説明

回転電機のステータの組み付け方法

【課題】部品点数の増加を招くことなく、複数の分割コア片の組み付けとコイル導線の引き回しを容易に行うことのできる回転電機のステータの組み付け方法を提供する。
【解決手段】一つ目の分割コア片8−1に中性点側の引き出し部5Dnの引き出し位置と、給電側の引き出し部5Duの引き出し位置を設定する。一つ目の分割コア片8−1に対して、コイル導線5の巻回と、給電側の引き出し部5Duの引き回しと、中性点側の引き出し部5Dnの引き回しを行った後に、二つ目以降の分割コア片8−2,8−3…に対して、コイル導線5の巻回とともに、既にコイル導線5の巻回と引き回しを完了している分割片8−1等に跨る引き出し部5Dn(5Du,5Dv,5Dw)の引き回しを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両駆動や回生発電等に用いられる回転電機のステータの組み付け方法に関し、とりわけ、環状のステータに複数のコイル巻線が巻回される回転電機のステータの組み付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のステータの組み付け方法として、環状のステータコアに、コイル導線の巻回される複数のコイル巻回部と、各コイル巻回部から引き出されたコイル導線の引き出し部を係止する係り止め部を設けておき、各コイル巻線部に順次コイル導線を巻回するとともに、各コイル導線の給電側と中性点側の各引き出し部を適宜係り止め部に巻き付けてステータ上の所定の位置から外部に引き出すものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4275458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のステータの組み付け方法においては、ステータコアにコイル導線の引き出し部を巻き付けるための係り止め部を設ける必要があり、部品点数が増加する不具合がある。
【0005】
また、上記従来のステータの組み付け方法では、各コイル巻回部にコイル導線を巻回した後に係り止め部にコイル導線の引き出し部を巻き付ける必要があり、引き出し部の引き回し作業が煩雑になる。特に、コイル導線の巻回作業を容易にし、占積率を高めるためにステータコアを複数の分割コア片によって構成する場合には、分割コア片同士を組み付けながら各コイル導線の引き出し部を引き回さなければならず、極めて煩雑な作業を強いられることになる。
【0006】
そこでこの発明は、部品点数の増加を招くことなく、複数の分割コア片の組み付けとコイル導線の引き回しを容易に行うことのできる回転電機のステータの組み付け方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る回転電機のステータの組み付け方法では、上記課題を解決するために以下の構成を採用した。
請求項1に係る発明は、複数の分割コア片(例えば、実施形態の分割コア片8)にそれぞれコイル導線(例えば、実施形態のコイル導線5)を巻回し、前記複数の分割コア片を環状に組み付けるとともに、前記各分割コア片から引き出されたコイル導線の給電側の引き出し部(例えば、実施形態の引き出し部5Du,5Dv,5Dw)を各相毎に一か所にまとめて引き出し、前記各分割コア片から引き出されたコイル導線の中性点側の引き出し部(例えば、実施形態の5Dn)を一か所にまとめて引き出すステータの組み付け方法であって、前記各分割コア片のステータの径方向内側に相当する領域にコイル巻回部(例えば、実施形態のコイル巻回部10a)を設けるとともに、前記各分割コア片のステータの径方向外側に相当する領域に、前記ステータの組み付け完了時に環状の溝を成す各相毎の給電側の導線案内溝(例えば、実施形態の案内溝15u,15v,15w)と、前記ステータの組み付け完了時に環状の溝を成す中性点側の導線案内溝(例えば、実施形態の案内溝15n)と、を設け、一つ目の分割コア片のコイル巻回部にコイル導線を巻回して、そのコイル導線の中性点側の引き出し部を同じ分割コア片上の中性点側の導線案内溝内から径方向外側に屈曲させて引き出すとともに、そのコイル導線の給電側の引き出し部を同じ分割コア片上の対応する相の給電側の導線案内溝内から径方向外側に屈曲させて引き出し、二つ目以降の分割コイル片については、作業を行う分割コア片のコイル巻回部にコイル導線を巻回して、その分割コア片を、先にコイル導線の巻回と引き出しを完了している別の分割コイル片に隣接させて配置することを特徴とするものである。
