説明

固体酸の製造方法および固体酸

【課題】高性能で、プロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、且つイオン交換容量、触媒性能などにも優れた固体酸を作業安全性、収率、分子設計の自由度が高く、再現性がよく、且つ容易に製造できる方法および固体酸を提供する。
【解決手段】スルホン酸基を有する重縮合化合物を、NH2基を有する高分子凝集剤で凝集処理することを特徴とする固体酸の製造方法。このような方法で製造された固体酸は低価格で、高性能を有し、プロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜等に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸の製造方法および固体酸に関するものであり、更に詳しくは、プロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜、イオン交換容量、触媒性能、プロトン伝導性が高く耐熱性に優れた固体酸の製造方法および本発明の製造方法により製造された固体酸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸触媒は、分離・回収に中和や塩の除去といったプロセスが不要であり、不必要な副産物を生産することなく省エネルギーで目的物を作ることができるため、従来から積極的にその研究が進められてきた(例えば、非特許文献1参照)。
その結果、ゼオライト、シリカ−アルミナ、含水ニオブなどの固体酸触媒が化学工業で大きな成果を挙げ、社会に大きな恩恵をもたらしている。また、Nafionも親水性を有する非常に強い固体酸であり、液体酸を上回る酸強度をもつ超強酸として働くことが既に知られている。しかし、Nafionは熱に弱く、また、工業的に利用するには高価すぎるという問題点がある。
このように、性能およびコストなどの面から固体酸触媒が液体の酸触媒より有利な工業的プロセスの設計は難しく、現在のところほとんどの化学産業は液体の酸触媒に依存していると言える。このような現状において液体の酸を凌ぐ固体酸触媒の出現が望まれる。
【0003】
また商業化されているイオン交換樹脂も耐熱性が低く耐熱性の高い材料が求められている。
【0004】
このような中、特許文献1における固体酸は多環式芳香族炭化水素を濃硫酸中あるいは発煙硫酸中で加熱処理することにより縮合およびスルホン化を同時に行い、極性溶媒に不溶な固体酸を得るとしている。
【0005】
しかし、実際には、濃硫酸や発煙硫酸を250℃で減圧処理することや常圧下、300℃で蒸留処理を行うことで固体酸を得ている。
一般的に、250℃を超えると濃硫酸や発煙硫酸中の硫酸は水と三酸化硫黄に分解し始めるため酸化力が非常に強い、このために有機物を酸化するために結合を破壊分解するので、目的とする極性溶媒に不溶な固体酸は得難い。濃硫酸あるいは発煙硫酸を250℃で減圧蒸留や常圧下、300℃で蒸留を行い取り除いているが、先の理由で酸化分解されるために目的とする固体酸は得難い。また、減圧蒸留などの反応溶液の濃縮に伴って発泡膨張することや250℃以上の高温で濃硫酸や発煙硫酸を蒸留するなど作業上、非常に危険である。そして、目的である極性溶媒に不溶の固体酸を得るためには多環式芳香族炭化水素を重縮合する必要があるが、濃硫酸あるいは発煙硫酸中加熱処理は、できた重縮合化合物を発生する三酸化硫黄により酸化分解するために必ずしも効率のよい重縮合反応ではない。また、濃硫酸あるいは発煙硫酸中での処理温度が100℃未満の場合、重縮合が十分進行せず、極性溶媒に不溶性の固体酸が得られないとしている。
また、このようにして製造する固体酸は、スルホン酸基の導入がしにくいという問題があった。元素分析により、炭素原子に対する硫黄原子の割合が15モル%未満と低く、さらに硫黄原子を多く含んだ高性能かつ分子設計の自由度が高い、作業上安全で、収率や再現性の高く、容易に製造できる材料の提供が求められていた。
ここで元素分析における硫黄の割合は、スルホン酸基の含有率が高くなると増加する。
別の計算方法では滴定により酸価を測る方法もあるが、この場合はカルボン酸などの別の弱い酸基との区別がつかず、元素分析法がより実体を把握できる。
【0006】
【非特許文献1】Ishihara,K;Hasegawa,A;Yamamoto,H;Angew.Chem.Int.Ed.2001,4077.
