説明

固体電解コンデンサ及びそれらの製造方法

【課題】小型、高容量、低インピーダンス、耐湿負荷特性が良好で、かつ耐熱性に優れた固体電解コンデンサ及びその製造方法の提供。
【解決手段】多孔質で弁作用を有する金属の誘電体皮膜上に、チオフェン骨格、イソチアナフテン骨格、ピロール骨格、フラン骨格及びアニリン骨格から選択される少なくとも一種の繰り返し単位を有しフィブリル構造を有する重合体からなる固体電解質層を形成した電極を有する固体電解コンデンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性重合体、その重合体を搭載した固体電解コンデンサ及びそれらの製造方法に関する。さらに詳しくは、小型、高容量、低インピーダンス、耐湿負荷特性が良好で、かつ耐熱性に優れた固体電解コンデンサ、その製造方法、そのコンデンサに使用する新規なフィブリル構造を有する高導電性重合体、及びその高導電性重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、一般にエッチング処理された比表面積の大きな金属箔からなる陽極基体上に誘電体の酸化皮膜層が形成され、この外側に対向する電極として固体の半導電体層(以下、固体電解質と略する。)が形成され、そして望ましくはさらにその外面に導電ペーストなどの導電体層が形成され、リード線が接続された素子である。実際の素子は全体がエポキシ樹脂等で完全に封止されて、コンデンサ部品として幅広く電気製品に使用されている。
【0003】
近年、電気機器のデジタル化、パーソナルコンピュータの高速化などの要望に応えるべく、これらに使用されるコンデンサに対しても小型で大容量、高周波領域において低インピーダンスであるなどの特性が要求されている。
小型で大容量のコンデンサとしては、アルミ電解コンデンサやタンタル電解コンデンサ等の固体電解コンデンサがある。しかし、アルミ電解コンデンサでは電解液としてイオン伝導性の液状電解質を用いているため、高周波領域でのインピーダンスが高く、また温度特性も悪いという問題点を有していた。一方、タンタル電解コンデンサではマンガン酸化物を電解質として用いているが、このマンガン酸化物の比抵抗が比較的高いことから高周波領域でのインピーダンスが高いという問題点を有していた。
【0004】
そこで、これらの要求に応えるものとして、電子伝導性を有する導電性高分子を固体電解質として用いることが提案されており、π共役系高分子を含む導電性有機物系のポリアニリン(特開昭61-239617号公報)、ポリピロール(特開昭61-240625号公報)、ポリチオフェン誘導体(特開平2-15611号公報(米国特許4901645号))、ドーパントを含まないポリイソチアナフテン(特開昭62-118509号公報)、ドープ状態のポリイソチアナフテン(特開昭62-118511号公報)、導電率が10-3〜103S/cmの範囲である真性導電性高分子(特開平1-169914号公報(米国特許第4803596号))等の使用が提案されている。
【0005】
すなわち、一般的にアニリン、ピロール、チオフェン等の重合体に代表される共役二重結合を有する高分子は特異な導電性を有するために様々な研究・開発が行なわれ、中でも導電性高分子が有するπ電子共役系の特異的な電子・磁気・光学特性に注目がなされてきた。これらの導電性高分子は、主として電解重合法及び化学酸化重合法により製造されている。
【0006】
しかし、従来の製造方法では、電極表面で行なわれる酸化還元反応により得られた低分子量重合体と電極表面との接着性が悪いと、低分子量体が電解質溶液中に溶解あるいは堆積することになる。また大面積の物品を得ようとした場合にはそれに応じた大きさの電極などが必要なため、製造コストに重大な問題を有している。
【0007】
一方、化学酸化重合法を利用した場合には、重合性単量体と適切な酸化剤を混合することにより容易に導電性高分子を得ることができ、このため工業的にもその簡便な重合方法が注目され、研究開発がなされてきた。
しかし、化学酸化重合法の大きな問題点は、重合速度が酸化剤の活性に比例するために活性の高い酸化剤が要求されることである。すなわち、活性の高い酸化剤を用いて重合を行なう場合、望ましくない副反応が起こりやすく、構造規則性が低下した導電性の低い重合体しか得られないということである。この原因として、生成した共役二重結合を有する導電性重合体が、長時間反応系内に留まるため、反応系の余分な酸化剤等の影響で、共役二重結合を有するポリマー骨格が部分的に破壊されて、結果として導電性が低下するものと考えられる。
【0008】
さらには電解重合または化学酸化重合で得られる導電性高分子は一般的には不溶不融であり、特に後加工が極めて困難であるという操作上の問題点がある。そこでこれらの問題点を解決するために様々な取り組みがなされてきた。
例えば、特開平7-130579号公報(米国特許第5567209号)には、弁作用金属上に酸化皮膜を形成しこれを誘電体層とし、その誘電体層上に導電性高分子層を形成してこれを固体電解質とする固体電解コンデンサの製造方法において、前記酸化皮膜の表面にモノマー化合物溶液を塗布し、これを乾燥させて固体状モノマー化合物を形成させた後、前記固体状モノマー化合物に酸化剤溶液を接触させて導電性高分子層を形成して、容量出現率が高く、高周波特性の良好な固体電解コンデンサを得るという技術が開示されている。
特開平6-340754号公報には、絶縁性の基材に多環式芳香族アミン化合物を付着又は含浸させた後、酸化剤を含有する溶液に接触させて多環式芳香族アミン化合物を基材内部又は表面で酸化重合させるという技術が開示されている。
【0009】
また、導電性高分子の固体電解コンデンサへの応用として、化成皮膜を形成した陽極部材を備えるコンデンサ素子に、陰極電解質としての導電性ポリマーを含浸した固体電解コンデンサの製造方法において、前記コンデンサ素子を、酸化重合により導電性ポリマーとなるモノマーに酸化剤を溶解した溶液に浸漬することにより、該コンデンサ素子内に導電性ポリマー層を形成し、小型大容量のコンデンサとするという技術が特開平10-50558号公報に開示されている。
【0010】
さらに、導電性高分子の固体電解コンデンサへの応用として、コンデンサ素子を酸化剤の溶液に浸漬した後、溶媒成分を蒸発させることにより、該コンデンサ素子内に酸化物を析出させた後、該コンデンサ素子を酸化重合により導電性ポリマーとなるモノマーを含む溶液に浸漬して前記酸化剤を前記モノマーに作用させることによって、高温負荷特性の向上が図る技術が特開平10-50559号公報に開示されている。
【0011】
さらに特開平9-289141号公報(EPA803885号)には、固体電解コンデンサの製造方法において、溶解温度以上の温度に保持されたモノマー塩溶液に電極多孔質体を浸漬し、これを冷却してその表面にモノマー塩を析出させ、該多孔質体を酸化剤を含む溶液に浸漬する固体コンデンサの製造方法が提案されている。
【0012】
誘電体皮膜上に形成される固体電解質としては、基本的には電気伝導度を充分高く改良できる等の期待がある導電性金属酸化物や導電性高分子等が注目されているが、電気伝導度が適正範囲より高すぎると漏れ電流値が大きく上昇しその結果ショートに至り、また電気伝導度が低いと、周波数特性が悪くなり、容量低下が大きくなるという問題があり、電気伝導度の適正範囲の制御並びに固体電解質の熱的安定性等が開発課題となっている。
【0013】
ポリピロール等の導電性高分子を用いた従来のコンデンサでは、耐湿負荷によってコンデンサ特性が大きく変動するという問題点がある。また関連して、耐熱性への要求が大きく、例えばコンデンサ素子からコンデンサ部品に成形する際のハンダ耐熱性(リフロー性)も重要視され、耐熱性の高いコンデンサ素子が求められている。すなわち、従来技術では酸化皮膜上で産生される固体電解質及びその製造方法に問題点を有している。
【0014】
具体的には、上記特開平7-130579号公報(米国特許第5567209号)の技術は、モノマー化合物溶液を乾燥して固体状モノマーとしているが、重合体組成物の重合度が大きくなるにつれ、モノマー相が固体であるためにモノマーの拡散が抑制され、重合速度を低下させてしまう可能性が危惧される。
【0015】
特開平6-340754号公報の技術は、絶縁体上への透明な導電性薄膜の製造方法に関するものであり、積極的に界面での重合によるフィブリル構造を有する高導電性の高分子の形態や性能には言及していない。
特開平10-50558号公報の技術は、化成皮膜上へ導電性高分子薄膜を形成させる技術ではあるが、酸化重合により導電性ポリマーとなるモノマーに酸化剤を直接溶解しているため、調製したモノマー溶液中でも使用前及び使用中に酸化重合が進んでポリマー化してしまい、均一なモノマー溶液を常時維持するのが困難であり、安定した性能を発揮できない不安定な生産方法と言える。
【0016】
特開平10-50559号公報の技術は、酸化剤を溶液として細孔内に導入し、後に溶媒を蒸発させて酸化剤の結晶を析出させてからの酸化重合となるが、プロセス的に見ると化成処理した金属箔細孔内に酸化剤を析出させる工程が不可欠であり、酸化剤固体とモノマーとの接触面積が非常に小さいことから、重合反応が遅く非効率な方法であり、工業的に生産に不向と言わざるを得ない。
さらに特開平9-289141号公報(EPA803885号)の技術は、重合性単量体が固体であり、上記の特開平10-50559号公報の技術と同じ問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭61−239617号公報
【特許文献2】特開昭61−240625号公報
【特許文献3】特開平2−15611号公報
【特許文献4】特開昭62−118509号公報
【特許文献5】特開平1−169914号公報
【特許文献6】特開平7−130579号公報
【特許文献7】特開平6−340754号公報
【特許文献8】特開平10−50558号公報
【特許文献9】特開平10−50559号公報
【特許文献10】特開平9−289141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の課題は、固体電解コンデンサ素子の固体電解質として好ましく用いられる、共役二重結合(π電子共役系)を有する高導電性重合体を提供することにある。
本発明の他の課題は、酸化重合法により同一の化学組成を有しながら、より高導電性となる共役二重結合(π電子共役系)を有する前記の新規な重合体の製造方法を提供することにある。
更に本発明の課題は、前記高導電性重合体を固体電解質に用いた、初期特性のみならず、高温、高湿下における耐久性などの長期信頼性にも優れた固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、重合性単量体単独あるいは重合性単量体とドーピング能を有する電解質とを溶解した溶液と、重合開始能を有する酸化剤の溶液とを界面でゆっくり接触させて重合させることにより、鱗片状のフィブリル構造を有する高導電性重合体を得ることができること、またこの重合方式を誘電体皮膜上で実施させることにより、得られるフィブリル構造を有する膜状組成物を固体電解質として用いることにより、初期特性(損失係数、漏れ電流、耐熱性、高周波領域での等価直列抵抗および低インピーダンスなど)、長期信頼性(高温、高湿下における耐久性など)に優れたコンデンサが得られることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、以下の固体電解コンデンサ、その製造方法、導電性重合体及びその製造方法に関する。
[1] 多孔質で弁作用を有する金属の誘電体皮膜上に、フィブリル構造を有する重合体からなる固体電解質層を形成した固体電解コンデンサ。
[2] 前記重合体が、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R1及びR2の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。またδは0〜1の範囲である。Zは陰イオンを表わし、jはZの価数を表わし、1または2である。)
で示されるチオフェン骨格構造を繰り返し単位として含むフィブリル構造を有する導電性重合体である前項1に記載の固体電解コンデンサ。
[3] 前記重合体が、下記一般式(2)
【化2】