これにより、一つ目の分割コア片に巻回されたコイル導線は、中性点側の引き出し部と給電側の引き出し部が、同じ分割コア片上の導線案内溝内の引き出し位置において、径方向外側に屈曲されて引き出される。このとき、一つ目の分割コア片上のコイル導線は、中性点側の引き出し部と給電側の引き出し部が対応する導線案内溝内でくせづけされる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る回転電機のステータの組み付け方法において、前記二つ目以降の分割コイル片に巻回したコイル導線の中性点側の引き出し部の引き回しについては、当該作業を行う分割コア片に巻回したコイル導線の中性点側の引き出し部を、当該作業を行う分割コア片と一つ目の分割コア片間の中性点側の導線案内溝に沿わせて一つ目の分割コア片上の引き出し位置まで引き回し、その引き出し部を一つ目の分割コア片上の引き出し位置で、前記一つ目の分割コア片側のコイル導線の中性点側の引き出し部の屈曲引き出し部分に沿わせて径方向外側に屈曲させて引き出すことを特徴とするものとするものである。
これにより、二つ目以降の分割コア片に巻回されたコイル導線は、中性点側の引き出し部が途中の導線案内溝を通して、一つ目の分割コア片上の引き出し位置で径方向外側に屈曲して引き出される。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る回転電機のステータの組み付け方法において、前記ステータはn相のステータであり、各相のコイル導線の給電側の引き出し部の引き出し位置は、前記一つ目の分割コア片から、当該一つ目の分割コア片から数えてn個目までの分割コア片のうちのいずれかの分割コア片上の対応する相の導線案内溝内に設定し、前記二つ目以降の分割コイル片に巻回したコイル導線の給電側の引き出し部の引き回しについては、当該作業を行う分割コア片に巻回したコイル導線の給電側の引き出し部を、前記n個目までの分割コア片のうちのいずれかの分割コア片上の前記引き出し位置までその間の導線案内溝に沿わせて引き回し、その引き出し部を、当該引き出し位置で径方向外側に屈曲させて引き出すことを特徴とするものである。
これにより、二つ目以降の分割コア片に巻回されたコイル導線は、給電側の引き出し部が、途中の対応する相の導線案内溝内を引き回され、前記n個目までの分割コア片のうちのいずれかの分割コア片上の引き出し位置で、径方向外側に屈曲して引き出される。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に係る回転電機のステータの組み付け方法において、各分割コア片に巻回したコイル導線の中性点側の引き出し部は、中性点側の導線案内溝の成す環状の溝上での引き回し長さが短くなる向きで中性点側の導線案内溝内を引き回すことを特徴とするものである。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか1項に係る回転電機のステータの組み付け方法において、前記コイル導線は、平角線によって構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、一つ目の分割コア片に対するコイル導線の巻回と、そのコイル導線の給電側と中性点側の各引き出し部の所定位置からの引き出しを、同じ分割コア片上で単独で行った後に、二つ目以降の分割コア片の組み付けを行うため、部品点数の増加を招くことなく、複数の分割コア片の組み付けとコイル導線の引き回しを容易に行うことができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、二つ目以降の分割コア片に対してコイル導線の巻回を行った後に、そのコイル導線の中性点側の引き出し部を、既に巻回と引き回しを完了している他の分割コア片上の導線案内溝に跨らせるため、複数の分割コア片の組み付けとコイル導線の引き回しを容易に行うことができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、二つ目以降の分割コア片に対してコイル導線の巻回を行った後に、そのコイル導線の給電側の引き出し部を、既に巻回と引き回しを完了している他の分割コア片上の対応する相の導線案内溝に跨らせ、若しくは、跨らせずに作業を行っている分割コア片自身の導線案内溝のみを利用して引き回すことができるため、複数の分割コア片の組み付けとコイル導線の引き回しを容易に行うことができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、各コイル導線の中性点側の引き出し部が、中性点側の導線案内溝の成す環状の溝上での引き回し長さが短くなる向きで引き回されるため、各コイル導線の中性点側の引き出し部の重なりをより少なくすることができるとともに、引き出し部の長さも短くすることができる。