説明

回転電機制御システム

【課題】回転電機において、コイルおよび永久磁石の過熱を防止する制御を行うことである。
【解決手段】回転電機制御システム10は、電源回路12と、回転電機14と、電源回路12に含まれるインバータ24の作動を制御するインバータECU40と、これらの各構成要素の作動を全体として制御する制御部50を含んで構成される。制御部50に接続される記憶部44には、コイル温度TCと磁石温度TMとの間の温度差に関する温度差マップ46と、キャリア周波数fと制限開始温度T0に関する制限開始温度マップ48が記憶され、制御部50は、これらのマップを用いて、キャリア周波数fとコイル温度TCとに基き、回転電機14の出力制限を行う出力制限モジュール52を含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機制御システムに係り、特に、インバータによって作動し、磁石とコイルとを有する回転電機について、回転電機のコイル温度によって出力制限を行う回転電機制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
コイルに流される駆動電流と永久磁石との間の電磁変換に基いて作動する永久磁石型の回転電機では、コイルに流される駆動電流が大きくなるにつれ、コイルの発熱が多くなる。これによって回転電機の温度上昇が生じるので、コイルの焼損、永久磁石の減磁等を防止または抑制するため、回転電機の過熱防止として、トルク制限等が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、永久磁石式モータである同期機の永久磁石の不可逆減磁とコイル焼損を防止する制御装置として、従来の方法である電機子鎖交磁束あるいは誘起電圧から磁石温度を推定する場合にはその関係式に含まれるコイル抵抗、d軸インダクタンスが温度依存性を有するので精度に限界があることを指摘している。そして、電機子鎖交磁束の高次成分はコイル抵抗、d軸インダクタンスに依存しないことを導き、電機子鎖交磁束の高次成分と磁石温度の関係を用いることで、磁石温度を推定して同期機の出力を調整して不可逆減磁を防止し、また、誘起電圧からコイル温度を推定してコイル焼損を防止することが述べられている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−235286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転電機の過熱防止として、回転電機の温度を検出するのに便利なのはコイルの温度検出である。したがって、コイルの温度検出に応じた回転電機のトルク制限等によって、回転電機の過熱防止を行うことができる。
【0006】
ここで、回転電機の作用制御にインバータ回路技術が広く用いられている。例えば、キャリア周波数と制御目標信号とを用いてPWM(Pulse Wide Modulation)技術を用いて回転電機の駆動制御が行われている。このとき、インバータの過熱防止、回転電機を用いるシステムの損失抑制あるいは燃費向上等の観点からキャリア周波数を低減することが要求されることがある。このキャリア周波数を下げると、インバータの出力電流におけるリップル成分が増加し、これによって鉄損が増加することが生じる。
【0007】
このように、インバータのキャリア周波数を低減すると、回転電機において鉄損が増加し、これにより、永久磁石自体の温度が上昇することが生じる。場合によっては、コイルの温度よりも、永久磁石の温度の方が高温となることも生じえる。そこで、コイル温度とは別に、永久磁石の温度を検出することも考えられるが、永久磁石にセンサ等を設けると、磁気特性が変化することがある。
【0008】
したがって、従来技術のようにコイル温度の監視のみで回転電機の出力制限を行う方法では、コイル温度以上に永久磁石の温度が上昇してもその検出が行うことができないので、永久磁石が過熱し、磁力低下、減磁を生じることがある。
【0009】
