説明

回転電機のステータの製造方法

【課題】含浸材のコア軸方向への浸透性を向上させることにより、内径側コイル線をより確実に固定し得るようにした回転電機のステータの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のステータ20の製造方法は、ステータコア30に巻装されたステータコイル40のうちスロット31内で最内径側に位置する最内径コイル線41に、コア軸方向の一端側から他端側へ向かうにつれてコア径方向外方側へ傾斜する第1傾斜部42、及びコア軸方向の他端側から一端側へ向かうにつれてコア径方向外方側へ傾斜する第2傾斜部43の少なくとも一方の傾斜部を形成する傾斜部形成工程と、ステータコイル40が巻装されたステータコア30をその軸線が水平方向を向くように配置して前記軸線周りに回転させながらステータコア30の内周側から含浸材64を塗布する含浸材塗布工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両において電動機や発電機として使用される回転電機のステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転電機のステータとして、周方向に配列された複数のスロットを有する円環状のステータコアと、前記ステータコアの前記スロットに巻装されたステータコイルと、を備えたものが一般に知られている。このようなステータにおいては、ステータコイルの耐振動性を確保するために、例えばワニス等の含浸材でステータコイルをステータコアに固定するようにしている。
【0003】
例えば特許文献1には、ステータコアの軸方向端面から突出するステータコイルのコイルエンド部側から含浸材を滴下してスロット内に浸透させる方法が開示されている。また、特許文献2には、ステータコアの一部を変更してスロットを拡張した上で、ワークを丸ごと含浸材槽に浸漬して含浸材を含浸する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−109733号公報
【特許文献2】特開2006−262541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ステータコアの種類として、スロット内のコイルの占積率を向上させるために、ティース先端に周方向に突出する鍔部が設けられていないものがある。このようなステータコアにおいては、上記特許文献1に開示された方法を採用した場合に、ステータコイルの最内径側コイルをステータコアに確実に固定することができない。なぜなら、最内径側コイルの径方向内方側に鍔部が無いため含浸材の滞留する場所が無いからである。
【0006】
また、特許文献2に開示された方法の場合には、スロット拡張部の磁気抵抗が増加することにより性能が低下するという問題や、ワークを丸ごと浸漬する際に含浸材が付着してはいけない部分(例えばロータと干渉する恐れのあるステータコアの内周面や、ステータコアとケース部材との嵌合部あるいは締結面など)へ付着するという問題が発生する。
【0007】
そこで、スロット内で最内径側に位置するコイル線を確実に固定するために、ステータコイルが巻装されたステータコアをその軸線が水平方向を向くように配置し、軸線周りに回転させながらステータコアの内周側から含浸材を滴下してスロット内に浸透させるようにすることが考えられるが、その場合、以下の課題がある。
【0008】
即ち、スロットのコア径方向外方の奥端は、遠心力により含浸材を浸透させることが可能であるが、コア軸方向には含浸材が回りにくいため、内径側に近いコイル線ほど含浸材の濡れ面積が低下し、固着力が得られにくくなる。また、漏れ磁束によるローレンツ力は、内径側に近いコイル線ほど大きくなるため、内径側コイル線の固着力が低下すると、電磁振動により内径側コイル線がギャップにはみ出し、ロータと干渉する恐れがある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、含浸材のコア軸方向への浸透性を向上させることにより、内径側コイル線をより確実に固定し得るようにした回転電機のステータの製造方法を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、周方向に配列された複数のスロットを有する円環状のステータコアと、該ステータコアの前記スロットに巻装されたステータコイルと、を備え、前記ステータコアの内周側から塗布された含浸材により前記スロット内に配置された前記ステータコイルが固定されている回転電機のステータの製造方法であって、前記ステータコイルのうち前記スロット内で最内径側に位置する最内径コイル線に、コア軸方向の一端側から他端側へ向かうにつれてコア径方向外方側へ傾斜する第1傾斜部、及びコア軸方向の他端側から一端側へ向かうにつれてコア径方向外方側へ傾斜する第2傾斜部の少なくとも一方の傾斜部を形成する傾斜部形成工程と、前記ステータコイルが巻装された前記ステータコアをその軸線が水平方向を向くように配置して前記軸線周りに回転させながら前記ステータコアの内周側から含浸材を塗布する含浸材塗布工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、上記の傾斜部形成工程及び含浸材塗布工程を行うため、含浸材のコア軸方向への浸透性が向上し、最内径コイル線のより確実な固定が可能となった回転電機のステータを簡単に製造することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記含浸材塗布工程は、前記最内径コイル線のコア径方向内方側へ最も突出している凸部に対して前記含浸材を塗布することを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、最内径コイル線のコア径方向内方側へ最も突出している凸部に含浸材を塗布するようにしているため、最内径コイル線のコア軸方向広範囲に含浸材を確実に塗布することが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記含浸材塗布工程は、前記ステータコアの内周側に配置したノズルの含浸材吐出口をコア軸方向に揺動させながら含浸材を塗布することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、ノズルの含浸材吐出口をコア軸方向に揺動させながら含浸材を塗布するようにしているため、含浸材のコア軸方向への浸透性が向上し、最内径コイル線のコア軸方向全域に亘って含浸材をより確実に塗布することが可能となる。また、コア軸方向において含浸材の局所的な付着を抑制することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記傾斜部形成工程は、前記ステータコアの軸方向両端面からそれぞれ突出した前記ステータコイルの両コイルエンド部の内周側に、該コイルエンド部を拡径させるリング部材をそれぞれ挿入して、前記第1傾斜部及び前記第2傾斜部を形成することを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、ステータコイルの軸方向両端にある両コイルエンド部がリング部材により拡径されることから、最内径コイル線の軸方向中間部がコア径方向内方側へ突出した状態で第1傾斜部及び第2傾斜部を形成することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、前記傾斜部形成工程は、前記ステータコアの軸方向両端面からそれぞれ突出した前記ステータコイルの両コイルエンド部のうちの何れか一方のコイルエンド部の内周側に、該コイルエンド部を拡径させるリング部材を挿入して、前記第1傾斜部及び前記第2傾斜部の何れか一方の傾斜部を形成することを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、ステータコイルの軸方向両端にある両コイルエンド部のうち一方のコイルエンド部のみがリング部材により拡径されることから、最内径コイル線の軸方向の一端部又は他端部がコア径方向内方側へ突出した状態で第1傾斜部又は第2傾斜部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態1に係る製造方法により製造されたステータを搭載した回転電機の構成を模式的に示す軸方向断面図である。
【図2】実施形態1に係るステータの図であって、(a)はそのステータの平面図、(b)はそのステータを側方から見た正面図である。
【図3】実施形態1に係るステータコアの平面図である。
【図4】実施形態1に係る分割コアの平面図である。
【図5】実施形態1に係るステータコイルの斜視図である。
【図6】実施形態1に係るステータコイルを構成するコイル線の断面図である。
【図7】実施形態1に係るステータの製造方法を模式的に示す図であって、(a)はステータを軸方向に切断した断面図、(b)は(a)の要部を拡大した部分断面図である。
【図8】実施形態1に係るステータの製造方法を模式的に示す図であって、ステータの要部の部分斜視図である。
【図9】比較例1に係るステータの製造方法を模式的に示す図であって、図7(b)と対応した要部の部分断面図である。
【図10】実施形態2におけるステータの製造方法を模式的に示す図であって、(a)はステータを軸方向に切断した断面図、(b)は(a)の要部を拡大した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の回転電機のステータの製造方法の実施形態について図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0022】
〔実施形態1〕
図1は、本実施形態に係る製造方法により製造されたステータを搭載した回転電機1の構成を模式的に示す軸方向断面図である。図2は、実施形態1に係るステータの図であって、(a)はそのステータの平面図、(b)はそのステータを側方から見た正面図である。
【0023】