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、コイル導線が平角線によって構成されているため、コイル導線を各分割コア片上のコイル巻回部や導線案内溝内に隙間なく効率良く配置することができるとともに、コイル導線の引き出し部を導線案内溝の内部から径方向外側に容易に、かつ正確に屈曲させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の一実施形態の回転電機に組み込まれるステータの一部の斜視図である。
【図2】この発明の一実施形態のステータのステータコア単体の一部の斜視図である。
【図3】この発明の一実施形態のステータをハウジングに組み付けた状態を示す電動機の一部の正面図である。
【図4】この発明の一実施形態のステータコアの分割コア片を分解して示す斜視図である。
【図5】この発明の一実施形態の分割コア片のインシュレータの一部を示す斜視図である。
【図6】この発明の一実施形態のコイル導線を巻回した分割コア片の斜視図である。
【図7】この発明の一実施形態のインシュレータの図6のA−A断面に対応する断面図である。
【図8】この発明の一実施形態のU相の給電側のコイル導線の引き回しを示すステータコアの模式的な部分断面正面図(A)と、その一部を拡大した図(B)を併せて記載した図である。
【図9】この発明の一実施形態のV相の給電側のコイル導線の引き回しを示すステータコアの模式的な部分断面正面図(A)と、その一部を拡大した図(B)を併せて記載した図である。
【図10】この発明の一実施形態のW相の給電側のコイル導線の引き回しを示すステータコアの模式的な部分断面正面図(A)と、その一部を拡大した図(B)を併せて記載した図である。
【図11】この発明の一実施形態のU相,V相,W相の各相の中点側のコイル導線の引き回しを示すステータコアの模式的な部分断面正面図(A)と、その一部を拡大した図(B)を併せて記載した図である。
【図12】この発明の一実施形態のU相,V相,W相の各相のコイル導線全体の引き回しを示すステータコアの模式的な正面図である。
【図13】この発明の一実施形態の分割コア片の組み付け方法を(A)〜(D)に順に示す正面図である。
【図14】この発明の一実施形態の分割コア片の組み付け順序を示すステータコアの正面図である。
【図15】この発明の一実施形態のステータの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この実施形態の回転電機に組み込まれるステータ1を示す図であり、図2は、ステータ1のステータコア2の単体を示す図、図3は、ステータ1を端子台3とともにハウジング4に組み付けた状態を示す図である。
この実施形態の回転電機は、電気自動車やハイブリッド車両の車両駆動と回生発電に用いられる三相交流式の回転電機であり、円環状のステータ1の内側には、図示しないロータが回転可能に配置されている。ロータは減速機構等を介して車両の車軸に連結されている。
【0019】
ステータ1は、複数のコイル導線5を突極集中巻きで実装した円環状のステータコア2と、そのステータコア2が圧入固定される略円筒状のホルダ6を備え、ステータコア2からホルダ6の径方向外側に引き出されたU相,V相,W相の各コイル導線5の給電側の端部に、それぞれ対応する相の給電端子7U,7V,7Wが接続されている。
この実施形態においては、コイル導線5は横長の矩形断面の平角線が採用されている。
【0020】
ステータコア2は、正面視が略扇状の複数の分割コア片8が円環状に組み付けられて成り、各分割コア片8には、それぞれ個別にコイル導線5が巻回されている。分割コア片8に巻回された各コイル導線5の一端側は、各相毎にまとめられて対応する相の給電端子7U,7V,7Wに接続され、各コイル導線5の他端側はすべてが一箇所にまとめられて相互に電気的に接続されている。したがって、このステータコア2では、各相のコイル導線5がY字結線で接続されている。
なお、この実施形態では、分割コア片8は、U相用、V相用、W相用のもの合計12個、各相4個ずつが、円周方向でU相,V相,W相の配列が繰り返されるように順に並んで配置されている。
【0021】
図4は、分割コア片8の構成部品を示す分解斜視図である。
分割コア片8は、鋼板を複数枚積層して構成されたコア本体9と、コア本体9の周域に嵌合されてコア本体9を電気的に絶縁するインシュレータ10と、を備えている。