本発明の目的は、コイル温度の監視のみでコイルおよび永久磁石の過熱を防止できる回転電機制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る回転電機制御システムは、予め定められたキャリア周波数で作動するインバータと、インバータによって作動し、磁石とコイルとを有する回転電機と、回転電機のコイル温度を取得するコイル温度取得手段と、キャリア周波数とコイル温度とに基いて磁石温度を取得し、コイル温度と磁石温度とに基いて回転電機の出力制限を行う出力制限部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る回転電機制御システムにおいて、キャリア周波数と、回転電機のトルクとに関連づけて、コイル温度と磁石温度との差である温度差を記憶する温度差記憶部と、回転電機の作動条件であるキャリア周波数とトルクとを検索キーとして温度差記憶部から温度差を検索し、検索された温度差とコイル温度とに基いて磁石温度を推定する手段と、推定された磁石温度と取得されたコイル温度とを比較して高い方の温度を抽出する比較手段と、を備え、出力制限部は、比較手段によって高い方とされた温度に基いて回転電機の出力制限を行うことが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る回転電機制御システムにおいて、予め求められたキャリア周波数とコイル温度と磁石温度との関係に基いて、キャリア周波数に関連づけられた回転電機の出力制限を開始する温度を記憶する制限開始温度記憶部を備え、出力制限部は、キャリア周波数に応じて、回転電機の出力制限を開始する温度を変更することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成により、回転電機制御システムは、キャリア周波数とコイル温度とに基き磁石温度を取得し、コイル温度のほかに磁石温度を考慮して回転電機の出力制限を行う。このように、回転電機の出力制限にコイル温度の他にキャリア周波数の影響を考慮することで、コイルと磁石の過熱を防止することができる。
【0014】
また、回転電機制御システムにおいて、キャリア周波数と、回転電機のトルクとに関連づけて、コイル温度と磁石温度との差である温度差を記憶し、この温度差とコイル温度とに基いて磁石温度を推定し、推定された磁石温度と取得されたコイル温度とを比較して高い方の温度を抽出して、高い方とされた温度に基いて回転電機の出力制限を行う。これによって、コイルと磁石の過熱を防止することができる。
【0015】
また、回転電機制御システムにおいて、予め求められたキャリア周波数とコイル温度と磁石温度との関係に基いて、キャリア周波数に関連づけられた回転電機の出力制限を開始する温度を記憶し、キャリア周波数に応じて、回転電機の出力制限を開始する温度を変更する。これによって、コイルと磁石の過熱を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、電源回路に接続される回転電機として、モータ機能と発電機機能とを有するモータ・ジェネレータを1台用いるものとして説明するが、これを2台のモータ・ジェネレータを用いるものとしてもよい。その場合に、モータ機能のみを有する回転電機を1台、発電機機能のみを有する回転電機を1台用いるものとしてもよい。
【0017】
回転電機に接続される電源回路の構成として、蓄電装置、電圧変換器、平滑コンデンサ、インバータを用いるものとして説明するが、必要に応じ、これ以外の要素を付加するものとしてもよい。例えば、システムメインリレー、DC/DCコンバータ、低電圧電源等を有する構成としてもよい。
【0018】
以下で述べるキャリア周波数、トルク、コイル温度と磁石温度との間の温度差等の数値は説明のための例示であり、回転電機の仕様等に応じ、適宜変更が可能である。例えば、以下ではキャリア周波数として、代表的に5kHzと1kHzとを用いて説明するが、勿論、これ以外の周波数であってもよい。
【0019】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0020】
図1は、回転電機を搭載するハイブリッド車両の作動制御を行うハイブリッド車両制御システムのうち、回転電機の制御に関わる部分を抜き出して、回転電機制御システム10として示す図である。この回転電機制御システム10は、車両の走行に関連して、アクセル等によって与えられる要求トルクに従って回転電機を作動制御する機能を有するが、ここでは特に、回転電機の過熱防止に関わる作動制御を行う機能を有する。
【0021】
この回転電機制御システム10は、電源回路12と、回転電機14と、電源回路12に含まれるインバータ24の作動を制御するインバータECU(Electric Control Unit)40と、これらの各構成要素の作動を全体として制御する制御部50を含んで構成される。
【0022】
