説明

回転陽極型X線装置およびX線CT装置

【課題】回転陽極型X線装置やこれを用いたX線CT装置において、ターゲットベアリング部からの振動や騒音を抑制する技術を提供する。
【解決手段】本発明の回転陽極型X線装置は、熱電子を放出する陰極および熱電子を受けてX線を発生させる回転型の陽極を内部に有するインサート部と、インサート部を内部に収めるハウジング部と、磁気支持部とを備え、インサート部の外壁の少なくとも一部は、磁力を受ける材料を有する磁気作用部として構成される。磁気支持部は、ハウジング部内に設けられ、磁気作用部に対し磁力をおよぼすことで、ハウジング部の内壁とインサート部の外壁とが互いに離れるようにインサート部をハウジング部内で浮上状態で支持する。即ち、ハウジング部とインサート部とが乖離されるため、ターゲットベアリング部からの振動がハウジング部や外部に伝播することはなく、騒音も抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転陽極型X線装置およびX線CT装置(X−ray Computed Tomography Apparatus)に関する。特に本発明は、回転陽極型X線装置やこれを用いたX線CT装置において、ターゲットベアリング部からの振動や騒音を抑制するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
回転陽極型X線装置は、熱電子を放出する陰極と、その熱電子を受け止めてX線を発生するターゲット(陽極)と、このターゲットの主軸(シャフト)を回転駆動するための回転磁界を発生するステータコイルなどを備える。X線の曝射は、ターゲットを所定の回転速度で回転させた状態で陰極とターゲットとの間に高電圧を印加し、陰極から熱電子を放出させることで行われる。
【0003】
X線CT装置用の回転陽極型X線装置は、臨床的なニーズからX線強度をさらに高出力化することが要望されており、これを実現するためには、ターゲットの回転速度をさらに高速化することが望まれる。しかしながら、ボールベアリングなどを用いた従来のターゲットベアリング部の構造においてターゲットをさらに高速で回転させる場合、ターゲットベアリング部の回転重心のブレ(偏心)の影響により低周波の振動や騒音が増幅され、この振動がX線CT装置の架台(寝台)まで伝播するおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1では、円筒状の回転陽極の軸受け内においてターゲットのシャフトを磁気力により浮遊させることで、シャフトの回転に伴う各部の振動や騒音を抑制する技術について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−121245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ターゲットには陰極から放出された熱電子が衝突するため、ターゲットのシャフトはかなりの高温状態になる。このような高温の部分に対して磁気ベアリングを用いることは困難であるため、特許文献1に記載の技術は、実現が困難であると考えられる。このため、別の技術により、ターゲットのシャフトの回転に伴う各部の振動や騒音を抑制する技術が要望されていた。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされてものであり、回転陽極型X線装置やこれを用いたX線CT装置において、ターゲットベアリング部からの振動や騒音を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る回転陽極型X線装置は、熱電子を放出する陰極および前記熱電子を受けてX線を発生させる回転型の陽極を内部に有するインサート部と、前記インサート部を内部に収めるハウジング部とを備えるものであり、上記課題を達成するため、前記インサート部の外壁の少なくとも一部は磁力を受ける材料を有する磁気作用部として構成され、磁気支持部をさらに備えるものである。前記磁気支持部は、前記ハウジング部内に設けられ、前記磁気作用部に対して磁力をおよぼすことで、前記ハウジング部の内壁と前記インサート部の前記外壁とが互いに離れるように前記インサート部を前記ハウジング部内で浮上状態で支持する。
【0009】
