説明

固体の表面エネルギーを変更する方法

本発明は、固体の少なくとも一つの表面の表面エネルギーを変更するための方法およびキットに関するものであって、前記表面上にグラフトポリマーからなる有機ポリマーフィルムをグラフトすることからなるステップを含み、各ポリマーは、開裂性アリール塩から誘導され前記表面に直接的に結合される第1ユニット、ならびに開裂性フッ素化アリール塩、フッ素化(メタ)アクリレート、およびビニル終結型シロキサンからなる群から選択される要素から誘導されるポリマー鎖の少なくとも1種の別のユニットを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理の分野に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、その表面の少なくとも一つの表面エネルギーまたは界面張力を変更するための、特にこの表面のぬれ性を変更するための、材料の恒久的処理方法を提供することを目的とする。本発明は、特に、固体と液体との間の界面特性の変更を可能にする。
【0003】
本発明は、被覆をグラフトすることによって前記表面の接触角を増加させる方法を提案し、また、このような方法を実施するためのキットを提案する。
【背景技術】
【0004】
表面は、一般に、物体の外面部分または境界として定義され、表面は、固形物体と、それを取り巻く環境(それが特に固体、液体または気体のいずれであるにせよ)との間の界面と見なされることが多い。
【0005】
所与の液体の1滴を固体の表面に置くと、その液滴は、平衡配置を採用し、表面を覆って様々な広さまで拡がる。角θ、すなわち固体表面と液滴に対する接線との間で測定される角度と定義される接触角は、3種の界面、固体/液体、固体/蒸気、および液体/蒸気の平衡張力に由来する。これらの量は、ヤングの方程式によって、互いに関連付けられる。典型的には、1つの同一表面について1組の測定を実施して、θの平均値を求める。得られた値に応じて、4つの状態に分類される:
・液体は自発的に拡がり、濡れは「完璧」であると言われる(θ=0)
・濡れは「良好」と見なされる(0<θ<90°)
・濡れは「乏しい」と言われる(90°<θ<180°)
・濡れは起こらない(θ=180°)
【0006】
接触角の測定中に巨視的スケールでなされる観察に関連する挙動は、液体の表面張力が重要な役割を演じるより小さなスケールで観察されるものと異なる可能性がある。しかし、これらの挙動は、表面を特徴付けることを可能にするので、巨視的スケールで実施された測定値の価値を減ずるものではない。
【0007】
表面の特性および挙動に関する特徴付けおよび調査は、当業者が参照することのできる文献中に豊富に記録されている。これについては、特に、P. G. de Gennesによる論文(1985)(Rev. Mod. Phys.、57巻、827〜863頁)を挙げることができる。
【0008】
表面のぬれ性は、構造体を構成する材料中に多少とも深く浸透する化合物の含浸によって変化することができる。この部類の処理は、処理される表面と含浸性化合物との間に親和性が存在することを必要とする。しかし、得られる表面が均質であることはまれである。さらに、含浸性化合物は、不安定なままであり、その耐久性を確実にするために、処理を規則的に繰り返さなければならない。木質部上にワックスを塗布することは、この部類の処理に相当する。
【0009】
被覆の塗布は、また、表面特性の変更につながる。一般に、この部類の処理は、水に対する表面のぬれ性を低減し、接触角を増大させるために塗布される。該被覆は、典型的には、樹脂に相当する。使用される基礎的製品は、特定の特性と関連したエポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、またはビニル樹脂でよい。これらの化合物の塗布は、表面と被覆との界面での強力な結合の形成につながらず、そのため、この部類の被覆の使用期間を環境に応じて短縮する。さらに、それらの被覆は、一般に、かなりの厚さを、特に被覆が数mの桁の大きな面積に塗布される場合には、特にミクロンを超える厚さを有するフィルムである。この厚さでは、未処理材料と被覆で覆われた材料との間に光学特性の相違が存在する。
【0010】
ガラスは、表面処理が大規模に使用される材料である。現在、ガラスの表面張力は、もっぱら、広範な選択の自由が存在するアルキルシロキサンをグラフトすることよって調節される。しかし、この部類のグラフト化での問題点は、特に湿気のある環境中で速やかに加水分解を受ける、ガラスとシランとの間の結合(−Si−O−Si−結合)の安定性である。この結合は、環状に応じて、特に塩基性環境中で壊れやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】FR2921516
【特許文献2】FR2897876
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】P. G. de Gennes、1985、Rev. Mod. Phys.、57巻、827〜863頁
【非特許文献2】Belangerら、2006、Chem. Mater.、18巻、4755〜4763頁
【非特許文献3】RemppおよびMerrill、Polymer Synthesis、1991、65〜86頁;HuthigおよびWepf
【非特許文献4】Mevellecら、2007、Chem.Mater.、19巻、6323〜6330頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、任意の材料に適用可能であり、かつ、こうして処理された前記材料の光学特性を変化させない、材料の表面張力を変更および/または調節するための耐久性のある処理を提供する現実的必要性が存在する。
【0014】
本発明は、前述の技術的問題および欠点を解決することを可能にする。したがって、本発明者らは、「表面張力」、「界面エネルギー」または「界面張力」とも呼ばれる表面エネルギーなどの表面特性を変更するための、材料の表面上への有機被覆のグラフト化について研究した。
【0015】
このような有機被覆のグラフト化は、材料の表面と前記有機被覆との間で安定な共有結合が形成されることを可能にし、任意の部類の材料、特にガラスに対して適用可能である。材料と被覆との間での共有結合の確立は、対の安定性を確実にし、処理の耐久性に寄与する。
【0016】
さらに、このグラフト化によって得られる有機被覆の厚さは、容易に調節可能である。したがって、該被覆は、材料の光学的特性を変化させない極めて薄いフィルムの形態で存在し得る。
【0017】
被覆される表面は、用いられるグラフト化技術が化学またはラジカルグラフト化である場合には特に、絶縁性、導電性または半導体材料に属することができる。さらに、前記グラフト化は、有機媒質中などの水を含んだ媒質中で実施することができる。これらの理由のため、本発明による方法は、任意の部類の表面に適用可能である。
【0018】
最後に、前記グラフト化の際に用いられる構造ユニットの化学的多様性は、広範な範囲の表面張力を取扱い、入手することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
したがって、本発明は、固体の少なくとも一つの表面の表面エネルギーを変更する方法に関するものであって、該方法は、前記表面上にポリマー性有機フィルムをグラフトすることからなるステップを含み、該ポリマー性有機フィルムの第1ユニットは、接着プライマーから誘導され、別の少なくとも1つのユニットは、フッ素化接着プライマー、フッ素化(メタ)アクリレート、およびビニル終結型シロキサンからなる群から選択される成分から誘導される。
【0020】
より詳細には、本発明は、固体の少なくとも一つの表面の表面エネルギーを変更する方法に関するものであって、該方法は、前記表面上にグラフトポリマーからなるポリマー性有機フィルムをグラフトすることからなるステップを含み、それぞれのポリマーは、開裂性アリール塩から誘導され前記表面に直接的に結合される第1ユニット、ならびに開裂性フッ素化アリール塩、フッ素化(メタ)アクリレート、およびビニル終結型シロキサンからなる群から選択される成分から誘導されるポリマー鎖の別の少なくとも1つのユニットを有する。
【0021】
本発明の文脈中で、「表面エネルギーを変更する」とは、特に所定の液体に関して(それが親水性または疎水性のいずれにせよ)、表面エネルギー(または「界面エネルギー」)を増加させることおよび減少させることの双方を意味する。本発明による方法は、前記の未処理表面上に置かれた同一液体の接触角と比較して、このように処理された表面上に置かれた液体の接触角を変更する(すなわち増加または減少させる)ことを可能にする。有利には、本発明による方法は、前記表面のぬれ性を変更する(すなわち、増加または減少させる)ことを可能にする方法である。
【0022】