電源回路12は、蓄電装置16と、蓄電装置側平滑コンデンサ18と、電圧変換器20と、インバータ側平滑コンデンサ22と、インバータ24とを含んで構成される。
【0023】
蓄電装置16は充放電可能な高電圧用2次電池である。蓄電装置16としては、例えば、約200Vの端子電圧を有するリチウムイオン組電池あるいはニッケル水素組電池、またはキャパシタ等を用いることができる。
【0024】
電圧変換器20は、蓄電装置16とインバータ24の間に配置され、電圧変換機能を有する回路である。電圧変換器20としては、リアクトルと、制御部50の制御の下で作動するスイッチング素子等を含んで構成することができる。電圧変換機能としては、蓄電装置側の電圧をリアクトルのエネルギ蓄積作用を利用して昇圧しインバータ側に供給する昇圧機能と、インバータ側からの電力を蓄電装置側に降圧して充電電力として供給する降圧機能とを有する。なお、電圧変換器等の昇圧機能を有しない場合であっても、本発明を適用することができる。
【0025】
蓄電装置16と電圧変換器20との間に設けられる蓄電装置側平滑コンデンサ18と、
電圧変換器20とインバータ24との間に設けられるインバータ側平滑コンデンサ22は、電圧、電流の変動を抑制し平滑化する機能を有するコンデンサである。
【0026】
インバータ24は、交流電力と直流電力との間の電力変換を行う回路である。インバータ24は、制御部50の制御の下で作動する複数のスイッチング素子を含んで構成される。図1では、回転電機14の三相のコイル30のそれぞれに対応して、スイッチング素子とダイオードが並列に接続された上アームと呼ばれる部分と、同様にスイッチング素子とダイオードが並列に接続された下アームと呼ばれる部分が直列に接続された回路が3組並列に接続された構成としてインバータ24が示されている。
【0027】
インバータ24は、インバータECU40の下で作動制御される。図1の例では6つのスイッチング素子に対するそれぞれのスイッチング信号と、キャリア周波数fがインバータECU40から与えられ、これによって、所望の三相出力電流が回転電機14に対する三相駆動電流として出力される。
【0028】
インバータ24は、交流−直流変換も、直流−交流変換も行うことができる。回転電機14を発電機として機能させるとき、インバータ24は、回転電機14からの交流三相回生電力を直流電力に変換し、蓄電装置側に充電電流として供給する交直変換機能を有する。また、回転電機14をモータとして機能させる場合において、車両が力行のとき、インバータ24は、蓄電装置側からの直流電力を交流三相駆動電力に変換し、回転電機14に駆動電力として供給する直交変換機能を有し、また、車両が制動のとき、逆に回転電機14からの交流三相回生電力を直流電力に変換し、蓄電装置側に充電電流として供給する交直変換機能を有する。
【0029】
回転電機14は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(MG)であって、電源回路12から電力が供給されるときはモータとして機能し、図示されていないエンジンによる駆動時、あるいは車両の制動時には発電機として機能する三相同期型回転電機である。勿論、これ以外に、例えば単相同期型回転電機であっても、本発明を適用することができる。
【0030】
回転電機14は、三相コイルが巻回されるステータと、永久磁石を有するロータとを含んで構成される。例えば、モータとして機能するときは、インバータ24から出力される三相駆動電流の各相電流がステータの三相コイルの各相コイル30にそれぞれ供給され、ステータに回転磁界を生成する。この回転磁界と永久磁石との協働作用によって、永久磁石、すなわちロータに回転トルクが発生し、ロータの出力軸から車両の車軸に対し、所望のトルクTqが出力される。
【0031】
このとき、コイル30には、コイル温度TCを検出するためのコイル温度計が設けられる。コイル温度計は、例えばサーミスタのような温度センサを用いることができる。コイル温度計は、複数のコイルの中で、代表的な1つのコイルのみに設けるものしてもよく、あるいは、2以上のコイルにそれぞれ設けるものとしてもよい。
【0032】
インバータECU40は、インバータ24の作動制御を行う機能を有する制御装置で、実質的には回転電機14の作動制御を行うことができる。インバータECU40は、まず、制御部50から、回転電機14のトルクTqについての指令と回転数Nについての指令を受け取る。そして、つぎに、予め設定されるキャリア周波数fの下で、このトルクTqと回転数Nで回転電機14が作動する三相駆動電流をインバータ24が出力するように、インバータ24の6つのスイッチング素子に対するスイッチング信号を生成する。このようにして、インバータECU40は、インバータ24の作動制御を行う。
