する従来の回転角度検出装置は、回転体によって回転される回転板と、回転体または回転板によって回転板よりも多い回転数で回転される歯車とを備える。そして、回転板には光センサを用いたアブソリュート信号型エンコーダが設けられ、このエンコーダが回転板の1回転を1周期とするコード信号を回転板の回転角度検出信号として出力する。また、歯車には磁石と磁気抵抗素子とを用いた磁気センサが設けられ、この磁気センサが歯車の1回転を1周期とするアナログ信号を歯車の回転角度検出信号として出力する。そして、これらのエンコーダと磁気センサとが出力する各回転角度検出信号の組み合わせから回転体の回転角度を算出する。
【0005】
【特許文献1】特表2001−505667号公報
【特許文献2】特開2002−985225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の回転角度検出装置は、回転体の回転角度を算出するために用いる検出信号間の位相差が各副回転体に備えた磁石の特性やギヤ比などで一意に決定されるため、設計の自由度が低いという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、設計の自由度が高い回転角度検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る回転角度検出装置は、被検出回転体の回転角度を検出する回転角度検出装置であって、前記被検出回転体に取り付け該被検出回転体と共に回転する主回転体と、前記主回転体に対して所定の回転比で回転する副回転体と、前記主回転体の回転に対応して周期的に変化する信号を出力する主回転検出機構と、前記副回転体の回転に対応して周期的に変化する信号を出力する副回転検出機構と、前記主回転検出機構および前記副回転検出機構が出力する信号の周期を変換し該信号を用いて該変換した周期における前記主回転体および前記副回転体の回転角度を算出する信号処理手段と、前記算出した主回転体または副回転体の回転角度と、前記主回転体と前記副回転体との相対回転角度と、前記変換した周期とに基づいて前記被検出回転体の回転角度を算出する演算処理手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る回転角度検出装置は、被検出回転体の回転角度を検出する回転角度検出装置であって、前記被検出回転体に取り付け該被検出回転体と共に回転する主回転体と、前記主回転体に対して所定の回転比で回転する副回転体と、前記主回転体の回転に対応して周期的に変化する連続した信号を出力する主回転検出機構と、前記副回転体の回転に対応して周期的に変化する連続した信号を出力する副回転検出機構と、前記主回転検出機構および前記副回転検出機構が出力する信号を用いて前記主回転体および前記副回転体の回転角度を算出する信号処理手段と、前記算出した主回転体または副回転体の回転角度と、前記主回転体と前記副回転体との相対回転角度と、前記主回転検出機構および前記副回転検出機構が出力する信号の周期とに基づいて前記被検出回転体の回転角度を算出する演算処理手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る回転角度検出装置は、上記の発明において、前記主回転検出機構または前記副回転検出機構は、前記主回転体または前記副回転体に取り付けられ回転方向において連続的かつ周期的に強度が変化する磁場を発生する磁石と、前記磁石の近傍に前記主回転体または前記副回転体の回転中心のまわりに所定の角度をなすように配置した2つの磁気検出素子と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る回転角度検出装置は、上記の発明において、前記磁気検出素子は、ホール素子であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る回転角度検出装置は、上記の発明において、前記磁気検出素子は、磁気抵抗素子であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る回転角度検出装置は、上記の発明において、前記変換した周期は、前記主回転体および