説明

回転軸の異常診断装置

【課題】回転軸の亀裂の発生や進展に伴う弾性波信号を、減衰させることなく、高精度で受信することができる回転軸の異常診断装置を提供する。
【解決手段】スピンドル4a,4bに発生する弾性波を検出する少なくとも1個以上のAEセンサ12と、AEセンサに有線接続され、AEセンサ12の信号に基づいて異常を診断する解析手段16とを有し、磁性流体が充填されると共に、AEセンサ12が設けられた流体貯留部11には、スピンドル4a,4bと、流体貯留部11との間に磁性流体を保持する磁石14が設けられている。解析手段16は、所定の圧延荷重、予め設定された待機時間、及び予め設定された測定時間によって決定される期間に検出された弾性波に基づきスピンドル4a,4bに発生した異常を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸において発生する亀裂や磨耗発生等の異常を診断する異常診断装置に関し、特に、回転軸の亀裂の発生や進展に伴って発生する弾性波信号をアコースティックエミッション(AE)センサで検出する異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋼板などを圧延する圧延機には、鋼板を圧延する一対の圧延ローラにモーターから駆動力を伝達するために、ギアや回転軸が多数介在している。
各々のスピンドルを支持する軸受は、使用条件によっては、運転中に微細な磨耗粉等が発生し、磨耗粉が異物となって潤滑油に混入して焼き付き等の異常が発生したり、亀裂等の損傷が発生することがある。
【0003】
このような異常や損傷の存在を検知する手段としては、加速度計等の振動センサで圧延機等の振動を計測する手段や、軸受の亀裂の発生や進展に伴って発生する弾性波(AE信号)をアコースティックエミッション(AE)センサで計測する手段が挙げられる。そして、これらの検知手段は軸受に取付けられることが多い。
しかしながら、圧延機における亀裂や磨耗等の異常発生は、軸受だけでなく、スピンドルそのものに発生することがある。
この場合、従来の軸受に設けられたAEセンサは、スピンドルの亀裂発生や進展に伴って発生する弾性波(AE信号)を、軸受経由で受信することとなる。
【0004】
しかし、軸受に取付けたAEセンサによって、軸受を介してスピンドルの異常を検出する方法では、スピンドルから発生する弾性波(AE信号)が減衰してしまうという問題がある。
このような問題を解決する方法として、例えば、特許文献1に記載の技術が開示されている。
図9は、特許文献1における異常診断装置を示す図である。図9に示すように、特許文献1に記載の異常診断装置は、回転体123にAEセンサ101を直接設置し、このAEセンサ101が検知したAE信号を、異常診断手段を備えた受信装置(図示せず)に無線で伝送する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−26414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術においては、回転体に直接設置されたAEセンサが検知したAE信号を異常診断手段に無線で伝送するため、無線で伝送した信号にノイズが含まれる。このノイズの発生によって、微弱なAE信号をAEセンサが検出できない可能性があり、結果として異常診断の検出の精度の低下をもたらしていた。
また、AEセンサや送信アンテナが回転体に設置されるため、AEセンサや送信アンテナへの給電方法に課題が残されている。給電方法としては、例えば、スリップリングなどを用いることが挙げられる。しかし、このような給電方法によっても、ノイズの発生やスリップリングにおける接触不良などの問題が生じやすく、異常診断の検出の精度が低下する結果を招くことになる。なお、特許文献1には、このような問題を解決する手段については何ら開示されていない。
【0007】
また、従来の圧延機にあっては、AE信号を検知するタイミングが作業者の任意の判断で行われていたため、検出精度が作業者の習熟度に依存し、検出精度の向上に検討の余地があった。
