説明

固体撮像素子及び固体撮像素子を有する撮像システム

【課題】画素サイズの小さい場合においても、高精度の測距が可能となる固体撮像素を提供する。
【解決手段】主導波路101と、主導波路に導かれた光の射出側に設けられた副導波路104,105と、副導波路に導かれた光の射出側に設けられた光電変換部と、を備えた画素を有する固体撮像素子であって、主導波路は、第1の方向から入射した光と、それとは異なる第2の方向から入射した光を導波するように構成し、副導波路は、主導波路を導波する光と結合するように構成された第1と第2の副導波路と、を備え、第1の方向から入射して第1の副導波路に導かれて射出される光量が、第2の方向から入射して第1の副導波路に導かれて射出される光量よりも大きい光量が射出可能に構成し、第2の方向から入射して第2の副導波路に導かれて射出される光量が、第1の方向から入射して第2の副導波路に導かれて射出される光量よりも大きい光量が射出可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像素子及び固体撮像素子を有する撮像システムに関し、特にデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラなどに用いられる固体撮像素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラやビデオカメラにおいて、AF用距離検出技術が知られている。
このようなAF用距離検出技術に関し、特許文献1では撮像素子の一部の画素に測距機能を持たせ、位相差方式で検出するようにした固体撮像素子が提案されている。
この位相差方式とは、カメラレンズの瞳上の異なる領域を通過した光像を比較し、ステレオ画像による三角測量を用いて距離を検出する方法である。
これによると、従来のコントラスト方式とは異なり、距離を測定するためにレンズを動かす必要が無いため、高速高精度なAFが可能となる。また、動画撮影時にリアルタイムAFが可能になる。
上記特許文献1では、測距用画素の構造として、マイクロレンズとその下に複数の光電変換部を設けた構成が開示されている。
これにより、カメラレンズの瞳上における特定の領域を通過した光を、選択的に光電変換部に導き、距離を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2002−314062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1の構成では、マイクロレンズを通過した光が配線部などによる散乱の影響を受け、十分な光束分離ができないことから、測距精度が悪化するという課題を有している。
また、特許文献1の構成で、入射角度が小さい光は、2つの光電変換部の間の領域に到達し、光電変換部で検出されず、損失となる。そのため、測距用画素で検出される光量が小さく、ノイズの影響を受け易くなり、測距精度が悪化する。
さらに、特許文献1の構造を、画素サイズの小さい固体撮像素子に適用した場合、つぎのような課題が生じる。
画素サイズが小さくなると、光電変換部に光を導くためのマイクロレンズのF値が大きくなり、画素サイズと回折像の大きさがほぼ同じとなる。
そのため、画素内で光が広がってしまい、十分な光束分離ができず、さらに測距精度が悪化する。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、高精度の測距を行うことができ、特に画素サイズの小さい場合においても、高精度の測距が可能となる固体撮像素子及び固体撮像素子を有する撮像システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の固体撮像素子は、
主導波路と、前記主導波路に導かれた光の射出側に設けられた副導波路と、前記副導波路に導かれた光の射出側に設けられた該副導波路からの光を電気信号に変換する光電変換部と、を備えた画素を有する固体撮像素子であって、
前記主導波路は、第1の方向から入射した光と、該第1の方向とは異なる第2の方向から入射した光を導波するように構成され、
前記副導波路は、前記主導波路を導波する光と結合するように構成された第1の副導波路と第2の副導波路と、を備え、
前記第1の方向から入射して前記第1の副導波路に導かれて射出される光量が、前記第2の方向から入射して前記第1の副導波路に導かれて射出される光量よりも大きい光量が射出可能に構成され、
