説明

固体型二次電池の製造方法及び当該製造方法に基づく固体型二次電池

【課題】炭化ケイ素及び窒化ケイ素を正電極及び負電極とし、イオン交換樹脂又はイオン交換無機物を非水電解質とする固体型二次電池に特に適合するような印刷方法による製造方法及び当該製造方法に基づく固体型二次電池を提供すること。
【解決手段】炭化ケイ素及び窒化ケイ素を正極及び負極とし、イオン交換樹脂又はイオン交換無機物に非水電解質とする固体型二次電池を、正極層、負極層、非水電解質層を構成する素材の各顔料粉末100重量部とし、水溶性シリコン樹脂を1〜50重量部とし、水を10〜100重量部としたうえで、前記各含量粉末を、水溶性シリコン樹脂及び水に配合することによって、正極印刷層2、負極印刷層3、非水電解質印刷層4を作製したうえで、これらの各印刷層を順次積層印刷し、かつ乾燥したことによる固体型二次電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極として窒化ケイ素及び炭化ケイ素を採用している固体型二次電池を印刷技術を用いて製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願の発明者は、正極を化学式をSiCとする炭化ケイ素とし、負極を化学式をSiとする窒化ケイ素とし、その間にイオン交換樹脂又はイオン交換無機物による非水電解質を介在させている固体型二次電池の構成を特願2010−168403出願において提唱し、当該発明は、既に第4685192号特許として成立している(以下当該特許発明を「先願発明1」と略称する。)。
【0003】
本願の発明者は、更に正極を化学式をSiとする窒化ケイ素とし、負極を化学式をSiCとする炭化ケイ素とし、その間にイオン交換樹脂又はイオン交換無機物による非水電解質を介在させている固体型二次電池の構成を、特願2010−285293出願において提唱し、当該発明は、既に第4800440号特許として成立している(以下当該特許発明を「先願発明2」と略称する。)。
【0004】
先願発明1及び同2は、低いコストでありながらリチウムを負極とする固体型二次電池に匹敵する程度の起電圧を確保し得る一方、電池を廃棄した場合においても、リチウム電池のような環境上の問題を生じない点において多大な利点を有している。
【0005】
しかるに、先願発明1及び同2における固体型二次電池の製造方法に関する実施形態は、予め正電極集電層及び負極集電層を金属スパッタリングによって形成したうえで、これらの集電層に対し、前記各電極を構成する化合物を真空蒸着によって形成し、正極層又は負極層に対するコーティングによって、非水電解質層を形成していた。
【0006】
言うまでもなく、上記実施形態の製造方法は、作業効率として決して良好ではない。
他方、特許文献1及び同2は、固体型二次電池において非水電解質層を印刷によって成形する構成を提唱しているが、正極及び負極まで印刷によって成形する構成を提唱している訳ではない。
【0007】
これに対し、非特許文献1は、電解質だけでなく、正極及び負極についても印刷によって成形することを明らかにしている。
【0008】
しかしながら、インクの母材となるバインダー及び溶剤の構成は不明であり、しかもリチウム(Li)を負極としており、先願発明1及び同2の構成を前提としていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−67236号公報
【特許文献2】特許第4295617号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】三重県産業支援センター発行「TECH−ON!1」及び「TECH−ON!2」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、炭化ケイ素及び窒化ケイ素を正電極及び負電極とし、イオン交換樹脂又はイオン交換無機物を非水電解質とする固体型二次電池に特に適合可能である印刷方式を採用した製造方法及び当該製造方法に基づく固体型二次電池を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の基本構成は、
1 充電に際し正極においてケイ素の陽イオン(Si+)を発生し、負極においてケイ素の陰イオン(Si-)を発生する固体型二次電池を以下の工程に従って製造する方法、