従って、本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転軸の亀裂の発生や進展に伴う弾性波信号を、減衰させることなく高精度で受信することができる異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明の請求項1に係る回転軸の異常診断装置は、回転軸に発生する弾性波を検出する少なくとも1個以上の弾性波検出手段と、その弾性波検出手段に有線接続され、前記弾性波検出手段で検出された弾性波に基づいて前記回転軸の異常を解析する解析手段とを有する回転軸の異常診断装置であって、磁性流体が充填されると共に、前記弾性波検出手段が設けられた流体貯留部を有し、前記回転軸と、前記流体貯留部との間に前記磁性流体を保持する磁石が前記流体貯留部に設けられ、
前記解析手段は、前記回転軸にかかる圧延荷重が所定の圧延荷重を超え、かつ該圧延荷重を超えてから予め設定された待機時間が経過してから予め設定された測定時間が経過するまで前記弾性波検出手段で検出された弾性波に基づいて前記回転軸の異常を解析することを特徴としている。
また、上記問題を解決するため、本発明のうち請求項2に係る回転軸の異常診断装置は、流体貯留部を保持する保持手段が、前記回転軸が設置された圧延機に設けられたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1に係る回転軸の異常診断装置によれば、スピンドル(回転軸)の少なくとも一部に接する磁性流体が充填され、縁部に磁石を設置した流体貯留部に前記弾性波検出手段を設けたので、スピンドルにおける亀裂の発生や進展に伴う弾性波信号を減衰させることなく直接受信することができる。また、弾性波検出手段と解析手段とが有線接続されているので、得られた弾性波をAE信号として解析手段に送信する際、無線送信によるノイズ減衰が発生しない。
特に、前記解析手段による前記回転軸に発生した異常の解析は、予め設定された圧延荷重閾値、待機時間、及び測定時間によって決定される期間に検出された弾性波を対象としている。すなわち、前記回転軸に生じた亀裂を圧延負荷応力によって進展させた状態で検出するので、高精度の検出結果が得られる。
【0010】
また、スピンドルに生じた亀裂等を伝播する媒体に磁性流体を用い、この磁性流体を保持する磁石を、磁性流体が充填された流体貯留部のスピンドル側に設置しているため、磁性流体の保持力が高く、弾性波の伝播性を維持することができる。そして、このような構成により、単に、回転軸とAEセンサとの間に媒体として流体を介在させるよりも弾性波の伝播性を維持することができる。
また、本発明のうち請求項2に係る回転軸の異常診断装置によれば、流体貯留部を保持する保持手段を、前記回転軸が設置された圧延機に設けたので、スピンドルの直下に流体貯留部を設置するスペースが乏しい場合でも流体貯留部を設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る回転軸の異常診断装置が設置される圧延装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係る回転軸の異常診断装置の一実施形態における構成を示す概略図である。
【図3】流体貯留部の一実施形態における構成を示す概略図である。
【図4】本発明に係る回転軸の異常診断装置の一実施形態における圧延機の圧延荷重と時間との関係を示す図である。
【図5】本発明に係る回転軸の異常診断装置の一実施形態において得られるAE波を示す図である。
【図6】本発明に係る回転軸の異常診断装置の一実施形態におけるAE波の経時的な累積イベント数を示す図である。
【図7】本発明に係る異常診断装置の他の実施形態における構成を示す概略図である。
【図8】流体貯留部の他の実施形態における構成を示す概略図である。
【図9】従来の異常診断装置を備えた圧延装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る回転軸の異常診断装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る回転軸の異常診断装置の一実施形態における構成を示す概略図である。
図1に示すように、圧延機1は、モーター(電動機)8と、モーター8の駆動力をスピンドル4a,4bに伝達するピニオンギア6a,6b、及び減速機7と、スピンドル4a,4bに連結され、鋼材(被圧延材)50を挟んで圧延する一対の圧延ロール2a,2bとを有する。
【0013】
