説明

回転電機固定子

【課題】回転電機固定子において、分割コアを外筒リングで固定する際の外筒リングの内径精度を向上することである。
【解決手段】回転電機固定子10は、複数の分割コア12と、複数の分割コア12を円環状に配置して、それらの外周側を固定する外筒リング18と、各分割コア12に巻回される巻線コイル14と、巻線コイル14を複数の相配線にまとめて引き出す各相引出部16を含んで構成される。外筒リング18は、薄い肉厚の円筒状形状の筒部20と、筒部20の外周側に張り出して設けられる複数のフランジ部を有する。フランジ部は、回転電機固定子10を外部の筐体や他の装置に締結して固定する締結フランジ24,26と、外筒リング18の円環の剛性を向上させるために付加される疑似フランジ30,32を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機固定子に係り、特に、複数の円環状の分割コアの外周側を外筒リングで固定して1つのステータコアとする回転電機固定子に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の固定子であるステータとして、ステータコアを予め複数の円環状に分割し、これらを分割コアとして、それぞれ別々に製作した後に、固定用のリングで複数の分割コアを再び円環状に組立てることが行われる。この場合、複数の分割コアを円環状に組み合わせて固定するには、筒状部材が用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の取付部が設けられるフランジ付の円筒部材で分割ステータを固定するステータ組立体の構造が述べられている。ここでは、取付部のあるフランジのところで円筒部材の円環強度が高くなり、円筒部材の形状にアンバランスが生じ、真円度が低下することを指摘している。そこで、取付部のあるフランジの周方向両側に切欠部を設け、また、取付部と取付部との間の中間に中間切欠き部を設けることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、回転電機の固定子コアを円環状に分割し、その外周に円筒状のケースを嵌めて固定する構造において、薄い肉厚の円筒状のケースに鍔を設けることで周方向の剛性を高くし、これに対応して固定子コアと円筒状のケースとの間の締め代を変えることが述べられている。周方向に複数の鍔を設ける場合、鍔に対応する位置の締め代を鍔に対応しない位置の締め代よりも小さくし、円筒状のケースの軸方向の一端側に鍔を設ける場合、軸方向の一端側から他端側に向かうにつれて、締め代を次第に大きくすることが開示されている。なお、鍔は、円筒状のケースの中心軸から離れる方向に設ける例と、中心軸に向かう方向に設ける例が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−263691号公報
【特許文献2】特開2010−259315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分割コアを用いる利点としては、固定子全体の小型化が容易であること、コアを所定の形状に打ち抜く際のコア材料の歩留まりが向上することが上げられる。一方で、分割コアを用いるときの課題として、特許文献1,2にも記載されるように、真円度が低下し、ステータコアの内径精度の確保が困難である。ステータコアの内径精度は、回転電機の性能、例えば回転の一様性、静音性等に影響する。
【0007】
すなわち、複数の分割コアを円環状に組み合わせて筒状部材の内側に配置して固定するには、焼き嵌め法や圧入法が用いられる。このように筒状部材に組付けられて一体化されたステータコアの内径精度は、焼き嵌めや圧入の際の筒状部材の内径精度の影響を受け、一般的には、分割コアを用いない一体型ステータコアの内径精度よりもよくない。これに対応するため、焼き嵌めや圧入の際の締め代を調整すること等が行われる。
【0008】
本発明の目的は、分割コアを外筒リングで固定する際の外筒リングの内径精度を向上できる回転電機固定子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る回転電機固定子は、ステータコアを複数の円環状に分割したそれぞれの形状を有する複数の分割コアと、複数の分割コアを円環状に配置して、それらの外周側を固定して1つのステータコアとする筒部と、筒部の外周側に張り出して設けられる複数のフランジ部とを有する外筒リングと、を備え、外筒リングは、複数のフランジ部として、締結部を有する複数の締結フランジと、隣接する締結フランジの間に配置され、外筒リングの周方向剛性を均一化する疑似フランジと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記構成により、回転電機固定子は、筒部と、筒部の外周側に張り出して設けられる複数のフランジ部とを有する外筒リングを備え、外筒リングは、複数のフランジ部として、締結部を有する複数の締結フランジと、隣接する締結フランジの間に配置され、外筒リングの周方向剛性を均一化する疑似フランジとを含む。疑似フランジを設けることで、外筒リングの円環の剛性が向上する。これによって、疑似フランジを設けない場合に比較して、分割コアを外筒リングで固定する際の外筒リングの内径精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る実施の形態の回転電機固定子の斜視図である。
【図2】本発明に係る実施の形態における回転電機固定子の外筒リングの平面図と側面図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の回転電機固定子における外筒リングの作用効果を説明するための平面図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の回転電機固定子における外筒リングの作用効果を説明する模式図である。
【図5】図3に対する比較例として、疑似フランジを設けない場合の外筒リングの平面図である。
【図6】図5の外筒リングの円環剛性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、外筒リングの締結フランジの数が3つの場合を述べるが、勿論これは説明のための例示であって、回転電機固定子の仕様に合わせ、これ以外の数であってもよい。また、疑似フランジの数を3または4として説明するが、これも締結フランジの数が3つの場合について例示的に述べたものであって、これ以外の数であっても構わない。
