説明

固体脂を使ったマイクロカプセルの製造方法

【課題】親水性生理活性物質が高含量で封入され、食品や医薬品をはじめとした、幅広い用途に適応することのできる微細なマイクロカプセルを効率的に工業生産できる製造方法を提供する。
【解決手段】(1)固体脂と親水性生理活性物質含有水溶液の混合物を、固体脂の融点以上の温度で、乳化分散してW/Oエマルションを得る、(2)固体脂の融点以上かつ沸点未満の温度で、上記W/Oエマルション中の水分を除去してS/Oサスペンションを得る、(3)上記S/Oサスペンションを噴霧冷却することによって、S/Oサスペンション液滴を固体脂の融点未満まで冷却して固体脂を固化させる、工程を含有するS/O型マイクロカプセルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体脂を使ったマイクロカプセルの製造方法に関する。さらに詳しくは、固体脂のマトリクス中に親水性生理活性物質が多分散したS/O型のマイクロカプセルを得るための製造方法、および該方法によって得られるS/O型マイクロカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の固体状マイクロカプセルの製造法には、界面重合法、in−situ重合法等の化学的な方法、コアセルベーション法、界面沈殿法、液中乾燥法、液中硬化皮膜法(オリフィス法)等の物理化学的方法、噴霧乾燥法、乾式混合法、膜乳化法等の機械的な方法に大別できる。これらの中でも、親水性物質を封入したマイクロカプセルを製造する方法としては、界面重合法、in−situ重合法、液中乾燥法、液中硬化皮膜法(オリフィス法)、噴霧乾燥法、膜乳化法等の技術が知られている。
【0003】
特許文献1では、多重ノズルを用いた液中硬化皮膜法(オリフィス法)により、酸、水分または熱に弱い芯物質をカプセル化した例が記載されている。この方法で作製されたカプセルは、単核型のカプセル構造をとるため、芯物質を高含量化することが可能であるほか、シームレス構造のカプセルを得ることができる等の利点を有するが、生成するカプセル径が数mmオーダーの大粒子径であることが多く、選択できる粒子径範囲の自由度が低いため、ソフトカプセルや打錠向けの用途等、幅広い分野への応用展開が難しいという問題がある。
一方、エマルションを利用して製造されるマイクロカプセルには例えば、S/O型およびW/O型の構造のマイクロカプセルが知られている。
S/O型またはW/O型のマイクロカプセルは、液状もしくは固体状の油相中に有用な成分を含む物質を内包させることにより、食品、栄養機能食品、特定保健用食品、医薬品、化粧品、飼料、農薬等の様々な用途において応用することができる。これらの用途のマイクロカプセル製造においては、カプセル作製時の収率の向上、内包物質の高含量化、カプセル粒子径の幅広い選択範囲、およびDDSの観点から、芯物質の放出パターンのコントロール等の要望があった。
さらに、W/O型の固体状マイクロカプセルの場合、製造方法の面では、例えば、液相でW/O/Wエマルションを形成させた後にW/O型の固体状マイクロカプセルを得る場合、油相中に多分散した生理活性物質を含んだ水相は、表面張力により、油相分散滴の外側への推進力が生じ易く、これが生理活性物質の外水相への漏洩を促し、生理活性物質のマイクロカプセルへの封入収率の低下を招く場合がある。
液相でW/O/Wエマルションを形成させずにW/O型のマイクロカプセルを作製した例に、溶融した固体脂等を油相に使用し、W/O型エマルションを調製した後、得られたW/O型エマルションをそのまま噴霧冷却することによって微細なW/O型マイクロカプセルを作製する方法が知られている(特許文献2)。しかしながら、上記方法で作製したマイクロカプセルにおいては、マイクロカプセル中に封入された水分の腐敗や、水分に溶解している生理活性物質の加水分解等、マイクロカプセルの保存安定性に問題がある。
これに対し、S/O型のマイクロカプセルの場合は、マイクロカプセル中には固体状の生理活性物質が多分散する形態をとっているため、水分含量が比較的少なく、生理活性物質の腐敗や分解が生じにくい。
【0004】
今まで知られているS/O型のマイクロカプセルの製造方法として、例えば、液中乾燥法がある(特許文献3)。この方法では、ハロゲン化炭化水素類やエーテル類等の人体に有害な有機溶媒をマイクロカプセルの製造過程に使用するため、食品用途への適用が困難である。また、液中乾燥法により製造されるマイクロカプセルは、徐放性マイクロカプセルとして利用できる反面、カプセル皮膜に物理的な細孔が生じやすく、芯物質が膜外に漏洩しやすい等の問題があった。
【0005】
また、シェル材に固体脂を利用して、膜乳化により、微細なW/O/Wエマルションを調製し、その後凍結乾燥してS/O型マイクロカプセルを製造する例(特許文献4)が提案されているが、芯物質の高含量化が難しい上、膜乳化時の圧力損失や目詰まり、膜の耐久性等に問題があるため、工業生産に適した生産量を確保することは難しい。さらに、W/O/Wエマルション形成時に、内包する生理活性物質が外水相に漏洩し、収率低下を招くとともに、生理活性物質を高含量に内包するマイクロカプセルを作製することが難しい等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3102990号公報
【特許文献2】特表2007−503293号公報
【特許文献3】特開2003−252751号公報