本発明に係るX線CT装置は、上記課題を達成するため、被検体にX線を照射する本発明の回転陽極型X線装置と、前記被検体を透過したX線を検出するX線検出部と、前記X線検出部の検出信号に基づいてX線投影データを収集する投影データ収集部と、前記X線投影データに再構成処理を施して前記被検体の画像データを生成する画像データ生成部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転陽極型X線装置やこれを用いたX線CT装置において、ターゲットベアリング部からの振動や騒音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態における回転陽極型X線装置の側断面模式図であり、X線の放射口側の面からその反対側の面に向けて、横断面が回転陽極の回転の軸線を含むように横断した場合の側断面模式図。
【図2】図1のA1−A1方向の平断面を示す平断面模式図。
【図3】図1のB1−B1方向の横断面を示す横断面模式図。
【図4】図1のA2−A2方向の平断面を示す平断面模式図。
【図5】図1のB2−B2方向の横断面を示す横断面模式図。
【図6】本発明の第2の実施形態におけるX線CT装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、各図において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、本発明の回転陽極型X線装置10に係るものである。
【0014】
図1は、本実施形態の回転陽極型X線装置10の側断面模式図であり、X線の放射口52側の面からその反対側の面に向けて、横断面が回転陽極の回転の軸線を含むように横断した場合の側断面模式図である。図2は、図1のA1−A1方向の平断面を示す平断面模式図である。
【0015】
図1に示すように、回転陽極型X線装置10は、制御部18と、太線で示すハウジング(X線管容器)20と、ハウジング20内に設けられたインサート(X線管)24とを備える。
【0016】
インサート24は、ハウジング20の内壁とは乖離されるように、ハウジング20内で磁気支持機構によって支持される。即ち、この磁気支持機構によりインサート24の位置制御が行われ、インサート24は、ハウジング20内で浮遊した状態で支持される。ハウジング20内は絶縁性の冷却液28で満たされており、インサート24の内部は真空に保たれている。図1および図2(および後述の図3〜図5)では、冷却液28で満たされている部分を点で塗り潰したパターンで示した。
【0017】
インサート24内には、陰極として熱電子を放出するフィラメント32と、陽極として熱電子を受けてX線を発生させるターゲット36と、ターゲット36を回転自在に支持するベアリング機構40とが設けられている。ターゲット36は、回転電極としてディスク状に形成されている。ベアリング機構40は、例えばボールベアリング(転がり軸受)やラジカル軸受或いはスラスト軸受によって、高速回転するターゲット36の主軸であるシャフト(図示せず)を支える構造である。また、ハウジング20内には、ターゲット36のシャフトを高速回転させるための回転磁界を発生させるステータコイル44が設けられている。
【0018】
図1および図2に示すように、回転陽極型X線装置10は、ハウジング20およびインサート24の外壁のケーブル挿入口(図示せず)を通る高圧ケーブル48を備える。この高圧ケーブル48は、その終端が端末部50として形成され、フィラメント32に接続されている。高圧ケーブル48は、フィラメント32とターゲット36との間に所定の管電圧を印加するためのものである。
【0019】
また、図1に示すように、ハウジング20には、X線を放出するための放射口52がターゲット36の上方に設けられている。この放射口52の位置に対応して、インサート24の外壁には、ターゲット36の上方にX線を放出するための放射窓56が設けられている。
【0020】
ここで、図1、図2および後述する図3〜図5では一例として、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸について、ベアリング機構40の回転軸(図示せず)に沿ってターゲット36側からステータコイル44側に向かう方向をZ軸正方向とする。また、インサート24の外壁の放射窓56からハウジング20外壁の放射口52側に向かう方向をY軸正方向とする。
【0021】
ハウジング20の内面において、Y軸方向にステータコイル44を挟んだ両側にはそれぞれ、Z軸方向誘導コイル60、61が固定されており、その反対側の面上には(ベアリング機構40の回転軸の延長線上に当たる部分に)、Z軸方向誘導コイル62が固定されている。Z軸方向誘導コイル60〜62は、後述するX軸方向誘導コイルおよびY軸方向誘導コイルと共に、供給される電流によって磁界を発生させ、この磁界から生じる磁気的引力によりインサート24を支持するものであり、電磁石として機能する。このため、インサート24の外壁における、Z軸方向誘導コイル60〜62や後述のX軸方向誘導コイルおよびY軸方向誘導コイルに対向する位置には、例えば鉄やニッケルなどの磁気的引力を強く受ける金属が埋め込まれている。これにより、インサート24は、Z軸方向誘導コイル60〜62等が生じさせる磁気的引力を受けるが、各部の引力を制御することで、インサート24の位置は制御される。なお、磁気的引力を強く受ける金属の代わりに、ネオジウム磁石のような強力な永久磁石を埋め込んでおき、磁気的引力と磁気的斥力の双方によってインサート24の位置を制御する構成としてもよい。