【0013】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0014】
図1は、回転電機固定子10の斜視図である。この回転電機固定子10は、三相同期型回転電機の固定子として用いられるもので、円環状の形状を有し、中央部の円形空間に図示されていない回転電機の回転子が配置される。
【0015】
回転電機固定子10は、ステータコアを複数の円環状に分割したそれぞれの形状を有する複数の分割コア12と、複数の分割コア12を円環状に配置して、それらの外周側を固定して1つのステータコアとする外筒リング18と、各分割コア12に巻回される巻線コイル14と、巻線コイル14を複数の相配線にまとめて引き出す各相引出部16を含んで構成される。
【0016】
外筒リング18は、薄い肉厚の円筒状形状の筒部20と、筒部20の外周側に張り出して設けられる複数のフランジ部を有する。フランジ部は、機能的に2種類に分けられ、1つは、回転電機固定子10を外部の筐体や他の装置に締結して固定する締結フランジで、もう1つは、外筒リング18の円環の剛性を向上させるために付加される疑似フランジである。図1では、斜視図の手前に見えるものとして、締結フランジ24,26と、疑似フランジ30,32が図示されている。
【0017】
図2は、外筒リング18を抜き出して示す平面図と側面図である。ここに示されるように、締結フランジ22,24,26は、筒部20の外周側に張り出して、締結部としての穴が設けられる略三角形の鍔部である。締結フランジ22,24,26は、回転電機固定子10を三点支持で外部の筐体や他の装置に締結するために、筒部20の周方向にほぼ均等な間隔で配置されることが好ましい。勿論、回転電機固定子10の締結方法を考慮して、締結フランジ22,24,26の周方向間隔を適当に異ならせてもよい。図2の例では、締結フランジ22,26の間の周方向間隔に比べ、締結フランジ22,24の間の周方向間隔と締結フランジ26,24の間の周方向間隔がやや広めに設定されている。
【0018】
疑似フランジ30,32,34は、隣接する締結フランジの間に配置された鍔部で、締結部としての穴が設けられていないことを除き、締結フランジ22,24,26と同じ形状である。勿論、締結フランジ22,24,26と同じ形状とするために穴を設けてもよいが、その穴は、あくまで締結フランジ22,24,26と同じ形状とするためのものであって、締結部として用いられるものではない。もう1つの疑似フランジ36は、外筒リング18の円環剛性の均等化を図るためにさらに付加されたものである。図2の例では、締結フランジ22,24の間の周方向間隔が締結フランジ22,26の間の周方向間隔よりも広めであるので、締結フランジ22,24の間に、2つの疑似フランジ30,36が設けられたものである。同様の考えで、必要があれば、締結フランジ26,24の間に疑似フランジ32の他にさらにもう1つの疑似フランジを設けるものとしてもよい。
【0019】
図3と図4は、疑似フランジを設ける作用効果を模式的に説明する図である。図3に示すように、3つの締結フランジ22,24,26に対し、隣接する締結フランジの間にそれぞれ疑似フランジ30,32,34を付加した外筒リング40の平面図である。図4は、外筒リング40の円環剛性を説明する模式図である。ここでは、外筒リング40として理想的な内径形状50が真円形で示されている。外筒リング40の実際の内径形状52は、締結フランジ22,24,26と疑似フランジ30,32,34が設けられない部分の円環剛性が相対的に低いので、その部分が理想的な内径形状50に比べ外周側に延びる。しかし、締結フランジ22,24,26と疑似フランジ30,32,34が設けられる6か所の部分の円環剛性は比較的高いので、実際の内径形状52は、6角形と円形の中間の形状となる。
【0020】
図5と図6は、比較例として、疑似フランジを設けないときの様子を説明する図である。図5は図3に対応する図で、3つの締結フランジ22,24,26のみを有する外筒リング42の平面図である。図6は、外筒リング42の円環剛性を説明する模式図である。外筒リング42として理想的な内径形状50は、図4と同様に真円形で示されている。外筒リング42の実際の内径形状54は、締結フランジ22,24,26が設けられない部分の円環剛性が相対的に低いので、その部分が理想的な内径形状50に比べ外周側に延びる。締結フランジ22,24,26の3か所の部分の円環剛性は比較的高いので、実際の内径形状54は、3角形と円形の中間の形状となる。
【0021】
図4と図6を比較して分かるように、締結フランジに加え、疑似フランジを設ける外筒リングの方が、締結フランジのみの外筒リングに比べ、円環剛性が均等化し、外筒リングの内径精度が格段に向上する。このように、外筒リングの円環剛性が周方向で均一化されるので、焼き嵌めや圧入によって複数の分割コアを固定する際の締付力が均一化する。これによって、締結フランジに加えて疑似フランジを付加した構造の外筒リングを用いて分割コアを固定する際に、締め代の調整等を行う必要がなくなる。そして、回転電機として構成されるときに、静音特性等の性能の向上が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係る回転電機固定子は、車両搭載用の回転電機等に利用できる。
【符号の説明】
【0023】
10 回転電機固定子、12 分割コア、14 巻線コイル、16 各相引出部、18,40,42 外筒リング、20 筒部、22,24,26 締結フランジ、30,32,34,36 疑似フランジ、50 (理想的な)内径形状、52,54 (実際の)内径形状。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアを複数の円環状に分割したそれぞれの形状を有する複数の分割コアと、
複数の分割コアを円環状に配置して、それらの外周側を固定して1つのステータコアとする筒部と、筒部の外周側に張り出して設けられる複数のフランジ部とを有する外筒リングと、
を備え、
外筒リングは、
複数のフランジ部として、
締結部を有する複数の締結フランジと、
隣接する締結フランジの間に配置され、外筒リングの周方向剛性を均一化する疑似フランジと、
を含むことを特徴とする回転電機固定子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−55725(P2013−55725A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190398(P2011−190398)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】