【特許文献4】特開2004−8015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の親水性成分のマイクロカプセルの製造方法は、カプセル径のコントロールが困難であったり、芯物質の含量や製造時の収率が不十分であったりするほか、食品用途では制限されている有機溶媒を使用する場合がある等、製造面や、食品基準の安全性の面で問題があった。
【0008】
本発明の課題は、親水性生理活性物質が高含量で封入され、食品や医薬品をはじめとした、幅広い用途に適応することのできる微細なマイクロカプセルを効率的に工業生産できる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、(1)固体脂と親水性生理活性物質含有水溶液の混合物を、固体脂の融点以上の温度で、乳化分散してW/Oエマルションを得る、(2)固体脂の融点以上かつ沸点未満の温度で上記W/Oエマルション中の水分を除去してS/Oサスペンションを得る、(3)上記S/Oサスペンションを噴霧冷却することによって、S/Oサスペンション液滴を固体脂の融点未満まで冷却して固体脂を固化させる、という3つの工程の操作を行うことで、親水性生理活性物質が高含量で封入され、食品や医薬品をはじめとした、幅広い用途に適応することのできる微細なマイクロカプセルを効率的に工業生産できる製造方法を見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、
(1)固体脂と親水性生理活性物質含有水溶液の混合物を、固体脂の融点以上の温度で、乳化分散してW/Oエマルションを得る
(2)固体脂の融点以上かつ沸点未満の温度で、上記W/Oエマルション中の水分を除去してS/Oサスペンションを得る
(3)上記S/Oサスペンションを噴霧冷却することによって、S/Oサスペンション液滴を固体脂の融点未満まで冷却して固体脂を固化させる、
という3つの工程の操作を行うことを特徴とする固体脂のマトリクス中に親水性生理活性物質が多分散したS/O型マイクロカプセルの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のS/O型マイクロカプセルの製造方法によれば、従来のS/O型マイクロカプセルの製造方法では困難であった、カプセル中の親水性生理活性物質の高含量化と、幅広いカプセル粒子径範囲のコントロールが可能であり、S/O型マイクロカプセルを効率良く工業生産することが可能である。また、本発明の製造方法は、製造過程に人体に有害な有機溶媒等を使用することなく、内包物を安定に保持したS/O型マイクロカプセルを製造することも可能であり、医薬品や農薬等の分野だけでなく、食品分野への適用も容易であるなど、幅広い分野への応用展開が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得られた、グルコースを内包したS/O型マイクロカプセルのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明は、下記(1)〜(3)の工程を含む、固体脂のマトリクス中に親水性生理活性物質が多分散したS/O型マイクロカプセルの製造方法である。
(1)固体脂と親水性生理活性物質含有水溶液の混合物を、固体脂の融点以上の温度で、乳化分散してW/Oエマルションを得る。
(2)固体脂の融点以上かつ沸点未満の温度で、上記W/Oエマルション中の水分を除去してS/Oサスペンションを得る。
(3)上記S/Oサスペンションを噴霧冷却することによって、S/Oサスペンション液滴を固体脂の融点未満まで冷却して固体脂を固化させる。
【0013】
本発明の製造方法におけるS/O型マイクロカプセルとは、固体油相中に親水性の固体物質が多分散した固体粒子を意味するものであり、液体油相中に固体物質が分散したS/Oサスペンションや、水相中に該S/Oサスペンションが懸濁したS/O/Wエマルションとは異なる。
【0014】
本発明の製造方法におけるS/O型マイクロカプセルに封入する親水性生理活性物質は、水溶性であって、常温で固体のものであれば、用途に応じて適宜選択することができる。上記親水性生理活性物質としては、例えば、蛋白質類、ペプチド類、アミノ酸類、抗生物質、核酸類、有機酸類、水溶性ビタミン類、水溶性補酵素類、ミネラル類、糖類、レシチン類等が挙げられる。
【0015】
上記蛋白質類としては、例えば、酵素、抗体、抗原、ホルモン等を挙げることができ、具体的には、プロテアーゼ類、アミラーゼ類、セルラーゼ類、キナーゼ類、グルカナーゼ類、ペクチナーゼ類、イソメラーゼ類、リパーゼ類、ペクチナーゼ類、インターフェロン、インターロイキン、BMP、免疫グロブリン等を挙げることができる。
【0016】
上記ペプチド類としては、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RH)、インスリン、ソマトスタチン、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン(GH−RH)、プロラクチン、エリスロポエチン、副腎皮質ホルモン、メラノサイト刺激ホルモン、甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH)、甲状腺刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、バソプレシン、オキシトシン、カルシトニン、ガストリン、セクレチン、パンクレオザイミン、コレシストキニン、アンジオテンシン、ヒト胎盤ラクトーゲン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、エンケファリン、エンドルフィン、キョウトルフィン、タフトシン、サイモポイエチン、サイモシン、サイモチムリン、胸腺液性因子、血中胸腺因子、腫瘍壊死因子、コロニー誘導因子、モチリン、デイノルフィン、ボンベシン、ニューロテンシン、セルレイン、ブラジキニン、グルタチオン、イミダゾールジペプチド類(カルノシン、アンセリン、ホモアンセリン、バレニン、アスパルテームなど)、心房性ナトリウム排泄増加因子、神経成長因子、細胞増殖因子、神経栄養因子、エンドセリン拮抗作用を有するペプチド類などやその誘導体、さらにはこれらのフラグメントまたはフラグメントの誘導体等が挙げられる。