前記第2の方向から入射して前記第2の副導波路に導かれて射出される光量が、前記第1の方向から入射して前記第2の副導波路に導かれて射出される光量よりも大きい光量が射出可能に構成されていることを特徴とする。
また、本発明の撮像システムは、上記した固体撮像素子と、該固体撮像素子に被写体像を形成する光学系と、を有する撮像システムであって、
前記第1の方向から入射する光は、前記光学系の射出瞳面上の第1の射出瞳領域を通過して前記主導波路に入射する光であり、
前記第2の方向から入射する光は、前記光学系の射出瞳面上の前記第1の射出瞳領域とは異なる第2の射出瞳領域を通過して前記主導波路に入射する光であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高精度の測距を行うことができ、特に画素サイズの小さい場合においても、高精度の測距が可能となる固体撮像素子及び固体撮像素子を有する撮像システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1における固体撮像素子中に配置された距離測定用の画素の概略断面図である。
【図2】実施例1における光導波路中の導波モードを示す図である。
【図3】実施例1における画素による検出光量の入射角度依存性を示す図である。
【図4】実施例1における撮像素子を用いて被写体の距離を測定する方法について説明する図である。
【図5】実施例1における固体撮像素子中に配置された距離測定用の画素の概略断面図である。
【図6】実施例1における画素による検出光量の入射角度依存性を示す図である。
【図7】実施例1における画素を含む固体撮像素子の製造プロセスについて説明する図である。
【図8】実施例1における固体撮像素子中に配置された距離測定用の画素の概略断面図である。
【図9】実施例2における固体撮像素子中の一部に配置された距離測定用の画素の概略断面図である。
【図10】実施例2における固体撮像素子中の一部に配置された距離測定用の画素の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、導波路に入射する光束の入射角に応じて、導波路内の光伝播状態(導波モード)が異なるという特性を用いて構成されたものである。
具体的には、画素内に複数の光電変換部を配置し、導波路の構造を適切に形成する。
これにより、入射光のうち、特定の角度で入射した光を特定の光電変換部に導き、検出することを可能とし、高精度な距離測定が行える固体撮像素子を実現したものである。
以下、図を用いて、本発明の実施例における固体撮像素子について説明する。
その際、全ての図において同一の機能を有するものは同一の数字を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【実施例1】
【0010】
実施例1として、本発明における固体撮像素子の構成例について図1を用いて説明する。
図1において、100は本実施例における固体撮像素子中の一部に配置された距離測定用の画素である。
画素100は、光の入射側(+z側)より、主導波路101(コア部102、クラッド部103)、副導波路(第1の副導波路)104および副導波路(第2の副導波路)105、基板108を有している。
主導波路101の入射側(+z側)の端面を入射端面109、射出側(−z側)の端面を射出端面110とする。
副導波路104、105は、主導波路101の射出端面110と基板108の間に配置され、コア部106とクラッド部107を有している。
コア部102、106およびクラッド部103、107は、撮像する波長帯域で透明な材料で形成される。例えば、SiO2、SiN、有機材料などで形成される。
なお、コア部102は、クラッド部103より高い屈折率を有する材料で形成され、コア部106は、クラッド部107より高い屈折率を有する材料で形成される。
これによりコア部102および106内に光を閉じ込めて伝播させることができる。
基板108は、撮像する波長帯域で吸収を有する材料、例えばSiであり、イオン打ち込みなどで、内部の少なくとも一部の領域に光電変換部を形成する。
画素100に外部から入射した光束は、主導波路101および副導波路104、105を伝播し、基板108中に射出可能に構成されている。
副導波路104あるいは105の下に光電変換部を設けると、射出光は光電変換部に到達し、電子に変換され、図示しない信号処理回路に出力される。