(式中、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R3、R4、R5、R6、R7またはR8の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。kはチオフェン環と置換基R3乃至R6を有するベンゼン環に囲まれた縮合環の数を表わし、0または1〜3の整数である。式中の縮合環には窒素またはN−オキシドを任意の数含んでもよいが、その数だけ置換基R3乃至R8は減少することになる。δは0〜1の範囲である。Zは陰イオンを表わし、jはZの価数を表わし、1または2である。)
で示される縮合多環式骨格構造を繰り返し単位として含むフィブリル構造を有する導電性重合体である前項1に記載の固体電解コンデンサ。
[4] 前記重合体が、下記一般式(3)
【化3】

(式中、R9及びR10は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R9及びR10の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。δは0〜1の範囲である。Zは陰イオンを表わし、jはZの価数を表わし、1または2である。)
で示されるピロール骨格構造を繰り返し単位として含むフィブリル構造を有する導電性重合体である前項1に記載の固体電解コンデンサ。
[5] 前記重合体が、下記一般式(4)
【化4】

(式中、置換基R11及びR12は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R11及びR12の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。δは0〜1の範囲である。Zは陰イオンを表わし、jはZの価数を表わし、1または2である。)で示されるフラン骨格構造を繰り返し単位として含むフィブリル構造を有する導電性重合体である前項1に記載の固体電解コンデンサ。
[6] 前記重合体が、下記一般式(5)
【化5】

(式中、置換基R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R13、R14、R15またはR16の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3乃至7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を少なくとも1つ以上形成してもよい。前記結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。δは0〜1の範囲である。zは陰イオンを表わし、jはzの価数を表わし、1または2である。)
で示されるアニリン骨格構造を繰り返し単位として含むフィブリル構造を有する導電性重合体である前項1に記載の固体電解コンデンサ。
[7] 前記重合体の固体電解質層の導電性が、0.1〜200S/cmである前項2乃至6のいずれかの項に記載の固体電解コンデンサ。
【0021】
[8] 多孔質で弁作用を有する金属の誘電体皮膜上に重合体からなる固体電解質層を設ける固体電解コンデンサの製造方法において、
前記誘電体皮膜上で、重合性単量体と飽和または過飽和状態を維持した重合開始能を有する酸化剤の単独溶液または前記酸化剤とドーピング能を有する電解質の混合溶液とを接触させて、前記誘電体皮膜上にフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する工程を含むことを特徴とするフィブリル構造を有する重合体からなる固体電解質層を形成した固体電解コンデンサの製造方法。
[9] 多孔質で弁作用を有する金属の誘電体皮膜上に重合体からなる固体電解質層を設ける固体電解コンデンサの製造方法において、
前記誘電体皮膜上で、重合性単量体溶液あるいは重合性単量体とドーピング能を有する電解質とを溶解した溶液と、飽和または過飽和状態を維持した重合開始能を有する酸化剤の単独溶液または前記酸化剤とドーピング能を有する電解質の混合溶液を接触させて、前記誘電体皮膜上にフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する工程を含むことを特徴とするフィブリル構造を有する重合体からなる固体電解質層を形成した固体電解コンデンサの製造方法。
[10] 前記誘電体皮膜上で、下記一般式(6)
【化6】

(式中、置換基R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R1及びR2の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。)
で示される重合性単量体と、重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液とを接触させて前記誘電体皮膜上にフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する前項8または9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
前記誘電体皮膜上で、下記一般式(7)
【化7】

(式中、置換基R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R3、R4、R5、R6、R7またはR8の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。kはチオフェン環と置換基R3乃至R6を有するベンゼン環に囲まれた縮合環の数を表わし、0または1〜3の整数である。式中の縮合環には窒素またはN−オキシドを任意の数含んでもよいが、その数だけ置換基R3乃至R8は減少することになる。)で示される重合性単量体と、重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液とを接触させて前記誘電体皮膜上にフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する前項8または9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
前記誘電体皮膜上で、下記一般式(8)
【化8】

(式中、R9及びR10は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R9及びR10の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。)
で示される重合性単量体と、重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液とを接触させて前記誘電体皮膜上にフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する前項8または9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
前記誘電体皮膜上で、下記一般式(9)
【化9】

(式中、置換基R11及びR12は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R11及びR12の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。)
で示される重合性単量体と、重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液とを接触させて前記誘電体皮膜上にフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する前項8または9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
前記誘電体皮膜上で、下記一般式(10)
【化10】

(式中、置換基R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R13、R14、R15またはR16の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3乃至1員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を少なくとも1つ以上形成してもよい。前記結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。)
で示される重合性単量体と、重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液とを接触させて前記誘電体皮膜上にフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する前項8または9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[15] 重合性単量体の濃度が0.01〜5mol/Lである前項9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[16] ドーピング能を有する電解質の濃度が0.001mol/L〜2.5mol/Lの範囲である前項8または9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[17] 重合開始能を有する酸化剤が過硫酸塩類、重クロム酸塩類、3価の鉄塩類から選ばれる少なくとも1種の化合物である前項8または9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[18] 重合開始能を有する酸化剤の濃度が重合性単量体の濃度の0.01〜5倍である前項8または9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[19] 重合体からなる固体電解質を形成する工程を2〜30回繰り返して膜状組成物を形成する前項8乃至14のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【0022】
[20] 下記一般式(1)
【化11】