【0017】
上記アミノ酸類としては、具体的には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、セリン、トレオニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン等が挙げられる。
【0018】
上記抗生物質としては、例えば、β−ラクタム系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、クロラムフェニコール系、マクロライド系、ケトライド系、ポリエンマクロライド系、グリコペプチド系、核酸系、ポリドンカルボン酸系等の抗生物質を挙げることができる。
【0019】
上記核酸類としては、具体的には、イノシン酸、グアニル酸、キサンチル酸、ATP、GTP、DNA、RNA等を挙げることができる。
【0020】
上記有機酸類としては、具体的には、クエン酸、コハク酸、フマル酸、乳酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、ピルビン酸等を挙げることができる。
【0021】
上記水溶性ビタミン類としては、具体的には、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、アスコルビン酸、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、リポ酸、ビオチン等を挙げることができる。
【0022】
上記水溶性補酵素類としては、チアミン二リン酸、NADH、NAD、NADP、NADPH、FMN、FAD、補酵素A、ピリドキサルリン酸、テトラヒドロ葉酸等を挙げることができる。
【0023】
上記ミネラル類としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、カリウム、ナトリウム、銅、バナジウム、マンガン、セレン、モリブデン、コバルト等、及びこれらのミネラルが結合した化合物等を挙げることができる。
【0024】
上記糖類としては、例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖、糖アルコール類、およびその他多糖類等が挙げられる。単糖類としては、具体的には、アラビノース、キシロース、リボース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、ラムノース等を挙げることができる。二糖類としては、具体的には、麦芽糖、セロビオース、トレハロース、乳糖、ショ糖等を挙げることができる。オリゴ糖としては、具体的には、マルトトリオース、ラフィノース糖、スタキオース等が挙げられる。糖アルコール類としては、具体的には、アラビトール、キシリトール、アドニトール、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール等が挙げられる。その他多糖類としては、キチン、キトサン、アガロース、ヘパリン、ヒアルロン酸、キシログルカン、デンプン、グリコーゲン、ペクチン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸等が挙げられる。
【0025】
上記レシチン類としては、例えば、卵黄レシチン、大豆レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、ジセチルリン酸、ステアリルアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールアミン、カルジオリピン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、リゾレシチン等を挙げることができる。
【0026】
ここで示した親水性生理活性物質は、親水性であれば、それらの誘導体や塩の形態でも使用することができ、言うまでもなくこれらの物質の2種以上を合わせて使用することもできる。
【0027】
本発明の製造方法において、S/O型マイクロカプセルのマトリクスを構成するために使用する固体脂は、常温で固体となる油性成分または油性組成物であれば特に限定されないが、融点が40℃以上で、常温では固体状で崩壊しにくく、硬質な形状であることが好ましい。なおここでいう、「固体」、「固体状」、「融点」とは、使用する固体脂として複数の成分を組み合わせる場合は、その混合組成物全体しての性質を意味する。このような固体脂(あるいはその構成成分)としては、例えば、油脂、ワックス、脂肪酸等を挙げることができる。