本発明の文脈中で、「接着プライマー」とは、特定の非電気化学的または電気化学的条件下でラジカル、またはイオンとりわけカチオンを形成し、かくして化学反応に関与することのできる任意の有機分子を意味する。前記化学反応は、特に化学吸着、とりわけ化学的グラフト化または電気的グラフト化であってよい。したがって、このような接着プライマーは、非電気化学的または電気化学的条件下で、特にラジカル反応によって表面に化学吸着される能力、およびこの化学吸着の後に別のラジカルに対して反応性であるという別の機能を有する能力がある。
【0023】
接着プライマーは、開裂性アリール塩である。したがって、接着プライマーに対する本明細書中での言及は、すべて、開裂アリール塩にも適用される。開裂性アリール塩は、有利には、アリールジアゾニウム塩、アリールアンモニウム塩、アリールホスホニウム塩、アリールヨードニウム塩、およびアリールスルホニウム塩からなる群から選択される。これらの塩において、アリール基は、下記で定義される通りのRによって表すことのできるアリール基である。
【0024】
開裂性アリール塩の中でも、とりわけ、次式(I)の化合物を挙げることができる:
R−N・A (I)
式中、
Aは、一価のアニオンを表し、
Rは、アリール基を表す。
【0025】
開裂性アリール塩の、特に上式(I)の化合物のアリール基としては、有利には、それぞれが3〜8個の原子を有する1つまたは複数の芳香族またはヘテロ芳香族環からなり、一置換または多置換されていてもよい芳香族またはヘテロ芳香族の炭素含有構造を挙げることができ、ここで、1個または複数のヘテロ原子は、N、O、PまたはSでよい。1個または複数の置換基は、N、O、F、Cl、P、Si、BrまたはSなどの1個または複数のヘテロ原子、ならびに特にC1〜C6アルキル基またはC4〜C12チオアルキル基を含むことができる。
【0026】
開裂性アリール塩および特に上式(I)の化合物の範囲内で、Rは、NO、ケトン、CN、COH、およびエステルなどの電子吸引性基で置換されたアリール基から好ましくは選択される。とりわけ好ましいアリール型の基Rは、置換されていてもよいベンゼンおよびニトロベンゼンラジカルである。
【0027】
上式(I)の化合物で、Aは、ハライド(I、BrおよびClなど)、ハロボレート(テトラフルオロボレートなど)、パークロレート、およびスルホネートなどの無機アニオン、ならびにアルコレートおよびカルボキシレートなどの有機アニオンから特に選択することができる。
【0028】
式(I)の化合物としては、4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、トリデシルフルオロオクチルスルファミルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ブロモフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アミノフェニルジアゾニウムクロリド、2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウムクロリド、4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−シアノフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−カルボキシフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アセトアミドフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−フェニル酢酸ジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウムスルフェート、9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アントラセンジアゾニウムクロリド、4−ニトロナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレート、およびナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートからなる群から選択される化合物を使用するのがとりわけ有利である。
【0029】
本発明の文脈中で、「フッ素化接着プライマー」とは、少なくとも1個のフッ素原子を含む、特に1〜40個のフッ素原子、とりわけ5〜30個のフッ素原子、より詳細には10〜20個のフッ素原子を含む前記のような接着プライマーを意味する。フッ素化接着プライマーは、開裂性フッ素化アリール塩である。有利には、前記開裂性フッ素化アリール塩は、フッ素化アリールジアゾニウム塩、フッ素化アリールアンモニウム塩、フッ素化アリールホスホニウム塩、フッ素化アリールヨードニウム塩、およびフッ素化アリールスルホニウム塩からなる群から選択される。これらの塩において、フッ素化アリール基は、下記で定義される通りのR’によって表すことのできるフッ素化アリール基である。
【0030】
開裂性フッ素化アリール塩の中も、とりわけ次式(II’)の化合物を挙げることができる:
R’−N・A (II’)
式中、
・Aは、前に定義した通りの一価アニオンを表し、
・R’は、フッ素化アリール基を表す。
【0031】
開裂性フッ素化アリール塩の、および特に前記式(II)の化合物のフッ素化アリール基としては、それぞれが3〜8個の原子を有する1つまたは複数の芳香族またはヘテロ芳香族環からなり、一置換または多置換されていてもよい芳香族またはヘテロ芳香族の炭素含有構造を挙げることができ、ここで、1個または複数のヘテロ原子は、N、O、PまたはSでよく、1個または複数の置換基は、C1〜C18、より詳細にはC5〜C12のアルキル基、またはC4〜C12チオアルキル基であり、該アルキルおよびチオアルキル基は1個または複数のフッ素原子を含む。1個または複数の該アルキルまたはチオアルキル置換基は、1〜40個のフッ素原子、特に5〜30個のフッ素原子、とりわけ10〜20個のフッ素原子を含むことができる。
【0032】
本発明の文脈中で、「フッ素化(メタ)アクリレート」とは、式(III)の化合物:
CH=C(R)−C(O)O−R (III)
を意味し、式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rはアルキル基を表し、該メチル基および/またはRは、少なくとも1個のフッ素原子を含む。このアルキル基は、1〜20個の炭素原子、特に2〜15個の炭素原子、とりわけ3〜12個の炭素原子を含み、少なくとも1個のフッ素原子で好ましくは置換された、線状、分枝状または環状のアルキル基である。前記アルキル基は、1〜40個のフッ素原子、とりわけ2〜30個のフッ素原子、より詳細には5〜20個のフッ素原子を含むことができる。
【0033】
本発明の文脈中で、「ビニル終結型シロキサン」とは、交互に現れるケイ素および酸素原子からなる線状または分枝状の鎖から形成され、ビニル系ユニットを所持する、ケイ素と酸素との飽和水素化物を意味する。より詳細には、本発明の文脈中で、ビニル終結型シロキサンとは、式(IV)の化合物である:
−[OSi(R)(R)]−R (IV)
式中、
・nは、2〜200、特に5〜150、とりわけ10〜100の整数を表し、
・RおよびRは、少なくとも1つのエチレン性不飽和を有する基であり、
・RおよびRは、同一でも異なっていてもよく、1〜6個の炭素原子、特に1〜3個の炭素原子を含む、線状、分枝状または環状アルキル基を表す。
【0034】
有利には、Rは基−C(O)−Rを表し、かつ/またはRは基−C−(O)−Rを表し、ここで、RおよびRは、同一でも異なっていてもよく、2〜12個の炭素原子を含み、かつ少なくとも1つのエチレン性不飽和を有する基を表す。より詳細には、RおよびRは、同一でも異なっていてもよく、式(V)の基に相当する:
C(R)(R10)=C(R11)− (V)
式中、R、R10およびR11は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、あるいは1〜4個の炭素原子、特に1または2個の炭素原子を含む線状、分枝状または環状アルキル基を表す。より詳細には、RおよびR10は水素原子を表し、R11は水素原子またはメチル基である。
【0035】
本発明の文脈中で実施される有機フィルムは、
(i)前に定義した通りのフッ素化接着プライマー(複数可)の1種または混合物;
(ii)前に定義した通りのフッ素化接着プライマー、フッ素化(メタ)アクリレートおよびビニル終結型シロキサンを含む群から選択される成分と混合された、有利にはフッ素化されていない接着プライマー;
(iii)前に定義した通りのフッ素化接着プライマー、フッ素化(メタ)アクリレート、ビニル終結型シロキサン、およびこれらの混合物を含む群から選択されるいくつかの成分と混合された、有利にはフッ素化されていない接着プライマー、
