説明

回転軸に取り付けた超高硬度材を用いた工具を加工するワイヤ放電加工方法およびワイヤ放電加工機

【課題】超高硬度材を固定した切削工具を高精度にかつ容易に加工することができるワイヤ放電加工方法およびワイヤ放電加工機を提供すること。
【解決手段】上ワイヤガイド14に取り付けたタッチセンサ3を、加工プログラムを基に作成された計測用プログラムに従って工具ボディ100にPCDチップ101を固定した被切削工具に対して相対的に水平方向に移動させるX軸およびY軸を駆動し、タッチセンサ3を測定位置に位置決めし(a)、検出子3aの先端3bを、垂直方向に移動するZ軸移動により回転軸の回転中心高さまで降ろして位置決し(b)、切削工具のすくい面が先端3bに接触する方向に回転軸22を回転させ(c)、接触を検出した時点の回転軸座標情報を制御装置50に読み込み、測定用プログラムに従って取得した回転軸座標のデータに基づいて加工プログラムを再生成し、すくい面位置を測定した位置で切削工具を放電加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具の材料として最も硬度なPCD(多結晶ダイヤモンド)材やPCBN(多結晶立方晶窒化硼素)材が切れ刃として取り付けられた回転型の切削工具の切れ刃を高精度に加工するワイヤ放電加工方法およびワイヤ放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具の材料として最も硬度なPCD(多結晶ダイヤモンド)材やPCBN(多結晶立方晶窒化硼素)材をPCDやPCBN素材からチップとして切り出し(ブランク加工)、ロウ付け材を高周波誘導加熱装置により溶融し、切り出したチップを切り刃として工具ボディにロウ付けする。
図23はPCD素材(PCDディスク)からのチップの切り出し(ブランク加工)例を説明する図である。図23(a)に示されるように、チップの切り出しはワイヤ放電加工により行うことができる。また、PCD素材から切り出されるチップ形状は、(a)に示されるように矩形形状、(b)に示されるように三角形形状など種々である。なお、PCD素材だけでなくPCBN素材の場合も同様である。図23に示されるようにして切り出されたPCDチップは、図24に示されるように、ロウ付け材が高周波誘電加熱装置により溶融されることによって、工具ボディにロウ付けされる。
【0003】
切削工具の材料として最も硬度の高いPCD(多結晶ダイヤモンド)材やPCBN(多結晶立方晶窒化硼素)材が切れ刃として取り付けられた回転型の切削工具の切れ刃を高精度に加工するには、材料そのものが非常に硬い為、困難な加工作業である。図25に示される研削加工では、ダイヤモンド砥石を使い、長時間をかけて研削する必要がある。また、微細な形状や複雑に入り組んだ加工形状の場合、砥石の磨耗が顕著で、効率の悪い加工となる。
この為、このようなPCD工具を製造する加工方法には、放電現象の熱により、PCD材料を燃焼させ加工する放電加工方法が知られている。この中で、砥石の換わりに銅とタングステンの合金のディスクを、所望のPCD工具外形形状にあわせて作成し、このディスク電極とPCD工具の間にパルス上の電流による放電加工を行う放電研磨機が知られている。
しかし、毎回、PCD工具形状に合わせて、高価なディスク電極を作成する必要があり、また、形状全てを放電で燃焼させる必要があり、深い溝形状などでは加工時間が非常に長くかかり、しかもディスク電極の消耗のため、複数のディスク電極が必要で、工具の加工単価を上げる要因になっている。
【0004】
そこで、図26に示されるように、複雑形状でも、その加工経路のみを切り進んでいくワイヤ放電加工によるPCD工具加工が、電極作成の必要も無く、加工時間も短縮できる為、非常に便利な加工方法となる。
しかしながら、研削加工や放電研磨加工に比べ、ワイヤ放電加工は、切り刃を加工する際、加工するPCD工具のすくい面に対し、直線上に張られたワイヤ電極で、工具の外周形状を逃げ角をつける為に、ワイヤ電極を斜めにしたテーパ加工方法で逃げ面を加工するため、PCD工具のすくい面位置を正確に測定しその位置に対し、正確にワイヤ電極を位置決めする難しさが伴う。もし、このすくい面の位置が正確に測定されなければ、当然加工誤差となり、その加工誤差は、主に切削工具が回転した際の工具の回転半径精度誤差となる。
【0005】
切削工具をワイヤ放電加工機で加工する際には、工具の切り刃の形状精度をいかに確保するかが、工具の高精度化、長寿命化に重要である。
その為、工具のすくい面をタッチセンサ等で測定し、測定結果に基づいて加工する技術が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示される技術では、すくい面を水平に位置決めする為に1刃当たり、工具の半径方向に2箇所測定し、その位置からすくい面を水平に保ち、なおかつその時に、工具中心高さからすくい面高さのズレを計算し、計算結果から、刃先の最外周径が所望どおりになるよう、加工時のワイヤ位置を半径方向に補正移動させている。
また、特許文献2には、切削工具に取り付けられたPCDチップすくい面の加工開始位置である片端部上面をダイヤルゲージで水平となるよう角度割り出し装置にて調整した位置でのすくい面高さと、その後、もう一方の片端部の加工終了点にダイヤルゲージを移動させ、その個所でのすくい面の高さを計測しその高さの差より、加工開始点から加工終了点までの距離移動した際の回転角度を演算処理で計算する事で加工を行う方法が開示されている。
また、特許文献3には、切削工具の加工形状は総型と呼ばれる前述の直線形状とは異なるが、加工する切り刃の回転方向の位置決めには、工具先端の端部回転方向の外周部に位置する切り刃エッジ部を工具先端側に取り付けた顕微鏡で目視して、位置決めを確認する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−267925号公報
【特許文献2】特許第3572039号明細書
【特許文献3】特許第2828424号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
切削工具をワイヤ放電加工機で加工する際には、工具の切り刃の形状精度をいかに確保するかが、工具の高精度化、長寿命化に重要である。
【0008】
特許文献1に開示される技術のように、リーマ工具のような外周径が一定で加工形状が工具中心軸に平行な一直線形状である場合には、大きな問題とはならない。しかし、外周形状が複雑で、特に円弧形状を有する切削工具では、円弧の象限により半径方向への補正のみでは正しく無い場合が生じる。ここで円弧の象限とは、例えば、回転中心軸から徐々に回転半径が変化する部位を示す(図4(a)参照)。また、刃形状が細長い場合、細長いPCDチップをロウ付けした際、熱により湾曲してロウ付けされる場合が多く、この湾曲部の測定を行わないと、高精度の工具半径精度が得られない(図27参照)。
【0009】