(1)化学式をSiCとする炭化ケイ素による正極用顔料粉末、化学式をSiとする窒化ケイ素による負極用顔料粉末、スルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、アニオン性である四級アンモニウム基(−N(CHOH)、置換アミノ基(−NH(CH)を結合基として有しているポリマーの何れかのイオン交換樹脂による非水電解質用顔料粉末をそれぞれ100重量部とし、水溶性シリコン樹脂によるバインダーを1〜50重量部、水による溶剤を10〜100重量部とする配合割合に設定したうえで、前記正極用顔料粉末、及び負極用顔料粉末、非水電解質用顔料粉末をそれぞれ前記バインダー及び前記溶剤に配合することによって、正極印刷層、負極印刷層、非水電解質印刷層を作製する工程、
(2)正極印刷層、非水電解質印刷層、負極印刷層の順序、又は負極印刷層、非水電解質印刷層、正極印刷層の順序にて積層印刷を行う工程、
(3)前記(2)の積層印刷に基づく積層体を乾燥する工程、

2 充電に際し正極においてケイ素の陽イオン(Si+)を発生し、負極においてケイ素の陰イオン(Si-)を発生する固体型二次電池を以下の工程に従って製造する方法、
(1)化学式をSiCとする炭化ケイ素による正極用顔料粉末、化学式をSiとする窒化ケイ素による負極用顔料粉末、塩化スズ(SnCl)、酸化ジルコニウムマグネシウムの固溶体(ZrMgO)、酸化ジルコニウムカルシウムの固溶体(ZrCaO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、シリコン−βアルミナ(Al)、一酸化窒素炭化ケイ素(SiCON)、リン酸ジルコニウム化ケイ素(SiZrPO)のイオン交換無機物による非水電解質用顔料粉末をそれぞれ100重量部とし、水溶性シリコン樹脂によるバインダーを1〜50重量部、水による溶剤を10〜100重量部とする配合割合に設定したうえで、前記正極用顔料粉末、及び負極用顔料粉末、非水電解質用顔料粉末をそれぞれ前記バインダー及び前記溶剤に配合することによって、正極印刷層、負極印刷層、非水電解質印刷層を作製する工程、
(2)正極印刷層、非水電解質印刷層、負極印刷層の順序、又は負極印刷層、非水電解質印刷層、正極印刷層の順序にて積層印刷を行う工程、
(3)前記(2)の積層印刷に基づく積層体を乾燥する工程、

3 放電に際し負極において、ケイ素の陽イオン(Si+)と電子(e-)とが放出され、正極において空気中の窒素分子(N)及び酸素分子(O)が、化学式をSiとする窒化ケイ素及び負極から到来したケイ素の陽イオン(Si+)並びに電子(e-)と化学結合を行い、充電に際し負極においてケイ素の陽イオン(Si+)と電子(e-)が吸収され、正極において窒素分子及び酸素分子による前記化学結合が分解し、かつ当該窒素分子及び酸素分子が空気中に放出されるという反応を伴う固体型二次電池を以下の工程に従って製造する方法、
(1)化学式をSiとする窒化ケイ素による正極用顔料粉末、化学式をSiCとする炭化ケイ素による負極用顔料粉末、スルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、アニオン性である四級アンモニウム基(−N(CHOH)、置換アミノ基(−NH(CH)を結合基として有しているポリマーの何れかのイオン交換樹脂による非水電解質用顔料粉末をそれぞれ100重量部とし、水溶性シリコン樹脂によるバインダーを1〜50重量部、水による溶剤を10〜100重量部とする配合割合に設定したうえで、前記正極用顔料粉末、及び負極用顔料粉末、非水電解質用顔料粉末をそれぞれ前記バインダー及び前記溶剤に配合することによって、正極印刷層、負極印刷層、非水電解質印刷層を作製する工程、
(2)正極印刷層、非水電解質印刷層、負極印刷層の順序、又は負極印刷層、非水電解質印刷層、正極印刷層の順序にて積層印刷を行う工程、
(3)前記(2)の積層印刷に基づく積層体を乾燥する工程、

4 放電に際し負極において、ケイ素の陽イオン(Si+)と電子(e-)とが放出され、正極において空気中の窒素分子(N)及び酸素分子(O)が、化学式をSiとする窒化ケイ素及び負極から到来したケイ素の陽イオン(Si+)並びに電子(e-)と化学結合を行い、充電に際し負極においてケイ素の陽イオン(Si+)と電子(e-)が吸収され、正極において窒素分子及び酸素分子による前記化学結合が分解し、かつ当該窒素分子及び酸素分子が空気中に放出されるという反応を伴う固体型二次電池を以下の工程に従って製造する方法、