(iv)項目(i)、(ii)および(iii)で考えた構成成分に加え、重合性モノマー、特に特許出願FR2921516中で定義されたような式(II)の重合性モノマーなどの1種(または複数の)その他の化学化合物(複数可)を含む混合物;から出発して調製することができる。
【0036】
したがって、本発明の文脈中で用いられる有機フィルムは、本質的にポリマー性またはコポリマー性であり、同一または異なる化学種からなるいくつかのモノマーユニットから、および/または接着プライマーの分子から誘導される。本発明の方法によって得られるフィルムは、該フィルムが、存在するモノマーだけでなく接着プライマーから誘導される種も組み込んでいる限りにおいて、「本質的に」ポリマーの部類に属する。本発明の文脈内の有機フィルム、より詳細には、それを構成するポリマーは、モノマーユニットの配列を有し、その配列中の第1ユニットは、接着プライマーの誘導体によって構成されるか、あるいは接着プライマーから誘導され、別のユニットは、フッ素化されたまたはフッ素化されていない接着プライマーから、および/または重合性モノマーから、特に前に定義したようなフッ素化(メタ)アクリレートおよびビニル終結型シロキサンから無差別的に誘導されるか、得られる。第2ユニットから出発する有機フィルムのユニットは、したがって、特に、フッ素化されたまたはフッ素化されていない接着プライマー、フッ素化(メタ)アクリレート、ビニル終結型シロキサン、および特許出願FR2921516中で定義されているような式(II)の重合性モノマーなどの重合性モノマーから選択される存在する成分のラジカル重合に由来する。
【0037】
実際、フッ素化されたまたはフッ素化されていない接着プライマーの分子は、ラジカル反応によって、それらが、実際にまたは概念的観点から、接着プライマーの分子から誘導される多数の繰り返しを伴うユニットから構造が本質的に形成される比較的高分子量の分子の形成をもたらすことができる限りにおいて、重合性と記述され得ることに注目すべきである。このような場合、本発明の文脈中で用いられる有機フィルムは、同一でも異なっていてもよい接着プライマーから誘導される、または得られるユニットのみからなることができる。より詳細には、有機フィルムを構成するポリマーは、同一でも異なっていてもよい接着プライマーから誘導される、または得られるユニットのみからなることができる。
【0038】
本発明の第1実施形態において、方法中で用いられるグラフト化は、化学的グラフト化である。
【0039】
用語「化学的グラフト化」とは、特に、対象の表面と共有結合型の結合を形成する能力のある、極度に反応性のある分子体(典型的には、ラジカル体)の使用を指し、前記の分子体は、それらがグラフトされることを意図する表面と無関係に作り出される。したがって、グラフト化反応は、有機フィルムで被覆される表面領域と接着プライマーの誘導体との間の共有結合の形成につながる。
【0040】
本発明の文脈中で、「接着プライマーの誘導体」とは、接着プライマーから生じる化学ユニットを意味し、接着プライマーが、任意選択でラジカル反応による別の化学化合物との化学的グラフト化によって表面と反応した後に、前記の別の化学化合物は、有機フィルムの第2ユニットを与える。したがって、有機フィルム(すなわち、それを構成するポリマー)の第1ユニットは、接着プライマーの誘導体であり、それは、表面および別の化学化合物と反応する。
【0041】
有利には、この第1実施形態は、
)前記表面を、少なくとも1種の接着プライマー(すなわち、少なくとも1種の開裂性アリール塩)、ならびにフッ素化接着プライマー(すなわち、少なくとも1種の開裂性フッ素化アリール塩)、フッ素化(メタ)アクリレートおよびビニル終結型シロキサンを含む群から選択される少なくとも1種の成分を含む溶液Sと接触させること、
)前記溶液Sを、前記接着プライマーからの(すなわち、前記開裂性アリール塩からの)ラジカル体の形成を可能にする非電気化学的条件に供すること
からなるステップを含む。
【0042】
CH、カルボニル(ケトン、エステル、酸、アルデヒド)、−OH、エーテル、アミン、ハロゲン(F、Cl、Brなど)などの、付加反応またはラジカル置換反応に参加できる1種または複数の原子(複数可)または原子からなる基(複数可)を有する無機性または有機性の表面は、特に、本発明によって扱われる。
【0043】
無機的性質の表面は、特に、金属、貴金属、金属酸化物、遷移金属、金属合金、および例えばNi、Zn、Au、Pt、Tiまたは鋼鉄などの導電性材料から選択することができる。それらは、Si、SiC、AsGa、Gaなどの半導体材料であってもよい。該方法を、SiO、AlおよびMgOなどの非導電性酸化物などの非導電性表面に適用することも可能である。より一般的には、例えば、一般にケイ酸塩を含むガラスまたはセラミックなどの非晶性材料の、およびダイアモンド、グラファイト(グラフェン、高度に配向したグラファイト(HOPG)などの多少とも組織化され得る)、または炭素ナノチューブなどの結晶性材料の無機表面を構成することができる。
【0044】
有機的性質の表面としては、特に、ラテックスまたはゴムなどの天然ポリマー、またはポリアミドまたはポリエチレンの誘導体、特にエチレン結合、カルボニル基、イミンを所持するポリマーのようにπ型の結合を有するポリマーなどの人工ポリマーを挙げることができる。該方法を、レザー、多糖類(木材または紙の場合のセルロースなど)、人工または天然繊維(綿またはフェルトなど)、およびフッ素化ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など)を含む表面などのより複雑な有機表面へ、あるいは第4級または第2級アミンおよび例えばピリジン(ポリ−4およびポリ−2−ビニルピリジン(P4VPおよびP2VP)などの塩基性基を所持するポリマー、またはより一般的には芳香族およびニトロ化芳香族基を所持するポリマーへ適用することも可能である。
【0045】
より詳細には、その表面エネルギーを変更することを望む表面は、特にビルディング、建築、自動車、窓ガラス(glazing)およびミラーガラス(mirror)工業、水槽用ガラス(aquarium glass)、メカニカルオプティックス(mechanical optics)、または光学ガラスで使用される平面ガラスなどのガラスの表面である。
【0046】
溶液Sは、さらに、溶媒を含むことができる。溶媒は、プロトン性溶媒または非プロトン性溶媒でよい。使用される接着プライマーは、溶液Sの溶媒に可溶性であることが好ましい。
【0047】
本発明の文脈中で、「プロトン性溶媒」とは、プロトンの形態で放出され得る少なくとも1個の水素原子を有する溶媒を意味する。
【0048】
プロトン性溶媒は、水、脱イオン水、蒸留水、(酸性化されたまたはされていない)酢酸、メタノールおよびエタノールなどのヒドロキシル化された溶媒、エチレングリコールなどの低分子量液状グリコール、およびこれらの混合物を含む群から有利には選択される。第1変形形態において、本発明の文脈中で使用されるプロトン性溶媒は、1種のプロトン性溶媒から、または異なるプロトン性溶媒の混合物からもっぱら構成される。別の変形形態において、プロトン性溶媒またはプロトン性溶媒の混合物は、生じる混合物がプロトン性溶媒の特徴を有するとの条件で、少なくとも1種の非プロトン性溶媒と組み合わせて使用することができる。
【0049】
本発明の文脈中で、「非プロトン性溶媒」とは、プロトン性と見なされない溶媒を意味する。このような溶媒は、極端ではない条件中で、プロトンを放出、あるいはプロトンを受け入れることができない。
【0050】
非プロトン性溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびこれらの混合物から有利には選択される。
【0051】
前に定義したような接着プライマーおよび成分を含む溶液Sは、さらに、特に前記成分の溶解性を改善するための少なくとも1種の界面活性剤を含むことができる。本発明の文脈内で使用可能な界面活性剤の正確な説明は、当業者が参照できる特許出願FR2897876中に示されている。単一の界面活性剤またはいくつかの界面活性剤の混合物を使用できる。
【0052】
接着プライマーは溶液Sの溶媒中に可溶性であることが好ましい。本発明の趣旨で、接着プライマーは、それが0.5Mの濃度まで溶けたままであるなら、すなわち、その溶解度が、標準の温度および圧力(STP)で少なくとも0.5Mに等しいなら、所定の溶媒に可溶性であると見なされる。溶解度は、所定の溶媒における所定の溶質の割合の関数としての飽和溶液の分析組成と定義され、それは、特にモル濃度として表現される。所定濃度の化合物を含む溶媒は、その濃度がこの溶媒におけるその化合物の溶解度に等しい場合に飽和されていると見なされる。溶解度は、有限であるか、あるいは無限であり得る。後者の場合、化合物は、当該溶媒にすべての比率で溶解する。
【0053】