【0022】
コア本体9は、ステータコア2の外周側の円弧領域を形成するヨーク部9aと、ヨーク部9aの内周側からステータコア2の半径方向内側に向かって突出するティース部9bと、を有している。ヨーク部9aは、円弧方向の一方の端面に凸部11が形成され、他方の端面には凹部12が形成されている。凸部11と凹部12は同サイズの半円形状に形成され、隣接する分割コア片8のヨーク部9a同士で凸部11と凹部12が相互に嵌合されるようになっている。また、ティース部9bは、突出方向の外周面にインシュレータ10が嵌合され、そのインシュレータ10を介して外周側にコイル導線5が巻回されるようになっている。
【0023】
図5は、インシュレータ10の一部を示す斜視図であり、図6は、コイル導線5を巻回した分割コア片8を示す斜視図であり、図7は、図6のA−A断面に対応する断面図である。なお、図4も含め、分割コア片8を説明するためのこれらの図面において、矢印C,R,Axは、それぞれステータコア2についての円周方向、半径方向、軸方向を示すものとする。
インシュレータ10は、コア本体9のティース部9bに嵌合されて、その外周側にコイル導線5が巻回されるコイル巻回部10aと、コイル巻回部10aに巻回された各コイル導線5の始端側と終端側の引き出し部5Du,5Dv,5Dw,5Dnをステータコア2の円周方向に沿って円周上の所定位置まで引き回す導線案内部10bと、を備えている。
【0024】
インシュレータ10のコイル巻回部10aは、コア本体9のティース部9bに嵌合される部分が、ティース部9bの周域で半割状に分割された二部品によって構成されている。ここで、この二部品のうちの一方を第1半割体13と呼び、他方を第2半割体14と呼ぶものとすると、前記の導線案内部10bは、一方の部品である第1半割体13に一体に形成されている。第1半割体13と第2半割体14には、ティース部9bの延出方向(R方向)に沿う両側部にそれぞれフランジ部13a,13a,14a,14aが設けられ、これらの両側のフランジ部13a,13a,14a,14aの間でコイル導線5が巻回されるようになっている。
【0025】
一方、インシュレータ10の導線案内部10bは、コイル巻回部10aのR方向の一端側の、コア本体9のヨーク部9aの円弧状の側面に重なる位置に一体ブロックとして形成されている。導線案内部10bのブロックは、図示Ax方向から見た平面視が略円弧状に形成され、ステータコア2の外周面に相当する面には、ステータコア2の円周方向(C方向)に沿う4つの案内溝15n,15u,15v,15wが軸方向(Ax方向)で4段になって形成されている。これらの案内溝15n,15u,15v,15wは、すべての分割コア片8が円環状に組み付けられたときに、それぞれが4本の独立した円環状の溝を形成し、その各円環状の溝内に、各コイル導線5の引き出し部5Dn,5Du,5Dv,5Dwがそれぞれ引き回されるようになっている。
【0026】
インシュレータ10の案内溝15n,15u,15v,15wの溝幅は、コイル導線5の断面の長辺側の長さとほぼ合致するように(長辺側の長さよりも僅かに大きく)設定されている。また、図7に示すように、案内溝15u,15v,15wには、コイル導線5の給電側の引き出し部5Du,5Dv,5Dwが最大2本嵌入されるのに対し、案内溝15nには、コイル導線5の中性点側の引き出し部5Dnが最大6本嵌入されるため、案内溝15nの深さは他の案内溝15u,15v,15wに比較して深くなっている。
【0027】
また、導線案内部10bのブロックの円弧方向の一方の端面には、図4,図6に示すように、コイル巻回部10a側から対応する案内溝15n内にコイル導線5の中性点側の端部(引き出し部5Dn)を引き出すための引き出し溝16nが形成され、同ブロックの円弧方向の他方の端面には、図5に示すように、コイル巻回部10a側から対応する案内溝15u,15v,15w内にコイル導線5の給電側の端部(引き出し部5Du,5Dv,5Dw)を引き出すための引き出し溝16u,16v,16wが形成されている。
なお、図4〜図6中の符号17は、コイル巻回部10aから引き出されたコイル導線5の中性点側の端部(引き出し部5Dn)を引き出し溝16nに案内するために、前記ブロックのコイル巻回部10aに臨む側の面に設けられた案内壁である。
【0028】
図8は、ステータコア2上におけるU相の各コイル導線5の給電側の引き出し部5Duの引き回しを示す図である。