【0033】
ここで、インバータECU40において設定されるキャリア周波数fは、インバータ24の過熱防止、回転電機14を用いるハイブリッド車両の燃費向上等の観点から、できれば低い周波数が好ましい。しかしながら、キャリア周波数fを低い周波数に設定すると、それに応じて、インバータ24から出力される駆動電流Iに重畳するリップル成分が増加する。そしてこれによって、回転電機14の作動における鉄損が増加し、磁石の温度が上昇することが生じる。
【0034】
図2、図3を用いて、キャリア周波数fに対するコイル温度TCと磁石温度TMの関係の様子を説明する。図2は、回転電機14のコイルと磁石に関連する構造の例と、キャリア周波数fを変更したときの駆動電流Iに重畳するリップル成分の様子を定性的に説明する図である。図3は、キャリア周波数fを変更したときのコイル温度TCと磁石温度TMの関係を定性的に説明する図である。
【0035】
図2は例示であるが、上段はキャリア周波数f=5kHzの様子を示し、下段は、キャリア周波数fを低減して、f=1kHzとしたときの様子を示す図である。各段の図において、右側の図は、回転電機14の軸方向に垂直な面内の断面図である。ここで示されるように、回転電機14は、円筒状のステータ26に三相コイルの各相コイル30が巻回されている。そして、円筒状のステータ26の内周側空間にロータ28が配置される。ロータ28の外周には磁石32が配置される。
【0036】
上記のように、三相コイルの各相コイル30には、インバータ24から各相駆動電流Iが供給され、これによって、ステータ26に矢印で示すような回転磁界が生成される。この回転磁界とロータ28の磁石32との電磁協働作用によって、ロータ28は、矢印で示される回転トルクを発生し、これが回転電機14の出力軸からトルクTqとして出力されることになる。
【0037】
インバータ24から出力される駆動電流Iの波形の様子が各段の図において、左側に示されている。図2の各段の左側の図には、インバータ24におけるキャリア周波数fが低くなると、高い周波数の場合に比べ、リップル成分の振幅が増加する様子が示される。そして、このリップル成分の増加に伴って、磁石32の温度が上昇する。そこで、図2の各段の右側にそれぞれ示されているように、キャリア周波数fが高いときは、コイル温度TCが磁石温度TMより高くても、キャリア周波数fが低くなると、コイル温度TCよりも磁石温度TMが高くなることが生じる。
【0038】
図3は、回転電機14のトルクTqに対するコイル温度TCと磁石温度TMの変化の様子を、キャリア周波数fが高い場合と低い場合について示す図である。これらの図に示されるように、コイル温度TCも磁石温度TMも回転電機14のトルクTqが増加するに連れて上昇する。そして、図3の左側の図に示されるように、キャリア周波数fが高いときは、コイル温度TCが磁石温度TMより高い。これに対し、図3の右側の図に示されるように、キャリア周波数fが低くなると、コイル温度TCよりも磁石温度TMが高くなる。
【0039】
このように、キャリア周波数fの変更に伴って、コイル温度TCと磁石温度TMとは相互に異なった挙動を示す。したがって、コイル30の温度を検出するだけでは、磁石32の温度上昇を見逃し、回転電機14の過熱が防止できないことが生じえることになる。
【0040】
再び図1に戻り、制御部50に接続されるアクセル42は、ハイブリッド車両の走行において、ユーザからの加速等の要求を取得する手段である。具体的には、アクセル踏み度を検出する手段によって、ユーザのアクセル踏み度を取得し、これを制御部50に適当な信号線で伝送することで、制御部50はユーザの要求トルクの程度を取得できる。このユーザの要求トルクに基いて、制御部50は、回転電機14のトルクTqに対する指令をインバータECU40に出力することになる。
【0041】
制御部50に接続される記憶部44は、プログラム等を格納する機能を有するが、ここでは特に、回転電機14の作動制御に用いられるマップを記憶する機能を有する。記憶されるマップの1つは、コイル温度TCと磁石温度TMとの間の温度差に関する温度差マップ46である。もう1つのマップは、キャリア周波数fと回転電機14の出力の制限開始温度T0に関する制限開始温度マップ48である。