(式中、置換基R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R1及びR2の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。該環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。またδは0〜1の範囲である。Zは陰イオンを表わし、jはZの価数を表わし、1または2である。)
で示されるチオフェン骨格構造を繰り返し単位として含むフィブリル構造を有する高導電性重合体。
[21] 下記一般式(2)
【化12】

(式中、置換基R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。またR3、R4、R5、R6、R7またはR8の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。該環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。kはチオフェン環と置換基R3乃至R6を有するベンゼン環に囲まれた縮合環の数を表わし、0または1〜3の整数である。式中の縮合環には窒素またはN−オキシドを任意に含んでもよいが、その数だけ置換基R3〜R8はないことになる。δは0〜1の範囲である。Zは陰イオンを表わし、jはZの価数を表わし、1または2である。)
で示される縮合多環式骨格構造を繰り返し単位として含むフィブリル構造を有する高導電性重合体。
[22] 下記一般式(3)
【化13】

(式中、R9及びR10は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R9及びR10の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。δは0〜1の範囲である。Zは陰イオンを表わし、jはZの価数を表わし、1または2である。)
で示されるピロール骨格構造を繰り返し単位として含むフィブリル構造を有する高導電性重合体。
[23] 下記一般式(4)
【化14】

(式中、置換基R11及びR12は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R11及びR12の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。δは0〜1の範囲である。Zは陰イオンを表わし、jはZの価数を表わし、1または2である。)
で示されるフラン骨格構造を繰り返し単位として含むフィブリル構造を有する高導電性重合体。
[24] 下記一般式(5)
【化15】

(式中、置換基R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R13、R14、R15またはR16の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3乃至1員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を少なくとも1つ以上形成してもよい。前記結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。δは0〜1の範囲である。zは陰イオンを表わし、jはzの価数を表わし、1または2である。)
で示されるアニリン骨格構造を繰り返し単位として含むフィブリル構造を有する高導電性重合体。
【0023】
[25] 下記一般式(6)
【化16】

(式中、R1及びR2は、前項10の記載と同じ意味を表わす。)、
一般式(7)
【化17】

(式中、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、前項11の記載と同じ意味を表わす。)、
一般式(8)
【化18】

