説明

回転電機制御システム

【課題】回転電機制御システムにおいて、回転電機の回転数の急変時に、制御切替を迅速に行うことで、回転電機に過電流が流れることを有効に抑制することである。
【解決手段】回転電機制御システム10は、回転電機(第2モータジェネレータ)14と、回転電機14の所定時間当たりの回転数を測定する回転数センサ34と、制御部32とを含む。制御部32は、回転数の測定結果に応じて、回転電機14の制御方法の切り替えの際に用いる制御切替閾値である制御切替位相を変更する閾値変更部48を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機制御システムに係り、回転電機の制御方法の切り替えを行う回転電機制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機として使用される回転電機の制御方法として、正弦波PWM(Pulse Width Modulation)制御モードと、過変調制御モードと、矩形波制御モードとを使い分けることが知られている。なお、過変調制御モードは、過変調PWM制御モードと呼ぶこともある。
【0003】
例えば、特許文献1には、回転電機制御システムであって、正弦波電流制御モードと過変調電流制御モードと矩形波電圧位相制御モードとの間で制御を切り換えるシステムが記載されている。また、回転電機のベクトル制御に用いられるd軸とq軸とによって規定されるdq平面において、回転電機を最大効率で運転できる最大効率特性線を規定した場合に、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードに切り換える基準としての切替ラインを、最大効率特性線よりも遅角側に設定している。このように切替ラインを遅角側に設定することで、モード切替の際の制御のチャタリングを防止するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−81663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記のようにdq平面において矩形波制御モードから過変調制御モードに切り換える基準としての切替ラインを、最大効率特性線よりも遅角側に設定すると、回転電機の単位時間当たりの回転数が急減少する場合に、矩形波制御モードから過変調制御モードへの切替が遅くなり、回転電機の回転数が減少しているのにもかかわらず回転電機への印加電圧が高いままとなる可能性がある。例えば、回転電機の回転数が急減少する場合として、回転電機を車輪駆動用として車両に搭載した場合の車輪のスリップからグリップに移行する場合等がある。例えば、この車両が波状路を走行する場合にスリップとグリップとが交互に繰り返される可能性がある。また、車両がキャッツアイ等の路面上突起物を踏んだとき等に急にグリップが生じて回転電機の回転数が急減少する場合がある。この場合、回転電機に対する印加電圧が本来必要となる電圧よりも過大となるため、回転電機の各相のステータコイルに流れる相電流が過大となり、機器の故障を有効に防止する面から改良の余地がある。
【0006】
また、上記では、矩形波制御モードから過変調制御モードに制御方法を切り換える場合の不都合を説明したが、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに制御を切り換える場合も、回転電機の回転数の急減少時に回転電機に過大な電流が流れる可能性がある。すなわち、過変調制御モードと正弦波PWM制御モードとの制御切替には、変調度が用いられる。変調度は、インバータの直流電圧であるシステム電圧VHに対する回転電機印加電圧である線間電圧の実効値の比である。また、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードへの切替に使用する変調度が小さいと、回転電機の単位時間当たりの回転数が急減少する場合に、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードへの切替が遅くなり、回転電機の回転数が減少しているのにもかかわらず回転電機への印加電圧が高いままとなる可能性がある。このため、例えば、回転電機を車輪駆動用として車両に搭載した場合の車輪のスリップからグリップに移行する場合等において、回転電機に対する印加電圧が本来必要となる電圧よりも過大となる可能性がある。したがって、回転電機の各相のステータコイルに流れる相電流が過大となり、機器の故障を有効に防止する面から改良の余地がある。
【0007】
本発明の目的は、回転電機制御システムにおいて、回転電機の回転数の急変時に、制御切替を迅速に行うことで、回転電機に過電流が流れることを有効に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る回転電機制御システムは、回転電機の所定時間当たりの回転数を測定する測定手段と、前記回転数の測定結果に応じて、前記回転電機の制御方法の切り替えの際に用いる制御切替閾値を変更する閾値変更手段と、を備えることを特徴とする回転電機制御システムである。
【0009】
また、本発明に係る回転電機制御システムにおいて、好ましくは、前記制御切替閾値は、直交するd軸及びq軸を有し、回転電機の動作点が移動するdq平面上において、前記回転電機の制御方法を、矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替える際に用いる制御切替位相であり、前記閾値変更手段は、前記回転数の測定結果に応じて、前記回転電機の制御方法を、矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替える際に用いる前記制御切替位相を変更する。
【0010】
