説明

回転電機及び動力伝達装置

【課題】軸線方向の長さを低減可能な回転電機を提供する。
【解決手段】複数のベアリングB3、B4にて回転可能に支持された磁石ロータ19と、磁石ロータ19の内側に磁石ロータ19に対して相対回転可能なように複数のベアリングB5、B6に支持され、かつロータ巻線20bを有する巻き線ロータ20と、複数のスリップリング機構25とを備えた複合モータ14において、巻き線ロータ20の内周には空間が形成され、複数のスリップリング機構25の少なくとも一部が巻き線ロータ20の内周の空間に配置され、ベアリングB3〜B6には、内径がスリップリング機構25の径方向の大きさよりも大きいベアリングB3、B6が含まれ、ベアリングB3、B6は、スリップリング機構25の径方向外側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1ロータと、コイルを有するとともに第1ロータの内側に第1ロータに対して相対回転可能に設けられた第2ロータと、コイルと電気的に接続されて第2ロータと一体に回転する回転部材を有するとともに所定の接続対象とコイルとを電気的に接続するための電力伝達手段とを備えた回転電機、及びその回転電機を備えた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される駆動装置として、内燃機関と駆動輪との間の動力伝達経路中に回転電機を設け、その回転電機で駆動輪に伝達するトルクや回転数を制御する装置が知られている。例えば、ステータと、ステータの内側に配置されて磁石を有する第1ロータと、第1ロータの内側に配置されてコイルを有する第2ロータとが互いに相対回転可能なように同軸に設けられた回転電機を備え、その回転電機にてトルクや回転数を制御する駆動装置が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2、3が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−322499号公報
【特許文献2】特開2008−228495号公報
【特許文献3】特開2008−206320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置に設けられている回転電機では、第2ロータのコイルとインバータとを複数のスリップリングを利用して電気的に接続している。この回転電機では、複数のスリップリングが第2ロータの横に軸線方向に並ぶように設けられている。そのため、回転電機の軸線方向の長さが長くなる。
【0005】
そこで、本発明は、軸線方向の長さを低減可能な回転電機及びその回転電機を備えた動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の回転電機は、複数のベアリングにて軸線回りに回転可能に支持され、かつ内周に空間が形成された第1ロータと、前記第1ロータの内周の空間に前記第1ロータと同軸に配置されるとともに前記第1ロータに対して相対回転可能なように複数のベアリングに支持され、かつコイルを有する第2ロータと、前記コイルと電気的に接続されて前記第2ロータと一体に回転する回転部材を有し、かつ回転不能に固定された所定の接続対象と前記コイルとを電気的に接続するための電力伝達手段と、を備えた回転電機において、前記第2ロータの内周には空間が形成され、前記電力伝達手段の少なくとも一部が、前記第2ロータの内周の空間内に配置され、前記第1ロータを支持する前記複数のベアリング及び前記第2ロータを支持する複数のベアリングには、内径が前記電力伝達手段の径方向の大きさよりも大きい大径ベアリングが含まれ、前記大径ベアリングは、前記電力伝達手段の径方向外側に配置されている(請求項1)。
【0007】
本発明の回転電機によれば、電力伝達手段の少なくとも一部を第2ロータの内周の空間に配置したので、その空間に配置した分軸線方向の長さを低減できる。また、本発明によればロータを回転可能に支持するベアリングを電力伝達手段の径方向外側に配置したので、ベアリングを電力伝達手段と軸線方向に並べて配置した場合と比較して軸線方向の長さをさらに低減できる。従って、回転電機の軸線方向の長さを低減できる。
【0008】
本発明の回転電機の一形態においては、前記電力伝達手段の全体が前記第2ロータの内周の空間内に配置されていてもよい(請求項2)。この場合、電力伝達手段の全体分の軸線方向の長さを低減できる。そのため、回転電機の軸線方向の長さをさらに低減できる。
【0009】
この形態においては、前記第2ロータの回転数を検出するための回転数検出手段をさらに備え、前記回転数検出手段の径方向の大きさが前記電力伝達手段の径方向の大きさと同じに設定され、前記回転数検出手段の少なくとも一部が前記第2ロータの内周の空間内に配置されていてもよい(請求項3)。この場合、回転数検出手段を設けても回転電機の軸線方向の長さが長くなることを抑制できる。