(式中、R9及びR10は、前項12の記載と同じ意味を表わす。)
一般式(9)、
【化19】

(式中、置換基R11及びR12は、前項13の記載と同じ意味を表わす。)、及び
一般式(10)
【化20】

(式中、R13、R14、R15及びR16は、前項14の記載と同じ意味を表わす。)
で示される重合性単量体の少なくとも一種と、重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液とを両者が界面を形成するように接触させ、該界面で重合を行わせることを特徴とするフィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法。
[26] 前項25に記載の一般式(6)、(7)、(8)、(9)及び(10)で示される重合性単量体の少なくとも一種を溶剤に溶解して得られる溶液と、重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液とを両者が界面を形成するように接触させ、該界面で重合を行わせる前項25に記載のフィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法。
[27] 重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液が、ドーピング能を有する電解質を含有する前項25または26に記載のフィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法。
[28] 重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液が飽和溶液または過飽和溶液である前項25乃至27のいずれかに記載のフィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法。
[29] 重合開始能を有する酸化剤の飽和溶液を作製し、該飽和溶液作製温度より低い温度で該酸化剤溶液と重合性単量体とを、界面を形成するように接触させ、その後重合を行う前項25または26に記載のフィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法。
[30] 重合開始能を有する酸化剤として、過硫酸塩、重クロム酸塩及び三価の鉄塩の少なくとも一種を用いる前項25または26に記載のフィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法。
[31] 溶剤として、重合性単量体を溶解できる親水性有機溶媒を用いる前項26に記載のフィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法。
[32] 前項25に記載のフィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法において、重合性単量体と酸化剤を含有する溶液とを接触させてフィブリル構造を有する高導電性重合体を生成させ、これを洗浄するかまたは洗浄せずにフィブリル構造を有する高導電性重合体の表面上において前項25に記載のフィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法を、さらに複数回実施し、重合体組成物を積層する、フィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法。
[33] 前項26に記載のフィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法において、重合性単量体と酸化剤を含有する溶液とを接触させてフィブリル構造を有する高導電性重合体を生成させ、これを洗浄するかまたは洗浄せずにフィブリル構造を有する高導電性重合体の表面上において前項26に記載のフィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法を、さらに複数回実施し、重合体組成物を積層する、フィブリル構造を有する高導電性重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、一般式(6)〜(10)で示される重合性単量体を単独あるいは前記重合性単量体をドーピング能を有する電解質と共に、重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液に接触させ、形成される界面で重合するという簡便な化学酸化重合手法により、フィブリル構造を有し、異方性に優れかつ皮膜性に優れた一般式(1)〜(5)で示される繰り返し単位を含む高導電性の膜状重合体組成物が得られる。この様な高導電性重合体組成物は、高導電性固体電解質として、固体電解コンデンサを始め、導電材料として帯電防止材、電波吸収材等産業上種々の用途に利用可能である。
【0025】
また本発明によれば、導電性重合体を固体電解質とする固体電解コンデンサにおいて、前記フィブリル構造を有し、異方性に優れかつ皮膜性に優れた一般式(1)〜(5)で示される繰り返し単位を含む重合体の固体電解質を誘電体皮膜上に形成させることにより、熱応力の緩和能力およびペースト層との密着性に優れた固体電解質層が得られる。
【0026】
更に本発明は、陽極の微細孔内において空間部が残るように高導電性のフィブリルを有する膜状の前記固体電解質で覆うことにより、導通時の皮膜修復能力にも優れた固体電解質層を得ることができる。
これにより、初期特性(損失係数、漏れ電流、耐熱性、高周波領域での等価直列抵抗およびインピーダンスなど)のみならず、長期信頼性(高温、高湿下における耐久性など)にも優れた固体電解コンデンサ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1における導電性重合体層を形成した陽極アルミニウム箔断面の走査電子顕微鏡写真(×50,000)である。
【図2】化成処理を施したアルミニウム箔の走査電子顕微鏡写真(×50,000)である。
【図3】実施例14により得られた3,4−エチレンジオキシチオフェン高導電性重合体の走査電子顕微鏡写真(×5,100)である。
【図4】図3における高導電性重合体のフィブリル構造部分を拡大した走査電子顕微鏡写真(×50,000)である。
【図5】比較例3により得られた3,4−エチレンジオキシチオフェン重合体の走査電子顕微鏡写真(×50,000)である。
【図6】実施例15により得られた3,4−エチレンジオキシチオフェン高導電性重合体の走査電子顕微鏡写真(×2,000)である。
【図7】図6における高導電性重合体のフィブリル構造部分を拡大した走査電子顕微鏡写真(×20,000)である。
【図8】実施例16により得られた1,3−ジヒドロイソチアナフテン高導電性重合体のフィブリル構造を示す走査電子顕微鏡写真(×50,000)である。
【図9】比較例4により得られた1,3−ジヒドロイソチアナフテン重合体の走査電子顕微鏡写真(×50,000)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明による前記一般式(1)〜(5)で示される化学構造を繰り返し単位として含むフィブリル構造を有する高導電性重合体はこれまでに存在しなかったものである。このことは一般式(6)〜(10)で示される重合性単量体と重合開始能を有する酸化剤を用いて撹拌条件下に製造した重合体とは、フィブリル構造を示す図及び図7とフィブリル構造を示さない図5及び図9を比較すればその相違点から明らかである。特に後述の実施例12、13、15、16と比較例2、3、4、5からも明らかなように、フィブリル構造を有するものとこれを有しないものの導電性において大きく異なっている。
【0029】
本発明によるフィブリル構造を有する重合体が高導電性を示す詳細な理由は不明であるが、本発明においては重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液、好ましくは高濃度の溶液、より好ましくは飽和溶液または過飽和溶液(以下この両者を単に「飽和溶液等」という。)と重合性単量体または重合性単量体を含有する溶液とを、界面(本発明において「界面」とは、酸化剤溶液層と重合性単量体層または重合性単量体を含有する溶液層とが接触する面において部分的に相互溶解が起こり、濃度の傾斜層が存在していても、それぞれの層が存在するような状態のものを言う。)を形成するように静かに接触させ、その界面において重合をさせていくため、生成した導電性重合体は過剰な酸化剤の影響を受けず、構造規則性が破壊されないことによるものと考えている。
【0030】
また他の理由しては、酸化剤を高濃度の溶液または飽和溶液等として用いており、その際酸化剤は極めて小さい結晶核の状態で存在すると考えられ、この結晶核表面上の限られた反応場で重合性単量体の重合が進行するため、立体規則性の高い高導電性重合体となっていると考えている。これらの理由により、同じ重合性単量体から得られる同一の組成のポリマーでありながら導電性が10〜1000倍も高い高導電性重合体が生成し、それが電子顕微鏡においてフィブリル構造として現れているものと考えられる。
【0031】
前記高導電性重合体の原料となる一般式(6)で示されるチオフェン誘導体としては、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ペンチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−ノニルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−フルオロチオフェン、3−クロロチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−シアノチオフェン、3,4−メチレンジオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
前記高導電性重合体の原料となる一般式(7)で示される縮合ヘテロ多環式化合物としては、具体的にはk=0の1,3−ジヒドロイソチアナフテン(別名、1,3−ジヒドロベンゾ[c]チオフェン)骨格を有する化合物、またk=1の1,3−ジヒドロナフト[2,3−c]チオフェン骨格を有する化合物である。さらには1,3−ジヒドロアントラ[2,3−c]チオフェン骨格を有する化合物、1,3−ジヒドロナフタセノ[2,3−c]チオフェン骨格を有する化合物を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0033】
一般式(7)で示される縮合ヘテロ多環式化合物の置換基R3、R4、R5、R6のうち、隣り合う2つの置換基が相互に不飽和結合で結合し合って縮合系6員環(オルソ置換)を形成する化合物も含まれ、例えばk=0の1,3−ジヒドロナフト[1,2−c]チオフェン誘導体が、またk=1の場合では1,3−ジヒドロフェナントラ[2,3−c]チオフェン誘導体や、1,3−ジヒドロトリフェニロ[2,3−c]チオフェン誘導体が、更にk=2の場合には、1,3−ジヒドロベンゾ[a]アントラセノ[7,8−c]チオフェン誘導体などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0034】
縮合環に窒素またはN−オキシドを任意に含んでいる場合もあり、k=0の場合としては1,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]キノキサリンや、1,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]キノキサリン−4−オキシド、1,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]キノキサリン−4,9−ジオキシドなどを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0035】
前記高導電性重合体の原料となる一般式(8)で示されるピロール誘導体としては、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−プロピルピロール、3−ブチルピロール、3−ペンチルピロール、3−ヘキシルピロール、3−ヘプチルピロール、3−オクチルピロール、3−ノニルピロール、3−デシルピロール、3−フルオロピロール、3−クロロピロール、3−ブロモピロール、3−シアノピロール、3,4−メチレンジオキシピロール、3,4−エチレンジオキシピロール、3,4−プロピレンジオキシピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジエチルピロール等の誘導体を挙げることができる。