(1)化学式をSiとする窒化ケイ素による正極用顔料粉末、化学式をSiCとする炭化ケイ素による負極用顔料粉末、塩化スズ(SnCl)、酸化ジルコニウムマグネシウムの固溶体(ZrMgO)、酸化ジルコニウムカルシウムの固溶体(ZrCaO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、シリコン−βアルミナ(Al)、一酸化窒素炭化ケイ素(SiCON)、リン酸ジルコニウム化ケイ素(SiZrPO)のイオン交換無機物による非水電解質用顔料粉末をそれぞれ100重量部とし、水溶性シリコン樹脂によるバインダーを1〜50重量部、水による溶剤を10〜100重量部とする配合割合に設定したうえで、前記正極用顔料粉末、及び負極用顔料粉末、非水電解質用顔料粉末をそれぞれ前記バインダー及び前記溶剤に配合することによって、正極印刷層、負極印刷層、非水電解質印刷層を作製する工程、
(2)正極印刷層、非水電解質印刷層、負極印刷層の順序、又は負極印刷層、非水電解質印刷層、正極印刷層の順序にて積層印刷を行う工程、
(3)前記(2)の積層印刷に基づく積層体を乾燥する工程、

5 前記1、2、3、4の何れかの製造方法によって製造された固体型二次電池、
からなる。
【発明の効果】
【0013】
前記1、2、3、4、5の基本構成による本発明においては、各印刷層の積層によって効率的に固体型二次電池を製造することができる。
【0014】
のみならず、バインダーが水溶性であることによって所定の極性を有することから、乾燥後バインダーが残留した場合に、非水電解質の極性に基づく導電機能を低下させる程度を少なくすることも可能となる。
【0015】
しかも、印刷用のバインダーとして、水溶性シリコン樹脂を採用したうえで、溶剤として水を採用した結果、乾燥工程において当該水が蒸発することから、有機溶剤を使用する場合のように、乾燥後も当該有機溶剤が残留することを原因として各印刷層における導電率の低下による弊害を少なくすることができる。
【0016】
更には、バインダーが水溶性シリコン樹脂であることから、正極用顔料粉末及び負極用顔料粉末の素材である炭化ケイ素及び窒化ケイ素が均一に溶解し易い状況にある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】シリコン樹脂を例示する化学構造式であって、(a)はシリコンゴムの構造を示しており、(b)はシリコンレジン(シリコンワニス)の構造を示す。
【図2】基本構成1、2、3、4の固体型二次電池の製造方法における印刷工程を示す断面図。
【図3】実施例の充放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明においては、基本構成1、2、3、4の工程(2)のように、正極印刷層2、非水電解質印刷層4、負極印刷層3の順序又は当該順序と逆転した順序に基づく印刷によって積層しているが、前記工程(1)のように各印刷層におけるバインダーとして、水溶性シリコン樹脂を採用し、溶剤として水を採用していることを特徴としている。
【0019】
このようなバインダー及び溶剤の採用に基づく技術上の利点は、発明の効果において既に指摘したとおりである。
【0020】
基本構成1、2、3、4、5の何れにおいても、正極、負極及び非水電解質を構成する素材の顔料粉末をそれぞれ100重量部と設定し、水溶性シリコン樹脂によるバインダーを1〜50重量部、水による溶剤を10〜100重量部と設定することを要件としている。
【0021】
前記配合割合について説明するに、水溶性シリコン樹脂の重量比が50重量部を超える場合には、積層印刷によって固体型二次電池を形成した後において、正極、負極及び非水電界質を構成する素材の占める割合が小さいことに帰し、各電極における充放電機能及び非水電解質における導電機能が不十分とならざるを得ない。
【0022】
これに対し、水溶性シリコン樹脂の重量比が1重量部未満の場合には、電極、負極及び非水電解質層を形成した場合の素材相互の接着が不十分であって、十分な機械的強度の確保に支障が生ずる場合がある。
【0023】
即ち、前記バインダーの重量比は、充放電機能及び導電機能と機械的強度の双方の両立に立脚している。
尚、各印刷層における水溶性シリコン樹脂の配合割合を10重量部とした場合、即ち各顔料粉末が、各印刷層において約91重量%の場合には、双方を確実に両立することができる。
【0024】
水による溶剤の占める割合を10〜100重量部と設定するのは、1〜50重量部の配合割合による水溶性シリコン樹脂を溶融したうえで、前記各顔料粉末を離脱可能なインクとするために適切な数値範囲であることに由来している。
【0025】
具体的に説明するに、水溶性シリコン樹脂を最大量とし、水を最小量とすることによる双方の混合による重量部が101重量部であって、最も濃厚なバインダーの状態から、水溶性シリコン樹脂を最大量とし、水を最小量として、双方の混合による重量部が50+10=60重量部であって、最も希薄なバインダーの状態に到るまでの範囲内において、前記各顔料粉末を配合したうえで、印刷可能なインクを形成し得ることを根拠としている。
【0026】
近年、シリコン樹脂は多面的な用途に採用されているが、縮合重合反応における基本化学式は、(RSiO(4−n)/2によって表現されている(尚、前記Rは複数種類の元素又は結合基を選択することが可能であり、通常は、有機化合物における結合基を選択する場合が多いが、水溶性シリコンゴムの場合には、後述するように、必ずしも有機化合物における結合基に限定される訳ではない。)。
そして、シリコンゴムについては、図1(a)に例示するとおりであり、シリコンレジン(シリコンワニス)の場合は、図1(b)に例示するとおりである(前記のように、Rについては、複数種類の元素又は結合基を選択することができる。)。
【0027】
水溶性シリコン樹脂は、大抵の場合、前記一般式におけるRの1/2以上について、水素原子(H)を選択することによって実現することができる。
特に、水溶性シリコン樹脂として、SiH結合を有するシロキサン、又は前記結合において水素の一部を塩素(Cl)、臭素(Br)、フッ素(F)によるハロゲン原子又はナトリウム(Na)、カリウム(K)によるアルカリ金属によって置換するか、又は前記結合によって水素の1/2以下を、有機化合物における結合基に置換していることを特徴とする実施形態を好適に採用することができる。
【0028】
非水電解質印刷層4に導電性フィラーを配合していることを特徴とする実施形態を採用した場合には、非水電解質印刷層4において良好な導電性を確保することができる。
【0029】
前記導電性フィラーとしては、金属微粉末、導電性カーボンブラック粉末、炭素繊維粉末が典型例の何れをも採用することができる。
【0030】
基本構成1、2、3、4における印刷方法は、特に限定されている訳ではなく、スクリーン印刷、平版印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷等の典型例の何れをも採用することができる。
【0031】
積層印刷を効率的に実現するためには、図2に示すように、ローラー5によって移動する離型紙1の両側に、各ローラー5から離脱する各印刷層を積層する実施形態が好適に採用されている。
【0032】
尚、正極印刷層2、負極印刷層3及び非水電解質印刷層4の場合には、これらの印刷層を形成するインクをローラーの回転中心及びその近傍領域51から注入し、ローラー5の表面から順次噴出させることによって、ローラー5から離脱した段階において、所定の厚みを有する印刷層を形成させることになる。
【0033】
図2に示す前記実施形態において、積層した各印刷層に剥離紙からの剥離を円滑に実現するために、最初に離型紙1の両側にアルミ箔膜6を配置したうえで、更にその両外側に基本構成1、2、3、4の(2)記載の順序による印刷層を積層すると良い。
実際に採用する固体型二次電池は、正極及び負極の破損又は損傷を防止するため、両極の外側にそれぞれ正極集電層及び負極集電層を形成する場合が多い。
【0034】
このような各集電層の形成を実現するために、本発明においては通常、グラファイト粉末又はグラファイト繊維粉末を100重量部とし、水溶性シリコン樹脂によるバインダーを1〜50重量部、水による溶剤を10〜100重量部とする配合割合に設定したうえで、グラファイト粉末又はグラファイト繊維粉末を前記バインダー及び前記溶剤に配合することによって、正極集電印刷層及び負極集電印刷層をそれぞれ作製し、(2)の印刷工程において、正極集電印刷層を正極印刷層2の外側に印刷し、かつ負極集電印刷層を負極印刷層3の外側に印刷することによって、正極及び負極を保護する実施形態が好適に採用されている。