【特許文献1】特開2004−238311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、プロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、且つイオン交換容量、触媒性能などにも優れた固体酸を作業安全性、収率、分子設計の自由度が高く、再現性がよく、且つ容易に製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、スルホン酸基を有する重縮合化合物を、NH基を有する高分子凝集剤で凝集処理することにより、作業安全性が高く、再現性よく、収率が高く、分子設計の自由度の高い、且つ低コストで容易に固体酸を製造できることを見出した。
また、そのような方法で製造された固体酸は低価格で、高性能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、スルホン酸基を有する重縮合化合物を、NH2基を有する高分子凝集剤で凝集処理することを特徴とする固体酸の製造方法に関する。
【0010】
また、本発明は、スルホン酸基を有する重縮合化合物が、有機化合物を重縮合化剤の存在下で加熱処理して得られる重縮合化合物を、スルホン酸化剤でスルホン酸化されることを特徴とする上記固体酸の製造方法に関する。
【0011】
また、本発明は、加熱処理温度が、50℃から250℃である上記固体酸の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、有機化合物が、芳香族炭化水素である上記固体酸の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、上記製造方法で製造されてなることを特徴とする固体酸に関する。
【0014】
また、本発明は、元素分析で炭素に対する硫黄のモル量が、15モル%以上100モル%以下であることを特徴とする上記固体酸に関する
【0015】
固体酸の酸価が、1〜20meq/gであることを特徴とする上記固体酸に関する。

【発明の効果】
【0016】
本発明の固体酸の製造方法は、スルホン酸基を有する重縮合化合物を、NH2基を有する高分子凝集剤で凝集処理することを特徴とするものである。スルホン酸基を有する重縮合化合物が、極性溶媒に溶解または良分散であっても、NH2基を有する高分子凝集剤で凝集されることで、極性溶媒に不溶で、プロトン伝導性が高く、導入するスルホン酸基量を容易に設計し易く、耐熱性に優れ、且つ、イオン交換量、触媒性能などにも優れ、作業安全性や収率、分子設計の自由度の高い、再現性よく、容易に固体酸を製造できるという顕著な効果を奏する。

【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
本発明において、スルホン酸基を有する重縮合化合物を、NH2基を有する高分子凝集剤で凝集処理をする。すなわち、重縮合化合物のスルホン酸基と高分子凝集剤のNH2基とが相互作用することで、スルホン酸基を有する重縮合化合物が極性溶媒に可溶あるいは良分散であっても凝集、すなわち、小さい集合体を大きい集合体になるという知見を応用した製造方法である。
本発明において、スルホン酸基を有する重縮合化合物とは、芳香族環が2以上縮合した多環式芳香族炭化水素または、カリックスアレンのような芳香環が集合している芳香族多環化合物にスルホン酸基を有するものである。
本発明におけるスルホン酸基を有する重縮合化合物としては、有機化合物および/または重縮合化剤がスルホン酸基を有するものであり、有機化合物を重縮合化剤の存在下で加熱処理する1工程のみで得られるもの、または、スルホン酸基を有さない重縮合化剤において、第一工程、有機化合物を重縮合剤の存在下で加熱処理して得られる重縮合化合物を、第二工程、スルホン酸化剤でスルホン酸化されたものである。
また、本発明における重縮合化合物は、有機化合物と重縮合化剤とが入っている反応容器中、加熱処理し、重縮合反応(すなわち、2個またはそれ以上の芳香環が、新たに2個またはそれ以上の原子を共有した形で一体となった縮合環を生成すること)し、複雑に重縮合した多環式芳香族炭化水素である。
【0018】
また、本発明において、有機化合物を重縮合化剤の存在で加熱処理する際、減圧下で行ってもよい。減圧度としては、6×10−2Pa以上〜1.01×10Pa以下である。
【0019】
また、本発明における有機化合物は、炭化水素が含まれている原料であればいずれも使用でき、これらの内の2種以上複数種組み合わせて使用することもできる。