スピンドル4a,4bは、圧延ロール2a,2bの回転軸5a,5bにそれぞれ連結されている。スピンドル4a,4bのそれぞれには、相互に噛み合わされたピニオンギア6a,6bが連結されている。ピニオンギア6aには、減速機7を介して、モーター8の駆動力を伝達する回転軸9が連結されている。回転軸5a,5bの両端部、スピンドル4a,4b、及び回転軸9には、これらをそれぞれ支持する複数の軸受3が設けられている。
【0014】
一対の圧延ロール2a,2bのうち、下側に位置する圧延ロール2aの下方には、圧延ロール2aの回転に伴って回転可能とされたバックアップロール21aが配置される。また、上側に位置する圧延ロール2bの上方には、圧延ロール2bの回転に伴って回転可能とされたバックアップロール21bが配置される。バックアップロール21a,21bには、それぞれのバックアップロール21a,21bを回転可能とする回転軸22a,22bが設けられている。回転軸22a,22bの両端部には、これらをそれぞれ支持する複数の軸受23が軸受3上にそれぞれ設けられている。
【0015】
バックアップロール21bの回転軸22bの両端部には、油圧式のピストンロッド31a,31b、及び圧下シリンダ32a,32bが圧下装置30の一部として配置される。ピストンロッド31a,31bは軸受23の上部に設けられる。ピストンロッド31a,31bをそれぞれ嵌挿する圧下シリンダ32a,32bは、圧下制御装置33に接続されている。圧下シリンダ32a,32bは、圧下制御装置33から出力される圧下信号により、バックアップロール21bの回転軸22bの両端部に及ぼす圧下力を独立して調整自在である。このように、バックアップロール21bの回転軸22bの両端部が圧下されることによって、バックアップロール21bが圧延ロール2bに圧接し、圧延ロール2a,2bの回転軸方向の両端部に及ぼす圧下力を個別に調整する。
【0016】
なお、図示していないが、圧下シリンダ32a,32bには、それぞれ作動油を供給する油圧源、供給した作動油量の制御機構等が設けられており、これらの周辺機器とあわせて圧下装置が構成される。
バックアップロール21bの回転軸22bの両端部には、圧延荷重を検出するロードセル34a、34bが配置される。検出された圧延荷重は、圧延荷重信号として圧下制御装置33に出力される。
【0017】
圧下制御装置33から圧下シリンダ32a,32bに出力される圧下信号は、板厚計(図示せず)から出力される2つの板厚信号と、ロードセル34a,34bからの圧延荷重信号に応じて2つの板厚信号の偏差が0となるように出力される。前記板厚計は、圧延ロール2a,2bの出口側にそれぞれ設けられた鋼材(被圧延材)50の板幅方向の両端部の板厚を測定する手段である。
【0018】
そして、スピンドル4a,4bの下方には、後述する磁性流体を充填した流体貯留部11a,11bが設置されている。この流体貯留部11a,11bは、圧延機1の接地面に設けられた支持手段15a,15b上に設置されている。また、流体貯留部11a,11bの外壁面には、スピンドル4a,4bに亀裂が発生したときに発生する弾性波(AE信号)を検出するためのAEセンサ12a,12bが設置されている。
【0019】
すなわち、圧延機1は、モーター8からの出力が、減速機7を介して伝達されたピニオンギア6a,6bで上下に分配されて、スピンドル4a,4bへと駆動力が伝達される。駆動力が伝達されたスピンドル4a,4bは、回転軸5a,5bを介して、圧延ロール2a,2bを回転させて、鋼材50を圧延する。なお、流体貯留部11a,11bには、スピンドル4a,4bの外周面に接触するように、磁性流体が充填されている。
【0020】
磁性流体としては、磁性を有した液体状であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、スピンドル4a,4bに長く保持される目的で、スピンドル4a,4bの回転速度に応じた粘性や、耐熱性を有していることが好ましい。
磁性流体の例としては、直径が10nm程度の磁性超微粒子と、主成分である水、有機溶剤、又は油等の液体(分散媒)、及びその粒子に吸着して粒子を液体(分散媒)中に安定して分散させるための界面活性剤の3成分よりなるコロイド溶液がある。磁性流体は、磁界が零のときは磁性のない液体であるが、磁石等を近づけて磁界を作用させると磁化する。一方、磁性流体から磁石等を遠ざけると、磁性流体の磁界は取り除かれる。