【0011】
画素100に第1の方向から入射した光束111は、主導波路101の導波モード113(図2(a))に変換されて主導波路中を伝播し、更に副導波路104の導波モード115(図2(a))に変換されて副導波路104を伝播する。一方、画素100に第2の方向から入射した光束112は、主導波路101の導波モード114(図2(b)に変換されて主導波路中を伝播し、更に副導波路105の導波モード116(図2(b)に変換されて副導波路105を伝搬する。導波モードとは、導波路の持つ複数の固有モードの和で表され、導波路中の伝播状態を示すものである。
固有モードは、導波路のコア、クラッドの形状、屈折率によって一意に決まる。主導波路101に光束111、112が入射すると、複数の固有モードと結合し、固有の導波モードで伝播する。
入射角によって、導波モードを構成する固有モードの割合は異なり、それによって、導波モードの電場分布も異なる分布となる。
主導波路101の形状、媒質を適切に設定することで、入射角によって異なる電場分布を有する導波モードで伝播させることができる。
さらに、主導波路101を伝搬する光の各導波モードと各副導波路の導波モードと結合させることで、入射角が異なる各入射光束を異なる副導波路104、105へ伝播させる。
【0012】
導波モード間の結合効率は、導波路の接続部における両導波モードの電場分布が互いに近い分布であるほど、高くなる。
主導波路101の導波モード113と副導波路104の導波モード115の電場分布が近くなるように、主導波路101および副導波路104、105を設ける。
さらに、主導波路101の導波モード114と副導波路105の導波モード116の電場分布が近い分布となるように、主導波路101および副導波路104、105を設ける。
これにより、第1の方向から入射した光束111は、導波モード113が導波モード115と高い効率で結合することで、副導波路104へ伝播する。
一方、導波モード113と導波モード116との結合効率は低くなり、副導波路105へ伝播する光は低減する。
また、入射方向が第1の方向から外れると、入射光は、導波モード113とは電場分布が異なる導波モードで伝播するため、副導波路104へ伝播する光は減少する。
同様に、第2の方向からの入射光束112は、副導波路105へ伝播し、副導波路105へ伝播する光は減少する。
これにより、副導波路104には、第1の方向からの光束111が導かれ、それ以外の方向からの光は減少する。
また、副導波路105には、第2の方向からの光束112が導かれ、それ以外の方向からの光は減少させることができる。
【0013】
また、副導波路104、105の導波モード115、116で伝播する光は、各副導波路内に閉じ込められ、空間的な広がりが抑制された状態で、基板中に射出される。
これにより、基板中の射出光の分布が制限される。各副導波路104、105の下に光電変換部を適切に配置すると、各副導波路中の光は、光電変換部がある領域へ射出されるため、効率良く光を検出することができる。
配線等を導波路外の領域に設けても、入射光は導波路のコア部に集中して伝搬するため、配線部などによる散乱の影響は軽減する。画素サイズが小さくなっても、光は導波路のコア部に閉じ込められるため、画素内で光が広がらずに伝播させることができる。これらの効果により、入射角に応じた光を光電変換部に効率良く導くことができる。
主導波路は、入射角度が小さい光も、入射方向によって異なる導波モードで伝播させることができる。
そして、主導波路の導波モードと副導波路の導波モードとを結合させ、副導波路を伝播させることにより、入射角度が小さい光も分離することができる。
各副導波路の射出側に光電変換部を設けると、分離した各光を検出することができ、光電変換部が無い領域に到達する損失光を低減することができる。
主導波路101および副導波路104、105の導波モードは、各導波路の形状や媒質あるいは設ける位置で決定される。
本実施例で示す構成で、各導波路の形状、媒質、設ける位置を適切に設定することで、上記で述べた効果を得ることができ、入射角に応じた光をより正確かつ高効率に検出することができる。
【0014】
図2に、導波路中の導波モードを示す。
図2(a)は角度+θ(第1の方向)から入射した光束111の、主導波路101の第1の導波モード113と、副導波路104の導波モード115の電場強度分布を示す図である。