【0010】
本発明の回転電機の一形態においては、前記電力伝達手段の一部が前記第2ロータの内周の空間内に配置され、残りの部分が前記第2ロータの内周の空間外に配置されていてもよい(請求項4)。この形態では、電力伝達手段の一部を第2ロータの内側に配置したので、その分軸線方向の長さを低減できる。一般に電力伝達手段には接続対象との間で電力を授受するために電線が接続される。この形態では残りの部分を第2ロータの外に配置したので、第2ロータの内側に配置すべき電線の長さを短縮できる。従って、電線の配置の自由度を高めることができる。
【0011】
この形態において、前記第2ロータの回転数を検出するための回転数検出手段が、前記第2ロータの内周の空間外に前記電力伝達手段と軸線方向に並ぶように設けられ、前記電力伝達手段は、前記第2ロータの内周の空間内に配置された部分から前記第2ロータの外に出るまで軸線方向に延び、かつ前記回転数検出手段に到達する前に径方向外側に延びる向きが変更されるケーブル部材を備えていてもよい(請求項5)。この形態によれば、回転数検出手段の大きさに拘わりなくケーブル部材を容易に第2ロータの外に取り出すことができる。
【0012】
本発明の回転電機の一形態においては、前記第2ロータが配置されている空間と前記電力伝達手段が配置されている空間とを仕切るためのシール部材をさらに備え、前記シール部材は、外径が前記第2ロータの内径よりも小さくかつ内径が前記電力伝達手段の径方向の大きさよりも大きくなるように形成され、前記電力伝達手段の径方向外側に配置されていてもよい(請求項6)。このようにシール部材を配置することにより、シール部材を電力伝達手段と軸線方向に並べて配置した場合と比較して回転電機の軸線方向の長さをさらに低減できる。
【0013】
本発明の回転電機の一形態においては、前記第2ロータと前記電力伝達手段との間には絶縁部材が設けられていてもよい(請求項7)。この場合、第2ロータと電力伝達手段との間の短絡を抑制できるので、第2ロータと電力伝達手段との間の径方向の隙間を小さくすることができる。そのため、回転電機の径方向の大きさを低減できる。
【0014】
本発明の動力伝達装置は、上述した回転電機を備え、前記第1ロータ又は前記第2ロータの一方が動力源と接続され、前記第1ロータ又は前記第2ロータの他方が前記動力源にて駆動される駆動対象と接続される(請求項8)。
【0015】
本発明の動力伝達装置によれば、上述した回転電機を備えているので、装置の軸線方向の長さを低減できる。そのため、車両や装置等のへの搭載性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上に説明したように、本発明の回転電機によれば、電力伝達手段の少なくとも一部を第2ロータの内側に配置するとともにベアリングを電力伝達手段の径方向外側に配置したので、軸線方向の長さを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の形態に係る回転電機が組み込まれた動力伝達装置が搭載された車両を概略的に示す図。
【図2】動力伝達装置を概略的に示す図。
【図3】スリップリング機構の周囲を拡大して示す図。
【図4】車両の発進時における動力の流れを説明するための図。
【図5】複合モータで車両を駆動しているときの動力の流れを説明するための図。
【図6】本発明の第2の形態に係る回転電機が組み込まれた動力伝達装置を概略的に示す図。
【図7】本発明の変形例に係る回転電機のスリップリング機構の周囲を拡大して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の形態)
図1〜図5を参照して本発明の第1の形態に係る回転電機が組み込まれた動力伝達装置について説明する。この動力伝達装置10は車両1に搭載される。図1は、車両1の要部を概略的に示している。車両1には、走行用動力源として内燃機関2が搭載されている。内燃機関2は自動車等の車両に搭載される周知のものであるため、詳細な説明は省略する。また、車両1には変速機3が搭載されている。変速機3は、入力軸3aと出力軸3bとの間の変速比を互いに大きさが異なる複数の変速比に切り替え可能に構成された周知のものである。そのため、詳細な説明は省略する。変速機3の出力軸3bは差動機構4を介して左右の駆動輪5と接続されている。この図に示すように動力伝達装置10は、内燃機関2と変速機3との間に設けられている。そのため、内燃機関2が本発明の動力源に相当し、変速機3が本発明の駆動対象に相当する。
【0019】