その中でも、炭化水素スルホン酸や芳香族炭化水素を原料に使用した場合、よりプロトン伝導性が高く耐熱性に優れ、且つイオン交換容量、触媒性能などにも優れ、作業安全性や収率、分子設計の自由度の高い、再現性よく、且つ低コストで容易に製造できることが多いので好ましく使用できる。
本発明における有機化合物とは、例えば、ベンゼンスルホン酸、ビフェニルスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンなどのアルキルナフタレンスルホン酸、ピレンスルホン酸、アントラセンスルホン酸、フェナントレンスルホン酸、コロネンスルホン酸、ペリレンスルホン酸、ピレンジスルホン酸、フェナントレンジスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1−ナフタレンスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸などの芳香族炭化水素スルホン酸、
例えば、メチル硫酸、エチル硫酸、プロピル硫酸、ブチル硫酸、ペンチル硫酸、ヘキシル硫酸、ヘプチル硫酸、オクチル硫酸、ノニル硫酸、ウンデシル硫酸、デシル硫酸、トリデシル硫酸、テトラデシル硫酸、ラウリル硫酸、セチル硫酸、ドデカン硫酸、ヘプタデシル硫酸、ナノデシル硫酸、エイコシル硫酸、ステアリル硫酸、オレイル硫酸、オクタン硫酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、ヘプタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ノナンスルホン酸、デカンスルホン酸、ウンデカンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、トリデカンスルホン酸、テトラデカンスルホン酸、ペンタデカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸、ヘプタデカンスルホン酸、オクタデカンスルホン酸、ノナデカンスルホン酸、エイコサンスルホン酸、イソブタンスルホン酸、イソペンタンスルホン酸、イソヘキサンスルホン酸、メチルペンタンスルホン酸、ジメチルブタンスルホン酸、ブテンスルホン酸、ペンテンスルホン酸、ヘキセンスルホン酸、ヘプテンスルホン酸、オクテンスルホン酸、ノネンスルホン酸、デセンスルホン酸、ウンデセンスルホン酸、ドデセンスルホン酸、トリデセンスルホン酸、テトラデセンスルホン酸、ペンタデセンスルホン酸、ヘキサデセンスルホン酸、ヘプタデセンスルホン酸、オクタデセンスルホン酸、ノナデセンスルホン酸、エイコセンスルホン酸などの脂肪族炭化水素スルホン酸が挙げられる。
さらに、スルホン酸基をふくまない有機化合物として、例えば、ベンゼンあるいは置換基含有ベンゼン、前記置換基としては、ハロゲン基、フェニル基、アルコキシル基、アミノ基、水酸基、N−オキシド基、フェニルオキシド基、アミノ基、ヒドラジル基、フェルダジル基、ニトロ基、ニトロソ基、水酸基、燐酸基、ジスルフィド基、メルカプタン基、アミド基、イミド基、イソシアネート基、ビニル基、(メタ)アクロリル基、シアノ基、カルボン酸、アルデヒド基、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は鎖状であっても、環状であってもよく、環状炭化水素は脂肪族系でも芳香族系でもよく、さらには単環であっても、多環であっても、またヘテロ環であってもよい。また炭化水素基は置換基を含んでいてもよい。
例えば、ナフタレン、ピレン、アントラセン、フェナントレン、ペリレン、コロネンなどの少なくとも2以上の芳香環が縮合している無置換あるいは置換基含有多環式芳香族炭化水素、前記置換基としては前述の置換基が挙げられる。例えば、ビフェニル、ターフェニルクァテルフェニル、キンクフェニル、セシルフェニル、セプチフェニル、オクチフェニル、のビフェニル、デシフェニル、フキサフェニルなどの芳香環が2個以上集合している無置換あるいは置換基含有ポリフェニル化合物、前記置換基としては前述の置換基が挙げられる。