また、本発明に係る回転電機制御システムにおいて、好ましくは、前記閾値変更手段は、測定された前記回転数が、予め設定したグリップ値以上に減少したときに、前記回転数の変化量に応じて、前記回転電機の動作を電流制御で指示する場合の電流指令を結んだ電流指令線よりも遅角側で、かつ、初期切替位相よりも進角側の急変時切替位相に前記制御切替位相を変更し、測定された前記回転数が前記グリップ値以上に減少しないときには、前記制御切替位相を前記初期切替位相に設定する。
【0011】
また、本発明に係る回転電機制御システムにおいて、好ましくは、前記制御切替閾値は、インバータの直流電圧であるシステム電圧に対する回転電機印加電圧である線間電圧の実効値の比を変調度として、前記回転電機の制御方法を、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに切り替える際に用いる制御切替変調度であり、前記閾値変更手段は、前記回転数の測定結果に応じて、前記回転電機の制御方法を、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに切り替える際に用いる前記制御切替変調度を変更する。
【0012】
また、本発明に係る回転電機制御システムにおいて、好ましくは、前記閾値変更手段は、測定された前記回転数が、予め設定したグリップ値以上に減少したときに、前記回転数の変化量に応じて初期切替変調度よりも大きい急変時切替変調度に前記制御切替変調度を変更し、測定された前記回転数が前記グリップ値以上に減少しないときには、前記制御切替変調度を前記初期切替変調度に設定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る回転電機制御システムによれば、閾値変更手段により、回転電機の回転数が急減少した場合に、制御切替閾値を、早めに切替が行われる側に変更することで、回転電機の回転数の急減少時に制御モードの切替を迅速に行うことができる。このため、回転電機の印加電圧を早めに低下させることで、回転電機に過電流が流れることを有効に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態の回転電機制御システムを搭載した車両の構成を示す図である。
【図2】図1の制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態において、回転電機の制御モードの切替を説明するための回転電機のトルク及び回転数の関係を示す図である。
【図4】第1の実施形態において、dq平面上において、電流指令線と、初期切替ラインと、急変時切替ラインとを示す図である。
【図5】第1の実施形態において、制御部が記憶する回転電機の回転数変化量と制御切替位相との関係を示す図である。
【図6】第1の実施形態において、回転電機の制御モードの切替方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態の回転電機制御システムを構成する制御部の構成を示すブロック図である。
【図8】第2の実施形態の回転電機制御システムにおいて、回転電機の制御モードの切替を説明するための回転電機のトルク及び回転数の関係を示す図である。
【図9】図8のA部を拡大して示す図である。
【図10】第2の実施形態において、正弦波PWM制御モード(PWM)から過変調制御モード(OVM)に切り換える際に用いる昇圧側切替変調度Eaと、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに切り換える際に用いる初期降圧側切替変調度E0と、急変時降圧側切替変調度Eiとを示す図である。
【図11】第2の実施形態において、制御部が記憶する回転電機の回転数変化量と制御切替変調度との関係を示す図である。
【図12】第2の実施形態において、回転電機の制御モードの切替方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、回転電機として、車両に搭載されるモータジェネレータを説明するが、車両搭載用以外の用途に用いられる回転電機であってもよい。また、回転電機は、単にモータとして機能させるものを車両に搭載する電気自動車用や燃料電池車用等として使用するものでもよい。また、以下では、車両の過渡状態として、スリップからグリップに移行する場合を説明するが、回転電機の制御切替を迅速に行う必要がある回転電機の回転数の急変時であればよく、グリップ以外の車両の急減速状態であってもよい。
【0016】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0017】
[第1の実施形態]
図1は、回転電機制御システム10を搭載した車両の構成を示す図である。この車両は、エンジン12と走行用モータである第2モータジェネレータ(MG2)14との一方または両方を主駆動源として使用するハイブリッド車両である。
【0018】
車両は、エンジン12及びバッテリ16と、第1モータジェネレータ(MG1)18と、第2モータジェネレータ(MG2)14とを備え、さらに、バッテリ16と第1モータジェネレータ18との間に接続された第1インバータ20と、バッテリ16と第2モータジェネレータ14との間に接続された第2インバータ22とを備える。また、車両は、エンジン12と各モータジェネレータ14,18との間の動力分配を行う動力分割機構24と、動力分割機構24と第2モータジェネレータ14との間に設ける変速機26と、変速機26から動力を受け取って車輪28に伝達する車軸30とを備える。また、車両は、回転電機制御システム10を備え、回転電機制御システム10は、上記のエンジン12、各モータジェネレータ14,18、各インバータ20,22、バッテリ16、及び制御部32を含む。
【0019】