図2(b)は角度−θ(第2の方向)から入射した光束112の、主導波路101の第2の導波モード114および副導波路105中の導波モード116の電場分布を示す図である。このように、各導波路の導波モードは入射角に応じて異なる。
図2(a)に示すように、第1の方向から入射した光束111は第1の導波モード113に変換されて、導波路101中を導波する。そして、導波モード115と結合することで、副導波路104中を導波する。
一方、図2(b)に示すように、第2の方向から入射した光束112は第2の導波モード114に変換され導波路101を導波し、導波モード116と結合することで副導波路105中を導波する。
【0015】
図3に、画素100の副導波路104あるいは副導波路105を伝播し、基板108の光電変換部側に射出される光の入射角度依存性を示す。
横軸は入射光の入射角度、縦軸は光量を示している。実線が副導波路104、破線が副導波路105から光電変換部側に射出される光の光量を示している。
図のように入射角度によって、光が異なる副導波路を伝播し、基板中の光電変換部側に射出されることが分かる。
【0016】
つぎに、本実施例の撮像素子を用いて、被写体の距離を測定する方法について図4を用いて説明する。
図4(a)に示すように、結像レンズ121は外界の像を撮像素子120の面上に結像する。
撮像素子120は、画素100を複数備え、図4(b)に示すように、基板108内に光電変換部(第1の光電変換部)125、光電変換部(第2の光電変換部)126を備える。
光電変換部125および126は、それぞれ副導波路104および105の下に配置されている。
画素の大きさに対して、結像レンズ121と撮像素子120の間の距離が長い。このため、結像レンズ121の射出瞳面上の異なる領域を通過した光束は、異なる入射角の光束として撮像素子120の面上に入射する。
撮像素子120の各画素に含まれる光電変換部126では、結像レンズ121の射出瞳(被写体像を形成する光学系の射出瞳)のうち、主に第1の方向に対応する領域122(第1の射出瞳領域)を通過した光束が検出される。
同様に、光電変換部125では、結像レンズ121の射出瞳のうち、主に第2の方向に対応する領域123(第2の射出瞳領域)を通過した光束が検出される。そのため、結像レンズ121の射出瞳面上の異なる領域を通過した光像を検出することができ、複数の光電変換部126からの画素信号と複数の光電変換部125からの画素信号を比較する。
これにより公知の方法によって、被写体測距用信号を出力するようにして被写体距離を検出することができる。
【0017】
つぎに、主導波路のコア部の幅が、射出端面110から入射端面109に向かって太くなる形状を有する構成例について、図5を用いて説明する。
図5において、画素100は、光の入射側(+z側)より、主導波路131(コア部132、クラッド部133)、副導波路104および105、基板108を有している。
副導波路104、105は、主導波路131の射出端面110と基板108の間に配置されている。主導波路131のコア部132は、射出端面110から入射端面109に向かって幅が太くなる形状(テーパ形状)を有している。なお、コア部132は、クラッド部133より高い屈折率を有する材料で形成される。
画素100に外部から入射した光束は、導波路131および副導波路104、105を伝播し、基板108中に射出される。
副導波路104あるいは105の下に光電変換部を設けると、射出光は光電変換部に到達し、電子に変換され、図示しない信号処理回路に出力される。
【0018】
主導波路131のコア部132の幅および高さに加えて、側壁のテーパ部分の傾きを適切に設定することで、主導波路131の導波モードをより詳細に制御することができる。
そして、主導波路131の導波モードと副導波路104あるいは105の導波モードとを結合させ、伝播させることで、画素の入射角度特性をより詳細に制御することができる。
例えば、検出光が最大となる入射角度や入射角度に対する検出光の変化の仕方などを詳細に制御することができる。
また、コア部132をテーパ形状にすると、画素100の全面に入射した光束を、副導波路104、105のコア部106に導くことができ、基板側に射出される光を増加することができる。
テーパ形状にすることで、図5には示してないが、電気信号を抽出するための配線を設ける空間を確保することができる。また、光が伝播する領域を画素の特定領域に限定し、隣接する画素に光が漏れて生じるクロストークを軽減することができる。