前記副回転体の回転角度の許容誤差と前記被検出回転体の回転角度の検出角度範囲とが所望の値になるように決定された周期であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る回転角度検出装置は、上記の発明において、前記演算処理手段は、前記算出した主回転体の回転角度をθ1、前記算出した副回転体の回転角度に前記所定の回転比を乗じた角度をθ2、前記変換した主回転検出機構の信号の周期をT1、前記変換した副回転検出機構の信号の周期に前記所定の回転比を乗じた周期をT2(T1≠T2)、周期T1とT2の差の絶対値|T1−T2|をdとして、下記の式(1)〜(4)を用いて前記被検出回転体の回転角度Φを算出することを特徴とする。
T1<T2、θ2≦θ1の場合は、
Φ=θ1+T1(θ1−θ2)/d ・・・ (1)
T1<T2、θ2>θ1の場合は、
Φ=θ1+T1(θ1−θ2)/d+T1・T2/d ・・・ (2)
T1>T2、θ1≦θ2の場合は、
Φ=θ1+T1(θ2−θ1)/d ・・・ (3)
T1>T2、θ1>θ2の場合は、
Φ=θ1+T1(θ2−θ1)/d+T1・T2/d ・・・ (4)
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る回転角度検出装置は、主回転体および副回転体の回転に対応して周期的に変化する信号の周期を変換し該信号を用いて該変換した周期における主回転体および副回転体の回転角度を算出し、算出した回転角度と、主回転体と副回転体との相対回転角度と、変換した周期とに基づいて被検出回転体の回転角度を算出するので、主回転検出機構、副回転検出機構、および主回転体と副回転体との回転比などを高い自由度で設計することができる。その結果、設計の自由度が高い回転角度検出装置を実現できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、図面を参照して本発明に係る回転角度検出装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0017】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る回転角度検出装置を模式的に表した断面概略図である。本実施の形態に係る回転角度検出装置は、被検出回転体である自動車のステアリングシャフトの回転角度を検出するものである。
【0018】
図1に示すように、回転角度検出装置1は、紙面と垂直の方向に延びたステアリングシャフトXを中心部の孔に嵌めることにより取り付けて固定し、ステアリングシャフトXと共に回転する主回転体であるリング状の主歯車2と、主歯車2と噛み合って主歯車2に対して所定の回転比で回転する副回転体である副歯車3と、主歯車2の回転に対応して周期的に変化する信号を出力する主回転検出機構4と、主回転検出機構4が出力する信号の周期を変換し、この信号を用いて変換した周期における主歯車2の回転角度を算出する信号処理手段5と、副歯車3の回転に対応して周期的に変化する信号を出力する副回転検出機構6と、副回転検出機構6が出力する信号の周期を変換し、この信号を用いて変換した周期における副歯車3の回転角度を算出する信号処理手段7と、信号処理手段5、7が算出した主歯車2および副歯車3の回転角度と、主歯車2と副歯車3との相対回転角度と、変換した周期とに基づいてステアリングシャフトXの回転角度を算出する演算処理手段8とを備える。なお、主歯車2と副歯車3とのギヤ比すなわち回転比は5/9である。また、符号9は回転角度検出装置1のハウジングを示す。
【0019】
主回転検出機構4は、主歯車2に取り付けられたリング状の磁石4aと、リング状磁石4aの表面から0.5mmだけ離れた位置に主歯車2の回転中心のまわりに90度の角度をなすように配置したホール素子4b、4cとを備える。同様に、副回転検出機構6は、副歯車3に取り付けられた円板状の磁石6aと、円板状磁石6aの表面から0.5mmだけ離れた位置に副歯車3の回転中心のまわりに90度の角度をなすように配置したホール素子6b、6cとを備える。ホール素子4b、4c、6b、6cは回転角度検出装置1に固定されている。
【0020】