上記油脂としては、例えば、植物油脂としては、例えば、ヤシ油、パーム油、パーム核油、アマニ油、つばき油、玄米胚芽油、菜種油、米油、落花生油、オリーブ油、コーン油、小麦胚芽油、大豆油、エゴマ油、綿実油、ヒマワリ種子油、カポック油、月見草油、シア脂、サル脂、カカオ脂、マンゴー脂、イリッペ脂、ゴマ油、サフラワー油、オリーブ油等を挙げることができ、動物油脂としては、例えば、魚油、牛脂、乳脂、豚脂等を挙げることが挙げることができ、これらを分別、水素添加、エステル交換等により加工した油脂も挙げることができる。言うまでもなく、中鎖脂肪酸トリグリセリド、長鎖脂肪酸トリグリセリド、脂肪酸の部分グリセリド等も使用できる。これら油脂としては、入手しやすく、かつ溶融・冷却固化が容易に行えるという観点から、トリステアリン、トリパルミチン等の飽和長鎖脂肪酸トリグリセリドや、カカオ脂、シア脂などの天然固体油脂、液体油脂を水素添加して得られる硬化油天然油脂の高融点画分を分別した分別油脂の使用が好ましい。
【0028】
上記ワックスとしては、例えば、ミツロウ、モクロウ、キャンデリラロウ、米ぬかロウ、カルナバロウ、雪ロウ、セラックロウ、ホホバロウ等の食用ワックス類が挙げられる。
【0029】
上記脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ベヘニン酸およびこれらのエステル類を挙げることができる。
【0030】
また、本発明における固形脂としては、上記成分の混合物を使用しても良く、その場合、常温で液体のものを含んでいても、混合物全体として常温で固体であればよい。
【0031】
また、本発明の製造方法においては、使用する固体脂の中に脂溶性生理活性物質を混合して使用することで、親水性生理活性物質と脂溶性生理活性物質との両方を含有するマイクロカプセルを得ることもできる。そのような脂溶性生理活性物質としては、例えば、補酵素Q10、脂溶性ビタミン類、カロテノイド、脂溶性ポリフェノール、フラボノイド、植物ステロール類、α―リポ酸、L―カルニチン等が挙げられる。
【0032】
上記補酵素Q10には酸化型と還元型が存在するが、本発明においては、補酵素Q10として、酸化型補酵素Q10、還元型補酵素Q10のいずれを用いた場合においても、マイクロカプセルを得ることができる。もちろん、補酵素Q10として酸化型補酵素Q10と還元型補酵素Q10の混合物を使用してもよい。
【0033】
上記脂溶性ビタミン類としては、例えば、ビタミンAアセテート、ビタミンAパルミテート、ビタミンA(レチノール)、ビタミンAアルデヒド(レチナール)、ビタミンA酸等のビタミンA類、コレカルシフェロール(ビタミンD3)、エルゴカルシフェロール(ビタミンD2)、1α,25−ジヒドロキシコレカルシフェロール(活性型ビタミンD3)またはこれらの誘導体のビタミンD類、α−トコフェロール、5,7,8−トリメチルトコトリエノール等のビタミンE類、2−ファルネシル−3−メチル−1,4−ナフトキノン(ビタミンK2)、2−メチル−1,4−ナフトキノン(ビタミンK3)等のビタミンK類等が挙げられる。
【0034】
上記カロテノイドとしては、例えば、β−カロチン、α−カロチン、ルチン、ゼアキサンチン、カプサンチン、リコペン、β−クリプトキサンチン、アスタキサンチン、カンタキサンチン等が挙げられる。
【0035】
上記植物ステロール類とは、コレステロール又は飽和型であるコレスタノールに類似した構造を持つ、植物の脂溶性画分より得られる植物ステロール又は植物スタノール、あるいはこれらの構成成分のことをいう。植物ステロールとしては、例えば、β−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、ブラシカスタノール、エルゴステロール等が挙げられる。植物スタノールとしては、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものを使用することができる。
【0036】
ここで示した脂溶性生理活性物質は、脂溶性であれば、それらの誘導体や塩の形態でも使用することができる。脂溶性生理活性物質は1種類のみを単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
本発明の製造方法においては、工程(1)における、親水性生理活性物質と固体脂の重量比が0.01/99.99〜70/30の範囲内であることが好ましく、1/90〜40/60の範囲内であることがより好ましい。固体脂に対する親水性生理活性物質の重量比が低い場合、得られるS/O型マイクロカプセル中の親水性生理活性物質量の含有量が低くなるため、例えば、所定量の親水性生理活性物質を経口投与する際に、多量のマイクロカプセルを摂取することが必要となる。一方、固体脂に対する親水性生理活性物質の重量比が高すぎると、製造工程において親水性生理活性物質が外水相に漏洩するなど、親水性生理活性物質の封入収率が低下する。
【0038】
本発明の製造方法では、上記工程(1)において、W/Oエマルションを調製する際の、油相に対する水相の仕込み割合、すなわち溶融した固体脂に対する親水性生理活性物質含有水溶液の仕込み割合は特に限定されないが、芯物質が高含量に封入されたマイクロカプセルを作製するという観点から、油相に対する水相の仕込み割合が高いほど好ましく、水相と油相の容量比が1/99以上、特に10/90以上であることが好ましい。一方、水相と油相の容量比が70/30を超える場合は、油相中の水相分散滴の肥大化を招くほか、油相と水相の転相現象を引き起こす場合もあり、安定したW/Oエマルションに調整することが難しいため、それ以下とするのが好ましい。また、工程(1)における水相中の親水性生理活性物質の仕込み濃度は特に制限はなく、目的のマイクロカプセル中の芯物質含量に応じて、適宜調整することが可能であるが、マイクロカプセルの製造効率を高める上で、水相中の親水性生理活性物質の仕込み濃度は高いほど好ましく、親水性生理活性物質の水相に対する飽和濃度を超えない程度まで仕込むことが可能である。
【0039】