各モータジェネレータ14,18は、3相同期型回転電機であり、バッテリ16から電力が供給される場合にモータとして機能し、エンジン12による駆動時または車両の制動時等には発電機として機能する。第1モータジェネレータ18は、主としてエンジン12により駆動される発電機として用いられるが、モータとして使用される場合もある。発電された電力は、第1インバータ20を介してバッテリ16に供給される。なお、バッテリ16と第1インバータ20との間に電圧変換を行うコンバータを接続することもできる。また、第2モータジェネレータ14は、主としてモータとして使用されるが、発電機として使用される場合もある。
【0020】
各インバータ20,22は、トランジスタ、IGBT等の複数のスイッチング素子を含み、制御部32によりスイッチングが制御されて、バッテリ16から供給された直流電圧を3相交流電圧に変換し、対応するモータジェネレータ18(または14)に出力する。また、車両の制動時には、第2モータジェネレータ14から第2インバータ22に出力された3相交流電圧を第2インバータ22で直流電圧に変換して、バッテリ16に供給し、バッテリ16を充電する。また、エンジン12の駆動により第1モータジェネレータ18が駆動されることで、第1モータジェネレータ18から出力された3相交流電圧を第1インバータ20で直流電圧に変換して、バッテリ16に供給し、バッテリ16を充電する。
【0021】
制御部32は、各インバータ20,22及びエンジン12等の各要素の動作を制御する。制御部32は、例えば車載用コンピュータで構成されることができる。制御部32は、1つのコンピュータで構成することができるが、複数のコンピュータをケーブル等で接続することにより構成することもできる。例えば、制御部32は、各モータジェネレータ14,18の動作を制御するモータ制御部と、エンジン12の動作を制御するエンジン制御部と、全体を統合制御する統合制御部とに分けることもできる。また、回転電機制御システム10は、各モータジェネレータ14,18の予め設定された所定時間当たりの回転数、例えば10msec当たりの回転数を測定する回転数測定手段である回転数センサ34,36をそれぞれ設けている。各回転数センサ34,36の検出値は制御部32に入力している。なお、回転数センサ34,36の代わりに、各モータジェネレータ14,18のそれぞれの回転角度を検出する回転角度センサを設けて、各回転角度センサの検出値を制御部32に入力することもできる。この場合、制御部32は、回転角度センサの検出値に基づいて、各モータジェネレータ14,18の所定時間当たりの回転数を算出する回転数算出部を設けることもでき、回転数算出部と各回転角度センサとにより回転数測定手段を構成できる。
【0022】
図2では、制御部32のうち、モータ制御を行う部分を機能に分けて示している。すなわち、制御部32は、正弦波PWM制御部38と、過変調制御部40と、矩形波制御部42と、位相モード切替部44と、変調度モード切替部46とを含む。制御部32は、各モータジェネレータ14,18(図1)の両方の制御を行うが、以下では説明を分かりやすくするために第2モータジェネレータ14(以下、単に「回転電機14」という場合がある。)の制御を行う場合を代表して説明する。下記の第2モータジェネレータ14の制御は、第2モータジェネレータ14の制御と第1モータジェネレータ18の対応する制御との両方、または第1モータジェネレータ18の対応する制御のみに用いることもできる。
【0023】
正弦波PWM制御部38は、回転電機14を正弦波PWM制御により制御する。過変調制御部40は、回転電機14を過変調制御により制御する。矩形波制御部42は、回転電機14を矩形波制御により制御する。
【0024】
また、位相モード切替部44は、回転電機14の制御を行う制御方法、すなわち制御モードを、矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替えるものであり、dq平面上で、回転電機14の動作点から制御モードを切り替える。ここで、dq平面とは、後述する図4に示すように、回転電機14の動作点を互いに直交するd軸及びq軸で規定するためのもので、例えばd軸は、d軸電流軸(Id軸)またはd軸電圧軸(Vd軸)とし、q軸は、Id軸またはVd軸に直交するq軸電流軸(Iq軸)またはq軸電圧軸(Vd軸)とする。また、制御部32は、dq平面上において、回転電機14を電流制御するときの最大効率で運転できるd軸電流及びq軸電流の電流組を結んで得られる最大効率特性線を電流指令線L1として規定している。
【0025】
位相モード切替部44は、dq平面上の原点Oを中心とする最大電圧円(図示せず)上で、回転電機14の動作点が電流指令線L1よりも、図4の矢印α方向側、すなわち遅角側に予め設定された初期切替位相差β1(図4)を有する初期切替ラインL0を超えるときに、矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替える機能を有する。
【0026】
また、変調度モード切替部46は、PWM正弦波制御モードと過変調制御モードと矩形波制御モードとの間での制御モードの切り替えを、変調度Eによって行う。変調度(=変調率)Eとは、インバータ22の直流電圧であるシステム電圧VHに対する、回転電機14印加電圧である線間電圧の実効値Jの比(J/VH)である。回転電機14の線間電圧の実効値Jは、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*を用いて、J={(Vd*2+(Vq*21/2で与えられる。したがって、変調度Eは、変調度E=[{(Vd*2+(Vq*21/2]/VHで求められる。そして、変調度Eが0.61まではPWM制御モードが行われ、変調度Eが0.61を超えると、過変調制御モードに切り替えられる。また、変調度Eが0.78となると、矩形波制御モードが用いられる。
【0027】
ここで、PWM制御モードと過変調制御モードとは、電流フィードバック制御であり、電圧指令値と搬送波(キャリア)とを比較することでPWM信号を回転電機14に出力する制御である。一方、矩形波制御モードは、電気角に応じて1パルススイッチング波形を回転電機14に出力する制御であり、電圧振幅は最大値に固定され、位相を制御することでトルクをフィードバック制御している。