例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセロース、単糖類、二糖類、多糖類などのセルロース骨格をもつ化合物、例えば、ポリブタジエンゴムやポリイソブチレンゴム、ポリイソプレンゴムなどのゴム類、例えば、ポリビニルアルコール類、ポリスルホン類、ポリスチレン類、ポリイミド類、ポリアクリルアミド類、ポリテルペン類、アルキッド類、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ビスマレイミド−トリアジン類、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、EVA樹脂、フラン樹脂、アクリル系樹脂、メタアクリル系樹脂、ポリエステル、石油樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリアリルスルホン、ポリベンゾイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルスルホン、ポリチオエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミノビスマレイミド、ポリケトン、ポリメチルペンテン、ポリフェニルエーテル、ポリフェニルスルフィド、SAN樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、シリコーン、ポリ酢酸ビニル、キシレン樹脂などのゴム以外の合成ポリマー、廃タイヤ、硫酸ピッチ、石油ピッチなどの産業廃棄物、使用済み茶葉やコーヒー豆、みかんの皮などの天然化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記有機化合物は、単独または2種類以上の化合物を混合して使用することもできる。

【0020】
本発明における重縮合化剤としては、例えば、濃硫酸、発煙硫酸のスルホン酸基を有するもの、と、スルホン酸基をもたないものがあり、別の視点からは、AlCl、FeCl、SbCl、AlBr、BF、ZnCl、CuCl、TiCl、HF、HPO、P、ポリリン酸などのルイス酸触媒、濃硫酸、発煙硫酸、塩化第二鉄、フェリシアン化カリウム、二酸化マンガン、過酸化水素、過硫酸、ヨウ素、酸化セレン、有機過酸など諸種の酸化剤やScholl反応に使用される縮合剤、固体酸や一般的な脱水素触媒など挙げることができるが、これらに限定するもではない。
これらの添加方法は、一度に添加してもよく、別々に添加してもよい。
また、重縮合を促進させるために、ルイス酸触媒と酸化剤とを組み合わせてもよい。
また、重縮合を促進させるために、ルイス酸触媒系重縮合剤の溶融点を下げる作用のある塩化ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、などのハロゲン化アルカリ金属塩などを組み合わせることも効果的である。
【0021】
本発明において、重縮合化剤として、濃硫酸または発煙硫酸で処理する場合は、重縮合反応とスルホン酸化が同時に行うことができるので、スルホン酸化剤でのスルホン酸化を行ってもよいし、省略してもよい。
【0022】
本発明の重縮合化剤の添加量としては、重縮合反応が生じる量であればよいが、より好ましくは、有機化合物100重量部に対して100〜2000重量部である。
本発明におけるルイス酸触媒と酸化剤の組み合わせによる比率は、ルイス酸触媒100重量部に対して酸化剤0.01から100重量部である。
本発明におけるハロゲン化アルカリ金属の添加量としては、ルイス酸触媒100重量部に対して、ハロゲン化金属1〜100重量部である。より好ましくは、5〜60重量部である。
【0023】
また、本重縮合反応は、溶媒の非存在下においても行われるが、溶媒の存在下でも行うことができる。
この溶媒としては、ニトロメタン、ニトロプロパン、ニトロベンゼン、ニ硫化炭素、シクロヘキサン、ヘプタンなど、一般にFriedel−Crafts反応やカチオン重合などに使用される溶媒が使用できる。
【0024】
本発明における高分子凝集剤は、NH基を有するもので、重量平均分子量が10万〜2000万ものをいう。
例えば、キトサンや、ポリアクリルアミド[−CH・CH・CO・NH−]のノニオン系高分子凝集剤、ポリアクリルアミド、アクリルアミド・アクリル酸共重合物[−CH・CH・CO・NH−]・[−CH・CH・CO・ONa−]のアニオン系高分子凝集剤、アクリルアミド・ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド4級塩の共重合物[−CH・CH・CO・NH−]・[−CH・CH・CO・OCH・CH・N(CHCl−]のカチオン系高分子凝集剤、アクリルアミドとアクリル酸とジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロイドの共重合体の両性高分子凝集剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明における高分子凝集剤の添加量としては、重縮合化合物100重量部に対して高分子凝集剤0.01重量部〜50重量部である。より好ましくは、0.1重量部〜10重量部である。