本発明の製造方法では、上記工程(1)において、油相中に水相が乳化分散したW/Oエマルションを調製する際に、界面活性剤の存在下で乳化分散を行うのが好ましく、該界面活性剤は、油相中に含有させるのがより好ましい。さらに、油相中における水滴分散形成の観点から、上記界面活性剤のHLBは10以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましく、5以下であることが最も好ましい。上記界面活性剤としては、食品用又は医薬品用として使用できるものが好ましく、例えば、グリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、およびレシチン類を挙げることができる。
【0040】
上記グリセリン脂肪酸エステル類としては、例えば、脂肪酸の部分グリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル等を挙げることができる。脂肪酸の部分グリセリドとしては、例えば、モノグリセリンモノカプリル酸エステル、モノグリセリンモノカプリン酸エステル、モノグリセリンジカプリル酸エステル、モノグリセリンジカプリン酸エステル、モノグリセリンジラウリン酸エステル、モノグリセリンジミリスチン酸エステル、モノグリセリンジステアリン酸エステル、モノグリセリンジオレイン酸エステル、モノグリセリンジエルカ酸エステル、モノグリセリンジベヘニン酸エステル等のモノグリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリンカプリル酸コハク酸エステル、モノグリセリンステアリン酸クエン酸エステル、モノグリセリンステアリン酸酢酸エステル、モノグリセリンステアリン酸コハク酸エステル、モノグリセリンステアリン酸乳酸エステル、モノグリセリンステアリン酸ジアセチル酒石酸エステル、モノグリセリンオレイン酸クエン酸エステル等のモノグリセリン脂肪酸有機酸エステル等を挙げることができる。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、重合度が2から10のポリグリセリンを主成分とするポリグリセリンに、ポリグリセリンの水酸基の1つ以上に炭素数が各々6〜22の脂肪酸がエステル化したものが挙げられる。具体的には、例えば、ヘキサグリセリンモノカプリル酸エステル、ヘキサグリセリンジカプリル酸エステル、デカグリセリンモノカプリル酸エステル、トリグリセリンモノラウリン酸エステル、テトラグリセリンモノラウリン酸エステル、ペンタグリセリンモノラウリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、トリグリセリンモノミリスチン酸エステル、ペンタグリセリンモノミリスチン酸エステル、ペンタグリセリントリミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、ジグリセリンモノオレイン酸エステル、トリグリセリンモノオレイン酸エステル、テトラグリセリンモノオレイン酸エステル、ペンタグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、ジグリセリンモノステアリン酸エステル、トリグリセリンモノステアリン酸エステル、テトラグリセリンモノステアリン酸エステル、ペンタグリセリンモノステアリン酸エステル、ペンタグリセリントリステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリントリステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンジステアリン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンジステアリン酸エステル、デカグリセリントリステアリン酸エステル等が挙げられる。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとしては、例えば、ポリグリセリンの平均重合度が2〜10、ポリリシノレイン酸の平均縮合度(リシノレイン酸の縮合数の平均)が2〜4であるものが挙げられ、例えば、テトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ペンタグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ヘキサグリセリン縮合リシノレイン酸エステル等が挙げられる。
上記ショ糖脂肪酸エステル類としては、ショ糖の水酸基の1つ以上に炭素数が各々6〜22の脂肪酸をエステル化したものが挙げられる。具体的には、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル等が挙げられる。
上記ソルビタン脂肪酸エステル類としては、ソルビタン類の水酸基の1つ以上に炭素数が各々6〜18、好ましくは6〜12の脂肪酸をエステル化したものが挙げられる。具体的には、ソルビタンモノステアリン酸エステル、ソルビタンモノオレイン酸エステル等が挙げられる。
【0041】
上記レシチン類としては、例えば、卵黄レシチン、大豆レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、ジセチルリン酸、ステアリルアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールアミン、カルジオリピン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、リゾレシチン、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0042】