本発明の方法により使用される溶液S中に存在する接着プライマーの量は、実験者によって要求されるように変えることができる。前記量は、特に、所望される有機フィルムの厚さ、およびフィルム中に組み込むことが可能でありかつ考え得る接着プライマーの量に関係する。したがって、溶液と接触したその表面の全体にグラフトされたフィルムを得るためには、分子の寸法を計算することによって見出すことのできる最少量の接着プライマーを使用することが必須である。本発明のとりわけ有利な実施形態によれば、液体溶液中の接着プライマーの濃度は、約10−6〜5M、好ましくは10−3〜10−1Mである。
【0054】
溶媒がプロトン性溶媒である場合、かつ有利には接着プライマーがアリールジアゾニウム塩である場合、溶液のpHは典型的には7未満である。グラフト化用の媒質と同一の媒質中で接着プライマーを調製する場合には、0〜3のpHで行うことが推奨される。必要なら、溶液のpHを、当業者に周知の1種または複数の酸性化剤によって、例えば、塩酸、硫酸などの無機酸または有機酸を使用して所望の値に調整することができる。
【0055】
接着プライマーは、前に定義したような溶液S中に存在するように導入することができ、あるいは溶液S中においてインサイチュで調製することができる。したがって、特定の実施形態において、本発明による方法は、特に接着プライマーがアリールジアゾニウム塩である場合に、接着プライマーを調製するステップを含む。前記化合物は、いくつかのアミン置換基を含むことのできるアリールアミンから出発して、酸性媒質中でのNaNOとの反応によって一般には調製される。インサイチュでの前記調製に使用できる実験条件の詳細な説明について、当業者は、Belangerらによる論文(2006)(Chem. Mater.、18巻、4755〜4763頁)を参照することができる。好ましくは、グラフト化は、次いで、アリールジアゾニウム塩を調製するための溶液中でそのまま実施される。
【0056】
フッ素化接着プライマー、フッ素化(メタ)アクリレートおよびビニル終結型シロキサンを含む群から選択される成分、特にフッ素化(メタ)アクリレートおよびビニル終結型シロキサンは、溶液Sの溶媒中に特定の比率まで溶解することができ、すなわち、この溶媒へのそれらの溶解度の値は有限である。このことは、特許出願FR2921516中で定義されているような式(II)の重合性モノマーなどの、溶液Sがさらに含む可能性のあるその他の成分に適用される。これらの成分(フッ素化接着プライマー、フッ素化(メタ)アクリレート、ビニル終結型シロキサンなど)は、したがって、溶液S中の溶媒への溶解度が有限である、特に0.1M未満、とりわけ5×10−2〜10−6Mである化合物から選択することができる。本発明は、また、前記の成分から選択される2、3、4種またはそれ以上の成分の混合物にも適用される。
【0057】
溶液S中のこれらの成分の量は、実験者よって要求されるように変えることができる。この量は、使用される溶液S中の溶媒への当該成分の溶解度を超えることができ、例えば、所定の温度、一般には室温または反応温度の溶液への前記成分の溶解度の18〜40倍に相当することができる。これらの条件では、モノマー分子を溶液中に分散させるための手段、例えば、界面活性剤または超音波を使用するのが有利である。
【0058】
接着プライマー、ならびにフッ素化接着プライマー、フッ素化(メタ)アクリレート、ビニル終結型シロキサン、および任意選択で、特許出願FR2921516中で定義されているような式(II)の重合性モノマーを含む群から選択される成分を含む溶液Sは、特に前記成分の溶解度を改善するために、さらに、少なくとも1種の界面活性剤を含むことができる。本発明の文脈内で使用可能な界面活性剤の正確な説明は、当業者が参照できる特許出願FR2897876中に示されている。単一の界面活性剤またはいくつかの界面活性剤の混合物を使用することができる。溶液Sは、さらに、エマルジョンの形態で存在することができる。
【0059】
本発明の文脈中で、本発明による方法のステップ(b)中で実施される「非電気化学的条件」とは、電圧の存在しない状態を意味する。したがって、本発明による方法のステップ(b)中で用いられる非電気化学的条件は、有機フィルムがグラフトされる表面にいかなる電圧の印加も存在しない状態で、接着プライマーからのラジカル体の形成を可能にする条件である。これらの条件は、例えば、温度、溶媒の性質、特定添加物の存在、撹拌、圧力などのパラメーターを含み、一方、電流は、ラジカル体の形成中に必要とされない。ラジカル体の形成を可能にする多くの非電気化学的条件が存在し、この部類の反応は、公知であり、先行技術の中で詳細に調べられている(RemppおよびMerrill、Polymer Synthesis、1991、65〜86頁;HuthigおよびWepf)。
【0060】
したがって、例えば、接着プライマーがラジカル体を形成するように該プライマーを不安定にするために、接着プライマーの熱的、速度論的、化学的、光化学的、または放射化学的環境に影響を及ぼすことが可能である。もちろん、これらのパラメーターのいくつかに同時的に影響を及ぼすことも可能である。
【0061】
本発明の文脈で、ラジカル体の形成を可能にする非電気化学的条件は、典型的には、熱的、速度論的、化学的、光化学的、および放射化学的条件、ならびにこれらの組合せを含む群から選択される。有利には、非電気化学的条件は、熱的、化学的、光化学的、および放射化学的条件、ならびにこれらの互いとの、および/または速度論的条件との組合せを含む群から選択される。本発明の文脈中で用いられる非電気化学的条件は、より具体的には、化学的条件である。
【0062】
熱的環境は、温度の関数である。それは、当業者によって通常的に用いられる加熱手段によって容易に調節される。熱平衡学的に調節された環境の使用は、それが反応条件の正確な調節を可能にするので、とりわけ重要である。
【0063】
速度論的環境は、本質的には、撹拌系および摩擦力に相当する。これは、分子自体の振動(結合の伸びなど)を含まないが、分子の全体的な運動を含む。圧力の印加は、接着プライマーを不安定化させて、反応性の特にラジカル種を形成することができるように、系にエネルギーを供給することを特に可能にする。
【0064】
最後に、電磁放射線、γ放射線、UV放射線、電子またはイオンビームなどの、各種形態の放射線の作用も、接着プライマーを、それがラジカルおよび/またはイオンを形成するほど十分に不安定化することができる。使用する波長は、使用するプライマーに応じて選択される。例えば、4−ヘキシルベンゼンジアゾニウムでは、約306nmの波長が使用される。
【0065】
化学的条件の文脈内で、1種または複数の化学的開始剤が反応混合物中で使用される。化学的開始剤の存在は、前に概説したような非化学的環境条件にしばしば関連付けられる。典型的には、化学的開始剤は、接着プライマーに作用し、そのプライマーからのラジカル体の形成をもたらす。その作用が、環境条件に本質的には関連付けられず、広範な範囲の熱的または速度論的条件にわたって作用することのできる化学的開始剤を使用することも可能である。開始剤は、反応環境、例えば溶媒に適合することが好ましい。
【0066】
多くの化学的開始剤が存在する。それらは、一般に、使用される環境条件に応じて3つの部類に分類される:
・熱開始剤:その最も一般的なものはパーオキシドまたはアゾ化合物である。熱作用の下で、これらの化合物は解離してフリーラジカルになる。この場合、反応は、開始剤からラジカルを形成するのに必要とされるものに相当する最低の温度で実施される。この部類の化学的開始剤は、一般に、それらの分解速度論の関数として、特定の温度範囲で特定的に使用される;
・光化学または放射化学的開始剤:それらは、照射(最も多くは、UVによるが、γ放射線または電子ビームにもよる)によってトリガーされた放射線によって励起され、種々の複雑な機構によるラジカルの産生を可能にする。BuSnHおよびIは、光化学または放射化学的開始剤である;
・本質的には化学的である開始剤:この部類の開始剤は、標準の温度および圧力で接着プライマーに迅速に作用して、そのプライマーがラジカルおよび/またはイオンを形成することを可能にする。このような開始剤は、一般に、反応条件中で使用される接着プライマーの還元電位未満であるレドックス電位を有する。したがって、プライマーの性質に応じて、開始剤は、接着プライマーの不安定化を可能にするのに十分な比率の、例えば、還元性金属(鉄、亜鉛、ニッケルなど)、メタロセン(フェロセンなど)、有機還元剤(次亜リン酸(HPO)またはアスコルビン酸など)、有機または無機塩基であることができる。有利には、化学的開始剤として使用される還元性金属は、金属ウールまたは金属削り粉などの微細に分割された形態で存在する。一般に、有機または無機塩基を化学的開始剤として使用する場合、一般には4以上のpHであれば十分である。電子ビームまたは重イオンビームで、および/または前に言及した照射手段のすべてによって前もって照射されたポリマーマトリックスなどの、ラジカル貯蔵器型の構造体を化学的開始剤として使用して、接着プライマーを不安定化し、特に、その接着プライマーからのラジカル体の形成をもたらすこともできる。