【0035】
上記実施形態を、図1に示すように、剥離紙の両側に印刷を行う方式に採用する場合には、正極集電層又は負極集電層は最初の印刷層の対象となる。
【0036】
基本構成1、2、3、4の(3)の乾燥工程においては、自然乾燥、加熱乾燥、通風乾燥の何れをも採用することができる。
【0037】
各印刷層の厚みは限定される訳ではない。
但し、通常、(3)の乾燥工程を経た段階において、正極印刷層2及び負極印刷層3の厚みが10〜20μmであり、非水電解質印刷層4の厚みが50〜150μmであり、正極集電印刷層及び負極集電印刷層の厚みを5〜10μmとする場合が多い。
【0038】
以下、実施例に即して説明する。
【実施例】
【0039】
基本構成2に従って、以下のとおり各印刷層を形成した。

正極印刷層:SiCの化学式による炭化ケイ素顔料粉末100重量部、
全ての結合基がSiH結合であるシロキサンに基づく水溶性シリコンゴム1重量部、水10重量部
負極印刷層:Siの化学式による顔料粉末100重量部、
前記水溶性シリコンゴム1重量部、水10重量部
非水電解質印刷層:酸化ジルコニウム(ZrO)による顔料粉末100重量部、
前記水溶性シリコンゴム1重量部、水10重量部
正極集電層及び負極集電層:カーボングラファイトによる顔料粉末100重量部、
前記水溶性シリコンゴム1重量部、水10重量部

上記5層の各印刷層について、図2のように、剥離紙の両側において前記(2)の積層印刷を行った後、自然乾燥によって、(3)の乾燥工程を経ることによって厚み20μmの正極層及び負極層、厚み100μmの非水電解質層、厚み10μmの正極集電層及び負極集電層を有する固体型二次電池を得ることができた。
【0040】
前記固体型二次電池に対し、1cm当たり0.9アンペアの電流密度となるような定電流源に基づく充電を行ったところ、図3において時間の経過と共に順次増大するカーブに示すように、約3.5V〜5.5Vの範囲にて約7時間半維持することができた。
その後放電に切り替えたところ、図3において時間の経過と共に順次減少するカーブに示すように、約5.5V〜3.5Vの範囲にて約7時間維持することができた。
【0041】
このように、バインダーとして水溶性シリコン樹脂を採用し、溶剤として水を採用することによって、先願発明1に立脚している基本構成2においては、正常な固体型二次電池として作動することが可能であることが確認された。
先願発明1においては、非水電解質としてイオン交換樹脂を採用した場合に、約4V〜5.5Vの電圧範囲による充電を約40時間維持する一方、4V〜3.5Vの放電を約35時間維持することが出来たことを考慮するならば、基本構成1の場合も前記基本構成2の前記実施例と同程度の充放電特性が可能であることを充分予測することが出来る。
更には、先願発明2の実施例においても、非水電解質としてイオン交換樹脂を採用した場合に、先願発明1と同程度の充放電特性が得られることを考慮するならば、基本構成3、4の場合も、基本構成2の前記実施例と同様の充補填特性が得られることもまた、十分予測し得るところである。
【0042】
これに対し、バインダーとして他のポリマーを採用し、かつ溶剤として有機溶剤を採用した場合には、前記のような良好な充放電特性が得られるかは、極めて疑問の状況にある。
その意味において、水溶性シリコン樹脂及び水の採用は、画期的な意義を有している。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の固体型二次電池製造方法は、先願発明1及び同2の固体型二次電池の製造分野において効率的な製造方法を提供しており、パソコン、携帯電話、更には太陽、風、海洋の潮流等の自然エネルギーに基づく電気エネルギーの蓄電においても、十分活用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 離型紙
2 正極印刷層
3 負極印刷層
4 非水電解質印刷層
5 ローラー
51 ローラーの回転中心及びその近傍領域
6 アルミ箔膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電に際し正極においてケイ素の陽イオン(Si+)を発生し、負極においてケイ素の陰イオン(Si-)を発生する固体型二次電池を以下の工程に従って製造する方法。