言うまでもなく、ここで示した界面活性剤は2種以上を合わせて使用することもできる。
上記工程(1)において、油相中の界面活性剤の濃度は特に限定されないが、その濃度が0.01〜20重量%となる範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは、濃度0.1〜10重量%の範囲である。
【0043】
本発明の製造方法の工程(1)においてW/Oエマルションを調製する際、固体脂が溶融する温度、すなわち固体脂の融点以上の温度で実施する必要がある。一方、工程(1)においては、水の沸点未満の操作条件にて乳化分散を行う必要があるため、常圧では温度の上限が100℃、好ましくは90℃以下で操作を行うが、固体脂の融点が100℃以上である場合は、装置内を加圧して水分が蒸発しないよう、水の蒸気圧を調整することにより、100℃以上の温度条件にてW/Oエマルションを調製することも可能である。
また、上記W/Oエマルションを調製するため行う乳化分散には、各種の汎用されている乳化分散機、例えばホモミキサー、ホモディスパー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、コロイドミル、超音波乳化機、膜乳化機等を用いることができる。
本発明の製造方法では、次の上記工程(2)において、工程(1)で得られたW/Oエマルション中の水分を、固体脂の融点以上かつ沸点未満の温度で除去して、S/Oサスペンションを調製する。ここでS/Oサスペンションとは、固体脂が溶融して形成されている液体油相中に、固体状の親水性生理活性物質が分散している懸濁液のことをいう。工程(2)における乾燥中は、W/Oエマルションの分散状態を維持したまま水分を除去することが好ましく、乳化分散機や撹拌機等で剪断を与えながら乾燥することが好ましい。工程(2)における温度条件は、固体脂の融点以上かつ固体脂の沸点未満で、さらに、水の沸点以上に調整する必要がある。水の沸点は常圧では100℃であるが、水分が蒸発、乾燥するような温度、圧力条件であれば特に制限はなく、装置内を減圧して操作を実施することもできる。
【0044】
また、後述の工程を経て得られるS/O型マイクロカプセルに封入される親水性生理活性物質の含量を高めるため、工程(2)で一旦得られたS/Oサスペンションに、さらに親水性生理活性物質含有水溶液を再度添加し、乳化分散して再びW/Oエマルションを調整し、水分を乾燥、除去する、すなわち、工程(1)と(2)を繰り返すことで、親水性生理活性物質がより高濃度で多分散したS/Oサスペンションを調製することもできる。これらの一連の操作を複数回繰り返すことにより、親水性生理活性物質を所望の濃度まで含有するS/Oサスペンションを得ることが可能である。
本発明の製造方法では、上記工程(2)において前述の方法で調製した親水性生理活性物質のS/Oサスペンションを、次の工程(3)では、冷却場である冷却気相中に噴霧し、S/Oサスペンションを気相中に液滴分散させるとともに、該S/Oサスペンション液滴を固体脂の融点未満に冷却して固体脂を固化させるという、噴霧冷却方式により固形状のS/O型マイクロカプセルを得る。
【0045】
本発明における噴霧冷却においては、S/Oサスペンションを微粒化して噴霧するための加熱可能なノズル、噴霧により微粒化したS/Oサスペンションを流動させるチャンバー、それに続くサイクロン及びバグフィルターから成る装置が好ましく用いられる。また、S/Oサスペンションの微粒化には、圧力ノズルや二流体微噴霧ノズルなどのノズル型アトマイザー、又は回転式のディスク型アトマイザーを用いることができる。二流体微噴霧ノズルを用いる場合、S/Oサスペンションを微粒化するための加圧気体として、通常、空気を用いるが、それ以外の窒素ガスなども用いることができ、これらの加圧気体は、噴霧するS/Oサスペンションの油相成分の固体脂の融点よりも僅かに高い温度に調整することがより好ましい。
【0046】
噴霧により微細な液滴となったS/Oサスペンションは、チャンバー内を流れる冷却風により冷却固化される。この冷却風の流れ方向は、S/Oサスペンションの噴霧方向に対して、並流、向流のいずれの方向でもよい。冷却風の温度は、S/Oサスペンションの油相成分の固体脂の融点より低いことが必須となるが、造粒物のチャンバー壁面への付着や、粒子同士の合一を抑制する観点から、S/Oサスペンションの油相成分の固体脂の融点よりも10℃以上低い温度で操作することが好ましい。また、冷却固化によって生成したS/O型マイクロカプセルはチャンバーに続くサイクロン等の気固分離装置で回収を行うことが好ましい。
【0047】
本発明の製造方法によって得られるS/O型マイクロカプセルの平均粒子径は、噴霧冷却時のスプレーノズルの圧力、アトマイザーの回転数等によって、適宜調整することができる。本発明においては、得られるS/O型マイクロカプセルの平均粒径を、1〜2000μmとすることが好ましく、打錠用途やソフトカプセル用途として使用する場合には平均粒子径が50〜300μmとすることが好ましい。S/O型マイクロカプセルの平均粒子径が300μmを超える場合、例えば打錠時やソフトカプセルの充填時に充填量が均一にならない等の問題がある。
【0048】