【0067】
Mevellecらによる活性種の形成に関する論文(2007)(Chem.Mater.、19巻、6323〜6330頁)を参照することが有用である。
【0068】
本発明の第2実施形態において、該方法中で用いられるグラフト化は、電気的グラフト化(electrografting)である。
【0069】
本発明の文脈中で、「電気的グラフト化」とは、導電性および/または半導体である部分を含む複合体の表面上に電気的に活性化され得る接着プライマーを、前記接着プライマーを前記複合体の表面に接触させることによって電気的に開始し局所的にグラフト化する技術を意味する。この方法において、グラフト化は、前記の導電性および/または半導体部分の、限定され、選択されたゾーン上で、単一ステップで電気化学的に実施される。前記ゾーンは、参照電極に比較して測定される閾値電位以上の電位まで高められ、前記閾値電位は、それ以上で、前記接着プライマーのグラフト化が起こる電位である。ひとたび前記接着プライマーがグラフトされると、それらのプライマーは、別のラジカルに対して反応性があり、かつ電位に無関係であるラジカル重合に乗り出すことができるもう1つの機能を所持する。
【0070】
有利には、この第2実施形態は、
)前記導電性または半導体表面を、少なくとも1種の接着プライマー(すなわち少なくとも1種の開裂性アリール塩)、ならびにフッ素化接着プライマー(すなわち少なくとも1種の開裂性フッ素化アリール塩)、フッ素化(メタ)アクリレートおよびビニル終結型シロキサンを含む群から選択される少なくとも1種の成分を含む溶液Sと接触させること、
)前記表面を、ステップ(a)中で用いられる接着プライマー(すなわち、少なくとも1種の開裂性アリール塩)の還元電位に比べてよりカソード性である電位に分極させること、
からなるステップを含み、ステップ(a)および(b)は、任意の順序で行われる。
【0071】
本発明の文脈において、「半導体」とは、金属と絶縁体の中間である電気伝導率を有する有機または無機材料を意味する。半導体の導電特性は、主として、半導体中の電荷担体(電子または正孔)によって影響される。これらの特性は、価電子帯(共有結合中に含まれる電子に対応する)および伝導帯(励起状態で半導体中を移動する能力のある電子に対応する)と呼ばれる2つの特定のエネルギー帯によって決定される。「ギャップ」とは、価電子帯と伝導帯との間のエネルギー差を意味する。半導体は、また、絶縁体または金属に対比して、それらの電気伝導率を、半導体に添加される不純物に相当するドーパントを添加することによってかなり調節することができる材料に相当する。
【0072】
本発明による方法の文脈内で処理される表面は、電気的グラフト化で通常的に用いられる任意の表面、および有利には無機性表面でよい。前記無機性表面は、金属、貴金属、金属酸化物、遷移金属、金属合金、および例えば、Ni、Zn、Au、Ag、Cu、Pt、Tiおよび鋼鉄などの導電性材料から特に選択することができる。無機性表面は、また、Si、SiC、AsGa、Gaなどの半導体材料から選択することができる。
【0073】
したがって、本発明による方法で用いられる前記無機性表面は、一般には、金属、貴金属、金属酸化物、遷移金属、金属合金、および光感受性または非光感受性半導体材料から選択される材料からなる。
【0074】
本発明の文脈で、「光感受性半導体」とは、その導電率を、電子−正孔対および電荷担体の密度に影響を及ぼす、磁界、温度、または照明の変化によって調節することができる半導体を意味する。これらの特性は、前に定義したようなギャップの存在による。このギャップは、絶縁体と見なされる材料での5 eVとは対照的に、半導体では一般に3.5 eVを超えない。したがって、ギャップを横切って担体を励起することによって、特に照明によって、伝導帯を占めることが可能である。炭素(ダイアモンドの形態の)、ケイ素、およびゲルマニウムのような周期表のIV族元素は、このような特性を有する。半導体材料は、いくつかの元素から、IV族、例えば、SiGeまたはSiCから、あるいはIIIおよびV族、例えばGaAs、InPまたはGaNから、あるいは代わりにIIおよびVI族、例えばCdTeまたはZnSeから形成することができる。
【0075】
有利には、本発明の文脈において、光感受性半導体基材は、無機性である。したがって、本発明の文脈中で用いられる光感受性半導体は、IV族元素(より詳細にはケイ素およびゲルマニウム);IV族元素の合金(より詳細には、合金SiGeおよびSiC);III族元素とV族元素との合金(「III−V」化合物と呼ばれる、AsGa、InP、GaNなど);およびII族元素とVI族元素との合金(「II−VI」化合物と呼ばれる、CdSe、CdTe、CuS、ZnSまたはZnSeなど)を含む群から選択される。好ましい光感受性半導体は、ケイ素である。
【0076】
本発明の一実施形態において、光感受性半導体を1種(または複数の)ドーパントでドープすることが可能である。ドーパントは、半導体の機能として選択され、ドーピングにはpまたはn型がある。ドーパントおよびドーピング技術の選択は、当業者にとって定型的な技術である。より詳細には、ドーパントは、ホウ素、窒素、リン、ニッケル、硫黄、アンチモン、ヒ素、およびこれらの混合物を含む群から選択される。例として、ケイ素基材の場合、最も一般的なp型ドーパントの中でも、ホウ素を、およびn型のドーパントでは、ヒ素、リンおよびアンチモンを挙げることができる。
【0077】
本発明の文脈中で用いられる表面が光感受性半導体材料に属するなら、該方法は、さらに、(c)前記表面を、そのエネルギーが前記半導体のギャップのそれに少なくとも等しい発光放射線に暴露することからなるステップをさらに含む。この特定の適用に関するさらなる詳細については、特許出願FR2921516を参照することができる。
【0078】
溶液Sに関して前に説明したすべてのこと、すなわち、溶媒、接着プライマーおよびその他の成分の量、接着プライマーのインサイチュでの調製、支持電解質および任意選択での界面活性剤の存在は、溶液Sにも同様に適用される。
【0079】
しかし、溶液Sの溶媒は、有利には、前に定義したとおりのプロトン性溶媒であることに注意すべきである。
【0080】
本発明によれば、本発明による方法のステップ(b)中で使用される電位が、用いられ表面で反応する接着プライマーの還元電位に近いことが好ましい。したがって、印加される電位の値は、接着プライマーの還元電位に比べて50%までより高くてもよく、より典型的には、それは、30%を超えない。
【0081】
本発明のこの変形形態は、種々の電極:フィルムを受け入れるように意図された表面を構成する第1作用電極、対向電極、および任意選択で参照電極を有する電解セル中で適用することができる。
【0082】
前記表面の分極は、当業者に知られた任意の技術によって、特にリニアまたはサイクリックボルタンメトリー条件、定電位もしくは動電位、定強度(intensiostatic)、定電流もしくは動電流条件下で、あるいは単純もしくはパルス化クロノアンペロメトリーによってもたらすことができる。有利には、本発明による処理は、静的またはパルス化クロノアンペロメトリー条件下で実施される。静的方式において、電極は、一般には2時間未満、典型的には1時間未満、例えば20分未満の間分極される。パルス化方式において、パルス数は、好ましくは1〜1000、さらにより好ましくは1〜100であり、それらの持続時間は、一般に、100ミリ秒〜5秒、典型的には1秒である。
【0083】
有機フィルムの厚さは、前に説明したような本発明の方法のいずれの変形形態を採用するにせよ、容易に調節することができる。ステップ(b)または(b)の持続時間、および使用される試薬の機能などのそれぞれのパラメーターに関して、当業者は、表面の光学特性を変えることなしに、所定の厚さのフィルムを得るための最適条件を、繰り返しによって決定することができる。
【0084】
有利には、本発明による方法は、化学的グラフト化または電気的グラフト化に先立って、有機フィルムを形成する予定の表面を、特にバフ掛けおよび/または艶出しによって磨く付加的ステップを含む。超音波に加え、エタノール、アセトンまたはジメチルホルムアミド(DMF)などの有機溶媒での処理が、より推奨される。
【0085】
さらに、本発明による方法は、化学的グラフト化または電気的グラフト化に続いて、グラフトされた有機フィルムを熱処理に供することからなる付加的ステップを含む。有利には、前記熱処理は、前記のグラフトされたフィルムを、60〜180℃、特に90〜150℃、とりわけ120℃程度(すなわち、120℃±10℃)の温度に1時間〜3日間、特に6時間〜2日間、とりわけ12時間〜24時間さらすことからなる。この熱処理ステップは、ストーブまたは炉中で行うことができる。
【0086】