リング状磁石4aは、S極の部分とN極の部分が交互に1箇所ずつ配置され、主歯車2の回転方向において正弦波状に連続的かつ周期的に強度が変化する磁場を発生するように着磁されている2極の磁石である。ホール素子4b、4cは主歯車2の回転に対応して強度が変化する磁場を検出し、それぞれ磁場強度に対応した電圧信号を出力する。磁場強度の変化の周期すなわちホール素子4b、4cが出力する電圧信号の周期は360度である。同様に、円板状磁石6aも、S極の部分とN極の部分が交互に1箇所ずつ配置され、副歯車3の回転方向において正弦波状に連続的かつ周期的に強度が変化する磁場を発生するように着磁されている2極の磁石である。ホール素子6b、6cは副歯車3の回転に対応して強度が変化する磁場を検出し、それぞれ周期が360度の磁場強度に対応した電圧信号を出力する。
【0021】
図2は、図1に示す主回転検出機構4、副回転検出機構6、信号処理手段5、7、演算処理手段8の構成を示すブロック図である。ホール素子4b、4cは増幅器A1により増幅した電圧が印加され、主歯車2の回転に対応した強度の磁場を検出し、検出した磁場強度に対応した電圧値を有する電圧信号を出力する。増幅器A2、A3はホール素子4b、4cが出力する電圧信号を増幅して電圧値であるS1、S2を、マイクロコントローラを備える信号処理手段5に出力する。信号処理手段5は電圧信号の周期を変換し、電圧値S1、S2を用いて変換後の周期における主歯車2の回転角度であるθ1を算出し、マイクロコントローラを備える演算処理手段8に出力する。
【0022】
同様に、増幅器A4により増幅した電圧を印加したホール素子6b、6cは検出した磁場強度に応じた電圧値を有する電圧信号を出力する。増幅器A5、A6はホール素子6b、6cが出力する電圧信号を増幅して電圧値であるS3、S4をマイクロコントローラを備える信号処理手段7に出力する。信号処理手段7は電圧信号の周期を変換し、電圧値S3、S4を用いて変換後の周期における副歯車3の回転角度を算出し、さらにこの回転角度に回転比5/9を乗じた角度であるθ2を算出し、演算処理手段8に出力する。そして、演算処理手段8はθ1、θ2を用いてステアリングシャフトXの回転角度Φを算出する。
【0023】
以下に図3〜5を参照して回転角度検出装置1がステアリングシャフトXの回転角度を検出する方法について具体的に説明する。まず、図3を参照して主歯車2の回転角度を算出する方法について説明する。信号処理手段5に入力する電圧信号の電圧値であるS1、S2はたとえば図3の上段のグラフに示すような360度を周期とする正弦曲線L1、L2上の各1点に対応する。なお、このグラフにおいて横軸は任意の位置を基準とした主歯車2の回転角度を示し、縦軸は電圧信号の電圧を示す。また、ホール素子4b、4cは主歯車2の回転中心のまわりに90度の角度をなすように配置されているので、正弦曲線L1、L2の位相差は90度である。
【0024】
つぎに、信号処理手段5は、電圧値S1、S2を下記の式(5)、(6)を用いて規格化する。規格化した値をM1、M2とすると、
M1=(S1−S1avg)/S1p ・・・ (5)
M2=(S2−S2avg)/S2p ・・・ (6)
【0025】
ただし、S1avg、S2avgはそれぞれ電圧信号の1周期における最大値と最小値との平均値、S1p、S2pはそれぞれ電圧信号の1周期における最大値と最小値との差である。S1avg、S2avg、S1p、S2pについては、回転角度検出装置1の組み立て調整時に主歯車2を1回転させて電圧信号のデータを取得し、そのデータから各値を求め、信号処理手段5に記憶させておく。以上のように求めた規格化値M1、M2は図3の中段のグラフに示すような360度を周期とする正弦曲線L3、L4上の各1点に対応する。なお、このグラフにおいて横軸は任意の位置を基準とした主歯車2の回転角度を示し、縦軸は規格化値を示す。
【0026】
つぎに、信号処理手段5は、電圧信号の周期を360度から180度に変換する。変換した周期をT1とするとT1=180度である。そして、信号処理手段5は、規格化値M1、M2を用いてこの変換した周期T1における主歯車2の回転角度であるθ1を算出する。θ1の算出は例えば以下のように行うことができる。
【0027】