【0028】
図3は、回転電機14の動作点に応じて制御モードが選択される様子を説明する図である。この図は、回転電機14の回転数を横軸にとり、トルクを縦軸にとり、その最大トルク特性線を示し、その最大トルク特性線の内側で示される作動領域においてどの制御モードが用いられるかを示す図である。図3に示されるように、低速側に正弦波PWM制御モード作動領域が、高速側に矩形波制御モード作動領域が、その中間に過変調制御モード作動領域がそれぞれ設定されている。
【0029】
次に、これら3つの制御モードの切替について説明する。図3で示されたように、回転数とトルクで与えられる回転電機14の動作点の状態に応じて、制御モードの切替が行われる。速度とトルクとを次第に上げて行くにつれて、正弦波PWM制御モードから過変調制御モードへ、過変調制御モードから矩形波制御モードへと制御モードを切り替える。この場合、以下のように変調度Eによって、制御モードの切替を行うことができる。すなわち、変調度Eが0.61以下のときに正弦波PWM制御モードを使用し、変調度Eが0.61から0.78の間は過変調制御モードを使用し、変調度Eが0.78となれば矩形波制御モードを使用するように制御モードを切り替える。
【0030】
これと逆方向に制御モードを切り替えるときも変調度Eを用いることができるが、図3の点P1から点P2に移行する場合のように、矩形波制御モードから過変調制御モードへの切替は、矩形波制御モードにおいて電圧指令振幅が一定であるので、例えば電流指令に対する実電流の位相によって切替のタイミングを判定することで行われる。
【0031】
図4は、矩形波制御モードから過変調制御モードへ切り換えるための切替ラインを説明するための図である。ここでは、回転電機14のベクトル制御に用いられるd軸とq軸とによって規定されるdq平面で示している。3相同期型電動機に用いられるベクトル制御では、回転子の磁極が形成する磁束の方向がd軸と定義され、d軸に直交する軸がq軸と定義される。
【0032】
また、d軸電流をId、q軸電流をIqとすると、電流ベクトルの絶対値Iaは、Ia=(Id2+Iq21/2で表され、電流位相βは、β=tan-1(Iq/Id)で表される。この場合、トルクτは、τ=pψIa×sinβ+(1/2)×p(Ld−Lq)Ia2×sin2βで与えられる。ここで、pは回転電機14の極数であり、ψは逆起電力定数であり、Ld、Lqはそれぞれd軸インダクタンス、q軸インダクタンスである。このため、トルクτは、d軸電流成分とq軸電流成分との間の位相である電流位相βで制御可能である。
【0033】
また、最大トルクを与える電流位相βは、β=cos-1〔[−ψ+{ψ2−8(Ld−Lq)21/2]/4(Ld−Lq)Ia〕で与えられる。この計算で求められる関係式に、必要な場合に適当な補正を加えて、回転電機14を最大効率で運転できる最大効率特性線を求めることができる。
【0034】
本実施形態では、この最大効率特性線を電流指令線L1に設定し、電流指令線L1の遅角側に切替ラインL0,Liを設定している。このように電流指令線L1の遅角側に切替ラインL0,Liを設定するのは、もし電流指令線L1の進角側または同じ位相に切替ラインL0,Liを設定すると、モード切替の際に制御がチャタリングを起こし、電流乱れが生じるためである。すなわち、矩形波制御中に回転電機14を低速方向に移行させると、回転電機14の電流位相が最大電圧円上で進角側から電流指令線L1に向かって遅角側に移動し、電流指令線L1を越えて切替ラインL0(またはLi)に達すると、矩形波制御モードから過変調制御モードへの切替が行われる。電流指令線L1は、回転電機14の動作を電流制御で指示する場合の電流指令を結んだ線である。電流指令線L1は最大効率特性線以外に設定することもできる。
【0035】
一方、回転電機14が起動し、低速低トルクから速度を上げトルクや回転数を上げるときには、電流指令線L1上で正弦波PWM制御を用いて電流指令が実行される。また、中速領域では、変調度が0.61か、または0.6以上の予め設定された昇圧側変調度を超えることで、過変調制御に切り換えられ、電流指令線L1上で過変調制御を用いて電流指令が実行される。さらに、速度やトルクが上がり、変調度が0.78となると、矩形波制御モードに切り換えられる。この場合、原点Oを中心とする最大電圧円(図示せず)上での電圧位相でトルクが制御される。例えば電圧位相が電流指令線から進角側(図4の矢印αと反対側)に離れるように制御される。すなわち、この場合には、電圧位相制御である矩形波制御によってトルクが制御される。なお、矩形波制御では、最大電圧円から外側に外れるように動作点が移動しつつ位相が変更されることでトルクを制御することもできる。
【0036】
特に、本実施形態では、図2に示すように、位相モード切替部44は閾値変更部48を有する。閾値変更部48は、回転数センサ34等の回転数測定手段の所定時間当たりの回転数の測定結果に応じて、回転電機14の制御方法の切替の際に用いる制御切替閾値として、制御切替位相を変更する。「制御切替位相」は、図4のdq平面上において、回転電機14の制御方法を矩形波制御モードから過変調制御モードに切り換える際に用いる制御切替ラインL0、Liの、電流指令線L1を基準とする遅角側の位相分をいう。例えば、車両のスリップ状態からグリップ状態に移行した場合等の、回転電機14の所定時間当たりの回転数が急減少した場合において、回転数測定手段で測定された回転電機14の所定時間当たりの回転数が、予め設定したグリップ値以上に減少したときには、図4で矢印γで示すように、閾値変更部48は、切替ラインを予め設定した初期切替ラインL0から急変時切替ラインLiに変更する。初期切替ラインL0は、電流指令線L1を基準として遅角側に外れた初期切替位相β1を有する。急変時切替ラインLiは、電流指令線L1を基準として遅角側に外れた急変時切替位相β2を有する。急変時切替ラインLiは、電流指令線L1よりも遅角側で、初期切替ラインL0よりも進角側に設定される。