本発明の加熱処理温度範囲としては、重縮合反応が生じる温度であればよく、50℃〜250℃が好ましい。加熱処理温度が50℃を下回ると十分に重縮合が進まず、250℃を超えると、例えば、重縮合化剤である濃硫酸や発煙硫酸中の硫酸は水と三酸化硫黄に分解始めるために酸化力が非常に強い、また、他の重縮合化剤についても重縮合反応に必要な有効成分が過剰に反応する。このために、有機物を酸化するため結合を破壊分解するので、目的とする重縮合化合物が得られないためである。
【0025】
本発明のスルホン酸化剤としては、例えば、三酸化硫黄、濃硫酸、発煙硫酸、無水硫酸、クロロ硫酸、アミド硫酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明のスルホン酸化剤の添加量としては、スルホン酸化剤の種類やスルホン酸化導入量により添加量は変わるが、重縮合化合物にスルホン酸化が生じる量であればよく、好ましくは、有機化合物100重量部に対して0.1〜2000重量部である。
このときの反応温度としては、スルホン酸化剤の種類やスルホン基導入量などにより反応温度は適宜変わるが、好ましくは、−20℃〜250℃である。
更に、本発明の有機化合物は、芳香族炭化水素であることが好ましい。
芳香族炭化水素は、他の炭化水素に比べて脱水素が生じ易いので、重縮合化剤の存在下、加熱処理による重縮合反応が促進されやすい傾向にあるためである。
本発明の芳香族炭化水素としては、例えば、芳香族炭化水素スルホン酸、ベンゼンあるいは置換基含有ベンゼン、無置換あるいは置換基含有多環式芳香族炭化水素、無置換あるいは置換基含有ポリフェニル化合物などが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0026】
本発明の製造方法により、製造されてなる固体酸は、高い活性が得られる上、極性溶媒に不溶で、プロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、且つ、イオン交換量、高触媒性能を有する。
【0027】
本発明の固体酸は、酸価が1〜20meq/gであることが好ましく。酸価が1meq/g未満で低いと活性作用が低いために固体酸の機能が低くなり易く、20meq/gを超えて高すぎる極性溶媒に溶解して固体酸としての機能が損なわれやすい。
【0028】
また、本発明の固体酸は、元素分析で炭素に対する硫黄のモル量が15モル%以上100モル%以下であることが好ましい。15モル%未満であるとスルホン酸化率が低く、強酸を得られがたく、イオン交換容量、触媒性能、プロトン伝導性が低くなる。
【0029】
本発明の固体酸は、プロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜に使用できる。
【0030】
本発明でいうプロトン伝導膜とは、プロトンを伝導する能力を持つ膜のことを言う。本発明の固体酸を単独で膜化させたり、バインダー樹脂などを使用したりすることで膜化して使用される。
【0031】
本発明の固体酸は、強酸基が多く、高い酸触媒機能をもつことができるため、固体酸触媒としても良好に使用できる。単独で使用してもよいが、バインダー樹脂やアルミナなどに担持することでも使用できる。
【0032】
本発明でいうイオン交換膜とは、イオンを選択的に透過する膜のことをいう。本発明の固体酸を単独で使用したり、バインダー樹脂やアルミナやシリカなどに担持することにより使用される。
【0033】
バインダー樹脂は、膜を形成し得、固体酸をその膜中に固定し得るものであればよい。例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリイソブチレン、ポリアミド、石油樹脂、ロジン、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、しょ糖エステル、ポリ(メタ)アクリル、ポリスチレン、スチレン−アクリル酸系共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、フッ素樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体、エチレン/酢酸ビニル系共重合体、α−オレフィン/無水マレイン酸系共重合体、スチレン/無水マレイン酸系共重合体等の熱可塑性樹脂、
フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の他、
エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ホスファゼン樹脂等の紫外線または電子線により硬化する樹脂等さまざまな樹脂が使用される。

【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、この例示により本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0035】
(実施例1)
500mlの4ツ口フラスコに、2−ナフタレンスルホン酸20gと97%硫酸100mlを仕込み、窒素80ml/min流しながら、250℃まで3時間で加熱し、250℃で15時間反応させた。これを室温まで冷却したのち、1lビーカーにイオン交換水100mlを仕込み氷浴中で冷却および撹拌しながら、先の反応溶液を徐々に添加した。室温のなるまで撹拌しながら冷却し、続いて、1%キトサン水溶液(キミカキトサン Grade.F 1g イオン交換水100g 酢酸(和光純薬製特級品)0.5g)200mlに徐々に添加し、さらに1時間撹拌を行ったのち、一晩放置した。これを吸引ろ過し、濾液が中性になるまでイオン交換水で洗浄した。乾燥は80℃で一晩行い、固体酸1の収量は15.0gであった。
【0036】
(実施例2)
500mlの4ツ口フラスコに、ナフタレン20gと97%硫酸200mlを仕込み、9×10Pa以上〜1.0×10Pa減圧下で200℃まで加熱し、200℃15時間反応させた。これを室温まで冷却したのち、1lビーカーにイオン交換水200mlを仕込み氷浴中で冷却および撹拌しながら、先の反応溶液を徐々に添加した。室温になるまで撹拌しながら冷却し、続いて、実施例1の1%キトサン水溶液400mlに徐々に添加し、さらに1時間撹拌を行ったのち、一晩放置した。これを吸引ろ過し。濾液が中性になるまでイオン交換水で洗浄した。乾燥は80℃で一晩行い、固体酸2の収量は12.4gであった。
【0037】
(実施例3)
4つ口フラスコ300mlに、窒素60ml/min流しながら、無水塩化アルミニウム50gと塩化ナトリウム10gとナフタレン20gを仕込み、30分間緩やかに撹拌した。加熱を開始と同時に窒素を止め、90℃まで加熱し、90℃で30分間保持してから、次いで100℃まで加熱した。100℃〜105℃で4時間反応した。室温まで冷却し、過剰の塩化アルミニウムを失活させるために、希塩酸150mlを加えた。
上澄み液を捨て、トルエン200mlを添加して析出物を溶解した。得られた溶液を濾紙で濾過し、ヘプタン1000mlへ徐々に添加した。得られた沈殿物をろ過し、得た沈殿物を80℃で一晩乾燥し、重縮合反応化合物(1)を17.1gを得た。
4つ口フラスコ300mlに、重縮合反応化合物(1)17.1gと97%硫酸171mlを仕込み、窒素を80ml/min流しながら、180℃まで加熱し、5時間反応させた。室温まで冷却し、この溶液を1lビーカーにイオン交換水340mlを仕込み氷浴中で冷却し、撹拌しながら注ぎ込み、室温になるまで撹拌しながら冷却し、続いて、実施例1の1%キトサン水溶液400mlに徐々に添加し、さらに1時間撹拌を行ったのち、一晩放置した。これを吸引ろ過し、濾液が中性になるまでイオン交換水で洗浄した。乾燥は80℃で一晩行し、固体酸3を15.1g得た。
【0038】
(実施例4)
スルホン酸化反応温度を50℃とし反応時間を24時間とした以外は、実施例3と同様の反応を行った。
得られた固体酸4の収量は、13.3gであった。
【0039】
(実施例5)
4ツ口フラスコ500mlに、コロネン 20gと97%硫酸100mlを仕込み、窒素80ml/minを流しながら、90℃で15時間反応させた。これを室温まで冷却したのち、1lビーカーにイオン交換水100mlを仕込み氷浴中で冷却しながら、撹拌下、先の反応溶液を徐々に添加した。室温になるまで撹拌しながら冷却し、続いて、実施例1の1%キトサン200mlを徐々に添加し、更に1時間撹拌を行ったのち、一晩静置した。これを吸引濾過し、濾液が中性になるまでイオン交換水で洗浄した。乾燥は80℃で一晩行い、得た固体酸5の収量は16.7gであった。
【0040】
(実施例6)