本発明は、また、表面のぬれ性を変更するための、表面の封止性(不浸透性)を改善するための、または前記表面を腐蝕から保護するための、前に定義したような方法の使用に関する。したがって、本発明は、表面のぬれ性を変更するための、表面の封止性を改善するための、および/または表面を腐蝕から保護するための方法に関するものであり、前記方法は、前記表面の表面エネルギーを、前に定義したような方法によって変更することからなる。
【0087】
最後に、本発明は、表面の表面エネルギーを変更するための成分からなるキットの使用に関するものであり、前記キットは、
・第1区画中に、特に前に定義したような少なくとも1種の接着プライマー、
・任意選択で第2区画中に、特に前に定義したような、フッ素化接着プライマー、フッ素化(メタ)アクリレート、およびビニル終結型シロキサンを含む群から選択される成分、
・任意選択で第3区画中に、特に前に定義したような化学重合開始剤、および
・任意選択で第4区画中に、電位を生じさせるための電気的手段、を含む。
【0088】
本発明によるキットにおいて、第1区画中の接着プライマーおよび第2区画中の成分は、溶液中に存在できる。前記溶液は、より詳細には、前に定義したような溶液SおよびSである。第3区画中の化学的開始剤も、溶液中に存在できる。有利には、溶媒は、同一でも異なっていてもよく、第1および第2区画中のそれぞれの溶液中に、および任意選択で第3区画中の溶液中に含まれる。
【0089】
本発明によるキットの変形形態において、第1区画は、有利には溶液中に接着プライマーを含まず、有利には溶液中に接着プライマーの少なくとも1種の前駆体を含む。「接着プライマーの先駆体」とは、適用するのが容易な単一の操作ステップによってプライマーから分離される分子を意味すると理解されたい。この場合、キットは、その中にその前駆体からプライマーを調製するために必要な少なくとも1種の成分が存在する少なくとも1つの別の区画を任意選択で含む。したがって、該キットは、例えば、有利には溶液中に接着プライマーの前駆体であるアリールアミン、および添加することによって接着プライマーであるアリールジアゾニウム塩の形成を可能にするNaNOの溶液を含むことができる。当業者は、前駆体の使用が、反応性のある化学種の貯蔵または輸送を回避することを可能にすることを理解しているであろう。
【0090】
異なる区画中の溶液は、もちろん、同一でも異なっていてもよい、安定剤または界面活性剤などの種々のその他の薬剤を含むことができる。キットは、表面を処理するサンプルを、異なる区画からの溶液を、好ましくは特に超音波を使用して撹拌して混合することによって即席で調製される溶液の混合物と接触させるだけなので、使用するのが簡単である。有利には、モノマーを含むすなわち第2区画からの溶液のみが、超音波を受けた後に、前駆体から即席で調製された、または第1区画中に存在する接着プライマーを含む溶液と混合される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】化学的開始剤としてフェロセンを使用し、対照として役立つヘキサフルオロブチルメタクリレート(HFBM)溶液(純粋なHFBM)中に浸漬された金プレートを用いる30分間または60分間のラジカルの化学的グラフト化(chemical grafting)によって、その上に4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート(4−NBDT)およびHFBMのフィルムがグラフトされた金プレートのIR分光法による分析を示す図である。
【図2】化学的開始剤としてフェロセンを使用し、対照として役立つバージンガラスプレートを用いる30分間または60分間のラジカルの化学的グラフト化によって、その上に4−NBDTおよびHFBMのフィルムがグラフトされたガラスプレート上の1滴の水に関して測定された接触角を示す図である(7回の独立な測定値)。
【図3】ラジカルの化学的グラフト化によって、その上に4−NBDTおよびHFBMのフィルムがグラフトされたガラスプレート上の1滴の水の写真(図3A)、およびバージンガラスプレート上の1滴の水の写真(図3B)を示す図である。
【図4】化学的開始剤としてフェロセンを使用し、30分間または60分間のラジカルの化学的グラフト化によって、その上にトリデシル−フルオロオクチルスルファミルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート(MB83)のフィルムがグラフトされた金プレートのIR分光法による分析を示す図である
【図5】化学的開始剤としてフェロセンを使用し、対照として役立つバージンガラスプレートを用いる30分間または60分間のラジカルの化学的グラフト化によって、その上にMB83のフィルムがグラフトされたガラスプレート上の1滴の水に関して測定された接触角を示す図である(11回の独立な測定値)。
【図6】ラジカの化学的グラフト化によって、その上にMB83のフィルムがグラフトされたガラスプレート上の1滴の水の写真(図6A)、およびバージンガラスプレート上の1滴の水の写真(図6B)を示す図である。
【図7】化学的開始剤としてフェロセンを使用し、30分間または60分間のラジカルの化学的グラフト化によって、その上に4−NBDTおよびビニル終結型ポリジメチルシロキサン(PDMS)のフィルムがグラフトされた金プレートのIR分光法による分析を示す図である
【図8】化学的開始剤としてフェロセンを使用し、対照として役立つバージンガラスプレートを用いる30分間または60分間のラジカルの化学的グラフト化によって、その上に4−NBDTおよびPDMSのフィルムがグラフトされたガラスプレート上の1滴の水に関して測定された接触角を示す図である(10回の独立な測定値)。
【図9】ラジカの化学的グラフト化によって、その上に4−NBDTおよびPDMSのフィルムがグラフトされたガラスプレート上の1滴の水の写真(図9A)、およびバージンガラスプレート上の1滴の水の写真(図9B)を示す図である。
【図10】対照として役立つバージンガラスプレートを用いるエマルジョン中でのラジカルの化学的グラフト化によって、その上にNBDTおよびビニルポリジメチルシロキサン(ビニルPDMS)のフィルムがグラフトされたガラスプレートおよび金プレートのIR分光法による分析を示す図である。
【図11】エマルジョン中のビニル−PDMSを適用するラジカルの化学的グラフト化によって、金プレート上にグラフトされたPDMSフィルムのIR分光法による分析を示す図である。
【図12】ガラスプレート上にグラフトされたPDMSフィルムのIR分光法による分析を、金プレート上にグラフトされたPDMSフィルムのそれと比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0092】
(実施例)
(実施例I)
フェロセンを用いる4−NBDT/PHFBM対の金およびガラス上へのグラフト化
I.1.試薬
実施例Iで使用される試薬は、
・4−NBDT:FW=236.92、m=0.099g、n=0.42ミリモル、1当量;
・DMF:v=3mL;
・THF:v=60mL;
・HFBM:FW=268.13、d=1.345、v=0.5mL(97%)、n=2.4ミリモル;
・フェロセン:FW=186.034、m=0.1g(97%)、n=0.5ミリモル、1当量;である。
【0093】
I.2.プロトコール
ガラスプレートを、事前に、超音波を使用して水、エタノールおよびアセトンですすいだ。
【0094】
100mLビーカー中で、4−NBDT(99mg、4.2×10−4モル)を、THF/DMFの20:1混合物(60mL)中に磁気撹拌しながら室温で可溶化した。この黄色溶液に、HFBM(0.5mL、2.4×10−3モル)のTHF(10mL)溶液を添加した。次いで、2枚のガラスプレート、およびグラフト化の有効性をIRによって検証するための参照として使用される2枚の金プレートを、浴中に浸漬した。フェロセン(100mg、5×10−4モル)のTHF(10mL)溶液を添加した(浴の色は緑色を帯びた黒色)。ガラスプレートおよび金プレートをそれぞれ1枚ずつ30分後、および60分後に引き上げ、次いで、MQ水、エタノールおよびアセトンで逐次的にすすぎ、THF浴中に60℃で15分間浸漬した後、IR分析を始めた。
【0095】
I.3.結果
IR分光法による金プレートの分析により、予想したフィルムの存在、および30分間および60分間浸漬されたサンプルについて一定である厚さを確認した(図1)。コポリマーの特異的バンドを、1724cm−1(C=O変形)、1452cm−1(N=O変形)、1263 cm−1(CF変形)、1155 cm−1(CF変形)に見出すことができる。被覆の厚さ(%グラフト化)は、スペクトルの最も強いバンド(ここではC=O)のパーセント吸収を測定することによって見出される。
ファイル:
1610085(t=30分、金) 0.4%のグラフト化
1610085’(t=30分、ガラス) 測定されず