【0021】
図2は、本発明に係る異常診断装置の構成を示すブロック図である。図2に示すように、異常診断装置10は、弾性波検出手段10a,10bと、解析手段16とを有する。また、解析手段16は、制御手段40と、記憶手段41と、圧下信号判定手段42と、入力手段43とを有する。弾性波検出手段10a,10bは、流体貯留部11a,11bにそれぞれ設けられたAEセンサ12a,12bと、各AEセンサ12a,12bに接続されたプリアンプ13a,13bとを有する。解析手段16は、具体的には、AE信号を解析する手段であり、プリアンプ13a,13bに制御手段40が接続されている。プリアンプ13a,13bと、制御手段40(解析手段16)とは有線で接続されている。このため、弾性波検出手段10a,10bで得られた弾性波をAE信号として解析手段16に送信する際、無線送信によるノイズ減衰が発生しない。
【0022】
このように構成された異常診断装置10は、AEセンサ12a、12bの出力がプリアンプ13a,13bを経由して増幅され、解析手段16でフーリエ変換等の信号処理がなされて、スピンドル4a,4bにおける異常が検出可能にされている。
ここで、記憶手段41は、入力手段43を用いて作業者が入力した情報として例えば、圧延荷重閾値、予め設定された待機時間、予め設定された測定時間、予め設定された信号出力閾値、及び周波数閾値を記憶する手段である。これらの情報は、入力手段43に入力されたことを契機として、制御手段40の命令によって記憶手段41に記憶される。
【0023】
ここで、前記「圧延荷重閾値」とは、一般的に圧延条件(板幅と圧延前後の板厚)によって予め設定される数値である。すなわち、本発明における「圧延荷重が所定の圧延荷重を超えて」とは、圧延条件に基づいて予め決定される圧延荷重に対する一定割合(例えば80%の値)を圧延荷重の閾値として設定することを意味する。前記一定割合の設定は、圧延荷重の立ち上がり時間が数十msecと早いので、仮に50〜90%の間で適宜変更しても時間変動は殆ど生じない。また、前記「予め設定された待機時間」とは、被圧延材が圧延機に噛み込まれてから圧延荷重に到達するまでの時間に基づいて予め設定される数値である。この数値についても、圧延荷重の立ち上がり時間が数十msecと早いので、その立ち上がり時間を超えた時間で設定すればよい。具体的な数値としては、0.5秒である。また、前記「予め設定された測定時間」については、圧延時間が被圧延材の長さと圧延速度に基づいて設定されるものであるので、薄板の圧延であれば数十秒間、厚板の圧延であれば数秒間として、その間で設定されることが好ましい。
【0024】
また、圧下信号判定手段42は、圧下制御装置33及びロードセル34a,34bに接続され、圧下制御装置33から出力された圧下信号、及びロードセル34a,34bから出力された圧延荷重信号を受信する手段である。すなわち、圧下信号判定手段42は、圧下制御装置33による圧下信号の発信を検知して、鋼材50の圧下が開始されたことを認識すると共に、ロードセル34a,34bで検出された圧延荷重(量)を認識することができる。
【0025】
また、圧下信号判定手段42は、記憶手段41に記憶された圧延荷重閾値、予め設定された待機時間、及び予め設定された測定時間を読み込み、これらに基づいて測定期間を設定する。
さらに、圧下信号判定手段42は、記憶手段41に記憶された信号出力閾値及び周波数閾値に基づいて、前記測定期間において検出された信号が「AE信号」か「稼働ノイズ信号」かを判定する。
【0026】
次に、図3は、流体貯留部の構成を示す図であり、図3(a)は、スピンドル4aと流体貯留部11aとの構成を示す側面図であり、図3(b)は、圧延ロール2a側から見たスピンドル4aと流体貯留部11aとの構成を示す図であり、図3(c)は、流体貯留部11aとの構成を示す斜視図である。
図3(a)、及び図3(b)に示すように、圧延機1の接地面に設けられた支持手段15a上に設置された流体貯留部11aは、スピンドル4aの下側を覆う形状をなしている。
【0027】