本発明の製造方法によれば、親水性生理活性物質が粒子内において、偏りなく均一に分散しているS/O型マイクロカプセルを得ることができる。また、マイクロカプセル作製時の収率や生理活性作用の観点から、マイクロカプセル中の親水性生理活性物質の分散径は、工程(1)において、界面活性剤の添加量や、W/O分散時の剪断強度をコントロールすることなどにより、0.01〜50μmの範囲とすることが好ましく、0.01〜20μmの範囲とすることがより好ましく、0.01〜10μmの範囲とすることが最も好ましい。
【0049】
本発明の製造方法により得られるS/O型マイクロカプセルは、そのままの形態での経口投与も可能であるが、打錠やソフトカプセルへの充填も可能であるほか、他の素材に混合、加工して使用することもできる。
【実施例】
【0050】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
以下の実施例及び比較例で、マイクロカプセルの平均粒子径、マイクロカプセル中の親水性生理活性物質の含量、及びマイクロカプセルへの親水性生理活性物質の封入収率は以下の手順で測定した。
【0052】
(マイクロカプセルの平均粒子径)
粒子径測定装置(堀場製作所 LA−950)を使用して測定した。
【0053】
(マイクロカプセル中の親水性生理活性物質の含量)
得られたマイクロカプセルを、使用した固体脂の融点以上の温度に加温して液状化した上で、水と混合し、マイクロカプセル内に封入した親水性生理活性物質を水相中に抽出した。抽出した水相中の親水性生理活性物質濃度をHPLCにより測定し、マイクロカプセル中の正味の親水性生理活性物質の含量を算出した。
【0054】
(マイクロカプセルへの親水性生理活性物質の封入収率)
工程(1)で仕込んだ親水性生理活性物質の重量と、上記方法により算出したマイクロカプセル中の親水性生理活性物質の含量より、封入収率を算出した。
【実施例1】
【0055】
あらかじめ温度80℃に加熱して、溶融させておいたナタネ極度硬化油(融点65℃)200gおよびテトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(理研ビタミン製、ポエムPR−100、HLB0.3)20gからなる油性成分に、55重量%のグルコースを含有する水溶液200gを添加し、ホモジナイザーで乳化分散してW/Oエマルションを調製した。つづいて、該W/Oエマルションを、温度80℃、圧力13kPaの減圧条件で90分間撹拌して水分の除去を行い、S/Oサスペンションとした。ここで得たS/Oサスペンションを、80℃とし、1流体ノズル(空円錐スプレーノズル、株式会社いけうち製)に0.3MPaの圧力でポンプ送液し、10℃の冷却場に噴霧してS/O型マイクロカプセルを得た。得られたマイクロカプセルの平均粒子径は162μmであり、マイクロカプセル中のグルコース含量は32.5重量%であった。また、本実施例におけるグルコースのマイクロカプセルへの封入収率は97.5%であった。また、得られたS/O型マイクロカプセルを走査型電子顕微鏡(日立製作所製S−4800、以下SEM)で観察したところ、図1に示したような球形粒子形状が観察された。
【実施例2】
【0056】
あらかじめ80℃に加熱して、溶融させておいたナタネ極度硬化油(融点65℃)200gおよびテトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(理研ビタミン製、ポエムPR−100、HLB0.3)20gからなる油性成分に、魚介エキス濃縮液160g(アンセリン含量28重量%)を添加した後、ホモジナイザーで乳化分散してW/Oエマルションを調製した。つづいて、該W/Oエマルションを、温度80℃、圧力13kPaの減圧条件で90分間撹拌して水分の除去を行い、S/Oサスペンションとした。ここで得たS/Oサスペンションを、80℃とし、1流体ノズル(空円錐スプレーノズル、株式会社いけうち製)に0.3MPaの圧力でポンプ送液し、10℃の冷却場に噴霧してS/O型マイクロカプセルを得た。得られたマイクロカプセルの平均粒子径は174μmであり、マイクロカプセル中のアンセリン含量は14.0重量%であった。また、本実施例におけるアンセリンのマイクロカプセルへの封入収率は96.7%であった。
【実施例3】
【0057】
あらかじめ温度65℃に加熱して、溶融させておいたパーム極度硬化油(融点58℃)200gおよびテトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(理研ビタミン製、ポエムPR−100、HLB0.3)10gからなる油性成分に、20重量%のグルタチオン(カネカ製)を含有する水溶液100gを添加し、ホモジナイザーで乳化分散してW/Oエマルションを調製した。つづいて、該W/Oエマルションを、温度70℃、圧力13kPaの減圧条件で90分間撹拌して水分の除去を行い、S/Oサスペンションとした。ここで得たS/Oサスペンションを、70℃とし、1流体ノズル(空円錐スプレーノズル、株式会社いけうち製)に0.3MPaの圧力でポンプ送液し、10℃の冷却場に噴霧してS/O型マイクロカプセルを得た。得られたマイクロカプセルの平均粒子径は128μmであり、マイクロカプセル中のグルタチオン含量は8.5重量%であった。また、本実施例におけるグルタチオンのマイクロカプセルへの封入収率は97.8%であった。
【実施例4】
【0058】