【0036】
前記高導電性重合体の原料となる一般式(9)で示されるフラン誘導体としては、3−メチルフラン、3−エチルフラン、3−プロピルフラン、3−ブチルフラン、3−ペンチルフラン、3−ヘキシルフラン、3−ヘプチルフラン、3−オクチルフラン、3−ノニルフラン、3−デシルフラン、3−フルオロフラン、3−クロロフラン、3−ブロモフラン、3−シアノフラン、3,4−メチレンジオキシフラン、3,4−エチレンジオキシフラン、3,4−プロピレンジオキシフラン等の誘導体を挙げることができる。
【0037】
前記高導電性重合体の原料となる一般式(10)で示されるアニリン誘導体としては、2−メチルアニリン、2−エチルアニリン、2−プロピルアニリン、2−ブチルアニリン、2−ペンチルアニリン、2−ヘキシルアニリン、2−ヘプチルアニリン、2−オクチルアニリン、2−ノニルアニリン、2−デシルアニリン、2−フルオロアニリン、2−クロロアニリン、2−ブロモアニリン、2−シアノアニリン等の誘導体を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
前記一般式(1)〜(10)に記載の置換フェニル基の好ましい例としては、CF3基、Br、Cl、F、メチル基、エチル基、シアノ基及びニトロ基からなる群より選ばれた少なくとも一種の基が、o−、m−、p−位に任意に置換したフェニル基が挙げられる。
【0039】
本発明の固体電解コンデンサに使用できる弁作用を有する金属とは、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム、マグネシウム、珪素などの単体金属、またはこれらの合金である。また形態については、圧延箔のエッチング物、微粉焼結体などの多孔質成形体の形態であればいずれでもよい。
【0040】
本発明の導電性重合体の製造において用いられる酸化剤は、脱水素的4電子酸化反応の酸化反応を充分行なわせ得る酸化剤であれば良く、工業的に安価であり、製造上取り扱いが容易である化合物が好ましい。具体的には、例えばFeCl3、Fe(ClO43、Fe(有機酸アニオン)塩等のFe(III)系化合物、または無水塩化アルミニウム/塩化第一銅、アルカリ金属過硫酸塩類、過硫酸アンモニウム塩類、過酸化物類、過マンガン酸カリウム等のマンガン類、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ)、テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン、テトラシアノ−1,4−ベンゾキノン等のキノン類、沃素、臭素等のハロゲン類、過酸、硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、クロロ硫酸、フルオロ硫酸、アミド硫酸等のスルホン酸、オゾン等及びこれら複数の酸化剤の組み合わせが挙げられる。
【0041】
この中で、前記有機酸アニオン鉄(III)塩を形成する有機酸アニオンの基本化合物としては、有機スルホン酸または有機カルボン酸、有機リン酸、有機硼酸が挙げられる。有機スルホン酸の具体例としては、ベンゼンスルホン酸やp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、α−スルホ−ナフタレン、β−スルホ−ナフタレン、ナフタレンジスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸(アルキル基としてはブチル、トリイソプロピル、ジ−t−ブチル等)等が使用される。
【0042】
一方、有機カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、蓚酸等が挙げられる。さらに本発明においては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニル硫酸、ポリ−α−メチルスルホン酸、ポリエチレンスルホン酸、ポリリン酸等の高分子電解質アニオンも使用されるが、これら有機スルホン酸または有機カルボン酸の例は単なる例示であってこの限りではない。
【0043】
また、前記アニオンの対カチオンはH+、Na+、K+等のアルカリ金属イオン、または水素原子やテトラメチル基、テトラエチル基、テトラブチル基、テトラフェニル基等で置換されたアンモニウムイオンであるが、本発明においては特に限定を受けない。前記記載の酸化剤のうち、特に好ましくは3価のFe系化合物類、または塩化第一銅系、過硫酸アルカリ塩類、過硫酸アンモニウム塩類、マンガン酸類、キノン類を含む酸化剤が好適に使用できる。
【0044】
重合開始能を有する酸化剤の溶液は重合を行なわせるに十分な濃度であればよいが、高濃度である方が好ましく、さらには飽和溶液または過飽和溶液がより好ましい。このような飽和溶液または過飽和溶液を用いる方法としては、反応温度によりわずかに高い温度、酸化剤の温溶解度の温度依存性にもより異なるが、温度依存性が大きい時は温度差を小さく、温度依存性が小さい時には、温度差を大きくとる。例えば、重合温度より数度〜20℃程度高い温度において、酸化剤を水、アルコール等の溶媒に強い撹拌下に溶解する。その上澄みの酸化剤溶液を取り出し、反応器に入れ、溶解時より低い所定の温度にした後、重合性単量体またはその溶液を酸化剤溶液の上面に、できるだけ両者が混じり合わないように静かに供給し、この両者が界面を形成するように接触させる。
【0045】
反応は両者の界面で進行して高導電性重合体が生成するが、これを蒸発またはデカンテーション等により反応液から分離し、洗浄するとマクロ的には鱗片状の高導電性重合体を得ることができる。十分に洗浄して製品の高導電性重合体としてもよく、また洗浄するか洗浄をしないで生成重合体の上面において、再度重合開始能を有する酸化剤の溶液と重合性単量体または重合性単量体を含有する溶液とを接触させ、これを複数回実施することにより高導電性重合体を積層することも可能である。
この場合も、酸化剤の溶液は、重合を行なわせるに十分な濃度であればよいが、高濃度である方が好ましく、さらには飽和溶液または過飽和溶液がより好ましい。
【0046】
誘導体皮膜上で重合開始能を有する酸化剤の飽和、過飽和状態を準備させる方法としては、特に限定されないが、該酸化剤の高濃度の溶液をそのまま細孔内に導入させる方法でもよく、あるいは細孔内に十分含浸できるように、あらかじめ低濃度の溶液を導入しておき、放置や過熱等の乾燥によって箔細孔内で飽和、過飽和の状態となるようにしてもよい。
【0047】
本発明の高導電性重合体の製造方法においては、前記酸化剤から産生される酸化剤アニオン(酸化剤の還元体)がドーパントとなるため、ドーピング工程を省略することができるが、重合時において他のドーピング能を有する電解質を存在させ、両者を併用することが好ましい。
必要に応じて共存させるドーピング能を有する電解質としては、前記酸化剤から産生される酸化剤アニオン(酸化剤の還元体)を対イオンに持つ電解質化合物または他のアニオン系電解質を挙げることができる。
【0048】
具体的には、例えばPF6-、SbF6-、AsF6-の如き5B族元素のハロゲン化物アニオン、BF4-の如き3B族元素のハロゲン化物アニオン、I-(I3-)、Br-、Cl-の如きハロゲンアニオン、ClO4-の如きハロゲン酸アニオン、AlCl4-やFeCl4-、SnCl5-等の如きルイス酸アニオン、あるいはNO3-、SO42-の如き無機酸アニオン、またはp−トルエンスルホン酸やナフタレンスルホン酸、炭素数1乃至5のアルキル置換ナフタレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、CF3SO3-、CH3SO3-の如き有機スルホン酸アニオン、またはCF3COO-、C65COO-の如きカルボン酸アニオン等のプロトン酸アニオンを挙げることができる。
【0049】
また同じく、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニル硫酸、ポリ−α−メチルスルホン酸、ポリエチレンスルホン酸、ポリリン酸等の高分子電解質アニオン等を挙げることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。これらの中でも好ましくは高分子系または低分子系の有機スルホン酸化合物あるいはポリリン酸が挙げられ、望ましくは芳香族系スルホン酸化合物が用いられる。
【0050】
本発明の高導電性重合体の製造方法において用いられる前記一般式(6)〜(10)で示さる重合性単量体の濃度は、その化合物の置換基の種類や溶媒等の種類、あるいは共重合する他の単量体の種類及び量によって異なるが、一般的には10-3〜10モル/リットルの範囲が望ましく、また10-2〜5モル/リットルの範囲がさらに好ましい。
【0051】
また反応温度はそれぞれ単量体、溶媒、酸化剤の種類、反応方法によって変わるため特に限定できるものではないが、重合開始時点で酸化剤の飽和状態が維持できる温度であれば好ましい。また重合開始後に溶媒が蒸発し、酸化剤の固体が析出した後でも重合性単量体が液相で存在している場合には本重合系の界面が保たれており重合は継続して進む。一般的には−70℃〜250℃の温度範囲から選ばれる。望ましくは0℃〜150℃であり、特に15℃〜100℃の温度範囲で行なわれることが更に好ましい。
【0052】
本発明の製造方法において用いられる反応溶媒は、単量体あるいは酸化剤、ドーピング能を有する電解質を、同時に、またはそれぞれ単独に溶解可能な溶媒であれば良く、例えばテトラヒドロフラン(THF)やジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、あるいはジメチルホルムアミドやアセトニトリル、ベンゾニトリル、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルムや塩化メチレン等の非芳香族性の塩素系溶媒、ニトロメタンやニトロエタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物、あるいはメタノールやエタノール、プロパノール等のアルコール類、または蟻酸や酢酸、プロピオン酸等の有機酸または該有機酸の酸無水物(例、無水酢酸等)、水、あるいはこれらの混合溶媒を用いることができる。また前記酸化剤および/またはドーピング能を有する電解質及び単量体はそれぞれ単独に溶解した溶媒系、すなわち二液系もしくは三液系で取り扱っても良い。
【0053】
一般式(6)〜(10)で示される重合性単量体からは、それぞれ一般式(1)〜(5)で示される化学構造を繰り返し単位として含むフィブリル構造を有する高導電性重合体が得られる。
このようにして製造された導電性重合体の電気伝導度は極めて高く、実施例及び比較例で示すように重合開始能を有する酸化剤及び重合性単量体からなる反応系で撹拌状態で製造して得られる導電性重合体の電気伝導度に比較して、10〜1000倍ほど高く、その電気伝導度は0.1〜200S/cmの範囲である。望ましい条件では1〜100S/cm、さらに好ましくは10〜100S/cmの範囲の高導電性重合体が得られる。
【0054】
なお、このようにして製造される導電性重合体層の厚さは、1回の重合工程では固体電解コンデンサの固体電解質層としては通常0.1〜0.3ミクロン程度の厚さしか形成することができないため、重合性単量体と重合開始能を有する酸化剤を接触させてフィブリル構造を有する導電性重合体を生成させ、これを洗浄するかまたは洗浄せずに重合により得られたフィブリル構造を有する導電性重合体の表面(多孔質弁作用金属上の)上において同じ操作を少なくとも3回程度、実用的には5回以上の固体重合体の合成をすることが好ましい。ただし、固体電解質層が必要以上の厚さになることは好ましくないので通常は20〜25回程度で十分である。好ましくは7〜25回程度で必要な固体電解質層の厚さを確保できる。
【0055】
また、このようにして形成された導電性重合体の固体電解質層の上に、陰極リード端子との電気的接触を良くするために導電体層を設けることが好ましく、例えば導電ペーストの固体、またはメッキや金属蒸着、導電樹脂フィルムの形成等が行なわれる。次いで陰極リード端子を接続し、例えば樹脂モールド、樹脂ケース、金属製の外装ケース、樹脂ディッピング等による外装を施すことにより、各種用途の固体電解コンデンサとすることができる。