本実施形態の回転電機1は、略有底筒状の一対のハウジング部材10a,10bが開口部同士で接合されてなるハウジング10と、ハウジング10に軸受け11,12を介して回転自在に支承される回転軸13に固定されたロータ14と、ハウジング10の内部でロータ14を包囲する位置でハウジング10に固定されたステータ20と、を備えている。ロータ14は、ステータ20の内周側と向き合う外周側に、永久磁石により磁性の異なる複数の磁極を周方向に交互に形成している。ロータ14の磁極の数は、回転電機により異なるため限定されるものではない。本実施形態においては、8極(N極:4、S極:4)のロータが用いられている。ステータ20は、図2に示すように、複数の分割コア32によりなるステータコア30と、複数の導線から形成される三相のステータコイル40とを備えている。なお、ステータコア30とステータコイル40との間には、絶縁紙を配してもよい。
【0024】
次に、ステータコア30について図3及び図4を参照して説明する。図3は、実施形態1に係るステータコアの平面図である。図4は、実施形態1に係る分割コアの平面図である。ステータコア30は、図3及び図4に示すように、周方向に分割された複数(本実施形態では24個)の分割コア32により円環状に形成され、その内周側に周方向に配列された複数のスロット31を有する。このステータコア30は、外周側に位置する円環状のバックコア部33と、バックコア部33から径方向内方へ突出し周方向に所定距離を隔てて配列された複数のティース34とからなる。これにより、隣り合うティース34の周方向に対向する側面34a同士の間には、ステータコア30の内周側に開口し径方向に延びるスロット31が形成されている。隣り合うティース34の周方向に対向する側面34a、即ち、1つのスロット31を区画する一対の側面34aは、互いに平行な平行面となっている。これにより、各スロット31は、一定の周方向幅寸法で径方向に延びている。なお、ティース34の突出先端部の側面34aには、周方向に突出する鍔部は設けられていない。
【0025】
スロット31は、本実施形態ではステータコイル40が2倍スロットの分布巻きであるため、回転子の磁極数(8)に対し、ステータコイル40の一相あたり2個の割合で形成されている。つまり、8×3×2=48個のスロット31が形成されている。この場合、48個のスロット31は、スロット31と同数の48個のティース34により形成されている。
【0026】
なお、ステータコア30を構成する分割コア32は、プレス打ち抜き加工により所定形状に形成された複数の電磁鋼板をステータコア30の軸方向に積層して形成されている。また、ステータコア30は、円環状に配置された分割コア32の外周に外筒37が嵌合されることにより円環状に固定(保形)されている(図2(a)参照)。
【0027】
ステータコイル40は、図5に示すように、所定の波形形状に成形した所定数(本実施形態では12本)の導線(コイル線)45を所定の状態に積み重ねて帯状の導線集積体を形成し、その導線集積体を渦巻き状に巻き付けることにより円筒状に形成されている。ステータコイル40を構成する導線45は、ステータコア30のスロット31に設置されるスロット収容部46と、周方向の異なるスロット31に収容されているスロット収容部46同士をスロット31の外部で接続しているターン部47とを有する波形形状に形成されている。この導線45は、図6に示すように、矩形断面の銅製の導体48と、内層49a及び外層49bを有し導体48の外周を被覆する絶縁皮膜49とからなる絶縁被覆平角線が採用されている。内層49a及び外層49bを合わせた絶縁皮膜49の厚みは、100μm〜200μmの範囲に設定されている。
【0028】
このステータコイル40は、次のようにしてステータコア30と組み付けられている。即ち、ステータコイル40に対して、外周側から各分割コア32のティース34を挿入して、全ての分割コア32をステータコイル40に沿って円環状に配置した後、分割コア32の外周に円筒状の外筒37を嵌合する。これにより、ステータコイル40は、図2に示すように、各導線45の所定のスロット収容部46がステータコア30の所定のスロット31内に収容された状態に組付けられる。
【0029】
この場合、各導線45のスロット収容部46は、所定のスロット数(本実施形態では3相×2個(倍スロット)=6個)ごとのスロット31に収容されている。そして、それぞれのスロット31には、所定数(本実施形態では10本)のコイル線(導線45のスロット収容部46)がコア径方向に1列に整列した状態で配置されている。また、導線45の隣り合うスロット収容部46同士を接続しているターン部47は、ステータコア30の軸方向の両端面30aからそれぞれ突出し、その突出している多数のターン部47により、ステータコイル40の軸方向両端部にコイルエンド部40a,40bが形成されている(図2(b)参照)。
【0030】