同図に示すように、U相用の4つの分割コア片8から引き出されたコイル導線5の引き出し部5Duは、インシュレータ10の案内溝15uに沿ってステータコア2の円周上の一箇所に引き回され、その箇所からステータコア2の径方向外側に突出するように折り曲げられている。こうして折り曲げられた引き出し部5Duの端部(接続端5Eu)は一つに束ねられてヒュージング処理によって対応するU相の給電端子7U(図1〜図3参照)に接続されている。
【0029】
図9は、ステータコア2上におけるV相の各コイル導線5の給電側の引き出し部5Dvの引き回しを示す図であり、図10は、ステータコア2上におけるW相の各コイル導線5の給電側の引き出し部5Dwの引き回しを示す図である。
これらの図に示すように、V相用とW相用の各4つの分割コア片8から引き出された引き出し部5Dv,5Dwは、U相の引き出し部5Duと同様に、それぞれインシュレータ10の案内溝15v,15wに沿ってステータコア2の円周上の一箇所に引き回され、その箇所からステータコア2の径方向外側に突出するように折り曲げられている。V相,W相の各引き出し部5Dv,5Dwの端部(接続端5Ev,5Ew)は、それぞれ一つに束ねられてヒュージング処理によって対応する給電端子7V,7W(図1〜図3参照)に接続されている。
【0030】
図11は、ステータコア2上におけるU相,V相,W相の各コイル導線5の中性点側の引き出し部5Dnの引き回しを示す図である。
同図に示すように、すべての分割コア片8から引き出されたコイル導線5の中性点側の引き出し部5Dnは、インシュレータ10の案内溝15nに沿ってステータコア2の円周上の一箇所に引き回され、その箇所からステータコア2の径方向外側に突出するように折り曲げられている。すべての中性点側の引き出し部5Dnの端部は、ヒュージング処理によって相互に電気的に接続されるとともに物理的にも接続されている。こうして相互に接続された中性点側の引き出し部5Dnの端部は中点連結部18を構成している。
【0031】
図12は、ステータコア2上のすべてのコイル導線5の引き出し部5Du,5Dv,5Dw,5Dnの引き回しを併せて示す図である。
同図に示すように、U相,V相,W相の各接続端5Eu,5Ev,5Ewと、中点連結部18は、それぞれステータコア2の円周上の異なる位置から引き出されているが、これらはステータコア2の円周上の相互に近接する領域に配置されている。
具体的には、U相の接続端5Euは、ステータコア2の一つの分割コア片8−1の円周方向の一端側に配置され、中点連結部18は、その同じ分割コア片8−1の円周方向の他端側に配置されている。そして、V相の接続端5Evは、分割コア片8−1の一端側に隣接する分割コア片8−2のU相の接続端5Euに近接する側の端部に配置され、W相の接続端5Ewは、同じ分割コア片8−2のU相の接続端5Euと離間する側の端部に配置されている。つまり、この実施形態の場合、各接続端5Eu,5Ev,5Ewと中点連結部18は、隣接する2つの分割コア片8−1,8−2の径方向外側領域に集約して配置されている。
【0032】
ところで、各インシュレータ10の案内溝15nに案内されてステータコア2上の一か所から引き出されるコイル導線5の中性点側の引き出し部5Dnの端部は、各コイル導線5が平角線から成ることから、径方向外側に折り曲げた状態で、平坦な面同士で相互に面接触させることができる。中点連結部18は、こうして複数の引き出し部5Dnの端部を平坦な面同士で接触させて層状に重ねあわせ、その状態で複数の引き出し部5Dnの端部が金属製の結束板19(結束部材)とともにヒュージング処理されて構成されている。結束板19は、複数の引き出し部5Dnの端部の周域を抱持した状態において各引き出し部5Dnに固着されている。
【0033】
ところで、上記のように構成されたステータコア2は、図1,図3に示すように、円筒状のホルダ6に嵌合され、一体のステータ1としてハウジング4の内側に固定設置される。このハウジング4の内側には、ステータ1の外周面の一部に隣接するように、平面視が略円弧形状である端子台3が固定設置される。
【0034】
端子台3は、全体が絶縁性の樹脂材料によって形成され、図3に示すように、ステータ1の軸心と略直交する円弧状のベース壁22と、ベース壁22の円弧形状の内周側を除く三方を取り囲む外側壁23と、を備え、外側壁23のないベース壁22の内周側がステータ1の外周面に臨んでいる。したがって、端子台3は、ステータ1とともにハウジング4内に固定設置された状態において、ベース壁22と外側壁23とステータ1の外周面とに囲まれた凹状空間を形成する。
【0035】