【0042】
温度差マップ46は、予め図3に示されるような関係を求めておき、これをマップ化したものである。温度差マップ46は、キャリア周波数fと、回転電機14のトルクTqとに関連づけて、コイル温度TCと磁石温度TMとの差である温度差ΔT=TM−TCを記憶する。温度差マップ46は、キャリア周波数fと回転電機14のトルクTqとを検索キーとして、温度差ΔTを検索できるものであればよく、マップ形式のほか、キャリア周波数fとトルクTqと温度差ΔTとの関係をテーブル化したルックアップテーブル形式でもよく、あるいは、キャリア周波数fと回転電機14のトルクTqとを入力することで温度差ΔTを出力する関係式の形式であってもよい。
【0043】
制限開始温度マップ48は、キャリア周波数fに関連づけて、回転電機14の出力制限を開始する制限開始温度T0を記憶する。制限開始温度T0とは、それ以下の温度であれば、回転電機14が出力するトルクTqを予め定めた最大許容トルクとし、これを超える温度のときは、超えた温度に応じて、最大許容トルクから次第に低いトルクに回転電機14が出力するトルクTqを制限する温度である。つまり、制限開始温度T0を超えると、回転電機14が出力できるトルクTqの上限が小さく制限される。具体的には、インバータ24の出力する三相駆動電流の大きさが制限される。これによって、回転電機14の過熱が防止されることになる。
【0044】
制限開始温度T0は、回転電機14の特性と、図3のデータとに基いて予め求めることができる。すなわち、キャリア周波数fが高く、コイル温度TCで回転電機14の最高温度が定まる場合には、従来から用いられているコイル温度TCの許容限度温度を制限開始温度T0とすることができる。キャリア周波数fが低く、磁石温度TMで回転電機14の最高温度が定まる場合には、従来から用いられているコイル温度TCの許容限度温度に代えて、コイル温度TCと磁石温度TMとの差である温度差ΔT=TM−TCに相当する分、制限開始温度T0を低くするものとする。このようにして、キャリア周波数fごとに予め制限開始温度T0を求めることができる。
【0045】
制限開始温度マップ48は、キャリア周波数fを検索キーとして、制限開始温度T0を検索できるものであればよく、マップ形式のほか、キャリア周波数fと制限開始温度T0との関係をテーブル化したルックアップテーブル形式でもよく、あるいは、キャリア周波数fを入力することで制限開始温度T0を出力する関係式の形式であってもよい。
【0046】
図1において、制御部50は、ハイブリッド車両を構成する各要素の動作を全体として制御する機能を有する統括ECUである。制御部50は、車両の走行に関連して、アクセル42によって与えられる要求トルクに従って回転電機14を作動制御する機能を有するが、ここでは特に、回転電機14の過熱防止に関わる作動制御を行う機能を有する。かかる制御部50は、車両の搭載に適したコンピュータ等で構成することができる。なお、インバータECU40の機能を制御部50の機能の一部としてもよく、記憶部44を制御部50に内蔵する構成としてもよい。
【0047】
制御部50は、キャリア周波数fとコイル温度TCとに基き、回転電機14の出力制限を行う出力制限モジュール52を含んで構成される。また、出力制限モジュール52が実行する機能の1つのために、キャリア周波数fと回転電機14のトルクTqとを検索キーとして温度差マップ46から温度差ΔTを検索し、検索された温度差ΔTとコイル温度TCとに基いて磁石温度TMを推定する磁石温度推定モジュール54を含んで構成される。
【0048】
かかる機能は、ソフトウェアによって実現でき、具体的には、ハイブリッド車両制御プログラムの中の回転電機制御プログラムを実行することで実現できる。かかる機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0049】
制御部50の出力制限モジュール52が実行する機能として2種類あり、いずれを実行しても回転電機14の過熱を効果的に防止できる。以下では、1つ目の機能として、予め記憶部44に記憶されている温度差ΔT=TM−TCに基いて磁石温度TMを推定し、それに基いて回転電機14の出力制限を行うことを先に説明し、ついで、2つ目の機能として、キャリア周波数fに基いて直接的に回転電機14の出力制限を行うことを説明する。
【0050】
図4、図5は、出力制限の1つ目の機能を説明する図である。図4は、出力制限処理に伴うデータの流れを示す図であり、図5は出力制限の様子を示す図である。