【0056】
本発明の固体電解コンデンサにおいては、電極上の固体電解質としてフィブリル状態の高導電性重合体が化成処理された多孔質弁作用金属箔の細孔内の酸化物皮膜を覆い、かつ複数回の重合工程で陰極内部及び金属箔外部表面にフィブリルの層状構造が形成され、かつそれらは隣接する層間の一部に空間部を有しているため、温度の上下に対しその熱応力を有効に緩和することが可能である。また導電性重合体組成物表面にも細孔が形成されているため、接続のための導電ペースト層が外部表面細孔内に進入することができ、このため良好な密着性が確保される。さらには、微細孔内にもフィブリル状態の導電性重合体形態の存在や、複数回の積層工程により空間部が形成されるため、酸素の供給が確保され、導通時における誘電体酸化皮膜の修復能力が向上する。
【0057】
固体電解コンデンサの誘導体皮膜上に形成されるフィブリル構造の重合体の形状としては、好ましくは外径約3nm〜約100nmの範囲、より好ましくは約5nm〜約50nmの範囲である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0059】
実施例1:
3mm×10mmに切り出したエッチドアルミニウム化成箔の10mmの面の中間に、該面を4mmと5mmの部分に区切るように、両面に幅1mmにポリイミド溶液を塗布し、乾燥させ、マスキングを作成した。このエッチドアルミニウム化成箔の3mm×4mmの部分を10重量%のアジピン酸アンモニウム水溶液で13Vの電圧を印加して化成処理し、誘電体酸化皮膜を形成した。
【0060】
次に、このアルミニウム箔の3mm×4mmの部分を、2mol/Lの過硫酸アンモニウム水溶液(溶液1という。)に浸漬した後引き上げ、室温において3分間乾燥させた。続いて、このアルミニウム箔の3mm×4mmの部分を、1mol/Lの3,4−エチレンジオキシチオフェンのイソプロパノール溶液(溶液2とする。)に浸漬した後引き上げ、40℃の雰囲気に10分放置することで酸化重合を行なった。そして、この溶液1に浸漬してから溶液2に浸漬し酸化重合を行なうまでの操作を20回繰り返した後、50℃の温水で10分間洗浄を行ない、その後100℃で30分乾燥して導電性重合体層を形成した。
【0061】
ここで得られた導電性重合体層の50,000倍に拡大した走査電子顕微鏡写真(アルミニウム箔断面図)を図1に示す。また、化成処理したアルミニウム箔の50,000倍に拡大した走査電子顕微鏡写真(アルミニウム箔断面図)を図2に示す。
図2をも参照し比較することにより、図1に微細構造中のアルミニウム金属部分、酸化されたアルミナ誘電体部分、アルミナ誘電体表面に堆積したフィブリル状の導電性重合体(図1ではフィブリルが網目模様の膜状として見える)が集合して房状となっている部分が認められ、導電性重合体膜は厚さは約0.06μmに形成されていることが分かる。図1の観察から、フィブリルのおおよその外径は、5〜50nmであった。また、前記房状となっている部分のフィブリル状の導電性重合体(膜状)部分の構造は、実施例14及び15に記載した「3,4−エチレンジオキシチオフェン」と「重合開始剤(酸化剤含有)」を界面で反応させて得られた高導電性重合体と類似した構造をしていることが分かる。
【0062】
次に上記アルミニウム箔の導電性重合体層を形成した部分にカーボンペーストと銀ペーストを付けて、上記アルミニウム箔を4枚積層し、陰極リード端子を接続し、また導電性重合体層の形成されていないアルミニウム箔部分には陽極リード端子を溶接により接続した。更にこの素子をエポキシ樹脂で封止した後、125℃で定格電圧を印加して2時間エージングを行なってコンデンサを合計30個完成させた。
【0063】
これら30個のコンデンサ素子について、初期特性として120Hzにおける容量と損失係数(tanδ)、共振周波数におけるインピーダンス、それに漏れ電流を測定した。なお、漏れ電流は定格電圧を印加して1分後に測定した。表1にこれらの測定値の平均値と、0.16μA(0.002CV)以上の漏れ電流を不良品としたときの不良率およびショート品の数を示した。
【0064】
ここで、漏れ電流の平均値は不良品を除いて計算した値である。また、表2にはリフロー試験およびこれに続いて行なった耐湿試験での結果を示した。但し、耐湿試験における漏れ電流値は3.2μA(0.04CV)以上を不良品とした。ここで、リフロー試験(ハンダ耐熱性試験とも言う。)は次の方法で評価した。すなわち、30個のコンデンサ素子を準備し、該素子を230℃の温度下に30秒間通過させ、定格電圧印加1分後の漏れ電流を測定し、そしてその測定値が0.04CV(μA)以上の素子を不良品とした。また、耐湿試験は85℃、85%RHの高温高湿下に500時間放置して行なった。
【0065】
実施例2:
実施例1において、過硫酸アンモニウムに代えて硫酸第2鉄を、また3,4−エチレンジオキシチオフェンに代えてジヒドロイソチアナフテンを、更に重合温度を60℃とした以外は、実施例1と同様にして30個のコンデンサを完成させた。これらコンデンサ素子の特性を実施例1と同様に評価した。その結果を表1および表2にす。
【0066】
実施例3:
実施例1において、3,4−エチレンジオキシチオフェンに代えてピロールとした以外は、実施例1と同様にして30個のコンデンサ素子を完成させた。これらコンデンサ素子の特性実施例1と同様に評価した。その結果を表1および表2に示す。
【0067】
実施例4:
実施例1において、3,4−エチレンジオキシチオフェンに代えてアニリンとした以外は、実施例1と同様にして30個のコンデンサ素子を完成させた。これらコンデンサ素子の特性を実施例1と同様に評価した結果を表1および表2に示す。
【0068】
実施例5:
実施例1において、2mol/Lの過硫酸アンモニウム水溶液にドーピング能を有する化合物としてアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウムを0.07mol/Lとなるように加えた以外は、実施例1と同様にして30個のコンデンサ素子を完成させた。これらコンデンサ素子の特性を実施例1と同様に評価した結果を表1および表2に示す。
【0069】
実施例6:
実施例1において、3,4−エチレンジオキシチオフェンのイソプロパノール溶液の濃度を5mol/Lとした以外は、実施例1と同様にして30個のコンデンサ素子を完成させた。これらコンデンサ素子の特性実施例1と同様に評価した結果を表1及び表2に示す。
【0070】
実施例7:
実施例1において、3,4−エチレンジオキシチオフェンのイソプロパノール溶液の濃度を0.01mol/Lとした以外は、実施例1と同様にして30個のコンデンサ素子を完成させた。これらコンデンサ素子の特性を実施例1と同様に評価した結果を表1及び表2に示した。
【0071】
実施例8:
実施例5において、0.07mol/Lのアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウムの代わりに0.07mol/Lの6−メトキシナフタレンスルホン酸ナトリウムとした以外は、実施例1と同様にして30個のコンデンサ素子を完成させた。これらコンデンサ素子の特性を実施例1と同様に評価した結果を表1及び表2に示す。
【0072】
実施例9:
実施例1において、過硫酸アンモニウム水溶液を0.01mol/Lとした以外は、実施例1と同様にして30個のコンデンサ素子を完成させた。これらコンデンサ素子の特性を実施例1と同様に評価した結果を表1及び表2に示す。
【0073】
実施例10:
実施例1において、過硫酸アンモニウム水溶液を4mol/Lとした以外は、実施例1と同様にして30個のコンデンサ素子を完成させた。これらコンデンサ素子の特性を実施例1と同様に評価した結果を表1及び表2に示す。
【0074】
実施例11:
実施例1において、溶液1に浸漬してから酸化重合を行なうまでの操作を2回繰り返した以外は、実施例1と同様にして30個のコンデンサ素子を完成させた。これらコンデンサ素子の特性を実施例1と同様に評価した結果を表1及び表2に示す。
【0075】
実施例12:
実施例1において、3,4−エチレンジオキシチオフェンをフランに代え、2mol/Lの過硫酸アンモニウムを1.4mol/Lのパラトルエンスルホン酸鉄(III)・6水和物に代えた以外は、実施例1と同様にして30個のコンデンサ素子を完成させた。これらコンデンサ素子の特性を実施例1と同様に評価した。その結果を表1及び表2に示す。ここで得られた導電性重合体層を実施例1と同様な条件で走査電子顕微鏡写真で観察したところ、図1と類似の形態が観察された。
【0076】
比較例1:
特開平10-50558号公報を参照し、3,4−エチレンジオキシチオフェン2.87g(0.02mol)にパラトルエンスルホン酸鉄(III)・6水和物29.8g(0.044mol)を共に溶解した化学重合液に、アルミニウム箔を一回浸漬した後、これを100℃で熱処理を行ない箔内にポリマーを形成させた。そして、この導電性重合体層を形成した部分に導電ペースト(カーボン及び銀粉)を付け、実施例1と同様にして30個のコンデンサ素子を完成させた。これらコンデンサ素子の特性を実施例1と同様に評価した結果を表1及び表2に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
実施例13:
30mlサンプル管に塩化第二鉄を6.49g(0.04mol)秤取し、これに水8mlを入れて塩化第二鉄水溶液を調製した。これに重合性単量体としてチオフェン1.68g(0.02mol)を静かに注ぎ入れた。チオフェンは水溶液の上層となり、その間に界面を生じた。サンプル管を40℃の温浴に漬け、重合を開始させた。2時間後に加熱をやめ、サンプル管を取り出し、ろ過にて重合物を取り出した。この固形分に水100ml加えて1時間撹拌後ろ過して余分な塩化第二鉄を溶解して除去し、次にアセトン100mlを加えて1時間撹拌後ろ過し、未反応のチオフェン及び可溶性の低重合体を除去し精製した。室温にて一昼夜真空乾燥した。得られたポリマーを真空下において10トン(t)の加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作成した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ、16S/cmであった。
【0080】
比較例2:
撹拌子を入れた100ml丸底フラスコに塩化第二鉄を6.49g(0.04mol)秤取し、これに水16mlを入れて完全に溶解させ、40℃の温浴に漬けた。重合性単量体としてチオフェン1.68g(0.02mol)を30℃に加温してイソプロパノール24mlに溶解し、反応系に導入して撹拌を開始した。重合反応中は常に撹拌を維持させた。2時間後に加熱をやめ、サンプル管を取り出し、ろ過にて重合物を取り出した。この固形分に水100ml加えて1時間撹拌後ろ過して余分な塩化第二鉄を溶解除去し、次にアセトン100mlを加えて1時間撹拌後ろ過し、未反応のチオフェンや可溶性の低重合体を取り除く工程を経て精製した。
【0081】
次いで精製ポリマーを室温にて一昼夜真空乾燥した。得られたポリマーは微粉末状であった。このポリマーを真空下において10tの加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作成した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ、0.0054S/cmであった。
【0082】
実施例14:
30mlサンプル管に過硫酸アンモニウムを6.85g(0.03mol)秤取し、これに水8mlを入れて溶液を調製した。これに重合性単量体として3,4−エチレンジオキシチオフェン2.87g(0.02mol)を静かに注ぎ入れた。3,4−エチレンジオキシチオフェンと水溶液の間に界面を生じた。サンプル管を40℃の温浴に漬け、重合を開始させた。重合は酸化剤を含む水溶液と3,4−エチレンジオキシチオフェンが形成する界面にて進行する様子を確認した。2時間後に加熱をやめ、サンプル管を取り出し、ろ過にて重合物を取り出した。この固形分に水100ml加えて1時間撹拌後ろ過して余分な過硫酸アンモニウムを溶解除去し、次にアセトン100mlを加えて1時間撹拌後ろ過し、未反応の3,4−エチレンジオキシチオフェンや可溶性の低重合体を取り除く工程を経て精製した。
【0083】