特許文献2に開示される技術は、この回転角度の計算では、始点から終点までの距離と高さの差と半径から求めている為、工具の半径が変わらない直線形状においてのみ可能な手法である。また、もちろん、直線形状においても、特許文献1に開示される技術と同様に、ロウ付けされた長いPCDチップの湾曲量を正確に求める事が出来ず、この誤差が工具の半径誤差となってしまい、高精度な工具を作成する事が出来ない(図28参照)。ましてや、円弧形状を持つ切り刃の加工形状に対しては、何ら補正する手段が無い。
【0010】
特許文献3に開示される技術は、すくい面が途中で湾曲していたり、すくい面が工具中心線を通りその線に平行でないような芯上がり、芯下がりの状態(特許文献1参照)や、すくい面が斜めになった前述の特許文献2のような切削工具には適用できない。もちろん、図28のような切り刃がスパイラル上に形成された回転工具を加工する場合には、前記加工方法では、高精度に加工することが困難である。
【0011】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、すくい面の位置の測定誤差をできるだけ少なくし、かつ、測定のためのオペレータの操作負担をできるだけ少なくする、回転軸に固定されたPCD(多結晶ダイヤモンド)もしくはPCBN(多結晶立方晶窒化硼素)材のような超高硬度材を固定した切削工具を高精度にかつ容易に加工することができるワイヤ放電加工方法およびワイヤ放電加工機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に係る発明は、上ワイヤガイドに取り付けられたタッチセンサを備え、上ワイヤガイドと下ワイヤガイドとにより張架されたワイヤ電極に対し切削工具を互いに直交する2軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、該切削工具を回転させる回転軸を有し、テーパ加工機能を有するワイヤ放電加工機を用い、該回転軸に着脱自在に取り付けられPCD(多結晶ダイヤモンド)もしくは、PCBN(多結晶立方晶窒化硼素)材などの超高硬度材が固定された該切削工具の該超高硬度材を加工プログラムに従って放電加工し切り刃とするワイヤ放電加工方法において、前記加工プログラムで指令される加工経路に沿って、該加工経路のブロック始点もしくは終点もしくは始点と終点の中間点もしくは始点と終点間を複数に分割し、回転軸の回転中心高さにおいて、前記タッチセンサの検出子端部と前記超高硬度材との接触を検出する測定点とする計測用プログラムを生成し、前記生成された計測用プログラムに基づき、前記タッチセンサの検出子端部を前記測定点に位置決めし、前記切削工具を取り付けた回転軸を前記超高硬度材の工具すくい面を形成する面が前記タッチセンサの検出子端部に接触する方向に回転させ、前記工具すくい面を形成する面の前記タッチセンサの検出子端部への接触時の前記タッチセンサからの検出信号により、前記測定点における前記超高硬度材の工具すくい面を形成する面が前記回転軸の回転中心高さになる回転軸座標情報を読み取り、前記測定点での経路座標位置情報と回転軸座標情報を記憶し、前記経路座標位置情報と前記回転軸座標情報に基づき加工プログラムを再生成し、前記生成された加工プログラムに基づいて上,下ワイヤガイドで張架されたワイヤ電極により前記切削工具の超高硬度材をワイヤ放電加工し切り刃を形成することを特徴とするワイヤ放電加工方法である。
請求項2に係る発明は、前記テーパ加工機能は、前記2軸が張る平面に対して前記ワイヤ電極をテーパ角度傾斜させて行う機能、または、前記回転軸をテーパ角度回転させ前記ワイヤ電極を該2軸が張る平面に対して垂直にして行う機能であることを特徴とする請求項1に記載されたワイヤ放電加工方法である。
請求項3に係る発明は、前記測定点は、前記加工プログラムで指令された加工経路の各移動指令ブロックの終点座標からその前の移動指令ブロックの終点座標との間を、任意の分割数で分割した点を制御装置内部で自動的に計算して求めることを特徴とする請求項1または請求項2の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工方法である。
請求項4に係る発明は、前記測定点は、加工プログラムで指令された加工経路から加工代分オフセットされた経路を分割して計算することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工方法である。
請求項5に係る発明は、前記測定点を求める際に、前記加工プログラムで指令された加工経路の各ブロックの始点が前記超高硬度材の外部からの切り込み開始点の場合、もしくは、加工経路の各ブロックの終点座標のうち、該超高硬度材の外部に延長された加工経路の終点の場合は、測定を行わないよう判別することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工方法である。
請求項6に係る発明は、前記タッチセンサに替え、非接触で前記工具すくい面を検出する非接触式センサを使用し、該非接触式センサの検出部を前記加工経路のブロック始点もしくは終点もしくは始点と終点の中間点もしくは始点と終点間を複数に分割した点に位置決めし、非接触式センサから出力される検出値に基づき前記超高硬度材の工具すくい面を形成する面が前記回転軸の回転中心高さになるまで前記回転軸を回転させ、回転軸座標情報を読み取り、前記位置めした点での経路座標位置情報と回転軸座標情報を記憶し、前記記憶した経路座標位置情報と回転軸座標情報に基づき加工プログラムを再生成することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工方法である。
【0013】
請求項7に係る発明は、上ワイヤガイドに取り付けられたタッチセンサを備え、上ワイヤガイドと下ワイヤガイドとにより張架されたワイヤ電極に対し切削工具を互いに直交する2軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、該切削工具を回転させる回転軸を有し、該回転軸に着脱自在に取り付けられPCD(多結晶ダイヤモンド)もしくは、PCBN(多結晶立方晶窒化硼素)材などの超高硬度材が固定された該切削工具の該超高硬度材を加工プログラムに従って放電加工し切り刃とするテーパ加工機能を有するワイヤ放電加工機において、前記加工プログラムで指令される加工経路に沿って、該加工経路のブロック始点もしくは終点もしくは始点と終点の中間点もしくは始点と終点間を複数に分割し、前記回転軸の回転中心高さにおいて、前記タッチセンサの検出子端部と前記超高硬度材との接触を検出する測定点とする計測用プログラムを生成する計測用プログラム生成部と、前記生成された計測用プログラムに基づき、前記タッチセンサの検出子端部を前記測定点に位置決めする位置決め部と、前記切削工具を取り付けた回転軸を前記超高硬度材の工具すくい面を形成する面が前記タッチセンサの検出子端部に接触する方向に回転させる回転部と、前記工具すくい面を形成する面の前記タッチセンサの検出子端部への接触時の前記タッチセンサからの検出信号により、前記測定点における前記超高硬度材の工具すくい面を形成する面が前記回転軸の回転中心高さになる回転軸座標情報を読み取る読み取り部と、前記測定点での経路座標位置情報と回転軸座標情報を記憶する記憶部と、前記経路座標位置情報と前記回転軸座標情報に基づき加工プログラムを再生成する再生成部と、前記生成された加工プログラムに基づいて上,下ワイヤガイドで張架されたワイヤ電極により前記切削工具の超高硬度材をワイヤ放電加工し切り刃を形成することを特徴とするワイヤ放電加工機である。