【0051】
図4において、インバータ24から制御部50に対し、現在設定されているキャリア周波数fのデータが伝送される。また、回転電機14のコイル30に設けられるコイル温度計からコイル温度TCのデータが制御部50に伝送される。制御部50では、記憶部44の温度差マップ46を参照して、温度差ΔT=TM−TCを検索する。この検索は、伝送されたキャリア周波数fと、制御部50で把握している回転電機14の現在のトルクTqとを検索キーとして、対応する温度差ΔTを取得することで行われる。そして、制御部50は、取得したΔTと、伝送されてきたコイル温度TCとから、磁石温度TMを、TM=ΔT+TCとして推定する。この手順は、制御部50の磁石温度推定モジュール54の機能によって実行される。
【0052】
推定された磁石温度TMのデータは、Hiセレクト部56に出力される。Hiセレクト部56には、回転電機14から伝送されるコイル温度TCのデータも供給される。Hiセレクト部56は、入力されたTMとTCのいずれが高温であるかを判断し、高い方の温度を抽出してその温度を出力する機能を有する。抽出された高い方の温度に基いて、回転電機14の出力制限が行われる。
【0053】
一例を数字で示すと、いま、TC=140℃とし、キャリア周波数f=1kHzとし、回転電機14のトルクTq=150Nmとする。図4で示される温度差マップ46によれば、ΔT=+5℃となる。つまり、キャリア周波数fを低減したことで、磁石温度TMの方がコイル温度TCよりも高温となっている。磁石温度TMは、+5℃+140℃=145℃と推定される。Hiセレクト部56では、TC=140℃とTM=145℃との比較が行われ、高温側の温度が出力されるので、この場合、TM=145℃が出力される。
【0054】
図5は、抽出された高い方の温度で出力制限が行われる様子を示す図である。ここでは、横軸にコイル温度TCをとり、縦軸に回転電機14のトルクTqがとられている。そして、左側の図はキャリア周波数f=5kHzの場合、右側の図はキャリア周波数をf=1kHzに変更した場合を示す図である。
【0055】
上記のように、左側の図は、キャリア周波数がf=5kHzのように十分高くて、コイル温度TCが磁石温度TMよりも高い温度である場合である。このときは、従来技術と同様に、コイル温度TCに基いて出力制限が行われる。すなわち、出力制限が開始する温度である制限開始温度T0が、TCとされる。右側の図は、キャリア周波数f=1kHzの場合で、磁石温度TMがコイル温度TCよりも高い温度である場合である。このときには、コイル温度計によって実測されたコイル温度TCに代えて、推定された磁石温度TMに基いて出力制限が行われる。すなわち、出力制限が開始する温度である制限開始温度T0が、TMとされる。
【0056】
このように、制御部50の出力制限モジュール52の1つ目の機能によれば、予め記憶部44に記憶されている温度差ΔT=TM−TCに基いて磁石温度TMを推定し、磁石温度TMとコイル温度TCとを比較し、高い方の温度を制限開始温度として、回転電機14の出力制限が行われる。これによって、キャリア周波数fを変更しても、コイル30、磁石32の過熱を防止できる。
【0057】
図6、図7は、出力制限の2つ目の機能を説明する図である。図6は、図4と同様に、出力制限処理に伴うデータの流れを示す図であり、図7は、図5と同様に、は出力制限の様子を示す図である。
【0058】
図6において、インバータ24から制御部50に対し、現在設定されているキャリア周波数fのデータが伝送される。また、回転電機14のコイル30に設けられるコイル温度計からコイル温度TCのデータが制御部50に伝送される。ここまでは、図4で説明した内容と同じである。
【0059】
制御部50では、記憶部44の制限開始温度マップ48を参照して、キャリア周波数fに対応する制限開始温度T0を検索する。この検索は、伝送されたキャリア周波数fを検索キーとして、対応する制限開始温度T0を取得することで行われる。取得された制限開始温度T0に基いて、回転電機14の出力制限が行われる。
【0060】
一例を数字で示すと、いま、キャリア周波数f=5kHzとすると、図6で示される制限開始温度マップ48によれば、T0=150℃である。一方、キャリア周波数f=1kHzとすると、T0=120℃である。
【0061】