その後、ステータコア30に組付けられたステータコイル40の耐振動性を確保するために、含浸材を塗布してステータコイル40をステータコア30に固定する作業を行う。本実施形態では、含浸材塗布工程を行う前に、先ず、ステータコイル40のうちスロット31内で最内径側に位置する最内径コイル線41に、第1傾斜部42と第2傾斜部43とを形成する傾斜部形成工程を行う。この場合、傾斜部形成工程は、ステータコア30の軸方向両端面からそれぞれ突出したステータコイル40の両コイルエンド部40a,40bの内周側にリング部材61a,61bをそれぞれ挿入して、コイルエンド部40a,40bを拡径させる(図7(a)参照。)。これにより、ステータコイル40のうちスロット31内で最内径側に位置する最内径コイル線41に、コア軸方向の一端側(図7(a)の左側)から他端側(図7(a)の右側)へ向かうにつれてコア径方向外方側へ傾斜する第1傾斜部42と、コア軸方向の他端側から一端側へ向かうにつれてコア径方向外方側へ傾斜する第2傾斜部43が形成される。第1傾斜部42と第2傾斜部43は、最内径コイル線41のコア軸方向の中間部(略中央部)で交差しており、その交差部がコア径方向内方側へ最も突出した凸部44となっている。
【0031】
なお、リング部材61a,61bにより最内径コイル線41の第1及び第2傾斜部42,43が形成される際には、スロット31内の内径側から2〜4本目のコイル線にも、最内径コイル線41の第1及び第2傾斜部42,43と同様の傾斜部が形成される。但し、内径側から2〜4本目のコイル線は、内径側から遠ざかるコイル線ほど傾斜部の傾斜角度が小さくなっている。
【0032】
次に、図7(a)に示すように、第1及び第2傾斜部42,43が形成された状態のステータコア30を、その軸線Lが水平方向を向くようにして回転装置の保持部62に保持させる。そして、回転装置によりステータコア30を軸線L周りに回転させながら、ステータコア30の内周側に配置したノズル63の含浸材吐出口からステータコア30の内周面の軸方向略中央部(最内径コイル線41の凸部44)に向けて含浸材64を滴下する。
【0033】
滴下された含浸材64は、図7(b)及び図8に示すように、ステータコア30の内周面からスロット31内に進入し、スロット31内で最内径側に位置する最内径コイル線41の凸部44に到達する。凸部44に到達した含浸材64は、第1傾斜部42及び第2傾斜部43を伝ってコア軸方向の中央部から両側へ流動し、最内径コイル線41のコア軸方向広範囲に塗布される。このとき、最内径コイル線41に塗布された含浸材64は、ステータコア30の回転に伴う遠心力の作用により、スロット31の径方向外方の奥へと浸透する。これにより、スロット31内のコア軸方向略全域に亘って含浸材64が浸透する。
【0034】
その後、スロット31内に浸透した含浸材64が固化することによって、スロット31内のステータコイル40(スロット収容部46)がステータコア30に固定され、耐振動性が確保される。特に、本実施形態では、最内径コイル線41に設けられた第1及び第2傾斜部42,43により、含浸材64が最内径コイル線41の両端部にまで流動しているので、最内径コイル線41が強固に且つ確実に固定されている。
【0035】
なお、比較例1として図9に示すように、最内径コイル線41に第1及び第2傾斜部42,43が設けられていない場合には、ステータコア30の内周側に配置したノズル63の含浸材吐出口からステータコア30の内周面の軸方向略中央部に向けて滴下された含浸材64は、最内径コイル線41のコア軸方向の両端部にまで流動することなく、スロット31の径方向外方の奥へと浸透する。そのため、固化した含浸材64による最内径コイル線41の固定を確実に行うことが困難となる。
【0036】
以上のように構成された本実施形態の回転電機1のステータ20によれば、スロット31内で最内径側に位置する最内径コイル線41に第1傾斜部42及び第2傾斜部43が設けられているので、ステータコア30の内周側から含浸材64が塗布された際に、含浸材64を最内径コイル線41のコア軸方向の広範囲に塗布することができる。これにより、含浸材64のコア軸方向への浸透性を向上させることができるので、含浸材64による最内径コイル線41の固定をより確実にすることができる。
【0037】
また、本実施形態では、最内径コイル線41は、第1傾斜部42と第2傾斜部43が交差するコア軸方向の略中央部に、コア径方向内方側へ突出する凸部44を有する。そのため、最内径コイル線41の凸部44に向けて含浸材64を塗布することによって、含浸材64をコア軸方向の両端部に流動させることができるので、最内径コイル線41のコア軸方向全域に含浸材64を塗布することができる。これにより、含浸材64のコア軸方向への浸透性をより一層向上させることができるので、最内径コイル線41をより一層確実に固定することができる。
【0038】
また、本実施形態のステータコイル40は、延伸方向と直角な方向の断面形状が矩形の平角コイル線(導線45)により形成され、スロット31内において平角コイル線(導線45)がコア径方向に1列に配置されているので、スロット31内におけるコイル線(導線)の占積率を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態のステータ20の製造方法によれば、上記のような傾斜部形成工程及び含浸材塗布工程を行うため、含浸材64のコア軸方向への浸透性が向上し、最内径コイル線41のより確実な固定が可能となったステータ20を簡単に製造することができる。