あらかじめ80℃に加熱して、溶融させておいたナタネ極度硬化油(融点65℃)160g、還元型補酵素Q10(カネカ製)40g、およびテトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(理研ビタミン製、ポエムPR−100、HLB0.3)20gからなる油性成分に、魚介エキス濃縮液100g(アンセリン含量28重量%)を添加した後、ホモジナイザーで乳化分散してW/Oエマルションを調製した。つづいて、該W/Oエマルションを、温度80℃、圧力13kPaの減圧条件で90分間撹拌して水分の除去を行い、S/Oサスペンションとした。ここで得たS/Oサスペンションを、80℃とし、1流体ノズル(空円錐スプレーノズル、株式会社いけうち製)に0.3MPaの圧力でポンプ送液し、10℃の冷却場に噴霧してS/O型マイクロカプセルを得た。得られたマイクロカプセルの平均粒子径は166μmであり、マイクロカプセル中のアンセリン含量は9.8重量%、還元型補酵素Q10含量は14.1%であった。また、本実施例におけるアンセリンのマイクロカプセルへの封入収率は96.5%であった。
【0059】
(比較例1)
あらかじめ温度60℃に加熱して、溶融させておいた硬化パーム油(融点58℃)18gおよびテトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(理研ビタミン製、ポエムPR−100、HLB0.3)0.9gからなる油性成分に、20重量%のグルタチオン(カネカ製)を含有する水溶液5mLを添加し、ホモジナイザーで乳化分散してW/Oエマルションを調製した。つづいて、該W/Oエマルションを、温度70℃、圧力13kPaの減圧条件で30分間撹拌して水分の除去を行い、S/Oサスペンションとした。ここで得たS/Oサスペンションを、あらかじめ60℃に加熱しておいた、アラビアガム(0.5重量%)、デカグリセリンモノオレイン酸エステル(理研ビタミン製、ポエムJ−0381V、HLB12)(0.05重量%)含有水溶液600mLに添加し、ディスクタービン翼を用いて撹拌して、S/O/Wエマルションに調製した。その後、該S/O/Wエマルションを撹拌したまま0.4℃/minの冷却速度で40℃まで冷却してから、吸引濾過、真空乾燥してS/O型マイクロカプセルを得た。得られたマイクロカプセルの平均粒子径は132μmであり、マイクロカプセル中のグルタチオン含量は4.5重量%であった。また、本実施例におけるグルタチオンのマイクロカプセルへの封入収率は89.1%であった。
【0060】
(比較例2)
あらかじめ温度60℃に加熱して、溶融させておいた硬化パーム油(融点58℃)18gおよびテトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(理研ビタミン製、ポエムPR−100、HLB0.3)0.9gからなる油性成分に、20重量%のグルタチオン(カネカ製)を含有する水溶液5mLを添加し、ホモジナイザーで乳化分散してW/Oエマルションを調製した。ここで得たW/Oエマルションを、あらかじめ60℃に加熱しておいた、アラビアガム(0.5重量%)、デカグリセリンモノオレイン酸エステル(理研ビタミン製、ポエムJ−0381V、HLB12)(0.05重量%)含有水溶液600mLに添加し、ディスクタービン翼を用いて撹拌して、W/O/Wエマルションに調製した。その後、該W/O/Wエマルションを、撹拌したまま0.4℃/minの冷却速度で40℃まで冷却してから、吸引濾過、真空乾燥してW/O型マイクロカプセルを得た。得られたマイクロカプセルの平均粒子径は110μmであり、マイクロカプセル中のグルタチオン含量は2.1重量%であった。また、本実施例におけるグルタチオンのマイクロカプセルへの封入収率は41.7%であった。
表1に実施例1〜4、および比較例1、2における試験条件と、得られたマイクロカプセルの平均粒子径、芯物質含量、封入収率の測定結果を示す。
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)の工程を含む、固体脂のマトリクス中に親水性生理活性物質が多分散したS/O型マイクロカプセルの製造方法。
(1)固体脂と親水性生理活性物質含有水溶液の混合物を、固体脂の融点以上の温度で、乳化分散してW/Oエマルションを得る
(2)固体脂の融点以上かつ沸点未満の温度で、上記W/Oエマルション中の水分を除去してS/Oサスペンションを得る
(3)上記S/Oサスペンションを噴霧冷却することによって、S/Oサスペンション液滴を固体脂の融点未満まで冷却して固体脂を固化させる
【請求項2】
固体脂の融点が40℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(1)における、親水性生理活性物質と固体脂の重量比が0.01/99.99〜70/30の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(1)において、W/Oエマルションの油相中に、界面活性剤を含有させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
界面活性剤が、HLB10以下の、ショ糖脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、およびレシチン類からなる群より選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
油相中の界面活性剤の含有量が、0.01重量%以上であることを特徴とする請求項4または5に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−260005(P2010−260005A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112915(P2009−112915)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】