【0037】
このような急変時切替ラインLiは、回転電機14の所定時間当たりの回転数の変化量に応じて複数設定することができる。すなわち、閾値変更部48は、測定された回転電機14の回転数が、予め設定したグリップ値以上に減少したときに、回転電機14の回転数の変化量に応じて電流指令線L1よりも遅角側で、かつ、初期切替ラインL0よりも進角側の急変時切替ラインLiに制御切替ラインを変更する。このため、回転電機14の回転数の変化量に応じて制御切替ラインの制御切替位相が急変時切替位相β2に切り替えられる。
【0038】
一方、閾値変更部48は、測定された回転電機14の回転数がグリップ値以上に減少しないときには、制御切替ラインを初期切替ラインL0に設定する。すなわち、制御切替位相は、初期切替位相β1に設定される。
【0039】
図5は、本実施形態において、制御部32の記憶部が記憶する回転電機14の回転数変化量と制御切替位相との関係を示す図である。図5において、「回転数変化量」は、矩形波制御時の回転電機14の所定時間当たりの回転数の変化量を示している。「切替え位相」は、回転数変化量に対応する電流指令線L1を基準とする制御切替ラインの遅角側の位相である。すなわち、a°は初期切替位相β1(図4)に対応し、b°、c°、d°は急変時切替位相β2(図4)に対応する。a>b>c>dとなるように、a〜dが設定されている。なお、図5は、回転数変化量と切替位相との関係の1例を示すものであり、別の例を採用することもできる。
【0040】
図6は、本実施形態において、回転電機14の制御モードの切替方法を示すフローチャートである。まずステップS(以下、ステップSは単にSという。)10で回転数測定部により回転電機14の所定時間あたりの回転数が測定される。次いで所定時間当たりの回転数の変化量を算出し(S12)、S14で、算出した回転数が予め設定したグリップ値以上に減少したとき(例えば図5で所定時間当たりの回転数の変化量が−50回転数以上に小さくなるとき)には、S16に移行する。
【0041】
S16では、回転電機14の回転数の変化量に応じて、複数の急変時切替ラインLiのうち、対応する1の急変時切替ラインLiに制御切替ラインを変更する。このため、回転数の変化量に応じて、制御切替ラインの制御切替位相が対応する急変時切替位相β2に切り替えられる。この場合、上記の図5に示した回転数変化量と切替位相との関係を表すマップのデータを制御部32に予め記憶させておき、制御部32はこのマップのデータを参照しつつ制御切替ラインを変更する。
【0042】
これに対して、S14で、算出した回転数が予め設定したグリップ値以上に減少しないとき(例えば図5で所定時間当たりの回転数の変化量が−50回転数以上に小さくならないとき)には、S18に移行する。S18では、制御切替ラインを初期切替ラインL0に設定する。このため、制御切替位相は、初期切替位相β1、すなわちデフォルト値に設定される。
【0043】
このような回転電機制御システム10によれば、閾値変更部48により、回転電機14の回転数が急減少した場合に、制御切替閾値を、早めに切替が行われる側に変更することで、回転電機14の回転数の急減少時に制御モードの切替を迅速に行うことができる。このため、回転電機14を搭載した車両のスリップからグリップに移行する場合のように、回転電機14の回転数の急減少時に、回転電機14の印加電圧を早めに低下させることで、回転電機14に過電流が流れることを有効に抑制できる。
【0044】
しかも、閾値変更部48は、回転電機14の回転数の測定結果に応じて、回転電機14の制御方法を、矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替える際に用いる制御切替位相を変更する。また、閾値変更部48は、測定された回転数が、予め設定したグリップ値以上に減少したときに、回転数の変化量に応じて電流指令線L1よりも遅角側で、かつ、初期切替位相β1を有する初期切替ラインL0よりも進角側の急変時切替ラインLiの急変時切替位相β2に制御切替位相を変更し、測定された回転数がグリップ値以上に減少しないときには、制御切替位相を初期切替位相β1に設定する。すなわち、回転電機14の回転数の変化量に応じて、制御のチャタリングを防止するためのヒステリシス幅に相当する電流指令線L1と初期切替ラインL0との位相差β1を、回転数の急減少時に電流指令線L1と急変時切替ラインLiとの位相差β2に、小さくなるように切り替える。すなわち、ヒステリシス幅を小さくすることと同様となる。このため、矩形波制御モードを実行中に、回転電機14の回転数の急減少時に回転電機14の印加電圧を早めに低下させることができ、回転電機14に過電流が流れることを有効に抑制できる。
【0045】
なお、上記では、回転電機14の所定時間当たりの回転数の減少量がグリップ値以上となるか否か、すなわちグリップ発生か否かで、制御切替位相を変更するか否かを決定している。ただし、例えば回転電機14の所定時間当たりの回転数が所定値以上となるように急上昇した場合に、車両のスリップが発生したと判定し、スリップ発生をグリップ発生の代用として、制御切替位相を変更する前提条件として入れることもできる。このようにスリップ検出でもよい理由は、スリップの後には必ずグリップが生じるためである。したがって、回転数の減少量を用いるのではなく、回転数変化量の絶対値を用いて、スリップ発生またはグリップ発生を判定することもできる。
【0046】
また、上記のように回転電機14の回転数の変化量に応じてヒステリシス幅に相当する初期切替ラインL0と制御切替ラインとの位相差を変更するのではなく、閾値変更部48は、回転電機14の印加電圧の急変時またはトルクまたは電流の急変時に、印加電圧の変化量またはトルクまたは電流の変化量に応じて、初期切替ラインL0と制御切替ラインとの位相差を変更するように構成することもできる。この理由は、グリップ時またはスリップ時には電圧変化やトルクまたは電流の急変が生じるためである。