請求項8に係る発明は、前記テーパ加工機能は、前記2軸が張る平面に対して前記ワイヤ電極をテーパ角度傾斜させて行う機能、または、前記回転軸をテーパ角度回転させ前記ワイヤ電極を該2軸が張る平面に対して垂直にして行う機能であることを特徴とする請求項7に記載されたワイヤ放電加工機である。
請求項9に係る発明は、前記測定点は、前記加工プログラムで指令された加工経路の各ブロックの終点座標からその前の移動指令ブロックの終点座標との間を、任意の分割数で分割した点を制御装置内部で自動的に計算して求めることを特徴とする請求項7または請求項8の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工機である。
請求項10に係る発明は、前記測定点は、加工プログラムで指令された加工経路から加工代分オフセットされた経路を分割して計算することを特徴とする請求項7乃至請求項9の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工機である。
請求項11に係る発明は、前記測定点を求める際に、前記加工プログラムで指令された加工経路の各ブロックの始点が前記超高硬度材の外部からの切り込み開始点の場合、もしくは、加工経路の各ブロックの終点座標のうち、該超高硬度材の外部に延長された加工経路の終点の場合は、測定を行わないよう判別することを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれか一つに記載されたワイヤ放電加工機である。
請求項12に係る発明は、前記タッチセンサに替え、非接触で前記工具すくい面を検出する非接触式センサを使用し、該非接触式センサの検出部を前記加工経路のブロック始点もしくは終点もしくは始点と終点の中間点もしくは始点と終点間を複数に分割した点に位置決めする位置決め部と、非接触式センサから出力される検出値に基づき前記超高硬度材の工具すくい面を形成する面が前記回転軸の回転中心高さになるまで前記回転軸を回転させる回転部と、回転軸座標情報を読み取り、前記位置めした点での経路座標位置情報と該回転軸座標情報を記憶する記憶部と、前記記憶した経路座標位置情報と回転軸座標情報に基づき加工プログラムを再生成することを特徴とする請求項7乃至請求項11の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工機である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、すくい面の位置の測定誤差をできるだけ少なくし、かつ、測定のためのオペレータの操作負担をできるだけ少なくする、回転軸に固定されたPCD(多結晶ダイヤモンド)もしくはPCBN(多結晶立方晶窒化硼素)材のような超高硬度材を固定した切削工具を高精度にかつ容易に加工することができるワイヤ放電加工方法およびワイヤ放電加工機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るワイヤ放電加工機を説明する概要図である。
【図2】本発明に係るワークを回転させる回転軸を有するワイヤ放電加工機を説明する概要図である。
【図3】ワイヤ放電加工機本体を制御する制御装置を説明する概略図である。
【図4】PCDチップを切り刃として工具ボディへ取り付けた例を説明する図である。
【図5】タッチセンサによるPCDチップすくい面測定位置と、測定箇所でのワイヤ放電加工を行うことを説明する図である。
【図6】図5を時系列で説明する図である。
【図7】PCDチップの取り付け部の曲がり、歪みによりすくい面が平ではなく湾曲して取り付いている場合、加工プログラムの始点および終点のみの測定では、その中間点でのすくい面高さが始点と終点を結ぶ直線上に無く、回転軸の回転角を始点と終点求め、均等に分配したのでは、形状精度を確保できないことを説明する図である。
【図8】加工開始点においては、通常、切削工具の切り刃部より外側から切り込み、経路の終点では、切り刃部材料から抜け出るまでが実際の加工経路となることを説明する図である。
【図9】プログラム装置を用いて、形状図面から測定プログラムを作成することを説明する図である。
【図10】測定プログラム例である。
【図11】測定プログラムにより測定する測定箇所を説明する図である。
【図12】測定プログラムを説明する図である。
【図13】測定軌跡と測定点を説明する図である。
【図14】測定後の回転軸座標を含む加工プログラムを説明する図である。
【図15】分割がない場合の回転軸座標を含む加工プログラムによる測定点を説明する図である。
【図16】分割がない場合の回転軸座標を含む加工プログラムを説明する図である。
【図17】テーパ加工指令を入れた測定プログラムにより測定する測定箇所を説明する図である。
【図18】テーパ加工指令を入れた測定プログラムを説明する図である。
【図19】測定後の回転軸座標を含む加工プログラム(テーパ加工指令あり)の場合の測定軌跡と測定点とを説明する図である。
【図20】測定後の回転軸座標を含む加工プログラム(テーパ加工指令)を説明する図である。
【図21】切り刃部逃げ面をテーパ加工することを説明する図である。
【図22】プログラム座標系を回転軸方向に傾けることを説明する図である。
【図23】PCD素材(ディスク)からのチップの切り出し(ブランク加工)の例を説明する図である。
【図24】PCDチップの工具ボディへのロウ付け例を説明する図である。
【図25】工具を研削加工により加工することを説明する図である。
【図26】工具をワイヤ放電加工により加工することを説明する図である。
【図27】PCDチップの工具ボディへのロウ付け時の湾曲例を説明する図である。
【図28】スパイラル型PCD、PCB工具例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は本発明に係るワイヤ放電加工機を説明する概要図である。また、図2は本発明に係るワークを回転させる回転軸を有するワイヤ放電加工機を説明する概要図である。
【0017】
ワイヤ放電加工機1はワイヤ放電加工機本体30とワイヤ放電加工機本体30を制御する制御装置50を備えている。ワイヤ電極2が巻かれたワイヤボビン11は、送り出し部トルクモータ10で、ワイヤ電極2の引き出し方向とは逆方向に指令された所定低トルクが付与される。ワイヤボビン11から繰り出されたワイヤ電極2は、複数のガイドローラを経由し(図示せず)、ブレーキモータ12により駆動されるブレーキシュー13により、ブレーキシュー13とワイヤ電極送りモータ(図示せず)で駆動されるフィードローラ19の間の張力が調節される。張力検出器20は上ワイヤガイド14と下ワイヤガイド15間を走行するワイヤ電極2の張力の大きさを検出する検出器である。
【0018】