1610086(t=60分、金) 0.5%のグラフト化
1610086’(t=60分、ガラス) 測定されず
【0096】
下記のTable 1(表1)および図2は、バージンガラスプレート上、またはその上に4−NBDTおよびHFBMから得られる有機フィルムを30分間または60分間グラフトしたガラスプレート上に置かれた1滴の水に関して得られた接触角の値を示す(7回の独立な測定)。図3は、このグラフトされたガラスプレート上の(図3A)、またはバージンガラスプレート上の(図3B)この液滴の写真である。
【0097】
【表1】

【0098】
(実施例II)
フェロセンを用いるフッ素化ジアゾニウムの金およびガラス上へのグラフト化
II.1.試薬
実施例IIで使用される試薬は、
・MB83:FW=570.07、m=0.055g、n=9.6×10−2ミリモル、1当量;
・アセトニトリル:v=50mL;
・フェロセン:FW=186.034、m=0.1g(97%)、n=0.52ミリモル、5.4当量;である。
【0099】
II.2.プロトコール
100mLビーカー中で、MB83(55mg、9.6×10−5モル)を、アセトニトリル(50mL)中に磁気撹拌しながら室温で可溶化した。この黄色溶液に、次いで、2枚のガラスプレート、および堆積されたフィルムの厚さをIRによって検証するための参照として使用される2枚の金プレートを、浴中に浸漬した。フェロセン(100mg、5.2×10−4モル)のアセトニトリル(10mL)溶液を添加した(浴の色は暗赤色)。ピラニア(HSOとHとの2:1混合物)で前もって処理したガラスプレート、および別の金プレートを、それぞれ1枚ずつ30分後、および60分後に引き上げ、次いで、MQ水、エタノールおよびアセトンで逐次的にすすぎ、THF浴中に60℃で15分間浸漬した。サンプルを、さらに、THF浴中で2〜3分間超音波処理にかけた後、IR分析および接触角の測定を実施した。
【0100】
II.3.結果
IR分光法による金プレートの分析により、予想したフィルムの存在、および30分間および60分間浸漬されたサンプルについて一定である厚さを確認した(図4)。被覆の特異的バンドを、1264cm−1(CF変形)、1105cm−1(CF変形)に見出すことができる。被覆の厚さ(%グラフト化)は、スペクトルの最も強いバンド(ここでは1264cm−1のCFバンド)のパーセント吸収を測定することによって見出される。
ファイル:
2210081(金、30分) 4.0%のグラフト化
2210082(金、60分) 5.1%のグラフト化
2210081’(ガラス、30分) 測定されず
2210082’(ガラス、60分) 測定されず
【0101】
下記のTable 2(表2)および図5は、バージンガラスプレート上、またはその上にMB83から得られる有機フィルムを30分間または60分間グラフトしたガラスプレート上に置かれた1滴の水に関して得られた接触角の値を示す(11回の独立な測定)。図6は、前記のグラフトされたガラスプレート上の(図6A)、またはバージンガラスプレート上の(図6B)この液滴の写真である。
【0102】
【表2】

【0103】
(実施例III)
フェロセンを用いる4−NBDT/PDMS対の金およびガラス上へのグラフト化
III.1.試薬
実施例IIIで使用される試薬は、
・4−NBDT:FW=236.92、m=2.13g、n=9ミリモル、1当量;
・アセトニトリル:v=75mL;
・CHCl(DCM):v=75mL;
・PDMS:FW=25000、d=0.965、v=12.0mL、n=0.46ミリモル、0.05当量;
・フェロセン:FW=186.034、m=1.0g(97%)、n=5.2ミリモル、0.58当量;である。
【0104】
III.2.プロトコール
100mLビーカー中で、4−NBDT(2.13g、9×10−3モル)を、アセトニトリル(75mL)中に磁気撹拌しながら室温で可溶化した。この黄色溶液に、PDMS(ビニル終結型ポリジメチルシロキサン)(12.0mL、4.6×10−4モル)のジクロロメタン(75mL)溶液を添加し、黄色エマルジョンを形成した。次いで、前もってピラニアで処理した2枚のガラスプレート、およびグラフトポリマーの存在のIRでの確認のための参照として使用される2枚の金プレートを浴中に浸漬した。フェロセン(1g、5.2×10−3モル)のDCM(20mL)溶液を添加した(浴の色は緑色を帯びた黒色)。ガラスおよび金の2枚のプレートのバッチを30分後に、残りを60分後に引き上げた。これらのプレートを、MQ水、エタノールおよびアセトンで逐次的にすすぎ、ヘキサン浴中に60℃で15分間浸漬した。サンプルを、さらに、ヘキサン浴中で2〜3分間超音波処理にかけた後、IR分析および接触角の測定を実施した。
【0105】
III.3.結果
IR分光法による金プレートの分析により、予想したフィルムの存在、時間の関数として増加する厚さを確認した(図7)。被覆の特異的バンドを、1264cm−1(Si−O変形)、1107cm−1(Si−O変形)に見出すことができる。被覆の厚さ(%グラフト化)は、スペクトルの最も強いバンド(ここでは1264cm−1のSi−Oバンド)のパーセント吸収を測定することによって見出された。
ファイル:
2410081(t=30分、金) 1.0%のグラフト化
2410082(t=60分、金) 5%のグラフト化
2410081’(t=30分、ガラス) 測定されず
2410082’(t=60分、ガラス) 測定されず
【0106】
下記のTable 3(表3)および図8は、バージンガラスプレート上、またはその上に4−NBDTおよびPDMSから得られる有機フィルムを30分間または60分間グラフトしたガラスプレート上に置かれた1滴の水に関して得られた接触角の値を示す(10回の独立な測定)。図9は、前記のグラフトされたガラスプレート上の(図9A)、またはバージンガラスプレート上の(図9B)この液滴の写真である。
【0107】
【表3】

【0108】
60分間処理されたガラスのサンプルを、ストーブ中、120℃で18時間アニールした。この処理により、接触角の平均値が10°増加する。
【0109】
(実施例IV)
エマルジョン中のビニルPDMS(ビニルポリジメチルシロキサン)のガラスプレー上へのグラフト化
20mLの脱イオン水および0.092gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)を、磁気撹拌子を備えたビーカー中へ注いだ(1.2×10−2M)。10分間激しく撹拌した後、1.4mLのビニルPDMS(MW約25000)を導入し、撹拌を10分間継続した。次いで、混合物に、0.075gのNBDT(ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレートを添加した(1.48×10−2M)。次いで、処理すべきプレート(顕微鏡スライド)を溶液中に60分間浸漬した。最後に、反応混合物に0.1mLの新たに調製した10−2Mのアスコルビン酸溶液を添加した(すなわち1.35×10−3M)。
【0110】
プレートをトルエン(PDMSの良溶媒)中で2分間超音波処理した後に実施したFTIRスペクトル分析は、PDMS(2963cm−1および1260cm−1にSi−CHバンド)の存在を示す。スペクトルを、同様に処理された金プレートで得られたスペクトル、およびバージンガラスプレートのスペクトルと比較した(図10)。
【0111】
バージンガラスプレート、前記のプロトコールにより処理されたガラスプレート、および同様の処理にかけられた金プレートの接触角の値は、それぞれ、28.7±4.4、100±4.6、および96.8±3.8であった。
【0112】
(実施例V)
SDSまたはSDBSの存在下でのエマルジョン中のビニルPDMSの金プレートおよびガラスプレート上へのグラフト化
20mLの脱イオン水および0.050gのSDSを、磁気撹拌子を備えたビーカー中へ注いだ(すなわち、1.3×10−2M)。10分間激しく撹拌したのち、1.4mLのビニルPDMS(MW約25000)を導入し、撹拌を10分間継続した。次いで、反応混合物に0.075gのNBDTを添加した(1.48×10−2M)。次いで、処理すべき金またはガラスプレートを、溶液中に60分間浸漬した。最後に、反応混合物に、0.2mLの新たに調製した0.3Mアスコルビン酸溶液を添加した(すなわち2.7×10−3M)。
【0113】
金プレートをトルエン中で2分間超音波処理した後に実施したFTIRスペクトル分析は、PDMSの存在を示した。Si−CHバンドが、2962cm−1(非対称伸縮)、1412cm−1(対称伸縮)および1260cm−1(変形)に現れる(図11)。シロキサン官能基SiOSiの1080cm−1および1010cm−1の2つの強い伸縮バンドの存在は、長鎖ポリマーが使用されていることの証拠である。
【0114】
ガラスプレート上では、図12でわかるように、極めて大きなSi−O−Siバンドが存在するため、FTIRスペクトルの分解能は、より低い。