図2は動力伝達装置10の内部を概略的に示している。動力伝達装置10は、フライホイール11と、ダンパー12と、インプットシャフト13と、回転電機としての複合モータ14と、クラッチ15と、アウトプットシャフト16とを備えている。この図に示したようにこれらはケース17の内部に収容されている。この図に示すようにケース17は、その内部を軸線Axの方向に2つに分ける仕切り部材17aを備えている。仕切り部材17aは、ケース17内を内燃機関2側(図2の左側)の空間と変速機3側(図2の右側)の空間とに分ける。内燃機関2側の空間にはフライホイール11及びダンパー12が配置されている。変速機3側の空間には、インプットシャフト13、複合モータ14、クラッチ15、及びアウトプットシャフト16が配置されている。
【0020】
インプットシャフト13は、ベアリングB1を介して仕切り部材17aに軸線Axの回りに回転可能に支持されている。この図に示したようにインプットシャフト13は、内燃機関2の出力軸2aとフライホイール11及びダンパー12を介して一体回転するように接続されている。なお、フライホイール11及びダンパー12は車両用内燃機関に取り付けられる周知のものと同じであるため、説明を省略する。インプットシャフト13の内部には、複合モータ14等にオイルを供給するためのオイル供給通路13a(図3参照)が設けられている。図2に示すようにアウトプットシャフト16は、インプットシャフト13と同軸に設けられている。アウトプットシャフト16もベアリングB2を介してケース17に軸線Axの回りに回転可能に支持されている。アウトプットシャフト16は、変速機3の入力軸3aと一体に回転するように接続されている。
【0021】
複合モータ14は、円筒状のステータ18と、第1ロータとしての磁石ロータ19と、第2ロータとしての巻き線ロータ20とを備えている。この図に示すように磁石ロータ19は、ステータ18との間に所定の隙間が生じるようにステータ18の内側に設けられている。磁石ロータ19は円筒状をしており、その内周に空間が形成されている。巻き線ロータ20は、その磁石ロータ19の内周の空間に磁石ロータ19との間に所定の隙間が生じるように設けられている。巻き線ロータ20も円筒状をしており、その内周に空間が形成されている。巻き線ロータ20の内周の空間には、仕切り部材17aから軸線方向に延びる円筒状の筒部材17bが挿入されている。なお、軸線Axの方向から見たときの筒部材17bの断面形状は真円に限定されず、楕円や多角形であってもよい。インプットシャフト13は、筒部材17bの内側に配置されている。この図に示したように筒部材17bの変速機3側の端部には隔壁17cが設けられている。インプットシャフト13はその隔壁17cを通ってケース17内の変速機3側の空間に延びている。隔壁17cとインプットシャフト13との間には、それらの間の隙間をシールするシール部材としてのオイルシール21が設けられている。これにより筒部材17bの内部がケース17の変速機3側の空間に対して仕切られ、筒部材17b内へのオイルの進入が抑制される。ステータ18、磁石ロータ19、及び巻き線ロータ20は、同軸に配置されている。すなわち、これらは軸線Axの方向から見た場合に外側からステータ18、磁石ロータ19、巻き線ロータ20の順番に同心円状に配置されている。
【0022】
ステータ18は、ケース17に回転不能に固定されている。ステータ18は、ステータコア18aと、第1〜第3のステータ巻線群とを備えている。各ステータ巻線群は、それぞれ複数のステータ巻線(コイル)18bを有している。これらのステータ巻線18bは、周方向に所定の間隔で並ぶようにステータコア18aに設けられている。また、これらのステータ巻線18bは、第1のステータ巻線群のステータ巻線、第2のステータ巻線群のステータ巻線、第3のステータ巻線群のステータ巻線の順番で所定の数ずつ周方向に並ぶように配置されている。そして、これらのステータ巻線18bに三相の交流電流を流すことで、ステータ巻線18bは周方向に回転する回転磁界を発生する。
【0023】
磁石ロータ19は、磁石ロータ支持ベアリングB3、B4にて軸線Axの回りに回転可能に支持されている。そのため、磁石ロータ19は、ステータ18に対して相対回転可能に設けられている。なお、磁石ロータ支持ベアリングB3、B4はケース17に支持されている。磁石ロータ19は、連結部材22にてアウトプットシャフト16と一体に回転するように連結されている。連結部材22には、磁石ロータ19の回転数を検出するための磁石ロータ用レゾルバ23が設けられている。このレゾルバ23は、磁石ロータ19の回転数に対応した信号を出力する周知のものである。そのため、詳細な説明は省略する。磁石ロータ19は、ロータコア19aと、複数の永久磁石19b(図1参照)とを備えている。複数の永久磁石19bは、ロータコア19aに周方向に所定の間隔で並ぶように設けられている。磁石ロータ19は、ベアリングB5を介してインプットシャフト13の一端を回転可能に支持している。