ブレーキシュー13を通過したワイヤ電極2は、上ワイヤガイド14、下ワイヤガイド15、下ガイドローラ16を経由し、ピンチローラ18とワイヤ電極送りモータ(図示せず)で駆動されるフィードローラ19で挟まれ、ワイヤ電極回収箱17に回収される。タッチセンサ3は上ワイヤガイドに取り付けられている。タッチセンサ3は図示省略した進退機能によって、ワイヤ電極2の走行方向に平行に上下動可能に取り付けられており、測定対象物に接触したときに接触を検知する信号を出力するセンサである。測定時以外には、タッチセンサ3は退避位置に引き上げられる。
【0019】
図2に示されるように、ワイヤ放電加工機本体30は被加工物(ワーク)である切削工具のPCDチップ101を固定した工具ボディ100を回転させるサーボモータを備えた回転軸22を載置した加工テーブル21を備えている。回転軸22は回転軸中心線を水平方向に向けて加工テーブル21に取り付けられる。被加工物は、加工テーブル21上に取り付けられた回転軸22に、被加工物を切削するときの回転と同じようにA軸周りに回転可能になるように着脱自在に取り付けられる。加工終了後被加工物は回転軸22から取り外される。ワイヤ放電加工機本体30は、上ワイヤガイド14と下ワイヤガイド15に張架されたワイヤ電極2に対して、被加工物を互いに直交するXY軸方向に相対的に移動可能である。これによって被加工物の垂直加工ができる。
【0020】
被加工物は、PCD(多結晶ダイヤモンド)、もしくは、PCBN(多結晶立方晶窒化硼素)などの超高硬度材が工具ボディ100に切り刃として取り付けられた切削工具である。上ワイヤガイド14はXY軸が形成する平面に対して垂直方向であるZ軸方向に移動可能とするZ軸駆動機構(図示せず)を備えている。タッチセンサ3を用いて被加工物の測定箇所を測定する際には、タッチセンサ3のプローブ先端を所定の位置に位置決めするためにタッチセンサ3を下降させることができる。また、上ワイヤガイド14は、U軸駆動機構及びV軸駆動機構(図示せず)を備えることにより、そのXYZ軸位置が調整できるようにしてもよい。この機構を備えることにより被加工物(切削工具)のテーパ加工が可能である。
本発明に係る制御装置50は、タッチセンサ3を用いて被切削工具の切り刃として加工される超高硬度材のすくい面となる面の位置を測定用プログラムによって測定する機能を備えている。測定用プログラムは後述するとおり、切削工具の超高硬度材を放電加工し切り刃に加工する加工プログラムを用いて制御装置50において作成される。そして、測定により得られた情報を基に加工プログラムを再生成し、再生成した加工プログラムに従って切削工具の超高硬度材を放電加工する機能を備えている。
【0021】
ワイヤカット放電加工機本体30は、図3に示される制御装置50によって制御され、ワークの加工を行う。制御装置50は、プロセッサ(CPU)51、RAM、ROMなどのメモリ52、表示用インタフェース53、表示装置54、キーボードインタフェース55、キーボード56、サーボインタフェース57、サーボアンプ58、外部機器との信号の授受を行う入出力インタフェース60である。そして、前記各要素はバス61を介して相互に接続されている。30はワイヤカット放電加工機本体であり、加工電源も含まれている。サーボモータ31はサーボアンプ58によって駆動される。サーボモータ31はX軸,Y軸,A軸(回転軸)の各駆動軸に対応するサーボモータを意味し、必要とする駆動軸に対応した数のサーボモータを意味する。各軸に備わったサーボモータ31には位置を検出する図示しない位置検出装置を備えている。サーボモータ31に取り付けられた各位置検出装置により検出される位置検出信号は制御装置50にフィードバックされる。
【0022】
加工用電源を含むワイヤカット放電加工機本体30は、インタフェース59を介して制御される。加工プログラムをスタートすると、インタフェース59を介して加工電源ONの指令がなされる。加工電源をOFFする場合にもインタフェース59を介してワイヤカット放電加工機本体30に指令される。入出力機器32は入出力インタフェース60を介して入出力信号が授受される。
【0023】
次に、本発明に係るすくい面位置の測定方法と測定結果に基づいて切削工具をワイヤ放電加工する加工方法を説明する。
図4(a)は工具ボディ100にロウ付け固定されたPCDチップ101,102をワイヤ放電加工し切り刃101’,102’とした切削工具を説明する図であり、図4(b)はその回転中心軸23方向に見た図である。
【0024】
本発明が解決しようとする課題で指摘したように、ワイヤ放電加工機1を用いてPCDチップがロウ付けされた切削工具を高精度にワイヤ放電加工する場合には、XY軸を駆動し、すくい面(工具すくい面)101’aとなるPCDチップ101の上面を、加工経路に沿って、必要最低限のピッチ間隔で各点の加工経路の座標とともに、ワイヤ放電加工機1で加工された切り刃の先端101’b(エッジ部)半径が形状寸法どおりとなるように、回転軸22を駆動しその工具すくい面101’aの加工経路上の点においてすくい面高さが工具回転中心高さ24に位置決めされ、その個所をワイヤ放電加工機1で正確に加工する方法が必要である(図5参照)。符号101’cは逃げ面である。
【0025】
すくい面101’aの高さは、工具ボディ100のPCDチップ取り付け面加工誤差や、ロウ付け厚さ誤差や、PCD素材の湾曲によって、一定にはなり得ない。もちろん、切り刃の先端101’bの切削性を向上させる為に、刃形状そのものをスパイラス形状にしたり、小型チップをそれぞれ階段形状に順番にスパイラル上にならべその各々を斜めに傾けて並べた多段スパイラル形状であれば、各切り刃の加工経路にそって逐一、加工経路上に位置するすくい面101’aの高さを工具回転軸中心高さ24に合わせる為、タッチセンサ3等で、すくい面101’aの高さが工具回転中心高さ24になるよう、その経路座標(XY平面上の)情報と共に回転軸22の座標を読み取る必要がある。
【0026】
この為、本発明の方法は、加工経路の指令ブロックの始点と終点のみすくい面回転軸座標を測定するのではなく、その中間部分も必要最小限に所望のピッチや分割数で分割された点でも回転軸座標を連続的に測定する事で、PCDチップ上面が湾曲している場合や、取り付け誤差で曲がっている場合、斜めやスパイラルに取り付けられているすくい面でも、各測定点での正確な回転軸座標を得ることが出来る。
【0027】
これにより、加工された切削工具が回転した際に、外周径の誤差を始点と終点のみの測定に比べ格段に少なくする事ができる。回転する砥石で研作する研磨機の場合には、切削工具自体も回転させておく事で、すくい面の湾曲や傾きに影響されず外周全体が同一の半径に仕上がる為、正確な回転軸座標を測定しなくても良い。しかし、ワイヤ放電加工機1では、上ワイヤガイド14と下ワイヤガイド15の間を直線状に走行するワイヤ電極2によるPCDチップのすくい面上の切り刃1点での加工位置が精度を決定する為、加工形状上の加工経路位置座標と共に、その点での正確な回転軸22の回転角度の情報を得ることが非常に重要である。
【0028】