【0047】
また、矩形波制御モードから過変調制御モードに急に切り替えることで電流の増大が懸念される、高トルク領域のみに限定して、回転数変化量等に応じた制御切替位相の切替を行うこともできる。
【0048】
さらに、制御切替位相はマップのデータを読み出して使用するのではなく、予め制御部32に記憶された関係式(例えば比例を用いた関係式)を用いて、回転数変化量から対応する制御切替位相を算出することもできる。
【0049】
[第2の実施形態]
図7〜12は、本発明の第2の実施形態を示している。図7は、本実施形態の回転電機制御システム10(図1)を構成する制御部32の構成を示すブロック図である。図8は、本実施形態の回転電機制御システム10において、回転電機の制御モードの切替を説明するための回転電機のトルク及び回転数の関係を示す図である。図9は、図8のA部を拡大して示す図である。以下の説明でも、第2モータジェネレータ14(以下、単に「回転電機14」という場合がある。)(図1)の制御を行う場合を代表して説明するが、下記の第2モータジェネレータ14の制御は、第2モータジェネレータ14の制御と第1モータジェネレータ18(図1)の対応する制御との両方、または第1モータジェネレータ18の対応する制御のみに用いることもできる。
【0050】
上記の第1の実施形態では、回転電機14を矩形波制御で制御している場合の回転電機14の回転数の急変時等の不都合をなくすべく、矩形波制御から過変調制御へ早めに切り替える構成を説明した。ただし、同様の不都合は、回転電機14を過変調制御で制御している場合の車両のスリップからグリップに移行する場合等の、回転電機14の回転数の急変時にも生じる可能性がある。本実施形態は、このような不都合を解消すべく考えたものである。
【0051】
すなわち、上記の第1の実施形態において、制御部32において、回転電機14の制御モードを矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替える位相モード切替部44は、閾値変更部48(図2)を有しない。その代わりに、回転電機14の制御モードを過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに切り替える変調度モード切替部46は、閾値変更部50を有する。閾値変更部50は、回転電機14の所定時間あたりの回転数の測定結果に応じて、制御モードの切替に用いる切替変調度E0、Ei(図10)を変更する機能を有する。
【0052】
すなわち、図8、図9に示すように、回転数とトルクで与えられる回転電機14の動作点を考えた場合に、図8、図9の点Q1から点Q2に移行する場合のように、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードへは、回転電機14の回転数やトルクが低下することにより移行される。この場合、通常時には、図9の一点鎖線S1で示す初期降圧側切替ラインで過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに切り換わる。なお、図9のように点Q3から点Q4に移行する場合のように、正弦波PWM制御モードから過変調制御モードへの切替は、初期降圧側切替ラインS1よりも高圧側、すなわち図9の右側に設定された昇圧側切替ライン(図8の実線S2)で行われる。この昇圧側切替ラインは、0.61よりも高い変調度Eaに対応する。
【0053】
これについて図10を用いて詳しく説明する。図10は、第2の実施形態において、正弦波PWM制御モード(PWM)から過変調制御モード(OVM)に切り換える際に用いる昇圧側切替変調度Eaと、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに切り換える際に用いる初期降圧側切替変調度E0と、急変時降圧側切替変調度Eiとを示す図である。図10では、矢印の向きにより、制御モード切替の方向を示している。なお、各変調度Ea、E0、Eiはいずれも正弦波PWM制御の上限変調度の0.61よりも大きい。また、初期降圧側切替変調度E0は、昇圧側切替変調度Eaよりも小さい。
【0054】
このように初期降圧側切替変調度E0を昇圧側切替変調度Eaよりも小さく設定している理由は、もし初期降圧側切替変調度E0を昇圧側切替変調度Eaよりも大きいか、または変調度Eaと同じに設定していると、モード切替の際に制御がチャタリングを起こし、電流乱れが生じるためである。すなわち、過変調制御中に回転電機14を低速方向に移行させると、回転電機14の変調度が小さくなり、昇圧側切替変調度Eaを越えて初期降圧側切替変調度E0に達すると、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードへの切替が行われる。
【0055】
一方、回転電機14が起動し、低速低トルクから速度を上げトルクや回転数を上げるときには、低速領域で正弦波PWM制御を用いて電流指令が実行される。また、中速領域では、変調度が0.61よりも大きい変調度Eaを超えることで、過変調制御に切り換えられ、過変調制御を用いて電流指令が実行される。さらに、速度やトルクが上がり、変調度が0.78となると、上記の第2の実施形態で説明したように矩形波制御モードに切り換えられる。
【0056】