【0040】
また、含浸材塗布工程は、最内径コイル線41のコア径方向内方側へ最も突出している凸部44に対して含浸材64を塗布するようにしているため、最内径コイル線41のコア軸方向広範囲に含浸材64を確実に塗布することができる。
【0041】
また、傾斜部形成工程は、ステータコイル40の両コイルエンド部40a,40bの内周側にリング部材61a,61bをそれぞれ挿入して、コイルエンド部40a,40bを拡径させることにより第1傾斜部42及び第2傾斜部43を形成するようにしている。そのため、最内径コイル線41の軸方向中間部がコア径方向内方側へ突出した状態で第1傾斜部42及び第2傾斜部43を形成することができる。
【0042】
〔実施形態2〕
図10は、実施形態2におけるステータの製造方法を模式的に示す図であって、(a)はステータを軸方向に切断した断面図、(b)は(a)の要部を拡大した部分断面図である。実施形態2のステータ20は、上記の実施形態1では、最内径コイル線41が、第1傾斜部42及び第2傾斜部43を有し、コア軸方向の中間部がコア径方向内方側へ最も突出しているものであるのに対して、最内径コイル線41Aが、コア軸方向の一端側(図10(a)の左側)から他端側(図10(a)の右側)へ向かうにつれてコア径方向外方側へ傾斜する第1傾斜部42Aのみを有し、コア軸方向の一端部がコア径方向内方側へ最も突出している点でのみ、実施形態1と異なる。よって、実施形態1と共通する部材については、同じ符号を付して詳しい説明を省略し、以下、異なる点を説明する。
【0043】
本実施形態の第1傾斜部42Aは、図10(a)に示すように、ステータコイル40の両コイルエンド部40a,40bのうちの一方のコイルエンド部40aの内周側にリング部材61aを挿入して、コイルエンド部40aを拡径させることにより形成されている。これにより、最内径コイル線41Aの全長に亘って、コア軸方向の一端側(図10(a)の左側)から他端側(図10(a)の右側)へ向かうにつれてコア径方向外方側へ傾斜する第1傾斜部42Aが形成される。本実施形態の場合には、最内径コイル線41Aのコア軸方向の一端部がコア径方向内方側へ最も突出した凸部44Aとなっている。
【0044】
なお、リング部材61aにより最内径コイル線41Aの第1傾斜部42Aが形成される際には、スロット31内の内径側から2〜4本目のコイル線にも、最内径コイル線41Aの第1傾斜部42Aと同様の傾斜部が形成される。但し、内径側から2〜4本目のコイル線は、内径側から遠ざかるコイル線ほど傾斜部の傾斜角度が小さくなっている。
【0045】
そして、本実施形態では、図10(a)に示すように、リング部材61aにより第1傾斜部42Aが形成された状態のステータコア30を、その軸線Lが水平方向を向くようにして回転装置の保持部62に保持させる。次いで、回転装置によりステータコア30を軸線L周りに回転させながら、ステータコア30の内周側に配置したノズル63の含浸材吐出口からステータコア30の内周面の軸方向の一端部(最内径コイル線41Aの凸部44A)に向けて含浸材64を滴下する。
【0046】
滴下された含浸材64は、図10(b)に示すように、ステータコア30の内周面からスロット31内に進入し、スロット31内で最内径側に位置する最内径コイル線41Aの凸部44Aに到達する。凸部44Aに到達した含浸材64は、第1傾斜部42Aを伝ってコア軸方向の一端部から他端側へ流動し、最内径コイル線41Aのコア軸方向広範囲に塗布される。このとき、最内径コイル線41Aに塗布された含浸材64は、ステータコア30の回転に伴う遠心力の作用により、スロット31の径方向外方の奥へと浸透する。これにより、スロット31内のコア軸方向略全域に亘って含浸材64が浸透する。
【0047】
その後、スロット31内に浸透した含浸材64が固化することによって、スロット31内のステータコイル40(スロット収容部46)がステータコア30に固定され、耐振動性が確保される。本実施形態の場合にも、最内径コイル線41Aに設けられた第1傾斜部42Aにより、含浸材64が最内径コイル線41Aの一端部から他端部にまで流動しているので、最内径コイル線41Aが強固に且つ確実に固定される。
【0048】
以上のように構成された本実施形態のステータ20によれば、スロット31内で最内径側に位置する最内径コイル線41Aに、コア軸方向の一端部から他端部まで連続した第1傾斜部42Aが設けられているので、ステータコア30の内周側から含浸材64が塗布された際に、実施形態1の場合と同様に、含浸材64を最内径コイル線41のコア軸方向の広範囲に塗布することができる。これにより、含浸材64のコア軸方向への浸透性を向上させることができるので、含浸材64による最内径コイル線41の固定をより確実にすることができる。
【0049】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