図3(c)に示すように、流体貯留部11aは、スピンドル4aに対向する側に、所定の間隙を有して、開口部18が形成されている。開口部18は、スピンドル4aの下側の断面形状に合わせてスピンドル4aの軸方向に切り欠かれている。開口部18におけるスピンドル4a側の内壁面には、磁石14aが設置されている。流体貯留部11aの内部には、磁性流体が充填されている。
【0028】
このように、開口部18とスピンドル4aとが所定の間隙を有し、開口部18におけるスピンドル4a側の内壁面に磁石14aが設けられることにより、流体貯留部11a内に充填した磁性流体がスピンドル4aに常に接触する。従って、流体貯留部11aの外壁面に設置されたAEセンサ12aは、磁石14aによって開口部18の上端面とスピンドル4aとの間に保持された磁性流体を介してスピンドル4a内部で発生した弾性波を高い精度で検知することができる。
【0029】
<異常診断方法>
ここで、磁性流体を介してスピンドル4a内部で発生した弾性波を検知して異常を診断する方法について具体的に説明する。
図4は、本実施形態における圧延機1の圧延荷重と時間との関係を示す図である。
【0030】
<測定期間の判定>
まず、圧延荷重閾値T、その圧延荷重閾値Tを超えてから測定を開始するまでの待機時間t、測定を開始してから測定を終了するまでの測定時間t、信号出力閾値T、及び周波数閾値Tが、記憶手段41に予め入力される。具体的には、作業者が入力手段43を用いて上記各情報を入力することによって、記憶手段41に記憶される。上記各情報が記憶手段41に記憶されたことを契機として、制御手段40は、記憶手段41に記憶された圧延荷重閾値T、待機時間t、及び測定時間tを読み込み、これらに基づいて測定期間プログラムを作製し、圧下信号判定手段42に実行させる。この測定期間プログラムは、ロードセル34a,34bから受信した圧延荷重が圧延荷重閾値Tを超え、かつ待機時間tが経過したことを契機に測定時間tの間、AEセンサ12からの信号を圧下信号判定手段42が取得するという命令プログラムである。すなわち、圧延荷重閾値Tが3000tonf、待機時間tが1秒、及び測定時間tが2秒と設定された場合、ロードセル34a,34bから受信した圧延荷重が3000tonfを超え、かつ1秒経過したことを契機に2秒間、AEセンサ12からの信号を圧下信号判定手段42が取得するという命令プログラムが設定され、実行される。
このようにして、図4に示すように、圧延機1の圧延荷重が圧延荷重閾値Tを超え、待機時間tを経過してから、測定時間tが経過するまでの間(以下、測定期間(=t)と呼ぶ。)が設定される。
【0031】
<AE信号の判定>
次に、上記測定期間においてAEセンサ12から検出された信号(弾性波)が「AE信号」か「稼働ノイズ信号」かを圧下信号判定手段42が判定する。
図5(a)〜(d)は、本実施形態においてAEセンサ12から検出された信号が、「AE信号」であった場合と「稼働ノイズ信号」であった場合とを示す図である。図5(a)及び図5(b)は、AEセンサ12から検出された信号が、「AE信号」であった場合を示す図であり、図5(c)及び図5(d)は、AEセンサ12から検出された信号が、「稼働ノイズ信号」であった場合を示す図である。
【0032】
制御手段40は、記憶手段41に記憶された信号出力閾値T、及び周波数閾値Tを読み込み、これらに基づいてAE信号判定プログラムを作製し、圧下信号判定手段42に実行させる。このAE信号判定プログラムは、上記測定期間においてAEセンサ12から検出された信号について、AE波のイベント数としてカウントする命令プログラムである。具体的には、上記測定期間においてAEセンサ12から検出された信号(図5(a),図5(c)参照)について、信号出力閾値Tよりも大きい信号を抽出し、抽出された信号をフーリエ変換することによって周波数毎の信号強度(図5(b),図5(d)参照)を得て、周波数閾値Tよりも大きいピークを持つ信号強度の波形をAE波のイベント数としてカウントする命令プログラムである。なお、図5(b)及び図5(d)では、周波数閾値Tを「40kHz」とした例を示している。
AEセンサ12から検出された信号が「AE信号」であった場合は、図5(a)に示すように、信号出力閾値Tよりも大きい信号を抽出した結果、図5(b)に示すように、周波数閾値Tよりも大きいピークを持つ波形が現れる。
【0033】