図7は、取得された制限開始温度T0に基いて出力制限が行われる様子を示す図である。左側の図は、キャリア周波数f=5kHzの場合で、コイル温度TCが磁石温度TMよりも高い温度であり、制限開始温度T0が150℃となる場合である。このときは、コイル温度TCに基いて制限開始温度T0が定められることになるので、実際上、コイル温度TCに基く出力制限が行われることになる。右側の図は、キャリア周波数f=1kHzの場合で、磁石温度TMがコイル温度TCよりも高い温度であり、制限開始温度T0が120℃となる場合である。このときには、推定された磁石温度TMに基いて制限開始温度T0が定められることになるので、実際上、推定された磁石温度TMに基く出力制限が行われることになる。
【0062】
このように、制御部50の出力制限モジュール52の2つ目の機能によれば、予め記憶部44に記憶されているキャリア周波数fごとの制限開始温度T0に基いて、回転電機14の出力制限が行われる。これによって、キャリア周波数fを変更しても、コイル30、磁石32の過熱を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る実施の形態の回転電機制御システムの構成を示す図である。
【図2】回転電機のコイルと磁石に関連する構造の例と、キャリア周波数を変更したときの駆動電流に重畳するリップル成分の様子を定性的に説明する図である。
【図3】キャリア周波数を変更したときのコイル温度と磁石温度の関係を定性的に説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、出力制限の1つ目の機能についてデータの流れを示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、出力制限の1つ目の機能について出力制限の様子を説明する図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、出力制限の2つ目の機能についてデータの流れを示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、出力制限の2つ目の機能について出力制限の様子を説明する図である。
【符号の説明】
【0064】
10 回転電機制御システム、12 電源回路、14 回転電機、16 蓄電装置、18 蓄電装置側平滑コンデンサ、20 電圧変換器、22 インバータ側平滑コンデンサ、24 インバータ、26 ステータ、28 ロータ、30 コイル、32 磁石、40 インバータECU、42 アクセル、44 記憶部、46 温度差マップ、48 制限開始温度マップ、50 制御部、52 出力制限モジュール、54 磁石温度推定モジュール、56 Hiセレクト部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められたキャリア周波数で作動するインバータと、
インバータによって作動し、磁石とコイルとを有する回転電機と、
回転電機のコイル温度を取得するコイル温度取得手段と、
キャリア周波数とコイル温度とに基いて磁石温度を取得し、コイル温度と磁石温度とに基いて回転電機の出力制限を行う出力制限部と、
を備えることを特徴とする回転電機制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機制御システムにおいて、
キャリア周波数と、回転電機のトルクとに関連づけて、コイル温度と磁石温度との差である温度差を記憶する温度差記憶部と、
回転電機の作動条件であるキャリア周波数とトルクとを検索キーとして温度差記憶部から温度差を検索し、検索された温度差とコイル温度とに基いて磁石温度を推定する手段と、
推定された磁石温度と取得されたコイル温度とを比較して高い方の温度を抽出する比較手段と、
を備え、
出力制限部は、比較手段によって高い方とされた温度に基いて回転電機の出力制限を行うことを特徴とする回転電機制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機制御システムにおいて、
予め求められたキャリア周波数とコイル温度と磁石温度との関係に基いて、キャリア周波数に関連づけられた回転電機の出力制限を開始する温度を記憶する制限開始温度記憶部を備え、
出力制限部は、
キャリア周波数に応じて、回転電機の出力制限を開始する温度を変更することを特徴とする回転電機制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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