まず、式(7)を用いてθを算出する。
θ=Arctan(M1/M2)+α ・・・ (7)
ただし、M2>0の場合、α=90度、M2<0の場合、α=270度であり、M2=0の場合、M1>0ならばθ=180度、M1<0ならばθ=0度である。
そして、θが180度以下ならばθ1=θとし、θが180度より大きければθ1=θ−180とし、360度の周期を半分の180度周期に変換する。
【0028】
以上の方法で算出した角度θ1は図3の下段のグラフに示すような180度を周期とするノコギリ状曲線L5上の1点に対応する。なお、このグラフにおいて横軸は任意の位置を基準とした主歯車2の回転角度を示し、縦軸は主歯車2の算出した回転角度を示す。
【0029】
つぎに副歯車3の回転角度を算出する方法について説明するが、この方法は主歯車2の回転角度を算出する方法とほぼ同様である。信号処理手段7に入力する電圧信号の電圧値であるS3、S4はたとえば図4の上段のグラフに示すような360度を周期とする正弦曲線L6、L7上の各1点に対応する。なお、このグラフにおいて横軸は任意の位置を基準とした副歯車3の回転角度を示し、縦軸は電圧信号の電圧を示す。また、正弦曲線L6、L7の位相差は90度である。
【0030】
つぎに、信号処理手段7は、電圧信号S3、S4を下記の式(8)、(9)を用いて値M3、M4に規格化する。
M3=(S3−S3avg)/S3p ・・・ (8)
M4=(S4−S4avg)/S4p ・・・ (9)
【0031】
ただし、S3avg、S4avgはそれぞれ電圧信号の最大値と最小値との平均値、S3p、S4pはそれぞれ電圧信号の最大値と最小値との差であり、回転角度検出装置1の組み立て調整時に副歯車3を1回転させて電圧信号のデータを取得し、そのデータから各値を求め、信号処理手段7に記憶させておく。規格化値M3、M4は図4の中段のグラフに示すような360度を周期とする正弦曲線L8、L9上の各1点に対応する。なお、横軸は任意の位置を基準とした副歯車3の回転角度を示し、縦軸は規格化値を示す。
【0032】
つぎに、信号処理手段7は、電圧信号の周期を360度から360度に変換し、ギヤ比5/9を乗じる。つまり、変換した周期にギヤ比を乗じた周期をT2とするとT2=360×5/9=200度である。このように、本明細書では、信号の周期の変換とは同一の周期に変換する場合も含むものとする。
【0033】
そして、信号処理手段7は、規格化値M3、M4を用いて周期T2における副歯車3の回転角度を算出し、さらに回転角度にギヤ比を乗じた角度であるθ2を算出する。θ2の算出は例えば以下のように行うことができる。
【0034】
まず、式(10)を用いてθを算出する。
θ=Arctan(M3/M4)+α ・・・ (10)
ただし、M4>0の場合、α=90度、M4<0の場合、α=270度であり、M4=0の場合、M3>0ならばθ=180度、M3<ならばθ=0度である。
そして、θにギヤ比5/9を乗じてθ2を算出する。
【0035】
以上の方法で算出した角度θ2は図4の下段のグラフに示すような200度を周期とするノコギリ状曲線L10上の1点に対応する。なお、このグラフにおいて横軸は任意の位置を基準とした副歯車3の回転角度を示し、縦軸は副歯車3の算出した回転角度にギヤ比を乗じた角度を示す。
【0036】
つぎに、信号処理手段5、7は上記のように求めた角度θ1、θ2をそれぞれ演算処理手段8に出力する。本実施の形態に係る回転角度検出装置1においては上記のようにT1=180度、T2=200度であるから、演算処理手段8は周期T1、T2の周期差の絶対値をd=|T1−T2|として式(1)および(2)を用いてステアリングシャフトXの回転角度であるΦを算出する。
【0037】
θ2≦θ1の場合は、
Φ=θ1+T1(θ1−θ2)/d ・・・ (1)
θ2>θ1の場合は、
Φ=θ1+T1(θ1−θ2)/d+T1・T2/d ・・・ (2)
【0038】