ところで、一般に、ワイヤ放電加工機1による工具の加工形状用プログラムはNC文により作成される。このNC文は、オペレータやプログラマが、工具図面より形状を読み取り、プログラム装置で作成する。加工形状用の加工経路であれば、通常のプログラム作成と変わらず、市販のプログラム装置や、手作業で簡単にプログラムを作る事が出来る。しかし、前述の通り、ワイヤ放電加工機1に取り付けたタッチセンサ3により、切削工具のすくい面位置を正確に測定する必要があり、測定用のプログラム(測定プログラム)を作るには、特殊なノウハウを用いて、測定個所を何箇所も設定し、その都度測定命令を追加、測定結果の保存といった煩わしい命令を毎回作成する必要があった。または、それ専用の高価な専用プログラム装置が必要であった。
【0029】
本発明では、加工経路のプログラム(加工プログラム)に、回転軸22の駆動を指令する命令などの一部の命令を簡単に追加したプログラムとオペレータによる工具の諸元設定を行うことで、制御装置50が、測定用のプログラム(測定プログラム)を内部で自動作成する。そして、前記測定プログラムをワイヤ放電加工機1において実行し、各測定点において測定して得られた情報を基に、回転軸22と連動した加工経路用のNC文を自動作成する為、オペレータの負担を軽減する事が出来る。
【0030】
<タッチセンサによるすくい面位置の測定と測定箇所でのワイヤ放電加工>
次に、本発明に係るタッチセンサによるすくい面位置の測定と、測定箇所でのワイヤ放電加工を図5、図6を用いて説明する。図6は、図5を時系列に分解して説明する図である。測定プログラムにより、タッチセンサ3にて切削工具のすくい面の位置を測定する。なお、測定プログラムの作成方法は後述する。
【0031】
工具すくい面の位置の測定においては、上ワイヤガイド14に取り付けたタッチセンサ3の検出子3aの先端3b(検出子端部)を、計測用プログラムにおいて指令される測定点の点列からなる経路に沿ってワイヤ電極2を被切削工具に対して相対的に水平方向に移動させるX軸およびY軸を駆動し、測定位置に位置決めする(図6(a)の状態)。上,下ワイヤガイド14,15を駆動しワイヤ電極2を移動させる構成、あるいは、加工テーブル21を移動させる構成のいずれでもよい。
【0032】
次に、タッチセンサ3の検出子3aの先端3bを、垂直方向に移動するZ軸移動により切削工具の回転中心高さ(すなわち回転軸の回転中心高さ)まで降ろして位置決めする(図6(b)参照)。この動作を行う機能は請求項6における位置決め部に対応する。
その後、切削工具のすくい面がタッチセンサ3の検出子3aの先端3bに接触する方向に回転軸22を回転させる(図6(c)参照)。この動作を行う機能は請求項6の回転部に対応する。
検出子3aの先端3bがすくい面に接触するとタッチセンサ3は制御装置50に接触を検出した検出信号を出力し、制御装置50は接触を検出した時点の回転軸座標情報を制御装置50に読み込む。この動作を行う機能は請求項6の読み取り部に対応する。
制御装置50はX,Y軸の経路座標位置情報と回転軸座標情報をメモリ52に記憶する。この動作を行う機能は請求項6の記憶部に対応する。
【0033】
読み込み後、回転軸22をいくらか逆回転させ、すくい面を検出子3aの先端3bから離し、測定プログラムに従ってX,Y軸を駆動し、検出子3aの先端3bを経路上の次の測定点に位置決めし、切削工具のすくい面がタッチセンサ3の検出子3aの先端3bに接触する方向に回転軸22を回転させ、接触を検出した時点の回転軸座標を制御装置50に読み込み、X,Y軸の経路座標位置情報と回転軸座標情報とをメモリ52に記憶することを、測定経路の終わりまで繰り返す。
【0034】
回転軸22をいくらか逆回転させることから、測定点から次の測定点への移動はX,Y軸の移動のみでよい。前記いくらか逆回転させる角度の大きさは、切削工具の諸元情報に基づき工具ボディに固定されているPCDチップ102がタッチセンサ3の検出子3aに接触しないようにし、現在測定しているPCDチップ101のすくい面の位置測定に支障の無いように適宜設定される。測定点では、測定のたびに回転軸22を同一方向に回転することからバックラッシなどの機械誤差を少なくして測定することができる。測定開始後、タッチセンサ3の検出子3aの先端3bの高さ位置を一定にして測定できることから、迅速な測定を行うことができる。
【0035】
図6(d)は測定箇所でのワイヤ放電加工を行うことを図示している。測定プログラムに従って取得した経路座標位置情報と回転軸座標情報を用いて加工プログラムを修正することにより、すくい面位置を測定した位置で切削工具を放電加工することができる。
【0036】
なお、タッチセンサ3の換わりに、非接触で工具すくい面を検出する装置(非接触センサ)、例えば近接センサや、レーザ測長器を使用しても良い。非接触センサの場合、検出部(例:レーザ測長器ではレーザ光線の光軸)を、測定点を鉛直方向に延長した線分上に計測用プログラムに従って移動させるとよい。非接触センサとすくい面との距離を測定し、すくい面が測定点に位置するまで回転したときの回転軸22の回転座標情報を取得することにより、タッチセンサ3を用いた場合と同様に加工プログラムを再生成するための情報を取得することができる。
【0037】
次に、本発明に係る測定用プログラムの作成とすくい面位置の測定とについてそれぞれ説明する。
<測定プログラムの作成>
ワイヤ放電加工機1の制御装置50に、切削工具の切り刃形状を加工する加工プログラムを登録し、切削工具の諸元情報を制御装置50に設定し、この加工プログラムと設定された諸元情報から、制御装置50内の解析プログラムにより、タッチセンサ3を用いる測定プログラムを作成する。または、プログラム装置によって形状図形より測定プログラムを作成してもよい。
【0038】
この時、加工プログラムでは、1ブロックの直線形状指令の移動指令ブロックであっても、測定プログラムでは、先述のとおり、多点に分割する必要がある。なぜなら、PCDチップの取り付け部の曲がり、歪みによりすくい面が平ではなく湾曲して取り付いている為(図27参照)、加工プログラムの始点および終点のみの測定では、その中間点でのすくい面高さが始点と終点を結ぶ直線上に無く、回転軸の回転角を始点と終点求め均等に分配したのでは、形状精度を確保できない。例えば図7に示されるように、ロウ付け時の取り付けひずみにより、中間点で0.3mmの湾曲が生じた場合、半径5mmの工具外周では、9μmの半径誤差が生じる。これは、工具に要求される形状精度5μmを超えるため、精度不良となる。
【0039】
また、図8に示されるように、実際の加工経路は、加工開始点においては、通常、切削工具の切り刃部より外側から切り込み(符号111)、加工経路の終点では、切り刃部材料から切り抜ける(符号117)までである。図8(a)に示されるように、工具ボディ100に取り付けられたPCDチップ110は図面形状(図面指示の形状)118より大きい。符号120は工具ボディ100の回転中心軸である。
通常、切り刃形状のプログラミング作成では、所望の切り刃形状どおりに加工経路のプログラムを作成する。しかし、切り刃となるロウ付けされたPCDチップ110は、加工代および予備長さを持っており、加工経路以上の大きさである。
【0040】