【0019】
図6に画素100の副導波路104または副導波路105を伝播し、基板108に射出される光の入射角度依存性を示す。
横軸は入射光の入射角度、縦軸は光量を示している。実線が副導波路104、破線が副導波路105から射出される光の光量を示している。
図のように入射角度によって、光が異なる副導波路を伝播し、基板中に射出されることが分かる。
【0020】
主導波路131の側壁の傾きは緩やかであることが好ましい。主導波路131に入射した光は、側壁で全反射され伝播する。
側壁の傾きが急峻であるほど、入射光の側壁に入射する角度は浅くなり、全反射される光は減少する。
側壁の傾きを緩やかにすることで、全反射される光が増加し、伝播光が増加する。
また、導波路中の光は、伝播に伴って、導波路幅の変化によって、導波モードが変換される。側壁の傾きが急峻であるほど、導波モードの変換が急激に起こり、一部の光は導波モード以外の、反射光や散乱光に変換されやすくなる。
側壁の傾きを緩やかにすることで、導波モード以外の光に変換される割合を軽減し、効率良く光を伝播することができる。
主導波路131の側壁と光軸(z軸)となす角度は、45度以内であることが望ましく、より望ましくは35度以内であることが望ましい。
主導波路131の側壁をこのような角度にすることで、効率良く光を伝播することができる。
なお、本発明において、主導波路131のコア部の形状はテーパ形状に限定されず、側壁が階段状の形状であってもよい。
例えば、コア部の幅が異なる2つあるいは多数の導波路を、射出側から入射側に向かってコア部の幅が広くなるように、順に配置した構成であってもよい。
このような構成は、射出側に近い導波路から順に作製し、積層していくことで容易に作製することができ、上記効果を得ることができる。
【0021】
主導波路131中の光を異なる導波モードで伝播させ、副導波路に導くためには、主導波路131の射出端110において、複数の固有モードが存在できる状態が望ましい。
固有モードの数は、導波路の幅と導波路を構成する媒質の屈折率および伝播光の波長によって決定される。コア部132の射出端110における幅は長い方が望ましい。
検出する光の波長とコア部132を形成する媒質の屈折率との積の1.5倍以上よりも長いことが望ましく、より望ましくは、2倍以上の長さ有することが望ましい。
これにより、主導波路131の射出端110において、複数の固有モードが存在でき、上記効果を得ることができる。
【0022】
副導波路104、105は、検出する入射光に対して複数の固有モードが存在する、マルチモード導波路であることが望ましい。
導波モードの電場分布は、複数の固有モードの和で決まる。固有モードの数が多いほど、様々な電場分布を有する導波モードが存在することができる。
副導波路をマルチモード導波路にすることで、主導波路の導波モードと高い効率で結合させやすくなる。
そして、主導波路101から副導波路104、105に伝播する光を増加させ、検出される光量を増加することができる。
検出光量が大きくなると、光電変換部や配線等で発生するノイズの、画像信号に対する影響が軽減し、信号の品質が向上する。
【0023】
副導波路104と副導波路105は、十分な間隔を空けて配置することが望ましい。
導波モードの電場分布は、コア部およびクラッド部まで広がった分布を有している。
副導波路104と副導波路105を互いに近づけると、クラッド部まで広がった電場分布の重なりにより、両導波路の導波モードが結合し、片方の副導波路を伝播する光の一部が、他方の副導波路へ伝播する。この光はノイズとなり、画像信号の検出精度を悪化させる。
また、各副導波路の下に光電変換部を設ける場合、副導波路間の距離に応じて、光電変換部や配線を互いに近い位置に形成する必要があり、作製が難しくなる。副導波路間の距離は、検出する入射光の波長の20分の1以上、より望ましくは10分の1以上、更に望ましくは5分の1以上の間隔を空けて配置することが望ましい。
これにより、他方副導波路がもう一方の副導波路へ伝播することを軽減することができる。
【0024】
なお、被写体の距離や位置によらず距離を精度良く検出するために、第1の射出瞳領域122と第2の射出瞳領域123は、射出瞳中心124に対して、対称な位置に設定することが望ましい。
第1の方向および第2の方向は、射出瞳中心124を通り撮像素子に入射する光線である主光線を基準として定義される。