特に、本実施形態では、上記のように、変調度モード切替部46は閾値変更部50を有する。閾値変更部50は、回転数センサ34(図1)等の回転数測定手段の所定時間当たりの回転数の測定結果に応じて、回転電機14の制御方法の切替の際に用いる制御切替閾値として、制御切替変調度である降圧側切替変調度E0、Eiを変更する。降圧側切替変調度E0、Eiは、回転電機14の制御方法を、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに切り換える際に用いる制御切替変調度である。例えば、車両のスリップ状態からグリップ状態に移行した場合等の、回転電機14の所定時間当たりの回転数が急減少した場合において、回転数測定手段で測定された回転電機14の所定時間当たりの回転数が、予め設定したグリップ値以上に減少したときには、図9、図10で矢印δで示すように、閾値変更部50は、切替変調度を初期降圧側切替変調度E0から、初期降圧側切替変調度E0よりも大きい急変時降圧側切替変調度Eiに変更し、降圧側切替ラインを初期降圧側切替ラインS1から急変時降圧側切替ラインS1aに切り替える。
【0057】
このような急変時降圧側切替変調度Eiは、回転電機14の所定時間当たりの回転数の変化量に応じて複数設定することができる。すなわち、閾値変更部50は、測定された回転電機14の回転数が、予め設定したグリップ値以上に減少したときに、回転数の変化量に応じて初期降圧側切替変調度E0よりも大きい急変時降圧側切替変調度Eiに降圧側切替変調度を変更する。このため、回転数の変化量に応じて、昇圧側切替変調度Eaと降圧側切替変調度E0、Eiとの差であるヒステリシス幅D1,D2(図10)が変更される。
【0058】
一方、閾値変更部50は、測定された回転数がグリップ値以上に減少しないときには、降圧側切替変調度を初期降圧側切替変調度E0に設定する。すなわち、ヒステリシス幅は、昇圧側切替変調度Eaと初期降圧側切替変調度E0との差である初期ヒステリシス幅D1に設定される。
【0059】
図11は、第2の実施形態において、制御部32が記憶する回転電機14の回転数変化量と制御切替変調度との関係を示す図である。図11において、「回転数変化量」は、過変調制御時の回転電機14の所定時間当たりの回転数の変化量を示している。「切替え変調度」は、回転数変化量に対応する初期降圧側切替変調度Ε0または降圧側切替変調度Ε1,Ε2,Ε3,Ε4,Ε5(すなわちΕi)を示している。各降圧側切替変調度Ε0,Ε1,Ε2・・・Ε5は、Ε0<Ε1<Ε2<Ε3<Ε4<Ε5の関係を満たす。また、Ε5は昇圧側切替変調度Εaよりも小さい(Ε5<Εa)。例えば初期降圧側切替変調度Ε0は正弦波PWM制御モードの上限変調度0.61よりも大きくし、昇圧側切替変調度Εaも上限変調度0.61よりも大きくする。ただし、昇圧側切替変調度Εa等の各変調度のいずれかを上限変調度0.61と同じにすることもできる。また、図11では、スリップからグリップに移行する場合に、回転数変化量の絶対値が大きくなるので、降圧側切替変調度Eiも大きくなることを表している。なお、図11は、回転数変化量と切替変調度との関係の1例を示すものであり、別の例を採用することもできる。
【0060】
図12は、本実施形態において、回転電機14の制御モードの切替方法を示すフローチャートである。まずステップS20で回転数測定部により回転電機14の所定時間あたりの回転数が測定される。次いで所定時間当たりの回転数の変化量を算出し(S22)、S24で、算出した回転数が予め設定したグリップ値以上に減少したとき(例えば図11で所定時間当たりの回転数の変化量が−25回転数以上に小さくなるとき)には、S26に移行する。
【0061】
S26では、回転電機14の回転数の変化量に応じて、複数の急変時降圧側切替変調度Eiのうち、対応する1の急変時降圧側切替変調度Eiに制御切替変調度である降圧側切替変調度を変更する、すなわち切り替える。このため、回転数の変化量に応じて、降圧側切替変調度E0,Eiと昇圧側切替変調度Eaとの差であるヒステリシス幅D1,D2が変更される。この場合、上記の図11に示した回転数変化量と切替変調度E0,Eiとの関係を表すマップのデータを制御部32に予め記憶させておき、制御部32はこのマップのデータを参照しつつ制御切替変調度E0,Ei及びヒステリシス幅D1,D2を変更する。
【0062】
これに対して、S24で、算出した回転数が予め設定したグリップ値以上に減少しないとき(例えば図11で所定時間当たりの回転数の変化量が−25回転数以上に小さくならないとき)には、S28に移行する。S28では、降圧側切替変調度を初期降圧側切替変調度E0に設定する。このため、ヒステリシス幅は、初期降圧側切替変調度E0と昇圧側切替変調度Eaとの差である初期ヒステリシス幅D1、すなわちデフォルト値に設定される。
【0063】
このような本実施形態によれば、閾値変更部50は、回転電機14の回転数の測定結果に応じて、回転電機14の制御方法を、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに切り替える際に用いる制御切替変調度を変更する。また、閾値変更部50は、測定された回転数が、予め設定したグリップ値以上に減少したときに、回転数の変化量に応じて初期降圧側切替変調度E0よりも大きい急変時降圧側切替変調度Eiに降圧側切替変調度を変更し、測定された回転数がグリップ値以上に減少しないときには、降圧側切替変調度を初期降圧側切替変調度E0に設定する。すなわち、回転電機14の回転数の変化量に応じて、制御のチャタリングを防止するためのヒステリシス幅D1,D2を、回転数の急減少時に小さくなるように切り替える。このため、過変調制御モードを実行中に、回転電機14の回転数の急減少時に回転電機14の印加電圧を早めに低下させることができ、回転電機14に過電流が流れることを有効に抑制できる。
【0064】
なお、上記では、回転電機14の所定時間当たりの回転数の減少量がグリップ値以上となるか否か、すなわちグリップ発生か否かで、制御切替変調度を変更するか否かを決定している。ただし、例えば回転電機14の所定時間当たりの回転数が所定値以上となるように急上昇した場合に、車両のスリップが発生したと判定し、スリップ発生をグリップ発生の代用として、制御切替変調度を変更する前提条件として入れることもできる。このようにスリップ検出でもよい理由は、スリップの後には必ずグリップが生じるためである。したがって、回転数の減少量を用いるのではなく、回転数変化量の絶対値を用いて、スリップ発生またはグリップ発生を判定することもできる。