【0024】
巻き線ロータ20は、巻き線ロータ支持ベアリングB6を介して軸線Axの回りに回転可能なように磁石ロータ19に支持されている。巻き線ロータ20は、連結部材24にてインプットシャフト13と一体に回転するように連結されている。そのため、巻き線ロータ20はベアリングB5を介しても磁石ロータ19に回転可能に支持されている。このように支持されることにより巻き線ロータ20は、ステータ18及び磁石ロータ19のそれぞれに対して相対回転可能に設けられている。巻き線ロータ20は、ロータコア20aと、第1〜第3のロータ巻線群とを備えている。各ロータ巻線群は、それぞれ複数のロータ巻線(コイル)20bを有している。これらのロータ巻線20bは、周方向に所定の間隔で並ぶようにロータコア20aに設けられている。また、これらのロータ巻線20bは、第1のロータ巻線群のロータ巻線、第2のロータ巻線群のロータ巻線、第3のロータ巻線群のロータ巻線の順番で周方向に並ぶように配置されている。そして、これらのロータ巻線20bに三相の交流電流を流すことで、ロータ巻線20bは周方向に回転する回転磁界を発生する。
【0025】
クラッチ15は、磁石ロータ19と巻き線ロータ20との間に設けられている。クラッチ15は、磁石ロータ19と巻き線ロータ20とが一体回転するように係合される係合状態と、磁石ロータ19と巻き線ロータ20とが別々に回転するように係合が解除される解放状態とに切り替え可能に構成されている。クラッチ15には、例えば周知の油圧式クラッチを用いればよいため詳細な説明は省略する。
【0026】
図1に示すようにステータ18は、インバータ6を介してバッテリ7と電気的に接続されている。また、巻き線ロータ20は、整流器8及び昇圧コンバータ9を介してインバータ6と電気的に接続されている。上述したように巻き線ロータ20は回転可能に設けられている。そこで、複合モータ14には、図2に示すように巻き線ロータ20と整流器8とを電気的に接続するために電力伝達手段としての3個のスリップリング機構25が設けられている。
【0027】
図3は、スリップリング機構25の周囲を拡大して示している。この図に示すように各スリップリング機構25は、回転部材としてのスリップリング26と、複数のブラシ27と、ブラシ27をスリップリング26の外周面に押し付けるためのスプリング28とを備えている。各スリップリング26は、インプットシャフト13に一体回転するように固定されている。この図に示すようにスリップリング26は、インプットシャフト13に設けられたブスバー29と電気的に接続されている。この図では1つのブスバー29しか示していないが、ブスバー29はスリップリング26と同数設けられている。これら複数のブスバー29は、互いに接触しないようにインプットシャフト13内に配置されている。ブスバー29の一端29aはインプットシャフト13の外側に露出している。その一端29aは、巻き線ロータ20に設けられている3つのロータ巻線群のうちのいずれか1つと電気的に接続されている。図示は省略したが他の2つのブスバー29も互いに異なるロータ巻線群と電気的に接続されている。これにより3つのスリップリング26のうちのいずれか1つが第1ロータ巻線群の各ロータ巻線と、他の1つが第2ロータ巻線群の各ロータ巻線と、残りの1つが第3ロータ巻線群の各ロータ巻線とそれぞれ電気的に接続される。
【0028】
複数のブラシ27は、スリップリング26の径方向外側に配置されている。図2に示すように各ブラシ27には、ケーブル30が電気的に接続されている。なお、この図では最も変速機3側(図2の右側)に設けられているスリップリング機構25のケーブル30しか示していないが、他のスリップリング機構25のブラシ27にも同様にケーブル30が接続されている。各ケーブル30の他端は整流器8に接続されている。そのため、整流器8が本発明の接続対象に相当する。
【0029】
インプットシャフト13には、巻き線ロータ20の回転数を検出するための巻き線ロータ用レゾルバ31が設けられている。そのため、この巻き線ロータ用レゾルバ31が本発明の回転数検出手段に相当する。巻き線ロータ用レゾルバ31は、インプットシャフト13の回転数に対応した信号を出力する周知のものである。そのため、詳細な説明は省略する。この図に示すように巻き線ロータ用レゾルバ31は、スリップリング機構25と軸線方向に並ぶように配置されている。巻き線ロータ用レゾルバ31の径方向(図2の上下方向)の大きさは、スリップリング機構25の径方向の大きさと同じになるように設定されている。
【0030】