つまり、主光線が撮像素子面に傾いて入射する場合は、第1の方向および第2の方向は、傾いた主光線の入射角を基準として反対方向に等角度となるようにそれぞれ定義される。
主導波路のコア部の形状を変えることで、入射光の入射角に応じた導波モードの空間分布を変えることができる。
そして、導波モードの空間分布を元に、副導波路104、105を設ける位置を決定することにより、必要な検出光量の入射角度依存性を実現することができる。
結像レンズの射出瞳位置が撮像素子面から有限の距離にあり、主光線の入射角が画角によって変化する場合は、入射角の変化量に応じて撮像素子面内で画素内のコア部の形状および副導波路104、105の配置を変えても良い。
また、副導波路104、105の配置に応じて、光電変換部の配置を変えてもよい。
【0025】
画素100は撮像素子120の全画素に配置してもよい。これにより、撮像素子120の任意の領域あるいは全領域の測距が可能となる。
また、各画素100に含まれる光電変換部125と126で受光した光を積算し、撮像画像の画像信号として利用することができる。画素100が、撮影画像の欠陥画素となることを防ぎ、撮影画像の画質を向上することができる。
画素100に含まれる副導波路および光電変換部は本実施例の配置に限定されるものではない。
例えば、副導波路を縦に2個、横に2個(合計4個)配置してもよい。このような画素を複数個配置することで、縦方向および横方向から入射した光を分離することができる。各副導波路の射出側に光電変換部を設けると、縦方向および横方向にパターンを有する被写体の測距を行うことができる。
あるいは、画素100内に、3個以上の副導波路を横あるいは縦に並べて配置してもよい。射出瞳をより詳細に分割することができ、各副導波路の射出側に光電変換部を配置すると、更に高精度な測距を行うことができる。
【0026】
画素100に入射する光の波長帯域を限定するカラーフィルタを光入射側に設けても良い。
これにより、導波モードの波長による変化の影響を小さくすることができ、検出光量の角度選択性をより高くすることができ、距離検出精度を高くすることができる。
カラーフィルタは、特定の波長帯域の光を透過し、それ以外の波長帯域の光は吸収または反射、散乱させる材料で形成され、例えば有機材料や無機材料を用いる。
以上で示したように、画素内に主導波路と複数の副導波路を設け、各導波路の形状や媒質や配置を適切に設定することで、入射角に応じた光を分離することができる。各光を検出することで、高精度な距離測定が行える固体撮像素子が実現できる。
【0027】
図7を用いて、本実施例における画素100を含む固体撮像素子の製造プロセスについて説明する。
まず、シリコン基板108の所定の位置にイオンを打ち込み、光電変換部125、126を作製し、図示しない配線等を形成した後、裏面側からCMPやエッチバックなどにより、基板を薄膜化する(図7(a))。
次に、SiNを成膜し、フォトリソグラフィ、リフトオフなどによりコア部106を形成し、SOG成膜およびCMPやエッチバックにより平坦化し、クラッド部107を形成することで副導波路104、105を形成する(図7(b))。更に、主導波路101を形成することで、画素100を作製することができる(図7(c))。
本発明の固体撮像素子を構成する媒質は、本実施例に限定されるものではなく、他の媒質を用いてもよい。
主導波路と副導波路のコア部、あるいは主導波路と副導波路のクラッド部は、互いに異なる媒質を用いてもよい。
【0028】
本発明において、図8に示すように、シリコン基板108中に主導波路101および副導波路104、105を設けた、裏面入射型の構成としてもよい。
光電変換部は、基板中の副導波路104、105の表側(+z側)に配置される。
このような構成にすると、基板の裏側から入射した光(+z方向に伝播する光)が検出される。配線等はシリコン基板108の表側に配置することができ、入射光の伝播が、配線等によって妨げられるのを回避することができる。
また、配線等による空間的制約が軽減され、主導波路および副導波路の形状をより自由に選択することができ、入射光を光電変換部に効率良く導くことができる。
【0029】
[実施例2]
実施例2として、本発明における固体撮像素子の構成例について図9を用いて説明する。
図9(a)、(b)において、200、201は本実施例における固体撮像素子中の一部に配置された距離測定用の画素である。