【0022】
図1において、Z軸方向誘導コイル60とステータコイル44との間、および、Z軸方向誘導コイル61とステータコイル44との間にはそれぞれ、磁気遮断シールド64、66が(固定して)配置される。磁気遮断シールド64、66はそれぞれ、少なくともステータコイル44のY軸方向における上面および下面の全体に対向するように配置される。磁気遮断シールド64、66は、Z軸方向誘導コイル60、61により生じる磁界がステータコイル44の回転磁界に影響することを防止する。磁気遮断シールド64、66は、例えばアモルファスなどの非磁性体で形成すればよい。
【0023】
図1において、インサート24の外壁上には、(Z軸方向誘導コイル62の右下側の位置に)第1センサ72が固定されている。また、ハウジング20の内壁上には、Z軸方向誘導コイル62の下方の位置に第2センサ76が固定されている。第1センサ72は、インサート24に対してどの方向に重力が働いているか(インサート24のどの部分が鉛直方向に最も下にあるか)を検出し、これを例えば超音波や電波によって第2センサ76に伝達する。重力方向の検出には、例えば、加速度検出手段によって第1センサ72に加わる力を検出して加速度値を求め、この加速度値から第1センサ72の鉛直方向に対する傾きを算出するといった従来技術を用いればよい。
【0024】
第2センサ76は、音波等を用いて第1センサ72と交信して、第1センサ72との相対的な位置情報を検出し、これに基づいて、ハウジング20(の内壁)とインサート24(の外壁)との相対的な位置情報をする。第2センサ76は、ハウジング20とインサート24との相対的な位置情報と、インサート24に対してどの方向に重力が働いているかの情報を不図示の配線によって制御部18に入力する。
【0025】
なお、図1のインサート24内で、ターゲット36およびベアリング機構40を含むように二点鎖線で示した領域は、陽極部78としての領域であり、フィラメント32を含むように破線で示した領域は、陰極部80としての領域である。
【0026】
図3は、図1のB1−B1方向の横断面を示す横断面模式図である。図3に示すように、インサート24の内壁上には、上記の陰極部80としての領域を覆うように磁気遮断シールド84の層(図3の斜線部分)が形成されている。磁気遮断シールド84は、フィラメント32や放出される熱電子に対してZ軸方向誘導コイル60〜62や後述のX−Y方向誘導コイルからの磁気力が作用することを防止する。磁気遮断シールド84は、例えばアモルファスなどの非磁性体で形成すればよい。同様に、インサート24の内壁上には、上記の陽極部78としての領域(図1の二点鎖線部分)におけるターゲット36の近傍部分のみを覆うように磁気遮断シールドの層が形成されている(図示せず)。これは、Z軸方向誘導コイル60〜62の磁気力が熱電子の放出軌道やステータコイル44の回転磁界に影響しないようにするためのものである。
【0027】
図4は、図1のA2−A2方向の平断面を示す平断面模式図である。図4に示すように、インサート24におけるX軸方向の両端は耳部90としてそれぞれ突出している。インサート24は、これら耳部90を介してX軸方向およびY軸方向の磁気的引力を受けて支持される。従って、これら耳部90には、鉄やニッケルなどの磁気的引力を強く受ける金属が埋め込まれている。
【0028】
図5は、図1のB2−B2方向の横断面を示す横断面模式図であり、特に上記の耳部90近傍の詳細構造を示す。左右の耳部90の先端は、それぞれ平板状の突起部100として形成されている。ハウジング20の内壁上には、図5の左側の耳部90の突起100に対して両側から対向する位置に、X軸方向誘導コイル110、111、112、113がそれぞれ固定されている。同様に、ハウジング20の内壁上には、図5の右側の耳部90の突起100に対して両側から対向する位置に、X軸方向誘導コイル114、115、116、117がそれぞれ固定されている。
【0029】
また、ハウジング20の内壁上には、左側の耳部90の中央近傍に両側から対向する位置にY軸方向誘導コイル130、131が固定されており、右側の耳部90の中央近傍に両側から対向する位置にY軸方向誘導コイル132、133が固定されている。