(1)化学式をSiCとする炭化ケイ素による正極用顔料粉末、化学式をSiとする窒化ケイ素による負極用顔料粉末、スルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、アニオン性である四級アンモニウム基(−N(CHOH)、置換アミノ基(−NH(CH)を結合基として有しているポリマーの何れかのイオン交換樹脂による非水電解質用顔料粉末をそれぞれ100重量部とし、水溶性シリコン樹脂によるバインダーを1〜50重量部、水による溶剤を10〜100重量部とする配合割合に設定したうえで、前記正極用顔料粉末、及び負極用顔料粉末、非水電解質用顔料粉末をそれぞれ前記バインダー及び前記溶剤に配合することによって、正極印刷層、負極印刷層、非水電解質印刷層を作製する工程。
(2)正極印刷層、非水電解質印刷層、負極印刷層の順序、又は負極印刷層、非水電解質印刷層、正極印刷層の順序にて積層印刷を行う工程。
(3)前記(2)の積層印刷に基づく積層体を乾燥する工程。
【請求項2】
充電に際し正極においてケイ素の陽イオン(Si+)を発生し、負極においてケイ素の陰イオン(Si-)を発生する固体型二次電池を以下の工程に従って製造する方法。
(1)化学式をSiCとする炭化ケイ素による正極用顔料粉末、化学式をSiとする窒化ケイ素による負極用顔料粉末、塩化スズ(SnCl)、酸化ジルコニウムマグネシウムの固溶体(ZrMgO)、酸化ジルコニウムカルシウムの固溶体(ZrCaO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、シリコン−βアルミナ(Al)、一酸化窒素炭化ケイ素(SiCON)、リン酸ジルコニウム化ケイ素(SiZrPO)のイオン交換無機物による非水電解質用顔料粉末をそれぞれ100重量部とし、水溶性シリコン樹脂によるバインダーを1〜50重量部、水による溶剤を10〜100重量部とする配合割合に設定したうえで、前記正極用顔料粉末、及び負極用顔料粉末、非水電解質用顔料粉末をそれぞれ前記バインダー及び前記溶剤に配合することによって、正極印刷層、負極印刷層、非水電解質印刷層を作製する工程。
(2)正極印刷層、非水電解質印刷層、負極印刷層の順序、又は負極印刷層、非水電解質印刷層、正極印刷層の順序にて積層印刷を行う工程。
(3)前記(2)の積層印刷に基づく積層体を乾燥する工程。
【請求項3】
放電に際し負極において、ケイ素の陽イオン(Si+)と電子(e-)とが放出され、正極において空気中の窒素分子(N)及び酸素分子(O)が、化学式をSiとする窒化ケイ素及び負極から到来したケイ素の陽イオン(Si+)並びに電子(e-)と化学結合を行い、充電に際し負極においてケイ素の陽イオン(Si+)と電子(e-)が吸収され、正極において窒素分子及び酸素分子による前記化学結合が分解し、かつ当該窒素分子及び酸素分子が空気中に放出されるという反応を伴う固体型二次電池を以下の工程に従って製造する方法。
(1)化学式をSiとする窒化ケイ素による正極用顔料粉末、化学式をSiCとする炭化ケイ素による負極用顔料粉末、スルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、アニオン性である四級アンモニウム基(−N(CHOH)、置換アミノ基(−NH(CH)を結合基として有しているポリマーの何れかのイオン交換樹脂による非水電解質用顔料粉末をそれぞれ100重量部とし、水溶性シリコン樹脂によるバインダーを1〜50重量部、水による溶剤を10〜100重量部とする配合割合に設定したうえで、前記正極用顔料粉末、及び負極用顔料粉末、非水電解質用顔料粉末をそれぞれ前記バインダー及び前記溶剤に配合することによって、正極印刷層、負極印刷層、非水電解質印刷層を作製する工程。
(2)正極印刷層、非水電解質印刷層、負極印刷層の順序、又は負極印刷層、非水電解質印刷層、正極印刷層の順序にて積層印刷を行う工程。
(3)前記(2)の積層印刷に基づく積層体を乾燥する工程。
【請求項4】