画素(第1の画素)200、画素(第2の画素)201は、光の入射側(+z側)より、主導波路131(コア部132、クラッド部133)、副導波路104および105、光電変換部202あるいは203を有する基板108を有している。
光電変換部202あるいは203は、それぞれ副導波路104および105の射出側に設けられている。
【0030】
図9(a)の画素200に外部から第1の方向から入射した光束111は、実施例1と同様に、主導波路130および副導波路104を伝播し、光電変換部202に導かれる。
一方、第2の方向から入射した光束112は、主導波路131および副導波路105を伝搬する。副導波路105を伝播する光は、基板108中に射出され、吸収されて減衰する。
これにより、第1の方向から入射した光束111を検出することができる。同様に、図9(b)の画素201では、第2の方向から入射した光束112を検出することができる。
このような画素200、201を複数配置し、各画素に含まれる光電変換部202、203によって検出した信号により、実施例1と同様に、被写体の距離検出を精度良く行うことができる。
また、光電変換部202および203で検出した信号を積算し、撮像画像の画素200および201における画像信号として使用してもよい。
【0031】
このような構成にすると、副導波路105を伝播する光が光電変換部203に、あるいは副導波路104を伝播する光が光電変換部202に入射することによって発生するクロストークを抑制することができる。
また、光電変換部202、203を互いに近傍に設けなくてよいため、作製が容易となる。
【0032】
本発明における固体撮像素子の画素は、図10(a)、(b)に示す構成としてもよい。
画素210、211は、主導波路131、副導波路104および105、内部に光電変換部212あるいは213を有する基板108を有している。副導波路104あるいは副導波路105の一部には、遮光部材214、215が配置されている。
図10(a)の画素210に外部の第1の方向から入射した光束111は、実施例1と同様に、主導波路131および副導波路104を伝播し、光電変換部212に導かれる。
一方、第2の方向から入射した光束112は、主導波路131および副導波路105を伝搬する。
副導波路105を伝播する光は、遮光部材214によって遮光されるため、光電変換部212には到達しない。
これにより、第1の方向から入射した光束111を検出することができる。
【0033】
同様に、図10(b)の画素211では、第2の方向から入射した光束112を検出することができる。
このような画素210、211を複数配置し、各画素に含まれる光電変換部212、213によって検出した信号により、実施例1と同様に、被写体の距離検出を精度良く行うことができる。
また、光電変換部212および213で検出した信号を積算し、撮像画像の画素210および211における画像信号として使用してもよい。
なお、主導波路131、副導波路104、105の構成は、本実施例に限定されるものではなく、実施例1と同様に他の構成としてもよい。
【0034】
また、本発明においては、以上に説明した固体撮像素子と、この固体撮像素子に被写体像を形成する光学系と、を有する撮像システムを構成することができる。
この撮像システムでは、上記した第1の方向から入射する光が、前記光学系の射出瞳面上の第1の射出瞳領域を通過して上記した主導波路に入射するように構成され、
また、上記した第2の方向から入射する光が、前記光学系の射出瞳面上の上記した第1の射出瞳領域とは異なる第2の射出瞳領域を通過して上記した主導波路に入射するように構成される。
その際、上記した第1の射出瞳領域と第2の射出瞳領域は、前記光学系の射出瞳の中心に対して互いに対称な位置にある構成を採ることができる。
【符号の説明】
【0035】
100:距離測定用の画素
101:主導波路
102:コア部
103:クラッド部
104、105:副導波路
106:コア部
107:クラッド部
108:基板
111、112:光束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主導波路と、前記主導波路に導かれた光の射出側に設けられた副導波路と、前記副導波路に導かれた光の射出側に設けられた該副導波路からの光を電気信号に変換する光電変換部と、を備えた画素を有する固体撮像素子であって、
前記主導波路は、第1の方向から入射した光と、該第1の方向とは異なる第2の方向から入射した光を導波するように構成され、