各スリップリング機構25の径方向の大きさは、巻き線ロータ20の内径よりも小さくなるように設定されている。そして、図2及び図3に示すように3個のスリップリング機構25は全て巻き線ロータ20の内周の空間内に配置されている。より具体的には、3個のスリップリング機構25は全て巻き線ロータ20の内側に形成された収容室17d内に配置されている。図2に示すようにこの収容室17dは、仕切り部材17a、筒部材17b、及び隔壁17cにて区画されることにより形成されている。そして、これにより収容室17dは、ケース17内の内燃機関2側の空間及び変速機3側の空間と区分されている。巻き線ロータ用レゾルバ31の一部も同様に巻き線ロータ20の内周の空間内に配置されている。各スリップリング機構25と筒部材17bの内周面との間には、短絡を防止するために絶縁部材として円筒状の絶縁カバー32が挿入されている。ケーブル30は、絶縁カバー32とスリップリング機構25との間の隙間に配置されている。ケーブル30は、筒部材17b内においては軸線方向に延び、巻き線ロータ用レゾルバ31の径方向外側を通って仕切り部材17aを通過した後は径方向に延びるように配置されている。
【0031】
図2に示すように磁石ロータ支持ベアリングのうち内燃機関2側(図の左側)に設けられているベアリングB3には、内径がスリップリング機構25の径方向の大きさより大きいものが用いられる。また、巻き線ロータ支持ベアリングB6にも内径がスリップリング機構25の径方向の大きさより大きいものが用いられる。これらのベアリングB3、B6はスリップリング機構25の径方向外側に配置される。すなわち、ベアリングB3、B6とスリップリング機構25とが径方向に並べて配置される。そのため、これらベアリングB3、B6が本発明の大径ベアリングに相当する。
【0032】
次に図4及び図5を参照して複合モータ14及び動力伝達装置10の動作について説明する。これらの図では便宜上スリップリング機構25を巻き線ロータ20の外に示した。なお、本発明のようにスリップリング機構25を巻き線ロータ20の内側に設けても巻き線ロータ20の外側に出しても動力伝達装置10の動作については変わらない。また、これらの図では動力伝達装置10内の一部の機器の図示を省略した。これらの図において黒色の太線は機械動力の流れを示し、灰色の太線は電気動力の流れを示している。上述したように複合モータ14は、ステータ18及び巻き線ロータ20の両方に巻線(コイル)が設けられ、これらの両方で回転磁界を発生させることができる。そして、発生させた回転磁界によって磁石ロータ19を回転させることができる。すなわち、複合モータ14では、ステータ18と磁石ロータ19とによって第1モータ・ジェネレータが構成され、巻き線ロータ20と磁石ロータ19とに第2モータ・ジェネレータが構成される。動力伝達装置10は、これら2つのモータ・ジェネレータを適宜に利用して動力を伝達する。
【0033】
図4は、車両1の発進時における動力の流れを示している。なお、図4に示した状態では、内燃機関2は運転中であり、クラッチ15は解放状態に切り替えられている。このような状態から内燃機関2の回転数を上昇させると、巻き線ロータ20の回転数が上昇する。これにより巻き線ロータ20のロータ巻線20bで電気が発生し、磁力が発生する。そのため、巻き線ロータ20の回転に伴って磁石ロータ19も回転し始め、これにより変速機3に回転が伝達される。また、ロータ巻線20bで発生した電気は、スリップリング機構25を介して整流器8に送られる。その後、その電気は整流器8から昇圧コンバータ9及びインバータ6を介してステータ18に送られる。これによりステータ18で回転磁界が発生し、磁石ロータ19が回転駆動される。このように動力伝達装置10では、車両1の発進時に磁石ロータ19が巻き線ロータ20で発生した磁力及び電力の両方を利用して駆動する。これにより磁石ロータ19の駆動トルクを増幅させることができる。すなわち、この動力伝達装置10はトルクコンバータと同様に機能する。なお、巻き線ロータ20の回転数と磁石ロータ19の回転数とがほぼ同じになった場合にはクラッチ15が係合状態に切り替えられ、内燃機関2と変速機3とが接続される。このようにクラッチ15は、いわゆるロックアップクラッチとして機能する。そして、内燃機関2で車両1を駆動する場合にはこの状態が継続される。
【0034】
次に図5を参照して複合モータ14で車両1を駆動する場合について説明する。この場合、内燃機関2を停止させる。また、クラッチ15は解放状態に切り替えられる。この状態においてバッテリ7からインバータ6を介してステータ18に電気を供給する。これによりステータ18で回転磁界が発生し、磁石ロータ19が回転駆動される。そして、これにより変速機3の入力軸3aが回転駆動される。すなわち、この場合には上述した複合モータ14の第1モータ・ジェネレータを利用して車両1を駆動する。