【0065】
また、上記のように回転電機14の回転数の変化量に応じてヒステリシス幅D1,D2を変更するのではなく、閾値変更部50は、回転電機14の印加電圧の急変時またはトルクまたは電流の急変時に、印加電圧の変化量またはトルクまたは電流の変化量に応じて、ヒステリシス幅を変更する、すなわち降圧側切替変調度を変更するように構成することもできる。この理由は、グリップ時またはスリップ時には電圧変化やトルクまたは電流の急変が生じるためである。
【0066】
また、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに急に切り替えることで電流の増大が懸念される、高トルク領域のみに限定して、回転数変化量等に応じた制御切替変調度の切替を行うこともできる。
【0067】
さらに、制御切替変調度はマップのデータを読み出して使用するのではなく、予め制御部32に記憶された関係式(例えば比例を用いた関係式)を用いて、回転数変化量から対応する制御切替変調度を算出することもできる。その他の構成及び作用は、上記の第1の実施形態と同様である。
【0068】
また、別の実施形態として、上記の図1〜6に示した第1の実施形態と、上記の図7〜12に示した第2の実施形態とを組み合わせて使用することもできる。すなわち、別の実施形態を構成する制御部として、位相モード切替部44が閾値変更部50(図2)を有し、かつ、変調度モード切替部46が閾値変更部50(図7)を有する制御部を使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る回転電機制御システムは、燃料電池車両、ハイブリッド車両等に搭載される回転電機の制御に利用できる。
【符号の説明】
【0070】
10 回転電機制御システム、12 エンジン、14 第2モータジェネレータ(MG2)(回転電機)、16 バッテリ、18 第1モータジェネレータ(MG1)、20 第1インバータ、22 第2インバータ、24 動力分割機構、26 変速機、28 車輪、30 車軸、32 制御部、34,36 回転数センサ、38 正弦波PWM制御部、40 過変調制御部、42 矩形波制御部、44 位相モード切替部、46 変調度モード切替部、48,50 閾値変更部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の所定時間当たりの回転数を測定する測定手段と、
前記回転数の測定結果に応じて、前記回転電機の制御方法の切り替えの際に用いる制御切替閾値を変更する閾値変更手段と、
を備えることを特徴とする回転電機制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機制御システムにおいて、
前記制御切替閾値は、直交するd軸及びq軸を有し、回転電機の動作点が移動するdq平面上において、前記回転電機の制御方法を、矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替える際に用いる制御切替位相であり、
前記閾値変更手段は、前記回転数の測定結果に応じて、前記回転電機の制御方法を、矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替える際に用いる前記制御切替位相を変更することを特徴とする回転電機制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機制御システムにおいて、
前記閾値変更手段は、測定された前記回転数が、予め設定したグリップ値以上に減少したときに、前記回転数の変化量に応じて、前記回転電機の動作を電流制御で指示する場合の電流指令を結んだ電流指令線よりも遅角側で、かつ、初期切替位相よりも進角側の急変時切替位相に前記制御切替位相を変更し、測定された前記回転数が前記グリップ値以上に減少しないときには、前記制御切替位相を前記初期切替位相に設定することを特徴とする回転電機制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載の回転電機制御システムにおいて、
前記制御切替閾値は、インバータの直流電圧であるシステム電圧に対する回転電機印加電圧である線間電圧の実効値の比を変調度として、前記回転電機の制御方法を、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに切り替える際に用いる制御切替変調度であり、
前記閾値変更手段は、前記回転数の測定結果に応じて、前記回転電機の制御方法を、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに切り替える際に用いる前記制御切替変調度を変更することを特徴とする回転電機制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載の回転電機制御システムにおいて、
前記閾値変更手段は、測定された前記回転数が、予め設定したグリップ値以上に減少したときに、前記回転数の変化量に応じて初期切替変調度よりも大きい急変時切替変調度に前記制御切替変調度を変更し、測定された前記回転数が前記グリップ値以上に減少しないときには、前記制御切替変調度を前記初期切替変調度に設定することを特徴とする回転電機制御システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−62970(P2013−62970A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200441(P2011−200441)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】