一方、AEセンサ12から検出された信号が「稼働ノイズ信号」であった場合は、図5(c)に示すように、信号出力閾値Tよりも大きい信号を抽出した結果、図5(d)に示すように、周波数閾値Tよりも大きいピークを持つ波形が現れない。これらを識別することにより、AEセンサ12から検出された信号に「AE信号」が含まれているか否かを判定することができる。
【0034】
図6は、本実施形態におけるAE信号判定プログラムによってカウントされた経時的なAE波の累積イベント数をプロットした図である。
図6に示すように、スピンドル4a,4bに疲労亀裂等がある期間では、実線で累積イベント数が表され、スピンドル4a,4bに疲労亀裂等がない期間では、検出される累積イベント数が表されないか、表されても少ない。この図6に示すAE信号の経時的な累積イベント数のカウント数値そのものや、傾き、頻度等の傾向からスピンドル4a,4bの異常を判断する。
【0035】
このように、本実施形態における解析手段16によるスピンドル4a,4bに発生した異常の解析は、予め設定された圧延荷重閾値、待機時間、及び測定時間によって決定される期間に検出された弾性波を対象としている。すなわち、前記回転軸に生じた亀裂を圧延負荷応力によって進展させた状態で検出するので、高精度の検出結果が得られる。
【0036】
(他の実施形態)
図7は、本発明に係る異常診断装置の他の実施形態における構成を示す概略図である。図8は、本発明に係る異常診断装置の他の実施形態における流体貯留部の構成を示す概略図である。図7及び図8に示すように、本実施の形態では、流体貯留部11a,11bは、減速機7におけるスピンドル4a,4bの設置側の壁面に、保持手段17a,17bを介して取り付けられている点が、上記実施形態と異なる。保持手段17a,17bとしては、例えば、防振ゴム等の緩衝部材が挙げられる。このように、流体貯留部11a,11bを保持する保持手段17a,17bを圧延機に設けたので、スピンドル4a,4bの直下に流体貯留部11a,11bを設置するスペースが乏しい場合でも流体貯留部11a,11bを設置することができる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。例えば、流動体貯留部11a,11bを、スピンドル4a,4bの端部(図示せず)に設けてもよい。
また、1つのスピンドル4a,4bに、AEセンサ12を流動体貯留部11と共に、それぞれ複数設けることが好ましい。AEセンサ12及び流動体貯留部11を複数設けることによって、スピンドル4a,4bの異常を高い精度で検知するだけでなく、その異常が発生している箇所を特定しやすくなる。
【符号の説明】
【0038】
1 圧延装置
2a,2b 圧延ロール
3 軸受
4a,4b スピンドル
10 異常診断装置
11 流体貯留部
12 AEセンサ
14 磁石
15 支持手段
16 解析手段
17 保持手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に発生する弾性波を検出する少なくとも1個以上の弾性波検出手段と、その弾性波検出手段に有線接続され、前記弾性波検出手段で検出された弾性波に基づいて前記回転軸の異常を解析する解析手段とを有する回転軸の異常診断装置であって、磁性流体が充填されると共に、前記弾性波検出手段が設けられた流体貯留部を有し、前記回転軸と、前記流体貯留部との間に前記磁性流体を保持する磁石が前記流体貯留部に設けられ、
前記解析手段は、前記回転軸にかかる圧延荷重が所定の圧延荷重を超え、かつ該圧延荷重を超えてから予め設定された待機時間が経過してから予め設定された測定時間が経過するまで前記弾性波検出手段で検出された弾性波に基づいて前記回転軸の異常を解析することを特徴とする回転軸の異常診断装置。
【請求項2】
流体貯留部を保持する保持手段が、前記回転軸が設置された圧延機に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の回転軸の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−37423(P2012−37423A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178751(P2010−178751)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】