【0030】
さらに、ハウジング20の内壁上には、双方の耳部90の根元側に対向する位置に(合計4つの)台座150がそれぞれ固定されている。これらの台座150上には、例えばゴムやスポンジなどで構成された緩衝材152がそれぞれ固定されている。台座150および緩衝材152は、ハウジング20の内壁上において、Y軸方向の両端の面上(図5の上側の面上と、下側の面上)にもさらに4つずつ設けられている。これら8つずつの台座150および緩衝材152は、回転陽極型X線装置10の電源オフ等によって磁気支持機構の制御が停止した場合に、重力によってハウジング20の内壁にインサート24が直接衝突しないよう、クッションとして作用する。
【0031】
以上が第1の実施形態の回転陽極型X線装置10の構造に関する説明であり、以下、磁気支持機構によるインサート24の位置制御、X線の照射動作、フライングフォーカス機能、の順に回転陽極型X線装置10の機能について説明する。
【0032】
まず、磁気支持機構によるインサート24の位置制御について説明する。
【0033】
制御部18は、インサート24に対する重力と同じ大きさの力が重力とは反対方向にインサート24に働くようなX軸、Y軸およびZ軸方向の磁気的引力をそれぞれ算出する。この算出の際、制御部18は、第2センサ76から入力されるハウジング20とインサート24との相対的な位置情報と、インサート24に対してどの方向に重力が働いているかの情報とを用いる。
【0034】
制御部18は、上記のように算出したX軸、Y軸およびZ軸方向の磁気的引力がインサートに対して働くように、X軸方向誘導コイル110〜117、Y軸方向誘導コイル130〜133、Z軸方向誘導コイル60〜62に供給する電流を不図示の配線によって制御する。このようにして制御部18は、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の磁気的引力によって、重力に対してインサート24を支持しつつ、ハウジング20の内壁とインサート24との外壁とが接触しないようにインサート24の位置を制御する。
【0035】
例えばX軸負方向に重力が働いている場合、図5に示すX軸方向誘導コイル111、113、114、116が突起100に対して重力と同等の大きさのX軸正方向の磁気的引力をおよぼすことで、インサート24を支持する。また、Y軸負方向に重力が働いている場合、図5に示すY軸方向誘導コイル131、133が耳部90に対して重力と同等の大きさのY軸正方向の磁気的引力をおよぼすことで、インサート24を支持する。また、Z軸負方向に重力が働いている場合、図1に示すZ軸方向誘導コイル60、61がインサート24に対して重力と同等の大きさのZ軸正方向の磁気的引力をおよぼすことで、インサート24を支持する。
【0036】
これらの制御の際、ハウジング20とインサート24との相対的な位置情報が第2センサ76から制御部18に所定の短い時間間隔で入力されており、制御部18は、最新のインサート24の位置情報に基づいて、ハウジング20の内壁とインサート24との外壁とが接触しないように上記の磁気支持機構の制御を行う。
【0037】
次に、X線の照射動作について説明する。制御部18は、不図示の配線によりステータコイル44に所定の電力を供給させ、ベアリング機構40内のシャフト(図示せず)を回転駆動するための回転磁界を発生させる。これにより、ターゲット36が所定の回転速度で回転した状態において、制御部18は、高電圧ケーブル48等によってフィラメント32とターゲット36との間に所定の管電圧を印加し、フィラメント32から熱電子を放出させる。この熱電子がターゲット36に衝突してX線が発生し、このX線が放射窓56および放射口52を介して装置外の被検体等に照射される。X線の発生原理については、従来技術と同様であるので、さらなる説明を省略する。
【0038】
次に、フライングフォーカス機能について説明する。制御部18は、X線のビーム方向を変えるための操作ボタン群(図示せず)を備える。制御部18は、放射口52とインサート24との相対的位置関係がどのようになれば、入力により指定されたビーム方向を与えるかを算出する。なお、入力により指定可能なビーム方向が、ハウジング20の内壁とインサート24とが接触しない範囲に相当するビーム方向のみとなるように、制御部18の操作ボタン群の入力機能は構成されている。
【0039】