また、端子台3の外側壁23の外側には、外部の給電線を接続するための図示しないコネクタが設置されている。コネクタのU,V,Wの三相の端子は、端子台3を貫通する図示しない三相のバスバー(金属プレート)を介してステータ1側の給電端子7U,7V,7Wと接続されるようになっている。各バスバーの一端は、凹状空間に臨むベース壁22上に配置され、そのベース壁22上において、対応する給電端子7U,7V,7Wとボルト締結されるようになっている。なお、図3中24は、端子結合用のボルトである。
【0036】
図3に示すように、給電端子7U,7V,7Wと各対応するバスバーとの締結部は、ベース壁22の円弧方向に離間して配置されている。そして、ベース壁22の円弧方向の一端側(図中下方側)の締結部に隣接する位置には、端子台3の固定部が設けられており、その固定部が締結部材であるボルト25によってハウジング4に締結固定されるようになっている。
また、ベース壁22上には、隣接する給電端子7W,7V,7Uの締結部間と、給電端子7Uの締結部とハウジング固定部(ボルト25)の間を電気的に絶縁するための仕切壁26a,26b,26cが設けられている。
【0037】
ここで、ステータ1の径方向外側に突出するU相,V相,W相の各接続端5Eu,5Ev,5Ewは、ステータ1の軸方向に屈曲して延出する給電端子7U,7V,7Wを介して端子台3のベース壁22上で対応するバスバーにボルト結合されるが、中点連結部18は、いずれにも固定されずに、端子台3の外側壁23に囲まれた空間部内に突出している。具体的には、中点連結部18は、端子台3の外側壁23と仕切壁26cとに囲まれ、端子台固定用のボルト25の配置される空間部内で、ボルト25の頭部と軸方向で離間する位置に突出している。したがって、中点連結部18は、ステータコア2の径方向外側の、ボルト25の設置部と円周方向で重なり、かつ軸方向で離間する位置において、端子台3の内側に突出している。
【0038】
次に、上記のように構成されたステータ1の組み付け方法について、図13〜図15を参照して説明する。
【0039】
最初に、図13(A)に示すように、例えば、コイル導線5の給電側の引き出し部5Duを始端とし、中性点側の引き出し部5Dnを終端として、一つ目の分割コア片8−1のコイル巻回部10aに(図6参照。)対してコイル導線5の巻回を行う。このとき、コイル導線5の給電側の引き出し部5Duと中性点側の引き出し部5Dnは、図5,図6に示す引き出し溝16uと16nを通して分割コア片8−1の案内溝15u,15n側に引き入れる。
【0040】
各案内溝15u,15n内に引き入れられた引き出し部5Du,5Dnは、対応する案内溝15u,15nに沿わせて僅かに引き回され、各案内溝15u,15n内の特定の引き出し位置で径方向外側に略直角に曲げられて引き出される。この図示の例の場合、引き出し部5Duは、図中右端側から案内溝15u内を左方向に沿わせた後に、図中右側寄りの特定の引き出し位置で接続端5Euとして径方向外側に曲げられ、引き出し部5Dnは、図中左端側から案内溝15n内を右方向に沿わせた後に、図中左側寄りの特定の引き出し位置で径方向外側に曲げられている。
【0041】
次に、図13(B)に示すように、一つ目の分割コア片8−1と同様に二つ目の分割コア片8−2のコイル巻回部10a(図6参照。)に対してコイル導線5の巻回を行い、コイル導線5の給電側の引き出し部5Dvと中性点側の引き出し部5Dnを、図5,図6に示す引き出し溝16vと16nを通して分割コア片8−2の案内溝15v,15n側に引き入れる。
この状態で二つ目の分割コア片8−2は、一つ目の分割コア片8−1の図示右側に配置され、案内溝15v内に引き入れられた引き出し部5Dvは、その案内溝15vに沿わせて一つ目の分割コア片8−1方向に引き回され、案内溝15v内の特定の引き出し位置で接続端5Evとして径方向外側に略直角に曲げられる。また、案内溝15n内に引き入れられた引き出し部5Dnは、一つ目の分割コア片8−1の案内溝15n内を引き回され、一つ目の分割コア片8−1上の特定の引き出し位置で径方向外側に略直角に曲げられる。
【0042】
この後、図13(C)に示すように、二つ目の分割コア片8−2と同様に三つ目の分割コア片8−3のコイル巻回部10a(図6参照。)に対してコイル導線5の巻回を行い、コイル導線5の給電側の引き出し部5Dwと中性点側の引き出し部5Dnを、図5,図6に示す引き出し溝16wと16nを通して分割コア片8−3の案内溝15w,15n側に引き入れる。