前記副導波路は、前記主導波路を導波する光と結合するように構成された第1の副導波路と第2の副導波路と、を備え、
前記第1の方向から入射して前記第1の副導波路に導かれて射出される光量が、前記第2の方向から入射して前記第1の副導波路に導かれて射出される光量よりも大きい光量が射出可能に構成され、
前記第2の方向から入射して前記第2の副導波路に導かれて射出される光量が、前記第1の方向から入射して前記第2の副導波路に導かれて射出される光量よりも大きい光量が射出可能に構成されていることを特徴とする固体撮像素子。
【請求項2】
前記第1および第2の副導波路は、前記光電変換部に導かれて検出される入射光の波長の20分の1以上の間隔を空けて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の固体撮像素子。
【請求項3】
前記副導波路は、検出する入射光に対してマルチモード導波路であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体撮像素子。
【請求項4】
前記主導波路における射出端の幅は、前記光電変換部に導かれて検出される入射光の波長と該主導波路のコア部を構成する媒質の屈折率との積の1.5倍以上の長さを有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項5】
前記主導波路のコア部は、射出側から入射側に向かって幅が太くなる形状を有していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項6】
前記光電変換部は、第1の光電変換部と第2の光電変換部とによって構成され、
前記第1の光電変換部は、前記第1の副導波路の射出側に設けられ、
前記第2の光電変換部は、前記第2の副導波路の射出側に設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項7】
前記画素は第1の画素と第2の画素とによって構成されると共に、前記光電変換部は第1の光電変換部と第2の光電変換部とによって構成され、
前記第1の画素は、前記第1の副導波路の射出側に前記第1の光電変換部を備え、
前記第2の画素は、前記第2の副導波路の射出側に前記第2の光電変換部を備えていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項8】
前記第1の画素は、前記第2の副導波路の一部に伝播光を遮光する遮光部材を備え、
前記第2の画素は、前記第1の副導波路の一部に伝播光を遮光する遮光部材を備えていることを特徴とする請求項7に記載の固体撮像素子。
【請求項9】
前記第1の光電変換部および前記第2の光電変換部を備えた画素を複数備え、 前記第1の光電変換部および前記第2の光電変換部からの信号を用い、被写体の測距用信号を出力することを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項10】
前記画素に含まれる前記第1の光電変換部および前記第2の光電変換部からの信号を足し合わせ、前記画素の画像信号として使用することを特徴とする請求項6から9のいずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の固体撮像素子と、該固体撮像素子に被写体像を形成する光学系と、を有する撮像システムであって、
前記第1の方向から入射する光が、前記光学系の射出瞳面上の第1の射出瞳領域を通過して前記主導波路に入射するように構成され、
前記第2の方向から入射する光が、前記光学系の射出瞳面上の前記第1の射出瞳領域とは異なる第2の射出瞳領域を通過して前記主導波路に入射するように構成されていることを特徴とする撮像システム。
【請求項12】
前記第1の射出瞳領域と前記第2の射出瞳領域は、前記光学系の射出瞳の中心に対して互いに対称な位置にあることを特徴とする請求項11に記載の撮像システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−151215(P2012−151215A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7708(P2011−7708)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】