放電に際し負極において、ケイ素の陽イオン(Si+)と電子(e-)とが放出され、正極において空気中の窒素分子(N)及び酸素分子(O)が、化学式をSiとする窒化ケイ素及び負極から到来したケイ素の陽イオン(Si+)並びに電子(e-)と化学結合を行い、充電に際し負極においてケイ素の陽イオン(Si+)と電子(e-)が吸収され、正極において窒素分子及び酸素分子による前記化学結合が分解し、かつ当該窒素分子及び酸素分子が空気中に放出されるという反応を伴う固体型二次電池を以下の工程に従って製造する方法。
(1)化学式をSiとする窒化ケイ素による正極用顔料粉末、化学式をSiCとする炭化ケイ素による負極用顔料粉末、塩化スズ(SnCl)、酸化ジルコニウムマグネシウムの固溶体(ZrMgO)、酸化ジルコニウムカルシウムの固溶体(ZrCaO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、シリコン−βアルミナ(Al)、一酸化窒素炭化ケイ素(SiCON)、リン酸ジルコニウム化ケイ素(SiZrPO)のイオン交換無機物による非水電解質用顔料粉末をそれぞれ100重量部とし、水溶性シリコン樹脂によるバインダーを1〜50重量部、水による溶剤を10〜100重量部とする配合割合に設定したうえで、前記正極用顔料粉末、及び負極用顔料粉末、非水電解質用顔料粉末をそれぞれ前記バインダー及び前記溶剤に配合することによって、正極印刷層、負極印刷層、非水電解質印刷層を作製する工程。
(2)正極印刷層、非水電解質印刷層、負極印刷層の順序、又は負極印刷層、非水電解質印刷層、正極印刷層の順序にて積層印刷を行う工程。
(3)前記(2)の積層印刷に基づく積層体を乾燥する工程。
【請求項5】
水溶性シリコン樹脂として、SiH結合を有するシロキサン、又は前記結合において水素の一部を塩素(Cl)、臭素(Br)、フッ素(F)によるハロゲン原子又はナトリウム(Na)、カリウム(K)によるアルカリ金属によって置換するか、又は前記結合によって水素の1/2以下を、有機化合物における結合基に置換した化合物を採用することを特徴とする請求項1、2、3、4の何れか一項に記載の固体型二次電池の製造方法。
【請求項6】
グラファイト粉末又はグラファイト繊維粉末を100重量部とし、水溶性シリコン樹脂によるバインダーを1〜50重量部、水による溶剤を10〜100重量部とする配合割合に設定したうえで、グラファイト粉末又はグラファイト繊維粉末を前記バインダー及び前記溶剤に配合することによって、正極集電印刷層及び負極集電印刷層をそれぞれ作製し、(2)の印刷工程において、正極集電印刷層を正極印刷層の外側に印刷し、かつ負極集電印刷層を負極印刷層の外側に印刷することを特徴とする請求項1、2、3、4、5の何れか一項に記載の固体型二次電池の製造方法。
【請求項7】
非水電解質印刷層に導電性フィラーを配合していることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6の何れか一項に記載の固体型二次電池の製造方法。
【請求項8】
ローラーによって移動する離型紙の両側に、各ローラーから離脱する各印刷層を積層することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7の何れか一項に記載の固体型二次電池の製造方法。
【請求項9】
(3)の乾燥工程を経た段階において、正極印刷層及び負極印刷層の厚みが10〜20μmであり、非水電解質印刷層の厚みが50〜150μmであり、正極集電印刷層及び負極集電印刷層の厚みが5〜10μmであることを特徴とする請求項6、7、8の何れか一項に記載の固体型二次電池の製造方法。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9の何れか一項に記載の製造方法によって製造された固体型二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−58421(P2013−58421A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196669(P2011−196669)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【特許番号】特許第5006462号(P5006462)
【特許公報発行日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(597132506)ファイラックインターナショナル株式会社 (3)
【Fターム(参考)】