ここで、θ2≦θ1の場合に角度θ1、θ2、周期T1、T2、周期差d、回転角度Φの関係について図5を参照して説明する。図5の横軸はステアリングシャフトXの回転角度の検出角度範囲R=T1・T2/|T1−T2|=1800度を示す。ノコギリ状曲線L11は図3のノコギリ状曲線L5を検出角度範囲R内に10周期分並べたものである。ただし、縦軸は1周期に対する比率を表し、角度が180度のとき比率が100%となる。一方、ノコギリ状曲線L12は図4のノコギリ状曲線L10を検出角度範囲R内に9周期分並べたものである。ただし、縦軸は1周期に対する比率を表し、角度が200度のとき比率が100%とする。なお、回転角度Φはノコギリ状曲線L11とL12の位相が一致する位置を0度とする。このときΦが1800度の位置においてもノコギリ状曲線L11とL12の位相が一致する。
【0039】
たとえば、主歯車2、副歯車3について図5に示すようにそれぞれ角度θ1、θ2が算出されたとする。一方、式(1)を用いて回転角度Φが算出されたとする。この場合、主歯車2と副歯車3との相対回転角度である(θ1−θ2)は回転角度Φにおけるノコギリ状曲線L11、L12の位相のずれを示す。また、ノコギリ状曲線L11とL12は主歯車2が1周期分回転する毎に周期差dだけ位相がずれるから、(θ1−θ2)/dは回転角度Φが主歯車の何周期分の回転を含むかを示す数式であり、整数の値をとる。具体的には、主歯車2、副歯車3について周期T1、T2はそれぞれ180度、200度であるから、d=20度である。すなわち、主歯車2が1周期分回転するとノコギリ状曲線L11とL12の位相が20度ずれる。図5では、回転角度Φは主歯車が3周期分回転した状態からさらに角度θ1だけ回転した値であるから、(θ1−θ2)/d=3である。つまり、角度θ1、θ2、周期T1、T2、周期差d、回転角度Φが上記のような関係を有するので、式(1)を用いて回転角度Φを算出することができる。
【0040】
なお、θ2>θ1の場合は、回転角度Φが主歯車の何周期分の回転を含むかを示し整数の値をとる数式は{T2−(θ2−θ1)}/dとなるので、式(2)を用いて回転角度Φを算出する。
【0041】
また、式(1)と下記式(1a)、式(2)と下記式(2a)は等価な式であるから、式(1)の代わりに式(1a)を用いて回転角度Φを算出してもよいし、式(2)の代わりに式(2a)を用いても回転角度Φを算出できる。
Φ=θ2+T2(θ1−θ2)/d ・・・ (1a)
Φ=θ2+T2(θ1−θ2)/d+T1・T2/d ・・・ (2a)
【0042】
上記のように、検出角度範囲RはR=T1・T2/|T1−T2|で表される。すなわち、検出角度範囲Rは周期T1とT2の最小公倍数である。したがって、周期T1、T2は所望の検出角度範囲Rとなるように決定する必要がある。また、周期差dは回転角度Φが主歯車の何周期分の回転を含むかを決定するために用いられるので、角度θ1、θ2の検出に許容される誤差は周期差dで表される。この許容誤差は回転角度検出装置の組み立て精度や温度特性などに応じて所望の値に設定する。したがって、周期T1、T2は所望の許容誤差すなわち周期差dとなるように決定する必要がある。
【0043】
しかし、本発明に係る回転角度検出装置1は信号処理の際に電圧信号の周期を変換して所望の周期T1、T2を得ることができる。したがって、周期差dと検出角度範囲Rとが所望の値になるように周期T1、T2を決定することができる。その結果、検出角度範囲Rおよび周期差dは主回転検出機構4および副回転検出機構6が発生する信号の周期やギヤ比などによって一意に固定されるものではなく、高い自由度で設定することができるものとなる。
【0044】
以上説明したように、本実施の形態に係る回転角度検出装置1は、主回転検出機構4および副回転検出機構6が出力する信号の周期を変換し、この信号を用いて変換した周期における主歯車2および副歯車3の回転角度を算出し、算出した回転角度と、主歯車2と副歯車3との相対回転角度と、変換した信号の周期とに基づいてステアリングシャフトXの回転角度を算出する。その結果、主回転検出機構、副回転検出機構、および主歯車と副歯車とのギヤ比などを高い自由度で設計することができる。
【0045】
また、回転角度検出装置1は副歯車を1つだけ用いるので、副歯車3と主歯車2との間に発生する歯車のバックラッシによる回転の検出誤差が主歯車2の回転角度の誤差として重畳することはなく、より正確にステアリングシャフトXの回転角度を検出できる。さらに、従来の回転角度検出装置よりも部品点数を減らすことができ、一層小型、軽量で低コストの回転角度検出装置となる。さらに、回転角度検出装置1は磁気検出素子としてホール素子を用いているので、より一層小型化、軽量化、低コスト化が可能となる。