そこで、図8(b)に示すように、プログラミング時に、図面指示の形状(図面形状118)に切り込み側と切り抜け側にそれぞれ、延長経路を追加する必要がある。この追加された切り込み経路111および、切り抜け経路117では測定を行わないようにし、所望の切り刃形状どおりに作成された経路のプログラムを制御装置50でプログラム解析を行い判定することで、測定点112〜116において測定しPCDチップ素材の無いところでは自動的に測定しない制御が可能となる。
【0041】
図9,図10を用いてプログラム装置にて形状図面より測定プログラムを作成する例を説明する。刃形状130を加工する加工プログラムを測定プログラムとして用いてもよい。または、図9に示されるように、刃形状130の切削工具に取り付けられる切り刃をタッチセンサ3により測定するための測定プログラムをプログラム装置により作成する。
【0042】
図10は作成された測定プログラム例である。「G92X−5.0Y−35.」のブロック指令により符号131の開始点の位置にタッチセンサ3を移動させる。「G90G00X−5.Y5.」のブロック指令により符号132の位置にタッチセンサ3を移動させる。「G01G42X0.Y5.」のブロック指令により加工代分のオフセットを実行し符号133の位置にタッチセンサ3を移動させる。「G01X0.Y0.」のブロック指令により切り込み動作を行い、タッチセンサ3を符号134の位置に移動させる。
【0043】
「G101X0.Y−10.0」のブロック指令は直線部分の測定箇所指令として扱われ、タッチセンサ3を符号135の位置まで移動させる。この測定箇所指令について説明する。「G101」は経路が直線である場合の測定箇所指令を表すコードであり、このブロックの経路を予め設定された分割数で分割し測定点を計算し、計算された測定点においてすく面の測定を行う。分割数は任意に設定してよい。なお、測定点は、移動ブロックの始点もしくは終点もしくは始点と終点の中間点としてもよい。各測定点でのすくい面位置の測定は図6を用いて説明した方法で行う。
「G101X10.Y−10.0」のブロック指令は直線部分の測定箇所指令として扱われ、タッチセンサ3を符号136の位置まで移動させる。この移動途中において予め設定された分割数で分割し測定点を計算し、計算された測定点においてすくい面の測定を行う。
「G102X20.Y−20.I0.J−10.」のブロック指令は円弧部分の測定箇所指令として扱われ、タッチセンサ3を符号137の位置まで円弧状の軌跡に沿って移動させる。この移動途中において予め設定された分割数で分割し測定点を計算し、計算された測定点においてすくい面の測定を行う。
「G101X20.Y−30.」のブロック指令は直線部分の測定箇所指令として扱われ、タッチセンサ3を符号138の位置まで移動させる。この移動途中において予め設定された分割数で分割し測定点を計算し、計算された測定点においてすくい面の測定を行う。
「G101X30.Y−30.」のブロック指令は直線部分の測定箇所指令として扱われ、タッチセンサ3を符号139の位置まで移動させる。この移動途中において予め設定された分割数で分割し測定点を計算し、計算された測定点においてすくい面の測定を行う。
【0044】
「G01X35.Y−30」のブロック指令により切り抜け動作を行い、タッチセンサ3を符号140の位置まで移動させる。「G00G40X35.Y−35.」のブロック指令によりオフセットをキャンセルし、タッチセンサ3を符号141の位置まで移動させる。「G00X−5.Y−35.」のブロック指令によりタッチセンサ3を符号131で示される開始点の位置に移動させる。「M30」のブロック指令により計測用プログラムの実行を終了する。
【0045】
通常、加工プログラムは、オフセットを指令するブロックの次に切り込みを指令するブロックを有し、オフセットキャンセルを指令するブロックの前に切り抜けを指令するブロックを有する。制御装置50において加工プログラムを基に計測用プログラムを作成するとき、オフセットの指令と切り込みの指令のブロックの組み合わせ、切り抜け指令とオフセットキャンセルの指令のブロックの組み合わせの間のブロックを、タッチセンサ3の測定箇所指令のブロックとする。これによって、測定を行うかブロックか行わないブロックかを特定することができる。
【0046】
タッチセンサ3を備えたワイヤ放電加工機1を用いて測定対象であるPCDチップを規則プログラムに従って計測すると、図11に示される位置においてタッチセンサ3を用いて測定が実行される。
【0047】
図10の計測用プログラムにおいて測定箇所指令のブロックは、図12に示されるように直線2分割、直線2分割、円弧3分割、直線2分割、直線2分割する指令として扱われる。計測用プログラムの一つのブロックによるタッチセンサ3の移動区間をいくつに分割するかは、例えばブロック始点(前のブロックの終点)からの移動距離に基づいて行うことができる。これによって、符号134、135、136、137、138、139の位置におけるタッチセンサ3による測定に加えて、符号141、142、143、144、145、146の位置における測定を行う。各位置での測定よって得られたデータは、XY軸の座標データ(経路座標位置情報)と共に回転軸22の回転軸座標データ(回転軸座標情報)とを対応させて制御装置50のメモリ52に格納する。
【0048】
前述した計測用プログラムを実行することにより取得された経路座標位置情報と回転軸座標情報とを用いて加工プログラムを再生成する。図13,図14は、測定後の回転軸座標を含む加工プログラム(再生成加工プログラム)の例を説明する図である。図13に示されるように、タッチセンサ3は測定軌跡に沿ってPCDチップ140に対して相対的に移動し、各測定点(符号134,141,135,142,136,143,144,137,145,138,146,139の位置)おいてタッチセンサ3を用いてすくい面位置を測定する。測定によって取得され、制御装置50のメモリ52に格納されたXY軸の座標データ(経路座標位置情報)と共に回転軸22の回転軸座標データ(回転軸座標情報)とを基に加工プログラムを再生成する。図14は再生成された加工プログラムの例である。計測用プログラムの測定箇所指令により分割された加工プログラムがそれぞれ一つのブロックとして扱わると共に「A・・・」で示される回転軸22の指令が付加されている。
【0049】
「G01X0.Y0.A10.」は切り込みを指令するブロックで符号134の位置までの移動を指令する。そして、A10.により回転軸22の回転量を指令する。「G01X0.Y−5.A10.1」は符号141の位置まで、「G01X0.Y−10.A10.2」は符号135の位置まで、「G01X5.Y−10.A12.」は符号142の位置まで、「G01X10.Y−10.A14.」は符号136の位置まで、「G02X15.Y−11.340I0.J−10.A15.5」は符号143の位置まで、「G02X18.66Y−15.I−5.J−8.66A17.5」は符号144の位置まで、「G02X20.Y−20.I−8.66J−5.1A18.」は符号137の位置まで、「G01X20.Y−25.A18.1」は符号145の位置まで、「G01X20.Y−30.A18.2」は符号138の位置まで、「G01X25.Y−30.A20.2」は符号146の位置まで、「G01X30.Y−30.A22.2」は符号139の位置までの移動指令である。
【0050】