得られた該精製ポリマーの5,100倍に拡大したSEM写真を図3に示す。図3のフィブリル構造部分を50,000倍に拡大したSEM写真を図4に示す。図4にはフィブリル構造が明らかに示されている。図4の観察から、フィブリルのおおよその外径は10〜60nmであった。
【0084】
次いで精製ポリマーを室温にて一昼夜真空乾燥し、得られたポリマーを真空下において10tの加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作製した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ、20S/cmであった。
【0085】
比較例3:
重合性単量体として3,4−エチレンジオキシチオフェン2.87g(0.02mol)、重合酸化剤として過硫酸アンモニウム6.85g(0.03mol)を用いた以外は比較例2に従ってポリマーを調製した。
得られた精製ポリマーの50,000倍に拡大したSEM写真を図5に示すが、フィブリル構造は観察されなかった。
【0086】
次いで、精製ポリマーを室温にて一昼夜真空乾燥し、得られたポリマーを真空下において10tの加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作成した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ、0.064S/cmであった。
【0087】
実施例15:
30mlサンプル管に過硫酸アンモニウムを6.85g(0.03mol)秤取し、これに水1mlを入れて未溶解過硫酸アンモニウムを含む飽和溶液を調製した。これに重合性単量体として3,4−エチレンジオキシチオフェン2.87g(0.02mol)を静かに注ぎ入れた。サンプル管を40℃の温浴に漬け、開放系で重合を開始させた。2時間後に加熱をやめてサンプル管を取り出し、ろ過にて重合物を取り出した。この固形分に水100ml加えて1時間撹拌後ろ過して余分な過硫酸アンモニウムを溶解除去し、次にアセトン100mlを加えて1時間撹拌後ろ過し、未反応の3,4−エチレンジオキシチオフェンや可溶性の低重合体を取り除く工程を経て精製した。
【0088】
得られた精製ポリマーの2,000倍に拡大したSEM写真を図6に示す。また図6のフィブリル構造部分を20,000倍に拡大した拡大SEM写真を図7に示す。フィブリル構造構造が明らかに示されている。
次いで、精製ポリマーを室温にて一昼夜真空乾燥し、乾燥後に得られたポリマーを真空下10tの加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作成した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ、21S/cmであった。
【0089】
実施例16:
30mlサンプル管に過硫酸アンモニウムを6.85g(0.03mol)秤取し、これに水8mlを入れて溶液を調製した。重合性単量体として1,3−ジヒドロイソチアナフテン1.86g(0.014mol)を30℃に加温して、酸化剤溶液との間に界面を生じるように静かに注ぎ入れた。次にサンプル管を40℃の温浴に漬け、重合を開始させた。6時間後に加熱をやめ、その後7日室温で放置して重合反応を完成させた。サンプル管を取り出し、ろ過にて重合物を取り出した。この固形分に水100mlを加えて1時間撹拌後、ろ過して余分な過硫酸アンモニウムを溶解除去し、次にアセトン100mlを加えて1時間撹拌後ろ過し、未反応の1,3−ジヒドロイソチアナフテンや可溶性の低重合体を取り除く工程を経て精製した。
【0090】
得られた精製ポリマーの走査電子顕微鏡(SEM)で50,000倍に拡大した写真を図8に示す。フィブリル構造が明確に示されている。図8の観察から、フィブリルのおおよその外径は10〜50nmであった。
次いで精製ポリマーを室温にて一昼夜真空乾燥し、得られたポリマーを真空下において10tの加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作成した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ14S/cmであった。
【0091】
比較例4:
重合性単量体として1,3−ジヒドロイソチアナフテン1.86g(0.014mol)を用い、重合時間を2時間とした以外は比較例2に従ってポリマーを調製した。乾燥後に得られたポリマーを真空下において10tの加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作成した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ、0.0033S/cmであった。
得られたポリマーの50,000倍に拡大したSEM写真を図9に示す。これにはフィブリル構造が認められなかった。
【0092】
実施例17:
30mlサンプル管に過硫酸アンモニウムを6.85g(0.03mol)秤取し、これに0.1 N−HCl水溶液8mlを入れて溶液を調製した。これに重合性単量体としてアニリン1.86g(0.02mol)を静かに注ぎ入れた。サンプル管を40℃の温浴に漬け、重合を開始させた。2時間後に加熱をやめ、サンプル管を取り出し、ろ過にて重合物を取り出した。この固形分に水100ml加えて1時間撹拌後ろ過して余分な過硫酸アンモニウムを溶解除去し、次にアセトン100mlを加えて1時間撹拌後ろ過し、未反応のアニリンや可溶性の低重合体を取り除く工程を経て精製した。室温にて一昼夜真空乾燥し、得られたポリマーを真空下において10tの加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作成した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ、10S/cmであった。
【0093】
比較例5:
重合性単量体としてアニリン1.86g(0.02mol)を用いた以外は比較例3に従ってポリマーを調製した。乾燥後に得られたポリマーを真空下において10tの加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作成した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ、0.0024S/cmであった。
【0094】
実施例18:
30mlサンプル管に過硫酸アンモニウムを6.85g(0.03mol)とアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム0.46g(0.0014mol)を秤取し、これに水8mlを入れて溶液を調製した。これに重合性単量体として3,4−エチレンジオキシチオフェン2.87g(0.02mol)を静かに注ぎ入れた。サンプル管を40℃の温浴に漬け、重合を開始させた。2時間後に加熱をやめ、サンプル管を取り出し、ろ過にて重合物を取り出した。この固形分に水100ml加えて1時間撹拌後ろ過して余分な過硫酸アンモニウムやアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウムを溶解除去し、次にアセトン100mlを加えて1時間撹拌後ろ過し、未反応の3,4−エチレンジオキシチオフェンや可溶性の低重合体等を取り除く工程を経て精製した。室温にて一昼夜真空乾燥し、得られたポリマーを真空下において10tの加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作成した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ、26S/cmであった。
【0095】
実施例19:
30mlサンプル管に過硫酸アンモニウムを6.85g(0.03mol)秤取し、これに水8mlを入れて溶液を調製した。これに重合性単量体として3,4−エチレンジオキシチオフェン2.87g(0.02mol)を静かに注ぎ入れた。サンプル管を40℃の温浴に漬け、重合を開始させた。2時間後に加熱をやめ、サンプル管を取り出し、ろ過にて重合物を取り出した。再度、30mlサンプル管に過硫酸アンモニウムを6.85g(0.03mol)秤取し、これに水8mlを入れて溶液を調製した。これに重合性単量体として3,4−エチレンジオキシチオフェン2.87g(0.02mol)を静かに注ぎ入れ、取り出しておいた重合物を系内に入れ、サンプル管を40℃の温浴に漬け重合を開始させた。この工程を3回実施し、重合体を積層させた。この固形分に水100ml加えて1時間撹拌後ろ過して余分な過硫酸アンモニウムを溶解除去し、次にアセトン100mlを加えて1時間撹拌後ろ過し、未反応の3,4−エチレンジオキシチオフェンや可溶性の低重合体を取り除く工程を経て精製した。室温にて一昼夜真空乾燥し、乾燥後に得られたポリマーを真空下において10tの加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作成した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ、29S/cmであった。
【0096】
実施例20:
30mlサンプル管にパラトルエンスルホン酸鉄(III)・6水和物を27.10g(0.04mol)秤取し、これに水8mlを入れて酸化剤水溶液を調製した。これに重合性単量体としてフラン1.36g(0.02mol)を静かに注ぎ入れた。フランは水溶液の上層となり、その間に界面を生じた。サンプル管を40℃の温浴に漬け、重合を開始させた。2時間後に加熱をやめ、サンプル管を取り出し、ろ過にて重合物を取り出した。この固形分に水100ml加えて1時間撹拌後、ろ過して余分なパラトルエンスルホン酸鉄(III)・6水和物を溶解して除去し、次にアセトン100mlを加えて1時間撹拌後ろ過し、未反応のフラン及び可溶性の低重合体を除去し精製した。室温にて一昼夜真空乾燥した。得られた重合体を真空下において10トン(t)の加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作成した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ、13S/cmであった。
また、ここで得られた導電性重合体層を実施例14と同様な条件で走査電子顕微鏡写真で観察したところ、図3及び図4と類似のフィブリル形状が観察された。
【0097】
実施例21:
30mlサンプル管に塩化第二鉄を6.49g(0.04mol)秤取し、これに水8mlを入れて塩化第二鉄水溶液を調製した。これに重合性単量体としてピロール1.34g(0.02mol)を静かに注ぎ入れた。ピロールは水溶液の上層となり、その間に界面を生じた。サンプル管を40℃の温浴に漬け、重合を開始させた。2時間後に加熱をやめ、サンプル管を取り出し、ろ過にて重合物を取り出した。この固形分に水100ml加えて1時間撹拌後、ろ過して余分な塩化第二鉄を溶解して除去し、次にアセトン100mlを加えて1時間撹拌後ろ過し、未反応のピロール及び可溶性の低重合体を除去し精製した。室温にて一昼夜真空乾燥した。得られたポリマーを真空下において10トン(t)の加圧を3分継続しながら成形し、半径1cmのペレットを作成した。Loresta IP MCP-250(三菱油化製)を用いてこのペレットの表面抵抗を測定し、電気伝導度を算出したところ、21S/cmであった。
また、ここで得られた導電性重合体層を実施例14と同様な条件で走査電子顕微鏡写真で観察したところ、図3及び図4と類似のフィブリル形状が観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質で弁作用を有する金属の誘電体皮膜上に、網目模様の膜状のフィブリル構造を有する重合体からなる固体電解質層を形成した固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記重合体が、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R1及びR2の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。またδは0〜1の範囲である。Zは陰イオンを表わし、jはZの価数を表わし、1または2である。)
で示されるチオフェン骨格構造を繰り返し単位として含む網目模様の膜状のフィブリル構造を有する導電性重合体である請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記重合体が、下記一般式(2)
【化2】