次に、制御部18は、算出した放射口52とインサート24との相対的位置関係を与えるためには、インサート24の位置をどの方向にどれだけ幅で移動させればよいかを算出する。そして、制御部18は、X軸方向誘導コイル110〜117、Y軸方向誘導コイル130〜136、Z軸方向誘導コイル60〜62に供給する電流を制御することでX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の磁気的引力を制御し、算出した移動方向と移動幅でインサート24を移動させ、その状態でインサート24が静止するように制御する。
【0040】
例えば重力がY軸負方向に働いており、各部の制御によりインサート24が静止している状態において、インサート24をX軸負方向に動かす場合、図5においてX軸方向誘導コイル110、112、115、117に流れる電流をX軸方向誘導コイル111、113、114、116に流れる電流よりも大きくして、X軸負方向への磁気的引力を大きくすることで、インサート24をX軸負方向に移動させる。
【0041】
ここで、磁気的引力は両物体の距離の二乗の逆数に比例して大きくなるので、各部の電流値をそのままにしたのでは、インサート24がX軸負方向に移動するに従ってX軸負方向の磁気的引力が大きくなり、突起100がX軸方向誘導コイル110等に衝突してしまう。従って、制御部18は、第2センサ76から所定の短い時間間隔で入力されるハウジング20とインサート24との最新の相対的位置情報に基づいて、インサート24の移動幅が算出した値になった時点でインサート24が静止するように、磁気支持機構による制御を行う。
【0042】
また、例えば重力がY軸負方向に働いており、各部の制御によりインサート24が静止している状態において、インサート24をZ軸負方向に動かす場合、図1においてZ軸方向誘導コイル62に流れる電流を一時的に大きくする等の制御を行って、インサート24に対してZ軸負方向の磁気的引力を一時的に大きくして移動させる。
【0043】
以上が回転陽極型X線装置10の機能に関する説明である。
【0044】
このように第1の実施形態では、ハウジング20の内壁と、インサート24とを磁気支持機構により乖離する。このため、インサート24内におけるターゲット36およびそのシャフトの高速回転に伴う振動がハウジング20に伝播することはない。従って、本実施形態の回転陽極型X線装置10をX線CT装置に用いると共にターゲットを従来よりも高速で回転させても、架台が振動するといった従来懸念されていた不具合が生じることはない。この結果、ターゲット36の回転速度を従来よりも高速化して、X線強度を従来よりも高出力にすることができる。
【0045】
また、騒音源となるインサート24内のベアリング機構40と、ハウジング20とが物理的に乖離されるため、従来よりも格段に騒音を低減できる。
【0046】
また、図5に示すように台座150およびクッション152をハウジング20の内壁上に設けている。このため、例えば輸送時など、電源オフにより磁気支持機構による制御が働かない状態において回転陽極型X線装置10のどちらの面が鉛直方向下向きに置かれても、インサート24を保護することができる。
【0047】
また、インサート24の内壁上には、陰極部80としての領域を覆うように磁気遮断シールド84の層を形成している。このため、X軸方向誘導コイル110〜117、Y軸方向誘導コイル130〜133、Z軸方向誘導コイル60〜62により生じる磁界が、フィラメント32や放出される熱電子に対して磁気力が作用することは防止される。
【0048】
さらに、放射口52とインサート24との相対的位置関係を磁気支持機構によって制御することで、放射口52から放出されるX線のビーム方向を制御することができる。即ち、本実施形態の回転陽極型X線装置10を例えばX線CT装置などに用いれば、フライングフォーカス機能(X線管の焦点位置を少しずつシフトさせながらスキャンを行う機能)を容易に実現することができる。
【0049】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、X線CT装置に係るものであり、第1の実施形態の回転陽極型X線装置10を搭載していることが主な特徴である。
【0050】
図6は、第2の実施形態におけるX線CT装置200の構成を示すブロック図である。
【0051】
図6に示すように、X線CT装置200は、回転陽極型X線装置10と、回転部212と、架台216と、X線検出器220と、高電圧発生器224と、回転駆動部228と、架台制御部232と、データ収集システム(Data Acquisition System:以下、DASという)236と、画像データ生成記憶部240と、システム制御部244と、入力部248と、表示部252とを備える。
【0052】