500mlの4ツ口フラスコに、2−ナフタレンスルホン酸20gと97%硫酸100mlを仕込み、窒素80ml/min流しながら、250℃まで3時間で加熱し、250℃で15時間反応させた。これを室温まで冷却したのち、1lビーカーにイオン交換水100mlを仕込み氷浴中で冷却および撹拌しながら、先の反応溶液を徐々に添加した。室温のなるまで撹拌しながら冷却し、続いて、0.1%ノニオン系高分子凝集剤(東亞合成製 アロンフロックN―107)400mlを徐々に添加し、さらに1時間撹拌を行ったのち、一晩静置した。これを吸引ろ過し、濾液が中性になるまでイオン交換水で洗浄した。乾燥は80℃で一晩行い、固体酸6の収量は12.7gであった。
【0041】
(実施例7)
4つ口フラスコ300mlに、窒素60ml/min流しながら、無水塩化アルミニウム50gと塩化ナトリウム10gとナフタレン20gを仕込み、30分間緩やかに撹拌した。加熱を開始と同時に窒素を止め、90℃まで加熱し、90℃で30分間保持してから、次いで100℃まで加熱した。100℃〜105℃で4時間反応した。室温まで冷却し、過剰の塩化アルミニウムを失活させるために、希塩酸150mlを加えた。
上澄み液を捨て、トルエン200mlを添加して析出物を溶解した。得られた溶液を濾紙で濾過し、ヘプタン1000mlへ徐々に添加した。得られた沈殿物をろ過し、得た沈殿物を80℃で一晩乾燥し、重縮合反応化合物(7)を16.8gを得た。
4つ口フラスコ300mlに、重縮合反応化合物(7)16.8gとクロロ硫酸40mlを仕込み、窒素を20ml/min流しながら、40℃まで加熱し、8時間反応させた。室温まで冷却後、氷浴中で冷却しながら、この溶液をイオン交換水200mlに撹拌しながら注ぎ込み、室温になるまで撹拌しながら冷却し、続いて、実施例1の1%キトサン水溶液400mlに徐々に添加し、さらに1時間撹拌を行ったのち、一晩放置した。これを吸引ろ過し。濾液が中性になるまでイオン交換水で洗浄した。乾燥は80℃で一晩行い、固体酸7を16gを得た。
【0042】
(実施例8)
500mlの4つ口フラスコに、ターフェニル20gと97%硫酸200mlを仕込み、窒素80ml/minを流しながら、250℃まで2時間で加熱し、250℃で15時間反応させた。これを室温まで冷却したのち、1lビーカーにイオン交換水200mlを仕込み氷浴中で冷却しながら撹拌を行い、先の反応溶液を徐々に添加した。室温になるまで撹拌しながら冷却し、続いて、実施例1の1%キトサン水溶液200mlを徐々に添加し、さらに1時間撹拌を行ったのち、一晩静置した。これを吸引濾過し、濾液が中性になるまで洗浄した。乾燥は80℃で一晩行い、得た固体酸8を収量17.8gを得た。
【0043】
(比較例1)
500mlの4ツ口フラスコに、2−ナフタレンスルホン酸20gと97%硫酸200mlを仕込み、窒素80ml/min流しながら、250℃まで3時間で加熱し、250℃で15時間反応させた。次いで、過剰の硫酸を250℃で減圧処理によって除去した。これを室温まで冷却したのち、イオン交換水200mlを発熱に注意しながら、徐々にフラスコに添加し、撹拌を3時間行い、 次いで、一晩静置した。これを吸引ろ過し、濾液が中性になるまで洗浄した。乾燥は80℃で一晩行い、得た固体酸を収量1.1gをところ、濾紙上には目的とする固体酸は得られなかった。
【0044】
(比較例2)
4ツ口フラスコ500mlに、コロネン 20gと97%硫酸100mlを仕込み、窒素80ml/minを流しながら、90℃で15時間反応させた後、3000rpmで30分間遠心分離を行ったが、固形分は分離しなかった。
(収量の比較)
次に、実施例1〜8および比較例1、2での仕込み原料量に対する実施例1〜8で得られた固体酸1〜8および比較例1、2で得られた固体酸の収量を表1に示す。
その結果、従来法に比べて、いずれの実施例1〜8においても、約11〜約16倍の収量を得ることができた。これにより、非常に効率よく固体酸を得ることができることがわかった。
【0045】
【表1】

【0046】
次に、実施例1〜8で得られた固体酸1〜8および比較例1で得られた固体酸の酸価の測定を下記の方法で行った。
【0047】
(酸価の測定法)
上記黒色粉末(実施例1〜8で得られた固体酸1〜8および比較例1、2で得られた固体酸)を純水で洗浄した。次に、48時間2規定の硝酸ナトリウム水溶液中で黒色粉末と反応させ、黒色粉末をフィルターで濾過した。この黒色粉末を取り除いた酸性溶液に水酸化ナトリウム溶液を滴下し、窒素気流中で中和点を計測した。その滴下した量により酸価を算出した。従来、黒色粉末に直接、水酸化ナトリウムを滴下することで中和点を求めていたが、この方法を使用するとより的確に酸価を計測できて良い。その結果を表2に示す。