(式中、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R3、R4、R5、R6、R7またはR8の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。kはチオフェン環と置換基R3乃至R6を有するベンゼン環に囲まれた縮合環の数を表わし、0または1〜3の整数である。式中の縮合環には窒素またはN−オキシドを任意の数含んでもよいが、その数だけ置換基R3乃至R8は減少することになる。δは0〜1の範囲である。Zは陰イオンを表わし、jはZの価数を表わし、1または2である。)
で示される縮合多環式骨格構造を繰り返し単位として含む網目模様の膜状のフィブリル構造を有する導電性重合体である請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記重合体が、下記一般式(3)
【化3】

(式中、R9及びR10は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R9及びR10の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。δは0〜1の範囲である。Zは陰イオンを表わし、jはZの価数を表わし、1または2である。)
で示されるピロール骨格構造を繰り返し単位として含む網目模様の膜状のフィブリル構造を有する導電性重合体である請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記重合体が、下記一般式(4)
【化4】

(式中、置換基R11及びR12は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R11及びR12の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。δは0〜1の範囲である。Zは陰イオンを表わし、jはZの価数を表わし、1または2である。)で示されるフラン骨格構造を繰り返し単位として含む網目模様の膜状のフィブリル構造を有する導電性重合体である請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記重合体の固体電解質層の導電性が、0.1〜200S/cmである請求項2乃至のいずれかの項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
多孔質で弁作用を有する金属の誘電体皮膜上に重合体からなる固体電解質層を設ける固体電解コンデンサの製造方法において、
前記誘電体皮膜上で、重合性単量体と飽和または過飽和状態を維持した重合開始能を有する酸化剤の単独溶液または前記酸化剤とドーピング能を有する電解質の混合溶液とを接触させて、前記誘電体皮膜上に網目模様の膜状のフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する工程を含むことを特徴とする網目模様の膜状のフィブリル構造を有する重合体からなる固体電解質層を形成した固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
多孔質で弁作用を有する金属の誘電体皮膜上に重合体からなる固体電解質層を設ける固体電解コンデンサの製造方法において、
前記誘電体皮膜上で、重合性単量体溶液あるいは重合性単量体とドーピング能を有する電解質とを溶解した溶液と、飽和または過飽和状態を維持した重合開始能を有する酸化剤の単独溶液または前記酸化剤とドーピング能を有する電解質の混合溶液を接触させて、前記誘電体皮膜上に網目模様の膜状のフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する工程を含むことを特徴とする網目模様の膜状のフィブリル構造を有する重合体からなる固体電解質層を形成した固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記誘電体皮膜上で、下記一般式(6)
【化5】

(式中、置換基R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R1及びR2の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。)
で示される重合性単量体と、重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液とを接触させて前記誘電体皮膜上に網目模様の膜状のフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する請求項7または8に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項10】
前記誘電体皮膜上で、下記一般式(7)
【化6】

(式中、置換基R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R3、R4、R5、R6、R7またはR8の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。kはチオフェン環と置換基R3乃至R6を有するベンゼン環に囲まれた縮合環の数を表わし、0または1〜3の整数である。式中の縮合環には窒素またはN−オキシドを任意の数含んでもよいが、その数だけ置換基R3乃至R8は減少することになる。)で示される重合性単量体と、重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液とを接触させて前記誘電体皮膜上に網目模様の膜状のフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する請求項7または8に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項11】
前記誘電体皮膜上で、下記一般式(8)
【化7】

(式中、R9及びR10は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R9及びR10の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。)
で示される重合性単量体と、重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液とを接触させて前記誘電体皮膜上に網目模様の膜状のフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する請求項7または8に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項12】
前記誘電体皮膜上で、下記一般式(9)
【化8】

(式中、置換基R11及びR12は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基あるいはアルキルエステル基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1級、2級もしくは3級アミノ基、CF3基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R11及びR12の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよい。前記環状結合鎖には、カルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよい。)
で示される重合性単量体と、重合開始能を有する酸化剤を含有する溶液とを接触させて前記誘電体皮膜上に網目模様の膜状のフィブリル構造を有する重合体の膜状組成物を形成する請求項7または8に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項13】
重合性単量体の濃度が0.01〜5mol/Lである請求項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項14】
ドーピング能を有する電解質の濃度が0.001mol/L〜2.5mol/Lの範囲である請求項7または8に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項15】
重合開始能を有する酸化剤が過硫酸塩類、重クロム酸塩類、3価の鉄塩類から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項7または8に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項16】
重合開始能を有する酸化剤の濃度が重合性単量体の濃度の0.01〜5倍である請求項7または8に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項17】
重合体からなる固体電解質を形成する工程を2〜30回繰り返して膜状組成物を形成する請求項7〜12のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−239296(P2009−239296A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136234(P2009−136234)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【分割の表示】特願平11−191533の分割
【原出願日】平成11年7月6日(1999.7.6)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】