図15は分割がない場合の回転軸座標を含む加工プログラムを説明する図である。また、図16は分割がない場合の回転軸座標を含む加工プログラムを説明する図である。符号136から符号137の円弧状の加工経路の区間は円弧補間によって加工を行う。この区間を分割して測定しない場合、回転軸22の補間は、円弧の始点(符号136の位置)と終点(符号137の位置)間を直線補間するため、加工経路の中点付近での回転角度とは異なってしまう。従って、図11,図12,図13,図14を用いて説明したように円弧状の加工経路では分割して、PCDチップ140を加工して得られる切り刃のすくい面となる位置を測定する必要がある。
【0051】
なお、前記実施形態の説明では、原理説明用のプログラムの記述を簡単にするために、切り刃エッジ部の逃げ角をつけるためのテーパ角指令、すなわち、ワイヤ電極を指令角度だけ傾けて逃げ面を加工する指令が含まれていないが、実際の加工プログラムでは、経路にテーパ加工指令が追加されており、指令角度で逃げ面を正しく加工することができる。
テーパ加工指令を含む計測用のプログラムにおいても、タッチセンサ3で測定する指令部分のG101、G102、G103の指令では、テーパ加工指令は無視され、上ガイドに取り付けられたタッチセンサ3の姿勢は、経路に対して水平面に対して鉛直方向に向いている。なお、G101は直線補間指令、G102は時計回りの円弧補間、G103は反時計回りの円弧補間で、測定を行う指令である。
タッチセンサ3を用いた測定後、この計測プログラムで測定された座標データを基に作成される再生成された加工プログラムには、テーパ加工指令がそのまま残され、加工時にワイヤ電極を傾けて、逃げ角で逃げ面の加工が正しく行われる。
【0052】
テーパ加工指令を記載した計測プログラム例を図17、図18に、加工プログラム例を図19、図20に示す。図17の破線はテーパ加工指令によりワイヤ電極2が傾斜して移動する場合の刃形状130の裏側の軌跡を示す。また、図19の破線は、図17、図18を用いて説明した測定により得られた座標データを用いて再生成した回転軸座標を含む加工プログラム(テーパ加工指令あり)の場合の測定軌跡と測定点とを説明する図である。また、図20は、再生成した回転軸座標を含む加工プログラム(テーパ加工指令)を説明する図である。
【0053】
図18に示すプログラムは図10に示すプログラムに対応する。図18に示すプログラムではテーパ加工指令が図10に示すプログラムに付加されている。また、図20に示す再生成した回転軸座標を含む加工プログラムは図14に示す加工プログラムに更にテーパ指令が付加されている。
【0054】
上述したように、本発明に係るワイヤ放電加工方法およびワイヤ放電加工機は、複雑な形状を持つPCD製またはPCBN製のような超高硬度な切削工具を高精度にかつ容易に加工することができる。タッチセンサによる切削工具の加工形状の経路にそった測定に際し、タッチセンサ用にわざわざ煩わしい測定用プログラムを作成せずとも、工具形状加工用CNCプログラムがあれば、自動的に、タッチセンサによる測定用プログラムを作成し、測定し、新たな加工プログラムを作成する為、オペレータの手間を大幅に軽減する事が出来る。タッチセンサにて、切り刃を加工する経路上を細かい分割点で測定する事により、すくい面の取り付け誤差やロウ付けによる湾曲、ズレによる高さ誤差を直接測定する事が出来るため、切り刃部の形状精度をより高精度に仕上げる事が可能となる。
【0055】
なお、図21に示すとおり、上述の切り刃部逃げ面をテーパ加工する際、回転軸の回転方向に傾く角度に関しては、プログラム座標系のXp−Yp―Zp座標系を、図22に示されるように座標変換によりXp軸もしくはYp軸に平行な中心軸をもつ回転軸22の回転方向に傾けることで、加工プログラム上ではワイヤ電極2を傾けてテーパ加工を行う制御が働いているが、実際のワイヤ放電加工機の動作としては、回転軸22による角度補正が行われるために回転軸の回転方向に対してはワイヤ電極2を垂直にして(X−Y平面に対して垂直にして)加工することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 ワイヤ放電加工機
2 ワイヤ電極
3 タッチセンサ
3a 検出子
3b 先端

10 送り出し部トルクモータ
11 ワイヤボビン
12 ブレーキモータ
13 ブレーキシュー
14 上ワイヤガイド
15 下ワイヤガイド
16 下ガイドローラ
17 ワイヤ電極回収箱
18 ピンチローラ
19 フィードローラ
20 張力検出器
21 加工テーブル
22 回転軸
23 回転中心軸
24 工具回転中心高さ

30 放電加工機本体
31 サーボモータ
32 入出力機器

50 制御装置
51 プロセッサ
52 メモリ
53 表示用インタフェース
54 表示装置
55 キーボードインタフェース
56 キーボード
57 サーボインタフェース
58 サーボアンプ
59 インタフェース
60 入出力インタフェース

100 工具ボディ
101 PCDチップ

101’ 切り刃
101’a すくい面
101’b 切り刃の先端
101’c 逃げ面

102 PCDチップ
102’ 切り刃

110 PCDチップ
111 切り込み経路
112,113,114,115,116 測定点
117 切り抜け経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上ワイヤガイドに取り付けられたタッチセンサを備え、上ワイヤガイドと下ワイヤガイドとにより張架されたワイヤ電極に対し切削工具を互いに直交する2軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、該切削工具を回転させる回転軸を有し、テーパ加工機能を有するワイヤ放電加工機を用い、該回転軸に着脱自在に取り付けられPCD(多結晶ダイヤモンド)もしくは、PCBN(多結晶立方晶窒化硼素)材などの超高硬度材が固定された該切削工具の該超高硬度材を加工プログラムに従って放電加工し切り刃とするワイヤ放電加工方法において、
前記加工プログラムで指令される加工経路に沿って、該加工経路のブロック始点もしくは終点もしくは始点と終点の中間点もしくは始点と終点間を複数に分割し、回転軸の回転中心高さにおいて、前記タッチセンサの検出子端部と前記超高硬度材との接触を検出する測定点とする計測用プログラムを生成し、
前記生成された計測用プログラムに基づき、前記タッチセンサの検出子端部を前記測定点に位置決めし、
前記切削工具を取り付けた回転軸を前記超高硬度材の工具すくい面を形成する面が前記タッチセンサの検出子端部に接触する方向に回転させ、
前記工具すくい面を形成する面の前記タッチセンサの検出子端部への接触時の前記タッチセンサからの検出信号により、前記測定点における前記超高硬度材の工具すくい面を形成する面が前記回転軸の回転中心高さになる回転軸座標情報を読み取り、
前記測定点での経路座標位置情報と回転軸座標情報を記憶し、
前記経路座標位置情報と前記回転軸座標情報に基づき加工プログラムを再生成し、
前記生成された加工プログラムに基づいて上,下ワイヤガイドで張架されたワイヤ電極により前記切削工具の超高硬度材をワイヤ放電加工し切り刃を形成することを特徴とするワイヤ放電加工方法。