三つ目の分割コア片8−3は、この状態で二つ目の分割コア片8−2のさらに図示右側に配置され、案内溝15w内に引き入れられた引き出し部5Dwは、案内溝15wに沿わせて二つ目の分割コア片8−2方向に引き回され、案内溝15w内の特定の引き出し位置で接続端5Ewとして径方向外側に略直角に曲げられる。図13(C)の例の場合、引き出し部5Dwは、二つ目の分割片8−2上の案内溝15w内の図示右側の端部で略直角に曲げられている。一方、案内溝15n内に引き入れられた引き出し部5Dnは、一つ目の分割コア片8−1の案内溝15nまで引き回されて、一つ目の分割コア片8−1内の特定の引き出し位置で径方向外側に略直角に曲げられる。
【0043】
この後には、図13(D)に示すように、三つ目の分割コア片8−3と同様に四つ目の分割コア片8−4のコイル巻回部10a(図6参照。)に対してコイル導線5の巻回を行い、コイル導線5の給電側の引き出し部5Dwと中性点側の引き出し部5Dnを、三つ目と同様に分割コア片8−4の案内溝15w,15n側に引き入れる。
四つ目の分割コア片8−4は、この状態で一つ目の分割コア片8−1の図示左側に配置され、案内溝15w内に引き入れられた引き出し部5Dwは、一つ目の分割コア片8−1と二つ目の分割コア片8−2の案内溝15w内を引き回され、二つ目の分割コア片8−2上の案内溝w内の特定の引き出し位置で接続端5Ewとして径方向外側に略直角に曲げられる。また、案内溝15n内に引き入れられた引き出し部5Dnは、一つ目の分割コア片8−1上の案内溝15n内の特定の引き出し位置まで引き回され、そこで径方向外側に略直角に曲げられる。
【0044】
以下、同様に、例えば、図14に数字を確固に入れて示したような順序で、残余の分割コア片8に対してコイル導線5の巻回と引き回しが行われる。
このようにして分割コア片8に対するコイル導線5の巻回と引き回しが順次行われると、隣接する分割コア片8同士がコイル導線5の引き回し部によって相互に拘束されることになる。ただし、図14に示す順序で分割コア片8を組み付けてゆくと、(11)番目に組み付けられる分割コア片8と、(12)番目に組み付けられる分割コア片8は相互に拘束されないことになるが、これらの分割コア片8は逆側で隣接する他の分割コア8によって拘束されているため、組み付け後に脱落する心配はない。
【0045】
こうして、組み付けられた分割コア片8の環状のブロックは、図15に示すように略円筒状のホルダ6内に圧入され、U,V,Wの各相の引き出し端はまとめられて対応する給電端子7U,7V,7Wに結合され、中性点側の引き出し端は、前述のヒュージング処理によって結束される。
なお、分割コア片8の組み付け順序は、図14に示すものに限らず、図14中の(1),(2),(3)の順序以外は適宜変更することが可能である。
【0046】
また、各分割コア片8の案内溝15n,15u,15v,15w上でのコイル導線5の引き回しの向きも適宜変更することが可能であるが、図11に示すように、特に、コイル導線5の中性点側の引き出し部5Dnに関しては、中性点側の案内溝15nの成す環状の溝上での引き回し長さが短くなる向きに引き回すことが望ましい。この実施形態では、図11に示すように、中性点側の引き出し部5Dnの引き出し位置(中点連結部18)を中心として、右側に配置される6つ(半分の数)の分割コア片8と、左側に配置される6つ(半分の数)の分割コア片8の引き出し部5Dnの引き回し向きが逆向きに設定されている。このため、分割コア片8の案内溝15n内に収容されるコイル導線の数は最大6つに抑えられている。
【0047】
以上のようなこのステータの組み付け方法においては、一つ目の分割コア片8−1に対して、コイル導線5の巻回と、給電側の引き出し部5Duの引き回しと、中性点側の引き出し部5Dnの引き回しを行った後に、二つ目以降の分割コア片8−2,8−3…に対して、コイル導線5の巻回とともに、既にコイル導線5の巻回と引き回しを完了している分割片8−1等に跨る引き出し部5Dn(5Du,5Dv,5Dw)の引き回しを行うため、特別な部品の追加や煩雑な作業を要することなく、複数の分割コア片8の組み付けとコイル導線の引き回しを容易に、かつ確実に行うことができる。
【0048】
特に、この実施形態では、コイル導線5として平角線が用いられているため、コイル導線5を各分割コア片8上のコイル巻回部10aや案内溝15n,15u,15v,15w内に隙間なく効率良く配置することができるうえ、コイル導線5の引き出し部5Dn,5Du,5Dv,5Dwを案内溝15n,15u,15v,15wの内部から径方向外側に容易に、かつ正確に屈曲させることができる。
【0049】