入力部248は、表示パネルや選択ボタン等の入力デバイスを備え、操作者は、投影データの収集に先立ち、この入力部248において被検体Pの情報の入力や投影データの収集条件、再構成条件、画像表示条件等の設定を行なう。これにより設定された条件は、システム制御部244に入力される。
【0053】
システム制御部244は、入力部248から入力される各種設定条件等に従って、X線CT装置200の各部を制御する。また、システム制御部244は、回転陽極型X線装置10の制御部18に接続され、回転陽極型X線装置10によるX線の照射やフライングフォーカス機構に基づく撮影を制御する。
【0054】
架台216は、回転部212の中央部に設けられた開口部(図示せず)に挿入され、架台216上には被検体Pが乗せられる。
【0055】
回転部212内では、回転陽極型X線装置10の放射口52(図1参照)と、X線検出器220とが被検体Pを間にして対向するように配置される。
【0056】
X線検出器220は、多チャンネルの検出素子を円弧状に配列した構成であり、回転陽極型X線装置10から照射されて被検体Pを透過したX線を検出する。
【0057】
回転駆動部228は、システム制御部244から入力される駆動制御信号に基づいて回転部212を駆動し、回転部212に支持された回転陽極型X線装置10およびX線検出器220を被検体Pの周りで連続回転させる。
【0058】
架台制御部232は、システム制御部244から入力される架台制御信号に基づいて、架台216の位置を制御する。
【0059】
高電圧発生器224は、不図示のスリップリングを介して回転陽極型X線装置10の高電圧ケーブル48に接続されている。高電圧発生器224は、システム制御部244から供給されるX線制御信号に基づいて、所定の管電流および管電圧を回転陽極型X線装置10に供給する。
【0060】
DAS236は、X線検出器220の各検出素子からの出力を時間積分する積分器と、積分器の出力をチャンネル単位で高速かつシリアルに取り込むマルチプレクサと、マルチプレクサの出力信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータなどから構成されている。DAS236は、システム制御部244から入力されるデータ収集制御信号に基づいて、X線検出器220により検出されるX線パス毎のX線透過率を反映した投影データを収集し、これを画像データ生成記憶部240に入力する。
【0061】
画像データ生成記憶部240は、被検体Pの複数のスライス面に対して収集された投影データを保存する。また、画像データ生成記憶部240は、複数のスライス面における投影データに再構成処理を施してボリュームデータを生成し、このボリュームデータにレンダリング処理を施して3次元画像データを生成し、これを保存する。そして、画像データ生成記憶部240は、システム制御部244の指令に従って、上記3次元画像データを表示部252に入力する。
【0062】
表示部252は、上記3次元画像データに患者情報等の付帯情報を付加して表示データを生成し、これによりX線CT画像を不図示のモニタに表示する。
【0063】
以上、第2の実施形態のX線CT装置200では、第1の実施形態の回転陽極型X線装置10をX線源として用いるため、ターゲット36の回転速度を上げても振動が架台216に伝播することはなく、騒音も従来技術より格段に低減される。従って、患者に不快な思いをさせずに、高出力のX線撮影を行うことができる。また、第1の実施形態の回転陽極型X線装置10を用いるため、フライングフォーカス機能を容易に実現することができる。
【0064】
[本発明の補足事項]
第1の実施形態では、インサート24の外壁(の鉄やニッケルが埋め込まれた部分)に磁気的引力をおよぼし、インサート24の位置を制御する例を述べた。本発明は、かかる実施形態に限定されるものではない。例えば、インサート24の外壁上と、ハウジング20の内壁上の双方に電磁石として機能する誘導コイルを配置し、磁気的引力と磁気的斥力の双方によってインサート24の位置を制御する構成としてもよい。
【0065】
最後に、請求項の用語と実施形態との対応関係を説明する。なお、以下に示す対応関係は、参考のために示した一解釈であり、本発明を限定するものではない。
【0066】
インサート24の外壁におけるX軸方向誘導コイル110〜117、Y軸方向誘導コイル130〜133、Z軸方向誘導コイル60〜62に対向する部分、即ち、鉄やニッケルなどの磁力を強く受ける金属が埋め込まれている部分は、請求項記載の磁気作用部の一例である。
【0067】