その結果、従来法に比べ、いずれの実施例1〜8においても約1.36〜約2.9倍の酸価を得ることができた。これにより、より多くの酸基が導入されていることが判った。
【0048】
【表2】

【0049】
次に、実施例1〜8で得られた固体酸1〜8および比較例1で得られた固体酸の硫黄含有量(モル%)の測定を下記の方法で行った。
【0050】
(元素分析)
実施例1〜8で得られた固体酸1〜8および比較例1で得られた固体酸(いずれも黒色粉末)を酸素気流下で燃焼させ、CHSN−932(米国LECO社製)を用いて炭素1モルに対する硫黄含有量(モル%)を測定した。その結果を表3に示す。
【0051】
硫黄の含有率が従来に比べ、いずれの実施例1〜8においても1.7倍以上高く、従来に比べスルホン酸基が導入されていることが判った。
【0052】
【表3】

【0053】
次に、実施例1〜8で得られた固体酸1〜8および比較例1で得られた固体酸の固体酸触媒性能の評価を下記の方法で行った。
【0054】
(固体酸触媒性能評価法)
実施例1〜8で得られた固体酸1〜8および比較例1で得られた固体酸各0.2gを触媒としてアルゴン雰囲気下の酢酸0.1molとエチルアルコール1molの混合溶液に添加し、70℃で6時間攪拌し、反応中に酸触媒反応によって生成する酢酸エチルの1時間後の生成量(mol)をガスクロマトグラフで調べた。その結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
実施例1〜8で得られた固体酸1〜8のように、有機化合物を重縮合化剤で加熱処理し、得られたスルホン酸基含有重縮合化合物を、高分子凝集剤で凝集処理をすることで、高い収量(約11〜約16倍量)および高い酸価(1.8meq/g以上)、硫黄含有量(19モル%)の高い固体酸を提供できる。これは、比較例1に比べ、収量では約11倍以上、酸価では約1.6倍以上、硫黄含有量では約1.7倍であり、このことは高収量で、イオン交換能力が高いことを示している。
【0057】
さらに、実施例1〜8で得られた固体酸1〜8の固体酸触媒性能を調査したところ、従来に比べ1.5倍以上の触媒性能を示し、高い性能の固体酸触媒を提供できることが判った。
【0058】
このように、スルホン酸基を有する縮合化合物を、NH2基を有する高分子凝集剤で凝集しょりすることで、大幅に収量の高くなるのコストが削減でき、従来に比べ作業安全性が高く、再現性よく、分子設計の自由度の高い、且つ容易に製造できる固体酸を提供することができる。

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に固体酸の製造方法は、スルホン酸基を有する重縮合化合物が、高分子凝集剤で凝集処理することを特徴とするものであり、高性能で、作業安全性が高く、再現性よく、収率が高く、分子設計の自由度の高い、且つ容易に製造できるこという顕著な効果を奏し、およびこれを利用したプロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜を提供することができるので、産業上の利用価値が高い。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する重縮合化合物を、NH2基を有する高分子凝集剤で凝集処理することを特徴とする固体酸の製造方法。
【請求項2】
スルホン酸基を有する重縮合化合物が、有機化合物を重縮合化剤の存在下で加熱処理して得られる重縮合化合物を、スルホン酸化剤でスルホン酸化されることを特徴とする請求項1記載の固体酸の製造方法。
【請求項3】
加熱処理温度が、50℃から250℃である請求項1または2記載の固体酸の製造方法。
【請求項4】
有機化合物が、芳香族炭化水素である請求項1から3いずれか記載の固体酸の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4いずれか記載の製造方法で製造されてなることを特徴とする固体酸。
【請求項6】
元素分析で炭素に対する硫黄のモル量が、15モル%以上100モル%以下であることを特徴とする請求項5に記載の固体酸。
【請求項7】
固体酸の酸価が、1〜20meq/gであることを特徴とする請求項5または6記載の固体酸。

【公開番号】特開2007−161682(P2007−161682A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362767(P2005−362767)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】