さらに、この実施形態のように、コイル導線5の中性点側の引き出し部5Dnが、中性点側の案内溝15nの成す環状の溝上での引き回し長さが短くなる向きに引き回すようにした場合には、引き出し部5Dnの長さを短くすることができるうえ、案内溝15n内での引き出し部5Dnの重なり量を少なくすることができる。このため、案内溝15nの深さを浅くしてインシュレータ10の製造を容易化することができるとともに、ステータ1の円周上の重量バランスを良好にすることもできる。
【0050】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
5…コイル導線
5Du,5Dv,5Dw…引き出し部(給電側の引き出し部)
5Dn…引き出し部(中性点側の引き出し部)
8…分割コア片
10a…コイル巻回部
15u,15v,15w…案内溝(給電側の導線案内溝)
15n…案内溝(中性点側の導線案内溝)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分割コア片にそれぞれコイル導線を巻回し、前記複数の分割コア片を環状に組み付けるとともに、前記各分割コア片から引き出されたコイル導線の給電側の引き出し部を各相毎に一か所にまとめて引き出し、前記各分割コア片から引き出されたコイル導線の中性点側の引き出し部を一か所にまとめて引き出すステータの組み付け方法にであって、
前記各分割コア片のステータの径方向内側に相当する領域にコイル巻回部を設けるとともに、前記各分割コア片のステータの径方向外側に相当する領域に、前記ステータの組み付け完了時に環状の溝を成す各相毎の給電側の導線案内溝と、前記ステータの組み付け完了時に環状の溝を成す中性点側の導線案内溝と、を設け、
一つ目の分割コア片のコイル巻回部にコイル導線を巻回して、そのコイル導線の中性点側の引き出し部を同じ分割コア片上の中性点側の導線案内溝内から径方向外側に屈曲させて引き出すとともに、そのコイル導線の給電側の引き出し部を同じ分割コア片上の対応する相の給電側の導線案内溝内から径方向外側に屈曲させて引き出し、
二つ目以降の分割コイル片については、作業を行う分割コア片のコイル巻回部にコイル導線を巻回して、その分割コア片を、先にコイル導線の巻回と引き出しを完了している別の分割コイル片に隣接させて配置することを特徴とする回転電機のステータの組み付け方法。
【請求項2】
前記二つ目以降の分割コイル片に巻回したコイル導線の中性点側の引き出し部の引き回しについては、
当該作業を行う分割コア片に巻回したコイル導線の中性点側の引き出し部を、当該作業を行う分割コア片と一つ目の分割コア片間の中性点側の導線案内溝に沿わせて一つ目の分割コア片上の引き出し位置まで引き回し、その引き出し部を一つ目の分割コア片上の引き出し位置で、前記一つ目の分割コア片側のコイル導線の中性点側の引き出し部の屈曲引き出し部分に沿わせて径方向外側に屈曲させて引き出すことを特徴とする請求項1に記載の回転電機のステータの組み付け方法。
【請求項3】
前記ステータはn相のステータであり、
各相のコイル導線の給電側の引き出し部の引き出し位置は、前記一つ目の分割コア片から、当該一つ目の分割コア片から数えてn個目までの分割コア片のうちのいずれかの分割コア片上の対応する相の導線案内溝内に設定し、
前記二つ目以降の分割コイル片に巻回したコイル導線の給電側の引き出し部の引き回しについては、
当該作業を行う分割コア片に巻回したコイル導線の給電側の引き出し部を、前記n個目までの分割コア片のうちのいずれかの分割コア片上の前記引き出し位置までその間の導線案内溝に沿わせて引き回し、その引き出し部を、当該引き出し位置で径方向外側に屈曲させて引き出すことを特徴とする請求項2に記載の回転電機のステータの組み付け方法。
【請求項4】
各分割コア片に巻回したコイル導線の中性点側の引き出し部は、中性点側の導線案内溝の成す環状の溝上での引き回し長さが短くなる向きで中性点側の導線案内溝内を引き回すことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の回転電機のステータの組み付け方法。
【請求項5】
前記コイル導線は、平角線によって構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転電機のステータの組み付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−110889(P2013−110889A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255218(P2011−255218)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】