X軸方向誘導コイル110〜117、Y軸方向誘導コイル130〜133、Z軸方向誘導コイル60〜62と、これらに対する供給電流を制御してハウジング20の内壁とインサート24とが互いに離れるようにインサート24を支持する制御部18の機能は、請求項記載の磁気支持部の一例である。
【0068】
X軸方向誘導コイル110〜117、Y軸方向誘導コイル130〜133、Z軸方向誘導コイル60〜62に供給する電流の制御によりX軸方向、Y軸方向またはZ軸方向にインサート24を移動させることで、放射口52から放出されるX線のビーム方向を変える制御部18の機能も、請求項記載の磁気支持部の一例である。
【0069】
双方の耳部100(図5参照)は、請求項記載の第1突出部および第2突出部の一例である。
DAS236は、請求項記載の投影データ収集部の一例である。
画像データ生成記憶部240は、請求項記載の画像データ生成部の一例である。
【符号の説明】
【0070】
10 回転陽極型X線装置
18 制御部
20 ハウジング
24 インサート
28 冷却液
32 フィラメント
36 ターゲット
40 ベアリング機構
44 ステータコイル
48 高電圧ケーブル
50 端末部
52 放射口
56 放射窓
60、61、62 Z軸方向誘導コイル
64、66 磁気遮断シールド
72 第1センサ
76 第2センサ
78 陽極部
80 陰極部
84 磁気遮断シールド
90 耳部
100 突起
110、111、112、113、114、115、116、117 X軸方向誘導コイル
130、131、132、133 Y軸方向誘導コイル
150 台座
152 緩衝材
200 X線CT装置
212 回転部
216 架台
220 X線検出器
224 高電圧発生器
228 回転駆動部
232 架台制御部
236 DAS
240 画像データ生成記憶部
244 システム制御部
248 入力部
252 表示部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電子を放出する陰極および前記熱電子を受けてX線を発生させる回転型の陽極を内部に有するインサート部と、前記インサート部を内部に収めるハウジング部とを備えた回転陽極型X線装置であって、
前記インサート部の外壁の少なくとも一部は、磁力を受ける材料を有する磁気作用部として構成され、
前記ハウジング部内に設けられ、前記磁気作用部に対して磁力をおよぼすことで、前記ハウジング部の内壁と前記インサート部の前記外壁とが互いに離れるように前記インサート部を前記ハウジング部内で浮上状態で支持する磁気支持部を備えている
ことを特徴とする回転陽極型X線装置。
【請求項2】
前記ハウジング部内に配置され、供給される電流によって前記陽極の回転の軸方向に磁力を発生させることで、前記インサート部を支持する複数の誘導コイルを前記磁気支持部は備えていることを特徴とする請求項1記載の回転陽極型X線装置。
【請求項3】
前記インサートの前記外壁における互いに対向する位置には、前記磁気作用部としての第1突出部および第2突出部がそれぞれ形成されており、
前記磁気支持部は、前記陽極の回転の軸方向に直交する方向の磁力を前記第1突出部および前記第2突出部におよぼすことで、前記インサート部を支持することを特徴とする請求項1記載の回転陽極型X線装置。
【請求項4】
前記ハウジング部は、前記X線を外部に放出させるための放射口を有し、
前記磁気支持部は、前記ハウジング部内に配置されていると共に供給される電流によって前記磁気作用部に対する磁力を発生させる誘導コイルを有し、前記誘導コイルに供給する電流の制御によって前記磁気作用部に対する磁力を制御し、これにより所望の方向に前記インサート部を移動させることで、前記放射口から放出される前記X線のビーム方向を変えることを特徴とする請求項1記載の回転陽極型X線装置。
【請求項5】
被検体にX線を照射する請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の回転陽極型X線装置と、
前記被検体を透過したX線を検出するX線検出部と、
前記X線検出部の検出信号に基づいてX線投影データを収集する投影データ収集部と、
前記X線投影データに再構成処理を施して、前記被検体の画像データを生成する画像データ生成部と
を備えていることを特徴とするX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−130954(P2011−130954A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294361(P2009−294361)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】