【0035】
以上に説明したように第1の形態の複合モータ14によれば、スリップリング機構25を全て巻き線ロータ20の内周の空間に配置したので、複合モータ14の軸線方向の長さを低減できる。また、ベアリングB3、B6をスリップリング機構25の径方向外側に配置したので、それらベアリングの分の軸線方向の長さも低減できる。さらに巻き線ロータ用レゾルバ31の一部も巻き線ロータ20の内部に配置したので、その内部に配置した分の軸線方向の長さも低減できる。そして、このように複合モータ14の軸線方向の長さを低減できるので、動力伝達装置10の軸線方向の長さを低減できる。これにより車両1への搭載性を向上させることができる。
【0036】
また、この複合モータ14によれば、磁石ロータ19及び巻き線ロータ20を組み立てた後にスリップリング機構25をベアリングB3、B6が配置されている側(図2の内燃機関2側)から巻き線ロータ20の内側に挿入することができる。そのため、動力伝達装置10の組立作業の手間を軽減できる。
【0037】
第1の形態の複合モータ14では、スリップリング機構25を複合モータ14の外側に配置する場合と比較して巻き線ロータ20の外径が大きくなるため、巻き線ロータ20の回転トルクが増加する。そのため、軸線方向の長さを低減しても巻き線ロータ20で発生するトルクが低下することを抑制できる。
【0038】
第1の形態の複合モータ14では、スリップリング機構25と巻き線ロータ20との間に絶縁カバー32を設けたので、スリップリング機構25を巻き線ロータ20の近くに配置できる。そのため、複合モータ14の径方向の大きさが大きくなることを抑制できる。
【0039】
なお、この形態では巻き線ロータ用レゾルバ31の全体を巻き線ロータ20の内側に配置してもよい。この場合、複合モータ14の軸線方向の長さをさらに低減できる。
【0040】
(第2の形態)
図6を参照して本発明の第2の形態に係る回転電機について説明する。図6は、第1の形態の図2に対応する概略図である。この形態において第1の形態と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
この図から明らかなように、第2の形態では3個のスリップリング機構25のうちの2個が巻き線ロータ20の径方向内側に配置されている。そして、残りの1個が巻き線ロータ20の外に配置されている。また、巻き線ロータ用レゾルバ31も巻き線ロータ20の外に配置されている。そして、ケーブル30は、巻き線ロータ用レゾルバ31の隣に設けられているスリップリング機構25までは軸線方向に延び、その後巻き線ロータ用レゾルバ31に到達する前に径方向外側に延びるように配置されている。それ以外は、第1の形態と同じである。
【0042】
この第2の形態の複合モータ14では、3個のスリップリング機構25のうちの一部を巻き線ロータ20の径方向内側に配置したので、その分複合モータ14の軸線方向の長さを低減できる。また、この形態でも第1の形態と同様にベアリングB3、B6をスリップリング機構25の径方向外側に配置したので、それらベアリングの分の軸線方向の長さも低減できる。従って、この形態においても複合モータ14の軸線方向の長さを低減できる。また、これにより動力伝達装置10の軸線方向の長さも低減できるので、車両1の搭載性を向上できる。
【0043】
この形態では、3個のスリップリング機構25のうちの2個のみを巻き線ロータ20の内側に配置したので、スリップリング機構25と筒部材17bとの間に配置されるケーブル30の長さを短縮できる。また、ケーブル30は、巻き線ロータ用レゾルバ31の径方向外側を通らないため、そのレゾルバ31の径方向の大きさに拘わりなくケーブル30を配置することができる。従って、ケーブル30の配線の自由度を高めることができる。
【0044】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、上述した各形態ではオイルシール21がスリップリング機構25と軸線方向に並ぶように配置されているが、オイルシール21が設けられる位置はこの位置に限定されない。例えば、図7に示すようにオイルシール21をスリップリング機構25の径方向外側に設けてもよい。なお、図7において上述した各形態と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。このような位置にオイルシール21を設けることにより、複合モータ14の軸線方向の長さをさらに低減できる。
【0045】