【0046】
また、回転角度検出装置1においては、主回転検出機構4および副回転検出機構6は主歯車2または副歯車3の回転に対応して周期的に変化する連続したアナログ信号を出力するものである。したがって、特許文献2に記載のデジタル信号を出力するエンコーダの場合よりも小型化できる。さらに、主歯車2および副歯車3の回転角度の検出をする際に連続したアナログ信号を用いるので、離散化したデジタル信号を用いる場合よりも分解能が高い角度検出ができる。
【0047】
つぎに、実施の形態において、検出角度範囲Rが1800度の場合について周期T1をさまざまに変化させた場合の周期T2、ギヤ比、許容誤差を図6に示す。なお、実施の形態ではT1<T2であるので、ステアリングシャフトXの回転角度の算出の際に式(1)、(2)を用いたが、電圧信号の周期の変換によりT1>T2となる場合には下記の式(3)、(4)を用いて回転角度を算出した。
θ1≦θ2の場合は、
Φ=θ1+T1(θ2−θ1)/d ・・・ (3)
θ1>θ2の場合は、
Φ=θ1+T1(θ2−θ1)/d+T1・T2/d ・・・ (4)
【0048】
図6において、項目番号「1」〜「6」はそれぞれ周期T1が360/n(nは1〜6の整数)の場合に対応する。R=T1・T2/|T1−T2|であるから、R=1800を満足するために各T1に対してT1<T2またはT1>T2となる2つのT2が存在する。そして各T2に対してギヤ比k=m・T2/360と許容誤差が定まる。なお、mは360を副回転検出機構の信号の周期で除したものである。図6においてはm=1としている。
【0049】
ギヤ比は小さいほうが副歯車を小さくできそれによって装置の小型化、軽量化が実現できるので好ましい。一方、許容誤差が大きければ装置の組み立て精度や温度特性による角度θ1、θ2の検出誤差の許容量が大きくなり好ましい。図6に示すように、ギヤ比と許容誤差はトレードオフの関係にあるが、本実施の形態に係る回転角度検出装置1においては、主回転検出機構および副回転検出機構の信号の周期を変換することにより、ギヤ比と許容誤差を最適な値とすることができる。
【0050】
なお、上記実施の形態では磁気検出素子としてホール素子を用いたが、回転角度検出装置の用途に応じて温度特性が小さく角度分解能が高い磁気抵抗素子を用いてもよい。また、上記実施の形態は主回転検出機構および副回転検出機構として連続したアナログ信号を出力するものを用いた回転角度検出装置であるが、主回転検出機構または副回転検出機構としてエンコーダなどのデジタル信号を出力するものを用い、出力したデジタル信号を信号処理する回転角度検出装置でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係る回転角度検出装置を模式的に表した断面概略図である。
【図2】図1に示す主回転検出機構、副回転検出機構、信号処理手段、演算処理手段の構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態に係る回転角度検出装置において主歯車の回転角度を算出する方法を説明する図である。
【図4】実施の形態に係る回転角度検出装置において副歯車の回転角度を算出する方法を説明する図である。
【図5】θ2≦θ1の場合に角度θ1、θ2、周期T1、T2、周期差d、回転角度Φの関係について説明する図である。
【図6】実施の形態において、検出角度範囲Rが1800度の場合について周期T1をさまざまに変化させた場合の周期T2、ギヤ比、許容誤差を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 回転角度検出装置
2 主歯車
3 副歯車
4 主回転検出機構
4a リング状磁石
4b、4c ホール素子
5、7 信号処理手段
6 副回転検出機構
6a 円板状磁石
6b、6c ホール素子
8 演算処理手段
9 ハウジング
A1〜A6 増幅器
L1〜L12 曲線
X ステアリングシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出回転体の回転角度を検出する回転角度検出装置であって、
前記被検出回転体に取り付け該被検出回転体と共に回転する主回転体と、
前記主回転体に対して所定の回転比で回転する副回転体と、
前記主回転体の回転に対応して周期的に変化する信号を出力する主回転検出機構と、
前記副回転体の回転に対応して周期的に変化する信号を出力する副回転検出機構と、
前記主回転検出機構および前記副回転検出機構が出力する信号の周期を変換し該信号を用いて該変換した周期における前記主回転体および前記副回転体の回転角度を算出する信号処理手段と、
前記算出した主回転体または副回転体の回転角度と、前記主回転体と前記副回転体との相対回転角度と、前記変換した周期とに基づいて前記被検出回転体の回転角度を算出する演算処理手段と、
を備えることを特徴とする回転角度検出装置。
【請求項2】
被検出回転体の回転角度を検出する回転角度検出装置であって、
前記被検出回転体に取り付け該被検出回転体と共に回転する主回転体と、
前記主回転体に対して所定の回転比で回転する副回転体と、
前記主回転体の回転に対応して周期的に変化する連続した信号を出力する主回転検出機構と、
前記副回転体の回転に対応して周期的に変化する連続した信号を出力する副回転検出機構と、
前記主回転検出機構および前記副回転検出機構が出力する信号を用いて前記主回転体および前記副回転体の回転角度を算出する信号処理手段と、
前記算出した主回転体または副回転体の回転角度と、前記主回転体と前記副回転体との相対回転角度と、前記主回転検出機構および前記副回転検出機構が出力する信号の周期とに基づいて前記被検出回転体の回転角度を算出する演算処理手段と、
を備えることを特徴とする回転角度検出装置。
【請求項3】
前記主回転検出機構または前記副回転検出機構は、
前記主回転体または前記副回転体に取り付けられ回転方向において連続的かつ周期的に強度が変化する磁場を発生する磁石と、
前記磁石の近傍に前記主回転体または前記副回転体の回転中心のまわりに所定の角度をなすように配置した2つの磁気検出素子と、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の回転角度検出装置。
【請求項4】
前記磁気検出素子は、ホール素子であることを特徴とする請求項3に記載の回転角度検出装置。
【請求項5】
前記磁気検出素子は、磁気抵抗素子であることを特徴とする請求項3に記載の回転角度検出装置。
【請求項6】
前記変換した周期は、前記主回転体および前記副回転体の回転角度の許容誤差と前記被検出回転体の回転角度の検出角度範囲とが所望の値になるように決定された周期であることを特徴とする請求項1、3〜5のいずれか1つに記載の回転角度検出装置。
【請求項7】
前記演算処理手段は、前記算出した主回転体の回転角度をθ1、前記算出した副回転体の回転角度に前記所定の回転比を乗じた角度をθ2、前記変換した主回転検出機構の信号の周期をT1、前記変換した副回転検出機構の信号の周期に前記所定の回転比を乗じた周期をT2(T1≠T2)、周期T1とT2の差の絶対値|T1−T2|をdとして、下記の式(1)〜(4)を用いて前記被検出回転体の回転角度Φを算出することを特徴とする請求項1、3〜6のいずれか1つに記載の回転角度検出装置。
T1<T2、θ2≦θ1の場合は、
Φ=θ1+T1(θ1−θ2)/d ・・・ (1)
T1<T2、θ2>θ1の場合は、
Φ=θ1+T1(θ1−θ2)/d+T1・T2/d ・・・ (2)
T1>T2、θ1≦θ2の場合は、
Φ=θ1+T1(θ2−θ1)/d ・・・ (3)
T1>T2、θ1>θ2の場合は、
Φ=θ1+T1(θ2−θ1)/d+T1・T2/d ・・・ (4)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−333520(P2007−333520A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164772(P2006−164772)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】