【0115】
バージンガラスプレート、前記のプロトコールにより処理されたガラスプレート、および同様の処理にかけられた金プレートの接触角の値は、それぞれ、28.7±4.4、100±4.6、および96.8±3.8であった。
【0116】
実験は、SDSおよびSDBSを用い、反応混合物中のビニル−PDMSの量を変え、サンプルに対してトルエン中での超音波処理の前に120℃で1時間のアニーリングを適用して、または適用しないで実施した。結果を下記のTable 4(表4)に示す。
【0117】
試薬の量、および実験プロトコールは、前記のそれに一致し、すべての場合において、1.25×10−2Mの乳化剤濃度、1.5×10−2MのNBDT濃度、および1.35×10−2Mのアスコルビン酸濃度に等しい。
【0118】
【表4】

【0119】
双方の乳化剤で、0.6mLまたは2.8mLのビニル−PDMSを使用して、類似の結果が得られることがわかる。しかし、より大きな量のPDMSは、層の疎水性を向上する。対照的に、アニーリングは、疎水性を向上させる、より均一な層の形成を促進すると思われる。
【図3A】

【図3B】

【図6A】

【図6B】

【図9A】

【図9B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体の少なくとも一つの表面の表面エネルギーを変更する方法であって、前記表面上にグラフトポリマーからなるポリマー性有機フィルムをグラフトすることからなるステップを含み、各ポリマーが、開裂性アリール塩から誘導され前記表面に直接的に結合される第1ユニット、ならびに開裂性のフッ素化アリール塩、フッ素化(メタ)アクリレートおよびビニル終結型シロキサンからなる群から選択される成分から誘導されるポリマー鎖の少なくとも1種の別のユニットを有する方法。
【請求項2】
前記開裂性アリール塩が、アリールジアゾニウム塩、アリールアンモニウム塩、アリールホスホニウム塩、アリールヨードニウム塩およびアリールスルホニウム塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記開裂性フッ素化アリール塩が、式(II’)の化合物:
R’−N・A (II’)
[式中、
・Aは、一価のアニオンを表し、
・R’は、それぞれ3〜8個の原子を有する1つまたは複数の芳香族またはヘテロ芳香族環からなり、一置換または多置換されていてもよい芳香族またはヘテロ芳香族炭素含有構造を表し、ここで、1個または複数のヘテロ原子は、N、O、PまたはSであってよく、1個または複数の置換基は、C1〜C18アルキル基またはC4〜C12チオアルキル基であり、前記アルキルおよびチオアルキル基は、1個または複数のフッ素原子を含む]
であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記フッ素化(メタ)アクリレートが、式(III)の化合物:
CH=C(R)−C(O)O−R (III)
[式中、
は水素原子またはメチル基を表し、Rはアルキル基を表し、
前記メチル基および/またはRは、少なくとも1個のフッ素原子を含む]
であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルキル基が、少なくとも1個のフッ素原子で置換され、かつ1〜20個の炭素原子、特に2〜15個の炭素原子、とりわけ3〜12個の炭素原子を含む、線状、分枝状または環状アルキル基であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ビニル終結型シロキサンが、式(IV)の化合物:
−[OSi(R)(R)]−R (IV)
[式中、
・nは、2〜200、特に5〜150、とりわけ10〜100の整数であり、
・RおよびRは、少なくとも1つのエチレン性不飽和を有する基であり、
・RおよびRは、同一でも異なっていてもよく、1〜6個の炭素原子、特に1〜3個の炭素原子を含む線状、分枝状または環状アルキル基を表す]
であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記基Rが、基−C(O)−Rを表し、かつ/または前記基Rが、基−O−C(O)−Rを表し、ここで、RおよびRが、同一でも異なっていてもよく、2〜12個の炭素原子を含み、かつ少なくとも1つのエチレン性不飽和を有する基を表すことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
およびRが、同一でも異なっていてもよく、式(V)の基:
C(R)(R10)=C(R11)− (V)
[式中、R、R10およびR11は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、あるいは1〜4個の炭素原子、特に1または2個の炭素原子を含む線状、分枝状または環状アルキル基を表す]
に相当することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記グラフト化が、化学的グラフト化であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
)前記表面を、少なくとも1種の開裂性アリール塩、ならびに開裂性フッ素化アリール塩、フッ素化(メタ)アクリレートおよびビニル終結型シロキサンを含む群から選択される少なくとも1種の成分を含む溶液Sと接触させる段階;
)前記溶液Sを、前記開裂性アリール塩からのラジカル体の形成を可能にする非電気化学的条件に供する段階
からなるステップを含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記表面が、特にビルディング、建築、自動車、窓ガラスおよびミラーガラス工業、水槽用ガラス、メカニカルオプティックス、または光学ガラスにおいて使用される平面ガラスなどのガラス表面であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記グラフト化が、電気的グラフト化であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
)導電性または半導体表面を、少なくとも1種の開裂性アリール塩、ならびにフッ素化アリール塩、フッ素化(メタ)アクリレートおよびビニル終結型シロキサンを含む群から選択される少なくとも1種の成分を含む溶液Sと接触させる段階;
)前記表面を、段階(a)中で用いられる開裂性アリール塩の還元電位に比べてよりカソード性である電位で分極させる段階
からなるステップを含み、段階(a)および(b)が、任意の順序で行われることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
化学的グラフト化または電気的グラフト化に先立って、前記表面を洗浄する付加的ステップを含むことを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
化学的グラフト化または電気的グラフト化に続いて、グラフトされた有機フィルムを熱処置に供することからなる付加的ステップを含むことを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
表面のぬれ性を変更するための、表面の封止性を改善するための、および/または表面を腐蝕から保護するための方法であって、前記表面の表面エネルギーを、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法によって変更することからなる方法。
【請求項17】
表面の表面エネルギーを変更するための成分からなるキットの使用であって、前記キットが、
・第1区画中に、特に請求項2で定義したような少なくとも1種の開裂性アリール塩;
・任意選択で第2区画中に、特に請求項3で定義したような、開裂性フッ素化アリール塩、特に請求項4または5で定義したようなフッ素化(メタ)アクリレート、および特に請求項6から8のいずれか一項で定義したようなビニル終結型シロキサンからなる群から選択される成分;
・任意選択で第3区画中に、化学重合開始剤;ならびに
・任意選択で第4区画中に、電位を生じさせるための電気的手段
を含む使用。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−522663(P2012−522663A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502707(P2012−502707)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054473
【国際公開番号】WO2010/112610
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)
【Fターム(参考)】