上述した形態では、各ロータをそれぞれ2個のベアリングで回転可能に支持したがベアリングの数は2個に限定されない。3個以上のベアリングでロータを回転可能に支持してもよい。この場合にも、内径がスリップリング機構の径方向の大きさより大きいベアリングを使用し、そのベアリングをスリップリング機構の径方向外側に配置することにより回転電機の軸線方向の長さを低減できる。
【0046】
上述した形態では、本発明の回転電機を動力伝達装置に組み込んだ形態を示したが、本発明の回転電機は動力伝達装置に組み込まずに単独で使用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
2 内燃機関(動力源)
3 変速機(駆動対象)
8 整流器(接続対象)
10 動力伝達装置
14 複合モータ(回転電機)
19 磁石ロータ(第1ロータ)
20 巻き線ロータ(第2ロータ)
20b ロータ巻線
21 オイルシール(シール部材)
25 スリップリング機構(電力伝達手段)
26 スリップリング(回転部材)
30 ケーブル
31 巻き線ロータ用レゾルバ(回転数検出手段)
32 絶縁カバー(絶縁部材)
Ax 軸線
B3〜B6 ベアリング
B3、B6 大径ベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のベアリングにて軸線回りに回転可能に支持され、かつ内周に空間が形成された第1ロータと、
前記第1ロータの内周の空間に前記第1ロータと同軸に配置されるとともに前記第1ロータに対して相対回転可能なように複数のベアリングに支持され、かつコイルを有する第2ロータと、
前記コイルと電気的に接続されて前記第2ロータと一体に回転する回転部材を有し、かつ回転不能に固定された所定の接続対象と前記コイルとを電気的に接続するための電力伝達手段と、を備えた回転電機において、
前記第2ロータの内周には空間が形成され、
前記電力伝達手段の少なくとも一部が、前記第2ロータの内周の空間内に配置され、
前記第1ロータを支持する前記複数のベアリング及び前記第2ロータを支持する複数のベアリングには、内径が前記電力伝達手段の径方向の大きさよりも大きい大径ベアリングが含まれ、
前記大径ベアリングは、前記電力伝達手段の径方向外側に配置されていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記電力伝達手段の全体が前記第2ロータの内周の空間内に配置されている請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記第2ロータの回転数を検出するための回転数検出手段をさらに備え、
前記回転数検出手段の径方向の大きさが前記電力伝達手段の径方向の大きさと同じに設定され、
前記回転数検出手段の少なくとも一部が前記第2ロータの内周の空間内に配置されている請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記電力伝達手段の一部が前記第2ロータの内周の空間内に配置され、残りの部分が前記第2ロータの内周の空間外に配置されている請求項1に記載の回転電機。
【請求項5】
前記第2ロータの回転数を検出するための回転数検出手段が、前記第2ロータの内周の空間外に前記電力伝達手段と軸線方向に並ぶように設けられ、
前記電力伝達手段は、前記第2ロータの内周の空間内に配置された部分から前記第2ロータの外に出るまで軸線方向に延び、かつ前記回転数検出手段に到達する前に径方向外側に延びる向きが変更されるケーブル部材を備えている請求項4に記載の回転電機。
【請求項6】
前記第2ロータが配置されている空間と前記電力伝達手段が配置されている空間とを仕切るためのシール部材をさらに備え、
前記シール部材は、外径が前記第2ロータの内径よりも小さくかつ内径が前記電力伝達手段の径方向の大きさよりも大きくなるように形成され、前記電力伝達手段の径方向外側に配置されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項7】
前記第2ロータと前記電力伝達手段との間には絶縁部材が設けられている請求項1〜6のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の回転電機を備え、前記第1ロータ又は前記第2ロータの一方が動力源と接続され、前記第1ロータ又は前記第2ロータの他方が前記動力源にて駆動される駆動対象と接続される動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−62921(P2013−62921A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198984(P2011−198984)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】