【0050】
例えば、上記実施形態1,2では、ステータコイル40が巻装されたステータコア30を回転装置の保持部62に保持させる前に、ステータコイル40のコイルエンド部40a,40bの内周側にリング部材61a,61bを挿入して、最内径コイル線41,41Aに第1及び第2傾斜部42,42A,43を形成するようにしていたが、ステータコイル40が巻装されたステータコア30を回転装置の保持部62に保持させた後、含浸材64を塗布する前に、ステータコイル40のコイルエンド部40a,40bの内周側にリング部材61a,61bを挿入して、最内径コイル線41,41Aに第1及び第2傾斜部42,42A,43を形成するようにしてもよい。
【0051】
また、上記実施形態1,2では、含浸材64を塗布する際に、最内径コイル線41,41Aのコア径方向内方側へ最も突出している凸部44,44Aに対して含浸材64を塗布するようにしていたが、ステータコア30の内周側に配置したノズル63の含浸材吐出口をコア軸方向に揺動させながら含浸材64を塗布するようにしてもよい。このようにすれば、含浸材64のコア軸方向への浸透性が向上し、最内径コイル線41,41Aのコア軸方向全域に亘って含浸材64をより確実に塗布することができる。また、コア軸方向において含浸材64の局所的な付着を抑制することができる。なお、これらの効果は、最内径コイル線41,41Aに設けられる第1及び第2傾斜部42,42A,43の傾斜角度を十分に大きく設定できない場合に特に有効となる。
【符号の説明】
【0052】
1…回転電機、 10…ハウジング、 11,12…軸受け、 13…回転軸、 14…ロータ、 20…ステータ、 30…ステータコア、 31…スロット、 32…分割コア、 33…バックコア部、 34…ティース、 37…外筒、 40…ステータコイル、 40a,40b…コイルエンド部、 41,41A…最内径コイル線、 42,42A…第1傾斜部、 43…第2傾斜部、 44,44A…凸部、 45…導線、 61a,61b…リング部材、 62…保持部、 63…ノズル、 64…含浸材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に配列された複数のスロットを有する円環状のステータコアと、該ステータコアの前記スロットに巻装されたステータコイルと、を備え、前記ステータコアの内周側から塗布された含浸材により前記スロット内に配置された前記ステータコイルが固定されている回転電機のステータの製造方法であって、
前記ステータコイルのうち前記スロット内で最内径側に位置する最内径コイル線に、コア軸方向の一端側から他端側へ向かうにつれてコア径方向外方側へ傾斜する第1傾斜部、及びコア軸方向の他端側から一端側へ向かうにつれてコア径方向外方側へ傾斜する第2傾斜部の少なくとも一方の傾斜部を形成する傾斜部形成工程と、
前記ステータコイルが巻装された前記ステータコアをその軸線が水平方向を向くように配置して前記軸線周りに回転させながら前記ステータコアの内周側から含浸材を塗布する含浸材塗布工程と、
を有することを特徴とする回転電機のステータの製造方法。
【請求項2】
前記含浸材塗布工程は、前記最内径コイル線のコア径方向内方側へ最も突出している凸部に対して前記含浸材を塗布することを特徴とする請求項1に記載の回転電機のステータの製造方法。
【請求項3】
前記含浸材塗布工程は、前記ステータコアの内周側に配置したノズルの含浸材吐出口をコア軸方向に揺動させながら含浸材を塗布することを特徴とする請求項1又は2に記載の回転電機のステータの製造方法。
【請求項4】
前記傾斜部形成工程は、前記ステータコアの軸方向両端面からそれぞれ突出した前記ステータコイルの両コイルエンド部の内周側に、該コイルエンド部を拡径させるリング部材をそれぞれ挿入して、前記第1傾斜部及び前記第2傾斜部を形成することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の回転電機のステータの製造方法。
【請求項5】
前記傾斜部形成工程は、前記ステータコアの軸方向両端面からそれぞれ突出した前記ステータコイルの両コイルエンド部のうちの何れか一方のコイルエンド部の内周側に、該コイルエンド部を拡径させるリング部材を挿入して、前記第1傾斜部及び前記第2傾斜部の何れか一方の傾斜部を形成することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の回転電機のステータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−94056(P2013−94056A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−281282(P2012−281282)
【出願日】平成24年12月25日(2012.12.25)
【分割の表示】特願2010−176375(P2010−176375)の分割
【原出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】