【請求項2】
前記テーパ加工機能は、前記2軸が張る平面に対して前記ワイヤ電極をテーパ角度傾斜させて行う機能、または、前記回転軸をテーパ角度回転させ前記ワイヤ電極を該2軸が張る平面に対して垂直にして行う機能であることを特徴とする請求項1に記載されたワイヤ放電加工方法。
【請求項3】
前記測定点は、前記加工プログラムで指令された加工経路の各移動指令ブロックの終点座標からその前の移動指令ブロックの終点座標との間を、任意の分割数で分割した点を制御装置内部で自動的に計算して求めることを特徴とする請求項1または請求項2の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工方法。
【請求項4】
前記測定点は、加工プログラムで指令された加工経路から加工代分オフセットされた経路を分割して計算することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工方法。
【請求項5】
前記測定点を求める際に、前記加工プログラムで指令された加工経路の各ブロックの始点が前記超高硬度材の外部からの切り込み開始点の場合、もしくは、加工経路の各ブロックの終点座標のうち、該超高硬度材の外部に延長された加工経路の終点の場合は、測定を行わないよう判別することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工方法。
【請求項6】
前記タッチセンサに替え、非接触で前記工具すくい面を検出する非接触式センサを使用し、該非接触式センサの検出部を前記加工経路のブロック始点もしくは終点もしくは始点と終点の中間点もしくは始点と終点間を複数に分割した点に位置決めし、
非接触式センサから出力される検出値に基づき前記超高硬度材の工具すくい面を形成する面が前記回転軸の回転中心高さになるまで前記回転軸を回転させ、
回転軸座標情報を読み取り、前記位置めした点での経路座標位置情報と回転軸座標情報を記憶し、
前記記憶した経路座標位置情報と回転軸座標情報に基づき加工プログラムを再生成することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工方法。
【請求項7】
上ワイヤガイドに取り付けられたタッチセンサを備え、上ワイヤガイドと下ワイヤガイドとにより張架されたワイヤ電極に対し切削工具を互いに直交する2軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、該切削工具を回転させる回転軸を有し、該回転軸に着脱自在に取り付けられPCD(多結晶ダイヤモンド)もしくは、PCBN(多結晶立方晶窒化硼素)材などの超高硬度材が固定された該切削工具の該超高硬度材を加工プログラムに従って放電加工し切り刃とするテーパ加工機能を有するワイヤ放電加工機において、
前記加工プログラムで指令される加工経路に沿って、該加工経路のブロック始点もしくは終点もしくは始点と終点の中間点もしくは始点と終点間を複数に分割し、前記回転軸の回転中心高さにおいて、前記タッチセンサの検出子端部と前記超高硬度材との接触を検出する測定点とする計測用プログラムを生成する計測用プログラム生成部と、
前記生成された計測用プログラムに基づき、前記タッチセンサの検出子端部を前記測定点に位置決めする位置決め部と、
前記切削工具を取り付けた回転軸を前記超高硬度材の工具すくい面を形成する面が前記タッチセンサの検出子端部に接触する方向に回転させる回転部と、
前記工具すくい面を形成する面の前記タッチセンサの検出子端部への接触時の前記タッチセンサからの検出信号により、前記測定点における前記超高硬度材の工具すくい面を形成する面が前記回転軸の回転中心高さになる回転軸座標情報を読み取る読み取り部と、
前記測定点での経路座標位置情報と回転軸座標情報を記憶する記憶部と、
前記経路座標位置情報と前記回転軸座標情報に基づき加工プログラムを再生成する再生成部と、
前記生成された加工プログラムに基づいて上,下ワイヤガイドで張架されたワイヤ電極により前記切削工具の超高硬度材をワイヤ放電加工し切り刃を形成することを特徴とするワイヤ放電加工機。
【請求項8】
前記テーパ加工機能は、前記2軸が張る平面に対して前記ワイヤ電極をテーパ角度傾斜させて行う機能、または、前記回転軸をテーパ角度回転させ前記ワイヤ電極を該2軸が張る平面に対して垂直にして行う機能であることを特徴とする請求項7に記載されたワイヤ放電加工機。
【請求項9】
前記測定点は、前記加工プログラムで指令された加工経路の各ブロックの終点座標からその前の移動指令ブロックの終点座標との間を、任意の分割数で分割した点を制御装置内部で自動的に計算して求めることを特徴とする請求項7または請求項8の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工機。
【請求項10】
前記測定点は、加工プログラムで指令された加工経路から加工代分オフセットされた経路を分割して計算することを特徴とする請求項7乃至請求項9の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工機。
【請求項11】
前記測定点を求める際に、前記加工プログラムで指令された加工経路の各ブロックの始点が前記超高硬度材の外部からの切り込み開始点の場合、もしくは、加工経路の各ブロックの終点座標のうち、該超高硬度材の外部に延長された加工経路の終点の場合は、測定を行わないよう判別することを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれか一つに記載されたワイヤ放電加工機。
【請求項12】
前記タッチセンサに替え、非接触で前記工具すくい面を検出する非接触式センサを使用し、該非接触式センサの検出部を前記加工経路のブロック始点もしくは終点もしくは始点と終点の中間点もしくは始点と終点間を複数に分割した点に位置決めする位置決め部と、
非接触式センサから出力される検出値に基づき前記超高硬度材の工具すくい面を形成する面が前記回転軸の回転中心高さになるまで前記回転軸を回転させる回転部と、
回転軸座標情報を読み取り、前記位置めした点での経路座標位置情報と該回転軸座標情報を記憶する記憶部と、
前記記憶した経路座標位置情報と回転軸座標情報に基づき加工プログラムを再生成することを特徴とする請求項7乃至請求項11の何れか一つに記載されたワイヤ放電加工機。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図1】
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【図5】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2013−111691(P2013−111691A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259487(P2011−259487)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】